2019年09月05日

サタンタンゴ 原題:Satantango

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監督・脚本:タル・ベーラ
共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
撮影:メドビジ・ガーボル
編集:フラニツキー・アーグネシュ
出演:ビーグ・ミハーイ、ホルバート・プチ、デルジ・ヤーノシュ、セーケイ・B・ミクローシュ、ボーク・エリカ、ペーター・ベルリング

ハンガリー、ある田舎町。シュミットはクラーネルと組んで村人達の貯金を持ち逃げする計画を女房に話して聞かせる。盗み聞きしていたフタキは自分も話に乗ることを思いついた。その時、家のドアを叩く音がして、やって来た女は信じがたいことを言う。
「1年半前に死んだはずのイリミアーシュが帰って来た」
イリミアーシュが帰って来ると聞いた村人たちは、酒場で喧々諤々の議論を始めるが、いつの間にか酒宴になって、夜は更けていく。
翌日、イリミアーシュが村に帰って来る。彼は村にとって救世主なのか?
イリミアーシュと相棒のペトリナは警察に行き、警視からこれまでの悪事をとがめられる。

上映時間7時間18分の超長尺に、全編約150カットという驚異的の長回し撮影。準備に9年、撮影期間2年、完成まで4年の歳月‥。全てに規格外の映画が製作から25年を時を経てやってきた!
しかも、35ミリフィルムにこだわり続けたタル・ベーラ監督が初めて許可した4Kデジタルレストア版が日本で初公開されるのだ。”観る””観ない”‥。あなたは何方を選択するか? 本作の降り止まない雨と同じく、一旦”観る”選択を下したら、もうタル・ベーラは逃げ場を与えてくれない。映画に集中せざるを得ないだろう。それ程の吸引力を持つ作品である。

ライティング、アングルなど、全てが計算し尽くされたであろう長回しショットにも関わらず、俳優たちは極めて自然に動いているように見える。尚且つ、決してシアトリカルな設定ではなく、あくまでリアルなセット・ロケに於ける”映像演技”なのだ。

ポピュリズムに背を向けながら、これほど甘美な映画体験を齎せてくれるタル・ベーラのような監督は他に類を見ない。タルコフスキーの継承とする評を目にするが、個人的には決定的に異なると思う。ハンガリーの風土に根付いた、感傷を排し、しかも情熱的な話法はタルコフスキーのような映像詩人より直接的な感情に訴えかけるものがある。

中盤、少女と猫のシークエンスを観れば明らかだ。コンプライアンスに雁字搦めにされた現代のメディア界隈では得られない表現がそこにある。この中性的な少女は、児童養護施設に入所していたところをタル・ベーラに見出され、『ニーチェの馬』『倫敦から来た男』にも娘役として強い印象を残している。本作でもキーパーソンと言える役柄のため、「エシュティケ」の場面には是非ご注目を。メディア擦れしていない瞳の力に釘付けになること請け合いだ。(幸)


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『サタンタンゴ』 タル・ベーラ監督来日記者会見
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『ニーチェの馬』公開の折の2011年11月以来8年ぶりに来日したタル・ベーラ監督。映画に対する持論をたっぷり語ってくださった。
デジタル化に当たっては、7時間18分すべてご自身でチェック。昨今のデジタル映画はフェイクのフィルム映画の様。デジタルにはデジタルの映画言語があるはずと苦言。(咲)

1994年製作/ハンガリー・ドイツ・スイス合作/モノクロ/1:1.66/7時間18分
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/satantango/
9月13日(金)より、シアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国順次公開
posted by yukie at 11:52| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする