2020年01月22日
プリズン・サークル
監督・制作・編集:坂上香
撮影:南幸男、坂上香
録音:森英司
アニメーション監督:若見ありさ
音楽:松本祐一、鈴木治行
「島根あさひ社会復帰促進センター」は、官民協働の新しい刑務所。警備や職業訓練などを民間が担い、ドアの施錠や食事の搬送は自動化され、ICタグとCCTVカメラが受刑者を監視する。しかし、その真の新しさは、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを日本で唯一導入している点にある。なぜ自分は今ここにいるのか、いかにして償うのか? 彼らが向き合うのは、犯した罪だけではない。幼い頃に経験した貧困、いじめ、虐待、差別などの記憶。痛み、悲しみ、恥辱や怒りといった感情。そして、それらを表現する言葉を獲得していく…。
受刑者同士が丸く座って対話をし、犯罪の原因を探って更生を促すプログラムを行う刑務所のドキュメンタリー。民間人も関わる一方で施錠や食事の運搬は自動化。システマティックな管理に刑務所の職員の存在が希薄になり、刑務所の既存概念を覆された。
受刑者の語る物語をサンドアートで表現していたが、これが個々の話ではなく、多くの受刑者との共通性を感じさせる。育ちが及ぼす影響のなんと大きいことか!
プログラムを受けることで変化が現れ、出所者の再犯率は半分以下だという。出所後の集まりも映し出し、みなで支え合っているのが伝わってきた。それでもまた犯罪に手を染める者も。更生の難しさを改めて知った。(堀)
2019年/日本/136分
配給:東風
(C)2019 Kaori Sakagami
公式サイト:https://prison-circle.com/
★2020年1月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
<イベント情報>
渋谷 シアター・イメージフォーラムにて実施
1月25日(土) 10:30の回、13:15の回の各回上映後、坂上香監督による舞台挨拶
1/27(月)18:45の回上映後:信田さよ子さん(原宿カウンセリングセンター所長)・坂上香監督
1/28(火)18:45の回上映後:若見ありささん(アニメーション監督)・坂上香監督
1/29(水)18:45の回上映後:毛利真弓さん(同志社大学准教授・元矯正職員)・坂上香監督
1/30(木)18:45の回上映後:杉山春さん(ルポライター)・坂上香監督
1/31(金)18:45の回上映後:くるみざわしんさん(劇作家・精神科医)・坂上香監督
淪落の人 原題:淪落人 英題:Still Human
製作:フルーツ・チャン
監督・脚本・編集:オリヴァー・チャン
出演:アンソニー・ウォン、クリセル・コンサンジ、サム・リー、セシリア・イップ、ヒミー・ウォン
事故で半身不随になったリョン・チョンウィン(アンソニー・ウォン)は妻と別れ、息子とは別々に暮らしている。人生を諦めた彼の楽しみは、同僚だったファイ(サム・リー)と話すことと一人息子の成長だった。ある日、フィリピン人の住み込み家政婦エヴリン(クリセル・コンサンジ)がやって来る。リョンは、広東語で意思の疎通ができないことにいら立つが、つたない英語でコミュニケーションを図る。
1987年生まれの女性監督 オリヴァー・チャンの長編第一作。ヒロインは本作が映画初出演という’84年生まれのフィリピン女優。夢を具現化する瑞々しい2人を59歳の名優アンソニー・ウォンが温かく包含するような映画だ。
ポスターにある、長い黒髪をなびかせたフィリピン人女性が車椅子に座る中年男性の後ろに乗っているイメージは、監督が実際に街なかで見かけた風景だそう。これに象徴されるかの如く、映画の中を優しい風が吹き、陽に照らされた笑顔を纏う空気が流れる。もちろん辛く厳しい現実もつぶさに描かれる。貧困、障害、孤独、出稼ぎ、言葉や人種の分断…2人が立ち向かう現実は壁ばかりだ。人生のどん底にある2人といっていい。それでも、チャン監督は2人に希望を抱かせる。大きなカタルシスが待つ終盤へ向かって、ゆっくりと温かく、時には大笑いさせながら歩を進めてゆく。
香港の四季に人生の四季を重ねたような話法。長編デビュー作にして、これだけ卓越した技量を持つ監督は珍しい。自身の母が事故で脊髄を損傷し、日常には車椅子で過ごす母の姿が常にあったという。障害者と介護者の関係性を映画化したいと起草したのも自然な思いからだろう。
脚本を読んだウォンは意気に感じ、ノーギャラで出演を決めた。無表情に諦観を表出しながら、時には感情をむき出しにし、落ちぶれた(淪落)自分を憐れむ。ウォンの演技は絶品だ。監督のことは全く知らなかったのに、初めて会い、脚本の話を聞いた時、「この人を他人を騙さない」と信頼し、自ら「ノーギャラで」と監督に申し出たという。映画の売り上げ金から、ウォンのギャラが分配される契約とのこと。ヒットしてほしい!と切に願いたくなる秀作だ。(幸)
事故で下半身不随となった中年男性、広東語を話せないフイリピン人家政婦。意思疎通もままならなかった2人が次第に心を通わせ、互いに相手の夢を叶えるきっかけを作るとは。
家政婦は「人生は気持ちの持ちよう」という。しかし、それは支え合う人がいてこそではないか。前向きな気持ちは相乗効果をもたらし、周りも幸せにするのだと改めて感じた。(堀)
アンソニー・ウォン(黄秋生)は、2014年に起こった「雨傘革命」の折、民主化要求運動支持を公言したため、中国資本の多くなった香港映画界で封殺され、5年間ほとんど収入がなかったと明かしている。そんな彼が、久しぶりに出演することになった本作をノーギャラで受けた意味は大きい。
『八仙飯店之人肉饅頭』(1993年)『ビースト・コップ 野獣刑警』(1998年)に続いて、『淪落の人』で3度目の香港電影金像奨最優秀主演男優賞に輝いたのも嬉しい。思えば、東京国際ファンタスティック映画祭のオールナイトで『八仙飯店之人肉饅頭』を観た時には怪優ぶりに度肝を抜かれたものだ。レスリー・チャン迷の私にとって、全く好みの俳優じゃなかったのに、アン・ホイ(許鞍華)監督の『千言萬語』(1999年)でのイタリア人の神父役あたりから気になりだし、秋生ちゃんといつしか、ちゃん付けで呼ぶようにまでなってしまった。
そんな彼が久しぶりに出た『淪落の人』は、かつての香港映画を思わせてくれて、期待以上だった。
フルーツ・チャンが路上で見出したサム・リーが、ひょうひょうとした友人役なのも楽しいし、妹役でイップ・トン(葉童、セシリア・イップ)が出てくるのも嬉しい。それにしても、『風の輝く朝に』で楚々とした美人だったイップ・トンが、すっかりおばさんになってしまったのには、びっくり。(失礼!)
エヴリンが日曜日にフィリピンのアマさん(家政婦)仲間と中環(セントラル)で過ごす場面も香港ならではだ。携帯で「ここよ」と連絡を取り合うが、携帯のない時代から、フィリピンのアマさんたちは日曜日になるとちゃんとお仲間で集まっていて、あの頃は前もって示し合わせていたのかなぁと。(私たちだって、友達と会うときはそうだった!)デモが行われるようになった今は、デモを避けて中心街でないところで集まっているのかしらと心配にもなる。
とにかく語りたいことがいっぱいの『淪落の人』。12月31日付けのスタッフ日記でも熱く語っているので、ご覧ください♪(咲)
配給:武蔵野エンタテインメント
2018年製作/112分/G/香港
NO CEILING FILM PRODUCTION LIMITED (C) 2018
公式サイト:http://rinraku.musashino-k.jp/
★2020年2月1日(土)より 新宿武蔵野館ほか にて公開★
母との約束、250通の手紙 原題:La promessa dell'alba

監督・脚本:エリック・バルビエ
共同脚本:マリー・エイナール
原作:ロマン・ガリ
出演:シャルロット・ゲインズブール、ピエール・ニネ、ディディエ・ブルドン、ジャン=ピエール・ダルッサン、キャサリン・マコーマックフィネガン・オールドフィールド、パウエル・ビュシャルスキー、ネモ・シフマン
ユダヤ系ポーランド人移民である母のニーナと2人で暮らしてきたロマンは、ニーナからフランス軍に入って勲章を授与された後に大使になり、作家としても活躍することを期待され続ける。重圧に苦しみながらも、ロマンは母の願いをかなえようと奮闘する。やがて軍に入った彼は母からの電話や手紙を支えにパイロットとして活躍し、さらに作家デビューも果たす。だがニーナの手紙には、その成功を喜ぶ様子はなかった。
ジーン・セバーグの夫であり映画監督にして外交官、衝撃的な拳銃自殺を遂げたフランスの国民的文豪ロマン・ガリの視点から綴られた伝記映画である。
稀代の熱演を見せるロマン・ガリ役のピエール・ニネ(『イヴ・サンローラン』『婚約者の友人』)より光彩を放ち、圧倒的な存在感を発揮するのは、母役のシャルロット・ゲンズブールだ。これほど強烈な母親像を表現されたら、通常は観客が退いてしまう。何しろポーランドの寒村で、
「息子は将来フランスの勲章を貰う!大使になるのよ!」
と触れまわり、
「お前はヒトラーを暗殺する使命がある!」
などと息子へ激を飛ばし、"妄想訓練"に励ませるのだ。
熱い激情的ユーモアを交えて観客を大笑いさせつつ、全てに規格外、常軌を逸したこの母親が息子へ伝え継いだ言葉。「小説を書き続けなさい」
戦地へ赴いた息子に送った250通の手紙に、どんな秘密が宿っていたのか...。ぜひ映画館で体感してほしい。年初にフランスから贈られた心沁み入る名作である。(幸)
息子の将来を信じてやまない母。期待を一身に背負う息子。傍から見ればただの親バカだが、母の叱咤激励を糧にすべてを成し遂げた息子が実在の人物と知って驚いた。よくもグレずに真っすぐ育ったものである。
母役シャルロット・ゲンズブールは自然に歳を重ねていき、いつの間にか老婆になっていた。その描写力は見事!(堀)
配給:松竹
2017年製作/131分/R15+/フランス・ベルギー合作
(C) 2017 - JERICO-PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION - NEXUS FACTORY - UMEDIA
公式サイト:https://250letters.jp/
★2020年1月31日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー★