2020年06月12日
その手に触れるまで(英題:YOUNG AHMED、原題:LE JEUNE AHMED)
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:イディル・ベン・アディ、オリヴィエ・ボノー、ミリエム・アケディウ、ヴィクトリア・ブルック、クレール・ボドソン、オスマン・ムーメン
13歳の少年アメッドはどこにでもいるゲーム好きの普通の少年だったが、尊敬するイスラム指導者に感化され、過激な思想にのめり込む。
ある日、学校の先生をイスラムの敵を考え、抹殺しようとして失敗。少年院に入ったアメッドは更生プログラムのひとつである農場作業を手伝うようになるが、動物に触れたり、親切にされたりすることが心地悪くて仕方ない。
狂信的な考えに囚われてしまった少年の気持ちを変えることはできるのだろうか?
ダルデンヌ兄弟が、過激な思想に感化された少年をどのように描いたのかが一番の関心事でした。細部にわたって、イスラームにも様々な解釈があることが散りばめられていて、過激な思想がイスラーム社会の一般的なものでないことを伝えようとする気遣いが感じられました。その点について、スタッフ日記に詳しく書きました。
http://cinemajournal.seesaa.net/article/475497357.html
結末については、私の中でもやもやしています。観た人と話したい気分です。(咲)
人は見たいものを見、信じたいものを信じてしまうのね、とため息が出てしまいました。同じ年頃、自分もそう違わなかった、とほろ苦い思いです。平和な世の中で過ごしましたし、ひどい大人も近くにいなくて幸いでした。思春期のまっすぐな少年を利用する大人が許せません。選ばれたキャストと監督の演出に、まるでドキュメンタリーを観るかのように、ハラハラして見守りました。(白)
母の飲酒や姉の肌の露出。スクリーンのこちらから見る分には問題なく程度に思えるけれど、13歳の真っすぐな少年アメッドには忌み嫌うものに見えてしまったよう。だから、尊敬するイスラム指導者に必要以上に感化され、過激な思想にのめり込んでしまいました。
アメッドは学校の先生をイスラムの敵を考え、抹殺しようとしますが、けっして特別な少年ではありません。そして、彼の家族も(お父さんの姿は見えないけれど)ごくごく普通です。私の子どもも気がつかないうちにアメッドのような思いを抱えているかもしれない。そんなことを考えてしまいました。(堀)
2019年/ベルギー=フランス/84 分/1.85:1/映倫区分:G
配給:ビターズ・エンド
© Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF
公式サイト:http://bitters.co.jp/sonoteni/
★2020年6月12日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
アンティークの祝祭(原題:La derniere folie de Claire Darling、英題:CLAIRE DARLING)
監督・脚本:ジュリー・ベルトゥチェリ
原作:リンダ・ラトレッジ著「La derniere folie de Claire Darling」
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、キアラ・マストロヤンニ、アリス・タグリオーニ、ロール・カラミー、サミール・ゲスミ
意識や記憶がおぼろげになることが増えてきたクレール(カトリーヌ・ドヌーヴ)は夏のある朝、突然「今日が私の最期の日」と確信。長年かけて集めてきたからくり人形、仕掛け時計、肖像画など数々のコレクションをヤードセールで処分することにする。見事な品々の大安売りに、庭先はすぐにお客と見物人で賑わいはじめた。大きな家財から小さな雑貨まで家中を彩り続けたアンティークたちは、いつもクレールの人生と共にあった。それは、彼女の劇的な生きざまの断片であり、切なく悲劇的な記憶を鮮明に蘇らせるものでもあった。
そこに、疎遠になっていた娘マリー(キアラ・マストロヤンニ)は、母のこの奇妙な行動を友人のマルティーヌ(ロル・カラミー)から聞きつけ、20年ぶりに帰ってくる。
ドヌーヴの毅然とした表情を見ていると「今日が人生最後の日なんてわかるもの?」という疑問も払拭されてしまいます。
クレールがなぜ1人で暮らしているのか。家族はどうしたのか。最初は分からないことばかりですが、少しずつ明らかになっていきます。それとともに浮かび上がってくる娘との確執。圧倒的な存在感を放つ母親とうまくやっていくのは難しかったことでしょう。娘マリーを演じたのはドヌーヴの実の娘のキアラ・マストロヤンニですが、マリーの寂しさはそのままキアラの寂しさではないかと思ってしまいました。実際にはどうなのでしょう。
クレールの邸宅は監督の祖母が遺したもので、作品を彩るティファニーやバカラなどの高級アンティークもその祖母や監督の私物だそう。この点でも見応えたっぷりの作品です。(堀)
「こんなヤードセールがあったら私も行きたい!」と誰しも思うはず。それほど素敵な品々が並んでいました。ロケーションも、屋内の撮影も美しいです。初という白髪も似合って、あたりを払うような貫禄のカトリーヌ・ドヌーヴでした。
マストロヤンニそっくりの実の娘キアラとの共演が久しぶりです。記憶を一番確かにとどめるのはやはり我が子か?親が消えてもたしかに続いていきます。
刻み込まれた記憶はその人のもの、墓に持って行けるのはそれだけです。その記憶も混濁してきたら、執着も消えていくのでしょう。断捨離進まず、まだ執着するものがある私、あともうしばらくの時間はほしい。(白)
2019/フランス/スコープサイズ/94分/カラー/フランス語/DCP/5.1ch
配給:キノフィルムズ/木下グループ
©Les Films du Poisson - France 2 Cinema - Uccelli Production - Pictanovo
公式サイト:http://clairedarling.jp/
★2020年6月5日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
なぜ君は総理大臣になれないのか
監督:大島新
衆議院議員・小川淳也(当選 5 期)、49 歳。
衆議院が解散した2003 年10月10日、「国民のためという思いなら誰にも負けない自信がある」と語り、小川淳也は民主党から初出馬することを明らかにした。当時 32 歳。残念ながらこの選挙では当選できなかったが、2005 年に初当選する。2009 年に政権交代を果たすと「日本の政治を自分たちが変えます」と小川は目を輝かせる。保守・リベラル双方の論客から“見所のある若手政治家”と期待されていた。
しかし、2012 年に安倍政権が誕生すると表情は苦悩に満ちていく。党利党益に貢献しないと出世できず、敗者復活の比例当選では立場も弱い。権力への欲望が薄く、家族も「政治家に向いていないのでは」と本音を漏らす。
2017 年の総選挙では、希望の党への合流を決断した前原誠司の最側近として翻弄されていく。小池百合子代表への不信感、前原や地元の盟友・玉木雄一郎への仁義というジレンマの中、苦悩は益々深まる。背水の陣の選挙戦に小川はどのように挑んでいったのか̶。
小川 淳也(おがわ・じゅんや)
1971年香川県高松市生まれ。高松高校・東京大学を経て、1994年自治省(現総務省)に入省。2005年初当選。 民主党→民進党→希望の党を経て無所属。2020年5月現在、立・国・社・無所属フォーラムに属し、国会質疑で注目を集めている。著書に『日本改革原案』など。
32歳の小川淳也さんが決意表明をする直前に監督と話す姿が娘婿に似ていました。(嫁にいった娘の夫を娘婿と表現していいのか、ちょっと躊躇いがありますが、それはさておき)だからよけいに、「自分の息子でなければ普通の家に生まれた若者が政治家を目指すのは応援したいが、自分の息子だと複雑」と語るご両親の言葉にとても共感しました。もしも娘婿が選挙に出るといいだしたら、きっと素直に喜べない。しかし、小川さんのご両親は息子のために電話を掛け、頭を下げる。親ってそういうものなのよね。
そして、もっと大変なのは奥さんです。初めての選挙では就学前の娘2人を抱えながら夫を支えていました。当選を果たせなかったものの、諦めない夫を支え続けた妻の苦労はいかばかりだったでしょう。
また15年近く小川さんを追い続けた作品の中で娘2人はどんどん成長し、やがて「娘です」と襷をかけて、父と一緒に選挙区を自転車で回ります。戦う相手はいつも平井卓也。地元大手メディアのオーナー一族出身で、祖父は参議院副議長、郵政大臣を務め、父は元労働大臣という三世議員。どう見ても戦況は不利。それでも必死に、家族一丸となってがんばり続ける姿に胸が熱くなりました。
(堀)
「なぜ君は総理大臣になれないのか」のタイトルに「足りないものがあるから?」と考えました。当選に必須の「ジバン(地盤)=後援組織」、「カンバン(看板)=知名度」、「カバン(鞄)=資金」の3つのバンは、私でも知っています。小川淳也氏は能力、資質において不足はないように見えます。理想が高く、国民のことを考える、責任感のある人に当選してほしいもの。それが難しい現実に歯噛みしたくなる人は多いでしょう。政治の中枢に近づくほどに人事に絡み取られ、理想と遠くなるって変ですよね?活力バリバリの好青年だった小川氏がやつれていました。ご家族の心情を吐露した言葉に、こちらも思わず「そうそう」とうなずいてしまいました。
選挙にうって出るほどの3バンも気概もない私は、投票だけは棄権したことがありません。そして関心の低さがそのまま表れた投票率に毎回がっくりしています。先人が苦労して獲得した選挙権をきちんと行使して、と切に願っています。いろいろややこしい仕組みや背景がかなりわかりやすいこのドキュメンタリー、これも一面と参考になさってください。(白)
2020年/日本/119分
製作・配給:ネツゲン
©ネツゲン
公式サイト:http://www.nazekimi.com
★6月13日(土)よりポレポレ東中野・ヒューマントラスト有楽町で公開ほか全国順次ロードショー