2020年10月23日(金)〜角川シネマ有楽町、渋谷WHITE CINE QUINTO、アップリンク吉祥寺、立川シネマシティほか全国順次公開
劇場情報
ミュージシャンが愛したミュージシャン、ザ・バンド
デビューから解散(ラスワルツ)までが語られる
監督:ダニエル・ロアー
製作:スティーブン・パニッチャ、アンドリュー・マンガー、サム・サザーランド、ラナ・ベル・マウロ
製作総指揮:マーティン・スコセッシ、ブライアン・グレイザー、ロン・ハワードほか
撮影:キアラッシュ・セイディ
原案:「ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春」(ロビー・ロバートソン著、奥田祐士訳、DU BOOKS刊)
出演
ザ・バンド:ロビー・ロバートソン、、リック・ダンコ、レボン・ヘルム、ガース・ハドソン、リチャード・マニュエル
マーティン・スコセッシ、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、エリック・クラプトン、ピーター・ガブリエル、ジョージ・ハリスン、ロニー・ホーキンス、バン・モリソン、タジ・マハール
ザ・バンドの中心メンバーだったロビー・ロバートソンが語る
伝説のバンドの誕生と栄光、そして、解散
ボブ・ディランをはじめ、世界で活躍するたくさんのミュージシャンたちからリスペクトされている「ザ・バンド」の誕生から解散までを描いたドキュメンタリー。彼らの足跡を、ロビー・ロバートソンが2016年に発表した自伝「ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春」をもとにたどった。
1959年にカナダでスタートした「ザ・バンド」。最初のメンバーはリヴォン・ヘルムで、その後、ロビー・ロバートソンが入り、リック・ダンコ、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソンが入り、ザ・バンドの母体が出来上がる。その後、ボブ・ディランから声がかかり、65年、66年にかけて、彼のバックバンドとしてツアーに出た。1967年から76にかけて活動し、67年にはディランや彼のマネージャー、アルバート・グロスマンの誘いもあって、彼らが当時暮らしていたニューヨーク郊外のウッドストックに移り、ピンクに塗られた「ビッグ・ピンク」と呼ばれる家で創作活動続けた。ブルース・スプリングスティーン、エリック・クラプトン、ピーター・ガブリエル、ジョージ・ハリスン、ロニー・ホーキンス、バン・モリソン、タジ・マハールなど、大物ミュージシャンが登場し「ザ・バンド」の魅力を語る。
「ザ・バンド」の「ラストコンサート」を記録した音楽ドキュメンタリー『ラスト・ワルツ』を作ったマーティン・スコセッシや、ロン・ハワード、ブライアン・グレイザーらも製作総指揮として参加している。監督は若いカナダの新鋭ダニエル・ロアー。アメリカ映画界のベテランたちと組んだことで、いろいろな映像を加えることができ、世代を超えた心に響く作品ができあがった。
私が「ザ・バンド」のことを知ったのは、ボブ・ディランのバックバンドとして演奏している時。それ以前のボブ・ディランはフォークギター1本でソロで歌っていたが、フォークギターからエレキギターに変えたころで、フォークソングファンからはブーイングの嵐だった。ボブ・ディランその声には応えず、「ザ・バンド」を迎え、ロックの道を進んだ。当時そのことを、私も最初は残念に思っていた一人だったが、ザ・バンドとのセッションを見て納得。そしてボブ・ディランは「これでいい」と変わっていった。そのくらい「ザ・バンド」の演奏は素晴らしかった。その影に彼らとのこういう生活があったのだと、この映画で知った。そして伝説になった「ラストコンサート」。
しかし、これはあくまでロビー・ロバートソンの自伝を元にしたドキュメンタリー。兄弟のような絆で結ばれ、ウッドストック、「ビッグ・ピンク」での創作活動、ライブという生活の日々が続くなかで、やがてバンド内に不穏な空気が流れ5人はそれぞれの道を選択する。今となっては5人のメンバーのうち3人が亡くなってしまった。唯一残っているガース・ハドソンのインタビューも撮影されたが映画には使われず、最終的にはアーカイブ映像だけが使用されているとのことなので、やはり、これはロビー・ロバートソン目線の「ザ・バンド」の記憶なのだろう。
この映画を観て、1969年の「ウッドストックのコンサート」がここで行われたのは、彼らがここで暮らしていたことと関係あるのかもしれない」と思ったが、やっぱりそうだった。まさか50年もたってから知るとは思ってもみなかった(暁)。
公式HP
2019年製作/101分/G/カナダ・アメリカ合作
配給:彩プロ
アリ地獄天国
監督・撮影:土屋トカチ
構成:土屋トカチ、飯田基晴
主題歌:マーガレットズロース「コントローラー」
ナレーション:可野浩太郎
出演:西村有(仮名)
とある引越会社。社員は自分たちの状況を「アリ地獄」と自嘲する。長時間労働を強いられ、事故や破損は自己責任で、会社への弁済で借金漬けになるからだ。本作の主人公、西村有さん(仮名)は34歳の営業職。もとは営業職でトップの成績をあげていた。しかし、会社の方針に異議を唱え、個人加盟の労働組合(ユニオン)に加入した。するとシュレッダー係へ配転、給与は半減し、さらに懲戒解雇にまで追い込まれた。
ユニオンの抗議により解雇は撤回させたが、復職先はシュレッダー係のまま。会社に反省の色は見られない。西村さんは「まともな会社になってほしい」と闘いを続けてゆく。
土屋監督が作中で声を詰まらせる場面がありました。仕事で悩んでいた親友やまちゃんの自死を防げなかったことを後悔し、その思いとともに西村さんの3年にわたる闘いに密着しました。西村さんは、自分もかつて理不尽な規則を後輩に強いてきたと打ち明けます。ブラック企業からなぜ出てしまわないのかと思ってしまいますが、自分も含めた社員たちが働きやすい、まともな職場になってほしいと諦めません。労働組合がないため、一人で入ったユニオンの担当者がなんとも頼もしく、西村さんをしっかりサポートします。
最初は大丈夫かなぁと心配しながら観ていましたが、だんだんたくましくなっていく西村さんにホッとしました。顔つきも変わっていきます。諦めずに戦い続ければ、志を同じくする人も集まり、小さなアリが大きな巣を作るように何かを成しえることができます。会社の上層部は儲け主義でなく、顧客と働く人間のための会社を心がけてほしいものです。その人たちがいなければ、立ち行きません。
これは、労働者が「生き残るためのロードームービー(労働映画)」。第16回山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映。同年、貧困ジャーナリズム賞を受賞。20年、第20回ニッポン・コネクションにて第1回ニッポン・オンライン賞受賞。第2回米国ピッツバーグ大学日本ドキュメンタリー映画賞グランプリ受賞。(白)
どちらかというと、草食系と呼ばれるだろう。まじめで、誠実で、穏やかに話す人だ。
こんな青年が引越しの見積りに来たら、みんな頼みたくなってしまうに違いない。
だから営業成績が良かったというのも首肯ける。家庭を持ったのをキッカケに、仕事を頑張ろうとした、しごく普通の、真っ当な人という印象。しかし、彼を受け入れた会社が普通でも真っ当でもなかった。こんな会社は大小問わずたくさんあるのだろう。コンプライアンスが表面的にはしっかりしているところでも、通常はもっと上手くやるのだ。しかし、この映画で露わになった、根底にある「思想」は、この社会に広く蔓延し、浸透しているのだろうと思う。真っ当であることを貫こうとして、どこかでこの「思想」と衝突し、力尽きてしまう人も多いんだと思う。まじめで誠実であればあるほど、わけがわからぬまま置き去りになり、心を病んでしまうかもしれない。体や心の実感よりもこの思想が優先されるため、いろんなレベルで、みんなが少しずつ狂っている。もはや右とか左とか言っている場合ではない。使えるものは何でも使って、この思想から脱却しないと、またまた大きな破綻が目前に迫っているような…。 (千)
40人を超える集団訴訟の原告のうち、唯一顔出し取材に応じた西村さん。⚫入社時の保証人は土地権利書を持つ人←何のために? ⚫社員同士の会食・飲み会・マージャン禁止、違反通報者には報奨金←モラハラ極まれり!密告制度まで! ⚫70時間残業、1日19時間労働←完全なる労基法違反! ⚫組合に相談したら営業成績トップにも関わらず不当な配置異動、更に減給。⚫会社を訴訟したとの理由で懲戒解雇。”罪状”と書かれた氏名顔写真入り通知を全店配布・掲示←人権侵害! ⚫母の葬儀中に「イメージダウンで会社が被害」と怪文書、妻の実家にも届く← 嫌がらせ極まれり!⚫都労働委員会の和解案提示も拒否。 ⚫団体交渉10回 とも決裂。 ⚫組合脱会工作、抜けたら30万円←不当労働行為救済で都に申立てするも副社長は知らぬ存ぜぬ(!) ⚫組合の尽力でシュレッダー係に復職するもボーナス20円(!)←合理的根拠なし。
⬆どうです?怒りがふつふつと湧いてきませんか?出来事を時系列に整理立てて構成したことからも、撮影・編集・構成・企画を担った土屋トカチ監督の技量は明らかだ。人間が尊厳と矜恃、自負をを保ち、ギリギリに立っていける様を本作は目を背けず忖度なしで観客へ突き付ける。監督自身も映画製作中に当該社から仮処分申請の裁判を申立てられ、心労が多かった筈だ。過去、友人を救えなかった悔恨も孕む。西村さんに体験を話しながら言葉に詰まる監督、シュレッダーの粉塵で鼻腔が詰まりストレスで食事すら摂れない西村さん。胸を突かれる場面が連続する本作の鑑賞体験は、きっと変革と勇気を齎せてくれる98分になるだろう。(幸)
2019年/日本/カラー/98分
配給:映像グループローポジション
https://www.ari2591059.com/
★2020年10月24日(土)より渋谷・ユーロスペース、11月1日(日)より東京田端 シネマ・チュプキ・タバタほか公開
☆『アリ地獄天国』スペシャルトーク付きオンライン上映会開催。
劇場まで出かけられない方もこの機会に本編とトークショーをご覧ください。
チケット購入は ZAIKO 専用ページより https://streaming.zaiko.io/_item/332163
映画「アリ地獄天国」公式サイト https://www.ari2591059.com/
【配信日時】2020 年 11 月 1 日(日)
12:50 本編オンライン上映開始
14:30 本編終了、トーク開始(安田菜津紀、土屋トカチ監督)
15:00 トーク終了予定
※アーカイブは 11/4(水)の 15:00 まで視聴することができます。
JUST ANOTHER
企画・制作・撮影・編集・監督:大石規湖
宣材写真:菊池茂夫
出演:the 原爆オナニーズ(TAYLOW、EDDIE、JOHNNY、SHINOBU)、JOJO広重、DJ ISHIKAWA、森田裕、黒崎栄介、リンコ他
結成38年、日本を代表するパンクバンド「the 原爆オナニーズ」。初のドキュメンタリー。1982年、名古屋でTHE STAR CLUBに在籍していたEDDIEと地元のパンク博士と言えるTAYLOWを中心に結成されたthe 原爆オナニーズ。数度のメンバーチェンジを繰り返す中で、後にBLANKEY JET CITYに加わる中村達也や、Hi-STANDARDの横山健が在籍したことでも知られている。本作では、これまで語られなかったバンド内部の真実が本人たちによって明かされる。
地元愛知にこだわり続け、名古屋の”今池まつり”で、老若男女問わず集客しているパンクバンド。この盛り上がり方にびっくり。こんなにパンクバンドに熱狂するお祭りがほかにあるでしょうか?観るまで全然知らなくて、「このカッコいいオジさんたちは何者?」と目が点になりました。大石規湖(おおいしのりこ)監督も、ライブを観てすぐに撮影したいと思ったそうです。
地元で暮らし、きちんと正業を持っていてライブでは全力注力。忘れられないインパクトがある「the 原爆オナニーズ」の名前は「セックスピストルズ」にならって?つけられたらしいです。
還暦過ぎたTAYLOWさんはじめメンバーみな力いっぱいのステージ!普段は静かで温厚そうな方ばかり。亡くなられた遠藤ミチロウさんを思い出します。「ザ・スターリン」時代、過激なパフォーマンスで話題になりましたが、それはステージ上の顔でしたし。ミチロウさんはいなくなってしまいましたが、「the 原爆オナニーズ」のメンバーは地元にしっかり根を張って、また”今池まつり”で熱いパフォーマンスを見せることでしょう。そんな日が早く戻ることを祈りつつ。(白)
the 原爆オナニーズのことはこの作品で初めて知りました。ちょっと口にするのは憚られるバンド名ですが、結成38年とのこと。日本を代表するパンクバンドです。なんて、知ったようなことを書いてしまいましたが、パンクがどんな音楽なのか、ロックとどこが違うのか。そんなことが分からなくても大丈夫。私はこの作品で知りました。バンドの音楽そのものだけでなく、好きなことを仲間と一緒にやっていくことの楽しさ、大変さをメンバーへの個別のインタビューで浮かび上がらせています。
興味深かったのはTAYLOWさんのSHINOBUさんへの接し方。本人には常にダメ出しをしていますが、インタビューでは「あいつは天才肌だから褒めちゃいけない」と褒める。直接、言ってあげればいいのにと思いましたが、インタビューで答えるというのは間接的にSHINOBUさんが聞くことを分かっているんですよね。この人心掌握術は何らかの組織に所属する人には誰にでも役立ちそうな気がしました。またJOHNNYさんは夫婦で互いに支え合って、子育てしながら好きなことをしているようで何だかいい感じ。EDDIEさんはバンドを続けたくて、独身をとおしたよう。それもなかなか覚悟がいること。他のメンバーがインタビューで語るのとはひと味違った響きがありました。(堀)
2020年/日本/カラー/90分
配給:SPACE SHOWER FILMS
(C)2020 SPACE SHOWER FILMS
https://genbaku-film.com/
★2020年10月24日(土)新宿K’s シネマほかにてロードショー!以降全国順次公開
ストレイ・ドッグ(原題:DESTROYER)
監督:カリン・クサマ
脚本:フィル・ヘイ&マット・マンフレディ
撮影:ジュリー・カークウッド
音楽:セオドア・シャピロ
出演:ニコール・キッドマン、トビー・ケベル、タチアナ・マズラニー、セバスチャン・スタン
LA市警の女性刑事エリン・ベル。若き日の美しさはすでに遠い過去のものとなり、今は酒に溺れ、同僚や別れた夫、16才の娘からも疎まれる孤独な人生を送っている。ある日、エリンの元に差出人不明の封筒が届く。17年前、FBI捜査官クリスとともに砂漠地帯に巣食う犯罪組織への潜入捜査を命じられたエリンは、そこで取り返しのつかない過ちを犯し、捜査は失敗。その罪悪感が今なお彼女の心を蝕み続けていた―。封筒の中身は紫色に染まった1枚のドル紙幣。それは行方をくらました事件の主犯からの挑戦状だった。過去に決着をつけるため、犯人を追う野良犬(ストレイ・ドッグ)と化したエリンは、灼熱の荒野へと車を走らせるが―。
特殊メイクを施したニコール・キッドマンにとにかく驚く。こんなにすさんだ汚れ役は初めてではないだろうか。1967年生まれのニコール・キッドマンは53歳。しかし、劇中では17年前に20代の役なので、どう高くみても40代のはず。実年齢よりも若い役を老けた感じに見せる特殊メイクで演じるとは! エリンのやさぐれ感が全身から陽炎のように立ち上っていた。一方で20代のときを本人が(すっぴんで?)演じている。しかし違和感がない。ニコール・キッドマン、恐るべし!
ストーリーは時間軸を自由自在に動かして展開する。ロサンゼルスの街がスクリーンから強烈に主張し、じりじりと照りつくような太陽に見ているこちらまで意識が朦朧となっていった先にあっと驚く結末が用意されていた。「ちょっと待って、もう一回見せて」と思わず、声をあげてしまうかもしれない。(堀)
2018年/アメリカ/英語/カラー/スコープサイズ/5.1ch/121分
配給:キノフィルムズ
(C) キノフィルムズ
公式サイト:https://www.destroyer.jp/
★2020年10月23日(金) TOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショー
どうにかなる日々
原作:志村貴子「どうにかなる日々」(太田出版)
監督:佐藤卓哉
演出:有冨興二
脚本:佐藤卓哉、井出安軌、冨田頼子
キャラクターデザイン:佐川遥
美術監督:齋藤幸洋
撮影監督:髙津純平
音楽:クリープハイプ
主題歌:「モノマネ」/クリープハイプ
元恋人の結婚式、男子校の先生と生徒、心と身体の変化を迎える思春期の幼馴染み。
誰が相手でも、どんな形でも、全ての恋と生き方には同等の価値がある。そして、不器用に誰かを想った日々は、きっといつか愛しい思い出になる。そんな“誰かの恋”を優しく見守り、温かく描くオムニバスショートストーリー集。
15分ほどの4つの話から構成され、最後の2つは登場人物が同じで、2年後を描いています。どれもちょっと特殊な性的きっかけから始まりますが、きっかけを作った本人はあまり登場せず、それによって心をざわつかせた人たちのその後を独特のテンポと繊細な心理描写で綴っています。展開は日常からはみ出すことなく、そういうことってあるかもなぁとクリープハイプの音楽に身をゆだねながら眺めている気分になるのではないでしょうか。なにげない日々のあたたかさ、愛しさに溢れた作品です。(堀)
2020年/54分/PG12/日本
配給:ポニーキャニオン
©志村貴子/太田出版・「どうにかなる日々」製作委員会
公式サイト:https://dounikanaruhibi.com/
★2020年10月23日(金)公開
瞽女 GOZE
監督:瀧澤正治
脚本:加藤阿礼、椎名 勳、瀧澤正治
撮影:佐々木 秀夫、伊集 守忠
照明:磯野 雅宏
音楽:まついえつこ
音響効果:帆苅 幸雄
編集:白石 悟
出演:川北のん、吉本実憂、中島ひろ子、冨樫真、小林綾子、小林幸子(特別出演) 、本田博太郎、国広富之、田中健、寺田農、綿引勝彦、左時枝、渡辺美佐子
語り部:奈良岡朋子
生後3ヶ月で失明したハルは2歳のとき父と死別し、7歳で瞽女になる。するとそれまで優しかった母トメが子を思う深い愛情ゆえ、心を鬼にしてハルを厳しく躾けた。母親の本心に気がつかないまま、ハルは8歳でフジ親方と共に初めて巡業の旅に出る。その年、病が悪化してトメはこの世を去ったが、ハルは自分を虐めた鬼である母親に涙一つ流さなかった。苛酷な瞽女人生の中でハルは意地悪なフジ親方からは瞽女として生き抜く力を、サワ親方からは瞽女の心を授かる。
こうして様々な困難を経て親方になったハルは初めて幼い弟子ハナヨを向かい入れる、何も知らないハナヨを瞽女として生きていける様にとハルは厳しく躾をした時、自分が幼い頃、母から鬼のように厳しく躾けられる姿が走馬灯のように浮かび上がった。ハルはようやく自分を愛してくれた母親の慈愛の深さに気づき、感謝の涙を流すのだった。
瞽女のことをこの作品で知りました。タイトルの漢字を見ても、実は読めなくて、この記事を書くときにWordで「ごぜ」と打っても出てこなくて、四苦八苦しました。それだけ瞽女を知らない人が多くなってしまったということなのでしょう。
冬、雪の中を素足で草履をはいて歩く姿に、思わず自分の足を摩ってしまいます。しかし、彼女たちの巡業を楽しみにしていた人たちがたくさんいたことが作品から伝わってきました。娯楽の多い現代と違い、当時は他に楽しみがなかったのですね。
子ども時代のハルを演じた川北のんさんの目が見えない演技が素晴らしく、特に針に糸を通す練習している姿は涙を誘います。そして、子どもを愛するがゆえに、鬼になる葛藤を母を演じた中島ひろ子さんが見事に表現しました。
ハルは2人の親方と巡業の旅に出ました。最初の親方は意地悪で辛い思いをしますが、瞽女として生き抜く術を学びます。次の親方は優しい人で瞽女としての心を授かりました。ハルはそのことを「いい人と歩けば祭り、悪い人と歩けば修行」と振り返ります。謙虚な心持ちは私たちにも通じることかもしれません。(堀)
2005年4月、105歳で亡くなった最後の瞽女・小林ハルさんの半生を映画化した作品です。目が見えないので一生人の世話になるから、と厳しく躾けられ、口答えをせずどんな理不尽なことにも耐えて生きてきたハルさん。それをいいことに酷い仕打ちをしてきた人がいました。辛苦を味わってきた半分までが映画に描かれています。その後も決して楽にならず、人の何倍も過酷な目に遭います。
人間ってもっといいもので、真面目に務めていれば報われると思いたかっただろうに、ハルさんが幸せと言える日はずっと先なのでした。映画をきっかけに、瞽女、を知ったなら本や音源、動画も遺されていますので、手にとってみてください。
吉本実憂さんは、『レディ in ホワイト』(18)など、めげない強気の役の印象があります。それとは全く反対の、何もかも受け入れるハルさんを三味線や瞽女唄の特訓をして演じました。初めて観て泣いた自分の出演作品だそうです。ラストでハルさんが口にする一言が胸をうちました。(白)
2019年/109分/G/日本
配給:エムエフピクチャーズ
©2020映画 瞽女GOZE製作委員会
公式サイト:https://goze-movie.com/
★2020年10月23日(金)公開
脚本:加藤阿礼、椎名 勳、瀧澤正治
撮影:佐々木 秀夫、伊集 守忠
照明:磯野 雅宏
音楽:まついえつこ
音響効果:帆苅 幸雄
編集:白石 悟
出演:川北のん、吉本実憂、中島ひろ子、冨樫真、小林綾子、小林幸子(特別出演) 、本田博太郎、国広富之、田中健、寺田農、綿引勝彦、左時枝、渡辺美佐子
語り部:奈良岡朋子
生後3ヶ月で失明したハルは2歳のとき父と死別し、7歳で瞽女になる。するとそれまで優しかった母トメが子を思う深い愛情ゆえ、心を鬼にしてハルを厳しく躾けた。母親の本心に気がつかないまま、ハルは8歳でフジ親方と共に初めて巡業の旅に出る。その年、病が悪化してトメはこの世を去ったが、ハルは自分を虐めた鬼である母親に涙一つ流さなかった。苛酷な瞽女人生の中でハルは意地悪なフジ親方からは瞽女として生き抜く力を、サワ親方からは瞽女の心を授かる。
こうして様々な困難を経て親方になったハルは初めて幼い弟子ハナヨを向かい入れる、何も知らないハナヨを瞽女として生きていける様にとハルは厳しく躾をした時、自分が幼い頃、母から鬼のように厳しく躾けられる姿が走馬灯のように浮かび上がった。ハルはようやく自分を愛してくれた母親の慈愛の深さに気づき、感謝の涙を流すのだった。
瞽女(ごぜ)
親しく「瞽女さん」と呼ばれ、三味線を奏で、語り物などを唄いながら、各地を門付けして歩く「盲目の女旅芸人」のこと。幼い頃から親方と呼ばれる師匠に預けられ、瞽女として生きてゆくために厳しく芸を仕込まれます。視力の残った手引きを先頭に、3~4人が一組となって師匠から弟子の順に前の人の肩の荷に左手を触れて動きを知り、右手に持った杖で足元を確認して歩き、各地を回って瞽女唄を聞かせます。
江戸時代まで全国各地に瞽女が存在したといわれています。瞽女たちの手によって津軽三味線の素地が伝えられ、信濃追分の馬子唄が順次伝播されて江差や松前追分に転化するなど民謡の伝播者としても大きな役割を残しました。明治期に越後・新潟にだけ残り長岡地区と上越高田地区の二つの集団が生まれました。
瞽女のことをこの作品で知りました。タイトルの漢字を見ても、実は読めなくて、この記事を書くときにWordで「ごぜ」と打っても出てこなくて、四苦八苦しました。それだけ瞽女を知らない人が多くなってしまったということなのでしょう。
冬、雪の中を素足で草履をはいて歩く姿に、思わず自分の足を摩ってしまいます。しかし、彼女たちの巡業を楽しみにしていた人たちがたくさんいたことが作品から伝わってきました。娯楽の多い現代と違い、当時は他に楽しみがなかったのですね。
子ども時代のハルを演じた川北のんさんの目が見えない演技が素晴らしく、特に針に糸を通す練習している姿は涙を誘います。そして、子どもを愛するがゆえに、鬼になる葛藤を母を演じた中島ひろ子さんが見事に表現しました。
ハルは2人の親方と巡業の旅に出ました。最初の親方は意地悪で辛い思いをしますが、瞽女として生き抜く術を学びます。次の親方は優しい人で瞽女としての心を授かりました。ハルはそのことを「いい人と歩けば祭り、悪い人と歩けば修行」と振り返ります。謙虚な心持ちは私たちにも通じることかもしれません。(堀)
2005年4月、105歳で亡くなった最後の瞽女・小林ハルさんの半生を映画化した作品です。目が見えないので一生人の世話になるから、と厳しく躾けられ、口答えをせずどんな理不尽なことにも耐えて生きてきたハルさん。それをいいことに酷い仕打ちをしてきた人がいました。辛苦を味わってきた半分までが映画に描かれています。その後も決して楽にならず、人の何倍も過酷な目に遭います。
人間ってもっといいもので、真面目に務めていれば報われると思いたかっただろうに、ハルさんが幸せと言える日はずっと先なのでした。映画をきっかけに、瞽女、を知ったなら本や音源、動画も遺されていますので、手にとってみてください。
吉本実憂さんは、『レディ in ホワイト』(18)など、めげない強気の役の印象があります。それとは全く反対の、何もかも受け入れるハルさんを三味線や瞽女唄の特訓をして演じました。初めて観て泣いた自分の出演作品だそうです。ラストでハルさんが口にする一言が胸をうちました。(白)
2019年/109分/G/日本
配給:エムエフピクチャーズ
©2020映画 瞽女GOZE製作委員会
公式サイト:https://goze-movie.com/
★2020年10月23日(金)公開
キーパー ある兵士の奇跡(英題:The Keeper)
監督:マルクス・H・ローゼンミュラー
出演:デヴィッド・クロス、フレイア・メーバー、ジョン・ヘンショウ、デイヴ・ジョーンズ
1945年、ナチスの兵士だったトラウトマンはイギリスの捕虜となる。収容所でサッカーをしていた時、地元チームの監督の目に留まり、ゴールキーパーとしてスカウトされ、名門サッカークラブ「マンチェスター・シティFC」に入団。ユダヤ人が多く住む街で、想像を絶する誹謗中傷を浴びながらも、トラウトマンはゴールを守り抜いた。やがて彼の活躍によって、世界で最も歴史ある大会でチームを優勝へ導き、トラウトマンは国民的英雄となる。だが、彼は誰にも打ち明けられない〈秘密の過去〉を抱えていた。そしてその秘密が、思わぬ運命を引き寄せてしまう。
ナチスの兵士だった主人公がキーパーとしてイギリスの国民的英雄になる。事実は小説より奇なりという言葉を改めて思い出す、実話を基にした作品です。ただ、メインテーマはサッカー選手の人生を描くことではなく、罪と許し、そして和解です。
戦争が終わっても、敵国の人と仲良くするのは感情的に簡単なことではありません。まして、家族や友人を戦争で喪っていたらなおのこと。直接的に関わったわけでなくても、敵国というだけでその人を憎む気持ちが生じてしまいます。一方で、許せるようになるのは個人的な関わりを持つことから始まるのではないでしょうか。トラウトマンに対するマーガレットの気持ちの変化や、その後の彼女の奮闘からそれが伝わってきます。
起きてしまった戦争をなかったことにはできません。しかし、それを認め、受け入れ、許すことで和解することはできるはず。世界の各地で今もなお戦争は続いています。やられたからやり返すのではなく、罪と許し、そして和解の心があれば、トラウトマンがイギリスの人たちに受け入れられたように、世界的な共存は可能なのではないかと思えてきます。
ところで、トラウトマンが捕虜としてイギリスのランカシャー収容所に送り込まれたところから始まりますが、収容所での捕虜の扱いに驚かされました。これまでに見てきた映像作品の印象から、捕虜収容所では人間としての尊厳が大事にされない扱いをされると思っていましたが、この作品に出てきた収容所ではもっと人間らしい生活が営まれていたのです。エピソードにフィクションも含まれているとはいえ、国によってこんなに違うものとは。
また、トラウトマンと地元サッカーチームの監督とのやりとりにくすっと笑ってしまうシーンがたくさんありました。娘がトラウトマンと恋に落ちたときの狼狽ぶりには笑いつつも、娘がいる人は共感を覚えるかもしれません。重厚なテーマを扱いつつ、コミカルなシーンを挟み込むことでエンタメとしても楽しめる作品に仕上がっています。(堀)
これが事実を元にしていると知って、余計に印象深い作品になりました。トラウトマンを演じるデヴィッド・クロスは『愛を読むひと』(08)で年上の人(ケイト・ウィンスレット)に恋した男の子マイケルではありませんか。こんなに大きくなって。
イギリスで捕虜となったナチスの兵士がどれほど憎まれたか、この映画の描写が垣間見せてくれます。国が起こした戦争に駆り出され、国や家族を守ろうと戦ったのはどの国の国民も同じはず。妻の必死の訴えに男たちが口をつぐむ場面に「よく言った!」と拍手したくなりました。トラウトマンの真摯な態度、GK(ゴールキーパー)としての卓抜した技能があってこそですが。
サッカーはどんなに攻撃が上手くても、そのボールをゴール前で止められたら得点できません。スポーツ観戦はほとんどしないのに、唯一熱心に観た2002年のFIFAワールドカップを思い出しました。日本と韓国が合同開催し日本は16強に入って敗退しましたが、ドイツとブラジルが勝ち上がり、ドイツのGKだったオリバー・カーンのにわかファンになったものです。以来GKびいき。
戦後の辛い時期に、鉄壁のGKを得た「マンチェスター・シティFC」とファンがどんなに熱狂したか、想像に難くありません。生活そのものではない娯楽が、人々を癒し元気づけること…この時期に観るとよけいに胸に響きます。(白)
「ドイツ人は友達の命を奪った」というマーガレットに、トラウトは「戦うより君と踊りたかった。でも選べなかった」と答える場面がありました。誰しも、自ら好んで戦争に加担したくないけれど、国家という枠組みの中にいる限り逃れられません。
人は被害にあったことは語るけれど、自分の加害については語れないのが常。ましてや、地獄を味わった人は、それが一生人に言えないまま胸に突き刺さっているのです。日本でも、実戦で地獄を見た人は多くを語りません。戦争においては加害者もまた被害者と言えるでしょう。
トラウトマンは、ユダヤ教のラビが、「直接加担してない人間までも罰すれば、我々も加害者になる」と声明を出してくれて救われます。「許すより憎むほうが簡単」「罪は消えないけれど、許すことはできる」という言葉が心に残りました。
ところで、トラウトマンが近所の子どもたちとサッカーに興じていた頃に、キーパーというポジションを選んだのは、実は自分の意志ではなかったというエピソードが出てきました。戦争に加担したのも自分の意志ではなかったことを考えると、面白い運命です。(咲)
2018年/イギリス・ドイツ/英語・ドイツ語/119分/スコープ/カラー/5.1ch
配給:松竹
ⓒ2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/keeper/
★2020年10月23日(金)新宿ピカデリーほか全国公開