2020年09月18日
映像研には手を出すな!
原作:大童澄瞳「映像研には手を出すな!」(小学館 「月刊!スピリッツ」連載中)
脚本・監督:英勉
脚本:高野水登
音楽:佐藤望
映画主題歌:乃木坂46「ファンタスティック三色パン」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
撮影:川島周 古長真也
照明:本間大海 山田和弥
録音:竹内久史
美術:池田正直
装飾:金子大悟 加藤安梨沙
音響効果:柴崎憲治
出演:齋藤飛鳥 山下美月 梅澤美波
小西桜子 グレイス・エマ 福本莉子 松崎亮 桜田ひより 板垣瑞生 赤楚衛二
鈴之助 出合正幸 松本若菜 山中聡 浜辺美波 / 高嶋政宏
迷彩帽に迷彩リュックの少女・浅草みどり(齋藤飛鳥)は、アニメが好きで、人並み外れた想像力があるのだが、見知らぬ人に話しかけられると卒倒してしまうほどの極度の人見知り。
浅草の中学からの同級生・金森さやか(梅澤美波)は長身で美脚、金儲けに異常な執着を見せるタイプだ。2人が入学した芝浜高校は、413の部活動と72の研究会およびそれに類する学生組織がある、一言でいえばカオスな高校。この部活動および学生組織を束ねているのが大・生徒会。道頓堀透(小西桜子)、ソワンデ(グレイス・エマ)、阿島(福本莉子)、王(松崎亮)が幹部として運営を司っている。
そんな芝浜高校で、浅草と金森はカリスマ読者モデルの水崎ツバメ(山下美月)と出会う。ツバメもまた、芝浜高校に入学してきた新入生で、実はアニメ好きでアニメーター志望だった。
運命的な出会いを果たした3人はアニメ制作に邁進することを決意する。
こうして、電撃3人娘の「最強の世界」を目指す冒険が始まった!!!
原作は大童澄瞳の同名コミック。2020年1~3月に湯浅政明監督によってアニメ化され、4~5月に英勉監督がテレビドラマとして実写化。満を持して9月に英勉監督によって同じキャストで映画化されました。英勉監督はこれまでにも『ヒロイン失格』(2015)や『賭ケグルイ』(2019)など、映像化不可能と言われてきた数々の原作を見事に実写化しており、その手腕は保証付きです。
アニメもテレビドラマも映画も、設定は同じですが、取り上げられるエピドートがちょっとずつ違う。映画ではロボット研究会の依頼を受けてアニメ作品を制作します。ここに音響部の百目鬼が音響として参加をするのですが、彼女が作り上げた効果音が素晴らしい。実はこのシーンには日本の音響効果の第一人者である柴崎憲治氏が関わっているのです。目の前で本物が戦いを繰り広げているかのような臨場感にあふれていました。音だけでこれだけ感じ方が違うのかと驚くはず。これは家で見るのではなく、ぜひ映画館で聴いて感じてください。(堀)
2020年/113分/G/日本
配給:東宝映像事業部
Ⓒ2020 「映像研」実写映画化作戦会議 Ⓒ2016 大童澄瞳/小学館
公式サイト:https://eizouken-saikyo.com/
★2020年9月25日(金)公開
ヒットマン エージェント:ジュン(英語題:Hitman: Agent Jun)
監督・脚本:チェ・ウォンソプ
出演:クォン・サンウ(ジュン)、チョン・ジュノ(ドッキュ)、ファンウ・スルヘ(ミナ)、イ・イギョン(チョル)
両親が事故死して孤児となったジュンは、国家情報院に拾われ冷徹なドッキュ教官に暗殺要員となるべく育てられた。瞬く間に対テロ保安局“猛攻隊”のエースとして命令のまま多くの暗殺に関わっていく。しかしジュンには幼い頃から漫画家になりたいという夢があり、組織から抜け出す決断をする。任務遂行中、死を偽装して行方をくらませ15年が経った…。
ジュンは憧れたウェブ漫画家になったものの、全く人気が出ず妻の収入に頼っている。ついに編集長から打ち切りを宣告されて泥酔し、勢いで暗殺要員時代をネタにした漫画を描き上げ寝落ちしてしまう。ジュンが目覚めるとそのリアルな描写に驚愕した漫画ファンが次々と拡散、まさかの大ヒットとなっていた。妻が良かれと思ってやったことだが、ジュンが生きていると知られてはならない。
暗殺要員の殺伐な話と思いきや、なんと大笑いできるコメディでもありました。死んだはずのジュンが生きていると知った国家情報院と、ジュンに恨みを持つテロリストが執拗に追ってきます。過去を知らない妻と娘まで巻き込んでアクションが再び炸裂。漫画が要所要所に挟み込まれて、面白さを盛り上げます。どうしたらもっと面白くなるかを貪欲に追求したというチェ・ウォンソプ監督、その過酷な要求に応えて振り幅の大きな役を演じたクォン・サンウ、個性豊かなキャストを演じた助演の方々もエライ!
一つ疑問、新しい人生を始めたジュンですが、戸籍やIDはどうしたのでしょう?問題なく一般市民になるには何か裏技があったのか?(白)
チェ・ウォンソプ監督はクォン・サンウがジュンを演じることを想定しながら脚本を書き上げたそう。クォン・サンウも監督の期待に見事に応え、冴えないウェブ漫画家だと思っていたら、いきなり見事なアクションを決めてくるのでびっくり! そして、妻役のファンウ・スルヘもワイヤー・アクションと接近戦にチャレンジ。ここぞとばかりに華麗なアクションを披露しました。
しかし、物語の展開はアクション中心のシリアスタッチではなく、クォン・サンウが得意とするコメディ調。ファンウ・スルヘのアクションのオチには大笑い。大韓民国国家情報院の鬼教官も、敵役のテロリストもどこかドジでおかしなところを見せて笑いを誘います。
一方で反抗期真っ盛りに見えた娘の主人公に対する健気な思いには思わずほろりさせられました。この娘を演じたリー・ジウウォンが見せるラップシーンは軽やかでかわいい~
ところで、本作に挟み込まれるコミックはWEBTOON(ウェブトゥーン)と呼ばれる韓国から始まったコミック形式です。スマートフォンから縦スクロールで読むことを想定して描かれ、オールカラーという特徴があります。コミックは左からページをめくっていくものと思っていましたが、スマートフォンで読む習慣が広がっている今、韓国だけでなく、台湾・タイなどのアジアをはじめ、北米など国際的に人気が高まっているそうです。(堀)
2020年/韓国/カラー/ビスタ/110分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
https://hitman-movie.jp/
★2020年9月25日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国にて順次公開。
クライマーズ(原題:攀登者 The Climbers)
監督:ダニエル・リー
プロデューサー:ツイ・ハーク
脚本:ア・ライ
出演:ウー・ジン (ファン・ウージョウ)、チャン・ツィイー (シェイ・イン)、チャン・イー (ソンリン)、ジン・ボーラン/ジャッキー・チェン(リー)、フー・ゴー(ヤン)、チュイニーツーレン (ヘイムーダン)
1960年、ファン・ウージョウ率いるたった3人の中国登山隊は、世界で初めて北稜からのチョモランマ登頂に成功する。しかし、登攀中雪崩に襲われ、隊員のソンリンを助けたときにカメラを落としてしまう。証拠写真がないために、その偉業は国際的に認められることはなかった…。
15年後、ボイラー室で働いていたファンに朗報が入る。チョモランマ登頂を目指す第二次登山隊が結成されるというのだ。ファンは、長い交際の婚約者である気象学者インや、カメラマンのリー、測量士のヤンたち新しい仲間とともに、愛と名誉をかけチョモランマ登頂に再び挑む!
史実をもとに作られた、世界最高峰の山に命がけで挑む男たちの映画。香港の監督のダニエル・リーがメガホンを取っています。2019年の建国70周年記念の「中国の誇り3部作」のうちの1本。このほかに『フライト・キャプテン高度1万メートル、奇跡の実話』(原題:中國機長)、チェン・カイコー(陳凱歌)ら7人の有名監督が過去70年間の歴史的瞬間を切り取った『我和我的祖国』があります。
ファン役のウー・ジンは若いときから得意のカンフーを生かしたアクション映画でよく見かけましたが、年を重ねるにつれ人間としての内面を表現する役も多くなってきました。この作品でも不遇をかこちながら、鍛錬を忘れずここぞというときに力を発揮できるファンとして頼もしいです。
それにしても恋人へのぎこちない様子に歯噛みしたくなります。大事な言葉をさっさと言えない間の悪さ、中国ではこういう不器用な人こそ男らしいのでしょうか?ずっと待っていたシェイが可哀想じゃないですか。ま、それがドラマを盛り上げるのですが。
友情出演のジャッキー・チェンがチラシに大きく出ていますが、なかなか出てきません。眼を皿のようにして探さなくてもわかりやすく登場します。
登山映画は数々観てきましたが、何がそんなにも彼らを駆り立てるのかいまだわかりません。わからないから観続けているのかもしれない、と思うこのごろ。美しい雪山の撮影や伸長著しいVFXもお楽しみください。(白)
中国がチョモランマ登頂に国家の威信をかけていたことがひしひしと伝わってきます。エベレストがいつの頃からかチョモランマと言われるようになりましたが、エベレストはあくまでもイギリスがつけた名前で、中国にとってはチョモランマ。登頂はそれを広める意味合いもあったのだと知りました。
当時の中国がチョモランマ登頂に国家の威信をかけたのなら、今の中国はこの作品を撮ることに国家の威信をかけたのだと思われるほど、出演俳優はビッグネームですし、撮影にハリウッドを凌ぐ迫力のVFX が駆使されています。主演は中国とアジアの歴代興行収入で 1 位を記録した『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』のウー・ジンですし、相手役は昨年の第 32 回東京国際映画祭で審査委員長を務め、今年 1 月に滞在先の米国で第2子となる男児を出産したチャン・ツィイー。とても41歳には見えない、清純な三つ編みのお下げ姿に驚きました。2人のラブロマンスも涙なしには見られません。また、カメラより優先して助けられたことを恥じるソンリンが助けてくれたファンへ確執を抱く気持ちがわかるだけに、ソンリンの心の雪解けシーンには胸が熱くなりました。
しかし、最近またエベレストという表現も増えてきた気がする。8月に中国の測量隊8人がチョモランマに登頂して15年ぶりに測量したのは、エベレストという言葉を覆すためだったのかしら?(堀)
2019年/中国/カラー/シネスコ/122分
配給:AMGエンタテインメント
(C)2019 SHANGHAI FILM GROUP. ALL RIGHTS RESERVED.
https://climbers-movie.com/
★2020年9月25日(金)ロードショー
リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ(原題:LIAM GALLAGHER: AS IT WAS)
監督:ギャビン・フィッツジェラルド、チャーリー・ライトニング
出演:リアム・ギャラガー、ボーンヘッド、ノエル・ギャラガー、ポール・ギャラガー、クリス・マーティンほか
1990年代から2000年代にかけて英国で絶大なる人気を誇ったロックバンド「オアシス」のボーカリスト、リアム・ギャラガーの栄光と挫折、そして復活への道程を追ったドキュメンタリー映画。数々のヒット曲を連発し、90年代を代表するアーティストとして世界に名を馳せるリアムは、破天荒かつスキャンダラスな行動でメディアからたびたびバッシングを受けていた。オアシスのギタリストである兄ノエルとは諍いが絶えず、ノエルの脱退でバンドはついに解散。さらに離婚訴訟が勃発し、ノエル抜きで新たに結成したバンドも軌道に乗らず自然消滅してしまう。失意の中で出会った新たなパートナーに励まされたリアムは自身の音楽人生を賭け、ソロデビューアルバムを発表する。
印象的なシーンがある。サンフランシスコの金門橋を早朝にジョギングするリアムがインタビューに応える場面だ。朝日に染まる水平線を指さして、「この歳になると最高だ」と嬉しそうに語るリアム。「若いころは調子こいてイケイケでいくもんだが、今は朝方の金門橋を見るために酒の誘いも断る」と打ち明ける。荒んだ暮らしで身を持ち崩したリアムならではの発言ではある。英国の音楽ファンなら先刻ご承知ということなのか、本作でリアムの暗黒時代については控えめに言及し、どん底から這い上がる過程が本人と関係者のインタビューで丹念に描かれる。復活の物語に厚みを持たせているのは、やはりリアム個人のキャラクターの魅力であろう。リアムと言えばジョン・レノンを彷彿とさせる独特の声が想起されるが、長年にわたり声質を維持するためのエピソードが興味深い。どん底のリアムを救ったパートナー兼マネージャーの女性は「若いころから少しも変わらないから愛される」とリアムを形容する。傲慢さと繊細さが同居し、率直な物言いは時に誤解もされるが、歳を重ねることで家族や自らの健康など大切にすべきものを明確に意識し、行動できるようになった。リアムのファンにティーンエージャーが多いというのも、頷けるところだ。今年で48歳になる稀代のロックンローラーの吹っ切れた清々しささえ感じる音楽ドキュメンタリーである。(堀)
2019年/イギリス/カラー/スコープサイズ/英語/89分
配給:ポニーキャニオン
© 2019 WARNER MUSIC UK LIMITED
公式サイト:https://asitwas.jp/
★2020年9月25日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー