2020年02月29日
Fukushima 50
出演:佐藤浩市、渡辺謙
監督:若松節朗
脚本:前川洋一
原作:「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」門田隆将(角川文庫刊)
2011年3月11日午後2時46分。マグニチュード9.0、最大震度7という、日本の観測史上最大の地震が発生。全てが想定外の大地震による巨大津波が福島第一原発を襲った。全電源喪失で原子炉の冷却が不可能となり、原子炉建屋は次々に水素爆発を起こし、最悪の事態メルトダウンの時が迫りつつあった。1・2号機当直長の伊崎(佐藤浩市)は次々に起こる不測の事態に対して第一線で厳しい決断を迫られる。所長の吉田(渡辺謙)は現場の指揮を執りつつ、状況を把握していない本社とのやり取りに奔走。緊急出動する自衛隊、そして米軍。仮に福島第一原発を放棄すれば、高度の放射能が広範囲に広がり、東京を含む東日本が壊滅する…。未曾有の危機に直面し、死を覚悟して発電所内に残った職員たちは、家族を、そして故郷を守るため、この未曾有の大事故と闘い続けた。
東日本大震災の際、福島第一原発に残って作業を続けた50人。この人たちの命を賭けた奮闘に涙が止まらない。試写後に若い作業員を演じた俳優たちが登壇し、「美談を描いたわけではありません」といい、記憶を繋いでいかないと記録になってしまうと訴えた。あのとき何があったのか。知らないままでいなくてよかった。
佐藤浩市、渡辺謙。2人の熱演もさることながら、内閣総理大臣を演じた佐野史郎、東電本店の緊急時対策室で本部長を演じた篠井英介が印象に残る。2人とも嫌われ役として振り切った演技に徹していた。その結果、重いテーマに適度なガス抜きができたのではないだろうか。(堀)
福島の原発事故を描いた映画は、ドキュメンタリーだけでなくドラマになったものも含めていくつもある。しかし、あの事故現場で働いた人たちを真摯に描いたものとしては、この映画が一番迫真に迫っていたかもしれない。いつ原発が爆発するかもしれない絶望的な状況の中、現場の人たちの苦悩や人間関係、家族との関係、そして無事に家族と再会できた喜びが描かれていた。現場にいた人たちは地元出身の人々が多く、ここを守らなくてはという思いに溢れていた。東電本社の現場を知らない上司からの無理な命令が続く。政府にちゃんとした情報を伝えず、「現場を投げ出そうとしている」みたいなフェイク情報までどこかから出てくる。その情報に驚いた首相は混乱した現場に現れて叱咤激励しにくる。もうだめだと思ったけど、なぜだか最後に爆発は起こらなかった。まさに危機一髪だったんだ。
しかしこの映画は、原発をここに作ってしまった人たちのことにはなにも触れていない。広島、長崎と唯一の被爆国であり、第五福竜丸を始めたくさんのマグロ漁船も被曝した経験があり、放射能の危険を知っているのに、原子力の「平和利用」と称し、人々を欺きながら、巨大資本と国家の政策の中で原発をたくさん作ってしまった。その結末がフクシマだ。フクシマを生みだした構造を忘れてはならない。しかも性懲りもなく原発再稼働、原発輸出を進めようとしている。戦争もそうだが、人々は国家に騙され、翻弄され戦争に借り出されてしまったが、原発もまた、地元の発展とか働き先が増えると吹聴され、地元の人たちがたくさん働いていた。そして国の政策が変わり閉山されてしまった炭鉱で働いていた人たちもたくさん流れてきて働いていた。まさに国に翻弄された人々である。その人たちは国の政策の被害者でもある。失ったものは元には戻らない。
最後に出てきた、双葉町にある「原子力は明るい未来のエネルギー」の看板は、虚しさの象徴として、福島を描いただいたいの作品に出てくるが、この映画では違うように感じた(暁)。
2020年/122分/G/日本
配給:松竹、KADOKAWA
©2020『Fukushima 50』製作委員会
公式サイト:https://fukushima50.jp
★2020年3月6日(金)全国ロードショー
2020年02月25日
シェイクスピアの庭 英題:ALL IS TRUE
監督・製作:ケネス・ブラナー
脚本:べン・エルトン
製作:テッド・ガリアーノ、タマール・トマス
撮影:ザック・ニコルソン
美術:ジェームズ・メリフィールド
衣装:マイケル・オコナー
出演:ケネス・ブラナー 、ジュディ・デンチ、キャスリン・ワイルダー、リディア・ウィルソン、イアン・マッケラン
1613年6月29日、「ヘンリー八世」上演中の火災でグローブ座が焼失し、気力をなくしたシェイクスピア(ケネス・ブラナー)は、断筆して故郷ストラットフォード・アポン・エイヴォンに戻る。8歳年上の妻アン(ジュディ・デンチ)、独身の次女ジュディス(キャスリン・ワイルダー)らは、20年以上もロンドンで仕事漬けだったあるじの突然の帰郷に困惑していた。
文豪シェイクスピアはなぜ49歳で断筆したのか?なぜ20数年ぶりに故郷ストラットフォード・アポン・エイボンへ戻ったのか?…読者には不可解だったシェイクスピアの謎が、監督・主演を務めたケネス・ブラナーなりの解釈で示される。本作はブラナーというフィルターを通して観る人間シェイクスピア像なのだ。
対象を最後の3年間に絞って描いたことが奏功し、最晩年からシェイクスピアの人生そのものが照射されて行く分かりやすい構成となっている。
そのせいか、場面の多くは「黄昏時」。西から射す陽光は庭の草花を優しく照らし出す。イキイキと咲き誇る生の象徴である草花と、人生の黄昏時を迎えたシェイクスピア。柔らかな光が対照性を際立たせる撮影効果は巧みだ。
また、屋内の光源は蝋燭だけという奥行きの深い自然光映像にも心惹かれた。仄暗い灯から照らされる登場人物のきめ細かな表情、ロケに使用された15世紀来の邸宅の隅々や家具調度品、衣装の質感といった細部のディテールまでが優しく映り込み、17世紀の人々の暮らしぶりが手に取るようなリアルさで伝わってきた。映像美にもご注目願いたい。
シェイクスピアは植物への造詣が深かったという。そういえば、戯曲やソネットにも草花の引用、比喩表現が多く見られる。題名の”庭”は、11歳で夭逝した愛息を悼むつもりでシェイクスピアが庭造りを始めた逸話から採ったもの。上手い邦題だ。
英国式庭園は自然の隆形を活かし、草花や樹木を植える。自然を慈しむことで黄泉の国にいる愛息と通じようとしていたのではないだろうか。
原題は「All is true」。ブラナーが捉えたシェイクスピア像がブラナーにとっての”真実”なら、「貴方は客人。客人には最上のベッドを」と夫婦の寝室を拒む妻から見たシェイクスピアも”真実”。シェイクスピアからの思慕を受け入れないサウサンプトン伯爵の眼に映る芸術家もまた”真実”...。多面的な全ての”真実”が本作には宿っていることを気付かせてくれる映画だ。(幸)
配給:ハーク
シネマスコープ/2018年製作/101分/G/イギリス
(C) 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.
公式サイト:http://hark3.com/allistrue/
★3月6日(金)から、Bunkamura ル・シネマほか全国で順次公開★
2020年02月23日
娘は戦場で生まれた 英題:FOR SAMA
監督:ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ
出演:ワアド・アルカティーブ、サマ・アルカティーブ、ハムザ・アルカティーブほか
2012年3月、シリア、アレッポ。
マーケティングを学ぶ18歳の女子学生ワアドは、デモに参加したことをきっかけに、スマホで動画を撮りはじめる。アラブの春に触発され、民主化を求める平和的な運動だったが、やがてアサド政権をはじめ様々な勢力が台頭し、第二次世界大戦後、最大の人道危機とも言われる内戦状態になる。
そんな中、ワアドは医師を志す青年ハムザと出会い恋に落ちる。ハムザたちが設営した病院でプロポーズされ結婚。2016年1月1日、ワアドはパパの病院で娘を産み「サマ」と名付ける。アラビア語で空という意味だ。
ワアドは、サマのために、どんな街でサマを産み、どれだけ彼女を愛しているかを伝えるために動画を撮り続ける。だが、サマが生まれた時には、2016年がアレッポ陥落の年として記録されることになるとは思いもよらなかった・・・
アサド政権やロシア軍が、病院を爆撃するという蛮行を繰り返していることに憤りを感じます。地図に載っていない建物を探して、病院を設営しても、また破壊されてしまいます。人々の行き場がない絶望的な状況は想像を絶します。
ワアドがトルコに避難している義父のお見舞いに行った折、義父からサマを預るといわれるのですが、ワアドはアレッポにサマを連れ帰ります。例え、危険はあっても家族一緒にいたいという思い。
『アレッポ 最後の男たち』でも、トルコに逃れることもできるのに、アレッポに残って町を救おうと闘う人たちが描かれていました。故郷アレッポを愛する思いに涙です。
2016年12月にワアドが一家でアレッポから避難したとき、映像も無事持ち出し、アレッポの市民が蒙った生々しい様子をこうして世に出すことができたのです。
今はロンドンに住むワアド一家ですが、いつの日か故郷に帰りたいという思いは、やむをえず国を出た多くの人たちも同じでしょう。
美しい町並みは破壊されてしまいましたが、建築家になって町をなおすという少年や、燃えたバスに色を塗る子どもたちの姿に、人々が安心して暮らせる町が再建されることを願うばかりです。(咲)
泥沼化する戦地シリアで、戦争と人間を赤裸々に映しだした緊迫のドキュメンタリー
内戦の続くシリア、アレッポ。2012年から撮り始め、アレッポ陥落の2016年まで、この状況を撮影したのがこの映像。本当の戦争状態の記録である。ジャーナリストを目指す女学生ワアド・アルカティーブは、アサド独裁政権反対デモへの参加をきっかけにスマホでの撮影を始めた。しかし、平和を願う人々の思いはかなわず、内戦は激化するばかり。美しかった都市は破壊されていった。
そんな中でワアドは、医師を目指し仲間たちと廃墟の中に病院を設けたハムザと出会い結婚。女の子が生まれ、自由と平和への願いを込めて、アラビアで「空」を意味する「サマ」と名付けた。サマはこんな状況の中でも無邪気。それがいっそう涙を誘う。
幸せもつかの間、独裁政権側の攻撃は激しさを増し、ハムザたちの病院は街で最後の医療機関となってしまった。明日をも知れぬ身で母となったワアドは、家族や愛する人々の生きた証を映像として残すことを心に誓い撮影を続けた。これは、若き母親ワアドの目を通して記録された戦争の現実。
脱出成功したワアドが、無差別空爆で無残に失われていく命、祖国を愛する人々の悲しみを死と隣り合わせの中でとらえた映像は、世界中を驚愕させた。ワアドは「私にとってこれは、私の人生そのもの。母親のワアド、活動家のワアド、市民ジャーナリストのワアド、そして映画監督のワアド。これらすべての私が物語を具体化し導いてくれました」と語っている(暁)。
☆シアター・イメージフォーラムでは、初日2月29日(土)14:35の回上映後、ワアド・アルカティーブ監督と、夫のハムザ医師がスカイプで登壇しQ&Aを開催
2019年/イギリス、シリア/アラビア語/100分
日本語字幕:岩辺いずみ/字幕監修:ナジーブ・エルカシュ
© Channel 4 Television Corporation MMXIX
配給:トランスフォーマー
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/forsama/
★2020年2月29日(土)よりシアターイメージフォーラムほか全国順次公開
架空OL日記
監督:住田崇
原作:バカリズム「架空OL日記」小学館文庫
脚本:バカリズム
撮影:早坂伸
主題歌:「月曜日戦争」吉澤嘉代子
出演:バカリズム(私)、夏帆(藤川真紀)、臼田あさ美(小峰智子)、佐藤玲(五十嵐紗英)、山田真歩、三浦透子(真壁香里)、シム・ウンギョン(ソヨン)、石橋菜津美、志田未来(リエ)、坂井真紀(小野寺課長)
私は入行6年目の26才OL。月曜日は憂鬱だ。眠いしだるいし満員電車に揺られて、職場の最寄り駅で同期のマキと一緒になり、激しく不毛な会話ながら盛り上がっているうちに到着。更衣室でまたひとしきりおしゃべりをする。上司の悪口や会社の設備の文句を言ったり、女子会で美味しいものを食べたり、カラオケに行ったり、ジムでゆるく走ったり。土日はあっというまに過ぎてまた月曜日になる…。
2017年に連続ドラマで好評を博していたとは全然知らず、バカリズムさんも今回やっと顔と名前が一致(テレビほとんど見ないので)。ぼそぼそ、淡々とした語り、なんにも気負わない(そう見える)バカリズムさんがあまりにも自然にOLになっていました。女優陣に交じって違和感がない!
バカリズムさんがこっそりOLになりきって、3年も綴っていたブログが元と知ってまた驚きました。現役OLの方々にはあるある感満載でしょう。大きな事件などないけれど、そうそう、あるあると平凡な毎日を味わいました。(白)
2019年/日本/カラー/100分
配給:ポニーキャニオン、読売テレビ
(C)2020「架空OL日記」製作委員会
https://www.kaku-ol.jp/
★2020年2月28日(金)ロードショー
黒い司法 0%からの奇跡(原題:Just Mercy)
監督:デスティン・ダニエル・クレットン
脚本:デスティン・ダニエル・クレットン、アンドリュー・ランハム
原作:ブライアン・スティーブンソン著「黒い司法 黒人死刑大国アメリカの冤罪と闘う」(亜紀書房刊)
出演:マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・フォックス、 ブリー・ラーソン、オシェア・ジャクソン・Jr.
黒人への差別が根強い1980年代アラバマ州、犯してもいない罪で死刑宣告された黒人の被告人ウォルター(ジェイミー・フォックス)を助けるため、新人弁護士ブライアン(マイケル・B・ジョーダン)は無罪を勝ち取るべく立ち上がる。しかし、仕組まれた証言、白人の陪審員たち、証人や弁護士たちへの脅迫など、数々の差別と不正がブライアンの前に立ちはだかる。果たしてブライアンは、最後の希望となり、彼らを救うことができるのか。
弱者のために働きたい。ハーバード出身の黒人弁護士ブライアン・スティーブンソンの奮闘を殺人容疑で捕まった黒人男性ウォルターの無実立証を中心に描いています。
ブライアン・スティーブンソンとはどんな人なのでしょう。公式サイトには、このように説明されています。
Who is ブライアン・スティーブンソン?
アメリカの弁護士、社会正義活動家。アラバマ州モンゴメリーを拠点とする司法の校正構想(イコール・ジャスティス・イニシアチブ)の事務局長も務める。
アメリカでは「黒人男性の3分の1が刑務所に入ったことがある」という問題を抱えるなか、多くの死刑囚の救済措置を勝ち取る。貧困者や黒人に対する偏見に立ち向かうその姿勢は高く評価されている。マッカーサー財団の“天才”賞ほか受賞歴多数。
日本ではあまり知られていませんが、アメリカでは有名な弁護士のようです。
ブライアンが接見を求めると、弁護士であるにもかかわらず下着まで脱ぐ身体検査を求められました。ここにまで差別があるのか! 組織を超えて蔓延る負の一体感に勝つには正義感だけでは足りない。強い信念が不可欠だとひしひしと感じます。しかし、ブライアンの正義感と信念が個々の心を動かしていく。
「この人までがこんな風に変わるんだ」とうれしい驚きも映し出していました。時間はかかっても未来に希望があると作品から伝わってきます(堀)
1988年のアラバマ州...、映画の主題、地理的な面からも、名作『アラバマ物語』を想起させる。’62年製作の’30年代を設定としていた先の作品以降も、米国の状況が変わらないという事実に慄然とする!
矛盾と義憤、犠牲の象徴である被告人に扮するジェイミー・フォックスの演技には震えを覚えた。登場時には絶望、諦念、シニカルさ、長年の拘禁反応によると思われる顔筋の弛緩が見て取れる。が、弁護士ブライアンの強靭な意思と努力、周囲の支援により、微かな希望が湧いてきた時に生じる眼光の変化にご注目頂きたい。終盤には大きなカタルシスが待ち受けている。
『ショート・ターム』『ガラスの城の約束』のデスティン・ダニエル・クレットン監督のストレートな話法、監督とは3回目のタッグであるブリー・ラーソンの自然体演技は本当に相性が良いようだ。(幸)
2020年/137分/G/アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/kuroi-shiho/index.html
★ 2020年2月28日(金)ロードショー
スキャンダル 原題:Bombshell
監督: ジェイ・ローチ
出演: シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、ジョン・リスゴー
2016年、アメリカ最大のニュース放送局「FOXニュース」を震撼させた女性キャスターによるセクハラ提訴の実話に基づいた物語。
ベテランキャスターのグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)は、2年前に朝のニュースから昼の番組に降格された上に、局から一方的にクビを言い渡される。降格もクビも、CEOのロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)から迫られた性的関係を拒絶したせいだとして、ロジャーをセクハラ告訴する。
騒然とする局内で、看板番組の人気キャスターのメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)は、大統領候補の一人であるトランプの女性蔑視発言を追及したことで、トランプの執拗な罵倒ツイートに振り回されていた。
一方、スターキャスターを目指す若手のケイラ・ポスピシル(マーゴット・ロビー)は、グレッチェンの下で働いていたが、内緒で副社長にお願いし、局で最高視聴率の番組に抜擢されるが、初日から番組トップから否定されてしまう。出世を諦めないケイラはCEOのロジャーに直談判するが、彼の返事は「服を持ち上げ、脚を見せろ」だった・・・
グレッチェン・カールソンのセクハラ提訴という一大スキャンダル劇は、2017年にロジャーが急死し、グレッチェンがFOXニュース側と過去の詳細には口を閉ざすという契約のもと和解。突然幕を閉じたこの事件を風化させてはならないと、脚本家チャールズ・ランドルフ(『マネー・ショート 華麗なる大逆転』でアカデミー賞受賞)が関係者への綿密な取材を重ねてシナリオを書き上げ、プロデューサーとしても活躍する女優シャーリーズ・セロンに届けたことにより製作が実現。
セクハラ、パワハラ、トランプ政権の裏側までも見せるスキャンダル満載の一作。
この事件は、Me Too運動より前に起こったものですが、まさにこれまでに世界の各地で女性が蒙ってきたセクハラ問題の氷山の一角。華やかに見えるテレビの世界だけでなく、どんな業種でも起こってきたこと。Me Too運動のお陰で、男性も自己規制するようになってきたとはいえ、完全に消え去る問題ではなさそうです。
アカデミー賞では、有名女優3人を当事者本人そっくりに仕上げたKazu Hiroさんが注目を集めましたが、映画の内容にもっと注目してほしいところ。(咲)
☆第92回アカデミー賞 メイクアップ&ヘアスタイリング賞受賞:Kazu Hiro(辻一弘)他
2019年/カナダ・アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/109分
配給:ギャガ
公式サイト:http://gaga.ne.jp/scandal
★2020年2月21日(金)TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
PMC:ザ・バンカー(原題:PMC: 더 벙커)
監督・脚本:キム・ビョンウ
出演:ハ・ジョンウ、イ・ソンギュン
日本語字幕:橋本裕充
韓国特殊部隊の元兵士エイハブ(ハ・ジョンウ)は民間軍事会社(Private Military Company=PMC)の傭兵で、作戦成功率100%とCIAから絶大な信頼を受けていた。
今回のミッションは韓国と北朝鮮の軍事境界線の地下30メートルに広がる巨大バンカーで捕らえた北朝鮮要人の安全な場所への護送だ。しかし、CIAの密かな策謀、仲間の裏切り、国家間の政治的な駆け引きによって孤立し、バンカー内で絶体絶命の窮地に陥る。暗殺者の汚名まで着せられたエイハブが死地を脱する唯一の道は、迫りくる敵の包囲網を突破し、捕獲した北朝鮮最高指導者“キング”を地上へと連れ出すこと。北朝鮮のエリート医師ユン(イ・ソンギュン)の協力を得たエイハブは、瀕死の重傷を負ったキングの蘇生に成功するが、すでに八方塞がりの彼らの行く手にはさらなる過酷な運命が待っていた。
「PMCって何? ザ・バンカーって銀行モノ? でもハ・ジョンウの服装はどう見ても戦闘服だよね?」と見るまで頭の中は?でいっぱいでしたが、作品が始まると物語に一気に引き込まれます。ちなみにあらすじにも書きましたが、PMCとは民間軍事会社(Private Military Company)のこと。ハ・ジョンウはここに属する傭兵なのです。そして、バンカーは「Banker」と「Bunker」の2種類あり、ここでのバンカーは「Bunker」でコンクリート製の防御建造物、避難用のシェルターのこと。「Banker」が銀行員でした。
ただ、これがわかっていなくても、まったく問題ありません。
北朝鮮を巡るアメリカと中国の覇権争い。アメリカに雇われた傭兵たちが保護するはずの北朝鮮有力者を誘拐・殺害したとして追い詰められていくのですが、緊張感が半端ない。仲間の命をどこまで優先するか。葛藤するリーダーにハ・ジョンウ。『神と共に』シリーズでスタイリッシュなアクションを見せましたが、本作では過去のミッションのため右足が義足で、派手なアクションはこなせない設定。しかし、苦悩をにじませた表情と決断がドラマ性を高めます。
そして、北朝鮮のエリート医師ユンの指示を仰ぎ、瀕死の重傷を負ったキングの蘇生に挑むのですが、戦闘シーンとは違う緊張感にハラハラドキドキ。このエリート医師を演じたのがイ・ソンギュン。話題作『パラサイト 半地下の家族』でIT企業の社長に扮しています。細面な顔立ちは確かに、ハ・ジョンウよりもエリート感があるかも。(堀)
軍事境界線の地下要塞で激務に就く傭兵たちの出自は様々。皆それぞれに事情を抱えています。中には前科者もいます。エイハブは不法移民で、任務を遂行する見返りにアメリカの居住権を得て、生まれてくる我が子と暮らすことを心の支えにしています。でも、雇った側にとって傭兵は使い捨て。命を落とそうと知ったことじゃないのです。
極限状態の中で何とか生き延びようという、北の医師ユンとの間で生まれる一体感には、ほろりとさせられます。
エイハブ役のハ・ジョンウは、アメリカに1ヶ月以上滞在してスラング混じりの英語をマスター。一方、北のエリート医師役のイ・ソンギュンは、ソウル標準語混じりの北朝鮮方言を身につけて撮影に臨んだそうです。二人の言語対決も見所です。
地下要塞で繰り広げられる死闘の背景には、北朝鮮の非核化を実現して大統領再選を有利にしようとする米国大統領や、北朝鮮を裏で操ろうとする中国民間軍事企業の思惑が見え隠れします。「自分のことしか考えない奴らが戦争を起こす」という言葉に、まさにそうだ!と感じ入りました。(咲)
2018年/韓国/125分/ビスタ/5.1chデジタル
ⓒ 2018 CJ ENM CORPORATION, PERFECT STORM FILM ALL RIGHTS RESERVED
配給:ツイン
公式サイト:http://pmcthebunker.com/
★2020年 2月28日(金)シネマート新宿 ほか全国順次ロードショー
レ・ミゼラブル(原題:Les miserables)
監督:ラジ・リ
脚本:ラジ・リ、ジョルダーノ・ジェデルリーニ アレクシス・マネンティ
撮影:ジュリアン・プパール
音楽:ピンク・ノイズ
出演:ダミアン・ボナール(ステファン)、アレクシス・マネンティ(クリス)、ジェブリル・ゾンガ(グワダ)、イッサ・ペリカ()、ジャンヌ・バリバール(警察署長)
パリ郊外のモンフェルメイユ。ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもあるこの街は、いまや移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域と化していた。犯罪防止班に新しく加わることになった警官のステファンは、仲間と共にパトロールをするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。親も手を焼くやんちゃな少年イッサが、ちょっとした悪戯心から事件をおこしてしまった。些細な出来事をきっかけに対立するグループを巻き込み、野火が広がるように大騒動となってしまった。事件解決へステファンたちも奮闘するのだが。
新鋭ラジ・リ監督は映画の舞台となったこのモンフェルメイユ出身で、現在も住んでいます。「本作で描かれているすべてが実際に起きたことに基づいています」とのことです。そうなのか。しかし、事件の大小を問わなければ日本で起きていてもおかしくありません。それほど世界中どこも、誰もが分断されて、憎しみの火種を抱えているのではと危惧してしまいます。
全く環境の違うところから転任してきたステファンは、権力をかさにいばりちらすクリスに閉口します。役職と自分の力を混同してしまっている危険人物です。警察の上司(女性の署長)になんとかしてほしいです。若いグワダもクリスに従っていますが、家で迎える母は、先ほど横柄に対応した住民と同じ民族衣装姿でした。
登場人物の外と内の顔を見せながら進んでいくストーリーは、徐々に緊迫していき、暗いエネルギーが爆発するラストは、息をするのも忘れるほどでした。殺傷能力がないからとゴム弾が威嚇に使われていましたが、ひどいです。自分が撃たれてみろってんだ、と思わず文句。ああ胸が痛かった…。
2019年の第72回カンヌ国際映画祭ではポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』とともにパルムドールを競い、審査員賞を受賞。前者のようなひねりなしの直球映画ですが、アカデミー賞ではこちらに一つ分けてほしかったなぁ。(白)
少年の軽はずみな行為が対立する大人の派閥や警察まで巻き込み一大事になってしまう。もしかすると少年にしてみたら、自分は被害者なのかもしれない。直接的には関係のない大人たちの解決を当事者の少年はどう捉えたのか。安直に丸く収めるのではなく、見る者の不安を掻き立てる。衝撃的なラストこそリアルな現実。このままじゃいけない。大人は子供に何を見せたらいいのだろうか。(堀)
少年イッサが街に来ていたサーカスからライオンの子を連れだしたことからギャングどうしの間でひと悶着。衝突を避けようと警察が介入した時に、誤ってイッサに発砲したのをドローンで撮影されていたことがわかり、警察は動画の流出を止めようと躍起になります。
ライオンの子を連れだしたのがイッサだと判明したのもSNSに投稿された写真。SNSにドローンといったツールが問題を起こしていくのも、今の社会を映し出しています。
「イスラームではライオンは強さの象徴。檻に入れてはいけない」と、モスクでイマームが発言をした場面があって、民族や宗教で考え方の違いがあることを感じさせてくれます。
冒頭、様々な顔の人たちが、フランス国旗を背負って、国歌ラ・マルセイエーズを歌いながら歓喜する姿が映し出されます。サッカーワールドカップ優勝の折の場面。移民や移民2世3世も、フランス人として一体感が持てる唯一の場面を最初に掲げたことに、ほかの時にもフランス人としてみてほしいという監督の思いを見て取りました。
黒人のベテラン警官グワダ、人種差別主義者の白人警官クリス、郊外を初めて担当するステファン、そして女性の警察署長。それぞれを体現した役者たちが素晴らしく、見応えのある作品。(咲)
2019年/フランス/カラー/シネスコ/104分
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
(C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS
http://lesmiserables-movie.com/
★2020年2月28日(金)ロードショー
スケアリーストーリーズ 怖い本(原題:Scary Stories to tell in the dark)
監督:アンドレ・ウーヴレダル
ストーリー原案・製作:ギレルモ・デル・トロ
原作:アルビン・シュワルツ「スケアリーストーリーズ 怖い本」シリーズ(岩崎書店)
脚本:ダン・ハーゲマン ケビン・ハーゲマン
出演:ゾーイ・コレッティ(ステラ)、マイケル・ガーザ(ラモン)、ガブリエル・ラッシュ(オギー)、オースティン・エイブラムズ(トミー)、ディーン・ノリス(ロイ)、ギル・ベローズ(警察署長)、ロレイン・トゥーサント
ハロウィンの夜。怖いもの好きなステラは、ラモンやオギーたち友人を誘って郊外の幽霊屋敷に出かけた。奥まった部屋で見つけた古びた本をこっそり持ち帰って、読み始めるステラ。そこには噂通りの怖い話がつづられていた。翌日から一緒に屋敷に出かけた仲間たちが一人、また一人と消えていく。そしてあの”怖い本”には彼らを主人公にした話がひとりでに増えていたのだった。呪われた本に次に書かれる物語は何なのか?その主人公は誰なのか?呪いを解くことはできるのか?
どうして人は怖いものに惹かれるのでしょう?日常が安穏としているからでしょうか。ほんとに怖い目に逢っていたり、緊張状態にいたりしたら、わざわざ惹かれませんよね。
気が小さい私は目を半分あけて観ました(?)。目の前にある本に、つるつると文字が書かれていったら怖いです。その文章が、よく知っている人がひどい目に遭って死ぬお話だったら、もっと怖いです。誰がなんのために書いているのかわからないまま、ストーリーが目の前で展開していったらどうしましょ?自分の番はいつ?
クリーチャー大好きなギレルモ・デル・トロが原案・製作にあたっていますが、いやいや実際撮影現場に行ったり、工房であれこれ指示したに違いない。アンドレ・ウーヴレダル監督はノルウェー出身で『トロールハンター』(2012)『ジェーン・ドウの解剖』(2017)を世に出して注目されていたそうです。ホラー避けている私はどっちも観ていません。気になった方は探してみてね。
「スケアリーストーリーズ 怖い本 ギレルモ・デル・トロ&アンドレ・ウーヴレダルの世界」 (日本語)限定生産: 2,000部。映画製作のために描かれたイラストや資料と共に、シナリオを読み解く貴重なビジュアルノベライズが発刊されています。少し高めですが、クリーチャー好きの方にも貴重。https://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK270
(白)
2019年/アメリカ/カラー/シネスコ/108分
配給:クロックワークス
c2020 CBS FILMS INC. ALL RIGHTS RESERVED.
ラナ・デル・レイアーティスト写真クレジット:Photo: Pamela Cochrane
公式ツイッター&インスタグラム:@scarystoriesjp
https://scarystories.jp/
★2020年2月28日(金)新宿バルト9ほか全国公開
スウィング・キッズ(原題:Swing Kids)
監督・脚本:カン・ヒョンチョル
出演:D.O.(ロ・ギス)、ジャレッド・グライムス(ジャクソン)、パク・ヘス(ヤン・パンネ)、オ・ジョンセ(カン・ビョンサム)、キム・ミノ(シャオパン)
朝鮮戦争当時、米軍が設置した最大規模の巨済(コジェ)捕虜収容所には、北朝鮮と中国軍の捕虜が収容されていた。
米軍兵士の中に、元ブロードウェイのタップダンサー ジャクソンを認めた新しい所長は、収容所の対外的イメージアップのため、捕虜たちによるダンスチームを作れと言う。ジャクソンは命令に逆らえず、希望者を集めて有望そうな人材をさがした。
集まった中から残ったのは収容所で一番のトラブルメーカーのロ・ギス、生き別れた愛妻を捜すために有名になりたいカン・ビョンサム、見た目と違って栄養失調で虚弱なシャオパン。収容所の外から参加したのは、4か国語を話せるとアピールした無認可の通訳士 紅一点のヤン・パンネ。彼女は家族のために必死に働いていた。ジャクソンはしぶしぶ寄せ集めチームのリーダーとなった。チーム名は”スウィング・キッズ”所内でのデビュー公演を目前に彼らは猛練習を始める…。
捕虜収容所でダンス!それもフレッド・アステアばりのタップダンス!これはカン・ヒョンチョル監督のオリジナル・ストーリーのようです。K-POPグループ「EXO」のD.O.(エクソのディオ)が北朝鮮の英雄の弟という主人公ロ・ギス。縦横無尽にやんちゃしています。ブロードウェイのスターでありながら、外国の映画で演技にも挑戦するジャレッド・グライムス、役のジャクソンが重なります。妻を想うカン・ビョンサムのオ・ジョンセにぐっときて、何ヶ国語もあやつり、歌もダンスもいけるパク・ヘスさんに感心。
撮影の半年も前から特訓した俳優陣のようすは、公式HPのメイキング動画でご覧あれ。俳優さんって本当に大変なお仕事です。血のにじむような努力も、みな自分の血肉となって結果を出すわけです。満場の拍手を浴びたならやめられませんね。彼らの様子をいろいろな方向から見せるカメラワークも楽しみながら、戦時中の話が甘い結末を迎えるわけがない、何かあるぞと勘ぐってしまう私の悲しい性(さが)を許して。(白)
2018年/韓国/カラー/シネスコ/133分
配給:クロックワークス
(C)2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
http://klockworx-asia.com/swingkids/
★2020年2月21日(金)ロードショー
2020年02月19日
恋恋豆花
2020年2月22日(土)新宿ケイズシネマほか 全国劇場公開 上映情報
監督・脚本:今関あきよし
脚本:いしかわ彰
プロデューサー:嶋田豪 龍信之助
企画・統括プロデューサー:嶋田豪
製作:羽子田幸一 和久勤
撮影:藍河兼一
台湾撮影コーディネート:杉山亮一
紙芝居・タイトル:ひだかきょうこ
出演
森下奈央役:モトーラ世理奈
塚田綾役:大島葉子
森下博一役:利重剛
中山清太郎役:椎名鯛造
石知田(シー・チーティエン)
潘之敏(ビッキー・パン・ジーミン)
製作・配給:アイエス・フィールド
公式サイト
現地で頬張る台湾スイーツはとろけるように甘いけど…。
恋をしたい年頃。旅先での出会いはほんのり甘ずっぱい。
恋愛も人間関係も含め大学生活がつまらなくなり、授業もさぼりがちで中退を考えている奈央。父・博一の提案で、彼の3人目の結婚相手になる予定の綾と2人で、1週間の台湾旅行に行くことに。父の再婚相手というだけでよく知らない女性となぜ旅行をしなければならないのか気乗りしない奈央とは対照的に、これから娘になる奈央との距離を縮めたいと明るく振舞う綾。台湾の魅力的なスイーツやグルメとの出会いが、徐々に奈央の心をほぐしていく。
そんな2人が夜市で出会ったのが、世界放浪中のバックパッカー青年、清太郎。台湾の魅力を知りつくす彼は翌日、台北でも評判のお店「庄頭豆花坦」へ連れてゆき、そこで「豆花」に出会った。初めて食べた「豆花」は美味しかった。奈央はこの台湾旅行を楽しみ始めた。その後、台中へ。彩虹眷村や第二市場などの観光名所で心を癒し、芋園や魯肉飯などの台湾グルメを食す。最初、しっくりいかなかった二人の関係も徐々にまわるうようにはみえたけど、綾が奈央に語りかける時の「ママが」という言葉がひっかかり奈央のもやもやはなかなか晴れない。そして旅も後半に入り、台南へ移動するという時に博一から交通事故に巻き込まれたとの連絡が入る。綾だけが日本に帰り、奈央は旅を続ける。この旅が気分転換になったのか、日本に戻った奈央の大学生活は明るくなっていた。
監督は『アイコ十六歳』『美・少女日記』『タイム・リープ』『クレヴァニ、愛のトンネル』『LAIKA/ライカ』『カリーナの林檎〜チェルノブイリの森〜』などの今関あきよし。主人公奈央を演じるのは、2015年「装苑」でモデルデビュー後、数々のファッション誌や広告に出演し、『少女邂逅』でdビューしたモトーラ世理奈。現在公開中の『風の電話』(2020年1月24日公開)やシルク・ドゥ・ソレイユでバイオリニストと音楽監督を務めるポール・ラザーと共演の『Memories』と話題作が続々と控えている。 奈央と一緒に台湾旅行をする綾には『朱花の月』『ヘヴンズ ストーリー』『楽園』『葬式の名人』の大島葉子。父・博一役には今関作品初出演の利重剛。『教訓Ⅰ』『クロエ』『さよならドビュッシー』などの監督でもある。
清太郎役は『刀剣乱舞』や『最遊記歌劇伝』などの2.5次元舞台で活躍中の椎名鯛造。さらに台湾からは『軍中楽園』『若葉のころ』『私の少女時代-Our Times-』の石知田(シー・チーティエン)や『河豚』『粽邪』の潘之敏(ヴィッキー・パン・ズーミン)が出演している。
主題歌は後藤郁の歌う「言葉-KOTOBA-」
挿入歌は洸美-hiromi-が歌う「恋恋豆花」
台湾が舞台の作品なので、行ったところが出てこないか楽しみに観ました。冒頭、九份が出てきて、ここの商店街や、この街の賑わいと対照的な夜のこの街を奈央がさ迷うシーンに思わず、監督もこの街が好きなんだなろうなあと嬉しく思いました。それにこのそばの十分(シーフェン)での天燈上げのシーンが出てきたし、この『恋恋豆花』(れんれんどうふぁ)というタイトルといい、監督はきっと侯孝賢監督の作品が好きに違いないと思いました。この二つの場所はすでに3回行ったことがあるんだけど、つい最近十分で行われた「平渓天燈節」(ランタン上げ祭り)にも行ったので、九份と十分は4回行ったことに。この天燈節は『シーディンの夏』 (2001)を観て以来行ってみたかったのでやっと行けました。十分の道路標識に「石碇(シーディン)方面」とあるので十分のそばにあるらしいけど行ったことはありません。
十分と九份が侯孝賢監督の『恋恋風塵』の舞台なのだけど、『恋恋豆花』というタイトルを見て、この作品をオマージュしたものだろうと勝手に思いました。それで今関監督にインタビューさせていただいたんだけど、台湾の話ですっかり盛り上がってしまい、台湾話ばかりになってしまいました。そして、その話の中で聞いた、『ミンレニアム・マンボ』の冒頭に出てきた歩道橋が壊されてしまわないうちにぜひ行ってみたらいいといわれ、基隆にあるその歩道橋にも行ってきました。
お父さんの3回目の結婚相手である、この綾と奈央の関係は、その後どうなったかなあとも思います。今度は父親も一緒に、また台湾を訪ねるのかな(暁)
参考資料
台湾ロケ地めぐり 平渓線沿線 (2010年にここに行った時のレポートです)
http://www.cinemajournal.net/special/2010/pingxi/index.html
監督・脚本:今関あきよし
脚本:いしかわ彰
プロデューサー:嶋田豪 龍信之助
企画・統括プロデューサー:嶋田豪
製作:羽子田幸一 和久勤
撮影:藍河兼一
台湾撮影コーディネート:杉山亮一
紙芝居・タイトル:ひだかきょうこ
出演
森下奈央役:モトーラ世理奈
塚田綾役:大島葉子
森下博一役:利重剛
中山清太郎役:椎名鯛造
石知田(シー・チーティエン)
潘之敏(ビッキー・パン・ジーミン)
製作・配給:アイエス・フィールド
公式サイト
現地で頬張る台湾スイーツはとろけるように甘いけど…。
恋をしたい年頃。旅先での出会いはほんのり甘ずっぱい。
恋愛も人間関係も含め大学生活がつまらなくなり、授業もさぼりがちで中退を考えている奈央。父・博一の提案で、彼の3人目の結婚相手になる予定の綾と2人で、1週間の台湾旅行に行くことに。父の再婚相手というだけでよく知らない女性となぜ旅行をしなければならないのか気乗りしない奈央とは対照的に、これから娘になる奈央との距離を縮めたいと明るく振舞う綾。台湾の魅力的なスイーツやグルメとの出会いが、徐々に奈央の心をほぐしていく。
そんな2人が夜市で出会ったのが、世界放浪中のバックパッカー青年、清太郎。台湾の魅力を知りつくす彼は翌日、台北でも評判のお店「庄頭豆花坦」へ連れてゆき、そこで「豆花」に出会った。初めて食べた「豆花」は美味しかった。奈央はこの台湾旅行を楽しみ始めた。その後、台中へ。彩虹眷村や第二市場などの観光名所で心を癒し、芋園や魯肉飯などの台湾グルメを食す。最初、しっくりいかなかった二人の関係も徐々にまわるうようにはみえたけど、綾が奈央に語りかける時の「ママが」という言葉がひっかかり奈央のもやもやはなかなか晴れない。そして旅も後半に入り、台南へ移動するという時に博一から交通事故に巻き込まれたとの連絡が入る。綾だけが日本に帰り、奈央は旅を続ける。この旅が気分転換になったのか、日本に戻った奈央の大学生活は明るくなっていた。
監督は『アイコ十六歳』『美・少女日記』『タイム・リープ』『クレヴァニ、愛のトンネル』『LAIKA/ライカ』『カリーナの林檎〜チェルノブイリの森〜』などの今関あきよし。主人公奈央を演じるのは、2015年「装苑」でモデルデビュー後、数々のファッション誌や広告に出演し、『少女邂逅』でdビューしたモトーラ世理奈。現在公開中の『風の電話』(2020年1月24日公開)やシルク・ドゥ・ソレイユでバイオリニストと音楽監督を務めるポール・ラザーと共演の『Memories』と話題作が続々と控えている。 奈央と一緒に台湾旅行をする綾には『朱花の月』『ヘヴンズ ストーリー』『楽園』『葬式の名人』の大島葉子。父・博一役には今関作品初出演の利重剛。『教訓Ⅰ』『クロエ』『さよならドビュッシー』などの監督でもある。
清太郎役は『刀剣乱舞』や『最遊記歌劇伝』などの2.5次元舞台で活躍中の椎名鯛造。さらに台湾からは『軍中楽園』『若葉のころ』『私の少女時代-Our Times-』の石知田(シー・チーティエン)や『河豚』『粽邪』の潘之敏(ヴィッキー・パン・ズーミン)が出演している。
主題歌は後藤郁の歌う「言葉-KOTOBA-」
挿入歌は洸美-hiromi-が歌う「恋恋豆花」
台湾が舞台の作品なので、行ったところが出てこないか楽しみに観ました。冒頭、九份が出てきて、ここの商店街や、この街の賑わいと対照的な夜のこの街を奈央がさ迷うシーンに思わず、監督もこの街が好きなんだなろうなあと嬉しく思いました。それにこのそばの十分(シーフェン)での天燈上げのシーンが出てきたし、この『恋恋豆花』(れんれんどうふぁ)というタイトルといい、監督はきっと侯孝賢監督の作品が好きに違いないと思いました。この二つの場所はすでに3回行ったことがあるんだけど、つい最近十分で行われた「平渓天燈節」(ランタン上げ祭り)にも行ったので、九份と十分は4回行ったことに。この天燈節は『シーディンの夏』 (2001)を観て以来行ってみたかったのでやっと行けました。十分の道路標識に「石碇(シーディン)方面」とあるので十分のそばにあるらしいけど行ったことはありません。
十分と九份が侯孝賢監督の『恋恋風塵』の舞台なのだけど、『恋恋豆花』というタイトルを見て、この作品をオマージュしたものだろうと勝手に思いました。それで今関監督にインタビューさせていただいたんだけど、台湾の話ですっかり盛り上がってしまい、台湾話ばかりになってしまいました。そして、その話の中で聞いた、『ミンレニアム・マンボ』の冒頭に出てきた歩道橋が壊されてしまわないうちにぜひ行ってみたらいいといわれ、基隆にあるその歩道橋にも行ってきました。
お父さんの3回目の結婚相手である、この綾と奈央の関係は、その後どうなったかなあとも思います。今度は父親も一緒に、また台湾を訪ねるのかな(暁)
参考資料
台湾ロケ地めぐり 平渓線沿線 (2010年にここに行った時のレポートです)
http://www.cinemajournal.net/special/2010/pingxi/index.html
2020年02月17日
ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像 英題:ONE LAST DEAL
監督:クラウス・ハロ
脚本:アナ・ヘイナマー
劇中絵画「キリスト」制作:イゴール・イェヒーモフ
出演:ヘイッキ・ノウシアイネン、ピルヨ・ロンカ、アモス・ブロテルス、ステファン・サウク、ペルッティ・スヴェホルム、ヤコブ・オーマン、クリストファー・モラー
生涯を美術品にささげ、家族は二の次だった美術商のオラヴィに、全く連絡を取っていなかった娘から連絡があり、問題児だという孫息子のオットーを数日間だけ預かって職業体験をさせてほしいと頼まれる。引き受けてすぐ、彼はオークションハウスで作者不明の肖像画に一目ぼれする。肖像画がロシアを代表する画家イリヤ・レーピンの作品だと知ったオラヴィは、落札するための資金集めに奔走する過程で、娘とオットーの思わぬ過去を知る。
今年の暫定ベストワン作品をご紹介できることが嬉しくて堪らない!試写を観たのは数ヶ月前なのに、未だ場面を思い起こしては身体の震えを覚える。これほど感動が持続する稀有な体験をさせてくれた映画と出逢えたことに感謝したい。
フィンランドのクラウス・ハロは高打率を維持する監督だ。長編5本のうち4本がアカデミー賞外国語映画賞(現:国際長編賞)にノミネートされている。『ヤコブへの手紙』では号泣し、『こころに剣士を』で唸らせてくれた。本作を鑑賞後も暫し涙が止まらなかった。が、決して”湿度の高い”映画ではない。フィンランドの気候や風土が為せるのか、感傷を断ち切ったようなラストは潔い。
物語の舞台であり、主人公が暮らすヘルシンキはロシア領だった頃の面影を残す石畳の美しい街。堅牢でアンティークな建造物群には丸窓が連なり、開口部から射す優しい光が室内を照らし出す。
老いた美術商が営む古びた店内に置かれた絵画や美術品は全てが人生の縮図だ。ハロは登場人物のみならず事物にも魂を宿す技量を持っているようだ。手書きの伝票、旧型タイプライターが映るだけで胸が締め付けられるのはなぜだろう。
美術商がひと目で、イリヤ・レーピン作だと直感したのが”聖画”だという点に監督の意図が込められている気がしてならない。ハロは事物や人物に聖性を帯びさせることのできる稀有な監督だ。
一連の作品を観ても、精神が高貴な創り手の映画には、聖なる魂が宿る...と言ってはオーバーだろうか。心が縮こまったり疲弊した時に観たくなる、一生手元に置いておきたい聖なる存在...。映画の神さまがそんな作品との出逢いを導いてくれた。(幸)
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
(C) Mamocita 2018
製作国/フィンランド/後援フィンランド大使館/シネマスコープ/DCP5.1ch/95分/2018年
公式サイト:http://lastdeal-movie.com/info/introduction
★2月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開★
ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ 原題:地球最后的夜晩 英題:LONG DAY'S JOURNEY INTO NIGHT
監督・脚本:ビー・ガン
美術:ウー・チアン
撮影:ヤオ・ハンイ、ドン・ジンソン、ダーヴィッド・シザレ
音楽:リン・チャン、ポイント・スー
出演:タン・ウェイ 、ホアン・ジエ、シルヴィア・チャン、チェン・ヨンゾン、ルオ・フェイヤン
ルオ・ホンウ(ホアン・ジエ)は、父の死をきっかけに、何年もの間離れていた故郷の凱里に帰省する。久々に戻ったふるさとは、彼に他界した幼なじみを思い出させ、同時に長い間心に残っていたある女性の面影を浮かび上がらせる。彼女は、香港の有名女優であるワン・ チーウェンと同じ名前だと彼に告げた。
ビー・ガン29歳、監督2作目にしてウォン・カーウァイを想起させる驚異のビジュアルセンスを日本の観客へ差し出した。現代中国映画界の懐は深い…と痛感させる作品だ。
終盤、主人公が示す、ある誘いにより観客は3D眼鏡をかける。すると、60分間ワンカット長回しの魂の彷徨を、主人公と共に体感する!映像と音楽に酔う目眩く幻想体感である。このような独自性と新感覚アイデアに満ちた若手監督の作品と邂逅するのは久々であり、興奮勝つ陶然とした思いを味わった。
若手監督に実験的アートの場を与える中国映画界の未来は明るいと感じさせる。本国のアート系映画としては、ジャ・ジャンクー監督の『帰れない二人』の興行収入10億円を超え、1日で41億円を記録した、という。海外での評価も高く、19年公開の中国映画としては異例のロングランヒットとなっているのも納得だ。
あらすじを追うよりも、テイストやニュアンスを楽しむ作風のため、現実と過去の記憶、幻想が複雑に交錯する世界観は、観る人によっては入り込みにくいかもしれない。が、ゴダール作品と同様に、監督の脳内を覗き込めると思えば、これほど楽しい体験はないはずだ。
個人的には、、『ラスト、コーション』のタン・ウェイとの再会が嬉しかった。タン・ウェイが発散するアンニュイな雰囲気、諦念、暗い官能は作品世界を象徴している。やはり、タン・ウェイには『ブラックハット』といったハリウッド娯楽作よりも本作のような作家性の濃い監督とのコラボレーションが似合う気がする。
デビュー作で示した故郷・凱里の街空間の豊かなイメージが、本作でも展開される。その構築性は、時として『ブレードランナー』を思わせる趣向を凝らしたライティング映像に。絶妙のタイミングで挿入される音楽にと反映され、ビー・ガンの洗練的手腕は疑いようがない。監督と共に辿るミステリアスな138分の旅をお薦めしたい。(幸)
畢贛(ビー・ガン)監督の長編デビュー作である『凱里ブルース』を観たのは2015年の中国インディペンデント映画祭。この『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』に至る原点のような作品でした。監督の故郷、貴州省凱里へと山道をバイクが上がっていくシーンを覚えている。凱里という街はけっこう雨が降る湿っぽい街のようです。なんか暗い街というイメージ。あるいは時代の変化に取り残された街のようにも思える。
この新作『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』も、やはり凱里を舞台にした138分の作品。前作で試みた浮遊感あふれる実験的手法は、冒険心いっぱいだったけど、新作はさらに後半60分にわたるワンカットの長回し映像や3Dを加えてパワーアップ。
父の葬儀のために12年ぶり帰郷したルオは、脳裏に浮かんだ過去の記憶を蘇らせ、現実とも夢ともつかない迷宮を彷徨う。別れた恋人なのか、忘れられない女性なのか、そんな女性の姿を追い求めネオンに彩られた街を歩き、死んだ親友の思い出、やくざとの抗争の記憶も蘇りさまよい歩く。
3D作品を上映中の映画館にルオはふらりと入った後は3D映像に。街中なのか山中なのか、はたまた夢なのか現実なのか、物語の中にいろいろな要素を盛り込み、観客を映画に引き込んでゆく。どういう展開になるのかわからず不思議な世界がひろがる。
出演は『長恨歌』のホアン・ジエ、『ラスト、コーション/色・戒』のタン・ウェイ、『妻の愛、娘の時』の監督シルヴィ ア・チャンなど、豪華キャスト。
昨年(2019年)東京フィルメックスで上映されたが監督の来日はなく、上映後はプロデューサーのシャン・ゾーロンがQ&Aに登場。3Dシーンの撮影については「3D用のカメラでの長回し撮影は大変だと思ったので通常の2Dカメラで撮って、後から変換しました。長回しの部分は監督の譲れない部分でした。時期的には2回に分けて撮影しましたが、何テイク撮っても失敗。その後出演者のスケジュールも確保できなかったので、今年(2019)の春に全員を集めて5日間かけて準備をし、2日間で撮影に成功しました」と語った。
フィルメックスで上映されたバージョンと日本公開バージョンは違い、中島みゆきさんの「アザミ嬢のララバイ」のオリジナルが途中2回短く流れ(携帯の着信音とラジオから)、エンディングではみゆきさん本人が歌う「アザミ嬢のララバイ」がずっと流れたので、「この曲は中国語でもカバーされているのに、なぜ中島みゆきさん本人のオリジナルを使ったのでしょう」と質問してみた。そうしたら「監督が脚本を書きながら繰り返し聴いていた曲だったので、この曲を使おうと私がヤマハミュージックに許可を取りました。ヤマハも格安にしてくれて契約を取ったのに監督は最終的に使用しないと判断をしてカンヌの上映では別の楽曲を使いました。予算が大幅に超過する中、苦労して楽曲使用料を支払ったので説得し、今回また使ったのです」と答えた。そういう事情があったんだと、みゆきファンの私はすごくウキウキしてその日家路についたのでした。「アザミ嬢のララバイ」のイメージでこの映画ができたのかとも思ったけど、もしかしたら、外国語の曲だから聴いていたのかもとも思った。私も原稿を書くときは言葉が耳に入ってくる日本語の曲ではなく、言葉を聞き取れない中国語とか英語の曲をかけていることがある。そのほうが原稿に集中できる。日本公開バージョンでは「アザミ嬢のララバイ」が最後に使われず、中国語の曲でちょっと残念だったけど、中国語の曲も悪くはなかった。原題は「地球最後的夜晩」。このタイトルのほうがイメージがわく。時代に取り残された街や人々の思いがつまっている感じ(暁)。
製作/中国・フランス合作/2018/ 138分/G
配給・提供:リアリーライクフィルムズ、miramiru
提供:ドリームキッド、basil
(C) 2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD - Wild Bunch / ReallyLikeFilms
公式サイト: https://www.reallylikefilms.com/longdays
★2月28日より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほかにて全国公開★
2020年02月16日
グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇
監督:成島出
原作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ(太宰治「グッド・バイ」より)
脚本:奥寺佐渡子
撮影:相馬大輔
音楽:安川午朗
出演:大泉洋(田島周二)、小池栄子(永井キヌ子)、水川あさみ(大櫛加代)、橋本愛(水原ケイ子)、緒川たまき(青木保子)、木村多江(田島静江)、濱田岳(清川信彦)、松重豊(漆山連行)
日本が敗戦から立ち上がりつつあったころ。文芸誌編集長の田島周二は、妻子がありながらその優柔不断さと憎めない性格から女にはめっぽうモテる。気づけ金も時間も削られる愛人があちらこちらに。妻に詰問されないうちに、愛人たちと別れねばとようやく心を決めた。小説家の漆山の勧めにのり、彼女たちと手を切る計画を立てる。田島と違って押しが強く、金にがめつい担ぎ屋のキヌ子に「嘘(にせ)の妻」になってもらうことにした。大食いで口の悪いキヌ子は、実は磨けば光るイイ女だったのだ!これで誰も文句なく引き下がるに違いない。田島とキヌ子の愛人訪問が始まった。
原作の原作「グッド・バイ」を読んでいません。ダメ男なのになぜかモテるという太宰治がまず苦手。この作品の田島も太宰の分身のようですが、コメディタッチなので面白く観ました。キヌ子の小池栄子さんがまず魅力たっぷり、出てくる愛人役の女優陣も色とりどりで、なぜこの人たちが田島に惹かれるのだ?と疑問頻出です(大泉さんごめんなさい)。
愛人たちと対峙するキヌ子がかっこいいのに引きかえ、田島ときたら未練たらたら。ハリセンがあったら叩きたいくらいです。脇をささえる濱田岳さん松重豊さんも女優さんたちにしてやられているし、男性は居心地よくないでしょうが、女性は結構溜飲が下がります。女が強いほうが世界は平和。(白)
2019年/日本/カラー/シネスコ/106分
配給:キノフィルムズ
(C)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ
http://good-bye-movie.jp/
★2020年2月14日(金)ロードショー
プレーム兄貴、王になる 原題:Prem Ratan Dhan Payo
監督:スーラジ・バルジャーティヤ
出演:サルマン・カーン(『バジュランギおじさんと、小さな迷子』)、ソーナム・カプール(『パッドマン 5億人の女性を救った男』)、二―ル・二ティン・ムケ―シュ、ディーパク・ドブリヤル(『ヒンディー・ミディアム』)、アヌパム・ケール(『ホテル・ムンバイ』)
プリータムプルの町の貧乏役者プレーム(サルマン・カーン)は正義感が強くて、面倒見がよく、皆からアニキと慕われている。被災者に手を差しのべるマイティリー王女(ソーナム・カプール)の姿に一目惚れ。王女が、婚約者のプリータムプル王国のヴィジャイ王子(サルマン・カーン:二役)の王位継承式にやってくると聞きつけ、集めた募金を直接渡したいと、プレームは、相棒のカンハイヤ(ディーパク・ドブリヤル)と王宮のある街をめざす。プレームは街中で王子の家来に声をかけられる。実は、プレームは王子ヴィジャイと瓜二つ。王子が継承者争いで命を狙われ意識不明で、4日後に迫る王位継承式に替え玉として出てほしいというのだ。王子に成りすましたプレームは憧れの王女に会うが、王女は王子の傲慢さに心を閉ざしていた。異母兄弟たちとの関係も悪く、二人の妹たちは口も聞いてくれない。しかも、弟のアジャイ(二―ル・二ティン・ムケ―シュ)は、配下のチラグ(アーマーン・コーリ)に指示して王子の命を狙う張本人だった。疑心渦巻く王室の内情を知ったプレームは、人々の心を溶かそうと人肌脱ぐ・・・
勧善懲悪に、歌って踊っての場面満載の、久しぶりにボリウッドの王道を行く作品。このところ、スタイリッシュだったり、社会派だったりと、いわゆるマサラ・ムービーとは違ったテイストのインド映画の公開が続いて、あえてそういう映画を選んで公開しているのかと思っていました。実は、ボリウッド自体、オーソドックスな作りの映画が減っているらしいです。私自身、歌って踊っての場面はあまり好きじゃなかったのですが、やっぱりこれぞボリウッド!と楽しみました。
原題『Prem Ratan Dhan Payo』は、「愛という宝石の富を手に入れた」という意味。スーラジ・バルジャーティヤ監督の1989年の初監督作品『Maine Pyar Kiya』で、プレームという役名で主役デビューしたサルマン・カーン。その後、スーラジ監督の『Hum Aapke Hain Koun...』(1994年)、『Hum Saath-Saath Hain: We Stand United』(1999年)でも、サルマンが演じた主役の名前はプレーム。16年ぶりに二人がタッグを組んだ本作、インド公開の折は、「プレームが帰ってきた」がキャッチコピーだったそうです。プレームは愛という意味。本作では、家族のいないプレームが、家族なのに愛のない王家の人々が愛を取り戻すことに一役買います。
本作で目を奪われるのが、豪華な鏡の宮殿。英領インド時代に独立を認められていた数多くの藩王国の宮殿を撮影に使ったのではなく、この映画のために設計に2年かけ、300人のスタッフが24時間体制で90日間で作ったもの。しかも、同じ宮殿を3つ! 1000万枚以上の鏡を使ったそうです。
このほか、ラジャスターンの世界遺産クンバルガル砦や、マハラジャの子孫から借りた超高級クラシックカーを利用した場面などもみどころです。英領インド時代の藩王国の王様であるマハラジャ(ヒンドゥー)やナワーブ(イスラーム)の称号は、1971年に廃止されましたが、本作で描かれるような王位継承を今も行う「王国」もあるそうです。血の争いにならないことを願うばかりです。(咲)
2015年/インド/ヒンディー語/シネスコ/5.1ch/164分
配給:SPACEBOX
公式サイト:https://prem-aniki.jp/
★2020年2月21日(金)全国順次ロードショー
ソン・ランの響き(原題:Song Lang)
監督・脚本:レオン・レ
プロデューサー:ゴ・タイン・バン
出演:リエン・ビン・ファット(ユン)、アイザック(リン・フン)、スアン・ヒエップ
80年代のサイゴン(現・ホーチミン市)。高利貸しのもとで働く取り立て屋のユンは、返済が遅れた者には容赦がなく「雷のユン兄貴」と一目置かれていた。カイルオン(大衆歌舞劇)の劇場に行き、払えないならと衣裳にガソリンをかけていたところ、花形役者リン・フンが止めに入る。借金のかたにと腕時計を差し出すが、ユンは受け取らなかった。
翌日劇場に行ったユンはリン・フンの舞台にすっかり魅せられていた。たまたま食堂で酔客にからまれていたリン・フンを助け、昏倒した彼を自宅に連れ帰る。舞台に穴をあけた上、カギを落として帰れないリン・フンはしかたなくユンの部屋に泊まることになってしまった。ゲームに興じ、屋台で食事をするうち、2人は自分の生い立ちを打ち明けあう。ユンの母はカイルオンの女優、父は伴奏者だった。父の残した楽器、ソン・ランと月琴を大切に持っている。ユンの父の書き残した詩を即興でリン・フンが歌い、ユンが伴奏する。その腕前にカイルオンの劇団に入るようにとリン・フンは薦める。
違うタイプのハンサムな二人が主演して、歌舞劇カイルオンを背景に「ボーイ・ミーツ・ボーイ」ストーリーが描かれます。ユン役のリエン・ビン・ファットはバラエティ番組のMCとして活躍、これが映画初出演。本作はTIFF2018の「アジアの未来」部門で上映され、リエンは新人俳優に贈られるジェムストーン賞を受賞しました。
リン・フン役のアイザックはダンス・ボーカルグループ(365daband)のリーダーだった人気アイドル。カイルオンの歌唱も踊りも特訓。ベトナム映画祭2018で上映された『フェアリー・オブ・キングダム』では王子役で主演しています。王子様顔ですね。
カイルオンは「改良」のことで、古臭い歌舞劇を改良してもっと観てもらおうと作られて100年ほどになるのだそうです。昔から知られた演目や国内外のものを取り込んだ大衆歌舞劇で南部で盛んになったもの。日本の大衆演劇と共通点があるのではないかしら。
映画の中で演じられる「ミー・チャウとチャン・トゥイー」は、敵対する国の姫と王子の悲恋物語で、まるでロミオとジュリエットです。政略結婚させられた二人ですが、互いに愛し合い親の説得を試みますが、父親たちの欲から引き裂かれてしまいます。この役で情が足りないと言われていたリン・フンがユンに会った後、変わったと褒められます。腐女子のみなさま、萌えますよね。舞台裏のようすなども面白いです。
タイトルの「ソン・ラン」は、月琴を弾く足元で拍子やリズムをとるために使われる楽器。足で踏むカスタネットのような打楽器。ポスターの「響き」のきの字の下にあるのがそうです。作中でも冒頭でユンが手に持っているところが映りますのでよく見てね。(白)
2018年の東京国際映画祭で初めて観た時、ベトナムにもこういう歌舞劇カイルオンというのがあるのだと知った。中華圏にも同じような形態(服装とか使う道具など)の歌舞劇があるから影響はあるのかも。カイルオンの家に育ったユンは、父に反発して家を出て取り立て屋をしていたけど、月琴とソン・ランは持って出ていたので、やはり家業に未練はあったのかも。ユンとリンの二人は最低の出会いをしてしまったけど、通じるものがあって、理解し合えたということなのでしょう。二人が即興で演じるシーンがそれを物語っていた。この映画を観た時、月琴のほうに目が行ってしまって、それがソン・ランだとばかり思っていたら、足元のリズム楽器がソン・ランだそう。歌舞劇の開始を告げる大事な役目をするという。
どこの国でも、伝統的な芸術は、新しい文化に押されてすたれていくものも多い。ベトナムでもそういう傾向があったらしいが、この映画のヒットでカイルオンに興味を持つ若い人も多くなったという。この映画のプロデューサーは『サイゴン・クチュール』と同じゴ・タイン・バンさん。『サイゴン・クチュール』もヒットし、ベトナムの伝統的な服装アオザイも新たな流れがでてきたと聞いたので、映画の影響は大きいと思った。
ユンを演じたリエン・ビン・ファットさんは、この演技でジェムストーン賞を受賞しましたが、今回、日本公開のため来日したレオン・レ監督とリエン・ビン・ファットさんに聞いたら、この作品はベトナムで公開された後、海外での初めての上映が東京国際映画祭だったそうで、海外の映画祭で初めて評価されたのがすごく嬉しかったとリエンさんが言っていた。その時、東京で次回作に通じる出会いがあったよう。次回作も楽しみ(暁)
歌舞劇カイルオンを背景にした物語に、『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993年)を思い浮かべ、思いがけない結末に『藍宇 〜情熱の嵐〜』(2001年)を思い出しました。あからさまに二人の関係を描いたものではないのですが、根底に流れるムードが二つの作品に通じるものがありました。切なさが今も蘇ります。(咲)
2018年/ベトナム/カラー/シネスコ/102分
提供:パンドラ
配給協力:ミカタ・エンタテインメント
配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)2018 STUDIO68
http://www.pan-dora.co.jp/songlang/
★2020年2月22日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次ロードショー
デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆
監督:田口智久
原案:本郷あきよし
脚本:大和屋暁
キャラクターデザイン:中鶴勝祥
デジモンキャラクターデザイン:渡辺けんじ
出演:花江夏樹(八神太一)、細谷佳正(石田ヤマト)、三森すずこ(武之内空)、田村睦心(泉光子郎)、小野大輔(井村京太郎)、松岡茉優(メノア・ベルッチ)
2010年の東京。
太一とアグモンたちが出会い、デジモンワールドで大冒険をした1999年の夏休みから10年余りが過ぎた。デジモンと子どもたちを見かけるのも珍しい光景ではなくなり、人間とデジモンの共生も順調に進んでいる。デジモンたちは変わらないが、”選ばれし子ども”だった太一たちは成長し、大学生や社会人となっている。それぞれが違った道を歩んでいたある日、温和なデジモンが巨大化し、街中に出現してパニック状態を引き起こす。同時に世界中の”選ばれし子ども”たちに異変が起き始めた。
デジモンを専門に研究する学者だというメノア・ベルッチと井村京太郎がアメリカからやってきた。彼らは”エオスモン”と呼ばれるデジモンがこの異変の原因だと言い、太一たちに助力を求める。急ぎ招集した仲間たちと、”エオスモン”対策を検討するが、強大な力にどうやって対抗すればいいのだろうか?
人気のテレビシリーズが20周年を迎え、このたび劇場版が完成しました。幾たびも繰り返され、みんなで乗り越えてきたデジタルワールドと人間世界の危機。今回は大人になりつつある”選ばれし子ども”たちと、かけがえのないパートナーだったデジモンとの別れがテーマです。
テレビをほとんど観ない私でもストーリーにちゃんとついていけて、思わず落涙。年のせいで涙もろいわけではありません(クララが歩いたとき、のび太くんがおばあちゃんに会えたとき、ドラえもんがのび太くんと別れて戻ってきたときも泣きましたけど)。周りの男性陣も目をぬぐっていました。”選ばれし子ども”たちとデジモンとの友情が泣かせるのです。リアルタイムで見ていた元子どもたちには、もっとぐっとくるでしょう。
大好きだった毛布やオモチャを手放したのはいつですか?少し惜しいと思いながら、しまったり処分したこと、みーんな一つ二つありますよね。デジモンのアニメーションにワクワクした皆様、この作品を観ていっとき子どものころに戻りましょう。見なかった人の心にもちゃんと届くはずですよ。(白)
2020年/日本/カラー/シネスコ/94分
配給:東映
(C)本郷あきよし・東映アニメーション
http://digimon-adventure.net/
★2020年2月21日(金)ロードショー
現在地はいづくなりや 映画監督東陽一
監督・編集:小玉憲一
撮影:住田望
照明:小峯睦男
録音:湯脇房雄
編集:黒岩清乃
出演:東陽一、常盤貴子、烏丸せつこ、緑魔子、安藤紘平
独立プロ、ATG、そして現在に至るまで映画を撮り続ける映画監督・東陽一が、初めて映画の制作過程や自身について語るドキュメンタリー。東陽一の幼少期から青年期、そして現在に至るまでの足跡を追うとともに、東陽一作品を本人へのインタビューや対談、フィルモグラフィーを通して紐解いていく。
東陽一監督の作品は恥ずかしながら最近のものしか見たことがなかったのですが、過去作品を未見でもまったく問題ありませんでした。
本作で長編デビュー作となったドキュメンタリー映画『沖縄列島』から、初の劇映画で日本映画監督協会新人賞を受賞した『やさしいにっぽん人』、『日本妖怪伝サトリ』、芸術選奨文部大臣賞を受賞した『サード』、『もう頰づえはつかない』、『四季・奈津子』、『マノン』、『ザ・レイプ』、観客動員数200万人を超える大ヒットを記録した『橋のない川』、ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞し、その名を世界に知らしめた『絵の中のぼくの村』、『ボクの、おじさん』、『わたしのグランパ』、『風音』、『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』、そして最近作『だれかの木琴』までをしっかり解説してくれるのです。
『やさしいにっぽん人』では若い石橋蓮司さんの別人のような姿に驚き、『マノン』の佐藤浩市さんに「寛一郎ってやっぱり彼の息子ね」と思い、『ザ・レイプ』の田中裕子さんの変わらぬ美しさに改めて気づき、むしろ、過去作品を見てみたくなりました。
(『日本妖怪サトリ』、『やさしいにっぽん人』、『ザ・レイプ』、「マノン」はポレポレ東中野で特集上映が行われています。詳細は最期に)
全編を通じて流れるバッハの「シャコンヌ」は撮影当時15歳の中学生だった、新進気鋭のクラシックギタリスト、大谷恵理架によるもの。合間合間に彼女の演奏風景が挟み込まれ、次々と紐解かれる東作品をいったん頭の中で整理する時間を与えてもらった気がします。(堀)
2020 年/日本/94 分/カラー/DCP
配給:株式会社モンタージュ
©2020 MONTAGE inc.
公式サイト:https://izukunariya.com/
★ポレポレ東中野にて2020年 2 月22日(土)よりロードショー
「現在地はいづくなりや」公開記念 東陽一特集上映
ポレポレ東中野にて全日10:00~
2/17(月) 日本妖怪サトリ
2/18(火) やさしいにっぽん人
2/19(水) ザ・レイプ
2/20(木) マノン
2/21(金) やさしいにっぽん人
https://www.mmjp.or.jp/pole2/2020/higashiyoichi/higashiyoichisp-flywe.png
『現在地はいづくなりや 映画監督 東 陽一』小玉憲一監督舞台挨拶
ポレポレ東中野にて
2/22(土) 12:30の回上映後 初日舞台挨拶
ゲスト:東 陽一、小玉憲一(本作監督)
2/23(日)~28(金) 各日12:30の回上映後 舞台挨拶
2/29(土)、3/1(日) 各日15:00の回上映後 舞台挨拶
ゲスト:小玉憲一(本作監督)
追加日程や追加の登壇ゲストがある場合は公式サイトやSNSなどで告知されます。
https://www.mmjp.or.jp/pole2/
新卒ポモドーロ
監督・脚本・編集:井上博貴
撮影:中村夏葉
照明:渡辺⼤介
出演:渋江譲⼆、⼤野いと、⽔⽯亜⾶夢、櫻井圭佑、松⽥るか、隈部洋平、⻫藤秀翼、⽥中康寛
福岡で急成長しているベンチャー企業、アイセンス。だが、ある日、社長の北村創次(渋江譲⼆)の強引なやり方についていけなくなった社員たちが一同に退職。競合となるGIファクトリーを設立する。1年後、価格優位性を持たせたGIファクトリーの商品により案件をいくつも奪われ、未だ退職者たちの穴も埋まらぬアイセンスは危機的状況に陥る。北村は社運を賭け、社内横断のプロジェクトチームを結成し、中途採用から一転、会社初となる新卒採用に乗り出す。そのプロジェクト・リーダーに大抜擢されたのは、大学時代に学んだ社会心理学を活かし、高い営業成績をあげている若手社員の川島美沙(⼤野いと)だった。新卒採用の知見も豊富な予算もない中、優秀な学生をどう採用すればよいのか?会社の立て直しを目指し、新米採用リーダー・川島と社長・北村の挑戦が始まる。
本作は「#観る就活プロジェクト」第2弾。売り手市場の新卒採用に、学生側ではなく採用側の企業視点で真摯に向き合う二人の姿をリアルに映し出しています。
ちなみに第1弾の映画『40万分の1』では「就活」を通して青春の最後を駆け抜ける若者の葛藤と瑞々しさを描いたそうですが、残念ながらそちらは未見。しかし、続きものではないので大丈夫。
今回、新卒採用を検討するのは福岡のベンチャー企業。全国から応募者を募るために、ライブ配信での会社説明会、WEB面接、動画での自己PRなど様々な方法を取り入れ、他社との違いを明確に打ち出します。私が就活した頃とは全く違う。イマドキの就活って学生も会社も大変なんですね。優秀な学生は他社に取られることもあり、採用側の苦労が伝わってきます。
全編博多弁が新鮮でした。(堀)
2020年//カラー/シネスコ/110分
配給:エムエフピクチャーズ
©映画「新卒ポモドーロ」製作委員会
公式サイト:https://miru-shukatsu.jp/
★2020年2月21日(金)より池袋HUMAXシネマほか全国順次ロードショー
うたのはじまり
監督・撮影・編集:河合宏樹
出演:齋藤陽道、盛山麻奈美、盛山樹、七尾旅人、飴屋法水、CANTUS、ころすけ、くるみ、齋藤美津子、北原倫子、藤本孟夫ほか
“ろう”の写真家、齋藤陽道は20歳で補聴器を捨ててカメラを持ち、「聞く」ことよりも「見る」ことを選んだ。彼にとっての写真は、自分の疑問と向き合う為の表現手段でもある。そんな彼の妻・盛山麻奈美も“ろう”の写真家である。そして彼女との間に息子を授かった。“聴者”だった。
幼少期より対話の難しさや音楽教育への疑問にぶち当たり、「うた」を嫌いになってしまった彼が、自分の口からふとこぼれた子守歌をきっかけに、ある変化が訪れる。生後間もない息子の育児を通して、嫌いだった「うた」と出会うまでを切り取ったドキュメンタリー。
幼い頃の苦い経験から音楽が嫌いになった齋藤陽道(はるみち)さん。子どもが生まれ、抱いているときに思わず子守唄を口ずさみます。歌は心の発露。想いがあれば自然と口からあふれてくるのだと作品を見ていて思いました。
このことに陽道さん本人が驚いて、知人の音楽家たちに会いに行くのですが、歌の楽しさを知った陽道さんから音楽の奥深さが伝わってきました。
作品の本筋ではないのですが、陽道さんの妻が出産するシーンがあります。まさに生が始まる瞬間に感動しました。私は子どもを2人産んでいますが、実際に子どもが生まれてくる瞬間は初めて見ました。貴重な映像です。(堀)
齋藤陽道(はるみち)さんは聴者の家庭で、補聴器と発話して育ち、奥様の麻奈美さんはろうの両親のもと日本手話で育っています。子育てへの不安もあったでしょうに、カメラマンとして出産を見つめながら父になっていく齋藤さん。汗をかいたシャツを脱ぎ捨てて、裸の胸に生まれたての息子を抱き「どんな声で言ってるの?」と問う齋藤さん。聴者として生まれた「樹(いつき)さん」、なりたての父親と母親、それぞれ違う3人が暮らして「話す」過程が見えていきます。身近にろうの方がいないので、知らなかった世界に心揺さぶられました。
河合宏樹監督の質問を齋藤さんは口の動きでも読み取り、けっこうな速さで書いた文字で返事します。自分でも読めないことのある私のメモと違って、これは「会話」なので速書きでも読みやすい文字です。字幕がどうあってほしいかというやりとりがありました。どんな絵字幕になったのか、ぜひ劇場へどうぞ。(白)
2020年/日本/86分/PG-12
配給:SPACE SHOWER FILMS
©2020 hiroki kawai/SPACE SHOWER FILMS
公式サイト:https://utanohajimari.com/
★2020年2月22日(土)よりロードショー
絵字幕版(バリアフリー日本語字幕付き上映)
本作品はバリアフリー版として、シアター・イメージフォーラムでは日本語字幕付きバージョンの「絵字幕版」も上映します。
日本語字幕に加えて、映画の大事な要素のひとつである“音楽”を絵で表現する手法を用いています。
上映スケジュールは以下の通りです。
2/22(土)|①10:50<絵字幕版>②21:00<通常版>
★公開初日には両回とも舞台挨拶を予定しております。詳細は近日発表します。
2/23(日)|①10:50 <通常版>②21:00<絵字幕版>
2/24(月)|①10:50<絵字幕版>②21:00<通常版>
2/25(火)|①10:50 <通常版>②21:00<絵字幕版>
2/26(水)|①10:50<絵字幕版>②21:00<通常版>
2/27(木)|①10:50 <通常版>②21:00<絵字幕版>
2/28(金)|①10:50<絵字幕版>②21:00<通常版>
2/29(土)|①10:50 <通常版>②21:00<絵字幕版>
3/01(日)|①10:50<絵字幕版>②21:00<通常版>
3/02(月)|①10:50 <通常版>②21:00<絵字幕版>
3/03(火)|①10:50<絵字幕版>②21:00<通常版>
3/04(水)|①10:50 <通常版>②21:00<絵字幕版>
3/05(木)|①10:50<絵字幕版>②21:00<通常版>
3/06(金)|①10:50 <通常版>②21:00<絵字幕版>
※3/7以降スケジュール未定
詳しくは劇場HPをご覧ください。
http://www.imageforum.co.jp/theatre/movies/3091/
2020年02月15日
プロジェクト・グーテンベルク 贋札王 (原題:無雙 Project Gutenberg)
監督:フェリックス・チョン
出演:チョウ・ユンファ、アーロン・クォック、チャン・ジンチュー
タイの刑務所から香港警察に身柄を引き渡されたレイ・マン(アーロン・クォック)は世界を震撼させた国際的偽札製造集団のメンバーだった。4つの事件に関する容疑で取り調べを受けるが、そこにレイの友人を名乗る国宝級の女性画家ユン・マン(チャン・ジンチュー)が現れる。
レイの保釈を求める彼女に対し、捜査の指揮を執るホー警部補(キャサリン・チャウ)は今も行方不明となっているチームの首領“画家”(チョウ・ユンファ)について話すことを要求。レイは冷酷無比な“画家”の報復に怯えながら、自身の“過去”を語り始めた。
舞台は、1990年代のカナダへと転じる。貧しい画家だったレイは恋人と将来に希望を託すが、なかなか認められない。こっそり絵画の偽造に着手すると、“画家”と名乗る男に贋作の腕を認められ、彼が運営する偽札組織にスカウトされる。
数奇な物語がレイの口から語られたとき、“画家”がふたたび姿を現し、衝撃の真実が明らかになる。
贋札とは偽札のこと。前半はそのテクニックを余すところなく披露。フェリックス・チョン監督はこんなに危ない知識をどうやって調べたのか、作品の本筋ではないところまで気になってしまいました。
中盤からはガンアクションが炸裂。この辺りはシネジャの他の方々がお詳しいので、私からは迫力満点とのみお伝えします。
そして、クライマックスの謎解きでは「えぇぇぇ~!」を何度叫んだことでしょう。張り巡らされた伏線にここで初めて気がつき、それが一気に回収させた監督の脚本家としての手腕に脱帽です。実は1回、見ただけではすべてを理解できず、いろんな方々と作品について語り合いました。映画を見て楽しむだけでなく、誰かと共有する楽しみもある作品です。
香港と中国でメガヒットとなり、第38回香港電影金像奨(香港アカデミー賞)で最多となる計17部門にノミネートされ、最優秀作品賞・監督賞・脚本賞・撮影賞・編集賞・美術デザイン・衣装デザインの計7部門を受賞。すでに韓国でのリメイクが決定しています。
日本では2018年の東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門で上映されたが、チケットはすぐに完売。チョウ・ユンファ、そして“舞王(ダンス王)”の異名を持ち、アンディ・ラウ、ジャッキー・チュン、レオン・ライとともに“香港四大天王”と呼ばれるアーロン・クォックの人気のほどがうかがえますね。(堀)
フェリックス・チョン監督
2018年のTIFFで観ました。久々にユンファが戻ってきた!と大喜びしました。それも監督がまだキャスティングに悩んでいるときに、アーロンがユンファの名前をあげて、すぐに連絡を取ってくれたと聞いて嬉しさ倍増でした(2018年10月26日のスタッフ日記)。『男たちの挽歌』(1986)のマークが、『狼 男たちの挽歌・最終章』(1990)のジェフリーが年月を経て現れたかのような姿に、懐かしさでいっぱいになったのは私だけではないでしょう。アクションシーンもほぼ自らこなし、替身(スタント)は1シーンのみだったとか。怪我が心配だからもっと替わってもらって良かったのに…無事でよかった。
映画はペンのアップで始まります。青いインクが描いていく図案が美しく、じっくり見入ってしまいました。目をこらしても下書きが見えません。偽札作りの工程が詳しくて、『ヒトラーの贋札』(2006)を思い出しました。ナチスがユダヤ人強制収容所でイギリスのポンド紙幣を贋造した史実「ベルンハルト作戦」を事細かに描いたものです。手間暇かけた割に儲からないのが常とは限らず、戦争で混乱していた上、その確かな技術で流通した5ポンド札の1割を占めていたとか。日本でも実際にあった事件を元にした木村祐一の初監督作品『ニセ札』(2009)があります。
タイトルのグーテンベルクは15世紀半ばに活版印刷技術を発明したドイツ人。金属の活字を作って自ら印刷や出版をしましたが、紙幣は作っていません(1661年ストックホルム銀行が発行したのが世界初だそうです)。印刷技術が優れているということで名付けたの?(白)
2018年/香港・中国/広東語、北京語/カラー/130分/PG-12
配給:東映ビデオ
©2018 Bona Entertainment Company Limited
公式サイト:http://www.gansatsuou.com/
★2020年2月7日(金)より新宿武蔵野館などを皮切りに全国順次公開
山中静夫氏の尊厳死
監督・脚本:村橋明郎
原作:南木佳士
撮影:高間賢治
音楽:加藤武雄
出演:中村梅雀、津田寛治、田中美里、高畑淳子、浅田美代子、石丸謙二郎
自宅がある静岡の病院からの紹介で、信州の病院にやって来て、「私は肺癌なのです」と語る山中静夫(中村梅雀)。
紹介されてきた資料によれば、山中は腰の骨と肝臓に転移のある肺癌で、明らかに末期の状態だった。医師である今井(津田寛治)付き添う家族の負担を考え、今井は山中に今まで通り静岡の病院での治療を勧めた。「どうせ死ぬんだったら生まれ育った信州の山を見ながら楽に死にたい。生まれた村でやっておきたいことがあるのです」。それが余命を宣告された山中の最期の願いだった。
今井は山中を受け入れ、決して無理はせず、夕食までには必ず戻るという条件付きで外出許可を出す。
そんな中、長年呼吸器内科を担当し、多くの死んでいく人間を診すぎたために、今井はうつ病になってしまう。それでも山中の希望を叶えようと立ち向かうのだった。
『しあわせになろうね』『育子からの手紙』などの村橋明郎監督が、現役の医師でもある南木佳士の同名小説を原作にし、脚本を書いてメガホンをとりました。主題歌は癌闘病の経験もある小椋佳の書きおろし。中村梅雀が末期がん患者、津田寛治が見守る医師を演じ、限られた人生をどう生き、どう死ぬかを、未来への希望とともに描いています。
中村さんが演じた山中静夫は入院した病院を抜け出して墓石を建てていました。婿に入った家の墓ではなく、故郷で眠りたいと願ったのです。私の父も婿養子でしたが、「死んだら別に墓を建てくれ」と弟に懇願していたので、山中が父に重なって見えました。
婿に入るということは墓を守ることを期待されていたはずだと非難する人がいるかもしれません。しかし、長い人生ずっとその家に尽くしてきたら、最期くらい好きなようにさせてほしいと願ってもいいんじゃないか。本作の本筋ではありませんが、そんなことを思いました。
2年くらい前に津田さんにインタビューをしました。「次はどんな役を演じますか」とうかがったところ、「主演で医師役です」ときっぱり。恐らく、この作品のことだったのでしょう。やり甲斐のある役とのことで、津田さんの本作に掛ける思いがひしひしと伝わってきました。それ以来、津田さんが医師を演じた作品を見るのを楽しみにしていたのですが、待った甲斐のある作品でした。(堀)
中村梅雀さん撮影に入る前に6kg減量したそうです。肺腺癌は進行が速くて健康体に見えていていいらしいですが、まだまだ血色がよくて、末期癌の患者に見えるのは仕事熱心な医師の津田寛治さんの方でした。もともと細身なのに、次第に鬱状態になってやつれていく役です。医師と患者、二人を気遣うそれぞれの家族のドラマが佐久の風景の中で進んでいきます。
この作品を観ながら、山中静夫さんと同じ肺癌で亡くなった実父を思い出していました。もう30年近く前なので、本人への告知も一般的ではありませんでしたが、こんな風に本人の望むことを優先してやれば良かったと後悔しきりです。残った時間でやりたいことがきっとあったはず。それこそ最後の「思いやり」になります。試写室でも涙ぐんでいる人が多かったようです。お二人の演技に、自分の体験も重なったのかもしれません。
病院は病気を治療するところですが、より良い最期を迎える手助けをするのも加えてもらえないでしょうか?お医者さんも自分が患者になってみて初めて知ることがあった、とよく聞きます。人は皆死んでいきます。自宅にしろ、病院にしろ、最期は「いい人生だった」と息をひきとることができたらいいなぁと思うこのごろ。(白)
2019/日本/カラー/DCP/シネスコ/5.1ch/107分
配給・宣伝:マジックアワー、スーパービジョン
© 2019映画『山中静夫氏の尊厳死』製作委員会
公式サイト:https://songenshi-movie.com/
★2020年2月14日(金)より シネスイッチ銀座ほか 全国順次ロードショー
2020年02月10日
名もなき生涯 英題:A HIDDEN LIFE
監督・脚本:テレンス・マリック
製作:グラント・ヒルダリオ・ベルゲジオ
撮影監督:イェルク・ヴィトマー
美術:ゼバスティアン・クラヴィンケル
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
衣装:リジー・クリストル
出演:アウグスト・ディール 、ヴァレリー・パフナー、マリア・シモン、ブルーノ・ガンツ、マティアス・スーナールツ
ナチス・ドイツに支配されたオーストリアの山あいの村で、農民のフランツ(アウグスト・ディール)は、妻のファニ(ヴァレリー・パフナー)と娘たちと一緒に暮らしていた。あるとき召集されたフランツは、ヒトラーへの服従を拒絶し収監されてしまう。ファニはフランツを手紙で励ますが、彼女に対する風当たりも強くなる。
テレンス・マリック、76歳。映像に拘る監督だ。とりわけ”光”の捉え方、追い求めようには人かたならぬ思い入れを感じる。
マサチューセッツ工科大学、仏在住時に哲学の教鞭を執っていたこともあり、時として映画が観念的な方向へ向かう傾向も観られた。が、本作は実在の人物を描くだけに、具象性と詩情溢れるマリック的話法の程よいバランスを湛えた秀作に仕上がっている。
徹底した自然光撮影は、主人公一家が暮らす雲上の村、山肌、さやぐ草木、農場、家畜牧舎、果樹園や教会などを滑らかに照らし出す。曲折した山道を遊び廻る子どもたちを追うステディカムカメラ。静と動の緩急が生むリズム感。
おそらく長回し撮影によって、俳優たちはカメラを意識せず自然な動きで溶け込んだ姿をテンポの良いカット編集で繋ぐ。
家屋内、酒場、監獄なども光源は窓・開口部から刺す太陽光だけ。いきおい逆光スモークになる独特な絵柄に魅せられてしまう。
”ヌケがいい”とは日本語独特の表現だろうが、映像が放つ透明感とでも言うべきか·····。画面から空気が流れて来るような爽快さだ。
響く鐘の音、木々のさやぎ、鳥や牛、羊の鳴き声、農具の音、畑の草刈りといった環境音に、マリック特有の俳優による独白が重なり、静かに劇伴が織り込む時、観客は視覚聴覚とも作品世界に呑み込まれて行く。
主人公一家が暮らした村は、ヒトラーが生まれ育った街と同じ州だそう。総統時代をエヴァ・ブラウンと過ごした山荘からもほど近い。画面には登場しないヒトラーが影のように、主人公フランツの透徹した眼差しから見え隠れする。
今は巡礼の地となっているフランツたちが暮らした家、周辺の森は雲上に輝く神の視座を得たかのように映し出される。3人の娘たちは今でも地元近くに暮らし、妻は100歳まで生きたという。
神父や司祭までが、「口だけでいい。書類に署名さえすれば...」とフランツに偽りの忠誠を求め、説得したにも係わらず、自らの意思を通した揺るぎない魂が、今も雲上の村を彷徨しているようだ。(幸)
配給:20世紀フォックス/ ディズニー
2019/アメリカ・ドイツ合作カラー/175分
(C) 2019 Twentieth Century Fox
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/namonaki-shogai/
★2月21日(金)より全国公開★
ミッドサマー 原題:MIDSOMMAR
脚本・監督:アリ・アスター
出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィル・ポールター、ヴョルン・アンドレセン
思いがけない事故で家族を亡くした大学生のダニー(フローレンス・ピュー)は、人里離れた土地で90年に1度行われる祝祭に参加するため、恋人や友人ら5人でスウェーデンに行く。太陽が沈まない村では色とりどりの花が咲き誇り、明るく歌い踊る村人たちはとても親切でまるで楽園のように見えた。
『ヘレディタリー 継承』で圧倒的な力量を見せつけた若き異才アリ・アスター監督が、前作を超える今年一番の衝撃作を差し出した!
芸術的先鋭性を帯び、単なる冒険譚の域を凌駕したスケール感を備えた本作をジャンル分けすることは避けねばなるまい。今まで見たことのない世界観が提示されているのだ。
主訴はシャーマニズムである。入口は分かりやすい。スウェーデンの村で開かれる夏至祭(ミッドサマー)を舞台とし、90年に一度の祝祭が催される。一日中太陽が沈まない白夜が続く中、米国から文化人類学を学ぶ学生たちを案内人に、アスター監督は観客を儀式の只中へと誘う。
集う人々は金髪碧眼のスカンジナビア系美男美女。白い衣裳に色鮮やかな花々を纏う姿は、さながらフラワーチルドレンのような趣きだ。アスター監督が意図して選んだのか、彼らは眼の光に”文明の色”がない。プリミティブでメディア擦れしていない顔立ちが特徴の信者たち。
眩い光の下、胸踊る祝祭が次第に不穏な空気を醸成し、驚愕の事態に進む流れには澱みがない。あらためてアスターの精緻さが際立つ構成、トリッキーな編集の妙に感嘆する。
なぜ「村や祝祭の内容を口外することは禁じられている」のか?
キリスト教伝来以前より村に伝わる宗教儀式、民間伝承について、現代人の価値観から是非を問うことは出来ない。
木下惠介、今村昌平両監督の『楢山節考』を想起させる場面があった。予感的中!アスターは今村昌平作『神々の深き欲望』を本作の参考にしたという。是非この3作品も同時に鑑賞することをお奨めしたい。
本作の魅力を語り尽くせないが、これだけは言わせてほしい。ヴィスコンティ作『ベニスに死す』の美少年ヴョルン・アンドレセンの出演場面を見逃さないで!(幸)
配給:ファントム・フィルム
アメリカ/ビスタサイズ/2019/147分/R15+
(C) 2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.phantom-film.com/midsommar/sp/
★2月21日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開★
2020年02月09日
屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ 原題:Der Goldene Handschuh 英題: The Golden Glove
監督・脚本:ファティ・アキン
出演:ヨナス・ダスラー、マルガレーテ・ティーゼル、ハーク・ボーム
1974年、ハンブルク。
留年が決定した美少女ペトラは、冴えない転校生ウリィーに誘われカフェに立ち寄る。
ぺトラが手にしたタバコに、突然、火を差し出す醜い男フリッツ・ホンカ。
ホンカは、立ち去るペトラをじっと見つめていた。
労働者や年増の娼婦が集うバー「ゴールデン・グローブ」。
ホンカは、女に酒を奢ろうと声を掛けても、なかなか相手にされない。そんな中、注文もせずに座る中年女ゲルダにホンカは一杯奢り、ゲルダを家に連れ帰る。ゲルダはホンカの部屋に入るなり、異臭に戸惑う。階下のギリシャ人の料理のせいだというホンカ。ゲルダは30歳になる独身の娘がいると語る。カフェで見かけた美少女を思い浮かべるホンカ。居候するようになったゲルダに「娘を連れて来い」と命じるが、いつまで経っても連れて来ないあげく、ゲルダはいなくなる。
ある日、ホンカは車に突き飛ばされる。それを機に禁酒し、夜間警備員の仕事につく。夫がクビになり掃除婦をしているヘルガに思いを寄せるようになる・・・
ドイツ・ハンブルクで1970年から5年間にわたって4人の娼婦を殺害した実在の連続殺人犯フリッツ・ホンカの物語。
トルコ移民の両親のもと、1973年にハンブルクで生まれたファティ・アキン監督は、子供の頃、「気をつけないと、ホンカに捕まるぞ!」とよく言われたそうです。
殺人鬼フリッツ・ホンカの事件を描いたハインツ・ストランクのベストセラー小説に触発されて、ファティ・アキンは映画を製作。著者ハインツ・ストランクは、本作に退役軍人役でカメオ出演しています。
小説は第二次世界大戦の敗戦から立ち上がりつつある70年代のドイツの社会情勢とともに描かれていて、映画でも、その片鱗が見られます。
ホンカが酒場で声をかけた娼婦の一人には、腕に番号を彫られた跡があって、1937年から終戦まで強制収容所で売春をさせられたと明かします。ホンカも父が共産主義者を理由に収容されていたと語ります。これ以外、ホンカの出自について本作では多くは語られませんが、ナチスがユダヤ人を強制収容する以前から邪魔者を収容していた実態を教えてくれる場面でした。また、ドイツで暮らす人々が、それぞれに戦争の時代をひきずっていることも感じさせられました。
ラストで実際にホンカが住んでいた安アパートの屋根裏部屋の図面や、本人の姿が映し出されます。屋根裏部屋を忠実に再現したのも凄いですが、なんといっても、それなりに美男子のヨナス・ダスラー(『僕たちは希望という名の列車に乗った』)が、実年齢より20歳以上も上の醜いホンカになりきっているのに驚かされます。
映画で語られる最後の日、ホンカが酒場で美少女ぺトラを見かけ、追いかけていきます。彼女も毒牙にかかるのか・・・ 結末はどうぞ劇場で! (咲)
2019年/ドイツ・フランス/110分/R15+
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/yaneura/
★2020年2 月 14 日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
2020年02月08日
松田優作メモリアルライブDVD発売
CLUB DEJA-VU ONE NIGHT SHOW
松田優作メモリアルライブ+優作について私が知っているニ、三の事柄
企画:黒澤満
構成・演出:崔洋一
出演:水谷豊、内田裕也、宇崎竜童、石田えり、原田美枝子、シーナ&鮎川誠、EK、白竜、李世福、桃井かおり、原田芳雄、原田喧太、エディ藩、竹田和夫、新井英一、KEITH、仲野茂、世良公則、BORO、黒田征太郎ほか多数
1990年12月3日、松田優作が40才の若さで亡くなって1年と少しが過ぎた日、池袋サンシャイン劇場に来場した約800人の観客のみが目撃した、幻のステージ。それは40歳という若さでこの世を去った松田優作を偲んで、彼の死の一年後に友人たちが開催した、一夜限りのライブ「CLUB DEJA-VU ONE NIGHT SHOW」。
2018年11月に製作会社セントラルアーツのプロデューサー黒澤満氏が亡くなりました。所属の松田優作を起用して世に出した数々の作品は色褪せることなく、今も人気です。黒澤氏の遺品の中から、長らく所在不明で幻・伝説と化していたライブテープが見つかりました。その素材をもとに映像・音声をブラッシュアップして崔洋一監督の綿密な編集の末、蘇ったものです。
disk1 松田優作を不在のCLUB DEJA-VUのオーナーに。ボーイ長を水谷豊。
入れ代わり立ち代わりやってくる常連たちが不在の松田の持ち歌を歌い、エピソードを披露し、笑ったり叫んだり踊ったり涙ぐんだりしています。次々と登場する懐かしくまた濃い面々…最初の内田裕也がフツーに見えてしまいます。松田優作が兄貴と慕った原田芳雄がこのライブ開催の中心となったのだそうで、数曲歌っています。
disk2 松田優作のスチール写真、本人の歌唱も収録。崔洋一監督が水谷豊、桃井かおりをはじめ、このショウを陰で支えた人たちに新たにインタビュー、言葉の端々に亡き友人への愛が溢れているドキュメンタリーです。
原田芳雄さんの歌を初めてちゃんと聞いて、上手い!素敵!と驚きました。2011年に主演した『大鹿村騒動記』公開の舞台挨拶の痛々しい姿(3日後に亡くなられました)が記憶にありますが、この歌っている原田さんが観られてよかった!
松田龍平さん翔太さんがいい俳優さんになって、お父さんの年齢にもだんだん近づいてきました。いつまでもそう言われるのは重いかもしれませんが、それだけ愛された人だったんです。ファンは必見。「できれば劇場公開したい」と崔洋一監督。大きなスクリーンでみんなで観られたらより盛り上がるでしょう。DVDの売り上げに貢献してくださいませ。(白)
DSTD20319 6,900円+税/COLOR168分/片面2層1枚片面1層
主音声:ステレオ16:9LB
(C) 株式会社 セントラル・アーツ
★2020年2月5日より発売
https://www.toei-video.co.jp/special/matsudayusaku-dejavu/
松田優作メモリアルライブ+優作について私が知っているニ、三の事柄
企画:黒澤満
構成・演出:崔洋一
出演:水谷豊、内田裕也、宇崎竜童、石田えり、原田美枝子、シーナ&鮎川誠、EK、白竜、李世福、桃井かおり、原田芳雄、原田喧太、エディ藩、竹田和夫、新井英一、KEITH、仲野茂、世良公則、BORO、黒田征太郎ほか多数
1990年12月3日、松田優作が40才の若さで亡くなって1年と少しが過ぎた日、池袋サンシャイン劇場に来場した約800人の観客のみが目撃した、幻のステージ。それは40歳という若さでこの世を去った松田優作を偲んで、彼の死の一年後に友人たちが開催した、一夜限りのライブ「CLUB DEJA-VU ONE NIGHT SHOW」。
2018年11月に製作会社セントラルアーツのプロデューサー黒澤満氏が亡くなりました。所属の松田優作を起用して世に出した数々の作品は色褪せることなく、今も人気です。黒澤氏の遺品の中から、長らく所在不明で幻・伝説と化していたライブテープが見つかりました。その素材をもとに映像・音声をブラッシュアップして崔洋一監督の綿密な編集の末、蘇ったものです。
disk1 松田優作を不在のCLUB DEJA-VUのオーナーに。ボーイ長を水谷豊。
入れ代わり立ち代わりやってくる常連たちが不在の松田の持ち歌を歌い、エピソードを披露し、笑ったり叫んだり踊ったり涙ぐんだりしています。次々と登場する懐かしくまた濃い面々…最初の内田裕也がフツーに見えてしまいます。松田優作が兄貴と慕った原田芳雄がこのライブ開催の中心となったのだそうで、数曲歌っています。
disk2 松田優作のスチール写真、本人の歌唱も収録。崔洋一監督が水谷豊、桃井かおりをはじめ、このショウを陰で支えた人たちに新たにインタビュー、言葉の端々に亡き友人への愛が溢れているドキュメンタリーです。
原田芳雄さんの歌を初めてちゃんと聞いて、上手い!素敵!と驚きました。2011年に主演した『大鹿村騒動記』公開の舞台挨拶の痛々しい姿(3日後に亡くなられました)が記憶にありますが、この歌っている原田さんが観られてよかった!
松田龍平さん翔太さんがいい俳優さんになって、お父さんの年齢にもだんだん近づいてきました。いつまでもそう言われるのは重いかもしれませんが、それだけ愛された人だったんです。ファンは必見。「できれば劇場公開したい」と崔洋一監督。大きなスクリーンでみんなで観られたらより盛り上がるでしょう。DVDの売り上げに貢献してくださいませ。(白)
DSTD20319 6,900円+税/COLOR168分/片面2層1枚片面1層
主音声:ステレオ16:9LB
(C) 株式会社 セントラル・アーツ
★2020年2月5日より発売
https://www.toei-video.co.jp/special/matsudayusaku-dejavu/
2020年02月03日
影裏
監督:大友啓史
脚本:澤井香織
音楽:大友良英
原作:「影裏」沼田真佑(文春文庫刊)
撮影:芦澤明子
出演 :綾野剛、筒井真理子、中村倫也、平埜生成、國村隼、永島瑛子、安田顕、松田龍平
会社員の今野(綾野剛)は岩手に転勤し、そこで同僚の日浅(松田龍平)と知り合う。一緒に飲みに行ったり、釣りに行ったりするなど、まるで遅い青春時代のような日々を過ごすうちに、今野は日浅に心を開いていく。だがある日、日浅は今野に何も告げずに突然退職し、その後しばらくしてまたフラリと姿を現す。
冒頭から綾野剛の毛穴が見える程のクローズアップや肢体の場面が続く。綾野剛、松田龍平の主演コンビだけではなく、出演者全員が容赦ないクローズアップに晒される。顔の表情の奥にある内心までをも映し出そうとするかのようだ。ソフトフォーカスレンズで安易に綺麗な映像を作るような意図は、今回の大友啓史演出には通用しない。
遅れてきた青春時代のように交流する綾野剛と松田龍平の楽しげな絡み場面ですら、不穏な空気を孕んでいる。それが次第に切なさを帯びて行き、終盤は思わぬ展開が待ち受ける…。
登場人物たちの顔、彼らを取り巻く環境の全てが卓越したカメラワークで”説明”される。地方都市・盛岡の古い倉庫、今野(綾野剛)の住む普通のアパートに漂うジャスミンの薫り、ビアズレー絵画、光る川面、夜の川、炎が照らす闇、魚たち、苔むした森、人々の祝祭などを映し出した芹澤明子の撮影は、脚本以上に作品世界を表現して見事という他はない。近年これほどの絶品な撮影技量にはお目にかかれない。
大友啓史監督は、原作が芥川賞を受賞する前から映画化を起草していたそうだ。盛岡の再生と記念碑となるべきアートを模索していた地元自治体との利害が上手く合致した。ロケ地の全面協力のもと、生まれた逸品である。漫画を原作としたのエンタテインメントを器用に撮る印象のあった大友啓史監督の新たな側面を観た思いだ。(幸)
配給:ソニー・ミュージックエンタテインメント
配給協力:アニプレックス
カラー/製作国日本/ 134分
(C)2020「影裏」製作委員会
公式サイト:https://eiri-movie.com/
★2020年2月14日(金)より全国ロードショー★
ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏 英題:JEREMIAH TERMINATOR LEROY
監督・脚本・製作総指揮:ジャスティン・ケリー
原作・脚本・製作総指揮:サヴァンナ・クヌープ
出演:クリステン・スチュワート、ローラ・ダーン、ジム・スタージェス、コートニー・ラヴ、ダイアン・クルーガー
2000年代半ばのサンフランシスコ。親元を離れたサヴァンナは、兄のパートナーで作家のローラと出会う。ローラは自分の小説をJ・T・リロイという架空の美少年名義で出版、ベストセラーになっていた。そんなローラに頼まれ、最初は遊び半分で男装し、J・Tに扮するサヴァンナ。
やがて小説の映画化が決まり、ハリウッドやカンヌで大勢の観衆の前に出るうちに、J・Tとして出会った相手に本気で恋してしまうが……。
浅薄にも当時の西海岸でこのような事実があったことを知らなかったため、試写を観た際は衝撃だった。50ドルで雇った少女に架空の美少年作家の扮装をさせる…。軽い気持ちで始まった試みが、瞬く間に当事者たちの想像を超える存在、アイコン化して行く恐ろしさ。
本作には編集者の存在が薄い(というか登場しない)のが不自然だが、実際には出版社が「この小説は絶対売れる」と確信して売り出し、まさかJTリロイが偽物とは露知らず、カンヌ国際映画祭にまで足を運んだという逸話も聞いた。虚構の世界を支配する気はなくても、周囲が勝手に拡散してくれる世の中なのだ。
流行りものに安易に寄りかかる軽佻浮薄なハリウッドの実態もリアルに描かれる。夜ごと繰り広げられる華やかなパーティ、豪奢な邸宅、ドラッグの誘惑。人々は利害でしか動かない。稀代の美少年作家を利用するために近づいてくるセレブたち。中でも圧倒的に光っていたのはJTリロイと関係を持つ女優役のダイアン・クルーガー。美しさと冷酷非情な重層的役柄を見事に造形し、JTリロイを巧みに操作して翻弄させるファム・ファタールは、本作の虚構を象徴するような存在だ。
クリステン・スチュワートの少年役、作者のローラ・ダーンとも好演だが、ダイアン・クルーガーの色艶と技量が映画に説得力を与えていた。
監督のジャスティン・ケリーは日本公開作が少なく、ジェームズ・フランコと組んだ作品が多い。ハリウッドの内実を知っている上、人を喰ったような作風が、虚構の題材に刺激を受けたのだろう。作中、「裸の王様」の話が引用される。ちょっとした信憑性、神話性を示せばメディアは飛びつき、大衆は騙せてしまう現代の「教訓話」と観客は受け取るのではないか。(幸)
配給:ポニーキャニオン
製作国アメリカ/カラー/シネマスコープ/5.1ch/108分/PG12
(C) 2018 Mars Town Film Limited
公式サイト:http://jtleroy-movie.jp
★2月14日(金)より、シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開★
2020年02月02日
ハスラーズ(原題:Hustlers)
監督・脚本:ローリーン・スカファリア
出演:コンスタンス・ウー(デスティニー)、ジェニファー・ロペス(ラモーナ)、ジュリア・スタイルズ(エリザベス)、キキ・パーマー(メルセデス)、リリ・ラインハート(アナベル)、リゾ(リズ)、カーディ・B(ダイヤモンド)
子どものころ母に捨てられ、祖母に育てられたデスティニー。今度は自分が祖母を養うために奮闘している。少しでも多く収入を得ようとストリップクラブで働き始めるが、簡単に収入は増えるものではなかった。クラブのナンバーワンのラモーナが、デスティニーにストリッパーとしてのノウハウを教えてくれて、先輩たちとも仲良くなれた。
生活もようやく楽になってきた矢先、2008年にリーマンショックが起こる。企業は倒産、株価が暴落し、庶民は家を失い、借金だけが残った。これまでない不況が街を覆う。上得意だった客たちの足も遠のき、ストリッパーたちの実入りもすっかり減ってしまった。それなのに経済危機を起こしたウォール街のエリートたちは裕福なまま。業を煮やしたラモーナは、クラブの仲間を誘ってエリートたちから大金を巻き上げる計画を立てる。
日本にも少なからぬ影響を与えたリーマンショック。そのころ実際にあったことを元に作られた作品です。華やかな女性たちの中でも目を引くラモーナ役のジェニファー・ロペス。50代に入ったのですが、若々しい!女優で歌手で実業家で、双子のママでもあり…とエネルギーにあふれた女性なんですね。この映画の製作にもあたっています。主演のコンスタンス・ウーはメイクのせいか、エキゾチックな感じはするけれど『クレイジー・リッチ』よりも地味目です。他が派手だからか。
たくましい女性たちに手玉に取られるエリート男性、彼らにもいろいろあって溜飲が下がる人もいれば、そこまでやっては気の毒な人も。ストリップクラブの裏側が見られて「へー!」×10でした。男性はこれを見ていろいろ気をつけてください(?)。(白)
2019年/アメリカ/カラー/シネスコ/110分
配給:REGENTS
(C)2019 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
http://hustlers-movie.jp/
★2020年2月7日(金)ロードショー
静かな雨
監督:中川龍太郎
原作:宮下奈都
脚本:梅原英司、中川龍太郎
撮影:塩谷大樹
出演:仲野太賀(行助)、衛藤美彩(こよみ)、三浦透子(斉藤真理)、坂東龍汰(木村)、古舘寛治(医者)、川瀬陽太(パチンコ屋店長)、河瀬直美(こよみの母)、萩原聖人(牧原)、村上淳、でんでん(教授)
大学の研究室に勤める行助(ゆきすけ)は、足が不自由で引きずりながらゆっくり歩く。家に帰る途中、若い女性が1人で切り盛りしている小さな鯛焼き屋を見かけた。美味しそうなにおいにつられて買ってみると、今まで食べたことがないほど美味しかった。以来、ときどき立ち寄っては店主のこよみと言葉を交わすようになる。二人の穏やかな日々に満たされていた行助だったが、こよみは交通事故に遭ってしまう。目覚めたこよみは、古い記憶は残っているものの、新しい記憶は一日しか持たなくなっていた。朝起きると記憶がリセットされているこよみに、行助は毎回同じ説明をして一日を始めることにした。
原作は『羊と鋼の森』の原作者でもある宮下奈都さんのデビュー作です。100ページほどの薄い綺麗な装丁の本でした。原作ものの映画化は初めての中川龍太郎監督がメガホンをとっています。仲野太賀さんは中川監督の『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(2015)でも主演をつとめていました。どんな役でも安心して観ていられる俳優さんです。衛藤美彩さんは初の映画出演ですが、なかなか男前!なこよみをすっきりと演じています。印象的な助演が何人か配されていますが、ほぼ主演二人が出ずっぱりです。少しずつ工夫しながらこの人たちは幸せに暮らしていくんだろうな、と想像できる優しい作品でした。
記憶は時間の長短に関わらず、保持しているのが当たり前とつい思ってしまいますが、精神的なストレスや外傷などでなくなってしまうこと、あるのですね。それだけでドラマチックなので、そんな設定の映画や小説はいくつも。一定の時間でリセットされてしまうのは『50回目のファースト・キス』(2004/アダム・サンドラー&ドリュー・バリモア)。この作品も記憶が一日しか持ちません。同名のリメイク作品が長澤まさみ&山田孝之の二人で作られました(太賀さん出演)。もっと短いのが2005年の『博士の愛した数式』で数学者役の寺尾聡さんが80分しか記憶が持たず、家政婦役の深津絵里さんがたくさんメモを貼っていました。最近では川口春奈&山﨑賢人の『一週間フレンズ。』(2017)、こちらはタイトル通り1週間ごとにリセットされてしまいます。見比べてみるのも一興。(白)
2019年/日本/カラー/99分
配給:キグー
(C)2019「静かな雨」製作委員会/宮下奈都・文藝春秋
https://kiguu-shizukana-ame.com/
★2020年2月7日(金)ロードショー
37セカンズ
監督・脚本:HIKARI
出演:佳山明(貴田ユマ)、神野三鈴(貴田恭子)、大東駿介(俊哉)、渡辺真起子(舞)、熊篠慶彦(クマ)、萩原みのり(サヤカ)、芋生悠(ユカ)、渋川清彦、宇野祥平、奥野瑛太、板谷由夏(編集長)、尾美としのり
ユマは生まれた時、息をしていなかった。息をするまで37秒かかり、それが原因で脳性麻痺となった。下半身が動かないユマはずっと母に面倒を見てもらいながら車椅子の生活をしている。父の思い出はかすかにしかない。
漫画家の友人のゴーストライターをしていくらか収入を得ているが、いつかは影に隠れず自分の名前で漫画を発表したい。すでに23才の大人なのに、いまだに過干渉な母親からの自立も考えている。その実現の第1歩にと、アダルトコミックの募集広告を見て出版社に持ち込みをしてみた。ユマの原稿を見てくれた編集長は、ユマの漫画にはリアルな描写が欠けていると指摘する。性体験のないユマは、思い切って歓楽街へ出かけてみる。
サンダンス映画祭とNHKが主宰する脚本ワークショップで日本代表に選ばれたHIKARI監督、初の長編作品です。主人公を演じている佳山明(かやまめい)さんはユマと同じ脳性麻痺で演技は未経験ですが、オーディションでユマ役に抜擢されました。小さな声で、押しも強くなさそうなのに、大胆な決断をする勇気と行動力のあるユマにぴったりの配役でした。彼女あっての物語だと感じていたら、元からあった脚本を佳山さんに出会ってから、彼女の体験に沿って3分の1も書き直したのだそうです。アメリカで映画製作を学んだHIKARI監督の粘り強い姿勢と、それに応えた俳優陣の熱演でみごたえのある作品が完成しました。
ユマが親友だと思っていたサヤカの身勝手さは噴飯ものでしたが、ユマが外に飛び出してから出会う人たちの魅力的なこと!俊哉のようなヘルパーがたくさんいたならどんなにいいだろう、クマさんご贔屓の舞さんの姉御っぷりが頼もしい、と保護者目線で見てしまいました。
どんなに大人になろうが、息子・娘はいつまでも母親には子どもです。それでも親ができることをし終えたら、独り立ちの時期には涙を飲んで送り出さなくては。息子・娘、ひいてはその子どもたちが幸せであることを願うばかりです。(白)
2019年/日本/カラー/シネスコ/115分
配給:エレファントハウス
(C)37Seconds filmpartners
http://37seconds.jp/
★2020年2月7日(金)より全国順次ロードショー