2020年05月29日

ハリエット(原題:HARRIET) 

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監督:ケイシー・レモンズ
出演:シンシア・エリヴォ、レスリー・オドム・Jr、ジャネール・モネイ

1849年アメリカ、メリーランド州。ブローダス農場の奴隷ミンティ(シンシア・エリヴォ)は、幼いころから過酷な労働を強いられていた。そんな彼女の願いはただ1つ、いつの日か自由の身になって家族と共に人間らしい生活を送ること。ある日、借金の返済に迫られた農場主がミンティを売りに出す。遠く離れた南部に売り飛ばされたら、もう二度と家族には会えず、お互いの消息すらわからなくなってしまう。脱走を決意したミンティは、奴隷制が廃止されたペンシルバニア州を目指してたった1人で旅立つのだった―。

主人公のハリエット・タブマンはアフリカ系アメリカ人として史上初めて米ドル新紙幣に採用され、アメリカでは誰もが知る実在の奴隷解放運動家。そんなハリエットを演じたのはシンシア・エリヴォ。ミュージカル「カラー・パープル」の主人公セリー役でブロードウェイ・デビューを果たし、2016年のトニー賞主演女優賞、グラミー賞、エミー賞ほか数々の賞を総なめにした実力派スターです。初主演の本作で第77回ゴールデングローブ賞、第92回アカデミー賞において主演女優賞と、自ら歌うテーマ曲「スタンド・アップ」が主題歌賞にダブルノミネートという快挙を果たしました。
愛する人との生活を夢見ていた幼さが残る女性が苦難を経て、たくましくなり、歴史に残る偉業を達成する。ハリエットの表情の変化をシンシア・エリヴォは少しずつ、でも確実に表現しています。
ハリエット・タブマンは日本人には馴染みの薄い存在ですが、この作品をきっかけに日本でも知名度が一気にアップするはず。(堀)


渋谷の映画館で『ハリエット』を観た。この映画を観るまで、奴隷を逃がすために働いていた元奴隷の女性がいたなんて知らなかった。実はこの週は『グローリー ー明日への行進ー』(2014年作)も観た。これは1965年3月7日、アラバマ州セルマという場所で黒人の選挙権を求めてデモ行進をしていた人たちが警官隊の暴力により弾圧された「バーミンガムの血の日曜日事件」というアメリカの歴史に大きな衝撃を与えた事件がおこり、これがきっかけで、次第に白人たちも巻き込んだ歴史的大行進へと発展していくさまを史実を元に描いた作品。
この二つの作品を見て、私の社会への関心の原点は小学校の頃に知った人種差別、奴隷問題だったと思い出した。「アンクル・トムの小屋」を読んだのがきっかけだった。もう50年以上前のことだけど、私が中学生だったのは1964年~67年。この「バーミンガムの血の日曜日事件」のことはリアルタイムでニュースを見た経験がある。そしてアメリカの公民権運動が盛り上がった時代だったので、マルティン・ルーサー・キング牧師、マルコムX、ハリー・ベラフォンテ、ジョン・バエズ、ボブ・ディランなどの名前をよく目にし、聞いた。あの頃、人種差別・奴隷問題、公民権運動、アメリカの歴史などの本をよく読んでいた。その中に奴隷を逃がすための運動のこともあったけど、ハリエット・タブマンのことは知らなかった。あるいは読んだことはあったけど忘れてしまったのか。それにしても自身が逃亡奴隷として逃げ延びただけでなく、その後、危険を顧みず、何度も南部と北部を行き来して数十人の奴隷を脱走させるのに貢献したとは。すごい!
今年(2020)、20ドル新紙幣にハリエット・タブマンが採用される予定になっていたそうだけど、トランプ政権になってから横槍が入って延期になっているとか。まさかくつがえそうなんて考えてないよね。いつか実現するといいな。
この作品では、たくさんの黒人霊歌(ゴスペル)が歌われていたのも印象的。懐かしく嬉しかった。タイトルはわからないけど聞き覚えのある歌もいくつかあった。ゴスペルの女王マヘリア・ジャクソンのCDをいくつか持っているけど、この中にある曲もあったのかも(暁)。


2019年/アメリカ/125分/カラー/シネスコ
配給:パルコ
©2019 Focus Features LLC.
公式サイト:https://harriet-movie.jp/
★2020年6月5日(金)全国ロードショー!
posted by ほりきみき at 22:28| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

罪と女王(原題:Dronningen、英題:Queen Of Hearts)

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監督・脚本:メイ・エル・トーキー
共同脚本:マレン・ルイーズ・ケーヌ
撮影:ヤスパー・J・スパンニング
音楽:ヨン・エクストランド
出演:トリーヌ・ディルホム、グスタフ・リン、マグヌス・クレッペル、スティーヌ・ジルデンケルニ、プレーベン・クレステン セン

児童保護を専門とする優秀な弁護士のアンネは、優しい医者の夫と幼い双子の娘たちと美しい邸宅で完璧な家庭を築いていたが、夫と前妻との息子である17歳の少年グスタフが問題を起こし退学になったため、スウェーデンからデンマークに引き取ることに。グスタフは衝動的な暴力性があり家族に馴染もうとしなかったが、そんな子供達と仕事で常に接しているアンネは根気よく彼を家族として迎え正しい方向へ導こうと努める。しかし、グスタフと少しずつ距離を縮めていくうちに、親密さが行き過ぎてしまい、アンネはグスタフと性的関係を持ってしまう。そして、そのことが大切な家庭とキャリアを脅かし始めた時、アンネは残酷な選択をする。

知的で美しい女性が義理の息子とただならぬ関係になってしまう。たびたび描かれてきたテーマですが、本作がこれまでの作品と大きく違うのは、展開が倫理観の範疇に収まり切れないところです。「一応、映画だし、そこはやっぱり、最後はねぇ」というラストを予想していたら、「え~、それでいいの?!」と驚くことでしょう。しかし、もし自分が主人公なら、心の奥底ではこの結末を願ってしまっていたに違いありません。決して口にはできないけれど。
人間の醜い欲望の本質をえぐり出したような脚本を北欧作品ならではのサスペンスタッチで仕上げてあります。どんなラストなのか、気になったら、ご覧になるのはぜひ1人で。もし、主人公に共感してしまったら、その思いは心に秘めておく方がいいかも。
本作は2月に開催された「トーキョーノーザンライツフェスティバル2020」で『クイーン・オブ・ハーツ』のタイトルで上映されました。
サンダンス映画祭で観客賞受賞し、圧倒的国内評価でアカデミー賞デンマーク代表作品に決定。そしてデンマークが誇る偉大な女性監督スサンネ・ビア、ロネ・シェルフィグですら成し得なかった女性初のデンマーク・アカデミー賞(ロバート賞)作品賞を含む主要9部門で受賞。さらに北欧最大の映画賞であるヨーテボリ国際映画祭で最優秀ノルディック賞・観客賞・最優秀俳 優賞の3冠受賞。北欧5カ国から選出されるノルディック映画賞ではグランプリに輝きました。(堀)


2019年/デンマーク=スウェーデン/デンマーク語・スウェーデン語/127分/シネスコR15
配給:アット エンタテインメント
©2019 Nordisk Film Production A/S. All rights reserved
公式サイト:http://www.at-e.co.jp/film/queen/
★2020年6月5日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、シネ・リーブル梅田、他にて公開
posted by ほりきみき at 21:36| Comment(0) | デンマーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

花のあとさき ムツばあさんの歩いた道

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監督・撮影:百崎満晴
プロデューサー:伊藤純
語り:長谷川勝彦
制作著作:NHK
制作:NHKエンタープライズ

埼玉県秩父の山あいの村 楢尾集落。長くここで暮らしてきた小林ムツさんと夫の公一さんは、使われなくなった段々畑をひとつずつ閉じて山に還していく。これまでの感謝の気持ちを込めながら、花や木を丁寧に植える。その数1万本以上になった。自分たちがいなくなった後でも咲き続ける花を選んでいる。「いつか山にきた人が花が咲いているのを見たらどんなに嬉しかろう」と。2002年のテレビ番組が好評を博してシリーズとなり、このほど映画化された。

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テレビ番組は見ていなかったので、この作品で初めてムツさんに会いました。なんとも可愛らしい声と笑顔のおばあちゃんです。小柄な身体でずいぶんな急斜面をひょいひょいと歩き、農作業を続けます。山とそこに生きる全てに愛情を注いでいるような人でした。夫の公一さんは言葉少ないですが、明るく屈託のないムツさんとお似合いのご夫婦です。黙々と苗木を植え、一休みできるようにとベンチを作り…高齢の二人にはいつしか別れのときが近づいていました。
観た後、自分の祖父母や両親の姿が浮かびました。真面目に働き、子や孫を育て、静かに人生の幕を閉じていきました(母はムツさんと同い年で元気です)。大きな仕事を成したり名を上げたりしなくとも、私にはかけがえのない人たちです。昔話をしてくれた声や手料理の美味しさを久しぶりに思い出しました。
楢尾集落は自分の故郷ではありませんが、なんだかもう一つ故郷を持てたような気がしました。いつか訪ねていってムツさんの花々に会いたいものです。百崎満晴監督と伊藤純プロデューサーにお話を伺いました。本誌に2p掲載済みです。取材ブログにも掲載しています。(白)


年をとって畑仕事を続けられなくなったと「花をさかせてふるさとを山に還したい」という心意気で耕さなくなった畑に花を植え続ける秩父のご夫婦の話。NHKが18年撮影を続けてきた映像を映画化したというのだけれど、このご夫婦の話として番組があったのかどうかはわからない。たぶん「小さな旅」とか、そういう番組で放映されていたのかな? 秩父という名前が出てくると番組を見ていたから、その中にこの夫婦の話もあったのかもしれない。この映画でムツさんたちが畑に花を植え続ける姿に涙がでました。
『ふたりの桃源郷』『人生フルーツ』とも通じるような作品だと思いました。
秩父へは何度も行っているのだけれどムツさんたちが住んでいた下久保ダム上流の秩父市吉田太田部地区というところは行ったことがないのですが、いつか機会があったらぜひ行ってみたいです。桜の花がきれいな4月初め頃がよさそうです(暁)。


☆テレビ番組「秩父山中 花のあとさき・最終章~ムツばあさんの歳月~」(NHK BS プレミアム/2019 年 5 月放送)が、このたび第 35 回農業ジャーナリスト賞を受賞しました。

2020 年/日本/112 分/16:9/カラー/ドキュメンタリー
©NHK
配給:NHKエンタープライズ、新日本映画社
宣伝配給協力:ウッキー・プロダクション
https://hana-ato.jp/
★2020年6月1日(月)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開 
posted by shiraishi at 20:23| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする