2020年01月11日
ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を 原題:Vom Lokfuhrer, der die Liebe suchte...
監督:ファイト・ヘルマー(『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』『ツバルTSUVALU』)
出演:
ミキ・マノイロヴィッチ(旧ユーゴスラヴィア<現セルビア共和国>)
ドニ・ラヴァン(フランス)(『ポンヌフの恋人』)
チュルパン・ハマートヴァ(ロシア)
イスマイル・クルザデ(フランス)
マヤ・モルゲンステルン(ルーマニア)
パス・ヴェガ(スペイン)
フランキー・ウォラック(フランス)
ボリアナ・マノイロワ(ブルガリア)
サヨラ・サファーロワ(ドイツ)
マナル・イッサ(フランス)
イルメナ・チチコヴァ(ブルガリア)
ラ・シュリアシュビリ(グルジア)
定年を迎える鉄道運転士ヌルラン。最後の乗車となるバクー行きの列車が、草原を抜け、両脇に住宅が迫る地区に入っていく。お茶を運ぶ少年が列車の通過を告げる笛を鳴らすと、お茶を飲んだり、ゲームに興じたりしていた人たちが大急ぎで線路から退散する。ロープを渡して干していた洗濯物を大急ぎで取り込む女性もいる。終点に着き、ヌルランは青いブラジャーが列車の正面に引っかかっているのを見つける。翌日、ヌルランは可愛い青いブラの持ち主を探して、線路脇にある家々を訪ねて歩く・・・
ブラをつけて踊ってみせる女性、サイズが合わないのを示す女性、夫が怒り出す家も。言葉を廃し、動作と音楽だけで、しっかり物語を綴っています。
ドイツ人のヘルマー監督が、この映画を撮りたいと思ったのは、2014年にアゼルバイジャンの首都バクー近くの上海と呼ばれている線路の脇に住宅が迫る地区に取り壊しの予算が割り当てられたと聞いたことから。2017年までに何とか製作資金を集め、町が消失する前に撮影することが出来たそうです。
列車の走る先には、バクー名物の炎が揺れるような3つの高層ビル「フレイムタワー」も見えていて、開発の波がすぐそこに押し寄せているのを感じさせてくれました。
列車が通るたびに、線路でくつろぐ人たちがあわてて避けるようなのどかな暮らしもいつかなくなってしまうのでしょうか。
2018年、第31回東京国際映画祭コンペティション部門で『ブラ物語』のタイトルで上映され、ヘルマー監督と鉄道運転士役のドニ・ラバンはじめ5人の女優さんたちパス・ベガ、フランキー・ウォラック、サヨラ・サファーロワ、ボリアナ・マノイロワ、イルメナ・チチコバが世界各地から駆けつけました。
Q&Aで印象に残ったことをここにお届けします。
監督:あの地区では、20分ごとに列車が走っていて、それを狙って撮影したのですが、とにかく大変でストレスもありました。運転士が定年後に帰る設定の山の上の家は、標高2600m位のところにあって、9月には雪が降るのでその前に大急ぎで撮影。機材や食糧を運ぶのも大変でした。
ドニ・ラヴァン:監督とは、『ツバルTSUVALU』でも組みましたが、その時よりもさらにクレイジーでした。美人ばかりの現場で、3ヶ国語を駆使しながらの撮影でした。どこにそんなエネルギーがあるのかと感心しました。
女優さんたちからは、
「半裸で踊るという噂が広まって人が集まり、警察が来て、緊迫感の中で撮影しました」
「言葉に頼らないスリリングで濃縮した時間でした」
「まだ完成した映画を観ていないので楽しみ」といった話が語られました。
ファイト・ヘルマー監督には、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』が公開された折にインタビューしています。
これまでの作品をみると、初の長編『ツバル』はブルガリアで撮影。2003年『ゲート・トゥ・ヘヴン』はフランクフルト空港を舞台にした国際色豊かな恋愛コメディ。2008年『Absurdistan』は、アゼルバイジャンで撮った民族色豊かな全編ロシア語のラブ・コメディ。
2011年『Baikonur』は、カザフスタンを舞台にした、カザフスタンの少年とフランス人女性宇宙飛行士の恋。これまでも様々な文化や音楽、人種や民族を融合させたユニークでアーティステックな作品を発表し続けています。
インタビューの最後に、またアゼルバイジャンで撮る予定とおっしゃっていたのが、本作という次第でした。アゼルバイジャンの風光明媚な山上の村と、住宅が線路に迫る郷愁溢れる光景をたっぷり楽しませてくれる1作です。(咲)
2018年/ドイツ・アゼルバイジャン/90分
配給:キュリオスコープ
公式サイト:http://www.curiouscope.jp/thebra/
★2020年1月18日(土)新宿K’s cinema他にて公開
インディペンデントリビング
監督:田中悠輝
プロデューサー:鎌仲ひとみ
撮影:辻井潔 田中悠輝 岩田まき子 小角元哉 マット・フィールド
構成・編集:辻井潔
音楽:ガナリヤ サイレントニクス Cloud Nine(9)
物語の舞台は大阪にある自立生活センター。ここは障害当事者が運営をし、日常的に手助けを必要とする人が、一人で暮らせるよう支援をしている。先天的なものだけでなく、病気や事故などにより様々な障害を抱えながら、家族の元や施設ではなく、自立生活を希望する人たち。自由と引き換えに、リスクや責任を負うことになる自立生活は、彼らにとってまさに“命がけ”のチャレンジ。家族との衝突、介助者とのコミュニケーションなど課題も多く、時に失敗することもある。しかし、自ら決断し、行動することで彼らはささやかに、確実に変化をしていく。
自立生活センターとは?
重度の障害があっても地域で自立して生活ができるように、必要なサービスを提供する事業体であり、同時に障害者の権利の獲得を求める運動体である。センターは障害当事者により運営され、身体障害に限らず、知的、精神の障害者のサポートもしている。1972年、アメリカ・カリフォルニア州に世界初の自立生活センターが誕生。1986年に日本でも初めての自立生活センターが生まれた。2019年現在、全国に121の自立生活センターがある。
(公式サイトより転載)
2018年に大泉洋主演で『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』という作品がありました。筋ジストロフィーに罹った鹿野靖明さんがボランティアの支えを受けながら、自らの夢や欲に素直に生き、皆に愛され、またボランティアも彼を支えることで自らの生きる姿勢を見つけていく姿を描いた人間ドラマです。この作品に近いのかなと思いながら試写を見ましたが、ちょっと違っていました。
日常的に介助を必要とする障碍者が、自らが自立して地域で生活するだけでなく、自分以外の障碍者が自立した生活を送れるよう、組織を作って積極的に活動していたのです。
登場人物の1人、渕上さんが終盤に語った「この仕事をやるために頸損になったんだと今は思える」という言葉に驚くとともに、自分の力で生きている人の力強さを感じました。
障害を持っていても自立した生活を送ることができる。この作品を見ることで、「介助は家族がするもの」という固定概念が変わっていくのではないかと思います。(堀)
試写を観ながらすぐ思い浮かんだのが、やはり『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』でした。このドキュメンタリーではセンターを運営しているのが、障がいのある当事者です。介護を受ける側でもありますが、受けるばかりでなく他の必要とする人のために、働いています。足りないもの必要なことが一番わかるのは当事者ですもんね。日本のお偉方の打ち出す政策やなんやかやが変なのは、自分が困ってもいなくて、体験もなければ想像することもできないからでしょう。体験学習ができないなら(お年寄りが多いからね)当事者の声をよっく吸い上げてほしいものです。
嘆きはさておき、この映画です。登場する人たちは元気でよく笑い、わがままだって言います。田中監督は介護ヘルパーとして働いていたときに、鎌仲ひとみ監督(今作はプロデューサー)のぶんぶんフィルムのスタッフになったそうです。至近距離から撮られた初監督作品。(白)
2019年/日本/カラー/98分
配給:ぶんぶんフィルムズ
(C) ぶんぶんフィルムズ
公式サイト:https://bunbunfilms.com/filmil/
★2020年1月11日(土)より、大阪・第七藝術劇場にて先行上映。2020年春、東京・ユーロスペースほか全国順次公開
フォードvsフェラーリ(原題・英題:Ford v. Ferrari)
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:マット・デイモン、クリスチャン・ベイル、トレイシー・レッツ、カトリーナ・バルフ、ノア・ジュプ
ル・マンでの勝利という、フォード・モーター社の使命を受けたカー・エンジニアのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)。常勝チームのフェラーリに勝つためには、フェラーリを超える新しい車の開発、優秀なドライバーが必要だった。彼は、破天荒なイギリス人レーサー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)に目をつける。限られた資金・時間の中、シェルビーとマイルズは、力を合わせて立ちはだかる数々の乗り越え、いよいよ1966年のル・マン24時間耐久レースで長年絶対王者として君臨しているエンツォ・フェラーリ率いるフェラーリ社に挑戦することになる。
いきなりレースシーンで始まり、しかも運転席からの視界で進んでいく。まるで自分が運転しているかのよう。ものすごい迫力に作品の期待値が高まります。しかし、この作品の良さはそういったメカニックな面だけではありません。ル・マンでの優勝に挑む男たちの熱い友情が作品のいちばんの見どころ。これはいろいろなサイトでも書かれています。
シネマジャーナルとして注目したいのは、クリスチャン・ベイルが演じたケンを支えた妻。夫が悔しい思いをしているときはそっと寄り添い、夢を諦めようとしているときは厳しいくらいに鼓舞する。しかも夫がレースで留守をしている時はしっかり家を守る。なかなかできることではありません。男が何か成し遂げるときには支える妻がいるものなのよねと納得してしまいました。
さて、肝心のレースの結果は。。。「そんなのあり?」と驚くようなクライマックスに怒りがこみ上げてくるかもしれません。しかし、意外に本人たちの方があっさりしているもの。浮かれるフォードたちを尻目に、シェルビーとマイルズがフェラーリとレースを愛するものにしかわからない敬意を互いに示していたシーンに胸が熱くなりました。(堀)
2019年/アメリカ/カラー/英語/153分
配給: ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari/
★2020年1月10日(金)全国ロードショー
ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋(原題:LONG SHOT)
監督:ショナサン・レウィン
脚本:ダン・スターリング、リズ・ハンナ
原案:ダン・スターリング
出演:シャーリーズ・セロン、セス・ローゲン、オシェア・ジャクソン・Jr、アンディ・サーキス、アレクサンダー・スカルスガルド
アメリカの国務長官として活躍する才色兼備なシャーロット・フィールド(シャーリーズ・セロン)は、大統領選への出馬を目前としていた。そんなある日、シャーロットはジャーナリストのフレッド・フラスキー(セス・ローゲン)と出会う。才能はあるものの、頑固な性格があだとなり、職を失っていたフレッドとは実家が近所で、シャーロットはフレッドにとって初恋の人だったのだ。予想外の再会を果たした2人は、思い出話に花を咲かせる。その後、シャーロットは若き日の自分をよく知るフレッドに、スピーチ原稿作りを依頼。原稿を書き進めるうちに、2人はいつしか惹かれ合っていく。しかし、越えなければならない高いハードルがいくつも待ち受けていた。
才色兼備のシャーリーズ・セロンぴったりな役どころをユーモアたっぷりに演じていて、とにかく見ていて楽しい。相手役のジャーナリストをセス・ローゲンが演じていて、見た目的にはお世辞にもイケメンとは言えないのだけれど、シャーロットとうまくいくようになるに従って、段々カッコよく見えてくる。むしろ、本来イケメンのアレクサンダー・スカルスガルドがダサい感じ。愛されている自信からでしょうか。不思議です。
シャーロットはロクセットの「愛のぬくもり(It Must Have Been Love)」が好きだというセリフが出てくるのですが、これは『プリティ・ウーマン』の挿入歌としてヒットした曲。二人が愛を確かめ合うシーンでフレッドがスマホを使って流していたのですが、スマホの画面がちらっと映り、そこには『プリティ・ウーマン』のビジュアルが! しかも、そのとき、シャーロットが着ていたのが真っ赤なイブニングドレス。『プリティ・ウーマン』でヴィヴィアンがエドワードと初めてオペラに行く際に着ていたのも真っ赤なドレスでしたから、オマージュなのかもしれません。スマホの画面は本当に一瞬なので、作品をご覧になるときはよ~く注意してくださいね。(堀)
2019年/アメリカ/カラー/英語/ 125分/シネマスコーフ/5.1ch/PG12
配給:ホニーキャニオン
© 2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://longshot-movie.jp/
★2020年1月3日(金)、TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー