2019年11月30日

ドクター・スリープ(原題:DOCTOR SLEEP)

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原作:スティーヴン・キング「ドクター・スリープ」(文春文庫刊) 
監督&脚本:マイク・フラナガン
撮影:マイケル・フィモナリ
美術:メイハー・アーマッド
衣装:テリー・アンダーソン
出演:ユアン・マクレガー、レベッカ・ファーガソン、カイリー・カラン

40年前、雪山のホテルでの惨劇を生き残ったダニー(ユアン・マクレガー)は、トラウマを抱え、人目を避けるように孤独な暮らしを続けていた。そんな彼のまわりで起こる児童連続失踪事件。ある日、ダニーのもとに謎の少女アブラ(カイリー・カラン)からメッセージが送られてくる。彼女は「特別な力(シャイニング)」を持っており、事件の現場を“目撃”していたのだ。事件の謎を追う二人。やがて二人は、ダニーにとって運命の場所、あの呪われたホテルにたどり着く……。

『シャイニング』の40年後。ホテルの中を三輪車できこきこ移動していた、愛くるしい少年は無精髭の冴えない中年男に。酒やドラッグにまみれた自堕落な生活は父親より酷い状況といえるでしょう。それもこれもあの惨劇が原因。相変わらず、見たくないものが見えてしまうけれど、まずは酒を断とうと決意した辺りから顔つきが変わってきます。信じられる友人と出会えたことが彼の心を支えました。ホラーというより人間ドラマを見ている感じです。苦しみながらも、そこから抜け出そうと葛藤する姿をユアン・マクレガーが母性本能をくすぐるように演じていました。
その一方で、『シャイニング』でははっきりわからなかったシャイニング(特別な力)についてもしっかり描き、ホラーの側面も忘れていません。特に後半はあのホテルを再訪するのですが、山道を走る車の空撮は『シャイニング』そっくりで心がざわつき、再撮影された青いワンピースの女の子2人や津波のように押し寄せてくる血の海などは再現率が完璧で、映し出されると恐怖が呼び覚まされます。
果たして、ダニーは過去のトラウマを乗り越えることができるのでしょうか。ハラハラしながらお楽しみください。(堀)


2019年/アメリカ/ビスタサイズ/ドルビーシネマ /5.1ch /153分
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/doctor-sleep/index.html
★2019年11月29日(金)全国ロードショー
posted by ほりきみき at 18:30| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

漫画誕生

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監督:大木萠
出演:イッセー尾形、篠原ともえ、稲荷卓央、橋爪遼、森田哲矢(さらば青春の光)、東ブクロ(さらば青春の光)、とみやまあゆみ、新井美羽、緒方賢一、モロ師岡 ほか

昭和18年、漫画家が団結して国策に協力する『日本漫画奉公会』が設立。 日本は本格的な国策へと乗り出していた。そんな中、一人の老人が内務省の検閲課に呼ばれた。薄暗い小部屋に案内され、検閲官と対峙する老人。 ポツリポツリと過去の記憶を語りだしたこの老人こそが、日本漫画奉公会の会長であり、 かつて"近代漫画の父"と呼ばれ、現在に至る漫画を"職業"として確立した男・北沢楽天その人であった。風刺画家として福沢諭吉にその才能を見出された若かりし頃の楽天は、「日本初の職業漫画家」となり、一気に売れっ子の道を駆け上っていく。 一躍時代の寵児となった楽天は、政治家すら一目置くほどの存在となっていった。 一方でたくさんの弟子を養成し、次々と新しい表現方法に挑戦し、 それまで「ポンチ絵」として蔑まれていた風刺絵を 「漫画」というひとつのジャンルにして、広く世に浸透させた。開拓の明治にはじまり、浪漫の大正を経て、そして激動の昭和へ……。 しかし、やがて黒く強大な時代の渦が、楽天や漫画はおろか、日本全体をも飲み込んでいくのであった

北沢楽天の名前はこの作品で初めて知った。風刺画を描いて成功し、一人で描くだけでなく、スタッフを抱えたスタジオ制を始め、日本最初のアニメーション映画を製作した下川凹天などを世に送り出し、後輩の育成にも尽力。そんな楽天が太平洋戦争真っただ中の昭和18(1943)年、国が設立した日本漫画奉公会の会長にお飾りとはいえ、就任するに至るまでの彼の心中はいかばかりか。しかし、作品の最後に楽天の妻へのあふれるような愛を感じ、すべては妻に安定した生活を送らせてあげたい一心だったのではないかと感じた。戦後は執筆活動を引退したとはいえ、妻とふたり、きっと幸せな人生だったに違いない。主人公夫婦を演じたイッセー尾形と篠原ともえを見ているとそんな温かな気持ちになる。(堀)



2018/118分/日本語/シネマスコープ/5.1ch
配給:アースゲート
©漫画誕生製作委員会
公式サイト:https://www.mangatanjo.com/
★2019年11月30日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

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◆2019年11/30,劇場公開初日の舞台挨拶へ駆けつけました!! (千)
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/471861241.html




posted by ほりきみき at 16:30| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月29日

気候戦士 クライメート・ウォーリアーズ  原題: Climate Warriors

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監督:カール-A・フェヒナー(『第4の革命』)
共同監督:ニコライ・ニーマン
制作:フェヒナー・メディア

産業革命以後、温暖化効果ガスの増大で気温が上昇し、地球環境の汚染が続いている。
本作は、気候変動の要因を阻止しようとする気候活動家たちの挑戦に密着したドキュメンタリー。

カリフォルニア州知事時代に温暖化効果ガスは汚染物質だと認めさせるために米国政府機関を提訴したアーノルド・シュワルツェネッガー。
17歳の先住民でヒップホップ・アーティストのシューテスカット・マルティネス。人類の生存を揺るがす喫緊の課題に立ち向かう若手の気候活動リーダーだ。
元イラン難民のアミール・ロガニ。Vispiron社の創業者で、再生可能エネルギーが平和な世界への鍵だとウクライナで活動している。
その他、バーニー・サンダースなどの政治家、グラミン銀行の資金を利用して太陽光エネルギーに挑戦するバングラデシュの女性たちなどが登場する。

自転車で颯爽と登場するシュワちゃん。大きな国際会議で、脱炭素と草の根運動の重要性を語る姿がカッコいい。一方、地球温暖化はないとして、気候変動抑制に関するパリ協定からの脱退を宣言し、石炭復活策を進めるドナルド・トランプ大統領。吠える姿が醜悪だ。
本作は、各地の「気候戦士」の活動する姿を見せながら、一人一人が出来ることを模索すれば大きな力になることを訴えている。
再生可能エネルギーへの転換で、気候変動の危機を回避しようという趣旨は素晴らしいけれど、太陽光にしても風力発電にしても、かさばる器具はいずれ廃棄処分すべきゴミになることも考えないといけない。
電気やガス、様々な交通機関など、普段当たり前のように享受しているものが、気候変動にどれほど影響しているのか、立ち止まって考えてみたくなった。そして、私に出来ることは?(咲)

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カール -A.・フェヒナー監督が公開を前に来日。
11月21日(木)に日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホールで行われたジャパン・プレミアに参加してきました。
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上映前後フェヒナー監督が登壇。
10年以上ドイツの軍人を務めた後、平和と環境問題を解決するために活動してきたことを熱く語りました。
「気候変動は確実に起こっている現実。どう力を合わせれば解決できるのか、個人と社会の問題。この映画は、私からの招待状。心と頭をオープンにして考えてほしい」と訴えました。

2018年/ドイツ/86分
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:http://unitedpeople.jp/climate
★2019年11月29日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷他全国公開




posted by sakiko at 09:32| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月28日

私のちいさなお葬式(原題:Karp otmorozhennyy)

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監督:ウラジーミル・コット
脚本:ドミトリー・ランチヒン
出演:マリーナ・ネヨーロワ(エレーナ)、アリーサ・フレインドリフ(リューダ)、エヴゲーニー・ミローノフ(オレク)、ナタリア・スルコワ(役所の女性)、セルゲイ・プスケパリス(検死医)

ロシアの小さな村に住む73才のエレーナ。夫に先立たれて息子を育て、教職を定年まで務めあげた。今は年金でつつましくも充実した毎日を送っている。自慢の息子は都会で暮らし、5年に1度しか帰ってこない。エレーナは病院の検査で、もと教え子の医師に心電図を見せられ「いつ心臓が止まってもおかしくない」と言われてしまう。余命はわずか。
あまりに突然で現実味がないエレーナだったが、ある日自宅で倒れてしまった。見舞いに来た息子は忙しそうで、ほんとのことなど言えない。今から自分の葬式の準備をしておこうと心に決める。忙しい息子の手を煩わさないように、死ぬまでにしなければならないことを書き出していく。気に入りのドレスを着て自分で選んだ棺桶に入る。仲の良い友達がお葬式に来たら、大好きな曲をかけ、思い出話をしながら美味しい料理を食べてもらう。それがエレーナの望み。

ロシア発、ベテラン俳優たちがおりなす人情コメディ。主演のマリーナ・ネヨーロワは本作で初めて観ました。日本公開作が全然ないのですが、ロシアでは知らない人がいない名女優だそうです。シミひとつない美しい元先生役。エレーナは完璧かとおもいきや、一人息子を愛するあまり恋路の邪魔をした過去があります。この黒歴史で、エレーナの印象が膨らみました。
隣人のリューダを演じるアリーサ・フレインドリフは『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』(2017)での厳しい講師役でした。エレーナの親友で一人住まいの彼女を支えます。リューダの孫パーシャはいまどきの若者ですが、自分の祖母には悪態をついてもエレーナの買い物を手伝う優しい一面もあります。まさに「遠い親戚より近くの他人です。
エレーナのお気に入り曲は、日本の双子デュオ、ザ・ピーナッツが歌った「恋のバカンス」(1963)でした。ロシアでもヒットしたそうです。誰にもやってくる老いと死を、前向きに受け入れるエレーナと周りの人々を描いて第39回モスクワ国際映画祭観客賞に輝きました。凍らせたのに生き返って泳ぐ鯉が、息子の行動に影響を及ぼします。台詞などなくともグッジョブ!(白)


2017年/ロシア/カラー/シネスコ/100分
配給:エスパース・サロウ
(C)000≪KinoKlaster≫,2017r.
http://osoushiki.espace-sarou.com/
★2019年12月6日(金)シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 23:23| Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

幸福路のチー  原題:幸福路上 On Happiness Road

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監督・脚本:ソン・シンイン

声の出演:グイ・ルンメイ、ウェイ・ダーション
主題歌:「幸福路上/On Happiness Road」歌:ジョリン・ツァイ

アメリカで暮らすリン・スー・チー。祖母が亡くなったとの知らせを受け、台北郊外の幸福路の実家に帰ってくる。久しぶりの幸福路は、大きく変貌を遂げていた。
チーは、幸福路で過ごした日々を振り返る。
小学生の時に友達になった金髪で青い目のチャン・ベティや、腕白坊主のシュー・シェン・エン。3人は一緒に木登りしたり、屋根の上で歌ったり、毎日が冒険だった。しばらくして、ベティは引っ越してしまう。
やがて、大学受験。医者になってほしいという両親の期待を裏切って文系に進み、卒業後は新聞記者として働く。シェン・エンと再会するが、99年の大地震で彼は亡くなってしまう。チーはいとこを頼ってアメリカに渡り、そこで出会ったトニーと結婚。幸せな日々を送っていたけれど、故郷に帰ってきた今、離婚を考え始めている・・・

ソン・シンイン監督は、2008年、アメリカで通っていた映画学校コロンビア・カレッジ・シカゴで、先生から「自分の体験を書いてみなさい」と言われる。当時、流行っていたイランのマルジャン・サトラピ監督の『ペルセポリス』に触発され、政治と社会情勢の変化の影響を受けた物語なら私にもあると綴ったのが本作。物語の半分に自身が投影されているという。
1974年生まれの監督は、蒋介石の教育政策で育ち、台湾語の使用を禁止され、「(台湾にいる)中国人」であるという意識を植え付けられた。
監督の祖母はアミ族。学校で原住民族は野蛮人と教えられ、祖母のことが嫌いだったそうだ。劇中の「チーには、アミ族の血が4分の1流れている」という言葉は、亡き祖母に伝えたいお詫びの気持ち。
少女の頃は、独裁政権下で多くの台湾人が政治犯として投獄された白色テロが続いていた時代。1987年に、38年にも及ぶ戒厳令がようやく解除され、その後は高度成長時代を迎える。

実写よりアニメーションで描こうと決めた監督は、台湾にアニメーション産業が育ってないことから、自身でスタジオを立ちあげている。
台湾の現代史を背景に一人の女性の成長を描いた、どこか懐かしい香りのするアニメーション。
高校の同級生に、当時台北市長に当選したばかりの陳水扁(後の台湾総統)の娘がいて、医学部志望でいかにもがり勉タイプなのに、「アンディ・ラウのドラマが好き」という場面があって、思わず笑ってしまった。監督のほんとの同級生のほんとの話? (咲)


東京アニメアワードフェスティバル2018 長編グランプリ
第55回電影金馬奨 最優秀アニメーション映画賞

2017年/台湾/111分/中国語/1.85:1
協力:台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター
配給:クレストインターナショナル
公式サイト:http://onhappinessroad.net/
★2019年11月29日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開





posted by sakiko at 22:09| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ジョン・デロリアン 原題:Driven

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監督:ニック・ハム
脚本:コリン・ベイトマン
撮影:カール・ウォルター・リンデンローブ
出演:リー・ペイス、ジェイソン・サダイキス、ジュディ・グリア、コリー・ストール

1977年のアメリカ・南カリフォルニア。麻薬密売に手を出してFBIに拘束されたパイロットのジム・ホフマン(ジェイソン・サダイキス)は、無罪にしてもらう代わりに情報提供者になる。彼は引っ越し先の隣人がゼネラルモーターズでポンティアック・GTOの開発に関わった自動車エンジニアのジョン・デロリアン(リー・ペイス)だと知る。ジムは、大きな家で家族と暮らし、自ら会社を設立してデロリアンを開発するジョンに憧れていた。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観た人であれば忘れ難きタイムマシン車「デロリアン」!あの威容を誇るデザイン、目に焼き付いて離れない強烈な存在感を放つDMCー12という車は、誰が、いつ、どのように創造したのか…。
開発者であるジョン・デロリアンの半生を描くと思いきや、映画は1977年・米国南カリフォルニアの滑走路から始まる。この麻薬密売パイロットとFBIが、ジョン・デロリアンの人生に深く関わりを持つことになる。

陽光燦々たるカリフォルニアの高級住宅街、プール付きの豪壮な邸宅、連夜繰り広げられる派手なパーティに集うセレブな人々、家々にはガソリンを喰い、撒き散らす大型高級車が居並ぶ。ジョン・デロリアンが開発し、大ヒットしたポンティアックなどの高級車は’70年代米国を象徴する存在だったのだ。

40歳の若さでGMのゼネラルマネージャーとなり、天才的な発想と先見性に基く技術的知見、企画プレゼン力に優れ、成功者として時代の寵児となったジョン・デロリアン。独立した彼には経営者としての才覚に欠けたため、危うい資金調達に依存するようになる…。

撮影には本物のデロリアンが30台以上使われたという。排ガス規制の厳しい現代では二度と得られない創造物。ビンテージカーの美しさ。アメ車好きには堪らない垂涎場面の連続だろう。(幸)


2018年製作/113分/PG12/アメリカ
配給:ツイン
(C) Driven Film Productions 2018
公式サイト:http://delorean-movie.jp/
★2019年12月7日(土)より全国公開★
posted by yukie at 13:32| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月24日

「東京ドキュメンタリー映画祭」コンペ3作品

11月30日(土)~12月6日(金)新宿ケイズシネマにて「東京ドキュメンタリー映画祭」が開催されます。
シネジャブログでの告知はこちら
公式HP http://tdff-neoneo.com/

先に観ることのできた3本をご紹介します。各作品1回のみの上映です。(白)

◆長編
『空と、木の実と。』 常井美幸 2019年/84分
11月30日(土)14:00〜上映

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小林空雅(たかまさ)さんは女性の身体に違和感があり、思春期には嫌悪するまでになった。20才の誕生日を迎えてすぐ、国内では最年少で性別適合手術を受けた。女性から男性になって、名前も変えた。
世界最高齢で、男性から女性へ性別変更した90歳のチェリストの八代みゆきさんは、元妻と養子縁組をして、今も仲良く暮らしている。
小林さんは手術後、無性のXジェンダーの人と出会い、男性か女性か選ばなくてもいいのだと気付く。

これまでいろいろな立場の方々の映画を観てきましたが、この映画を観て性別というのは思っていたより、ずっとあいまいなものだと知りました。身体と心が一致していないことがとても苦しいこと、手術をしても揺らぐものだということも。手術後、はればれとして将来の夢を語っていた小林さんが、さまざまな出会いを通して迷いながら、ほんとの自分と向き合い続ける姿にうるうるしました。タイトルは小林さんの名前から。(白)

『戦後中国残留婦人考 問縁・愛縁』王乃真 /2019年/135分
12月3日(火)10:00〜上映

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1930年代から国策として満州(現在の中国東北部)に多くの開拓民が送られた。広大な満州へ夢を求めて日本各地から約27万人が渡っていく。しかし、終戦後引き揚げもかなわず、中国に残って生き続けた人々がいた。「中国残留婦人」(13歳以上で自分の意志で中国に残ったとされる)と呼ばれる女性たちを、北京電影学院の留学生小林知恵さんが訪ねていく。長い交流のうち「おばあちゃん」と孫のような間柄になる。制作に6年以上を費やし、国策に翻弄された彼女たちの記憶と思いを丁寧に綴る。

高齢の残留婦人たちの元気な姿を映像に残して下さったことに、まず感謝しました。自分の意志で残ったとされていますが、関東軍は開拓民を見捨てて帰国、ソ連軍が侵攻して逃げ惑った人たちです。親とはぐれたり、死別したり、帰国の手立ても費用もなかった人たちです。幼い子はもらわれて行き、ある程度大きい女子は結婚するより生きるすべがありませんでした。
どの方も辛い時代を乗り越えてきましたが、現地の男性の第2夫人として嫁ぎ「中国の人は優しかった、恩人です」と懐かしみ、子どもや孫に囲まれているきみさんが印象に残りました。
中国との国交が回復したのは1972年、日本に帰国する目途がなくても日本語を忘れなかった方々。その心持ちを想像すると切ないです。
今戦後74年、日本が戦争していたことも知らない若い人や子どもたちがいるそうです。古代の歴史より近代・現代史を教えるのをぜひ先に。歴史の生き証人だった私の親たちの世代は少しずつ彼岸へ行き、もっと話を聞いておくのだったと後悔しきりです。(白)


◆短編4 21世紀の難民たち
12月2日(月)16:00〜上映
『ビニールハウスは家じゃない(This is not a house)』
セ・アル・マムン、ジョン・ソヒ/2018年/53分

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2018年現在、韓国で働く外国からの移住労働者は約100万人。若者が嫌う3K職業を担い、今や韓国の基幹産業を支えている彼ら。にもかかわらず、家賃を給与から天引きされたうえ、その居住空間は劣悪。コンテナやビニールハウス、倉庫など、冬は寒く夏は暑い。移住労働者の声を聞き、彼らを支援する移住労働者支援センターの活動家、弁護士のインタビューなどを通して、社会がどうやって彼らを搾取し、人間以下の扱いをしているのか、実態を探る。

これは日本に先んじて外国人労働者を積極的に受け入れ、今社会問題となっている韓国の実態です。韓国語を勉強し、渡航費用を工面してやっと仕事にありついた人たちを待っていたのは、家などと呼べないビニールハウスや倉庫の寮でした。トイレは外、浴室はなく、お湯の出ないシャワーだけ。バケツの水にヒーターを入れて感電におびえながら温めています。
セクハラ、パワハラも横行して、写真の女性たちは支援センターに「転職したい」と助けを求め、”社長に見つからないように”荷物を取りに来たところです。不払いの給料を請求してものらりくらりとかわされ、泣き寝入りしている人はどれほどいることか。
なぜか改悪されてしまった法律に憤懣やる方ない弁護士、「力になれなくてできるのは慰めることだけ」と涙ぐむ支援センターの係員。唖然としつつ、日本は果たしてどうなっているのか、すでに同じ轍を踏んでいないか、答えられない自分に気づきました。(白)


併映『かぞくの証明』岩崎祐/2019年/34分
posted by shiraishi at 18:51| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

読まれなかった小説  原題:Ahlat Agaci

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監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:アイドゥン・ドウ・デミルコル、ムラト・ジェムジル、ベンヌ・ユルドゥルムラー、ハザール・エルグクル

海辺のチャナカレの町の大学を卒業して、山あいの故郷の村に帰ってきたシナン。作家になるのが夢で、父と同じ教師なら仕事をしながら書けるのではと目論んでいる。もうすぐ教師を引退する父は競馬に夢中で家も売り借金を抱えている。それなのに、祖父の土地で、井戸を掘り当てようと必死で、周りに呆れられている。
シナンは書き上げた小説「野生の梨の木」を出版したいと町長や本屋に打診するが、反応は芳しくない。出版費用に貯めていた金も、父親に持ち出される始末。
それでも、ようやく自費出版し、母に捧げる。
やがて兵役につくシナン。5ヵ月後に帰宅し、本屋に行くが1冊も売れてないといわれる。家に保管してあった山積みの本も濡れてしまっていた・・・

競馬に明け暮れ、家族を省みない父親に閉口しながらも、井戸掘りを手伝う息子。なかなか折り合わない父と息子だけれど、そこはやはり血の繋がった親子。しみじみとさせられる物語。
夢を持ち続けることの大切さや、口に出さなくてもお互いを思いやる心を教えてくれました。

シナンが大学に行っていたチャナカレの町は、イスタンブルとはマルマラ海をはさんだ向こうにあるダーダネルス海峡に面した町。出版への支援を打診した時に、「ガリポリの戦いや、トロイの話など、観光が絡めば」と言われます。第一次世界大戦の折、ムスタファ・ケマル(後のトルコ共和国初代大統領)が英仏軍を撃退したことで有名なガリポリ半島の向かいにある町。実は、私が1983年に初めてトルコを旅した時に、最初に泊まったのがチャナカレなのですが、その時には、かつて近くでそんな凄惨な戦いがあった場所だとは知りませんでした。
シナンの実家のある村は、トロイ遺跡に近いところ。でも、本作に出てきたチャナカレの町の中にあるトロイの木馬は、遺跡のそばにある木馬とは違って、ブラット・ピット主演『トロイ』(2004)で使われた映画の大道具。
町で有名な作家スレイマンと橋の上で言い争う場面があるのですが、そこからはチャナカレの町が見渡せます。
これまでのジェイラン監督の映画と同様、会話の一つ一つを聞き漏らせませんでした。(咲)

2018年/189分/G/トルコ・フランス・ドイツ・ブルガリア・マケドニア・ボスニア・スウェーデン・カタール合作
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/shousetsu/
★2019年11月29日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

posted by sakiko at 15:43| Comment(0) | トルコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション(原題:Nicky Larson et le parfum de Cupidon)

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監督・脚本:フィリップ・ラショー
原作:北条司
出演:フィリップ・ラショー(リョウ/ニッキー・ラルソン)
エロディ・フォンタン(カオリ/ローラ・マルコーニ)
タレク・ブダリ(パンチョ)
ジュリアン・アルッティ(ジルベール・スキッピー)
ディディエ・ブルドン(ドミニク・ルテリエ)
カメル・ゴンフー(ファルコン/マンモス)
ラファエル・ペルソナス(ヒデユキ/トニー・マルコーニ)

ボディガードと探偵を請け負うシティハンターことリョウは、凄腕だが女性にめっぽう弱いのが弱点。相棒のカオリにそれが元でたびたび天誅を受けている。ある日、二人に「キューピッドの香水」の奪回という珍しい依頼が舞い込む。ただの香水ではなく、一度その香りを嗅ぐと虜になってしまうというもの。これが悪用されたら世界中を混乱させてしまうこと必至。奪還のタイムリミットは48時間。

監督・脚本・主演のフィリップ・ラショーはフランスの人気コメディ俳優。小学生のころから原作の「シティハンター」の大ファンだったそうです。権利元の北条司の事務所へ映画化を切望する手紙を企画やプロットと共に送り、次に脚本を書き上げて自ら来日し、許諾を得たのだとか。フランスでのアニメ版では冴羽獠はニッキー・ラルソン、相棒の槇村香はローラ。実写版はその設定のままなので、原題は『Nicky Larson et le parfum de Cupidon』、「ニッキー・ラルソンとキューピッドの香水」になっています。原作に忠実なことを第一に作られたのは、チラシを見てのとおり。フィリップ・ラショーが冴羽獠の雰囲気をよく伝えています。
テレビアニメを見ていたのは30年以上前になりますが、主題歌の「Get Wild」が耳に残っています。日本語吹替の冴羽獠は軽妙洒脱な山寺宏一さん。(白)


2019年/フランス/カラー/シネスコ/93分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)AXEL FILMS PRODUCTION - BAF PROD - M6 FILMS
http://cityhunter-themovie.com/
★2019年11月29日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 12:03| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゾンビランド ダブルタップ(原題:Zombieland: Double Tap)

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監督:ルーベン・フライシャー
脚本:レット・リース 、ポール・ワーニック、 デイブ・キャラハム
撮影:チョン・ジョンフン
音楽:デビッド・サーディ
出演:ウディ・ハレルソン(タラハシー)、ジェシー・アイゼンバーグ(コロンバス)、エマ・ストーン(ウィチタ)、アビゲイル・ブレスリン(リトルロック)、ゾーイ・ドゥイッチ(マディソン)、

あれから10年。「生き残るための32のルール」を駆使し、タラハシー、コロンバス、ウィチタとリトルロックの姉妹は、ゾンビと闘いながら生き延びていた。4人はホワイトハウス住まいに出世、コロンバスとウィチタは恋人状態。リトルロックはオトナになって恋愛したくても相手に出会えない。4人だけでなく、ゾンビもこの10年スキルアップし(?)、スピードと体力のある新種のゾンビが発見されていた。
コロンバスはウィチタと喧嘩した後、マディソンというお気楽な娘に出会う。

2009年のヒット作『ゾンビランド』10年ぶりの続編です。ルーベン・フライシャー監督も昨年『ヴェノム』がヒットしたばかり。レット・リースは『デッドプール』1,2の脚本も書いています。
ウディ・ハレルソンは『ゾンビランド』以来出演作が途切れず、出演していた若手たちと4人が再登場。ジェシー・アイゼンバーグはマルチに活躍、エマ・ストーンは順調にスターの座に昇りつめて受賞歴多数。アビゲイル・ブレスリンも子役時代の愛らしさも残した大人の女優になりました。ゾンビが蔓延する世界で10年生き延びたという設定ですが、ハリウッドという世界の第一線にもよくぞ生き残りました~!!
今回マディソンとして出演のゾーイ・ドゥイッチは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)のママ、リー・トンプソンの娘。これまで生き残ったのはゾンビの好物の脳みそがないからだと言われるほど、能天気な役。コメディエンヌの魅力を発揮しています。
公式HPにはかなり面白いたくさんの予告編と「生き残るための32のルール」があります。生き残るのに役立つ…かも。(白)


ゾンビ映画って見るたびに「ゾンビをすべて退治したわけではないのに、この後、大丈夫なんだろうか」と常々思っていたのだが、この作品を見て、その疑問はやっぱりに変わった。10年経っても当然ゾンビはいるわけで、逃げる生活は続いている。しかも、ゾンビが進化しているとは!
というわけで、今作でもゾンビとの攻防戦がメインなのだが、それとともに描かれるホームドラマ的な葛藤に別の意味でハラハラさせられる。リトルロックは過保護なタラハシーに反発するし、お互いに好きなのに素直になれないコロンバスとウィチタの間に新キャラが入り込んできた。さて、その結末は? ゾンビとの決戦を経て、それぞれが答えを出すのでお楽しみに。
そうそう、びっくりするようなおまけ映像があるので、最後の最後まで席をお立ちになりませんように。(堀)


2019年/アメリカ/カラー/シネスコ/99分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
https://www.zombie-land.jp/
★2019年11月22日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 11:53| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゾンビ(原題:Dawn of the Dead)

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監督・脚本:ジョージ・A・ロメロ
撮影:マイケル・ゴーニック
監修・音楽:ダリオ・アルジェント
特殊メイク・スタント・出演:トム・サヴィーニ
出演:デヴィッド・エムゲ(スティーヴン)、ケン・フォリー(ピーター)、スコット・H・ライニガー(ロジャー)、ゲイラン・ロス(フラン)

惑星が爆発し、地球に光線が降り注いだ。世界各地で死者が”ゾンビ”として復活、墓地から蘇ったゾンビたちは、エサの生肉を求めて生きている人間に襲いかかる。噛みつかれた人間たちはゾンビに変貌し、数を増していった。瞬く間にゾンビたちは、町を州を国を覆いつくしていく。
テレビ局に勤めるフランは、恋人でヘリコプターパイロットのスティーヴン、SWAT隊員のロジャー、ピーターとヘリで脱出するのに成功した。郊外の巨大ショッピングモールに到着する。ゾンビは排除したが、モールの物資を目当てに暴走族の一団がやってくる。フラン一行、暴走族、ゾンビとの三つ巴の戦いが始まった。

1979年3月『ゾンビ』が日本初公開されました。このほど40周年を記念して「日本初公開復元版」としてリバイバル上映されます。いくつもの公開バージョンがある中で、日本公開版はレアもの。全てのゾンビ映画の金字塔ともいえるこの作品をお見逃しなく!このバージョンでは、残酷な描写は静止画・モノクロ処理されています。それでも「R15+」です。
ジョージ・A・ロメロ監督は冒頭のテレビ局のシーンで髭のディレクター役、特殊メイクのトム・サヴィーニは凶暴なバイク軍団のリーダー役で出演しています。このリバイバル上映にあたり、劇場公開サポーターをクラウドファンディングで募集したところ、目標額の500万円の2倍、1000万円を越えました。それもリターンに記念の非売品アイテムが並んでいる高額な支援から埋まっているというのに、ファンの気持ちが表れています。どなたがゲストで来るのかも楽しみです。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)から始まったゾンビに関する3つのルールはこれ。
【1】死者が蘇って生者の肉を喰らう
【2】噛まれた者も、またゾンビになる
【3】脳を破壊されるまで動き続ける

(白)


1978年/アメリカ・イタリア合作/カラー/R15+/115分
配給:ザジフィルムズ
(C)1978 THE MKR GROUP INC. All Rights Reserved.
https://www.zombie-40th.com/
★2019年11月29日(金)ロードショー
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2019年11月23日

ライフ・イットセルフ 未来に続く物語(原題:Life itself) 

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監督・脚本:ダン・フォーゲルマン
出演:オスカー・アイザック、オリヴィア・ワイルド、マンディ・パティンキン、オリヴィア・クック、ライア・コスタ、アネット・ベニング、アントニオ・バンデラス

始まりは、現代のニューヨーク。学生時代からのカップルのウィル(オスカー・アイザック)とアビー(オリヴィア・ワイルド)は大恋愛の後に結ばれる。第一子の誕生を間近に控え幸福の絶頂にいたその時、想像を絶する事故に遭遇してしまう。そして、たまたま訪れたマンハッタンで、その顛末に深く関わった幼い少年。彼は海を越えたスペインの大地で、両親と父の雇い主であるオリーブ園のオーナー(アントニオ・バンデラス)を、ドラマティックな人生へと誘っていく。次々と訪れる過酷な試練を愛だけで乗り越えていく二つの家族は、数奇な運命に引き裂かれながらも、思わぬ奇跡でつながっていく。

人生の意味を親や祖父母に遡って紐解いていく。様々な偶然が重なって、人はいまここにいる。悲しい出来事も必然だったのだ。今、悲しい思いをしていても、その先に幸せが待っているはず。作品は辛い思いをしている人に生きていく勇気を与えてくれる。
しかし、男はなんとメンタルが弱いのだろう。登場人物に「しっかりしなさいよ!」と喝を入れたくなった。(堀)


2018年/アメリカ/英語・スペイン語/117分/SCOPE/5.1ch/PG12
配給:キノフィルムズ/木下グループ
© 2018 FULL CIRCLE PRODUCTIONS, LLC, NOSTROMO PICTURES, S.L. and LIFE ITSELF AIE. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://life-itself.jp/
★2019年11月22日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
posted by ほりきみき at 15:34| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

台湾、街かどの人形劇 (原題:紅盒子-Father) 

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監修:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
監督:楊力州(ヤン・リージョウ)
出演:陳錫煌(チェン・シーホァン)

台湾の人間国宝で布袋戯(ほていぎ)の人形遣い・陳錫煌は、80歳を超えたいまも世界各国で公演し、多くの人々を魅了している。墨を磨る指先、キセルを燻らす恍惚した人形の表情、ダイナミックで軽やかな大立ち回り、繊細で力強い生命力にあふれた人形たちが、陳錫煌の指先から生み出されていく。 70年代以降、現代風にアレンジされた布袋戯がテレビで人気を博す一方で、伝統的な布袋戯の観客は減少していった。台湾の伝統芸能を継承する為に奔走する陳錫煌の元には、フランス人のルーシーをはじめ多くの弟子が集まっているが、薄れゆく伝承への焦りは日々募る一方だ。 侯孝賢監督映画の常連俳優で、人間国宝であった偉大なる父・李天禄の背中を追いかけ続け、人生の最晩年に至った陳錫煌が、まるで生まれ変わったように、渾身の力を振り絞り、守り伝えようとしている。

台湾の伝統芸能・布袋戲とは布の袋でできた人形を直接手で持ったり、指を中に入れたりして操る劇。台湾の民間芸能のひとつ。この作品で初めて見たが、その細やかな動きに驚く。人形が手に持っている扇子を開いたりするのだ。まるで人形が自ら意志を持ってうごいているかのよう。そのためには日々の修練とともに日ごろから人形を大事に手入れする。自分の人形への深い愛情が伝わってきた。
親子二代で人間国宝である人形師陳錫煌(チェン・シーホァン)は長男が母の姓を継ぐ風習をきっかけに師である父・李天禄(リ・ティエンルー)との間に軋轢が生じた。大きすぎる父の名。いくつになっても超えられない葛藤。自らの老い。伝統が廃れる不安。芸を記録に残さなければという気迫に満ちたラストに布袋戲に掛けてきた人生の重みを感じる。(堀)


台湾の街かどの人形劇「布袋戲」(台湾語で「ほてひ」と呼ばないと味わいがない)のことを知ったのは、侯孝賢監督の『戯夢人生』(1993年製作)を通じてのことでした。
侯孝賢監督の前作『悲情城市』(1989年製作、日本公開1990年4月21日)は、日本統治が終わった日から、大陸からやってきた国民党が台北を臨時首都にするまでの混乱の時期を林家の4兄弟を通じて描いた物語。その林家の父親を演じて、独特の存在感を放っていた李天祿さん。
『恋恋風塵』(1987製作、日本公開1989年11月11日)や、『ナイルの娘』(1987年製作、日本公開 1990年8月18日)にも出演していた、ひょうひょうとしたお爺さんが、実は布袋戲の名手であることを知ったのが『戯夢人生』でした。台湾の日本統治時代1985年から1945年までの50年間の歴史を、李天祿さんの人生を通じて描いた作品。この映画のヒットで、布袋戲といえば李天祿という図式が出来上がってしまい、息子の陳錫煌さんも父に続いて人間国宝となったにもかかわらず、いつまでたっても影が薄いというのが実情なのでしょう。有名になり過ぎた父を超えられない苦悩を、『台湾、街かどの人形劇』は、ひしひしと伝えてくれました。
一方で、伝統芸能を絶やしてはいけないという陳錫煌さんの思いもずっしり。何より指使いの美しさに惚れ惚れしました。
ちなみに、布袋戲の舞台が早稲田大学の演劇博物館にありました。確か3階の廊下。今もあるのでしょうか?(咲)


2018年/台湾/カラー/ DCP/5.1ch/99分
配給:太秦
(C) Backstage Studio Co., Ltd.
公式サイト:http://machikado2019.com/
★2019年2019年11月30日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 15:20| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

種をまく人 

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監督・脚本・編集:竹内 洋介
撮影監督:岸 建太朗
撮影・照明:末松 祐紀
録音:落合 諒磨、南川 淳
出演:岸 建太朗、足立 智充、中島 亜梨沙、竹中 涼乃

3年ぶりに病院から戻った高梨光雄(岸建太朗)は、弟・裕太(足立智充)の家を訪れる。再会を喜 ぶ姪の知恵(竹中涼乃)、その妹でダウン症の一希に迎えられ束の間の幸せを味わう光雄。その夜、知恵にせがまれた光雄は被災地で見たひまわりについて語る。知恵はその美しい景色を思い 浮かべながら、太陽に向かって咲くひまわりと、時折ふと空を見ている愛しい一希の姿とを重ね会わせるのだった。 明くる日、知恵は光雄と遊園地に行きたい嘆願する。裕太と妻・葉子(中島亜梨沙)はそれを快く受け入れ、娘たちを光雄に預けるが・・・幸福な時間も束の間、遊園地で突然の不幸が訪れる。

少女に溜まったストレス。ついた嘘。悲しい心。なぜ周りは気がつかない? こちらには全てが見えているからこそモヤモヤする。ようやく話を聞いてあげた母の対応は違うと思いつつ、自分も同じ立場ならやってしまいそうだ。
少女はこのまま心に闇を抱えて生きていくのか。それは辛すぎる。ラストに希望が見えたと思いたい。(堀)


とっさについてしまった嘘で家族が壊れていく。言ってしまった言葉は取り戻せない。それでも間違いを正そうと気付いたなら、親は全力で後押しをしてやりたい。家族は小さなことで幸せになれるんだから。竹内監督はゴッホとひまわりから着想を得て、姪ごさんの姿も映像に残したくてこの作品を作られたとか。『僕の帰る場所』(2018/藤元明緒監督)の岸カメラマンが俳優さんでもあったと初めて知りました。悲劇は入っているけれど、作品全体に優しいまなざしが感じられます。(白)

竹内監督インタビューはこちら

2017年/日本/カラー/アメリカンビスタ/117分
配給:ヴィンセントフィルム
©YosukeTakeuchi公式サイト:http://www.sowermovie.com/
★2019年11月30日(土) 池袋シネマ・ロサにてロードショー

posted by ほりきみき at 14:42| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ファイティング・ファミリー(原題:Fighting with My Family)

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監督・脚本:スティーヴン・マーチャント
出演:フローレンス・ピュー、レナ・へディ、ニック・フロスト、ジャック・ロウデン、
ヴィンス・ヴォーン、ドウェイン・ジョンソン

イギリス北部ノーウィッチでレスリング・ジムを営むナイト一家はレスリングの固い絆で結ばれている。中1の時からリングに立っていた18才のサラヤ(フローレンス・ピュー)は特にレスリングを愛している。日々ジムに通う子供達にレスリングを教え、いつかはWWE(ワールド・レスリング・エンターテイメント)の試合に出て一家を盛り上げたいと願っている。兄のザック(ジャック・ロウデン)もプロレス命。だが彼は愛する彼女と結婚をし、普通の家庭も持ちたい。そんな兄妹に転機が訪れる。トレーナーのハッチ(ヴィンス・ヴォーン)に誘われ、WWE のトライアウトに参加する。そこで二人が尊敬してやまない、かのドウェイン・ジョンソンとの対面を果たすのだ。大喜びでトレーニングに勤しむ兄妹だったがサラヤだけが次のステージに進み、フロリダに行くことが決まる。兄と二人で渡米したいと言い張るサラヤを、ザックが説き伏せる。「家族みんなの為にお前一人でも行ってくれ。」渋々承知したサラヤはリング名を「ペイジ」に決め、大好きな家族と別れてアメリカに渡った。

家族の夢を一身に背負い、WWEの過酷なトレーニングに耐える妹。しかし、周囲になかなか馴染めない。一方、選ばれなかったことを僻み、兄は自棄っぱちになるが、妻と子に囲まれている。レスリング一家にもたらされた幸せと不幸せ。兄妹それぞれに苦悩があり、見ていて辛い。親が自分の果たせなかった夢を子どもに押し付けてはいまいか。親の夢=子供の夢ではないのだ。と、批判的な気持ちになったとき、ふと自分を振り返る。気がついていないだけで、私も同じことをしていたかもしれない。
それでも兄妹は自分の道を見つけて、立ち上がる姿に胸が熱くなる。自分のことしか見えていなかった妹が殻を打ち破り、ライバルたちもそれぞれ抱えている問題があることに気づく。ライバルが夢に向かって一緒にがんばる仲間となっていく様は清々しい。
本作は実話をベースにして作られた。これまでレスリングを暴力的だと否定していたが、実はエンタメ性が高いことを知った。(堀)


小学生の頃、父がプロレス好きでテレビのプロレス番組を一家揃って見ていました。リングアナの絶叫と、普段静かな父が熱中するのが試合より面白かったかも。
その後全く観戦していないので、ザ・ロックことドウェイン・ジョンソンは映画で知りました。ロック様はこの映画の製作にあたり、本人役で出演しています。その人脈か、現役のレスラーたちも多数参加しているので、プロレスファンは必見です。
CGじゃない人と人とのファイトは、やっぱり胸を熱くする面白さ。若い人の夢に向かう努力や挫折、家族の愛情などびっしり詰まった108分でした。ペイジは2017年試合中に首を怪我して昨年引退を発表しています。本人のインスタはじめ、たくさんの画像や動画がネットにありました。スティーヴン・マーチャント監督、兄ザックの義父役で出演。(白)


2019年/アメリカ/英語/108分/シネスコープ/5.1ch
配給:パルコ ユニバーサル映画
© 2019 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC., WWE STUDIOS FINANCE CORP. AND FILM4, A DIVISION OF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://fighting-family.com
★2019年11月29日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
posted by ほりきみき at 12:14| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

THE INFORMER/三秒間の死角(原題:THE INFORMER)

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監督:アンドレア・ティ・ステファノ
出演:ジョエル・キナマン、ロザムンド・パイク、コモン、アナ・デ・アルマス、クライヴ・オーウェン

自由の身と引き換えに、FBIの情報屋になったピートは、最後の任務を迎える。潜入先のマフィアのボス"将軍"の麻薬取引現場にFBI捜査官ウィルコックスを導き、組織を一気に壊滅させるのだ。成功すれば、愛する家族との幸せな暮らしが待っている。
ところが、取引現場でマフィアの仲間が取引相手を射殺してしまい、さらにその取引相手が潜入捜査をしていたNY市警の警官だったことが判明する。NY市警の追跡をかわすため、将軍は仮釈放中のピートに、刑務所に戻って内部の麻薬取引を仕切れと命令する。
やむなく刑務所に舞い戻り、麻薬組織を立ち上げつつ、FBIにリークする関係者を探り始めるピート。そんな中、事態が急変。ある重大なトラブルから、ピートはFBIに切り捨てられ、マフィア、NY市警、刑務所の看守、自分を取り巻くすべての組織から命を狙われることになった。 絶対絶命の崖っぷちで、唯一逃げられる一瞬の死角があることにピートは気づく。果たして、ピートの脱出劇の行方は? 

1つの想定外が全てを狂わせ、状況は雪だるま式に悪化。FBI、マフィア、NY市警、囚人すべての組織から命を狙われる。まったく先が全く読めない展開に、ラストまで緊張感が続く。それでも家族だけは守ろうと奮闘する主人公にジョエル・キナマン。イケメン過ぎて堪らない!
そして、このところ出演作の公開が続くロザムンド・パイクが本作にも非情になりきれずに苦しむ捜査官として登場。印象に残る演技を見せた。
しかし、邦題につけられた副題の「三秒間の死角」がよくわからなかった。三角な死角はあった気がするが。。。(堀)


2019/カラー/5.1ch/イギリス・アメリカ・カナダ/スコープ/113分
配給:ショウゲート
©Wild Wag films Productions 2018
公式サイト:https://informer-movie.jp/
★2019年11月29日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
posted by ほりきみき at 12:00| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

決算!忠臣蔵

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監督・脚本:中村義洋
原作:山本博文『「忠臣蔵」の決算書』(新潮新書)
出演:堤真一、岡村隆史、濱田岳、妻夫木聡、荒川良々、石原さとみ、竹内結子、西村まさ彦、寺脇康文、上島竜兵、堀部圭亮、山口良一、鈴木福、千葉雄大、滝藤賢一、笹野高史 ほか

徳川綱吉の時代。赤穂藩藩主・浅野内匠頭(阿部サダヲ)は江戸城内・松の廊下で幕府の重臣・吉良上野介に斬りかかり、即日切腹。藩は取り潰しの処分が下された。筆頭家老の大石内蔵助(堤真一)は嘆く暇もなく、幼馴染みの勘定方・矢頭長助(岡村隆史)に助けられながら残務整理に励み、御家再興の道を模索する。しかし幕府に認めてもらえず、宿敵・吉良邸への討ち入りを決意した。
討ち入りにはお金がかかる。予算の上限は現代の金額に換算して約9500万円。浪士たちの生活費や食費、家賃に加えて、江戸までの旅費、討ち入りに必要な武具など支出はかさむ。節約する者がいれば、無駄遣いする者もいて、プロジェクトは難航。予算が足りないために“リストラ”も余儀なくされる。さらに予算の都合で討ち入りのチャンスは1回限り。果たして彼らは予算内で一大プロジェクト(討ち入り)を無事やり遂げることができるのか。

討ち入りを金銭面に焦点を当てて、コメディタッチに描く。討ち入りか、御家再興か。費用の上限は1億円弱。いくさ担当の番方、事務の役方がお金の使い方で攻防戦を繰り広げる場面は現代の営業と経理のよう。入り乱れる様々な思惑。それによる赤穂藩士の悲喜こもごも。初めは御家再興に傾いていた大石内蔵助が決意したときは浪士とともに思いが高ぶった。そんな大石内蔵助に堤真一。思案に暮れた顔から廓で羽目を外す顔まで振れ幅大きく、様々な表情を見せる。妻との別れのシーンはコミカル感を漂わせながら切なさも醸し出す。ファンにはたまらないシーンかも。また、腕は立たないが口達者な浪士が意外な活躍をする。演じていた濱田岳がらしさが炸裂!(堀)

2019年/日本/カラー/125分
配給:松竹
©2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
公式サイト:http://chushingura-movie.jp/
★2019年11月22日(金) 全国公開
posted by ほりきみき at 11:56| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

EXIT(原題:EXIT)

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脚本・監督:イ・サングン  
出演:チョ・ジョンソク、ユナ

韓国のある都心部、突如原因不明の有毒ガスが蔓延しはじめる。道行く人たちが次々に倒れ、パニックに陥る街。そんな緊急事態になっているとも知らず、70歳になる母親の古希のお祝いをする会場では、無職の青年ヨンナム(チョ・ジョンソク)が、大学時代に想いを寄せていた山岳部の後輩ウィジュ(ユナ)との数年ぶりの再会に心を躍らせていた。しかし、彼らにも上昇してくる有毒ガスの危険が迫っていた。地上数百メートルの高層ビル群を命綱なしで登り、跳び、走る‼ 絶体絶命の中、決死の緊急脱出がはじまる!

そこ、登るの? えっ飛び移っちゃうわけ? 蔓延する有毒ガスから逃れるため、主人公男女が元山岳部のスキルを存分に発揮して、より高いビルの屋上に移動していく。
危険が身に迫ったときこそ人間性が出るもの。2人の信頼の絆は次第に強まり、ラストをよりハッピーに盛り上げた。途中で2人をサポートするドローンがめちゃめちゃかわいい~まるで意志があるみたいだった。(堀)


2018年/韓国/104分/カラー/5.1Ch/シネスコ
配給:ギャガ・プラス
ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, FILMMAKERS R&K ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:https://gaga.ne.jp/exit/
★2019年11月22日(金)新宿武蔵野館他にて全国順次公開

posted by ほりきみき at 11:52| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月17日

テルアビブ・オン・ファイア  原題:Tel Aviv on Fire

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監督:サメフ・ゾアビ
脚本:サメフ・ゾアビ、ダン・クラインマン
出演:カイス・ナシェフ(『パラダイス・ナウ』『オオカミは嘘をつく』)、ルブナ・アザバル(『灼熱の魂』『パラダイス・ナウ』)、ヤニブ・ビトン、マイサ・アブドゥ・エルハディ(『ガザの美容室』)、ナディム・サワラ、ユーセフ・スウェイド

エルサレムに住むパレスチナ人の青年サラームは、人気メロドラマの制作インターン。ヘブライ語のチェック係だ。ヨルダン川西岸地区の撮影所に通うのに毎日イスラエルの検問所を通らなければならない。ある日、変な質問をしたため車から降ろされる。ドラマの脚本を持っていたことから、検問所の主任アッシは、サラームを脚本家と勘違い。アッシの妻が大好きなメロドラマだと知って、筋書きに介入したがり、毎日のようにサラームを検問所に招きいれる・・・

イスラエル国籍のパレスチナ人であるサメフ・ゾアビ監督が描いた、大笑いのブラックコメディー。映画内のメロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」は、1967年の第三次中東戦争前夜を舞台にしたパレスチナ女性とイスラエル将校の恋物語。恋の行方について、検問所の主任アッシはあれこれアイディアを出してきます。政治的背景も絡んでくるのでインターンのサラームも本気で対抗案を出します。やがて、本物の脚本家に格上げとなったサラームは、イスラエルのアッシにも、パレスチナ側にも納得のいく笑撃のラストを思いつきます。
ユダヤ人とパレスチナ人が互角に意見を交わすということは、現実では残念ながらありえないこと。こうあってほしいという監督の思いを強く感じました。
昨年の東京国際映画祭で「イスラエル映画の現在2018」の一環として、コンペティション部門で上映され、ぜひ公開してほしいと思っていた作品です。 (咲)


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東京国際映画祭 イスラエル映画の現在2018『テルアビブ・オン・ファイア』舞台挨拶はこちらで!


★アカデミー国際長編映画賞ルクセンブルク代表に決定!!

イスラエルとルクセンブルグ合作で、劇中で展開するドラマ部分がルクセンブルグのスタジオで撮影され、プロデューサーをはじめ、多くのルクセンブルクのスタッフも参加しているということもあり、ルクセンブルグ代表となったとのことです。
監督の喜びのコメントは、こちらで!

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☆公開を前に来日したサメフ・ゾアビ監督にインタビューの機会をいただきました。
 インタビュー記事は、こちらで!

2018年/97分/ルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー/カラー/アラビア語・ヘブライ語
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:http://www.at-e.co.jp/film/telavivonfire/
★2019年11月22日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開



posted by sakiko at 19:13| Comment(0) | ルクセンブルグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

あなたを、想う。  原題 念念

渋谷ユーロスペース11月2日(土)公開~11月22日(金)
11月16日(土)~22日(金) 10:00
他の上映情報は下記に
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©Dream Creek Production Co. Ltd./ Red On Red

監督・脚本:張艾嘉(シルヴィア・チャン)
脚本:蔭山征彦
撮影:梁銘佳(リョン・ミンカイ)
出演:
梁洛施(イザベラ・リョン):ユーメイ役
張孝全(チャン・シャオチュアン、ジョセフ・チャン ):ヨンシャン
柯宇綸(クー・ユールン):ユーナン
李心潔(リー・シンジエ、アンジェリカ・リー): ユーナンとユーメイの母

台湾出身で、香港でも女優として活躍する張艾嘉(シルヴィア・チャン)。1970年代末に始まった香港ニューウェーのアン・ホイ、ジョニー・トウ、ツイ・ハーク監督などの映画で活躍し、スター女優となったが、台湾でのニューウェーブでも大きく関わり、最初は女優として出演していたが、映画監督としても作品を生み出すようになった。『君のいた永遠(とき)』『20、30、40の恋』『妻の愛、娘の時 /相愛相親『(2017)などの作品で監督としての評価を得、日本でも公開された。『あなたを、想う。』(2015)は、2015年の東京フィルメックスで原題の『念念』というタイトルで上映された。

別々に育った兄妹の再会を描く

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兄・育男(ユーナン)

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妹・育美(ユーメイ)
©Dream Creek Production Co. Ltd./ Red On Red

台東沖の緑島で生まれ育ち、両親の離婚で離ればなれになった兄・育男(ユーナン)と妹・育美(ユーメイ)。二人に毎日のように人魚の物語を話していた母は、息子と夫を置いて、ユーメイだけを連れて台北へ去っていき、間もなく他界した。月日がたち、成長した兄妹と、妹の恋人の翔(シャン)、3人の若者たちの心の葛藤と兄妹の再会を描いた作品。
画家の卵の育美。芽の出ないボクサーの翔。観光ガイドの育男。3人は、かつて家族を失ったことで、いまも深く傷を負っている。過去と現在が行ったり来たりするので、最初、内容がよくわからなかったけど、二人が幼いころ暮らした緑島のことが繰り返し出てくる。兄妹のトラウマなのか、忘れたくても忘れられない想いを語るためなのか、印象的なロケーションだった。
妹を演じたイザベラ・リョンは画家を目指している設定で、劇中に絵が何回か登場するし、兄と妹が再会するシーンでも出てくる。それらは母親役のアンジェリカ・リーが描いたもの。「アンジェリカは画家でもあるのでお願いしたら、作品にふさわしい絵を描いてくれた」とシルヴィア・チャン監督は語っていた。兄が嵐の夜に雨宿りした「藤」というバーは、台湾で日本人が30年以上やっている会員制のバーとのこと。この兄の役を柯宇綸/クー・ユールンが演じている。『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991)で初めて観た時から28年もたっているのにほとんど変わらない。若い!と思ってしまった。この脚本をシルヴィア・チャン監督と共に手がけたのは、台湾で俳優として活躍している蔭山征彦さん。彼が温めていた3つの短編の脚本が監督の目に留まり、1本の映画へと結実した。蔭山さんは、この作品の中では「藤」のシーンでポスター出演している(笑)。
緑島は火焼島ともいい、昔は監獄がいくつもあったという。
3人の若者の過去と現在が複雑に交錯しながら繰り広げられる物語。「ある青年の父母に対する解けないわだかまりや心の痛みが幻想的に表現されていて、私は一人の母親として、心を動かされたのです」とシルヴィア・チャン監督は2015年のフィルメックスの時に語っていた。
2015年に台湾を皮切りに各地で公開され高い評価を受け、香港電影評論學會大奨で最優秀脚本賞を受賞。ヒロインに香の女優イザベラ・リョンを 起用、彼女の恋人役を『蓮の夏』、『GF*BF』のジョセフ・チャン/チャン・シャオチュアンが演じた。(暁)

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東京フィルメックス2015でのシルヴィア・チャン監督

2015年/台湾・香港/119分/配給:A PEOPLE CINEMA
『 あなたを、想う。』公式HP
上映劇場
2019年11月2日(土)~ 東京 ユーロスペース
2019年11月2日(土)~ 神奈川 横浜シネマリン
2020年4月4日(土)~ 栃木 宇都宮ヒカリ座
2020年1月25日(土)~ 大阪 シネ・ヌーヴォ
2020年1月24日(金)~ 京都 出町座




posted by akemi at 07:41| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月14日

iー新聞記者ドキュメントー

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監督:森達也(『A』、『FAKE』)
企画・製作:河村光庸
撮影:小松原茂幸、森達也
音楽:MARTIN(OAU/JOHNSONS MOTORCAR)
出演:望月衣塑子

6月に公開された『新聞記者』の河村プロデューサーが今度は東京新聞社会部・望月衣塑子記者に密着したドキュメンタリーを送り出した。疑問に思うことを質問し続ける望月記者の姿はテレビやSNSでも取り上げられ、目にした人は多いだろう。小柄な彼女がスーツケースを引っ張りながら足早に歩く後ろを森達也監督が追いかける。記者証がないと入れない官邸の前では、待つしかない。歩道に立っているだけでも警官と押し問答になる。8ヶ月に渡って取材した映像は、政府やメディア、観ている我々の問題をあぶりだす。

会見に出席して”記者として当たり前の仕事をしている”望月記者がなぜそんなに話題になるのか、と森監督は言う。外国の記者たちも不思議に思う。他の記者たちがやらないので、目立っているだけ。後に続けないのはなぜか? メディアが萎縮している、というけれども、それだけか? 長期政権の間にはびこってきた”同調圧力の空気”を甘受しているのは誰か? いろんなことを考えさせる映画です。
「i」は衣塑子(いそこ)の「i」、私の「i」、どんな風にでもとってOKです、とQ&Aでの森監督。望月記者はとてもチャーミングでした。
巷で大きな話題になって映画にも登場している籠池氏、伊藤詩織さんも映画祭に出席して、監督の紹介で客席で立ち上がり、拍手をあびていました。東京国際映画祭2019スプラッシュ部門作品賞受賞。(白)


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東京国際映画祭授賞式での森達也監督(撮影 宮崎)

(「まさか受賞するとは思わず、レンタル屋さんに行くような服装で来てしまった」と語っていた)
シネマジャーナルHP 第32回東京国際映画祭 クロージングセレモニー記事

東京新聞社会部記者・望月衣塑子を森達也が密着。望月は沖縄に行き、自分の目で見て、住民の声に耳を傾ける。疑問を菅官房長官にぶつけるが質問を遮られ、答えははぐらかさせる。そんな政府の圧力に屈しない望月が幼い子供のいる母親で、方向音痴なところがあることも映し出す。スーパーウーマンの望月に人間味を感じさせた。
後半、森が官邸内の記者会見の場に入り、望月が質問するところを撮影したいと言い出す。しかし、中に入ることがままならない。立ち塞がる権力の壁に森は食い下がる。2人はこれからも立ち向かって行くのだろう。タイトルの「i」は私たち(We)ではなく私(I)で主張しないと方向性を見失うかもしれないという意味。思わず納得してしまった。(堀)


数年前「最近の東京新聞の記事はアクティブで面白い。ワクワクする」と知人が言っていたことがある。それは、この望月衣塑子記者の活躍ともつながっていた。それで官邸で果敢に質問を続ける望月衣塑子記者のことを知った。実際どうなんだろうと思っていたのでこの作品を観た。しかし、疑問を菅官房長官に投げかけても、投げかけても、はぐらかされたり、質問を妨害されたりする姿に、面白いというよりイライラしてしまった。こんなことでいいのだろうか。菅官房長官、ひいては政府は国民をばかにしていると思った。
こういう場面を実際見たことはほとんどない。そういう意味では、そういうシーンを「これでもかこれでもか」と見せてくれるこの映画は、実態を知らせてくれたということ。そして、そんなことにめげず、権力の壁にぶつかっていく望月記者の姿に「がんばれ!」と手に汗握りながら観ていた。他のマスコミの姿はほとんど映されないのでわからないが、他のマスコミはどんな状態なんだろうとも思った。こういう場面を取り上げたY-tubeとかあったりするのだろうか。ネット人間でない私にはそういうのはわからない。あっても削除されてしまうのだろうな。というより、この官邸での記者会見の場に入るには相当クリアしなければならない条件がある。それも描かれる。だから、そういうネットなんかにこの場面を出したら、すぐ「入れる権利」を剥奪されてしまうのかも。だから、他の人たちはできるだけ「あたりさわらず、やれる範囲で」質問しているのだろうか。それに風穴をあけるような望月記者の姿は爽快ではあるけど、つぶされないかと心配もする。
沖縄に行ったり、国会に行ったり、毎日、あちこちでかけては記事を書くという生活を続ける望月さんにも生活はある。子供もいる。夫が時々お弁当を作ってくれたり、子供の面倒も見てくれたりしている姿も出てくるが、このめまぐるしい生活では家族との関係も築けないのではないかと心配する。
女性が活躍するのは嬉しい。でも男と同じように働くということは、女たちが目指してきた平等とは違うような気もする。でも望月さんのとりあえずの現状はこのようにしなければ、知りたい人へ、知りたい記事を知らせるために必要とも思える。このことをやめれば、もっと私たちは知らされないまま暮らすことになってしまう。「時々は休んでね」とエールを送りつつ、がんばってほしいと思う(暁)。


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TIFFでのQ&A(撮影:白石)


2019年/日本/カラー/113分
配給:スターサンズ
(C)2019「i 新聞記者ドキュメント」
https://i-shimbunkisha.jp/
★2019年11月15日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 22:46| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

小さい魔女とワルプルギスの夜(原題:Die kleine Hexe)

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監督:マイク・シェーラー
原作:オトフリート・プロイスラー
脚本:マティアス・パフト
出演:カロリーネ・ヘルフルト(小さい魔女)、ズザンネ・フォン・ボルソディ(ルンプンペル)、アクセル・プラール(アブラクサスの声)

小さい魔女は、森の奥の小さい家にカラスのアブラクサスと住んでいる。年はまだほんの127才。アブラクサスはただのカラスじゃない、なんたって口がきけて小さい魔女のたった一人の相談相手で友達だった。小さい魔女の夢はワルプルギスの夜にブロッケン山で踊ること。でもまだ若い小さい魔女には招待状は届かない。そこでこっそり忍び込むことにした。まんまと踊りの輪に入れた小さい魔女は大喜び、けれども運の悪いことに、意地悪なルンペンプルおばさんに見つかってしまった。こってり油を搾られたうえに、罰としてほうきが燃やされ、来年のワルプルギスの夜に良い魔女になったかどうかのテストを受けることになった。

1957年に発表されたこの「小さい魔女」のお話は、ドイツの児童文学作家のプロイスラ―によって書かれました。ほかに「小さい水の精」「大盗賊ホッツェンプロッツ」(=大どろぼうホッツェンプロッツ)などがあります。この小さい魔女は黒い服にとんがり帽子ではなく、普通のおばさんのような服、頭にはスカーフをかぶっています。退屈は嫌い、面白いことが大好きで、魔女の決まり事をあまり守りません。そそっかしくてアブラクサスによく文句を言われています。
小さい魔女の特殊メイクは鼻だけのようで、ちょっと先っぽが長めになっています。もっと年を取った魔女は曲がるみたい。
ホウキで空飛ぶ場面の景観も素晴らしいですが、魔女の家そのものも、中の様々な家具や道具や小物に目を奪われます。面白そうなものがいっぱい。静止画面にしてよーく観たいくらいです。原作にはもっとエピソードが詰まっています。映画を観てから読むと、本の中で小さな魔女が活躍する場面が浮かびますよ。(白)


2018年/スイス、ドイツ/カラー/103分
配給:ショウゲート
(C)2017 Claussen+Putz Filmproduktion GmbH / Zodiac Pictures Ltd / Studiocanal Film GmbH / Frank-Markus Barwasser - All Rights Reserved
https://littlewitch-movie.jp/
★2019年11月15日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 16:53| Comment(0) | スイス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月12日

いのちスケッチ

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監督:瀬木直貴
脚本:作道雄
撮影:岡田賢三
出演:佐藤寛太(田中亮太)、藤本泉(石井彩)、芹澤興人(猿渡俊彦)、須藤蓮(中島裕也)。前野朋也(赤坂修)、風間トオル(高遠武)、高杢禎彦(田中一平)、浅田美代子(田中寛子)、武田鉄也(野田園長)

漫画家になる夢を抱いて大牟田から上京した亮太。一緒に頑張ってきた仲間に雑誌デビューの先を越され、頼みのバイト先は給料をもらう前に夜逃げしていた。残ったのは持ち帰っていた着ぐるみだけ。心が折れてしまった亮太は、夢をあきらめて故郷の大牟田に帰ることにした。敷居の高い実家には頼れず、可愛がってくれた祖母の家に向かうと見知らぬ女性が間借りしていた。祖母は認知症になって施設に入ったと知る。
旧友に紹介されて向かったバイト先は、動物の福祉を一番に考える延命動物園だった。おまけに、獣医の石井彩は祖母の家の間借り人!
動物園では初めての経験に面食らいながらも、亮太は飼育員たちの熱意に押されて徐々に慣れ親しんでいく。そして亮太の漫画が役立つ日が来た。

地元の方言がちゃんと使われている映画はいいですねぇ。主人公の亮太を演じるのは劇団EXILEの佐藤寛太さん。福岡出身なので地元の言葉にすぐに馴染んだようです。武田鉄也さんは元海援隊、歌に挟まれた博多弁の台詞を思い出します。父親役がなんと元チェッカーズの高杢禎彦(たかもくよしひこ)さんで、もうこんな大きな息子がいる設定も当たり前なのでした。久留米市出身。
大牟田市の観光課HPには『いのちスケッチ』の特設ページがありました。記者会見から撮影終了までの取材日記のほか、ロケ地マップも公開されています。いつも出掛けていた思い出多い動物園がこんな形で映画になって、地元ばかりでなく、大牟田を離れて暮らしている方々には嬉しいプレゼントになりました。そうでない方々にも、一度は挫折した亮太が故郷で再起し、成長していく姿に力づけられるはずです。この映画を観るまで、動物福祉に特化した動物園があるのを全く知りませんでした。いつか出かけてモルちゃんたちに会いたいものです。(白)


2019年/日本/カラー/110分
配給:ブロードメディアスタジオ
(C)2019「いのちスケッチ」製作委員会
http://inochisketch.com/

★2019年11月15日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 23:44| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月10日

盲目のメロディ インド式殺人狂騒曲   原題:Andhadhun

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監督:シュリラーム・ラガヴァン
出演:アーユシュマーン・クラーナー、タブー、ラーティカ・アープテ―、アニル・ダワン、マナフ・ヴィジ、ザキ―ル・フセイン

アーカーシュは、盲目のピアニスト。ひょんなことで恋に落ちたソフィの父の店でピアノを演奏させてもらっている。ある日、彼の演奏に惚れこんだ往年の大スター、プラモード(アニル・ダワン)から妻シミー(タブー)の誕生日祝いにサプライズでピアノを弾いてほしいと頼まれる。ところが、訪れた豪邸で、シミーとその浮気相手がプラモードを殺してしまったのを見てしまう。実は、盲目なのは嘘で、芸術のために盲目を装っていただけなのだ。その場は見えないフリをして切り抜けるが、通報しなくてはと警察に行くと、なんと警察署長(マナフ・ヴィジ)はプラモードを殺した浮気相手だった・・・

洒落た店でピアノを弾くアーカーシュ。そして訪ねたモダンな豪邸で繰り広げられる殺人の顛末。スタイリッシュなサスペンスかと思いきや、警察で出くわすのが、当の殺人犯の浮気相手! 思わず笑ってしまいます。この後、思わぬ展開に。
アーカーシュ役を演じたアーユシュマーン・クラーナーは、自らピアノ演奏もこなしていますが、コミカルな演技も絶妙。でも、笑ってばかりいられない、予測不能なおぞましいできごとに、クラクラさせられました。
ラガヴァン監督は、フランスの短編映画『L‘Accordeur(The Piano Tuner)』(2010年)から着想を得て、本作を製作したとのこと。また違ったタイプのインド映画の登場です。(咲)


盲目を偽わるピアニストが殺人事件に遭遇。犯人から命を狙われ、本当に視力を失う。恐ろしい企みが絡み、敵味方が二転三転。目まぐるしい展開が繰り広げられる。誰を信じればいいのか。人間不信に陥りそう。
最後に笑うのは誰か。主人公は見えているのか。最後の最後までわからない。しかし、伏線はきっちり回収される。脚本の細やかさに驚かされた。(堀)


2018年/インド/ヒンディー語/シネスコ/5,1ch/138分
配給:SPACEBOX 宣伝:シネブリッジ
公式サイト:http://m-melody.jp/
★2019年11月15日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
posted by sakiko at 14:33| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月09日

ゆうやけ子どもクラブ!

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監督・製作:井手洋子
撮影:中井正義、井手洋子
編集:大川景子
整音:遠藤春雄
音楽:芳賀一之
出演:ゆうやけ子どもクラブのみなさん

東京の西、小平市には40年以上前に発足した「ゆうやけ子どもクラブ」がある。障がいのある小学生から高校生までの子どもたちが放課後の時間を過ごす場所。知的障害、発達障害、自閉症など、いろいろな障がいの子どもたちにとことん付き合い、一緒に歩んできた。カメラは子どもたちの様々な表情をとらえる。一つことにずっとこだわる子、うまくコミュニケーションが取れず、泣いたり手が出たりしてしまう子、小さな子をあやす子もいる。みんなでフォークダンスやおやつ作りもする。ゆっくりだけれど確実に変わり、育っていく子どもたちの姿を知ってほしいと製作されたドキュメンタリー。

代表の村岡真治さんは大学生のときにボランティアをして以来、ここが居場所と決め、子どもたちと遊び、見守り続け、今や還暦を過ぎました。根気よくどの子ともよく遊んでいます。ゆうやけ子どもクラブが大切にしているのは、子どもたちの行動を受け入れ、じっくり理解しようとつとめること。泣いたり騒いだりには必ず理由があるはずと、経験と想像力を働かせ、長い目で子どもたちを見守る職員さんたちに感心します。よく気づき、優しい手を差し出す大人がそばにいるのは、幸せだと思いました。障がいのある子もない子も、幸せでなくては。
親は我が子に対し、つい場当たり的になりがちです。早く早くと急がせて、いったい何がそんなに大事だったのか、と今さらながら思います。
井手洋子監督は『ショージとタカオ』(2011)を自主製作、国内外で高い評価を受けています。お話をあれこれ伺いました。(白)


★井手洋子監督インタビュー記事掲載しました。こちらです。
★初日舞台挨拶のようすはスタッフ日記のこちらです。

2018年/日本/カラー/DCP/112分
配給:井手商店映画部、ピカフィルム
https://www.yuyake-kodomo-club.com/
★2019年11月16日(土)~12月6日(金)
ポレポレ東中野 12:00 より1回上映
★11月30日(土)~12月13日(金)
横浜シネマジャック&ベティ、名古屋シネマスコーレ
posted by shiraishi at 10:24| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

パパとムスメの 7 日間(原題:Hon Papa Da Con Gai/Daddy Issue)

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監督:落合賢(おちあい・けん/『太秦ライムライト』『サイゴン・ボディガード』)
脚本:マイケル・タイ
原作:五十嵐貴久著「パパとムスメの 7 日間」(幻冬舎文庫)
製作:チャーリー・グエン、落合賢
出演:タイ・ホア(ハイ)、ケイティ・グエン(チャウ)、トラン・ヒー、ギア・グエン、ヴァン・チャン、ホン・ヴァン、フイ・カーン、タン・ロック

化粧品会社に勤めるハイは妻を早く亡くして高校生の一人娘チャウと二人暮らし。ハイは徹夜でゲームをして出勤するようなパパだけれど、チャウはママに似て、美しくしっかりもののムスメに成長した。パパはママを忘れられない気まじめなムスメが気がかり、ムスメは遊んでばかりのパパの面倒を見るのに嫌気がさしている。海外留学の承諾書もまだ見せずにいた。
ある晩事故に遭った二人は自分たちの身体が入れ替わっているのに仰天、どうやっても元に戻らない。次の日から、パパとムスメはそれぞれの会社と学校へ行き役割を演じることになった。パパは大事なプレゼンがあり、ムスメは絶対に受かりたい校内オーディションがある。中身の違う二人は無事切り抜けられるのか?

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五十嵐貴久氏の同名小説が原作。日本で2007年にテレビドラマ化(舘ひろし、新垣結衣)、韓国で2017年に映画化(ユン・ジェムン、チョン・ソミン)されています。
このベトナム版と日本版が違うのは、母が亡くなって父と娘の間に溝ができてしまっていること。独身パパに言い寄る女性も出てきます。
芸達者なタイ・ホア演じるパパは仕事はできるようですが、子どもっぽいところが残ったまま。その分ムスメが大人にならねばならず、不満の種を作っています。そんな二人が入れ替わったことで、お互いの立場や気持ちを理解していく家族の物語になっています。日本版よりコメディ要素が大きく、ふり幅のある役をやりとげたタイ・ホアとケイティ・グエンに拍手♪ 真っ白のアオザイの制服姿がものすごく可愛い!!

男女入れ替わりの話は、大林宣彦監督『転校生』(1982/小林聡美、尾美としのり)、新海誠監督のアニメーション『君の名は。』(2016/声:神木隆之介 上白石萌音)などがあり、いずれも最初の驚愕からドタバタ必至の対処が面白いです。入れ替わりと元に戻るきっかけはそれぞれ違いますが、このベトナム版が一番危険かも。落合賢監督も日本人役で出演していますので、お確かめください。(白)


登場人物の衣装や家の装飾などの色調がポップで、私のベトナム映画に対するイメージがこの作品を見て、がらりと変わった。邦画でも言えるが、実際にこういう生活をしている人は多くはないと思うものの、見ていて楽しい気分になる。
その中で、父の娘への思い、娘の父への不満などはとてもリアルだ。体が入れ替わることで互いの気持ちを知り、自分の間違った思い込みにも気づく。作品を通じて、見ているこちらまで親への不満や子どもへの期待を振り返り、自分の思い込みがあったことを教えてもらった。
しかし、男がいつまで経っても子どもっぽいのは日本だけじゃないのねと苦笑いをしてしまう。(堀)


2018年/ベトナム/カラー/シネスコ/117分
配給:AMG エンタテインメント
(C)チャンフンフィルムス
http://www.cinemart.co.jp/article/blog/20190930002658.html
★2019年11月17日(日)よりシネマート新宿にて公開

~ご注意ください~
『パパとムスメの7日間』のむコレ上映日
シネマート新宿:11/17(日)、21(木)、12/18(水)、23(月)、27(金)~31(火)、1/2(木)
現在確定している上映時間:
● 11/17(日)16:25 ※終了後に監督トーク
● 11/21(木)20:50

シネマート心斎橋:11/20(水)、12/3(火)、12/20(金) 、12/23(月)、1/8(水)、1/17(木) 、1/23(水)
現在確定している上映時間:
● 11/20(水)14:15~上映 
posted by shiraishi at 10:18| Comment(0) | ベトナム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スーパーティーチャー 熱血格闘(原題:大師兄  Big Brother)

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監督:カム・カーウァイ
製作:ドニー・イェン、ウォン・ジン、コニー・ウォン
脚本:チャン・タイリー
撮影:ジャム・ヤウ ウォン・マンノク
アクション監督:谷垣健治
出演:ドニー・イェン(チャン・ハップ)、ドミニク・ラム(ラム校長)、ジョー・チェン(リョン先生)、ユー・カン(ロー・ギンイン)、ジャック・ロク(レイ・ワイチョン)、ブルース・トン(クワン・カイチン)、クリス・トン(クワン・カイイン)、グラディス・リー(ウォン・ダッナン)、ゴードン・ラウ(ホン・ジョウファ)

香港で成績最下位の学校、タックチー学園はこの数年大学進学者がいない。このままでは教育局からの補助金が打ち切られてしまう。ラム校長はアメリカ帰りの教師チャン・ハップを雇い、問題児ばかりが集められた6Bの担任にした。
チャンは特に持てあまされている5人の記録を調べ、1人ずつ家庭訪問をして問題の根を探ろうとする。これまでの教師にはなかったチャンの型破りの指導は、生徒の授業への関心を呼び覚ましす。学習することの楽しさを体験した生徒は、次第にチャンに信頼を置くようになった。授業が成り立たなかった6Bの変わりように他の教師たちも注目する。

なんだか久々に香港映画らしい映画を観ました。ドニー・イェンが長い芸歴の中で初めての教師役。イップ・マンのようにおちついた師父ではなく、弁もたてば腕もたち、不良も一目置くようになるというアメリカ海兵隊帰りの熱血教師です。このチャン先生の授業のようすも必見。やる気を引き出すのが先生の腕です。こういう先生だったら生徒も身を入れるでしょう。生徒役にフレッシュな若手を揃えて魅力を開花させています。双子のブルースとクリスの父は香港俳優のケント・トン(TVB「五虎將」の一人)。
学園は地上げ屋の餌食になりかけていて、後半は香港映画ファンが期待するアクションシーン。見せ場がつるべうちでやってきます。谷垣健治アクション監督とともに日本のスタントマンも参加。香港の教育や背後の家庭の問題を主題に、観客へ小出しに見せながら、エンターテイメントを加味して飽きさせません。ドニー・イェンに注目したのは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』(1992)でした。ジェット・リーの敵として登場し、主役より「この人は誰!?」とそちらに目が。あれから20ウン年、ドニー様若い!(白)


主人公はアメリカ軍を除隊後、香港に戻って高校教師に。(白)さんも書いているが、落ちこぼれ組のやる気をうまく引き出し、家庭の問題にも向き合わせる。ドニー・イェンが嬉々として演じているのを感じた。勉強する意味を説く場面は思わず、聴き入ってしまったが、これは人生経験が豊富だから言えること。私にはとても言えやしないと思って見ていたら、人生の意義を問う中国の大学入試問題を取り上げ、勉強と経験のどちらも大切であることをさらりと伝える。内容が深い。
もちろんアクションの見せ場もしっかり。ドニー・イェンの本領発揮。かっこいい~ その中で主人公は若かった自分のやんちゃぶりが友人の人生を大きく左右してしまったことを知る。取返しのつかないことへの後悔と申し訳なさでいっぱいだろうが、それを踏まえてどう対応するか。これはなかなか難しいと感じた。(堀)


2018年/中国・香港/カラー/シネスコ/101分
配給:エスピーオー
(C)2018 Mega Vision Project Workshop Limited. All Rights Reserved.
https://www.vap.co.jp/superteacher/
★2019年11月15日(金)よりシネマート新宿ロードショー

~ご注意ください~
のむコレ上映日
シネマート新宿:11/15(金)、11/30(土)、12/13(金)、12/26(木)、12/29(日)、1/2(木)、1/12(日)、1/29(水)2/6(日)、2/20(木)
現在確定している上映時間:
● 11/21(木)20:55

シネマート心斎橋:11/15(金)、11/18(月)、12/7(土)、12/30(月) 、1/2(木)、1/12(日)、1/22(水)
現在確定している上映時間:
● 11/15(金)18:40
posted by shiraishi at 10:15| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月08日

象は静かに座っている 原題:大象席地而坐  英題 An Elephant Sitting Still

2019年11月2日~ シアター・イメージフォーラム他にて公開中
その他の公開情報
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© Ms. CHU Yanhua and Mr. HU Yongzhen

監督:胡波(フー・ボー)
脚本:フー・ボー
撮影:ファン・チャオ
美術:シェ・リージャ
編集:フー・ボー
音楽:ホァ・ルン
プロデューサー:王小帥(ワン・シャオシュアイ)
出演
チャン・ユー:ユー・チェン役
ポン・ユーチャン:ウェイ・ブー
ワン・ユーウェン:ファン・リン
リー・ツォンシー:ワン・ジン

中国北部、斜陽の炭鉱都市に暮らす4人の登場人物たちの1日を4時間近い長尺で描き、世界を驚かせた作品。行き場のない悲しみを抱えた孤独な“4人の運命”が交差する。キーフレーズは「満州里のサーカス団にいる象は、ずっとそこに座っている。誰かがフォークで刺そうとも、そこに座っているだろう」。タイトルはここから。
親友の妻との浮気現場を見られ、親友を自殺に追い込んでしまった男、于城。男子高校生韋布は番長のスマホを盗んだ友人をかばおうとして、番長を階段から突き落として大怪我をさせてしまい学校から逃げ出す。韋布が思いを寄せる同級生の黄玲は、学校の主任教師と密かに交際しているが、主任との関係が暴露され町に居場所がなくなってしまう。韋布の家の隣に住む老金は家のベランダで寝起きしているが、娘夫婦は孫娘の進学に備えるため、家を買うのに彼を老人ホームへ入れようとしている。しかし、韋布を追うチンピラたちに目をつけられ怖気づいた娘婿に家を追いだされてしまう。この4人の「喪失」と「逃避」の一日が描かれる。一日の終わり、坐っている象を観るために4人は満州里へと向かうバスに乗り込む。

『象は静かに座っている』メイン.jpg
© Ms. CHU Yanhua and Mr. HU Yongzhen

監督の胡波は本作を撮り終えた後、自ら命をたってしまったという。作品の長さをめぐってプロデューサーと確執があったらしい。監督の死後、本人希望の4時間バージョンが映画祭で上映され、ベルリン映画祭フォーラム部門で国際批評家連盟賞を受賞したり、台湾の金馬奨で作品賞を受賞した。
そんな話題作だが、作家でもあった監督のこだわりが伝わってくる作品だった。灰色の空の下、居場所を失った人物の苦境をこれでもかと息苦しいくらいに描き、観客にやるせなさや閉塞感を与える。しかし、そんな苦しい中でもひとすじの希望を感じさせる作品だった。そういう意味では監督の才能は感じたが、やはり長ければいいというものではないと私は思う(暁)。

公式HP
2018年製作/234分/中国
原題:大象席地而坐 An Elephant Sitting Still
配給:ビターズ・エンド
posted by akemi at 19:31| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月07日

オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁 原題:Wings Over Everest(中国題:冰峰暴)

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監督・脚本:ユー・フェイ プロデューサー:テレンス・チャン
撮影監督:ライ・イウファイ
美術監督:パク・イルヒョン チー・セバク
出演;役所広司 チャン・ジンチュー リン・ボーホン
声の出演:役所広司、沢城みゆき、宮野真守、神尾佑、山野井仁、俊藤光利、高木渉、細貝光司、沖原一生

ヒマラヤ地域の平和のため『ヒマラヤ公約』を締結する会議開催前、一機の飛行機がエベレスト南部、通称デスゾーンに墜落。その飛行機には、平和のカギを握る重要機密文書が載せられていた。墜落から3日後、ヒマラヤ救助隊「チーム・ウィングス」に、特別捜査官を自称する2人の男、ヴィクターとマーカスから、多額の報酬と共に機密文書を探す依頼が入る。チーム・ウィングスは“ヒマラヤの鬼”と呼ばれるジアン(役所広司)隊長中心に、エベレストで遭難した恋人を探し出すために入ったシャオタイズ(チャン・ジンチュー)、若く情熱を持ったヘリパイロット・ハン(リン・ボーホン)らが日々危険なミッションに臨んでいた。またジアンは無謀な行動の多いシャオタイズに亡くした娘の面影を重ねていく。危険なミッションと感じながらも、財政難に悩むチーム・ウィングスは依頼を引き受ける。
残された時間は48時間。酸素ボンベ残量も限られる中、死に至る場所・デスゾーンに向けて決死の登頂を始める。刻一刻と時間は過ぎ、様々な思いと世界規模の陰謀が絡まる中、世界最高峰の頂には、予想もつかない事態が待ち受けていた――。

世界最高峰のエベレストを登山者側から描いた作品は少なくない。本作は救助隊、それも機密文書回収という政治的な使命を帯びた山男&女たちが生命を賭す山岳アクションアドベンチャーという視点が目新しい。

日本・中国・インド・ヒマラヤ周辺国の思惑や陰謀が、標高8,848メートル上で飛び交う。むろん頂上で撮影された訳ではないけれど、高地でのロケは相当な迫力だ。極寒が襲い、落下、滑落、すれすれに空走するゴツいヘリコプターなどなど、ハラハラさせられる場面の連続だ。

ワイヤアクションで27時間(!)も吊るされ続け、身体中あざだらけになったという役所広司。生身を張った表現とアップでの眼力は緊張と慈愛を同時に映し出す。”陸”でのワンチームをまとめる温かな人柄は、国際派名優の境地を見せている。日本人としては、もっと役所広司が活躍する場面が観たかった〜。(幸)


ポスタービジュアルから雪山でのサスペンス・アクション映画と思われるかもしれないが、監督が描きたかったのは「愛がどこまでできるか」ということ。男女の愛だけでなく、親子の愛や仕事仲間を大事に思う気持ちも語られている。監督自身、登山や映画に対する愛が原動力になって、この作品を何年もかけて企画、脚本から作り上げた。
とはいえ、雪山での「もうダメなんじゃないか」と思うようなハラハラする場面はたっぷり。監督がモンブランやヒマラヤ山脈のマナスルを登頂し、その経験を脚本に落とし込んだという。
愛を感じつつ、エンタメ性も楽しめる作品に仕上がった。
ところで、この作品でヘリコプターが6000mまでしか上がれないという話が出てくる。なぜ頂上まで行けないのだろうと思ったら、標高が高くなると空気が薄くなり、プロペラを回しても風が起きないので飛べないからだと教えてもらった。なるほど!(堀)


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東京国際映画祭 『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』 ワールドプレミアイベント(11/3)
張 静初(チャン・ジンチュー) 撮影:景山咲子

かつて山女だった私は、山を舞台にした作品はいつも注目。だいたい山を登るためのドキュメンタリーがほとんど。でもこの作品は、エベレストを舞台にしたサスペンス・アクション。実際はエベレストの高所で撮影されたのではないとはいえ、こんな高所での撮影は、やはりかなり高度な撮影技術と登山技術が要求される。やはりカメラの技術革新、登山技術の進歩があってのことだろう。
ところでこの作品、役所広司主演ということで日本では宣伝されているが、やはり張 静初(チャン・ジンチュー)の大活躍がみどころ。非常に危険な登山シーンを演じている。でもここまでできるのは彼女だからこそと思い、やっぱりすごい身体能力を持ち、運動神経抜群と確信した。
私が彼女を初めて見たのは、2005年11月の第5回彩の国さいたま中国映画祭で上映された『花嫁大旋風』(日本公開題名『雲南の花嫁』、原題『花腰新娘』)だった。家の鴨居に逆さつり状態で登場。その状態から床に飛び降りるというまるで軽業師のような登場だった。実際はスタントマンが演じたのかと思ったら、本人とのことだった。それがあまり印象的だったので、今でも記憶に残っている。しかもそのあと獅子舞の先頭部分を演じるのだけど、これにしても相当な身体能力が必要だと思うので、この細い身体のどこにこんな力があるのだろうと思った。この作品のことがあったので、今回の彼女の山でのシーンは納得し、彼女のアクションは健在だと思った。
『雲南の花嫁』で彼女のことを知り、その後の出演作はかなり観てきた。アクションものも多いけど、2007年『プロテージ/偽りの絆』(原題『門徒』)での麻薬患者の役は迫真の演技だったし、第22回東京国際映画祭で上映されたアン・ホイ監督の『夜と霧』2009年(原題『天水圍的夜與霧』)での悲壮な演技も印象的。去年日本公開された『グレート・アドベンチャー』2017年 (俠盜聯盟)では流暢な英語を話し、単なるアクション女優ではない面も知った。今回、張 静初のことを書くに当たって、彼女の日本公開・上映作を調べてみたら10数本あった。意外に日本で公開されているのに知られていない。この作品でぜひ注目されてほしい(暁)。

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東京国際映画祭 『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』 ワールドプレミアイベント(11/3)


提供:バップ/配給:アスミック・エース/
©Mirage Ltd. 
2019/中国・日本/110分/PG-12
公式サイト:http://over-everest.asmik-ace.co.jp/
★11月15日(金)より全国公開★




 





posted by yukie at 10:51| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アイリッシュマン(The Irishman)

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監督:マーティン・スコセッシ
出演:ロバート・デ・ニーロ(フランク・シーラン)、アル・パチーノ(ジミー・ホッファ)、ジョー・ペシ(ラッセル・バッファリーノ)、ハーヴェイ・カイテル(アンジェロ・ブルーノ)

第2次大戦後のアメリカ。運転手だったフランクは、たまたま知り合った裏社会の大物ラッセル・バッファリーノに気に入られる。上官の命令に従う兵士のように小さな用事をこなすうちに、殺し屋として重用されるようになった。ラッセルはジミー・ホッファにフランクを引き合わせる。ジミーはアメリカの労働組合で力を持つ切れ者で、組合のもめごとを処理するのにマフィアとつながっていた。いつしか裏社会の奥深くに入りこんでいたフランクは、ジミーと仕事を越えた付き合いが続く。

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ハリウッドのレジェンド俳優たちが、マーティン・スコセッシ監督のもとに勢ぞろいしました。たくさんで書ききれません。みなさま年はとりましたが、貫禄たっぷりです。現場はどんなだったのか、レポートがほしいです。原作はチャールズ・ブラントが2004年に発表したノンフィクション「I Heard You Paint Houses」。登場人物が多いので読めるといいですね。第2次大戦後からの裏社会のかけひきと移り変わりを、一人の殺し屋フランク・”アイリッシュ”・シーランの回想として語っています。(白)

2019年/アメリカ/ 209分/PG12
配給:Netflix
https://www.netflix.com/jp/title/80175798

★2019年11月27日(水)からのNetflix配信に先駆け ,
11月15日(金)からアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて劇場公開
posted by shiraishi at 09:55| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月04日

その瞬間、僕は泣きたくなった-CINEMA FIGHTERS project- 

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詩と音楽、映像を一つに融合したプロジェクトの第3弾となる今作。
5人の監督の共通した想いは、歌と映画だけが、未来が見えないこの国の苦しい日々から、ほんの少しだけ解き放ってくれる——。
三池崇史『Beautiful』は大地震をきっかけにそれぞれ自殺未遂をした男女の奇妙な出会いを、行定勲『海風』は愛に飢えた男女の一時の温もりを、松永大司『On The Way』はメキシコの移民を目の当たりにした目標の持てない日本人青年を、洞内広樹『GHOSTING』は悲しい過去と運命を変えようとする霊魂〈ゴースト〉となった青年を、井上博貴『魔女に焦がれて』は不思議な力を持つ同級生に惹かれる男子高校生をそれぞれ描き出す。

『Beautiful』 
出演: EXILE AKIRA 蓮佛美沙子  
監督:三池崇史  
主題歌:「Beautiful」 Crystal Kay

『海風』
出演:小林直己 秋山菜津子  
監督:行定勲  
主題歌:「海風」 Leola

『On The Way』
出演:今市隆二 パコ・ニコラス  
監督:松永大司   
主題歌:「Church by the sea」 RYUJI IMAICHI

『GHOSTING』 
出演:佐野玲於 畑芽育  
監督:洞内広樹  
主題歌:「ラストラブ」 LISA

『魔女に焦がれて』
出演:佐藤大樹 久保田紗友  
監督:井上博貴  
主題歌:「ライラック」琉衣

三池崇史、行定勲、松永大司、洞内広樹、井上博貴の監督5人のオムニバス。映像に音楽と詩を融合させる。それぞれが23分の短尺ながら監督は作家性をにじませる。意外だったのは三池作品。設定と冒頭こそ三池らしさ全開だが実は純愛モノ。エンドロールに心が和む。
みなが男女の関係を描く中、松永監督のみ社会問題に切り込む。これまでの作品は苦手だったが、答えの出ないもどかしさがかえってすとんと受け入れられた。その先に希望を感じさせる。洞内作品は若い主人公2人の関係性の設定にぎこちなさがあるものの、ラストの展開は温かい捻りがあっていい。
井上作品はいちばん共感しやすいだろう。チヤホヤしていた人たちがいきなり態度を変える。よくあるイジメの発端。細やかな心の機微を丁寧に描く。洞内広樹監督、井上博貴監督の他の作品も見たくなった。締めは行定作品。やりきれない思いを抒情的に描きつつ、救いに繋げた。(堀)


エグゼクティブプロデューサー:EXILE HIRO
企画・プロデュース:別所哲也
コンセプトプロデューサー:小竹正人
製作:LDH JAPAN   
制作:パシフィックボイス
配給:LDH PICTURES
©2019 CINEMA FIGHTERS project
公式サイト:http://sonoshunkan.toeiad.co.jp/
★2019年2019年11月8日(金)ロードショー
posted by ほりきみき at 18:20| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

国家が破産する日(原題:Default)

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監督:チェ・グクヒ
出演:キム・ヘス、ユ・アイン、ホ・ジュノ、ヴァンサン・カッセル

経済が右肩上がりの成長を遂げ、国民の多くが好景気は続くと信じて疑わなかった1997年。中央銀行である韓国銀行の通貨政策チーム長ハン・シヒョン(キム・ヘス)は通貨危機を予測する。しかし政府の対応は遅れ、国民には公示せず、非公開の対策チームを招集したときには、タイムリミットの国家破産まで残された時間は7日間だった。
時を同じくして、危機の兆候を独自にキャッチした金融コンサルタントのユン・ジョンハク(ユ・アイン)は、一世一代の大勝負に出る。
一方、何も知らない町工場の経営者ガプス(ホ・ジュノ)は、大手百貨店からの大量発注を手形決済という条件で受けてしまう。自国通貨の価値が加速度的に下落する中、彼ら、そして国家は生き残ることが出来るのか。

1997年に韓国で実際に起こった通貨危機の裏側。日銀に該当する韓国銀行の担当者チームは国家経済の確立維持を考え、行政側は身内の保身に走る。日本でもありそうなことに思えてならない。
金融のプロは主婦のラジオ番組への投稿を聞いて状況に気づき、一獲千金を狙う。そういえがこの金融のプロ、ユン・ジョンハクを演じたユ・アインは『バーニング 劇場版』では羽振りのいい男に好きな女性を取られる田舎男を演じていた。作品が変われば雰囲気もがらりと変わるものだ。
一方で煽りを受けて追い詰められる零細企業。古今東西変わらぬ構図。IMF支援は誰のためなのか。その裏にアメリカの思惑が見え隠れする。日本がこのとき韓国を支えようとしたが、止められたという話も聞く。
堪えた者勝ちのラストに堪えられなかった者の末路を思う。エンタメ性を盛り込み、経済問題に疎くても最後まで意識を引きつける。(堀)


2018年/韓国映画/114分/カラー/5.1chデジタル/ビスタ/
配給:ツイン
©2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://kokka-hasan.com/
★2019年11月8日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋 ほか 全国順次ロードショー
posted by ほりきみき at 18:09| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スペインは呼んでいる (原題:The Trip To Spain)

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監督:マイケル・ウィンターボトム
撮影:ジェームズ・クラーク
出演:スティーヴ・クーガン、ロブ・ブラインドン

イギリスの人気コメディアンで俳優のスティーヴ・クーガンは、ニューヨーク・タイムズからスペイン中を旅して書くグルメ記事の連載依頼を受ける。スティーヴは前回のイタリアへの旅にも同行してくれた旧友のロブ・ブライドンを誘う。スペインの北部から地中海に面するマラガまで約1,000マイルを南下する。

スティーヴ・クーガンとロブ・ブライドンが本人役でグルメ取材するシリーズ第3弾でスペインに。実生活でも親しいふたりが美味しい料理とワインを楽しみながら、映画ネタ満載の軽妙な会話をモノマネ付きで繰り広げる。その裏で思い悩むのはキャリアや家族のこと。まだまだなのか、もうなのか。50代の位置付けは難しい。他人事ではない。
ラストの先が気になったが、第4弾があるらしいと聞き、胸をなでおろした。(堀)


旅をしながらスペインの歴史や文化についてのウンチクが炸裂する二人の会話。
私が特に注目したのは下記の部分だ。
ムーア人が711年以降スペインを支配していた時代について話がおよんだ時に、ロジャー・ムーアの物真似をするロブ。そんな脇で、スティーヴが「ムーア人が来たころヨーロッパは暗黒時代だった」「数の体系も、天文学も医学も進んでいた」「ギリシアの学問もムスリムがアラビア語に翻訳して伝えてくれた」と語り続ける。「ムーア人はカトリックより寛容だった」という言葉も。イスラーム王朝のスペイン支配時代、高めの税金を払えば改宗しなくてよかったのに、キリスト教徒がスペインを奪還した後、ユダヤ教徒もイスラーム教徒と一緒に追い出されたという歴史がある。(そのユダヤ教徒を受け入れたのがイスラーム世界だったということも忘れないでほしいところ!)
「(ロジャー)ムーアはムスリムじゃない」というロブの落ちで笑わせてくれるが、それを現代のISIS(イスラム国)の台頭にもつなげているところが、さすが、『イン・ディス・ワールド』を作ったマイケル・ウィンターボトム監督だ。
スペインを旅していると、ここは元々ムーア人が城を作ったという町が実に多い。本作に登場する崖の上に作られた町クエンカもそんな一つ。私も訪れたことがあって、泊まったパラドール(国営宿舎)が出て来て懐かしかった。修道院を利用した趣のある宿。お城や屋敷など伝統的建造物を宿舎にしたパラドールは、食事も郷土食豊かで、スペインを旅するなら是非泊まりたい宿。映画を観て、パラドールを巡る旅をしたくなること請け合い! (咲)


2017 年/イギリス/108 分/カラー/ビスタ/
配給:ハーク
©SKY UK LIMITED 2017.
公式サイト:http://hark3.com/trip-to-spain/
★2019年11 月 8 日(金)より Bunkamura ル・シネマにて公開





posted by ほりきみき at 18:06| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月03日

生理ちゃん 

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監督:品田俊介
原作:小山健「生理ちゃん」(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
脚本:赤松新
音楽:河内結衣
出演:二階堂ふみ、伊藤沙莉、松風理咲、須藤蓮、狩野見恭兵、豊嶋花、岡田義徳

クリスマスイブなのに締め切りに追われて慌ただしい編集部で忙しそうに電話をしている、米田青子(二階堂ふみ)。急な仕事も舞い込み、急いで歩きながら彼氏の久保(岡田義徳)にデートのキャンセル電話をしていると、そこにピンクの物体、生理ちゃんが現れる。
翌日、上司の渋谷に怒られながらも生理中でぼんやりする青子の横を、清掃スタッフの山本りほ(伊藤沙莉)が通り過ぎる。フリーターには眩しすぎる編集部の人々を、りほは激しいツッコミと共に超速でSNSに投稿する。仕事が終わり実家の部屋に戻ると、生理ちゃんがやって来る。
青子の妹のひかる(松風理咲)は、彼氏のゆきち(狩野見恭兵)と受験会場へ向かって走っていた。そこへ注射器を持った生理ちゃんが突然肩にのしかかってきた。

仰向けの青子に生理ちゃんが馬乗りになる。腰が重くて辛くて動けない状況を見事に可視化した。つらいよね~ 
それでも生理を言い訳にはできないヒロインたち。仕事も恋も生理と折り合いをつけながらがんばる姿は健気。
一方、男性には童貞くん、性欲くんが登場。わかりやすい形にぎょっとしたが、その呟きには笑ってしまう。
二階堂ふみがキリッとカッコいい雑誌編集者に。伊藤沙莉が引きこもり一歩手前のゲームオタク。りほの毒舌は聞いていて気持ちがいい。初めての恋に戸惑う様子を伊藤沙莉がちょっとコミカルに演じた。
女性向けのようだが、男性こそ見てほしい作品である。(堀)


原作は男性が描いているので、えー!なぜわかるのかしら?と思いました。小山健さんは既婚で、女性たちによくお話聞くのだそうです。なるほどね。ずーんとくる苦痛を軽く言う男性に「生理パンチを食らわせて血液を吸い上げる」生理ちゃん、いいぞ!この際妊娠・出産の大変さも体験してもらいたいものです。一方「性欲くん」も同じようにコントロールに苦しむものだというのもわかりました。カップルのデート映画におすすめです。(白)

2019年/日本/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/75分
配給:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
©吉本興業 ©小山健/KADOKAWA
公式サイト:https://seirichan.official-movie.com/
★2019年11月8日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開
posted by ほりきみき at 02:23| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月02日

グレタ GRETA(原題:GRETA)

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監督・脚本:ニール・ジョーダン
出演:イザベル・ユペール、クロエ・グレース・モレッツ、マイカ・モンロー、コルム・フィオール、スティーヴン・レイ ほか

ニューヨークの高級レストランでウエートレスとして働くフランシス(クロエ・ グレース・モレッツ)は、帰宅中の地下鉄の座席に誰かが置き忘れたバッグを見つける。持ち主は、都会の片隅にひっそりと孤独に暮らす未亡 人グレタ(イザベル・ユペール)。彼女の家までバッグを届けたフランシス は、彼女に亡き母への愛情を重ね、年の離れた友人として親密に付き合うようになる。しかしその絆は、やがてストーカーのような付きまといへと発展し、フランシスは友人のエリカ(マイカ・モンロー)とともに恐ろしい出来事に巻き込まれていく。

地下鉄に忘れられていたバッグを届けただけなのに…。グレタがストーカーとなってフランシスに付きまとう。次第に明らかになるサイコパスぶり。よく考えると設定に現実味はないが、リアルに思えるのはユペールのなせる技。どきっとして、何度も飛び上がってしまった。
グレタがつま先立ちでダンスをするシーンがある。内心の喜びがあふれていて、とてもかわいいのだが、喜びの内容が恐ろしく、ホラー映画のよう。
リストの「愛の夢」が効果的に使われており、ピアノシーンはユペール本人が弾いているという。(堀)


2018年/ アイルランド・アメリカ/ 英語/ 98分/ カラー/ シネマスコープ/ 5.1ch
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
© Widow Movie, LLC and Showbox 2018. All Rights Reserved.
公式サイト:http://greta.jp/
★2019年11月8日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 新宿ほか全国ロードショー
posted by ほりきみき at 23:49| Comment(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする