2019年11月24日

「東京ドキュメンタリー映画祭」コンペ3作品

11月30日(土)~12月6日(金)新宿ケイズシネマにて「東京ドキュメンタリー映画祭」が開催されます。
シネジャブログでの告知はこちら
公式HP http://tdff-neoneo.com/

先に観ることのできた3本をご紹介します。各作品1回のみの上映です。(白)

◆長編
『空と、木の実と。』 常井美幸 2019年/84分
11月30日(土)14:00〜上映

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小林空雅(たかまさ)さんは女性の身体に違和感があり、思春期には嫌悪するまでになった。20才の誕生日を迎えてすぐ、国内では最年少で性別適合手術を受けた。女性から男性になって、名前も変えた。
世界最高齢で、男性から女性へ性別変更した90歳のチェリストの八代みゆきさんは、元妻と養子縁組をして、今も仲良く暮らしている。
小林さんは手術後、無性のXジェンダーの人と出会い、男性か女性か選ばなくてもいいのだと気付く。

これまでいろいろな立場の方々の映画を観てきましたが、この映画を観て性別というのは思っていたより、ずっとあいまいなものだと知りました。身体と心が一致していないことがとても苦しいこと、手術をしても揺らぐものだということも。手術後、はればれとして将来の夢を語っていた小林さんが、さまざまな出会いを通して迷いながら、ほんとの自分と向き合い続ける姿にうるうるしました。タイトルは小林さんの名前から。(白)

『戦後中国残留婦人考 問縁・愛縁』王乃真 /2019年/135分
12月3日(火)10:00〜上映

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1930年代から国策として満州(現在の中国東北部)に多くの開拓民が送られた。広大な満州へ夢を求めて日本各地から約27万人が渡っていく。しかし、終戦後引き揚げもかなわず、中国に残って生き続けた人々がいた。「中国残留婦人」(13歳以上で自分の意志で中国に残ったとされる)と呼ばれる女性たちを、北京電影学院の留学生小林知恵さんが訪ねていく。長い交流のうち「おばあちゃん」と孫のような間柄になる。制作に6年以上を費やし、国策に翻弄された彼女たちの記憶と思いを丁寧に綴る。

高齢の残留婦人たちの元気な姿を映像に残して下さったことに、まず感謝しました。自分の意志で残ったとされていますが、関東軍は開拓民を見捨てて帰国、ソ連軍が侵攻して逃げ惑った人たちです。親とはぐれたり、死別したり、帰国の手立ても費用もなかった人たちです。幼い子はもらわれて行き、ある程度大きい女子は結婚するより生きるすべがありませんでした。
どの方も辛い時代を乗り越えてきましたが、現地の男性の第2夫人として嫁ぎ「中国の人は優しかった、恩人です」と懐かしみ、子どもや孫に囲まれているきみさんが印象に残りました。
中国との国交が回復したのは1972年、日本に帰国する目途がなくても日本語を忘れなかった方々。その心持ちを想像すると切ないです。
今戦後74年、日本が戦争していたことも知らない若い人や子どもたちがいるそうです。古代の歴史より近代・現代史を教えるのをぜひ先に。歴史の生き証人だった私の親たちの世代は少しずつ彼岸へ行き、もっと話を聞いておくのだったと後悔しきりです。(白)


◆短編4 21世紀の難民たち
12月2日(月)16:00〜上映
『ビニールハウスは家じゃない(This is not a house)』
セ・アル・マムン、ジョン・ソヒ/2018年/53分

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2018年現在、韓国で働く外国からの移住労働者は約100万人。若者が嫌う3K職業を担い、今や韓国の基幹産業を支えている彼ら。にもかかわらず、家賃を給与から天引きされたうえ、その居住空間は劣悪。コンテナやビニールハウス、倉庫など、冬は寒く夏は暑い。移住労働者の声を聞き、彼らを支援する移住労働者支援センターの活動家、弁護士のインタビューなどを通して、社会がどうやって彼らを搾取し、人間以下の扱いをしているのか、実態を探る。

これは日本に先んじて外国人労働者を積極的に受け入れ、今社会問題となっている韓国の実態です。韓国語を勉強し、渡航費用を工面してやっと仕事にありついた人たちを待っていたのは、家などと呼べないビニールハウスや倉庫の寮でした。トイレは外、浴室はなく、お湯の出ないシャワーだけ。バケツの水にヒーターを入れて感電におびえながら温めています。
セクハラ、パワハラも横行して、写真の女性たちは支援センターに「転職したい」と助けを求め、”社長に見つからないように”荷物を取りに来たところです。不払いの給料を請求してものらりくらりとかわされ、泣き寝入りしている人はどれほどいることか。
なぜか改悪されてしまった法律に憤懣やる方ない弁護士、「力になれなくてできるのは慰めることだけ」と涙ぐむ支援センターの係員。唖然としつつ、日本は果たしてどうなっているのか、すでに同じ轍を踏んでいないか、答えられない自分に気づきました。(白)


併映『かぞくの証明』岩崎祐/2019年/34分
posted by shiraishi at 18:51| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

読まれなかった小説  原題:Ahlat Agaci

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監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:アイドゥン・ドウ・デミルコル、ムラト・ジェムジル、ベンヌ・ユルドゥルムラー、ハザール・エルグクル

海辺のチャナカレの町の大学を卒業して、山あいの故郷の村に帰ってきたシナン。作家になるのが夢で、父と同じ教師なら仕事をしながら書けるのではと目論んでいる。もうすぐ教師を引退する父は競馬に夢中で家も売り借金を抱えている。それなのに、祖父の土地で、井戸を掘り当てようと必死で、周りに呆れられている。
シナンは書き上げた小説「野生の梨の木」を出版したいと町長や本屋に打診するが、反応は芳しくない。出版費用に貯めていた金も、父親に持ち出される始末。
それでも、ようやく自費出版し、母に捧げる。
やがて兵役につくシナン。5ヵ月後に帰宅し、本屋に行くが1冊も売れてないといわれる。家に保管してあった山積みの本も濡れてしまっていた・・・

競馬に明け暮れ、家族を省みない父親に閉口しながらも、井戸掘りを手伝う息子。なかなか折り合わない父と息子だけれど、そこはやはり血の繋がった親子。しみじみとさせられる物語。
夢を持ち続けることの大切さや、口に出さなくてもお互いを思いやる心を教えてくれました。

シナンが大学に行っていたチャナカレの町は、イスタンブルとはマルマラ海をはさんだ向こうにあるダーダネルス海峡に面した町。出版への支援を打診した時に、「ガリポリの戦いや、トロイの話など、観光が絡めば」と言われます。第一次世界大戦の折、ムスタファ・ケマル(後のトルコ共和国初代大統領)が英仏軍を撃退したことで有名なガリポリ半島の向かいにある町。実は、私が1983年に初めてトルコを旅した時に、最初に泊まったのがチャナカレなのですが、その時には、かつて近くでそんな凄惨な戦いがあった場所だとは知りませんでした。
シナンの実家のある村は、トロイ遺跡に近いところ。でも、本作に出てきたチャナカレの町の中にあるトロイの木馬は、遺跡のそばにある木馬とは違って、ブラット・ピット主演『トロイ』(2004)で使われた映画の大道具。
町で有名な作家スレイマンと橋の上で言い争う場面があるのですが、そこからはチャナカレの町が見渡せます。
これまでのジェイラン監督の映画と同様、会話の一つ一つを聞き漏らせませんでした。(咲)

2018年/189分/G/トルコ・フランス・ドイツ・ブルガリア・マケドニア・ボスニア・スウェーデン・カタール合作
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/shousetsu/
★2019年11月29日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

posted by sakiko at 15:43| Comment(0) | トルコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション(原題:Nicky Larson et le parfum de Cupidon)

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監督・脚本:フィリップ・ラショー
原作:北条司
出演:フィリップ・ラショー(リョウ/ニッキー・ラルソン)
エロディ・フォンタン(カオリ/ローラ・マルコーニ)
タレク・ブダリ(パンチョ)
ジュリアン・アルッティ(ジルベール・スキッピー)
ディディエ・ブルドン(ドミニク・ルテリエ)
カメル・ゴンフー(ファルコン/マンモス)
ラファエル・ペルソナス(ヒデユキ/トニー・マルコーニ)

ボディガードと探偵を請け負うシティハンターことリョウは、凄腕だが女性にめっぽう弱いのが弱点。相棒のカオリにそれが元でたびたび天誅を受けている。ある日、二人に「キューピッドの香水」の奪回という珍しい依頼が舞い込む。ただの香水ではなく、一度その香りを嗅ぐと虜になってしまうというもの。これが悪用されたら世界中を混乱させてしまうこと必至。奪還のタイムリミットは48時間。

監督・脚本・主演のフィリップ・ラショーはフランスの人気コメディ俳優。小学生のころから原作の「シティハンター」の大ファンだったそうです。権利元の北条司の事務所へ映画化を切望する手紙を企画やプロットと共に送り、次に脚本を書き上げて自ら来日し、許諾を得たのだとか。フランスでのアニメ版では冴羽獠はニッキー・ラルソン、相棒の槇村香はローラ。実写版はその設定のままなので、原題は『Nicky Larson et le parfum de Cupidon』、「ニッキー・ラルソンとキューピッドの香水」になっています。原作に忠実なことを第一に作られたのは、チラシを見てのとおり。フィリップ・ラショーが冴羽獠の雰囲気をよく伝えています。
テレビアニメを見ていたのは30年以上前になりますが、主題歌の「Get Wild」が耳に残っています。日本語吹替の冴羽獠は軽妙洒脱な山寺宏一さん。(白)


2019年/フランス/カラー/シネスコ/93分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)AXEL FILMS PRODUCTION - BAF PROD - M6 FILMS
http://cityhunter-themovie.com/
★2019年11月29日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 12:03| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゾンビランド ダブルタップ(原題:Zombieland: Double Tap)

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監督:ルーベン・フライシャー
脚本:レット・リース 、ポール・ワーニック、 デイブ・キャラハム
撮影:チョン・ジョンフン
音楽:デビッド・サーディ
出演:ウディ・ハレルソン(タラハシー)、ジェシー・アイゼンバーグ(コロンバス)、エマ・ストーン(ウィチタ)、アビゲイル・ブレスリン(リトルロック)、ゾーイ・ドゥイッチ(マディソン)、

あれから10年。「生き残るための32のルール」を駆使し、タラハシー、コロンバス、ウィチタとリトルロックの姉妹は、ゾンビと闘いながら生き延びていた。4人はホワイトハウス住まいに出世、コロンバスとウィチタは恋人状態。リトルロックはオトナになって恋愛したくても相手に出会えない。4人だけでなく、ゾンビもこの10年スキルアップし(?)、スピードと体力のある新種のゾンビが発見されていた。
コロンバスはウィチタと喧嘩した後、マディソンというお気楽な娘に出会う。

2009年のヒット作『ゾンビランド』10年ぶりの続編です。ルーベン・フライシャー監督も昨年『ヴェノム』がヒットしたばかり。レット・リースは『デッドプール』1,2の脚本も書いています。
ウディ・ハレルソンは『ゾンビランド』以来出演作が途切れず、出演していた若手たちと4人が再登場。ジェシー・アイゼンバーグはマルチに活躍、エマ・ストーンは順調にスターの座に昇りつめて受賞歴多数。アビゲイル・ブレスリンも子役時代の愛らしさも残した大人の女優になりました。ゾンビが蔓延する世界で10年生き延びたという設定ですが、ハリウッドという世界の第一線にもよくぞ生き残りました~!!
今回マディソンとして出演のゾーイ・ドゥイッチは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)のママ、リー・トンプソンの娘。これまで生き残ったのはゾンビの好物の脳みそがないからだと言われるほど、能天気な役。コメディエンヌの魅力を発揮しています。
公式HPにはかなり面白いたくさんの予告編と「生き残るための32のルール」があります。生き残るのに役立つ…かも。(白)


ゾンビ映画って見るたびに「ゾンビをすべて退治したわけではないのに、この後、大丈夫なんだろうか」と常々思っていたのだが、この作品を見て、その疑問はやっぱりに変わった。10年経っても当然ゾンビはいるわけで、逃げる生活は続いている。しかも、ゾンビが進化しているとは!
というわけで、今作でもゾンビとの攻防戦がメインなのだが、それとともに描かれるホームドラマ的な葛藤に別の意味でハラハラさせられる。リトルロックは過保護なタラハシーに反発するし、お互いに好きなのに素直になれないコロンバスとウィチタの間に新キャラが入り込んできた。さて、その結末は? ゾンビとの決戦を経て、それぞれが答えを出すのでお楽しみに。
そうそう、びっくりするようなおまけ映像があるので、最後の最後まで席をお立ちになりませんように。(堀)


2019年/アメリカ/カラー/シネスコ/99分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
https://www.zombie-land.jp/
★2019年11月22日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 11:53| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゾンビ(原題:Dawn of the Dead)

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監督・脚本:ジョージ・A・ロメロ
撮影:マイケル・ゴーニック
監修・音楽:ダリオ・アルジェント
特殊メイク・スタント・出演:トム・サヴィーニ
出演:デヴィッド・エムゲ(スティーヴン)、ケン・フォリー(ピーター)、スコット・H・ライニガー(ロジャー)、ゲイラン・ロス(フラン)

惑星が爆発し、地球に光線が降り注いだ。世界各地で死者が”ゾンビ”として復活、墓地から蘇ったゾンビたちは、エサの生肉を求めて生きている人間に襲いかかる。噛みつかれた人間たちはゾンビに変貌し、数を増していった。瞬く間にゾンビたちは、町を州を国を覆いつくしていく。
テレビ局に勤めるフランは、恋人でヘリコプターパイロットのスティーヴン、SWAT隊員のロジャー、ピーターとヘリで脱出するのに成功した。郊外の巨大ショッピングモールに到着する。ゾンビは排除したが、モールの物資を目当てに暴走族の一団がやってくる。フラン一行、暴走族、ゾンビとの三つ巴の戦いが始まった。

1979年3月『ゾンビ』が日本初公開されました。このほど40周年を記念して「日本初公開復元版」としてリバイバル上映されます。いくつもの公開バージョンがある中で、日本公開版はレアもの。全てのゾンビ映画の金字塔ともいえるこの作品をお見逃しなく!このバージョンでは、残酷な描写は静止画・モノクロ処理されています。それでも「R15+」です。
ジョージ・A・ロメロ監督は冒頭のテレビ局のシーンで髭のディレクター役、特殊メイクのトム・サヴィーニは凶暴なバイク軍団のリーダー役で出演しています。このリバイバル上映にあたり、劇場公開サポーターをクラウドファンディングで募集したところ、目標額の500万円の2倍、1000万円を越えました。それもリターンに記念の非売品アイテムが並んでいる高額な支援から埋まっているというのに、ファンの気持ちが表れています。どなたがゲストで来るのかも楽しみです。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)から始まったゾンビに関する3つのルールはこれ。
【1】死者が蘇って生者の肉を喰らう
【2】噛まれた者も、またゾンビになる
【3】脳を破壊されるまで動き続ける

(白)


1978年/アメリカ・イタリア合作/カラー/R15+/115分
配給:ザジフィルムズ
(C)1978 THE MKR GROUP INC. All Rights Reserved.
https://www.zombie-40th.com/
★2019年11月29日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 11:17| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする