2020年08月30日

宇宙でいちばんあかるい屋根

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脚本・監督:藤井道人
原作: 野中ともそ「宇宙でいちばんあかるい屋根」(光文社文庫刊)
出演:清原果耶、桃井かおり、伊藤健太郎 水野美紀 山中 崇 醍醐虎汰朗 坂井真紀 吉岡秀隆

14歳のつばめ(清原果耶)は、父親と血のつながらない母親との3人暮らし。両親に子供ができたことから生まれる疎外感とともに幼なじみの大学生への恋心も抱いていた。ある日、つばめは唯一の心休まる場所だった書道教室の屋上で派手な老婆がキックボードに乗って空を飛んでいる姿を見かける。つばめは「星ばあ」と呼ぶことになったその老女に恋や家族の話をするようになり……。

改めて藤井道人監督の振れ幅の大きさに驚かされた。コメディタッチの『オー!ファーザー』、独特な閉塞感と作家性を表現した『幻肢』、お蔵入りの危機を乗り越えたと思えない爽快な『青の帰り道』、人間の二面性に着目した『デイアンドナイト』、『新聞記者』は昨年の日本アカデミー賞を受賞し、社会派とエンタメ性の均衡が取れていた。そして、本作のファンタジーと叙情性…。それぞれ別な監督がメガフォンをとっているかのようだ。

列挙した作品群の実績からも、完成度の質は担保された監督といえる。

星々が瞬き、満月が照らす夜空。空撮映像で鮮やかに彩られる屋根。カーテンを通した柔らかな光線。青空に呼応する海の色。少女が横たわる緑の草原…。
これまでの作品と比して、自然描写が著しく眼に焼き付いた。主役のつばめの心象風景と同一化する意図が、藤井監督に有ったのかもしれない。

一方、ゆったりとしたリズムが、時に緩慢な印象も受け、藤井監督らしさが削がれているとも感じた。水墨画個展の場面などは編集のテンポをもう少し速くしたほうが全体的に小気味良さが生まれたのではないか。

物語としては、つばめと星ばぁの交流が楽しく、桃井かおりが身体性と精神性の靱やかさを表出して出色である。(幸)


いつも優しいお向かいの大学生のお兄ちゃんに憧れる主人公のドキドキ感がファンタジーなストーリー展開と相まってほんわかと伝わってきます。
そして、かつて、憧れのお姉さん的存在だった桃井かおりがノーメイクで登場。「声は確かに桃井かおりなのに。。。」と時代の流れを否応もなく感じさせられましたが、キックボードで空を飛ぶ星ばぁという設定も桃井かおりが演じることで妙なリアリティが生み出されました。
主人公のほかにも、いくつかの淡い恋物語を描きつつ、作品のベースにあるのは家族の絆。幼い頃に両親が離婚し、再婚した父と義理母に育てられた主人公は義理母の妊娠に戸惑いが隠せません。お向かいのお兄ちゃんの家にも問題が起きますし、超越した存在のような星ばぁさえ実は家族の問題に蓋をして生きてきたのです。
登場人物たちは失敗もするけれど、前に進もうと奮闘します。家族だから我慢したり、諦めたりするのではなく、家族だから思いはちゃんと伝えなきゃ。作品は見る者の背中もそっと支えてくれることでしょう。(堀)


配給: KADOKAWA
© 2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会
2020年製作/115分/G/日本
公式サイト:https://uchu-ichi.jp/
© 2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会
★9月4日(金)より全国ロードショー
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パヴァロッティ 太陽のテノール ( 原題:Pavarotti )

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監督・製作:ロン・ハワード
脚本:マーク・モンロー
出演:ルチアーノ・パヴァロッティ、ボノ、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラス、アンドレア・グリミネッリ、アンジェラ・ゲオルギュー、キャロル・ヴァネス、ヴィットリオ・グリゴーロ、マデリン・レニー、ズービン・メータ、ユージン・コーン、ラン・ラン

テノール歌手のルチアーノ・パヴァロッティは、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラスと共に「世界三大テノール」として名をはせた。1990年にローマの遺跡カラカラ浴場で開催された野外コンサートでは、「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」を歌い上げるなど、三大テノールの世界的なブームをけん引。故ダイアナ妃との交流もあり、プライベートでは妻や娘たちを愛する良き夫であり良き父親だった。

感動!号泣…。至福の115分である。三大テノールの中でも声量、音域、声の色艶、表現力とも群を抜いていたパヴァロッティの人となりもつぶさに描かれたドキュメンタリー。オスカー受賞録音技師が手掛けた最新音響技術により、各楽曲が鮮やかに蘇る。プッチーニ「トゥーランドット」は、天上を突き抜け宇宙へこだまするよう♪ドニゼッティ「連隊の娘」でのハイC(超絶高音)連打には恍惚としてしまう。
往年の名テノール、カルーソーには間に合わなかったけれど、パヴァロッティは同時代人であった幸せを実感した。旅立って13年。未だに鮮烈な歌声と人柄をプラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラス、ズービン・メータ、U2のボノ、2人の妻、愛人(!)、3人の娘、生地イタリア・モデナでの幼少期を知る人々の証言から、魅力的な素顔が綴られる。

ダイアナ妃との交流、ボランティア活動といったオペラの世界の枠に収まらない生き方、太陽光を浴びた向日葵のような笑顔で大好物のパスタを作る姿、全てが愛おしい。
繰り出される楽曲は、プッチーニ「ラ・ボエーム」、ヴェルディ「リゴレット」、ドニゼッティ「愛の妙薬」などなど名編ばかり20曲。極め付けは、レオンカヴァッロの「道化師」だろう。伸びやかに力強く、情感に満ちた歌唱。歌い終わってからの表情に溢れる余韻が堪らない。聴衆の心を鷲掴みにし、まさに”神に選ばれし声”だ。

音楽ドキュメントに手練た名匠ロン・ハワード監督ならではの編集テンポとリズムで、膨大なアーカイブ映像を捌いてみせる。オペラファンならずとも必見のドキュメンタリー誕生を喜びたい。(幸)


音楽に疎い私は恥ずかしながら、本作で初めてパヴァロッティの名前を知り、唄声を聞きました。彼の名声を決定づけたテノールの「ハイC」を披露する場面も登場します。オペラ好きには至福の2時間でしょう。
本作ではそういった音楽シーンでなく、人間パヴァロッティにもスポットを当てているところが興味深い。娘ジュリアーナが難病にかかったとき、付き添うためにコンサートやオペラ、すべてをキャンセルしたというエピソードから家族思いの一面が伝わってきます。しかし、大切にしてきた家族を捨てて愛人との生活に走ってしまうのだから人間ってわからないもの。寂しがり屋が裏目に出たのでしょう。人懐っこい笑顔を見せるパヴァロッティの陰の部分も隠さずしっかり描いています。
また、ダイアナ妃やU2のボノとの出会いも見逃せません。ダイアナ妃と出会ったことで慈善事業の目覚め、それを通じてボノと交流が始まったいきさつも丁寧に描いていました。
ドラマチックなパヴァロッティの人生を多面的にたっぷりと味わえる2時間です。(堀)


配給:ギャガ
ビスタサイズ/5.1chデジタル/2019年製作/115分/G/イギリス・アメリカ合作
© 2019 Polygram Entertainment, LLC – All Rights Reserved
公式サイト:https://gaga.ne.jp/pavarotti/
★6月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ他にて全国順次ロードショー
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人数の町

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監督・脚本:荒木伸二
撮影:四宮秀俊
音楽:渡邊琢磨
出演:中村倫也(蒼山哲也)、石橋静河(木村紅子)、立花恵理(末永緑)、川中聡(ポール)、橋野純平、植村宏司、菅野莉央、松浦祐也、草野イニ、川村紗也、柳英里紗

膨らんだ借金が返せず、暴行されていた蒼山は、黄色いツナギの男に助けられた。男は蒼山を”デュード”と呼び、居場所を用意してやると言う。行く当てもなく、半信半疑のままついていく。バスに乗ってどこかに連れていかれるのは蒼山一人ではなかった。着いたのは奇妙な「町」、入るときに首に何かを埋め込まれた。町は黄色のツナギの”チューター”が管理し、それぞれに個室が与えられる。部屋にあるバイブルには町での暮らし方が書かれている。衣食住が保証され、気の合ったもの同士のセックスもOKだ。住人たちはネットへ書き込みをしたり、誰かの代わりに投票に行ったりする。ある日新しい住人たちが町にやってきた。明らかに他の住人と違う雰囲気の紅子は、行方不明になった妹を探しているという。

とても不思議な設定ですが、もしかしたら知られていないだけで本当はどこかにある町かも、と思ってしまいます。それほど、今生きている私たちが「個」でなく「数」であることが多いからかもしれません。どこにいても「個」として目立つのでなく「数」の中に紛れていたほうが楽だから?
この住人たちはときたま「数」として働き、見合った食料を手に入れ、後は快楽を貪っていても構いません。蒼山もそうやって暮らしていましたが、自分の意思で入ってきた紅子によって疑問を感じるようになります。さてどうなる?
中村倫也さんはすっきりしたイケメンですが、数の中に紛れてしまう蒼山を演じています。『水曜日が消えた』で一人七役を演じ分けましたから、数に紛れるくらいお茶の子さいさい。人数のうちの一人になっています。逆に石橋さん演じる紅子はたった一人でも臆せずに他の大勢とは別のことができる女性です。自分だったらどうするか、と友達とワイワイ盛り上がれそうな展開です。
2017年に開催された第1回木下グループ新人監督賞において、応募総数241作品の中から準グランプリに選ばれたオリジナルストーリー。(白)


2020年/日本/カラー/シネスコ/111分
配給:キノフィルムズ
(C)2020「人数の町」製作委員会
https://www.ninzunomachi.jp/
★2020年9月4日(金)ロードショー

☆活弁シネマ倶楽部に『人数の町』荒木伸二監督がゲストで登場。
(ベレー帽かぶったら手塚治虫さんに見えそう)
https://www.youtube.com/watch?v=FMv3YzyIZks&feature=youtu.be
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mid90s ミッドナインティーズ ( 原題 : mid90s )


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監督・脚本:ジョナ・ヒル
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
出演:サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミス

1990年代のロサンゼルスで、13歳のスティーヴィー(サニー・スリッチ)は母親のダブニー(キャサリン・ウォーターストン)と兄のイアン(ルーカス・ヘッジズ)と暮らしていた。体格差のある兄にかなわないスティーヴィーは、大きくなったら見返そうと考えていた。そして街のスケートボードショップで知り合った少年たちの自由でかっこいい姿に憧れを抱く。

名カメラマン、ネストール・アルメンドロスの自伝を読んだ時、印象的なフレーズに出会った。
「髪の色と瞳の色にギャップがある人は、カメラ映りが良い」
つまり髪色が漆黒で瞳が青いイザベル・アジャーニやアラン・ドロン、金髪に濃茶の瞳のカトリーヌ・ドヌーヴなどはカメラ映りの良い俳優という訳だ。カメラマンらしい考察である。

この法則に当てはめると、本作の主役サニー・スリッチは確実に「カメラに愛される」。名優ジョナ・ヒル(『マネーボール』やジャド・アパトー監督作などの名演で観客を魅了!)が大切に温めてきた初監督作の主演にサニー・スリッチを選んだのも納得の好演ぶりだ。
ヨルゴス・ランティモス監督作『聖なる鹿殺し』を観た方なら、バリー・コーガン扮する厄災を齎すマーティンの犠牲になる少年役として記憶に残っているだろう。

あのイノセントなイメージそのままに、ジョナ・ヒル監督は’90年代ロサンゼルスのド真ん中に主人公スティーヴィーを置いた。自身の半自伝的な10代の想い出の体現をサニーに託したのだ。狙いは大成功!
本作のもう一つの主役ともいえるスケートボード。サニーは俳優兼プロスケーターでもある。1日の大半を仲間たちと過ごすスケートパーク。ジョナ・ヒル監督は、主人公の友人たちにも職業俳優ではなくプロスケーターをキャスティングした。
グランジな着こなしの少年たちが縦横無尽に滑る様を16mmフィルムのザラつく質感を活かし、時にはハイスピードカメラで、また今どき珍しい魚眼レンズを用い活写する。

流れる楽曲群は、もちろん当時のオルタナティブが中心。ニルヴァーナ、ピクシーズ…などなど、’90年代どストライクの世代には胸アツものに違いない。
当初、全米4館で公開した低予算映画が1200スクリーン超まで拡大したという。日本でも受け入れられること請け合いの快作だ。(幸)


兄の部屋にこっそり入り込み、洋服や帽子、スニーカーを触れて、兄になった気分をちょっと味わっていたスティーブがスケートボードで仲間を見出し、兄を追わずに成長していく。同性の兄弟姉妹がいる人には多かれ少なかれ経験のある話ではないだろうか。ショップに集うグループにするっと入り込んでしまう辺りは弟キャラならでは。夜な夜な1人で練習した上のことだが、長子にはなかなかできない芸当だ。
一方、ルーカス・ヘッジズが演じる兄イアンも登場場面は少ないが、印象に残る。自分なりに必死にクールであろうとしているが、真似るべき存在がいないため、形から入っていこうとしているのだろう。壁には帽子が、棚にはエアジョーダンがいくつも並ぶ。CDやカセットテープがきちんと整理され、雑誌が積み重ねられている。そういえば腕立て伏せでトレーニングもしていたはず。本人がいなくても、部屋の様子からイアンのストイックさが伝わってきた。仲間と呼べる友だちは少ないと思われる。だから、自分とタイプの違う弟にイラッとしてしまうのだろう。
ジョナ・ヒルにとって本作は初監督作品で脚本も書いているが、初めてとは思えない演出力に驚いた。90年代半ばの話だが、兄弟の関係性や成長過程は時代や性別に関係なく、多くの人が共感するに違いない。(堀)


兄に対抗意識を持ち、背伸びをしたがる13歳の少年スティーヴィー。わざと強がってはみるものの、まだ兄にはかなわないと悟っているのか、兄に挑戦はしない。斜めに見ている。そして、地元のスケボーショップにいるかっこいいお兄さんたちの様子伺い。仲間に入るのに、夜、自宅で一人でスケボーの特訓を。シングルマザーの家庭に育ったという設定だけど、スケボーの練習をするようなスペース?があるというのは、日本と違って余裕があるのか。道路や公園のような公共のスペースという感じではなく、自宅のガレージのそばという感じだったけど中流家庭なのか。そして少しスケボーに乗れるようになってから、スケボーショップにたむろするお兄さんたちに近づいていって仲間になってしまう。背伸びはしているけど、無謀といえるほど思い切りがいいことは確か。先に仲間になっていた同じ年代の少年を通り越して、お兄さんたちに認められていく。そんな少年の成長物語だったけど、この世代、時代、アメリカには似通った話がたくさんあるのだろう。『行き止まりの世界に生まれて』も、自分の家庭から離れて、自分の居場所を探す青年たちの話だった。今、アメリカでは黒人やマイノリティへの差別に対する運動が、1960年代のように再び盛り上がっているが、どちらの作品にも出てくるBOYSは、黒人に対する偏見がなく仲間としてつるんでいる。どちらの作品でも「ニガー」という言葉が出てくるが、これは差別用語で使うのではなく、親近感をもつ仲間うちで使われているということを知った(暁)。

2018年 / アメリカ / 英語 / 85分 / スタンダード / カラー / 5.1ch / PG12
提供:トランスフォーマー、Filmarks
配給:トランスフォーマー 
(c)2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/mid90s/
★9月4日(金)より新宿ピカデリー、渋谷ホワイト シネクイント、グランドシネマサンシャイン他にて全国ロードショー
posted by yukie at 11:44| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

行き止まりの世界に生まれて(原題:MINDING THE GAP)

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監督・製作・撮影・編集:ビン・リュー 
出演:キアー・ジョンソン、ザック・マリガン、ビン・リューほか

「全米で最も惨めな町」イリノイ州ロックフォードに暮らすキアー、ザック、ビンの3人は貧しく暴力的な家庭から逃れるようにスケートボードにのめり込んでいた。スケート仲間は彼らにとっての唯一の居場所で、もう一つの家族だった。そんな彼らも大人になるにつれ、さまざまな現実に直面し段々と道を違えていく。カメラは、明るく見える彼らの暗い過去、葛藤を抱える彼らの思わぬ一面を露わにしていく――。

大統領選挙で注目された”ラストベルト(錆付いた工業地帯)”に住むスケートボーダー3人の日々。この試写の前日に、ジョナ・ヒルの初監督作『mid90s ミッドナインティーズ』を観たばかりでした。あちらは思い出を元にしたロサンゼルスが舞台のフィクション、こちらは仲間の一人ビンが監督になって撮られたドキュメンタリー。それでもスケボー仲間とつるむ彼らはとても似ていました。大きく違うのは今もキアーとザックが貧困と閉塞感の中にあり、それはたぶんラストベルトの多くの住民に共通しているだろうということです。
それでも我が子を見守るザックや、必死で働くキアーの真面目さに希望を感じます。少なくとも彼らは生きていて、生きることを諦めていないから。3人が遮るもののない道路をスケボーで疾走していくシーンが爽快。(白)


仲良くスケボーしながらつるむ3人ですが、キアーはアフリカ系アメリカ人、ザックは白人、カメラを回すビンはアジア系と、肌の色が違います。今でこそ、産業が廃れて”ラストベルト(錆付いた工業地帯)”と呼ばれていますが、20世紀初めから1970年代ごろまでは、「工場ベルト」「鉄鋼ベルト」「産業ベルト」と称され繁栄していた地区。人手不足を補うため、南部からアフリカ系の人たちも多くやってきましたが、南部のような人種差別意識も薄く、皆が中流として友情を育む土壌ができたのだそうです。
10代のビンが、自分たちのスケートを記録する意味で撮り始めたビデオでしたが、やがてカメラはそれぞれの内面にも迫っていきます。12年間にわたる3人の成長の記録ともいえる作品。スケボーは現実逃避だったかもしれないけれど、夢中になれるものがあるって素晴らしい。(咲)


『行き止まりの世界に生まれて』というタイトルにあるように、かつては活気があったけど、今はすっかり産業がさびれ閉塞感のあるロックフォードという街に暮らす少年たち。スケボーを通じて育んだ友情。それを12年に渡って撮り続けたビン・リュー監督。撮り始めた時はそれを映画にするというような目的はなかったのだろうけど、それだからこその少年たちの素顔。撮りためたものを映画にしてみたら、小さな街の少年たちの姿の中に、アメリカが抱えている今日的な問題(地方の不景気、家庭内暴力、崩壊した家庭、貧困、人種問題など)が浮き上がってきた。そんな中で居場所を求めて、もがく少年たち。アメリカの繁栄から取り残されたような地方に住む、同じような家庭の悩みを抱えつつ集う少年たち。そんな中で人種を超えた友情と、小さな居場所をみつけた少年たちの姿に少し希望を感じ、ホロっとする。身近な仲間たちを撮ったドキュメンタリーだけど、アメリカのこの12年をも映し出す(暁)。

舞台となったロックフォードはラストベルトに位置し、産業が斜陽化して寂れた町。住むところ、食べる物もあるけれど、未来に希望が持てない。大人の鬱積した思いが理不尽な家庭内暴力として子どもに向けられている。登場する3人の少年たちは閉塞感が淀む環境から解き放たれようとスケートボードで疾走する。ラストの滑走はカメラを回す監督のビン自身がスケートボードに乗っているのだろう。臨場感あふれ、そのままスクリーンから飛び出してしまいそうだ。
ところで、アメリカの作品にはスケートボードがよく登場する。自己逃避だったり、アイデンティティの発露だったり。スケートボードが象徴することは多分、みんな同じ。では、日本の子どもたちは何でそういうことをしているのだろう? 鬱憤をため込まずに発散できるものがあればいいのだが。。。(堀)


2020年/アメリカ/カラー/93分
配給:ビターズ・エンド
© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/ikidomari/
★2020年9月4日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー!
posted by ほりきみき at 10:16| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月29日

映画 きかんしゃトーマス チャオ!とんでうたってディスカバリー!!    原題:Thomas & Friends: Digs & Discoveries

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監督:ジョーイ・ソー
脚本:デイビー・ムーア、ベッキー・オーバートン
声の出演:比嘉久美子、田中完 ほか
特別出演:山口もえ、田村裕(麒麟)、川島明(麒麟)

青いボディのトーマスは、小型タンク式蒸気機関車の頑張り屋さん。車体番号は1番。
ソドー島ではトラブル続きで、トーマスたち蒸気機関車は大忙し。港で事故が発生。ティドマス機関庫の蒸気機関車たちは「スチーム・チーム」を結成し、なんとかピンチを切り抜ける。そのあと、イタリアで仕事をすることになったトーマス。イタリアで「消えた機関車」の伝説を耳にして興味を抱く。イタリアでは、女の子の機関車ジーナ(声:山口もえ)が、トーマスにいろいろなことを教えてくれる。果たして、消えた機関車の真相は?

2020年で原作誕生75周年を迎える、イギリス生まれの児童向けアニメ「きかんしゃトーマス」の劇場版。
2019年、国連が「きかんしゃトーマス」シリーズを通じて、世界の子どもたちに地球を守る為のメッセージを伝えていくことを発表。2015年9月に国連で採決されたSDGs(17の持続可能な開発目標)にちなんだエピソードをテレビシリーズや映画で展開しています。前作『映画 きかんしゃトーマス Go!Go!地球まるごとアドベンチャー』では、トーマスが世界を巡り、見知らぬ文化や歴史を伝える役目を果たしました。本作でもソドー島を飛び出し、イタリアへ。女の子の機関車も大活躍していて、ジェンダー平等も根底に流れています。
友達の素晴らしさ、人と助け合うことや、自ら積極的に動くことの大切さを子どもたちに自然に教えてくれる物語です。(咲)


2019年/イギリス/デジタル/70分/ヴィスタ/カラー/5.1ch
提供:ソニー・クリエイティブプロダクツ
配給:東京テアトル
配給協力:イオンエンターテイメント
公式サイト:https://movie2020.thomasandfriends.jp/
★2020年9月4日(金)全国ロードショー




posted by sakiko at 19:37| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

リスタートはただいまのあとで

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監督:井上竜太
脚本:佐藤久美子
原作:ココミ著書「リスタートはただいまのあとで」(プランタン出版 刊)
出演:古川雄輝 竜星涼 村川 絵梨 佐野岳  中島 ひろ子 螢 雪次朗 甲本雅裕

職場で上司に人間性を否定され、会社を辞めて10年ぶりに田舎に戻った光臣(古川雄輝)は、近所で農園を営んでいる熊井のじいちゃんの養子・大和(竜星涼)と出会う。大和のことを「馴れ馴れしくてウザい奴」と思っていた光臣だが、父親に実家の家具店を継ぐ事を拒絶され、農園の手伝いをはじめると、大和と過ごす時間が増えていく。ふさぎこんでいる光臣を励まし、心の痛みに寄り添う優しい大和。次第に、自分の弱さも受け入れてくれる大切な存在に変わっていく。ある夜、酔いつぶれた二人だったが、目が覚めた光臣は寝ている大和に思わずキスをしてしまい・・・抱いている感情にハッとする。大和の高校の同級生で親友の上田(佐野岳)から、「アイツには秘密がある」と耳打ちされたことを思い出した光臣の前に、親しげに大和と話す年上の女性が現れて・・・。
光臣は大和へ想いを伝えることはできるのか?そして、親との確執を乗り越えて、自分の夢と向き合う事ができるのか?

長閑な緑の景観を背景に走るローカル列車。疎らな乗客の中に塞ぎ込んだ様子の青年がいる。信州の駅に降り立ったところ、静けさを打ち破るかのように、大声で自分の名前を呼ぶ男が現れ、誰だか分からないまま車に乗せられてしまう。
じいちゃんの養子と名乗る男は初対面なのにやたら馴れ馴れしい。
「この辺も変わったろ?イオンできたで〜。初めて吉野家にも行ったわぁ!」

光臣にとって大和との出会いは最悪だった。扮する古川雄輝は身体から都会の倦怠を放ち、大和役の竜星涼は底抜けな明るさを体現している。一瞬にして性格が分かる演出技巧を身に付けた井上竜太。長編監督デビュー作として上々な滑り出しといえるだろう。

BL邦画は今年だけで4本目だが、清心さ、ピュアなイメージを求めたいBL映画ファンには適した1作。30歳を前にした青年2人の交流が、たまたま愛情に発展した、という建てつけだ。

葛藤や波乱含みを保たせつつ、正攻法のドラマを見守る信州の景色と人々が温かい。演技巧者の脇役陣の中、村川絵梨が隠れたキーパーソンとして良い味を醸し出す。
ホリプロ主導の映画にしてはエンディングに安易なタイアップ曲が流れないのは珍しい。最後まで静けさを貫き通した井上監督に好感触を持った。(幸)


配給:キャンター
2020年製作/99分/G/日本
企画:ホリプロ 
制作プロダクション:キャンター/ホリプロ
(C) 2020 映画「リスタートはただいまのあとで」製作委員会
公式サイト:https://restart-movie.com/
★9月4日(金)よりシネ・リーブル池袋ほか全国公開

9月5日 公開記念舞台挨拶
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「勉強をリスタートしたい」古川雄輝

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「自粛中はこれからのことを考えた」竜星涼

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2020年08月28日

ソワレ

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監督・脚本:外山文治
プロデューサー:豊原功補
出演:村上虹郎(岩松翔太)、芋生悠(山下タカラ)、岡部たかし(西村薫)、江口のりこ(瀬山晶子)、石橋けい(山下寛子)、山本浩司(大久保健司)、康すおん

岩松翔太は、俳優を目指して和歌山から上京したものの仕事もなく、今は”オレオレ詐欺”に加担してなんとか暮らしている。所属する劇団が和歌山にある高齢者施設で演劇を教えることになり、久しぶりに故郷に帰った。高齢者施設で働くタカラは、どこか諦めたような影のある子だった。翔太は祭りに誘おうとタカラを訪ね、刑務所帰りの父親から暴行を受けているところに遭遇する。

まだ何者にもなれず、居場所もない二人が、なりゆきから逃避行をすることになってしまうストーリー。冒頭の詐欺場面で、あんなに記憶に残りやすい顔の虹郎さんではすぐに捕まっちゃう。眼鏡くらいかけてはどうなの?と妙な突っ込みをし、明るさのかけらもない芋生悠さんを初めて観た!と感動。芋生悠さん演じるタカラは終盤に向けて徐々に表情が変わっていきます。これまでの作品で、あまり動じない芯のある役柄の印象がありますが、ここでは凝り固まっていた心身がほどけていくタカラを息づかせていました。ほぼ和歌山ロケで、山や海に続く道をとにかく走る二人。
豊原功補さん、小泉今日子さんと外山文治監督が立ち上げた映画制作会社・新世界合同会社の第1回プロデュース作品。これまでもオリジナル作品を送り出してきた外山監督。村上虹郎さんとは『春なれや』に続き2度目、オーディションで選んだという芋生悠さんとは初のタッグです。生活を感じさせる江口のりこさん、石橋けいさんの姿もしかと刻まれました。「ソワレ」はフランス語で夜会、劇場用語で「夜公演」のこと。夜明けまでの一夜の舞台をお楽しみください。(白)


2020年/日本/カラー/シネスコ/111分
配給:東京テアトル
(C)2020ソワレフィルムパートナーズ
https://soiree-movie.jp/
★2020年8月28日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:46| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月27日

シチリアーノ 裏切りの美学  原題:IL TRADITORE

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監督:マルコ・ベロッキオ
脚本:マルコ・ベロッキオ、ルドヴィカ・ランポルディ、ヴァリア・サンテッラ、フランチェスコ・ピッコロ
出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、マリア・フェルナンダ・カンディド、ファヴリツィオ・フェラカーネ

シチリアの巨大犯罪組織「コーザ・ノストラ」を裏切り、政府に寝返った男トンマーゾ・ブシェッタ。本作は彼の数奇な人生の映画化。

1980年代初頭、シチリアでは血で血を争うマフィア同士の抗争が激化していた。パレルモ派の大物トンマーゾ・ブシェッタ(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)は、麻薬取引を巡るコルレオーネ派との抗争の仲裁に失敗しブラジルに逃れる。残されたパレルモ派の仲間は次々と抹殺され、二人の息子も行方不明となる。
その後、ブシェッタはブラジルで逮捕されイタリアに送還される。ローマの警察署で対面したファルコーネ判事(ファウスト・ルッソ・アレジ)から、マフィア撲滅への捜査協力を求められる。聴取を受けるうち、ファルコーネ判事に畏敬の念を抱くようになったブシェッタは、組織「コーザ・ノストラ」による犯罪の詳細を供述する。それに基づき、イタリア全土で、366人が逮捕される。コーザ・ノストラは、司法当局に身を売ったブシェッタへの報復として、組織に所属しない親族までも殺害する。
1986年2月、コーザ・ノストラの幹部らを裁く初公判が行われる・・・

検察側証人として堂々と供述するブシェッタに対し、法廷内に設けられた檻の中にいるマフィアの幹部たちが、まさに吠えるように彼をののしる姿が圧巻。
トンマーゾ・ブシェッタは組織を裏切って捜査当局に協力した人物として、マフィアの歴史の中でよく知られているが、これまで映画の脇役として登場したことはあっても主役として取り上げられたことがなかったことに、マルコ・ベロッキオ監督は注目したという。
麻薬ビジネスに手を染め、金儲けと殺人に明け暮れるようになった組織の面々こそ、崇高であるべき組織の理念を裏切ったと語るブシェッタの苦悩を、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノが体現している。
勇気ある証言をしたブシェッタも、その証言に基づいて多くの組織の者を裁いたファルコーネ判事も、結局、組織の力には勝てなかった運命に涙。(咲)


2019年/イタリア・フランス・ブラジル・ドイツ/イタリア語・ポルトガル語・英語/145分/ビスタ/デジタル5.1ch
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
公式サイト:https://siciliano-movie.com
★2020年8月28日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ他全国公開




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2020年08月23日

世宗大王 星を追う者たち(原題:Forbidden Dream)

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監督:ホ・ジノ
撮影:イ・モゲ
出演:ハン・ソッキュ(世宗)、チェ・ミンシク(チャン・ヨンシル)、ソン・グ(ファンヒ)、キム・ホンパ(イ・チョン)、ホ・ジュノ(チョ・マルセン)、キム・テウ(チョン・ナムソン)

朝鮮王朝が明国の影響下にあった時代。第4代王・世宗(セジョン)は、奴婢のチャン・ヨンシルの優れた才能を認め、武官に任命する。豊富な科学知識と高い技術を持つヨンシルは「水時計」や「天体観測機器」を次々に発明。それらは庶民の生活に大いに役立てられた。一方世宗も「明の従属国という立場から脱し、朝鮮の自立を成し遂げたい」という夢を持ち、朝鮮独自の文字である“ハングル”を創ろうとしていた。天と地ほどの身分の差を超え、尊敬と信頼の絆を結んでいく二人。だが臣下たちは、朝鮮の独立を許すはずもない明からの攻撃を恐れ、密かに二人を引き離そうとする。

1962年生まれのチェ・ミンシク、2歳年下のハン・ソッキュは東国大学校演劇映画科の先輩後輩。ハン・ソッキュは1997年の『グリーンフィッシュ』で主演男優賞受賞。1999年の『シュリ』で共演し、チェ・ミンシクが主演男優賞受賞。以来20年ぶりの共演となりました。韓国映画界をけん引してきたお二人は、どんな役柄でも安心して見ていられます。これからも元気で様々な役を見せてほしいものです。
ほとんど消息が知られていないチャン・ヨンシルの空白部分を創作したホ・ジノ監督、ヨンシルが設計、製作した数々の機器をそっくり再現した美術さん素晴らしい。どこか博物館などにレプリカとして寄付されなかったのでしょうか?
ほぼ宮廷内部が舞台なので、男性ばかり。それも平均年齢の高い地味目な服装に、役職や個々の持ち味も出さなければなりません。きっと悩まれただろう衣裳さんのお仕事も称賛に値します。(白)


朝鮮の自立を成し遂げたいと朝鮮独自の文字(ハングル)を作ろうとした世宗大王。奴婢の身分ながら豊富な科学知識と高い技術力で水時計や天体観測機器を次々と発明した才能にあふれるチャン・ヨンシル。身分の差を超えた2人の友情は庶民の生活を豊かにしたいという思いで結ばれていた。
そんな2人を臣下たちは引き離そうと画策したのは妬みだけではない。朝鮮の独立を許さない中国の怒りを恐れたとすれば、仕方ないだろう。世宗大王とヨンシルが互いのことを慮って振る舞う姿に胸が熱くなる。ハン・ソッキュが世宗大王、チェ・ミンシクがチャン・ヨンシルを演じ、「シュリ」以来20年ぶりの共演作となったが、歳を重ねた分、演技に深みと渋さが加わっているのを感じた。(堀)


2019年/韓国/カラー/シネスコ/133分
配給:ハーク
(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
http://hark3.com/sejong/
★2020年9月4日(金)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 18:57| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

マイルス・デイヴィス クールの誕生(原題:Miles Davis: Birth of the Cool)

『マイルス・デイヴィス クールの誕生』メイン・ヴィジュアル.jpg

監督:スタンリー・ネルソン
出演:マイルス・デイヴィス、クインシー・ジョーンズ、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ロン・カーター、ジミー・コブ、マーカス・ミラー、マイク・スターン、ジョシュア・レッドマン、カルロス・サンタナ、ジュリエット・グレコ、クライヴ・デイヴィス、フランシス・テイラーほか

“ジャズの帝王”と称されるトランペット奏者マイルス・デイヴィスのドキュメンタリー映画。貴重なアーカイブ映像や写真に加え、マイルスの家族、友人、多くの音楽関係者のインタビューがびっしりと詰め込まれている。華やかな足跡ばかりではない。人種差別に怒り、酒や麻薬に溺れたダークな面も隠さない。自信家で好き嫌いが激しく、愛した女性に嫉妬し暴力も振るう。病気や事故による痛みと闘っていた空白の5年間。文字通りの闇から完全復活し、力量のある若手を見い出しては次々と新しいことに挑戦し続けた。一人の天才の鮮烈な一生が浮かび上がる。
2019年、第37回サンダンス映画祭をはじめ、世界各国の映画祭に正式出品。第62回グラミー賞では〈最優秀音楽映画部門〉にノミネートされた。
1926年5月26日米国イリノイ州オールトン生まれ。1991年9月28日死去 (享年65)。

マイルス・デイヴィスの独特の声は、喉の手術をした後、喋りすぎたせいだそう。本人のインタビュー音源は残っているものの、背後にある生活音などを除くことができなかった。俳優のカール・ランブリーが、マイルスの自伝などから選ばれた言葉でナレーションを入れている。
パリに数週間滞在したマイルスは、歌姫ジュリエット・グレコほか、多くの文化人や芸術家に出逢い、ルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』(1958)の映画音楽を作っている。登場人物の心のありようを、映像を観ながらトランペットひとつで即興演奏するシーンに見とれた。このサウンドトラックから映画の人気に火がついた様子も紹介される。
眼光鋭い孤高の天才かと思えば、吸引力のある“人たらし”でもあったらしい。友人たち、特に女性たちが彼の魅力を愛し気に語る。試写の後、2枚組のベスト盤を手に入れた。(白)


題名が「クールの誕生」なので、てっきり1950~60年代のマイルスが中心と思いきや、91年に亡くなるまでの人生をしっかり描いてくれた。マイルスに寄り添った女性たちのインタビューは、人間マイルスを知るうえで実に興味深い。若手ミュージシャンの抜擢で知られるだけに、綺羅星のごとく豪華な面々がマイルスの思い出を語るが、これが実に味がある。ハービー・ハンコックはマイルスの音色を“水面を跳ねる石”に喩え、ウェイン・ショーターは人となりを表すエピソードを打ち明け、歳の離れたマーカス・ミラーは共演できた喜びを昨日のことのように語る。
マイルスの後にマイルス無し。偉大な足跡を実感させる2時間である。(堀)


「ソー・ホワット」でポール・チェンバースがつま弾くベースについて言及する場面がある。"そう!同じく!"と心中、叫んでしまった。"帝王マイルス・デイヴィス"の楽曲は、自身が吹くトランペットだけではなく、全ての楽器が共振しているのだ。
振動は聴く者の心を揺るがし、蕩けさせてしまう。ワンノートで魅了されるジャズとはこういうことを言うのだろう。
70年近くを経ても少しも陳腐化しない"帝王"のサウンド。物心付いた時から聴いてきた身には、いつだって音色を、響きを脳内再生することができる。
オールドファンにとって、18歳の"帝王"とチャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピーとの共演逸話が楽しい。反面、アート・ブレイキーらの映像がなかったのは残念だったが贅沢は言うまい。ジョン・コルトレーンの生演奏が聴けたのだから…。
名編曲家ギル・エヴァンスへの尊敬が生涯続いた逸話に頬を緩めていたら、NYの路上でタクシー待ちをしていただけで、「退かなかった」ことを理由に白人警官に殴られ逮捕される場面が出る。血だらけの"帝王"の姿は衝撃だ。
白人富裕層が「金を払う価値がある」と認め、ジャズ界の頂点を極めるほど成功を収めた"帝王"でも黒人扱いに変わりはないのだ。
米国の闇は深い。(幸)


「モダンジャズの帝王」マイルス・デイヴィスの素顔に迫るドキュメンタリー映画。
歯科医の父と音楽教師の母を持ち、裕福な家庭に育ったというマイルスだが、彼が生きた時代の人種差別は、並大抵なものではなかったはず。
白人社会が押し付けて来る偏見をすべてぶち壊したように見えるマイルスは、ひたすらクールな男だった。すべてを超越してジャズの可能性の追求に捧げた生涯。
ミュージシャンとして成功し名声を得ても、決して守りに入ることなく、常に最先端、最前線に立ち、若手をリードして行く姿勢に感動した。
人生は一回だけの即興演奏のようなもの。変わり続けることでしか、守れないものもある。
友人やパートナー、ミュージシャンたちのインタビュー映像にグイグイ引き込まれた。
静止画像を多用した超スピードの編集も気持ち良かった。ジャズファンならずとも必見。(千)


2019年/アメリカ/115分
配給:EASTWORLD ENTERTAINMENT
協力:トリプルアップ
https://www.universal-music.co.jp/miles-davis-movie/
★2020年9月4日(金)アップリンク渋谷、池袋HUMAXシネマズほか全国順次ロードショー
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posted by shiraishi at 12:31| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ようこそ映画音響の世界へ (原題:Making Waves)

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監督:ミッジ・コスティン 
出演:ウォルター・マーチ(『地獄の黙示録』)、ベン・バート(『スター・ウォーズ』)、ゲイリー・ライドストローム(『ジュラシック・パーク』)、ジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・リンチ、アン・リー、ライアン・クーグラー、ソフィア・コッポラ、クリストファー・ノーラン、バーブラ・ストライサンド

1927年、それまで普通だった無声映画に代わって初めてのトーキー『ジャズ・シンガー』が誕生する。それ以来映画音響は日進月歩し、『キング・コング』『市民ケーン』『鳥』『ゴッドファーザー』などの作品が次々と封切られる。普段は裏方として現場を支える音響技術者たちが、これまで実際に目にしてきた撮影現場での数々の体験や創作活動について語る。

眼を閉じ、様々な映画の場面を思い出してほしい。ダースベイダーの息遣い、R2D2の”会話”、『地獄の黙示録』のヘリコプター音、『市民ケーン』では広大な屋敷に台詞が鳴り響く。デビット・リンチの不可思議な逆回転音声、『トップガン』のジェット機、キングコングの唸り声…。あなたの脳内に鳴り響いている豊かな音の洪水は、どのように作られてきたのか?本作を観ると映画の見方が変わってしまうかもしれない。それほど重要なドキュメンタリーが公開される。映画ファンには必見の価値ある傑作だ。

冒頭、人間が最初に持つ五感は音であることが説明される。私たちは母の胎内から音を頼りに外の意識世界へと旅立つ。映像より強いエモーショナルを喚起させ、錯覚も起こすことができる音響効果は素晴らしい仕事だと語る「職人」たちの言葉に引き込まれる。
ロバート・レッドフォード、アン・リー、ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグ、ジョン・ラセター、ソフィア・コッポラ、デビッド・リンチ、バーブラ・ストライザンドなどなど、音に注力する監督たちが次々と登場し、自作の工夫点、音響効果担当者への信頼といった逸話が紹介されるに従い、映画は音で満たされていることを知るのだ。

取り上げられる作品は、主に米国映画が中心だが、仏ジャン・リュック・ゴダールの斬新な音作りに衝撃を受けた音響担当の言葉、アルフォンソ・キュアロン監督が『ROMA』で採用したパンニング(カメラの動きに合わせ、音も変化する)手法の話は慧眼だった。「なるほど!納得。そんな工夫が?!」と心中、叫び通しの本作はだれが観ても面白く興味を惹かれるに違いない。もちろん映画音楽の章では、ハンス・ジマーが登場。 言葉で百万言使っても伝わらない本作の魅力をぜひ映画館で体験してほしい!(幸)


映画は映像と音でできている。みんなが当たり前に思っていることに目を向けたのが本作である。もともと映画には音がなく、1927 年に初めてのトーキー映画『ジャズ・シンガー』が誕生し、映画音響は絶え間ない進歩を続けてきた。その歩みを丁寧に紐解いた本作は驚きの連続。作品を見終わったときに、『キング・コング』の声や『トップガン』のジェット機の音をどうやって作りだしたのかを、見ていない誰かに喋りたくなるに違いない。
そういえば、白石和彌監督にインタビューした際、音響効果の柴崎憲治さんを絶賛し、次のように語っていた。「柴崎さんの効果は本当に素晴らしい。僕は映画監督を辞めたら、効果マンになりたいと思っています。映画作りでも効果を入れる瞬間がいちばん気持ちいい。監督にとっての最大のご褒美の瞬間です。それに気づかせてくれたのが柴崎さん。一から出直すときは弟子になって、フォーリー・アーティストを目指したいと思っています」(「映画テレビ技術」2018年5月号より引用)
この話を聞いたときにはあまり共感できなかったのだが、本作を見て、白石和彌監督の言っていたことがやっと理解できた。
また9月25日公開の『映像研には手を出すな!』では音響がいかに場面を盛り上げるかを示すシーンがあるのだが、効果音だけ聞いていても場面をイメージできた。エンドロールにそのシーンの音響効果の担当として柴崎憲治氏の名前があった! 私たちの理解は音に頼っている部分が意外に大きいのだ。
映画音響の世界は本当に奥が深い!(堀)


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本作が初長編作となるミッジ・コスティン監督は、25年に渡って、ハリウッドで主に音響デザイナー、音響編集者として活躍してきた方。彼女がこの分野で仕事を始めた頃には、女性はほんの一握りだったという。そも、1980年代後半、大学院卒業後、映像編集の仕事を選び、さらに短編映画製作の資金調達のため、「ハードルを下げて」選んだのが音響編集。技術オタクの仕事と思っていたのが、次第に音で表現する魅力に取りつかれたという。2000年には一線を退き、映画芸術学校USCの教授として後身を育てている。ハリウッドの音の世界を長年支えてきた彼女だからこそ作れた映画だ。
私にとって興味をひいたのは、『アルゴ』のイラン革命時のデモの場面。ペルシア語話者のエキストラ100人以上の中には、当時を経験した者もいて、感情が根底に流れるものが撮れたという。もっともその多くが、現政権に背を向けて国外に出た人たちだと思うと皮肉だ。

「フォーリー・アーティスト」が映画に効果音を付ける“音の魔術師”のことだと知ったのは、2017年の東京国際映画祭で上映された、それこそ『フォーリー・アーティスト』(原題:擬音、ワン・ワンロー監督)という台湾映画を通じてのこと。台湾映画の音を支えてきたフー・ディンイーに焦点を当てた作品で、仕事部屋には様々なものが溢れかえっていて、こんなものでこの音が?と驚いた。
2016年の東京国際映画祭で上映された『キアロスタミとの76分15秒』(セイフォッラー・サマディアン監督)の中で、『5 five ~小津安二郎に捧げる~』の製作風景が出てきて、キアロスタミ監督が、アヒルの足音を米粒で出したり、羽ばたく様をジャケットをバタバタさせたり、とても楽しそうに音を作っていたのが印象的だった。キアロスタミが、映像と同じくらい、音に気を使ったことを知る場面だった。まさに、映画は映像と音で作るものなのだ。(咲)


提供:キングレコード  
配給:アンプラグド 
© 2019 Ain't Heard Nothin' Yet Corp.All Rights Reserved.
2019年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/94分/5.1ch
公式サイト:http://eigaonkyo.com
★8月28日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開★


posted by yukie at 12:12| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Challenged  チャレンジド

シアター・イメージフォーラムにて8月22日(土)より公開!
ほかの上映情報
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(C)2020able映画製作委員会

監督;小栗謙一
製作総指揮:細川佳代子
音楽指揮:小林研一郎
太鼓指導:時勝矢一路
語り:栗原類
編集Zaxx
ラインプロデューサー:花井ひろみ
コーディネート:ー須本由紀子
出演
社会福祉法人 南高愛隣会、瑞宝太鼓、コバケンとその仲間たちオーケストラ、アーティピック、エザット、2017 ジャパン ✕ ナントプロジェク、劇団ランバ・ツァンバ、グルンデン協会
他、撮影地、出演者紹介 公式HPへ

チャレンジすること。それは、同じ世界を一緒に生きていくこと

知的障がいのある日本人の少年2人がアメリカの家庭にホームステイにいく姿を描いた『able/ エイブル』('01)を撮った小栗謙一監督の最新作。「チャレンジド」と呼ばれる知的障がいを持つ人たちを撮り続けてきた小栗謙一監督が世界各地でパワフルに活動するチャレンジドたちの日常を捉えたドキュメンタリー。
製作期間4年、総移動距離12万キロ。日本国内を始めフランス、ドイツ、スウェーデンと世界各地でパワフルに活動し社会参加を成し遂げているチャレンジドたち。ロードムービーのように旅するカメラが、自立への道を生きるチャレンジドたちの清々しい姿を写し出す。
見所は、小栗監督が2012年公開した作品『幸せの太鼓を響かせて〜INCLUSION〜』で彼らを撮影した後も8年間に渡り監督が成長を見守ってきた長崎の和太鼓演奏集団「瑞宝太鼓」の魂を揺さ振る太鼓をたたくパフォーマンス。チャレンジドたちで構成されているこのグループの練習風景、日常を追い、フランスのナント市で開催された文化交流芸術祭に参加し、現地で一大センセーションを巻き起こした感動のステージは圧巻で感動する。
そしてカメラはプロとして活躍するフランスのヒップホップ・グループ、「アーティピック」、ベルリンを拠点に演劇活動をしている「ランバ・ツァンバ」の活動を追い、自ら国会議員を目指すスウェーデンの障がいのある女性にも目を向ける。またユダヤ人のホロコーストより前からヒトラーの命令のもと密かに実行されていたナチス・ドイツによる障がいのある人々などへの殺戮の実態も綿密に取材。現代社会においてもなお残る"障がいのある者は、生きる価値がない"という間違った考え方の源流を考察している。
ナレーションは栗原類が担当している。

小栗監督は「チャレンジド」と呼ばれる知的障がいを持つ人たちを撮り続けてきた。『able/ エイブル』('01)から20年近くたち、障害者差別禁止法(2016年4月1日施行)ができ、「障害を理由とする差別の解消の推進」を国が対応しなくてはならなくなった今も、差別はなくならない。でも、このドキュメンタリーに出てくる「チャレンジド」たちは、自分で道を開いているのが心強い。この作品を見て、「瑞宝太鼓」のメンバーによる太鼓演奏をぜひ見てみたいと思った(暁)。

『Challenged チャレンジド』公式HP
https://dsystem.jp/challenged/
2020年製作/90分/日本
配給:ableの会

posted by akemi at 10:09| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

僕は猟師になった

8月22日(土)ユーロスペースほか全国順次ロードショー 劇場情報

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監督:川原愛子
編集・構成:村本勝(J.S.E) 
撮影:松宮拓 
現場録音:蓮池昭幸 
整音:小川武 
音楽:谷川賢作 
MAスタジオ:サウンズ・ユー 
映像技術:グッド・ジョブ 
プロデューサー:京田光広/伊藤雄介 
語り:池松壮亮 
出演:千松信也 

獲って、さばいて、食べる 知られざる猟師の暮らしに700日密着

「ぼくは猟師になった」(2008年)を出版したわな猟師・千松信也さんに密着したドキュメンタリー。2018年、NHKTV「ノーナレ けもの道 京都いのちの森」というタイトルで放送され、再放送希望が殺到。追加取材を300日超行い劇場版作品として再構成した。

千松さんは大学在籍中に狩猟免許をとり、先輩猟師から伝統のくくりわな猟、無双網猟を学び、現在は運送会社で働きながら京都の山で猟をしている。狩猟免許を取ったのは「自分で肉を獲れたらおもしろそうという気持ちだったけど、猟の魅力に取り憑かれ、自然や動物が大好きだった子どもの頃の自分と出会い直したような感覚もあり、人間と動物の関係や自分の生き方についても考えるようになった」と語る。
街と山の境に妻と二人の子供と暮らし、イノシシや鹿をわなで捕え、木などで殴打し気絶させ、ナイフでとどめをさす。自然の中で命と向き合う千松さんが選んだ営みは、残酷という非難を超える真の豊かさとは何かを問いかける。
京都は山に囲まれた土地で獣による畑の被害が深刻。しかし、千松さんは獣害対策としての狩猟ではなく、生きるための食料を自分の力で獲るという、仕事でも趣味でもなく、生活の一部とし、獲った獣は自分で処理をしておいしく食べている。この映画の中にも出てくるけど、獣害対策で捕えられた獣たちは大量焼却処分されているが、それがもったいなく感じる。「命を奪うことに慣れることはない」という千松さんの言葉は重い。

語りは千松さんの自然界との向き合い方に心から感動したという池松壮亮さん。CMや映画のスクリーンから聞こえてくる池松さんの声が「言葉よりも背中で語る、森の哲学者」という千松さんのイメージにぴったり重なると伊藤雄介プロデューサーは語る。

千松信也さん(公式HPより)
1974年兵庫県生まれ。京都大学文学部在籍中に狩猟免許をとり、先輩猟師から伝統のくくりわな猟、無双網猟を学ぶ。現在は、運送会社で働きながら京都の山で猟をしている。鉄砲は持っていない。08年発行の『ぼくは猟師になった』(現在、新潮文庫)は「狩猟ブーム」を牽引することになった。他の著書に『けもの道の歩き方猟師が見つめる日本の自然』(リトルモア)『自分の力で肉を獲る10歳から学ぶ狩猟の世界』(旬報社)がある

学校のチャイムが聞こえるような人里のすぐ近くにある森の中で猟をしているのに驚いた。イノシシや鹿による畑の被害も多いということだから、やはり人間の営みのすぐそばに獣たちはいるということなのでしょう。銃は使わずわなで猟をしているというのにも驚いた。解体作業も小学生くらいの子供たちと一緒に行っているが、子供たちに猟師になってほしいか?という質問に「本気でやりたいと言えば教えますが、子どもたちはそれぞれやりたいことをやったらいい」と答え、「漁師にでもなってくれたほうが我が家の食卓が豊かになるなあ、なんて思ったりもしてます(笑)」とユーモアたっぷりに答えている(暁)。

公式HP
製作:NHKプラネット近畿
配給:リトルモア/マジックアワー 
2020/日本/カラー/HD/16:9/5.1chサラウンド/99分 G区分
posted by akemi at 09:01| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

オフィシャル・シークレット  原題:OFFICIAL SECRETS

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監督:ギャヴィン・フッド
出演:キーラ・ナイトレイ、マット・スミス、マシュー・グード、レイフ・ファインズ

2003年初頭、イラク打倒を目論む米国に同調する英国の諜報機関で働くキャサリン・ガンが違法な工作活動をリークし、世間を騒がした。本作は、勇気ある告発をした実話に基づく物語。

2003年1月。英国の諜報機関GCHQ(政府通信本部)で翻訳分析官として勤務するキャサリン・ガン(キーラ・ナイトレイ)はある日、米国の諜報機関NSA(国家安全保障局)から送られたメールを見て驚愕する。イラク侵攻を強行するため、国連安全保障理事会のメンバーの動向を探るスパイ活動を指示するものだった。キャサリンは、元同僚で反戦運動家の友人を訪ね、マスコミにリークしたいと相談する。
2週間後、メールの内容が英国「オブザーバー紙」の一面を飾る。マーティン・ブライト記者(マット・スミス)の勇気ある告発記事だった。
英国GCHQでは、リークした犯人探しが始まる。キャサリンは、仕事仲間に執拗な尋問が及ぶ状況に耐えきれず、告発したのは自分だと名乗り出る。
しかし、キャサリンの告発も虚しく、3月20日、米英によりイラク侵攻は強行される。
起訴されたキャサリンを救おうと人権派弁護士ベン・エマーソン(レイフ・ファインズ)らが立ち上がった・・・

2001年9月11日の同時多発テロ事件以降、テロへの報復に躍起になっている米国政府の態度を腹立たしく見ていたのを思い出します。そして、ついに2003年3月20日、米英により強行されたイラク侵攻。今では、イラクが大量破壊兵器を開発しているというのは米国のでっち上げだったことが明らかになり、サッダーム・フセインを倒してもイラクに平和は訪れず、米英のイラク侵攻のツケはイラクの庶民にまわっています。
キャサリン・ガンは、そのような状況になることを見越して、理不尽なスパイ指示をリークしたに違いありません。
キャサリン・ガンは、台湾で育ち、日本に留学し、広島で英語を教えていたことがあり、反戦の思いを強くしたのだと思います。また、パートナーがトルコ出身のクルド人。強制送還されないために結婚したのかとまで言われたようです。映画の最後に映されるご本人の姿は、とても清楚で誠実な雰囲気でした。「私は政府じゃなくて国民に仕える」という言葉が心に残りました。キャサリン・ガンは無罪になりますが、それ以上追及すると、証拠を開示することになり、政府が違法に戦争に介入したことが明らかになるからという事情でした。世の中には不都合な真実がまだまだありそうです。 (咲)


ギャヴィン・フッド監督の前作『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(2015年)は、幼い少女が巻き込まれる可能性がある中でのドローンによる自爆テログループ攻撃の是非を問う作品でした。今回はイラク侵攻の正当性をでっち上げたいアメリカをイギリスの諜報機関である政府通信本部(GCHQ)が手助けするよう職員に指示を出したことに危険を感じた職員がリークした実話を基にしています。ギャヴィン・フッド監督はイギリス国家に強い疑問を感じているのかもしれません。
裁判の結果は唖然とするものでした。だからこそ国家の闇の深さを感じます。この事件は忘れちゃいけない!(堀)


2018年/イギリス/カラー/英語/112分/シネマスコープ/5.1ch/G
配給:東北新社 STARCHANNEL MOVIES
©2018 OFFICIAL SECRETS HOLDINGS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://officialsecret-movie.com/
★2020年8月28日(金) TOHO シネマズ シャンテほか全国公開




posted by sakiko at 04:22| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

マロナの幻想的な物語り 原題: L'extraordinaire voyage de Marona 英題: Marona's Fantastic Tale 

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監督: アンカ・ダミアン
脚本: アンゲル・ダミアン
キャラクター・デザイン: ブレヒト・エヴェンス
日本語吹き替え:のん、小野友樹、平川新士ほか

大通りで車に轢かれ息絶え絶えの犬のマロナ。走馬灯のように、これまでの人生(犬生)が脳裏を駆け巡る。
パパは血統書付きのアルゼンチン・ドゴ種で差別主義者。そんなパパが一目惚れしたのが、ペキニーズのミックスで元野良犬だけど美しくて博愛主義者のママ。二匹の間に出来た9匹の9番目に生まれ、ナインと名付けられ、パパの飼い主に引き取られる。が、わずか12分で捨てられ、曲芸師マノーレの帽子に隠れこみ、マノーレの家で世話になることに・・・

躍動的で斬新なアニメーションで綴られるワンちゃんの一生。
鼻がハート型でキュート! 
最初に拾われたマノーレにはアナ、その後に引き取られたイシュトヴァン一家にはサラと名付けられて、幸せな日々を送るのですが、ワケあって別れ、最後に出会ったソランジュという女の子がつけてくれたのがマロナという名前でした。ルーマニア語で茶色という意味。
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アンカ・ダミアン監督は、ルーマニアでは唯一の女性監督。美術を専攻後、アニメーションの世界へ。本作の脚本は、息子のアンゲルさんが母のアイディアをもとに執筆しています。
2Dと3Dを組み合わせるなど、ダイナミックな場面もあって、ワンちゃんの運命にハラハラドキドキ。いろいろな人との出会いが、人生に彩りを与え、成長させてくれることを教えてくれる素敵な物語です。(咲)


とってもアートな雰囲気で、シャガールの絵画を見ているかのよう。セリフは少なめで、画からたくさんのことが伝わってきます。日本のアニメに慣れていると面食らうかもしれません。
作品を見ていると犬を飼いたくなるけれど、その一方で、思いつきで動物を飼ってはいけないというメッセージもはっきりと描かれています。公益社団法人ACジャパンの動物の遺棄・虐待は犯罪であることや盲導犬についてのCMを思い出しました。
日本語吹替版ではマロナの声をのんが演じています。マロナは女の子ですが男の子に間違えられたりするので、透明感があって中性的なのんの声がうまくハマっていました。マロナ以外のヴォイスキャストも含め、字幕版よりも落ち着いた印象です。(堀)


東京アニメアワードフェスティバル2020 コンペティション部門
長編アニメーション グランプリ作品

2019年/ルーマニア・フランス・ベルギー/フランス語 / DCP / 92分
提供: リスキット/マクザ厶/太秦/カルタクリエイティブ
配給: リスキット
後援: ルーマニア大使館
協力: キャトルステラ / Stylab / げんべい商店
公式サイト:https://maronas.info/
★2020年8月29日(土)より、渋谷・ユーロスペースにて字幕版先行公開、9月12日(土)より吹替え版を含め、全国順次公開
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2020年08月16日

8月21日(金)より全国東宝系にて公開
劇場情報

『糸』ポスター(WEB用0821).jpg
©2020映画『糸』製作委員会

監督:瀬々敬久
原案:平野隆
脚本:林民夫
企画・プロデュース:平野隆
モチーフ曲「糸」作詞・作曲 中島みゆき
音楽:亀田誠治
主題歌:中島みゆき
出演
高橋漣:菅田将暉
園田葵:小松菜奈
山本美月、高杉真宙、馬場ふみか、倍賞美津子、永島敏行、竹原ピストル、二階堂ふみ、松重豊、田中美佐子、山口紗弥加、成田凌、斎藤工、榮倉奈々

中島みゆきの愛と絆の名曲「糸」が映画化!
めぐり逢いをテーマに描く、壮大なスケールのラブストーリー

「糸」は、1992年に発売された中島みゆきの20枚目のアルバム『EAST ASIA』の中に収録された歌。それが20年以上もたってから、ドラマの主題歌に使われたりCMに使われたりしながら、いろいろな人にカバーされ、今や120組を超えるカバーバージョンが発表されているという。この数年、結婚式やカラオケなどでも多く歌われて、さらにこの曲への注目が広がっている。そして、とうとうこの曲から着想を得た映画ができた!
「めぐり逢い」と「別離」を経て、再びめぐり会うまでの18年間の二人の物語を、時代の変遷とともに描く壮大なラブストーリー。舞台は北海道・東京・沖縄・シンガポール。
平成元年(1989年)生まれの高橋漣(菅田将暉)と園田葵(小松菜奈)は美瑛で育ち13歳で出会った。しかし家庭の事情で葵は突然姿を消した。 養父からの虐待に耐えかねてこの町から逃げ出したのだった。真相を知った漣は必死に葵を探しだし、駆け落ちを決行する。しかし幼い二人の逃避行はすぐに知られ、警察に保護されてしまう。別れ別れになってしまった二人はそれぞれの人生を歩む。それから8年後,漣は地元のチーズ工房で働いていた。葵は大学生。
二人は友人の結婚式で再会を果たしたが葵には恋人がいた。その後、葵はシンガポールへ行き起業。北海道で生きていくことを決意した漣と、世界中を飛び回って自分を試したい葵。出会った頃の二人の思いは交差し、それぞれ別の人生を歩み始めていた。そして10年後、再び二人にめぐりあう機会がやってきた。運命の糸はどのように紡がれるのか。引き離された男女が再びめぐり逢うまでを、中島みゆきの「糸」や「ファイト」「時代」などの歌とともに描く。
主演の菅田将暉、小松菜奈に加え、榮倉奈々、斎藤工、成田凌、二階堂ふみら若手俳優、そして倍賞美津子、永島敏行、松重豊などベテラン俳優陣が顔を並べる。監督は『8年越しの花嫁 奇跡の実話』『64-ロクヨン-』等の瀬々敬久。脚本は『永遠の0』『空飛ぶタイヤ』の林民夫。また菅田将暉、石崎ひゅーい、亀田誠治が本作の応援ソングとして「糸」をカバーしている。

私は中島みゆきの1975年のデビュー当時からのファンで、かれこれ45年になる。彼女のアルバムは全部持っているけど、コンサートや夜会などはなかなかチケットが取れないので10回くらいしか行ったことがない。そんな私が一番好きな曲は「時代」。この曲を聴いてファンになった。
そんな私だけど「糸」に関しては、アルバム『EAST ASIA』が出たときに聴いてはいたけど、数年前にCMで誰かカバーした人の歌で流れて、そういえばこういう曲もあったなと思ったくらいだった。その後、いろいろな人に歌われているなとは思ったけど、20年かかってこんなにも広がっていることに驚いた。
1994年頃、中華圏(中国、香港、台湾、シンガポールなど)で日本の歌がたくさんカバーされていることを知り、何人かの人と手分けして中華カラオケに行き、日本の歌のカバー曲について調べたことがあったけど、中島みゆきの曲が100曲くらいがカバーされているのを知って驚いた。でも今回この「糸」1曲を120組以上がカバーしているということを知りびっくりした。この曲が出たときには思いもよらなかったけど、こんなにも「糸」という曲に思いをはせる人がいて、さらには映画にまでなたということに、ファンとしては彼女の思いを理解してくれる人が増えたことが嬉しい。「時代」もそうだけど、「別れと出会いを繰り返し、めぐりあう」というテーマは彼女の歌の中にいくつもある。彼女の歌は力強くやさしい。くじけず生きていくんだよと力づけてくれる歌が多いと思う。そんな思いがこの映画に描かれていると思う(暁)。


主演の菅田将暉が演じた高橋漣は高校卒業後、北海道に残って美瑛のチーズ工房で働いている。菅田将暉はこのところ際立ったキャラクターを演じることが多かったが、久しぶりに等身大の青年だ。相手役の小松菜奈とは『ディズトラクション・ベイビーズ』(2016)、『溺れるナイフ』(2016)に続いて3度目の共演。息もぴったり合っていた。
ストーリーは中島みゆきの『糸』をモチーフにし、17年に渡る2人の出逢いと別れで展開する。そこには2人以外のさまざまな糸も織り込まれるが、ほかの糸を主人公にしても作品が作れるのではないか。それほどしっかりとした人物造形がなされていた。特に、高橋漣が働くチーズ工房の先輩・香を演じた榮倉奈々は思い切った減量をして役に挑み、強い印象を残す。香が娘に伝えた「偉い人にならなくていい。泣いている人がいたら励ましてあげなさい」という教えは、その後、何度も涙を誘う。
『糸』はエンドロールに使われるが、中島みゆきの曲はほかにも『ファイト!』がカラオケで使われる。これがまたいい。思わず、一緒に歌ってしまいそうだ。(堀)


2020年製作/130分/G/日本
配給:東宝
オフィシャルサイト

参照記事 シネマジャーナルHP スタッフ日記
中島みゆき三昧 『糸』『中島みゆき 夜会VOL.20「リトル・トーキョー」(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/476907706.html


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2020年08月15日

テロルンとルンルン

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監督:宮川博至
脚本:川之上智子
撮影:亀井義紀
主題歌:日食なつこ「vapor」
エンディング曲:おとぎ話「少年少女」
出演:岡山天音(朝比奈類)、小野莉奈(上田瑠海)、川上麻衣子(朝比奈由梨)、西尾まり(上田陽子役)、橘 紗希(橘麻衣)、中川晴樹(智浩)

父親が花火の事故で亡くなった後、引きこもり続けている類、聴覚障害があり教室でも言葉が出ない瑠海。それぞれに鬱屈を抱えていますが、紙飛行機が縁で知り合います。窓越しにメモを書いたり渡したりだけのほのぼのした交流です。瑠海の母親は、娘を心配するあまり誤解して二人を引き離してしまいます。

背景の説明はほぼないまま、ストーリーが進み、ちょっとした台詞や動きで想像させています。これは役者さんに力がないと難しいですよね。ちゃんとそういう配役になっていて、少しの起伏で静かで切ない物語を動かしていきます。
こんなにいい俳優さんが出ていて、自主映画なのに予算は間に合ったのかと余計な心配。
CMディレクターとして活躍してきた宮川博至監督、出身地の広島を舞台に制作した初の中編作品です。中之島映画祭 グランプリほか各地の映画祭で受賞多数。(白)


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8/21(金)にアップリンク吉祥寺にて岡山天音さん、小野莉奈さんが登壇し、宮川博至監督もリモートにて参加した「初日舞台挨拶」の模様が宣伝さんから届きました。

―最初にシナリオを読んだ印象について

岡山「ストレートに美しい台本でほれぼれしました」

ー演技について

岡山「自宅に閉じこもっている類には、外界から受け取った情報がどう五感に響くのか考えながら演じました。五感を意識して演じるのはあまりない経験で、印象深かったです」

小野「あまり表情をつくらないで、自然なお芝居をするように心がけました。瑠海は人前でそんなに飾る子ではないので、現場で感じた気持ちをそのままに表現するのが良いと思いました」

ーオフの日は?

小野「おいしいものを食べたり、スタッフのみなさんとおしゃべりしたり。(撮影現場の)広島を満喫しました」

ー二人の印象について

宮川監督「岡山くんは魅力だらけ。テストの演技からカットをかけるのを忘れるくらい見入ってしまいました。小野さんは芝居の爆発力が本当にすごい。でもカメラが止まっている時は寝ているか食べているかで、そのギャップが魅力だと思います」(場内笑)

ー最後にひとこと

岡山「みなさんもそうだと思いますが、自粛期間中は他人と会わずにひとりぼっちで過ごしていました。そういったタイミングでの公開となります。この作品が、他人が自分の人生にどんな価値をもらたしていてくれたのか、考えるきっかけになればと思います」

小野「この舞台挨拶をずっと楽しみにしていました。作品がたくさんの方に広まることを願っています」

2018年/日本/カラー/49分
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
http://terrolun-and-lunlun.com/
https://twitter.com/terrolun_lunlun
★2020年8月14日(金)広島八丁座にて公開中。8月21日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにて公開
posted by shiraishi at 17:37| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月14日

グッバイ、リチャード!(原題:The Proffesor)

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監督・脚本:ウェイン・ロバーツ
制作:グレッグ・シャピロ
出演:ジョニー・デップ(リチャード)、ローズマリー・デウィット(ヴェロニカ)、ダニー・ヒューストン(ピーター)、ゾーイ・ドゥイッチ(クレア)、 ロン・リビングストン(ヘンリー)、オデッサ・ヤング

「余命180⽇です」。⼤学教授のリチャードはがんが見つかり、突然の余命宣告を受けて呆然とした。大学では博学でエレガント、家庭では真⾯⽬な夫として、美しい妻と素直な娘との何不⾃由ない暮らしを送っていたリチャードの⼈⽣は⼀変。妻に病気を告げようとしたら、先に上司との不倫を告⽩されてしまった。娘もカミングアウトする。近づく死を前にもう怖いものはない。リチャードは、残りの⼈⽣を⾃分のためだけに謳歌しようと決⼼した。これまで自分に禁じてきたものを試し、ルールや⽴場に縛られずに送る日々は充実し、病気を忘れさせ、喜びをもたらした。

役を選ばず(選んでいるのかしら?)どんな役も嬉々として演じているように見えるジョニデ様。『シザーハンズ』(1990)以来のファンです。当時「なぜ皮のカバーを作らないんだ!」と突っ込んでいました。『チャーリーとチョコレート工場』(2005)で来日したときは、ティム・バートン監督のオーラに隠れてなんだかじりじりと後ろに下がっていく姿が印象的でした。
それはさておき、がん末期で死を待つだけ、という設定は我が実父と同じで身につまされるものがありました。もう遅いですがリチャードのように最期は自由にさせてあげたかったです。重いお涙頂戴話にせず、ジャック・スパロウのように軽やかに生きさせてくれたウェイン・ロバーツ監督(脚本も)えらい。きっとジョニデ・ファンに違いない。
友情厚きピーターにダニー・ヒューストン。いつも重厚な役が多いので今回は見違えました。(白)


このところ奇抜なビジュアルのイメージが強かったジョニー・デップですが、この作品では彼が端正な二枚目だったことを改めて実感。しかも渋い大人の魅力もたっぷり。奥さんが不倫した理由がわからない!とついついリチャード寄りの発言をしたくなります。
リチャードは本気で学ぶ姿勢が見られない学生に出ていくよう命じ、受講する学生の人数を激減させ、講義中に酒を飲み、生徒に調達させたマリファナを吸う。これまでできなかった自由な生き方を始めたリチャードの姿は同日公開される『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』の主人公たちと重なりました。とはいえ、真面目に生きてきたからこそ、最後まで心配してくれる娘や友人がいたのだという気もします。
余命宣告後をどう生きるか。シリアスなテーマですが、重くなり過ぎず、最後まで軽やかに描くことができたのはジョニー・デップの存在が大きいことは確かです。(堀)


2018年/アメリカ/カラー/FLAT/5,1ch/91分
配給:キノフィルムズ
配給協⼒:REGENTS
(C)2018 RSG Financing and Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
http://goodbye-richard.jp/
公式Twitter/Instagram: @gb_richardJP
★2020年8月21日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
8⽉17⽇(⽉)〜タイアップキャンペーン続々
posted by shiraishi at 14:47| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シリアにて  原題:Insyriated  英題:In Syria

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監督・脚本:フィリップ・ヴァン・レウ
出演:ヒアム・アッバス(『シリアの花嫁』『ガザの美容室』)、ディアマンド・アブ・アブード(『判決、ふたつの希望』)、ジョリエット・ナウィス、モーセン・アッバス、モスタファ・アルカール、アリッサル・カガデュ、ニナル・ハラビ、ムハマッド・ジハド・セレイク

内戦下のシリア。戦地に赴いた夫の留守を預かるオームは、3人の子と義父、そして隣人の若夫婦と共にアパートの一室に身を潜めている。赤ちゃんを抱えた隣人ハリマの夫が、レバノンに脱出する手続きに出かけていくが、外に出た途端、スナイパーに撃たれてしまう。窓辺で目撃したメイドがオームにそのことを伝えるが、ハリマにはとても言えない。やがて、ドアの外に男の気配がする・・・

ドアの内側には、しっかり木が打ち付けられているのですが、押し入られてしまいます。気丈に対峙する主婦オームを演じたのは、イスラエル生まれのパレスチナ人の名女優ヒアム・アッバス。若い娘たちを守るため、押し入った男たちの犠牲になるハリマを、『判決、ふたつの希望』での弁護士役が記憶に新しいディアマンド・アブ・アブードが演じています。
ある一日を描いた本作。この緊迫感の中で、シリアの人たちは暮らしているのだと、ひしひしと感じさせられました。タイトルにシリアとあるので、シリアの話なのだとわかるのですが、政治的なことを語りたい映画ではなく、戦争で犠牲になる庶民を描きたかったのだと思いました。
そも、シリアではいろいろな勢力がはびこっていて、まさに誰が敵かわからない状況。
イスラーム映画祭5で、シリア難民を描いた『ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール』上映後のトークで、山崎やよいさん(考古学者/シリア紛争被災者支援プロジェクト)が語っていた言葉を思い出します。
「シリアで起こっているのは戦争ではなくて、大虐殺。政権に従わない者はテロリストとされてしまう」「自由と尊厳を語る有象無象のグループがいます」
昨年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映された『私の影が消えた日』(監督:スダーデ・カダン)でも、内戦下のシリアで、誰が敵かわからない様子が描かれていました。
また、シリアの人たちが、もう何年にもわたって独裁政権に苦しめられてきたことは、『カーキ色の記憶』(2016年/カタール)で語られています。

この数年、シネジャのサイトで紹介したシリアが舞台の映画をリストアップしてみました。どれも、内戦下で苦しむ人たちを描いた映画ばかりです。
『それでも僕は帰る ~シリア 若者たちが求め続けたふるさと~』(シリア/2013年)
『シリア・モナムール』(2014年/シリア・フランス)
『ラジオ・コバニ』(2016年/オランダ)
『ラッカは静かに虐殺されている』2017年/アメリカ
『アレッポ 最後の男たち』(2017年/デンマーク・シリア)
『娘は戦場で生まれた』(2019年/イギリス、シリア)
一刻も早くシリアに平和が訪れて、明るいシリアを描いた映画ができることを願ってやみません。(咲)


シリアを描いた映画としては『娘は戦場で生まれた』が記憶に新しいですが、内戦状態で爆撃が毎日あり、緊張が続く中で暮らす人々の姿を見るたびに、私たちに何かできることはないのか、映画を観ている場合じゃないと、いつも心がざわつきます。この映画はドキュメンタリーではないものの、やはり観ているだけで緊張が伝わってきました。こんな中でも強盗団が出現するというのにも驚きましたが、このコロナ禍で留守になった店舗に泥棒が横行していると聞き、こういう状況だから、人の弱みに付け込む人が出てくるのかとも思う。シリアでの緊張した中での1日を描いた作品ではあるけど、助け合う人々の姿にかすかな希望を忘れてはならないと思った。銃で撃たれたハリマの夫は夜になってやっと搬出されたけど、無事だったのだろうか。『娘は戦場で生まれた』に出てきたような病院はまだ残っているのだろうかと考えてしまった(暁)。

シリアは紛争地域で危険であることは分かっているものの、取り巻く情勢について、恥ずかしながらよくわかっていない。そんな状態でこの作品を見て、理解できるだろうかと少し不安を感じながら見始めたのだが、全く問題なかった。もちろん分かっていれば、より作品を理解できたに違いない。しかし、何の知識がなくても、戦争は絶対にしてはいけないことだという監督の強い思いは伝わってきた。
家族と一緒に穏やかに暮らしたい。ただ、これだけのことをするのに、みな命懸けとは!これはシリアだけでなく、すべての紛争地域で苦しむ人々の物語である。(堀)


第67回ベルリン映画祭パノラマ部門 観客賞
第30回東京国際映画祭(2017年) ワールド・フォーカス部門で上映

2017年/ベルギー・フランス・レバノン/アラビア語/カラー/86分
配給:ブロードウェイ
公式サイト:https://in-syria.net-broadway.com/
★2020年8月22日(土)より岩波ホールほか全国順次公開
posted by sakiko at 10:12| Comment(0) | ベルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

きっと、またあえる   原題:Chhichhore

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監督:ニテーシュ・ティワーリー(『ダンガル きっと、つよくなる』)
出演:スシャント・シン・ラージプート、シュラッダー・カプール、ヴァルン・シャルマ、プラティーク・バッバル 、ターヒル・ラージ・バシン、ナヴィーン・ポリシェッティ、トゥシャール・パーンデー、サハルシュ・クマール・シュクラ、ムハンマド・サマド

アニルッド(通称アニ)の息子が受験に失敗して自殺をはかり、病院に運び込まれる。アニと息子を励まそうと、アニのボンベイ工科大学時代の寮の悪友たち7人が駆けつける。アニたちのいた4号寮は、建物もボロボロで、競技大会でもどの種目も最下位。他の寮からは負け犬と呼ばれていた。汚名を返上しようと団結して頑張ったエピソードを、息子に次々に聞かせる・・・

原題『CHHICHHORE』は「チチョーラー」という形容詞の複数形で、軽薄な、生意気な、というような意味とのこと。皆で馬鹿をやった1992年の学生時代が、ほろ苦くもユーモア満載で語られます。超エリート校であるボンベイ工科大学に入学できて意気揚々のアニ。でも、あてがわれた古びた4号寮には、一癖も二癖もある寮生ばかり。とんでもない学生生活でしたが、エリートが集まり建物も綺麗な3号寮から引き抜きを受けても、アニは移りませんでした。何年も経って、一大事の時に駆けつけてくれる仲間たち。人生における大切な宝物です。
インド工科大学ボンベイ校出身の監督が、自身の寮生活をいつか映画にしたいと思っていたところに、息子が受験に苦しむ姿を見て本作を製作。人生失敗したっていいんだと勇気づけられます。

松岡環さんのブログ「アジア映画巡礼」に、『きっと、またあえる』のコレに注目!として、現在、<1>から<13>まで掲載されています。鑑賞のご参考に♪
『きっと、またあえる』のコレに注目!
<1>予告編来ましたぁ!!
<13>来場者プレゼントが待っている!!
<2>~<12>は、自力で探してください♪
そして、残念なことに主役のアニを務めたスシャント・シン・ラージプートさん、この6月に亡くなられました。享年34歳。詳細はこちらで
ご冥福をお祈りします。(咲)


インド工科大学ボンベイ校をモデルにしたボンベイ工科大学の卒業生の今と昔(学生時代)を交互に描き、人生は環境ではなく、誰と何をすることかが大事であることを描いた作品です。とはいえ、浮かび上がってくるのはインドに浸透する学歴社会。カースト制度と違って自分の努力で何とかなるからでしょうか。インドでも熾烈な受験戦争が繰り広げられているのが伝わってきます。そして、トップ校に入学できたとしても、その中でまた序列がある。それを覆すために奮闘する主人公たちの姿を笑いと涙で映し出します。しかし、人間というものはどこまでいっても順番をつけたくなるものなのですね。(堀)

2019年/インド/ヒンディー語、英語/143分
配給:ファインフィルムズ
公式サイト:http://www.finefilms.co.jp/chhichhore/
★2020年8月21日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかほか公開



posted by sakiko at 09:56| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月11日

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー ( 原題:BOOKSMART )

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監督:オリヴィア・ワイルド
製作総指揮:ウィル・フェレル、アダム・マッケイ
出演:ビーニー・フェルドスタイン、ケイトリン・デヴァー、ジェシカ・ウィリアムズ、リサ・クドロー、ウィル・フォーテ、ジェイソン・サダイキス、ビリー・ロード、スカイラー・ギソンド

親友同士で成績優秀な女子高生エイミー(ケイトリン・デヴァー)とモリー(ビーニー・フェルドスタイン)は、卒業式前日、遊び放題だったクラスメートがレベルの高い進路を決めていることを知って衝撃を受ける。二人は勉強一筋で青春を犠牲にしてきたことを後悔し、残り少ない学園生活を謳歌(おうか)すべく卒業パーティーに繰り出すことを決意。そんな二人の波乱の一夜が幕を開ける。

本作の試写や資料を何度目にしても、あの英国美人女優オリビア・ワイルドの容姿、端正で知的な演技とが全く結び付かない。下ネタ満載、女性器の名称を連呼してしまうような女子高生物語をなぜを長編監督デビュー作に選んだのか…。しかも、製作総指揮はあの『俺たち』シリーズのウィル・フェレルとアダム・マッケイなのだ。

が、本作は安手のおバカコメディではない。むしろ傑作といえる。お下品なお笑いネタを詰め込みながら、青春の傷みや矛盾、屈折、煌めき、惜別、哀切さなどを余すところなく丁寧に描いてみせる。
技法的にも、適切な場面でハイスピードカメラを使用し、緩急自在の演出力を披露。車、パーティ、お酒、ドラッグなどハイスクールものに有りがちな細部のディテールにも手を抜かない。恋愛模様はLGBT関連が中心の今日性を有す。ミュージカル風演出への転調も不自然さはない。初監督作としては及第点以上なのだ。世代や国境を越えた青春バディものとして普遍性を持っている。

俳優ジョナ・ヒルの妹(そっくり!)だというビーニー・フェルドスタインとケイトリン・デバーの”ライジング組”が、ファンキーなVOLVOに乗り込む場面から快調そのもの。日本では無名の若手俳優が大挙出演すると通常は見分けがつかないが、一瞬で分かるスクールカーストの描写力により、スムーズに物語へ入っていける。校内からオープンテラスへ出て行く際のワンカット長回しにご注目!主役を軸に映しながら、自然な生徒(エキストラ)の動きに目を見張らされる。
…とまぁ、分析的に紹介してみたけれど、本作は何も考えずに笑えて好感の持てる”女子版ジャド・アパトー”として観るのが一番楽しいはずだ。(幸)


タイトルの「Booksmart(=ブックスマート)」とは本を読んで知識を得た、頭でっかちな人のこと。真面目に勉強し、優秀な成績を納め、有名大学への進学を決めた主人公2人はまさにブックスマート。これまでのやってこなかった分を一気に取り戻すべく、校内一の人気者が主催する卒業パーティーに繰り出そうとすると聞くと、「なんだ、アメリカの青春映画特有の乱痴気騒ぎの映画ね」と思うかもしれません。実は私もそう思って見始めましたが、この作品はちょっと、いえ大きく違うんです。卒業パーティーにたどり着くまでに一波乱も二波乱も、いや三波乱(こんな表現ないですけれどね)もあって、そのドタバタが見ていて楽しい。本作は失敗をしつつも経験値を上げていく2人の成長譚なのです。
そして、同級生の遊んでいる面しか見てこなかった主人公2人だけでなく、エンジョイ組にもみんなの思い込みに振り回されている人たちがいます。人は懐を割って話してみないと分からないもの。思い込みを捨てて、人と接してみれば、出会いはたくさん待っているのかもしれません。(堀)


2019年/アメリカ/英語/102分/スコープ/カラー/5.1ch/
提供 ・配給:ロングライド
(C)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.
公式HP:https://longride.jp/booksmart/
★8月21日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開★
posted by yukie at 02:36| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月08日

海の上のピアニスト(原題:The Legend of 1900)

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監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
撮影:ラホス・コルタイ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ティム・ロス(ナインティーン・ハンドレッド)、プルイット・テイラー・ビンス(マックス)、メラニー・ティエリー(少女)

ニューヨークに到着した豪華客船の中で、生後間もない赤ん坊が見つかった。船の中で生まれたが連れていけず、ピアノの上に置き去りにしたらしい。男の子は世紀の変わり目となる1900年に因んでナインティーン・ハンドレッドと名付けられ、船で働くものたちに可愛がられて育った。戸籍も持たず、船の中が彼の世界の全てだった。いつしか船内のダンスホールでピアノ演奏を覚え、誰にもまねのできない即興曲を次々と作り出して人気を博していく。ピアニストとしてデビューを勧められても頑として断るナインティーン・ハンドレッドは、乗客の美しい少女に心を奪われる。下船した彼女の後を追って、人生で初めて船を下りようとするのだったが…。

ジュゼッペ・トルナトーレ監督といえば名作『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)。日本公開されたときの熱狂ぶりが今も伝えられています。その監督の初英語作品。バンドの一員だったマックスがとっておきの話として語ります。舞台となる豪華客船の下層にはアメリカへ移民しようとする人々、上層階には船旅を楽しむ富裕な人々、その生活はくっきりと分けられています。
毎晩ダンスパーティで喝采を送られる孤児の天才ピアニストに、当時30代半ばのティム・ロス。表情豊かで輝いています。ピアノ演奏も特訓の結果。窓の向こうに現れるメラニー・ティエリーは、ふんわりとした輪郭で、「少女」というほか名前もつけられていません。これが人生を変える決心をするほどの出逢いになるというのが、ロマンチックの極みです。
霧の中から現れる自由の女神像に「アメリカ!」と叫んで、未来への期待いっぱいで降りていった人々のその後は、いくつもの映画が続きを紡いでいます。華やかなダンスホール、人々がひしめき合っている船内、希望の地であったはずが経済恐慌で荒れた街、さび付いてしまった客船…。人々のドラマのほか美術と撮影にも目を奪われます。この何十年の物語を、シネマスコープの画面が生きる劇場でご覧ください。
印象的な音楽を数多く送り出したエンニオ・モリコーネは2020年7月6日、91歳で逝去しました。トルナトーレ監督の劇映画全作で音楽を手がけています。合掌。(白)


今回公開されるイタリア完全版は170分! 1999年に日本で劇場公開された短いインターナショナルバージョン(121分)を観ていないので、比較出来ないのが残念です。
楽器屋にトランペットを売りにきたマックス・トゥーニー(プルイット・テイラー・ビンス)。二束三文にしかならないトランペットさえ売らなければならないマックスが、最後に一曲と吹いた曲を聴いて、楽器屋の老店主が1枚のレコードをかけるところから、物語は始まります。トランペットを売っても、宝物のような思い出があるからいいというマックスの語った驚くべきピアニストの物語。

大西洋を巡る豪華客船ヴァージニアン号。船上で生まれたピアニストの名前の由来となった1900年には、優雅に旅する金持ちと、故国を離れ新天地を求める貧しい移民たちを乗せていました。世界恐慌の時代も耐え抜き、第二次世界大戦の時には病院船としての役目を果たし、いよいよ爆破されるまでが描かれます。ピアニストの人生と共に描かれる船の運命。
私の母方の祖父が、昭和10年(1935年)頃まで大阪商船の船長として外国航路を回っていて、ブラジルに移民する方たちを乗せていったこともあるので、船の中の様子に興味津々でした。
シャンデリアが輝き、ダンスも出来る広いホールのある上の方の階にはお金持ち。広々とした個室で、ゆったりと船旅を楽しんでいます。一方、下の方の3等客室には、3段ベッドがずらり。
食糧貯蔵庫に迷い込んだ時には、まだ原型が想像できる骨の付いた肉がいっぱいぶらさがっていました。航海中、大勢の人の胃袋を満たすには、どれほどの食材が必要でしょう。そして船底では、汗にまみれながらタービンに石炭をくべる人たち。社会のヒエラルキーの縮図のような船。いろんな人の人生を運んでいたことに思いを馳せました。
楽器屋の老店主も、決して裕福じゃないのに、小金にも困った音楽家たちが愛用した楽器を買い取っている様子が見て取れて、ほろりとさせられました。(咲)


1998年/イタリア/カラー/シネスコ/121分、170分
配給:シンカ
(C)1998 MEDUSA
http://synca.jp/uminoue/
★2020年8月21日(金)デジタル修復版 ロードショー
イタリア完全版(170分)は9月4日(金)からの公開になります。
posted by shiraishi at 20:30| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はりぼて

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監督:五百旗頭幸男(いおきべゆきお)、砂沢智史(すなざわさとし)
撮影・編集:西田豊和
プロデューサー:服部寿人
語り:山根基世
声の出演:佐久田脩
テーマ音楽:「はりぼてのテーマ~愛すべき人間の性~」作曲・田渕夏海
音楽:田渕夏海
音楽プロデューサー:矢崎裕行

2016年から富山県のチューリップテレビが取材したドキュメンタリー。市議会議員報酬10万円アップの要求をきっかけに、これは妥当なのか政務活動費が正しく使われているのか疑問が膨らむ。砂沢智史監督(当時富山市政担当記者)は、疑問の裏付けをとるべく何千枚もの資料を請求、デスクとともに連日確認に励む。五百旗頭幸男監督(当時キャスター)も、議員本人、富山市当局を追及。市議会のドンと呼ばれた大物議員の不正発覚を皮切りに、取材班の粘り強い調査は最終的に14人の議員辞職ドミノを起こすことになった。

これだけの調査をし、ニュースとして取り上げるにはさぞ勇気と覚悟が必要だっただろうと思いました。存分にやれ、と言ってくれた上司、同僚、家族の応援もあったでしょう。何より記者として伝えなければ、という思いが強かったのではないかと想像します。規模の違いこそあれ、同じようなことが国の政治中枢でも、身近なところにもきっと起こっています。それに気づいて疑問を糾弾したり、是正しようと動く人がどれだけいることか。そういう人が出てきたら、応援して支えましょう。
議員は住民の期待を背負って、代表となる人です。高額の収入や年金や、ましてや権力を手に入れるために出発したのではなかったはず。歪んでしまったなら、メディアはそれを知らせるのが仕事じゃありませんか? 新聞記者やテレビのキャスター、コメンテーターが政府を批判したからと、降ろされたり締め出されたりするのはおかしいです。おかしいぞ、と言える国でなくちゃ。(白)

☆五百旗頭幸男監督、砂沢智史 監督のインタビューはこちらです。

2020 /日本/日本語/カラー/ビスタ(1:1.85)/ステレオ/100 分
配給:彩プロ
(c)チューリップテレビ
公式サイトhttps://haribote.ayapro.ne.jp
Twitter  https://twitter.com/haribotemovie
★2020年8月16日(日)渋谷 ユーロスペースほか全国順次公開
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2020年08月07日

この世の果て、数多の終焉(原題:Les confins du monde)

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監督・脚本:ギヨーム・ニクルー
出演:ギャスパー・ウリエル(ロベール・タッセン)、ギヨーム・グイ(カヴァニャ)、ジェラール・ドパルデュー(サントンジュ)、ラン=ケー・トラン(マイ)

1945年3月。フランス領インドシナに進駐していた日本軍がクーデターを起こし、それまで協力関係にあったフランス軍に一斉攻撃を仕掛けた。駐屯地での殺戮をただひとり生き延びたフランス人の兵士ロベールは、兄を殺害したベトナム解放軍の将校ヴォー・ビン・イェンへの復讐を誓い部隊に復帰する。ゲリラとの戦いは苛烈を極め、ヴォー・ビン・イェンの行方はつかめない。ロベールはベトナム人娼婦マイに惹かれるが、復讐に取り憑かれて後戻りはできない。やがて軍規に背く行為へと駆り立てられるように突き進んでいく。

フランス領インドシナ(1887-1954)は現在のベトナム、ラオス、カンボジアを合わせた地域。第2次世界大戦中日本軍も一時占領していました。ヨーロッパの大国がアジア、アフリカの国々を植民地としていた時期、あまりに国力が違いすぎて抵抗できなかったのでしょう。日本も大東亜共栄圏という構想をぶちあげたことがありました。アジアで共存共栄をという日本も、列強もどっちもどっちです。蹂躙された人々の嘆きも涙も届かない、というより同じ人間として見ていません。
インドシナにやってきたロベールやほかの兵士たちも、国の欲と都合に人生を狂わされてしまいました。映画は兵士たちの戦う場面ではなく、戦闘が過ぎて死体が散らばる凄惨な場面を映し出します。ロベールは兄が無残に殺されて、憎しみと復讐心をたぎらせますが自分の家族だからこそ。繊細なギャスパー・ウリエルが苦悩するのが痛々しいです。
どの兵士も住民も娼婦も、父と母から生まれた同じ人間なのに、そうは思わない訓練をして兵士は作られていきます。
壊れていくロベールに手を差し伸べる作家サントンジュは、名優ジェラール・ドパルデューが貫禄で演じています。サントンジュはフランス軍と独立を求めるインドシナの間にいる人間です。慧眼と包容力、父性を兼ね備えた彼だけが、ロベールの魂を救えたのに。
ベトナムのじっとりした暑さと死臭漂うような画面は観客を不安にします。不条理で不毛なのが戦争、とわかっても繰り返すのはなぜなのか。今に人間は地球から放り出されるのでは、というのは杞憂でしょうか?(白)


主人公のロベールが肩を落として座っている場面はポスタービジュアルにもあるが、シネスコの横長画面がロベールを押し潰しているかのように見える。バックに見える人々も歪められているのか、速度が緩慢でぼわんとした印象。ロベールは精神状態が普通でなく、次第に追い込まれていく。ベトナム帰還兵が心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ話は映画に多いが、ロベールもPTSDだったに違いない。
ベトナム戦争はアメリカが起こしたものだとばかり思っていたが、始まりはフランスだったことをこの作品で知った。しかも日本がそこに絡んでいたとは! 歴史を知ってから見た方がより作品を理解できるだろう。
ところで、ジェラール・ドパルデューは14日公開の『ファヒム パリが見た奇跡』にも出演していて、今週はジェラール・ドパルデュー祭。フランスの国籍を捨て、ロシア国籍を得たとはいえ、演じている役はどちらも当然ながらフランス人。圧倒的な存在感を放っていた。(堀)


2018年/フランス/カラー/シネスコ/103分/R18+
配給:キノフィルムズ
(C)2017 Les films du Worso - Les Armateurs - Orange Studio - Scope Pictures - Rectangle Productions - Arena Films - Arches Films - Cinefeel 1 - Same Player - Pan Europeenne - Move Movie - Ce Qui Me Meut
https://www.konoyonohate.jp/
★2020年8月15日(土)ロードショー
posted by shiraishi at 20:17| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ディヴァイン・フューリー/使者(原題:The Divine Fury)

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監督・脚本:キム・ジュファン
出演:パク・ソジュン(パク・ヨンフ)、アン・ソンギ(アン神父)、ウ・ドファン(ジシン)、チェ・ウシク(チェ神父)

ヨンフは自分が産まれるのと引き換えに母を亡くし、警察官の父と二人暮らしだった。その父も亡くなってしまい、神父の言う通り真剣に祈ったのに助けてくれなかった!と怒る。神に見捨てられたと恨みながら20年が経った。いまや非情なプロの格闘家として負け知らずだったが、父の夢を見た後、手の平に覚えのない傷ができて血が止まらず原因は不明。占い師から心が汚いから悪霊につけこまれると言われて、ムッとするが反駁できない。
バチカンから悪魔祓いのためにソウルに派遣されたアン神父は、危ないところをヨフンに救われる。ヨフンの傷を聖痕と見たアン神父は、頑ななヨフンに「何事も神の意思」と説く。「神は信じない」と言いつつ、神父の手助けをするヨフン。一方ソウルに潜む大きな闇が2人に迫ってきていた。

悪魔祓いのストーリーはアメリカと思っていたら、これは韓国製。韓国はクリスチャンが全体の3割と日本よりずっと多い(日本は1%くらい)ので、成り立つんですね。とりつきやすい人のところに悪魔が次々とやってきて、アン神父が孤独な闘いを続けます。このとりつかれる子役さんすごい!
荒唐無稽な話でも、アン・ソンギがいるだけで、信ぴょう性が増します。頼りになって安心しますね。同時に茶目っ気を見せるシーンもあります。命がけで悪魔祓いをするアン神父に、ヨンフが亡くなった父親の姿を重ねて心を開いていくのにほっこりします。これからも元気で映画に出てくださいますように。
ウ・ドファンが邪悪で美しいです。善と悪のすさまじい戦いが待っていますので、心してご覧ください。(白)


子役くんはかわいいのだけれど、あまり運動神経が良さげには見えず。長じて総合格闘技の世界チャンピオンになったというのは少々ギャップが。。。しかし、そんな違和感もパク・ソジュンの鍛え上げられた肉体がすぐにねじ伏せてしまうので大丈夫。
それよりも本作でいちばんおいしい役どころだったのはウ・ドファンではないだろうか。悪役ながら美しさが堪能でき、アクションシーンの見せどころがばっちりある。特殊メイクはかなり時間がかかったであろうけれど、その変身ぶりは驚愕モノ! ファンにはたまらない作品だろう。『東京喰種 トーキョーグール【S】』での松田翔太を思い出した。
チェ・ウシクが演じたアン神父の弟子のチェ神父はすぐに退場してしまったかと思いきや、最後まで活躍場面があってよかった!(堀)


神様も世の中も信じられない格闘技チャンピオンを演じたパク・ソジュン。ちょうど観終わったばかりのドラマ「キム秘書はいったい、なぜ?」では、財閥の御曹司で大企業の副会長を務める完璧な俺様男で、全く違う雰囲気。さすがな演技力と唸りました。
そして、おぞましい悪魔祓いの映画なのに、観る者に安らぎを与えてくださるアン・ソンギさん! キム・ギドク監督の『人間の時間』も、かなりえぐい映画でしたが、アン・ソンギさんの静かな笑顔のお陰でなんとか観ることができました。どちらの映画も、演じるにはかなり勇気のいる役どころ。アン・ソンギさんは、柔軟剤か、はたまた緩衝材?! ご自身それを自認してオファーを受けたのかとお聞きしたくなりました。(咲)



2019年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:クロックワークス
(C)2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
公式サイト:http://klockworx-asia.com/divinefury/
★2020年8月14日(金)シネマート新宿ほか全国順次公開



posted by shiraishi at 10:39| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月03日

ファヒム パリが見た奇跡 (原題:Fahim )

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監督・脚本:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル
出演·:アサド・アーメッド、ジェラール・ドパルデュー、ミザヌル・ラハマン、イザベル・ナンティ

わずか8歳で母国バングラデシュを追われたファヒム。母親と引き離され、父親と二人でたどり着いたのはフランス・パリだった。亡命者として政治的保護を求めるも、言葉も文化も違う異国では なかなかうまくいかない。そんな時、故郷でチェスの天才と呼ばれていたファヒムは、フランス国内でも有数のトップコーチであるシルヴァンと出会う。国籍も年齢もかけ離れた師弟は、ぶつかり 合いながらも信頼関係を築いていく。しかし、一方でファヒム父子の亡命は認められず、強制送還の脅威にさらされることに・・・。解決策はただ一つ。ファヒムがフランス王者になることだった。

冒頭、深刻な政変混乱が続くバングラデシュ・ダッカで、身を危険に晒すファヒム一家の描写から、居住まいを正して観ることになる。キリリとした軍服を纏った父、豆粒のように小さいファヒム。”これは実話なのだ、現代でもこれ程の危機に瀕している国が、人がいる”と考えるだけで心が押し潰されそうになった。

父と二人でパリに辿り着くも安住の地ではなかった。移民局では、インド人を亡命者として優先したい通訳に”違訳”され、妨害を受ける。この場面はフィクションではなく実際にあることだという。国籍が異なる難民同士の諍いに胸が傷む。

母国でもチェスの天才と呼ばれていたファヒムの機転で、仏でも有数のトップコーチと出会い、才能を認められるも、父子の亡命申請は通らず強制送還の日は迫る。ファヒムを救え!コーチやチェス仲間の強い応援と協力を得て、ファヒムが王者目指してチェスに邁進するまでの経緯は、観客の誰しもがエールを送るだろう。そして最後には大きなカタルシスを得ることになる。
実際には、父子は仏の身分証を取得できたが、フランス国籍は未だに得られていないそうだ。そんな中でもファヒムはバカロレア(高校卒業試験)に合格し、商業学校に通っているという。聡明なファヒム、真面目一方の父をもってしても国籍の壁は高い。

監督・脚本のピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァルは、実話を「よくある“フェイクドキュメンタリー”のように手持ちカメラで質の悪い映像フレームで撮影したくなかった」と語る。その狙いは当った。チェスを格闘技の如く躍動的に映しつつ、画角にキチンと収まる品の良さは仏映画ならではだ。

映画の完成を待たずに亡くなったコーチと、扮するジェラール・ドパルデューが似ていることに驚いた。が、何より強い印象を残したのは、撮影3ヶ月前にバングラデシュから仏に移住したというファヒム役のアサド・アーメッドだ。ファヒムと同じく言葉を覚え、チェスを習い、初めての海に感動する…。職業子役では成し得ない”役を生きる”ことを体現している。更に父役の俳優も、路上生活を続け、パリの街角で花を売る日々。息子のように言葉を覚える術もない…。その焦燥、不安、アイデンティティの喪失を身体で表現する様に目が潤んだ。
日本にも存在する難民申請中の外国人たちに思いを馳せながら、ファヒム一家の幸せを願って止まない。(幸)


本作はバングラデシュを追われてフランスにたどり着いた父子の話。試写を見た直後は割とすんなりフランスに入国し、するするっとチェスのチャンピオンになってしまった印象を受けた。しかし、後からじわじわと作品の良さが心に響いてきた。本作が描きたかったのは、国外への逃亡の危険やチェスで勝つ大変さではなく、新しい環境に馴染んでいく息子に対する父親のうれしさと悲しさではないだろうか。フランス語が話せない父親にとってフランス語を話す息子は頼もしい存在だが、ナイフとフォークで食事をする息子を寂しそうに見つめる眼差しからバングラデシュの文化が消えていく悲しみが伝わってきた。モデルの父子はフランスの国籍はまだだが、身分証は獲得できたという。2人にとっての本当の幸せとはいったい何なんだろうか。いろいろと考えさせられる作品である。(堀)

★スタッフ日記に雑感を書きました。
『ファヒム パリが見た奇跡』に、難民認定の壁の高さを思う (咲)


2019年/フランス/シネマスコープ/カラー/デジタル/ 107分
後援:フランス大使館、アンスティチュ・フランセ、ユニフランス
提供:東京テアトル、東北新社 
配給:東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES
(C) POLO-EDDY BRIERE.
公式サイト:https://fahim-movie.com/
★8月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開★
posted by yukie at 20:42| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ジェクシー! スマホを変えただけなのに ( 原題:JEXI)

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監督、脚本:ジョン・ルーカス、スコット・ムーア
出演:アダム・ディヴァイン、アレクサンドラ・シップ、マイケル・ペーニャ、ローズ・バーン(声)

子供の頃からスマホ依存症で、恋人も友達もゼロのフィル。ある日、機種変更したスマホにはライフコーチ機能が搭載されていた。
全ての個人情報を把握し、ジェクシーと名乗る”彼女”のコーチングで人生が変わり始めたフィル。しかし…念願の恋人が出来た時、ジェクシーに異変が…!「フィルは私の男!」恋に落ちちゃったジェクシーが暴走覚醒!上司への暴言メール送信、銀行口座から預金の流出、秘密の写真を一斉送信!!嫉妬に狂ったジェクシーに命を狙われるフィルは一体どうなる!?あゝスマホを変えただけなのに!!

上手い邦題を付けたものだ。似た題名の邦画と同じく、主人公がスマホに振り回される展開だが、内容はホアキン・フェニックス主演『her/世界でひとつの彼女』の”邪悪版”と考えればよい。

フィル少年はものごころついた頃から両親の喧嘩など、何かにつけスマホを渡され、”家族”としてきた。長じてもスマホ依存症は変わらず。カリフォルニア大学卒のジャーナリスト志望ながら、上司に「バズる記事のリストを作れ!」と命令され、「ライアン・ゴズリング似の猫」(!)といった仕事に甘んじている。本作にはこうした小ネタの笑いが詰まっている。早口でバンバン繰り出されるネタにご注目を!

『ピッチ・パーフェクト』シリーズなどの俳優兼コメディアンアダム・ディヴァイン(名演)扮するフィルが機種変したスマホのAIは、『her/世界でひとつの彼女』のスカーレット・ヨハンソンのようなセクシー彼女ボイスと大違いの、下ネタ上等、口が悪く意地汚いジェクシー。豚焼きそばを食べたかったのに健康志向を押し付け、頼んでもいないケイルサラダを注文。文句を言うと、「インストールする時、同意したでしょ!」
勝手にポルノ動画を出すわ、運転中の選曲もしちゃい、「チキン!弱虫!」と罵りまくる。挙げ句の果ては、会議中に「こんなくだらない会議、抜けろ!」

自由過ぎて謀略無人だが、嫉妬心も強いという複雑な性格のジェクシーは、せっかくできたフィルの彼女や親友の間を裂こうとする。はてさて…。AIと人間との平和な融合といった主題は幾らでも応用が利きそう。今後もクリエイター魂をくすぐるだろう。(幸)


2019/カラー/5.1ch/アメリカ・カナダ/スコープ/84分/PG-12
配給:ショウゲート 
公式サイト:http://jexi-movie.com
©2019 CBS Films Inc. All Rights Reserved.
★ 8月14日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー★
posted by yukie at 20:19| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月02日

もったいないキッチン

2020年8月8日 シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
その他の劇場情報

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©UNITED PEOPLE

監督:ダービド・グロス
脚本:ダービド・グロス
プロデューサー:関根健次
日本語吹き替え版ナレーション:斎藤工
出演
ダービド・グロス
塚本ニキ
井出留美

2020年/95分/日本/日本語・英語・ドイツ語
製作・配給:ユナイテッドピープル

捨てられてしまう食材を救いに日本全国へ!
0円食材が美味しい料理に大変身。目からウロコのロードムービー


日本が大切にしてきた「もったいない」精神に魅せられオーストリアからやってきた映画監督のダーヴィド・グロスが、日本各地を旅して食品ロス解決の糸口を探すドキュメンタリー映画。
廃棄食材などを美味しい料理に変身させる『もったいないキッチン』には、今こそ必要なアイデアが詰まっています。また外出自粛、イベント中止、学校臨時休校などによって新たな食品ロスも発生しており、この映画がお役に立ちそうです。

私がいつも楽しみに見ている「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)というTV番組の中に「0円食堂」というのがある。TOKIOのメンバー(時にはゲストも)が農家や生産者を車で尋ねてまわり、捨ててしまう食材をいただいてそれを使って料理し、材料をいただいた人たちと一緒に食べるというもので、意外な食材などもあって面白い。2013年から続く企画でいつも楽しみにしている。このところはコロナの影響もあり旅に出られないので「0円食堂」ではなく、その食材を提供してくれた人たちに連絡を取り、食材を買い取って料理を作る企画「DASH人脈食堂」もスタートした。
これと同じような形で、捨てる食材救出の旅に出たダーヴィド・グロス監督たち。前作の『0円キッチン』(2015)は見ていないけど、こちらはヨーロッパを回ったものとのこと。そして今回の日本での食材救出の旅と検証。無駄にしている食材がなんと多いことか、改めて突きつけられる。それとは逆に日常生活で食費にお金をかけられない人もたくさんいる。こんな試みがあちこちで行われ、必要な人たちへの橋渡しがうまく機能できれば、もう少し無駄になる食材が減っていくことだろう(暁)。


日本の食品ロスは信じられないほど多いらしい。大型スーパーのきれいに並べられた棚には空きがありません。生鮮食品が隙間なくあると、売れ残ったものはどうなるの?とつい思います。馴染みの鮮魚店は閉店までに店主の声かけで、品物が次々とお客さんの手に渡り、敷かれた氷ばかりが見えました。これが理想的です。
コンビニのお弁当が経過時間に応じて値下げされるようになったのは去年秋くらいから。それまでは処分されていたんでしょう。もったいない!我が家も例外でなく、冷蔵庫でゆっくりダメにしてしまう食品があります。入れたことで安心してしまい、きちんと使い切っていませんでした。もったない!一時コンポストに凝ってベランダで土づくりをしたことがありました。虫を育てたようなもので、中止。多々反省しつつ「もったいない!」を続けていきます。(白)

スーパーやコンビニなどのお店から廃棄された大量の食品。いつでも新鮮な食べ物を陳列するための必要悪だという。監督はもったいないとばかりに、廃棄物の山から取り出したものをまだ食べられると口にする。確かにまだ食べられそうなものばかり。でも、万が一、それを食べたことで体調を崩したら業者の責任問題だ。どこかで線を引かなければいけない。
しかし、そもそもの設定が間違っているのではないだろうか。新鮮で美味しいものが常に陳列されていないといけないのだろうか。毎日、売り切れるだけの数を並べて、売り切れたらおしまい。買えなかったら諦める。これが昔は当たり前だったのに。冒頭からそんなことを思い出させてくれる。
しかし、廃棄物は食べられる監督だが福島の長ネギは手を出さない。まだ放射能が不安だという。検査機関に持ち込み、線量を測り、基準を下回っていると分かっても不安そうだ。どこを通ってきたものかがわからない廃棄物には手を出せない私だが、福島の人が必死な思いで作った長ネギは食べられる。もちろん、どちらが正しいというのではない。本作はさまざまな食の試みを提示することで、みんなが食に対して考えるきっかけを与えてくれるのだ。(堀)


公式HP
配給協力・宣伝:クレストインターナショナル/
提供:クックパッド株式会社

予告編
斎藤工吹き替え版予告編

参考記事
映画『もったいないキッチン』緊急オンライン先行公開!
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/475223960.html
posted by akemi at 21:16| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

赤い闇 スターリンの冷たい大地で  原題:Mr.Jones

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監督:アグニェシュカ・ホランド
出演:ジェームズ・ノートン、ヴァネッサ・カービー、ピーター・サースガード

1933年、英国。ガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)は、20代の若さながら首相の外交顧問を務めていたが、国家予算削減で解雇される。兼ねてよりジョーンズは、世界中に恐慌の嵐が吹く中、ソ連だけが経済的に繁栄していることに疑問を抱いていた。スターリンの資金源を明かしたいと、フリーランスの記者としてモスクワに赴く。ヒトラーに直接取材した経験のあるジョーンズは、スターリンにも直接取材したいと目論んでいた。モスクワ入りし、ニューヨーク・タイムズのモスクワ支局長ウォルター・デュランティ(ピーター・サースガード)にコンタクトを取る。彼の口から、かつてヒトラー取材の橋渡しをしてくれた友人の記者ポールが強盗に射殺されたと聞かされる。ニューヨーク・タイムズの女性記者エイダ(ヴァネッサ・カービー)は、ポールがスターリンの金脈であるウクライナに行こうとして撃たれたと言って、ポールの遺した訪問先メモをジョーンズに手渡す。真実を追究する!と決意し、ジョーンズは列車でウクライナのスターリノに向かう。そこは母がかつて英語の家庭教師として暮らしていた町でもあった・・・

シャンデリアが輝く華やかなモスクワのホテルから一転、モノクロで描かれる凍てつくウクライナの大地。静寂の中から子どもたちの悲しげな歌が聴こえてきます。
♪ 飢えと寒さが家の中を満たしている。隣人は正気を失い、ついに自分の子供を食べた・・・♪
肥沃なはずのウクライナ。穀物はすべて中央に送られ、1932年から1933年にかけて300万人以上が餓死したと推定され、今ではこれは「ホロドモール」(ウクライナ語で「飢饉による殺害」)と呼ばれています。
ジョーンズはこの実態を明かす記事を発表しますが、声明を撤回するよう命じられます。さらに、ニューヨーク・タイムズが、ジョーンズの発言は真実でないと報道します。
デュランティは、ソ連に関する一連の報道でピューリッツァー賞を1932年に受賞した人物で、ウクライナの穀物が金脈だと知りながら黙殺。結果、1933年11月の米ソ国交樹立の立役者となっています。
独裁国家ソ連が、嘘っぱちな誇大報道をする一方で、自由だと思われているイギリスやアメリカでも、政治的圧力で不都合な真実を抹殺していることを監督は見事に描いています。現在にも通じる、メディアの在り方に一石を投じた作品といえます。

監督は、これまでの作品でもリアリティを大事にされてきましたが、言語も、本作では英語、ロシア語、ウクライナ語、ウェールズ語とそれぞれの場面で使い分けています。
本作では、特にウェールズ語にこだわったことに興味を持ちました。ジョーンズはウェールズ出身という縁で、ロイド・ジョージ首相の外交顧問でした。また、19世紀にウクライナのスターリノに製鉄所を作ったのがウェールズ人で、ジョーンズの母親はそこで英語の家庭教師をしていたという縁もありました。
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監督にオンラインでインタビューした折に、監督の思うウェールズ人気質などについてもお話を伺いました。インタビューの詳細は、こちらで!(咲)


『ソハの地下水道』2012年公開の折のホランド監督インタビューは、こちらで!

この作品と前後して『はりぼて』を観ていました。昨年話題をさらった『新聞記者』、『i ー新聞記者ドキュメントー』と合わせて、記者やメディアのあり方を思いました。ジョーンズが言います。「記者は崇高な仕事だ。誰の肩を持つこともせず、真実のみを追いかける」いつの時代もそうあってと願っています。(白)


2019年/ポーランド・ウクライナ・イギリス/英語・ウクライナ語・ロシア語・ウェールズ語/118分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
字幕翻訳:安本煕生/字幕監修:沼野充義
©FILM PRODUKCJA – PARKHURST – KINOROB – JONES BOY FILM – KRAKOW FESTIVAL OFFICE – STUDIO PRODUKCYJNE ORKA – KINO ŚWIAT – SILESIA FILM INSTITUTE IN KATOWICE
配給:ハピネット
公式サイト:http://www.akaiyami.com/
★2020年8月14日(金)より新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開


posted by sakiko at 03:03| Comment(0) | ポーランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月01日

れいこいるか

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監督:いまおかしんじ
脚本:佐藤稔
出演:武田暁(伊智子)、河屋秀俊(太助)、豊田博臣、美村多栄、時光陸、田辺泰信

1995年1月17日の神戸。伊智子と太助は、阪神淡路大震災により一人娘のれいこを亡くしてしまった。その後夫婦は離婚し、2018年に再会する。二人は親子3人で出かけた思い出の水族館を訪ねて、れいこの好きだったイルカショーを見る。日常が戻ってきたかに見えていても、いなくなった人は戻らない。

あの早朝、阪神・淡路を襲った大震災から25年が経ちました。最大震度7の揺れもさることながら、冬のさなかで朝食前の時間だったせいか、あちこちで火の手があがり、消火が追い付かずまたたくまに大きな火災となりました。黒煙を上げる神戸市内、横倒しになった高速道路、紙の工作のように壊れてしまったビルや家屋の画像が蘇ってきます。
映画には被災した街の情景はありません。亡くなった家族や友人を思い続けている人たち、その中の”いるかが好きだった娘”を亡くした一組の夫婦のその後が描かれています。
いまおか監督が亡くなった友人・知人を思い出しつつ、映像の中に刻みこんだ作品。
奔放で明るい伊智子を演じた武田暁(あき)さんは劇団で活躍している女優さんでこれが映画初主演。太助を演じた河屋秀俊さんには見覚えがありました。離婚したけれど嫌いになったからじゃない、口数少ないけれど愛情深い夫で父親だった人がそこにいました。

谷川俊太郎さんの「ことばあそびうた」(福音館)の「いるか」の詩を思い出します。
いるかいるかいないかいるか
いないいないいるか…… 
この作品を観た後は「れいこいるか」「いないいない」と続いて、涙がにじみそうです。(白)


2019年/日本/カラー/シネスコ/110分
配給:ブロードウェイ
(C)国映株式会社
https://reikoiruka.net-broadway.com/
★2020年8月8日(土)新宿 K’sシネマほか全国順次公開
posted by shiraishi at 20:25| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ハニーボーイ(原題:Honey Boy)

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監督:アルマ・ハレル
脚本:シャイア・ラブーフ
撮影:ナターシャ・ブライエ
音楽:アレックス・ソマーズ
出演:シャイア・ラブーフ(ジェームズ)、ルーカス・ヘッジズ(オーティス22歳)、ノア・ジュプ(オーティス12歳)、FKAツイッグス(シャイ・ガール)

オーティスは若くしてハリウッドの人気俳優となり、仕事に忙殺される日々が続いている。ある日泥酔して車を運転し、アルコール依存症の更生施設に送られた。リハビリの過程で自分にPTSDの兆候があることを知る。原因をつきとめるため思い出を書き出すことになった。
10年前、12歳の子役だったオーティスは、マネージャーである父親ジェームズが引き受けた仕事をこなしている。前科者で無職、息子の働いた金で酒を飲み、突然爆発するジェームズに普通の父親らしさを求めては裏切られていた。

シャイア・ラブーフが自身の体験を反映させた脚本を書き、自ら父親役も演じています(か、髪の毛が)。子役時代から父親との軋轢を抱え、大人になって親の不器用な愛情に気づいていくストーリーです。
シャイア・ラブーフは大ヒットした『トランスフォーマー』(2007)で一躍スターになりましたが、その裏側にはこんな悩みがあったんですね。その後『マン・ダウン 戦士の約束』でPTSDのもと兵士役、『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』の素晴らしいマッケンロー役を演じていい俳優になったことと驚きました。ゴシップにも事欠かなかった人でしたが、この『ハニーボーイ』は映画のストーリーのとおり、更生施設で書いたものです。脚本の才能も見いだせたのだし、依存症もトラウマも乗り越えて、良き伴侶を見つけてと願っています。
愛らしい子役のノア・ジュプは『ワンダー・君は太陽』(2017) 『クワイエット・プレイス』(2018)『フォードvsフェラーリ』(2019)と続いて出演。この作品も代表作になりそうです。可愛いだけではなく、家族の愛を渇望するオーティスになりきっていました。2005年生まれ、伸び盛りの彼は次の作品でまた一段と大きくなっていそうです。
長じてからのオーティスを演じたルーカス・ヘッジズはどんな役も自分のものにする若き実力派。この作品より前の制作だった『mid90s ミッドナインティーズ』が9月公開。ポスプロ中の作品が何本もあり。
アルマ・ハレル監督のほかの作品を観られないでいますが、この1本を観ただけでも次の作品への期待が高まります。自由に制作の進まない時期ですが、才能ある人たちが伸びていける映画界でありますように。(白)


人気絶頂の子役とアルコール依存症だった父親。2人は息子の収入で暮らしている。アルコールは絶っているもののかっとしやすく、場を盛り上げる嘘を平気でつく父親は自分のことで精一杯。そんな父親を見つめる息子の眼差しはどこか寂しげ。唯一、父の背中にしがみついてバイクに乗っているときはうれしそう。父親の体温に愛を感じていたように見えた。
長じた息子は薬やアルコールに溺れて、たびたびトラブルを起こす。自動車事故を起こした今はアルコール依存症のリハビリ施設でプログラムを受講中。合間に幼いころを思い出し、自分と父親の状況を重ね、父親は愛情表現が下手なだけで自分を愛してくれていたことに気づいていく。
シャイア・ラブーフが自らの過去を脚本にし、しかも自分の父親の役で出演した。本人としては大人になった自分を演じるつもりだったそうだが、監督はそれを望まず、演じるなら父親だと言ったという。それは作品にとってだけでなく、シャイア・ラブーフ自身にとってもよかったのではないだろうか。(堀)


2019年/アメリカ/カラー/シネスコ/95分
配給:ギャガ
(C)2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.
https://gaga.ne.jp/honeyboy/
★2020年8月7日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
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posted by shiraishi at 20:02| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

鬼手(原題:The Divine Move 2: The Wrathful)

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監督:リ・ゴン
撮影:キム・ドンヨン
武術監督:キム・チョルジュン
出演:クォン・サンウ(グィス)、キム・ヒウォン(トン)、キム・ソンギュン(ホ・イルド)、ホ・ソンテ(釜山の雑草)、ウ・ドファン(ウェトリ)

父は自死、母には捨てられ、姉と二人残されて生きてきた少年グィス。最愛の姉も失って天涯孤独となってしまった。そんなグィスを支えたのは亡き父が手ほどきをしてくれた囲碁だった。グィスの才能を見込んだ孤高の棋士ホ・イルドは、山に籠って自分の持てる全てをグィスに伝授する。厳しい指導に屈せず成長したグィスは、イルド亡きあと賭け碁の世界に飛び込んでいく。それは復讐の日々の始まりだった。

チョン・ウソンが主演した『神の一手』(2014/原題:The Divine Move)のスピンオフ作品。グィスを始め、敵となるどの面々も濃すぎるほどの強烈キャラです。それぞれに合った囲碁の展開とアクションの見せ場に苦心した リ・ゴン監督の成果をご覧ください。
韓国ノワール作品は精神的にも肉体的にも痛いものが多いですが、主演のクォン・サンウは肉体改造をして(筋肉を増やして体脂肪率9%)自らアクションをこなしています。もうすぐ44歳になんなんとするのに、そのモムチャンぶりも必見。グィスと同じく家族を亡くして復讐に燃えているウェトリにウ・ドファン。8月に公開される『ディヴァイン・フューリー/使者』にも印象的な役で登場。日本ではテレビドラマで知名度上がり、すでに日本公式ファンクラブもあります。
ぴんと張りつめた空気を和らげてくれるのが、妙ないきがかりでグィスにつきまとい、勝手に相棒となってしまったトン。演じるキム・ヒウォンはいくつもの映画で見かけますが、ここでも名バイプレイヤーとして作品にユーモアを加えています。囲碁好きな方「鬼手」が何であったのか、しかとご注目を。私のように囲碁の知識がなくても楽しめます。(白)


静かなイメージの囲碁を、バイオレンス・ノワールにしてしまったところが、さすが韓国流。そんな中で、ほっとさせてくれるのが、囲碁は下手なのに賭け碁においては鼻がきくトン先生役のキム・ヒウォン。ドラマ「ゴハン行こうよ2」(2015)での靴下が臭そうなだらしない元刑事役が絶品でした。
そして、もう一人、気持ちを明るくさせてくれたのがホン・マダムを演じた紅一点のユソン。ドラマ「ソル薬局の息子たち」(2009年)のキム看(看護師)役がとてもチャーミングだったユソンが、トン先生に安らぎを与えてくれる役どころで出てきて嬉しかったです♪ (咲)



2019年/韓国/カラー/シネスコ/106分
配給:ツイン
(C)2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED
https://kishu-movie.com/
★2020年8月7日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 20:01| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする