2019年10月31日
ラフィキ:ふたりの夢 英題:RAFIK
監督・脚本:ワヌリ・カヒウ
出演:サマンサ・ムガシア、シェイラ・ムニヴァ、ジミ・ガツ、ニニ・ワシェラ、デニス ムショカ、パトリシア・アミラ
看護師を目指しているケナ(サマンサ・ムガシア)は、ナイロビで母と生活しながら、離婚して国会議員に立候補した父のことを応援していた。ある日、ケナは父の対立候補の娘・ジキ(シェイラ・ムニヴァ)と出会う。やがて二人は惹(ひ)かれ合うが、同性愛が違法であるケニアでは彼女たちの恋は命懸けだった。
2人の少女が暮らすケニアでは同性愛は絶対のタブー・違法行為だ。家族からも「悪魔憑き」と忌み疎まれ、周囲は謂れの無い暴力を振るう。父の仕事(選挙活動)に差し障る、世間体が悪い、と関係を引き裂かれる。偏見、憎悪、様々な悪意に満ちた視線に2人は晒され、女特有の禁忌に向き合わねばならない。
舞台となるナイロビはケニアの大都会だ。これほど過酷な環境の中で、2人の少女は愛を育む。監督の話によると、ケニアの映画では男女のラブシーンさえ見たことはないそうだ。本作は未だにケニアで上映禁止だが、国際映画祭へ出品するために7日間のみ裁判所から上映が許可されたという。監督をはじめ、多くのスタッフが女性である。まさに命懸けの覚悟でこの映画を生み出したのだろう。その決意の強さ、立ち向かう勇気を想像するだに敬服せざるを得ない。
が、本作は決して悲壮感が漂う訳ではない。アフリカの陽光に似合うカラフルな映像は、教会までも明るく彩り、魅力に富む。軽快な音楽、自在に着こなすファッション(スタイルの良さに垂涎!)、ダンス、バイクといったアフリカン・ストリート・カルチャーを纏った初恋青春物語なのだ。活き活きと躍動する少女たちを観ていると、LGBT映画と安易にジャンル分けするのを躊躇ってしまう。(幸)
製作国:ケニア/南アフリカ/フランス/レバノン/ノルウェー/オランダ/ドイツ
配給:サンリス
カラー/2018/82分
©Big World Cinema.
公式サイト:http://senlis.co.jp/rafiki/
★11月9日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開★
永遠の門 ゴッホの見た未来 原題:At Eternity’s Gate
監督・脚本:ジュリアン・シュナーベル 『潜水服は蝶の夢を見る』
脚本:ジャン=クロード・カリエール『存在の耐えられない軽さ』
出演:ウィレム・デフォー 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』、ルパート・フレンド『スターリンの葬送狂騒曲』、
マッツ・ミケルセン 『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』、オスカー・アイザック 『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』
マチュー・アマルリック『潜水服は蝶の夢を見る』、エマニュエル・セニエ 『潜水服は蝶の夢を見る』
人付き合いができないフィンセント・ファン・ゴッホ(ウィレム・デフォー)は、いつも孤独だった。唯一才能を認め合ったゴーギャンとの共同生活も、ゴッホの行動により破たんしてしまう。しかし、ゴッホは絵を描き続け、後に名画といわれる数々の作品を残す。
監督のジュリアン・シュナーベルは、画家でもあり、音楽も担う才人だ。シュナーベルの「作家性」を抜きに本作は存在しない。監督の首をすげ替えても産業として成り立つハリウッド式生産手段・ハリウッド的ドラマツルギーとは一線を画した映画だという点を自覚しつつ鑑賞に臨んだほうがいいかもしれない。
シュナーベルは、ゴッホの目に映った世界を想像し、ビジュアル面を構築している。カメラは枯芝を踏み歩くゴッホの脚を映し出す。ゴッホが見上げる大空を、眼前に広がる麦畑もゴッホの主観映像に成り切り、表出する。時折、レンズにアイリスを掛け、周囲を楕円形に縁取る”もやい”映像は印象的だ。『潜水服は蝶の夢を見る』で、片目の瞼しか自由に動かせなくなった主人公が見た世界を描いたのと同じ手法である。
「私は自分が見たままに描く。永遠が見えるのは私だけなのか」
と呟くゴッホ。自らが見た世界を伝えたい!例え誰にも理解されなくとも…。自然や静物、肖像画を見たままに描く孤高の人ゴッホ。
本作はシュナーベルの目を通して描かれる111分のゴッホの動く肖像画といえる。
シュナーベルとウィレム・デフォー自身が描くゴッホ絵画の模写も、絵の具の盛り上がり、色彩に至るまで、驚くほどのクオリティを示す。
人間ドラマとしての演出も奥行きに富む。オスカー・アイザック扮するゴーギャンとの交流・芸術論、人生を共有する弟テオ(ルパート・フレンドが温かい)、”黄色い家”を提供する宿屋の女将(ポランスキー夫人のエマニュエル・セニエ)、後世に残ることになった肖像画のモデル・医師ガシェ、ゴッホと対話する聖職者マッツ・ミケルセン。英米仏欧の名優たちが演じると、ゴッホが実在を帯びた人間に感じられてくる。この秋、必見の1作だろう。(幸)
配給:ギャガ、松竹
2018/イギリス・フランス・アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/111分
© Walk Home Productions LLC 2018
公式サイト:https://gaga.ne.jp/gogh/
★11月8日(金)新宿ピカデリー他 全国順次ロードショー★
ひとよ
監督:白石和彌 脚本:髙橋泉 原作:桑原裕子「ひとよ」
出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟(千鳥)、佐々木蔵之介、田中裕子
ある雨の夜、稲村家の母・こはる(田中裕子)は3人の子供たちを守るため夫を殺害し、子供たちとの15年後の再会を誓って家を後にした。事件以来、残された次男・雄二(佐藤健)、長男・大樹(鈴木亮平)、長女・園子(松岡茉優)は、心に傷を抱えたまま成長する。やがてこはるが帰ってくる。
白石監督は亡き今村昌平ばりに、”ティピカルな旧日本家屋”を映画に登場させることの出来る名手だ。脚本の世界観を普く表現するためロケハンの手間暇を惜しまない。実際に人々が暮らした気配、床や柱に至るまで生活感が沁み込んだ家屋でなければ、人間の心奥に潜む闇、襞などは描出できっこないことをよく知っている。平板なライティングの下に加工されたセット上では、作りものの感情しか生まれ得ないのだ。
それは日本人が高度経済成長期に捨て去ってきた旧い日常、昭和的価値観、生活のリアルな記憶そのものだ。日本家屋で繰り広げられるドラマは、芝居だと分かっていても観客は感情移入を余儀なくされる。
最近は地方が舞台であっても、美人女優だけは方言を使わせない、といった信じられない演出方針の映画を見かける。事務所NG・スポンサーNGなのか…。が、白石監督組ではそんな忖度は許されない。今年、公開の『凪待ち』でも地方に馴染んだお国言葉を演者陣に分け隔てなく喋らせていた。
本作も、俳優たちは悪噂が瞬時にして拡散する地方の町の閉塞感の中で生きて行かなければならない息苦しさを全員が見事に体現している。「一夜(ひとよ)」の出来事に一生を左右される家族と関係者たち。抗いがたい運命、そんなものに支配されてたまるか!と抵抗する子どもがいれば、仕事に利用する者、止むなく受け入れるか、諦観を決め込む家族…。複合的な視点から、映画は「一夜(ひとよ)」を巡る過去と現在を行き来しつつ、”人生、捨てたもんじゃない”という方向性を示す。
出色なのは松岡茉優、田中裕子、韓英恵、MEGUMIらの自然体で肝の座った女優陣と、脇のキーパーソンである佐々木蔵之介、出番は少ないが迫力を見せる千鳥の大悟だろう。口触りの良い映画が少なくない中、骨太な邦画魂を白石監督には今後も期待したい。(幸)
2011年に劇作家・桑原裕子が率いる劇団KAKUTAが初演した舞台「ひとよ」を映画化。舞台版は母が主人公だが、映画では次男を主人公に。演じる佐藤健は無精ひげを生やし、これまでのイメージから脱皮した役どころにチャレンジした。
子供たちを守るため、暴力を振るう父を母が殺した。それから15年。母の選択は子供たちにとって本当によかったと言えるのか。思い通りの人生にできなかったのは、殺人者の子供として嫌がらせを受けたからだと子どもたちは言う。
人はいつも迷い、揺れる。親が自分のしたことに自信を持たなくては、子供まで価値観が揺らいでしまうと母。田中裕子が語ると圧倒される。縺れた家族の絆は解けるのか。(堀)
製作幹事・配給:日活
企画・制作プロダクション:ROBOT
©2019「ひとよ」製作委員会
公式サイト:https://www.hitoyo-movie.jp/
★11月8日(金)全国ロードショー★
2019年10月27日
少女は夜明けに夢をみる 原題:Royahaye Dame Sobh 英題:Starless Dreams
監督:メヘルダード・オスコウイ
雪だるまを作って、無邪気に雪合戦に興じる少女たち。
ここは、高い塀に囲まれた更正施設。強盗、殺人、薬物、売春などの罪で捕らえられた少女たちが収容されている。貧困や、親族からの虐待で罪を犯してしまった少女たち。彼女たちは、心に傷を抱えながらも、塀の中で過ごしている間は安心したようにも見える。
かつて、少年の更生施設の少年たちに取材し、2本のドキュメンタリーを描いたメヘルダード・オスコウイ監督。少年施設の奥に少女たちの施設があることを知り、彼女たちのことを知りたいと施設を統括する国家刑務所機構に取材を申請する。7年かかって、ようやく撮影許可を得る。3ヶ月という限られた期間の中で、20日間で少女たちに取材。
監督に同年代の娘がいることを知り、「あなたの娘は愛情を注がれ、わたしはゴミの中で生きている」と語る少女。そんな彼女たちが心を開いたのは、監督自身、15歳の時に父親が破産し、自殺をはかった経験があると語ったことから。
少女たちが、監督に心を開いて語った人生は、それぞれが壮絶だ。
釈放が決まった少女がいう。
「おめでとうじゃなくて、お悔やみをよ。外は地獄なの」
少女の目から、ふっとこぼれる涙。背負った運命はあまりに重い。
「お父さんに仕事があればいいのに」という少女の言葉に、未成年の青少年にとって家庭環境が人生を左右することをつくづく思いました。イランだけでなく、どこの国でも同じこと。
一方、本作を観ていてイランらしいなと思ったのが、更生施設の大きな部屋の周囲の壁際に2段ベッドが並んでいて、真ん中が広く空いていて、そこで集うことができるようになっていること。
イランの家庭にお邪魔すると、大きな部屋に絨毯が敷き詰められていて、椅子や小さなテーブルが周りを取り囲むように置かれています。テーブルセットがある場合も、邪魔にならないように端っこにあります。
映画では、少女たちが食卓を囲んで新年を迎える瞬間が映されています。イラン暦の新年は、春分の日に迎えます。太陽が春分点を通過する時間を天文学的に正確に計算して、新年を迎える時として事前に発表されます。年によって、真昼になったり、夕方になったりと時間は様々。本作の原題は『夜明けの夢』。もしかしたら、監督が撮影したのは、イラン暦1394年のお正月(西暦2015年3月21日)かなと思いました。この年は、午前2時15分11秒に新年を迎えたからです。
インタビューの折に、監督から逆に質問攻めにあい、時間切れになってしまったのですが、このことだけは確認したくて伺ってみました。
撮影したのは、その前年、イラン暦1393年(西暦2014年)で、新年を迎えたのは、午後8時27分7秒。監督は、私の質問の意図を察知して、「タイトルを『夜明けの夢』としたのは、刑務所で死刑執行の時間が朝の5時で、彼女たちは死刑宣告を受けているわけじゃないけれど、朝の5時というのは怖い時間。5時を過ぎれば、安心して夢がみれるのです」と教えてくださいました。
(注:11月6日にもう一度映画を観てみたら、クルアーンや金魚を飾っているテーブルが出てきて、ラジオから「1393年になりました。おめでとうございます」というアナウンスが聴こえてました。失礼しました。映画でちゃんと言ってるじゃないかと冷たいことを言わない、優しい監督でした!)
イラン社会は、ことのほか家族や親族の絆が強くて、よく集まります。そんな社会で、この更正施設にいる少女たちは、家族に会いたくないと口をそろえます。どれほどつらい思いをしたのでしょう。
この施設の中にいる間は、お互い心に傷を持った者どうし、まるで家族のよう。施設で働く人たちも彼女たちを家族のように見守っているのが印象的でした。施設を出たあと、彼女たちが平穏な人生をおくれることを願うばかりです。(咲)
メヘルダード・オスコウイ監督
「権力者は見せたくないものを絨毯の下に隠すので、私たち映像作家は、はたき出して世の中に見せるのです」
インタビュー詳細は、こちらでどうぞ!
2016年/イラン/ペルシア語/76分/カラー/DCP/16:9/Dolby 5.1ch/ドキュメンタリー
配給: ノンデライコ
(C)Oskouei Film Production
公式サイト:http://www.syoujyo-yoake.com/
★2019年11月2日(土)より、東京・岩波ホールほか全国順次公開
夕陽のあと
監督:越川道夫
脚本:嶋田うれ葉
音楽:宇波拓
企画・原案:舩橋敦
撮影監督:戸田義久
出演:貫地谷しほり(佐藤茜)、山田真帆(日野五月)、永井大(日野優一)、木内みどり(日野ミエ)、松原豊和(豊和)
鹿児島県最北端の長島町。佐藤茜は都会からやってきて食堂で働き、1年になる。明るく溌剌とした働きぶりで人気だが、自分のことを語ることはなく謎に包まれている。
島で生まれ育った日野五月(さつき)は、島に戻って家業を継いだ夫の優一、義母のミエ、里子の豊和(とわ)と平穏に暮らしている。五月は長い間不妊治療を続けてきたが断念し、7年前赤ちゃんだった豊和の里親となった。豊和には知らせず、7歳になった今まで我が子同様に暮らしてきた。ようやく生活が安定してきたので、特別養子縁組の申し立てを行うところだった。手続きは順調に進むと思えたが、豊和は東京のネットカフェに置き去りにされた乳児であり、その母親が佐藤茜であることがわかる。
養子縁組・特別養子縁組をするにはいくつもの条件があります。この映画の中でも児童相談所の職員たちのことばで説明されます。五月夫婦は特別養子縁組を望んでおり、子どもの年齢制限もありますが、早くから里子として養育されていた豊和はOKです。親権は実の親になかった(不適当と判断された)ことからスムーズにいくと思われていました。しかし、実の親が子どもを返してほしいと望んでいて…両方の母親の思いが交互に描かれていて、観ているほうもたまらない気持ちになります。子どもの豊和の幸せがどこにあるのか?もし、豊和に直接聞けたならなんと答えるでしょう?
子どもを取り巻く環境は厳しくて、これまで大人は何をやってきたんだ、と責められても言い訳する言葉がありません。孤立している誰かがいたら手を差し伸べられるだろうか?生きていく力と知恵を自分は持っているだろうか?わが身を振り返りました。(白)
不妊治療を諦め里子を預かった母。貧困から置き去りにした生母。愛する子どもと一緒に暮らしたい気持ちは同じだから対立する。
夕陽の実景に重なる母の悲しみ。自分で産んでいないことに負い目があるのか、里親の母は母親とはどうあるべきかを悩む。産むことよりもここまで慈しんで育ててきたことが全てだと認めてあげたい。
貧困が極まると助けを求めることさえできなくなるらしい。捨てるしか選べなかった生母のその後の人生を知ると生母を救う手立てはなかったのかと悔やまれる。親だってやり直せるはずだ。どちらの親に対しても切なさがこみ上げてきた。
子はやがて親から巣立つ。それまでの預かりものという姑の言葉が沁みた。(堀)
2019年/日本/カラー/シネスコ/133分
配給:コピアポア・フィルム
(C)2019 長島大陸映画実行委員会
http://yuhinoato.com/
★2019年11月8日(金)よりより新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!以降全国順次公開
☆越川監督インタビューはこちら。
閉鎖病棟 それぞれの朝
監督・脚本:平山秀幸
原作:帚木蓬生「閉鎖病棟」(新潮文庫刊)
撮影:柴崎幸三
主題歌:K「光るソラ蒼く」
出演:笑福亭鶴瓶(梶木秀丸)、綾野剛(塚本中弥=チュウさん)、小松菜奈(島崎由紀)、坂東龍汰(丸井昭八)、高橋和也(大谷)、木野花(石田サナエ)、渋川清彦(重宗)、小林聡美(井波)
長野県のある精神病院。ここには、ここ以外に居場所のないさまざまな人たちがいる。梶木秀丸は元死刑囚だった。刑が執行された後息を吹き返したが、彼はすでに死んだ人間であり、帰る場所はなかった。チュウさんはひどい幻聴に悩まされてサラリーマンをやめ、普通の生活ができずに強制入院させられた。話すことが不自由な昭八に慕われている。義父からDVを受けて入院することになった女子高生の由紀は、秀丸と陶器作りをする。3人はこの病院で出会い、互いにないものを補いあうように穏やかな日々を送っていたが、ある日事件が起きる。
それぞれに辛い事情を抱えた患者たちを、鶴瓶さんをはじめとする俳優たちが渾身で体現しています。あの人もこの人も患者さんとしてそこにいて、閉じこもったり疲れたりしていました。役をひきずって辛くならないようにと、平山監督が気遣ったそうです。そんな中に小林聡美さん演じるぴっと姿勢の良い井波看護師がいると、ホッとします。経験に裏打ちされた確かな芯と、『かもめ食堂』でのサチエさんの優しさを合わせもっていました。『渇き。』(2014)でミステリアスな女子高生役だった小松菜奈さん、今回も女子高生ですが違和感なし。閉鎖病棟は外から鍵がかかって、中からは開けられません。外では風も人も冷たくて、居心地が良いとはいえないけれど自由だけはある、かな。
原作の帚木蓬生「閉鎖病棟」は山本周五郎賞を受賞し、ベストセラーとなっています。たくさんの入院患者のエピソードが詳しく書かれていますので、映画を観て気になった方はぜひ本もどうぞ。(白)
小さな諍いはあるものの互いに受け入れ、調和の中で暮らす。そこに大きな憎悪が生じて事件が起きた。舞台は精神科病院で、それぞれが抱える状況は違うが、私たちも根本的には同じかもしれない。患者の家族の気持ちに相槌を打ちながら話す看護師の言葉の意味にハッとした。怯えるように繊細な綾野剛は初めて。いつもと違った魅力を放つ。渋川清彦は彼らしい役だが、凶暴さに孤独感を滲ませる。ラストに希望を感じた。(堀)
2019年/日本/カラー/シネスコ/117分
配給:東映
http://www.heisabyoto.com/
★2019年11月1日(金)ロードショー
どすこい!すけひら
監督:宮脇亮
原作:清智英 たむら純子
脚本:鹿目けい子
音楽:福廣秀一朗
主題歌:超特急「Don't Stop 恋」
出演:知英(助平綾音)、草川拓弥(湊拓巳)、金子大地(馬渕隼人)、松井愛莉(藤代あい)、池端レイナ(倉田沙織)、富田望生(椎名千裕)、富山えり子(小森春奈)、水島麻理奈(細井亜紀)、パンツェッタ・ジローラモ(医師)、りゅうちぇる(フレッド)、竹中直人(横濱健二)
かなりのぽっちゃり女子高生の綾音は、勇気を振り絞って憧れの先輩・隼人に告白したのに「どすこい」と言われてしまった。傷心の綾音は大好きなチョコレートのあるイタリアに移住。オネェのフレッドとルームシェアして楽しく暮らしていたが、事故に遭って昏睡状態に陥ってしまう。長い間眠り続け、目が覚めたときには体重が半分以下のスレンダー美女に変わっていた!
綾音は日本に帰国してエステサロンに就職し、マッサージの腕を褒められる。VIP客のスーパーアイドル湊拓巳に気に入られ、常連のおじさまに言い寄られ、隼人まで近づいてくるが、どすこい女子だった過去のコンプレックスから抜けられない。拓巳に淡い恋心を抱く綾音だったが、やはりアイドルの藤代あいが恋人らしい。またも玉砕なのか??
これまでも様々な役柄を演じてきた知英(ジヨン)さん、今回はファットスーツと特殊メイクで体重100キロに変身。メイクに3時間もかかるのでうとうとしてしまい、鏡に映った自分を見て誰?!と驚いたそうです。
綾音は相撲の新弟子より立派な体格ですが、いたって気が小さく趣味はゲームで特技は牛の乳しぼり(これがエスティシャンの役に立ったw)。いきなりモテても中身は以前のまま、ひかえめで可愛い女の子です。りゅうちぇるがそんな綾音の世話を焼くフレッド役。
人気ダンスボーカルグループ「超特急」の4号車タクヤこと草川拓弥さんが、地でいくようなアイドル役です。人気が命なアイドルですが、こんなに窮屈な日々なんでしょうか。主題歌も超特急が歌う「Don't Stop 恋」です。このタイトルを早口で繰り返してみてください。(白)
2019年/日本/カラー/シネスコ/91分
配給:アークエンタテインメント
(C)1994 Hahakigi Hosei / Shinchosha (C)1994 帚木蓬生/新潮社
http://www.dosukoi-movie.com/
★2019年11月1日(金)ロードショー
ワイン・コーリング(原題:WINE CALLING)
監督:ブリュノ・ソヴァール
出演:ジャン・フランソワ・ニック、ローランス・マニャ・クリエフ、オリビエ・クロ
近年、日本でも若者を中心に人気が高まっている自然派ワイン。有機栽培で育てたブドウで、添加物を使わずに作られるこのワインの生産者は、フランスでは全体3 %ほど。農薬や科学肥料を使わないということは、畑の管理に膨大な時間と手間がかかるということ。そして添加物を使用しないということは、発酵のトラブルがおきる危険性が高まるということ。そんなリスクを冒しても、生産に取り組む人がいる自然派ワインの魅力を、自然体で人生を楽しむ南フランスのワイン生産者たちの愛すべきライフスタイルとともに追いかけたドキュメンタリー。
自然派ワインという言葉を本作で初めて聞いた。明確な定義はないようだが、有機栽培で育てたブドウを野生酵母で発酵させ、添加物を極力使わずに作ったワインだという。登場する8人の生産者は情報を交換し、必要であれば助け合う。化学的な農薬・肥料・除草剤を使わないので手間暇がかかるが、そんな苦労をものともせず、ワインを造ることで人生を楽しんで生きているのが伝わってきた。
アルコールが苦手で、ワインを飲むことはほとんどなかったが、このワインなら飲んでみたいと思う。(堀)
私はワイン飲みというわけではないけど、ワイナリーの雰囲気が好きで、この3年くらいの間に6ヶ所くらい日本のワイナリーに行っている。ワイナリーが目的というわけではなく、長野、山梨、北海道と旅行に行ったところにあるワイナリーに行っている。私は赤ワインの渋さが苦手で、白ワインしか飲まないけど、だからといって、これはおいしいというワインにはなかなか出会えない。だから通っているのかも。どこも、けっこう昔から気になっていて行ってみたかったところである。
でも、「自然派ワイン」という言葉は、この作品を観るまで知らなかった。この作品で初めて知った。これまで私が行ったところも、そういう自然派ワインがあるのだろうか。この作品を観て、それが気になった。ワイン屋に行った時、「日本の自然派ワイン」を扱った本があるのか聞いてみたけどそういうのはないという。ワインの本の中で、時々「自然派ワイン」の特集があるだけとのことだった。どうりで、「自然派ワイン」という言葉を初めて聞いたわけだと思った。それにしてもワインも薬漬けなのだろうか。これまで言われなくてもワインは「自然派」だと思っていたけど、そうでもないらしい。少し心配になった。
この作品の中では「自然派ワイン」を造る作る仲間たちが助け合って、なるべく農薬やワイン造りの段階で添加物を使わずに造るワインを目指すということが描かれていたけど、とてもうらやましかった。そういう仲間たちが、良いワインを造るため情報交換をしたり、収穫やワイン造りの時に助け合ったり、イベントをやったり、ギターを抱えて歌ったりというシーンが出てきて、こんな生活したいなと思いながら観ていた(暁)。
『ワイン・コーリング』は、『ジョージア、ワインが生まれたところ』(アメリカ、監督・撮影・編集:エミリー・レイルズバック)と共に、自然派ワインにまつわるドキュメンタリー映画として同時公開されます。
2018年/フランス/90分/フランス語/DCP/5.1ch/1:1.85
配給:クロックワークス
© PINTXOS2018
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/winefes/
★2019年11月1日(金)シネスイッチ銀座、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺にてイベント上映
ジョージア、ワインが生まれたところ 原題:Our Blood Is Wine
監督・撮影・編集:エミリー・レイルズバック
出演:ジェレミー・クイン、他
Our blood is wine(私たちの血はワイン)
カスピ海と黒海に挟まれた南コーカサスに位置するジョージアでは、紀元前6000年からワインが醸造されてきた。
シカゴのレストランで全米屈指のソムリエとして名を馳せてきたジェレミー・クインは、シカゴでの仕事を辞め、ワインの起源を知るためにジョージアにやってきた。
ジョージアでは、クヴェヴリと呼ばれる素焼きの甕を土の中に埋め、野生酵母により発酵・熟成するワイン醸造が伝統的に続けられてきた。それがソ連時代に大量生産政策でつぶされてしまう。葡萄畑を没収された中で、細々と家庭用にクヴェヴリ製法でワインは作り続けられた。ソ連から独立後、2006~2013年のロシアによるワイン出荷禁止を経て、ジョージアワインの人気が急激に高まる。2013年にクヴェヴリ製法がユネスコの無形文化遺産に登録されるが、伝統的製法で作られたワインのボトルでの出荷は、ジョージアワイン全体の1%に過ぎない。ジェレミーは、ジョージア各地を巡り、伝統的製法を守ってきた人たちの物語を紡いでいく。
オタール・イオセリアーニ監督の映画『落ち葉』(1966年)で、1960年代に伝統的ワインが破壊されていく様子が描かれているのが映し出されます。当時、イオセリアーニ監督は、反ソヴィエト監督として叩かれたといいます。そんな時代にも、伝統的製法を守ってきた人たちが各地にいたことを、ジェレミーは知ります。精魂こめて作ったワインを、スプラ(宴会)を開いて、美しいポリフォニー(多声合唱)を奏でながら愛でるジョージアの人たち。重厚なワインの地は、歌に重みがあり、軽い味わいのワインの地は歌も明るい。小さい国ながら、地域によって個性があることも明かされます。いつかジョージアを旅して、スプラでジョージアの人たちの歌声を聴きながらワインを味わいたくなりました。(咲)
8000年の歴史を持つジョージアのワイン。しかし、ソ連の占領時代に受けた痛手が大きく、現在はかなり稀少なものとなっている。その中で奮闘する生産者たちの苦労と喜びが伝わってきた。作品の後半、「お父さんの跡を継ぎたいか?」と母親に聞かれた子どもが今さら何をといった感じで「そういったでしょ」と答える。今の日本で同じことを答える子どもが何人いるだろうか。
ジョージア人にとって、ブドウとワインはアイデンティティーそのものなのだと感じた。(堀)
エミリー・レイルズバック監督インタビュー
映画の案内役ジェレミー・クインと、映画完成後に結婚し、公私共にパートナーとなったことも明かしてくださいました。
スタッフ日記『ジョージア、ワインが生まれたところ』監督インタビュー & はらだたけひで個展 (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/470858893.html
「映画で旅する自然派ワイン」
『ジョージア、ワインが生まれたところ』は、『ワイン・コーリング』(フランス、ブリュノ・ソヴァール監督)と共に、自然派ワインにまつわるドキュメンタリー映画として同時公開されます。
2018年/アメリカ/78分/英語、ジョージア語/DCP/1:2.35
字幕翻訳:額賀深雪/翻訳協力:ニノ・ゴツァゼ/字幕監修:前田弘毅
配給・宣伝:アップリンク © Emily Railsback c/o Music
公式サイト: https://www.uplink.co.jp/winefes/
★2019年11月1日(金)、シネスイッチ銀座、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
2019年10月24日
人生、ただいま修行中 英題:Each and Every Moment
監督・撮影・編集:ニコラ・フィリベール
フランス・パリ郊外の看護学校。年齢、性別、出身の異なる40人の学生にとって、採血や抜糸、ギプスを外すことなど全てが初めての体験だった。学生たちは、心臓病の病棟や末期ガン患者の緩和ケアを行うホスピスなどで実習を行い、悩みを抱えながらも一人前の看護師になるために日々奮闘する。
先ごろ11年ぶりに来日したドキュメンタリー映画の名手ニコラ・フィリベール監督。『ぼくの好きな先生』『パリ・ルーヴル美術館の秘密』など日本公開作は殆ど観ている筈だが、その都度、新鮮な驚きと感動に包まれる。
「本当にカメラがあるの?どうしてそんな自然に話せるの?!」
と驚嘆するほどの奇跡的な瞬間に出逢える喜び。今までの作品通り本作も、説明なし、ナレーションなし、音楽なし…、「ないない尽くし」の映画だ。観客は今、目の前で起こっている出来事のように、フィリベールが写し撮った世界を体感する。
本作が製作されたのは、フィリベールが救急救命室で命を救われたことがきっかけ。いくら世界的に名高い名匠だからとはいえ、カメラが医療現場に入り込むのは困難を極めただろう。許認可などの手続き的な労苦を全く感じさせないほど、フィリベールの眼差しは暖かい。
パリ郊外モントゥイユの看護学校で学び、実習する看護師の卵たち。手の洗い方、採血や血圧計の取扱いなど、基本のイロハをリラックスしながら吸収する学生、優しく指導する教師たちの様子に冒頭から頰が緩んでしまう。座学を経て実際の病院での実習場面にまたも驚く!仏の人々は何とユーモア精神に溢れているのだろう。心に余裕がある証拠だ。
カメラは実習生に身体を委ねる患者たちの戸惑う表情も漏れなく写し撮る。
終盤、1人1人の学生が実習や学び、将来像に向けて指導者へ語る場面は、その率直で誠実な語り口に涙腺が緩み、心から応援したくなる。医療関係者は割引で鑑賞できるとのこと。全ての人に観てほしい秀作だ。(幸)
配給:ロングライド 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
2018年/フランス/フランス語/105分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/
©️Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018
公式サイト:https://longride.jp/tadaima/
★11月1日(金)新宿武蔵野館他、全国順次公開★
IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 原題 :IT: CHAPTER TWO
監督:アンディ・ムスキエティ
脚本・製作総指揮:ゲイリー・ドーベルマン
原作:スティーヴン・キング
出演:ジェームズ・マカヴォイ、ジェシカ・チャステイン、ビル・ヘイダー、イザイア・ムスタファ、ジェイ・ライアン、ジェームズ・ランソン、アンディ・ビーン、ビル・スカルスガルド、ジェイデン・マーテル、ソフィア・リリス(若きベバリー)
デリーという田舎町に出没し子供たちの命を奪っていた正体不明のペニーワイズ(ビル・スカルスガルド)を、ビルやベバリーらルーザーズ・クラブのメンバーたちが撃退してから27年後。再びデリーで不可解な連続児童失踪事件が起き、クラブのメンバーにデリーへ帰ってくるように促すメッセージが届く。そしてビル(ジェームズ・マカヴォイ)たちは、デリーに集結し久々に顔を合わせる。
ホラーが苦手な女子の涙を誘い、個人的に”リリカル・ホラー”と名付けたほど詩情豊かなイメージ展開を見せた前作。続編は「ルーザーズ・クラブ」の27年後が舞台となり、メンバーは再び「それ」と対峙せざるを得なくなる。
冒頭から、あのイケメン監督兼俳優や、アノ往年の名匠がカメオ出演し、適した名演を披露するので見逃せない。
ハリウッド版『進撃の巨人』も楽しみなアンディ・ムスキエティ監督が続投し、大人版キャスト陣も名優、個性派を集め、娯楽作の要素は十分。予算、規模、設定、ビジュアル面、怖さ(!)などのあらゆる点がスケールアップしている。演技巧者ばかりだった子役たちにも再会でき、回顧シーンと現在が複雑に交錯する。それぞれにトラウマを抱えた大人たちが見る悪夢の表現は、実力派俳優陣ならではの見せ場連続だ。
ペニーワイズ役だけはビル・スカルスガルドが続投し、こちらは新たな創造性で迫ってくるため、効果音なしでも怖い怖い!人によって見どころが異なる余地を示すホラー映画の金字塔だろう。(幸)
製作国:アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース映画
カラー/シネマスコープ/2D / IMAX 2D/ドルビーシネマ 2D / 5.1chリニアPCM+ドルビーサラウンド7.1/169分
(C) 2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/itthemovie/
★11月1日(金)から全国公開★
2019年10月20日
この星は、私の星じゃない
劇場公開 2019年 10月26日(土)渋谷ユーロスペース他 公開情報
監督・撮影・編集・朗読:吉峯美和
プロデューサー:中野理惠、吉峯美和
撮影:南幸男、小口久代
テーマ曲「新 パワフル ウィメンズ ブルース」(作詞:田中美津、曲・演奏:RIQUO)
出演:田中美津、米津知子、小泉らもん、古堅苗、上野千鶴子、伊藤比呂美、三澤典丈、安藤恭子、徳永理華、垣花譲二、ぐるーぷ「この子、は沖縄だ」の皆さん
日本のウーマン・リブ運動を牽引した田中美津さんを4年間に渡り追ったドキュメンタリー
1970年代初頭「女性解放」を唱えて始まった日本のウーマン・リブ運動を牽引した田中美津さんの歩んできた道、鍼灸師として働く姿、そして沖縄辺野古に通う彼女の今を4年に渡り追ったドキュメンタリー作品。
吉峯美和監督が初めて田中美津さんに会ったのは4年前。「日本人は何をめざしてきたのか 女たちは平等をめざす」という、2015年NHKで放送された、戦後70年の女性史のドキュメンタリー制作にフリーの映像ディレクターとして参加したのがきっかけだった。吉峯監督は、この番組制作で知り合った田中さんに惚れ込んだことが、本作の製作動機になっている。「戦後、活躍したいろいろな女性の方にお目にかかったのですが、田中美津さんはその中でも特別で、強く心に残りました」と田中美津さんに魅力を感じ、映画化を考えたそう。
1970年、田中さんがビラに書いた「便所からの解放」が多くの女性の共感を呼び、日本におけるウーマンリブ運動を牽引する形になり、ウーマンリブ運動のカリスマ的存在になった。昨今、話題になっている“Me Too運動”の先駆けともいえる。女性が「母性=母」か「性欲処理=便所」の二つのイメージに分断されているととなえ、その解放の呼びかけに「便所からの解放」という言葉が使われた。
日本でウーマンリブ運動が始まった1970年代当時は儒教などの影響で「女性は子供のときは父親や兄に従い、結婚したら夫に従い、年老いた後は子(息子)に従うのがよい」という考え方が根深く残っていて、「女性は男性のいうことを聞いていればよい」とか、「結婚したら女性は家庭に入り、家で家事と子育てに従事するのがよい」という考え方があたり前だった。しかし、田中さんの家では、そういう「女はこうでなくてはいけない」みたいは押し付けはされずに育ったという。
それが、田中さんの「自分の思いに忠実に生きる」「ありのままの自分でいい」「女性自身の思いを大切にして、他者からもそういう生き方が尊重されるべき」というような主張に結びついたのだろう。そして、多くの女性たちの共感を得た。今ではこういう考え方はあたり前になっているけど、当時はそういうことを言うと「女らしくない」「女らしく」などと釘をさされたりした。
女性解放は大事、私の解放はもっと大事。家では感じなかった生きがたさを社会からは感じ、「この星は、私の星じゃない」と嘆きながら、不器用にこの星に立ち続けてきた美津さん。リブのカリスマと言ったら、いかにも気が強そうなイメージがあるけど美津さんは違う。体も弱くそれが鍼灸師の道を選ばせたのかもしれない。居場所を求めて、メキシコ、鍼灸師、辺野古と、自分の思いに忠実に行動してきた美津さん。そんな美津さんの魅力にせまる。
「便所からの解放」とは、家庭、性産業、学生運動、社会運動など、社会の中で、男性の性欲処理の対象とされていた女性たち。自尊心を取り戻し、それらからの解放を訴えた彼女の「便所からの解放」は、当時、良くも悪くも時代を象徴する言葉だった。当時高校生だった私はメディアなどから悪意を持って伝えられる「便所からの解放」の言葉を見て「何を言っているの、この人たち」と、リブの人たちに反発を感じていた。しかし、その後リブの女たちと知り合い、直接話を聞いて納得したという経験がある。主婦と性産業で働く女性たちは、こういう男社会の意識の中で分断されていて、お互いを敵のように思っていたところもあった。そんな中で「自分の思いに忠実に生きる」ということを教えてくれたのがリブだった。(暁)
2019年/日本/90分/配給:パンドラ
公式サイト
監督・撮影・編集・朗読:吉峯美和
プロデューサー:中野理惠、吉峯美和
撮影:南幸男、小口久代
テーマ曲「新 パワフル ウィメンズ ブルース」(作詞:田中美津、曲・演奏:RIQUO)
出演:田中美津、米津知子、小泉らもん、古堅苗、上野千鶴子、伊藤比呂美、三澤典丈、安藤恭子、徳永理華、垣花譲二、ぐるーぷ「この子、は沖縄だ」の皆さん
日本のウーマン・リブ運動を牽引した田中美津さんを4年間に渡り追ったドキュメンタリー
1970年代初頭「女性解放」を唱えて始まった日本のウーマン・リブ運動を牽引した田中美津さんの歩んできた道、鍼灸師として働く姿、そして沖縄辺野古に通う彼女の今を4年に渡り追ったドキュメンタリー作品。
吉峯美和監督が初めて田中美津さんに会ったのは4年前。「日本人は何をめざしてきたのか 女たちは平等をめざす」という、2015年NHKで放送された、戦後70年の女性史のドキュメンタリー制作にフリーの映像ディレクターとして参加したのがきっかけだった。吉峯監督は、この番組制作で知り合った田中さんに惚れ込んだことが、本作の製作動機になっている。「戦後、活躍したいろいろな女性の方にお目にかかったのですが、田中美津さんはその中でも特別で、強く心に残りました」と田中美津さんに魅力を感じ、映画化を考えたそう。
1970年、田中さんがビラに書いた「便所からの解放」が多くの女性の共感を呼び、日本におけるウーマンリブ運動を牽引する形になり、ウーマンリブ運動のカリスマ的存在になった。昨今、話題になっている“Me Too運動”の先駆けともいえる。女性が「母性=母」か「性欲処理=便所」の二つのイメージに分断されているととなえ、その解放の呼びかけに「便所からの解放」という言葉が使われた。
日本でウーマンリブ運動が始まった1970年代当時は儒教などの影響で「女性は子供のときは父親や兄に従い、結婚したら夫に従い、年老いた後は子(息子)に従うのがよい」という考え方が根深く残っていて、「女性は男性のいうことを聞いていればよい」とか、「結婚したら女性は家庭に入り、家で家事と子育てに従事するのがよい」という考え方があたり前だった。しかし、田中さんの家では、そういう「女はこうでなくてはいけない」みたいは押し付けはされずに育ったという。
それが、田中さんの「自分の思いに忠実に生きる」「ありのままの自分でいい」「女性自身の思いを大切にして、他者からもそういう生き方が尊重されるべき」というような主張に結びついたのだろう。そして、多くの女性たちの共感を得た。今ではこういう考え方はあたり前になっているけど、当時はそういうことを言うと「女らしくない」「女らしく」などと釘をさされたりした。
女性解放は大事、私の解放はもっと大事。家では感じなかった生きがたさを社会からは感じ、「この星は、私の星じゃない」と嘆きながら、不器用にこの星に立ち続けてきた美津さん。リブのカリスマと言ったら、いかにも気が強そうなイメージがあるけど美津さんは違う。体も弱くそれが鍼灸師の道を選ばせたのかもしれない。居場所を求めて、メキシコ、鍼灸師、辺野古と、自分の思いに忠実に行動してきた美津さん。そんな美津さんの魅力にせまる。
「便所からの解放」とは、家庭、性産業、学生運動、社会運動など、社会の中で、男性の性欲処理の対象とされていた女性たち。自尊心を取り戻し、それらからの解放を訴えた彼女の「便所からの解放」は、当時、良くも悪くも時代を象徴する言葉だった。当時高校生だった私はメディアなどから悪意を持って伝えられる「便所からの解放」の言葉を見て「何を言っているの、この人たち」と、リブの人たちに反発を感じていた。しかし、その後リブの女たちと知り合い、直接話を聞いて納得したという経験がある。主婦と性産業で働く女性たちは、こういう男社会の意識の中で分断されていて、お互いを敵のように思っていたところもあった。そんな中で「自分の思いに忠実に生きる」ということを教えてくれたのがリブだった。(暁)
2019年/日本/90分/配給:パンドラ
公式サイト
T-34 レジェンド・オブ・ウォー(原題:T-34)
監督・脚本:アレクセイ・シドロフ
撮影:ミハイル・ミラシン
出演:アレクサンドル・ペトロフ(ニコライ・イヴシュキン)、イリーナ・スタルシェンバウム (アーニャ)、ヴィツェンツ・キーファー(イェーガー大佐)、ヴィクトル・ドブロンラヴォフ (ステパン・ヴァシリョノク)、アントン・ボグダノフ(ヴォルチョク)、ユーリー・ボリソフ(イオノフ)
第2次世界大戦下。ソ連の新米士官ニコライ・イヴシュキンは前線で初の戦闘に敗れ、ナチス・ドイツ軍の捕虜となった。収容所ではナチスの戦車戦の演習のため、戦車の整備と演習の相手として駆り出される。ナチス・ドイツ軍はソ連の最強戦車T-34を手に入れており、その中には友軍兵士の遺体が残されたままだった。
イヴシュキンには同じ捕虜の仲間と共に演習の準備期間が与えられる。演習でこちらには弾の装備はなく、攻撃からひたすら逃げ回るしかない。しかしこれが脱出する唯一のチャンスと考えた4人の男たちは無謀な計画を立てる。
いや、怖かった!体感する映画でした。本物の戦車内に取り付けられた小型カメラで撮影、俳優自らが操縦している隣に自分がいるような感覚になります。戦車の重量感、閉鎖的な空間、被弾の衝撃などこんなに体感できる映画をこれまで経験したことがありません。
ロシア映画史上最高のオープニング成績を記録、興行収入40億円、観客動員数800万人、ロシアN0.1のメガヒット作品となったというのに納得します。観た後、必ずほかの人に「凄かった!」と言いたくなり、口コミでも大きく広がったに違いありません。VFXはインド映画『バーフバリ 王の凱旋』を手がけた“Film Direction FX"をはじめロシア最先端の映像技術を結集しています。エンドロールが短くて驚きましたが、VFXが外注でなく自国制作だったから、と詳しい先輩ライターさん。なるほど。(白)
2018年/ロシア/カラー/113分
配給:ツイン
(c)Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018
http://t-34.jp/
★2019年10月25日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
アダムズ・アップル(原題:Adam's Apples)
監督・脚本:アナス・トマス・イェンセン
撮影:セバスチャン・ブレンコフ
音楽:イエッペ・コース
出演:マッツ・ミケルセン(イヴァン)、ウルリク・トムセン(アダム)、パプリカ・スティーン(サラ)、ニコラス・ブロ(グナー)、アリ・カジム(カリド)
スキンヘッドの男がバスから降り立った。刑務所から仮釈放で出てきたばかりのアダムは、がちがちのネオナチ。田舎の1本道を迎えに来たのは、アダムの更生プログラムを請け負った聖職者のイヴァン。アダムは神など信じていないが、とりあえずプログラムをこなさねばならない。イヴァンから「目標」を聞かれて「庭のリンゴでアップルケーキを作る」と答えておいた。教会にはメタボのグナー、移民のカリドという二人の「先輩」がいた。教会には、妊娠したけれど「子どもに障がいがあるかも」と医師に言われて、産むかどうか悩むサラがやってきた。
アダムがアップルケーキを作ろうとするたびに何かの邪魔が入り、最初の目標をクリアすることができない。
マッツ・ミケルセンを認識したのは『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)。6代目ジェームズ・ボンドとなったダニエル・クレイグに注目が集まっていましたが、敵対するル・シッフル役のマッツ・ミケルセンに何者?と思ったのでした。スザンネ・ビア監督で主演の『アフター・ウェディング』は見逃し、『誰がため』(2008)で魅了されました。2013年の本誌87号では続いて公開された『偽りなき者』『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』を紹介しました。この作品はそのずっと前の2005年の作品。まだ40そこそこのマッツ・ミケルセンが懐の深い、しかしいわくありげな聖職者として主演しています。試写の前に配給の方が「この作品が好きで好きで」とおっしゃっていましたが、んー、なんだか頷けます。
原題の「アダムのリンゴ」は、禁断の果実を口にしてしまったため、楽園から追放されるアダムとイヴを思い出させますし、作品中でページが開かれる聖書の「ヨブ記」はサタンに信義を試されるヨブの話です。ストーリーはそれを下敷きにして、ブラックユーモアと皮肉と愛情が詰めこまれています。観た後ずっと忘れられない作品でした。(白)
2005年/デンマーク、ドイツ/カラー/シネスコ/94分
配給:アダムズ・アップルLLP
https://www.adamsapples-movie.com/
★2019年10月19日(土)ロードショー
2019年10月19日
愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1
撮影・編集・脚本・監督:越川道夫
音楽:斉藤友秋
出演:瀬戸かほ、深水元基、山田キヌヲ、縄田かのん、宇野祥平
ユリ(瀬戸かほ)は、小さな古本屋を営む一回り年上の夫、トモ(宇野祥平)と暮らしている。バイトをしているうちに強く請われ、一緒になった。
トモは車の事故で、前の妻(縄田かのん)を亡くしていた。今でも毎日、前の妻のことを思い出す一方で、ユリがいつか自分のもとを去ることには耐えられない。死ぬ時は、幸福のてっぺんで死にたいと思っている。
そこにトモの幼馴染のリュウタ(深水元基)が訪ねてくる。長い間会っていなかった父が亡くなり、遺品の本をトモに買い取ってもらうためだった。
ユリは初めて会ったときから、リュウタに抱かれたいと願い、トモへの罪悪感に苛まれながらも思いを募らせていく。そして、もう後戻りはできないとわかったとき、ユリはリュウタが待つ場所へと駆けつけ、夢中で自分のすべてを委ねるのだった。
夫の指先や唇が妻の体を伝い、歓びを導き、妻は大胆な言葉を口にする。一方で胸に重ねられた男の掌に愛を感じつつも踏み留まる。妻のぎりぎりの貞淑さが切ない。募りに募った想いの先の交わりより、その後に2人で葡萄を食べるシーンが官能的だった。越川監督が抜擢した主演の瀬戸かほは本格的演技が初めてながら大健闘した。
夫を演じたのは宇野祥平。てっきり凄惨な修羅場があるかと思いきや、最後までみなが愛にきちんと正面から向き合っていた。(堀)
2019年/日本/106分/カラー/ビスタサイズ/5.1ch
配給:コピアポア・フィルム
© 2019キングレコード株式会社
公式サイト:http://aireki2019.com/
★2019年10月19日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
風水師 王の運命を決めた男(原題:명당)
監督 パク・ヒゴン
出演 チョ・スンウ、チソン、キム・ソンギュン、ペク・ユンシク、ムン・チェウォン、ユ・ジェミョン、パク・チュンソン、イ・ウォングン、カン・テオ(5urprise)
土地や水脈の形状を見るだけで、人々の運命を変えることができる風水師パク・ジェサン(チョ・スンウ)は運気の集まる土地“明堂(めいどう)”を探し当てる天才だったが、明堂を独占しようとする重臣キム・ジャグン(ペク・ユンシク)の謀反に巻き込まれ、愛する妻子を殺されてしまう。失意に暮れるジェサンだったが、自分と同じくキムに深い恨みを持つ王族の興宣君(チソン)と出会い、キム一族を滅ぼすため風水の知識を駆使することに。やがて彼らは天下最強の“大明堂”をめぐる巨大な陰謀の真相を知ることになる。
権謀術数を駆使して、風水師が示すところに先祖の墓の位置を変え、権力を手にする。風水に重きをおく韓国らしい発想である。
些細なことですれ違う気持ち。秘めた野望。それぞれの思惑が交錯し、歴史の流れが変わる。努力せずに自分だけ得しようとする人間の末路は悲しい。(堀)
2018年/韓国/韓国語/スコープサイズ/126分
配給:ハーク
©2018, JUPITER FILM & MEGABOX JOONGANG PLUS M , ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://hark3.com/fuusui/
★2019年10月25日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
くらやみ祭の小川さん
監督・脚本:浅野晋康
出演:六角精児、高島礼子、水野久美、佐津川愛美、柄本明、螢雪次朗、斉藤陽一郎、水木薫、
思いがけず早期退職するハメになった56歳の平凡な会社員・小川秀治(六角精児)。家族は、母と嫁と、役者志望の息子に娘が一人。どこにでもある平凡な一家だが、出戻り娘の恋愛騒動、母親の認知症と問題だらけ。退職後、退屈な日々に時間を持て余した秀治は、「なにか趣味でもはじめよう」と考えるのだが、どれもうまくいかない。再就職しようと職業安定所に相談に行くも、なかなか厳しい現実を突きつけられる。やりたいことも特になく、再就職先が見つかるまでとりあえず決めたアルバイト。しかし、娘のような若い女子先輩にダメ出しばかりをくらってしまう。
そんななか、ひょんなことから地域住民との関わりを持った秀治は、地元・府中で開催されるお祭り「くらやみ祭」のお手伝いをすることに! 最初は気乗りしない秀治だったが、「くらやみ祭」を通して出会った仲間たちと関わるなかで、自分自身と家族の人生に向き合い、やがて人生再出発へ向けて奮闘しはじめる。そんなとき、「くらやみ祭」に大きな問題が持ち上がった。
1トンの神輿もみんなで担げば重くない。人生も同じ。思い通りにいかなくても、家族で支え合えば何とかなるもの。第二の人生をどう送るかは、そのときにならないとわからないとは思うが、前向きに捉えたいとこの作品を見て思う。
出戻りの娘は子どもを忘れて自分の幸せを求めてしまう。娘役の佐津川愛美が若いバツイチの葛藤を切実に伝える。ダメでしょと思いつつ、嫌いになれない。主演より脇で光るタイプの女優かもしれない。(堀)
東京都府中市が町を上げて応援して、「くらやみ祭り」を舞台にした映画が出来たと知って、わくわくしながら試写に伺いました。くらやみ祭りは、府中の大國魂神社の5月のお祭り。我が家が46年前に高幡不動に引っ越してきて以来、毎年初詣に行く府中の大國魂神社ですが、くらやみ祭りに通い始めたのは、この10年位。会社勤めしていた頃は、5月の連休には必ず海外旅行に出かけていたので、行けなかったのでした。
大國魂神社の起源は、第12代景行天皇41年(西暦111年)5月5日。武蔵国の守り神としてお祀りした神社で、実に歴史のある神社なのです。
5月5日に行われる例大祭が、闇夜の中、神輿を御旅所へ神幸することから、俗に「くらやみ祭」と言われています。4月30日〜5月6日の期間、「汐盛り」と呼ばれる神事から始まり、競馬式(こまくらべ)、萬燈大会、太鼓の響宴、山車行列、神輿渡御など、連日、様々な行事が繰り広げられます。
「くらやみ祭り」の詳しい日程を、大國魂神社のサイトで確認の上、来年の春に是非いらしてみてください。
https://www.ookunitamajinja.or.jp/matsuri/5-kurayami.php
小川さんたちが祭りの時に被っている烏帽子にも、ぜひ注目してみてください。
いかにも古式ゆかしい祭りという感じがします。
映画の中ではクライマックスの神輿を小川さんが初めて担ぎます。
府中の男たちは、この祭りのために働いているといってもいいほど。なので、府中で3代目の小川さんがこれまで会社勤めで忙しかったにしても、なぜ参加してなかったのかなぁ~と、ふっと思ってしまいました。祭りに目覚めるのがちょっと遅かったけど、これからは毎年楽しみにすることでしょう。
私自身、40半ばで会社の都合で辞めざるを得なかったのですが、この先、どうなるかと心配していたのに、逆に自由な時間を貰って、違う人生が開けました。映画を観て、そんなことにも思い至りました。(咲)
スタッフ日記:府中・大國魂神社のくらやみ祭りで神戸のだんじりに出会いました!
http://cinemajournal.seesaa.net/article/359239631.html
2019年/111分/G/日本
配給:ピーズ・インターナショナル
(C) ヴァンブック
公式サイト:https://kurayamiogawa.com/
★2019年10月25日(金)TOHOシネマズ府中他全国順次公開
2019年10月17日
108~海馬五郎の復讐と冒険~
監督・脚本:松尾スズキ
撮影:山崎裕典
振付:airman
音楽:渡邊崇
主題歌:星野源
出演:松尾スズキ、中山美穂、大東駿介、堀田真由、土居志央梨、栗原類、LiLiCo、福本清三、岩井秀人、酒井若菜、坂井真紀
元女優の妻・綾子(中山美穂)の浮気をSNSの投稿を通じて知りショックを受けた脚本家の海馬五郎(松尾スズキ)は離婚を考えるが、財産分与で資産の半分を支払わなければならないことがわかる。資産を使ってしまおうと決意した海馬は、妻の浮気投稿についた108の「いいね!」と同数の女を抱く復讐に挑む。
題名の「108(イチマルハチ)」とは、浮気妻のSNS投稿に付いた「いいね!」の数。その数と同じ108人の女を抱いて復讐しようと奔走する売れっ子脚本家の物語だ。監督・脚本・主演の松尾スズキが殆ど”全裸監督”と化して出ずっぱりの熱演・怪演を見せる。
何かとコンプライアンスの厳しい現在の製作現場。R18(18歳未満入場不可)指定に敢えて挑戦した野心さと意欲に満ちた作品だ。国内外の映画について言えることだが、監督や脚本家を主役に据えると、とかくナルシスティックに陥りがち。本作の松尾スズキは自虐的な手法でその点を回避したようだ。オーディション場面がミュージカルになったり、歌や踊りのサービス提供も抜かりない。
松尾スズキは、劇団「大人計画」を主宰する。友人役の秋山菜津子に、「あんた、紀伊國屋演劇賞を獲ったことある?!」と言わせたり、「劇団ハイバイ」の劇作家・演出家・俳優として活躍する岩井秀人を傍観者役に据えるなど、演劇ファンにはクスリと笑える小ネタが満載だ。(幸)
妻の浮気を知った中年男が性の暴挙に出た愚かしさを松尾スズキが真面目に演じて笑いを取る。裸の男女50人がローションまみれでのたうち回る女の海は圧巻。撮影の苦労が察せられた。
脇を固めるキャストたちも個性豊か。特に仕事仲間で、親友で、セフレでもある美津子を演じた秋山菜津子のコメディエンヌぶりはさすが。妻を演じた中山美穂の官能シーンはまったりとした色気が伝わってきた。ミポリンもいつの間にかこんな役を演じるようになったのだと時の流れを感じてしまう。
自分にはセフレがいるのを棚に上げ、妻の浮気を許さない夫。浮気ではなく、本気の心変わりと思ったからか。原因を考えずに復讐に走る辺りに夫の幼さを感じる。男ってみんなそんなもの? 夫婦であっても言葉にしなければ不安な気持ちは伝わらないことを改めて感じた。(堀)
配給:ファントム・フィルム
ⓒ2019「108~海馬五郎の復讐と冒険~」製作委員会『108~海馬五郎の復讐と冒険~』
2019年/ カラー/シネマスコープ/DCP5.1ch/102分/ R18+/日本
公式サイト:http://108-movie.com/
★10月25日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開★
2019年10月15日
マレフィセント2 原題:MALEFICENT: MISTRESS OF EVIL
監督:ヨアヒム・ローニング
製作:ジョー・ロス、 アンジェリーナ・ジョリー、 ダンカン・ヘンダーソン
脚本:リンダ・ウールバートン、 ノア・ハープスター、 ミカ・フィッツァーマン=ブルー
撮影:ヘンリー・ブラハム 美術:パトリック・タトポロス 衣装:エレン・マイロニック
出演:アンジェリーナ・ジョリー、エル・ファニング、ミシェル・ファイファー、ハリス・ディキンソン、サム・ライリー、MIYAVI
呪いの眠りから覚めたオーロラ姫(エル・ファニング)は、フィリップ王子(ハリス・ディキンソン)のプロポーズを受ける。一方、妖精界を滅ぼすために動き出す者たちがいた。そして結婚式当日、オーロラ姫に魔の手が忍び寄る。
女子の多くは、物心ついた時から「眠れる森の美女」を読み聞かせをしてもらったり、絵本を飽くことなく読んだ記憶があるはずだ。お城や深い森、光る湖、煌びやかな衣装に想像の翼を羽ばたかせ、そして恐怖のイメージを植え込ませたのではないか。
お伽話の世界ではイメージが何よりも大事!
大ヒットした前作同様、今回もコンセプトアートの豊かさが眼を惹く。パトリック・タトポロスによるプロダクション・デザインが本作をしっかりと大人の鑑賞に耐え得る深度、枠組みを与えているからに違いない。イメージの喚起力が映画に広がりを齎すのだ。ファンタジーには華やかさと恐怖がつきもの。
監督のヨアヒム・ローニングはノルウェー時代の出世作『コン・ティキ』の厳然たる史実と、ハリウッドに於ける『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』のエンターテイメント性を本作で結実させているようだ。
見どころはもう一つ。製作も兼ねるアンジェリーナ・ジョリー、エル・ファニング、ミシェル・ファイファーらハリウッドの王道女優組を支える脇役に、キウェテル・イジョフォー、サム・ライリー、エド・スクレイン(『デッドプール』の悪役、「ゲーム・オブ・スローンズ」)の名優・イケメン英国俳優陣を配したことだ。王子役にはポカン顔(ファンの方すみません!)だった前作のブレントン・スウェイツに代わり、英国のハリス・ディキンソンを起用。王子としての悲哀を眼の奥に忍ばせる理解力を見せている。
また、オーロラ姫を世話する黄色の妖精にジュノー・テンプル、赤の妖精はイメルダ・スタウントン、水色はレスリー・マンヴィルらオスカー級の英国女優陣が引き続き出演したことからも製作陣が、”俳優の層が世界一厚い”英国俳優に期待を託していることが分かる。
今回から、マレフィセントと同じ種族の重要キャストにMIYAVIが配置され、検討している点もお見逃しなく!(幸)
真実の愛について描いた前作から5年。本作でもマレフィセントのオーロラへの愛は変わらない。血の繋がりを超えた母性愛は究極の行動を示す。
さらに、本作では共存について問う。前作で人間の王国と妖精の国は統一され、オーロラは2つの国の女王となった。しかし、本当に人間と妖精は共存できるのか。
オーロラが結婚するフィリップ王子の母であるイングリス王妃は幼い頃にムーア国との国境近くで恐ろしい思いをした経験から妖精を憎んでいる。オーロラに優しく接するが、マレフィセントに対する嫌悪はあからさま。イングリス王妃の思惑と行動が本作を大きく動かしていく。
作中、イングリス王妃は息子とオーロラの結婚式に口をはさむ。古今東西、嫁姑の関係は同じようだ。自分の価値観を押し付けずに、相手を尊重することはできないものか。家族と民族の違いはあるが、共存問題の根本は同じかもしれない。
ところで、アンジェリーナ・ジョリーの美しさは変わらないが、エル・ファニングの成長が著しい。この5年間に『ネオン・デーモン』、『20センチュリー・ウーマン』、『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』、『メアリーの総て』といった作品に出演し、天真爛漫な雰囲気を残しつつ、大人の女性への脱皮と遂げた。それと同期するかのように、前作では守られる存在だったオーロラが自分で考え、行動するように。もし続編があるのなら、次はオーロラが1人堂々と主役を演じるところを見てみたい。(堀)
配給 ウォルト・ディズニー・ジャパン
製作 アメリカ/2019/カラー/ 119分
(C) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト :https://www.disney.co.jp/movie/maleficent2.html
★10月18日(金)より日米同時公開
2019年10月13日
駅までの道をおしえて
監督・脚色:橋本直樹
原作:伊集院静
撮影:蔦井孝洋
音楽:原摩利彦
主題歌・挿入歌:コトリンゴ
出演:新津ちせ(サヤカ)、笈田ヨシ(フセコウタロー)、有村架純(10年後のサヤカ/モノローグ)、坂井真紀(サヤカの母)、滝藤賢一(サヤカの父)、羽田美智子(サヤカの伯母)、マキタスポーツ(サヤカの伯父)、佐藤優太郎(コウイチロー)、柄本明(動物病院院長)、余貴美子(看護師長)、市毛良枝(サヤカの祖母)、塩見三省(サヤカの祖父)
8歳のサヤカは両親と愛犬のルーと海辺の町に住んでいる。ルーはサヤカが小さいころやっと飼うことを許してもらった大親友だ。毎日散歩に行き、約束通りちゃんと世話もしてきた。ところがサヤカが臨海学校で留守をした数日の間に、ルーは亡くなってしまう。お父さんにどんなに言い聞かされてもサヤカには受け入れることができない。ルーにまた会えると信じて散歩道を辿っていると、原っぱで犬と出会う。すぐに姿を消してしまった犬は、数日後古い喫茶店に繋がれてルースと呼ばれていた。マスターのフセ老人も、何十年も前に亡くなった息子の死を受け入れられずにいる人だった。大切なものを失っている二人は不思議な友情で結ばれる。
サヤカは学校では友達がいません。まっすぐ家に帰ってルーと遊ぶのが日課でした。その親友にお別れも言えないまま、旅立たれてしまったので受け入れられません。フセ老人は息子の死を理屈で理解しても情が拒否しています。
笈田ヨシさんはピーター・ブルックのドキュメンタリーで、そのワークショップのただ一人の日本人として覚えていましたが、86歳になられたとか、お元気です。ちせちゃんとは77歳差、同じ目線で柔らかくお話していました。
新津ちせちゃんの演じるサヤカがごく自然で、台詞と思えない独り言や、軽い足取りや笑顔に見とれます。最近はどこで誰と一緒に遊ぶのか、何時に帰るのか親に言ってから出かけるのだと思うのですが、サヤカはそんな様子もなく一人でどこへでも行きます。ファンタジー要素の多い作品なのに、親子の信頼関係がきちんとあるのね、と思わずリアルに考えてしまいました。動物と子どもが主人公という強力な布陣+見守る大人たち、ゆったりと流れていく時間に身をゆだねてください。(白)
駅といえば、電車。原作に赤い電車が象徴的に登場することから、2018年2月25日に創立120周年を迎えた京急電鉄がタイアップ。あちこちの場面で赤い京急の電車が通り過ぎていきます。横浜や横須賀に縁のある方には、きっと懐かしい風景が見られます。
原っぱの中にポツンとたたずむ駅は監督が作り上げたもの。これは現実なのか、夢なのか・・・。新津ちせちゃん演じるサヤカが不思議な世界に誘ってくれました。(咲)
「犬を飼いたい!」
主人公のサヤカが愛犬ルーとの別れを受け入れるまでを描いた作品だが、作品を見終わったとき、そう思う人が多いに違いない。ルーと駆けるサヤカの弾けんばかりの笑顔があまりにも楽しそうなのだ。仲の良い友達のいないサヤカがルーと出会い、四季折々の風景の中で絆を結んでいく。じゃれ合うサヤカとルーの間に演技を超えた信頼関係が感じられた。実はサヤカを演じた新津ちせがルーを自宅で預かり、撮影期間中、毎日の散歩や世話をしていたのだという。
大切な存在を失うのは辛い。しかし、出会えたことを喜び、次の一歩を歩いていく勇気をサヤカから受け取ってほしい。(堀)
2019年/日本/カラー/シネスコ/125分
配給:キュー・テック
(c)2019映画「駅までの道をおしえて」production committee
https://ekimadenomichi.com/
★2019年10月18日(金)より 新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかにて全国公開
2019年10月12日
ガリーボーイ 原題:Gully Boy
監督:ゾーヤー・アクタル
脚本:リーマー・カーグティー
製作:ファルハーン・アクタル
出演:ランヴィール・シン、アーリアー・バット、シッダーント・チャトゥルヴェーディー、カルキ・ケクラン、ヴィジャイ・ラーズ、ヴィジャイ・ヴァルマー
ムンバイ空港近くのダラヴィ地区のスラムに住むイスラーム教徒の青年ムラド(ランヴィール・シン)。両親は彼が貧困から抜け出せるよう頑張って大学に通わせている。13歳の頃から付き合っているガールフレンドのサフィナ(アーリアー・バット)は、同じイスラーム教徒だが、父親はスラムで開業している医師で裕福。サフィナも外科医を目指している。
若い第二夫人を家に連れてきてひと悶着起こした父が、足を骨折し、ムラドは父の代わりに大邸宅のお抱え運転手を務めることになる。格差社会を目の当たりにして、鬱屈した気持ちになるムラド。そんな折、大学の構内でのコンサートで、MCシェール(シッダーント・チャトゥルヴェーディー)の歌に惹きつけられる。言葉とリズムで気持ちを自由に表現するラップに魅せられたムラドは、詩を書いてシェールに渡すが、「自分で歌え」と言われる。ムラドはガリーボーイ(路地裏の少年)と名乗り、シェールの助けを得てラッパーに成長していく。若い女性プロデューサーのスカイ(カルキ・ケクラン)によってスタジオでのレコーディングも果たす。アメリカのラッパーNAS(ナズ)のムンバイ公演の前座で歌うラッパーをバトルで選ぶことを知り、スターを夢見て優勝を目指す・・・
もともとヒップホップ音楽が好きだったゾーヤー監督。NaezyとDivineの二人のラッパーと出会い、その歌と人生に惹かれ、物語を紡ぐことを決意。リーマーと共に徹底的なリサーチを経て作り上げた映画。
スラムで暮らす青年が、インドの階級社会の現実に鬱屈しながらも、ラップと出会い、自身の思いを語り、スターを目指す成長物語と思いきや、さすが、女性の監督と脚本家が作った物語。女性たちが自分の人生を切り開いていく姿をも見事に描いていて痛快。ラップが苦手な私も、たっぷり楽しめた。 ラップが、ヒンディー語やウルドゥ―語のムンバイ訛りで歌われているのも魅力。(咲)
ゾーヤー・アクタル監督&リーマー・カーグティー(脚本)インタビュー
2018年/インド/154分/カラー/シネスコ/5.1ch
日本語字幕:藤井 美佳/字幕監修:いとうせいこう
配給:ツイン
公式サイト: http://gullyboy.jp/
★2019年10月18日(金) より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
15 ミニッツ・ウォー(原題:L'intervention 、英題:15 minutes of war)
監督:フレッド・グリヴォワ
出演:アルバン・ルノワール、オルガ・キュリレンコ、ケヴィン・レイン、ヴァンサン・ベレーズ、ジョジアーヌ・バラスコ
フランス最後の植民地ジブチ。軍関係者の子供らを乗せたスクールバスが、独立派武装組織のメンバーに乗っ取られるという事件が発生。テロリストたちは同志である政治犯の即時解放と、フランスからの独立を要求し、応じない場合は人質である子供たちの喉を切り裂くと宣言する。事態を重く見たフランス政府は、事件の早期解決のため極秘裏に特殊制圧チームを編成し現地へ派遣することを決める。チームを指揮するジェルヴァル大尉(アルバン・ルノワール)を始め、集められたのは軍でもトップクラスの実力を持つスナイパーたち。彼らは一斉射撃によるテロリストの同時排除という前代未聞の作戦を立案。しかし現地駐留軍、そして事態を穏便に収束させようと動く外交筋との連携がうまく行かず、膠着状態が続いてしまう。一方生徒たちの身を案じた女性教師・ジェーン(オルガ・キュリレンコ)は軍関係者の静止を振り切り、生徒たちのために、単身テロリストに占拠されたバスに乗り込んでゆくのだが…。
1976 年にフランス最後の植民地であるジブチで発生したバスジャック事件を基に、高い狙撃能力を持つスナイパーたちによって編成された対テロ特殊部隊の活躍を描いた。
スクリーンを縦横斜めなどに2分割、4分割して時間経過や同時に起こっていることなどを見せ、緊迫感を煽る。その一方で本国の判断待ちのじりじりとした焦燥感はじっくりと映す。緩急のバランスが的確で、臨場感たっぷり。ラスト15分は阿鼻叫喚の状況が繰り広げられ、ハラハラが止まらない。
なお、この事件後、世界最高峰と謳われる対テロ特殊部隊:GIGN(フランス国家憲兵隊治安介入部隊)が正式に組織化された。(堀)
2018 年/フランス・ベルギー/フランス・英語/カラー/シネマスコープ/5.1ch /98 分
配給:クロックワークス
© 2019 EMPREINTE CINEMA – SND-GROUPE M6 – VERSUS PRODUCTION – C8 FILMS
公式サイト:http://klockworx-v.com/15minutes/
★2019年10 月 11 日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開
Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』
監督・脚本:園子温
プロデューサー:武藤大司
撮影:谷川創平
美術:松塚隆史
照明:李家俊理
出演:椎名桔平、満島真之介、日南響子、鎌滝えり、YOUNG DAIS、長谷川大 / 真飛聖、でんでん
1995年。愛知県豊川市から上京したシン(満島真之介)は、ジェイ(YOUNG DAIS)とフカミ(長谷川大)に声をかけられ彼らの自主映画制作に参加。知人の妙子(日南響子)と美津子(鎌滝えり)に出演を依頼する。彼女たちは高校時代、憧れであったクラスメイトが交通事故で急逝するという衝撃的な事件から未だ逃れられずにいた。引きこもりとなっていた美津子に村田(椎名桔平)から電話がかかってきたのは、世間が銃による連続殺人事件に震撼していたころ。村田は「10年前に借りた50円を返したい」という理由で美津子を呼び出し、巧みな話術とオーバーな愛情表現で彼女の心を奪っていく。だが、村田は冷酷な天性の詐欺師だった。自身の姉も村田に騙されていた妙子によって彼の本性を知ったシンたちは、村田を主人公にした映画を撮り始める。やがて村田は、美津子の父・茂(でんでん)や母・アズミ(真飛聖)をも巻き込み、事態は思わぬ方向へ転がり始める…。
実際に起きた猟奇殺人事件に着想を得た園子温監督によるオリジナル脚本作品。6月に開かれたNetflixオリジナル作品祭に登壇した際、園監督は「再現ではなく自分なりの物語が作れるのであればということで引き受けた」と語っていたが、『HAZARD』、『自殺サークル』、『Strange Circus 奇妙なサーカス』、『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』といった監督初期作品の系譜である。
椎名桔平が演じる主人公の名前はでんでんが『冷たい熱帯魚』で演じたシリアルキラーと同じ村田だが、タイプは全く違う。『冷たい熱帯魚』の村田は見ているだけでも圧を感じる、力でねじ伏せるタイプだが、本作の村田は軽やかで洗脳されている感じがしない。もしや自分も洗脳されているのかもしれないと不安になった。椎名桔平の怪演が光る。
村田の洗脳による猟奇殺人について語られることが多い作品だが、妙子と美津子の高校時代の関係性が女子校出身者にはあるあるの話で胸に響く。表向きの顔とは違う裏の顔。仲がいいように見せて、本心では嫉妬や不安が渦巻いていることも。若さゆえの優柔不断と潔さは猟奇殺人と同じくらい危険かもしれない。(堀)
2019年/日本/カラー/151分
公式サイト:https://www.netflix.com/theforestoflove
★2019年2019年10月11日(金)、Netflixにて全世界独占配信
2019年10月06日
細い目 原題:Sepet 英題 Chinese Eyes
劇場公開 2019年10月11日 アップリンク渋谷&吉祥寺
監督:ヤスミン・アフマド
製作:ロスナ・モハマド・カシム エリナ・シュクリ
脚本:ヤスミン・アフマド
撮影:ロウ・スン・キョン
編集:アファンディ・ジャマルデン
出演 シャリファ・アマニ、ン・チューセン、ライナス・チャン、タン・メイ・リン、ハリス・イスカンダル、アイダ・ネリナ、アディバ・ヌール
2004年製作/107分/マレーシア
配給:ムヴィオラ
公式HP
ヤスミン・アフマド没後10周年記念
『細い目』
2019.7.20~8.23にヤスミン・アフマド監督特集があったけど、その中から『細い目』が、とうとう日本公開されることになった。2005年 第18回東京国際映画祭で上映されて以来、14年の時を経ての日本公開である。製作されたのは2004年だから、映画ができてから15年もたっている。東京国際映画祭で上映されたあと、マレーシア映画特集やヤスミン特集などで上映されては来たので、何回か観る機会はあったけど、まさかの日本での劇場公開。感無量である。
2009年に51歳の若さで他界したマレーシアのヤスミン・アフマド監督が04年に手がけた長編第2作目ではあるけど、ヤスミン監督の名を日本に知らしめたのは、この『細い目』である。ヤスミン監督作品でおなじみのオーキッドという名の少女がこの作品で登場する。“オーキッド3部作”の第1作目。マレーシアの多民族社会を背景に、マレー系の少女オーキッドと中国系の少年ジェイソンの初恋とマレーシアの多民族社会の状況を描き、マレーシア・アカデミー賞でグランプリをはじめ6部門(監督賞、脚本賞、新人男優&女優賞)、東京国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞した。「細い目」とはマレーシアで中国人を指していう言葉とのこと。
香港映画界で活躍する金城武(台湾)が大好きな裕福な家のマレー系の少女オーキッドは、露店で海賊版のCDやDVDを売る中国系の少年ジェイソンと出会い恋に落ちた。民族も宗教も異なる2人、戸惑いもあったが、家族に見守られ初恋を育んでいく。しかし、民族的出自が原因で大学進学の道が閉ざされているジェイソンは、裏稼業の元締めであるジミーや、その妹マギーとの関係を断ち切ることができない。一方、オーキッドにはイギリス留学の日が近づいてくる。二人の恋の行方は…。衝撃的な最後はマレーシアの現実を考えさせる。
主演はヤスミン監督映画の常連となった、当時17歳のシャリファ・アマニと映画初出演のン・チューセン(本職は俳優ではない)。ヤスミン・ファミリーといえる役者たちが若いふたりを支えている。マレーシアでは多民族社会ゆえに境界線があって、それぞれの民族が分断され、他の民族との交流があまりない状態の中で、ヤスミン監督はこの作品を引っさげて映画界に登場した。日本とは違う、そういうマレーシアの社会背景を日本に知らしめた。
私が初めて訪れた外国は実はマレーシア・クアラルンプールで1990年。街中を歩いた時に、完全にマレー人街、インド人街、中華人街と分かれていて、街を歩く人たちも他の民族はいない感じで、私たち3人(日本人)は、それぞれの街を歩いていくと、ジロジロ見られてとても居心地悪かった。その記憶を思い出し、それから思うと、やはりこの映画は画期的な作品なんだと2005年に初めて観た時に思った。
『細い目』は、普遍的なラブストーリーだし、家族の愛情や友情を描く人間ドラマではあるけど、民族や宗教が異なる男女の恋というのが考えられなかったマレーシアで(2005年東京国際映画祭での上映後のQ&Aでヤスミン監督が言っていた)、民族の融和という思いがあって作った作品だった。そして、その後の作品にも、その精神は生かされていた。また、マレー語映画が主流であった時代(2004年頃)に、英語、マレー語、広東語などが飛び交う多言語の映画として作られ、マレーシア映画界の新しい波を作っていった作品とも言えるのでは。民族が分断されている中で寛容な世界をと望み、それを作品に反映させた強さと優しさが頼もしい作品になりました。
オーキッドの家族はかわっていて、母親(アイダ・ネリナ)も父親(ハリス・イスカンダル)もお手伝いのヤムさん(アディバ・ヌール)とまるで友人のように話すし、ジェイソンが華人であることも気に留めず、二人の交際を優しく見守るというように描かれていたけど、これはヤスミン監督の家族が反映されていると、東京国際映画祭で上映された時にヤスミンさんは語っていた。これを書いているうちに14年前の映画祭での上映会でのヤスミン監督のこと、言っていたことが蘇ってきた。あのとき、初めて観たマレーシアの映画と家族関係にびっくりしたけど、これはあくまでヤスミンさんの家族の姿で、マレーシアのマレー系の家族の姿が反映されているわけではないとも言っていた。
そういえば、この時、私のカメラは壊れていたか、電池が切れていたかでヤスミン監督を撮影できなかった。その後、監督にお会いすることがなく、ヤスミン監督の写真は撮ることができなかったし、ヤスミン監督に心酔していたUさんも、監督にインタビューする予定がキャンセルになってしまってかなわなかったし、Uさん自身も亡くなってしまった。今思い出してもヤスミン監督に関しては残念なこと続き。せめて、没後10年での日本公開を喜びましょう。もう4回は観ていますが、公開されたらまた観に行きます(暁)
ヤスミン・アフマド監督 フィルモグラフィ
長編映画
ラブン(2003年)
細い目(2004年)
グブラ(2006年)
ムクシン(2006年)
ムアラフ 改心(2008年)
タレンタイム~優しい歌(2009年)
監督:ヤスミン・アフマド
製作:ロスナ・モハマド・カシム エリナ・シュクリ
脚本:ヤスミン・アフマド
撮影:ロウ・スン・キョン
編集:アファンディ・ジャマルデン
出演 シャリファ・アマニ、ン・チューセン、ライナス・チャン、タン・メイ・リン、ハリス・イスカンダル、アイダ・ネリナ、アディバ・ヌール
2004年製作/107分/マレーシア
配給:ムヴィオラ
公式HP
ヤスミン・アフマド没後10周年記念
『細い目』
2019.7.20~8.23にヤスミン・アフマド監督特集があったけど、その中から『細い目』が、とうとう日本公開されることになった。2005年 第18回東京国際映画祭で上映されて以来、14年の時を経ての日本公開である。製作されたのは2004年だから、映画ができてから15年もたっている。東京国際映画祭で上映されたあと、マレーシア映画特集やヤスミン特集などで上映されては来たので、何回か観る機会はあったけど、まさかの日本での劇場公開。感無量である。
2009年に51歳の若さで他界したマレーシアのヤスミン・アフマド監督が04年に手がけた長編第2作目ではあるけど、ヤスミン監督の名を日本に知らしめたのは、この『細い目』である。ヤスミン監督作品でおなじみのオーキッドという名の少女がこの作品で登場する。“オーキッド3部作”の第1作目。マレーシアの多民族社会を背景に、マレー系の少女オーキッドと中国系の少年ジェイソンの初恋とマレーシアの多民族社会の状況を描き、マレーシア・アカデミー賞でグランプリをはじめ6部門(監督賞、脚本賞、新人男優&女優賞)、東京国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞した。「細い目」とはマレーシアで中国人を指していう言葉とのこと。
香港映画界で活躍する金城武(台湾)が大好きな裕福な家のマレー系の少女オーキッドは、露店で海賊版のCDやDVDを売る中国系の少年ジェイソンと出会い恋に落ちた。民族も宗教も異なる2人、戸惑いもあったが、家族に見守られ初恋を育んでいく。しかし、民族的出自が原因で大学進学の道が閉ざされているジェイソンは、裏稼業の元締めであるジミーや、その妹マギーとの関係を断ち切ることができない。一方、オーキッドにはイギリス留学の日が近づいてくる。二人の恋の行方は…。衝撃的な最後はマレーシアの現実を考えさせる。
主演はヤスミン監督映画の常連となった、当時17歳のシャリファ・アマニと映画初出演のン・チューセン(本職は俳優ではない)。ヤスミン・ファミリーといえる役者たちが若いふたりを支えている。マレーシアでは多民族社会ゆえに境界線があって、それぞれの民族が分断され、他の民族との交流があまりない状態の中で、ヤスミン監督はこの作品を引っさげて映画界に登場した。日本とは違う、そういうマレーシアの社会背景を日本に知らしめた。
私が初めて訪れた外国は実はマレーシア・クアラルンプールで1990年。街中を歩いた時に、完全にマレー人街、インド人街、中華人街と分かれていて、街を歩く人たちも他の民族はいない感じで、私たち3人(日本人)は、それぞれの街を歩いていくと、ジロジロ見られてとても居心地悪かった。その記憶を思い出し、それから思うと、やはりこの映画は画期的な作品なんだと2005年に初めて観た時に思った。
『細い目』は、普遍的なラブストーリーだし、家族の愛情や友情を描く人間ドラマではあるけど、民族や宗教が異なる男女の恋というのが考えられなかったマレーシアで(2005年東京国際映画祭での上映後のQ&Aでヤスミン監督が言っていた)、民族の融和という思いがあって作った作品だった。そして、その後の作品にも、その精神は生かされていた。また、マレー語映画が主流であった時代(2004年頃)に、英語、マレー語、広東語などが飛び交う多言語の映画として作られ、マレーシア映画界の新しい波を作っていった作品とも言えるのでは。民族が分断されている中で寛容な世界をと望み、それを作品に反映させた強さと優しさが頼もしい作品になりました。
オーキッドの家族はかわっていて、母親(アイダ・ネリナ)も父親(ハリス・イスカンダル)もお手伝いのヤムさん(アディバ・ヌール)とまるで友人のように話すし、ジェイソンが華人であることも気に留めず、二人の交際を優しく見守るというように描かれていたけど、これはヤスミン監督の家族が反映されていると、東京国際映画祭で上映された時にヤスミンさんは語っていた。これを書いているうちに14年前の映画祭での上映会でのヤスミン監督のこと、言っていたことが蘇ってきた。あのとき、初めて観たマレーシアの映画と家族関係にびっくりしたけど、これはあくまでヤスミンさんの家族の姿で、マレーシアのマレー系の家族の姿が反映されているわけではないとも言っていた。
そういえば、この時、私のカメラは壊れていたか、電池が切れていたかでヤスミン監督を撮影できなかった。その後、監督にお会いすることがなく、ヤスミン監督の写真は撮ることができなかったし、ヤスミン監督に心酔していたUさんも、監督にインタビューする予定がキャンセルになってしまってかなわなかったし、Uさん自身も亡くなってしまった。今思い出してもヤスミン監督に関しては残念なこと続き。せめて、没後10年での日本公開を喜びましょう。もう4回は観ていますが、公開されたらまた観に行きます(暁)
ヤスミン・アフマド監督 フィルモグラフィ
長編映画
ラブン(2003年)
細い目(2004年)
グブラ(2006年)
ムクシン(2006年)
ムアラフ 改心(2008年)
タレンタイム~優しい歌(2009年)
真実(原題:La Vérité)
監督・脚本・編集:是枝裕和
撮影:エリック・ゴーティエ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ
世界中にその名を知られる、国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が、自伝本「真実」を出版。海外で脚本家として活躍している娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)、テレビ俳優として人気の娘婿(イーサン・ホーク)、そのふたりの娘シャルロット、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、彼女の公私にわたるすべてを把握する長年の秘書─。“出版祝い”を口実に、ファビエンヌを取り巻く“家族”が集まるが、全員の気がかりはただ一つ。「いったい彼女は何を綴ったのか?」
そしてこの自伝に綴られた<嘘>と、綴られなかった<真実>が、次第に母と娘の間に隠された、愛憎うず巻く心の影を露わにしていく。
是枝裕和監督がフランスを代表する女優カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュを迎えて、母と娘の葛藤を描いた。2019年・第76回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品。日本人監督の作品として初めて、同映画祭のオープニング作品として上映される。
大女優の母が自伝を出版し、それを読んだ娘が事実と違うと憤慨する。しかし、母にとっての真実は娘にとって必ずしも真実ではない。人生における重要度も違う。それは仕方のないこと。といえるのは第三者だからであり、当事者にとってはとんでもないことなのだ。
照れ隠しなのか、和解したと思わせて、母は大女優らしくひっくり返す。それを娘は脚本家らしく孫を使ってやり返す。この母と娘は攻撃し合うことで絆を深めているのかもしれない。
大女優やベテラン俳優に囲まれながらも伸びやかに孫娘を演じた子役が英語とフランス語を操り、すごくかわいい。(堀)
2019年/108分/G/フランス・日本合作
配給:ギャガ
©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA
公式サイト:https://gaga.ne.jp/shinjitsu/
★2019年10月11日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
ダウト~嘘つきオトコは誰?~
監督:永江二朗
原作:ボルテージ「ダウト~嘘つきオトコは誰?~」
脚本:鹿目けい子
主題歌:+α/あるふぁきゅん。「Break Karma」 (MAGES.)
出演:堀田 茜、稲葉 友、西銘 駿、岩永徹也、佐伯大地、三津谷亮、藤田 富、水石亜飛夢、牧田哲也、永山たかし、玲央バルトナー、松熊つる松、金時むすこ、小西麗菜、 VAMPIRE ROSE 、 久保田悠来 、鶴見辰吾
ブライダルプランナーの桜井香菜(堀田茜)は彼氏の浮気発覚をきっかけに婚活パーティーに参加。そこでクリエイターや医者などハイスペックなイケメンたちに声を掛けられる。浮き立つ香菜だったが、香菜に婚活パーティーで運命の出会いがあると告げた占い師(鶴見辰吾)が現れ、言い寄ってきた10人の男のうち本当のことを話しているのはたった1人だと言う。香菜はハイスペックな10名のイケメンたちの嘘を見抜きながら、真実の愛を見つけていく。
恋愛アプリゲームの映画化。婚活パーティーに参加した主人公が言い寄る男性10人の嘘を見破る。運命の男性はいないのか?言い寄る男性には稲葉友を始めとするイケメンを揃えた。マザコン、離婚経験、DV、オタクなど知られたくないことを隠す男性たち。少しでも嘘があれば主人公は「ダウト」と指差し、切り捨てる。
嘘はいけない。しかし、その嘘は本当にダメな嘘なのか。自分は嘘がないか。結婚すれば折り合いをつける場面はたくさん出てくる。ダメな嘘と必要な嘘を見極め、受け入れる度量が結婚には大事なのだと思うのだが。。。(堀)
2019年/日本/カラー/97分
配給:キャンター/スターキャット
© Voltage ©2019 映画「ダウト~嘘つきオトコは誰?~」製作委員会
公式サイト:http://doubt-movie.com/
★2019年10月4日(金)よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
毒戦 BELIEVER(原題:Believer)
監督:イ・ヘヨン
脚本:チョン・ソギョン
出演:チョ・ジヌン、リュ・ジュンヨル、キム・ジュヒョク、チャ・スンウォン、パク・ヘジュン
姿なき麻薬王“イ先生”を執拗に追い続ける麻薬取締官〈通称マトリ〉のウォンホ刑事(チョ・ジヌン)。ある日、組織の麻薬製造工場が爆破され、事故現場からラクと名乗る青年(リュ・ジュンヨル)が唯一の生存者として発見される。ウォンホ刑事は組織に捨てられた彼と手を組み、大胆かつ危険極まりない筋書きによる、組織への潜入捜査を決意するが。。。
麻薬組織のトップを追い続けてきた刑事が組織内抗争で殺されかけた青年と手を組み、潜入捜査をする。とんでもない珍味を食べさせられ、極上の麻薬を吸わされた。命懸けである。
危険な仕事であればあるほど互いの信頼が必須。青年が組織に寝返る懸念を払いのけ、刑事は青年と行動を共にする。想定外の場面が何度もあり、その度にハラハラ。それを繰り返すうちに信頼関係ができてくる。
主人公たちにとってのまさかの結末は見る側にはやっぱり感があるが、ラストに鳴り響く一発の銃声がいつまでも耳に残った。(堀)
2018年/韓国/韓国語/124分/カラー/シネスコ/字幕翻訳:根本理恵
配給:ギャガ・プラス
(c)2018 CINEGURU KIDARIENT & YONG FILM. All Rights Reserved.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/dokusen/
★2019年10月4日(金)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
ブルーアワーにぶっ飛ばす
監督・脚本:箱田優子
撮影:近藤龍人
音楽:池永正二
出演:夏帆(砂田夕佳)、シム・ウンギョン(清浦あさ美)、渡辺大知(玉田篤)、黒田大輔(砂田澄夫)、ユースケ・サンタマリア(冨樫晃)、でんでん(砂田浩一)、南果歩(砂田俊子)
CMディレクターの砂田夕佳30歳、茨城出身、東京在住。多忙だけれど、仕事は順調、夫も優しいのに、夕佳の心の中は荒んでいる。今は酒も楽しくなく、飲んでも悪酔いするだけ。故郷の祖母が入院したため、気は進まないが見舞いに行くことになった。親友の清浦あさ美は天真爛漫で屈託がない。のりの良いあさ美の運転する車で大嫌いな故郷へ向かう。久しぶりに帰った実家では、両親は年を取り、兄は引きこもったまま。これまで逃げていた故郷や昔の自分と向き合わねばならなくなった。
『きばいやんせ!私』で、不倫でバッシングを受けた女子アナを演じていた夏帆さん、今度はさらに不機嫌顔のCMディレクター役です。そんな夕佳があさ美と話すときだけは肩の力が抜けます。『新聞記者』では終始硬く厳しい表情をしていたシム・ウンギョンが笑顔満開のあさ美役。どこかよそから来た感じが、このちょっと不思議な役にすっきりとはまっていました。おじさんたちが集まるスナックのママが伊藤沙莉さん。さばさばした物言いでお客を沸かせて楽しませる役どころで、またまた惹かれました。
なんにもない故郷からなんでもある東京に出てきて、頑張って仕事に打ち込んでいるのに、だんだん心が乾いていくのは何でだろう?誰かが悪いのか?自分なのか?どうしたらいいのかわからず辛い人は、劇場で夕佳とあさ美と一緒に、ブルーアワーの中疾走してみてはいかがでしょう?(白)
やりがいのある仕事、理解ある夫、適度な距離感のセフレ。一見幸せそうな主人公だが、実情はどうなのだろうか。 一筋縄ではいかない実家の家族も人物像をしっかり作り、主人公のこれまでの生活が見えてくる。今の主人公はなるべくしてなった感。カッコ悪い自分を受け入れた先にある幸せも意外にいいものだ。
母親役の南果歩が素晴らしい! 怠そうに家事を放棄し、足を開いて立つ。後ろ姿の佇まいはダサいおばさんそのもの。リアリティが半端ない。そんな母親たちがいる故郷を離れることが寂しくないのが寂しいと叫ぶ気持ちに思いっきり共感した。(堀)
2018年/日本/カラー/シネスコ/92分
配給:ビターズ・エンド
(c)2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会
http://blue-hour.jp/
★2019年10月11日(金)ロードショー
クロール 凶暴領域(原題:原題:Crawl)
監督:アレクサンドル・アジャ
脚本:マイケル・ラスムッセン
ショーン・ラスムッセン
撮影:マキシム・アレクサンドル
出演:カヤ・スコデラーリオ(ヘイリー)、バリー・ペッパー(デイブ)、モーフィッド・クラーク(ベス)、ロス・アンダーソン(ウェイン)
女子大生のヘイリーは、子どものころから水泳に打ち込み今は競泳の選手をしている。フロリダで一人暮らしをしている父デイブと連絡が取れない、と姉から電話が入りこのところ疎遠だった父が心配になった。ハリケーンの暴風雨の中、急ぎ実家へ向かうと、近隣はみな水に浸かり住民は避難していた。家中を探して、やっと地下室で倒れている父を見つけたが重傷だった。助けようとしたヘイリーも巨大なワニに襲われる。洪水のため、近くにあるワニ園からたくさんのワニが逃げ出していたのだった。
パニックもの、サバイバルものが好きな方にお薦め!巨大ハリケーンの直撃で周りは大洪水、家の中にまでワニが侵入してきます。どんどん上がる水位に、カナヅチの私なら絶望するしかありませんが、ヘイリーは水泳選手。父はいつも試合前に「お前は最強の捕食者!」と励ましてくれていたのです。ワニもその最強の捕食者の一つなので、ここでガチ対決です。
ヒラリーは何度も脱出を図るのですが、重傷を負った父と愛犬とハリケーンの中で取り残されてしまい、結局自宅でワニと闘います。いやはや、観ながら何度ドッキリ!したかわかりません。心臓の弱い方ご注意ください。たくましいヒロインは『メイズ・ランナー』シリーズのカヤ・スコデラリオ。不死身の父デイブは名バイプレイヤーのバリー・ペッパー。(白)
2019年/アメリカ/カラー/シネスコ/87分
配給:東和ピクチャーズ
(C)2019 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
https://crawlmovie.jp/
★2019年10月11日(金)ロードショー
トスカーナの幸せレシピ 原題:Quanto Basta
劇場公開情報
YEBISU GARDEN CINEMA 10/11(金) 〜
東京 新宿武蔵野館 10/12(土) 〜
監督・脚本:フランチェスコ・ファラスキ
脚本:フィリッポ・ボローニャ、ウーゴ・キーティ
製作:ファビアノ・グラーネ ダニエレ・マッツォッカ
製作総指揮:アンドレア・ボレッラ
撮影:ステファーノ・ファリベーネ
編集:パトリツィオ・マローネ
音楽:パオロ・ビバルディ
字幕:吉田裕子
出演:ヴィニーチョ・マルキオーニ、ルイジ・フェデーレ、ヴァレリア・ソラリーノ
元一流シェフとアスペルガー症候群青年の友情を描く
卓越した腕を持ち、開業したレストランも成功させた元三ツ星レストランのシェフ・アルトゥーロと、「絶対味覚」を持ち、料理の才能を秘めたアスペルガー症候群の青年グイドが、料理を通し築いていく友情や絆が描かれる。イタリアを舞台にしたハートウォーミングドラマ。
アルトゥーロは共同経営者に店の権利を奪われたことで暴力事件を起こし刑務所へ。順風満帆だった人生から転落。〝グルメ界の神〟になりそこねた不器用で怒りっぽい性格の中年男。
地位も名誉も信頼も失い、社会奉仕活動を命じられ、自立支援施設「サン・ドナート園」でアスペルガー症候群の若者たちに料理を教えることになった。 荒っぽい性格の料理人は、無邪気な生徒たちと初日からギクシャク。しかし、施設で働くアンナの後押しもありなんとか続けていた。そんな生徒のなかに、食材やスパイスを完璧に言い当てられる〝神の舌を持つ天才〟グイドがいた。
祖父母に育てられているグイドは、料理人として自立できれば、家族も安心するだろうと考え「若手料理人コンテスト」へ出場することにした。グイドの祖父母のオンボロ自動車をアルトゥーロが運転し、コンテスト会場トスカーナまでの奇妙な二人旅。3日間に渡るコンテストでグイドは決勝まで進むことができた。しかし、アルトゥーロに料理人としての将来をかけた仕事が急に舞い込み、決勝戦ではグイドのもとを離れることになってしまった。果たしてグイドは優勝できるのか。想像力と創造性溢れるイタリア料理の魅力が描かれる
アルトゥーロを演じるのは、凄惨な自爆テロから生還した男の実話『イラクの煙』(10)で「ヴェネチア国際映画祭イタリア映画記者賞」やイタリアのアカデミー賞「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞」ほか多くの主演男優賞に輝いたヴィニーチョ・マルキオーニ。口にした料理の材料と調味料をすべて言い当てることができる「絶対味覚」の持ち主グイドを熱演したのは若手注目株ルイジ・フェデーレ。純朴なキャラクターの喜怒哀楽を巧みに表現し、本作で「国立イタリア映画記者連盟賞」を受賞。この二人を見守る女性心理学者アンナは、イタリアでスマッシュヒットを記録しシリーズ化された『いつだってやめられる10人の怒れる教授たち』のヴァレリア・ソラリーノ。それぞれ、人間味あふれるナチュラルな演技が芳醇なスパイスとなって、観客の心を感動で満たしていく。
公式HP
2018/イタリア語/イタリア/92分/5.1chデジタル/カラー
配給:ハーク
最初はほとんど説明もなく、すぐ自立支援施設が舞台になってしまったので、この主人公シェフ、アルトゥーロの、それまでの仕事ぶりがよくわからなかったけど、怒りっぽい男というのはよくわかった。いやいやながら「サン・ドナート園」でアスペルガー症候群の若者たちに料理を教えていたけど、なりゆきでトスカーナで行われる料理にコンテスト行くはめになってしまい、思いっきりめんどくさそうな様子だったけど、徐々に考えが変わり、自分のステップアップの仕事をほおり投げて、生徒たちとレストランを開くという最後の展開は、けっこう感動ものだった(暁)。
YEBISU GARDEN CINEMA 10/11(金) 〜
東京 新宿武蔵野館 10/12(土) 〜
監督・脚本:フランチェスコ・ファラスキ
脚本:フィリッポ・ボローニャ、ウーゴ・キーティ
製作:ファビアノ・グラーネ ダニエレ・マッツォッカ
製作総指揮:アンドレア・ボレッラ
撮影:ステファーノ・ファリベーネ
編集:パトリツィオ・マローネ
音楽:パオロ・ビバルディ
字幕:吉田裕子
出演:ヴィニーチョ・マルキオーニ、ルイジ・フェデーレ、ヴァレリア・ソラリーノ
元一流シェフとアスペルガー症候群青年の友情を描く
卓越した腕を持ち、開業したレストランも成功させた元三ツ星レストランのシェフ・アルトゥーロと、「絶対味覚」を持ち、料理の才能を秘めたアスペルガー症候群の青年グイドが、料理を通し築いていく友情や絆が描かれる。イタリアを舞台にしたハートウォーミングドラマ。
アルトゥーロは共同経営者に店の権利を奪われたことで暴力事件を起こし刑務所へ。順風満帆だった人生から転落。〝グルメ界の神〟になりそこねた不器用で怒りっぽい性格の中年男。
地位も名誉も信頼も失い、社会奉仕活動を命じられ、自立支援施設「サン・ドナート園」でアスペルガー症候群の若者たちに料理を教えることになった。 荒っぽい性格の料理人は、無邪気な生徒たちと初日からギクシャク。しかし、施設で働くアンナの後押しもありなんとか続けていた。そんな生徒のなかに、食材やスパイスを完璧に言い当てられる〝神の舌を持つ天才〟グイドがいた。
祖父母に育てられているグイドは、料理人として自立できれば、家族も安心するだろうと考え「若手料理人コンテスト」へ出場することにした。グイドの祖父母のオンボロ自動車をアルトゥーロが運転し、コンテスト会場トスカーナまでの奇妙な二人旅。3日間に渡るコンテストでグイドは決勝まで進むことができた。しかし、アルトゥーロに料理人としての将来をかけた仕事が急に舞い込み、決勝戦ではグイドのもとを離れることになってしまった。果たしてグイドは優勝できるのか。想像力と創造性溢れるイタリア料理の魅力が描かれる
アルトゥーロを演じるのは、凄惨な自爆テロから生還した男の実話『イラクの煙』(10)で「ヴェネチア国際映画祭イタリア映画記者賞」やイタリアのアカデミー賞「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞」ほか多くの主演男優賞に輝いたヴィニーチョ・マルキオーニ。口にした料理の材料と調味料をすべて言い当てることができる「絶対味覚」の持ち主グイドを熱演したのは若手注目株ルイジ・フェデーレ。純朴なキャラクターの喜怒哀楽を巧みに表現し、本作で「国立イタリア映画記者連盟賞」を受賞。この二人を見守る女性心理学者アンナは、イタリアでスマッシュヒットを記録しシリーズ化された『いつだってやめられる10人の怒れる教授たち』のヴァレリア・ソラリーノ。それぞれ、人間味あふれるナチュラルな演技が芳醇なスパイスとなって、観客の心を感動で満たしていく。
公式HP
2018/イタリア語/イタリア/92分/5.1chデジタル/カラー
配給:ハーク
最初はほとんど説明もなく、すぐ自立支援施設が舞台になってしまったので、この主人公シェフ、アルトゥーロの、それまでの仕事ぶりがよくわからなかったけど、怒りっぽい男というのはよくわかった。いやいやながら「サン・ドナート園」でアスペルガー症候群の若者たちに料理を教えていたけど、なりゆきでトスカーナで行われる料理にコンテスト行くはめになってしまい、思いっきりめんどくさそうな様子だったけど、徐々に考えが変わり、自分のステップアップの仕事をほおり投げて、生徒たちとレストランを開くという最後の展開は、けっこう感動ものだった(暁)。
2019年10月05日
天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント(原題:Why Are We Creative?)
監督・製作:ハーマン・ヴァスケ
出演:デヴィッド・ボウイ、クエンティン・タランティーノ、ジム・ジャームッシュ、ペドロ・アルモドバル、ビョーク、イザベル・ユペール、スティーヴン・ホーキング、マリーナ・アブラモヴィッチ、ヤーセル・アラファト、ボノ、ジョージ・ブッシュ、ウィレム・デフォー、ウンベルト・エーコ、ミハイル・ゴルバチョフ、ミヒャエル・ハネケ、ヴェルナー・ヘルツォーク、サミュエル・L・ジャクソン、アンジェリーナ・ジョリー、北野武、ジェフ・クーンズ、ダイアン・クルーガー、スパイク・リー、ネルソン・マンデラ、オノ・ヨーコ、プッシー・ライオット、その他大勢。
大学時代に“クリエイティビティ”の意味を問い始めたバシュケ監督。ロンドンの名門広告代理店に入社後は“クリエイティブ・ディレクター”の下で“クリエイティブな案件”を産み出す“クリエイティブ部門”で働いたにも関わらず、“クリエイティブ”の謎が深まった。
「自身のアイデアを抽象的なものから実態のあるものに変化させるものは何なのか?」と考え抜いた果てに辿り着いたのが、「Why are you creative?(あなたはなぜクリエイティブなのですか)」というシンプルな質問。
以後、世界で活躍する“クリエイティブ”な人物に会い、「Why are you creative?」というシンプルな質問を投げ掛けてきた。時にアポなし、時にぶら下がり取材でアタックしたのは30年で1000人以上。
2002年にはカンヌ国際映画祭の連動企画として「Why are you creative?」コレクションを開催。2018年には30周年記念として故郷ドイツのベルリンとフランクフルトで大々的にコレクションを発表した。
本作は世界で活躍する“クリエイティブ”な人物がヴァスケ監督から放たれる突然の質問に答えるインタビュー映像から107名を厳選した。
ヴァスケ監督は学生の頃から考え続けたテーマを著名人に次々とぶつけた。その答えは人それぞれ、千差万別で面白いが、私にはむしろ監督の人選が興味深い。今は亡きミュージシャンのデヴィッド・ボウイやスティーヴン・ホーキンス博士やネルソン・マンデラ元大統領に始まり、ダライ・ラマ法王14世やミハイル・ゴルバチョフ元大統領といった世界の超大物にも取材する。日本人としては映画監督でありタレントの北野武、写真家の荒木経惟、パリコレで長年活躍するファッションデザイナーの山本耀司、そしてアーティストのオノ・ヨーコが取り上げられた。デヴィッド・ボウイは時期を変えて3回も取材している。もしかすると本作に取り入れたのが3回分であって、実はもっと何度も取材しているのかもしれない。
30年続けた取材を通して、監督は自らの答えを得ることができたのだろうか。そろそろ監督の答えを聞かせてほしい。(堀)
2018年/ドイツ/英語・ドイツ語・フランス語・ロシア語・日本語/88分/ビスタ/5.1ch
配給:アルバトロス・フィルム
©️2018 Emotional Network
公式サイト:http://tensai-atama.com/
★2019年10月12日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
2019年10月03日
ボーダー 二つの世界 原題:Gräns/英題:Border
監督:アリ・アッバシ
原作・脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『ぼくのエリ 200歳の少女』
出演:エヴァ・メランデル、エーロ・ミロノフ、ヨルゲン・トーション、アン・ペトレン、ステーン・ユンググレーン
違法なものを持つ人をかぎ分けることができる税関職員のティーナ(エヴァ・メランデル)は、ある日、勤務中に風変わりな旅行者のヴォーレと出会う。彼を見て本能的に何かを感じたティーナは、彼を自宅に招き、離れを宿泊先として貸し出す。ティーナはヴォーレのことを徐々に好きになるが、彼はティーナの出生の秘密に関わっていた。
今年の洋画暫定1位に推したい作品をご紹介出来ることが嬉しくて仕方がない。冒頭から観客の眼を釘付けにする主人公の容姿。備わった能力が、違法な匂いだけでなく、”悪意”まで嗅ぎとる、と知った時から、本作のただならぬ様相に心がざわついてくる。
日本でも根強い人気を持つ『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作者であるスウェーデン人作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説は意外なほどの短編だ。イラン系デンマーク人のアリ・アッバシ監督は、よくぞあの原作から想像力を羽ばたかせ、登場人物たちのビジュアルを造形したものだと感心する。
北欧の湿原、深い森と湖を舞台に蒼白且つ怜悧な舞台設定は、湿った空気や粘菌の感触まで漂ってくるようだ。その背景の中に主要男女を配置した途端に生まれる圧倒的な映像のインパクト。本作の魅力は、あらゆる要素が観客を引き込む点だ。終始、静謐さを保ちながら展開する極めて普通の日常。主人公は社会生活に溶け込んでいる。それを打破る男の出現。観る者は主人公と同化し、男のフリーキッシュな風貌と行動に動揺を覚えて行く。
脚本も兼ねる原作者のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストは、性別や種族の境界に興味があるらしい。その点は『ぼくのエリ〜』と似て非なるものがある。『エリ〜』に観られた切なさや詩情は本作にはない。獣的官能と自然世界が混在し、未だかつて観たことがなく生涯忘れ得ぬ映画体験を齎してくれるだろう。
北欧の民間伝承に基く甘美な世界にぜひ脚を踏み入れてほしい。衝撃的な場面も無修正での公開に踏み切った配給会社は大英断だ。絶対のお薦め作!(幸)
私が本作に注目したのは、ほかでもない、監督がイラン人であるということからだ。アリ・アッバシは、1981年、イラン・テヘラン生まれ。テヘラン工科大学での研究を2002年で辞め、スウェーデン・ストックホルムに移住。建築学の学位を取得。その後、デンマーク国立映画学校に入学し演出を学ぶ。現在、コペンハーゲン在住。
プレス資料に掲載されているインタビューの中で、「この作品は自分自身のアイデンティティを選ぶことのできる人についての映画である」と語っている。
アリ・アッバシは「イランでもコペンハーゲンと同じくらい少数派だ」という。(宗教的、例えばゾロアスター教徒やバハーイー教徒、無神論者、それともジェンダー的なのか定かではない)それでも、イランの文化に育まれた背景があるという。
「見えないものに、より興味を持つ。死と死後の世界に夢中である。見えない何かが常に働いていると思っている。時にそれは少し妄想的かもしれないし、また詩的であるかもしれない」
イランには脈々と続く詩の文化がある。『ボーダー 二つの世界』の中で、表面的にイランが顔を出している場面はないが、まさしくアリ・アッバシ監督をイラン人たらしめている詩的な世界が広がっている。醜い容姿のティーナとヴォーレの異様な行動が不思議に官能的に思えるのも、その故か。衝撃の一作であることは間違いない。(咲)
2018年/スウェーデン・デンマーク/スウェーデン語/110分/シネスコ/DCP/カラー/5.1ch/R18+
配給:キノフィルムズ
©Meta_Spark&Kärnfilm_AB_2018
公式サイト:http://border-movie.jp/
★10月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー★
アップグレード 原題:UPGRADE
監督・脚本:リー・ワネル 製作:ジェイソン・ブラム
出演:ローガン・マーシャル=グリーン、メラニー・バレイヨ、スティーブ・ダニエルセン、アビー・クレイデン、ハリソン・ギルバートソン、ベネディクト・ハーディ
近未来で妻のアシャ(メラニー・ヴァレジョ)と穏やかに生活していたグレイ・トレイス(ローガン・マーシャル=グリーン)は、突如現れた正体不明の組織に襲われる。妻は殺され、グレイは一命を取り留めるが、全身が麻痺してしまう。悲しみに沈む中、ある科学者から実験段階にある人工知能チップ“STEM”を肉体に埋め込む手術を提案され、受けることにするグレイ。やがて彼は体を動かせるようになったばかりか、驚異的な身体能力を得る。
これは新たな『ターミネーター』シリーズになるのではないか?という予感は遠からず…だった。ワネル監督自身、『ターミネーター』に強い影響を受けたそうだ。『ターミネーター』も1作目は低予算のインディペンデント作品ながら、豊かな発想とスケールの大きさで注目された。本作は『ターミネーター』をそれこそ”アップグレード”したような独創的な発想、奇抜な映像表現による近未来SFである。
AIチップが埋め込まれ、驚異的な身体能力を手に入れた男。脳内のチップ「STEM」と会話する様は”バディ映画”の新機軸といえよう。映画ファンなら誰もが知る『2001年 宇宙の旅』に於けるコンピューター”HAL”。あのハンサム声が全編にこだまし、脳内はフル回転、身体は超絶ロボット化すると想像してほしい。観客は聴覚、視覚から圧倒的な快感を得るのだ。
サウス・バイ・サウスウエストや、シッチェス・カタロニア国際映画祭など著名な映画祭で観客賞受賞し、批評サイト「Rotten Tomatoes」でも高評価を獲得したのが納得のクオリティである。
主人公を演じるローガン・マーシャル=グリーンのアクションには驚かされた!まるで本物のサイボーグが戦闘態勢に入ったかのようにしか見えない。トム・ハーディ似のイケメンでもあるので、今後ライジングして行く予感がする。
自然が破壊され、人工的な近未来世界の中で、坪庭のような日本庭園が眼を引いた。低予算の中で優れた映画にしようという気概を持つ美術・撮影・音響デザインといったスタッフワークにもご注目を。(幸)
自動運転の車が暴走し、事故を起こす。AIが管理する社会を進んでいると表現していいのか。事故後、妻を殺され、主人公も脊髄を損傷して四肢不随に。AIチップを埋め込まれることで動けるようになり、復讐に走った。しかし、次第にAIが暴走。その先に本当の復讐相手が見えてくる。
作品はすべてをAIに任せることへ警鐘を鳴らす。判断はテクノロジーに任せず、自らすべきと改めて思う。(堀)
配給:パルコ
2018年/アメリカ/カラー/スコープサイズ/英語//100分
©2018 UNIVERSAL STUDIOS
公式サイト:http://upgrade-movie.jp/
★10月11日(金)より渋谷シネクイントほか全国ロードショー★