2019年09月12日

シンクロ・ダンディーズ! 原題:SWIMMING WITH MEN

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監督:オリヴァー・パーカー
出演:ロブ・ブライトン、ルパート・グレイヴス、ジム・カーター、シャーロット・ライリー

妻と仲が悪く息子にはバカにされてきた会計士のエリック(ロブ・ブライドン)は、なじみの公営プールで中年男性ばかりが集うアーティスティックスイミングチームと出会う。メンバー入りすることになった彼は、仲間と一緒にイギリス代表チームの一員として世界選手権に出場することになった。エリックは、厳しい特訓に励むうちに生きがいを見いだす。

中年男性による実話ベースのシンクロナイズド・スイミング映画といえば、先ごろ仏版『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』が公開したばかり。本作の英国版と立て続けだ。なぜか今年は「おっさんシンクロ・ブーム」?
2001年に『ウォーターボーイズ』が上映された日本としては、同ジャンルは先輩格といえるかもしれない(笑)

高校生VSおっさんだからと侮るなかれ。スイミング場面はCGもスタントも使用せず、本人たちだけで演じたそう。撮影前にストラッドフォードで行われた水泳キャンプでは、殆どの俳優が水中でもがくだけだったというから驚きである。主要人物の1人を演じる人気ドラマ「ダウントン・アビー」のジム・カーター曰く、
「私たちはエレガントに溺れていた」
流石は英国紳士!表現まで優雅だ。

日本でも根強い人気を持つ英国映画『フル・モンティ』的要素を想像していたら、ミドル・クライシスをテーマとした、意外にもシリアスなテーマが根底に流れている。それでも、監督が『理想の結婚』『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』など軽妙洒脱な作品が多いオリヴァー・パーカーだけに、英国的ユーモアを品良く挟む。
撮影監督はダイビング資格を持つという頼もしさで安定感のある水中撮影を披露しながら、「ダウントン・アビー」のカメラもこなした気品さを忘れない。音楽はITVの人気ドラマ「セルフリッジ 英国百貨店」と同じスタッフだ。英国エンターテイメントを担う粋職人が本作を支える。

”世界一層が厚い”と言われる英国俳優陣。主役に『イタリアは呼んでいる』『スノーホワイト 氷の王国』の他、司会業もこなすロブ・ブライドン。『SHERLOCK』シリーズ、『モーリス』『眺めのいい部屋』などのルパート・グレイヴス。「ダウントン・アビー」の執事カーソン役ジム・カーターらが真面目に熱演し、笑わせてくれる。
その他、王立演劇学校を卒業したような舞台経験豊かな演技巧者ばかりだから、大人が安心して鑑賞できるレベルだろう。
人生の応援歌としての楽しさに溢れた本作。実話のモデルとなったスウェーデンの男子シンクロチームも登場するので、お見逃しなく!(幸)

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主人公のエリックは、会計士として職場ではそれなりの地位だけど仕事はマンネリ、妻は選挙に当選して政治家として采配を振るっていて、家に帰るとなんだか居心地が悪い。自分の居場所を感じてないところに、プールで成り行きでシンクロチームに入ることになり、だんだん生きがいを感じていく。演じたロブ・ブライドンは、そんな男の悲哀をそこはかとなく感じさせてくれて絶品。
私がもう一人気になったのが、メンバーの中でも肌の色が違って、異彩を放っているカートを演じたアディール・アクタル。『ヴィクトリア女王 最期の秘密』でも、チビのインド人従者を演じて笑わせてくれた方。日本の公式サイトにクレジットされてなくて、お気の毒なので、ぜひ注目を! (咲)


仲間とやりがい。人にはこれが不可欠。シンクロでストレス解消していた中年男性たちが世界大会を目指す。主人公は仕事が充実している妻へのヤキモチから負のジレンマに陥っていたが、シンクロを通じて立ち直っていく。
俳優たちが自ら演じたシンクロの技が見事。実は娘が学生時代に部活でシンクロをやっていた。水面でみんなが揃ってバランスよく浮かんで模様を描くのは本当に難しのだが、俳優の面々たちは短期間の練習でそれをやってのけた。こんなところにもプロ意識を感じる。そのうえで、大会の結果は嘘くさくない脚本もいい。
ほしいものには思い切って手を伸ばすことも必要。妻が来てくれるのを待つのではなく、自ら立ち向かった夫と支えた仲間が眩しい。(堀)



2018/イギリス/スコープサイズ/96 分/カラー/英語/DCP/5.1ch/
配給:キノフィルムズ/木下グループ
©SWM FILM COMPANY LTD 2018
公式サイト:http://synchro-dandies.jp/
9月20日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開




posted by yukie at 13:18| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

見えない目撃者

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監督:森淳一
脚本:藤井清美 森淳一
出演:吉岡里帆、高杉真宙、大倉孝二、浅香航大、國村隼、渡辺大知、柳俊太郎、松田美由紀、田口トモロヲ

浜中なつめ(吉岡里帆)は警察学校の卒業式の夜、過失で弟を事故死させ、自分の視力も失う。警察官になることを諦めたなつめはある日、自動車事故の現場で少女が助けを求める声を聞く。誘拐事件を疑ったなつめは警察に訴えるが十分に捜査してもらえず、自ら動き出す。

まさか泣くとは思わなかった!骨太とはいえ、猟奇的なR15+指定のサスペンス・スリラーで‥。それほどまでに感情を揺さ振り続ける本作を撮ったのは、『重力ピエロ』『リトル・フォレスト』シリーズなどの森淳一監督。脚本は『るろうに剣心』シリーズ『ミュージアム』などの藤井清美と共同である。

説明を排した話法、中盤からラストまでクライマックスの連続という練られた構成に、小気味好いテンポで進行する。森監督は製作会社「ROBOT」所属だけに映像のセンスも優れており、きめ細かなディテールからワンカット長回しまで自在に操る。
時折、挟まれる視力を失っている主人公が「見ている世界」の可視化は見事だ。

森演出のテンポ・リズムが一瞬だけ落ちる場面がある。「タラタラしないで、とっとと進行すれば良いのに‥」とテンポ好き(?)映画ファンは少しイラッとしたのだが、それが後から重要な伏線だと気付いた時の感銘!「う〜ん‥、良く出来ている」と唸らざるを得なかった。

幾つかの挿話を通し、芯が強く勇気と母性を感じさせる主人公を渾身の演技で造形してみせる吉岡里帆。チャラい雰囲気を醸しながらも善良さ丸出しで主人公をサポートして行く高杉真宙。
猟奇繋がりで(?)デビッド・フィンチャー監督の『セブン』でいえばモーガン・フリーマン的な温かさを齎らす田口トモロヲ。バディコンビが絶妙な大倉孝二。主役から脇役まで全員の好演で魅せる映画は多くない。特に盲導犬の名演技にもご注目を!(幸)


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見えないからこそわかることがある。一方で見ているようで見ていないことも。盲目の主人公が偶然、若い女性の拉致監禁事件に気がつき、同じ現場を目撃した高校生とともに犯人に迫る。微かな音、匂いで主人公がわかったことをうまく可視化してスクリーンに映し出す。主人公が犯人から追われたとき、高校生がスマホを使って遠隔サポートする方法は見事。2011年の韓国映画『ブラインド』のリメイクだが、韓国版にはない見せどころ。ただ、韓国版よりもかなりグロいシーンがあるので苦手な人は自衛が必要かもしれない。
なお、2015年には韓国版のアン・サンフン監督が再びメガホンをとり、中国でリメイクしている。中国では興行収入43億の大ヒットとなったので、3作品を観比べるのも面白いだろう。(堀)


(C) 2019「見えない目撃者」フィルムパートナーズ (C) MoonWatcher and N.E.W.
2019年製作/128分/R15+/日本/カラー
配給:東映
公式サイト:http://www.mienaimokugekisha.jp/
★9月20日より 、丸の内TOEIほか全国 公開
posted by yukie at 11:55| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする