2019年12月14日

この世界の(さらにいくつもの)片隅に 

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監督・脚本:片渕須直 
原作:こうの史代「この世界の片隅に」(双葉社刊) 
キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典 
美術監督:林孝輔
音楽:コトリンゴ 
声の出演:のん 細谷佳正 稲葉菜月 尾身美詞 小野大輔 潘めぐみ 岩井七世 牛山茂 新谷真弓/花澤香菜/ 澁谷天外(特別出演)

広島県呉に嫁いだすずは、夫・周作とその家族に囲まれて、新たな生活を始める。昭和19(1944)年、日本が戦争のただ中にあった頃だ。戦況が悪化し、生活は困難を極めるが、すずは工夫を重ね日々の暮らしを紡いでいく。ある日、迷い込んだ遊郭でリンと出会う。境遇は異なるが呉で初めて出会った同世代の女性に心通わせていくすず。しかしその中で、夫・周作とリンとのつながりを感じてしまう。昭和20(1945)年3月、軍港のあった呉は大規模な空襲に見舞われる。その日から空襲はたび重なり、すずも大切なものを失ってしまう。そして昭和20年の夏がやってくる。

タイトルからてっきり大ヒット作のスピンオフ作品で、すずではない人物を主人公に据え、違った側面から戦争を見つめるのかと思っていた。しかし、今回も主人公はあくまでもすず。新しい人物を登場させ、結婚前の周作を浮かび上がらせる。そこにすずの女としての葛藤が生まれ、これまでもあったシーンにもより深い意味が加わった。聞けない疑いと言えない不安。すずや周作が抱える気持ちの揺れが伝わってくる。
また、戦争の爪痕をより具体的に見せる。実写だったら辛くて見られなかったかもしれない。アニメだからこそできた表現だったと思う。1回見た作品だからと言わず、ぜひ多くの人に見てほしい。(堀)


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11月4日の舞台挨拶@TIFF (撮影:白)

2019年/日本/カラー/168分
配給:東京テアトル
©2018こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
公式サイト:https://ikutsumono-katasumini.jp/
★2019年12月20日テアトル新宿・ユーロスペース他全国公開
posted by ほりきみき at 19:03| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢(原題:L'Incroyable histoire du Facteur Cheval)

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監督: ニルス・タヴェルニエ
原案:ファニー・デマレ
脚本:ファニー・デマレ、ニルス・タヴェルニエ、ロラン・ベルトーニ
出演:ジャック・ガンブラン、レティシア・カスタ、ベルナール・ル・コク、フロランス・トマサン

19世紀末、フランス南東部の村オートリ―ヴ。日々、村から村へと手紙を配り歩く郵便配達員シュヴァル(ジャック・ガンブラン)は、新しい配達先で未亡人フィロメーヌ(レティシア・カスタ)と運命の出会いを果たす。結婚したふたりの間には娘が誕生したが、寡黙で人付き合いの苦手な彼は、その幼い生命とどう接したらいいのか戸惑っていた。
ある日、配達の途中で石につまずいた彼は、その石の奇妙な形に心奪われ、石を積み上げて壮大な宮殿を作り上げるという奇想天外な挑戦を思いつく。そしてそれは同時に、不器用な彼なりの、娘アリスへの愛情表現でもあった。村人たちに変人扱いを受けながらも、作りかけの宮殿を遊び場に育っていくアリスとともに、シュヴァルの幸せな生活は続いて行くかに見えた。しかし、過酷な運命が容赦なく彼に襲い掛かるのであった。

この作品を見るまでシュヴァルの理想宮のことを知らなかった。建築や石工の知識を持たない郵便配達員が独学で方法を考え、雑誌や絵はがきを参考に、拾い集めた石で築き上げたという。フランス南東部ドローム県のオートリ―ヴ村に現存し、高さが8~10mで、東西26m 、北 14m、南 12m の建物は1879~1912の33年間で、9万3000時間を費やして完成した。ピカソはシュヴァルの理想宮をモチーフにした素描も残している。1969年にフランス政府の重要建造物に指定され、現在では世界中から観光客が訪れる一大観光スポットである。 

シュヴァルがこの建物を作り始めたきっかけは娘への愛情の示し方がわからなかったから。娘を喜ばせたくて石を積む。その娘は15歳で天に召されたが、それでもシュヴァルは石を積むのを止めなかった。黙々と取り組むシュヴァルの悲しみはいかばかりか。シュヴァルを演じたジャック・ガンブランの顔に深く刻まれた皺から悲しみがにじみ出る。
しかし、できあがった建造物は独創的で素晴らしいと思うものの、家族は幸せだったのだろうか。特に妻は女として愛されている実感を得ていたとは思えない。妻を演じたレティシア・カスタの表情が寂しげに見えてならなかった。そういえば、レティシア・カスタは13日に公開された『パリの恋人たち』にも出演している。そちらはパートナーでもあるルイ・ガレルが監督と主演を兼ねるが、レティシアが演じた役は自分の気持ちをはっきり示し、主人公を翻弄させる。こちらの妻とは対照的である。
理想宮の完成時、シュヴァルは76歳。その2年後に妻が亡くなると、妻と自分が眠るための“終わりなき静寂と休息の墓”を共同墓地に築き始め、8年かけて完成させた。もし、私がシュヴァルの妻だったら、「お墓ぐらい別にしてほしい」と思ったかもしれない。(堀)


100年以上も前の、実際にあったお話がもと。郵便配達の男は何通かの手紙のために、はるばる山をも越えていきます。お城作りに使う手頃な石を持ち帰るのだから、帰りのカバンは行きより重いでしょう。「口数少なく不器用な」とは、ひと昔前の日本の男にも通じます。こつこつと地味な仕事を続けたお父さんの、一人娘への愛の具現化と思えば許してあげたい。日々の生活に頭を悩ましている妻にしてみたら、困った人ではあるけれど。
映画では、すでに完成している建物をブルーシートで覆って、次第に出来上がるように見せる工夫をしているそうです。
『山の郵便配達』(1999/中国)、『イル・ポスティーノ』(1994/イタリア)という郵便配達の映画がありました。現代ではメールやライン、画面で顔を見て話すことさえできるようになりました。ドラマも様変わりしますね。(白)


試写で観た時に、シュヴァルの理想宮について、似たような話を観たことがあると思ったら、似たようなでなく、この映画そのものでした。(情けない・・・)
「フランス映画祭2019横浜」(2019年6月20~23日)で、『アイディアル・パレス シュヴァルの理想宮(仮題)』のタイトルで上映された映画でした。
ニルス・タヴェルニエ監督のQ&Aレポートを是非ご覧ください。

以下、ポイントを抜粋しておきます。
「彼のすごいところは、33年もかけて子どものための遊び場を作っていたこと」
「自分の自由さを貫き通した結果、生きているうちに国際的な評価を享受できたという意味では、非常に稀有な人物」
「シュヴァルが「アニミズム的な信仰があること」や「マルチカルチャーを独学で吸収した人物でもあった」こと、そして「アートセラピーというものが、まだ存在しない時代から、それに近いものを自ら編み出していた人物でもある」

シュヴァルが、自分の愛情表現をうまくできなくて、ちょっと変わり者だったことを俳優ジャック・ガンブランが体現しています。
それにしても、娘の遊び場のために、こんな宮殿を作ってしまうなんて! (咲)


2018年/フランス/フランス語/カラー/ビスタ/5.1ch/105分
配給:KADOKAWA
(C) 2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema
公式サイト:https://cheval-movie.com/
★2019年12月13日(金)全国公開



posted by ほりきみき at 18:36| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする