2019年09月28日
ホームステイ ボクと僕の100日間(原題:Homestay)
監督・脚本:パークプム・ウォンプム
原作:森絵都「カラフル」
出演:ティーラドン・スパパンピンヨー(ミン)、チャープラン・アーリークン(パイ)
ボクは死んだはずだった。けれども「当選しました!」という天使の声で目がさめる。生前の記憶が何もないまま、ボクは自殺した高校生ミンの身体にホームステイすることになった。ミンは蘇ったわけだ。しかし、ことは簡単じゃない。100日の間にミンの自殺の原因をさぐりださないとボクの魂は輪廻の輪の中に入れず、永遠に消滅する。いろいろな姿で現れても肝心なことは教えてくれない天使に助けられ、ボクはミンの人生を生き始めた。頭が良くて可愛い女子高生パイと出会って、すっかり舞い上がるボク。楽しい時間は刻々と過ぎていき、ミンの死の手掛かりになりそうなものはまだ見つからない。
『カラフル』は2000年に中原俊監督で実写版が、2010年にはアニメーションが製作されています。原作はタイでも翻訳出版されて人気だったそうですが、映画化の話が出てから実際に制作が始まるまでずいぶんとかかったようです。現在のタイの高校生のストーリーに脚色、良い俳優を得て本家の日本でも公開されることになりました。
お国柄なのか、色彩や登場人物の感情が日本版より濃くて、豊かな感じがします。家庭が抱える事情や痛みは共通で、辛いものがありますが。
主人公のミンを演じるのはティーラドン・スパパンピンヨーは『バッド・ジーニアス』でカンニングで一儲けをたくらんだ金持ちのボンボン役でした。パイはタイのBNK48のキャプテン、チャープラン・アーリークン。トップアイドルですが、これが初の映画出演。ミンと恋に落ちる女子高生を初々しく元気いっぱいに演じています。圧巻はミン渾身の〇が広がるラスト。(白)
2018年/タイ/カラー/シネスコ/136分
配給:ツイン
(c)2018 GDH 559 CO.,LTD.ALL RIGHTS RESERVED
http://homestay-movie.com/
★2019年10月5日(土)より新宿武蔵野館館ほかにて全国順次ロードショー
向こうの家
監督・原案:西川達郎
脚本:川原杏奈
撮影:袮津尚輝
照明:小海祈
美術:古屋ひなこ
音楽:大橋征人
出演:望月歩、大谷麻衣、生津徹、でんでん、南久松真奈、円井わん、植田まひる、小日向星一
自分の家庭は幸せだ、と思っていた高校二年生の森田萩(望月歩)。しかし父親の芳郎(生津徹)にはもう一つの家があった。「萩に手伝ってもらわなきゃいけないことがある」芳郎の頼みで、萩は父親が不倫相手の向井瞳子(大谷麻衣)と別れるのを手伝うことに。自分の家と瞳子さんの家、二つの家を行き来するようになった萩は段々と大人の事情に気づいていく……。
別宅に住む愛人と別れたいから追い出してくれと息子は父から頼まれる。そこで経験するのは自宅とは違う雰囲気、手をかけた料理と会話。愛人に対する息子の心象が変わっていくように、見る側も倫理と感情で判断に迷う。否が応でもなく向き合わされた大人の世界を見ることで息子も自分と向き合うことに。価値観の多様性を知ることは大人への大きな一歩なのかもしれない。
それにしても、後ろめたい存在を仄めかすタイトルの絶妙さには唸った。(堀)
高校生の息子にそんなことを頼むお父さん、愛人を囲う甲斐性があるとは思えません。優しそうで、もてそうではあるのですが。
4人家族が暮らす家は手狭で、食卓はリビングの低いテーブルで兼用です。良き妻であろうと頑張るまじめな母親は、勢い余って空回り気味。瞳子の住むのは高台の日本家屋、勤めに出ている様子もなく、女を磨き、手をかけた料理を作る余裕があります。大谷麻衣さんは『娼年』で松坂桃李さんと激しい濡れ場を演じた人、そりゃもう色っぽくてお父さんデレデレです。本当に別れたいのか?いや、家賃や生活費が重荷になってきただけじゃないの、と主婦目線の私は勘繰りたくなります。
高校2年生にしては幼い感じの萩は、向こうの家とこっちの家を行ったり来たりしているうちにちょっとだけ大人になりました。二つの家の差、父親が全く違う顔を見せるところ、ドロドロにできるネタではありますが、萩中心に描かれるのであっさりめに進みます。
7月のスタッフ日記に試写を見た時のことが書いてありました。
西川達郎監督、大谷麻衣さん、生津徹さんがいらしていました。こちらです。(白)
2018年/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/DCP/82 分
©︎ mukonoie.com All rights reserved.
公式サイト:https://mukonoie.com/
★2019年10 月 5 日(土)より 渋谷シアター・イメージフォーラムほかロードショー
ヒキタさん! ご懐妊ですよ
脚本・監督: 細川徹
原作:ヒキタクニオ『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』(光文社刊)
撮影:大内泰
照明:宗賢次郎
美術:遠藤善人
音楽:大間々昂
出演:松重豊、北川景子、山中崇、濱田岳、伊東四朗
ヒキタクニオ、49歳。職業は人気作家。サウナとビールが大好きで、ジム通いのおかげでいたって健康体。一回り以上年が離れた妻・サチと仲良く暮らしている。年の差婚のふたりは、子どもは作らず、気ままに楽しい夫婦生活を送るつもりでいたが、ある日の妻の突然の一言ですべてが変わった。「ヒキタさんの子どもに会いたい」サチの熱意に引っ張られる形で、妊活へ足を踏み出すことになったヒキタ。だが、彼は知らなかった。まだまだ若くて健康だと自負していたが、相反して、彼の精子が老化現象を起こしていたことを……。
子どもを産む。簡単なことのようで意外と難しい。迷信と笑い飛ばしていたことにもすがってしまう。妻、夫それぞれの思いと気遣いが交錯する。そこに実家まで絡んでくるから悩ましい。男性である原作者の視点から描いた妊活に勇気をもらう人も多いだろう。
妻役に北川景子。気の強い妻かと思いきや、夫の子どもを望み、精神的負担の辛さを隠してがんばる妻を静かに熱演。これまでのイメージを覆す。(堀)
2019年/日本/カラー/シネスコ/G /102分
配給:東急レクリエーション
©2019「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」製作委員会
公式サイト:https://hikitasan-gokainin.com/
★2019年10 月 4 日(金)全国ロードショー
蜜蜂と遠雷
監督・脚本:石川慶
原作:恩田陸
撮影:ピオトル・ニエミイスキ
音楽:杉田寿宏
作曲:藤倉大「春と修羅」ほか
ピアノ演奏:河村尚子、福間洸太朗、金子三勇士、藤田真央
出演:松岡茉優(栄伝亜夜)、松坂桃李(高島明石)、森崎ウィン(マサル・カルロス・レヴィ・アナトール)、鈴鹿央士(風間塵)、臼田あさ美(高島満智子)、ブルゾンちえみ(仁科雅美)、福島リラ(ジェニファ・チャン)、眞島秀和(ピアノ修理職人の男)、片桐はいり(コンクール会場のクローク係)、光石研(菱沼忠明)、平田満(田久保寛)、アンジェイ・ヒラ(ナサニエル・シルヴァーバーグ)、斉藤由貴(嵯峨三枝子)、鹿賀丈史(小野寺昌幸)
若手ピアニストの登竜門、芳ヶ江国際ピアノコンクールは3年に一度開催される。そのコンクールにのぞむ多くのコンテスタントの一人、栄伝亜夜はかつて天才少女として嘱望されていたが、母親の死後舞台に上がることはなかった。今回は再起をかけている。高島明石は楽器店で働きながら”生活者の音楽”を目指してきた妻子のあるサラリーマン。年齢制限のある中、最後の挑戦となる。名門ジュリアード学院で学び、今人気実力ともに大本命とされるマサル・カルロス・レヴィ・アナトール。子どものころ一緒にピアノ教室に通っていた亜夜との再会を喜んでいる。そして誰も知らなかった風間塵。自分のピアノも持たない彼は、すでに亡い”ピアノの神様”の推薦状とともに現れた。
恩田陸の原作は2017年のベストセラー第1位、直木賞と本屋大賞のW受賞は初の快挙です。ストーリーの主な舞台はコンサート会場で、音楽そのものと、挑戦する登場人物一人一人の心の有様が描かれています。文字で音楽を表現した原作のファンでもありますが映画化と聞いて、これは配役とピアノ演奏が肝心!いったい誰がキャスティングされて、どんな映画になるの?とワクワクして待っていました。
俳優さんそれぞれの好演、コンテストのピアノも期待以上でした!とだけ書いておきます。後は劇場でお確かめください。
キャラクターにピタリとあったピアニストの演奏と、演じる俳優の演奏場面も少しの違和感なく、終わったときには拍手したくなるほどでした。ぜひぜひ音響の良い劇場で、音楽にとっぷりと浸るのをおすすめします。(白)
恩田陸の原作を読んだ人は「頭の中に音が聞こえてくる」とその表現力を絶賛している。そのためか、映画化は難しいといわれていたが、石川慶監督はその難題を乗り越えた。映画ではピアノの演奏が音として聞こえるので、観客の想像に委ねることができない。しかし、監督が水の雫などを使って音を視覚化することで、観客は聞こえた音に映像から受けるイメージを重ねて、音楽に更なる奥行きを加えることができる。監督の長編デビュー作『愚行録』でも雨を使った映像演出が印象に残ったことを思い出す。 “水演出の匠”と命名したくなるほどの素晴らしさだ。
俳優たちも監督の期待に応えた演技で魅せる。松坂桃李は社会人になっても夢を諦めきれず、最後のチャンスと決意してコンクールにエントリー明石を演じたが、コンクールの予選の結果を知ったときの感情を瞳の揺れだけで表現していた。昨年の『娼年』以降、演技力がどんどん研ぎ澄まされていく。
原作ファンにも十分満足してもらえる作品に仕上がったといえるだろう。(堀)
2019年/日本/カラー/シネスコ/118分
配給:東宝
(c)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
https://mitsubachi-enrai-movie.jp/
★2019年10月4日(金)全国東宝系にてロードショー