2020年01月31日

グッドライアー 偽りのゲーム 原題:THE GOOD LIAR

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監督:ビル・コンドン 
原作:ニコラス・サール
脚本:ジェフリー・ハッチャー
出演:ヘレン・ミレン、イアン・マッケラン、ラッセル・トベイ、ジム・カーター

ベテラン詐欺師のロイ(イアン・マッケラン)は、出会い系サイトで夫が他界して間もない資産家のベティ(ヘレン・ミレン)をターゲットに定める。ロイが全ての財産をだまし取ろうとひそかに準備を進める一方で、世間知らずのベティは彼に心を許していく。

美し過ぎる74歳(!)と恐るべき80歳!英国を代表する名優同士の競演である。これにジム・カーター(矍鑠とした71歳。「ダウントン・アビー」の執事)も絡み、騙し騙されを繰り広げた後、思わぬ展開が...ネタばれご法度作品のため印象を中心にご紹介したい。

出演者の平均年齢は高いとしても、決して老練な話法の映画ではない。編集のテンポ、リズムとも若々しい躍動に満ちている。
象徴するのはマッケランの闊達なウォーキング!長い手脚、広い歩幅、高齢者の摺り足とは真逆な運び。ビジネスバッグを後ろ手に持ったスーツ姿の何と粋なこと!
マッケランのアクションシーンは流れるように無駄のない一瞬の身体の動きだ。お見逃しなく。

対するヘレン・ミレンのエレガントな物腰。初対面で見せる恥じらんだ初々しい表情。カップを持つ仕草まで気品を滲ませる。高級オーデコロンの薫りが画面から漂ってきそうだ。
知性・教養があることをひけらかさず、お嬢さまのような無防備さも併せ持つ微妙な役柄にグラデーションをつけて演じるのはミレンならではの技量である。

鉄道局が特別許可したというロンドンの地下鉄。ピカデリー街にある書店、老舗帽子店や有名百貨店など、目眩くロンドンロケから某国へと移動するにしたがって映像は緊張感を帯びてゆく。

ビル・コンドン監督とマッケランは『ゴッド・アンド・モンスター』以降、『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』などタッグが多い。オープンゲイ同士ということもあってか、息ピッタリな様子が伝わってきた。
前2作品同様、諦観とブラックユーモア、切なさが幸福な融合を果たすコンドン特有の話法である。


配給:ワーナー・ブラザース映画
2019年製作/109分/G/アメリカ
C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
公式HP:http://wwws.warnerbros.co.jp/goodliar/
★2020年2月7日(金)より、全国公開★
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2020年01月27日

ロニートとエスティ 彼女たちの選択 原題:Disobedience

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監督:セバスティアン・レリオ
脚本:セバスティアン・レリオ、レベッカ・レンキェヴィチ
原作:ナオミ・オルダーマン
撮影監督:ダニー・コーエン
製作:フリーダ・トレスブランコ、エド・ギニー、レイチェル・ワイズ
出演:レイチェル・ワイズ、レイチェル・マクアダムス、アレッサンドロ・ニヴォラ

厳しいユダヤコミュニティーで育ったロニートとエスティは恋に落ちるが、おきてによって許されぬ行為とされてしまう。それを受けて、ユダヤ教指導者の娘だったロニートは父と信仰を捨てて故郷を離れ、エスティは幼なじみのドヴィッドの妻になりユダヤ社会で生きることにする。時は流れ、父の死を契機に帰郷したロニートは、エスティと再会する。互いに対する思いを抑え切れない二人は、ある決断を下す。

原題の「disobedience」とは、”不服従”を意味する。都会のロンドンに於いて、これほど厳格な宗教的戒律に支配される女たちがいたとは衝撃だ。ユダヤ教原理主義のコミュニティで育ち、ラビの娘として生まれながらも”不服従”の人生を選択したロニートを演じるレイチェル・ワイズの瞳には強い意思が感じられた。製作も兼ねたワイズは、この役に対する並々ならぬ思い入れがあったのだろう。
本作では女性同士の恋愛という他に、幾多の”禁忌”が示される。舞台となるユダヤ教コミュニティでは、女性信者は鬘を装着しなくてはならない。鬘を外していいのは夫とベッドに入る時だけ。安息日に車を運転できるのは男性のみ。教会でも男女同席出来ない。男性信者はラビらと同等の1階席で、女性は2階席と明確に分けられている。
合理的根拠があるとは思えないこうした掟に諾々と従い、ユダヤ教コミュニティに馴染んでいるのはラビの妻となったエスティである。見るからに可愛らしく愛される容姿のレイチェル・マクアダムスにエスティは適役だ。が、安定した情緒と居住に服従した日常がロニートの出現で揺れ動く。

ロンドンの重く垂れ込めた空、狭い人間関係に支配されたコミュニティ。閉塞感から一時期解放された2人が情念を吐き出すラブシーンは、それぞれの想いの発露まで表出し、本作の白眉と言える。”禁忌”と解放、服従と”不服従”。複雑な相対する見えない内心を俳優たちの身体を通して見事に描写したセバスティアン・レリオ監督は、前作の『ナチュラル・ウーマン』同様、LGBTQ問題との親和力があるようだ。初春に届けられた大人のための秀作である。(幸)



ユダヤ人をバビロニアに強制移住させた前586年のバビロン捕囚以降、様々な事情で世界中に散らばったユダヤの人たち。世俗的な暮らしをしている人たちもいれば、世界のどこに移り住んでも、連綿とユダヤの戒律を守っている正統派の人たちがいることを、これまで様々な映画で観てきました。
例えば、『僕と未来とブエノスアイレス』(ダニエル・ブルマン監督)ではアルゼンチンで、『ノラの遺言』(マリアナ・チェニーリョ監督)ではメキシコで頑なにユダヤの戒律に基づいて暮らしている人たちがいることに驚かされました。
一方、同性愛が禁忌のユダヤ社会で育っても、自分の気持ちに正直に同性を愛する人がいることも、様々な映画で観てきました。
東京国際映画祭の特集「イスラエル映画の現在 2018」で上映された『赤い子牛』(ツィビア・バルカイ・ヤコブ監督、2018年、イスラエル)では、ユダヤ教聖職者の娘が活発な女性を好きになり、それまで当たり前だと思っていた正統派としての暮らしから、だんだん自我に目覚めていく姿を描いていました。本作と同じく「選択の自由」が映画のテーマの一つでした。
『赤い子牛』監督Q&A 

『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』では、教師のエスティは戒律の中で生きることを選び、尊敬する夫との結婚生活を幸せだと言い聞かせていたのですが、ロニートとの再会で気持ちが揺らぎます。そんな思いの中、シナゴーグでラビが選択の自由について語るのを聞きます。
伝統を守ることも大切だけれど、自分の気持ちに正直であることもまた生きる上で忘れてはならないことだと感じさせてくれました。(咲)


配給:ファントム・フィルム
©2018 Channel Four Television Corporation andCandlelight Productions, LLC. All Rights Reserved
2017年/イギリス/英語/DCP/カラー/114分/
公式サイト:http://phantom-film.com/ronit-esti/
★2020年2月7日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国ロードショー★
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2020年01月26日

バッドボーイズ フォー・ライフ(原題:Bad Boys for Life)

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監督:アディル・エル・アルビ、ビラル・ファラー
脚本:クリス・ブレムナー、ピーター・クレイグ、ジョー・カーナハン
撮影:ロブレヒト・ハイファールト
出演:ウィル・スミス(マイク・ローリー)、マーティン・ローレンス(マーカス・バーネット)、バネッサ・ハジェンス(ケリー)、パオラ・ヌニェス(リタ)、アレクサンダー・ルドウィク(ドーン)、チャールズ・メルトン(レイフ)、ケイト・デル・カスティーリョ(イサベル)、ニッキー・ジャム(ズウェイロ)、ジョー・パントリアーノ(ハワード警部)、ジェイコブ・スキピオ(アルマンド)

バッド・ボーイズのマイクとマーカスも立派な中年。マーカスは家族のために危険な現役から引退しようと考えている。一方いまだに独身のマイクはリッチでイケメン、体型も保ち愛車のポルシェをかっ飛ばしている。そんな中、マイクは若手エリート捜査官で結成されたAMMO(マイアミ・ハイテク捜査班)に配属が決まる。狙撃事件が相次ぎ、捜査を進めるうちにかつて自分が関わった事件とつながる人間ばかりだと気付く。ついにマイクも命を狙われ、引退生活を謳歌していたマーカスとバッド・ボーイズを再結成する。いったい誰がなんのために??

第1作目の『バッド・ボーイズ』(1995)はウィル・スミスの初主演作。『バッド・ボーイズ2バッド』(2003)から17年。長くお待たせした二人が帰ってきました。冒頭の派手なカーチェイスのシーンが長くて、二人の復帰を祝っているかのようです。しかーし、実は事件でもなんでもなく、マーカスの初孫誕生のために急いでいるとわかって爆笑。巻き込まれるほかの車はえらい迷惑です。
バッド・ボーイのまま中年になったマイクは、生意気な若手捜査官たちに年寄扱いされるのにいちいち腹を立てているのが切なくもおかしいです。
製作のブラッカイマーとチャド・オーマンが起用した若手監督アディル・エル・アルビ、ビラル・ファラーは子どものころにこの作品を観ていて、3作目を監督できるなんてファン冥利につきると言っています。おまけに前2作の監督だったマイケル・ベイ監督までカメオ出演(探してね)。殺伐とした事件とアクションに、ユーモア、バッドボーイズだけでなく女優陣もおおいに活躍するこの作品、退屈させません。(白)


2020年/アメリカ/カラー/シネスコ/124分
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

https://www.badboys-movie.jp/
★2020年1月31日(金)全国ロードショー
posted by shiraishi at 18:38| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

前田建設ファンタジー営業部

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監督:英勉(はなぶさつとむ)
原作:前田建設工業株式会社『前田建設ファンタジー営業部1「マジンガーZ」地下格納庫編』(幻冬舎文庫)
脚本:上田誠
音楽:坂本英城
出演:高杉真宙(ドイ)、上地雄輔(ベッショ)、岸井ゆきの(エモト)、本多力(チカダ)、町田啓太(ヤマダ)、六角精児(フワ)、小木博明(アサガワ)

2003年。前田建設工業の広報グループで働くドイは、働くことに情熱を見出せず、粛々と日々を送っていた。ある日リーダーのアサガワが「マジンガーZの格納庫が作れるか?」と唐突な質問をする。冗談だろうと適当な返事をすると、同僚のベッショやエモト、チカダがそれぞれの見解を述べ始めた。特にアニメおたくのチカダの熱さは半端ない。あれよあれよというまに、これが一大プロジェクトになっていくとは。

前田建設工業株式会社は実在の会社です。ファンタジー営業部が発足し、そのプロジェクトを細部まできちんと積算し、ウェブで公開していったのも実際にあったこと。社是の「誠実・意欲・技術」がそのまま可視化されたような映画です。
アニメの「マジンガーZ」は放送当時見ていて主題歌も覚えていますが、格納庫については記憶がありません。その格納庫が建設可能かどうかを、こんなに大真面目に検討していた人たちがいたことをこの作品で初めて知りました。この取り組みに専門家たちが、多大な協力を惜しまなかったこと、その後も数々のプロジェクトを手がけていったことにすっかり感心。こんなに頭の柔らかいプロフェッショナルたちが業界には存在するのですね。政治の世界にもいてほしいです。
はかない希みはさておき、初めはふふんという態度だったドイが机から離れて、様々な現場の専門家たちに出会って変化していく様子が見どころです。掘削と土質の専門家・ヤマダの純情なおたくっぷりに、エモトならずとも胸キュンです。しかし町田啓太くん限定かも。(白)


現在も更新され続けている「前田建設ファンタジー営業部」
☆撮影日記もあります
http://www.maeda.co.jp/fantasy/index.html

2019年/日本/カラー/シネスコ/115分
配給:バンダイナムコアーツ=東京テアトル
(C)前田建設/Team F (C)ダイナミック企画・東映アニメーション
https://maeda-f-movie.com/
★2020年1月31日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 17:54| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

バニシング(原題:The Vanishing)

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監督:クリストファー・ニーホルム
脚本:ケリン・ジョーンズ、ジョー・ボーン
出演:ジェラルド・バトラー(ジェームズ)、ピーター・ミュラン(トマス)、コナー・スウィンデルズ(ドナルド)、ソーレン・マリン

スコットランドの沖にあるアイリーン・モア島に3人の灯台守がやってきた。これから6週間の3人きりで灯台を守る暮らしが始まる。灯台守を25年続けているベテランのトマス、新人の若いドナルド。大柄なジェームズは粗暴だが妻子がいて、港で別れを惜しんできたばかり。
孤島の退屈な日々は、嵐の翌朝破られた。崖下に倒れている男とボートを発見し、ドナルドが降りてみるとすでに死んでいるようだった。ボートにあった木箱を引き上げようとしたとき、ドナルドは死んだと思っていた男に襲われる。必至でもみ合っているうちに男は頭を打ち、本当に死んでしまった。そしてボートと男を探して、仲間らしい2人が島にやってくる。

アイリーン・モア島の灯台守たちが失踪したのがわかったのは1900年12月のこと。ようとして行方が知れず、《フラナン諸島の謎》として、様々な憶測が流れたけれども事件は未解決のままです。大胆な解釈、脚色で映画化されたのがこの作品です。始まりは絶海の孤島の美しい自然が映し出されますが、漂流者の事件が起こってからは重苦しい空気が充満。死んだ男のボートにあった木箱には金塊がぎっしり詰め込まれていました。知らないと突っぱねる3人と、疑う2人。一気にサスペンスになだれ込みます。
人間の欲望と仲間内で生まれてくる猜疑心、罪を犯したことで苛まれる精神、どこに救いが見つかるのか?誰が助かるのか?心が疲れているときにはお勧めしません。(白)


2018年/イギリス/カラー/シネスコ/107分
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
COPYRIGHT (C) 2017 MAB DTP LTD ALL RIGHTS RESERVED
https://vanishing.jp/
★2020年1月24日(金)より全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 17:50| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月25日

嘘八百 京町ロワイヤル

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監督:武正晴
脚本:井雅子 足立紳
撮影:西村博光
音楽:富貴晴美
出演:中井貴一、佐々木蔵之介、広末涼子、友近、森川葵、山田裕貴、坂田利夫、前野朋哉、木下ほうか、塚地武雅、竜雷太、加藤雅也

かつて、大阪・堺で幻の利休の茶器で大勝負を仕掛けた古物商の則夫(中井貴一)と陶芸家の佐輔(佐々木蔵之介)。二人はそれぞれの人生を送っていたが、ひょんなことからお宝眠る古都・京都で再会を果たす。そこで出会ったのは、着物美人の志野(広末涼子)。彼女のけなげな想いにほだされて、二人は利休の茶の湯を継承し「天下一」と称された武将茶人“古田織部”の幻の茶器にまつわる人助けに乗り出すが・・・。それは、有名古美術店(加藤雅也)や大御所鑑定家(竜雷太)、陶芸王子(山田裕貴)、テレビ番組をも巻き込む大騒動に――。

古田織部の幻の茶器“はたかけ”を巡るコンゲーム。今回も仲間たちがそれぞれの特技で腕を振るい、悪徳古美術商と鑑定家を懲らしめる。
広末涼子が演じる美しい依頼人のしたたかぶりに翻弄されたかと思いきや、古物商の則夫が一枚上手で大団円に。ルパンと峰不二子を見ているような気分になった。彼と陶芸家の佐輔の友情関係もいい。こちらはルパンと次元か。第三作もぜひ!‬(堀)


2年ぶりの『嘘八百』の続編。志野が登場して、彼女を挟んだ則夫と佐輔、二人の鼻の下はどっちが長かったか?佐輔の妻康子も心穏やかならず。広末涼子さんは上映中の『太陽の家』でも棟梁(長渕剛)の過剰な親切に預かっています。ほんとにもう男って(以下自粛)。
監督・脚本の手堅さ、主演・助演の俳優さんのうまさはもちろんですが、女優さんの見せ場があると面白さ倍増、次回も二人を向こうに回して遜色のない方をぜひ登場させてください。(白)


2020年/日本/カラー/106分
配給:ギャガ
©2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会
公式サイト:https://gaga.ne.jp/uso800-2/
★2020年1月31日(金)TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
posted by ほりきみき at 19:56| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

愛国者に気をつけろ!鈴木邦男

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製作・監督・撮影・編集:中村真夕
出演:鈴木邦男、雨宮処凛、蓮池透、足立正生、木村三浩、松本麗華、上祐史浩他。

生長の家の信者の家に育ち、早稲田大学では左翼と闘った生粋の右翼活動家・鈴木邦男。17歳の時、愛国党党員だった山口二矢が、当時の社会党党首を刺殺する映像に衝撃を受け、「愛国」に身を捧げることに目覚めた。大学時代には、今の日本会議の前身となる全国学協の代表にまで登りつめるが、まもなく失墜する。
その後、自らが右翼運動に引き入れた早稲田大学の後輩、森田必勝が25歳の若さで三島由紀夫と自決したことに衝撃を受け、政治団体・一水会を立ち上げる。政治的・思想的な挫折と葛藤を繰り返す中で見えてきたのは、自らが訴えてきた「愛と正義」、「愛国心」でさえも疑い、そして異なる意見や価値観を持つ人たちの言葉に耳を傾けることだった。数奇な運命を生き抜いてきた鈴木邦男の素顔に密着したドキュメンタリー映画。

愛国を掲げる政治活動家が挫折と葛藤を経て、考え方を大きく変える。その思想の変遷から集団で正義を主張することの危うさに気付き、他者の声に耳を傾けるようになった。基盤になる考え方に共感するかどうかはすぐに答えは出せないが、この姿勢は共感できる。
作家の雨宮処凛、元「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」副代表の蓮池透、元日本赤軍メンバーで映画監督の足立正生、元オウム真理教教祖・麻原彰晃の三女である松本麗華、元オウムの上祐史浩といった人たちとも価値観の違いを超えて交流し、彼らが鈴木の印象を語る。懐の深さに慕う者も多いというが、分かる気がした。独身を貫いた理由に納得するものの、老いを迎えた、これからの鈴木の生活が心配になってしまう。‬(堀)


中村真夕監督は、ニューヨーク大学大学院で映画を学び、2006年、『ハリヨの夏』(主演:高良健吾、於保佐代子、柄本明、風吹ジュン)で監督デビュー。ドキュメンタリー映画『ナオトひとりっきり』(2015年)のトークゲストとして鈴木邦男さんに登壇してもらったことをきっかけに、彼に興味を持ち、2年間にわたって密着取材して作り上げたのが本作。長年右翼として活動してきた鈴木邦男さんが、右翼左翼問わず様々な人たちと親交のある稀有な人物であることを映し出している。
安保闘争で熱く闘った60年代70年代、右翼として活動していた鈴木邦男さん。よもや対決していた左翼の人たちと親しくすることになろうなどと想像してなかったのではないだろうか。
先日、大学の同窓会でお会いした70年代の学生運動を経験した方から、今でも当時考え方が違った人たちとはわだかまりがあって、同期全体の集まりは成立しないと聞いたばかり。世の中、政治的信条や宗教を越えて様々な人と交流する鈴木邦男さんのような人ばかりならと、ふと思う。(咲)


ドキュメンタリー映画が好きでよく観るけど、沖縄のこととか原発のこととか、社会派の作品で、時々鈴木邦男さんが映画プログラムに書いていたり、トークゲストだったりすることがあるのをみかけて、最初のころ「なぜ?」と不思議な感じがしたし違和感を感じていた。社会派で左翼系の作品に右翼の人がなぜ?協力しているんだろうと思った。でも考えてみれば、左翼も右翼も日本の今の政治を憂い、日本を少しでもよい方向に持って行きたいという思いは同じ。方法や考え方が違うだけともいえる。反発しあっていては、世の中変えていく力になっていかないという考え方から参加しているのかもしれない。今や鈴木邦男さんがそういう作品のトークとか参加するというのを見ても違和感を感じなくなった。そして、こういう人がいるというのにちょっと救いを感じる。しかし、このドキュメンタリーに出てきた若い女性たちのことは名前は知っているけど、どういう活動をしている人たちなのかよく知らず、鈴木邦男さんとの交流に興味を持った(暁)。

78分/HD/カラー/2019年
配給:オンファロスピクチャーズ
©オンファロスピクチャーズ
公式サイト:http://kuniosuzuki.com/
★2020年2月1日(土)ポレポレ東中野ほか全国順次公開

<ポレポレ東中野での上映後トーク予定>
2/1(土)  武田砂鉄 (ライター) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/2(日)  白井聡 (政治学者) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/3(月)  雨宮処凛(作家・活動家) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/5(水)  瀬々敬久(映画監督) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/6(木)  寺脇研 (元官僚・映画活動家)中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/7(金) 栗原康(政治学者) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/8(土)  香山リカ (精神科医) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/9(日) 金平茂紀 (TVジャーナリスト) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/10(月)  松本麗華 (カウンセラー) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/11(火)  内田樹(神戸女学院大学名誉教授・凱風館館長) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/12(水)  ジャン・ユンカーマン(映画監督) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/13(木)  足立正生(映画監督) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)
2/14(金)  上祐史浩(ひかりの輪代表) 中村真夕(監督)鈴木邦男(予定)

※鈴木邦男さんの登壇に関して
現在、鈴木さんは病気療養中の為、本映画のトークイベントへの登壇はすべて予定となっています。
参加の可否は病状の推移をみて判断し、公式HP、SNS等で告知されます。
また、鈴木さんが出席できなくとも、中村真夕監督とゲストでトークは行います。その点、予めご了承おきください。

posted by ほりきみき at 19:39| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

風の電話

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監督:諏訪敦彦
出演:モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行、三浦友和

17歳の高校生ハル(モトーラ世理奈)は岩手県大槌町出身。9歳の時、東日本大震災の津波で家族を失い、広島に住む叔母の広子(渡辺真起子)と暮らしている。ある日、叔母が倒れ病院に運ばれる。ショックのあまり道端で気を失ったところを、軽トラックで通りかかった公平(三浦友和)に助けられる。公平の家で、公平の母親から原爆の経験など広島で起きたことを聞かされる。久しぶりに故郷を訪れたくなったハルはヒッチハイクしながら岩手をめざす。
夜の街で不良たちに囲まれ、危ない目に遭いそうになったのを、福島から来た森尾(西島秀俊)に助けられる。かつて福島第一原発で働いていた森尾も、津波で家族を失っていた。大槌町まで車で連れていってくれることになる。道中、大槌町に「風の電話」という亡くなった人と話すことができる電話があることを知る・・・

2011年、大槌町在住のガーデンデザイナー・佐々木格さんが死別した従兄弟ともう一度話したいという思いから自宅の庭に設置した「風の電話」。東日本大震災後、亡くなった人と話したいと多くの人が訪れていることを知り、心を動かされて本作を企画・プロデュースした泉英次が諏訪敦彦監督に依頼し映画化したもの。
ハルは道中、妊婦の友香(山本未來)から元気を貰ったり、森尾がかつて住んでいた家の近くで今も暮らす友人・今田(西田敏行)から震災前の美しい景色を思いながら歌う地元の民謡を聞かされたりします。
中でも、森尾が震災の折、ボランティアで来て助けてくれたクルド人を探しに埼玉県蕨に寄る場面に、私はぐっと惹きつけられました。トルコで差別を受け、日本に逃げてきて難民申請するも認められないクルドの人たち。「国はなくてもいいけど、自分の文化で生活したい」というアリさんの言葉は本物。震災で故郷を失い、自分たちの文化を失った被災者の人たちの思いとも重なりました。クルドの人たちが被災地に支援に駆けつけたのも、痛みがわかる人たちだからこそだと思います。このエピソードを入れたことで、映画がぐっと引き締まったと感じました。東日本大震災の折には、私の知り合いのパキスタンやイランの人も被災地に何度も支援に行っているので、そんなことも思い起こさせてくれました。ただ、現実には難民申請していると、県外に出るには許可が必要なので、このクルドの人たちにはボランティアということで法務省もすんなり許可したのかなぁと、ふと思いました。 
あと、ちょっと気になったのが、ハルが世話になった年上の人たちに「ありがとうございます」でなく「ありがとう」と言っている点。なんとなくぶっきらぼうな感じがしました。モトーラ世理奈さんは『恋恋豆花』では、「ありがとうございます」と丁寧に言っているので、あきらかに演出なのですが、そのことで彼女のイメージが私には「素っ気ない女の子」になってしまったのは否めません。(咲)


『おいしい家族』、『ブラック校則』、そして本作の後には『恋恋豆花』と昨年秋からモトーラ世理奈の快進撃が続く。ぶっきらぼうな役が多く、その印象があるせいか、個人的には彼女の良さがイマイチ分からないのだが、若い子には人気があるらしい。ただ、本作にはその印象がうまくマッチした感がある。
西島秀俊、西田敏行、三浦友和の3人は控え目だが、人の温かさを感じさせ、印象に残る演技を見せてくれた。(堀)


2019年/日本/139分/G
配給:ブロードメディア・スタジオ
(C) 2020映画「風の電話」製作委員会
公式サイト:http://kazenodenwa.com/
★2020年1月24日(金)全国公開
posted by sakiko at 10:04| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月23日

『巡礼の約束』 原題 阿拉姜色 英語題:Ala Changso

2020年2月8日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー 劇場情報

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©GARUDA FILM
 
監督:ソンタルジャ
製作:ヨンジョンジャ
脚本:タシダワ ソンタルジャ
撮影:ワン・ウェイホア
美術:ツェラントンドゥプ 、タクツェトンドゥプ
編集:ツェランワンシュク、サンダクジャプ
音楽:ヤン・ヨン
キャスト
ロルジェ:ヨンジョンジャ
ウォマ:ニマソンソン
ノルウ:スィチョクジャ
ダンダル:ジンパ

2018年 中国映画 109分 シネマスコープ 5.1chサラウンド
字幕:松尾みゆき 字幕監修:三宅伸一郎 配給:ムヴィオラ 
『巡礼の約束』公式サイト 

妻から夫へ、父から息子へ。
受け渡され、継がれていく巡礼の旅


チベット人として日本で初めて劇場公開された『草原の河』のソンタルジャ監督。厳しい自然の中で牧畜を営む家族たちを娘の目を通して描いた。『巡礼の約束』では、ラサへの巡礼の旅に出た妻と、血の繋がらない夫と息子の絆を描いた。

チベット山麓の村で夫のロルジェ、夫の父と暮らす妻ウォマ。ある日、病院から帰ってきたウォマは、ロルジェに「五体投地でラサへ巡礼に行く」と伝えた。突然の話にロルシェは反対するが、ウォマの決意は変わらない。ロルジェは妻のラサ巡礼を受け入れる。介護が必要な父親がいるので、村の人に妻の付き添いを頼むが、やはり妻のことが心配で、父を村の人に託し、妻の後を追う夫。さらにウォマが実家に置いてきた前夫との息子ノルウも母ロルジェを追ってやってきて合流する。母が自分を置いて嫁いでいってしまったため、自分は捨てられたと思い、心を閉ざしているノルウ。ウォマは自分が重い病気にかかっていることを知り、前夫との約束を果たそうと巡礼に出たのだが、何ヶ月か、この巡礼の旅を続けるうちにとうとう思いを果たせず亡くなってしまう。母を追ってきたノルウは、母のその思いを引き継ごうと、ロルジェに一緒に行きたいと告げる。お互いの誤解から、最初はぎこちない関係の二人だが、ウォマの思いを叶えたいと血のつながらぬ父と息子は旅を続けた。チベット高原の圧倒的な風景の中でラサへの巡礼の旅を続け、約束を果たそうとするそれぞれの想いを描く。ふたりはある日、母を亡くした一頭の仔ロバと出会い、ともに聖地ラサへと巡礼の道を歩きつづける。この仔ロバの名演も忘れがたい。悲しみ、後悔、嫉妬、わだかまり、それらを超えようとする夫と妻、息子の姿を通して、死者とともに生きるチベットの祈りの心が伝わってくる。
夫役はチベット高原の東にあるギャロン出身の国際的歌手ヨンジョンジャ。孔雀の舞で有名な舞踏家ヤン・リーピンの舞台「クラナゾ蔵謎」のプロデューサーでもある。これは日本でも公演があった。民族衣装が美しい妻役は人気女優のニマソンソン。多くの候補者の中から「目力」で選ばれた息子役はスィチョクジャ。

ラサへ五体投地で巡礼する映画としては、『ラサへの歩き方 〜祈りの2400km』(2017)が記憶に新しい。それにしても五体投地しながら何ヶ月も、時には1年以上もかけてラサを目指す旅を続けるチベットの人たちの行動には頭が下がる。この作品では、自分の病気を知った妻が、亡くなった前夫との約束だったラサへ命をかけて巡礼に出る。彼女には実家に置いてきてしまった息子ノルウがいる。その事情については描かれていないが、母に捨てられたと思いノルウは悲しい思いで生きていた。ノルウも母を追ったが、母と合流できても、自分が母と暮らせなかったのはロルジェが子供を連れてくることを嫌ったからだと思い、ロルジェとしっくりいかない。でも母の思いをかなえたいと思い巡礼を続ける。この二人の和解物語とも言える。圧倒的なチベットの自然の前に人間はちっぽけだけど、こういう中で気持ちが癒されていくのかもしれない。
中国映画祭「電影2019」では『アラ・チャンソ』というタイトルで上映された(暁)。
 

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中国映画祭「電影2019」でのソンタルジャ 監督 撮影 宮崎暁美


全身を地面に付けながら、何ヶ月もかけて聖地ラサへ向かう五体投地。この作品で初めて知った。何と過酷な巡礼なのだろう。よほどの信仰心がないとできないに違いない。
理由を告げずに、その巡礼に出掛けた妻。同行する夫と前夫との息子。見知らぬ人の温情が彼らを支えた。その温かさは見ている者の心も温かくする。
妻を襲う病魔と明らかになる巡礼理由。男と少年は女に代わってラサを目指し、本当の親子のように距離を縮めていく。巡礼を経て結ばれていった2人の絆に今後の希望を感じた。(堀)

 
30年程前にラサを訪れたことがある。ロルジェたちはチベット高原の東端ギャロンから何日も何日もかけて、やっと憧れのラサの町に到達するが、私はそのギャロンに程近い四川省の成都から飛行機で飛んだからご利益は彼らの千分の1もないだろう。ラサのジョカン寺で、大勢のチベットの人たちが五体投地している姿を見ながら、真似てみたが、2回が精一杯。床拭き掃除の要領ね・・・などと思ったがとんでもない。全身を地面に打ちつけ、尺取虫のように進む五体投地での巡礼は、まさに命がけ。それでも前夫との約束を果たしたいと巡礼に出るウォマ。チベットの人は、信仰心が厚いだけでなく、約束は必ず守る人たちだと教えられた。

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ジンバさん (撮影:景山咲子)

巡礼途中で困っている人を無償で助けるのもまたチベット人の心。ウォマが倒れた時に助けたダンダル一家の主を演じたジンバさんは、2019年の東京フィルメックスで最優秀作品賞に輝いたペマツェテン監督の『気球』で主演を務めていて、来日された。ペマツェテン監督の前作『轢き殺された羊』に続いての主演。『巡礼の約束』では、脇にまわって、さりげなく人助けする男を演じている。
ちなみにダンダル家はチベット自治区に近い地で暮らしていてチベット語を話していて、ロルジェたちの話すギャロン語とは違うそうだ。同じチベット文化圏で、チベット語からの借用語も多いギャロン語だが、映画を注意して観ていると、言葉が違うこともわかって興味深い。(咲)





posted by akemi at 07:12| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月22日

プリズン・サークル 

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監督・制作・編集:坂上香
撮影:南幸男、坂上香
録音:森英司
アニメーション監督:若見ありさ
音楽:松本祐一、鈴木治行

「島根あさひ社会復帰促進センター」は、官民協働の新しい刑務所。警備や職業訓練などを民間が担い、ドアの施錠や食事の搬送は自動化され、ICタグとCCTVカメラが受刑者を監視する。しかし、その真の新しさは、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを日本で唯一導入している点にある。なぜ自分は今ここにいるのか、いかにして償うのか? 彼らが向き合うのは、犯した罪だけではない。幼い頃に経験した貧困、いじめ、虐待、差別などの記憶。痛み、悲しみ、恥辱や怒りといった感情。そして、それらを表現する言葉を獲得していく…。

受刑者同士が丸く座って対話をし、犯罪の原因を探って更生を促すプログラムを行う刑務所のドキュメンタリー。民間人も関わる一方で施錠や食事の運搬は自動化。システマティックな管理に刑務所の職員の存在が希薄になり、刑務所の既存概念を覆された。
受刑者の語る物語をサンドアートで表現していたが、これが個々の話ではなく、多くの受刑者との共通性を感じさせる。育ちが及ぼす影響のなんと大きいことか!
プログラムを受けることで変化が現れ、出所者の再犯率は半分以下だという。出所後の集まりも映し出し、みなで支え合っているのが伝わってきた。それでもまた犯罪に手を染める者も。更生の難しさを改めて知った。(堀)


2019年/日本/136分
配給:東風
(C)2019 Kaori Sakagami
公式サイト:https://prison-circle.com/
★2020年1月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

<イベント情報>
渋谷 シアター・イメージフォーラムにて実施
1月25日(土) 10:30の回、13:15の回の各回上映後、坂上香監督による舞台挨拶
1/27(月)18:45の回上映後:信田さよ子さん(原宿カウンセリングセンター所長)・坂上香監督
1/28(火)18:45の回上映後:若見ありささん(アニメーション監督)・坂上香監督
1/29(水)18:45の回上映後:毛利真弓さん(同志社大学准教授・元矯正職員)・坂上香監督 
1/30(木)18:45の回上映後:杉山春さん(ルポライター)・坂上香監督
1/31(金)18:45の回上映後:くるみざわしんさん(劇作家・精神科医)・坂上香監督
posted by ほりきみき at 13:37| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

淪落の人   原題:淪落人 英題:Still Human

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製作:フルーツ・チャン
監督・脚本・編集:オリヴァー・チャン
出演:アンソニー・ウォン、クリセル・コンサンジ、サム・リー、セシリア・イップ、ヒミー・ウォン

事故で半身不随になったリョン・チョンウィン(アンソニー・ウォン)は妻と別れ、息子とは別々に暮らしている。人生を諦めた彼の楽しみは、同僚だったファイ(サム・リー)と話すことと一人息子の成長だった。ある日、フィリピン人の住み込み家政婦エヴリン(クリセル・コンサンジ)がやって来る。リョンは、広東語で意思の疎通ができないことにいら立つが、つたない英語でコミュニケーションを図る。

1987年生まれの女性監督 オリヴァー・チャンの長編第一作。ヒロインは本作が映画初出演という’84年生まれのフィリピン女優。夢を具現化する瑞々しい2人を59歳の名優アンソニー・ウォンが温かく包含するような映画だ。

ポスターにある、長い黒髪をなびかせたフィリピン人女性が車椅子に座る中年男性の後ろに乗っているイメージは、監督が実際に街なかで見かけた風景だそう。これに象徴されるかの如く、映画の中を優しい風が吹き、陽に照らされた笑顔を纏う空気が流れる。もちろん辛く厳しい現実もつぶさに描かれる。貧困、障害、孤独、出稼ぎ、言葉や人種の分断…2人が立ち向かう現実は壁ばかりだ。人生のどん底にある2人といっていい。それでも、チャン監督は2人に希望を抱かせる。大きなカタルシスが待つ終盤へ向かって、ゆっくりと温かく、時には大笑いさせながら歩を進めてゆく。

香港の四季に人生の四季を重ねたような話法。長編デビュー作にして、これだけ卓越した技量を持つ監督は珍しい。自身の母が事故で脊髄を損傷し、日常には車椅子で過ごす母の姿が常にあったという。障害者と介護者の関係性を映画化したいと起草したのも自然な思いからだろう。

脚本を読んだウォンは意気に感じ、ノーギャラで出演を決めた。無表情に諦観を表出しながら、時には感情をむき出しにし、落ちぶれた(淪落)自分を憐れむ。ウォンの演技は絶品だ。監督のことは全く知らなかったのに、初めて会い、脚本の話を聞いた時、「この人を他人を騙さない」と信頼し、自ら「ノーギャラで」と監督に申し出たという。映画の売り上げ金から、ウォンのギャラが分配される契約とのこと。ヒットしてほしい!と切に願いたくなる秀作だ。(幸)


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事故で下半身不随となった中年男性、広東語を話せないフイリピン人家政婦。意思疎通もままならなかった2人が次第に心を通わせ、互いに相手の夢を叶えるきっかけを作るとは。
家政婦は「人生は気持ちの持ちよう」という。しかし、それは支え合う人がいてこそではないか。前向きな気持ちは相乗効果をもたらし、周りも幸せにするのだと改めて感じた。(堀)


アンソニー・ウォン(黄秋生)は、2014年に起こった「雨傘革命」の折、民主化要求運動支持を公言したため、中国資本の多くなった香港映画界で封殺され、5年間ほとんど収入がなかったと明かしている。そんな彼が、久しぶりに出演することになった本作をノーギャラで受けた意味は大きい。
『八仙飯店之人肉饅頭』(1993年)『ビースト・コップ 野獣刑警』(1998年)に続いて、『淪落の人』で3度目の香港電影金像奨最優秀主演男優賞に輝いたのも嬉しい。思えば、東京国際ファンタスティック映画祭のオールナイトで『八仙飯店之人肉饅頭』を観た時には怪優ぶりに度肝を抜かれたものだ。レスリー・チャン迷の私にとって、全く好みの俳優じゃなかったのに、アン・ホイ(許鞍華)監督の『千言萬語』(1999年)でのイタリア人の神父役あたりから気になりだし、秋生ちゃんといつしか、ちゃん付けで呼ぶようにまでなってしまった。  
そんな彼が久しぶりに出た『淪落の人』は、かつての香港映画を思わせてくれて、期待以上だった。
フルーツ・チャンが路上で見出したサム・リーが、ひょうひょうとした友人役なのも楽しいし、妹役でイップ・トン(葉童、セシリア・イップ)が出てくるのも嬉しい。それにしても、『風の輝く朝に』で楚々とした美人だったイップ・トンが、すっかりおばさんになってしまったのには、びっくり。(失礼!)
エヴリンが日曜日にフィリピンのアマさん(家政婦)仲間と中環(セントラル)で過ごす場面も香港ならではだ。携帯で「ここよ」と連絡を取り合うが、携帯のない時代から、フィリピンのアマさんたちは日曜日になるとちゃんとお仲間で集まっていて、あの頃は前もって示し合わせていたのかなぁと。(私たちだって、友達と会うときはそうだった!)デモが行われるようになった今は、デモを避けて中心街でないところで集まっているのかしらと心配にもなる。
とにかく語りたいことがいっぱいの『淪落の人』。12月31日付けのスタッフ日記でも熱く語っているので、ご覧ください♪(咲)


配給:武蔵野エンタテインメント
2018年製作/112分/G/香港
NO CEILING FILM PRODUCTION LIMITED (C) 2018
公式サイト:http://rinraku.musashino-k.jp/
★2020年2月1日(土)より 新宿武蔵野館ほか にて公開★




posted by yukie at 11:19| Comment(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

母との約束、250通の手紙   原題:La promessa dell'alba


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監督・脚本:エリック・バルビエ
共同脚本:マリー・エイナール
原作:ロマン・ガリ
出演:シャルロット・ゲインズブール、ピエール・ニネ、ディディエ・ブルドン、ジャン=ピエール・ダルッサン、キャサリン・マコーマックフィネガン・オールドフィールド、パウエル・ビュシャルスキー、ネモ・シフマン

ユダヤ系ポーランド人移民である母のニーナと2人で暮らしてきたロマンは、ニーナからフランス軍に入って勲章を授与された後に大使になり、作家としても活躍することを期待され続ける。重圧に苦しみながらも、ロマンは母の願いをかなえようと奮闘する。やがて軍に入った彼は母からの電話や手紙を支えにパイロットとして活躍し、さらに作家デビューも果たす。だがニーナの手紙には、その成功を喜ぶ様子はなかった。

ジーン・セバーグの夫であり映画監督にして外交官、衝撃的な拳銃自殺を遂げたフランスの国民的文豪ロマン・ガリの視点から綴られた伝記映画である。

稀代の熱演を見せるロマン・ガリ役のピエール・ニネ(『イヴ・サンローラン』『婚約者の友人』)より光彩を放ち、圧倒的な存在感を発揮するのは、母役のシャルロット・ゲンズブールだ。これほど強烈な母親像を表現されたら、通常は観客が退いてしまう。何しろポーランドの寒村で、
「息子は将来フランスの勲章を貰う!大使になるのよ!」

と触れまわり、
「お前はヒトラーを暗殺する使命がある!」
などと息子へ激を飛ばし、"妄想訓練"に励ませるのだ。

熱い激情的ユーモアを交えて観客を大笑いさせつつ、全てに規格外、常軌を逸したこの母親が息子へ伝え継いだ言葉。「小説を書き続けなさい」
戦地へ赴いた息子に送った250通の手紙に、どんな秘密が宿っていたのか...。ぜひ映画館で体感してほしい。年初にフランスから贈られた心沁み入る名作である。(幸)


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息子の将来を信じてやまない母。期待を一身に背負う息子。傍から見ればただの親バカだが、母の叱咤激励を糧にすべてを成し遂げた息子が実在の人物と知って驚いた。よくもグレずに真っすぐ育ったものである。
母役シャルロット・ゲンズブールは自然に歳を重ねていき、いつの間にか老婆になっていた。その描写力は見事!(堀)


配給:松竹
2017年製作/131分/R15+/フランス・ベルギー合作
(C) 2017 - JERICO-PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION - NEXUS FACTORY - UMEDIA
公式サイト:https://250letters.jp/
★2020年1月31日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー★
posted by yukie at 10:49| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月19日

無垢なる証人   原題:証人   英題:Innocent Witness

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監督:イ・ハン
出演:チョン・ウソン、キム・ヒャンギ、イ・ギュヒョン、チャン・ヨンナム、ヨム・ヘラン

スノ(チョン・ウソン)は、長い間、民主弁護士会に所属して人権派弁護士として自身の信念を貫いてきたが、1年程前に大手弁護士事務所に転職。上司から雇い主を殺した嫌疑をかけられている家政婦の弁護を小手試しに任される。唯一の目撃者である少女ジウ(キム・ヒャンギ)は自閉症。法廷で証人に立たせるのは無理だとして、検察側は文書提出で済ませようとしている。スノはジウに会って、本人の口から実際に何を見たのか聞き出そうとするが、ジウは自分の世界に入り込んで、なかなか意思疎通がはかれない。そんなジウが突然数字を言う。ネクタイの水玉の数だった。観察力が鋭く、クイズ好きなのを知ったスノは、毎日夕方5時に電話でクイズを出し、徐々にジウと心を通わせていく。いよいよジウが出廷し、証人台に立つ日がくる・・・

大手弁護士事務所は、人権派弁護士としてのスノの顔を利用したくて雇ったらしいことが見え隠れするのですが、自分に正直でありたいスノは、上司の思うツボにははまりません。自閉症の少女を証人台に立たせるのは無理だと皆が言っても、なんとか彼女の心を開かせようとします。実直で、根が優しい男なのです。デビュー作の『クミホ(九尾狐)』以来、ずっとチョン・ウソンを追ってきましたが、こんなチョン・ウソンが観たかった!という役柄に、惚れ直しました。
第40回青龍映画賞で主演男優賞を受賞した時、スピーチの第一声、「『パラサイト』のソン・ガンホが取ると思ってたのにって、言ってみたかった」とにっこり。
そして、「私の親友イ・ジョンジェ氏、誰よりも僕がトロフィーを持っている姿を喜んでくれていることと思います」とテレビを見ているであろうイ・ジョンジェに語りかけました。二人はほんとに仲良しなのですねぇ。(親友でなく、パートナーと言ったような気も・・・)
『無垢なる証人』でも、実生活と同じく、40歳を過ぎても独身で、父親が自分が亡くなったあと息子が一人なのは寂しいから、「この際、相手は男でもいい」とつぶやいた場面があって、思わず笑ってしまいました。スノが担当する裁判の進行と別に、発がん性のある生理用品を製造した会社を女性たちが訴える裁判が進行し、その裁判を担当している友人女性の弁護士とスノが心を通わせていくことも語られ、なごませてくれます。(咲)

2019年/韓国/129分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
配給:クロックワークス
© 2019 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
公式サイト:http://klockworx-asia.com/innocent/
★2020年1月24日(金)シネマート新宿他ロードショー






posted by sakiko at 09:30| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月18日

イーディ、83歳 はじめての山登り  原題:Edie

2020年1月24日公開 シネスイッチ銀座ほか 劇場情報

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(C)2017 Cape Wrath Films Ltd.


監督・脚本:サイモン・ハンター
脚本:エリザベス・オハローラン
撮影:オーガスト・ジェイコブソン
美術:クリス・リッチモンド
衣装:ジョージナ・ネイピア
音楽:デビー・ワイズマン
キャスト
シーラ・ハンコック
ケビン・ガスリー
ウェンディ・モーガン
エイミー・マンソン
ポール・ブラニガン

2017年製作/102分/G/イギリス
配給:アットエンタテインメント
公式HP 

いつだって手遅れなんてことはない

30年間夫の介護に人生を捧げてきた83歳のイーディ。やっと解放され、これから自分のために時間を使おうと思ったのに娘からは老人ホームへの入居を勧められ、人生の終わりを感じていた。そんな時、町のフィッシュアンドチップスの店で「追加の注文をしても良い?」と聞いたイーディに、「何も遅すぎることはないさ」と店員が答えた。その言葉に勇気を得たイーディは、かつて父が手紙で一緒に登ろうと行ってきていたスコットランドのスイルベン山に行ってみようと思いたち、夜行列車に乗りロンドンからスコットランドへ。
駅で鉢合わせして、偶然知り合っった地元の登山用品店の青年ジョニーをトレーナーとして雇い、山頂へ登る訓練を始める。イーディはこれまでの生活のせいかかたくなな態度で、何かを受け入れたり、頼ったりということができない。そんな態度が災いし、最初はジョニーとぶつかるが、ジョニーの丁寧な指導を受け入れていく。登山道の歩き方、登山グッズの使い方、地図の見方を教わり、ルートのとり方などを学んでいく。準備を整えたイーディはついにスイルベン山へ向かうのだが…。
83歳のイーディを演じるのは、撮影時イーディと同じ83歳だったシーラ・ハンコック。実際に山に登り過酷な撮影に挑んだという。またスイルベン山頂からの息をのむほど雄大で迫力ある景色もすばらしい。一歩踏み出せば人生は豊かになると勇気づけられる作品。

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(C)2017 Cape Wrath Films Ltd.

そんなに仲が良かったわけではなかった夫が病気になり、介護が必要な生活になってしまい、それから30年という長い間の介護生活。そこからやっと解放されて、これから自分のやりたいことができると思ったもののすでに83歳。やれることは限られている。そんな中からどう考えても無理だろうと思う登山をしてみようと思うイーディ。若い頃、父親からスイルベン山に一緒に行こうという葉書が届いて、そのことを思い出したからだった。老人ホームに入れようとする娘の様子を見て、その前に行っておかなくてはと列車に乗ってでかけてしまう。実行してしまえばこちらのもの。イギリスを南から北へ、かなり長い旅。それにしても若い頃に登山をしていたわけではなく、せいぜいキャンプぐらいしか経験がないのに山へ行こうというのは、かなり無謀な選択だともいえる。
私は20歳から約25年くらい登山が趣味で、あちこちの山に行っていたけど、その後映画にはまって、結局、映画を取り、山には登らなくなってしまった。車で行って山を眺めたりはしているけど、登山らしきことはもう15年くらいしていない。5年前には心臓手術をして、その後は荷物を背負って歩くことはほとんどしていない。そして駅の階段でさえ上るのがきつい状態。
83歳といえば、よほど訓練を続けた人でなければきっと同じような状態じゃないかと思うけど、それでもお父さんが「一緒に行こう」と行っていた山に行こうと思う気持ち。なんだか意地のような気もする。ジョニーと何日か訓練したものの、いざ山に登るという時に一人でいくと言い出したことがその表れだと思った。ジョニーは山の経験がほとんどない老人を一人で送り出したけど、登山をしていた者からすれば、経験の少ない老人を一人で山に送り出すなんて考えられない。日本とイギリスでは考え方が違うのかもしれないけど。それでも高尾山程度の山ならわかるけど、スイルベン山はテントで一泊しないと登れない山だし、人がほとんどいない。そんな中をイーディは一人で歩き続けて山頂を目指す。
まわりに人がいなくて、たった一人でテントで眠るというのは、けっこう怖い経験。この作品の中で動物が移動していくシーンが描かれていたけど、イーディは動物の鳴き声にまんじりともしない。私も山の中でたった一人でテントを張って寝たとき、回りに何か音がするたびヒヤヒヤした経験がある。そして次の日は雨にも降られ、強い風にテントは飛んでいってしまった。そんな中を登っていったわけだけど、そんな経験をしたからか、ジョニーが助っ人に来てくれた時のイーディの笑顔が素敵だった。人の親切を素直に受け入れられるイーディの姿がそこにあった。そして山頂からの景色の素晴らしさ。それにしても大きな山を登ったんだな、よく登頂できたなとほっとした(暁)。


30年続いた夫の介護が終わり、いよいよ自由な日々と思いきや、娘が施設入居の手続きを進める。私の人生、こんなはずじゃなかったと、かつて父親と登る約束をしたスコットランドの山に登ることにしたのだが。。。
人との関わり方が下手で意固地な態度ばかり取ってしまうイーディが若者に登山のイロハを学び、助けを受け入れていくようになっていく。それにつれてイーディの表情が柔らぎ、笑顔が増えていく。
自分一人でがんばらず、助けを借りることも大事。子育てや介護のときにそれに気づいていれば、ここまで不満を抱え込むことはなかっただろう。しかし、ここにきてやっとそれに気づく。人生、遅すぎることはないというのは生き方にも当てはまるのだと伝わってきた。
しかし、まったくの初心者がいきなりハイレベルな登山に挑むのは問題があると思う。これを見て真似する人が出て、イーディのようなラッキーに恵まれなかったら大変なことになる。その辺りをもう少し触れてくれるといいのにと心配になった。(堀)


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2020年01月17日

コンプリシティ/優しい共犯   原題:Cheng Liang 英題:COMPLICITY

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監督・脚本・編集:近浦啓
主題歌:テレサ・テン「我只在乎ニィ(時の流れに身をまかせ)」(ユニバーサル ミュージック/USMジャパン)
出演:ルー・ユーライ、藤竜也、赤坂沙世、松本紀保、バオ・リンユ、シェ・リ、ヨン・ジョン、塚原大助、浜谷康幸、石田佳央、堺小春 / 占部房子

技能実習生として中国から来日した青年チェン・リャン。劣悪な職場環境から逃げ出し不法滞在者となってしまった彼は、他人名義のパスポートを携え、山形のとある町にたどり着く。縁あって蕎麦屋で働き始めた彼は、無口な蕎麦屋の主人・弘から蕎麦打ちを教わる。厳しい中にも温かさを感じ、弘を父のように慕い始めるチェン・リャン。弘もまた、息子との関係がうまくいってなくて、チェン・リャンに情を深めていく。出前先で中国留学を予定している女性・中西葉月と知り合い、デートするようにもなる。そんなある日、チェン・リャンを追う警察が訪ねてくる・・・

技能実習生という名目で、国からの補助金も得て、外国人を体よく低賃金で働かせる事業主もいれば、不法滞在者とわかっていても背に腹は代えられず低賃金で雇う事業主もいます。私の知り合いのイラン人にも、1990年代に日本にやってきて、日本語もわからないのに雇ってもらって、雇い主に感謝していた人たちが大勢います。見つかれば雇い主も罪に問われると知りながら不法滞在者を雇うのは、低賃金で雇えるからという理由だったとしても、心を通わせるケースは多々あると思います。
本作は、大仰に社会問題を取り上げたものではなく、人と人との間に生まれる情を静かに伝えてくれる物語。チェン・リャンを演じたルー・ユーライは、不法滞在者となってしまった青年の複雑な気持ちを目から感じさせてくれます。また、口数が少なくて、近寄りがたいけれど、人情味を背中から感じさせてくれる藤竜也さん。渋いです。
テレサ・テンの「我只在乎ニィ(時の流れに身をまかせ)」が懐かしく響きます。(咲)


技能実習生として来日したのに、最初に働いたところが劣悪な環境で逃げ出し、不法滞在者になってしまったチェン・リャン。他人になりすまし、山形、大石田の蕎麦屋で住み込みで働くことに。この店の店主は、無口で一見近寄りがたいけど、優しくもあり、ここで働くことに少し安らぎも感じていた。蕎麦屋での生活に慣れていっていたのに、その生活は長続きしなかった。その後が、最後どうなっていったのか、観終わったあと、今も気になる。
店主を演じていたのが藤竜也さん。蕎麦を打つ姿も本物ぽい。相当訓練したのだろうなと思った。それにこういう役がよく似合う。蕎麦屋での生活に慣れていっていたのに、その生活は長続きしなかった。その後が、最後どうなっていったのか、観終わったあと、今も気になる。
チェン・リャンを演じたルー・ユーライさんの、不安を抱えながら安らぎも感じるような演技は、こういう事情を抱えた人たちの姿を表していた。ルー・ユーライさんは『孔雀 -我が家の風景-』2005年(クー・チャンウェイ監督)に出ていたという。(暁


*『孔雀 -我が家の風景-』は、クー・チャンウェイ監督にインタビューし、シネマジャーナル69号(2006年冬号)の表紙にもなった作品で、ルー・ユーライさんは主人公の姉役チャン・チンチューさんの弟役をしていた。

2018年 第19回東京フィルメックス コンペティション部門観客賞受賞

2018年/カラー/日本=中国/5.1ch/アメリカン・ビスタ/116分 
配給:クロックワークス
©2018 CREATPS / Mystigri Pictures
公式サイト:https://complicity.movie/
★2020年1月17日 (金)より新宿武蔵野館にてロードショー





posted by sakiko at 14:35| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月14日

9人の翻訳家 囚われたベストセラー 英題:THE TRANSLATORS

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監督・脚本:レジス・ロワンサル
脚本:ダニエル・プレスリー、ロマン・コンパン
撮影:ギヨーム・シフマン
音楽:三宅純
出演:ランベール・ウィルソン、オルガ・キュリレンコ、リッカルド・スカマルチョ、シセ・バベット・クヌッセン、エドゥアルド・ノリエガ 、アレックス・ロウザー、アンナ・マリア・シュトルム、フレデリック・チョー、マリア・レイチ、マノリス・マフロマタキス、サラ・ジロドー

映画化もされた世界的ベストセラー「インフェルノ」の出版秘話から生まれたミステリー。情報漏洩を防ぐため各国の翻訳家たちを完全に隔離した実話を題材に、発売前の小説の流出危機が描かれる。
ミステリー小説「デダリュス」完結編を世界で同時に発売するため、洋館の地下室に9か国の翻訳家が集められる。彼らは外部との接触を禁止され、毎日20ページだけ渡される原稿の翻訳作業に没頭していた。ある夜、出版社の社長(ランベール・ウィルソン)のもとに、「デダリュス」の冒頭をインターネットに公開したというメールが届く。そこには、指定時間内に金を支払わなければ次の100ページ、要求を拒めば全てのページを流出させると書かれていた。

①まるで映画そのもののような驚くべき実話に着想を得て、練りに練った展開と複雑な構成を仕掛けた脚本チーム。
②キャスティングに1年をかけた妥協を許さぬ製作姿勢。
③それぞれの役柄を肉付けし、造形した各国俳優陣の熱演!
④例のない
シチュエーションを具現化した美術、撮影、照明、音楽などスタッフワークのハイクオリティ。
⑤それらを全て束ね、極上のミステリー・サスペンスに仕上げたレジス・ロワンサル監督。
上記5点と、本作に関わった映画人たちに祝杯をあげたくなるような快作である。ネタばれできないため、この5点を見どころとして押さえてから鑑賞したほうが良さそうだ。

『七人の侍』よろしく、翻訳家たち9人のキャラクターが分かりやすく描出される場面から快調な滑り出し。出版社社長役のランベール・ウィルソンは、登場しただけで品格と知性、傲慢さを醸し出す。圧倒的美貌と、対象にのめり込み易いロシア語担当のオルガ・キュリレンコ。濃い顔ながらも社長への忖度は怠りなく狡猾なイタリアの名優リッカルド・スカマルチョ。
ギリシャ語担当のシニカルな大学教授は翻訳でギリシャ特有の低収事情を補う。パンクロッカーのような出で立ちのポルトガル人。パリ在住のイケメン中国人。
個人的に印象的だったのは、以下の3俳優である。吃音で内向的。普段のセクシーなイメージを払拭したスペインを代表する名優エドゥアルド・ノリエガ。仏俳優ベルナール・ジロドーを父に持ち、エレガントな社長助手を務めたサラ・ジロドー。
群を抜いていたのは、若干25歳ながらベテラン俳優陣を卓抜した演技力と創造性で圧倒した英国人アレックス・ロウザー。『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でベネディクト・カンバーバッチの少年時代を演じた”子役”が、いずれ世界の映画界を席捲するのではないかと予想させる程の絶品演者の域にまで到達した。この年代のロウザーは観る価値がある。

見事な俳優陣と巧妙に張り巡らせた伏線。仏の館セット。カメラアングル、照明の妙など、注目すべきところが多く、観客は忙しい思いをする105分だが、知的好奇心を満たしてくれること請け合いだ。ぜひお見逃しないよう!
因みに音楽は、ジャズ・トランぺッターで国際的な活躍が目立つ三宅 純が担っている。(幸)



ベストセラーの完結編を発売前に手に入れたからくりに驚くが、それも犯人にとっては仕掛けの一部。文学は金儲けの道具ではない。自分の物は自分で守る。強い意志が感じられる。
犯人が何度も繰り返した願いは叶わないとわかっていたものの、あえて求めていたとラストで知り、犯人の怒りと悲しみがより伝わってきた。
正しい方向を見ないと目的を見失うという犯人の主張は私たちの人生にも言えることに違いない。(堀)


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製作国:フランス/ベルギー
配給:ギャガ
カラー/5.1ch/シネマスコープ/2019/105分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/9honyakuka/
★2020年1月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント、新宿ピカデリーほかにて公開★
posted by yukie at 14:56| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

彼らは生きていた 英題:THEY SHALL NOT GROW OLD

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製作・監督:ピーター・ジャクソン

終結から約100年経った第1次世界大戦の記録映像を『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどのピーター・ジャクソン監督が再構築したドキュメンタリー。イギリスの帝国戦争博物館が所蔵する2,200時間を超える映像を、最新のデジタル技術で修復・着色・3D化して、BBCが所有する退役軍人のインタビュー音声などを交えながら、戦場の生々しさと同時に兵士たちの人間性を映し出す。
第1次世界大戦中、戦車の突撃や激しい爆撃、塹ごうから飛び出す歩兵など、厳しい戦闘が続いていた。だが、死と隣り合わせの兵士たちも、時にはおだやかな様子で休息や食事を取り、笑顔を見せる。

数多公開される新作の中で、”これは必見の価値あり!”と断言できる映画は年に数本もない。一般的には『ロード・オブ・ザ・リング』などの娯楽作で知られるピーター・ジャクソン監督が、第1次世界大戦の映像をレストアした本作は、まさに”必見”のドキュメンタリーである。
100年前、英国BBCがこれほど仔細に兵士たちの日常を記録していたこと、15歳前後の若い志願兵が多かった事実など、次から次へと繰り出される”真実”に、眼を見張らされ通しの99分だった。更に驚くのはジャクソンら製作チームが手掛けた再構築性である。英国の帝国戦争博物館が所蔵する膨大な映像を最新のデジタル技術で小さな塵、傷まで修復し、資料に基づき着色、3D化したのだ。それぞれが切れ切れに異なるスピードで撮影されていた映像を24フレームに統一。”1秒”24コマである。気の遠くなるような作業だったろう。

映像だけではない。BBCは退役軍人たちの当時を振り返る取材音声などを所有していた。それら音源をナレーションとして構成し、読唇術から当時のお国訛りまで再現。英国アクセントに耳ざとい者としては、どの証言一つ足りとも聞き逃すまいと耳を傾けた。

戦争に希望を抱いていた時代、労働者階級の男たちは挙って志願した。「15歳?18歳に見えるから、そう書いとけ。はい、合格」…今では考えられない緩さである。「3食メシが食えて楽しかった」と語る兵士たち。前半は拍子抜けするほど楽しげな映像が多い。ユーモアや紅茶、バグパイプ、キルト、ラム酒などといった生活習慣を忘れないのが英国流。

戦況は泥沼化し、次第に深刻さを増す戦場。死屍累々たる光景が日常になる。映画は傷んだ死体の山もモザイクなしで映し出す。100年前の出来事が、五感を通して伝わる迫真力。あまりの生々しさに言葉を失うが、眼を背けてはいけない。その中で捕虜として捕らえられた独兵たちとの友愛的交流は救いだ。こうして100万言尽くしても映画の本質は伝わらない。ジャクソン監督の祖父も従軍した戦争。渾身の労作・傑作だ。
あなたの人生のうちの99分をこの映画に捧げてほしい。世界中の戦争・諍いごとがなくなることを願いながら…。(幸)


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戦場の臨場感が半端ないからこそ、かえってフィクションに見えてしまいました。戦時下で、よくもここまで被写体に近寄って撮れたものだと驚いたら、次の戦争のために反省点をチェックできるよう、きちんと記録していたのだそう。日本軍にはなかった発想にさらに驚いきました。
「国のため」と年齢制限に届かない若者までが率先して志願しましたが、支給物資は不足。戦場では次々と命が散っていく。砲撃の瞬間はその振動まで伝わってくるかのようなリアルな映像に戦争の悲惨さがより際立ちます。こんなことは二度としてはいけませんね。(堀)


第1次世界大戦の塹壕戦を描いた映画で真っ先に思い出すのが、『西部戦線異状なし』(ルイス・マイルストン監督、1930年/アメリカ)。蝶が飛んできて、主人公が塹壕からそっと手をのばしたところを狙撃されて命を落とすシーンを、蝶が好きだった母があの兵士の気持ちが痛いほどわかるとよく言っていました。そして、最後に流れるのが「西部戦線異状なし」の報告。兵士一人や二人亡くなっても、それは異状ではないというのが戦争だと空しくなったものです。

『戦場のアリア』(クリスチャン・カリオン監督、2005年/フランス・ドイツ・イギリス合作)は、1914年、最前線での塹壕の中でクリスマスをむかえた3カ国の兵士たちが一夜限りの休戦協定を結んで共にクリスマスを過ごした実話に基づいた物語。
『彼らは生きていた』では、最初の方で、イギリス人とドイツ人が会食中に開戦を知らされ、「戦うのは明日からにしよう」と楽しく会食を続けます。国家どうしの戦争さえなければ、人と人は国や民族が違っても親しくできるものなのだとつくづく思います。

そして、 『緑はよみがえる』 (エルマンノ・オルミ監督、2014年/イタリア)でも、前線をはさんで塹壕に潜む兵士たちの姿が描かれていました。「敵は鉄条網の向こうにいるのではない、理不尽な命令をぬくぬくとした部屋から発している上層部こそ戦地に送られた若者たちの敵だ」という言葉が強く印象に残っています。
『彼らは生きていた』は、本物の塹壕戦を体験した歩兵たちの記録映像。これまでに観てきた戦争映画どころじゃない、ほんとうに生きていた人たちの姿。時にカメラに見せる笑顔に、どうしてあんなに明るい笑顔が見せられたの?と悲しくなりました。
着た切り雀で何日も何日も塹壕に潜み、死と隣り合わせの日々。彼らを戦場に送った権力者たちは、彼らがどんなつらい思いをしているかなど考えもせず命令をくだしているのです。
第一次世界大戦から100年経った今、命令をくだす権力者だけでなく、兵士もまた、塹壕に潜むなどという思いをせず、遠隔操作でドローンやミサイルで適地の人々を殺すのが戦争。犠牲になる多くが罪のない庶民。命令をくだす権力者だけでなく、戦争に直接加担する兵士がつらい思いをしないのでは、戦争はどんどんエスカレートするのではないかと危惧します。
『彼らは生きていた』を、実際に戦争に加担する権力者や兵士にこそ観てもらって、戦争とは人が虚しく死ぬものなのだということを認識してほしいと切に思います。(咲)


最近、古い映画をデジタルに変換したリマスター版というのが多く出ているけど、これは戦争の現場で撮った実際の画像を元にデジタル化したもの。100年前の映像が残っていて、今の技術でこんなに鮮明な画像として蘇っている。まさに映像の魔術だと思った。100年も前に戦争の現場で撮っていたとは。作り物ではない。この時代に生きた人たちの実際の姿。思い。戦争の現実。
戦争に行った若者たちが、年齢を偽ってまで志願していったことが語られるが、その若者たちをそういう思いにさせた偽政者たちがいたから。それは第2次世界大戦でもそうだったし、ベトナム戦争や湾岸戦争でもそうだった。そして現代ではフェイクニュースにだまされてはならない(暁)。


製作国イギリス/ニュージーランド/2018/99分/パートカラー/シネマスコープ/5.1ch
配給:アンプラグド
公式サイト:http://kareraha.comstrong>
★2020年1月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開★





posted by yukie at 14:24| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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監督:今泉力哉
企画・脚本:アサダアツシ
音楽:渡邊崇
出演:宮沢氷魚、藤原季節、松本若菜、松本穂香

ゲイだと思われるのが嫌でひっそりと生活している井川迅(宮沢氷魚)の前に、別れた恋人の日比野渚(藤原季節)が6歳の娘・空を連れて現れる。迅はしばらくここで住まわせてほしいと言う渚に戸惑うが、空は迅に懐き周囲の人々も三人を優しく見守るようになる。ある日渚は、娘の親権を妻と争っていることを明かし、長年抑えてきた迅への思いを告白する。

岐阜県白川町の長閑でしなやかな空気と地方コミュニティが、ゲイカップルの2人を自然体で受入れる姿勢が心地好い。試写の後、眼を閉じると明るい昼日中の映像ばかりが浮かび上がった。
『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』『mellow』と立て続けに新作が公開されている今泉力哉監督。本作は既作品の中でも特に肩肘張らない世界観を醸し出している。
企画・脚本のアサダアツシが、脚本を務めたドラマ「岐阜にイジュー!」でも舞台となった 岐阜県白川町。この地を選んだことが本作の柔らかな空気感を決定付けたのではないか。

恋愛映画だが、艶っぽい場面は冒頭と、あまりロマンチックとは言えない軽いキスシーンの2カ所だけ。どちらもサラサラとした印象があり、濃厚なラブシーンは皆無と言っていい。あくまで、2人の恋愛模様を縦軸に、地域コミュニティとの交流を横軸として編み込んだタペストリーのような肌触りの映画だ。

カップル役の2人も宮沢氷魚は”塩顔男子令和代表”なる透明感。藤原季節は『アイネクライネナハトムジーク』に続く今泉組登板。クランクイン前より、白川町のロッジで同居したという逸話からも、リラックスした雰囲気がスクリーンを通して伝わる。2人に主役の気負いは感じられなかった。今泉監督の演出法が奏功しているのだろう。
LGBTQ=社会問題!と短絡的に直結しない話法は新たな方向性を示しているかもしれない。(幸)


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映画『チョコレートドーナツ』を彷彿させる内容で、ゲイのカップルが子育てすることを世間はすぐには受け入れられません。しかし、子どもの何気ない一言が周囲の目を変えます。主語は複数よりも単数のほうが変化を受け入れやすい。1人1人と向き合っていくことが大きな変化を生み出していくのでしょう。
親権争いについては意外な結果でした。夫婦が夫婦でなくなっても、互いに相手を尊重する気持ちがあればこその結果だとは思いますが、それが果たして子どもにとってどうだったのか。将来的にはこの選択を子どもは感謝するような気はしますが、なかなか難しいです。(堀)


配給:ファントム・フィルム
製作/日本5.1ch/カラー/127分
©2020映画「his」製作委員会
公式サイト:https://www.phantom-film.com/his-movie/
★2020年1月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー★
posted by yukie at 13:55| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月12日

ジョジョ・ラビット  原題:Jojo Rabbit

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監督: タイカ・ワイティティ
出演:ローマン・グリフィン・デイビス、 タイカ・ワイティティ、スカーレット・ヨハンソン、 トーマシン・マッケンジー、サム・ロックウェル、レベル・ウィルソン

第二次世界大戦下のドイツ。
10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、今日から始まる青少年集団ヒトラーユーゲントの合宿を前に、空想の友人アドルフ(タイカ・ワイティティ)に「僕にはムリかも」と弱音を吐く。アドルフに、「ナチスへの忠誠心はピカイチだ」と励まされ、合宿に出かけていく。
合宿で待ち受けていたのは、戦いで片目を失ったクレンツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)や、教官のミス・ラーム(レベル・ウィルソン)。厳しい訓練が始まる。勇気を試すため、ウサギを殺せと命令されるが、心優しいジョジョは殺せない。教官から、2年間音信不通で脱走したと決めつけられている父親同様、臆病者だと馬鹿にされる。おまけに「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名まで付けられてしまう。
くじけてはいけないと、張り切って訓練に臨むが、ジョジョは手榴弾の投てきに失敗して大怪我を負う。それを知った母親ロージー(スカーレット・ヨハンソン)はユーゲントの事務局に乗り込み、怪我が治るまで身体に無理のない奉仕活動につかせるよう掛け合う。
帰宅したジョジョは、亡くなった姉インゲの部屋に隠し扉があって、ユダヤ人の少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)を母が匿っているのを知る・・・

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ユダヤ人の少女エルサに「通報したらお母さんも協力者として死刑よ」と言われるジョジョ。ヒトラーユーゲントでユダヤ人は下等だと教え込まれているジョジョは、ユダヤ人を壊滅するための本を書こうと思いつき、「ユダヤ人の秘密を教えてくれれば、ここにいてもいい」とエルサに提案します。エルサから毎日講義を受けるうち、ユダヤ人は下等な悪魔だという教えは間違っているのではないかと気づくジョジョ。年上のエルサに惹かれていく姿も、なんとも可愛いです。
監督は、本作の原作であるクリスティン・ ルーネンズ著「Caging Skies」を母親から薦められ、大人たちによって憎悪を吹き込まれたドイツ人少年の目を通して物語が語られることに魅了されたそうです。
ニュージーランド生まれのタイカ・ワイティティ監督は、なんと、マオリ系ユダヤ人! 母親がユダヤ人で、父親がマオリ人ということから偏見にさらされて育った思いも、作品に込められています。また、祖父が第二次世界大戦でナチスと戦ったこともあり、この時代のことにも興味があったとのこと。
監督自身で、ジョジョの空想の友人アドルフ・ヒトラーを演じているのですが、ちょび髭姿は、まさにヒトラーそのもの。ユーモアのセンスも抜群です。
悲しい物語なのに、くすっと笑わせてもくれる素敵な1作です。(咲)


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この作品は何と言っても主人公のジョジョを演じたローマン・グリフィン・デイビスがかわいくてたまらない! ジョジョは入隊するヒトラーユーゲントというナチスの青少年組織では体格的にも精神的にも他の子どもたちより圧倒的に幼いのですが、それでも必死にがんばろうとする健気さがローマンの全身から溢れ出ていて、ぎゅ~っと抱きしめて頬ずりしたくなるほどです。そんなジョジョが自宅で匿われていたユダヤ人の少女と出会い、信じていたことが少しずつ崩壊していくことに戸惑いながらも成長していく。母性本能がかき乱されること必至です。
そして、ヒトラーユーゲントで教官を務めるクレツェンドルフ大尉役のサム・ロックウェルがまたいい。クレツェンドルフ大尉は名誉の負傷で片目を失い、戦線を外されて教官になったのですが、あからさまに不満を表す嫌な奴。ところが物語が展開していくうちに、ジョジョのことを気に掛けていることが分かってきます。そして最後には思いっきり漢気を感じさせる行動に出る。そんな複雑な役どころにコミカルさを加えて演じられるのはサム・ロックウェルだからこそではないでしょうか。
スカーレット・ヨハンソンは絶対的に息子を守ろうとする強さと、父親の不在を息子に感じさせない優しさを内包する母親を魅力的に演じています。スカーレット・ヨハンソンも母親役がすっかり板についてきました。
ユダヤ人の少女を演じたトーマシン・マッケンジーはこの作品で初めて知りましたが、凛としていて、ユダヤ人であることの矜持を感じさせてくれました。女優として、今後が非常に楽しみです。(堀)


2019年/アメリカ/109分/G
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/jojorabbit/
★2020年1月17日より全国にて公開




posted by sakiko at 22:06| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

おっさんずルネッサンス

2020年1月11日(土)より 名古屋 名演小劇場 ロードショー!

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おっさんずルネッサンス製作実行委員会

企画・製作・監督:髙野史枝
撮影:城間典子 
撮影協力:佐治秀保 
編集:四宮鉄男 
写真:河合隆當
タイトル文字:墨拙
主題歌:「おっさんずルネッサンス」ちんちくりん
2020年/日本映画/90分/HD/16:9/カラー
『おっさんずルネッサンス』公式HP

定年後の大府のおっさんは生き生き生きている!

名古屋市の南にある、愛知県大府市(人口9万2000人)。ここにある「石ヶ瀬会館(ミューいしがせ)」では、20年以上前から「メンズカレッジ」という男性対象の講座が開かれている。30人の講座生は、1年間一緒に料理を作り、講座や講演会に参加し、遠足に行き、活動を通じて友だちになる。卒業生は「男楽会(だんらくかい)」という自主活動グループを作り、料理技術をさらに磨いたり、様々なボランティア活動の中心になって活動を続けている。男楽会の会員は、それぞれの家庭でも習った家事の腕を生かし、料理、洗い物やアイロンかけなどに積極的に取り組むので、家族からは感謝され、孫にも教えていたりする。そして、大府市の歴史などの「ふるさとガイド」などボランティアガイドにも取り組む。街のベンチ修理に取り組む大府青春ベンチャーズなんていうのもある。子供たちへの読み聞かせ、紙芝居に挑戦する朗読の会に参加している人もいて、活動は広がっている。
メンズカレッジと男楽会の会員およそ60人が、協力して積極的に取り組むメインイベントがコロッケ作り。コロッケは石ヶ瀬コミュニティの夏まつりの模擬店で販売されるが、美味しくてすぐに売り切れる人気商品。今年も2600個のコロッケは完売。このコロッケは、なんと自分たちでジャガイモや玉ねぎを植えるところから始まる。
4月に始まったメンズカレッジでの学びも、9月には半分を終え、今年参加した受講生は、それぞれ自分たちの半年間の変化を語る。男楽会に20年近く参加している方も登場し、いろいろな人たちとの出会いが、心豊かな生活を支えていると語る。

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おっさんずルネッサンス製作実行委員会


『おっさんずルネッサンス』 髙野史枝監督インタビュー
『厨房男子』高野史枝監督インタビュー

高野さんは、シネマジャーナルに25年以上前から、原稿を寄稿している。名古屋でラジオ番組を持っていたり、グルメライターをしたりしているが、なんといっても彼女の一番の活動は、映画ライター、映画講座を持っていること。そんな彼女が最初に作った作品が『厨房男子』(2015)。これはグルメライターをしてきた彼女らしい初監督作。夫や息子、友人、友人の夫、仕事で知り合った男の人たちが料理楽しんで作り、食べるといった内容。この中に、今回の『おっさんずルネッサンス』に参加した「メンズカレッジ」と「男楽会」のメンバーもこの『厨房男子』に出てきて、その中からクローズアップされたのが今回の『おっさんずルネッサンス』。
実は私は『厨房男子』の時にスチールとして一部参加したのですが、この大府のコロッケ作りの写真を撮りに行きました。なので、登場してくるメンバーの三分の二くらいはその時に参加していた方たちでした。最初にこのコロッケ作りの現場に行った時の光景が、今でも忘れられません。部屋いっぱいの「おっさん」がたまねぎの皮をむいたり細かく切ったり、ジャガイモを蒸したりしていて壮観でした。皆さん、世間話をしながら手際よくコロッケを作っていました。そして生き生きしていました。そして何よりもおいしいコロッケができあがって、私は3,4個も食べてしまいました。こんな素敵な「おっさん」たちをぜひ観てみてください(暁)。


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2015年のコロッケ作りで(撮影 宮崎暁美)
 
製作:「おっさんずルネッサンス製作実行委員会」
製作協力:NPО法人ミューぷらん・おおぶ 石ヶ瀬会館(ミューいしがせ)
日本福祉大学 JAあぐりタウンげんきの郷 国立長寿医療研究センター
出演:「メンズカレッジ」「男楽会」「男性の生活自立のための講座」「楽農クラブ」ほか、大府市民のみなさん 、岡村秀人 (大府市長)、遠藤英俊 (国立長寿医療研究センター・老年内科部長) 束村博子 (名古屋大学教授)


posted by akemi at 20:47| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

オリ・マキの人生で最も幸せな日   原題:Hymyileva mies(微笑む男) 英題:The happiest day in the life of OLLI MAKI

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監督・脚本:ユホ・クオスマネン
撮影:J・P・パッシ 
編集:ユッシ・ラウタニエミ 
音楽:ラウラ・アイロ
出演:ヤルコ・ラハティ(『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』、オーナ・アイロラ、エーロ・ミロノフ(『ボーダー 二つの世界』)

1962年、夏。田舎町のパン屋の息子オリ・マキは、プロボクサーとしてヘルシンキで行われる世界タイトル戦でアメリカ人チャンピオンと戦うことになる。国中の期待を背負って、トレーニングに励み、減量に集中する日々だ。そんなある日、友人の結婚式に参加するため故郷に帰る。車に乗り切れなくて、女友達のライヤと自転車で会場に向かい、一緒に時を過ごすうち、オリ・マキはライヤに恋をしてしまう。ヘルシンキにライヤを伴って帰ると、マネージャーは呆れながらも子ども部屋を二人の為に提供してくれる。対戦を前に、スポンサーとの会食や、記録映画の撮影などに追われ、オリ・マキは煩わしくて仕方ない。いよいよ対戦相手が到着し記者会見が開かれるが、その場でも闘志を見せず冷めた受け答えをしてしまう。
ライヤが故郷に帰ってしまい、オリ・マキはトレーニングを脱け出し彼女に会いにいき、なんとか結婚の約束を取り付ける。ようやく安心して対戦の日を迎える・・・

国中が注目するチャンピオン戦なのに、オリ・マキの頭の中には恋するライヤのことしかない様子が、なんとも微笑ましく描かれています。16ミリフィルムで撮影されたモノクロ映像が郷愁をそそります。ボクシング映画と思っていたら、みごとにはぐらかされました。
ユホ・クオスマネン監督は本作で長編デビュー。この物語を描こうと思ったのは、2011年にオリ・マキとライヤに会った折、あの対戦の日に婚約指輪を買いにいったことをオリ・マキが嬉しそうに話してくれたことが頭から離れなかったからだそうです。
フィンランド語タイトルのHymyileva miesは、「微笑む男」という意味。実は、フィンランドでは、異常者とまではいわないまでも、微笑む男というのは稀有な存在。オリ・マキはボクサーなのに強い男というより、温厚な人物だったこともタイトルに込められています。英題からとって邦題にもなっている「人生で最も幸せな日」には、人生で大事なことは?と考えさせられます。
川べりをオリ・マキとライヤが手を繋いで歩くラストシーンですれ違う老夫婦は、本物のオリ・マキとライヤ。そうと知ったのは観終わったあとでした。どうぞお見逃しなく! (咲)


第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリ受賞

2016年/フィンランド・ドイツ・スウェーデン/92分/PG12
配給:ブロードウェイ
公式サイト:https://olli-maki.net-broadway.com/
★2020年1月17日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開





posted by sakiko at 18:58| Comment(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

リチャード・ジュエル   原題:Richard Jewell

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監督・製作:クリント・イーストウッド
原作:マリー・ブレナー「American Nightmare:The Ballad of Richard Jewell」
出演:サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、ポール・ウォルター・ハウザー、オリビア・ワイルド、ジョン・ハム

リチャード・ジュエル。
1996年、五輪開催中のアトランタで起こった爆破テロ事件の第一発見者であり、テロ犯人として、その名を記憶されている男。
本作は、巨匠クリント・イーストウッドが、テロ事件発生から、リチャード・ジュエルの容疑が晴れるまでの88日間を丁寧に追った物語。

1996円7月27日、警備員のリチャード・ジュエルは、コンサート会場近くの公園のベンチの下に爆発物が入ったリュックを見つける。率先して人々を避難させ、多くの命を救った英雄としてメディアに大きく取り上げられる。だが、3日後、FBIが第一容疑者として挙げたことが、写真入りで実名が報道される。一転してテロ犯となってしまったリチャード・ジュエル。FBIによる執拗な取調べが始まる。息子の無実を信じる母ボビ。かつて職場で面識のあった弁護士ワトソン・ブライアントも彼の無実を信じ、国家権力に立ち向かう・・・

リチャード・ジュエルは、警察官になりたくて警察学校を卒業したのですが、残念ながら警察官にはなれず、警備員の仕事をしていた時に、事件に遭遇します。容疑が晴れたあと、(映画の中では)念願叶って警察官になったのですが、2007年、44歳の若さで病死。太りすぎが心臓を悪くしたようですが、容疑者として過ごした88日間のストレスも影響したのではないかと思ってしまいます。
かねてからリチャード・ジュエルのことを映画にしたいと思っていたクリント・イーストウッド。本人は残念ながら亡くなってしまいましたが、母親ボビや弁護士ワトソン・ブライアントからも話を聞き、悪夢の日々を再現しています。
事件は20年以上前に起こったことですが、早く犯人を挙げ事件を収拾させたい検察側の事情が冤罪を生んだこと、真犯人が見つかっても容疑者として多くの人に記憶されていることなど、現代にも通じる問題を私たちに投げかけてくれます。
本作が注目され、リチャード・ジュエルの汚名は確実に挽回されたとはいえ、お母様の心中を察すると複雑なものがあります。息子が味わった悪夢の日々は取り返せないのですから。(咲)


クリントイーストウッドは2019年3月に『運び屋』が公開されたのに、もう次の作品とは! 驚きです。
英雄から容疑者へ。自分とは関係ないこととは言い切れない不安。それを恐れて何もしなくなることへの警告。見事に伝わってきました。
リチャードはほんと、いい人なんです。自分が不利になるようなことも検察に頼まれればやってしまうし、しゃべってしまう。サム・ロックウェルが演じるワトソンと一緒に「いいから黙って!」と心の中で何度も叫んでしまいました。
とはいえ、行き過ぎた正義感を振りかざすリチャードにも問題があるような気がする。それは母親の子育てに問題があったのかもしれない。自分の身にリチャードのようなことが降りかかるかもしれない不安より、リチャードのような行き過ぎた正義感を持った子を育ててしまうことへの不安を感じてしまいました。(堀)


2019年/アメリカ/131分/スコープサイズ/5.1ch リニア PCM+ドルビーサラウンド7.1(一部劇場にて)
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/richard-jewelljp/
★2020年1月17日(金)公開




posted by sakiko at 18:54| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月11日

ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を   原題:Vom Lokfuhrer, der die Liebe suchte...

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監督:ファイト・ヘルマー(『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』『ツバルTSUVALU』)
出演:
ミキ・マノイロヴィッチ(旧ユーゴスラヴィア<現セルビア共和国>)
ドニ・ラヴァン(フランス)(『ポンヌフの恋人』)
チュルパン・ハマートヴァ(ロシア)
イスマイル・クルザデ(フランス)
マヤ・モルゲンステルン(ルーマニア)
パス・ヴェガ(スペイン)
フランキー・ウォラック(フランス)
ボリアナ・マノイロワ(ブルガリア)
サヨラ・サファーロワ(ドイツ)
マナル・イッサ(フランス)
イルメナ・チチコヴァ(ブルガリア)
ラ・シュリアシュビリ(グルジア)

定年を迎える鉄道運転士ヌルラン。最後の乗車となるバクー行きの列車が、草原を抜け、両脇に住宅が迫る地区に入っていく。お茶を運ぶ少年が列車の通過を告げる笛を鳴らすと、お茶を飲んだり、ゲームに興じたりしていた人たちが大急ぎで線路から退散する。ロープを渡して干していた洗濯物を大急ぎで取り込む女性もいる。終点に着き、ヌルランは青いブラジャーが列車の正面に引っかかっているのを見つける。翌日、ヌルランは可愛い青いブラの持ち主を探して、線路脇にある家々を訪ねて歩く・・・

ブラをつけて踊ってみせる女性、サイズが合わないのを示す女性、夫が怒り出す家も。言葉を廃し、動作と音楽だけで、しっかり物語を綴っています。
ドイツ人のヘルマー監督が、この映画を撮りたいと思ったのは、2014年にアゼルバイジャンの首都バクー近くの上海と呼ばれている線路の脇に住宅が迫る地区に取り壊しの予算が割り当てられたと聞いたことから。2017年までに何とか製作資金を集め、町が消失する前に撮影することが出来たそうです。
列車の走る先には、バクー名物の炎が揺れるような3つの高層ビル「フレイムタワー」も見えていて、開発の波がすぐそこに押し寄せているのを感じさせてくれました。
列車が通るたびに、線路でくつろぐ人たちがあわてて避けるようなのどかな暮らしもいつかなくなってしまうのでしょうか。


2018年、第31回東京国際映画祭コンペティション部門で『ブラ物語』のタイトルで上映され、ヘルマー監督と鉄道運転士役のドニ・ラバンはじめ5人の女優さんたちパス・ベガ、フランキー・ウォラック、サヨラ・サファーロワ、ボリアナ・マノイロワ、イルメナ・チチコバが世界各地から駆けつけました。
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Q&Aで印象に残ったことをここにお届けします。
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監督:あの地区では、20分ごとに列車が走っていて、それを狙って撮影したのですが、とにかく大変でストレスもありました。運転士が定年後に帰る設定の山の上の家は、標高2600m位のところにあって、9月には雪が降るのでその前に大急ぎで撮影。機材や食糧を運ぶのも大変でした。

ドニ・ラヴァン:監督とは、『ツバルTSUVALU』でも組みましたが、その時よりもさらにクレイジーでした。美人ばかりの現場で、3ヶ国語を駆使しながらの撮影でした。どこにそんなエネルギーがあるのかと感心しました。

女優さんたちからは、
「半裸で踊るという噂が広まって人が集まり、警察が来て、緊迫感の中で撮影しました」
「言葉に頼らないスリリングで濃縮した時間でした」
「まだ完成した映画を観ていないので楽しみ」といった話が語られました。

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ファイト・ヘルマー監督には、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』が公開された折にインタビューしています。
これまでの作品をみると、初の長編『ツバル』はブルガリアで撮影。2003年『ゲート・トゥ・ヘヴン』はフランクフルト空港を舞台にした国際色豊かな恋愛コメディ。2008年『Absurdistan』は、アゼルバイジャンで撮った民族色豊かな全編ロシア語のラブ・コメディ。
2011年『Baikonur』は、カザフスタンを舞台にした、カザフスタンの少年とフランス人女性宇宙飛行士の恋。これまでも様々な文化や音楽、人種や民族を融合させたユニークでアーティステックな作品を発表し続けています。
インタビューの最後に、またアゼルバイジャンで撮る予定とおっしゃっていたのが、本作という次第でした。アゼルバイジャンの風光明媚な山上の村と、住宅が線路に迫る郷愁溢れる光景をたっぷり楽しませてくれる1作です。(咲)


2018年/ドイツ・アゼルバイジャン/90分
配給:キュリオスコープ
公式サイト:http://www.curiouscope.jp/thebra/
★2020年1月18日(土)新宿K’s cinema他にて公開




posted by sakiko at 21:34| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

インディペンデントリビング

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監督:田中悠輝
プロデューサー:鎌仲ひとみ
撮影:辻井潔 田中悠輝 岩田まき子 小角元哉 マット・フィールド
構成・編集:辻井潔
音楽:ガナリヤ サイレントニクス Cloud Nine(9)

物語の舞台は大阪にある自立生活センター。ここは障害当事者が運営をし、日常的に手助けを必要とする人が、一人で暮らせるよう支援をしている。先天的なものだけでなく、病気や事故などにより様々な障害を抱えながら、家族の元や施設ではなく、自立生活を希望する人たち。自由と引き換えに、リスクや責任を負うことになる自立生活は、彼らにとってまさに“命がけ”のチャレンジ。家族との衝突、介助者とのコミュニケーションなど課題も多く、時に失敗することもある。しかし、自ら決断し、行動することで彼らはささやかに、確実に変化をしていく。

自立生活センターとは?
重度の障害があっても地域で自立して生活ができるように、必要なサービスを提供する事業体であり、同時に障害者の権利の獲得を求める運動体である。センターは障害当事者により運営され、身体障害に限らず、知的、精神の障害者のサポートもしている。1972年、アメリカ・カリフォルニア州に世界初の自立生活センターが誕生。1986年に日本でも初めての自立生活センターが生まれた。2019年現在、全国に121の自立生活センターがある。
(公式サイトより転載)

2018年に大泉洋主演で『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』という作品がありました。筋ジストロフィーに罹った鹿野靖明さんがボランティアの支えを受けながら、自らの夢や欲に素直に生き、皆に愛され、またボランティアも彼を支えることで自らの生きる姿勢を見つけていく姿を描いた人間ドラマです。この作品に近いのかなと思いながら試写を見ましたが、ちょっと違っていました。
日常的に介助を必要とする障碍者が、自らが自立して地域で生活するだけでなく、自分以外の障碍者が自立した生活を送れるよう、組織を作って積極的に活動していたのです。
登場人物の1人、渕上さんが終盤に語った「この仕事をやるために頸損になったんだと今は思える」という言葉に驚くとともに、自分の力で生きている人の力強さを感じました。
障害を持っていても自立した生活を送ることができる。この作品を見ることで、「介助は家族がするもの」という固定概念が変わっていくのではないかと思います。(堀)


試写を観ながらすぐ思い浮かんだのが、やはり『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』でした。このドキュメンタリーではセンターを運営しているのが、障がいのある当事者です。介護を受ける側でもありますが、受けるばかりでなく他の必要とする人のために、働いています。足りないもの必要なことが一番わかるのは当事者ですもんね。日本のお偉方の打ち出す政策やなんやかやが変なのは、自分が困ってもいなくて、体験もなければ想像することもできないからでしょう。体験学習ができないなら(お年寄りが多いからね)当事者の声をよっく吸い上げてほしいものです。
嘆きはさておき、この映画です。登場する人たちは元気でよく笑い、わがままだって言います。田中監督は介護ヘルパーとして働いていたときに、鎌仲ひとみ監督(今作はプロデューサー)のぶんぶんフィルムのスタッフになったそうです。至近距離から撮られた初監督作品。(白)


2019年/日本/カラー/98分
配給:ぶんぶんフィルムズ
(C) ぶんぶんフィルムズ
公式サイト:https://bunbunfilms.com/filmil/
★2020年1月11日(土)より、大阪・第七藝術劇場にて先行上映。2020年春、東京・ユーロスペースほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 10:38| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

フォードvsフェラーリ(原題・英題:Ford v. Ferrari)

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監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:マット・デイモン、クリスチャン・ベイル、トレイシー・レッツ、カトリーナ・バルフ、ノア・ジュプ

ル・マンでの勝利という、フォード・モーター社の使命を受けたカー・エンジニアのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)。常勝チームのフェラーリに勝つためには、フェラーリを超える新しい車の開発、優秀なドライバーが必要だった。彼は、破天荒なイギリス人レーサー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)に目をつける。限られた資金・時間の中、シェルビーとマイルズは、力を合わせて立ちはだかる数々の乗り越え、いよいよ1966年のル・マン24時間耐久レースで長年絶対王者として君臨しているエンツォ・フェラーリ率いるフェラーリ社に挑戦することになる。

いきなりレースシーンで始まり、しかも運転席からの視界で進んでいく。まるで自分が運転しているかのよう。ものすごい迫力に作品の期待値が高まります。しかし、この作品の良さはそういったメカニックな面だけではありません。ル・マンでの優勝に挑む男たちの熱い友情が作品のいちばんの見どころ。これはいろいろなサイトでも書かれています。
シネマジャーナルとして注目したいのは、クリスチャン・ベイルが演じたケンを支えた妻。夫が悔しい思いをしているときはそっと寄り添い、夢を諦めようとしているときは厳しいくらいに鼓舞する。しかも夫がレースで留守をしている時はしっかり家を守る。なかなかできることではありません。男が何か成し遂げるときには支える妻がいるものなのよねと納得してしまいました。
さて、肝心のレースの結果は。。。「そんなのあり?」と驚くようなクライマックスに怒りがこみ上げてくるかもしれません。しかし、意外に本人たちの方があっさりしているもの。浮かれるフォードたちを尻目に、シェルビーとマイルズがフェラーリとレースを愛するものにしかわからない敬意を互いに示していたシーンに胸が熱くなりました。(堀)


2019年/アメリカ/カラー/英語/153分
配給: ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari/
★2020年1月10日(金)全国ロードショー
posted by ほりきみき at 00:10| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋(原題:LONG SHOT) 

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監督:ショナサン・レウィン
脚本:ダン・スターリング、リズ・ハンナ
原案:ダン・スターリング
出演:シャーリーズ・セロン、セス・ローゲン、オシェア・ジャクソン・Jr、アンディ・サーキス、アレクサンダー・スカルスガルド

アメリカの国務長官として活躍する才色兼備なシャーロット・フィールド(シャーリーズ・セロン)は、大統領選への出馬を目前としていた。そんなある日、シャーロットはジャーナリストのフレッド・フラスキー(セス・ローゲン)と出会う。才能はあるものの、頑固な性格があだとなり、職を失っていたフレッドとは実家が近所で、シャーロットはフレッドにとって初恋の人だったのだ。予想外の再会を果たした2人は、思い出話に花を咲かせる。その後、シャーロットは若き日の自分をよく知るフレッドに、スピーチ原稿作りを依頼。原稿を書き進めるうちに、2人はいつしか惹かれ合っていく。しかし、越えなければならない高いハードルがいくつも待ち受けていた。

才色兼備のシャーリーズ・セロンぴったりな役どころをユーモアたっぷりに演じていて、とにかく見ていて楽しい。相手役のジャーナリストをセス・ローゲンが演じていて、見た目的にはお世辞にもイケメンとは言えないのだけれど、シャーロットとうまくいくようになるに従って、段々カッコよく見えてくる。むしろ、本来イケメンのアレクサンダー・スカルスガルドがダサい感じ。愛されている自信からでしょうか。不思議です。
シャーロットはロクセットの「愛のぬくもり(It Must Have Been Love)」が好きだというセリフが出てくるのですが、これは『プリティ・ウーマン』の挿入歌としてヒットした曲。二人が愛を確かめ合うシーンでフレッドがスマホを使って流していたのですが、スマホの画面がちらっと映り、そこには『プリティ・ウーマン』のビジュアルが! しかも、そのとき、シャーロットが着ていたのが真っ赤なイブニングドレス。『プリティ・ウーマン』でヴィヴィアンがエドワードと初めてオペラに行く際に着ていたのも真っ赤なドレスでしたから、オマージュなのかもしれません。スマホの画面は本当に一瞬なので、作品をご覧になるときはよ~く注意してくださいね。(堀)


2019年/アメリカ/カラー/英語/ 125分/シネマスコーフ/5.1ch/PG12
配給:ホニーキャニオン
© 2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://longshot-movie.jp/
★2020年1月3日(金)、TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー

posted by ほりきみき at 00:00| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月07日

東京パラリンピック 愛と栄光の祭典

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監督・脚本・撮影:渡辺公夫
音楽:團伊玖磨
製作:上原明
解説:宇野重吉

「パラリンピック」という名称が初めて使われた、1964年の東京パラリンピック大会の模様を収めた記録映画。1964年、東京オリンピックが終わり、街が落ち着きを取り戻したはじめたころ、「国際身体障害者スポーツ大会」が開幕する。この大会の第1部は、下半身麻痺のため車椅子で生活する競技者を対象にしたもので、これが「東京パラリンピック」の愛称で呼ばれる。大会開催にあわせて集められた日本人の参加者たちが、海外の選手たちとの交流を通じて、競技経験や社会保障制度の違いを見せ付けられながらも、スポーツによって社会復帰への意識や希望を強めていく様子が映し出されていく。1965年に製作・公開。2020年東京オリンピックおよびパラリンピックの開催を控えた19年、デジタル修復版が劇場公開。

1964年の東京オリンピックが閉幕した後、車椅子生活を送る下半身まひの競技者を対象にした「国際身体障がい者スポーツ大会」が開催される。後にパラリンピックという愛称で呼ばれることになるこの大会に参加するため、更生指導所では病気や交通事故などにより車椅子を使う人々がスポーツに励んでいた。開催が近づき、彼らは世界各国から集まった同じ境遇の選手たちと交流を重ねる。

浅薄にも1964年の東京オリンピックで、”パラリンピック”という名称が初めて使われたことを知らなかった。オリンピックと相次いで開催されたのも東京が初なのだ。障害者スポーツの黎明期を映し出した記録映画が劇場公開されるのは、2020年開催の東京パラリンピックを前に貴重な機会と言える。

映画は東京オリンピックの看板や垂れ幕、万国旗が引き下ろされる場面から始まる。華やかな祭典の残響が鳴り響き、暫し静寂の後で広がるタイトルバック…。パラリンピックがひっそりと開催された様子を暗喩する見事な幕開けだ。
’60年代当時は戦争で負傷した人々がおり、労働災害、交通事故による怪我人が多発した時代だった。中でも脊髄損傷患者のように意識は清明でも下半身が不自由になった人たちのバランス回復に、とスポーツが奨励されるようになった。患者の自信や誇りの回復、失われたものより残った上半身を活かそうという発想だ。
因みに、パラリンピックとは「パラプレジア(下半身不随)」とオリンピックをかけた造語である。

様々な症例が示される。結婚式直前に駅の階段で男性とぶつかり、転落して下半身不随になった若い女性。結婚は自ら解消したという。戦争時、気付いたら米国の野戦病院にいたと語る男性。産褥熱で下半身不随となるも、子どもの笑い声が聞きたくて訓練を始めた母親。彼らが明るい笑顔で槍投げ、卓球、アーチェリーに励む様子は胸を熱くする。
この母親と、競技を応援する子どもたちの心配気な、時に喜ぶ表情が繰り返しアップで映し出されるのは、脚本・撮影・編集も兼ねた監督の意図が反映しているのだろう。

初めて治療にスポーツを取り入れた英国の病院で脊髄損傷センター所長を務めるルードヴィッヒ・グッドマン博士も登場する。最初は英国人だけの競技会だったが、’52年から国際的に開催され、12年後の東京パラリンピック。主催者たちの慧眼が分かる逸話だ。開催は決まったものの資金難のため歌声喫茶で募金活動をしていたとは涙ぐましい奮闘ぶりが伝わる。

当時の皇太子、皇太子妃(美しい!)臨席の開会式では、車椅子の選手たちと握手し、気さくに話しかけるご夫妻印象的だ。
土埃のグラウンド、バリアフリー設備が整備されない中、人力で選手たちを抱きかかえるボランティア。割烹着姿で掃除する婦人会、宿舎で歌いながら酒宴を囲む明るい外国人選手団。彼らと交流し、海外との社会福祉制度の違いを痛感したと語る日本選手。
多角的な視点から、映画は当時の在りのままの大会を描写する。

競技が始まると、選手たちは国を背負っている意識がないせいか、失敗してもず楽しげだ。出場できたこと自体が嬉しくて堪らないのだろう。気負いのない姿勢に和む。多くの勇気と感動を与えてくれる必見の価値を有すドキュメンタリーだ。(幸)


製作国:日本
配給:KADOKAWA
日本初公開:1965年5月15日
白黒/モノラルリンク/63分
公式サイト:http://cinemakadokawa.jp/tokyopara1964
/2020年1月17日(金)より ユナイデットシネマ豊洲にて公開★
posted by yukie at 12:54| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

オルジャスの白い馬 英題HORSE THIEVES

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監督・脚本:竹葉リサ、エルラン・ヌルムハンベトフ
製作:市山尚三、木ノ内輝、キム・ユリア
撮影:監督アジズ・ジャンバキエフ
音楽:アクマラル・ジカエバ
出演:森山未來、サマル・イェスリャーモワ、マディ・メナイダロフ、ドゥリガ・アクモルダ

少年オルジャスは、カザフスタンの大草原にある小さな家で家族と暮らしていた。ある日、馬飼いの父が市場に出掛けたまま帰ってこなくなる。雷鳴が響きわたる中、警察に呼び出された母は、夫の死を知る。父を失ったオルジャスの前にカイラート(森山未來)という寡黙な男が現れ、乗馬などを通じて彼との距離を縮めていく。

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森山未來の海外初主演作。カンヌ国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞したカザフスタン人女優サマル・エスリャーモバとダブル主演を務めたカザフスタン合作映画である。昨年、開催された第20回東京フィルメックスでコンペティション部門審査委員として来日したサマル(映画より若々しい!)は、森山未來を激賞していた。全編カザフ語であり、馬を易々と乗りこなし、スタッフとのコミュニケーションも全く問題なかったという。

カザフスタンの広大な草原、荒ぶる大地に自然と溶け込んだ森山未來の佇まいは驚異だ。森山を知らない外国人が観たら、おそらく素人と思うのではないか。それほどに森山の演技は俳優特有の”クサみ”が抜かれ、在りのままの自然体なのである。映画では森山演じるカイラートが、どこの何者かという特段の説明はない。森山の持つ”無国籍性”が見事に作用しているのだ。

父不在の中で母を支え、家事を切り盛りする少年オルジャスの姿が愛しい。発電機を作動したり湯を沸かしたり…。甲斐甲斐しくまだ幼い妹の世話も怠りない。
唯一の男手となったオルジャスの前に現れた寡黙な男カイラート。乗馬や仕事を教え、閉じていたオルジャスの世界を開放する。

米の名作『シェーン』を想起させる本作は、全編カザフスタンロケ。詩情豊かに描いた日本の竹葉リサ、エルラン・ヌルムハンベトフ(カザフスタン側)両監督の手腕は必見に値するだろう。(幸)



第32回東京国際映画祭で2019年10月30日にプレミア上映された折の竹葉リサ監督とエルラン・ヌルムハンベトフ監督のQ&A報告をこちらに掲載しています。
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その中で、とくに面白いと思ったのが、竹葉リサ監督の下記の発言。
「日本人とカザフ人はアルタイ山脈から来た共通の民族と言われ、カザフのジョークにも近い話で、バイカル湖まで下りてきて、魚を求めて東に行ったのが日本人になって、肉を求めて南に行ったのがカザフ人になったという説があります。中国人は蒙古斑がないのに、カザフ人と日本人にはあります」
風貌も、こんな日本人いるという位よく似ている人がいるので、森山未來さんがカザフ人を演じても、ほんとに違和感がありません。比較的寡黙な役とはいえ、カザフ語の台詞をすべて自身でこなしているのも見事! (咲)


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こちらは、母親役を務めたサマル・イェスリャーモワさんと、プロデューサーの一人である市山尚三さん。第20回東京フィルメックスの特別企画として、2019年11月27日に開かれたトークイベント「昨年度最優秀作品『アイカ』主演女優、サマル・イェスリャーモワに聞く。」の折に。(撮影:景山咲子)


2019年/日本・カザフスタン/カザフ語・ロシア語/81分/カラー/DCP/Dolby SRD(5.1ch)/シネスコ
配給:エイベックス・ピクチャーズ
配給協力:プレイタイム
カラー/DCP / Dolby SRD(5.1ch)/シネマスコープ/81分
©『オルジャスの白い馬』製作委員会
公式サイト:http://orjas.net/
★2020年1月18日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開★
posted by yukie at 12:18| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月06日

イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり(原題:The Aeronauts)

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監督:トム・ハーパー
脚本:ジャック・ソーン
音楽:スティーヴン・プライス
主題歌:シグリッド
出演:フェリシティ・ジョーンズ(アメリア)、エディ・レッドメイン(ジェームズ)、ヒメーシュ・パテル、トム・コートネイ

1862年のロンドン。気象学者のジェームズは気象予測を実現するために気球で空へと上がり、経過の記録をしたいと願っていた。周囲は荒唐無稽と笑い、賛同者も得られない。一方、気球操縦士のアメリアは夫を亡くした後、生きる気力も失っていたが、もう一度気球に乗ることで立ち直ろうとしていた。世界記録に挑戦する一大ショーとして、多くの観客の声援を受けて気球は飛び立つ。そこにはアメリアに頼み込んで、同乗できることになったジェームズもいた。初めて目にする空からの眺めに驚きながらジェームズはさっそく調査を開始する。

実際にこういう気球での調査があったのだそうですが、映像はどうやって撮影したの?という驚きと美しさにあふれています。CGも駆使しているのでしょうが、生身で風を感じているような爽快さがあります。と同時に、突風が吹いたり思わぬ変動に直面したときの恐怖も感じますので、高いところの苦手な人(私!)はご注意ください。
研究熱心、頭で考えるジェームズと、自由奔放で自分の経験と身体能力に裏打ちされた実践型のアメリア。対極にいる二人が協力して大事を成すまでの過程はドキドキです。これはぜひ大きな画面で。(白)


「博士と彼女のセオリー」のフェリシティ・ジョーンズとエディ・レッドメインが再び共演するとは! それだけで作品への興味が高まります。
実話を基にしているものの、エンタメ性を高めるような、あっと驚くシーンが随所に挟み込まれ、かなりアレンジがされています。ファンタジーに近いかもしれません。
とはいえ、実話は気象が学問になったきっかけのチャレンジ。天気予報を見るたびに、この作品を思い出してしまいそうです。(堀)


2019年/イギリス、アメリカ/カラー/シネスコ/110分
配給:ギャガ
(C)2019 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.
https://gaga.ne.jp/intothesky/
★2020年1月17日(金)全国ロードショー
posted by shiraishi at 17:08| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

盗まれたカラヴァッジョ(原題:Una storia senza nome)

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監督:ロベルト・アンドー
脚本:ロベルト・アンドーほか
撮影:マウリツィオ・カルページ
音楽:マルコ・ベッタ
出演:ミカエラ・ラマッツォッティ(ヴァレリア)、アレッサンドロ・ガスマン(アレッサンドロ)、レナート・カルペンティエリ(ラック)、ラウラ・モランテ(アマリア)、イエジー・スコリモフスキ(クンツェ)

ヴァレリアは映画プロデューサーの秘書をつとめながら、人気脚本家アレッサンドロのゴーストライターもしている。すっかりヴァレリアに頼り切りのアレッサンドロを憎みきれず、かといってネタ切れで筆は進まず悩み中。そんなときにリックという男性から「未解決のカラヴァッジョの名画盗難事件はマフィアの仕業」と知らされる。リックにヴァレリアは心当たりがなかったが、こちらの情報はなぜかよく知られていた。
リックから聞いたストーリーをアレッサンドロ作のプロットと偽って提出すると、その面白さに興奮したプロデューサーは引退していた伝説の巨匠監督まで引っ張り出し、映画化の話が進んでいく。
ところが、恋人と旅行を楽しんでいたアレッサンドロがマフィアに誘拐されてしまった。

ロベルト・アンドー監督の作品中、日本で上映されたのは『そして、デブノーの森へ』(04)、『ローマに消えた男』(13)『修道士は沈黙する』(16)。どれもサスペンス、ミステリー風味ですね。
1969年にパレルモのサン・ロレンツォ礼拝堂から盗まれた名画はその後も発見されていません。この未解決事件をもとに脚色された本作が解決への糸口になるとすごいのですが、50年進展がないとはね。教会のために描かれた絵を盗むなんて、神様はぜひ真犯人にお仕置きを。
ラック役のレナート・カルペンティエリとヴァレリア役のミカエラ・ラマッツォッティの2人は『ナポリの隣人』(17)で実子よりも深い絆を結ぶ隣人を演じて深い印象を残していました。母アマリア役は『息子の部屋』(01)のラウラ・モランテ。アレッサンドロ・ガスマンとは『神様の思し召し』(15)で共演しています。うーむ、名優ぞろいです。50年前の未解決事件を下敷きに、映画界の裏側や男女の愛憎、家族の事情まで盛り込んで破綻なくエンタメに仕上げる脚本・監督の勝利。(白)


2018年/イタリア・フランス合作/カラー/シネスコ/110分
配給:サンリス
(C)2018 Bibi Film - Agat Film & Cie
https://senlis.co.jp/caravaggio/
★2020年1月17日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開ロードショー
posted by shiraishi at 17:00| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

太陽の家

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監督:権野元
脚本:江良至
撮影:葛井孝洋
音楽:遠藤浩二
主題歌:長渕剛
出演:長渕剛(川崎信吾)、飯島直子(美沙希)、山口まゆ(柑奈)、瑛太(河井高史)、広末涼子(池田芽衣)、潤浩(池田龍生)

大工の棟梁信吾は腕も良ければ気もいい、人情にあつい男。そんな夫をしっかり者の妻美沙希が支え、一人娘の柑奈は熱すぎる父親をクールに見つめている。保険会社の営業ウーマンの池田芽衣に出会った信吾は、彼女が女手一つで息子の龍生を育てていると知ると放っておけなくなった。父親を知らない龍生を「俺が男にしてやる!」と肩入れし始める。一番弟子の高史は自分の家庭そっちのけの棟梁に、思わず口出しするが全く意に介さない。そんなときに龍生の父親だと名乗る男が現れた。

この棟梁のキャラはまんま長渕さんでは?と思うほど似合いでした。家まで建てようというのはやりすぎだろ、と思いますが。これと思うと突っ走ってしまうのは、薩摩の「ぼっけもん」気質であるのでしょうか?あ、映画では江戸っ子なのかしら。観終わってほっこりする人情ドラマ。
長髪で弾き語りをしていた長渕さんを知っている世代なので、ヒット曲「巡恋歌」や「順子」の歌詞がいまだに浮かびます。ドラマ「家族ゲーム」も見ていたので、共演した志穂美悦子さんと結婚したときは納得でした。アクションファンには女神の悦ちゃんの出演作がもっと観たかったので、もったいない気もした…けれども、やんちゃな長渕さんを内助の功で支えてきたことに拍手。ますます映画のキャラがかぶります。映画のキックオフイベントでライブを観たときのスタッフ日記はこちら。(白)


2019年にデビュー40年を迎える長渕剛が20年ぶりに主演。困った人を放っておけない大工の棟梁が好みのタイプのシングルマザー親子のために一肌脱ぐ話です。
長渕剛ってこんなにマッチョだとは思ってもみませんでした。ムキムキの体をスクリーンにばーんと晒す。そのたくましさがまさしく親分肌の棟梁。妻と高校生の娘を足に載せてぎったんばったん(と子どもが小さい時にわが家では呼んでいました)ができるなんて! 
そんな長渕剛が演じる棟梁の信吾はきれいな女性には目がなくて、ついついいいところを見せようとしてしまう。器が大きいんだか、小さいんだかわかりません。有無を言わせない強引な行動に子どもたちは腹を立てつつ、母の取り成しで何とか仲直り。飯島直子が演じた妻の美沙希の方がいろんな意味で人間として大きい気がします。「半端なことをするんじゃないよ」と夫を叱咤する姿は同性から見てもカッコいい!自分の夫が信吾みたいな人物だったら…。私にはとても支えきれません。
広末涼子は最近、すっかりお母さん役が板についてきました。今回もシングルマザーでがんばっています。(堀)


2019年/日本/カラー/シネスコ/123分
配給:REGENTS
(C)2019映画「太陽の家」製作委員会
https://taiyonoie-movie.jp/
★2020年1月17日(金)全国公開
posted by shiraishi at 16:47| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

マザーレス・ブルックリン(原題:Motherless Brooklyn)

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監督:エドワード・ノートン
原作:ジョナサン・レセム
脚本:エドワード・ノートン
音楽:ダニエル・ペンバートン
出演:エドワード・ノートン(ライオネル)、ブルース・ウィリス(フランク)、アレック・ボールドウィン(モーゼス)、ウィレム・デフォー(ポール)、ググ・バサ=ロー(ローラ)

孤児のライオネルには障がいがあり、その場と関係ない言葉が突然口から出てしまう。自分ではコントロールできないため、周囲からは変わり者扱いされてきた。フランクはそんなライオネルを施設から連れ出し、探偵の仕事を教え、居場所を与えてくれた身内のような存在。ライオネルには並外れた記憶力というほかの人間にはない能力があった。障がいの発作に耐えながら、その能力を駆使してフランクの役に立とうとするが、何者かがフランクを襲う。ライオネルは1人で調査を続けるが、真実に近づくほど彼に危険も迫って来るのだった。

原作にほれ込んだエドワード・ノートンが早くに映画化権を獲得、長い時間をかけて脚本を執筆。このほど監督・脚本・主演として力を注いだ作品が完成しました。芸達者な俳優たちが見せる表情、思わぬ50年代の音楽とタバコと酒の香りがしてきそうなバーのたたずまい。懐かしい雰囲気のノワール作品の中で、エドワード・ノートン演じる異色の探偵が活躍します。障がいのためにコントロールできないという言葉が、ときどきおかしいほど鋭いのは原作どおりなのでしょうか。思わず笑ってしまいました。
ググ・バサ=ロー演じるローラは、原作にない映画オリジナルの役柄。殺伐とした金権がらみの殺し合いの中で、ライオネルの障がいもさらりと受け止めるローラがライオネルの希望になります。彼女の空色のコートがくすんだ街に映えて美しく、彼女の存在が作品に色をそえて観客をストーリーへと案内してくれました。(白)


本作はなんと、エドワード・ノートンが主演だけでなく、監督と脚本、製作までこなしています。しかも脚本は初めてで、監督は20年ぶり。ノートン渾身の作といえるでしょう。
時代設定を原作の1999年から1957年へと変更したことで、ジャズと当時の風景がより調和したような気がします。ニューヨークの土地再開発における利権絡みの殺人事件というのも50年代らしいですね。
主人公のライオネルはトゥーレット症候群を抱えていますが、トゥーレット症候群は文字で読むより役者が演じた方がうまく伝わります。もちろんエドワード・ノートンの演技が素晴らしいこともありますけれど。最初は少し驚いてしまいましたが、物語が進むにつれて、彼の人柄が伝わってきて、次第に病気を抱える彼に寄り添ってあげたくなりました。
意外だったのが、ブルース・ウィリス。孤児を育てる善良な紳士かと思いきや、意外とお金にがめついところがある。これまでのブルース・ウィリスの印象が覆されました。こんな役も演じられるんですね。そのブルース・ウィリス演じるミナはライオネルのことを「マザーレス・ブルックリン」と呼びます。母親はいないけれど、父親代わりの俺はいるぞというメッセージのように思えました。(堀)


2019年/アメリカ/カラー/シネスコ/144分
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights eserved
http://wwws.warnerbros.co.jp/motherlessbrooklyn/
★2019年1月10日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:00| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月05日

フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて  原題:Fisherman's Friends

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監督:クリス・フォギン
出演:ダニエル・メイズ、デヴィッド・ヘイマンジェームズ・ピュアフォイ、デイヴ・ジョーンズ、タペンス・ミドルトン

イギリス南西部コーンウォール地方の小さな港町ポート・アイザックで、1995年に慈善事業の資金集めのために結成された漁師たちによる舟歌バンド“フィッシャーマンズ・フレンズ”。彼らが、2010年に契約金100万ポンドでメジャーレビューし全英トップ10入りを果たした実話をもとにしたヒューマンドラマ。

ロンドンで音楽業界の敏腕マネージャーとして活躍するダニーは、結婚間近の悪友ヘンリーを連れ、独身最後のお楽しみに大西洋に面した小さな港町ポート・アイザックへ男ばかりで繰り出す。港で舟歌を歌う漁師たちを見かけて、上司のトロイはダニーに「彼らと契約するまで帰るな」とダニーを置き去りにして帰っていく。
舟歌を歌っていたのは、漁師たち10人からなるコーラスバンド“フィッシャーマンズ・フレンズ”。週1回、港で慈善コンサートを行っているが、あくまで趣味だという。リーダーのジムはかなりのひねくれ者だ。ダニーはジムの娘、オーウェンが経営するB&Bに泊まり、彼らを説得する作戦を練る。
漁船に一緒に乗ったり、彼らがよく息抜きに集う最年少ローワンの経営するパブに行ったりし、ようやく契約にこぎつける。だが、上司トロイは「契約を取れというのは冗談」とせせら笑う。ダニーはライバル会社に掛け合い、テレビ番組への出演を決める。それも、女王陛下の誕生日を祝う特別番組だ。ところが、生番組で彼らは国歌『God Save the Queen (女王陛下万歳)』ではなく、コーンウォール賛歌を歌い始めた・・・


ポート・アイザックのあるコーンウォール地方は、ロンドンから車で6時間ほどのところですが、アングロ・サクソンの侵攻後も、ケルト人が生き延びた地。コーニッシュ(コーンウォール人)の意識が強く、今も独自の文化を育みながら暮らしているとのこと。
国歌でなくコーンウォール賛歌を歌ったことで、ダニーは真っ青になるのですが、彼らの茶目っ気と、素晴らしい歌声は大受け。そも、“フィッシャーマンズ・フレンズ”というバンド名が、イギリス人なら誰でも知っているミント系トローチの名前と同じだということも、親しまれた理由だそうです。
“フィッシャーマンズ・フレンズ”が活躍する一方で、ローワンの経営するパブが経営難で売りに出されるという話が進行します。イギリス人にとって、パブはただお酒を飲むだけでなく、くつろぎの場所。イギリス全土で個人経営のパブが存続の危機にあるという実情も映画に込めたそうです。
映画の中では、メンバーのキャラクターを織り交ぜた人物像を作っていますが、本物の“フィッシャーマンズ・フレンズ”の歌う姿も出てきます。
メジャーレビューして9年が経ち、2014年には最高齢のピーター・ロウが80歳で亡くなっています。また、2013年にメンバーのトレヴァー・グリルとツアー・マネージャーのポール・マクミューレンがライブ会場のドアの下敷きになって事故死したことから、映画の最後に「トレヴァーとポールに捧ぐ」とあります。
漁師の男たちの素晴らしいハーモニーをいつかポート・アイザックの海辺で聴いてみたくなる一作です。(咲)


2019年/イギリス/英語/112分
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://fishermans-song.com/
★2020年1月10日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国出航!
posted by sakiko at 21:33| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月04日

ティーンスピリット 原題:Teen Spirit

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監督・脚本:マックス・ミンゲラ
エグゼクティブ音楽プロデューサー・作曲:マリウス・デ・ヴリーズ
音楽スーパーバイザー: スティーヴン・キジッキ
撮影監督: オータム・ドゥラルド・アルカパウ
出演:エル・ファニング、ズラッコ・ブリッチ、レベッカ・ホール、アグニェシュカ・グロホフスカ

シングルマザーに育てられた移民のヴァイオレット・ヴァレンスキ(エル・ファニング)は、イギリスの片田舎のワイト島で暮らしていた。引っ込み思案で心の支えは音楽だけの彼女はある日、世界的なオーディション番組「ティーンスピリット」の出演者を決める予選がワイト島で開催されることを知る。ヴァイオレットは歌手になる夢をかなえるため、オーディションに参加する。

てっきり「アメリカン・アイドル」的な”スモールタウンガール・エスケープもの(勝手にジャンル分け(笑))”と決めつけて試写へ臨んだところ、冒頭からクオリティの高さに驚かされる!舞台は英国ワイト島。重く垂れ込めた空、暗い海、荒涼とした自然を背景に佇む孤独な少女。
母(アグニエシュカ・グロホウスカが好演)と2人暮らしの質素な屋内を逆光スモークに照らし出す陰影に富むカメラワーク。ワイト島に於けるポーランドの移民文化もさり気なく紹介しつつ、少女の成育歴を説明する仕掛けだ。
巧い!”『ラ・ラ・ランド』のスタッフが再結集した青春音楽映画”との惹句が踊っているため、挿入楽曲を期待していたら、透明感溢れるオータム・ドゥラルドの自然光撮影にすっかり魅せられた。

もちろん、吹替なしで挑んだエル・ファニングの力強い歌声、ケイティ・ペリーやアリアナ・グランデらの楽曲を欧風に編曲した構成は見応え、聴き応えがある。が、やはり音響設計面でもクロアチア移民として、少女の能力を見出すズラッコ・ブリッチの味わい深い名演、居住宅のクロアチア文化に惹き付けられてしまう。

これは、ワイト島で生まれ、イタリアにルーツを持つ名匠の父アンソニー・ミンゲラへ向けた息子からのオマージュのような気がする。俳優としても知られるマックス・ミンゲラの長編監督デビュー作。また楽しみな才能に出逢えた。
尚、『リトル・ダンサー』『ロケットマン』などの俳優ジェイミー・ベルが製作に名を連ねている点にもご注目を。(幸)


2019年製作/94分/PG12/イギリス・アメリカ合作/カラー
配給:KADOKAWA
(C) 2018 VIOLET DREAMS LIMITED
公式サイト:https://teenspirit.jp/
★2020年1月10日(金)より、角川シネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国で公開★
posted by yukie at 20:03| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ダウントン・アビー 原題:DOWNTON ABBEY

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監督:マイケル・エングラー
脚本・製作: ジュリアン・フェロウズ
撮影:ベン・スミサード
衣装デザイン:アンナ・メアリー・スコット・ロビンス
出演:ヒュー・ボネヴィル、ジム・カーター、ミシェル・ドッカリー、エリザベス・マクガヴァン、 マギー・スミス、イメルダ・スタウントン、ペネロープ・ウィルトン

国王夫妻が訪れることになった大邸宅ダウントン・アビー。グランサム伯爵家の長女メアリー(ミシェル・ドッカリー)は、パレードや晩さん会の準備のために引退していた元執事のカーソン(ジム・カーター)を呼び戻すが、国王夫妻の従者たちは、自分たちが夫妻の世話や給仕をやると告げる。一方、先代伯爵夫人バイオレット(マギー・スミス)の従妹モード・バッグショー(イメルダ・スタウントン)は、自分の遺産をメイドに譲ろうと考えていた。

テレビ版からのファンには、懐かしい家族に出逢えたような歓びとトキメキ、興奮を覚えるだろう。あのテーマ曲がピアノの調べと共に響き、汽車が導線となって観客の視線を誘う。意識と楽曲がシンクロし、クライマックスに達したところで…♪
冒頭から、ファンは十分過ぎる至福を感じるはずだ。

では、映画版が初見の人は?何しろ主要人物だけで18人も登場する。その辺りも本編ではソツなく整理した上で紹介され、理解しやすくなっている。更に、各人それぞれのドラマや見せ場も漏らさず用意した脚本は手練れのジュリアン・フェロウズならではだ。巧みに張られた伏線もお見逃しなきよう。

貴族たちの頻繁な衣装替え、それに合わせたヘアメイク。使用人はじめ庶民たちの装いも綿密な時代考証に基いたものだということが大画面により一層鮮明になる。

加えて名優たちの演技合戦は最大の見どころ!巧いなぁ〜と唸りつつ、どれだけ笑わされたことか。練られた台詞の一つ一つに、深い含蓄と普遍性が感じられる。1920年代と現在は地続きなのだ。
年初に相応しい華やかなラスト。誰しもが幸せになる。安易なハッピーエンドではなく、観客が納得する解決によりカタルシスを得られるに違いない。(幸)


2019年製作/122分/G/イギリス・アメリカ合作/シネマスコープ/ドルビーデジタル
配給:東宝東和
(C) 2019 Focus Features LLC and Perfect Universe Investment Inc.
公式サイト:https://downtonabbey-movie.jp/
★2020年1月10日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開★




posted by yukie at 15:13| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月02日

さよならテレビ

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監督:圡方宏史 プロデューサー:阿武野勝彦
音楽:和田貴史 音楽プロデューサー:岡田こずえ 
撮影:中根芳樹 音声:枌本昇 CG:東海タイトル・ワン
音響効果:久保田吉根 TK:河合舞 編集:高見順 
 
東海テレビ開局60周年記念番組として2018年9月に東海地方限定で放送されたドキュメンタリー番組に40分以上の新しいシーンを追加して映画化した。
テレビの現場は日々、何に苦悩し、何を恐れ、どんな決断を迫られているのか。自社の報道部にカメラを向け、現場の生の声をとらえた。

メインに取り上げられた人物は3人。1年契約の記者、派遣スタッフ、「セシウムさん」で矢面に立ったアナウンサー。自分のすべきことを必死に成し遂げようとするものの、組織がはしごを外す。パワハラではないのかと憤りを感じずにはいられない。テレビの今を捉えるのなら、むしろ会社側の、彼らをないがしろにした人間を描くべきではと心にざらざらするものが残った。
それを公開初日の上映で登壇した圡方監督にぶつけたところ、この質問は想定内だったそう。テレビ局の役職のある人間にマイクを向けてもそつなく答えるだけなので、観客の共感を得られない。そう考えて、この3人をクローズアップしたという。言われてみれば、3人を通じて、他の人たちが見えたからこそ、憤りを感じたのだ。まさに監督の思う壺。まんまと引っかかってしまったようだ。(堀)


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公開初日に舞台挨拶に立った圡方宏史監督

製作・配給:東海テレビ放送 
配給協力:東風 
©東海テレビ放送
公式サイト:https://sayonara-tv.jp/
★2020年1月2日(木)からポレポレ東中野、名古屋シネマテークほかで公開
posted by ほりきみき at 22:22| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする