2020年10月11日

靴ひも   原題:Laces

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監督:ヤコブ・ゴールドワッサー
出演:ネボ・キムヒ、ドブ・グリックマン、エベリン・ハゴエル

発達障害のある30代半ばを過ぎたガディ。一緒に暮らしていた母親が急死し、入居先が決まるまで長年疎遠だった父親ルーベンのところに身を寄せることになる。父の経営する自動車整備工場で働き始めるが、何かとこだわりが強く、顧客や周囲の人と摩擦を起こし、父もどう接していいか戸惑う日々だ。そんなある日、父が倒れ、腎不全で人工透析を受けるが、治癒には腎臓移植が必要とわかり、ガディが腎臓提供を決意する。だが、父はガディの後見人で被後見人からの提供は受けられないという・・・

生まれてくる子に障害があるとわかって、母子から逃げた父親。養育費は払っていたものの、バル・ミツバ(13歳の時に行われるユダヤの成人式)と20歳の誕生日にしか会ってなかった息子との暮らし。最初はぎくしゃくしていますが、そこは親子。血の繋がりがなせる技を感じさせてくれます。
障害の程度を調査する面接の日、「今日は芝居をする日」と父と息子は結託。靴ひもを結んでと言われ、ガディはあえて結べない振りをします。より高額の給付金を貰うために! そんなガディも心を乱される出来事があったときには、靴ひもが結べません。
2018年の東京国際映画祭で観た折には、障害を持つ息子と父の思いを描いた普遍的な物語で、いかにもイスラエル映画と感じたのは、病院のシーツの模様がダビデの星だったこと位でした。今回、公開を前にもう一度観てみたら、最初の母親の埋葬のシーンからして、正統派ユダヤのラビが仕切っていて、長男であるガディが一生懸命ガディッシュ(追悼の祈り)を述べていました。
ガディは歌手を自認していて、好きな歌手3人の名前を挙げるのですが、3人目のシュロミ・シャバットのことは、シャバット(安息日)に掛けて、平安なという意味のシャロームを付けて「シュロミ・シャバット・シャローム」と言っています。なかなかお茶目。
また、ガディが食堂で働くアデラという女の子と結婚したいと父親にいうと、「黒人だから不釣り合い」と言われます。黒人といっても、恐らくエチオピアから移住してきたユダヤ人。様々な地からイスラエルにやってきたユダヤ人の中にも差別意識があることを見せてくれました。
障害を持つ息子が父親に腎臓移植をしようとしたけれど却下されたという実話から紡いだ普遍的な物語ですが、イスラエルらしさも感じていただければと思います。(咲)

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2018年の東京国際映画祭の折に来日したヤコブ・ゴールドワッサー監督のQ&Aはこちらで!


息子の障害から逃げた父親と育ててくれた母を亡くしたばかりの息子。疎遠だった2人が一緒に暮らし始める話です。タイトルの靴ひもは(咲)さんが書いているように、特別給付金を得るための認定テストの一つ。息子は靴ひもが結べるのに、結べないフリをします。このシーンを見ていたら、親の介護で大変な思いをしている友人たちの話を思い出しました。介護認定をもらうための判定で認知症の親ががんばってしまい、認定がもらえなかったと、この作品とは真逆な話をよく聞くのです。むしろ、この作品の息子のようにあえてできないふりをしてくれたら、お互いに楽なはずなのにと。友だちの話は近い将来の私の話かもしれないと思って聞いていましたが、この作品で主人公が陥ったジレンマを知り、人生って後で何があるか分からないから、ちゃんとしないといけないんだなと思いました。
ラストは映画としては意外な展開ですが、これが現実なのでしょう。しかし、前向きな気持ちで新しい生活を始めていく息子にエールを送りたくなるに違いありません。(堀)


2018年/イスラエル/103分
配給:マジックアワー
公式サイト:https://www.magichour.co.jp/kutsuhimo/
★2020年10月17日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開






posted by sakiko at 17:29| Comment(0) | イスラエル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

朝が来る

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監督・脚本・撮影:河瀬直美
原作:辻村深月「朝が来る」文春文庫
共同脚本:高橋泉
音楽:小瀬村 晶、An Tôn Thât
出演:永作博美(栗原佐都子)、井浦新(栗原清和)、蒔田彩珠(片倉ひかり)、浅田美代子(浅見静恵)、佐藤令旺(栗原朝斗)、中島ひろ子(片倉貴子)

長い不妊治療を経て、子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」で、産まれたばかりの男の子を迎え入れる。それから6年、朝斗と名付けた息子と3人幸せな日々を送っていた。
突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から「子どもを返してほしい」という電話がかかってきた。当時14歳だったひかりとは、朝斗を引き取る際一度だけ会ったことがある。泣き泣き子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。意を決して清和と佐都子が迎えた若い女性は、ほんとうにひかりなのか?

昔々なら結婚する(させられる)こともあった14歳。妊娠も出産も可能な年頃です。ひかりが一人で訪れて出産した施設ベビーバトンには、いろいろな事情で産んでも育てられない女性たちがいました。この施設の代表を演じていたのが、浅田美代子さん。人気テレビドラマ「時間ですよ」でデビューして天然キャラだったのを思い出します。わけあり女性たちを迎え入れ、産まれた子どもの幸せを考える慈愛深い女性を演じています。
前半は佐都子一家、後半はひかりの事情が描かれ、追い詰められていくひかりの幼さが際立ちます。ドラマチックな展開に思わず見入り、子どもと二人の母親の幸せを祈る気持ちになりました。あ、父もね(幼い父は蹴飛ばしたくなった)。
特別養子縁組の説明はこちら。(白)


幼稚園の先生から電話がかかってきて、「お子さんがお友だちをジャングルジムから突き落とした」と言われたけれど、子どもは「やっていない」と主張したら? 佐都子は息子が嘘をついていたとしても息子の言うことを信じてあげようとします。親として子どもに対して揺るぎない信頼を置いている母親を実生活でもお子さんがいる永作博美がリアリティを感じさせながら演じていました。こんな母親になりたい。自分だったら子どもが信用できず、なぜそんなことをしてしまったのか、私の育て方のどこがいけなかったのかと自分自身を責めてしまったような気がします。
14歳で妊娠し、子どもを産んだひかりを演じたのは蒔田彩珠。ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」で是枝裕和監督から演技を高く評価され、『海よりもまだ深く』、『三度目の殺人』、『万引き家族』に出演。是枝作品の常連となっている実力派です。本作では家族の中に居場所が見つけられずにいる中、思いがけず妊娠してしまい、ますます孤立するという難しい役どころを見事に演じていました。見ている立場では、「両親がもっと違った受け止め方をしてあげていれば」と思ってしまいますが、実際に彼女の親の立場になったら…。
ほかにも「自分だったら?」と考えてしまう場面がいくつもありました。親としての姿勢が問われる作品なのかもしれません。(堀)


河瀨直美監督は、辻村深月の原作「朝が来る」に出会い、二人の母をつなぐ子供「朝斗」のまなざしを映像化できれば素晴らしいなと感じたと語っています。
映画は、朝斗がまなざしを向ける二人の母の姿を丁寧に描いています。「特別養子縁組」の制度のお陰で息子を持つことができた佐都子の朝斗に向ける溢れる愛情。そして、恋をして身篭ったものの、育てるのを諦めるように諭された14歳の少女。奈良の実家を離れて、瀬戸内海の似島にあるNPO法人ベビーバトンが運営する施設に篭って出産の日を待つ姿、そして、その後に彼女が歩んだ人生・・・
佐都子を演じた永作博美さんが、河瀬直美監督の「役積み」の手法を語っているのを先日聞きました。撮影に入る前に、1か月間、実際にタワーマンションに親子3人で暮らしたのだそうです。産みの母ひかり役の蒔田彩珠さんも実際に奈良で暮らして学校に通ったのだとか。
これまで河瀬直美監督の作品は、ちょっと難解という印象があったのですが、今回は、丁寧に作られた映画を堪能しました。(咲)


子供を授からなかった夫婦と、若くして妊娠してしまった少女。「特別養子縁組」制度によって、両者は知り合い、夫婦は息子を育てることになった。その息子朝斗をめぐっての葛藤が描かれる。
これまでの河瀬監督の映画とはちょっと毛色が違うと思ったが、実父と生き別れ、実母と離別し、母方の祖母の姉に育てられた自身の境遇から作られた初期の作品『につつまれて(山形国際ドキュメンタリー映画祭国際批評家連盟賞受賞)』や、『かたつもり(山形国際ドキュメンタリー映画祭奨励賞受賞)』のことを考えると、やはり「生き別れと家族について」の監督の思いにつながる作品なのかもしれない。
でもわからないのは、借金取りに追われて自身の生活もままならない状態なのに「息子を返して」と、ひかりが栗原家にやってきたこと。そして相手の男の子のこと。妊娠したことによって彼女の人生は大きく変わってしまったわけだけど、その男の子は彼女が妊娠したことに対してどのような態度だったのだろう(暁)。

2020年/日本/カラー/139分
配給:キノフィルムズ、木下グループ
(C)2020「朝が来る」Film Partners
http://asagakuru-movie.jp/
★2020年10月23日(金)よりロードショー

posted by shiraishi at 15:03| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アイヌモシリ(リは小文字)

2020年10月17日(土)より渋谷ユーロスペース、11月14日(土)より札幌シアターキノほかで公開 劇場情報

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(C)AINU MOSIR LLC/Booster Project

監督・脚本:福永壮志
プロデューサー:エリック・ニアリ、三宅はるえ
エグゼクティブプロデューサー:中林千賀子、宮川朋之、ジャッド・エールリッヒ
共同プロデューサー:福永壮志、ドナリ・ブラクストン、ジョシュ・ウィック
撮影監督:ショーン・プライス・ウィリアムズ
編集:出口景子、福永壮志
音楽:クラリス・ジェンセン、OKI
制作担当:星野友紀
出演
カント:下倉幹人
デボ:秋辺デボ
エミ:下倉絵美
コウジ:結城幸司
吉田先生:三浦透子
トンコリ伝承者::OKI
岡田(新聞記者):リリー・フランキー

デビュー作『リベリアの白い血』で、ニューヨークに移住するアフリカの移民の苦悩を描き高く評価された福永壮志監督が5年をかけて作り上げた2作目は、自身が生まれ育った北海道を舞台に阿寒湖のアイヌコタンで暮らす少年の成長と、現代のアイヌ民族の現状と伝承について映し出した。
14歳の少年カントはアイヌの民芸品店を営む母親のエミと北海道阿寒湖畔のアイヌコタンで暮らしている。アイヌ文化に触れ、行事に参加しながら育ってきたが、一年前の父の死をきっかけにアイヌの活動に参加しなくなってしまった。アイヌの伝承文化に距離を置く一方、友達と始めたバンドの練習に没頭するようになり、中学校卒業後は高校進学のため故郷を離れようと思うようになった。
亡き父の友人で、アイヌコタンの人たちの中で中心的存在のデボは、カントに自然の中で育まれたアイヌの精神や文化について伝えようとする。そして、長年行われていない熊送りの儀式、イオマンテの復活のために密かに育てている子熊の世話をカントに任せる。世話をするうちに子熊への愛着を深めていくカント。
初主演を果たしたのはアイヌの血を引く下倉幹人。演技は初めてだが力強い眼差しとアイデンティティーにゆれる印象的な主人公・カントを等身大で演じた。その他の主要キャストもアイヌの人たちが務めている。カントの父の友人デボに扮するのは、阿寒に暮らし多岐にわたる活躍をみせる秋辺デボ。アイヌの伝統を重んじるデボ役を体現している。カントを優しく見守る母のエミ役は下倉幹人の実の母親でミュージシャンの下倉絵美が担当した。三浦透子、リリー・フランキーら俳優人がゲスト出演している。

*アイヌモシリとは:「人間の静かなる大地」を意味するアイヌの言葉。アイヌ民族は自分たちの生活圏をアイヌモシリと呼んだ。「アイヌの大地」「アイヌのくに」とも解されている。

前作『リベリアの白い血』でインタビューした時、次作は「アイヌ」を描いた作品を考えていると答えていた福永壮志監督だったので、この作品を観て感慨深かった。
アイヌ民族の人たちの文化と伝承について興味があった私は、北海道に行ったときに平取町立二風谷のアイヌ文化博物館を訪ねたりしていた。アイヌの文化は、北海道の地名などに残っていることもあるけど、言葉の伝承などはかなり失われているのかもしれない。今はほとんど観光的なものも多くなってしまっているような感じだが、何ヶ所かのアイヌコタンでかろうじて残されている。私がアイヌ民族のことを知ったのは中学時代。アイヌ民族の歴史に興味を持ったけど、アイヌ模様にも興味を持った。衣服などに刺繍されている幾何学的な模様はとても美しくて力強い。それにしても長年行われていない「イオマンテ」の儀式と、この映画では出てきたけど、阿寒湖のアイヌコタンでは実際、今でも行われているのだろうか。
主人公の実の母親である下倉絵美さんが出演していた『kapiwとapappo~アイヌの姉妹の物語~』(16年/佐藤隆之監督)も印象的なアイヌのアイデンティティを描いた作品だった。これは妹の郷右近富貴子さんと共に出演している。下倉幹人君も出演している。(暁)


北海道出身なので、先住民のアイヌの人たちは身近に思えています。生まれた利尻の村はアシリコタンと呼ばれていましたし、小刀はマキリと言い、チャランケ(談判、話し合い)という言葉も生きていました。札幌の高校生のときにアイヌの民族衣装を調べて、現物が見られる北大植物園に通ったことがありました。今はネットでもなんでもありますが半世紀前のことです。
北海道・白老(しらおい)に今年7月「ウポポイ(民族共生象徴空間)」がオープンしました。HPはこちら。9月こそこそ里帰りしていたので、足を延ばして訪ねてきました。国立の施設でアイヌ文化の保存と継承のために作られたものです。ポロト湖と森を背景にした広大な土地に、博物館や交流ホール、学習館、工房などの建物、再現されたチセ(家)、イベントの行われる広場などが点在して多くの道民や観光客が訪れていました。コロナ禍中だったので、入場制限があり、予約が必要でした。入って感じたのは、知る機会と働く場所が増えて良かったということでした。
この映画では幹人くんの強い目に魅了されました。多感な時期に自分のアイデンティティに向き合うのは必須なのでしょう。幸多かれと祈ります。東京・八重洲にもアイヌ文化交流センターがあります。こちら。里帰り日記はこちら。(白)


2018年9月2日~3日に開催された「キルギス映画祭 in Tokyo」で上映された『北海道のマナス』は、キルギス人が阿寒湖アイヌコタンを訪れたドキュメンタリー映画でした。キルギスの英雄叙事詩「マナス」を世界各地で語るプロジェクトの一環なのですが、「マナス」にはアイヌのことも語られているそうです。
アイヌ文化とキルギス文化には模様や口にあてて演奏する楽器など、共通点が数多くあることも紹介されていました。『北海道のマナス』の撮影で阿寒湖を訪れたキルギスの人達が皆、「異国にいる気がしない」と言っていたのも印象的でした。恐らく、『アイヌモシリ』に出演されている方たちも登場していたのではないかと思います。日本では消え去りそうな少数民族のアイヌですが、地球規模で見れば、同様の文化を持つ人たちがいるのだと、少し心強くなりました。それでも、アイヌ語という文化の根幹を成す言語がいつまで存続するのか心配です。
福永壮志監督の描いた本作が、貴重なアイヌ文化の記録の一つになるのは間違いありません。(咲)


メインキャストの多くは演技経験のないアイヌの方々が演じられています。主人公のカントと母親は本当に親子です。そのせいか、最初はフィクションではなく、ドキュメンタリー作品かと思ってしまいました。そのくらい、みなさん自然なのです。
阿寒には高校がなく、中学を卒業すると、高校に通うために町を出て行きます。あそこで暮らしているのは、中学生以下の子どもたちと年配の人ばかり。そんな状況での中学生の思春期の成長の物語です。アイヌの世界を描いていますが、思春期特有のもやもやした気分や大人に対する反発は誰にでもある感情ではないでしょうか。映画は答えを提示しませんが、見ている側の想像力を広げてくれ、印象に残る作品となっています。(堀)


公式HP
2020年製作/84分/G/日本・アメリカ・中国合作
配給:太秦

*参照
シネマジャーナル『リベリアの白い血』福永壮志監督インタビュー記事
http://www.cinemajournal.net/special/2017/liberia/index.html
posted by akemi at 09:31| Comment(0) | 日本・アメリカ・中国合作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする