2020年06月25日

ドクター・ドリトル(原題:DOLITTLE)

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監督 スティーヴン・ギャガン
出演:ロバート・ダウニーJr.、アントニオ・バンデラス、マイケル・シーン、ジム・ブロードベントほか
動物の声の出演:エマ・トンプソン、ラミ・マレック、トム・ホランド、オクタヴィア・スペンサー、ジョン・シナ、マリオン・コティヤール、セレーナ・ゴメス、レイフ・ファインズほか
日本語吹替え版出演:藤原啓治、石田ゆり子、八嶋智人、せいや、粗品、小野大輔、朴璐美、中村悠一、斉藤壮馬、沢城みゆき、花澤香菜、黒田崇矢、茅野愛衣、杉田智和、井上和彦、諏訪部順一、池田秀一、森功至、大塚芳忠、大塚明夫、増田俊樹、武内駿輔、沢城千春

動物と話せるドリトル先生は、名医だが変わり者。愛する妻リリー(カシア・スムートニアック)を亡くして以来、世間から遠ざかり、様々な動物たちとひっそりと暮らしていました。
あるとき、ヴィクトリア女王(ジェシー・バックリー)が重い病に倒れ、ドリトル先生は宮殿に呼び出されます。ドリトル先生が動物たちの助けを借りて診断した結果、女王は毒を盛られたと判明します。唯一の解毒剤は伝説の島にある“エデンの樹”の果実でした。
ドリトル先生は最も信頼する親友で頑固なオウム、臆病なゴリラ、とぼけたアヒル、陽気なシロクマ、皮肉屋のダチョウなど個性豊かな動物たちと、助手を志願したスタビンズ(ハリー・コレット)とともに伝説の島へと冒険の旅に出発しました。

小鳥が服を銜えて飛んできて、犬が腰ひもを結わえて、あひるが靴を履かせる。そして動物たちが総出で仕事をサポートし、手術のときにはあひるが器具出しを担当する。動物と話ができるドリトル先生の世界観をファンタジックに具現化。さらに、その動物たちと大海原に乗り出して、ハラハラドキドキの大冒険を繰り広げる。子どもだけでなく、大人もワクワクしてくるでしょう。
この作品の見どころは壮大なアドベンチャーですが、ドリトル先生の心の再生も見逃せません。愛する妻リリーを喪い、生きる気力を無くしたドリトル先生がいかに立ち直っていくか。その過程で妻の父も登場。彼も娘を喪った悲しみから立ち直っておらず、ドリトル先生に怒りをぶつけます。しかし互いの悲しみの根本は同じ。リリーは2人がいがみ合うことを望んでいないはず。それに気づいた妻の父の申し出がドリトル先生を助けます。生きていれば、いつかは大切な人との別れはあります。それを受け入れ、その人がいたからこその出会いを大切にし、前向きに生きていきたいものです。

動物たちに声をあてた俳優たちが豪華で驚きます。ドリトル先生が最も信頼するオウム・ポリネシアの声を担うのはエマ・トンプソン。臆病なゴリラ・チーチーにラミ・マレック、愛情あふれるけれどうっかりしているアヒル・ダブダブにオクタビア・スペンサー、モットーが「革命万歳」のキツネ・チュチュにコティヤール、おしゃべり好きなキリン・ベッツィにセレーナ・ゴメス。ドリトル先生を憎むトラのバリーにレイフ・ファインズ。「アベンジャーズ」シリーズでもダウニー・Jr.と共演したトム・ホランドがメガネをかけた忠実な犬・ジップ役を務めています。
日本語版声優もオリジナル版に負けないくらい豪華です。まず、ドリトル先生に藤原啓治。アニメ「クレヨンしんちゃん」の野原ひろし役などで知られ、「アイアンマン」以降ほとんどの作品でダウニー・Jr.の声を担当してきました。惜しくも4月12日に亡くなり、この作品が遺作となりました。さらに上記の日本語吹替え版出演に書いてあるような人気絶頂の声優からレジェンドともいえる存在の声優まで、実力と人気を兼ね備えた日本を代表する声優たちが声をあてています。(堀)


2020年/101分/G/アメリカ
配給:東宝東和
© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.
公式サイト:https://dr-dolittle.jp/
★2020年6月19日(金)全国ロードショー
posted by ほりきみき at 01:28| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アングスト 不安 ( 原題:Angst 英題:FEAR )

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監督:ジェラルド・カーグル
撮影・編集:ズビグニェフ・リプチンスキ
音楽:クラウス・シュルツ

実在の殺人鬼、ヴェルナー・クニーセクが起こした一家惨殺事件を映画化した衝撃作。1980年にオーストリアで実際にあった事件を基に、刑務所出所後に凶行に及んだ主人公の行動に肉薄する。『アンダーワールド』などのアーウィン・レダーが殺人鬼にふんし、ジェラルド・カーグル監督がメガホンを取る。1983年公開当時、あまりにも衝撃的な内容のため本国では1週間で上映打ち切りになった。

このような大傑作が製作から37年の時を経て日本初公開されたことは全くもって喜ばしい。余程の過激内容かと思いきや、終始上品な話法に徹し、撮影、照明、劇版ともスタッフワークの見事さに唸り、主人公の独白によって紡がれるアイデアに眼を見張らされた。
各国で上映禁止、ビデオ発売もNG、米国では“XXX指定”となり配給会社が逃亡…といった問題作の烙印が押されたのは、恐らくキリスト教的倫理観に照らしての”禁忌”場面が含まれているせいではないだろうか。幼少期にサディストと診断され、その後の行為について、オーストリアに実在した犯人ベルナー・クニーセクの過去として成育歴を紹介するのは致し方ないことだ。
中盤以降の殺害場面に於ける”死と欲望”の成立は、宗教的倫理観を前提とするならば受け容れ難いだろう。だが、本作は決して扇情、劣情を刺激する表現を用いていない。乾いた冷静なタッチで綴られる。
冒頭から手持ちカメラが醸し出す不穏な空気 。説明は一切ない。ニュース映像により淡々と事実が明かされる。動機は不明、無自覚な犯罪傾向。私生児の出自により預けられた修道院では体罰が容認されていた。修道院を追い出されてからの犯罪に関し、主人公の独白が続く。

終盤まで緊張を保つ演出力は生半可ではない。監督は本作が唯一の作品であるジェラルド・カーグル。元「タンジェリン・ドリーム」のクラウス・シュルツによる劇版は金属音のように響き、主人公の歩調や鼓動とスピードを同じくする。殺人に至るまでの高まる緊張…。殺害場面も凡百な映像表現には留まらない。人はなかなか死なないものだ。殺害時、アップになるのは犯人の顔である。苦しんでいるように見えるのは殺害者のほうなのだ!かといって、カーグル監督は決して犯行を容認しているわけではない。殺人鬼の映画を”心理劇”として描きたかったであろうことが分かる。

主人公ベルナー・クニーセク役は『U・ボート』『アンダーワールド』などで強烈な印象を残したエルウィン・レーダー。ベルナー・クニーセクが憑依したかの如き鬼気迫る名演に魂が揺さぶられるようだった。本作が血ドバーッのスリラーやホラーと一線を画したのは、レーダー、カーグル監督及びスタッフ陣の”品性”が高潔だったからに他ならない。聖と俗をめぐる懊悩。それでも生き続けねばならない犯人の苦しみを美的に昇華した本作は今年一番の必見作だ。
ただ、人によっては心的外傷を及ぼす可能性もあるため、鑑賞の際には十分に熟慮の上で、とお伝えしたい。(幸)


1983年製作/87分/R15+/オーストリア/カラー/ビスタサイズ
配給:アンプラグド
(C) 1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion
公式サイト: http://angst2020.com/
★7月3日(金)からシネマート新宿ほか全国順次公開★
posted by yukie at 00:40| Comment(0) | オーストリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする