2020年01月23日

『巡礼の約束』 原題 阿拉姜色 英語題:Ala Changso

2020年2月8日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー 劇場情報

巡礼の約束poster.jpg
©GARUDA FILM
 
監督:ソンタルジャ
製作:ヨンジョンジャ
脚本:タシダワ ソンタルジャ
撮影:ワン・ウェイホア
美術:ツェラントンドゥプ 、タクツェトンドゥプ
編集:ツェランワンシュク、サンダクジャプ
音楽:ヤン・ヨン
キャスト
ロルジェ:ヨンジョンジャ
ウォマ:ニマソンソン
ノルウ:スィチョクジャ
ダンダル:ジンパ

2018年 中国映画 109分 シネマスコープ 5.1chサラウンド
字幕:松尾みゆき 字幕監修:三宅伸一郎 配給:ムヴィオラ 
『巡礼の約束』公式サイト 

妻から夫へ、父から息子へ。
受け渡され、継がれていく巡礼の旅


チベット人として日本で初めて劇場公開された『草原の河』のソンタルジャ監督。厳しい自然の中で牧畜を営む家族たちを娘の目を通して描いた。『巡礼の約束』では、ラサへの巡礼の旅に出た妻と、血の繋がらない夫と息子の絆を描いた。

チベット山麓の村で夫のロルジェ、夫の父と暮らす妻ウォマ。ある日、病院から帰ってきたウォマは、ロルジェに「五体投地でラサへ巡礼に行く」と伝えた。突然の話にロルシェは反対するが、ウォマの決意は変わらない。ロルジェは妻のラサ巡礼を受け入れる。介護が必要な父親がいるので、村の人に妻の付き添いを頼むが、やはり妻のことが心配で、父を村の人に託し、妻の後を追う夫。さらにウォマが実家に置いてきた前夫との息子ノルウも母ロルジェを追ってやってきて合流する。母が自分を置いて嫁いでいってしまったため、自分は捨てられたと思い、心を閉ざしているノルウ。ウォマは自分が重い病気にかかっていることを知り、前夫との約束を果たそうと巡礼に出たのだが、何ヶ月か、この巡礼の旅を続けるうちにとうとう思いを果たせず亡くなってしまう。母を追ってきたノルウは、母のその思いを引き継ごうと、ロルジェに一緒に行きたいと告げる。お互いの誤解から、最初はぎこちない関係の二人だが、ウォマの思いを叶えたいと血のつながらぬ父と息子は旅を続けた。チベット高原の圧倒的な風景の中でラサへの巡礼の旅を続け、約束を果たそうとするそれぞれの想いを描く。ふたりはある日、母を亡くした一頭の仔ロバと出会い、ともに聖地ラサへと巡礼の道を歩きつづける。この仔ロバの名演も忘れがたい。悲しみ、後悔、嫉妬、わだかまり、それらを超えようとする夫と妻、息子の姿を通して、死者とともに生きるチベットの祈りの心が伝わってくる。
夫役はチベット高原の東にあるギャロン出身の国際的歌手ヨンジョンジャ。孔雀の舞で有名な舞踏家ヤン・リーピンの舞台「クラナゾ蔵謎」のプロデューサーでもある。これは日本でも公演があった。民族衣装が美しい妻役は人気女優のニマソンソン。多くの候補者の中から「目力」で選ばれた息子役はスィチョクジャ。

ラサへ五体投地で巡礼する映画としては、『ラサへの歩き方 〜祈りの2400km』(2017)が記憶に新しい。それにしても五体投地しながら何ヶ月も、時には1年以上もかけてラサを目指す旅を続けるチベットの人たちの行動には頭が下がる。この作品では、自分の病気を知った妻が、亡くなった前夫との約束だったラサへ命をかけて巡礼に出る。彼女には実家に置いてきてしまった息子ノルウがいる。その事情については描かれていないが、母に捨てられたと思いノルウは悲しい思いで生きていた。ノルウも母を追ったが、母と合流できても、自分が母と暮らせなかったのはロルジェが子供を連れてくることを嫌ったからだと思い、ロルジェとしっくりいかない。でも母の思いをかなえたいと思い巡礼を続ける。この二人の和解物語とも言える。圧倒的なチベットの自然の前に人間はちっぽけだけど、こういう中で気持ちが癒されていくのかもしれない。
中国映画祭「電影2019」では『アラ・チャンソ』というタイトルで上映された(暁)。
 

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中国映画祭「電影2019」でのソンタルジャ 監督 撮影 宮崎暁美


全身を地面に付けながら、何ヶ月もかけて聖地ラサへ向かう五体投地。この作品で初めて知った。何と過酷な巡礼なのだろう。よほどの信仰心がないとできないに違いない。
理由を告げずに、その巡礼に出掛けた妻。同行する夫と前夫との息子。見知らぬ人の温情が彼らを支えた。その温かさは見ている者の心も温かくする。
妻を襲う病魔と明らかになる巡礼理由。男と少年は女に代わってラサを目指し、本当の親子のように距離を縮めていく。巡礼を経て結ばれていった2人の絆に今後の希望を感じた。(堀)

 
30年程前にラサを訪れたことがある。ロルジェたちはチベット高原の東端ギャロンから何日も何日もかけて、やっと憧れのラサの町に到達するが、私はそのギャロンに程近い四川省の成都から飛行機で飛んだからご利益は彼らの千分の1もないだろう。ラサのジョカン寺で、大勢のチベットの人たちが五体投地している姿を見ながら、真似てみたが、2回が精一杯。床拭き掃除の要領ね・・・などと思ったがとんでもない。全身を地面に打ちつけ、尺取虫のように進む五体投地での巡礼は、まさに命がけ。それでも前夫との約束を果たしたいと巡礼に出るウォマ。チベットの人は、信仰心が厚いだけでなく、約束は必ず守る人たちだと教えられた。

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ジンバさん (撮影:景山咲子)

巡礼途中で困っている人を無償で助けるのもまたチベット人の心。ウォマが倒れた時に助けたダンダル一家の主を演じたジンバさんは、2019年の東京フィルメックスで最優秀作品賞に輝いたペマツェテン監督の『気球』で主演を務めていて、来日された。ペマツェテン監督の前作『轢き殺された羊』に続いての主演。『巡礼の約束』では、脇にまわって、さりげなく人助けする男を演じている。
ちなみにダンダル家はチベット自治区に近い地で暮らしていてチベット語を話していて、ロルジェたちの話すギャロン語とは違うそうだ。同じチベット文化圏で、チベット語からの借用語も多いギャロン語だが、映画を注意して観ていると、言葉が違うこともわかって興味深い。(咲)





posted by akemi at 07:12| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする