2020年06月27日
一度も撃ってません
監督:阪本順治
脚本:丸山昇一
出演: 石橋蓮司、大楠道代、岸部一徳、桃井かおり
佐藤浩市、豊川悦司、江口洋介、妻夫木聡、新崎人生、井上真央
柄本明、寛 一 郎、前田亜季、渋川清彦、小野武彦、柄本佑、濱田マリ、堀部圭亮、原田麻由
市川進(石橋蓮司)、74歳。トレンチコートにブラックハットといういで立ちで、伝説のヒットマンと呼ばれる男。今日も依頼を受けた殺しの現場に現れる。
だが、実は一度も銃を撃ったことがない。本業はハードボイルド小説家。リアリティにこだわるあまり、密かに殺しの依頼を受けては、本物のヒットマン今西に実行を頼み、市川はその現場を取材し執筆に活かしているのだ。涙ぐましい努力にもかかわらず、小説は一向に売れず、妻・弥生(大楠道代)の年金が頼り。担当編集者の児玉(佐藤浩市)も愛想をつかしている。そんな市川の楽しみは、夜な夜なバー「Y」で、旧友で元検事の弁護士・石田(岸部一徳)や元ミュージカルの歌姫・ひかる(桃井かおり)と酒を酌み交わすこと。のうのうと暮らしていた市川だが、敵のヒットマン(豊川悦司)に命を狙われる羽目に。おまけに妻からは浮気を疑われてしまう・・・
豪華な出演陣が勢揃いして完成報告会見が行われたのは、3月9日のことでした。
本来は、朝日ホールでの完成披露試写会でお客様を前に舞台挨拶が行われる予定だったのですが、新型コロナウィルスの感染予防で、試写会は中止。マスコミ向けの記者会見となりました。
受付で熱を測り、マスクをしていない人にはマスクを渡すという感染予防は、今となっては当たり前ですが、当時はここまできたか・・・という感じでした。
登壇者:石橋蓮司、大楠道代、岸部一徳、桃井かおり、佐藤浩市、江口洋介、妻夫木聡、新崎人生、井上真央、渋川清彦、前田亜季、小野武彦、阪本順治監督
大勢の登壇者で、2段になっての会見となりました。
主演の石橋蓮司さん、「これほどの豪華キャストが出演を受けてくれたのは、阪本監督が僕の遺作になると言って皆さんを説得したかららしい」と、まず笑わせてくれました。
阪本順治監督、そんなことはないと否定しつつ、「蓮司さんは、常日ごろ、全身のアルコール消毒もされていますので、ご安心を」と、マスクをした記者席を意識しての言葉で応酬しました。
登壇した方たち一人一人のお話からは、俳優仲間のオフの時の様子が垣間見れるようでした。それにしても、主役にもなれそうな大物俳優たちを、よくもこれだけ揃えたものです。
実は、記者会見に臨んだときには、まだ映画を観てなくて、これだけのメンバーの日程を合わせるのは、さぞかし大変だったのでは?と思っていました。
その謎を明かしてくれたのが、妻夫木聡さん。
「お話をいただき、このメンバーの中で演じられるのがすごく嬉しかったのですが、皆さんのスケジュール調整が大変なのではと思いました。それが、2週間で撮ると聞いて、さらにびっくりしたら、僕の撮影は2~3日でした。蓮司さんは寝る暇もないスケジュールだったようですけど」
後に映画を観てみたら、なるほど! 妻夫木聡さんの出番は、ほんの少し。
メインの方たち以外は、うっかり居眠りしたら見過ごしてしまいそうですので、どうぞ気をつけて~!
石橋蓮司さんのいでたちもカッコよくて、渋いハードボイルドかと思いきや、皆それぞれどこか抜けたところのある人物で、なごませてくれました。(咲)
◆新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、当初の4月24日より公開を延期されていましたが、ようやく7月3日(金)より公開と決定し、それを受けて阪本順治監督よりのコメントが宣伝ご担当者様から届きました。
阪本順治監督よりコメント
「やっとの公開です。撮影はおととしです。いきすぎたグローバリズムの時代に、昭和のたたずまいをよしとして撮りあげた作品です。
この状況下での上映となり、まったく意図せぬ感想がうまれそうです。
懐かしさより、いつかこんなありさまが、ふざけたような遊び心が、あらためて懇求されるような、新しい日常のその次の日常がこんな風景となってくれればいいなあと、おこがましくも思ってしまいます。
懐古的ではなく未来図として。
メジャー系も、最も苦境に喘ぐ独立系の映画館も、やれるかぎりの防疫策をとり、みなさんをお待ちしています。
映画界の踏ん張りは続きますが、少しずつ映画は銀幕に戻ってきます。
アートで心の栄養を!」
2020年/日本/100分/G
製作:木下グループ
配給:キノフィルムズ
©︎2019「一度も撃ってません」フィルムパートナーズ
公式サイト:http://eiga-ichidomo.com/
★2020年7月3日(金)TOHOシネマズ 日比谷、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
イップ・マン 完結(原題:葉問4 Ip Man4)
監督:ウィルソン・イップ
脚本:エドモンド・ウォン
撮影:チェン・チュウキョン
音楽:川井憲次
アクション監督:ユエン・ウーピン
出演:ドニー・イェン(イップ・マン)、ワン・ゾンホア(ウー・ユエ)、スコット・アドキンス(バートン・ゲッデズ)、チャン・クォックワン(ブルース・リー)、ヴァネス・ウー(ハートマン・ウー)、クリス・コリンズ(コリン・フレイター)、ケント・チェン(ポー刑事)
1964年、イップ・マンはアメリカ在住の弟子ブルース・リーの招待を受ける。初めは固辞していたが、思いがけず病気の宣告を受けたことから、単身サンフランシスコに渡った。ブルース・リーと再会した後、中華総会のワンや武術家たちと出会い、異国で移民として生きる同胞の厳しい現実を知る。ワンは太極拳の達人でもあったが、中国武術を敵視する海兵隊軍曹バートンに度重なる嫌がらせを受けていた。バートンとの戦いで敗北し、ワンは重傷を負ってしまう。イップ・マンは香港に残してきた息子に、父親としての思いを伝え、病を隠して正義と誇りを守るために最後の戦いへと向かう。
ドニー・イェンの代表作となった伝記シリーズ第4作にして最終作です。2008年『イップ・マン 序章』2010年『イップ・マン 葉問』2015年『イップ・マン 継承』と続編を重ねて、アクションもドラマもさらに充実していきます。戦争で日本軍に豪邸を接収され財産もなくし、生活が困窮する中での夫婦愛に泣かされました。アクションなしのシーンでさえ、イップ・マンの佇まいが美しいです。
ドニー・イェンは11才の時に家族で香港からボストンへ移住。父は香港の新聞の編集者、武術家の母親は、移民でしかも女性であることで理不尽な扱いを受けながらも、積極的に外国人を生徒に迎えて武術を広めようとした方。作品中の華人たちの描写にドニーの想いも入っていたのではないでしょうか。イップ・マンはブルース・リーの師匠というだけではなく、シリーズで描いてきたように好んで戦わない、控え目な人です。ドニー・イェンは詠春拳の達人イップ・マン像をしっかりと完成させ、代表作としました。(白)
物腰が柔らかく、礼節をわきまえたイップ・マンですが、これぞという対戦の時には、鋭い手さばきで打ち負かします。ドニー・イェンが体現したイップ・マンは実に優雅で、惚れ惚れします。
前作『イップ・マン 継承』では、病に倒れた奥様との最後の日々が描かれていて、涙なしには観られませんでした。『イップ・マン 完結』では、イップ・マン自身が病に冒され、一人残される息子の行く末を案じる親心が描かれています。これまた涙です。
当初、5月8日(金)公開予定で、5月にはムービープラスで、これまでの3作が上映されました。スタッフ日記に感想を書いています。こちら!
イップ・マンの人生を、どうぞ振り返ってみてください。(咲)
子育てって難しい。こんなことをこの作品で書くとは思いませんでした。
がんで余命がわずかだと知ったイップ・マンの考えたことはケンカで高校を退学になった息子のアメリカ留学。病を隠して渡米し、入学には地元の名士の口添えが必要と知れば伝手をたどる。詠春拳葉問派の宗師でブルース・リーの師匠でもあるほどの人物がこんなに俗っぽいことをするなんて! 一方、息子本人はアメリカに行く気はなく、むしろ父の教えを受けて、詠春拳葉問派を学びたいと思っています。親の希望と子の思いがすれ違う。子育てって難しいですね。イップ・マンと息子が選んだ進路はいかに!(堀)
2019年/香港/カラー/シネスコ/105分
配給:ギャガ・プラス
(C)Mandarin Motion Pictures Limited, All rights reserved.
https://gaga.ne.jp/ipman4/
★2020年7月3日(金)より新宿武蔵野館ほかロードショー
のぼる小寺さん
監督:古厩智之(ふるまやともゆき)
原作:珈琲
脚本:吉田玲子
撮影:下垣外純
音楽:上田禎
主題歌:CHAI
出演:工藤遥(小寺)、伊藤健太郎(近藤)、鈴木仁(四条)、吉川愛(倉田梨乃)、小野花梨(田崎ありか)、両角周(益子)
クライミング部の小寺さんは、周囲の思惑など気にしないで、大好きなことだけ考えている。クラスでは「不思議ちゃん」位置だ。天然記念物なみに素直でまっすぐな小寺さんは「目の前にある壁を登ること」が目標。進路希望も正直に書いて、先生や部活の先輩たちを絶句させる。
これまで何にも熱くならずクールな男でいた近藤は、ひたすら登る小寺さんから目が離せなくなっていた。適当にやっていた卓球に真面目に取り組み、ありかと梨乃はあらためて自分の進路を考え、臆病だった四条も小寺さんを見て、少しずつ変わっていく。
ひたすら上を見てのぼり続ける小寺さん、その姿を見ている人たちはいろんなものを感じ取って、知らないうちに背中を押されています。まだ何者でもない「僕たち」が自分の道を見つけてちょっとだけ進んでいくストーリー。
部活に学校祭、友達との会話、好きな人への告白と「高校生活あるある」に胸がキュンとなります。見つめるだけだった近藤が、勇気を振り絞って小寺さんに話しかけるシーンにはこちらも緊張してしまいました。勘違いして喜ぶところも可愛いです。自分の好きなことだけ見つめていた小寺さんは、周囲に関心が薄く特に欲求もありません。たぶん初めての近藤からの告白に、小寺さんもちょっと心が動きます。二人が並んだシーンに思わずほっこりしました。
小寺さん役の工藤遥さんは、役が決まってからクライミングのトレーニングを重ね、“小寺さんのボルダリング”を見せてくれました。
(白)
2019年/日本/カラー/シネスコ/100分
配給:ビターズ・エンド
(C)2020「のぼる小寺さん」製作委員会 (C)珈琲/講談社
http://koterasan.jp/
★2020年7月3日(金)ロードショー
東京の恋人
監督:下社敦郎
脚本:下社敦郎、赤松直明
音楽:東京60WATTS 主題歌「外は寒いから」
出演:森岡龍(大貫立夫)、川上奈々美(満里奈)、吉岡睦雄(義兄)、階戸瑠李(妻)、木村知貴(駒沢先輩)、西山真来
学生時代の立夫は映画監督志望で、脚本がコンクールで入賞したこともあった。しかし夢を諦めて東京を出て、群馬でサラリーマンになった。すでに結婚して、もうすぐ子どもが生まれる予定だ。早朝にかかってきた電話は、かつての恋人の満里奈からだった。写真を撮ってほしいという。立夫は数年ぶりに上京して、先輩の家に泊まり、翌日は満里奈と神奈川県沖へ向かう。
立夫が上京して最初に会ったのは、一度は脚光を浴びながら挫折した駒沢。自虐しつつ昼から酒を飲み、女房に養われています。酔った姿が痛々しいですが、もしかしたら駒沢はもう一人の立夫だったかもしれません。
川上奈々美さん演じる満里奈の学生時代、主婦になった現在も、とっても可愛くてこれは立夫ならずともコロッといきますね。不倫か…とつぶやく立夫の森岡龍さんも清潔感があって、アダルトシーンもいやらしくないんです。昔の恋人ならあっさり浮気しちゃうんだなぁと呆れますが、これは青春の尻尾との決別なんでしょうね。
この大人のラブストーリーを女性が描いたなら、昔の恋人を呼び出すことはない、と思うのは私だけではないはず。あ、そうなると話が進みません(汗)。作中やエンドロールで流れる東京60WATTS の主題歌がいつまでもグルグル回りました。
「MOOSIC LAB2019」で川上奈々美さんが主演女優賞を受賞。(白)
(白)さんは「この大人のラブストーリーを女性が描いたなら、昔の恋人を呼び出すことはないと思う」と述べていますが、人によって感じ方が違いますね。私はこれこそ女性が書いた青春との決別ラブストーリーだと感じました。子どもが生まれてしまったら、もう自由に動くことはできません。その前に、あの頃愛したあの人ともう一度会って、青春の思い出にしっかりけじめをつけておきたい。そんな思いがひしひしと伝わってきました。
それに対して、妻に出張だと嘘をつき、こっそり結婚指輪を外し、やる気満々の立夫。男ってそんなものなのでしょうか。傍から見ると、こんな男に…と思うけれど、演じる森岡龍はカッコいいですし、満里奈にとっては青春の煌めきの象徴なのでしょうね。(堀)
2019年/日本/カラー/シネスコ/81分
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
https://tokyo-modernlovers.com/
★2020年6月27日(土)ユーロスペース他ロードショー
悪の偶像(原題:IDOL)
監督:イ・スジン
脚本:イ・スジン
撮影:ソン・ウォンホ
出演:ハン・ソッキュ(ク・ミョンフェ)、ソル・ギョング(ユ・ジュンシク)、チョン・ウヒ(リョナ)
市議会議員のミョンフェは来る知事選での有力候補。順風満帆な政治家人生を送ってきたかに見えたが、ある夜息子のヨハンが飲酒の上交通事故を起こしてしまったことで一変する。ヨハンは血まみれの被害者を車に乗せて帰宅していた。ミョンフェは自らのクリーンなイメージをできるだけ守るため、遺体を現場に戻したうえ、ひき逃げ事故を起こした息子を自首させる。
被害者はユ・ジュンシクの一人息子プナンだった。プナンは新妻のリョナと新婚旅行中で、リョナは身重のまま行方不明になっていた。ジュンシクは息子の忘れ形見になる孫と嫁を、ミョンフェにとっては、事故を目撃しているはずのリョナを必死に探し続ける。
加害者の父・エリート政治家ミョンフェをハン・ソッキュ、被害者の父・工具店を営み男手ひとつで息子を育てたジュンシクをソル・ギョング。役柄にぴったりのキャスティングではありますが、たとえ役柄を取り換えたとしても、この二人なら違和感なく演じた気がします。
初めにミョンフェの息子が事故を起こしたと知ったときに、自分の保身が一番にあったのが間違い、その後の悲劇のもとでした。どんなに取り繕うとも、あったことを消すことはできません。それでもあがいてしまうのが人間の業なのでしょう。父親二人の苦悩に一ひねり加えられたのがリョナの存在です。イ・スジン監督の前作『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』(2013)はリョナ役のチョン・ウヒが主演。未見なので観てみたいです。(白)
ハン・ソッキュとソル・ギョングが演じる2人の父親がこの作品の柱ですが、チョン・ウヒが演じるリョナも強烈な印象を与えます。スジン監督は新人俳優をキャスティングしたいと思っていたそうですが、リョナを思い浮かべるたびにチョン・ウヒの顔が鮮明になり、残酷なキャラクターを演じられる心身ともにタフで健康な俳優はチョン・ウヒしかいないと確信したそうです。
脚本も書いた監督に残酷なキャラクターと言わしめるリョナ。猟奇的な側面もあり、サスペンスタッチの本作にホラーっぽさを銜えています。チョン・ウヒは円熟味あふれるハン・ソッキュとソル・ギョングの演技にも勝るとも劣らぬ強さを放っていました。(堀)
2019年/韓国/カラー/シネスコ/144分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2019 CJ CGV Co., Ltd., VILL LEE FILM, POLLUX BARUNSON INC PRODUCTION All Rights Reserved
★2020年6月26日(金)よりシネマート新宿ほかロードショー
さらばわが愛、北朝鮮 原題:굿바이 마이 러브 NK/Goodbye My Love, North Korea
監督:キム・ソヨン
撮影:カン・ジンソク シン・イムホ
編集:キム・ソヨン カン・ジンソク
録音:チョン・ジヨン
美術:キム・テフン
製作:カン・ジンソク
1952年、北朝鮮からスターリンの時代のモスクワ国立映画大学に留学した8人。
1953年にスターリンが死去。北朝鮮では、スターリン批判から派生した内紛「宗派事件」が起こり、ソ連と北朝鮮の関係が悪化。留学生にも帰国命令が出されるが、8人は金日成を批判し、亡命を決意する。1958年のことである。ソ連はフルシチョフの時代となり、「雪解け」で文化の自由化が始まった時期である。
本作は、キム・ソヨン監督の《女性史3部作》に続く《亡命三部作》の完結編。
(キム・ソヨン監督のプロフィールについては是非公式サイトをご覧ください)
彼女が製作に取りかかった時の生存者であるカザフスタンで映画監督として生きたキム・ジョンフンとチェ・クッキンへの直接取材、そして、作家になったハン・デヨンのロシア人の妻などへのインタビューを通じて、亡命後の8人の「その後」を追っている。
ソ連に亡命後、中央アジア朝鮮民族のための“高麗劇場”の作家となったハン・デヨン(後に改名してハン・ジン)。
「ムクドリ」「肖像画」などの小説で高麗人二世の文学をリードしました。
亡命した8人は、自分たちのことを「8真」と称していましたが、ソ連の意向で8人は、モスクワ近郊、カザフスタン、イルクーツク、ウクライナに分散移住させられました。
学生寮を背景に撮った集合写真(上記チラシの画像)に、その後の運命を思うと涙が出ます。
映画監督、撮影監督、作家として名を残した人もいますが、仕事や住まいを探すのに苦労し、貧しいまま亡くなった人もいます。
何より、亡命したということは、故郷に戻れないということ。
肉親とは生き別れ、お墓参りにもいけません。
試写に伺ったときに、宣伝の担当者の方から、「タイトルにドキッとするでしょう?」と言われました。私がレスリー・チャンのファンだとお見通しだったのでしょうか?! もちろん、この邦題は『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993)をもじったわけではなく、原題を直訳したもの。『さらばわが愛、北朝鮮』は、まさに故郷である北朝鮮への決別の言葉です。
映画の冒頭、
何事も始まりも終わりも大事。
生まれた地は故郷と呼ぶが、骨を埋める地は何というのだろう…
と、掲げられます。
歴史に翻弄され、生まれ故郷を二度と訪れることのできなかった人たちにとって、骨を埋めた地が、幸せな思い出の残るもう一つの故郷であってほしいと願うばかりです。(咲)
北朝鮮からスターリンの時代のモスクワ国立映画大学に留学した8人は北朝鮮に帰れば、エリートの道が約束されていたはず。それを捨ててソ連に亡命し、最後まで北朝鮮に帰ることはかないませんでした。
作品冒頭に「生まれた地は故郷と呼ぶが、骨を埋める地は何というのだろう」という言葉が出てきます。この言葉が頭から離れなくなりました。そして、それ以上に心に刺さったのが韓国公開当時、唯一の生き残りだったキム・ジョンフン氏が語った「生きている間に言葉は3回変わったね。日本語から朝鮮語、ロシア語、カザフスタン語。たまにこういう質問を受けるよ。『あなたは何語で考えるの?』」という言葉。日本人として責任の一端を感じずにはいられません。
ハン・デヨン氏は亡くなっていたものの、ロシア人の奥さまがご存命で、夫が描いた仲間の肖像画をバックに夫との出会いなどの思い出を語ってくれました。
政治に翻弄され、異国の地で生きるしかなかった人の思いを埋もれさせないというキム・ソヨン監督の強い意志を感じるドキュメンタリー作品です。(堀)
映画のことを学ぶため、北朝鮮からモスクワの映画大学に留学した8人の若者たち。母国で金日成の個人崇拝がはげしくなり、それに反発して北朝鮮に帰ることをあきらめソ連に亡命した。今回、この映画がなければ、そういう人たちがいたということを知るよしもなかった。世の中数奇な運命をたどった人というのは数々あれど、そういう事実は何らかの形で残さなければ時代の流れとともに忘れられていくわけだけど、韓国人であるキム・ソヨン監督はどのようにして彼らのことを知ったのだろうか。いろいろな人生の掘り起こし。映画はそれを伝えてくれるのに最高の手段だと思う(暁)。
2017年/韓国/カラー/デジタル/80分
©822Films+Cinema Dal
日本版字幕:小川昌代
配給:パンドラ
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/goodbymylovenk/
★2020年6月27日(土)新宿K's cinemaにて公開