2020年09月30日

ある画家の数奇な運命(原題:WERK OHNE AUTOR/英題:NEVER LOOK AWAY)

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監督・脚本・製作:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
撮影: キャレブ・デシャネル
音楽: マックス・リヒター
出演:トム・シリング、セバスチャン・コッホ、 パウラ・ベーア、オリヴァー・マスッチ、ザスキア・ローゼンダール

ナチ政権下のドイツ。少年クルトは叔母エリザベト(ザスキア・ローゼンダール)の影響から、芸術に親しむ日々を送っていた。ところが、精神のバランスを崩した叔母は強制入院の果て、安楽死政策によって命を奪われる。終戦後、クルト(トム・シリング)は東ドイツの美術学校に進学し、そこで出会ったエリー(パウラ・ベーア)と恋におちる。元ナチ高官の彼女の父親(セバスチャン・コッホ)こそが叔母を死へと追い込んだ張本人なのだが、誰もその残酷な運命に気づかぬまま二人は結婚する。
やがて、東のアート界に疑問を抱いたクルトは、ベルリンの壁が築かれる直前に、エリーと西ドイツへと逃亡し、創作に没頭する。美術学校の教授(オリヴァー・マスッチ)から作品を全否定され、もがき苦しみながらも、魂に刻む叔母の言葉「真実はすべて美しい」を信じ続けるクルトだったが―。

モデルとなった現代美術界の巨匠、ゲルハルト・リヒターについて
1932年、ドイツ、ドレスデン(旧東ドイツ)生まれ。ドレスデン芸術大学で絵画を学んだ後、61年に西ドイツに移住し、デュッセルドルフ芸術大学に入学。世界中の主要な美術館が彼の作品をコレクションするなど、名実ともに世界最高峰の評価を受け、最も影響力のある現代アーティストであり、日本では05年に金沢21世紀美術館と川村記念美術館で回顧展を開催。16年には瀬戸内海の豊島に、リヒター作品を恒久展示する日本初の施設がオープンした。(作品の公式サイトより転載)


ナチスがユダヤ人迫害をしていたことは周知の事実ですが、行き過ぎた選民意識が同胞にも刃を向けていたことを本作で初めて知りました。それによってもたらされた悲劇は主人公に大きな影響を与えますが、それを乗り越えた先に新たな希望があったことを描いた作品です。
幼かったころの主人公は叔母から芸術の奥深さとそれを享受できるのは美術館やコンサートホールだけではなく、日々の生活の中でも感じられることを教えられます。運行が終わり、停車場に横並びになったバスの運転手に叔母が頼んで一斉にクラクションを鳴らしてもらうシーンがあるのですが、クラクションが重奏的に鳴り響き、中央に立つ叔母が指揮をとって奏でられたオーケストラのように聴こえました。これはぜひ映画館で聴いてほしいシーンです。
またナチスがもたらした悪夢は戦後もドイツの人々に影を落としていました。主人公の父親はナチ党員ですが、それは家族のために安定した職を得るため。「ハイル、ヒットラー」というのが苦痛で、まるでタモリ倶楽部の空耳アワーのような言い換えで乗り切りました。(言い換えの字幕が見事!ぜひ作品を見て笑ってください。ドイツ語ではどんな意味の言葉で言い換えていたのか知りたい!)しかし、戦後は一転、ナチ党員だったことで苦労します。どちらの選択肢を選んでも困難が待っている点は主人公も同じ。それなりの地位を得た東ドイツに残るか、希望あふれるように思える西ドイツに逃げるか。どちらが正しいのではなく、選んだ道で一生懸命生きることが大事なのだと作品から教えられました。(堀)


189分の長尺が、終わってみればあっという間のクルトの数奇な物語。
いくつか心に残る場面がありました。
まだ小さな少年だったクルトが、大好きなドレスデンの町を去る時、両親と暮らしていた家のすぐ前の広場に並ぶ5台のボンネットバスに一斉にクラクションを鳴らして貰います。鼻ぺちゃバス(鼻ありのボンネットバスに対して!)に一斉にクラクションを鳴らして貰う映画のラストに呼応するエピソード。
西に逃れたクルトが通う美術学校の教授は、どんな時にも帽子を脱がないことで有名。その教授が、クルトの作品を観て、「これは君じゃない」と言い、帽子をとって深々とお辞儀して部屋を後にします。実は作品を観ながら、教授は戦争中に空軍に属していて、2度目の出撃で追撃され、遊牧民のタタール人に助けられた話をするのです。頭を見せたくない理由がわかるエピソード。その教授が頭のてっぺんを見せるのです。作品を全否定されたクルトが、その意図にハッと気づいたのもそれ故とじ~んとさせられました。
本作では叔母が統合失調症と診断され、次世代に病気が移らないようガス室で殺害されます。ユダヤ人迫害はよく知られていますが、ナチスはアーリア人の優秀さを保つために、ロマの人たちや、精神病患者、同性愛者、共産主義者なども抹殺の対象にしていました。そのような人たちが迫害を受けたことを描いた映画は数少なく、本作はそのことを記録した貴重な映画とも言えます。(咲)



2018年/ドイツ/ドイツ語/189分/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/日本語字幕:吉川美奈子/R-15 
配給:キノフィルムズ・木下グループ
©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG
公式サイト:https://www.neverlookaway-movie.jp/
★2020年10月2日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

posted by ほりきみき at 22:55| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ ( 原題 :The Last Black Man in San Francisco )

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監督・脚本:ジョー・タルボット
共同脚本:ロブ・リチャート
原案:ジョー・タルボット、ジミー・フェイルズ
音楽:エミール・モセリ
出演:ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メジャース、ロブ・モーガン、ダニー・グローヴァー

サンフランシスコ。祖父が建て、家族と暮らしていたことのある瀟洒(しょうしゃ)なヴィクトリアン様式の家に深い思い入れのあるジミー(ジミー・フェイルズ)は、観光名所となったその家を現在の家主が売りに出したことを知る。もう一度、そこに住むことをかなえようと駆けずり回る中、ジミーは家族や常に自分を支えてくれる親友モント(ジョナサン・メジャース)の存在のありがたみや大きさを噛み締めていく。やがて、財産を持たずとも守りたい大切なものが心の中にあるだけで人生は悪くないと思うようになる。

本作は、サンフランシスコの街、そこに建つ家、家具調度品、外壁の色、住む人々、友人、父、祖父らへの愛…、そして何より映画に対する愛、愛、愛…、万物への愛情に溢れた佳篇なのである。全編に横溢する好もしさは何処から来るのか?本名役で主演しているジミー・フェイルズと、これが初長編作となるジョー・タルボット 監督(脚本・原案も)は、サンフランシスコで生まれ育ったた幼なじみ同士。街を知り尽くした2人だけに、映し取る風景は第三者の観客の目から観ても優しく愛おしい。ただ、街への愛情が感傷やベタつきを伴わず、確かな技術に裏打ちされたものなのだ。
ハイスピードカメラ撮影による洗練された映像、スケボーが切り取って行くサンフランシスコ湾、ゴールデン・ゲート・ブリッジ、坂が続く街並み、路面電車、本作の鍵となるヴィクトリアン様式のレトロモダンな家。建物の意匠は逆光スモークのライティングで美しく照らし出される。プロダクション・デザイナーは舞台、CMの経験が豊富な女性だ。
品のいいオーケストレーションを含め、サンフランシスコに縁のあるジェファーソン・エアプレインやジョニ・ミッチェルなどの楽曲を使用した劇伴のセンスは抜群!音楽担当のエミール・モセリはこれが初の長編映画というから驚く。

舞台となるフィルモア地区は、戦前は日系人たちが住んでいたが、強制移住後は黒人たちが多く住むようになった。ジミーの祖父は、20世紀初め頃に建てられたヴィクトリアン・ハウスに住んだ”最初の黒人”という設定。IT長者や白人富裕層が占拠してしまい、黒人が追いやられている現代のサンフランシスコで、ジミーは”最後の黒人”となり得るのか?人種差別、格差といった単純な二分法では割り切れぬ現実が、ここにはある。(幸)


一つのスケボーに乗って、海辺の町を静かに行くジミーとモント。立ち止まって見上げるのは、かつて暮らしていた瀟洒な家。今は疎遠になってしまった家族との思い出が詰まった家だ。ある日、いつものようにこの家にたどり着いたら、荷物を運び出している。主が亡くなり、相続問題でもめているという。売りに出された家を買いたいと願うが、とても手が届かない。なんとかここに住みたいと願うジミーにモントはいつも寄り添っている。
風情あるサンフランシスコのベイエリアを舞台に、ジミーとモントの強い絆を描いた味わい深い映画。懐かしい「花のサンフランシスコ」の曲とともに、いつまでも余韻が残っている。
ちなみに撮影に使われたヴィクトリアン・ハウスのオーナーである元水化学者ジョン・テイラー氏(83歳)は、1889年に建てられた家を1960年後半に一目惚れし、数年後に友人と一緒に購入。友人の金策で一度売ってしまうも、1970年に、また家が売り出されていて買い戻したそうだ。同様の風情ある家が並ぶ地区だが、いつしか老朽化で建て替わってしまうのではないかと思うと、映像に残した意味は大きい。(咲)


主人公ジミーは祖父が建て、家族と暮らした思い出の宿るヴィクトリアン様式の美しい家に対する思いが強く、現在の居住者の留守を狙い、勝手にメンテナンスに勤しんでいます。あの家はジミーにとって幸せの象徴なのでしょうね。できれば買い取りたいと思っているけれど、彼には手が届かない。成功して、お金をためて買い戻す。そんなことさえ夢見ることさえできない格差が歴然と存在することを見せつけられます。
しかし、ジミーにとって象徴は呪縛でもありました。本当に大切なものに気づいたとき、新たな一歩を踏み出すことができたのです。こだわり過ぎて見えなくなっているものはないか。この作品をきっかけに振り返ってみてはいかがでしょうか。(堀)


2019 年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/120 分/PG12
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/TC エンタテインメント
©2019 A24 DISTRIBUTION LLC.ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://phantom-film.com/lastblackman-movie/
★2020年10月9日(金)より、 新宿シネマカリテ、シネクイント他にて全国公開



posted by yukie at 20:21| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

望み

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監督:堤幸彦
原作:雫井脩介「望み」(角川文庫刊)
脚本:奥寺佐渡子 
音楽:山内達哉
出演:堤真一、石田ゆり子、岡田健史、清原果耶、加藤雅也、市毛良枝、松田翔太、竜雷太

一級建築士として活躍する石川一登(堤真一)は、誰もがうらやむような裕福な生活を送っていたが、高校生の息子が無断外泊したまま帰ってこなくなってしまう。その行方を捜すうちに、彼が同級生の殺人事件に関わっていたのではないかという疑いが浮上してくる。たとえ被害者であろうとも息子の無実を信じたい一登、犯人であっても生きていてほしいと願う妻の貴代美(石田ゆり子)。二人の思いが交錯する中、事態は思わぬ方向へと突き進んでいく。

息子は加害者なのか、被害者なのか?
「何れにしても、昨日までとは違う毎日が始まるのね…」
たとえ加害者側であっても生きていて欲しいと願う母。「お母さんには言えないけど」被害者であってと望む妹。父は息子の無実を信じたい。家族それぞれの”望み”が交錯する。
”何方に転んでも最悪な状態”ダブルバインドの中で、焦燥感と絶望に喘ぐ中、微かな望みを抱く家族の心理がヒリヒリと痛いほど伝わった。息もできない…映画とのフィジカルな共振が、観客に手渡されてゆく。

ところで、本作は法務省とタイアップしている。同省の標題には「再犯防止や少年の健全育成に関する取組み」といったタイアップ目的が並ぶ。そんな一般的用語が薄っぺらく感じられてしまうほど、ドラマは濃厚さと緊迫を孕みながら突き進む。
重い題材のせいか、数々のヒット作、話題作を生み出してきた堤監督にしては正攻法の演出だ。要所要所で句読点のように挟まれる夕映え、朝焼け、不穏な月などの空の景色が、まるで神の視座を得たかのように家族を見守る。そして”5番目の主役”ともいうべき「家」の存在が中心を成す。一級建築士である父が建てた理想の家。家族の写真が飾られ、幸せの象徴だった住処。誰もが居心地好く暮らせる筈だった父による設計が、皮肉にも家族に閉塞感を齎し、感情や軋みを増幅させる装置となってしまうのだ。
ラスト、家を映し出す長い空撮は、これからは何を望みとして生きて行くのか?そんな問いを突き付けるかのように家族を包み込んで行く…。(幸)


高校生の息子と連絡が取れない状況で高校生が殺された事件が起こる。現場から逃走したと思われる人物の影は2人。被害者は息子の友人と判明し、行方がつかめない仲間は息子を入れて3人。息子は現場から逃げた人影の1人なのか、まったく無関係なのか、それとも。。。
息子の無実をだけを信じる父親。犯人でもいいから生きていてほしいと願う母親。一流私立高校受験を控える妹。3人3様の葛藤が繰り広げられます。
息子が無関係でたまたま連絡が取れないとは考えられない状況下で息子の無実を信じるとは、息子も殺されているということ。「お前が犯人だと家族が困るんだ。死んでいてもいいから無実であってくれ」。親として、そんなことはとても口にはできません。しかし、一家の長として、妻と娘の幸せを守るためにはそれを願わざるを得ない。いえ、本心は家族のためではなく自分のためなのかもしれない。そんな心の奥に潜む気持ちまで表に引きずり出される主人公を見ていると、「で、あなたならどうする?」とこちらの内面まで問われている気がしてきます。
『決算!忠臣蔵』『一度死んでみた』とコミカルな作品が続いた堤真一が自分の弱さに直面する主人公を見事に体現しました。石田ゆり子、清原果耶もセリフの裏に隠された葛藤を表情や行動で表現しています。息子役は「MIU404」で新米の警部補・九重世人を演じたばかりの岡田健史。家族に言えない鬱積する思いを抱えた高校生を演じて、物語に切なさを加えていました。
重く辛いテーマですが、人として見ておきたい作品です。(堀)


2020年製作/108分/G/日本/カラー
配給:KADOKAWA
© 2020「望み」製作委員会
公式サイト:http: //nozomi-movie.jp
★2020年10月9日(金)より、全国公開
posted by yukie at 14:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月28日

浅田家!

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監督・脚本:中野量太
脚本:菅野友恵
原案:浅田政志「浅田家」「アルバムのチカラ」(赤々舎刊)
撮影:山崎裕典
美術:黒川通利
録音:久連石由文
照明:谷本幸治
出演:二宮和也
黒木 華 菅田将暉 風吹ジュン 平田 満
渡辺真起子 北村有起哉 野波麻帆
妻夫木聡

幼い頃から写真を撮ることが好きだった浅田家の次男・政志は高校卒業後、写真専門学校に進学。卒業制作の被写体に家族を選び、思い出のシーンを本人たちがコスプレして再現する写真を撮影し、学校長賞を受賞する。しかし、卒業しても就職はせず、地元でパチスロ三昧の3年間を送っていた。
あるとき、父との会話をきっかけに家族それぞれが“なりたかった職業”、“やってみたかったこと”をテーマにコスプレし、その姿を撮影したユニークな家族写真を撮るようになり、写真界の芥川賞・木村伊兵衛写真賞を受賞。日本各地の家族から依頼を受けて家族写真を撮るようになって、写真家としてようやく軌道に乗り始めたとき、東日本大震災が起きた。
かつて撮影した家族の安否を確かめるために向かった被災地で、政志が目にしたのは、家族や家を失った人々の姿だった。そこで、津波で泥だらけになった写真を一枚一枚洗って、家族の元に返すボランティア活動に励む若者と出会う。彼と共に写真洗浄を続け、そこで写真を見つけうれしそうに帰る人々の笑顔に触れることで、次第に“写真の持つチカラ”を信じられるようになっていく。

浅田政志さんの写真集「浅田家」と、書籍「アルバムのチカラ」の2冊を原案に、中野量太監督が写真家・浅田政志の物語を紡ぎ、二宮和也が魅力的な人物として息吹を吹き込みました。共演する妻夫木聡が演じるのは政志の兄。弟の突拍子もない頼みごとに振り回されながらも、家族のために奔走する姿を好演しています。
見どころは幼馴染みの若奈が政志に愛の告白するシーン。政志の前では強気で攻めつつ、本心では不安でいっぱいだった若奈を黒木華がいじらしいくらいにかわいらしく演じていました。
注目してほしいのは二宮和也との共演を熱望していた菅田将暉。『アルキメデスの大戦』『帝一の國』など、これまでエッジの効いた役どころが多かったのですが、そのオーラを封印し、本作では写真洗浄のボランティアをする若者・小野を演じています。小野が悲しみを乗り越えようと立ち上がり、それを政志が労わるシーンは涙なしでは見られません。(堀)


2020年/127分/G/日本
配給:東宝
©2020「浅田家!」製作委員会
公式サイト:https://asadake.jp/
★2020年10月2日(金)全国東宝系にてロードショー
posted by ほりきみき at 11:38| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月27日

台湾巨匠傑作選2020

台湾巨匠傑作選2020
『バナナパラダイス』は劇場初公開
9月19日(土)~11月13日(金)新宿K's cinemaで開催
公式HP
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4月開催が延期となっていた「台湾巨匠傑作選2020」が、新宿K's cinemaで9月19日(土)~11月13日(金)に開催されます。
今年5回目を迎え、台湾ニューシネマの原点から最近作まで台湾映画の魅力を伝える企画、今回は、本邦劇場初公開となる台湾映画界の王童(ワン・トン)監督の『バナナパラダイス』の他、 楊德昌(エドワード・ヤン)監督、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督、陳玉勲(チェン・ユーシュン)監督、林書宇(トム・リン)監督、魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督の作品他、人気の台湾青春映画、アニメ、ドキュメンタリーからホラー、サスペンスなど33作品を連続上映。
また、台湾文化センターで「台湾映画の"いま"」という台湾映画上映&トークイベントで定期的に未公開作を紹介している江口洋子さん(台湾映画コーディネーター)セレクトによる「江口洋子スペシャルセレクト」も6作品が上映されます。このイベントは毎回、申し込み開始後、即満杯になってしまうほど人気のイベントです。今年はオンラインで開催されています。ここで見逃した方はぜひこの上映会で観てください。

○台湾巨匠傑作選2020開催記念特別公開
ワン・トン監督『バナナパラダイス』デジタルリマスター版

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○江口洋子スペシャルセレクト
『停車』(チョン・モンホン監督)
『盜命師』(リー・チーユエン監督)
 リー・チーユエン監督&ジエン・リーフェンプロデューサーインタビュー記事はこちら
『古代ロボットの秘密』(ホアン・チャンホア監督)
 トークイベントレポートはこちら
『血観音』(ヤン・ヤーチェ監督)
『天龍一座がゆく』(ワン・ユーリン監督)
『河豚』(リー・チーユエン監督)

○エドワード・ヤン監督作品
『台北ストーリー』
『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』
『ヤンヤン 夏の想い出』

○ツァイ・ミンリャン監督作品
『青春神話』
『愛情萬歳』
『河』
『郊遊 ピクニック』

○チェン・ユーシュン監督作品
『熱帯魚』
 チェン・ユーシュン監督インタビュー記事はこちら
『ラブゴーゴー』
 チェン・ユーシュン監督インタビュー記事はこちら
『祝宴!シェフ』
 チェン・ユーシュン監督インタビュー記事はこちら

○トム・リン監督作品
『星空』
『百日告別』

○ウェイ・ダーション監督
 『52Hzのラヴソング』
 ウェイ・ダーション監督インタビュー記事はこちら

○台湾ニューシネマとは何か
『台湾新電影(ニューシネマ)時代」』(シエ・チンリン監督)

○アイデンティを求めて
『スーパーシチズン 超級大国民』(ワン・レン監督)
『幸福路のチー』(ソン・シンイン監督)
『父の初七日』(ワン・ユーリン監督、エッセイ・リウ監督)
『天空からの招待状』(チー・ポーリン監督)
『KANO 1931海の向こうの甲子園』(マー・ジーシアン監督)
 ウェイ・ダーションプロデューサー&マー・ジーシアン監督記者会見記事はこちら

○現代台北模様
『藍色夏恋』(イー・ツーイェン監督)
『台北暮色』(ホアン・シー監督)
『あなたを、想う。』(シルビア・チャン監督)
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 2015年東京フィルメックス『念念』(『あなたを、想う。』)
上映時のシルヴィア・チャン監督

『若葉のころ』(ジョウ・グータイ監督)

○ミステリー&ホラー
『共犯』(チャン・ロンジー監督)
『怪怪怪怪物!』(ギデンズ・コー監督)
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第30回東京国際映画祭2017 『怪怪怪怪物!』上映時
ギデンズ・コー(監督/脚本)、ユージェニー・リウ(女優)

『目撃者 闇の中の瞳』(チェン・ウェイハオ監督)
posted by akemi at 20:52| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

生きちゃった

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監督・脚本・制作:石井裕也
撮影:加藤哲宏
音楽:河野丈洋
主題歌:「夏の花」(作詞・作曲:河野丈洋/歌唱:仲野太賀、若葉竜也)
出演:仲野太賀(山田厚久)、大島優子(山田奈津美)、パク・ジョンボム(山田透)、毎熊克哉(洋介)、若葉竜也(武田)、毎熊克哉(洋介)、太田結乃(山田鈴)

高校時代から仲のよい山田厚久と奈津美、そして武田。厚久と奈津美は結婚し、娘の鈴は5歳になった。以前と変わりなく過ごしていると思っていたある日、早く帰宅した厚久は奈津美と他の男の情事を観てしまう。厚久は呆然とするばかりで、奈津美に怒ることも悲しむこともできずにいた。奈津美はそんな厚久に、これからのことを提案する。

上海国際映画祭のプロジェクト「原点に帰り、至上の愛を描く」に沿って作られた1本。3日間で書き上げたというオリジナル脚本の本気と熱は、そのまま俳優たちに宿ったのかと思うほど。みな剥き出しでぶつかり合った作品として立ち上がっています。厚久と武田は同じ女性を愛した親友同士。黄金の3人の構図ですが、厚久に不満を募らせる奈津美は、他の男の元へ走ってしまいます。これまで見たこともない大島さんがいい! 涙も鼻水も垂れ流しの太賀くんと竜也くんがいい!
大事なことほど声にならないよね厚久くん。言いにくいものなのよ、武田くん。
厚久の兄を演じたのは韓国で俳優、監督を務めるパク・ジョンボム、『ムサン日記~白い犬』『生きる』が東京FILMEXで上映されてゲストで登壇したのを覚えています。本作ではほとんど台詞がないにも関わらず存在感があり、この兄のパートと弟の厚久のパートの2本立てを観たような気になりました。
本作は『All the Things We Never Said』という英語タイトルで、中国及び香港、台湾、マカオなど、世界各国の劇場で公開予定。(白)


2020年/日本/カラー/91分/R-15
配給:配給:フィルムランド
(C)B2B, A LOVE SUPREME & COPYRIGHT @HEAVEN PICTURES All Rights Reserved
http://ikichatta.com
★2020年10月3日(土)ユーロスペースにて公開
posted by shiraishi at 15:33| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

IMAGINE イマジン(原題:Imagine)

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監督・編集・出演:ジョン・レノン オノ・ヨーコ

ジョン・レノンが1971年にリリースしたロック史を代表する名盤「イマジン」。本作はその収録曲を映画的にコラージュした映像集で、ジョンとヨーコが監督、制作した。アルバム収録曲それぞれに映像を作るという、初のビデオ・アルバムとしても有名な作品である。
今回の公開/再リリースにあたり、映像はオリジナル作品の16mmネガ・フィルムから手作業でフレームごとにクリーニングし復元。
そしてサウンドは3度のグラミー賞を受賞し、ビートルズのカタログ作品のリマスタリングで手腕をふるったポール・ヒックスが7.1/5.1サラウンドとドルビーアトモスにリミックスした。

ジョン・レノン(1940年10月9日 – 1980年12月8日)。自宅前で凶弾に倒れた彼はまだ40歳でした。世界中をかけめぐったこのニュースをビートルズファンは決して忘れません。そんな運命を知る由もなかった1972年のジョンとヨーコ夫妻のビデオ・アルバムが日本の劇場で初公開されます。
約半世紀前の仲睦まじい二人のようすに、思わず頬が緩みます。ジョンにはヨーコさんの感性が響いてかけがえのないミューズとなったのでしょう。充実して幸せだった日々を今こうして観られて良かったです…。
表題曲の「イマジン」はじめ十数曲のジョンの歌が流れ、ときに高く可愛い声のヨーコさんの歌も入ります。劇場上映版のみドルビーアトモスサウンド&15分の特典映像を加えた特別バージョン!劇場の設備によって違いますので、あらかじめお確かめください。前夜祭先行上映もあります。(白)


冒頭、霧の中を行くジョンとヨーコの後ろ姿。森の中に佇む白亜の大邸宅。部屋の片隅にあるグランドピアノで弾き語りするジョン。いくつもある窓を開け終えたヨーコが傍らに座ります。二人が暮らしたティッテンハースト・パークには湖もあって、ボートで渡り、畔の部屋でチェスをする二人。スカートを少し持ち上げ挑発的に脚を見せるヨーコ。ジョンはヨーコが差し出すチェスの真っ白な駒を口に。強烈な個性のヨーコと出会って、心が放たれたようなジョン。
10代の頃、ビートルズの新曲が出るのを楽しみにしながら育った私にとって、ビートルズの解散はとてもショックでした。ジョン・レノンと日本女性オノ・ヨーコとの結婚にも驚かされました。解散の一因にオノ・ヨーコの存在があったとの話も聞こえてきましたが、まだそんなことには関心もない私でした。
「イマジン」の曲が発表された時、ビートルズは解散したけれどビートルズらしい楽曲は健在とほっとした記憶があります。本作を観て、「イマジン」のアルバムを生み出したのが、ジョンとヨーコの深い愛だったのだと感じました。
ジョン・レノンあってのオノ・ヨーコだと思っていたけれど、オノ・ヨーコあってのジョン・レノンだということに思いが至りました。
ヨーコさんの様々なホットパンツ姿にクラクラさせられましたが、あの個性を丸ごと受け入れたジョン・レノン、凄いなと思いました。(咲)


2018年(オリジナル1972年)/イギリス/カラー/86分
配給:EASTWORLD ENTERTAINMENT、カルチャヴィル
(C)2018 YOKO ONO LENNON All Rights Reserved
https://www.universal-music.co.jp/johnlennon-imaginefilm/
★2020年10月9日(金)より生誕80周年記念上映
TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開


★★全国拡大公開が決まりました!★★
https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=imagine




posted by shiraishi at 14:54| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン( 英題:HOUSE OF CARDIN )

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監督・プロデューサー:P・デヴィッド・エバソール、トッド・ヒューズ
プロデューサー:コリ・コッポラ
撮影監督:ローレント・キング
音楽:ジェームズ・ピーター・モファット
出演:ピエール・カルダン、ジャン=ポール・ゴルチエ、シャロン・ストーン、ナオミ・キャンベル、森英恵、高田賢三、桂由美

ピエール・カルダンはファシズムが台頭する祖国イタリアを出て、フランスに移り住む。パリでファッションの道に進んだ彼は、オートクチュール(高級仕立服)から抜け出て、業界で初めてプレタポルテ(既製服)に本格参入する。アバンギャルドなスタイルを得意とするカルダンは、宇宙時代の感覚を表現したコスモコール・ルックで一躍有名になる。

”カルダンはバカンスをとらない”という話を聞いたことがある。バカンスのために働く印象あるの仏国に於いて、本当にそんな人がいるのか?と俄かには信じ難かった。が、本作を観て都市伝説ではないことが明白に。とにかくバイタリティ溢れる現役の98歳なのだ。インタビューを受ける様は赫灼としており、記憶力もしっかり!
多国籍・グループ企業化しつつあるファッション業界で、揺るぎない単独のブランド帝国を築き上げている。仏国に根を下ろしたパリジャンと思っていたカルダンが、イタリアの貧しい農家に生まれた出自は意外だった。ファシズムが台頭する祖国から仏国へ逃れる際、列車上の遠ざかる風景を昨日のことのように鮮明に語る。移民はパリでゼロからスタートしなければならなかった。バカンスをとらない働き詰めの習慣はこの時に培われたのかもしれない。

第二次世界大戦終結戦の1945年、23歳のカルダンは当時の人気メゾンで『美女と野獣』の衣装を依頼にきたジャン・コクトー監督と出会う。
「あの頃のアート界は狭くてね。直ぐに色々な芸術家と知り合えた。コクトー、ピカソ、ジャン・マレー…。みんな僕と寝たがったものだよ(笑)」
若きカルダンの映像を見ると、モテモテの美男子だったことは想像に難くない。こうした逸話からも、カルダンはゲイだと思い込んでいたため、ジャンヌ・モローとの5年間の恋物語は、美男美女のツーショットが映るに連れ、ロマンチックな気分にさせてくれた。2人が出会った頃、カルダンには公私に渡る男性パートナーがいたが、モローの熱烈アプローチで破局したそう。情熱的な容姿は役の上だけではなかったのだ。
『天使の入江』、『黄色いロールス・ロイス』、『ビバ!マリア』など立て続けにモローの衣装を手掛けたカルダン。一連の作品の中で幼心にも強烈な思い出があるのは、フランソワ・トリュフォー監督作『黒衣の花嫁』だ。婚約者を殺された花嫁が5人の男たちを次々に殺していく復讐劇。登場する度にプリーツやリボンなどメリハリある凝ったディテールの衣装を着こなすモローに見惚れたものである。

ファッションだけでなく、芸術文化全般を大衆化したカルダン。情熱を注いだ劇場運営では、名優ジェラール・ドパルデューを見出していた。また、松本弘子ら、いち早く白人以外のモデルを起用。当時のスーパーモデルとして最先端モードを着こなしていた松本弘子の映像が眩しい。逸話を紹介し出すと止まらなくなる本作。カルダンの「カラフルな人生」を丸わかりできるドキュメンタリーだ。(幸)


2019年製作/101分/G/アメリカ・フランス合作/ビスタサイズ/5.1ch
配給:アルバトロス・フィルム
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
提供:ニューセレクト
(C) House of Cardin - The Ebersole Hughes Company
公式サイト:https://colorful-cardin.com/
★2020年10月2日(金)より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
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2020年09月26日

オン・ザ・ロック ( 英題:ON THE ROCKS )

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監督・脚本:ソフィア・コッポラ
衣装デザイン:ステイシー・バタット
音楽:フェニックス
撮影:フィリップ・ル・スール
美術:アン・ロス
出演:ビル・マーレイ、ラシダ・ジョーンズ、マーロン・ウェイアンズ

ニューヨークで暮らしているローラ(ラシダ・ジョーンズ)は、夫のディーン(マーロン・ウェイアンズ)や子供たちと穏やかな日々を送っていたが、夫との関係に疑問を感じてもいた。ある時からディーンの残業が増えたことに疑いを持った彼女はプレイボーイとして名をはせた父親のフェリックス(ビル・マーレイ)に相談する。事の真相を突き止めるため、フェリックスはローラに、ディーンの尾行を提案する。

「他の男を好きになるなよ、結婚するまではな」
「はい、パパ」
冒頭、 声のみで表現される父と娘のやり取りが本作の全てを象徴する。小津安二郎の世界とは真逆な(当然だけど)父娘の物語が、ソフィア・コッポラでなければ描けない色調、間合い、ユーモア、生活感といった道具立てを贅沢に用いたNYセレブ譚だ。

ゴージャスな室内プールへ花嫁衣装のまま飛び込むローラ。が、次の瞬間には、2人の子どもを学校へ慌ただしく送り、髪は無造作に引っ詰め、ボーダーシャツを着た専業主婦になっている。映画が時間芸術である旨を知るソフィアならではの大胆な省略とテンポの良さが心地好い。
軽快な劇伴が、NYのアパートメントに暮らす一家の日常を彩る。あるきっかけから夫の浮気を疑ったローラが、離婚した両親に相談すると正反対の反応を示す父母。
「おばあちゃんの家に集まるから、貴女もいらっしゃいよ」
母に誘われて訪れる父方の祖母宅がまたゴージャスだ。手入れの行き届いた芝生、広い庭、高価な食器、宝石を自然に纏う祖母…。父が裕福な家で育ったことが一目瞭然である。ここでもローラはボーダーシャツにボサボサ髪。「身なりにに気をつけたら?」と促す祖母に、娘をフォローする母。
出張の多い夫を「あの魅力的な秘書と一緒?心配じゃない?」 「NYの女はみんな魅力的よ」と返すローラだが、内心は穏やかではない。

家事と育児で息つく暇もないローラがベッドで倒れこむように寝ていると、お掃除ロボットが家具にガンガンぶつかり稼動中。現代人の生活を表す上手い表現だ。父役のビル・マーレイが登場すると、映画は一気に勢い付く。ユーモアセンス抜群だが、女に色目を使わずにいられない。運転手付きのロールスロイスに乗り、高級会員制クラブに出入りする国際的画商。こんな役が似合う男優はそういるものではない。
飄々としたマーレイをNYの街角に立たせただけで、軽妙洒脱な佇まいが活きてくるのは不思議だ。宵闇に紛れ、娘婿の浮気を見張る場面では、
「隠れろ!ここは戦場だ!」「私にくっ付かないでよ、気持ち悪い!」
クレイジーで何事も規格外の父に付いていけないローラだが、何故か父を憎めない。自伝ではないにしてもソフィアの体験が活かされている?
扮するラシダ・ジョーンズは、監督や脚本、プロデューサーもこなす才女。今まではどちらかというと目立たず、クインシー・ジョーンズの美人娘という印象だったけれど、本作では活き活きと演じ、マーレイに伍して魅力的だ。

いつものソフィア作品同様、細部のディテールに手抜かりなく、NYが揺曳する光彩のような質感を伴って輝く。(幸)


子育てって大変。特に小学校に上がるまではとにかく手がかかる。夫ファーストの生活が子どもファーストに一変してしまう。本作の主人公ローズはまさにその真っ只中。「急いで」とか「早く」とかばかり言っている。ママ友との会話も少々鬱陶しく感じることも。そんな子育て世代あるあるの話が満載で、最中の人も通り過ぎた人も共感すること必至。ただ、ソフィア・コッポラには見えているのではないだろうか。あと数年でその忙しさからも解放されることが。子どもがティーンエージャーになったら、こちらが構いたくても鬱陶しがられるだけの存在になってしまうのだ。でも、それは通り過ぎた者だけが分かっていること。「とにかく今はがんばれ!」とエールを送りたくなる。
しかし、男性は子どもが生まれても感じるものが違うらしい。ローズの父は典型的な“かまってちゃん”。妻が子どもファーストになったことが寂しくて、よその女性に優しさを求めた。そして、それを正当化する動物的根拠を娘に諭す。自分の時間を持つよう勧めるローズの夫は理解があるように見えてくる。恐らくローズの夫も「俺って理解ある夫」と自己満足に浸っているだろう。しかし、口で言うだけ。仕事に追われて、家事や育児を負担する気配さえ見せない。本当に理解ある夫ならもっと子育てに関わりを持ち、自分が子どもを世話して妻の時間を確保してあげるのではないか。父の世代とは違う、夫世代の問題点もしっかり描き込まれた本作は女性監督ならではいえるだろう。(堀)


学校に子供を送っていくシーンで、教室の入り口まで親が送っていくんだとびっくり。学校の入り口まで子供を送っていくシーンは、いろいろな国の映画で見てきたけど、ニューヨークでは教室の入り口まで送っていくの?と驚いた。そんなにも治安が悪いのか過保護なのか。はたまた、親がいかに子供を大事にしているかの競い合い? 今までのアメリカ映画の中でも見たことがないような気がする。それともセレブの子弟が通う学校ではそれが普通? そして、ちょっとおしゃれだけど、今までのニューヨークを描いた作品には出てこなかったような場所がたくさん出てくる。ニューヨークに行ったことはないけど、子供連れの母親がいくような公園とかもめずらしかった。アメリカでも、子育て中の母子の姿は日本と同じような感じなのだろうかと思いながら見た。
そのほかのシーンでも、ニューヨークのセレブ生活をしてきたソフィア・コッポラ監督自身の体験が出ている?
それにしても出張が多いという夫の仕事はどういうものだったんだろうかと思う。IT企業勤め?、それとも接待があるような貿易関係? 
突っ張っているようでいて、夫や子供に振り回されている主人公。さらに父親にも振り回されてしまう。父は、ほんとは娘と久しぶりに一緒にすごしたいからこんな行動をしていたんだろうな(暁)。


何より夫ディーンが、事業に成功した黒人なのが小気味よい。明らかに自分とは肌の色が違う二人の女の子を学校に送り届けるローラ。
警官が黒人を射殺する事件が相次ぎ、「Black Lives Matter」と、黒人差別への抗議運動がこれほどまでに高まることを、ソフィア・コッポラがこの映画を製作している時には、思いもよらなかったかもしれない。だが、意図的な設定だったことは間違いない。
そして、撮影後にニューヨークの街がコロナでロックダウンされたことも想定外だろう。
「この映画は私からニューヨークへのラブレターにしたかったの」とソフィア・コッポラが語るように、ニューヨークの街の魅力があふれていて、あちこちの有名なお店でのシーンも満載。コロナ禍で閉店を余儀なくされた店もあるのではないか。
それにしても、父親とあんなにも明け透けな会話ができるものなのかと驚いた。日本人なら母親や同性の友人とも話さないようなプライベートな話。ソフィア・コッポラはビル・マーレイが演じたフィリックスのようなタイプの男性ばかりいる環境で育ったのだそうだ。きわどい話も日常会話で飛び交っていたのかも。なんとかして娘にかまいたい父親の姿が可笑しかった。もう娘は夫のものなのだから、娘離れしなくっちゃ。(咲)



2020年製作/97分/アメリカ/カラー/ビスタサイズ/5.1chリンク
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
(C) 2020 SCIC Intl
公式サイト :http://ontherocks-movie.com/
★2020年10月2日(金)より、全国公開




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実りゆく

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監督・脚本:八木順一朗
撮影:伊丸剛創
主題歌:GLIM SPANKY
出演:竹内一希(実)、田中要次(父)、田中永真(エーマ)、橋本小雪(朱美)、小野真弓(母)、鉢嶺杏奈、島田秀平、三浦貴大、山本學、友情出演:爆笑問題(太田光、田中裕二)

長野のりんご農家の跡取り息子・実は、父親と2人で農園を切り盛りしながら週末になると東京へ出向き、お笑いライブに出演していた。そんな彼には、母親が他界してから笑わなくなった父親を笑顔にしたいという強烈な思いがあった。夢を実らせるべく、人生をかけたステージに臨む実だったが……。

八木順一朗監督は芸能事務所タイタンのマネージャーさん。予告編大賞で主演男優賞と堤幸彦賞を受賞したことから、長編映画の話が実現しました。その経緯やご苦労は公式HPの監督コラムに詳しく語られています。製作費やキャスティングの算段はもちろんですが、りんごが実るのに合わせて撮影を進めた、というのになるほどねぇ。人の追加撮影はできても、りんごは都合に合わせてくれません。農家の方々が日々丹精した真っ赤なりんごが青空に映えていい絵になっています。
父と子の葛藤だけではなく、地方の伝統や産業を守ろうとする人、夢を追う人、諦める人たちが画面の中で生きていて、これからも笑顔でいられますように、と応援したくなりました。現役の漫才コンビまんじゅう大帝国の竹内一希さん田中永真さんが映画ではピン芸人としてライバル役、普段仲良しなので喧嘩するのが難しかったようです(笑)。日本エレキテル連合の橋本小雪さん、中野聡子さんも普通メイクで出演しています。私は女優さんだと思って最初気づきませんでした。和服姿の中野さんもお見逃しなく。
猛暑のある日、八木監督と、まんじゅう大帝国、日本エレキテル連合の3組のインタビューをさせていただきました。リンクは下です。ご覧くださいませ。(白)


信州は、私の第2の故郷。年に数回行くしリンゴの花が咲く5月にも実る季節にも何度も出かけている。そしてこのコロナ禍で3月頃には旅に行くこともできなくなり、もう半年。そんな頃にこの『実りゆく』という作品を知った。しかも舞台は私の大好きな信州。下伊那郡松川町というのは通ったことしかないけど、これはどうしても観たいと思った。だから、冒頭、快晴の空に真っ赤なリンゴが映し出された時「ああ、いいなあ」とため息をついた。
そして内容はといえばリンゴ農家の後継ぎがお笑いを目指す話だった。実際に松川町でリンゴ農家を営みながら週末芸人をやっている?という松尾アトム前派出所という芸人さんがモデルだというのを映画を観たあとに知った。私はお笑いや漫才、芸人について全然知らないので、ここにそういう人たちが出ていても爆笑問題しか知らなかったんだけど、監督自身がタイタンという私でも知っている事務所のマネージャーだという。
でも八木監督は高校卒業までに13本もの映画を撮っていたというし、日大芸術学部映画学科監督コース出身という経歴を知ってなるほどと思った。初めて作った長編とのことだったけどそつなく作られているし、監督自身の思い、主人公の思い、タイタンがあっての出演者たち。八木監督は大まわりをして映画製作にたどりついたかもしれないけど、これまでの経験があったからこそできた映画だと思った。お笑いにしてもリンゴ作りにしても、映画製作にしても、何かを作りあげるには、熟成期間が必要なんですね。信州弁も久しぶりに聞けたし、リンゴ農家の様子も観ることができたし、なんとか秋には信州に行ってリンゴを買いたいと思ったんだけど行けるかな(暁)。


2020年/日本/カラー/87分
配給:配給:彩プロ
(C)「実りゆく」製作委員会
https://minoriyuku-movie.jp/
★2020年10月2日(金)長野先行上映
★2020年10月9日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開


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八木順一朗監督インタビューこちら
竹内一希さん・田中永真さん(まんじゅう大帝国)インタビューはこちら
橋本小雪さん、中野聡子さん(日本エレキテル連合)インタビューはこちら

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2020年09月25日

フェアウェル ( 英題:THE FAREWELL)

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監督・脚本・製作:ルル・ワン
撮影:アンナ・フランケスカ・ソラーノ
美術:ヨン・オク・リー
編集:マイケル・テイラー、マット・フリードマン
衣装:アテナ・ワン
音楽:アレックス・ウェストン
出演:チョウ・シュウチン、オークワフィナ、エクス・マヨ、ルー・ホン、リン・ホン、水原碧衣

末期がんを患う祖母のため、祖国を離れて海外で暮らしていた親戚一同が、従兄弟の結婚式を理由に中国に戻ってくる。ニューヨークで育ったビリー(オークワフィナ)は、祖母が残りの人生を悔いなく過ごせるように病状を本人に明かした方がいいと主張するが、両親を含めたほかの親族たちは、中国では助からない病気は本人に告げない伝統があると反対する。

全米わずか4館から口コミで評判が広がり、大ヒットしたのも納得の佳篇。これが2作目の中国系米国人ルル・ワン監督は、自身の体験を基にした下地であるにもかかわらず、感傷を排し、洗練された話法を展開。小気味好いテンポ・リズムは見事としか言いようのないウェルメイドなドラマに仕上げた。
主演のオークワフィナは、『オーシャンズ8』や『クレイジー・リッチ!』でも個性的な味を発揮していたが、本作では終始素顔の美肌を晒し、飾らず活き活きと自然体な演技で観客の心を掴む。アジア系女優として初めてゴールデン・グローブ賞女優賞を受賞したのも嬉しい限りだ。

NYに住むビリー(オークワフィナ)は、中国の祖母が大好き。オークワフィナのハスキーで少し圧のある声と、電話口から聞こえる祖母の慈愛溢れる優しげな語り口の掛け合いが面白い。おばあちゃん子であるビリーの性格を知る家族は、”感情を隠せない”彼女に内緒で「ある計画」を企て、祖国へ帰郷する算段を立てる。
米国に移り住んでも、ビリーを含む親族は中国からの生活習慣を変えようとしない。それを熟知するワン監督は、親族が一同に会する円卓を巧みにカメラに収め、異国の文化摩擦(日本もちょっぴり出てくる)をコメディ調に綴る。米国で評価されたのも、こうした家族単位の生活習慣を細部のディテールを疎かにせず柔らかく描いた点だろう。結果として、本作は民族を超えた普遍的人間像を獲得することになった。

祖国へ一時帰国した家族は相変わらず円卓を囲む。円卓越しに祖母を上目遣いで見上げるビリーの表情が真に迫っているため、周囲は”秘密”がバレないかと気が気ではない。一方の祖母は元気そのもの。「ハァー!ハァー!」と声を出しながら歩く健康法をビリーに伝授するさまは、ビリーと祖母の呼吸が一体となったような深度に達した名場面だ。
自分探しを続けるビリーが祖母や親族と過ごす中で少しずつ開放されて行くくだりは、繊細な演出を得意とするワン監督の真骨頂だろう。
すったもんだの末に、最後は大きなカタルシスと爆笑のオチが待っている。観終わったら、ビリー世代はおばあちゃんに、祖母なら孫に会いたくなるに違いない心温まる映画だ。(幸)


誰しもがいつしか迎える死。それがいつになるかわからない。
お葬式には誰も呼ばなくていいと、常々妹にお願いしている。友人が駆けつけてくれたとしても、私自身がその人と久しぶりのおしゃべりを楽しむことができるわけじゃない。なので、この映画のように嘘でもいいから、人生の最期に親しかった人たちとのひと時を作るのは大賛成だ。
それにしても、オークワフィナの風貌は、西洋人が漫画に描く典型的な中国女性のよう! 実際にいるんだ~!と感嘆♪ (咲)


自分がもし末期ガンだったとしたら、今は告知をしてほしいと思うけれど、実際にその立場になったらどうなんだろう? この作品を見ていて、そのことがずっと頭の隅に引っかかっていた。作品では“余命ははっきりと伝えるべき”と考える西欧人、“最後まで知らせずに”と考える東洋人と分かりやすく大別され、NY育ちのビリーは中国人だけれど西欧人の発想とカテゴライズされていた。しかし、ビリーも祖母と接するうちに迷いが生じる。その辺りの心の機微をオークワフィナが繊細に演じていた。
オークワフィナを初めて見たのは『オーシャンズ8』だったが、あまり印象に残らず。続く『クレイジー・リッチ!』で個性的な顔立ちにほかのアジア系女優とは違うなと思い、『ジュマンジ ネクスト・レベル』の堂々とした姿に安心感を持った。そして、本作で彼女の演技力を改めて実感。今後の活躍に期待したい。(堀)


2019年製作/100分/G/アメリカ/カラー/5.1ch/シネマスコープ
配給:ショウゲート
(C) 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト: http://farewell-movie.com/
★2020年10月2日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開



posted by yukie at 23:46| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ミッドナイトスワン

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監督・脚本:内田英治
音楽:渋谷慶一郎
出演:草彅剛、服部樹咲(新人)、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華 、佐藤江梨子、 平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛 聖

新宿のショーパブ<スイートピー>では、メイクしステージ衣装に身を包み働くトランスジェンダーの凪沙(草彅剛)。洋子ママ(田口トモロヲ)が白鳥に扮した凪沙、瑞貴、キャンディ、アキナをステージに呼び込むと4人は舞台の上で白鳥の湖を踊り出す。
広島のアパートでは、泥酔した母・早織(水川あさみ)が住人に「何みとんじゃ!ぶちまわすど!」と因縁をつけていた。なだめようとする一果(服部樹咲)を「何生意気言うとるんなあ!あんたのために働いとるんで!」と早織は激しく殴る。
心身の葛藤を抱え生きてきたある日、凪沙の元に、故郷の広島から親戚の娘・一果が預けられる。常に片隅に追いやられてきた凪沙と、孤独の中で生きてきた一果。理解しあえるはずもない二人が出会った時、かつてなかった感情が芽生え始める。

体の性と心の性。そのギャップに苦しみ、悲しみを絞り出すように嗚咽する。そんな主人公・凪沙にとって、トレンチコートは柔な同情から身を守る鎧。襟元をきゅっと引き寄せ、心の内も見せません。その色がある時、真っ赤に変わります。凪沙の決意を感じさせました。草なぎ剛が渾身の演技で挑んでいます。
思い通りにいかない人生に苦しんでいるのは凪沙だけではありません。凪沙が世話をすることになる親戚の娘・一果、彼女を虐待したとされる母親、一果の親友、主人公の仕事仲間、みんなが思い悩んでいます。その葛藤をそれぞれが見事に表現していました。水川あさみが一果の母親を演じましたが、あまりの変貌ぶりに最初は誰が演じているのか、気がつがなかったくらい。
辛いシーンが多いのですが、凪沙が一果からバレエを教わって、2人で「白鳥の湖」を踊るシーンは切ないながらも心が和みます。必見シーンです。
草なぎ剛の代表作になることは間違いありません。擬似親子のような関係を演じた服部樹咲はオーディションでバレエの才能を認められ、ヒロインを射止めました。本作で女優デビューとのこと。演技は初めてながら、堂々と主人公に対峙していました。今後が楽しみです。(堀)


2020年/124分/G/日本
配給:キノフィルムズ
©2020 Midnight Swan Film Partner
公式サイト:https://midnightswan-movie.com/
★2020年9月25日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国公開中
posted by ほりきみき at 01:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月20日

シネマ歌舞伎 三谷かぶき月光露針路日本 風雲児たち

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作・演出:三谷幸喜
原作:みなもと太郎
語り:尾上松也
出演:松本幸四郎(大黒屋光太夫)、市川猿之助(庄蔵/エカテリーナ)、片岡愛之助(新藏)、八嶋智人(ラックマン)

日本がまだ厳しい鎖国政策をとっていて、外国との行き来がままならなかった江戸時代末期のこと。大黒屋光太夫は商船神昌丸の船頭(ふながしら)として、伊勢から江戸へ向かった。途中大きな嵐に襲われ、船の帆が折れ、大海原を漂流する羽目になってしまった。ともすればくじけそうになる光太夫だったが、17人の乗組員を率いる身なれば弱音を吐くこともできない。必死でみんなを励まし、ようやく陸地にたどり着く。
ところがそこは江戸どころか日本でもなく、ロシア領のアリューシャン列島の小さな島だった。

歌舞伎の舞台を映画館でデジタル上映する「シネマ歌舞伎」シリーズ第36弾。2019年6月に歌舞伎座で上演された舞台をスクリーンで上映。今作はなんと船旅の話で、漂流した挙句にロシアまで行ってしまうというもの。嵐に翻弄される船と乗組員、長い漂流の果てに一人また一人と命を落とす人々。過酷な運命に落ち込むだけにしないのが、三谷演出です。船員こそ男性ばかりですが、ロシア女性に扮した綺麗どころもちゃんと用意されています。身の軽い猿之助さんが庄蔵を演じたかと思えば、ロシアの女帝エカテリーナに扮して登場し、その威厳があたりをはらいました。さすが。劇場中が「おお~~」という感嘆の声で満たされたのは、雪原にそり犬がずらりと勢ぞろいした場面。見た目全てハスキー犬で、ちゃんと犬らしいアクションをしています。
小島からロシアの中枢であるサンクトペテルブルグの宮殿まで、故郷へ戻りたい一心で長い長い旅をした一行の願いは叶えられたのでしょうか?まずはその目でしかとご覧あれ。(白)

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「映画やテレビは見るけれど、歌舞伎はちょっと敷居が高い感じがして見ないのよね」とおっしゃる方がいらしたら、ぜひお薦めしたいのが本作です。この夏、続編が放送されて話題になったテレビドラマ「半沢直樹」で東京中央銀行証券営業部の伊佐山部長を演じた市川猿之助、金融庁検査局・黒崎駿一を演じた片岡愛之助が出演し、IT企業・スパイラルのカリスマ社長・瀬名洋介を演じた尾上松也が語りをしているのです。しかも三谷幸喜の作・演出とくれば、興味も沸くことでしょう。
主人公は大黒屋光太夫。日本史の教科書もに書かれている名前なので、聞いたことがあるのではないでしょうか。江戸時代中期に伊勢から江戸に向けて出港したものの嵐で遭難してロシアに漂着し、エカテリーナ二世に謁見した日本人です。そこに至るまでの苦難を描いています。
その大黒屋光太夫を演じたのは松本幸四郎。父の松本白鸚、息子の市川染五郎も出演しています。この市川染五郎が初々しい! 水主(「かこ」と読みます。船の乗組員のことです)の役で、名前を磯吉といいますが、要領が悪くてみんなから怒られてばかり。しかも松本幸四郎と親子であることで何度も揶揄されます。「水主は向いていない」と言われているのを聞くと、まるで歌舞伎が向いていないと言われているんじゃないかと見ている方が心配になってきました。ところが、磯吉はロシア語をいち早く覚えて、みんなを助けます。それとともに頼りなかった磯吉がたくましく見えてきました。磯吉の成長物語の側面を持つ作品ですが、市川染五郎本人の成長物語でもあるのかもしれません。歌舞伎役者として、将来が楽しみです。(堀)


2020年/日本/カラー/シネスコ/138分
配給:松竹
(C)松竹株式会社
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/
★2020年10月2日(金)全国公開
posted by shiraishi at 19:45| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月19日

フライト・キャプテン高度1万メートル、奇跡の実話(原題:中國機長)

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監督:アンドリュー・ラウ
脚本:ユー・ヨンガン
視覚効果:エレン・プーン
出演:チャン・ハンユー(リュー機長)、ユアン・チュアン(ビ・ナン)、オウ・ハオ(シュ・イー・チェン)、ドゥー・ジアン(シャン・ドン)、チャン・ティエンアイ(フォアン・ジャ)

2018年5月14日、重慶市からチベット自治区のラサに向かう四川航空3U8633便が、乗客119人を乗せて飛び立つ。当初は順調なフライトだったが、地上1万メートルを飛行中、突如として操縦室のフロントガラスにひびが入り、瞬く間に大破する。氷点下30度の冷風が猛烈な勢いで吹き込み、操縦室の圧力は低下。自動操縦も不可能になり、激しく揺れる機体に乗客もパニックに陥るが……。

リュー機長が家を出るところから始まります。制服を着て仕事に向かう前、居間の飾り付けを眺めます。仕事から戻ったら愛娘の誕生日祝いをする予定。普通のお父さんの顔から機長の顔になるいいオープニングでした。『マンハント』で日本にも知られたチャン・ハンユー、精悍です。CAさんたちもそれぞれ出発準備に余念がなく、少し後に大パニックになるとは誰も予想していません。
混乱の中誰がどのように対処したのか、事実を調査しての映画化でしょう。観客は乗客になり、乗務員になり、機長になってその追体験をすることになります。
リュ―機長の経験に基づく技術と対応は、英雄と讃えられました。よくぞ生還したと誰もが拍手したはず。微に入り細に入りの再現で、しばらく飛行機に乗れなくなるかもしれません。私はこの映画の後、飛行機に乗る用事があり、思わずフロントガラスの強度など検索してしまいました。何事もなく往復しましたが、安全のために多くの人が携わっていることもいつもより感じました。
2019年の国慶節に建国70周年に合わせて作られた映画3本のうち、最も集客した作品というのが納得です。
アンドリュー・ラウ監督は20代で撮影監督からスタート、私好みの香港映画の多くはこの方が手掛けていました。40代で監督になり『古惑仔』『インファナル・アフェア』シリーズなどヒット作を送り出しています。エンタメと情感のバランスよく、満足させてくれる折り紙つきの監督。(白)


2018年に中国・四川航空機が緊急着陸した事故を再現した作品ですが、日常が非日常に変わる瞬間は心臓が飛び出たかと思うくらい驚きました。これは映画だからオーバーに描いているのよね?と思ったのですが、見終わってから調べたところ、私が驚いたシーンは本当に起きたこと! 人ってこんな絶望的な状況でも乗り越えることができるんだと勇気をもらえます。そして、最後まで冷静な判断をしたリュー機長はチャン・ハンユーにぴったりの役でした。
陸上側の対応がきびきびしていて気持ちがいいのですが、本当はもう少しパニックに陥っていたのではないかしら? 怒号が飛び交ってもおかしくないと思うのですが、どの部署も落ち着いて対応しています。建国70周年に合わせて作られた映画だから、国の威信を損ねるようなことは描けなかったのかもしれません。
エンドロールに本物のクルーと演じた俳優が2ショットで映し出されるのですが、本物のCAたちがみな美しくて、どちらが本物のCAで、どちらが女優かわからないくらいです。機長、第二機長、副操縦士は何となく似ている感がありました。(堀)


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2019中国映画週間で上映された『高度一万メートルの奇跡』舞台挨拶にて
左から張天愛(チャン・ティエンアイ)、杜江(ドゥー・ジアン)、李沁(リー・チン)


2019年/中国/カラー/シネスコ/111分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2019 Bona Entertainment Company Limited All Rights Reserved.
https://flight-captain.com/
★2020年10月2日(金)シネマート新宿・心斎橋ほかロードショー
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2020年09月18日

映像研には手を出すな!

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原作:大童澄瞳「映像研には手を出すな!」(小学館 「月刊!スピリッツ」連載中)
脚本・監督:英勉 
脚本:高野水登 
音楽:佐藤望
映画主題歌:乃木坂46「ファンタスティック三色パン」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
撮影:川島周 古長真也 
照明:本間大海 山田和弥 
録音:竹内久史 
美術:池田正直 
装飾:金子大悟 加藤安梨沙 
音響効果:柴崎憲治
出演:齋藤飛鳥 山下美月 梅澤美波 
小西桜子 グレイス・エマ 福本莉子 松崎亮 桜田ひより 板垣瑞生 赤楚衛二 
鈴之助 出合正幸 松本若菜 山中聡 浜辺美波 / 高嶋政宏

迷彩帽に迷彩リュックの少女・浅草みどり(齋藤飛鳥)は、アニメが好きで、人並み外れた想像力があるのだが、見知らぬ人に話しかけられると卒倒してしまうほどの極度の人見知り。
浅草の中学からの同級生・金森さやか(梅澤美波)は長身で美脚、金儲けに異常な執着を見せるタイプだ。2人が入学した芝浜高校は、413の部活動と72の研究会およびそれに類する学生組織がある、一言でいえばカオスな高校。この部活動および学生組織を束ねているのが大・生徒会。道頓堀透(小西桜子)、ソワンデ(グレイス・エマ)、阿島(福本莉子)、王(松崎亮)が幹部として運営を司っている。
そんな芝浜高校で、浅草と金森はカリスマ読者モデルの水崎ツバメ(山下美月)と出会う。ツバメもまた、芝浜高校に入学してきた新入生で、実はアニメ好きでアニメーター志望だった。
運命的な出会いを果たした3人はアニメ制作に邁進することを決意する。
こうして、電撃3人娘の「最強の世界」を目指す冒険が始まった!!!

原作は大童澄瞳の同名コミック。2020年1~3月に湯浅政明監督によってアニメ化され、4~5月に英勉監督がテレビドラマとして実写化。満を持して9月に英勉監督によって同じキャストで映画化されました。英勉監督はこれまでにも『ヒロイン失格』(2015)や『賭ケグルイ』(2019)など、映像化不可能と言われてきた数々の原作を見事に実写化しており、その手腕は保証付きです。
アニメもテレビドラマも映画も、設定は同じですが、取り上げられるエピドートがちょっとずつ違う。映画ではロボット研究会の依頼を受けてアニメ作品を制作します。ここに音響部の百目鬼が音響として参加をするのですが、彼女が作り上げた効果音が素晴らしい。実はこのシーンには日本の音響効果の第一人者である柴崎憲治氏が関わっているのです。目の前で本物が戦いを繰り広げているかのような臨場感にあふれていました。音だけでこれだけ感じ方が違うのかと驚くはず。これは家で見るのではなく、ぜひ映画館で聴いて感じてください。(堀)


2020年/113分/G/日本
配給:東宝映像事業部
Ⓒ2020 「映像研」実写映画化作戦会議 Ⓒ2016 大童澄瞳/小学館
公式サイト:https://eizouken-saikyo.com/
★2020年9月25日(金)公開
posted by ほりきみき at 19:47| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ヒットマン エージェント:ジュン(英語題:Hitman: Agent Jun)

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監督・脚本:チェ・ウォンソプ
出演:クォン・サンウ(ジュン)、チョン・ジュノ(ドッキュ)、ファンウ・スルヘ(ミナ)、イ・イギョン(チョル)

両親が事故死して孤児となったジュンは、国家情報院に拾われ冷徹なドッキュ教官に暗殺要員となるべく育てられた。瞬く間に対テロ保安局“猛攻隊”のエースとして命令のまま多くの暗殺に関わっていく。しかしジュンには幼い頃から漫画家になりたいという夢があり、組織から抜け出す決断をする。任務遂行中、死を偽装して行方をくらませ15年が経った…。
ジュンは憧れたウェブ漫画家になったものの、全く人気が出ず妻の収入に頼っている。ついに編集長から打ち切りを宣告されて泥酔し、勢いで暗殺要員時代をネタにした漫画を描き上げ寝落ちしてしまう。ジュンが目覚めるとそのリアルな描写に驚愕した漫画ファンが次々と拡散、まさかの大ヒットとなっていた。妻が良かれと思ってやったことだが、ジュンが生きていると知られてはならない。

暗殺要員の殺伐な話と思いきや、なんと大笑いできるコメディでもありました。死んだはずのジュンが生きていると知った国家情報院と、ジュンに恨みを持つテロリストが執拗に追ってきます。過去を知らない妻と娘まで巻き込んでアクションが再び炸裂。漫画が要所要所に挟み込まれて、面白さを盛り上げます。どうしたらもっと面白くなるかを貪欲に追求したというチェ・ウォンソプ監督、その過酷な要求に応えて振り幅の大きな役を演じたクォン・サンウ、個性豊かなキャストを演じた助演の方々もエライ!
一つ疑問、新しい人生を始めたジュンですが、戸籍やIDはどうしたのでしょう?問題なく一般市民になるには何か裏技があったのか?(白)


チェ・ウォンソプ監督はクォン・サンウがジュンを演じることを想定しながら脚本を書き上げたそう。クォン・サンウも監督の期待に見事に応え、冴えないウェブ漫画家だと思っていたら、いきなり見事なアクションを決めてくるのでびっくり! そして、妻役のファンウ・スルヘもワイヤー・アクションと接近戦にチャレンジ。ここぞとばかりに華麗なアクションを披露しました。
しかし、物語の展開はアクション中心のシリアスタッチではなく、クォン・サンウが得意とするコメディ調。ファンウ・スルヘのアクションのオチには大笑い。大韓民国国家情報院の鬼教官も、敵役のテロリストもどこかドジでおかしなところを見せて笑いを誘います。
一方で反抗期真っ盛りに見えた娘の主人公に対する健気な思いには思わずほろりさせられました。この娘を演じたリー・ジウウォンが見せるラップシーンは軽やかでかわいい~
ところで、本作に挟み込まれるコミックはWEBTOON(ウェブトゥーン)と呼ばれる韓国から始まったコミック形式です。スマートフォンから縦スクロールで読むことを想定して描かれ、オールカラーという特徴があります。コミックは左からページをめくっていくものと思っていましたが、スマートフォンで読む習慣が広がっている今、韓国だけでなく、台湾・タイなどのアジアをはじめ、北米など国際的に人気が高まっているそうです。(堀)


2020年/韓国/カラー/ビスタ/110分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
https://hitman-movie.jp/
★2020年9月25日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国にて順次公開。

posted by shiraishi at 14:31| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

クライマーズ(原題:攀登者 The Climbers)

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監督:ダニエル・リー
プロデューサー:ツイ・ハーク
脚本:ア・ライ
出演:ウー・ジン (ファン・ウージョウ)、チャン・ツィイー (シェイ・イン)、チャン・イー (ソンリン)、ジン・ボーラン/ジャッキー・チェン(リー)、フー・ゴー(ヤン)、チュイニーツーレン (ヘイムーダン)

1960年、ファン・ウージョウ率いるたった3人の中国登山隊は、世界で初めて北稜からのチョモランマ登頂に成功する。しかし、登攀中雪崩に襲われ、隊員のソンリンを助けたときにカメラを落としてしまう。証拠写真がないために、その偉業は国際的に認められることはなかった…。
15年後、ボイラー室で働いていたファンに朗報が入る。チョモランマ登頂を目指す第二次登山隊が結成されるというのだ。ファンは、長い交際の婚約者である気象学者インや、カメラマンのリー、測量士のヤンたち新しい仲間とともに、愛と名誉をかけチョモランマ登頂に再び挑む!

史実をもとに作られた、世界最高峰の山に命がけで挑む男たちの映画。香港の監督のダニエル・リーがメガホンを取っています。2019年の建国70周年記念の「中国の誇り3部作」のうちの1本。このほかに『フライト・キャプテン高度1万メートル、奇跡の実話』(原題:中國機長)、チェン・カイコー(陳凱歌)ら7人の有名監督が過去70年間の歴史的瞬間を切り取った『我和我的祖国』があります。
ファン役のウー・ジンは若いときから得意のカンフーを生かしたアクション映画でよく見かけましたが、年を重ねるにつれ人間としての内面を表現する役も多くなってきました。この作品でも不遇をかこちながら、鍛錬を忘れずここぞというときに力を発揮できるファンとして頼もしいです。
それにしても恋人へのぎこちない様子に歯噛みしたくなります。大事な言葉をさっさと言えない間の悪さ、中国ではこういう不器用な人こそ男らしいのでしょうか?ずっと待っていたシェイが可哀想じゃないですか。ま、それがドラマを盛り上げるのですが。
友情出演のジャッキー・チェンがチラシに大きく出ていますが、なかなか出てきません。眼を皿のようにして探さなくてもわかりやすく登場します。
登山映画は数々観てきましたが、何がそんなにも彼らを駆り立てるのかいまだわかりません。わからないから観続けているのかもしれない、と思うこのごろ。美しい雪山の撮影や伸長著しいVFXもお楽しみください。(白)


中国がチョモランマ登頂に国家の威信をかけていたことがひしひしと伝わってきます。エベレストがいつの頃からかチョモランマと言われるようになりましたが、エベレストはあくまでもイギリスがつけた名前で、中国にとってはチョモランマ。登頂はそれを広める意味合いもあったのだと知りました。
当時の中国がチョモランマ登頂に国家の威信をかけたのなら、今の中国はこの作品を撮ることに国家の威信をかけたのだと思われるほど、出演俳優はビッグネームですし、撮影にハリウッドを凌ぐ迫力のVFX が駆使されています。主演は中国とアジアの歴代興行収入で 1 位を記録した『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』のウー・ジンですし、相手役は昨年の第 32 回東京国際映画祭で審査委員長を務め、今年 1 月に滞在先の米国で第2子となる男児を出産したチャン・ツィイー。とても41歳には見えない、清純な三つ編みのお下げ姿に驚きました。2人のラブロマンスも涙なしには見られません。また、カメラより優先して助けられたことを恥じるソンリンが助けてくれたファンへ確執を抱く気持ちがわかるだけに、ソンリンの心の雪解けシーンには胸が熱くなりました。
しかし、最近またエベレストという表現も増えてきた気がする。8月に中国の測量隊8人がチョモランマに登頂して15年ぶりに測量したのは、エベレストという言葉を覆すためだったのかしら?(堀)


2019年/中国/カラー/シネスコ/122分
配給:AMGエンタテインメント
(C)2019 SHANGHAI FILM GROUP. ALL RIGHTS RESERVED.
https://climbers-movie.com/
★2020年9月25日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 14:13| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ(原題:LIAM GALLAGHER: AS IT WAS) 

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監督:ギャビン・フィッツジェラルド、チャーリー・ライトニング
出演:リアム・ギャラガー、ボーンヘッド、ノエル・ギャラガー、ポール・ギャラガー、クリス・マーティンほか

1990年代から2000年代にかけて英国で絶大なる人気を誇ったロックバンド「オアシス」のボーカリスト、リアム・ギャラガーの栄光と挫折、そして復活への道程を追ったドキュメンタリー映画。数々のヒット曲を連発し、90年代を代表するアーティストとして世界に名を馳せるリアムは、破天荒かつスキャンダラスな行動でメディアからたびたびバッシングを受けていた。オアシスのギタリストである兄ノエルとは諍いが絶えず、ノエルの脱退でバンドはついに解散。さらに離婚訴訟が勃発し、ノエル抜きで新たに結成したバンドも軌道に乗らず自然消滅してしまう。失意の中で出会った新たなパートナーに励まされたリアムは自身の音楽人生を賭け、ソロデビューアルバムを発表する。

印象的なシーンがある。サンフランシスコの金門橋を早朝にジョギングするリアムがインタビューに応える場面だ。朝日に染まる水平線を指さして、「この歳になると最高だ」と嬉しそうに語るリアム。「若いころは調子こいてイケイケでいくもんだが、今は朝方の金門橋を見るために酒の誘いも断る」と打ち明ける。荒んだ暮らしで身を持ち崩したリアムならではの発言ではある。英国の音楽ファンなら先刻ご承知ということなのか、本作でリアムの暗黒時代については控えめに言及し、どん底から這い上がる過程が本人と関係者のインタビューで丹念に描かれる。復活の物語に厚みを持たせているのは、やはりリアム個人のキャラクターの魅力であろう。リアムと言えばジョン・レノンを彷彿とさせる独特の声が想起されるが、長年にわたり声質を維持するためのエピソードが興味深い。どん底のリアムを救ったパートナー兼マネージャーの女性は「若いころから少しも変わらないから愛される」とリアムを形容する。傲慢さと繊細さが同居し、率直な物言いは時に誤解もされるが、歳を重ねることで家族や自らの健康など大切にすべきものを明確に意識し、行動できるようになった。リアムのファンにティーンエージャーが多いというのも、頷けるところだ。今年で48歳になる稀代のロックンローラーの吹っ切れた清々しささえ感じる音楽ドキュメンタリーである。(堀)

2019年/イギリス/カラー/スコープサイズ/英語/89分 
配給:ポニーキャニオン
© 2019 WARNER MUSIC UK LIMITED
公式サイト:https://asitwas.jp/
★2020年9月25日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
posted by ほりきみき at 13:58| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月17日

マティアス&マキシム ( 原題:Matthias et Maxime 英題:MATTHIAS & MAXIME )

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脚本・監督・編集・製作・衣装:グザヴィエ・ドラン
製作:ナンシー・グラント
撮影:アンドレ・チュルパン
音楽:ジャン・ミッシェル・ブレ
美術:コロンブ・ラビ
衣装:ピエール=イヴ・ゲロー

出演:ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス、グザヴィエ・ドラン、ピア・リュック・ファンク、サミュエル・ゴチエ、アントワーヌ・ピロン、アディブ・アルクハリデイ、ハリス・ディキンソン、アンヌ・ドルヴァル

親友同士で30歳のマティアス(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)とマキシム(グザヴィエ・ドラン)は、友人が監督する短編映画でキスシーンを演じる。その口づけをきっかけに、二人は今まで封印してきた相手への思いに気付き始める。婚約者のいるマティアスは親友への思わぬ感情に戸惑い、マキシムは長年の友情が壊れることを恐れていた。

グザヴィエ・ドラン監督・出演作史上、最も切なく涙を誘い、経済格差といった社会問題までを孕む、秀作が誕生した。19歳での監督デビューから30代に入り込んだドランの行く先はまだまだ伸びしろがありそうだ。何処まで伸長するのか予想もつかない未完成の魅力が本作でも発揮された。
湖畔の別荘、幼馴染みで気の置けない仲間たちとのパーティが物語の発端となる。オーストラリア留学まで12日と迫ったマックス(ドラン)は、親友マットの父親の推薦状を必要としていた。さらりと出てくるこの伏線が後に重要な場面と繋がるため、見逃せない。
夜明けの湖を泳ぐ幻想的な場面や、マットの言質をイジる”言葉警察遊び”など、ドランの演出は緩急自在だ。問題のマックスとマットのキスシーンは意外にあっさりと描かれる。これもドランの狙いなのだろう。

バス停で少年に見つめられたり、マックスは次第に自分の周囲にいる男たちを意識するようになる。一方、本作では生活臭の描き方がきめ細かい。マックスに平然と金をせびる薬物依存症の母。その母のために甲斐甲斐しくパスタを作り世話をしつつ、後見人となっている叔母と今後の話し合いも欠かせない。
バーテンダーとして働く店で、親切にしてくれる女友だちから、階級格差について皮肉を言われる。傍目に苦労しているマックスを仲間の母親たちは憐れむ。こうした立場の異なる複数の女たちの心情を見渡し、短いショットで繋ぐ観察技法に、これまで以上の洗練と成熟が観られた。

注目すべきは、マックスとは対照的な俗物として登場するマットの取引先相手、トロントから来たケヴィンの存在だ。登場シーンはドランの映像・音楽センス、テンポの良さといった技法の粋が凝縮されている。ゲスな発言を繰り返すケヴィンに、マットは戸惑いを覚えながらもビジネスライクに振る舞う。内心ではマックスのことを考えているのが透察される。ケヴィンを演じる英国人俳優のハリス・ディキンソンは、ドランの演出意図を汲み、人物造形を巧みに表出した。ハリス・ディキンソンはレイフ・ファインズと共に主演に抜擢された『キングスマン:ファースト・エージェント』公開が控える注目株だ。

撮影監督のアンドレ・テュルパンは、これまで組んできたドランの世界を知り尽くしたカメラマンとして期待に応える映像を展開。スタイリッシュなライティング、登場人物の目の光を捉え、セリフを排した感情表現の映像作りは卓抜した技術だ。本作では湖周辺の自然描写、瀟洒な別荘、叔母宅の赤いブラインドなど、経済・階級格差を可視化する視点に貢献している。
BL映画を苦手とする向きも映画ファンは少なくないだろう。でも、ドラン作品は一味違いますよ!(幸)


19歳で初監督作品『マイ・マザー』(2009)を放ったグザヴィエ・ドラン。その才能に驚くと共に、美しい容貌にクラクラしたものだ。その後も、『わたしはロランス』(2012) 『トム・アット・ザ・ファーム』(2013)、『Mommy/マミー』(2014年)、『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』(2018)等々、印象に残る監督作を発表し続けているが、なかなか本人は出演してくれなくて、残念に思っていた。『ある少年の告白』(ジョエル・エドガートン監督、2018年)で、久しぶりにグザヴィエ・ドランの姿が拝めると楽しみに観たら、強制的に同性愛を治す施設に入居している男で、ちょっとむさ苦しい雰囲気。10代の時に美しかった少年も、大人になると・・・とがっかりしたが、『マティアス&マキシム』で払拭! 30を越えたと思えない初々しい姿にため息。右頬に大きな痣(あざ)があるのに、そんなことは気にならない美貌。グザヴィエ・ドランは、やっぱりこうでなくっちゃ。(咲)

提供・配給:ファントム・フィルム
2019年製作/120分/PG12/カナダ/ビスタサイズ/5.1ch
(C) 2019 9375-5809 QUEBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL
公式サイト:http://phantom-film.com/m-m/
★2020年9月25日(金)より、 新宿ピカデリーほか全国公開
posted by yukie at 21:44| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

鵞鳥湖(がちょうこ)の夜 ( 原題:南方車站的聚会 英題:THE WILD GOOSE LAKE)

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監督・脚本:ディアオ・イーナン
撮影:トン・ジンソン
照明:ウォン・チーミン
美術:リュウ・チアン
出演:フー・ゴー、グイ・ルンメイ、リャオ・ファン、レジーナ・ワン

2012年、中国南部の鵞鳥湖周辺エリアは再開発から取り残され、ギャングたちの抗争が激しくなっていた。刑期を終えてバイク窃盗団に戻ったチョウ(フー・ゴー)は、敵対関係にある猫目・猫耳兄弟たちとの争いに巻き込まれた揚げ句、警察官を殺してしまう。指名手配犯となった彼は、自分に懸けられた懸賞金30万元を妻と小さな息子に残そうと策を練る。

夜、篠突く雨、電車の機械音が響く中、印象的な劇伴が被さる。
「お兄さん、火を貸して」
物憂げな女が近づく。
「待ってる女は来ないわよ」 男「…。」
冒頭の数カットだけで、中国産フィルム・ノワールの雰囲気は決定付けられる。『薄氷の殺人』でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したディアオ・イーナン監督が、新型コロナウイルス発生前の湖北省・武漢で撮影した本作は、前作のイメージを踏襲しつつ、暗い官能、薄幸の人間だけが醸す色気、胸騒ぎを誘う疾走感、銃撃戦のテンポとキレのよいアクションが混在し、画面から艶めかしさまでが漂う逸品である。

映画は2012年、事件の発端となる場面の回想へと自然に移る。再開発から取り残された鵞鳥湖周辺に渦巻く抗争、ギャングたちを”客”とする“水浴嬢”(湖畔の娼婦)たち、チンピラ窃盗団などが暗躍する。怪しく安っぽいネオンが点滅する繁華街、蛍光色靴で踊る人々、鵞鳥湖周辺の暗闇と幻想的な霧、雨、水音のイメージ、鬱蒼とした大自然、点在する禍々しい廃墟、真夜中の動物園までが、豊かな映像世界を彩る道具立てとして登場し、観客は息を詰めて見守ることになる。
2000年代を代表するヒット曲が、中国の裏社会でもがき生きる人々の心象風景を表出するのだ。情動的な音楽はエンディングの「ブンガワンソロの歌」で終焉を迎えるが、決して後味は悪くない。寧ろ爽快感さえ感じさせる演出話法に唸らされた111分だった。(幸)


『藍色夏恋』(2002年)で、台北の街を颯爽と自転車でいく姿で鮮烈な印象を残してくれたグイ・ルンメイ。『鵞鳥湖の夜』では、水浴嬢と呼ばれるリゾート地で海水浴に同伴する風俗嬢を演じているというので、ちょっと驚いた。ミステリアスで可憐。清楚な娼婦だ。出演していると聞けば、その映画を観たくなる。グイ・ルンメイはそんな女優。本作も、期待を裏切らなかった。(咲)

なぞの男となぞの女。暗い怪しげな人影の少ない駅で二人は会う。それは偶然ではなく、ある指令を受けて女が男に近づいた。追われる男と寄り添いながら逃走を続ける女。観ている側は、何がどうなっているのか、かなり中盤までなぞのまま話が進んでゆく。後半、やっと「どうやら、こういう話らしい」という感じが見えてくる。それにしても刁亦男(ディアオ・イーナン)監督の作品は前作の『薄氷の殺人』といい、なぞめいた話の流れを作り、最後のほうでやっと観客に「そういうことだったのね」と納得させる作りが不思議とイライラさせない。私は半分すぎても話が見えないと、途中でイライラするたちなので、そういう作品があまり好きではない。でもディアオ・イーナン監督の作品はけっこう好き。
桂綸鎂(グイ・ルンメイ)が水浴嬢という役でなぞの女を演じる。彼女のこれまでのはつらつとした役とは全然違う「女」を見て、彼女を「少女」の頃から見ている私としては、ますます「ミステリアスな女性」になってきたなと思った。刑事役の廖凡(リャオ・ファン)は刑事役で出演。この二人はディアオ・イーナン監督お気に入りの二人なのかな。『薄氷の殺人』に続いての出演。
そして指名手配犯となった男を演じた胡歌(フー・ゴー)これまでたくさんの中国映画を観てきたけど、彼を観たのは初めての気がする。調べてみたら2005年にデビューしているけど、これまで全然知らなかったのはなぜ?と思って出演作を見てみたら、TVドラマが多かったよう。しかも「新・射雕英雄伝」に主演している! これは香港の劉徳華(アンディ・ラウ)版しか見たことがないけど、繰り返し作られている中華圏では有名な作品。しかし、こんなイケメン俳優がいるというのを、これまで全然知らなかったとは。映画は観るけどTVドラマは見ない私なので出会わなかったのでしょう。今、日本公開されている『チィファの手紙』や、これから公開される『クライマーズ』にも出演しているというので、この9月末はフー・ゴー出演作3本が日本で公開されていることになる。すごい! 日本の中国ドラマファンだけでなく、中華圏映画ファンにも話題になるかも(暁)。


2019年製作/111分/PG12/中国・フランス合作/ビスタサイズ
配給:ブロードメディア・スタジオ
(C) 2019 HE LI CHEN GUANG INTERNATIONAL CULTURE MEDIA CO.,LTD.,GREEN RAY FILMS(SHANGHAI)CO.,LTD.,
公式サイト:http://wildgoose-movie.com/sp/
★ 2020年9月25日 (金)より 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷ほかにて全国公開

posted by yukie at 21:07| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月16日

マーティン・エデン(原題:Martin Eden)

 
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監督・脚本:ピエトロ・マルチェッロ 
脚本:マルリツィオ・ブラウッチ
原作:「マーティン・イーデン」ジャック・ロンドン(白水社刊)
出演:ルカ・マリネッリ、ジェシカ・クレッシー、デニーズ・サルディスコ、ヴィンチェンツォ・ネモラート、カルロ・チェッキ

貧しい船乗りの青年マーティン(ルカ・マリネッリ)は、上流階級の娘エレナ(ジェシカ・クレッシー)と恋に落ち、教養に目覚める。激動する時代、労働者地区に生まれ育った無学の青年は、運命の出会いに導かれて文学にのめり込んでいく。作家になるという夢に向かい一心不乱に己の道を突き進むが、生活は困窮し恋人の理解も得られない。絶望にかられてすべてを諦めようとした矢先、彼の運命は一変する。果たして彼を待ち受けるのは希望か、絶望か――。

冒険小説「野性の呼び声」で世界的名声を獲得した作家ジャック・ロンドンの自伝的小説を、ピエトロ・マルチェッロ監督が舞台を19世紀のアメリカから20世紀のナポリに変更して映画化した。
監督は20年前に原作を読み、ずっと映画化したいと思ってきたという。本作で2019年トロント国際映画祭審査員プラットフォーム賞、2020年イタリア・アカデミー賞脚色賞を受賞した。
主人公のマーティンを演じるのはルカ・マリネッリ。監督が脚本を書く段階から決まっていたという。トレーニングで船乗りの体を作り上げ、撮影1ヶ月前にはナポリに入り、町の人たちに溶け込んで役作りをした。その甲斐もあって、本作で第76回ヴェネツィア国際映画祭において、『ジョーカー』ホアキン・フェニックスを抑え「男優賞」に輝いた。2020年にはNetflix製作の映画『オールド・ガード』でシャーリーズ・セロンと共演し、ハリウッド進出。今、目が離せない俳優の1人である。
端正な顔立ちにうっとりするような肉体美がプラスされたルカ・マリネッリ。前半はエレナの社会に仲間入りしたいとバイタリティーがあふれ、後半は名声を手にし、仕立てのいいスーツに身を包みながらも、目的を見失って自堕落な姿を見せる。2つのタイプのルカ・マリネッリを堪能できる眼福の129分。女性の心を鷲づかみにするに違いない。(堀)


紛れもなく、ナポリの下町の荒くれた男なのに、名前はマーティン・エデン。上流階級のお嬢様と知り合って、背伸びして文学を語る姿が、なんとも不思議に見えます。アメリカン・ドリームを実現した作家ジャック・ロンドン。原作の舞台であるアメリカ西海岸オークランドを、ピエトロ・マルチェッロ監督の生まれ育ったナポリに移し、時代も20世紀初頭から、1919年~1970年頃に変えて、しっかりイタリアの物語になっているのに、原作に敬意を表して主人公の名前だけは変えなかったことから起こる魔法。マーティン・エデンを演じるルカ・マリネッリが、とにかくイイ男で、階級の壁をなかなか越えられない姿に切なくなりました。(咲)

2019年/イタリア=フランス=ドイツ/イタリア語・フランス語/129分/カラー・モノクロ/ビスタ/5.1ch
配給:ミモザフィルムズ 
©2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE 
公式サイト:http://martineden-movie.com/ 
★2020年9月18日(金)よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開



posted by ほりきみき at 22:05| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月14日

TENET テネット(原題:Tenet)

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監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン 
製作:エマ・トーマス 
製作総指揮:トーマス・ヘイスリップ
出演:ジョン・デイビッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ディンプル・カパディア、アーロン・テイラー=ジョンソン、クレマンス・ポエジー、マイケル・ケイン、ケネス・ブラナー

満席の観客で賑わうウクライナのオペラハウスで、テロ事件が勃発。罪もない人々の大量虐殺を阻止するべく、特殊部隊が館内に突入する。部隊に参加していた名もなき男(ジョン・デイビッド・ワシントン)は、仲間を救うため身代わりとなって捕えられ、毒薬を飲まされてしまう…しかし、その薬は何故か鎮痛剤にすり替えられていた。昏睡状態から目覚めた名もなき男は、フェイと名乗る男から“あるミッション”を命じられる。それは、未来からやってきた敵と戦い、世界を救うというもの。未来では、“時間の逆行”と呼ばれる装置が開発され、人や物が過去へと移動できるようになっていた。ミッションのキーワードは<TENET(テネット)>。「その言葉の使い方次第で、未来が決まる」。謎のキーワード、TENET(テネット)を使い、第三次世界大戦を防ぐのだ。
突然、巨大な任務に巻き込まれた名もなき男。彼は任務を遂行する事が出来るのか?
そして、彼の名前が明らかになる時、大いなる謎が解き明かされる――。

『ダンケルク』でスタートが違う陸・海・空軍の3つの時間を同時に映し出して、同じ時間に帰着させたノーラン監督。流れの速度の違いに戸惑わされましたが、今回は時間が前に進む“順行”と時間が戻っていく“逆行”が同時に進み、時間を逆行する敵とのアクションも描かれています。具体的には順行で前に進む車と逆行で後ろに進む車が同時に映し出されるのです。これ以外にも「いったいどうやって撮影したんでしょう?」というシーンの連発にノーラン監督の頭の中を見てみたくなります。
しかも、エストニア、スペイン、デンマーク、イタリア、韓国、ノルウェイ、イギリス、ドイツ、ロシア、フランス、オーストラリア&ニュージーランド、日本でロケを行い、本物のジェット飛行機を爆破させ、8キロに及ぶ高速道路を3週間封鎖したカーアクションを繰り広げました。撮影規模の大きさに驚かされます。
見るというよりも体験する作品です。最初は理解しづらくて戸惑うかもしれませんが、とにかく見ていると何となく分かってきます。そして、多くの疑問がラストに一気に氷解。やっぱりノーラン監督ってすごい!!(堀)


冒頭から音!音!!音!!!に包まれます。これでびっくりしていられません。何?何?と考える暇もないほど早い展開の物語にぶち込まれます。これはIMAXでリピート必須の作品。一度目はただただ没入してください。現在のシーンに時間を越えて侵入した人やモノが混在して「???」と驚いたりパチクリしているうちに150分すぎてしまい、よしまた観なくちゃ!となります。
ノーラン監督の頭の中を可視化した俳優陣は、撮影中どんなだったのか知りたいものです。『ブラック・クランズマン』(18)で主演したジョン・デイビッド・ワシントン、この大作でも堂々の主演です。親(デンゼル・ワシントン)の七光りなど不要。公開作はあったけれど、私には久しぶりの相棒ニール役ロバート・パティンソン、髭で王子様顔が見えないアーロン・テイラー=ジョンソン、すっかり大人の男性です。
あまり感情を出さないシーンの中で、セイター(ケネス・ブラナー)と妻キャット(エリザベス・デビッキ)夫婦のやりとりが人間臭い。「もう無理!」の台詞に笑ってしまいました。さて、2度目はどこで観ようかな。(白)


2020年/150分/G/アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
公式サイト:http://tenet-movie.jp
★2020年9月18日(金)ロードショー
posted by ほりきみき at 17:41| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月13日

セノーテ 原題:TS’ONOT 英題:CENOTE

2020年9月19日(土)より 新宿K's cinemaほか全国順次公開 他の公開情報

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(C) Oda Kaori


監督・撮影・編集:小田香
日本・メキシコ/2019/75分

メキシコの泉(セノーテ)をめぐる神秘の旅

メキシコ、ユカタン半島北部に点在するセノーテと呼ばれる洞窟内の泉。そこはかつてマヤ文明の時代の水源であり、雨乞いの儀式のために生け贄が捧げられた場所だった。古代マヤで、現世と黄泉の世界を結ぶと信じられていたセノーテをめぐって交錯する、人々の過去と現在の記憶。カメラは水中と地上を浮遊し、光と闇の魅惑の映像に遠い記憶がこだまする。
現地に住む人々に取材し、現地の人たちの語る「精霊の声」、「マヤ演劇」のセリフなど、マヤの人たちにより伝えられてきた言葉の数々。集団的記憶、原風景を映像に取り入れている。セノーテの水中撮影のため、小田監督自らダイビングのライセンスを取り、iPhoneや8ミリフィルムカメラを駆使し、誰も見たことがない不思議な世界を表現した。
2015年に『鉱 ARAGANE』を完成させ、同作は山形国際ドキュメンタリー映画祭2015のアジア千波万波部門にて特別賞を受賞している。今年、第1回大島渚賞を受賞した。(公式HPより:世界に羽ばたく新たな才能の発掘を目的に大島渚監督が1979年から10年間審査員を務めたぴあフィルムフェスティバルが創設。『戦場のメリークリスマス』に出演した坂本龍一が審査委員長、大島監督が審査員の時に見いだされた黒沢清監督、同映画祭ディレクターの荒木啓子氏が審査員を務めた)


今も泉の底に残る骸骨や遺品の数々。泉の中から真上を見上げた光景などが印象に残る。こんな映像を自らダイビングの資格を取り、撮影した女性がいるというのを心強く思った。海外留学したり、海外での「武者修行」という行動力、勇気にエールを送りたい(暁)。


昨年の第12回恵比寿映像祭で本作に初めて出会った時の衝撃は忘れ難い。鑑賞直後に小田香監督のトークセッションがあり、本人の印象が強かったせいもあるだろう。これほど幻想的な光と水、外の世界との”あわい”を繊細に描く人が、見た目は体育会系、話すと大阪弁の気さくなお姉ちゃん!といったギャップを感じたことに由来しているのかもしれない。

題材、マヤ文明への興味、ユカタン半島への果敢な取材、現地の人さえ脚を運ばないセノーテにまで潜り(水が嫌いなのに!)、カメラを回した勇気…。全てに於いて規格外。近頃の若手監督にはついぞ見られないスケール感に圧倒されたのだ。栄えある「第1回 大島渚賞」受賞の選考理由が、「大器出現の予感」だったのも納得である。

だが、当の小田監督には”芸術ドキュメンタリー作家”という気負いは観られない。
「カメラで撮っていると、カチッとくる瞬間がある。頭で考えない自分だけの感覚」
と言う静かな語り口が新鮮だった。独創性溢れる小田監督の”カチッとくる瞬間”が生み出す作品世界に、今後も期待したい。(幸)


小田香さんの長編第一作『鉱 ARAGANE』を観たときに、無駄のない研ぎ澄まされたような映像に釘付けになったのを思い出す。『セノーテ』もまた、精霊が宿ったような神秘的な映像に驚かされた。
『ニーチェの馬』を最後に引退したタル・ベーラ監督が後進の育成のために設立した映画学校「film.factory」で3年間学んだ小田香さん。気難しいタル・ベーラ監督のお眼鏡に敵ったのも納得の期待の監督である。(咲)




公式HP  http://aragane-film.info/cenote/
2019年/75分/デジタル
製作:cinevɘndaval、FieldRain



posted by akemi at 22:55| Comment(0) | メキシコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アダムスファミリー(原題:The Addams Family)

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監督・原案・製作:コンラッド・ヴァーノン
監督:グレッグ・ティアナン
声の出演:オスカー・アイザック(ゴメズ)、シャーリーズ・セロン(モーティシア)、クロエ・グレース・モレッツ(ウェンズデー)、フィン・ウォルフハード(パグズリー)、ベット・ミドラー(おばあちゃん)

モンスターの一族がひっそりと住む村。ゴメズとモーティシアの結婚式が行われていたその時、モンスターを恐れる人間たちが村を襲ってきた。命からがら逃げだしたゴメズとモーティシア夫婦は、あてのないまま旅をする。途中で出会った大男のラーチを執事として雇い入れ、一行は人里離れた丘の上に荒れ果てた屋敷を発見した。幽霊が住み着いていたので人間はやってこない。彼らには願ってもない物件だった。
時が流れて、夫婦には娘ウェンズデーと息子のパグズリーが生まれてすくすくと大きくなった。パグズリーの成長の儀式を行うために、屋敷には親戚一同が集まることになった。

元々は1937年から雑誌ザ・ニューヨーカーに連載されていた一コマ漫画。テレビドラマやアニメになった後、1991年に実写映画『アダムス・ファミリー』(バリー・ソネンフェルド監督)、1993年に同じスタッフ、キャストで続編『アダムス・ファミリー2』が製作されて大ヒット。3も計画されていたそうですが、ゴメズ役のラウル・ジュリアが亡くなったため作られていません。モーティシアがアンジェリカ・ヒューストン、ウェンズデーがクリスティナ・リッチとあまりにぴったりなキャストで、これ以上の組み合わせはないと思いました。が、このアニメ版の声をあてている俳優陣がすごい。このまま実写版を作ってほしいものです。
ストーリーは現代の人間たちとの関わり、どこにでもあるあるなエピソードが盛り込まれています。カリスマ主婦で実業家、テレビのコメンテーターまでやってる人って、いましたよね。あの人か?ウェンズデーが人間の学校に入学したことで、人間と関わらざるを得なくなるのですが、この知らない者同士が歩みよって行く過程も丁寧に描かれています。アニメ版2もできてほしいなぁ。(白)


何となく知っているけれど、実はよく知らなかったアダムスファミリーについて、本作は家族の成り立ちからしっかり描いているので、初心者にはぴったり。しかもキャラクターがきもかわいいので、ホラーが苦手な人でも大丈夫。
モンスターも人間も変わらない。愛する人と心地よく暮らしたいだけ。ただ、その心地よさが違うのが問題なのよねぇ。嫁姑問題が人間だけではないことには思わず笑ってしまいます。
いくつものドタバタの末、あの人がそんな決断をするのという想定外に驚くけれど、みんなが幸せになる結末に気持ちよく映画館を後にできること間違いなしです。(堀)


2019年/アメリカ/カラー/シネスコ/87分
配給:パルコ、ユニバーサル映画
(C)2020 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved. The Addams Family (TM) Tee and Charles Addams Foundation. All Rights Reserved.
https://addams-movie.com
★2020年9月25日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 18:53| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ヴィタリナ   原題:Vitalina Varela

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監督:ペドロ・コスタ 
出演:ヴィタリナ・ヴァレラ、 ヴェントゥーラ マヌエル・タヴァレス・アルメイダ、フランシスコ・ブリト、マリナ・アルヴェス・ドミンゲス、ニルサ・フォルテス

闇の中、一列になって黒人の男たちが歩いていく。十字架の並ぶ墓地。
リスボンの片隅、移民たちが暮らす、フォンタイーニャス地区。
暗く狭い部屋。小さな祭壇の傍らに座る女性ヴィタリア。夫が亡くなった知らせを受けて、カーボ・ヴェルデから駆け付けたが、3日前にすでに葬儀は終わっていた。
弔いにきた男たちに、ぽつりぽつりと語るヴィタリア。
「1982年の12月14日に婚姻届を出し、1983年3月5日に結婚式を挙げた」
「出稼ぎ先のポルトガルからカーボ・ヴェルデに一時帰国して、牝牛1頭売って、45日で10室も部屋のある立派な家をひとりで作ってくれた。別れも告げずにポルトガルに帰ってしまって、ドアや窓は私が作った。完成した家を夫は見ていない」
「リスボン行きの切符が届くのを40年待った」
ヴィタリアは夫が過ごしたリスボンの家で暮らす決意をする・・・

ペドロ・コスタ監督は、『ホース・マネー』を撮影中の2013年秋、カーボ・ヴェルデからやってきたヴィタリアに出会う。まさに、亡き夫の家に着いたばかりだった。連日、家に通って彼女の話を聞きだしたのが、本作の始まり。演じたのも、ヴィタリア本人。2019年ロカルノ国際映画祭でみごと女優賞を受賞。『ヴィタリア』は最高賞である金豹賞も受賞し、まさに作品の力。
ヴィタリアには夫が一時帰国したときにできた子どもが二人。夫は故郷に立派な家も作りながら、なぜ一生を狭いリスボンの暗く狭い家で終えたのか・・・ その狭い家で暮らすことを選んだヴィタリア。夫と長く一緒に暮らせなかったことへのヴィタリアの思いが感じられて切ない。(咲)


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2015年山形国際ドキュメンタリー映画際『ホース・マネー』上映時のペドロ・コスタ監督 撮影 宮崎暁美


2019年/ポルトガル/ポルトガル語・クレオール語/DCP/130分 
配給:シネマトリックス
公式サイト:http://www.cinematrix.jp/vitalina/
★2020年9月19日(土)ユーロスペースにてロードショー、全国順次公開

posted by sakiko at 13:15| Comment(0) | ポルトガル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵  原題:Escape from Pretoria

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監督:フランシス・アナン
原作:ティム・ジェンキン「脱獄」(同時代社刊)
出演:ダニエル・ラドクリフ、イアン・ハート、ダニエル・ウェバー、ネイサン・ペイジ、スティーブン・ハンター

1970年代、アパルトヘイト下の南アフリカ。ティム・ジェンキン(ダニエル・ラドクリフ)とスティーブン・リー(ダニエル・ウェバー)は、白人でありながらネルソン・マンデラ率いる反アパルトヘイト組織「アフリカ民族会議(ANC)」に加わり活動していた。1978年6月、爆破装置を使用してチラシを散布していたのが見つかり、白人政治犯専用のプレトリア刑務所に収監される。
看守長から「国と白人を裏切った“白人のマンデラ”」と揶揄される。マンデラと共に終身刑の判決を受けた政治犯の長老デニス・ゴールドバーグ(イアン・ハート)からは、「我々は“良心の囚人”。犯罪者じゃない。逃げずに闘え」と言われながら、ティムたちは抵抗の意思表示をするために脱獄を決意する。同調したレオナールと3人で脱獄方法を模索する。収監23日目、独房の鍵穴を見つめていたティムは、木片で鍵を作ることを思いつく。木工所で作業しながら、木片を隠して持ち帰り、鍵を試行錯誤で作る日々が始まる・・・

アパルトヘイト政策下の南アフリカで育ったティム-ジェンキンの自伝「脱獄」(同時代社刊)を基に製作された実話。なので、脱獄に成功したのはわかってはいるものの、10もの鉄の扉を開ける鍵を作り上げて、看守たちに見つからないように外に出るまで、ハラハラどきどき。脱出まで300日近く! その忍耐力と執念に驚かされます。
もう一つ驚いたのは、差別の対象でない白人が抵抗運動をしていたこと。アパルトヘイトの国らしく、白人専用の刑務所があったのは理解できるのですが、専用の刑務所が必要なほど、白人の政治犯が多くいたことに、なぜ彼らは抵抗運動をしたのか興味津々です。黒人用の刑務所と待遇に差別はあったのかも気になります。(咲)


アパルトヘイトについて取り上げた、御堅い作品ではありません。白人の主人公がアパルトヘイトに反対して投獄されるものの、鍵の形を記憶して、木片で合鍵を作って脱獄するという、ハラハラドキドキのエンターテインメント寄りの作品です。主人公を演じたのはダニエル・ラドクリフ。『スイス・アーミー・マン』では死体役でしたが、今回はちゃんと生きています。『ハリー・ポッター』の頃の印象がすっかりなくなっているのを感じます。
鍵の製作、リハーサル、本番。それぞれ違った緊張感が作品を盛り上げます。ぽたっと落ちた汗1つで不安が生じました。実話モノなので結果はわかっているものの、最後まで目が離さない演出の先にあるラストは爽やかです。(堀)


2020年/イギリス・オーストラリア/106分/G/
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:アット エンタテインメント
© 2019 ESCAPE FP HOLDINGS PTY LTD, ESCAPE FROM PRETORIA LIMITED AND MEP CAPITAL, LP
公式サイト:http://www.at-e.co.jp/film/escape/
★2020年9月18日(金)シネマート新宿、ユナイテッド・シネマ豊洲ほか全国順次公開




posted by sakiko at 13:09| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

友達やめた。

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監督・撮影・編集:今村彩子
音楽:やとみまたはち/ギター:鈴木裕輔/ピアノ:奥村真名美
CG:瀧下智也/イラスト:小笠原円
文字起こし:野村和代、江川美香
手話通訳:北村奈緒子
英語翻訳:William J.Herlofsky
翻訳協力:河合世里子
出演:今村彩子(あやちゃん)、まあちゃん

空気を読みすぎて疲れてしまい、人と器用につき合うことができないまあちゃんは、大人になってからアスペルガー症候群(アスペ)と診断された。わたし(あやちゃん)は「大丈夫、わかりあえる」と思っていたれど、小さなことのすれ違いが積み重なっていく。二人の仲がギクシャクするたび、これは彼女がアスペだから? それとも、わたし自身の問題なの? いい人でいなくちゃと悶々とする。まあちゃんと友達でいるために、わたしは自分たちに向けてカメラを回しはじめた…はずが、たどりついた答えは「友達やめた。」?!

『Start Line』から4年。今村彩子監督は新たな葛藤と向きあった。上映会がきっかけで知り合ったアスペルガー症候群のまあちゃんとのやりとりを映画にした。友達って何? 普通ってどういうこと? コミュニケーションとはなに? 「まあちゃんと私」、ふたりの違いから生まれたすれ違いを映画にした。
ほっこりするような部分もあったけど、観ている途中から、だんだん心がひりひりしてきた。そして、画面の中のスマホの文字が読み取れず、話が途中で内容や進み具合がよくわからなくなってしまった。この映画に限らず、最近、スマホやパソコンでのメールなど、文字のやりとりを画面上に出すことが多いけど、その字が小さすぎて読み取れず、そういうシーンが出てくるとお手上げ状態。せめて、もう少し字が見える大きさや、画面の字を読み取る時間をもう少し多く取ってくれるといいのになと思ってしまう今日この頃。年をとってくると文字が読み取りにくくなっているのを実感(暁)。

今村監督に1時間お話を伺いました。今村監督は発話ができるので、手話通訳さんが私の側にいて手話で今村監督に伝えます。監督はゆっくりはっきり口を動かせば、相手の言葉も読み取れます。ときどき言葉を補うように監督の手が動いて(美しい)、それを私が読み取れたならいいなぁと思いました。動画サイトにたくさん手話の解説があるので、やってみよう。覚えたはしから忘れていくんだけれど(苦笑)。
頑固な二人(笑)のやりとりを観ていて、ああ自分はどっちかというとまあちゃんだなぁ。人見知りだったのが転校や引っ越しを何度もして、だんだん変わってきたのです。そうは思ってもらえませんが。相手にちょっとずつ歩み寄って、わからないところも含めて、二人が友達でいられればいいなと思いました。(白)
☆今村彩子監督インタビューはこちらです。

2019年/日本/カラー/DCP/84分
配給:Studio AYA
(C)2020 Studio AYA
http://studioaya-movie.com/tomoyame/
★2020年9月19日(土)より劇場公開とネット配信を同時スタート。
新宿K’s cinemaほか全国順次公開。

posted by shiraishi at 12:53| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)

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監督:星野哲也
出演:菅原正二、

岩手県一関市で営業を続けるジャズ喫茶ベイシーは50周年。マスターの菅原正二がこだわりぬいた唯一無二の音にひかれて、世界中からジャズファン、オーディオファンが集まってくる。より良い音を再現するため、開店以来使い続けるJBLのオーディオシステムに日々調整を重ねる。故に、菅原が不在で営業したことは1日たりとも、ない。そうして生み出された音は、聴く者に、演奏者がその場に現れたかのような錯覚を起こさせる。本作では、そんな菅原がかけるカウント・ベイシー、マイルス・デイヴィス、セロニアス・モンクなど名だたるプレイヤーたちのレコードを、アナログ録音の伝説的名器「ナグラ」で生収録。

ジャズ祭りが続いています。4Kで8月21日より公開のドキュメンタリー映画『真夏の夜のジャズ』、9月4日より公開の『マイルス・ディヴィス クールの誕生』、続いて本作。知る人ぞ知る一関の名店「ジャズ喫茶ベイシー」のオーナーはダンディな菅原正二氏。菅原氏へのインタビューを中心に、名だたるジャズプレイヤーたちの演奏、著名人たちへのインタビューなど盛りだくさんのドキュメンタリーです。「カッコいい音を出したい」という菅原氏本人、彼が丹精したシステムから流れる音もカッコいい。
音にこだわる良い耳をお持ちの方、それほどではないという方もぜひ音響設備の良い会場でどっぷりと浸ってご鑑賞ください。(白)


来日したジャスピアニストのカウント・ベイシーは、自分の名前を冠したジャズ喫茶があると知って、わざわざ一関まで足を運んだそうです。勝手に名前を借りたと謝る菅原さんに対して、笑って「Swifty」の愛称まで付けてくださったとか。それからも何度か来店して、演奏も。ベイシーの名前を付けた甲斐がありましたね♪ (咲)

2019年/日本/カラー/104分
配給:アップリンク
(C)「ジャズ喫茶ベイシー」フィルムパートナーズ
https://www.uplink.co.jp/Basie/
★2020年9月18日(金)アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

☆ジャズ喫茶ベイシーのHPはこちらです。
posted by shiraishi at 12:53| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブリング・ミー・ホーム 尋ね人(原題:Bring Me Home)

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監督・脚本:キム・スンウ
撮影:イ・モゲ
出演:イ・ヨンエ(ジョンヨン)、パク・ヘジュン(ミョングク)、イ・ングン(スンヒョン)、ユ・ジェミョン(ホン)

看護師のジョンヨンは6年前に一人息子ユンスが公園で遊んでいて、失踪してしまった。以来夫のミョングクと二人で行方を捜している。記憶は7歳の面影のままのユンス、自分たちを忘れていないだろうか。捜索の旅の途中事故が起きて、ジョンヨンはショックで立ち直れない。そこへユンスに似た子がいるとの情報が寄せられる。マンソン釣り場で働く男の子の特徴がユンスと共通していた。一縷の望みをかけて釣り場へ向かうジョンヨン。釣り場を営む家族や従業員、土地の警察のホン警長まで、知らないの一点張り。疑惑がぬぐえないジョンヨンは諦めず、真夜中に忍び込むことにした。

キム・スンウ監督がこの脚本を書き始めたきっかけは、子どもを探す親が書いた横断幕を目にしたことから。子どもが行方不明になる事件は洋の東西を問わず無くなりません。自分も人の子として生まれながらよその子を攫い、いくばくかの金儲けの手段にしたり、快楽の対象にしたりする輩は、なんの痛痒も感じないのでしょうか(天罰を!)。
イ・ヨンエ主演作は2005年公開『親切なクムジャさん』以来です。自らも母になって、それ以前の作品選びや演技とは変化があったと語っています。掌中の珠である一人息子が行方不明になり、わずかな手がかりを求めて探し回るジョンヨンの姿に世の母親は胸をかきむしられるような思いで共感するはずです。疑わしい人間たちに壁やガラス戸に叩きつけられるアクションもあり、その激しさに思わず息を飲みました。
イ・ヨンエの迫真の好演と共に、憎まれ役を演じた助演の方々に最敬礼。行方不明の子どもたちが親元に戻れるよう祈りつつ。(白)


児童労働という社会の闇を描いた作品ですが、その児童は人身売買によって集められたことが推察されます。いったい韓国では年間どのくらいの子どもが失踪しているのか。ネットで調べたところ、3万人という数字が出てきました。とんでもない数字に驚いて、日本の子どもの失踪数も調べたら、平成28年の警察庁のデータによると、平成24~28年の9歳以下の子どもの失踪数は1000人前後と判明。この差はいったい何なんだろう。
しかし、親にとっては人数の問題ではありません。韓国であろうと、日本であろうと自分の子どもがいなくなったら、それはとても辛い。(白)さんも書かれていますが、お金儲けのために誘拐する人には、ほんと、天罰を喰らわせたい!
ただ、悪いのは人身売買に直接、関わっている人だけではないと作品から伝わってきます。周りの人間の無関心さが事件の隠ぺいを助長してしまいました。また、6年もの間、必死に息子を探し続けてきた主人公夫婦に襲い掛かった更なる不幸にも心が痛みます。軽い気持ちで人を騙してはいけません。私たちには関係ないといえる話ではないことを感じました。(堀)


2019年/韓国/カラー/シネスコ/108分
配給:ザジフィルムズ、マクザム
(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
https://www.maxam.jp/bringmehome/
★2020年9月18日(金)新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー
posted by shiraishi at 12:11| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月11日

メイキング・オブ・モータウン ( 原題: Hitsville: The Making of Motown )

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監督:ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー
出演:ベリー・ゴーディ、スモーキー・ロビンソン

1959年、ベリー・ゴーディが「タムラ・レーベル」をスタートさせたことから始まった音楽レーベル「モータウン」。スティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイ、ダイアナ・ロス&シュープリームスなどの楽曲が次々とヒットした裏には、「クオリティーコントロール」と呼ばれた品質管理会議の存在があった。一方で人種差別や暴動といった苦難を乗り越え、反戦などメッセージ性の強い楽曲なども発表されていく。

1960年代、「品質管理会議」と銘打った会議の様子が音声で流れる。 ここは米国ミシガン州デトロイトに在る愛称"ヒッツヴィルUSA"。音楽レーベル「モータウン」創設者のベリー・ゴーディJr.を中心として、
やれ「シュプリームスはどうする?」だの「グラディスナイトを推すか?」とか、数人が声を荒げて、”商品の品質管理”を議論しているのだ。いやぁ〜、面白い!
ミラクルズ、テンプテーションズ、ダイアナ・ロス&シュプリームス、フォー・トップス、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、ジャクソン5といったキラ星の如きスターたちが所属し、何をどう売るか?販促は?と日夜”品質管理”されていた現場なのだ。

主に語るのは、ベリー・ゴーディJr.と、アーティスト・作詞作曲・プロデューサーでもあるスモーキー・ロビンソン(若い!)。スタンダードナンバー「ゲット・レディ」をバックに、当時の街並みや風俗が映し出される。自動車生産拠点として夢の街だったデトロイト。興味深いことに、 商才に長けていたゴーディJr.は、車の工場組立ラインは、音楽プロデュース工程と同じだと語る。 生産工程を計画し、品質管理を頻繁に行う。モータウンサウンドの高品質が担保されていたのは、デトロイト発祥だったからなのだ。

オーディションにやって来た幼児のようなマイケル・ジャクソンの可愛らしさ。12歳で既にワンダー(奇跡)だったスティービー・ワンダーは楽器も歌も何でもござれ!舞台で観客を煽りながら、そのまま作曲したライブなど貴重な映像が満載だ。
レーベルの人気メンバーがツアーで南部を訪れた時、初めて知った差別体験。白人専用トイレや水飲み場など知らない彼らは、警官に銃を突きつけられ、
「場所を間違うと命懸けなんだな」
と述懐する場面は重い。ロープが張られ、黒人と白人が分けられた客席の映像はリアルだ。
レーベルでは、当時ドラッグカルチャーだったサイケデリックソウルを良しとせず、 商業路線で政治は扱わない方針を「世相を映す曲もありだ」と認めた。結果、マービン・ゲイ が黒人運動と変革を求めた名曲「What's going on」を生み出した過程は、今の米国の黒人差別問題とも繋がっている。数多のモータウンサウンドが現代にも普遍性を持つ理由が分かった気がした。(幸)


長年の盟友ベリーとスモーキーの二人が過去の思い出を語り、懐かしい映像が挿入されます。日本でも多くの洋楽が紹介され、いくつもあった音楽番組では日本語訳されたカバー曲が歌われました。作品中によく聞いた歌が紹介されるたびに、当時のあれこれが思い出されます。なんの知識もなく聞いていたあの楽曲がこの人たちに生み出され、会議にかけて選別、さらにブラッシュアップされて、遠い日本に届いていたんですね。あの印象的なギターリフの「マイ・ガール」byテンプテーションズがこうやって作られたのか!と知ったのは旧友に再会した気分でした。
「発見し、育成し、売り出す」ノウハウは日本の芸能事務所もそっくり同じでしょう。大ヒットすれば独立し、低迷すれば酒と薬に溺れるものが出てくる、というのも現在と変わりません。人種差別の問題は今も根深く残っています。
マイケル・ジャクソンとスティビー・ワンダーの少年時代は一見の価値あり。(白)


2019/カラー/5.1ch/アメリカ、イギリス/ビスタ/112分/
配給:ショウゲート 
公式サイト:http://makingofmotown.com
©2019 Motown Film Limited. All Rights Reserved.
★2020年9月18日(金)より、全国公開
posted by yukie at 21:27| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月09日

ミッドウェイ(原題:Midway) 

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監督・製作:ローランド・エメリッヒ 
脚本:ウェス・トゥーク 
出演:エド・スクライン、パトリック・ウィルソン、ルーク・エヴァンス、アーロン・エッカート、豊川悦司、浅野忠信、國村隼、マンディ・ムーア、デニス・クエイド、ウディ・ハレルソン

1941年の日本軍による奇襲とも言える真珠湾(パールハーバー)攻撃。戦争の早期終結を狙う山本五十六連合艦隊司令官の命により、アメリカ艦隊に攻撃を仕掛けたのだ。大打撃を受けたアメリカ海軍は、新たな指揮官に士気高揚に長けたニミッツ大将を立てた。両国の一歩も引かない攻防が始まる中、日本本土の爆撃に成功したアメリカ軍の脅威に焦る日本軍は、大戦力を投入した次なる戦いを計画する。
一方、真珠湾の反省から、アメリカ軍は日本軍の暗号解読など情報戦に注力し、情報部レイトン少佐が次の目的地をミッドウェイと分析した。限られた全戦力を集中した逆襲に勝負を賭ける。そしてカリスマパイロット、ディック率いる爆撃機が出撃し、総力をあげた激突へのカウントダウンが始まった。

アメリカ側の視点でミッドウェイ海戦を描いた作品だが、日本人に対するリスペクトとともに、日米双方の戦争で亡くなった方々への鎮魂の想いを強く感じる。ローランド・エメリッヒ監督はドイツ人としての責任感から日本人を単なる敵としてではなく、敬意を持って描くことを心掛けたそうだ。山本五十六に豊川悦司、山口多聞に浅野忠信、南雲忠一に國村隼をキャスティングしたことだけでなく、ほかの日本人役の俳優も正しい日本語のイントネーションでセリフを話すことからも伝わってくる。
アメリカ側のメイン人物の1人、ディック・ベストは日本の真珠湾攻撃で親友を失った。仇討ちに燃え、ミッドウェイ海戦では目覚ましい活躍をする。しかし、味方のためなら命を惜しまない戦い方を見ていると、特攻隊を思い出す。また空母と命を共にした山口多聞の描き方に、軍人としての危ない美学を感じてしまった。しかし、この作品を見て、軍人に対する行き過ぎたリスペクトをしないでほしい。ローランド・エメリッヒ監督も「多くの命が失われる戦争には勝者はなく、敗者しかいない」とも言っているのだから。(堀)


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太平洋戦争の勝敗を分けたといわれるミッドウェイ海戦。それに至るまでの日米の兵士たちの思いと葛藤、アメリカ側の作戦を史実に基づいて描いている。日本軍による真珠湾攻撃で大打撃を受けたアメリカは、日本が次はどのような作戦で来るのか、どこが次なる攻撃地になりそうか、日本軍の無線を傍受し暗号解読し冷静に分析し、どこで日本軍に打撃を与えることができそうかがというアメリカ軍の情報分析の様子が描かれ、ミッドウェイ海域での日本軍への攻撃目標をたてる。そして、ミッドウェイ海戦でのアメリカ軍の攻撃が描かれているのだけど、これを観て日本の作戦はアメリカに筒抜けだったんだと改めて思い、これではやはり全然勝ち目はなかったんだと思った。
それにしてもこの映画に限らず、戦争を描いた映画での戦闘シーンが多いのが気になる。戦争の悲惨さ、愚かさを描くのに必要というけど、本当にそうなのかといつも思う。やはり「手に汗握る戦いのシーン」を観たいという男の人が多いことのあらわれなのではないか。どんな風に戦ったのか、どのように飛行機や空母で働く戦闘員たちが動いたのか、そういうところに興味をもち、空中戦とか戦艦の姿とか、攻撃し散っていく飛行機や銃撃を受けて沈んでゆく軍艦の姿、戦った兵士たちの姿にかっこよさを感じたり、ある種の羨望というか、戦争美学のようなものをもっているのではないかとさえ思う。これまで、数々の戦争映画が作られてきたけど、戦闘シーンのない戦争を描いた映画は数少ない。戦いのシーンがない戦争映画なんて考えられないのかもしれないけど、せめて「戦闘シーンはかっこいい」と思わせないような映画が多くなることを願う。戦争は悲惨であるということをけっして忘れてはならない。昨今の寛容性のない世界事情を思うと、第3次世界大戦は絶対あってはならないとつくづく思う(暁)。


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よく父が、「兄さんが次はミッドウェイだぞ!」と言っていたのを思い出したので、父に確認してみたら、昭和17年(1942年)の春に、軍医として駆逐艦に乗っていた兄が南方から帰ってきたときに聞いた言葉とのこと。しばらくして府立高校の同級生が「次はミッドウェイ」というので、自分の方が先に知ってたぞと思いつつ、父は何も言わなかったそうです。その同級生のあだ名は「デマ」。よく戦況のことを得意げに話していたそうで、おそらく軍関係者が近親者にいて耳にしたことを学校で言っていたのでしょう。こんな調子だから、日本軍の情報は簡単に漏れてしまったのではと思ってしまいます。
昭和16年12月6日、父は現在の都立大学駅近くの蕎麦屋の2階で同級生たちと食事をしながらアメリカと開戦するかどうか議論になって、「アメリカと戦争したら負けるに決まってるからするはずない」と豪語。8日に真珠湾攻撃で戦争が始まってしまい、驚いたそうです。その後、父は昭和18年10月に大学に入った途端、学徒出陣が決まり、海軍に入隊。特攻隊で訓練していましたが、無事生き抜き、この9月98歳となりました。映画『ミッドウェイ』をぜひ観てみたいと言っています。私からみて、日本軍のことも公平な目で描いていると思ったので、父がどんな感想を持つのか興味津々です。(咲)


2019年/アメリカ/カラー/138分
配給:キノフィルムズ/木下グループ
Midway ©2019 Midway Island Productions, LLC All Rights Reserved.
公式サイト:https://midway-movie.jp/
★2020年9月11日(金) TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー

posted by ほりきみき at 01:16| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月06日

ホテルニュームーン  原題:mehmankhane mahe no 英題:Hotel New Moon

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監督:筒井武文
脚本:ナグメ・サミニ、川崎純 
撮影:柳島克己 
編集:ソーラブ・ホスラビ 
プロデユーサー:ジャワド・ノルズベイギ、ショーレ・ゴルパリアン、桝井省志 
出演:ラレ・マルズバン、マーナズ・アフシャル、永瀬正敏、アリ・シャドマン、小林綾子

イランの首都テヘラン。大学生のモナは、小学校の教師を務める母ヌシンと二人暮らし。父は自分が生まれる前に山で友達を助けようとして滑落して亡くなったと聞かされている。モナはボーイフレンドのサハンドと一緒にカナダへの留学を画策しているが、母は門限も8時と何かと厳しく、言い出せないでいる。そんなある夜、母が化粧をして出かけるのを知り、そっと後をつけ、ホテルで見知らぬ日本人男性と会っているのを見てしまう。
母が隠したパスポートを家探ししていたモナは、若かりし頃の母が赤ちゃんを抱いて、先日会っていた日本人男性と一緒に映っている写真を見つける・・・

日本イラン国交90周年の2019年に日本イラン合作で完成させた映画。
発端は、イランで映画の撮影現場を訪れた筒井監督が、そのエネルギーに惚れ込み「現在のイランで生きる若者たちの物語を作りたい」と思ったことから。脚本を、国際交流基金の招へいで半年間日本に滞在したことのあるナグメ・サミニに依頼。母と娘の物語を紡ぎだしました。母ヌシンは、1990年初頭、日本に出稼ぎに来ていた設定で、日本とイランの現代史も盛り込んでいます。
娘の父親のことをひた隠しにすることに、日本の観客は違和感を覚えるかもしれません。出来ちゃった婚を、今や授かり婚と称する日本と違って、イランでは未婚で身籠ることは今でも恥。大っぴらに言えないそうです。離婚は結構多いので、シングルマザーは普通にいるのですが。
また、本作には今どきのイランがさりげなく語られています。  
アプリでタクシーを呼ぶ、鼻を低くする整形手術、服装チェックで警察に捕まる、女子学生の多い大学の教室、海外への留学、おしゃれなカフェ、山の手のホテルと下町のホテル、モダンなアパートメントと昔ながらの住宅街・・・
ニュースが伝える宗教国家イランというイメージとは違う、イランの普通の人々の暮らしを垣間見ることができます。 
日本側のプロデューサーを務めたショーレ・ゴルパリアンさんに本作製作の裏話を伺いました。イラン側のプロデューサーが商業映画をずっと作ってきた方で、受けを狙ってくだらない場面を入れようとする彼とのバトルが大変だったという話が可笑しかったです。詳細は後日お届けします。(咲)


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スタッフ日記:『ホテルニュームーン』ショーレさんにイランとの合作の苦労を伺いました (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/476406482.html

2019年/日本・イラン/95分/1:1.85/カラー
制作プロダクション:アルタミラピクチャーズ 
製作:ガーベアセマン、アルタミラピクチャーズ、Small Tark
提供:スモールトーク 
配給:コピアポア・フィルム
公式サイト:http://hotelnewmoon2020.com/
★2020年9月18日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー



posted by sakiko at 02:18| Comment(0) | イラン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月05日

新しい街 ヴィル・ヌーヴ ( 原題:Ville Neuve )

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監督: フェリックス・デュフール=ラペリエール
出演:ロベール・ラロンド、ジョアンヌ=マリー・トランブレ、テオドール・ペルラン

アルコール依存症の詩人ジョゼフは、離婚した元妻のエマを思い出の地である「ヴィル・ヌーヴ」に呼び出す。やり直せるかに見えた二人だったが、独立運動の盛り上がりと同時に、彼らの関係に新たな波乱が生じる。

まるで、”アニメーション版タルコフスキー”とでも称したいほど詩情溢れる作品だ。タルコフスキーの特徴である”水”の象徴性は、海辺の小屋や波、白い魚、水溜まりといった対象に呼応する。
作中でも、題名こそ示されないが、タルコフスキー作『アンドレイ・ルブリョフ』の挿話が引用される。
「鐘を造る映画を見た。 息子は父から鐘造りの秘伝は教わっていなかった…」
「鐘」は『アンドレイ・ルブリョフ』の中でも最も印象的な挿話だったため、タルコフスキーへのオマージュの感を強くした。

全編が墨絵・手描きで作られた本作は、米国の作家レイモンド・カーヴァーの「シェフの家」にインスパイアされた。原作は意外な程の短編である。元妻に未練を持つ中年男の物語を自由に翻案し、カナダ・ケベック州の独立運動を織り込んだ。
政治的な主題と愛情を交錯させつつ、国且つ人々の独立していく様を情感豊かに綴った脚本は出色といえる。

大人のためのアニメーションだが、決して政治色が強くも難解でもない。抽象的な表現こそ目立つものの、安易なカタルシスを求めがちなアニメーションが跋扈する中、一石を投じる作品だ。
監督はこれが初長編アニメとなるフェリックス・デュフール=ラペリエール。”映像詩人”の系譜を受け継ぐ監督がカナダに現れたことが素直に嬉しい。(幸)


配給・宣伝:ニューディアー
配給協力:植田さやか
2018年製作/76分/カナダ
後援:カナダ大使館
協力:ケベック州政府在日事務所
©L'unité centrale
公式サイト:http:// newdeer.net/ville
★9月12日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
posted by yukie at 20:47| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

窮鼠はチーズの夢を見る

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監督:行定勲
原作:水城せとな
脚本:堀泉杏
音楽:半野喜弘
出演:大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子

優柔不断な性格から不倫ばかりしてきた大伴恭一(大倉忠義)の前に、ある日、妻から派遣された浮気調査員が現れる。その調査員は、卒業以来会っていなかった大学の後輩・今ヶ瀬渉(成田凌)だった。彼は、体と引き換えに不倫を隠すという取り引きを恭一に提案する。恭一は拒否するが、今ヶ瀬の真っすぐな気持ちに触れるうちに、二人の時間に少しずつ心地よさを感じるようになる。

今年はBL邦画の豊作といえるだろう。行定勲演出は、同性愛を主題とした既存の映画と異なり、彼らが立ち向かう社会との葛藤には関心がないようだ。ひたすら、人が人を愛すること、個人の内心を描こうとする話法に好感が持てた。

異性、同性を問わず、恋愛映画にはキャスティングが重要な要素を占める。慕う者と惚れられ役。演技巧者は断然、慕う側の成田凌だろう。猫のように靱やかな動き、弱みを握った交換条件に身体を求める強かさ、切ない気持ちの表現といった人物造形ぶりは鮮やかだ。
しかし、観ているうちに大倉忠義扮する先輩のほうが難役なのではないかと気付いた。主体性を持たず流されるままに相手を変えて行く。掴みようがなく何を考えているのか分からない男が、徐々に心身を曝け出す変容の過程は見ものだ。
ジャニーズでこれほどの濃厚な濡れ場を披露したのは初めてではないか。”らしくない”健闘に驚いた。
監督・演者とも覚悟が要ったことだろう。前半の流されていただけの大倉忠義が、後半のベッドシーンでは体位まで真逆になっているのだから…。

シンプルな家具が置かれた部屋に射す光線、一糸まとわぬ姿でリビングを歩く2人、スナック菓子を食べながらTVを見るシーンなど、何気ない日常を映し出すシネスコ映像が美しい。
近年の行定監督作では笑える場面が多く、軽快さが魅力となっている。
大倉忠義を巡る4人の女優の中では、さとうほなみが圧倒的な存在感を放つ好演を見せた。(幸)


括りとしてはBL作品になる。しかし、行定監督は本作で同性愛に留まらず、人を愛するが故の苦しみとその先にある希望を描こうとし、その思いに大倉忠義と成田凌が応えた。 

素行調査をする探偵の今ヶ瀬と対象者の大伴。思わぬ再会をし、大伴の不倫をもみ消す代償にキスを求めた今ヶ瀬は舌を入れて大伴を驚かす。

誰かを好きになったことがある人はわかるだろう。最初は姿が見られるだけでいいと願い、それが叶うと声が聞きたくなる。相手と話がしたい、触れたい、そして。。。想いはどんどんその先を求めてしまう。相手との距離が縮まれば縮まるほど、願いが叶わないときの苦しみが強くなる。そんなジレンマを成田凌が見事に体現した。この役は成田凌以外に考えられないほどの適役に思えるが、脚本を読んだ成田凌は大伴でも今ケ瀨でもいいから参加したいと名乗り出たという。そんな話を聴くと成田凌の大伴が見たかった気がするが、贅沢は言うまい。

成田凌の完璧な今ヶ瀬は予想通りであるが、本作のもう一つの見どころは大伴の変化。学生時代の元カノに流れ侍と言われていたように流されるままに女性と付き合ってしまう大伴が本気で人を愛するとはどういうことかを知り、変わっていく。一歩間違えるとクズになってしまう役どころを大倉忠義が好感を持たせて演じた。
ラストは原作とは違うそうだが、今ではなく未来に幸せを予感させ、後味がすこぶるいい!(堀)


上の二人が言いつくしているので、私はファントム・フィルムの公式youtubeのお知らせを。「大倉忠義&成田凌スペシャル対談映像」(前編・後編)がアップされています。黒のスーツの大倉さん、白のスーツの成田さんが質問に10秒で答える即答テストが楽しいです。(白)

2020年製作/130分/R15+/日本/カラー/シネマスコープ/DCP5.1ch
配給:ファントム・フィルム
(C) 水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
公式サイト:http://www.phantom-film.com/kyuso/
★9月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開
posted by yukie at 16:50| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

れいわ一揆

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監督・撮影:原一男
製作・撮影:島野千尋
出演:安冨歩、山本太郎ほか

東京大学東洋文化研究所新世代アジア研究部門の安冨歩教授は、最も自然に生きられるとして、女性の服を着る女性装を実践する。彼は、山本太郎が代表を務める「れいわ新選組」から参議院選挙に出馬することを決意し、「子供を守ろう」をスローガンに全国各地を回る。

昭和・平成を通じてドキュメンタリー映画を撮り続けてきた原一男監督。『ゆきゆきて、神軍』『全身小説家』、『さようならCP』、『極私的エロス 恋歌1974』、『ニッポン国VS泉南石綿村』などなど、一連の作品は常に時代を反映し、ドキュメンタリー史上に残る傑作・問題作といえる。今回、原監督の作品群に加わる新作は、”選挙エンターテインメント”とでも呼ぶべき異色作。2019年の参議院選挙で注目を集めた「れいわ新選組」の候補者たちを追ったドキュメントである。これまでにも過激な登場人物を扱ってきた原監督だが、今回は、とりわけ強烈な個性を放つ候補者たちが10人いる。
何がどう動くか分からない。手練れの原監督もさぞ苦労したのでは…と思いきや、「楽しかった!」そうなのだ。何年もかけてじっくりと対象を追うのが原監督の撮影スタイルというイメージがあるが、今回は短期決戦。

予期せぬ出来事の連続に、『ゆきゆきて、神軍』よろしく場内は爆笑の連続!拍手喝采が起こるほど沸き立った映画は久しぶりである。もちろん原監督は笑わせようと創作しているのではない。候補者たちの発言、行動、周囲の化学反応が笑いの渦を巻き起こしていく。

本作は、れいわ新選組のPR 映画ではない。それでも、これほどまでに面白く興味深い対象を目の辺りにしたら、編集にも工夫を凝らしたくなるのは分かる。安倍政権批判のイメージを分かりやすくイラスト動画にしてみたり…。切れ味の良いテンポや、見るもの全てを逃すまいとするカメラ。スタッフワークの奮闘ぶりが、”エンタメ性”を際立たせている。どこがどう面白いのかは観てのお楽しみ。
今年、必見のドキュメンタリーをお見逃しなく!(幸)


実を言うと、私が「れいわ新選組」の名前を知ったのは選挙開票当日。それまで全然知らなかったし、「れいわ新選組」という名前を聞いて「なんだろうこの党名」という思いがあった。なぜなら、私は「天皇制は差別の元凶」と考え、「天皇制の象徴としての元号」を50年以上、ほとんど使ってこなかった。勤めた会社でも西暦を使っていたので、使うのはお役所の書類などだった。「新撰組」を好きでなかったので、よけい「れいわ新選組」という名前は「胡散臭い」と思った。
それに、この主人公である東京大学東洋文化研究所の安冨歩教授は「もっとも自然に生きる事ができる」スタイルとして、女性服を着る「女性装」を実践しているという。一方、私はこの「女性装」の代表例となる、「スカート、ハイヒール、化粧」は、女性の活動範囲を狭めたり、女らしさの押し付けとして、社会に出た時から避ける生活をしてきた。なので「女性装が最も自然に生きられる」なんて考え方には全然同調できなかったので、この映画を観始めた時にはどうなるだろうと思ったけど、「れいわ新選組」の他の候補が出てからはがぜん面白くなった。ユニークな候補者たち。いろいろな社会背景、問題意識をもった候補者たちの主張が魅力的だった。その中でも心動かされたのはシングルマザーの渡辺てる子さん。彼女の訴えていたシングルマザーの苦しい家庭を訴える演説がだんだんエスカレートしていく姿、演説がうまくなっていく様に感動した。
私は長い間の選挙経験から、選挙そのものに期待していなかったし、信用もしていなかった。私が投票した人で当選した人がほとんどいなかったから。それでも選挙にはだいたい行っていた。でも自分が投票した人が当選しないというむなしさは選挙に魅力を感じないと思わせるには十分。きっとそういう人がたくさんいるから投票率も高くないのだろう。一人か二人しか当選者がいないという、この小選挙区の選挙制度は少数意見が反映されないのでおかしいと思う。いつのまにかそういう選挙制度になっていた。
でもこの参議院選挙で「れいわ新選組」から二人の当選者(舩後靖彦と木村英子)が出た。しかも当選した二人は重度の障害者だった。それには少し希望を持った。私は60歳でリタイアするまで障害者が作った会社(障害者、高齢者のためのリハビリ機器を扱う会社)に勤めていたし、今は私自身が障害者になってしまったので。
胡散臭い思いで観始めた『れいわ一揆』だったけど、やっぱり原監督が作るドキュメンタリーは面白い(暁)。


こちらでも『れいわ一揆』を紹介しています。
シネマジャーナルHP 映画祭報告
東京国際映画祭(2019)レポート 『れいわ一揆』紹介
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/472866751.html

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『れいわ一揆』スタッフ&出演者たち(撮影 宮崎暁美)
第32回東京国際映画祭(2019)オープニングのレッドカーペットで


2019年製作/248分/G/日本/DCP / 16:9
配給:風狂映画舎
(C) 風狂映画舎
公式サイト:http://docudocu.jp/reiwa/index.php
★20209月11日(金)よりアップリンク渋谷ほか全国公開★ 





posted by yukie at 12:53| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

カウントダウン(原題:Countdown)

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監督・脚本:ジャスティン・デック
撮影:ジャスティン・デク
出演:エリザベス・ライル(クイン)、ジョーダン・キャロウェイ(マット)、

パーティで大騒ぎの最中、自分の余命がわかるアプリの話題で盛り上がった。何人もが冗談だからとダウンロードしていて、コートニーも誘われる。なんと余命3時間と表示されて、気分が悪くなり先に帰宅する。恋人のエヴァンが車で送るというが、すでに酒を飲んでいた。断って一人歩いて帰宅するが、エヴァンの車は事故を起こし、アプリが通知した時間にコートニーは自宅で死亡した。入院先でエヴァンも謎の死をとげる。看護師のクインはエヴァンの死に疑問を持ちながら、アプリをダウンロード、彼女の余命は3日だった。

スマホがなければ夜も日も明けない人が多い昨今、この映画はグサグサと刺さるでしょう。誰がどんな目的で作ったかわからないものを、面白そうとダウンロードしたばかりに不安にさいなまれ、挙句余命どおりに次々と命を落とす人たち。悪意のあるものかも、と少しは疑ったらどうなんでしょ?
余命の話で、2015年の『神様メール』を思い出しました。ベルギーのジャコ・ヴァン・ドルマル監督のオリジナルで、横暴な神様に怒った神の一人娘エアが世界中の人々に死期を知らせるメールを送信したというストーリーです。パニックに陥る人々をちゃんとケアするエアが可愛い。
こちらの『カウントダウン』はそうじゃなくてじわじわ怖いので、心してご覧ください。あなたは余命を知りたいですか?小心者の私は、いつその日が来るかわからないままがいいです。毎日大切に生きましょう。(白)


アプリをダウンロードしたらすぐに死ぬわけではありません。余命がわかるだけです。
ただ、メインの登場人物たちの余命があと数日だったということで、話は急展開していきます。
彼らが“運命は自分で切り開く”とばかりに抵抗すると、アプリは「利用規約違反」と表示。本来、死ぬはずだった原因以外で死んでしまう人も。主人公の看護師は職業的知識を駆使して、自分の運命に抗うのですが、かなりドキリとするので覚悟あれ!
しかし、余命が長く表示されるとみんな安心しているのですが、それって若いからだよなぁ。私なんて、今、もし、余命が100歳なんて表示されたら、それはそれで恐怖かも!家族に迷惑を掛けない程度の標準的な寿命であってほしい。(堀)


2018年/アメリカ/カラー/90分
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
(C)2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://countdown-movie.jp/
★2020年9月11日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 10:57| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする