2020年10月10日

アウェイデイズ (原題:AWAYDAYS) 

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監督:パット・ホールデン
脚本:ケヴィン・サンプソン(原作「AWAYDAYS」ケヴィン・サンプソン著)
出演:ニッキー・ベル、リアム・ボイル、スティーブン・グレアム、イアン・プレストン・デイビーズ、ホリデイ・グレインジャー、サシャ・パーキンソン、オリヴァー・リー、ショーン・ワード、マイケル・ライアン、リー・バトル、レベッカ・アトキンソン、ダニエレ・マローン、デヴィッド・バーロウ、アンソニー・ボロウズ 他

母親を1年前に亡くした19歳のカーティ(ニッキー・ベル)は下級公務員として働きながら、郊外の中産階級の家庭で悲しみにくれる父、そして血気盛んな妹モリー(ホリデイ・グレインジャー)と暮らしていた。収入のすべてはクラブ遊び、レコード、サッカー、ライブに費やしている。
ある日、《Echo & The Bunnymen》のライブでカーティはエルヴィス(リアム・ボイル)に出会う。エルヴィスはカーティが魅了されていた悪名高いギャング集団“パック”の一員だった。彼らはピーターストームにフレッドペリー、ロイスのジーンズ、そしてアディダスのスニーカーを履いてスタジアムで常に問題を起こしていた。エルヴィスはカーティに“パック”と付き合うことが危険であることを警告した。それよりもエルヴィスはカーティの様に芸術、音楽、詩、そして死について語り合える友人をずっと待っていた。そして、いつしかエルヴィスはカーティに夢中になっていく。しかし、カーティの“パック”への憧れはエスカレートして行き、エルヴィスの警告にもかかわらず、危険な世界の扉を徐々に開いていくのだった。
ある日の遠征(=Awayday)でカーティは成果を得るが“パック”のボス、ゴッドン(スティーブン・グレアム)に認められることはなかった。自分よりも、謎に包まれた存在のエルヴィスが尊敬を集めていることに苛立つカーティ、自分の想いが届かないことに苦悩するエルヴィス。次第に綻びは大きな傷になっていく。

“Football Casual”とは
毎週末にサッカースタジアムに通う労働者階級のファッションのこと。
1970年代の終わりに、何千というリヴァプールのサポーターたちがチームに帯同してヨーロッパをまわりアディダスのスニーカーを手に入れ、それを履いてロンドンのチームとの試合に行く、それを見たロンドン子たちが衝撃を受け真似ていったという大きな流れがあります。1980年代に入ってから雑誌がカテゴライズして広まりました。
リヴァプールでは自分たちを“スカリーズ=Scallys”と呼び、カジュアルズはロンドンでの呼称です。まずフットボールありきで、スタジアムに入り易くするためにスポーツブランドに身を隠す様になったと言われています。

本作はケヴィン・サンプソンが1998年に上梓した同名小説を原作にして、自ら脚本を書きました。Joy Division、The Cure、Magazine、Echo & The Bunnymen、Ultravoxの音楽をバックに、若者たちが自らの拠りどころを探し、絶対的な者へ憧憬を抱き、そして形成された“族”の中で避ける事の出来ない運命にもがき苦しむ様をリアルに映像化しています。
これまで日本では英国フットボール発祥の文化“Football Casual”について、 ほとんど紹介されることがありませんでしたが、その黎明期を初めて切り取った映画でもあります。
イギリスでは公開当時、『さらば青春の光』(1979年)、『トレインスポッティング』(1996年)、『コントロール』(2007年)、さらには『スタンド・バイ・ミー』(1986年)等の映画を例えに、さらにこれら全ての要素を詰め込んだ、若者の生き辛さを描いた小説『ライ麦畑でつかまえて』(J・D・サリンジャー著/1951)のジャックナイフ版であると紹介されました。イギリス公開から11年の月日を経て、ようやく日本で公開されます。

ポスト・パンクの曲が数多く使われていますが、音楽が分からなくてもまったく問題はありません。カーティとエルヴィスという2人の若者が互いに自分とは違う世界に住む相手に惹かれて近づき、すれ違っていく物語です。どちらか片方が自分の世界に留まっていれば仲良くやっていけたのか。いや、それでは惹かれない。なるべくしてなった結果なのかもしれません。思い通りにならないもどかしさをニッキー・ベルとリアム・ボイルが若者らしく体現していました。(堀)


2009年/イギリス/カラー/ビスタ/5.1ch/DCP/R18+/105分
配給:SPACE SHOWER FILM S
© Copyright RED UNION FILMS 2008
公式サイト:https://awaydays-film.com/
★2020年10月16日(金)より新宿シネマカリテほかにてロードショー!以降、全国順次公開!
posted by ほりきみき at 18:57| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

空に住む 

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監督・脚本:青山真治
脚本:池田千尋 
原作:小竹正人『空に住む』(講談社)
主題歌:三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE「空に住む〜Living in your sky〜」(rhythm zone)
出演:多部未華子、岸井ゆきの、美村里江、岩田剛典、鶴見辰吾、岩下尚史、髙橋洋、大森南朋 、永瀬正敏、柄本明

郊外の小さな出版社に勤める直実は、両親の急死を受け止めきれないまま、叔父夫婦の計らいで大都会を見下ろすタワーマンションの高層階に住むことになった。長年の相棒・黒猫ハルとの暮らし、ワケアリ妊婦の後輩をはじめ気心のしれた仲間に囲まれた職場、それでも喪失感を抱え、浮遊するように生きる直実の前に現れたのは、同じマンションに住むスター俳優・時戸森則だった。彼との夢のような逢瀬に溺れながら、先は見えないことはわかっている。そんな日常にもやがて変化が訪れる。

原作は作詞家・小竹正人の同名小説で、原作とともに誕生した「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」の楽曲「空に住む Living in your sky」の世界観を基に、青山真治監督がさまざまな葛藤を抱える女性たちを描きました。青山監督にとって7年ぶりの長編映画です。
叔父夫婦に呼ばれてタワーマンションに住み始めたが、両親を亡くして悲しいのに泣けなかった自分に戸惑う主人公。金銭的にはかなり恵まれている生活をしながらも、子どもがいないこともあるのか、満たされない思いを抱える主人公の叔母。結婚を目前にしながら、婚約者ではない男性の子どもを身籠る後輩。一見、幸せそうに見える女性たちも内面には葛藤や問題を抱えていました。いちばんたくましそうに見えた後輩も、いざ出産を目前にすると逃げ出したい気持ちが表に現れてしまいます。でも、みんな何かしら、強さと弱さを併せ持つものかもしれない。後輩を演じた岸井ゆきのが絶妙な塩梅でその両面を見せてくれました。(堀)


2020年/118分/G/日本
配給:アスミック・エース
©2020 HIGH BROW CINEMA
公式サイト:https://soranisumu.jp/
★2020年2020年10月23日(金)全国ロードショー

posted by ほりきみき at 18:44| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

きみの瞳(め)が問いかけている

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監督:三木孝浩
原案:映画「ただ君だけ」
脚本:登米裕一
撮影:小宮山充
出演:吉高由里子(柏木明香里)、横浜流星(篠崎塁)、やべきょうすけ(原田トレーナー)、田山涼成(大内会長)、野間口徹(尾崎)

駐車場の管理人の仕事を見つけた塁の前に、目の不自由な女性明香里が現れる。前の管理人のお爺さんと勘違いしている彼女に、やめてしまってもういないと話すと、一緒にテレビを見てほしいと頼まれる。不慮の事故で視力と家族を失ってしまった明香里はくったくなく、キックボクサーとしての未来を絶たれた塁の生活に灯りをともす存在となった。つかのま、穏やかで幸せな日々を満喫する二人。しかし、明香里の事故の顛末を聞いた塁は、自分が知らないままに明香里の事故に関わっていたことに気づく。明香里の目が手術をすれば光を取り戻せると知った塁は、もう二度とやるまいと誓った賭けボクシングに身を投じようとする。

チャップリンの名作『街の灯』(1931)からインスパイアされて韓国映画『ただ君だけ』(2011/ソ・ジソプ、ハン・ヒョジュ主演)が、そしてさらに今回本作が生まれました。どれももれなく泣けるようにできている純なラブストーリー。安定の三木じるしです。中途失明した明香里を演じた吉高由里子さんの視線にもぜひ注目を。明るく生きるのには大きな努力が要るはず、それを重たくなりすぎずに演じていました。
流星くんのお顔が見えないのはもったいない!とか、触ってもハンサムってわかりそう!とか、追っかけるなら自分が走らないで、犬を!とか私のように「余計なつっこみ」をしないで素直に観ましょう。綺麗な涙が流れるはずです。野間口さん印象的でした。(白)


「吉高由里子の代表作となるラブストーリーを作る」という企画に恋愛映画の旗手である三木孝浩監督が加わり、切なさの先に感動のある作品ができあがりました。
相手役は横浜流星。キックボクサーとして将来を有望視される役ですが、横浜流星は中学時代に極真空手の世界大会で優勝経験があり、それもキャスティングの決め手の1つだったそう。本作のためにトレーニングを重ね、筋肉を10キロ近くまで身につけてキックボクサーの体を作り上げました。アクションがバッチリ決まって、カッコいいです。これでファンがまた増えちゃいますね。
ところで、三木孝浩監督作品といえば野間口徹。すべての作品に名前のない、ちょい役で出演し続けていて、「野間口徹を探せ」が三木孝浩監督ファンの恒例となっています。今作では初めて名前のある役で出演しています。が、初めての名前アリの役が…。(堀)


2019年/日本/カラー/ビスタ/123分
配給:ギャガ
(C)2020「きみの瞳が問いかけている」製作委員会
https://gaga.ne.jp/kiminome/
★2020年10月16日(土)ロードショー
posted by shiraishi at 15:08| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スパイの妻 劇場版

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監督:黒沢清
脚本:濱口竜介 野原位 黒沢清
撮影:佐々木達之介
美術:安宅紀史
音楽:長岡亮介
出演:蒼井優(福原聡子)、高橋一生(福原優作)、坂東龍汰(竹下文雄)、恒松祐里(駒子)、みのすけ(金村)、玄理(草壁弘子)、東出昌大(津森泰治)、笹野高史(野崎医師)

1940年。戦争の足音が近づいてきたころ。神戸の瀟洒な洋館で暮らす優作と聡子夫婦。優作は貿易会社を営み、何不自由ない生活を送っている。満州へ買い付けに出かけた優作は、偶然国家機密を知ってしまう。一緒に目撃した甥の文夫と共に、現地で手に入れた証拠を秘密裡に持ち帰り、事実を世界に知らしめようと準備をしていた。何も知らない聡子は、幼なじみの憲兵の津森から夫が満州から女性を連れ帰っていたこと、その女性はすでに死亡したと聞かされた。夫とどんな関わりがあるのか、聡子は夫を信じたい気持ちと湧き上がる嫉妬に悩まされる。

戦争間近とはいえ、神戸の美しい洋館、調度品、執事とお手伝いもいる若い夫婦のハイソな暮らしは別空間。髪型や衣裳、小物まで、時代と階層に合わせて選び抜いたと思われます。上品な色使い、良い仕立ての衣裳は主人公の夫婦の人柄まで表しているようでした。穏やかで一点の曇りもなかった幸せな生活が、次第に不穏な空気に包まれてサスペンスに転じていきます。
信じる正義を貫けば愛する人を巻き込むことになると心痛める夫、信じてみな受け入れようとする妻、双方の想いが切ないです。蒼井優さんの目元の泣きボクロが色っぽくて、和服もよく似合いました。東出昌大さんが珍しい敵役ですが、聡子さんには惚れるかもね、とうなずいてしまいます。この作品はヴェネチア映画祭で、黒沢清監督が銀獅子賞(監督賞)を受賞しました。普遍的なストーリー、映像の美しさは国や時代を越えて届くものですね。(白)


8K・スーパーハイビジョン撮影された本作は6月にNHKBSで放送され、スクリーンサイズや色調を新たに劇場版として10月に劇場公開されます。一般の人が8Kのドラマを目にする機会はそう多くないと考えた黒沢清監督が最初から劇場公開を想定して撮っていたのです。ただ、8Kの映像は生々しくて、フィクションのドラマ感が出ない。8Kのよさである、きめの細かさは残したまま、生々しさを消すよう、大河ドラマを作ってきたNHKの技術スタッフががんばりました。
高橋一生と蒼井優は『ロマンスドール』でも夫婦を演じているので、息はぴったり。個人的には太平洋戦争間近という時代設定の衣装やセリフ回しがこの2人はあっているように思えました。ブリティッシュなスーツを着こなす高橋一生が何と素敵なことか。また、夫が撮影する自主映画に出演した妻のアップが銀幕のスターさながらの煌めきを放ち、蒼井優の美しさを改めて感じました。
クライマックスに向け、互いが相手を思うがゆえにこっそり取った行動は厳しい現実になって2人を苦しませますが、エンドロールに書かれたその後には希望があると信じています。(堀)


プロデューサーの岡本英之氏が、本作の企画は監督:黒沢清、脚本:濱口竜介という座組と、「神戸」の地が絡む物語という2点だけで立ち上がったとプレス資料のプロダクションノートに書いておられました。その時点では現代劇か時代劇、いずれになるかも決まってなかったとのこと。それが、昭和15年~20年という戦争の時代を背景にした『スパイの妻』という形で結実したのです。
神戸で生まれ育った私にとって、神戸がどんな風に出てくるのか興味津々でした。繁華街や神戸港の雰囲気は、私の思い出の中の神戸とちょっと違うと感じましたが、思えば私の知っている神戸は戦後の昭和30年代。違って当然です。私が通っていた赤塚山にある学校から、阪急御影駅に降りていくバス道から脇に入ったあたりには瀟洒な洋館が点在して、優作と聡子夫婦もあのような雰囲気のところで暮らしているのだなと想像できました。
黒沢清監督も神戸生まれ。通っていらした六甲学院は、私の通っていた御影の隣り六甲駅から上がった伯母野山。同じ茅渟の海(ちぬのうみ:現在の大阪湾)を眺めていらしたのだと、ちょっと嬉しくなりました。満州から連れ帰った女性を匿っていたのは、有間温泉。六甲山の裏手にある風情ある温泉地で、これまた神戸っ子には懐かしい。
さて、優作が満州で偶然目撃してしまった国家機密。今や皆が知る歴史ですが、優作が撮った映像を見せられた聡子の、なんとかこれを伝えなければという思いが、心にひしひしと突き刺さってきました。そして、人間の残酷な行為が今もどこかで続いていることに思いが至ります。(咲)


これは1940年の話として作られた映画だけど、過去を舞台にしてはいるけど、「もしかして戦争前夜かもしれない」現代に置き換えられるような映画である。「忖度」という言葉が流行るほど政府の内実(嘘や真実)が隠されていたり、最近の日本学術会議での政府の意向に沿わない人の会員候補からの除外等々、そんなことが続くと、隠された真実を表に出すことの難しさは昔も今も変わらないんじゃないかとさえ思えてくる。政府のすることに疑問の声をあげようとすると戦前のように「非国民」などというような人がいるような状態がある今の日本。過去のことを描いているようでいて、今の日本に警鐘を出してるような映画でもあると感じる(暁)。

2020年/日本/カラー/115分
配給:ビターズ・エンド

https://wos.bitters.co.jp/
★2020年10月16日(土)新宿ピカデリーほかロードショー
posted by shiraishi at 14:46| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする