2020年09月05日

新しい街 ヴィル・ヌーヴ ( 原題:Ville Neuve )

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監督: フェリックス・デュフール=ラペリエール
出演:ロベール・ラロンド、ジョアンヌ=マリー・トランブレ、テオドール・ペルラン

アルコール依存症の詩人ジョゼフは、離婚した元妻のエマを思い出の地である「ヴィル・ヌーヴ」に呼び出す。やり直せるかに見えた二人だったが、独立運動の盛り上がりと同時に、彼らの関係に新たな波乱が生じる。

まるで、”アニメーション版タルコフスキー”とでも称したいほど詩情溢れる作品だ。タルコフスキーの特徴である”水”の象徴性は、海辺の小屋や波、白い魚、水溜まりといった対象に呼応する。
作中でも、題名こそ示されないが、タルコフスキー作『アンドレイ・ルブリョフ』の挿話が引用される。
「鐘を造る映画を見た。 息子は父から鐘造りの秘伝は教わっていなかった…」
「鐘」は『アンドレイ・ルブリョフ』の中でも最も印象的な挿話だったため、タルコフスキーへのオマージュの感を強くした。

全編が墨絵・手描きで作られた本作は、米国の作家レイモンド・カーヴァーの「シェフの家」にインスパイアされた。原作は意外な程の短編である。元妻に未練を持つ中年男の物語を自由に翻案し、カナダ・ケベック州の独立運動を織り込んだ。
政治的な主題と愛情を交錯させつつ、国且つ人々の独立していく様を情感豊かに綴った脚本は出色といえる。

大人のためのアニメーションだが、決して政治色が強くも難解でもない。抽象的な表現こそ目立つものの、安易なカタルシスを求めがちなアニメーションが跋扈する中、一石を投じる作品だ。
監督はこれが初長編アニメとなるフェリックス・デュフール=ラペリエール。”映像詩人”の系譜を受け継ぐ監督がカナダに現れたことが素直に嬉しい。(幸)


配給・宣伝:ニューディアー
配給協力:植田さやか
2018年製作/76分/カナダ
後援:カナダ大使館
協力:ケベック州政府在日事務所
©L'unité centrale
公式サイト:http:// newdeer.net/ville
★9月12日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
posted by yukie at 20:47| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

窮鼠はチーズの夢を見る

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監督:行定勲
原作:水城せとな
脚本:堀泉杏
音楽:半野喜弘
出演:大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子

優柔不断な性格から不倫ばかりしてきた大伴恭一(大倉忠義)の前に、ある日、妻から派遣された浮気調査員が現れる。その調査員は、卒業以来会っていなかった大学の後輩・今ヶ瀬渉(成田凌)だった。彼は、体と引き換えに不倫を隠すという取り引きを恭一に提案する。恭一は拒否するが、今ヶ瀬の真っすぐな気持ちに触れるうちに、二人の時間に少しずつ心地よさを感じるようになる。

今年はBL邦画の豊作といえるだろう。行定勲演出は、同性愛を主題とした既存の映画と異なり、彼らが立ち向かう社会との葛藤には関心がないようだ。ひたすら、人が人を愛すること、個人の内心を描こうとする話法に好感が持てた。

異性、同性を問わず、恋愛映画にはキャスティングが重要な要素を占める。慕う者と惚れられ役。演技巧者は断然、慕う側の成田凌だろう。猫のように靱やかな動き、弱みを握った交換条件に身体を求める強かさ、切ない気持ちの表現といった人物造形ぶりは鮮やかだ。
しかし、観ているうちに大倉忠義扮する先輩のほうが難役なのではないかと気付いた。主体性を持たず流されるままに相手を変えて行く。掴みようがなく何を考えているのか分からない男が、徐々に心身を曝け出す変容の過程は見ものだ。
ジャニーズでこれほどの濃厚な濡れ場を披露したのは初めてではないか。”らしくない”健闘に驚いた。
監督・演者とも覚悟が要ったことだろう。前半の流されていただけの大倉忠義が、後半のベッドシーンでは体位まで真逆になっているのだから…。

シンプルな家具が置かれた部屋に射す光線、一糸まとわぬ姿でリビングを歩く2人、スナック菓子を食べながらTVを見るシーンなど、何気ない日常を映し出すシネスコ映像が美しい。
近年の行定監督作では笑える場面が多く、軽快さが魅力となっている。
大倉忠義を巡る4人の女優の中では、さとうほなみが圧倒的な存在感を放つ好演を見せた。(幸)


括りとしてはBL作品になる。しかし、行定監督は本作で同性愛に留まらず、人を愛するが故の苦しみとその先にある希望を描こうとし、その思いに大倉忠義と成田凌が応えた。 

素行調査をする探偵の今ヶ瀬と対象者の大伴。思わぬ再会をし、大伴の不倫をもみ消す代償にキスを求めた今ヶ瀬は舌を入れて大伴を驚かす。

誰かを好きになったことがある人はわかるだろう。最初は姿が見られるだけでいいと願い、それが叶うと声が聞きたくなる。相手と話がしたい、触れたい、そして。。。想いはどんどんその先を求めてしまう。相手との距離が縮まれば縮まるほど、願いが叶わないときの苦しみが強くなる。そんなジレンマを成田凌が見事に体現した。この役は成田凌以外に考えられないほどの適役に思えるが、脚本を読んだ成田凌は大伴でも今ケ瀨でもいいから参加したいと名乗り出たという。そんな話を聴くと成田凌の大伴が見たかった気がするが、贅沢は言うまい。

成田凌の完璧な今ヶ瀬は予想通りであるが、本作のもう一つの見どころは大伴の変化。学生時代の元カノに流れ侍と言われていたように流されるままに女性と付き合ってしまう大伴が本気で人を愛するとはどういうことかを知り、変わっていく。一歩間違えるとクズになってしまう役どころを大倉忠義が好感を持たせて演じた。
ラストは原作とは違うそうだが、今ではなく未来に幸せを予感させ、後味がすこぶるいい!(堀)


上の二人が言いつくしているので、私はファントム・フィルムの公式youtubeのお知らせを。「大倉忠義&成田凌スペシャル対談映像」(前編・後編)がアップされています。黒のスーツの大倉さん、白のスーツの成田さんが質問に10秒で答える即答テストが楽しいです。(白)

2020年製作/130分/R15+/日本/カラー/シネマスコープ/DCP5.1ch
配給:ファントム・フィルム
(C) 水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
公式サイト:http://www.phantom-film.com/kyuso/
★9月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開
posted by yukie at 16:50| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

れいわ一揆

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監督・撮影:原一男
製作・撮影:島野千尋
出演:安冨歩、山本太郎ほか

東京大学東洋文化研究所新世代アジア研究部門の安冨歩教授は、最も自然に生きられるとして、女性の服を着る女性装を実践する。彼は、山本太郎が代表を務める「れいわ新選組」から参議院選挙に出馬することを決意し、「子供を守ろう」をスローガンに全国各地を回る。

昭和・平成を通じてドキュメンタリー映画を撮り続けてきた原一男監督。『ゆきゆきて、神軍』『全身小説家』、『さようならCP』、『極私的エロス 恋歌1974』、『ニッポン国VS泉南石綿村』などなど、一連の作品は常に時代を反映し、ドキュメンタリー史上に残る傑作・問題作といえる。今回、原監督の作品群に加わる新作は、”選挙エンターテインメント”とでも呼ぶべき異色作。2019年の参議院選挙で注目を集めた「れいわ新選組」の候補者たちを追ったドキュメントである。これまでにも過激な登場人物を扱ってきた原監督だが、今回は、とりわけ強烈な個性を放つ候補者たちが10人いる。
何がどう動くか分からない。手練れの原監督もさぞ苦労したのでは…と思いきや、「楽しかった!」そうなのだ。何年もかけてじっくりと対象を追うのが原監督の撮影スタイルというイメージがあるが、今回は短期決戦。

予期せぬ出来事の連続に、『ゆきゆきて、神軍』よろしく場内は爆笑の連続!拍手喝采が起こるほど沸き立った映画は久しぶりである。もちろん原監督は笑わせようと創作しているのではない。候補者たちの発言、行動、周囲の化学反応が笑いの渦を巻き起こしていく。

本作は、れいわ新選組のPR 映画ではない。それでも、これほどまでに面白く興味深い対象を目の辺りにしたら、編集にも工夫を凝らしたくなるのは分かる。安倍政権批判のイメージを分かりやすくイラスト動画にしてみたり…。切れ味の良いテンポや、見るもの全てを逃すまいとするカメラ。スタッフワークの奮闘ぶりが、”エンタメ性”を際立たせている。どこがどう面白いのかは観てのお楽しみ。
今年、必見のドキュメンタリーをお見逃しなく!(幸)


実を言うと、私が「れいわ新選組」の名前を知ったのは選挙開票当日。それまで全然知らなかったし、「れいわ新選組」という名前を聞いて「なんだろうこの党名」という思いがあった。なぜなら、私は「天皇制は差別の元凶」と考え、「天皇制の象徴としての元号」を50年以上、ほとんど使ってこなかった。勤めた会社でも西暦を使っていたので、使うのはお役所の書類などだった。「新撰組」を好きでなかったので、よけい「れいわ新選組」という名前は「胡散臭い」と思った。
それに、この主人公である東京大学東洋文化研究所の安冨歩教授は「もっとも自然に生きる事ができる」スタイルとして、女性服を着る「女性装」を実践しているという。一方、私はこの「女性装」の代表例となる、「スカート、ハイヒール、化粧」は、女性の活動範囲を狭めたり、女らしさの押し付けとして、社会に出た時から避ける生活をしてきた。なので「女性装が最も自然に生きられる」なんて考え方には全然同調できなかったので、この映画を観始めた時にはどうなるだろうと思ったけど、「れいわ新選組」の他の候補が出てからはがぜん面白くなった。ユニークな候補者たち。いろいろな社会背景、問題意識をもった候補者たちの主張が魅力的だった。その中でも心動かされたのはシングルマザーの渡辺てる子さん。彼女の訴えていたシングルマザーの苦しい家庭を訴える演説がだんだんエスカレートしていく姿、演説がうまくなっていく様に感動した。
私は長い間の選挙経験から、選挙そのものに期待していなかったし、信用もしていなかった。私が投票した人で当選した人がほとんどいなかったから。それでも選挙にはだいたい行っていた。でも自分が投票した人が当選しないというむなしさは選挙に魅力を感じないと思わせるには十分。きっとそういう人がたくさんいるから投票率も高くないのだろう。一人か二人しか当選者がいないという、この小選挙区の選挙制度は少数意見が反映されないのでおかしいと思う。いつのまにかそういう選挙制度になっていた。
でもこの参議院選挙で「れいわ新選組」から二人の当選者(舩後靖彦と木村英子)が出た。しかも当選した二人は重度の障害者だった。それには少し希望を持った。私は60歳でリタイアするまで障害者が作った会社(障害者、高齢者のためのリハビリ機器を扱う会社)に勤めていたし、今は私自身が障害者になってしまったので。
胡散臭い思いで観始めた『れいわ一揆』だったけど、やっぱり原監督が作るドキュメンタリーは面白い(暁)。


こちらでも『れいわ一揆』を紹介しています。
シネマジャーナルHP 映画祭報告
東京国際映画祭(2019)レポート 『れいわ一揆』紹介
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/472866751.html

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『れいわ一揆』スタッフ&出演者たち(撮影 宮崎暁美)
第32回東京国際映画祭(2019)オープニングのレッドカーペットで


2019年製作/248分/G/日本/DCP / 16:9
配給:風狂映画舎
(C) 風狂映画舎
公式サイト:http://docudocu.jp/reiwa/index.php
★20209月11日(金)よりアップリンク渋谷ほか全国公開★ 





posted by yukie at 12:53| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

カウントダウン(原題:Countdown)

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監督・脚本:ジャスティン・デック
撮影:ジャスティン・デク
出演:エリザベス・ライル(クイン)、ジョーダン・キャロウェイ(マット)、

パーティで大騒ぎの最中、自分の余命がわかるアプリの話題で盛り上がった。何人もが冗談だからとダウンロードしていて、コートニーも誘われる。なんと余命3時間と表示されて、気分が悪くなり先に帰宅する。恋人のエヴァンが車で送るというが、すでに酒を飲んでいた。断って一人歩いて帰宅するが、エヴァンの車は事故を起こし、アプリが通知した時間にコートニーは自宅で死亡した。入院先でエヴァンも謎の死をとげる。看護師のクインはエヴァンの死に疑問を持ちながら、アプリをダウンロード、彼女の余命は3日だった。

スマホがなければ夜も日も明けない人が多い昨今、この映画はグサグサと刺さるでしょう。誰がどんな目的で作ったかわからないものを、面白そうとダウンロードしたばかりに不安にさいなまれ、挙句余命どおりに次々と命を落とす人たち。悪意のあるものかも、と少しは疑ったらどうなんでしょ?
余命の話で、2015年の『神様メール』を思い出しました。ベルギーのジャコ・ヴァン・ドルマル監督のオリジナルで、横暴な神様に怒った神の一人娘エアが世界中の人々に死期を知らせるメールを送信したというストーリーです。パニックに陥る人々をちゃんとケアするエアが可愛い。
こちらの『カウントダウン』はそうじゃなくてじわじわ怖いので、心してご覧ください。あなたは余命を知りたいですか?小心者の私は、いつその日が来るかわからないままがいいです。毎日大切に生きましょう。(白)


アプリをダウンロードしたらすぐに死ぬわけではありません。余命がわかるだけです。
ただ、メインの登場人物たちの余命があと数日だったということで、話は急展開していきます。
彼らが“運命は自分で切り開く”とばかりに抵抗すると、アプリは「利用規約違反」と表示。本来、死ぬはずだった原因以外で死んでしまう人も。主人公の看護師は職業的知識を駆使して、自分の運命に抗うのですが、かなりドキリとするので覚悟あれ!
しかし、余命が長く表示されるとみんな安心しているのですが、それって若いからだよなぁ。私なんて、今、もし、余命が100歳なんて表示されたら、それはそれで恐怖かも!家族に迷惑を掛けない程度の標準的な寿命であってほしい。(堀)


2018年/アメリカ/カラー/90分
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
(C)2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://countdown-movie.jp/
★2020年9月11日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 10:57| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

妖怪人間ベラ

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監督:英勉
原作:ADKエモーションズ
脚本:保坂大輔
撮影:川島周
音楽:主題歌はロックバンド「BREAKERZ」の「BARABARA」
出演:森崎ウィン(新田康介)、emma(ベラ)、堀田茜(新田歩美)、吉田奏佑(新田陽太)、六角精児(霧島拓)、清水尋也(篠田弘樹)、吉田凜音(綾瀬莉子)、桜田ひより(牧野沙織)

広告代理店に勤める新田は、かつての人気アニメ「妖怪人間ベム」の特集企画のため調査中、運よく幻の最終回のビデオテープを発見した。放送できなかったという衝撃の結末を知って狂いそうになる。そのころ百合丘ベラという物静かな女子が転校してきた。ミステリアスな彼女が来て以来、それまでのあやうい均衡が崩れ、不穏な空気が蔓延していく。一方、新田は妖怪人間に固執し、家族や会社で不可解な行動をとるようになった。

1968年に放送されたテレビアニメ「妖怪人間ベム」は、人間でも動物でもない“妖怪人間”であるベム、ベラ、ベロの3人が、いつの日か人間になりたいと望み、世の中にはびこる悪と対決する姿を描いたホラーアクション。これをリアルタイムで見て、主題歌も覚えています。いやはや。今回の映画の中ではベラが感情をこめずにクールに歌って、それが周りから浮いてemmaさんなかなか妖怪っぽいです。
ベラが人間界に登場したことで、新田を始め、人間たちが狂わされていくのがちょっと解せません。悪と戦う存在だったはずなのに、方向が違うような。そのわけが後で明らかになっていきます。壊れていく新田を演じる森崎ウィンさん、「自分と全く違うキャラをやってみたい、アクションも」と以前言っていたのがこれで叶いましたね。初の妻子持ち役で、パパぶりも見られます。
女子高校生主体の前日譚が、Amazonプライムほかで10話一挙配信されています。
1話、2話のみ無料限定公開中。こちら
(白)


2019年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:DLE
(C)2020映画「妖怪人間ベラ」製作委員会
https://bela-movie.com/
★2020年9月11日(金)池袋HUMAX シネマズ、渋谷HUMAXシネマズほか全国順次公開

【森崎ウィン コメント】
長い間多くの方に愛された原作を、少し違う目線で覗いている今作。
歴史ある作品だからこそのプレッシャーはありました。人間の本性と向き合い、心の中に潜む妖怪を存分に出し切ったつもりです。是非、劇場で、少しクスッとしながら覗いて頂ければと思います。

【emma コメント】
<妖怪人間>という長い歴史ある作品の中で、今回この作品に自分がベラとして関われたことを大変嬉しく思っています。ホラーという怖さの中で、その枠に捉われず、人間模様や葛藤、闇が描かれており、時折少し笑える部分もあったり・・・。ジェットコースターのような急展開に、鑑賞後はきっと今までみなさまが想像していた妖怪人間を良い意味で裏切る形になるかと思います。そして、最後には<妖怪とは何か、人間とは何か>の答えが見つけられるのではないかと思います。この作品をみなさまに観てもらえる日をとても楽しみにしています。

【英勉監督 コメント】
『人間になんてなりたくない』というコンセプトで作って見たら、ぐるぐるで、目がバチバチして、グワーってくる体感チックな映画になりました。キモ楽しいです。笑うところも。
posted by shiraishi at 09:17| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

マイ・バッハ 不屈のピアニスト(原題:Joao, o Maestro)

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監督:脚本:マウロ・リマ
プロデューサー:ブルーノ・レザビシャス
撮影:パウロ・バイネル
出演:アレクサンドロ・ネロ(ジョアン成年)、ロドリゴ・パンドルフ(ジョアン青年)、ダヴィ・カンポロンゴ(ジョアン幼少)、カコ・シオークレフ(ピアノ教師)、フェルナンダ・ノーブル(最初の妻)、アリーン・モラエス(妻)

幼い頃からピアノが得意だったジョアンは、瞬く間にとその才能を伸ばし13歳でプロとなった。20歳でカーネギーホールでの演奏デビューを飾っり“20世紀最も偉大なバッハの奏者”として世界的に活躍するまでになる。
一流の演奏家として世界を飛び回っていたジョアンだったが、不慮の事故により右手の3本の指に障害を抱えてしまう。ピアニストとして生命線である指が動かせなくなった彼はリハビリに励み、再びピアニストして活動できるまでになる。ついに復帰を果たし自身の代名詞ともいえるバッハの全ピアノ曲収録という偉業に挑戦をしていたところ、さらなる不幸が襲いかかった。

ブラジルのピアニスト、ジョアン・カルロス・マルティンスの伝記映画。子ども時代、青年時代、成年時代と3人の俳優がジョアンを演じています。ピアノ演奏の場面も多く、どのシーンも本人が演奏しているように見えます。プレスには言及されていませんが、動きは本人のものでしょう。得意な楽器が何もない私など、どれを見てもははーっと感服するばかり。
最初の事故で指が動かなくなっても決して諦めず、リハビリに励んだジョアンですが、さらに何度もの試練がやってきます。たった一つでさえ、乗り越えられず屈服してしまいそうなのに。
重なる不幸にめげず、片手で、さらには握りこぶしで、と道を開いていくジョアンの姿が素晴らしい!誰もができることではありません。が、ちょっとのことで愚痴っちゃいられないと背筋がシャキン!!と伸びますよ。この偉業の一方なかなかのプレイボーイだった一面も描いていて、人間臭いところもあるのねとちょっと安心します。(白)


クリント・イーストウッドも映画化を考えたという。若くして世界的な活躍をしていたピアニストが2度の不幸に見舞われたにもかかわらず、その苦難を乗り越えて、音楽の道を切り開いていく。確かにクリント・イーストウッドが興味を示しそうな内容だ。プロデューサーであるブルーノ・レザビシャスはジョアン・カルロス・マルティンスが指揮を務めるコンサート会場で「この物語はブラジル人こそが映画化すべきだ」と直談判し、映像化にこぎつけた。
話を暗く、重いものにしたくなかったからだろうか。ものすごい苦労があったはずなのだが、いつもするりと乗り越えてしまう。またジョアンがいつの間にか結婚をしているなど、パーソナルな部分に説明不足を感じた。それはジョアン本人から音楽家としての功績などにフィーチャーしてほしいというリクエストがあって、脚本の方向性を修正したからのようだ。クリント・イーストウッドが作ったら、もっと人間ジョアン・カルロス・マルティンスが深く描かれたのかもしれない。
しかし、音楽家としての功績にスポットを当てたので、ジョアンがピアノを弾くシーンが多い。しかも、それはジョアン・カルロス・マルティンス本人が弾いたものを使っている。心地よいバッハのメロディーに酔いしれる2時間となった。(堀)


2017年/ブラジル/カラー/117分
配給:イオンエンターテイメント
http://my-bach.jp/
★2020年9月11日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 08:56| Comment(0) | ブラジル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

チィファの手紙(原題:Last Letter)

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原作・脚本・監督:岩井俊二
プロデュース:ピーター・チャン
撮影:神戸千木
音楽:岩井俊二、ikire
出演:ジョウ・シュン(チィファ)、チン・ハン(イン・チャン)、ドゥー・ジアン(ジョウ・ウェンタオ)、チャン・ツイフォン(チィファ、サーラン)、ダン・アンシー(チィナン、ムームー)、フー・ゴー(ジャン・チャオ)

チィファの姉、チィナンが死んだ。彼女宛に届いた中学の同窓会に出かけて、そのことを伝えようとしたチィファだったが、姉に間違えられた上、スピーチまでするはめになってしまった。同窓会には、チィファが憧れていたイン・チャンも来ていた。途中で帰ったチィファをチャンが追いかけ、呼びとめる。チィファは姉のふりを続け連絡先を交換するが、チャンが送ったメッセージをチィファの夫ウェンタオが目にして激昂したあげくスマホは壊されてしまう。チィファは、チャンに住所を明かさないまま、チィナンとして一方通行の手紙を送る。それは思いがけないできごとを引き寄せた……。

今年1月に公開された岩井俊二監督の『ラスト・レター』のもう一つの”ラスト・レター”。中国版リメイクではなく、ほんとはこちらが先に作られました。
中国を舞台に二つの時代を描き分けるため、日本とは違う様々な文化・習慣をリサーチしたそうです。それをぴったりのキャストが演じ分けています。チィナンとチィファの少女時代と現代の娘役を同じ俳優が演じるのも、日本版と同じ。中国の一人っ子政策や、犬を飼うにも制限があったこともきちんと反映されています。
岩井俊二監督の『Love Letter』などロマンチックな作品は中国でも人気が高いそうです。その知名度に加えて岩井監督旧知の香港のピーター・チャン監督がプロデューサーとして加わったことで、制作がたいへんスムーズにいったのだとか。ジョウ・シュン、チン・ハンといった有名俳優を主演に迎え、観客の心に訴える中国映画が完成しました。(白)


好きになった人の想い人は姉。好きだからこそ思いを叶えてあげたい。しかし、自分の気持ちも抑え切れない。しかも、大人になって再会しても彼の想いは変わっていなかった。この設定は切なすぎる。岩井俊二監督の世界観が静かに炸裂していて、どっぷりと物語の中に引き込まれます。
2020年1月には『ラスト・レター』というタイトルで、同じ主題の日本版も公開されました。好みの問題ですが、私は『チィファの手紙』が好き。日本版では福山雅治、中山美穂、豊川悦司がくたびれた中年を演じていて、私の中でカッコいいはずの彼らのそんな姿がどうしても受け入れられなかったのです。(堀)


2018年/中国/カラー/シネスコ/113分
配給:クロックワークス
(C)2018 BEIJING J.Q. SPRING PICTURES COMPANY LIMITED WE PICTURES LIMITED ROCKWELL EYES INC. ZHEJIANG DONGYANG XIAOYUZHOU MOVIE & MEDIA CO., LTD ALL Rights reserved.
https://last-letter-c.com/
★2020年9月11日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 08:52| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

喜劇 愛妻物語

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監督・原作・脚本:足立紳
撮影:猪本雅三
音楽:海田庄吾
出演:濱田岳(豪太)、水川あさみ(チカ)、新津ちせ(アキ)、夏帆(由美)

売れない脚本家の豪太は年収50万円。ほぼ妻のチカの稼ぎで食べている。結婚して10年、可愛い一人娘のアキもいるが、いつまでたっても鳴かず飛ばずの豪太にチカの怒りは収まらない。歯に衣着せぬアキの罵倒にときたま抵抗するものの、10倍になって返ってくる。セックスレス3か月に及び、何とかご機嫌をとりたい豪太はうどん作りの取材と称して四国への旅を提案する。

『百円の恋』脚本の足立紳が2016年に発表した小説が原作。稼ぎがなくても適当なセフレを作り、お金があれば風俗へも行く豪太に、まったくもう!と思ってしまうのは私だけではないでしょう。男性諸氏は剛太にどのくらい共感できますか?
とことん情けない豪太と鬼嫁チカの夫婦を濱田岳&水川あさみさんが演じて本当にうまい~!どちらにも呆れつつ、親近感を持たせてくれます。どれだけ口汚く罵ろうとも、見放していない、憎んでいるのではないことは素直で可愛い娘と、チカがはいている赤パンツでわかります。赤パンツは巣鴨の地蔵通り商店街の人気商品で「元気と幸福」を願うものです。仲良く出かけたときに買った赤パンツを今も愛用しているチカ。豪太くんよ、少しは気持ちを察してやって。

昨年第32回東京国際映画祭のコンペティション部門で最優秀脚本賞を受賞。
足立監督がきっと意識されただろう、喜劇とつかない『愛妻物語』(1951)は新藤兼人監督(脚本も)が自らの下積み時代、夫を支え続けて結核で死去した愛妻との日々を描いています。70年前はこんな風でした。(白)


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第32回東京国際映画祭(2019) 最優秀脚本賞受賞
『喜劇 愛妻物語』足立神監督


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第32回東京国際映画祭(2019)オープニングレッドカーペット
左から 足立神監督、濱田岳さん、水川あさみさん


まったくしょうもない夫、豪太を浜田岳はひょうひょうと演じている(笑)。夫を罵倒しながらも支えている妻チカ。男の身勝手さにイライラしながら観たけど、浜田岳が演じるとコミカルに感じる。笑える悲壮感というようなイメージ。そんな豪太だけど、チカはなんとかなるのではという希望を持っている。それは「赤パンツ」をはいていることでわかる。そのへんがうまい表現と思った。それが報われるとこまでは描かれていないけど、こんな関係性の中での生活はさてどうなるのでしょう。

去年、友人がスタッフとして参加している第10回周南[絆]映画祭(2019)に初めて行ったけど、『百円の恋』はこの映画祭での「第1回松田優作賞」グランプリに選ばれた脚本ということを知った。思わぬ発見だった。きっと足立紳監督の運はこれで開かれていったのではないかと思った。そして徳山の方たちの映画愛ははんぱない。今年はどんな作品が上映されるかなと思ったのだけど、残念ながら今年の周南[絆]映画祭は今のところ延期になっている(暁)。


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第10回周南[絆]映画祭(2019)で見かけた、第7回周南[絆]映画祭(2014)のポスター。足立神監督のサインも。(写真撮影3点 宮崎暁美)

愛妻というのは愛している妻だと思っていたが、この作品では愛してくれる妻らしい。主人公は働きもせず、子守もせず、セフレと遊ぶ。とことんクズな男だが、濱田岳が演じる、まぁいいかと思わせてしまう。いやいやダメでしょ。
しかし、女性の幸せって何なんでしょう?
夏帆が演じる妻の友人も、大久保佳代子が演じる主人公のセフレも幸せそうに見えない。夫がこんなにクズな主人公でも、水川あさみが演じる妻がいちばん幸せそうに見える。
自力で生きていける力があり、愛する夫と娘がいる。人生を自分で選べることこそ最強なのかもしれない。
そして、足立紳監督は愛妻の本当の意味がわかったから、売れっ子脚本家になれたに違いない!(堀)


豪太が以前に企画を出した「四国にいる高速でうどんを打つ女子高生」が映画化されることになり、脚本を書くために四国に取材に行きたいけれど、取材費は出そうにない。運転免許がない豪太は、妻チカに運転係として同行を頼み、娘も連れて親子3人で四国旅行にとう物語。まったくもう~な夫に呆れるばかり。
公式サイトの監督インタビューを読んでみたら、どうやら足立監督自身の経験が投影されていると知りました。小説にする前に、さぬき映画祭のプロットコンペに応募しようと思って書いたものが発端なのだそうです。香川県を舞台にしたものなら何でもいいというコンペ。香川県に行ったことがなくて、家族3人で行ったもののネタが見つからず、奥さんから「このクソど貧乏のさなか、せっかくお金かけて行ったんだから絶対に応募しろ」と言われたのだそう。足立監督の奥様にお会いしたくなりました♪ (咲)



2019年製作/115分/PG12/日本
配給:バンダイナムコアーツ、キューテック
http://kigeki-aisai.jp/
(C)2020「喜劇 愛妻物語」製作委員会
★2020年9月11日(金)より全国ロードショー
posted by shiraishi at 08:32| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする