2020年03月29日

在りし日の歌 原題:地久天長

2020年4月3日 角川シネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開
劇場情報
在りし日の歌.jpg
(C)Dongchun Films Production

監督・製作・ 脚本:ワン・シャオシュアイ(王小帥)
脚本:アー・メイ
撮影:キム・ヒョンソク
音楽:ドン・インダー
キャスト
リウ・ヤオジュン:ワン・ジンチュン
ワン・リーユン:ヨン・メイ
リー・ハイイエン:アイ・リーヤー
シェン・モーリー:チー・シー
リウ・シン:ワン・ユエン
シェン・ハオ:ドゥー・ジャン
シェン・インミン:シュー・チョン
ガオ・メイユー:リー・ジンジン
チャン・シンジエン:チャオ・イエングオジャン

中国近代史の中、変貌し続ける社会の片隅
喜びも悲しみも分かち合い、時を重ねる夫婦の30年の物語

国有企業の工場に勤めるヤオジュンとリーユン夫婦は、ひとり息子のシンシンと中国の地方都市で幸せに暮らしていた。同じ工場の同僚であるインミンとハイイエン夫婦にも同じ年の同じ日に生まれた息子ハオがいて、二家族はお互いそれぞれの子の義理の父母としての契りを交わし、息子たちは兄弟のようにして育った。リーユンは第二子を妊娠するが「一人っ子政策」に反すると非難され堕胎させられてしまった。さらにリーユンはその手術時の事故で二度と妊娠できない身体になった。しかしヤオジュン、リーユン夫婦はシンシンを水難事故で亡くしてしまう。悲しみに暮れる二人は住み慣れた故郷を捨て、親しい友人たちとも距離を置き、誰も自分たちのことを知らない町へと移り住む。
改革開放後、一人っ子政策に縛られた1980年代、めざましい経済成長の1990年代、激動の2000年代、そして2010年代と、喜びと悲しみ、出会いと別れを繰り返しながら、共に生きていく夫婦の姿を映し出す。大きく変貌する社会の片隅で懸命に生きる人びとの姿を、優しい眼差しで静かに描き出した。
監督は『ルアンの歌』『北京の自転車』『我らが愛にゆれる時』で知られる中国第6世代のワン・シャオシュアイ(王小帥)。本作で3度目になるベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。
夫ヤオジュンを演じるのは『オルドス警察日記』(13)で第26回東京国際映画祭最優秀男優賞を受賞したワン・ジンチュン(王景春)。『薄氷の殺人』にも出演している。妻リーユンを演じたのは、『黒衣の刺客』『海洋天堂』のヨン・メイ(詠梅)。二人はこの作品で第69回ベルリン国際映画祭で最優秀男優賞と最優秀女優賞をダブル受賞した。また撮影を『冬の小鳥』『ポエトリー アグネスの詩』などで知られるキム・ヒョンソクが手がけている。
事故で亡くなった最愛の息子シンだが、養子に迎えたシンを演じたのはワン・ユエン(王源)。彼のバックボーンは描かれていないけど、彼もまた「一人っ子政策」の影響を受けたひとりでしょう。両親への感謝の想いとは裏腹に思春期を迎え反抗する16歳の複雑で繊細な心のゆらぎを見事に演じきった。その養子のシンを演じたワン・ユエンは、2013年に中国初の少年アイドルグループ「TFBOYS」でデビューしている。

『在りし日の歌』 メイキング映像 
https://youtu.be/cgUm5PWfyJ0

①ワン・ユエンくん.jpg
「TFBOYS」のメンバーと知られるワン・ユエン
(C)Dongchun Films Production

息子を亡くした大きな喪失感の中で生きている夫婦のさりげない日常を切り取りながら、大激動の中国近代史が描かれる。そして、壮大な中国の風景。川の情景と生活。生活の大きな変貌、街の変化までが描かれるが、人々の思いというのは、どこの国も同じなんだなあと思わせてくれる(暁)。

長い時間をかけて積み重ねてきた幸せが一瞬で壊れることがある。しかし、夫婦、家族で支え合えば、またきっと積み重ねていける。中国の歴史的変化を背景に見せながらも、核に描いたことはいつの時代も変わらない。私もこんな風な夫婦でありたいと思う。(堀)

公式サイト
2019年製作/185分/G/中国
配給:ビターズ・エンド
posted by akemi at 20:09| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

グリーン・ライ エコの嘘(原題:The Green Lie)

green lie.jpg

監督:ヴェルナー・ブーテ 
脚本:ヴェルナー・ブーテ、カトリン・ハートマン
出演:ヴェルナー・ブーテ、カトリン・ハートマン、ノーム・チョムスキー、ラージ・パテル、ヴィンセント・ハンネマン、ディーン・ブランチャード、スコット・ポーター、ソニア・グァジャジャラほか
制作:e&a film

スーパーで見かける「環境に優しい」商品。買うだけで野生動物や熱帯雨林が救えるというが本当だろうか?真実が知りたくなったブーテ監督は、世界一周航空券を買い、専門家と共に実態を探る旅に出発する。まず向かったのは、パーム油の生産量世界一のインドネシア。数日前まで熱帯雨林だったがパーム油農園を拡大するため、焼き尽くされた土地を訪れた監督は惨状に絶句する。どうすれば環境破壊をせずに済むのか?買わないことなのか?正しい消費の選択をすることなのか?

ブーテ監督と一緒に旅したのはジャーナリストでグリーンウォッシング専門家のカトリン・ハートマン。まず「グリーンウォッシング」とは何ぞや?と調べました(下記)。ハートマン女史は、いかにも「エコの仮面」をつけた嘘つき商品や会社を見つける仕事をしているようです。スーパーの棚に並んだあらゆる商品の裏のラベルを見ると(老眼には辛い)何が使われているかわかります。最近よく耳にする「サスティナビリティ=持続可能な」とついたパーム油の表示がたくさんありました。そこでインドネシアに向かいます。全体の8割がインドネシアとマレーシアで生産されているのです。
パーム油の生産は、かの国に労働と賃金をもたらした代わりに、多くの熱帯雨林が破壊されました。それは国だけでなく地球にとっても大変なのだとわかるのは後のこと。二人はさらに他の国を周り、企業の実態を調べ、解決方法はないかと学者を訪ねていきます。
私が10数年前にマレーシアに行ったとき、飛行機の窓から延々と******の連なる土地が見えて、何かと思えばそれがパーム椰子でした。上から見ると「*」なんです。
映画の中に「お金、お金、お金ばかり!」と吐き捨てる人が登場していました。あの「*」が「$」に見えた人も多かったのでしょう。今きっと後悔しているはず。(白)


この作品で初めてパーム油を知りました。そして、日本の食品表示では「植物油脂」と書くだけで「パーム油」と書く必要がないことも。「パーム油って聞いたことないから、私には関係ない」と初めは気楽に考えていましたが、きっとたくさんたくさん使っているのだと思います。しかし、パーム油を使っているかどうかは確かめる術はないらしい。困ったものです。しかし、この作品を見ることでパーム油の現状を知ったのだから、見てよかったと言えるでしょう。
また、パーム油以外のことに触れています。メキシコ湾の原油流出事故の際に、石油を掘削していたBP社は流出したオイルを除去する替わりに有毒な石油分散剤を使って海底に沈めました。これが非常に有毒な油塊(タールボール)として海岸に打ち上げられます。素手で触ると危険らしい。見た目だけで自己の責任を取ったと主張するBP社に企業としてのエゴを感じずにはいられません。(堀)


2018年/オーストリア/カラー/97分/
配給:ユナイテッドピープル 宣伝:スリーピン
©e&a film
http://unitedpeople.jp/greenlie/
★2020年3月28日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
※シアターイメージフォーラムは4月8日(水)から5月6日(水)は休館予定
劇場情報はこちらでご確認ください。
http://unitedpeople.jp/greenlie/scr

=wikiより=グリーンウォッシング(greenwashing)は、環境配慮をしているように装いごまかすこと、上辺だけの欺瞞(ぎまん)的な環境訴求を表す。 安価な”漆喰・上辺を取り繕う"という意味の英語「ホワイトウォッシング」とグリーン(環境に配慮した)とを合わせた造語。

*参考*
サステナビリティ・ESG(環境・社会・ガバナンス)投資のニュースサイト
「サステナビリティジャパン」はこちら

サステナビリティはよく聞く言葉「ロハス」の「ス」です。健康と「持続可能な」社会に配慮したライフスタイルを意味する造語。
英語の頭をとったものです。
ロ (Lo)=Lifestyle of、ハ(Ha)=Health and、ス (S)=Sustainability

posted by shiraishi at 19:41| Comment(0) | オーストリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月22日

タゴール・ソングス

tagore songs.jpg

監督:佐々木美佳
撮影:林健二
録音・編集:辻井潔
整音:渡辺丈彦
構成・プロデューサー:大澤一生
ベンガル語翻訳:スディップ・シンハ、佐々木美佳
タゴール・ソング翻訳: 奥田由香
英語翻訳:細谷由依子
出演:オミテーシュ・ショルカール、ブリタ・チャタルジー、オノンナ・ボッタチャルジー、ナィーム・イスラム・ノヨン、ハルン・アル・ラシッド、レズワナ・チョウドリ・ボンナ、クナル・ビッシャシュ、シュボスリシュ・ロエ、ニザーム・ラビ、ラカン・ダース・バウル、スシル・クマール・チャタルジー、リアズ・フセイン、鈴木タリタ

ラビンドラナート・タゴール(1861-1941)
非ヨーロッパ語圏で初めてノーベル文学賞を受賞したインド、ベンガルの詩人。
だが、「インドの神秘詩人」というのは、タゴールの一側面でしかない。
タゴールは、小説家、劇作家、音楽家、画家として業績を残し、さらに教育者や社会活動家としても実践をして来た人物だ。
本作では、多岐にわたるタゴールの業績の中から、自身が書いた詩に自ら曲をつけた二千曲以上にものぼる「タゴール・ソング」と総称される歌に焦点を当て、今なおベンガルの人たちに愛されているタゴール・ソングの魅力をたどる旅に誘う。

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本作を作った佐々木美佳さん(写真左)は、26歳。東京外国語大学ヒンディー語科卒。在学中にベンガル語も学び、タゴールの歌に魅せられ、この魅力を研究論文ではなく、音と映像で伝えたいと映画を作ることを決意。映画作りの難しさも知らないままに飛び込んでしまったと語っていましたが、逆に型にはまらない自由な発想で作られた映画には、100年経っても色あせないタゴール・ソングの魅力が溢れています。
私自身、タゴールのことは、やはりノーベル文学賞を受賞したベンガルの詩人という認識でした。かつて軽井沢の丘の上の公園で、タゴールが訪れたことがあるとの石碑を見て、日本とも関係の深い人だったのだと思ったのですが、何をしに日本を訪れたのかも映画で判明しました。
なにより驚いたのは、インドの国歌もバングラデシュの国歌もタゴールの作詞作曲したものということでした。無知でお恥ずかしい・・・ そんな私の為のように、レクチャー付の先行上映が行われます。ぜひお出かけください♪(咲)


★下記のレクチャー付先行上映は、残念ながら中止になりました。
◆『タゴール・ソングス』レクチャー付先行上映
 3月28日(土)~4月3日(金) 連日20:50~
 劇場:ポレポレ東中野

*上映後ゲスト*

3/28(土)「タゴールとタゴール・ソングの魅力を語る」/佐々木美佳 (監督)
3/29(日)「タゴールの詩の世界 - 詩を翻訳するということ」/工藤順 (ロシア語翻訳労働者) × 佐々木美佳 (監督)
3/30(月)「日本におけるタゴール受容の歴史」/新田杏奈 (タゴール研究者) × 佐々木美佳 (監督)
3/31(火)「映画としてのタゴール・ソングス」/新谷和輝 (映画評論) × 佐々木美佳 (監督)
4/1(水)「タゴール・ソングとインドポピュラー音楽」/軽刈田凡平 (インド音楽ブロガー) × 佐々木美佳 (監督)
4/2(木)「ベンガル料理の現在位置」/田嶋章博(東洋経済オンライン『カレー経済圏』ライター) × 佐々木美佳 (監督)
4/3(金)「タゴールを日本語に翻訳した人々」/新田杏奈 (タゴール研究者) × 佐々木美佳 (監督)

★佐々木美佳監督の母校、東京外国語大学によるインタビュー
http://wp.tufs.ac.jp/tufstoday/alumni/20052001/

2019年/日本/105分/ベンガル語、英語/カラー/DCP/ドキュメンタリー
助成 文化庁文化芸術振興費補助金
宣伝:contrail
製作・配給:ノンデライコ
公式サイト:http://tagore-songs.com/
★2020年4月18日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
 ☆公開が延期になりました。6月1日公開予定

★「仮設の映画館」で5/12(火)12:00~より上映予定
参加にあたっての佐々木監督の思いはこちらでどうぞ! 
https://note.com/sarasasaki/n/n946d44dbcdf8





posted by sakiko at 19:57| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ

2020年3月27日 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館で公開。
全国順次ロードショー 上映情報
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(c)CAPITAL INTELECTUAL S.A, RASTA INTERNATIONAL, MOE

監督:エミール・クストリッツァ
製作:ウーゴ・シグマン
製作総指揮::レティシア・クリスティ
脚本:エミール・クストリッツァ
編集:スベトリク・ミカ・ザイッチ
出演:ホセ・ムヒカ、ルシア・トポランスキー

南米ウルグアイの第40代大統領ホセ・ムヒカの魅力に迫る

2010年3月1日より2015年2月末まで、南米ウルグアイの第40代大統領を務めたホセ・ムヒカ。大統領就任中、収入の大半を貧しい人々のために寄付し、職務の合間にはトラクターに乗って農業に親しんだホセ・ムヒカさんの魅力に迫ったドキュメンタリー。
そんな姿勢から「世界で一番貧しい大統領」と言われ、全世界から注目を受けるようになったのは2012年リオデジャネイロ(ブラジル)で開催された「国連持続可能な開発会議」で、「環境危機を引き起こしている真の原因は消費至上主義である」と鋭く指摘。「経済発展は必ずしも人類の幸福に結びついておらず、むしろ経済格差が広がり続ける現状を憂い、怒り、よりよい未来に向けて行動を起こせ」と呼びかけた。この発言に世界中の人が共感し、2013年、14年には2度ノーベル平和賞にノミネート。日本でも多数の本が出版され2016年には初来日を果たした。
まん丸な体とやさしい瞳のムヒカ大統領だが、極貧家庭に育ち、左翼ゲリラとして権力と戦い、13年もの投獄生活を送り、愛するパートナー、ルシア・トポランスキーと離ればなれの苛烈な拘留生活を経て大統領に就任した。ペペという愛称で国民から親しまれているムヒカさんは、今もトラクターを運転し農業を続けている。
ムヒカさんの波乱万丈の人生に魅了され、この作品を作ったのは、ユーゴスラビア出身で『パパは、出張中!』『アンダーグラウンド』『黒猫・白猫』などの作品で知られるエミール・クストリッツァ監督。

私がホセ・ムヒカさんのことを知ったのは、リオデジャネイロで行われた国連地球環境サミット(通称)の時。ムヒカさんの発言が注目され「世界で一番貧しい大統領」と呼ばれ来日もしました。この時、広島などを訪問し、それらがニュースで流れました。その後、去年ピースボートでウルグアイを訪問した時、船にムヒカさんが訪れる予定だったけど、前の日、雨の中農作業をして風邪をひき本人の来船はありませんでした。だけど妻のルシアさんは来船し、ムヒカさんの話、ウルグアイの話を聞けました。それにしても85歳の今もトラクターに乗って農作業を続けているのでしょうか。だとしたらすごいです。若い頃にはウルグアイに移住した日本人とも働いたことがあるようで、菊の花も作っているようです。そのことはスタッフ日記に書きました(暁)。

参考 シネマジャーナルHP スタッフ日記
2019年、最後に観た映画は『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』でした

ホセ・ムヒカのことを知ったのは、2019年の『ハッパGoGo 大統領極秘指令』を見たとき。世界で初めてマリファナを合法化したと知り、「なんて大胆なことをする大統領なのだろう」と驚いたのを覚えている。
本作では、ムヒカが極貧家庭に育ち、左翼ゲリラとして権力と戦い、愛する妻と離ればなれの苛烈な拘留生活を経て、大統領になったことを伝える。今の穏やかそうな姿からは想像もできない。政治活動のために子どもを産み育むことを諦めたそうだが、そこまでの覚悟に驚く。また夫婦の絆の深さも感じる。
2016年に来日しているが、日本を見てがっかりしたのではないかと心配になった。(堀)



2018年製作/74分/G/アルゼンチン・ウルグアイ・セルビア合作
原題:El Pepe, Una Vida Suprema
配給:アルバトロス・フィルム
公式HP
https://pepe-movie.com/
posted by akemi at 18:58| Comment(0) | ウルグアイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

サーホー  原題:SAAHO

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監督:スジート
出演:プラバース(『バーフバリ』シリーズ)、シュラッダー・カプール、マンディラ・ベーディー、ニール・ニティン・ムケーシュ、ジャッキー・シュロフ、チャンキー・パーンデー

ムンバイ、下町の朝。集合住宅で鳴り響く一発の銃声を合図に起こる宝石店窃盗事件。実行犯は皆逮捕されるが、黒幕を誰も知らない。ムンバイ警察署幹部は、凄腕のアショーク(プラバース)を覆面捜査官に任命する。
この事件の3週間前、ロイ(ジャッキー・シュロフ)という事業家が暗殺される。かつてボンベイ(現ムンバイ)の暗黒街の顔役だったが、抗争に破れ、20年前にインドから遠く離れた近未来的な犯罪都市ワージーに逃れた男。ロイは金や石油の裏取引で組織を発展させ、ワージーを仕切るプルドヴィラージ(ティーヌー・アーナンド)から後継者に指名されるまでになった。だが、後継者になれなかったプルドヴィラージの息子デーヴラージ(チャンキー・パーンデー)との抗争を恐れ、ロイは独自にロイ・グループとしてインド政府からも優遇措置を受け事業を展開していたのだ。
ロイ一家が密かに育てていた一人息子ヴィシュワク(アルン・ヴィジャイ)は、資産2兆ルピー(約3兆5500万円)を保管した金庫のカギとなるブラックボックスがムンバイにあると明かす。秘書のカルキ(マンディラ・ベーディー)がムンバイに赴く。
このことを知ったアショークは、女性刑事アムリタ(シュラッダー・カプール)を相棒にして、特命チームを指揮し、ブラックボックスを市警が入手すれば犯罪組織のムンバイ進出を阻止できると奔走する・・・


冒頭の宝石店窃盗事件から、近未来都市ワージーの犯罪組織の抗争、ムンバイでの暗殺事件・・・と、めまぐるしく物語が転回してクラクラ。しかも登場人物が似たような顔つきの人が多くて、前半はなんだか訳のわからないうちに過ぎていきました。後半、女性刑事のアムリタと、秘書のカルキの二人の女性が、美しくてカッコいいなぁ~と見とれているうちに、話の筋は、まぁどうでもいいっか~と楽しむことに。
こんがらないように予習したい方は、アジア映画巡礼のサイトをどうぞ!

私がこれまでに観たテルグ映画で現代を舞台にしたものは、それほど多くありませんが、いずれもちょっと暴力的で泥臭い印象でした。本作は、ワージーという近未来都市も出てくるだけあって、おしゃれな面も。インド映画に欠かせない歌って踊ってのシーンも垢抜けてます。踊る水着の美女たちに札びらが舞う場面には、呆気にとられましたが・・・
『バーフバリ』シリーズでプラバースが好きになった方には、アクションだけでなく楽しめる場面がたくさん!
私は謎の男を演じたニール・ニティン・ムケーシュが気になりました。ほかの男性と雰囲気が違うから目に止まったのかも! (咲)


「バーフバリ」シリーズで主人公バーフバリを演じて一躍有名になったプラバースが主演するということでインド映画ファン以外からも注目を集めている。スジート監督はその期待に十分応えてくれる作品に仕上げてくれた。とにかく展開がゴージャス! 銃撃戦や肉弾戦だけでなく、カーアクション、アベンジャーズかと思うような空中戦が次々と繰り広げられる。登場人物が多いので、最初のうちは人間関係を理解するのがちょっと難しいのだが、とりあえず見ていて楽しいので大丈夫。冒頭の強盗事件も多数の協力者たちは犯罪の意識はなく、その行為も罪に問えるようなことではない。それがジグソーパズルのように組み合わされて、とんでもない事件となる。そのカラクリを説明するシーンはピタゴラスイッチ的な展開で見ていてワクワクしてくるだろう。そして、ラストが近づいて、様々な伏線が一気に回収されるとすべてがすとんと理解できるから不思議。
ヒロイン役のシュラッダー・カプールは4月24日公開の『きっと、またあえる』でもヒロインを演じる若手の注目女優。名前を覚えておくといいかもしれない。(堀)

2019年/インド/テルグ語/5.1ch/2時間49分
配給:ツイン
公式サイト:https://saaho.jp/
★2020年3月27日(金)全国ロードショー




posted by sakiko at 18:02| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記 

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監督:平良いずみ
出演:坂本菜の花
語り:津嘉山正種

北国・能登半島で生まれ育った坂本菜の花さんはいじめに遭い、地元の高校ではなく、沖縄のフリースクール・珊瑚舎スコーレに通うことを選んだ。ここでは既存の教育の枠に捉われない個性的な教育が行われ、70年あまり前の戦争で学校に通えなかったお年寄りも共に学ぶ。菜の花さんはお年寄りとの交流を通して、沖縄ではいまなお戦争が続いていることを肌で感じとっていく。
次々に起こる基地から派生する事件や事故。それとは対照的に流れる学校での穏やかな時間。菜の花さんは自分の目で見て感じたことを大切にし、自分にできることは何かを考え続ける。こうした日々を、彼女は故郷の北陸中日新聞にコラム「菜の花の沖縄日記」として書き続けた。そこから沖縄の素顔が浮かび上がってくる。

タイトルの「ちむぐりさ」は誰かの心の痛みを自分の悲しみとして一緒に胸を痛めること。沖縄の言葉には自分自身が悲しいという言葉がないらしい。作品の中でも、民間の牧草地に米軍の大型輸送ヘリが落ちたときに、牧草地の所有者はヘリに乗っていたアメリカ兵を助け、彼の娘もヘリの乗員の命を心配する。なかなかできることではない。こうした沖縄の人たちの優しい心に触れ、少女は自分がすべきことを考え、行動するようになっていく。
少女の視点を通して、私たちが多くのことを沖縄の人に押し付けて安穏と暮らしていることを思い知らされる。知った以上、このままではいけない。本土にいても何ができるはず。考えることが必要なようだ。(堀)


この作品で「フリースクール・珊瑚舎スコーレ」というフリースクールが沖縄にあることを知った。若い層から、戦争で学べなかった世代まで、幅広い層の学生が通い、既存の教育の枠に捉われない個性的な教育をしている。学校そのものを「思索と表現と交流」の場として、いろいろな世代が交流をしながら学んでいる。そこに北陸から坂本菜の花さんはやってきた。そして沖縄を体験する。
同世代だけでなく、沖縄のおじいやおばあとも知り合い、文化、歴史に触れながら、沖縄と本土の違い、沖縄が置かれている状況にも遭遇する。沖縄の基地も訪れ、自分の目で見て、耳で聞いて、大切なことは何かを考える。そんな日々を綴ったのがこの作品。私もこういう学校に通ってみたかったなと思わせてくれた(暁)。


菜の花さん。なんて素敵な名前なのだろう。
石川県能登で生まれ育った菜の花さんは、いじめを受けて、地元から遠く離れた沖縄の学校に行くことを選んだ。15歳で親元を離れ、働きながら学ぶ菜の花さんは、感受性の強い女の子。沖縄で米軍基地がもたらす問題を目の当たりにした菜の花さんは、かつて故郷で起こった内灘闘争(1952~53年)のことを思い起こす。内灘砂丘を米軍の試射場とすることに住民が反対し阻止。その後、日本各地での基地反対運動のきっかけとなったとされ、その帰結として沖縄の負担が重くなったことに思いが至る。菜の花さんがヤマトンチュとして沖縄のために何が出来るかと模索する姿に、観ている私も、沖縄を他人事にしてはいけないと思った。(咲)



2020年/日本/DCP/カラー/106分
配給:太秦
(C) 沖縄テレビ放送
公式サイト:http://chimugurisa.net/
★沖縄・桜坂劇場にて先行上映中
2020年3月28日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開


★ポレポレ東中野は4月8日(水)から当面の間臨時休業です。
posted by ほりきみき at 01:05| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月21日

最高の花婿 アンコール  原題:Qu'est-ce qu'on a encore fait au bon Dieu?

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監督: フィリップ・ドゥ・ショーヴロン
出演:クリスチャン・クラヴィエ、シャンタル・ロビー、メディ・サドゥアン、アリ・アビタン、フレデリック・チョウ

フランスはロワール地方で暮らす敬虔なカトリック教徒のクロードとマリーのヴェルヌイユ夫妻。4人の娘たちの結婚相手は、よりによって皆、外国人。婿たちの故国を知ろうと、コートジボワール、アルジェリア、中国、イスラエルを旅して自宅に戻ってきた。どこも最悪だったと嘆く二人。
一方、パリで暮らす婿たちもそれぞれに悩みを抱えていた。長女イザベルの夫で弁護士のラシッドは、アラブ人というだけでテロリスト扱い。次女オディルのユダヤ人の夫ダヴィドはハラール食の会社を立ち上げようとしているが、資金が集まらない。イスラエルへの移住を考えている。三女セゴレーヌの銀行家の夫シャオは、中国系を狙った犯罪の多発に怯えていた。四女ロールの夫シャルルは俳優だが、黒人には端役しかなく、ロールのインド転勤を機に、ボリウッド俳優を夢見ている・・・

4人の娘たちが異国の男たちと結婚するまでを描いた『最高の花婿』(2014年)から、4年。異文化の背景を持つ婿たちが、それぞれの事情で、故国に嫁を連れて帰ろうとする姿が描かれています。フランスはヨーロッパの中でも、民族や宗教の違う人と結婚する比率が高い国。異文化を許容する土壌を育んできたと思うのですが、昨今の自国優先で移民排斥をする傾向は、フランスにも及んでいるのでしょうか。
社会問題をコメディーに織り込んで考えさせてくれます。
ユダヤ人のダヴィドが、ユダヤに則ったコシェルではなく、イスラームに則したハラール食品の会社を立ち上げ、ヨーロッパだけでなくインドネシアにも販路を広げようとしますが、ユダヤ人がハラールを扱っても信用を得るのは難しいのでは? イスラエルに帰ろうという夫に従って、オディルはヘブライ語の教室に通っているのですが、ユダヤに改宗するには、あと3年かかるという言葉がありました。「アッラーのほかに神はなし、ムハンマドはその使徒なり」の一言で改宗できるイスラームのように簡単に改宗できないのですね。
また、本作では、コートジボワール出身のシャルルの妹の結婚も描かれています。相手はなんと女性! フランスでなら結婚できると、両親はじめ一族を呼ぶのですが、もちろんひと騒動起きます。
その他、チベット、パレスチナ、アルジェリアのビキニ革命と、各地のいろいろな問題も隠し味にしっかり盛り込んでいます。(咲)

2018年/フランス/98分/フランス語
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/hanacore/
★2020年3月27日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA他全国順次公開




posted by sakiko at 22:03| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月20日

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY (原題:Birds of Prey: And the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn)

harleyquinn-movieposter.jpg

監督:キャシー・ヤン
出演:マーゴット・ロビー、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ロージー・ペレス、ジャーニー・スモレット=ベル、ユアン・マクレガー

<悪のカリスマ>ジョーカーと別れ、すべての束縛から放たれたハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)。モラルのない天真爛漫な暴れぶりが街中の悪党たちの恨みを買うなか、謎のダイヤを盗んだ少女を守るため、悪を牛耳る残忍でサイコな敵ブラックマスクとの全面対決へ! 悪 VS 悪のカオスな戦いを前に、ハーレイはとってきおきの切り札、クセ者だらけの最凶チームを新結成。ヴィランたちの世界で、予測不能のクレイジー・バトルが始まる。

『スーサイド・スクワッド』で人気を博したハーレイ・クインを主人公にした作品だが、<悪のカリスマ>ジョーカーの彼女ということさえ分かっていれば、『スーサイド・スクワッド』未見でもまったく問題ない。ジョーカーに捨てられたハーレイが恋に踏ん切りをつけ、自立していく様を描く。
いつもは強気で傍若無人なハーレイも今回ばかりはメンタルがボロボロ。それを強がった発言で必死に隠そうとする。「なんだハーレイも私たちと変わらないのね」と身近に感じるのではないか。
もちろん、セクシーで、クレイジーで、アクロバティックなアクションシーンも見どころ。縦横無尽に暴れ回るハーレイをマーゴット・ロビーがすらりと伸びた肢体で魅せる。マーゴットの当たり役となった。(堀)


2020年/109分/PG12/アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BIRDS OF PREY and all related characters and indicia c&TM DC Comics.
http://wwws.warnerbros.co.jp/harleyquinn-movie/
★2020年3 月 20 日(金)全国ロードショー
posted by ほりきみき at 00:00| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月19日

馬三家からの手紙 (原題:Letter from Masanjia) 

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監督:レオン・リー
撮影:孫毅、マーカス・ファン
出演:孫毅、ジュリー・キース、江天勇ほか

米オレゴン州に住む女性ジュリー・キースがスーパーで購入した「中国製」のハロウィーンの飾りの箱に忍び込まれたSOSの手紙を見つけるところから「馬三家の手紙」は始まる。手紙は政治犯として捉えられた孫毅(スン・イ)が中国で恐怖の城と言われた馬三家(マサンジャ)労働教養所の中で書かれたものだった。8000キロ以上の旅を経てクシャクシャになった紙には、信念のために収監され、拷問・洗脳されている状況が詳細に書かれていた。このメッセージは次々と広まり、中国の労働教養所制度を閉鎖させるまでに至った。しかし、これでストーリーは終わらなかった・・・

孫毅は法輪功と呼ばれる中国の伝統的な健康法である気功を実践していたという理由だけで拘束され、馬三家収容所に収容された。そこで、鉄製の2段ベッドに24時間吊るされたまま、寝られなくなるという凄まじい拷問を受ける。それでも信念を変えない。その強さはいったいどこから来るのだろう。
釈放後も自宅軟禁や嫌がらせを受け、孫毅は中国共産党体制の非人道性を世の中の人に知ってもらおうと決意。それが実って映画となり、こうして日本でも公開される。「中国って怖い」と思うだけでなく、日本がそうならないよう、政治に無意識になってはいけない。(堀)


孫毅が拘束されたのは、法輪功を信奉する人数が増えてきて、政府にとって脅威だからという事情だった。孫毅は、かつて馬三家収容所で書いた手紙が世に出たことで、レオン・リー監督と共に、実態を世に知らせたいと映画にすることを決意したが、さらにそのことが彼の人生に大きな影響を与えた。それを思うと、はたして映画にしたことがよかったのかどうかと思ってしまう。
来る4月4日から公開(6月27日公開に延期されました)のワン・ビン監督の『死霊魂』では、1950年代後半、中国共産党によって突然「反動的な右派」として収容所に送られた人たちのことが綴られている。その中で、員数合わせで拘束されたと語る人もいた。
そして、今、中国ではウィグル族の人たちが思想改造のために収容されている。ただただ宗教や民族が違うだけのことで。
世界では中国のみならず、「政治犯」として拘束される人たちが後を絶たない。政権にとって邪魔な人を排除するという、独裁にとってありがちな行為。犠牲になった方々のことを思うと涙が出る。日本にも自由にモノを言えない時代があったことを思い出す。こんなことも書けなくなる時代に逆戻りしないようにと願う。 (咲)



2018年/カナダ/カラー/76分
配給:グループ現代
©2018 Flying Cloud Productions, Inc.
公式サイト:https://www.masanjia.com/
★2020年3月21日より新宿K's cinemaほか全国順次公開


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2020年03月15日

恐竜が教えてくれたこと 原題:Mijn bijzonder rare week met Tess   英題:My Extraordinary Summer with Tess

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監督:ステフェン・ワウテルロウト
原作:アンナ・ウォルツ著「ぼくとテスの秘密の七日間」
出演: ソンニ・ファンウッテレン、ヨセフィーン・アレンセン

11歳の少年サムは、夏休みの1週間、家族と共にオランダ北部のテルスヘリング島にやって来た。「地球最後の恐竜は、自分が最後の恐竜だと知っていたのかな?」などと途方もない疑問を持つサム。家族の中で一番年下の自分が最後に残されるからと、孤独になった時の訓練をしようと砂に穴を掘って思いふけっていたところ、3つ年上の兄ヨーレが穴に落ちてきて足を骨折してしまう。パパはヨーレを連れて病院へ。ママは頭痛がひどくて部屋に篭っている。サムが一人で島を探索していると、テスという美少女から、サルサを一緒に踊る練習をしようと誘われる。テスは看護士のママと二人暮らし。パパは火山の噴火で亡くなったと聞かされていたけれど、実は生きているのをfacebookで見つけ、ママが経営している貸し別荘に、ママには内緒でパパを招いたというのだ。パパが素敵だったら、娘だと明かすつもりのテスの計画に、サムはすっかり巻き込まれる・・・

まだ子どもっぽいサムが、一つ年上のおませで快活な少女テスと出会って、少し大人になるひと夏の物語。原作は児童文学ですが、大人もしっかり楽しめる映画に仕上がっています。死について真剣に悩むサムのなんと可愛いこと! そして、テスのパパは、よもや自分に娘がいたなんてことを知らないらしい。世の中には、そんな話が結構あるのでは?  それはさておき、できるだけたくさん思い出を集めることが、人生を豊かにしてくれることをつくづく思わせてくれました。(咲)

地球最後の恐竜は、自分が最後の恐竜だと知っていたのか。この疑問に憑りつかれたサムは人間が同じような状況に陥ったら、家族の中で一番年下の自分が最後に残されてしまうと、ひとりぼっちになったときの訓練をする。が、その最中に家族でいちばん最初に命を落としそうになってしまう。いやはや、子どもの発想は大人には思いも及ばない。何をしでかすかわからないので、目を離しちゃいけないと改めて思う。
しかし、ここで助けてくれた老人との出会いがサムを成長させる。家族とだけ過ごしていたら出会えなかっただろうから、人生ってわからない。(堀)


2019年/オランダ/オランダ語・ドイツ語/カラー/84分/G
後援:オランダ王国大使館
配給:彩プロ
©2019 BIND & Willink B.V. / Ostlicht Filmproduktion GmbH
公式サイト:http://kyoryu.ayapro.ne.jp/
★2020年3月20日(金)より、シネスイッチ銀座他にて全国順次公開

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2020年03月14日

もみの家 

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監督:坂本欣弘 
脚本:北川亜矢子 
音楽:未知瑠 
主題歌:羊毛とおはな 「明日は、」(LD&K) 
出演:南沙良、渡辺真起子、二階堂智、菅原大吉、佐々木すみ江、島丈明、上原一翔、二見悠、金澤美穂、中田青渚、中村蒼、田中美里、緒形直人

心に不安を抱えた若者を受け入れる〔もみの家〕に、16 歳の彩花(南沙良)がやってきた。不登校になって半年、心配する母親(渡辺真起子)に促され俯きながらやってきた彩花を、もみの家を主宰する泰利(緒形直人)は笑顔で招き入れる。慣れない環境に戸惑いながらも、周囲に暮らす人々と の出会いや豊かな自然、日々過ごす穏やかな時間が、彩花の心を少しずつ満してゆく。

「生きづらさ」を抱えた若者たちが集まるもみの家。「籾(もみ)」は硬い殻をかぶった米のこと。籾は脱穀機にかけられて殻が取れて玄米になり、精米して糠のとれた白米になります。町で暮らしていると白米しか見られません。不慣れな農作業に従事する彩花が少しずつ馴染んでいき、硬い殻が取れていくようすにほっとします。生きることはもっとシンプルなはず。みんな同じじゃなくていい、と思えたら心の荷物はぐんと減りそう。
中村蒼さん、もみの家の卒業生を爽やかに演じています。2011年の『ほしのふるまち』では、東京から富山に転校してきた高校生役。星空の美しい街で自分のやりたいことを見つけたんでした。佐々木すみ江さんが彩花を温かく包む近所のおばあちゃん役です。これが遺作となりました。富山の美しい四季の中で、1年間かけて撮影された丁寧な映画です。(白)


子どもの不登校が続いたら、どんな親でもうろたえるに違いない。自分をしっかり持った、強い女性を演じることの多い渡辺真起子が気に病む母親を演じることで、よほどのことだと伝わってくる。一方、娘を演じたのは南沙良。殻にこもってもがく彩花を繊細に見せた。『幼な子われらに生まれ』、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』、『無限ファンデーション』と心に葛藤を抱える役を演じてきたのは伊達じゃない。
本作で彩花が入ったもみの家は宿泊型の自立支援塾と呼ばれ、不登校やひきこもりなど、さまざまな問題を抱える人たちが共同生活を送りながら自立に向けて動き出すよう支援する施設。全国各地にあり、自立へのサポートは施設によってさまざま。もみの家が参考にしたのが、富山県富山市郊外の稲作が盛んな農村集落 大沢野の万願寺地区にある自立支援施設「Peaceful House はぐれ雲」。ここで共同生活を体験した若者は、27年間で400人を超えるという。
慣れない環境に戸惑いながらも、彩花はもみの家での生活に次第に慣れてゆく。こんな方法もあるのだとどこかで苦しむ誰かの支えになる作品かもしれない。
(堀)


2020年/日本/105分/5.1ch/シネスコサイズ/カラー/デジタル
配給:ビターズ・エンド
©「もみの家」製作委員会
公式サイト:http://mominoie.jp/
★3月20日(金・祝)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次ロードショー!富山県で先行公開中!

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人間の時間 (原題/Human, Space, Time and Human)

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監督・脚本:キム・ギドク
出演:藤井美菜、チャン・グンソク、アン・ソンギ、イ・ソンジェ、リュ・スンボム、ソン・ギユン、オダギリジョー

休暇へ向かうたくさんの人々を乗せ、退役した軍艦が出航する。 乗客には、クルーズ旅行にきた女性(藤井美菜)と恋人のタカシ(オダギリジョー)、有名な議員(イ・ソンジェ)とその息子(チャン・グンソク)、彼らの警護を申し出るギャング(リュ・スンボム)たち、謎の老人(アン・ソンギ)など、年齢も職業も様々な人間たちがいる。大海原へ出た広々とした船の上で、人々は酒、ドラッグ、セックスなど人間のあらゆる面を見せる。荒れ狂う暴力と欲望の夜の後、誰もが疲れて眠りにつき、船は霧に包まれた未知の空間へと入る――。
翌朝、自分たちがどこにいるのかわからず、そこから出られるのかもわからない状況に唖然とする人々は、生き残りをかけて悲劇的事件を次々に起こしていく。

キム・ギドク監督の作品は観るのに覚悟がいる。今作も「主演が日本人女優で、オダギリジョーが恋人役」と気安く考えて観たら、しっぺ返しに会うだろう。
退役した軍艦でクルーズ旅行に出掛けた人々が軍艦ごと異空間に閉じ込められる。極限状態に陥った人々は理性を失い、生存をかけた戦いは容赦がない。そして、自分もその場にいたら同じことをしてしまうのではないかという恐怖心が暗澹とした気持ちにさせる。
そんな状況でもキム・ギドク監督は希望を繋ぐ。ラストの軍艦の様子に天空の城ラピュタを思い出したのは私だけだろうか。(堀)


グンちゃん(チャン・グンソク)の熱烈ファンの友人に、『人間の時間』を試写で観たことを話したら、「え~ 日本で公開されるの?」と驚かれました。私は事情をすっかり忘れていたのですが、キム・ギドク監督のセクハラ問題やら、内容の強烈さで物議を醸した作品だったのでした。
アン・ソンギさんの静かな笑みには癒されますが、極限状態にある人間の本性むき出しの姿に目をそむけたくなる場面が多々あって、後味がいいとはいえません。
でも、主演の藤井美菜さんもすごく頑張っているし、その夫役でオダギリジョーも出ているし、なにより韓国の俳優陣アン・ソンギ、イ・ソンジェ、リュ・スンボム、チャン・グンソクと豪華です。勇気のある方は、どうぞ!(咲)



2018年/韓国/カラー/DCP/122分
配給:太秦
(C) 2018 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.
公式サイト:https://ningennojikan.com/
★2020年3月20日(金)より シネマート新宿・シネマート心斎橋ほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 18:18| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

CURED キュアード(原題:The Cured)

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監督・脚本:デイヴィッド・フレイン
出演:エレン・ペイジ、サム・キーリー、トム・ヴォーン=ローラー

人間を凶暴化させる新種の病原体、メイズ・ウイルスのパンデミックによって大混乱に陥ったアイルランド。6年後、治療法が発見されたことで秩序を取り戻し、治療効果が見られない25%の感染者は隔離施設に監禁され、治癒した75%は“回復者”として社会復帰することになった。回復者のひとりである若者セナン(サム・キーリー)は、シングルマザーの義姉アビー(エレン・ペイジ)のもとに身を寄せるが、回復者を恐れる市民の抗議デモは激しさを増すばかり。やがて理不尽な差別に不満を募らせ、過激化した回復者のグループは社会への復讐テロを計画する。その怒りと憎しみの連鎖はセナンやアビー親子を巻き込み、新たな恐怖のパンデミックを招き寄せるのだった……。

あまたあるゾンビ映画でこれまで描かれなかった「その後」です。フィクションとはいえ、辛いのは元ゾンビだった治療済みの人たちの記憶が鮮明であり、PTSDに苦しんでいること。戦争中に命令のまま行ったことに苦しむ帰還兵士たちが重なります。記憶が日ごとに薄れても、あったことをなかったことにできないのは本人です。主演のエレン・ペイジが製作にあたっています。
つい先日、新型コロナウィルスのパンデミック宣言が出たばかりなので、なんだか身近な感じがしてしまいます。今、電車内や映画館で咳き込んだら…みんな離れていきそうです。マスクはもちろんお茶やのど飴必携な今日この頃。早く終息させるにはどうすれば?(白)


感染者のうち、75%は治癒したとされ、回復者として社会復帰するのだが、家族はそれをすんなり受け入れられるのだろうか。若者セナンはジャーナリストである義理の姉アビーが身元引受人になってくれたが、元弁護士のコナーは父親から拒否される。父親は妻を襲った息子が許せないのだ。しかし、義弟を受け入れたアビーも不安がないわけではない。当然である。彼女は感染パニックの中で夫を喪っており、セナンを受け入れたことで、自宅に差別的な落書きをされた。とはいえ、ジャーナリストとして、理性的な選択をしなくてはいけないという思いもある。その苦悩はいかばかりか。エレン・ペイジが揺れる心情を繊細に体現した。
本作はあくまでもゾンビ・ウィルスへの恐怖と不安を描いているが、これはさまざまな差別や対立に置き換えられる。立場の違いを乗り越え、みなが互いに受け入れて、手を取り合って生きていく社会の実現は難しい。しかし、本作のラストでアビーはセナンを信じ、未来を託す。どんな状況でも希望はあると信じたい。(堀)


2017年/95分/アイルランド・フランス合作
配給:キノフィルムズ
©Tilted Pictures Limited 2017
公式サイト:http://cured-movie.jp/
★2020年3月20日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開

posted by ほりきみき at 18:16| Comment(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月10日

カゾクデッサン

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監督・脚本:今井文寛
撮影・編集:中澤正行
音楽:蓑田峻平
出演:水橋研二(水元剛太)、瀧内公美(坂口美里)、大友一生(池山光貴)、中村映里子(池山貴美)、大西信満(池山義治)、SHIN(木田晃)、萩原護(馬渕道隆)

元ヤクザの剛太はバツイチ。今は足を洗って恋人・美里のバーで働いている。ある日、中学生の男の子がやってきた。別れた妻・貴美の息子の池山光貴だった。交通事故で意識の戻らない母に会って声をかけてほしい、という。逡巡する剛太を美里は送り出すが、病院で剛太が声をかけても貴美の反応はない。剛太を快く思わない光貴の父親は、2度と会うなと息子に釘を刺す。光貴は父親と正反対の剛太が気になっていく。

剛太には忘れられない過去がありますが、正面から向き合えません。不器用に酒に酔うことでごまかしています。しかし、元妻の息子がやってきたことで、逃げられなくなります。実は生真面目なのにいい加減を装っている剛太、美里や貴美の手のひらから飛び出せない孫悟空に見えました。ワルそうな男に憧れてしまう光貴も、暴力がなんの解決にもならないことを学んでいきます。
どんな形であれ、互いに思いあえば家族、帰りたいと思うところが家じゃないかな、と思います。
初の長編作品を送り出した今井文寛監督にお話を伺いました。インタビュー記事はこちらです。(白)


交通事故に遭い意識が戻らない女性の息子が元夫を訪ねてくる。この男が父ではないか。大人の事情と子供の知りたい気持ちが交錯する。DNAが決めるのは生物的な親でしかない。愛しむ気持ちがあってこそ、親なのではないだろうか。家族は作っていくものなのだと伝わってきた。主演の水橋研二は渋川清彦タイプの俳優になりそうな気がする。‬(堀)

2019年/日本/カラー/98分
(C)「カゾクデッサン」製作委員会
http://kazokudessin.com/
★2020年3月21日(土)より新宿K'sシネマほか全国順次ロードショー
*4月8日から5月6日まで新宿K'sシネマが休館となりました。再開については劇場HPをご確認ください。
posted by shiraishi at 22:23| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

いざなぎ暮れた。

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監督・脚本:笠木望
撮影:原俊介
出演:毎熊克哉(ノボル)、武田梨奈(ノリコ)、青山フォール勝ち

愛車ダッジ・チャレンジャーを東京から走らせてきたのはノボル。元新宿ナンバーワンのホストで、今は経営者だ。横では恋人のキャバ嬢ノリコが眠っている。ノリコには隠してきたが、店は借金まみれ。コワイ人から返済を迫られて、故郷の松江市美保関まで金策にきた。事情を知らずに連れてこられたノリコには、サプライズ旅行で親戚に挨拶をすると真実まじりの嘘をつく。
神様に一番近い港町は年に一度の伝統の神事でにぎわい、ノボルとノリコは浮きまくる。ノボルが生まれた老舗の醤油屋には祖母がいた。うまいことお金をせしめるつもりが、種違いの弟が現れる。初めて会うノボルは歓迎されるどころか追い出されてしまう。

元は15分のご当地映像のはずが、84分の長編映画になりました。おかげで世界の映画祭にも出品、劇場公開も叶ったというラッキーな作品です。
崖っぷち男ノボルは毎熊克哉さん。こわもてで寡黙な役が多い印象でしたが、今回は息をするように嘘をつき、しゃべりまくっています。金髪にネイル、可愛い衣裳で見た目は派手でも、実は純情なキャバ嬢ノリコは武田梨奈さん。ああいえばこういうノボルに丸め込まれてしまうノリコがとっても可愛いです。東京のコワイ人の厳しい条件をノボルは果たしてクリアできるのか?ノボルの分刻みの返済計画のスリルと、二人のやりとりをお楽しみください。
主演の毎熊克哉さん、武田梨奈さん、お一人ずつにインタビューができました。(白)


★毎熊克哉さんインタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/473993438 
★武田梨奈さんインタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/474009867


2019年/日本/カラー/84分
配給・宣伝:吉本興業
(C)2018 「いざなぎ暮れた。」製作委員会
https://izanagi-kureta.com/
★2020年2月21日(金)より松江東宝にて公開中。
3月20日(金)より新宿 テアトルシネマにて公開
posted by shiraishi at 21:20| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月09日

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実

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監督:豊島圭介
プロデューサー:竹内明、刀根鉄太
音楽:遠藤浩二
ナビゲーター:東出昌大
出演:三島由紀夫、芥正彦、木村修、橋爪大三郎、篠原裕、宮澤章友、原昭弘、椎根和、清水寛、小川邦雄、平野啓一郎、内田樹、小熊英二、瀬戸内寂聴

1969年5月13日、三島由紀夫は、大学の不正運営などに反対した学生によって始まった学生運動の中でも武闘派といわれた東大全共闘の討論会に、警視庁からの警護の申し出を断り単身で乗り込んだ。およそ1,000人の学生が集まった教室で、2時間半に及ぶ熱い討論を交わす。

警備を断り単身で向う”知の巨人”。「近代ゴリラを論破し、壇上で切腹させる!」と息巻く東大全共闘。潜むは楯の会…さぞや緊迫場面の展開と思いきや、これが礼節とユーモアにあふれたジャブの応酬なのだ。知的好奇心を満足させるには十分過ぎるほどの2時間半に及ぶ討論会を108分にまとめたのは、TBSの倉庫に眠っていたフィルム原盤をレストア・再構築し、50年後の世に問い直そうとする試みから。製作陣の英断を評価したい。

東大教養学部駒場キャンパス900番教室には、三島を迎える1000人の学生たちの息遣い、強烈なカリスマ性を放つ三島の眼光が生々しく漂っているのが伝わる。冒頭、討論会を企画した詰襟姿の全共闘代表が、
「僕は今、紹介する時に思わず”三島先生”と呼んでしまいましたが、そこら辺にいる”知”に胡座をかいた教員たちよりもよほど先生と呼ぶに相応しいからです」
と正直な態度を示したことが討論会の雰囲気を決定付けたように思う。1000人を説得するつもりで臨んだ三島も、学生たちに終始敬意を払う姿勢を崩さない。煽動的な学生の挑発的発言にも乗らず質問には誠実に応じる。一度も逸らすことはなかった。

卑近な例ながら50年前、都心の学生街に住むJCだった自分はアスファルトが剥がされ、火炎瓶が飛び交う様を傍観するしかない子どもだった。市ヶ谷の頭上を飛ぶヘリの音で三島の割腹事件を知ったのがこの翌年と思うと感慨深い。
大人と対等な関係性を築けた当時の学生たちを羨望と感動の思いで見つめていた。全世代が観るべき力作である。(幸)


高校3年生の時、教室で三島由紀夫自決のニュースを聞いたときの、いや~な気分を今でもはっきり覚えている。残念ながら三島由紀夫の小説を読んだことはなかったし、盾の会が右翼というくらいの知識しかなく、なぜあのような行動に出たのかわからなかった。本作を観て、東大全共闘という左翼相手に、ずいぶんまともな討論をしたものだと感じ入った。当時学生だった人たちの今の姿を観られたのも興味深かった。赤ちゃんを膝に乗せて、三島と対峙していた芥正彦氏は、今も尖がった発言をしていた。あの赤ちゃんは今はどうしているのだろう。この映画を観てどう感じるかなと興味津々。
思えば、あの大学紛争は、私たちの高校にも飛び火してきた。1969年後半の2ヶ月ほど、授業をしないで、毎日毎日、教室で討論をしていた。当時、私たちの高校は共学だったのに、クラスは男女別。男子クラスと合同での討論会だったのが救いだった。最後は、数名がハンストしたことで学校側と決着。勝ち取ったのは、文科系理科系の区別をしない男女混合クラス。私は皆に背を向けて本を読んでいたけれど、皆ほんとに真剣に話し合っていた。今の学生たちはどうだろう。政治や社会について、どれだけ真剣に考えているだろうか。(咲)


三島由紀夫は作家と思っていたが、写真集を出し、舞台の演出をし、ヤクザ映画に主演する。マルチな才能を発揮したスーパースターだった! とある雑誌が主催したオール日本Mr.ダンディ投票では、なんと三船敏郎を抑えて1位に選ばれていたことを作品から知った。
東大全共闘との討論では丁寧な語り口でわかりやすく話す。言葉を荒げることなく、若者たちを見守る優しい眼差しが印象に残った。この翌年には割腹自殺をするのだが、討論からその思いを探るというよりも、生前の生き様が浮かび上がってくる作品である。(堀)


私の高校2年~3年、高校卒業の時にかけては1968~70年。高校2年(1969年)の冬、中耳炎をこじらせてしまい、正月明け7日くらいから飯田橋の逓信病院に2,3週間入院した。そして1月18日~19日に東大全共闘の安田講堂の攻防戦が起こった。病院に入院していたけどTVに釘付け。そして部屋の窓から東大方向を見ると、怒号が聞こえ、マスコミや警察のヘリコプターが飛び交うのが見えた。病院は高台にあったのでリアルタイムでその状況を遠目に見て、その攻防戦の音を聞き、TVで解説を聞きという状況の中にいた。高校2年生ながらその衝撃は大きかった。その時にたくさんの全共闘の闘士が逮捕されてしまったと思ったけど、この年の5月に東大駒場で「三島由紀夫vs東大全共闘」の討論会が行われたと今回知り驚いた。
安田講堂の攻防戦の後、学生運動は沈下してしまったと思っていたけど、そうではなかったと知った。そして、このような討論会を開催していたんだということを50年後に知るとは。この討論会はこの当時TVで放映されたのだろうか。右翼と左翼が、あのように冷静に討論できていたということに驚いた。
私はといえば、あの入院前、高校2年の秋くらいからべ平連のデモに出かけていたし、退院後の高校3年生の時にも学生服のままデモに行っていた。きっと卒業までに20回以上は都心のデモに参加していたと思う。全共闘の学生たちも参加していたけど、私自身は暴力で平和は築けないと思っていたので、ヘルメットに角材を持って参加する彼らの姿には、同じ思い、共感はあったもののなんか違和感があった。そして三島由紀夫や右翼の思想にはもっと違和感があった。でも、この討論の内容を見て、右翼も左翼も「この日本の状況をなんとかしたい」という思いで行動を起こしているのは同じだったんだと思った。他人の思いを尊重し、思いは違っても意見は聞くという姿勢。それは今も大事なことと思い、他を蹴落として、自分たちの思想を押し付けるということのない世界を築いていかなければならないと思った。そして、運動は終わっていない。今も活動家たちは行動しているのだと思った。私も行動し続けている(暁)。


2020年製作/108分/G/日本
配給:ギャガ
製作:映画「三島由紀夫vs東大全共闘」製作委員会
制作:ツインズジャパン
(C) 2020映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会 (C) SHINCHOSHA
公式サイト:https://gaga.ne.jp/mishimatodai/
★2020年3月20日(金)より全国公開★


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2020年03月08日

時の航路

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時の行路
監督:神山征二郎
原作:田島一「時の行路」(新日本出版社刊)
脚本:土屋保文 神山征二郎
撮影:加藤雄大
音楽:池辺晋一郎
ナレーション:日色ともゑ
出演:石黒賢(五味洋介)、中山忍(五味夏美)、松尾潤(涼一)、村田さくら(綾香)、渡辺大、安藤一夫、綿引勝彦

青森の八戸でリストラにあった五味洋介は、静夫かの大手自動車メーカーに旋盤工として働いている。派遣社員であったが確かな技術を持つベテランとして会社から信頼され、家族がまた一緒に暮らせる日を夢見て仕事に励んでいた。
しかしリーマンショックによる影響は静夫の職場にも及び、非正規労働者の「大量首切り」により職場を追い出されてしまう。洋介は理不尽な仕打ちに屈せず、労働組合に入って立ち上がるが、洋介や妻たち、支援の人々の願いは届かない。

神山征二郎(こうやませいじろう)監督の30本目の作品です。長く取り組んでこられた作品がようやく公開となりました。
非正規労働者が、会社からの突然の解雇に抵抗して労働組合活動に打ち込み、裁判に持ち込む物語です。利潤追求が第一の大企業は、景気の良いときに正規社員より安い賃金で済む非正規労働者を大量に採用してきました。都合が悪くなれば、真っ先に行うのが「派遣切り」です。古く遠い話ではありません。今、コロナウィルスで職場が休みになり、その分無給となる人。急に休校となった小中学生の子どものために家にいれば、やはり無給となって生活に響くのがその非正規雇用の人たちです。
真面目で地味な社会派映画は、エンタメ作品と違って楽しませてくれないかもしれません。でも真面目にコツコツと働いてきた人たちが相応の暮らしができるように、安心して子どもを育てられるように闘ってきた人たち、支えてきた家族の想いが受け取れます。その中に希望の種があるはずです。
同名原作の後、「続・時の行路」「争議生活者―『時の行路』完結編」が出版されています。(白)


2019年/日本/カラー/シネスコ/111分
配給:「時の行路」映画製作・上映有限責任事業組合
http://www.tokinokouro.kyodo-eiga.co.jp/
★2020年3月14日(土)池袋シネマロサほか全国順次公開


posted by shiraishi at 19:35| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

コロンバス     原題: COLUMBUS

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監督・脚本・編集:コゴナダ
撮影:エリシャ・クリスチャン 
美術:アドリアーン・ハルスタ 
衣装:エミリー・モラン 
音楽:ハンモック
出演:ジョン・チョー、ヘイリー・ルー・リチャードソン、ロリー・カルキン、パーカー・ポージー、ミシェル・フォーブス

米国インディアナ州コロンバス。
ここは、モダニズム建築の宝庫。
韓国系アメリカ人のジンは、高名な建築学者の父が講演ツアー中にコロンバスで倒れ、看病のために滞在することになる。ジンは、地元の図書館で働くケイシーという女性と出会う。コロンバスの建築に詳しいケイシーに案内され、町を巡る日々。ジンは父との確執があって建築に対して複雑な思いを抱えていて、モダニズム建築の町コロンバスを早く立ち去りたい。一方、ケイシーは薬物依存症の母の介護でこの町を離れることができない。二人の思いが交錯する・・・

ル・コルビュジエに代表されるモダニズム建築は、1920年代に機能主義の建築として成立。本作の舞台コロンバスには、エーロ・サーリネンによるミラー邸やノース・クリスチャン教会の他、IMペイ、リチャード・マイヤー、ジェームス・ポルシェックなどの代表作が存在します。物語はそれらの建物を巡りながら進み、まさにモダニズム建築は第二の主人公。 私にとって、モダニズム建築はちょっと無機質であまり心地いいものじゃないなという印象。
一方で、監督は小津安二郎監督映画に欠かせない脚本家の野田高悟に因んでコゴナダと名乗る韓国系アメリカ人。静かに進む映画からは、小津監督への思いが満ち溢れています。無愛想な建物が優しく思えるほど! (咲)


2017年/アメリカ/カラー/103分/英語・韓国語/DCP
配給::ブロードウェイ
©2016 BY JIN AND CASEY LLC ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://columbus.net-broadway.com/
★2020年3月14日(土)シアター・ イメージフォーラムほか全国順次公開




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2020年03月07日

ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方  原題:The Biggest Little Farm

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監督: ジョン・チェスター
出演: ジョン・チェスター、モリー・チェスター

ロサンゼルスに住んでいた映像制作者ジョンと料理家モリーの夫妻。殺処分寸前の犬を引き取りトッドと名付けて飼い始めるが、鳴き声がうるさいと苦情を受け、郊外に移り住む決意をする。料理家モリーにとって、身体にいい食べ物を育てることも夢だった。200エーカー(東京ドーム役17個分)の荒れ果てた農地との闘いが始まる。
試行錯誤で農地を耕し土壌を作りなおす日々。5年ほど経ち、野生生物や様々な昆虫が戻ってきて、害虫の侵入を減らし、雑草も土に帰るようになる・・・

本作は、激しい山火事が迫ってきて動物たちを避難させる場面で始まります。まさに自然との闘い。ですが、その後に語られるジョンとモリー夫妻の農場での8年間は、自然を愛で、自然に学びながら、自然と共生する暮らし。
ジョンは農場に移った時から記録映像を撮っていましたが、映画にしようと決意したのは、木を枯らすアブラムシが消え、テントウムシがたくさん戻ってきたのを目にした時。夫妻の努力が実って、農場の環境が改善されたのです。荒れ果てた大地を豊かな農地にするまでの、気の遠くなるような日々。それは、私たちに自然の摂理に決して逆らってはいけないことを教えてくれます。(咲)

2018年/アメリカ/英語/91分/シネスコ
配給:シンカ
公式サイト:http://synca.jp/biglittle/
★2020年3月14日(土)シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー、 YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて順次公開





posted by sakiko at 22:01| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ムルゲ 王朝の怪物  原題:물괴(ムルゲ 物怪)

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監督:ホ・ジョンホ
出演:キム・ミョンミン、チェ・ウシク、イ・ヘリ(Girl’s Day)、イ・ギョンヨン

朝鮮・中宗22年(1527年)―
国に疫病が蔓延する中、宮廷の背後にそびえる仁王山(イナンサン)に“物怪”(ムルゲ)が現れるという噂が流れる。
ムルゲと遭遇した人間は逃げおおせても疫病にかかり悲惨な死を迎えるという。
民衆が恐怖と混乱に陥る中、それに乗じて11代中宗王の失権を目論む陰謀が密かに計画される。
陰謀の匂いを感じた王は、民衆の不安と朝廷の危機を一掃するため、かつて政争により朝廷から追放された朝鮮国最強の武人・ユン・ギョム(キム・ミョンミン)を呼び戻す。
ユン・ギョムは、長年の同僚であったソン・ハンとずば抜けた弓矢の腕前と医術の知識を持つ愛娘ミョン(イ・ヘリ)、そしてミョンに恋心を抱く優秀なホ宣伝官(チェ・ウシク)、彼らと共に力を失いつつある王と疫病に苦しむ民衆を救うため、物怪(ムルゲ)の棲む仁王山へと向かうのだが。。。

「朝鮮王朝実録」の「中宗の治世中に”物怪”ムルゲ(ムルは”物”、ゲは”奇怪な”という意味)と呼ばれる不可解な存在(あるいは事件)のせいで、宮殿中がパニックに陥り、王が居城からの退去を余儀なくされた」という一節をきっかけにホ・ジョンホ監督が想像を巡らせて作り上げた物語である。
怪物が出ているポスタービジュアルにファンタジー系かと思いきや、監督は宮殿を襲った何らかの惨事か、疫病や自然災害をムルゲに例えた可能性を考えた上で、ムルゲをリアルな生き物として存在させ、政治的な駆け引きに端を発したサスペンス作品に仕上げた。そこに父と娘の思いをも絡ませ、ヒューマンドラマの一面も見せる。
娘に恋心を抱く若者に『パラサイト 半地下の家族』で長男を演じたチェ・ウシク。こんなにイケメンだったとは!(堀)


ホ・ジョンホ監督が、「朝鮮王朝実録」の中からさらに注目したのが、本作の11代中宗王の先王である10代燕山君(ヨンサングン)が宮中に作った調隼坊(ジョジュンバン)という薄暗い一室のこと。燕山君は珍獣を好み、収集した珍獣の檻を調隼坊に置いていたらしい。
監督は、珍獣の交配種として調隼坊で生まれたのが物怪ではないかと想像した次第。映画では、調隼坊も再現。そこに潜んでいた物怪が景福宮を暴れまわる姿がリアルに描かれている。
物怪退治のために、10年ぶりに中宗から呼び戻された元王直属軍隊の長官ユン・ギョムは、まさに正義の人。冒頭、疫病が蔓延する中、庶民を苦しめる悪徳グループに立ち向かう姿も凛々しい。演じたキム・ミョンミンが、2018年度KBS演技大賞を受賞した時の出演ドラマ「私たちが出会った奇跡」をちょうど見終えたばかり。同姓同名のハンサムなエリート銀行マンと醜男だけど心優しい料理人が、交通事故を機に中身が入れ替わるという物語。横暴だった銀行マンが、温厚な男に変貌する様が実に上手い。本作でも物怪に果敢に立ち向かう一方で、娘や庶民に温かく接する男を体現していて素敵だ。(咲)


2018年/韓国映画/105分/カラー/5.1ch/ビスタ 
配給:インターフィルム
©2018 CINEGURU KIDARIENT & TAEWON ENTERTAINMENT.All Rights Reserved. 
公式サイト:https://muruge.com/
★2020年3月13日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー




posted by ほりきみき at 14:22| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

エキストロ

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監督:村橋直樹
出演:山本耕史、斉藤由貴、寺脇康文、後藤ひろひと、吉田靖直(トリプルファイヤー)

萩野谷幸三、64歳。普段は歯科技工士として黙々と働きながら、男手ひとつで息子を育てた実直な男。だが実は、彼にはひそやかな情熱がある。それは、自身がエキストラとして、様々な映画やドラマに出演すること。彼が所属している地元のエキストラ事務所「ラーク」には、
他にも実に様々な人間が集まっている。そんなある日、萩野谷に密着するドキュメンタリー番組のカメラが、様々な真実をとらえ始め、ある一つの事件を露呈させる。映像に映り込む”何か”が、ある事件の大きな鍵を握ることに・・・。

エキストラに興味があって、エキストラの会社?のメルマガを読んでいます。あちこちでいろんな作品が作られています。この作品で撮影の裏側をよっく見せてもらって、自分は“待ち”が苦手で、行列も(時間がもったいなくて)できない人間なので絶対にやれないとわかりました。エキストラは口外厳禁、潜入取材もダメですし。この作品で体験したつもりになって楽しみました。それにしても映画は見えないところにたっくさんの人が関わっているのですね。いつも楽しませていただいています。最敬礼。(白)

初老の歯科技工士が息子に仕事を譲り、エキストラとして充実した日々を送っている姿を描いたドキュメンタリーかと思ったら…。
山本耕史、寺脇康文、斉藤由貴が本人の役で出演し、「こんなことしちゃっていいの?」と心配になるくらいイメージを覆す言動を繰り広げる。彼らの今後が心配になって、ハラハラするが、モキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)とわかった途端に心配は笑いに転換する。
主人公を含め、普通の人をこれだけ普通に演じられるとは! 一般人を演じた役者の巧みな演技力に驚く。(堀)


知人の映画好きの男性で、非正規労働をしながら、エキストラ出演に勤しんでいる人がいます。「この映画の、この場面に一瞬だけ出ます」などというお知らせをいただいたりします。自分にしかわからないような出演部分も、映画に関わったという満足感でエキストラを続けているのだなぁ~と、本作を観てつくづく思いました。
それにしても、この映画にはまんまと騙されました! (咲)

2019年/日本/カラー/89分
配給:吉本興業
(C)2019 吉本興業株式会社
https://extro.official-movie.com/
★2020年3月13日(金)ロードショー




posted by shiraishi at 14:03| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シラノ・ド・ベルジュラック

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演出:デヴィッド・ルヴォー   
原作:エドモン・ロスタン
翻訳・脚色:アントニー・バージェス
出演:ケヴィン・クライン(シラノ・ド・ベルジュラック )
ジェニファー・ガーナー(ロクサーヌ)
ダニエル・サンジャタ(クリスチャン・ド・ヌーヴィレット )
マックス・ベイカー(ラグノー)
ユアン・モートン ( リニエール/テオフラスト・ルノード )
クリス・サランドン(ド・ギッシュ伯爵)
ジョン・ダグラス・トンプソン(ル・ブレ)
コンチータ・トメイ(ロクサーヌの侍女/修道女マルト)

シラノ・ド・ベルジュラックは剣術の達人であるだけでなく、繊細な詩を綴り、人生観・世界観をおおいに語る軍人だった。シラノは気が強く美しいロクサーヌに密かに恋心を抱いているが、滑稽なほど大きな自分の鼻にコンプレックスがあり告げられずにいる。やっと手紙を書き上げたとき、ロクサーヌが同じ部隊の美青年クリスチャンに恋している事を知ってしまう。クリスチャンもまたロクサーヌに一目惚れしていた。シラノは想いを隠して、詩心など全くないクリスチャンに自分の手紙を渡し、その後も彼に代わってロクサーヌへのラヴ・レターを書き続ける。

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大きな鼻の持ち主シラノ・ド・ベルジュラックの片思いのお話は有名です。ロクサーヌの窓の下で、クリスチャンに逐一台詞を教える場面、自分の恋心をクリスチャンに成り代わって切々と訴える場面はおかしくも切なさいっぱいです。ずいぶんと昔の恋物語も、恋すれば臆病になる点では今も変わりません。
2007年の名舞台がフィルムでよみがえり、一回り若いケヴィン・クラインのさっそうとした姿が見られます。ジェニファー・ガーナーは舞台をぱっと明るくする華がありました(ジュリア・ロバーツ似ですね)。ロクサーヌはクリスチャンに「最初に惹かれたのは顔だった」けれど今は(シラノが綴る)美しい言葉を駆使して伝わってくる「心」だと告白。後ろめたいクリスチャンは「このままの自分を愛して」と慌てます。誰もの本音でしょうが、自分を磨き、相手の期待に応える努力をするのも愛あればこそ。
2020年の「松竹ブロードウェイシネマ」は夏『キンキーブーツ(仮題)』秋には『ジャニス・ジョプリン(仮題)』と続きます。ブロードウェイの傑作舞台を、ポイントをおさえたカメラワークと美しい映像でご覧ください。(白)


2007/アメリカ/ビスタサイズ/141分/5.1ch 日本語字幕スーパー版
配給:松竹
コピーライト:(c)Carol Rosegg
公式:www.instagram.com/shochikucinema/
www.facebook.com/ShochikuBroadwayCinema
★2020年3月13日(金)より東劇(東京)他全国順次公開
posted by shiraishi at 12:04| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

衝動 世界で唯一のダンサオーラ

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監督・脚本:エミリオ・ベルモンテ
出演:ロシオ・モリーナ、ホセ・アンヘル・カルモナ、エドアルド・トラシエラ、パブロ・マルティン・ジョーンズ、ラ・チャナ

ロシオ・モリーナは3歳でダンスに目覚め、恵まれているとはいえない体格をものともせず頂点に上り詰めた。彼女は自らを”ダンサオーラ””と呼び、その天才的なリズム感、驚異的な身体能力、天性の芸術的感性で異次元のステージを繰り広げる。スペイン芸術界最高の栄誉「スペイン国家舞踊賞」を26歳の若さで受賞。2018年にイギリスの舞台芸術の最高賞「ローレンス・オリヴィエ賞」ノミネート。伝統的なフラメンコをベースにしながら、革新的なスタイルでフラメンコの世界を押し広げ、世界的な評価を確立した。
カメラはパリ、エッフェル塔をのぞむシャイヨー国立舞踊劇場公演にいたるまで、新しいステージ創作に力を注ぐ彼女に密着する。(HPより)

エミリオ・ベルモンテ監督初の長編ドキュメンタリー。天才フラメンコダンサー、ロシオ・モリーナ。本作で初めて観る素顔のロシオは屈託のない明るく気さくな女性です。ひとたび踊り始めると表情は一変し、そのエネルギーは無尽蔵なの?と思うほどパワフルです。伝統的なフラメンコ、前衛、どちらの枠にもおさまりきれない独特なダンスは世界中で喝采をうけています。2018年に公開されたドキュメンタリー『ラ・チャナ』のラ・チャナも登場。
ライブ映像の『ロシオ・モリーナLIVE カイーダ・デル・シエロ』の緊急上映も決定。(白)


2017年/フランス・スペイン合作/カラー/85分
配給:トレノバ、gnome
https://impulso-film.com/
★2020年3月13日(金)より東劇ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 11:11| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ダンシングホームレス

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監督:三浦渉
出演:アオキ裕キ、西篤近、小磯松美、平川収一郎、横内真人、伊藤春夫、渡邉芳治、山下幸治

「新人Hソケリッサ!」は、路上生活者や路上生活経験者だけで構成されたダンスグループ。路上での公演活動を中心に活動している。主催者のアオキ裕キは振付師として活躍していたが、2001年留学先のニューヨークで9・11に遭遇。生き方やダンスとの向き合い方を考え直すことになった。アオキは「あらゆるものを捨ててきたからこそ、唯一残された原始的な身体から人間本来の生命力溢れる踊りが生み出されるのだ」という。れぞれの人生からすべてをそぎ落としたメンバーは、生きるために舞う。

ダンスやバンドのメンバーが一つの目標に向かって汗を流し、努力が報われる作品が好きです。観ているだけなのに応援した気分になれます。それが眼福のイケメングループだったりするともっと楽しいです。
ところがこの作品に登場するのは、対極にあるような(失礼)おじちゃんやお兄ちゃんです。「ええ~ダンスぅ?」と半信半疑で観始めました。顔も実名も出している一人一人がここに至るまでの人生を話すのを聞いて、ゆらゆら動いているのを見ているうちに不思議に引き込まれました。身一つで生きてる人のむき出しの生命力が誘うのかもしれません。路上でのパフォーマンスに幸運にも遭遇したら「元気でやってますね」と嬉しくなりそうです。
「新人Hソケリッサ!」は東京都美術館や金沢21世紀美術館、山形トリエンナーレ等でも公演。国内だけに留まらずリオ五輪プログラム「with one voice」や、イギリスでも公演を果たす。またアーティストの寺尾紗穂や箕輪☆狂介(厚介)、現代美術家とのコラボレーションも多数。NEXTREAM21最優秀賞受賞。(白)


ダンスとタイトルにあるけど、実際に観たら舞踏のイメージで、この作品を観てギリヤーク尼ヶ崎さんを思い出しました。ギリヤークさんも路上でこのような舞踏を長年踊っているのです。私にとって新宿南口などなじみのある場所が出てきて、この方たちに街で会っているかもと思いました。また西成地区も。この3年くらい大阪アジアン映画祭に行くときは、予算が少ないので西成地区のホテルで3,4泊しています。2500円くらいで泊れるのです。それなりですが。けっこう外国人もたくさん泊まっています。でも最初に行った時は、西成地区があいりん地区や釜ヶ崎に近いと認識していませんでした。あとで聞いて、このあたりがそうだったんだと思いました。映画祭に行くと朝早く出て、夜中にしか帰ってこないので、2年くらい、ここに通天閣があることも知らなかったのですが、去年初めて通天閣にも行きました。新世界というのがここだというのも知りました。そのそばにあいりん地区や釜ヶ崎はあったのだなと、この映画を見て通天閣が出てきて、この街に思いを馳せました。
この映画で「この街の臭い」という言葉が出てきましたが、それに反応してしまいました。私にとって西成地区は街全体にタバコの臭いがただよっているというイメージだったのですが、それが「この街の臭い」なのかどうかはわかりませんが、この映画の中で言っていたのは、この臭いのことなんだろうかと思ってしまいました。私はタバコの臭いが苦手なので、それだけはこの街の嫌なところではあるのですが、大阪人や大阪出身の人に西成で泊まっているというと、あんな危険なところで?といわれますが、そういうイメージではありませんでした。ただ、私は表玄関のメインストリートあたりをうろうろしただけなので、裏のほうに行ったらそういう感じもあるのかもしれません。それにしても大阪人の中にそういう偏見があるのだなと思いました。何人にも言われました。
おっちゃんたちのダンスは気持ちよさそうで、このダンスは彼らにとって心のよりどころになっているのだろうと思いました。試写が終わってから、出演していたおっちゃんたちがいたので、その話をしたら、まさにそうだと言っていました。ホームレスというと近づきたくないと思うところもありますが、彼らがそこにいたってしまった状態の中でのダンスはとても心放たれるものがありました。魂の踊りと言う感じです。10年以上も続いているのがすごい(暁)。

2019年/日本/カラー/DCP/99分
配給:東京ビデオセンター
(C)Tokyo Video Center
https://www.thedancinghomeless.com/
★2020年3月7日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開
posted by shiraishi at 10:19| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月03日

ジョン・F・ドノヴァンの死と生 原題:THE DEATH AND LIFE OF JOHN F. DONOVAN

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監督・原案・脚本・編集:グザヴィエ・ドラン
脚本:ジェイコブ・ティアニー
音楽:ガブリエル・ヤレド
美術:コロンブ・ラビ
撮影:アンドレ・トュルパン
出演:キット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、ジェイコブ・トレンブレイ、スーザン・サランドン、キャシー・ベイツ、ジャレッド・キーソ、サラ・ガドン、マイケル・ガンボン

人気のテレビシリーズに出演し、瞬く間にスターになった俳優のジョン・F・ドノヴァン(キット・ハリントン)が、29歳の若さで亡くなる。やがて謎に包まれた死の真相が、11歳の少年ルパート(ジェイコブ・トレンブレイ)との間でひそかに交わされていた100通以上におよぶ手紙によって明らかになる。
今回”美しきグザヴィエ・ドラン”は監督に徹し、11歳の美少年と、29歳で夭逝した美しき俳優の書簡物語が主軸である。ドランが子どもの頃、レオナルド・ディカプリオに手紙を書いた実体験を基に、着想から5年という年月をかけて熟成させた跡が分かる仕上がりだ。
ドランがこれまで繰り返し描いてきた“母と息子”のテーマが副旋律となっている。本作では2組の”母と息子”の関係性が物語を遡るに連れ、浮くボドノヴァンリになる。それは時に均衡であったり、対称的にも表現される。1対はジェイコブ・トレンブイとナタリー・ポートマン、もう1対はキット・ハリントン扮するドノヴァンとその母スーザン・サランドン。ステージママと反発する息子、アンニュイな母親像を絶妙なキャスティングで肉付けしている。“母と息子”の命題は今後のドラン作品でどのように変容していくか…永遠のテーマとして見守り続けたい。

尚、本作にゴシップライター役で出るはずだったジェシカ・チャステインの出演シーンが、ドランの判断により全面カットされた。ドラン自身は「チャステインの演技に問題があるわけではない」とコメントし、チャステインもSNSで「了承済み」である旨を報告している。チャステインの役柄も興味深いところ。DVD特典などに収録されていれば観てみたい。

物語には直接関連しないが、ドランはガス・ヴァン・サント監督作『マイ・プライベート・アイダホ』をこよなく愛しており、その一場面が故リヴァー・フェニックス、キアヌー・リーブスによく似た俳優により再現されている点もお見逃しなく。

ドランのグラマラスな映像と繊細な音楽のセンスの他、人気俳優がなぜ夭逝したのか?自殺か事故か、事件か?真相の鍵を握るのは一人の少年…といったサスペンス的興趣を唆る本作は、ドランファン以外も惹きつける魅力を放つ作品だ。(幸)


2018年製作/123分/PG12/カナダ・イギリス合作/シネマスコープ
提供・配給:ファントム・フィルム、松竹
(C) THE DEATH AND LIFE OF JOHN F. DONOVAN INC., UK DONOVAN LTD.
公式サイト:https://www.phantom-film.com/donovan/sp/
★3月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開★
posted by yukie at 14:28| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月01日

わたしは分断を許さない

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監督・撮影・編集・ナレーション:堀 潤
プロデューサー:馬奈木厳太郎
脚本:きたむらけんじ
音楽:青木健

国内外の様々な場で深まる分断。
本作は、ジャーナリスト堀 潤が、各地で見た分断の現実。

2019年9月、香港。民主化を要求するデモに参加した青年が銃で撃たれる。
撃った警官もまた香港人だ。

福島。2011年3月の東日本大震災で起きた東京電力福島第一原子力発電所事故。避難を強いられた人たちに賠償金は支払われたが、いまだ立ち直れない人たちがいる。被災者の間に生まれた分断と差別。

東京出入国在留管理局。家族と引き離され拘置所にいるクルド人難民メメットさん。日本は難民申請の1%しか認めてない。トルコ国籍のクルド人に至っては、一人も認められていない。

カンボジア。増加の一途をたどる中国の資金援助。インフラの整備が進む一方、都市と地方の格差拡大でひずみが生まれている。

パレスチナ。天井のない監獄といわれるガザ。同じパレスチナ自治区のヨルダン川西岸とは容易に行き来ができない。

初監督作品『変身 - Metamorphosis』(2013年)で、日米の原発事故を追った堀潤監督。本作の原点も、生業訴訟を中心にした原発事故被害。前作制作後、より自由な報道活動の場を求めて、NHKを退職しフリージャーナリストとして独立。香港、福島、沖縄、朝鮮半島、シリア、パレスチナ・・・と現地に赴き、人々に寄り添って集めた声の数々。一人一人の語る言葉から、社会の歪みがますます拡大していることが直球で伝わってきました。もうどうすることも出来ないほど、分断は深まっているのかと暗澹たる思いにもなりました。さて、私たちに出来ることは? (咲)

シリアの内戦、香港のデモ、福島の原発、沖縄の基地などさまざまな問題を取り上げる。どれもニュースで報道されているが、そういった報道と違うのは、堀潤氏がそれぞれの問題で対象に深く入り込んで取材していること。国内のことであっても、どこか遠い他人事のような感覚を持ってしまっていたが、本作を見ていると自分に引き寄せて考えずにはいられない。(堀)

2020年/日本/カラー/DCP/5.1ch/105分
取材協力:JVC・日本国際ボランティアセンター、KnK・国境なき子どもたち
配給・宣伝:太秦株式会社
公式サイト:https://bundan2020.com
★2020年3月7日(土)ポレポレ東中野ほか全国順次公開




posted by sakiko at 19:12| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

星屑の町

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監督:杉山泰一
原作:・脚本:水谷龍二
撮影:的場光生
音楽:宮原慶太
出演:大平サブロー(天野真吾)、ラサール石井(市村敏樹)、小宮孝泰(山田修)、渡辺哲(込山晃)、でんでん(西一夫)、有薗芳記(青木五郎)、のん(愛)、戸田恵子(キティ岩城)、菅原大吉(山田英二)、柄本明(六蔵)

ムード歌謡コーラスグループ「山田修とハローナイツ」は大手レコード会社にいた山田が作った。ずいぶん経った今もほとんど知られず、ベテラン女性歌手のキティ岩城と組んで地方の温泉旅館やホールでの営業を続けている。リーダーの山田の故郷で公演が決まり東北の街へとやって来た。地元のスナックで母を手伝っている愛は、歌手を夢見て上京したが叶わず出戻った過去がある。けれども再挑戦したいと、ハローナイツのいる控室に押し掛ける。メンバーが熱意に負けて歌わせてみると、意外にイケた。

元は1994年の初演から25年も続いた舞台劇なのだそうです。舞台のキャストが終結。映画版キャラ、ヒロインのんさん、素直な歌で耳に優しい!ギターで弾き語りが聞けます。朝ドラ「あまちゃん」をほうふつとさせる東北弁が嬉しい(久慈でのロケもありました)。サブローさん、戸田恵子さん上手い!おじさんコーラスは…う、う~む。味があるということで。
太平サブロー、シローさん(2012年逝去)の漫才が大好きだったので、久しぶりのサブローさんを見て、漫才の動画を探してしまいました。今聞いてもほんとに喋りがうまくて面白く懐かしかったです。
物語は大きな事件もスリルもカーチェイスもない、ほのぼの人情劇。昭和のヒット曲がふんだんに出てきます。良い歌がたくさんあったんですよねぇ。口ずさみながら帰りました。(白)


2019年/日本/カラー/シネスコ/102分
配給:東映ビデオ
(C)2020「星屑の町」フィルムパートナーズ
https://hoshikuzu-movie.jp/
★2020年3月6日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 14:35| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

酔うと化け物になる父がつらい

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監督:片桐健滋
原作:菊池真理子(秋田書店刊)
脚本:久馬歩、片桐健滋
撮影:一坪悠介
音楽:Soma Genda
主題歌・挿入歌:GOOD ON THE REEL
出演:松本穂香(田所サキ)、渋川清彦(田所トシフミ)、今泉佑唯(田所フミ)、恒松祐里(ジュン)、濱正悟(中村聡)、浜野謙太(木下)、ともさかりえ(田所サエコ)

田所サキは父トシフミ、母サエコ、妹のフミとの4人家族。ごく普通の家庭…と、ちょっと違うのは、父は酒飲みで母は宗教にハマっていること。父は朝出かけたときとは全く違う「化け物」になって夜中に帰ってくる。飲まなければ小心者で母に文句ひとつ言えない父なのに。
いやなのは休みでもおかまいなしに麻雀仲間がやってきて、一晩中飲んでうるさいこと。母は父に尽くし続けてついに限界がやってきたらしい。父の誕生日にいなくなってしまった。心を入れ替えたように見えた父だったが長くは続かず、またアルコールに溺れる日々が戻ってくる。そんな日常を忘れたくて、サキはマンガを描くことに没頭する。

ウェブ掲載で大評判になったコミックエッセイの映画化。書きようによってはもっと重い話になるのに、とても淡々としていて、それが逆に書き手の心のうちを伝えてきます。大変だった日々がいつかトゲではない思い出に変わりますように。
私は全く飲めず、酒席に出ることもありませんが、付き合いを避けられない人は辛いはず。お酒に弱い人が「無理でも飲まねばいけない状況」があったんだろうと想像します。弱いからあっさりタガも外れてしまうのでしょう。しわ寄せは家族に来ます。こんなに長い間助ける人がいなかったのか?!と思わず義憤にかられます。でも家庭の中のことを誰にでも話せないし、外からは見えにくいですよね。
ところどころ辛くて悲しくてそれなのにユーモアも漂っていて、最後は温かい涙が胸を満たしてくる物語。キャスティングがぴったりで(渋川さんは憎めない男の役がほんとに似合う)、苦労した両親に思いをはせ、2人の娘たちの幸せを祈りたくなりました。
こちらで原作第1話が読めます。(白)


会社に勤めていたころ、それこそ酔うと化け物になる人たちを数多く見てきました。
私の父はまったくお酒が飲めないので、最初はどう対処していいのか戸惑ったものです。化け方も人さまざまで、眠りこけてしまう人はまだ始末がいいのですが、やたら愚痴をいう人、女の人を触りまくる人、はたまた所かまわず脱いでしまう人など、ほんとに男って・・・と呆れたものです。家族は大変だなぁ~とも思いました。
お酒に弱いのに、飲むフリをして接待している人の姿もよく見てきました。飲めなくて、取引先との付き合いができないからリストラになったのかと悩む姿も切実でした。
本作は娘の目から見た酔っぱらいのお父さん。なんとも微笑ましくもありました。(咲)


まさか泣くとは思わなかった!題名からしてお気楽な喜劇かと思いきや、笑えもするけど感動が勝る展開…。先入観を自戒した。
テンポ&リズムとも滑り出しから終始快調そのもの。ギミックの使い方は感情の流れを阻害することがなく効果的。
主人公の独白は観客の共感を誘うにはもってこいだ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー製作の作品中、出色の佳篇と言えるのではないだろうか。
片桐健滋監督の快作。松本穂香×渋川清彦の名演が光る、拾いもの的名作と出逢えた喜びを味わえた。(幸)


2019年/日本/カラー/95分
配給:ファントム・フィルム
(C)菊池真理子/秋田書店 (C)2019 映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会
https://youbake.official-movie.com/
★2020年3月6日(金)ロードショー



posted by shiraishi at 14:04| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ジュディ 虹の彼方に(原題:Judy)

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監督:ルパート・グールド
原作:ピーター・キルター
脚本:トム・エッジ
撮影:オーレ・ブラット・バークランド
音楽:ガブリエル・ヤーレ
出演:レニー・ゼルウィガー(ジュディ・ガーランド)、フィン・ウィットロック(ロザリン)、ジェシー・バックリー(ミッキー)、ルーファス・シーウェル(シド)、マイケル・ガンボン(バーナード)

10代でハリウッド・スターの仲間入りを果たし、世界各地でその歌とパフォーマンスを愛されていたジュディ・ガーランド。40代の彼女は結婚・離婚を繰り返し、いまや借金まみれ。マネージャーも雇えず、かつての栄光にすがって子連れでステージをこなしていた。ホテル代もなくなって困窮したジュディは、子どもたちを泣く泣く前夫のシドにあずけることになった。若いときから酷使してきた身体と心はボロボロで、薬とアルコールで辛うじて持ちこたえているようなありさま。しかし熱心なファンの応援と、新しい恋人の出現につかのま元気を取り戻す。

『オズの魔法使い』(39)に主役のドロシーとして出演。一躍スターとなったジュディ・ガーランドの伝記映画です。彼女の才能にぶら下がった家族や映画スタジオ。眠らせずに撮影を続け、太らないようにと飲まされ続けた覚せい剤。そんな少女時代から、寂しさを埋めるためのアルコールとドラッグ、母親としての葛藤、新しい恋人との日々が描かれています。亡くなる半年前の1968年冬、ロンドン公演のシーンは圧巻です。自信と不安の間を揺れ動きながらも舞台を愛し、スポットライトと拍手が原動力のスターの想いがあふれていて、今年の主演女優賞はレニー・ゼルウィガー!と確信しました。
レニー・ゼルウィガーが記憶に刻まれたのは、どこにでもいそうな女の子を演じた「ブリジット・ジョーンズの日記」第1作(01)。16年には3作目が作られました。ベアリトリクス・ポター役も良かったですが、『シカゴ』のように歌唱を披露できる作品を待っていたところ、この作品が公開になりました。ジュディ・ガーランドが亡くなって50年、大先輩と同じ年齢のレニーが渾身で体現したこの作品は、さきごろ発表になったアカデミー賞主演女優賞を受賞。いつまでもレニー・ゼルウィガーの代表作になるはずです。(白)


2018年/イギリス/カラー/シネスコ/118分
配給:ギャガ
(C)Pathe Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019
https://gaga.ne.jp/judy/
★2020年3月6日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 11:35| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

子どもたちをよろしく

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監督・脚本:隅田靖
企画:寺脇研 前川喜平
撮影:鍋島淳裕
出演:鎌滝えり(優樹菜)、杉田雷麟(稔)、椿三期(洋一)、川瀬陽太(貞夫)、村上淳(辰郎)、有森也実(妙子)

東京にほど近い街に住む優樹菜は実母と再婚した義父の辰郎、その息子の稔と暮らしている。辰郎は酒癖が悪く、妻と息子を殴り、血のつながらない娘の優樹菜には性的虐待を繰り返してきた。母は見て見ぬふりをし、自分が汚れたと感じている優樹菜は親に隠してデリヘルで働いている。中2の稔は両親を憎みながら義姉の優樹菜を慕っている。
デリヘルの運転手をしている貞夫は、ギャンブル依存症で妻に出て行かれた。一人息子の洋一はほったらかしにされたまま給食費も払えず、稔たちのいじめの標的になっている。

家族がいても形だけの優樹菜と稔。表向きは良い子、裏では陰湿ないじめをしているグループ。独りぼっちの洋一。助けの欲しい子どもたちが描かれています。ここにまともな大人は登場しません。助けるどころか、自分を保つことでいっぱいいっぱいで子どもを傷つけるばかりです。学校も警察も児童相談所も出てきません。辛いことばかりが連鎖していきます。
「よろしく」と預けられた観客は自分の周りを見渡します。日本は1945年の敗戦後戦争はしていないけれど、自殺者が2万人もいる世の中なんてやっぱりおかしい。子どもには幸せでいてほしい。大人は目を凝らし、耳を澄ましていなくては。(白)


2019年/日本/カラー/G/105分
配給:太秦
http://kodomoyoroshiku.com/
★2020年2月29日(土)ユーロスペース、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開
posted by shiraishi at 10:13| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

野性の呼び声(原題:The Call of the Wild)

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監督:クリス・サンダース
出演:ハリソン・フォード、ダン・スティーヴンス、カレン・ギラン、オマール・シー

セント・バーナードとスコットランド牧羊犬の雑種・バックは、カリフォルニア州のミラー判事(ブラッドリー・ウィットフォード)の邸宅で幸せに暮らしていました。ところがある日、見知らぬ男に捕獲され、高値で売り飛ばされてしまいます。
カナダで郵便物を運ぶ、そり犬として働くことになったバックは恵まれた体格と持ち前の知恵で、先導犬スピッツからその地位を勝ち取ります。素晴らしいリーダーシップを発揮して仲間の犬たちからの信頼を得て、順調に仕事をこなしていきますが、政府の命令で仕事を失ってしまいます。
次には姉夫婦とカナダに金を探しに来たハル(ダン・スティーヴンス)に売られてしまいます。荒野での経験がほとんどないハルたちから過酷な環境での重労働を強いられますが、初老の男ソーントン(ハリソン・フォード)に助け出されます。バックは少しずつソーントンに心を開いていき、すっかり元気になるとソーントンと共に、まだ見ぬ<地図に載っていない未開の地>を目指し、冒険の旅に出ました。

原作はジャック・ロンドンの同名小説です。アメリカでは小・中学校の教科書に載るほど長く愛され、古典アメリカ文学の代表になっています。日本で言えば「ごんぎつね」的な物語でしょうか。ちなみに、クリス・サンダース監督も幼いころ、父親から「今まで読んだ中で最高の1冊」と勧められたそうです。
これまでに1935年にクラーク・ゲイブル主演で、続いて1972年にはチャールトン・ヘストン主演で同じく『野性の叫び』として映画化されました。
しかし、過去の2作は人間が主人公であったのに対し、今作は犬のバックが主人公。ソーントンと知り合う前にどこで育ち、どのように名犬となったのかも描いています。
実はバックは最初から物わかりのいい名犬だったわけではありません。カリフォルニアの判事の家で飼われていたときのダメっぷりは目に余るほど。ところが、無断で連れ去られて売り飛ばされ、辛酸を舐めるような経験をすることで、そり犬として仕事を果たせるようになっていきます。甘やかすだけではダメなんですね。やがて仲間の犬の信頼を得ていくのですが、それはかつて大事にされた経験があるからこそ。愛情と厳しさ。人間も犬も子育ての基本は同じなのかもしれません。(堀)


試写に行きそびれて最終試写に駆け付けたら、時間を勘違いして結局観られなかった作品。ようやく劇場で観てきました。ディズニー映画は家族向けに作られているので、いい人もいいエピソードも入っています。今だからできるダイナミックな画面作り、バックの動きも表情もリアルですね。バックをモーションキャプチャーで演じたのは、『猿の惑星』でも活躍した俳優さん。原作はバックが攫われてからの艱難辛苦が詳細に描かれていて、ソーントンには本の中ほどでやっと出会っています。やんちゃなペットだったバックが犬ぞりのトップになるまで、それはもうえらい目に逢うのでここは映画でははしょっています。金探しの憎たらしいハル+2人は、原作でもひどくて「罰当たり(れ)!」と呪ったくらいです。
もっとハラハラドキドキしたい方、バックの心のうちを知りたい方は同名原作をぜひ!(白)


2020年/99分/G/アメリカ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©.2020 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/yasei.html
★2020年2月28日(金) 全国ロードショー
posted by ほりきみき at 03:11| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする