2019年12月05日

家族を想うとき 原題:Sorry We Missed You

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監督:ケン・ローチ『わたしは、ダニエル・ブレイク』『ジミー、野を駆ける伝説』
脚本:ポール・ラヴァティ『わたしは、ダニエル・ブレイク』『ジミー、野を駆ける伝説』
出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター

マイホームを持ちたいと考えている父のリッキーは、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立する。母のアビーは、介護士として働いていた。夫婦は家族の幸せのために働く一方で子供たちと一緒に居る時間は少なくなり、高校生のセブと小学生のライザ・ジェーンはさみしさを募らせていた。ある日、リッキーが事件に巻き込まれる。

今年の洋画暫定1位(12月だからほぼ決定?)の秀作をご紹介できることが嬉しくて堪らない。前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』から3年。監督ケン・ローチはブレない。社会的構造悪を指摘し、その中で生きるしかない市井の人々に差し向ける視線。今、目の前で起きている出来事であり、俳優が演じていることを忘れさせるほどのリアルな演出。
労働者階級の世界を描かせたら世界でも右に出る監督はいないだろう。カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドール2冠の巨匠になっても、スター俳優や商業主義とは無縁のようだ。ローチの優しさと温かな精神がある限り、この世は未だ救いがある、と確信してしまう。

英国ニューカッスルに住む主人公のささやかな夢は家族ためのマイホーム。個人事業主の宅配ドライバーになり、トラックのローンが生計を苦しめる構造は日本と同じだ。長時間労働により家族との関係は軋む。そんな中でも笑える場面が多いのはローチの演出意図か、英国のユーモアを欠かさない国民体質からか。深刻さを全面に押し出しても辛くなるだけ。労働者階級が好むスポーツ・サッカーファンの口論対決の件には爆笑させられる。

社会派ヒューマンドラマをここまで泣かせ、大いに笑ってエンターテイメントの至上極みまで高め且つ深度を達せられる監督はローチだけ。滅多に出会えない秀作をお見逃しなく!ちなみに、原題の「Sorry We Missed You」は宅配不在票の定型文と、会えない家族への思いを伝えるダブルミーニングだろう。(幸)


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この作品の俳優さん、みな好演ですが誰一人これまで知りませんでした。そのせいもあってか、ドキュメンタリーを見るようでした。経済破綻は庶民の生活を直撃しました。借金を返し家を手に入れようと、真面目に働けば働くほど夫婦には疲れがたまり、子どもたちのためだったはずなのに、裏腹になってしまう悲しさ。小さなエピソードの積み重ねを見るうちに、この家族に思い入れしてしまいます。
宅配はこんなに過酷な仕事だったのか!?と唖然。日本の現状はどうなっているのでしょう。誰かのこんな犠牲で便利に暮らしていたなら、ネット通販でなく、店舗で買おうと殊勝な決心をするほど気の毒になってしまいました。明日届かなくても困らないもの。
妻のアビーと同じような訪問介護の仕事をした経験があるので、彼女が相手の身になった良いケアをしているのがわかります。そちらも、びっしりと詰まったスケジュールに縛られて、しわ寄せは息子や娘に。でもうんと小さいわけじゃない、もっと親の手助けができるはず。ところどころで笑わされながら、何をどうすればこの人たちが幸せになれるのか、宿題をもらった気分です。(白)


父が始めたフランチャイズ契約の宅配ドライバーのブラックさ。コンビニエンスストアの24時間営業にフランチャイズ契約のオーナーが苦しんでいる話を思い出す。
作品では妻が介護の仕事の移動で車を使っているのに、夫はそれを売って、宅配用の車を購入していた。男の仕事がメインで、女の仕事はサブなのか。この点でも日本における男尊女卑と同じものを感じてしまった。家事は妻が担っているのだから、妻こそ優遇されるべきなのに。
家族のために働いているはずなのに、仕事は子どもと過ごす時間を奪い、寂しさが子どもを不安定にしていく。どうすればいいのか。ケン・ローチ監督は答えを出さず、見る者に問いかける。
ところで、これは本筋からは外れるかもしれないが、息子は親への不満を仲間との悪戯書きアートで発散させる。しかも、ペイント道具を万引きしていた。不満な気持ちはわかる。しかし、他人に迷惑をかけてまですることか。息子の年齢ならアルバイトもできるはず。金銭的苦労は親だけが背負い込まず、子どもとも共有すべきだったのかもしれない。(堀)


2019年/イギリス・フランス・ベルギー/英語/100分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/
提供:バップ、ロングライド 
配給:ロングライド
photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019
公式サイト:https://longride.jp/kazoku/
★12月13日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開★
posted by yukie at 13:49| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

カツベン!

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監督:周防正行
脚本・監督補:片島章三
音楽:周防義和

出演:成田凌、 黒島結菜、永瀬正敏、 高良健吾、 音尾琢真、徳井 優、 田口浩正、正名僕蔵、 成河、 森田甘路、 酒井美紀、 シャーロット・ケイト・フォックス、上白石萌音、 城田優、 草刈民代、 山本耕史、 池松壮亮、 竹中直人、 渡辺えり、 井上真央、 小日向文世、 竹野内 豊

偽の活動弁士として泥棒一味の片棒を担ぐ生活にウンザリしていた染谷俊太郎(成田凌)は一味から逃亡し、とある町の映画館にたどり着く。そこで働くことになった染谷は、今度こそ本当の活動弁士になることができるとワクワクするが、そこは館主夫妻(竹中直人、渡辺えり)をはじめ、スターを気取る弁士の茂木貴之(高良健吾)や酒好き弁士の山岡秋聲(永瀬正敏)などくせ者ばかりだった。

「活動写真」という言葉には、単なる懐かしさを超えた、日本人のメンタリティを顕在化させる温かな響きがある。故・淀川長治氏の名調子解説を聞いて育った世代のせいだろうか…。大正時代、スクリーンに見入り、活動弁士に聴き入る観客たちがいる場所は、映画をポケットに入れられる現代の映画ファンとは確実に異なる、熱く濃密な空間が漂っていたに違いない。
活動弁士は、日本独自で発展した世界にも稀な映画文化の象徴である。
周防監督と共同脚本であり発案者の片島章三が映画愛を詰め込んだ本作。全体にスラップスティックコメディの要素を詰め込み、楽しませる。実際にはサイレント映画の撮影現場がこれほど無茶振りだったとは思えないが、創り手のサービス精神が垣間見えて愛おしい活劇調となっている。

熾烈なオーディションを勝ち抜いて主役を射止めた成田凌、相手役の黒島結菜とも適役の好演が光るが、特筆すべきは永瀬正敏だろう。登場場面では本物のカツベン士だと思ってしまったほど、声の張り、色艶、間合い…どこを取っても堂々たるカツベン士の様相を呈す。人気カツベン士から酒に身を持ち崩すやさぐれ男まで、人物の内心が透けて見えるほどに演じ切っており、若手俳優とは一日の長を示した。

エンディングに流れる無声映画の傑作『雄呂血』の映像、「ジョージア行進曲」をもじった「カツベン節」を歌う奥田民生の節回しも、映画の余韻を残す上手い演出だ。(幸)


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楽屋荒らしから活動弁士になる染谷俊太郎を演じた成田凌さん、駆け出しから人気弁士になるまで順撮りだったのでしょうか?半年以上特訓したとのこと。ちゃんとだんだん上達してプロの弁士らしくなっていました。夢は弁士だったという子ども時代の子役さんもうまかったです。
劇中の無声映画は既存の作品『椿姫』や『金色夜叉』などを参考に新しく製作されたもの。完全オリジナルの作品にも誰が出演しているのかお楽しみに。
実は無声映画観賞会に何年か通って弁士の解説つきの無声映画を楽しんでいました。この作品の監修の澤登翠さんをはじめ、俳優さんの指導を担った片岡一郎さん、坂本頼光さんの解説を毎回すぐ近くで聞くという贅沢。今でも毎月例会があるんですよ。映画を観て気になった方は、ぜひ一度でも生で見て聞いてくださいませー。(白)


配給:東映
2019年製作/日本/127分/G/
©2019「カツベン!」製作委員会
公式サイト:http://www.katsuben.jp/
◆12月13日(金)丸の内TOEI他全国順次ロードショー◆
posted by yukie at 12:28| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする