2020年01月27日
ロニートとエスティ 彼女たちの選択 原題:Disobedience
監督:セバスティアン・レリオ
脚本:セバスティアン・レリオ、レベッカ・レンキェヴィチ
原作:ナオミ・オルダーマン
撮影監督:ダニー・コーエン
製作:フリーダ・トレスブランコ、エド・ギニー、レイチェル・ワイズ
出演:レイチェル・ワイズ、レイチェル・マクアダムス、アレッサンドロ・ニヴォラ
厳しいユダヤコミュニティーで育ったロニートとエスティは恋に落ちるが、おきてによって許されぬ行為とされてしまう。それを受けて、ユダヤ教指導者の娘だったロニートは父と信仰を捨てて故郷を離れ、エスティは幼なじみのドヴィッドの妻になりユダヤ社会で生きることにする。時は流れ、父の死を契機に帰郷したロニートは、エスティと再会する。互いに対する思いを抑え切れない二人は、ある決断を下す。
原題の「disobedience」とは、”不服従”を意味する。都会のロンドンに於いて、これほど厳格な宗教的戒律に支配される女たちがいたとは衝撃だ。ユダヤ教原理主義のコミュニティで育ち、ラビの娘として生まれながらも”不服従”の人生を選択したロニートを演じるレイチェル・ワイズの瞳には強い意思が感じられた。製作も兼ねたワイズは、この役に対する並々ならぬ思い入れがあったのだろう。
本作では女性同士の恋愛という他に、幾多の”禁忌”が示される。舞台となるユダヤ教コミュニティでは、女性信者は鬘を装着しなくてはならない。鬘を外していいのは夫とベッドに入る時だけ。安息日に車を運転できるのは男性のみ。教会でも男女同席出来ない。男性信者はラビらと同等の1階席で、女性は2階席と明確に分けられている。
合理的根拠があるとは思えないこうした掟に諾々と従い、ユダヤ教コミュニティに馴染んでいるのはラビの妻となったエスティである。見るからに可愛らしく愛される容姿のレイチェル・マクアダムスにエスティは適役だ。が、安定した情緒と居住に服従した日常がロニートの出現で揺れ動く。
ロンドンの重く垂れ込めた空、狭い人間関係に支配されたコミュニティ。閉塞感から一時期解放された2人が情念を吐き出すラブシーンは、それぞれの想いの発露まで表出し、本作の白眉と言える。”禁忌”と解放、服従と”不服従”。複雑な相対する見えない内心を俳優たちの身体を通して見事に描写したセバスティアン・レリオ監督は、前作の『ナチュラル・ウーマン』同様、LGBTQ問題との親和力があるようだ。初春に届けられた大人のための秀作である。(幸)
ユダヤ人をバビロニアに強制移住させた前586年のバビロン捕囚以降、様々な事情で世界中に散らばったユダヤの人たち。世俗的な暮らしをしている人たちもいれば、世界のどこに移り住んでも、連綿とユダヤの戒律を守っている正統派の人たちがいることを、これまで様々な映画で観てきました。
例えば、『僕と未来とブエノスアイレス』(ダニエル・ブルマン監督)ではアルゼンチンで、『ノラの遺言』(マリアナ・チェニーリョ監督)ではメキシコで頑なにユダヤの戒律に基づいて暮らしている人たちがいることに驚かされました。
一方、同性愛が禁忌のユダヤ社会で育っても、自分の気持ちに正直に同性を愛する人がいることも、様々な映画で観てきました。
東京国際映画祭の特集「イスラエル映画の現在 2018」で上映された『赤い子牛』(ツィビア・バルカイ・ヤコブ監督、2018年、イスラエル)では、ユダヤ教聖職者の娘が活発な女性を好きになり、それまで当たり前だと思っていた正統派としての暮らしから、だんだん自我に目覚めていく姿を描いていました。本作と同じく「選択の自由」が映画のテーマの一つでした。
『赤い子牛』監督Q&A
『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』では、教師のエスティは戒律の中で生きることを選び、尊敬する夫との結婚生活を幸せだと言い聞かせていたのですが、ロニートとの再会で気持ちが揺らぎます。そんな思いの中、シナゴーグでラビが選択の自由について語るのを聞きます。
伝統を守ることも大切だけれど、自分の気持ちに正直であることもまた生きる上で忘れてはならないことだと感じさせてくれました。(咲)
配給:ファントム・フィルム
©2018 Channel Four Television Corporation andCandlelight Productions, LLC. All Rights Reserved
2017年/イギリス/英語/DCP/カラー/114分/
公式サイト:http://phantom-film.com/ronit-esti/
★2020年2月7日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国ロードショー★