2019年10月20日

この星は、私の星じゃない

劇場公開 2019年 10月26日(土)渋谷ユーロスペース他  公開情報 
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©2019 パンドラ+BEARSVILLE

監督・撮影・編集・朗読:吉峯美和
プロデューサー:中野理惠、吉峯美和
撮影:南幸男、小口久代 
テーマ曲「新 パワフル ウィメンズ ブルース」(作詞:田中美津、曲・演奏:RIQUO)
出演:田中美津、米津知子、小泉らもん、古堅苗、上野千鶴子、伊藤比呂美、三澤典丈、安藤恭子、徳永理華、垣花譲二、ぐるーぷ「この子、は沖縄だ」の皆さん

日本のウーマン・リブ運動を牽引した田中美津さんを4年間に渡り追ったドキュメンタリー

1970年代初頭「女性解放」を唱えて始まった日本のウーマン・リブ運動を牽引した田中美津さんの歩んできた道、鍼灸師として働く姿、そして沖縄辺野古に通う彼女の今を4年に渡り追ったドキュメンタリー作品。
吉峯美和監督が初めて田中美津さんに会ったのは4年前。「日本人は何をめざしてきたのか 女たちは平等をめざす」という、2015年NHKで放送された、戦後70年の女性史のドキュメンタリー制作にフリーの映像ディレクターとして参加したのがきっかけだった。吉峯監督は、この番組制作で知り合った田中さんに惚れ込んだことが、本作の製作動機になっている。「戦後、活躍したいろいろな女性の方にお目にかかったのですが、田中美津さんはその中でも特別で、強く心に残りました」と田中美津さんに魅力を感じ、映画化を考えたそう。
1970年、田中さんがビラに書いた「便所からの解放」が多くの女性の共感を呼び、日本におけるウーマンリブ運動を牽引する形になり、ウーマンリブ運動のカリスマ的存在になった。昨今、話題になっている“Me Too運動”の先駆けともいえる。女性が「母性=母」か「性欲処理=便所」の二つのイメージに分断されているととなえ、その解放の呼びかけに「便所からの解放」という言葉が使われた。
日本でウーマンリブ運動が始まった1970年代当時は儒教などの影響で「女性は子供のときは父親や兄に従い、結婚したら夫に従い、年老いた後は子(息子)に従うのがよい」という考え方が根深く残っていて、「女性は男性のいうことを聞いていればよい」とか、「結婚したら女性は家庭に入り、家で家事と子育てに従事するのがよい」という考え方があたり前だった。しかし、田中さんの家では、そういう「女はこうでなくてはいけない」みたいは押し付けはされずに育ったという。
それが、田中さんの「自分の思いに忠実に生きる」「ありのままの自分でいい」「女性自身の思いを大切にして、他者からもそういう生き方が尊重されるべき」というような主張に結びついたのだろう。そして、多くの女性たちの共感を得た。今ではこういう考え方はあたり前になっているけど、当時はそういうことを言うと「女らしくない」「女らしく」などと釘をさされたりした。
女性解放は大事、私の解放はもっと大事。家では感じなかった生きがたさを社会からは感じ、「この星は、私の星じゃない」と嘆きながら、不器用にこの星に立ち続けてきた美津さん。リブのカリスマと言ったら、いかにも気が強そうなイメージがあるけど美津さんは違う。体も弱くそれが鍼灸師の道を選ばせたのかもしれない。居場所を求めて、メキシコ、鍼灸師、辺野古と、自分の思いに忠実に行動してきた美津さん。そんな美津さんの魅力にせまる。

「便所からの解放」とは、家庭、性産業、学生運動、社会運動など、社会の中で、男性の性欲処理の対象とされていた女性たち。自尊心を取り戻し、それらからの解放を訴えた彼女の「便所からの解放」は、当時、良くも悪くも時代を象徴する言葉だった。当時高校生だった私はメディアなどから悪意を持って伝えられる「便所からの解放」の言葉を見て「何を言っているの、この人たち」と、リブの人たちに反発を感じていた。しかし、その後リブの女たちと知り合い、直接話を聞いて納得したという経験がある。主婦と性産業で働く女性たちは、こういう男社会の意識の中で分断されていて、お互いを敵のように思っていたところもあった。そんな中で「自分の思いに忠実に生きる」ということを教えてくれたのがリブだった。(暁)


2019年/日本/90分/配給:パンドラ
公式サイト
posted by akemi at 20:51| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

T-34 レジェンド・オブ・ウォー(原題:T-34)

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監督・脚本:アレクセイ・シドロフ
撮影:ミハイル・ミラシン
出演:アレクサンドル・ペトロフ(ニコライ・イヴシュキン)、イリーナ・スタルシェンバウム (アーニャ)、ヴィツェンツ・キーファー(イェーガー大佐)、ヴィクトル・ドブロンラヴォフ (ステパン・ヴァシリョノク)、アントン・ボグダノフ(ヴォルチョク)、ユーリー・ボリソフ(イオノフ)

第2次世界大戦下。ソ連の新米士官ニコライ・イヴシュキンは前線で初の戦闘に敗れ、ナチス・ドイツ軍の捕虜となった。収容所ではナチスの戦車戦の演習のため、戦車の整備と演習の相手として駆り出される。ナチス・ドイツ軍はソ連の最強戦車T-34を手に入れており、その中には友軍兵士の遺体が残されたままだった。
イヴシュキンには同じ捕虜の仲間と共に演習の準備期間が与えられる。演習でこちらには弾の装備はなく、攻撃からひたすら逃げ回るしかない。しかしこれが脱出する唯一のチャンスと考えた4人の男たちは無謀な計画を立てる。

いや、怖かった!体感する映画でした。本物の戦車内に取り付けられた小型カメラで撮影、俳優自らが操縦している隣に自分がいるような感覚になります。戦車の重量感、閉鎖的な空間、被弾の衝撃などこんなに体感できる映画をこれまで経験したことがありません。
ロシア映画史上最高のオープニング成績を記録、興行収入40億円、観客動員数800万人、ロシアN0.1のメガヒット作品となったというのに納得します。観た後、必ずほかの人に「凄かった!」と言いたくなり、口コミでも大きく広がったに違いありません。VFXはインド映画『バーフバリ 王の凱旋』を手がけた“Film Direction FX"をはじめロシア最先端の映像技術を結集しています。エンドロールが短くて驚きましたが、VFXが外注でなく自国制作だったから、と詳しい先輩ライターさん。なるほど。(白)


2018年/ロシア/カラー/113分
配給:ツイン
(c)Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018
http://t-34.jp/
★2019年10月25日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 11:14| Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アダムズ・アップル(原題:Adam's Apples)

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監督・脚本:アナス・トマス・イェンセン
撮影:セバスチャン・ブレンコフ
音楽:イエッペ・コース
出演:マッツ・ミケルセン(イヴァン)、ウルリク・トムセン(アダム)、パプリカ・スティーン(サラ)、ニコラス・ブロ(グナー)、アリ・カジム(カリド)

スキンヘッドの男がバスから降り立った。刑務所から仮釈放で出てきたばかりのアダムは、がちがちのネオナチ。田舎の1本道を迎えに来たのは、アダムの更生プログラムを請け負った聖職者のイヴァン。アダムは神など信じていないが、とりあえずプログラムをこなさねばならない。イヴァンから「目標」を聞かれて「庭のリンゴでアップルケーキを作る」と答えておいた。教会にはメタボのグナー、移民のカリドという二人の「先輩」がいた。教会には、妊娠したけれど「子どもに障がいがあるかも」と医師に言われて、産むかどうか悩むサラがやってきた。
アダムがアップルケーキを作ろうとするたびに何かの邪魔が入り、最初の目標をクリアすることができない。

マッツ・ミケルセンを認識したのは『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)。6代目ジェームズ・ボンドとなったダニエル・クレイグに注目が集まっていましたが、敵対するル・シッフル役のマッツ・ミケルセンに何者?と思ったのでした。スザンネ・ビア監督で主演の『アフター・ウェディング』は見逃し、『誰がため』(2008)で魅了されました。2013年の本誌87号では続いて公開された『偽りなき者』『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』を紹介しました。この作品はそのずっと前の2005年の作品。まだ40そこそこのマッツ・ミケルセンが懐の深い、しかしいわくありげな聖職者として主演しています。試写の前に配給の方が「この作品が好きで好きで」とおっしゃっていましたが、んー、なんだか頷けます。
原題の「アダムのリンゴ」は、禁断の果実を口にしてしまったため、楽園から追放されるアダムとイヴを思い出させますし、作品中でページが開かれる聖書の「ヨブ記」はサタンに信義を試されるヨブの話です。ストーリーはそれを下敷きにして、ブラックユーモアと皮肉と愛情が詰めこまれています。観た後ずっと忘れられない作品でした。(白)


2005年/デンマーク、ドイツ/カラー/シネスコ/94分
配給:アダムズ・アップルLLP
https://www.adamsapples-movie.com/
★2019年10月19日(土)ロードショー
posted by shiraishi at 11:00| Comment(0) | 北欧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする