2019年09月21日

ホテル・ムンバイ(原題:HOTEL MUMBAI)

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監督:アンソニー・マラス
出演:デヴ・パテル、アーミー・ハマー、ナザニン・ボニアディ、アヌパム・カー、ジェイソン・アイザックス

インドの巨大都市ムンバイに、臨月の妻と幼い娘と暮らす青年アルジュン(デヴ・パテル)は、街の象徴でもある五つ星ホテルの従業員であることに誇りを感じていた。この日も、いつも通りのホテルの光景だったが、武装したテロリスト集団がホテルを占拠し、“楽園”は一瞬にして崩壊する。500人以上の宿泊客と従業員を、無慈悲な銃弾が襲う中、テロ殲滅部隊が到着するまでに数日かかるという絶望的な報せが届く。アルジュンら従業員は、「ここが私の家です」とホテルに残り、宿泊客を救う道を選ぶ。一方、赤ん坊を部屋に取り残されたアメリカ人建築家デヴィッド(アーミー・ハマー)は、ある命がけの決断をする。

本作は2008年にムンバイで起きた無差別同時多発テロをアンソニー・マラス監督が1年に及ぶ綿密な取材を基に、ホテルの従業員、宿泊客、テロリストの視点で描いた。
目の前に大きく広がるスクリーンでテロリストたちが容赦なく人々を殺戮していく。逃げまどう宿泊客の不安と恐怖がダイレクトに伝わってきた。テロの恐ろしさを実感に近い感覚で経験した気がする。作品を見終わったとき、疲労感しかなかった。
しかし、実行犯に対して、なぜか批判的な気持ちにはなれなかった。彼らもまた、安全な場所から携帯電話1つで指示を出すリーダーたちに利用された被害者であった側面も描いていたからである。
そんな悲劇的状況下で、ホテルの従業員たちは逃げ出さずに宿泊客を守った。500人以上の人々がテロに巻き込まれたが、亡くなったのは32人で、その半数は宿泊客を守るために残った従業員だったという。彼らのホテルマンとしての矜持に、武力ではなく思いやる心で国や民族を超えた平和をもたらすことができるという希望がまだあると感じた。
疲れることを覚悟した上で、ぜひご覧いただきたい。(堀)


2008年11月26日夜にインド・ムンバイで高級ホテル、駅、レストランなどが襲撃された同時多発テロ。本作の前に、フランス映画『パレス・ダウン』(ニコラ・サーダ監督)でも、父親の転勤でインドにやってきた少女がタージマハル・ホテルの部屋で留守番をしている時にテロに遭遇するという形で取り上げられていた。『パレス・ダウン』は、2016年のフランス映画祭で上映され、その後「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016」で限定公開されている。その折に、大学の後輩男性から、テロの起こるほんの1時間程前までタージマハル・ホテルで打ち合わせをしていたと聞かされた。まさに私たちはどこでテロに遭うかわからない時代に生きているのだと思う。

本作で私が注目したのは、イラン生まれで、英国で育ち、今はアメリカを中心に活躍する女優ナザニン・ボニアディ。大富豪カシャーニー家のお嬢様ザーラ役で、アーミー・ハマー演じるアメリカ人建築家デヴィッドと出来ちゃった結婚し、赤ちゃんとベビーシッターを伴ってタージマハル・ホテルに超VIP待遇で迎えられる。
カシャーニーというイラン系の名前からして、パールシー(7世紀、イランにイスラームが侵攻した折に、イランからインドに逃れたゾロアスター教徒)の子孫かなと想像。ある場面でそうでないことが判明。無垢な若者たちが宗教の名のもとに洗脳され、テロの片棒を担いでいるのがわかる重要な場面でもあるので、お見逃しなく!
なお、タージマハルホテルの創業者ジャムシェトジー・タタもパールシーで、タタ財閥はインド最大の財閥である。

また、主人公のホテル従業員アルジュンは、シク教徒という設定。髭とターバン姿が不安という宿泊客のイギリスの老婦人に、「シク教徒にとってパグリーと呼ぶターバンは、一族の名誉を守る高潔なものだけれど、お客様が怖いならはずします」と語る場面がある。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの後、アメリカ国内でターバン姿のシク教徒がイスラーム教徒と間違えられ嫌がらせを受けたことにも思いが至った。(咲)


2018年/オーストラリア、アメリカ、インド合作/英語/123分/カラー/シネスコ
配給:ギャガ
© 2018 HOTEL MUMBAI PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, ADELAIDE FILM FESTIVAL AND SCREENWEST INC
公式サイト:https://gaga.ne.jp/hotelmumbai/
★2019年9月27日(金)TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー






posted by ほりきみき at 19:54| Comment(0) | オーストラリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち 原題:THE HUMMINGBIRD PROJECT

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監督・脚本:キム・グエン
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、アレクサンダー・スカルスガルド、サルマ・ハエック、マイケル・マンド

ヴィンセント(ジェシー・アイゼンバーグ)と従兄弟のプログラマー、アントン(アレキサンダー・スカルスガルド)は、高速で株の売買をする高頻度取引で年間500億円以上の利益を得るため、カンザス州のデータセンターからニューヨーク証券取引所まで約1,600キロを直線の光回線でつなぐことを思いつく。0.001 秒の時間短縮を目指して奮闘する彼らの前に、1万件の地主との買収交渉など次々と苦難が立ちはだかる。

"ハミングバード(ハチドリ)"は、ネイティブ・アメリカンが神聖視する鳥。サブタイトルの"0.001秒"とは、そのハチドリが1回羽ばたく時間だそう。ポエトリーなイメージを喚起させるプロジェクト名に似つかわしくなく、本作はハラハラドキドキ、こちらの胃が痛くなってしまうほど迫真力に満ちた内容だ。

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』や『マネー・ボール』といったノンフィクション作家の原作を元にしていると知り、合点がいった。
しのぎを削る米国金融市場を常に新鮮な視点から切り取る作家ならではのリアルさを優れたエンターテインメントとして実写化に成功している。

投資、損益、リスク、冷徹な計算...、シビアな金融市場の世界を極めて人間味豊かに、しかも疾走感と熱量、高揚感を色濃く表現しながら、静謐な結末へと導く。

功労者である2人の俳優、ジェシー・アイゼンバーグはマシンガントークを繰り出す行動派、イケメン・キレキレボディのアレクサンダー・スカルスガルドが、まさかのハゲ頭と猫背でアルゴリズム作成に挑戦するプログラマーを演じ、それぞれ役者魂を見せつけて本作に説得力を齎す。2人の名演は必見!(幸)


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株の高頻度取引ではデータ送信が0.001秒でも早いことが大事なのだそう。主人公たちは血眼になって時間短縮を図る。その結果、彼らは何を手に入れたのか。人生で大切なものを失ってはいないか。生き方に正解はないが、経済効率を重視する世の中に一石を投じる。ジェシー・アイゼンバーグはいつも通りの役どころだが、アレクサンダー・スカルスガルドが別人のような姿をさらけ出し、新たな魅力を放っていた。(堀)

2018 年/カナダ・ベルギー/カラー/5.1ch/スコープ/英語/111 分/
配給:ショウゲート
©2018 Earthlings Productions Inc./Belga Productions
公式サイト:http://hummingbirdproject-movie.jp/
★9 月 27 日(金)TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー★
posted by yukie at 17:54| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

エセルとアーネスト ふたりの物語(原題:Ethel & Ernest)

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監督:ロジャー・メインウッド
原作:レイモンド・ブリッグズ「エセルとアーネスト ふたりの物語」(バベルプレス刊)
音楽:カール・ディヴィス
エンディング曲:ポール・マッカートニー
出演:ブレンダ・ブレシン(エセル)、ジム・ブロードベント(アーネスト)、ルーク・トレッダウェイ(レイモンド・ブリッグズ)

「さむがりやのサンタ」「スノーマン」「風が吹くとき」などの絵本で日本でもよく知られているレイモンド・ブリッグス。彼の両親の思い出を描いた絵本を、味わいある手描きで忠実に再現したアニメーション。

1928年のロンドン。メイドとして働くエセルは、毎朝窓の下を通る牛乳配達人のアーネストと知り合い、二人は恋に落ちて2年後に結婚。アーネストは陽気で楽天的、エセルは生真面目で働き者、郊外のウィンブルドンパークに小さな家を買う。1934年、待望の一人息子レイモンドが生まれる。すくすくと成長したが戦争の影が近づいていた。疎開した息子からの便りを楽しみに戦火のロンドンで過ごす二人、1945年ようやく終戦の日が訪れた。レイモンドは希望校に進学しエセルは大喜びするが、青年期に入って美術の道に進むと言い出す。

世界的に有名な絵本作家のレイモンド・ブリッグズ。本人が机に向かっているシーン(実写)が登場します。少し背中を丸めて、拡大鏡を覗きながら両親の絵を描いています。机の周囲にあるペン立てや置物、壁のポスター…ファンは嬉しいですよね(私は大喜びでした。スノーマンのカップ&ソーサ―愛用中)。
映画は「普通の人だったパパとママ」が出会ってから亡くなるまでを丁寧に描いていきます。20世紀のほとんどを生きた普通の人の歴史が息づいています。戦争を生き延び、その後の復興と経済成長を体験します。次々と進化し生産された家電や乗用車を買うことを目標に、私の親たちも生きてきました。
3月の東京アニメアワードフェスティバルには、プロデューサーが来日し、『この世界の片隅で』の片渕須直監督とトークセッションがありました。ごく普通の人々の暮らしを描いた両作品も、世界中の片隅で生きた人たちの思いも、みなこのように似通っています。せっかく手に入れた平和を手放さないようにしたい、とあらためて思いました。(白)


「スノーマン」で知られる絵本作家レイモンド・ブリッグズが両親の出会い、結婚、家庭生活について描いた絵本を映画化。
ちょっと見栄っ張りでネガティブな母は息子の成長に一喜一憂する。そんな母を父は大らかに包み込む。夫婦の愛がじんわりと伝わってきた。
2人の夫婦生活に水洗式トイレ、ガス湯沸かし器、ラジオ、電話、冷蔵庫、テレビ、車など、文明の利器が少しずつ入り込む。イギリス庶民の生活史が見えた。
戦争が生活に落とした影は大きく、鉄製品が没収され、子供が疎開する。日本と同じだったと知り、改めて戦争は絶対にしてはならないと思う。(堀)


2016年/イギリス・ルクセンブルク合作/カラー/ヴィスタサイズ/94分
配給:チャイルド・フィルム、ムヴィオラ
(C)Ethel & Ernest Productions Limited, Melusine Productions S.A.,The British Film Institute and Ffilm Cymru Wales CBC 2016
https://child-film.com/ethelandernest/
★2019年9月28日(土)岩波ホールほか全国順次公開
posted by shiraishi at 17:46| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ヘルボーイ(原題:Hellboy)

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監督:ニール・マーシャル
原作:マイク・ミニョーラ
脚本:アンドリュー・コスビー
出演:デヴィッド・ハーバー(ヘルボーイ)、イアン・マクシェーン(ブルーム教授)、ミラ・ジョヴォヴィッチ(ニムエ)、ダニエル・デイ・キム(ベン・ダイミョウ少佐)、サッシャ・レイン(アリス・モナハン)

紀元517年、暗黒時代のイングランド。ブラッドクィーンを呼ばれる魔女ニムエは疫病を蔓延させ、世界を手中にしようとしていたが、聖剣エクスカリバーによって阻まれる。ニムエの身体はバラバラになり、世界の果てにそれぞれが封印された。
現代。悪魔の力を持つヘルボーイは極秘の超常現象調査防衛局(B.P.R.D.)のエージェントとして、人間界を守っている。B.P.R.D.の創設者で、ヘルボーイにとっては父親代わりでもあるブルーム教授から、イギリス行きの指示があった。そのころ魔女ニムエは1500年の封印を解き、人間界への復讐に燃えていた。巨人退治のつもりで出向いたヘルボーイは、英国のエージェントと共に、強大な力を持つニムエと闘うことになった。

アメコミの異色のヒーロー、地獄で生まれた悪魔の子ヘルボーイは人間界に産み落とされ、ブルーム教授に育てられました。そのあたりは2004年の第1作『ヘルボーイ』2008年『ヘルボーイ ゴールデンアーミー』(ギレルモ・デル・トロ監督/ロン・パールマン主演)にも描かれています。異形ながらやさしい心を持つヘルボーイが人間界で受けた冷たい仕打ちはいかばかりか?それでもねじくれずに育っておばちゃんは嬉しい。本作では人間不信に陥った彼が、ニムエの甘言や罠にはまって悪魔界へ取り込まれそうになりますが…。
監督は「ゲーム・オブ・スローンズ」にも参加したニール・マーシャルに、ヘルボーイはデヴィッド・ハーバーに選手交代し、原作のマイク・ミニョーラが企画から関わって、25年も続いたコミックスの再映画化を支えました。クリーチャーが大量出現するアクション満載のダークファンタジーですが、男子好みなだけではありません。女子はアリスに感情移入できますし、相変わらずきりりと美しいミラ・ジョヴォヴィッチも悪役ながらかっこいいですよ。(白)


2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/120分
配給:REGENTS
(c)2019 HB PRODUCTIONS, INC.
http://hellboy-movie.jp/
★2019年9月27日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 17:23| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

宮本から君へ

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監督:真利子哲也
原作:新井英樹
脚本:真利子哲也、港岳彦
撮影:四宮秀俊
音楽:池永正二
主題歌:宮本浩次「Do you remember?」
出演:池松壮亮(宮本浩)、蒼井優(中野靖子)、井浦新(風間裕二)、一ノ瀬ワタル(真淵拓馬)、柄本時生(田島薫)、星田英利(小田三紀彦)、古舘寛治(岡崎部長)、松山ケンイチ(神保和夫)

金なし!コネなし!勝ち目なし!・・・でも情熱だけは半端ない!熱血営業マン・宮本浩が“絶対に勝たなきゃいけないケンカ”に挑む!宮本の暑苦しくも切ない生き様を描いた“極限の”人間賛歌”が描かれるエンターテイメント!(プレスより)

文具メーカー「マルキタ」の営業マンの宮本浩は、不器用で営業スマイルやお世辞が苦手、けれども情熱と正義感だけは人一倍ある。先輩・神保の仕事仲間の中野靖子に出会った。芯が強く、自立した靖子に恋に落ちた宮本は、元カレの風間が靖子に手を上げたとき思わず「この女は俺が守る!」と宣言。これをきっかけに二人の絆はより強くなった。ある日、取引先の馬淵部長との酒の席に靖子と参加した宮本はすっかり泥酔し、馬淵の息子・拓馬が自宅まで送ってくれることになった。眠り込んだ宮本の横で靖子は襲われてしまう。

テレビ版もあるそうですが、そちらは観ていなくてこちらが初見。めちゃめちゃ熱量の高い映画で、こんなに怒鳴りあってる池松さんや蒼井さんを初めて見ました。撮影が終わったらぐったりしたのではないかしら?二人熱演です。そこへ乱入してくる元カレが井浦新さん。どうしようもないノラクラでDV男なのに、離れがたい魅力のある風間を演じて、これも上手い!
そこに存在しているだけで圧が半端なかった拓馬役の一ノ瀬ワタルさん、力任せの荒業が怖すぎて、後で倍返しを食らってもちっとも可哀そうじゃありませんでした。みんなに応援される宮本と反対に、憎まれるリスキーな役でしたが、やり切りましたね。
誰かを「守る」って簡単じゃありません。四六時中ひっついてるわけじゃなし、どこでどんな災難が降りかかるやら。女は自分で自分を守れるようになりましょう。男は”約束を守る”こと。それだって結構な難題。宮本の約束が「靖子を守ること」でした。靖子はその心意気に惚れたんです。傷ついてもこの二人ならやり直せる。中身はずいぶん違うけれど、ドラえもんとの約束を守ってジャイアンに立ち向かい、ボロボロになったのび太くんのシーンが浮かびました。(白)


愛する女を生涯かけて守るとはどういうことか。腕力のない主人公が心と体の痛みをぐっと堪え、無茶を承知で無様な姿を曝け出しながらも猛進する。その姿は痛々過ぎて滑稽だが、愛情の強さがガンガンに伝わってきた。池松壮亮が超情けなくて、無様で、ダメダメだけど、たまらなくカッコいい! 池松壮亮史上最高!
対する蒼井優も負けてない。強さと弱さを併せ持つ靖子を見事に表現する。
エンドロールに映し出される2人の笑顔が眩しすぎる。天皇が皇后にプロポーズしたときの言葉を思い出した。(堀)


2018年/日本/カラー/シネスコ/129分
配給:スターサンズ,KADOKAWA
(c)2019「宮本から君へ」製作委員会
https://miyamotomovie.jp/
★2019年9月27日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 17:12| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

劇場版 そして、生きる

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監督:月川翔
脚本:岡田惠和
音楽:村松崇継
出演:有村架純 坂口健太郎 知英 岡山天音 萩原聖人 光石 研 南 果歩 ほか

3歳のときに交通事故で両親を亡くした生田瞳子(有村架純)は、盛岡で理髪店を営む伯父に引き取られる。天真爛漫に育った瞳子は、時に地元のアイドルとして活躍することもあり、いつしか女優を志すようになっていた。
そして19歳になった瞳子は、東京で開催されるオーディションに挑もうとするが、その前日の2011年3月11日、東日本大震災が起きる。
その年の秋、瞳子はカフェで一緒に働いている韓国人のハン(知英)とともに、気仙沼のボランティア活動に参加する。瞳子はそこで、学生ボランティア団体の運営メンバーである東京の大学生・清水清隆(坂口健太郎)と出会う。穏やかで整然と現場を取り仕切る清隆だったが、瞳子はなぜか彼のほほえみに違和感を覚える。清隆自身もまた過酷な運命を背負っていることを、瞳子は知る由もなかった。そして気仙沼で一緒の時間を過ごした瞳子と清隆は、いつしか互いに特別な感情を抱いていく。

WOWOWオリジナルドラマの劇場版。脚本家・岡田惠和のオリジナルストーリーを月川翔監督がメガホンをとった。テレビドラマでは放送されなかった未公開シーンを追加している。主演は有村架純&坂口健太郎。
東日本大震災ボランティアで出会った男女の愛の変遷。愛しているから別れを選ぶ。辛くても生きていけるのは自分で選んだ人生だから。お手盛り感あるラストを期待したのだが、そんな甘えた気持ちを突き放すように、有村架純演じる主人公は前を向いて歩いていく。タイトルをずっしりと感じた。(堀)


2019年/日本/カラー/135分
配給:WOWOW
Ⓒ2019 WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/dramaw/ikiru/
★2019年9月27日(金)全国公開
posted by ほりきみき at 14:45| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

春画と日本人

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監督・撮影・編集・製作著作:大墻敦
ナレーター:濱中博久
音楽:矢部優子・池田陽子・長谷川美鈴・長谷川武尚
出演;小林忠(国際浮世絵学会会長)、浅野秀剛(国際浮世絵学会理事長)、木下直之(東京大学文化資学研究室教授)、石上阿希(国際日本文化研究センター特任助教)、浦上満(永青文庫春画展実行委員、古美術商)ほか [肩書きは取材当時]

キネマ旬報ベストテン2018年文化映画第7位

日本初の大規模な春画展が、2015年9月、東京の小さな私立博物館「永青文庫」で開幕した。国内外で秘蔵されてきた貴重な春画約120点を一堂に集めて展示する画期的な試み。それまで年間2万人の来館者だった永青文庫に、3ヶ月の会期中に21万人が押し寄せた。女性来館者55%、5人に1人が図録を購入するという異例の記録を打ち立て、美術界の話題をさらった。
開催までの道のりは困難を極めた。当初は、ロンドンの大英博物館で成功を収めた「春画展」の日本巡回展として企画されたが、東京国立博物館をはじめ国内の公私立博物館20館へ打診しても不調に終わった。海外で美術品として高く評価されている春画の展示が、なぜお膝元の日本ではすんなりと成立せず、小規模な私立博物館での開催となったのか。なぜ21万人もの熱狂的な観覧者が訪れたのか。映画は、展覧会を成功に導いた人々とともに「春画と日本人」をめぐる謎に迫っていく。

なお、本作品は、「春画」のオリジナリティと、収集・保存・研究にかけてきた方たちの意図を尊重するよう、「春画」にぼかしやトリミングをかけることなく紹介しているため、18歳未満入場禁止となっている。

春画とは男女の交わりや色恋をのびやかに表現したもの。性器まで描いているものもある。葛飾北斎、喜多川歌麿、菱川師宣らの浮世絵師のほとんどが絵筆をとり、当時最高水準の「彫り・摺り」の技術を用いた傑作が多い。ピカソが葛飾北斎の春画を所有していたなど海外での評価は高い。
成功を収めた大英博物館での春画展の日本巡回展企画は紆余曲折を経て小規模な私立博物館で開催。しかし、21万人もの来館者を記録した。
なぜ日本では春画の展示がスムーズにいかないのか。警察の見解はどうなっているのか。慶應義塾の塾長(代理)を務めた高橋誠一郎は江戸時代の浮世絵の個人コレクターだった。主要なコレクションの大半は遺族から母校である慶應義塾に譲られ、現在、およそ千五百点を数える優れた浮世絵が慶應義塾図書館で保管されている。しかし、そこには高橋が集めた春画はない。それはなぜなのか。作品はいくつもの疑問を検証する。
関係者の証言から日本における春画の位置付けを紐解くことで、日本人の事勿れ主義が浮かび上がってきた。責任逃れ体質を改めて突き付けられた気がする。(堀)


この映画で、名作との誉れ高い春画を初めてよっく見ました。抑えた色、着物の柄、構図の斬新さ、隅々まで手を抜かない毛の一筋一筋、彫り・刷りの技術の高さ。その美しさに感心しました。永青文庫の春画展の入場者は女性55%と男性を上回ったそうです。描かれている男女が良い表情をしていて、生を謳歌している大らかな江戸人の姿が観られました。女性を責めたり傷つけたりの不快なものはありません。図書館にも春画の図がある本が並んでいますが、タイトルに「春画」と入った本を借りるのは女性にはちょっとハードルが高いでしょう。美術品として一級のこの作品たちを解説付きで観られます。ぜひ映画館へ足をお運びください。(白)

2018年/87分/カラー/16:9
配給:ヴィジュアルフォークロア
(C) 大墻敦
公式サイト:https://www.shungamovie.com/
★2019年9月28日(土) ポレポレ東中野にてロードショー 
2019年秋 大阪・第七藝術劇場、京都シネマ、名古屋・シネマスコーレほか 順次全国公開
posted by ほりきみき at 14:28| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

任俠学園 

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監督:木村ひさし
脚本:酒井雅秋
音楽:末廣健一郎
主題歌:「ツギハギカラフル」 東京スカパラダイスオーケストラ  
原作:今野 敏『任俠学園』(中公文庫) 
出演:西島秀俊、西田敏行、伊藤淳史、葵わかな、葉山奨之、池田鉄洋、佐野和真、前田航基、 戸田昌宏、猪野学、加治将樹、川島潤哉、福山翔大、高木ブー、佐藤蛾次郎、桜井日奈子、白竜、光石研、中尾彬(特別出演)、生瀬勝久

困っている人は見過ごせない、義理と人情に厚すぎるヤクザ”阿岐本組”。組長は社会貢献に目がなく、次から次へと厄介な案件を引き受けてしまう。今度はなんと、経営不振の高校の建て直し。いつも親分に振り回されてばかりの阿岐本組NO.2の日村(西島秀俊)は、学校には嫌な思い出しかなく気が進まなかったが、“親分(西田敏行)の言うことは絶対”!子分たちを連れて、仕方なく学園へ。待ち受けていたのは、無気力・無関心のイマドキ高校生と、事なかれ主義の先生たちだったー。

ヤクザが経営不振の高校で生徒に巣食う心の闇を任侠道で治す。眉間にシワで強面の西島秀俊が無理して笑う姿に爆笑。新たな魅力が炸裂する。日村に反発しつつ懐いていく高校生に葵わかな。生意気なところがかわいい感じにうまくはまった。親分・西田敏行は懐の深さをにじませる。校長先生・生瀬勝久とのラストの会話は生瀬のリアクションも含めて見事。
エンドロールでNGシーンが紹介されるが、そこに流れるのは西田敏行が歌う「また逢う日まで」。主題歌「ツギハギカラフル」を書き下ろした東京スカパラダイスオーケストラとのコラボだが、その歌声に胸が締め付けられた。(堀)


2019年/日本/カラー/119分
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©今野 敏 / ©2019 映画「任俠学園」製作委員会
公式サイト:https://ninkyo-gakuen.jp/
★2019年9月27日(金)全国公開!
posted by ほりきみき at 14:04| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ライリー・ノース 復讐の女神(原題:PEPPERMINT) 

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監督: ピエール・モレル 
脚本:チャド・セント・ジョン
出演:ジェニファー・ガーナー、ジョン・オーティス、ジョン・ギャラガー・Jr、フアン・パブロ・ラバ

L.A.郊外、夫と一人娘と3人、愛する家族と平凡ながら幸せに暮らすライリー・ノース。ある日、麻薬組織の襲撃により、一瞬にして家族の命を奪われ、彼女は姿を消した。そして、5年後、ライリーは再びL.A.に還ってきた。復讐のため、悪党どもに正義の鉄槌を下すために―。ライリーVS麻薬カルテル。やがてそれは、警察、メディア、そして街中を巻き込む一大決戦へと突入する。

麻薬組織に家族を殺された女性が自らを鍛え上げて復讐に身を投じた。実行犯だけでなく加担した検事や判事も次々と血祭りにあげていく。演じたJ・ガーナーのきびきびとしたアクションが見事。銀行員だった主婦がここまでできるようになるのかという疑問も、躊躇うことなくなぎ倒していく爽快さでねじ伏せてしまう。全てが終わったとき、法と人情では主人公への判断が異なるが、杓子定規ではないラストがうれしい。(堀)

2018年/アメリカ、香港/カラー/シネマスコープ/英語、スペイン語/R15/5.1ch/102分
配給:プレシディオ
(C) 2018 LAKESHORE ENTERTAINMENT PRODUCTIONS LLC AND STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://riley-north.jp/
★2019年9月27日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
posted by ほりきみき at 13:44| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする