2019年09月30日

チャルカ~未来を紡ぐ糸車~

映像女性学の会から案内をいただきました 

映像女性学の会 第43回女性監督作品上映会
          
島田 恵監督 「チャルカ~未来を紡ぐ糸車~」

2019年10月5日(土)18:30~20:30
場所 渋谷男女平等・ダイバーシティセンター 地図
(渋谷区文化総合センター大和田8F)
参加費無料 カンパ歓迎   
先着30名 事前予約の必要はありません。
ゲストトーク 島田 恵さん(上映作品監督)

チャルカ~未来を紡ぐ糸車1.jpg

■上映作品
『チャルカ~未来を紡ぐ糸車~』   2016年/90分/監督:島田恵
 チャルカとは、インドの手紡ぎ糸車のことです。インド独立の父、ガンジーはイギリスの支配から自立するために、自国の綿花を自分たちで紡ぎ、手織りした布(ガディ)を作ろうと提唱しました。チャルカは独立運動のシンボルです。東日本大震災は本当に大切なものは何かを私たちに問いかけ、福島原発事故は経済優先社会が行き着いた惨状をみせつけました。
 本作品は、高レベル放射性廃棄物の地層処分研究施設のある北海道幌延町の隣町で酪農を営む久世薫嗣(しげつぐ)さん一家の生き方を軸に、もう一つの研究施設がある岐阜県東濃地域、そして世界で初めて地下処分施設が建設中のフィンランド、原子力大国フランスの処分計画地に生きる人々、抵抗する人々を描いています。
 人類が直面するこの問題から私たちが学ぶべきこととはいったい何なのでしょうか。映画は私たち一人一人の生き方と選択を問いかけています。

■監督プロフィール:島田 恵 1959年東京生まれ。写真家・ドキュメンタリー映画監督。1986年のチェルノブイリ原発事故後、核燃問題で揺れる。六ケ所村を初めて訪ね衝撃を受け撮影を開始する。1990年~2002年まで同村に在住。写真集『六ケ所村 核燃基地のある村と人々』(高文研)で第7回平和・協同ジャーナリスト基金賞を受賞。同名の全国横断写真展を行う。3.11後に制作した映画『福島 六ケ所 未来への伝言』は「2014年キネマ旬報文化映画部門」第7位となる。現在、核のボミをテーマにした第2作目『チャルカ~未来を紡ぐ糸車~』を全国で上映中。
主催 映像女性学の会   
お問い合わせは小野まで ℡090-9008-1316 mail:ycinef@yahoo.co.jp
 
チャルカ~未来を紡ぐ糸車2.jpg

なおシネマジャーナルでは、『福島 六ヶ所 未来への伝言』で 島田恵監督にインタビューしています。
シネマジャーナルHP
『福島 六ヶ所 未来への伝言』 島田恵監督インタビュー記事
posted by akemi at 05:21| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月29日

エンテベ空港の7日間   原題:7 Days in Entebbe

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監督: ジョゼ・パジーリャ
出演: ダニエル・ブリュール、ロザムンド・パイク、エディ・マーサン、リオル・アシュケナージ、ベン・シュネッツァー、ドゥニ・メノーシェ

1976年6月27日、テルアビブから約240名の乗客を乗せパリへ向かうエールフランス機が、4人のハイジャック犯に乗っ取られる。ハイジャック犯のうち二人は、パレスチナ解放人民戦線のパレスチナ人。あとの男女二人は、革命を志すドイツ左翼急進派メンバー。
ハイジャック機は、悪名高き独裁者イディ・アミン大統領のいるウガンダのエンテベ空港に着陸させられる。乗客たちは空港の旧ターミナルで武装犯の監視下に置かれる。犯人たちの要求は500万ドルと、世界各地に収監されている50人以上の親パレスチナ過激派の解放。
ハイジャック犯と交渉の道を探るイスラエル首相イツハク・ラビンと、交渉せず秘密裏に軍事的解決をすべきと進言する国防大臣シモン・ペレス。
3日目、人質がイスラエル人と非イスラエル人に分けられ、イスラエル人を一部屋に集め、爆発物で取り囲む。ますます窮地に立たされるイスラエル政府。ハイジャック犯に交渉すると歩み寄ったところで、ついに7日目、エンテベ空港奇襲作戦(別名:サンダーボルト作戦)を実行する・・・

46年前に実際に起こったハイジャック事件。
当事者のエールフランス機の乗務員や乗客、ハイジャック犯と対峙するイスラエル政府、そしてハイジャック犯。それぞれの目線で日を追って事件が語られる。
映画の冒頭で、事件の半年前にパレスチナ解放人民戦線(PFLP)とドイツ左翼急進派メンバーが出会うところが描かれる。なぜハイジャック事件を起こすのかの動機を示す大事な部分だ。 それには、イスラエル建国に至った歴史にも触れないといけないところだが、そこは周知の事実として描いていないのだろう。今なお絶えないテロの起こる原因を、この映画を通じて再び考えてほしい。
現在公開中の『プライベート・ウォー』で、勇気ある戦場カメラマンを演じているロザムンド・パイクが、本作ではドイツ左翼急進派の闘士を演じている。どちらも強い女。素敵だ。(咲)


このハイジャック事件はこれまで「エンテベの勝利」「特攻サンダーボルト作戦」「サンダーボルト救出作戦」と3度映画化されてきた。どれもイスラエル政府の視点から描かれていたが、本作では4人のハイジャック犯のうち、革命を志すドイツ左翼急進派メンバーの男女、人質、イスラエル軍の兵士の視点も加えられ、多角的に捉えた。
ドイツ左翼急進派メンバーはパレスチナ解放人民戦線のパレスチナ人とは違い、次第にハイジャックが正しい方法だったのかと苦悩し始める。しかし、男は参加したことを後悔し、女はここまできたからにはやるしかないと腹をくくる。この向き合い方の違いに、(本来は男だから、女だからと決めつけてはいけないのだが)「そうそう男っていざとなるとダメなのよね」と思わず納得してしまう。
またイスラエルの兵士と恋人の会話からは、政府の望むことと末端の兵士の望んでいることの違いが浮き彫りになる。恋人は群舞に参加するダンサーなのだが、その群舞はちょっと不気味で、不安を煽るような狂気さえ感じた。これがハイジャック事件の合間に挟み込まれ、人質たちの不安と同期する。巧みな演出だ。特に最後の制圧場面はどきどきする気持ちが最高潮に達するだろう。(堀)


2018年/イギリス・アメリカ/107分/G
配給:キノフィルムズ
公式サイト:http://entebbe.jp/
★2019年10月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開



posted by sakiko at 09:49| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月28日

ホームステイ ボクと僕の100日間(原題:Homestay)

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監督・脚本:パークプム・ウォンプム
原作:森絵都「カラフル」
出演:ティーラドン・スパパンピンヨー(ミン)、チャープラン・アーリークン(パイ)

ボクは死んだはずだった。けれども「当選しました!」という天使の声で目がさめる。生前の記憶が何もないまま、ボクは自殺した高校生ミンの身体にホームステイすることになった。ミンは蘇ったわけだ。しかし、ことは簡単じゃない。100日の間にミンの自殺の原因をさぐりださないとボクの魂は輪廻の輪の中に入れず、永遠に消滅する。いろいろな姿で現れても肝心なことは教えてくれない天使に助けられ、ボクはミンの人生を生き始めた。頭が良くて可愛い女子高生パイと出会って、すっかり舞い上がるボク。楽しい時間は刻々と過ぎていき、ミンの死の手掛かりになりそうなものはまだ見つからない。

『カラフル』は2000年に中原俊監督で実写版が、2010年にはアニメーションが製作されています。原作はタイでも翻訳出版されて人気だったそうですが、映画化の話が出てから実際に制作が始まるまでずいぶんとかかったようです。現在のタイの高校生のストーリーに脚色、良い俳優を得て本家の日本でも公開されることになりました。
お国柄なのか、色彩や登場人物の感情が日本版より濃くて、豊かな感じがします。家庭が抱える事情や痛みは共通で、辛いものがありますが。
主人公のミンを演じるのはティーラドン・スパパンピンヨーは『バッド・ジーニアス』でカンニングで一儲けをたくらんだ金持ちのボンボン役でした。パイはタイのBNK48のキャプテン、チャープラン・アーリークン。トップアイドルですが、これが初の映画出演。ミンと恋に落ちる女子高生を初々しく元気いっぱいに演じています。圧巻はミン渾身の〇が広がるラスト。(白)


2018年/タイ/カラー/シネスコ/136分
配給:ツイン
(c)2018 GDH 559 CO.,LTD.ALL RIGHTS RESERVED
http://homestay-movie.com/
★2019年10月5日(土)より新宿武蔵野館館ほかにて全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 20:23| Comment(0) | 東南アジア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

向こうの家

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監督・原案:西川達郎
脚本:川原杏奈
撮影:袮津尚輝
照明:小海祈
美術:古屋ひなこ
音楽:大橋征人
出演:望月歩、大谷麻衣、生津徹、でんでん、南久松真奈、円井わん、植田まひる、小日向星一

自分の家庭は幸せだ、と思っていた高校二年生の森田萩(望月歩)。しかし父親の芳郎(生津徹)にはもう一つの家があった。「萩に手伝ってもらわなきゃいけないことがある」芳郎の頼みで、萩は父親が不倫相手の向井瞳子(大谷麻衣)と別れるのを手伝うことに。自分の家と瞳子さんの家、二つの家を行き来するようになった萩は段々と大人の事情に気づいていく……。

別宅に住む愛人と別れたいから追い出してくれと息子は父から頼まれる。そこで経験するのは自宅とは違う雰囲気、手をかけた料理と会話。愛人に対する息子の心象が変わっていくように、見る側も倫理と感情で判断に迷う。否が応でもなく向き合わされた大人の世界を見ることで息子も自分と向き合うことに。価値観の多様性を知ることは大人への大きな一歩なのかもしれない。
それにしても、後ろめたい存在を仄めかすタイトルの絶妙さには唸った。(堀)


高校生の息子にそんなことを頼むお父さん、愛人を囲う甲斐性があるとは思えません。優しそうで、もてそうではあるのですが。
4人家族が暮らす家は手狭で、食卓はリビングの低いテーブルで兼用です。良き妻であろうと頑張るまじめな母親は、勢い余って空回り気味。瞳子の住むのは高台の日本家屋、勤めに出ている様子もなく、女を磨き、手をかけた料理を作る余裕があります。大谷麻衣さんは『娼年』で松坂桃李さんと激しい濡れ場を演じた人、そりゃもう色っぽくてお父さんデレデレです。本当に別れたいのか?いや、家賃や生活費が重荷になってきただけじゃないの、と主婦目線の私は勘繰りたくなります。
高校2年生にしては幼い感じの萩は、向こうの家とこっちの家を行ったり来たりしているうちにちょっとだけ大人になりました。二つの家の差、父親が全く違う顔を見せるところ、ドロドロにできるネタではありますが、萩中心に描かれるのであっさりめに進みます。
7月のスタッフ日記に試写を見た時のことが書いてありました。
西川達郎監督、大谷麻衣さん、生津徹さんがいらしていました。こちらです。(白)


2018年/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/DCP/82 分
©︎ mukonoie.com All rights reserved.
公式サイト:https://mukonoie.com/
★2019年10 月 5 日(土)より 渋谷シアター・イメージフォーラムほかロードショー
posted by ほりきみき at 19:28| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ヒキタさん! ご懐妊ですよ

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脚本・監督: 細川徹
原作:ヒキタクニオ『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』(光文社刊) 
撮影:大内泰
照明:宗賢次郎
美術:遠藤善人
音楽:大間々昂
出演:松重豊、北川景子、山中崇、濱田岳、伊東四朗

ヒキタクニオ、49歳。職業は人気作家。サウナとビールが大好きで、ジム通いのおかげでいたって健康体。一回り以上年が離れた妻・サチと仲良く暮らしている。年の差婚のふたりは、子どもは作らず、気ままに楽しい夫婦生活を送るつもりでいたが、ある日の妻の突然の一言ですべてが変わった。「ヒキタさんの子どもに会いたい」サチの熱意に引っ張られる形で、妊活へ足を踏み出すことになったヒキタ。だが、彼は知らなかった。まだまだ若くて健康だと自負していたが、相反して、彼の精子が老化現象を起こしていたことを……。

子どもを産む。簡単なことのようで意外と難しい。迷信と笑い飛ばしていたことにもすがってしまう。妻、夫それぞれの思いと気遣いが交錯する。そこに実家まで絡んでくるから悩ましい。男性である原作者の視点から描いた妊活に勇気をもらう人も多いだろう。
妻役に北川景子。気の強い妻かと思いきや、夫の子どもを望み、精神的負担の辛さを隠してがんばる妻を静かに熱演。これまでのイメージを覆す。(堀)


2019年/日本/カラー/シネスコ/G /102分
配給:東急レクリエーション
©2019「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」製作委員会
公式サイト:https://hikitasan-gokainin.com/
★2019年10 月 4 日(金)全国ロードショー
posted by ほりきみき at 19:27| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

蜜蜂と遠雷

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監督・脚本:石川慶
原作:恩田陸
撮影:ピオトル・ニエミイスキ
音楽:杉田寿宏
作曲:藤倉大「春と修羅」ほか
ピアノ演奏:河村尚子、福間洸太朗、金子三勇士、藤田真央
出演:松岡茉優(栄伝亜夜)、松坂桃李(高島明石)、森崎ウィン(マサル・カルロス・レヴィ・アナトール)、鈴鹿央士(風間塵)、臼田あさ美(高島満智子)、ブルゾンちえみ(仁科雅美)、福島リラ(ジェニファ・チャン)、眞島秀和(ピアノ修理職人の男)、片桐はいり(コンクール会場のクローク係)、光石研(菱沼忠明)、平田満(田久保寛)、アンジェイ・ヒラ(ナサニエル・シルヴァーバーグ)、斉藤由貴(嵯峨三枝子)、鹿賀丈史(小野寺昌幸)

若手ピアニストの登竜門、芳ヶ江国際ピアノコンクールは3年に一度開催される。そのコンクールにのぞむ多くのコンテスタントの一人、栄伝亜夜はかつて天才少女として嘱望されていたが、母親の死後舞台に上がることはなかった。今回は再起をかけている。高島明石は楽器店で働きながら”生活者の音楽”を目指してきた妻子のあるサラリーマン。年齢制限のある中、最後の挑戦となる。名門ジュリアード学院で学び、今人気実力ともに大本命とされるマサル・カルロス・レヴィ・アナトール。子どものころ一緒にピアノ教室に通っていた亜夜との再会を喜んでいる。そして誰も知らなかった風間塵。自分のピアノも持たない彼は、すでに亡い”ピアノの神様”の推薦状とともに現れた。

恩田陸の原作は2017年のベストセラー第1位、直木賞と本屋大賞のW受賞は初の快挙です。ストーリーの主な舞台はコンサート会場で、音楽そのものと、挑戦する登場人物一人一人の心の有様が描かれています。文字で音楽を表現した原作のファンでもありますが映画化と聞いて、これは配役とピアノ演奏が肝心!いったい誰がキャスティングされて、どんな映画になるの?とワクワクして待っていました。
俳優さんそれぞれの好演、コンテストのピアノも期待以上でした!とだけ書いておきます。後は劇場でお確かめください。
キャラクターにピタリとあったピアニストの演奏と、演じる俳優の演奏場面も少しの違和感なく、終わったときには拍手したくなるほどでした。ぜひぜひ音響の良い劇場で、音楽にとっぷりと浸るのをおすすめします。(白)


恩田陸の原作を読んだ人は「頭の中に音が聞こえてくる」とその表現力を絶賛している。そのためか、映画化は難しいといわれていたが、石川慶監督はその難題を乗り越えた。映画ではピアノの演奏が音として聞こえるので、観客の想像に委ねることができない。しかし、監督が水の雫などを使って音を視覚化することで、観客は聞こえた音に映像から受けるイメージを重ねて、音楽に更なる奥行きを加えることができる。監督の長編デビュー作『愚行録』でも雨を使った映像演出が印象に残ったことを思い出す。 “水演出の匠”と命名したくなるほどの素晴らしさだ。
俳優たちも監督の期待に応えた演技で魅せる。松坂桃李は社会人になっても夢を諦めきれず、最後のチャンスと決意してコンクールにエントリー明石を演じたが、コンクールの予選の結果を知ったときの感情を瞳の揺れだけで表現していた。昨年の『娼年』以降、演技力がどんどん研ぎ澄まされていく。
原作ファンにも十分満足してもらえる作品に仕上がったといえるだろう。(堀)


2019年/日本/カラー/シネスコ/118分
配給:東宝
(c)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
https://mitsubachi-enrai-movie.jp/
★2019年10月4日(金)全国東宝系にてロードショー
posted by shiraishi at 19:15| Comment(1) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月26日

ジョン・ウィック:パラベラム 原題:JOHN WICK:CHAPTER3 PARABELLUM

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監督:チャド・スタエルスキ
脚本・キャラクター原案:デレク・コルスタッド
脚本:シェイ・ハッテン、クリス・コリンズ、マーク・エイブラムス
製作:ベイジル・イヴァニク、 エリカ・リー
撮影監督:ダン・ローストセン
出演:キアヌ・リーヴス、ハル・ベリー、アンジェリカ・ヒューストン、イアン・マクシェーン、ローレンス・フィッシュバーン

裏社会の聖域コンチネンタルホテルでの不殺のおきてを破ってしまった殺し屋のジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス)は、裏社会を束ねる組織の粛清の対象になる。1,400万ドルの賞金を懸けられ、刺客たちと壮絶な死闘を繰り広げて満身創痍のジョンは、以前“血の誓印”を交わしたソフィア(ハル・ベリー)の協力を得ようとモロッコへ向かう。

こんなアクション映画があるだろうか?出演者全員が大真面目に大迫力画面で死闘を繰り広げるほど、場内は大爆笑なのだ!
「ここまで殺る?」 「えっ!ウソでしょ?」 「まだ続くの?まだ死なない!」
お茶の間で観るならいざ知らず、言葉を発することができない試写では驚嘆の場面を目の当たりにした観客が出来る反応は”爆笑”しかないことがよく分かる。

これは重要な点だ。本作が極めて”身体性”を伴うアクションを連打しているからこその反応なのだろう。小手先のCG加工ではない。身体を張った捨て身の演技を観客が賞賛している証拠。コメディ分野でも、キートンやチャップリンのサイレント映画が未だに陳腐化せず、大笑い出来るのは、創り手が危険も顧みずに身体を張って観客を喜ばせよう、楽しませたい、といったエンターテイメントの原点に感動するからなのだ。

かといっても勢いだけの映画ではない。複雑且つ綿密に計算されたスタントアクション、フォーメーションを逃すことなく映し出すカメラアングル、カットの切り返しを使わず遠隔からの長回しで死闘の全貌を見ることの出来る編集の妙。巧みな音響効果。
キアヌ・リーヴスはじめ、出演者全員(馬や犬も)の熱演が光るが、上記のようなスタッフあってこそ輝くというものだ。

クライマックス連続の圧倒される130分の中で、きめ細かな演出がなされている点にもご注目を!(幸)


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2019年製作/130分/R15+/アメリカ
配給:ポニーキャニオン
R, TM & c 2019 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
http://johnwick.jp/sp/
★10月4日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー★
posted by yukie at 13:57| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月22日

バオバオ フツウの家族 原題:親愛的卵男日記 英題:BAOBAO

9月28日(土)新宿 K’s cinema他 順次公開

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©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd.

監督: 謝光誠(シエ・グアンチェン) 第1回長編監督作
脚本:鄧依涵(デン・イーハン)
キャスト
雷艾美 エミー・レイズ
柯奐如 クー・ファンルー
蔭山征彦 カゲヤマユキヒコ
蔡力允 ツァイ・リーユン
楊子儀 ヤン・ズーイ

子供がほしい同姓カップルの物語

2018年秋、台湾で同姓婚を巡る是非の国民投票が話題になっていた中で公開されて話題となった映画『バオバオ フツウの家族』(原題:親愛的卵男日記)が日本公開される。

ロンドンに住むレズビアンカップルのジョアンとシンディ、友人であるゲイカップルのチャールズとティム。二組の同姓カップルが「赤ちゃんが欲しい」と考え、協力して妊活を始める。人工授精で双子を妊娠したシンディ。生まれてきた赤ちゃんは、ひとりづつ引き取って、それぞれのカップルが育てる約束だったが、ひとり流産してしまった。ひとりになってしまったので、子供が奪われるのではないかと思ったシンディは、精神不安定になってしまい、ひとり台湾に戻ってきた。
しかし、親元に帰れないシンディが頼ったのは幼馴染の警官タイ。子供の頃からシンディに密かに好意を寄せていたタイは、理由も聞かずに自分がお腹の子の父になると言うのだが、シンディの心は癒されない。自分がレズビアンであることも打ち明けられない。ジョアンはシンディを追って台湾へ。一方ゲイカップルのほうもティムの滞在期間が終わり台湾に戻った。舞台はロンドンから台湾へ。
数か月たち、シンディの出産の日。そこには、ティムの母、チャールズの両親、シンディの父、タイ、そしてジョアンがいた。シンディとジョアン、そして赤ちゃんはこれからどうするのか…。赤ちゃんをどちらが育てるのかをめぐって、新しい家族の形の模索が始まる。

シンディ役は、日本とフランスのハーフで司会者として人気のエミー・レイズ。ジョアンを演じるクー・ファンルーはアイドルドラマからアート映画まで国内外でキャリアを積む実力派。チャールズ役は、台湾で活躍する日本人俳優 の蔭山征彥。映画音楽を手がけたり、『念念』(2015年)では脚本家として香港電影評論学會の脚本賞を受賞するなどマルチな才能の持ち主で、今後のさらなる活躍が楽しみな存在。(公式HPより)
なお『念念』は、『あなたを、想う。』というタイトルで11月2日(土)よりユーロスペース・横浜シネマリンほかで全国順次公開される。

チャールズ役の蔭山征彦さんへのインタビュー記事はこちら

バオバオとは中国語では「宝宝」と書き、赤ちゃんのこと。沖縄でも赤ちゃんのことをバオバオと言っていて、字も「宝宝」で同じ。台湾、中国からの影響があるのでしょう。それにしても赤ちゃんは宝なんですね。
私は結婚制度(家制度)に疑問があったので結婚しなかったし、子供をほしいと思ったこともありません。同性愛の人たちもそういう意味で、既存の結婚制度の中で生きることに反発を感じている人たちだと思っていたので(私の周りの同性愛の方たちはだいたいそう)、最近同姓婚というのが話題になったりして、「どうして結婚なんてしたがるの?」と思っています。ましてや同姓を愛することにしたのに、子供をほしがるというのはもっとわからずです。なので、この映画のように、レズビアンの人とゲイの人で協力しあって子作りするという設定自体が??なのですが、時代の流れで変わってきているのだなと思いつつやはり私には理解できず。かつてはそんなことは考えられなかったけど、現代ではそういう人たちも出てきたのかなと思いながら観ました。それにしてもロンドンで活躍していたり、台湾と行ったり来たりと、まるでトレンディドラマのような作りで、台湾映画もそういう流れがあるのかな(暁)。

公開情報
関東
東京 新宿Kʼs cinema 9/28(土)
神奈川 横浜シネマリン 10/19(土)
中部
愛知 名演小劇場 10/12(土)
近畿
大阪 第七芸術劇場 10/19(土)
京都 京都みなみ会館 近日予定
兵庫 神戸アートビレッジセンター 11月予定

2018年/台湾/97分/1:1.85/
原題:親愛的卵男日記 英題:BAOBAO
©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd
配給:オンリー・ハーツ /GOLD FINGER 
協力:GENXY/ビームス 
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター 




posted by akemi at 21:38| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月21日

ホテル・ムンバイ(原題:HOTEL MUMBAI)

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監督:アンソニー・マラス
出演:デヴ・パテル、アーミー・ハマー、ナザニン・ボニアディ、アヌパム・カー、ジェイソン・アイザックス

インドの巨大都市ムンバイに、臨月の妻と幼い娘と暮らす青年アルジュン(デヴ・パテル)は、街の象徴でもある五つ星ホテルの従業員であることに誇りを感じていた。この日も、いつも通りのホテルの光景だったが、武装したテロリスト集団がホテルを占拠し、“楽園”は一瞬にして崩壊する。500人以上の宿泊客と従業員を、無慈悲な銃弾が襲う中、テロ殲滅部隊が到着するまでに数日かかるという絶望的な報せが届く。アルジュンら従業員は、「ここが私の家です」とホテルに残り、宿泊客を救う道を選ぶ。一方、赤ん坊を部屋に取り残されたアメリカ人建築家デヴィッド(アーミー・ハマー)は、ある命がけの決断をする。

本作は2008年にムンバイで起きた無差別同時多発テロをアンソニー・マラス監督が1年に及ぶ綿密な取材を基に、ホテルの従業員、宿泊客、テロリストの視点で描いた。
目の前に大きく広がるスクリーンでテロリストたちが容赦なく人々を殺戮していく。逃げまどう宿泊客の不安と恐怖がダイレクトに伝わってきた。テロの恐ろしさを実感に近い感覚で経験した気がする。作品を見終わったとき、疲労感しかなかった。
しかし、実行犯に対して、なぜか批判的な気持ちにはなれなかった。彼らもまた、安全な場所から携帯電話1つで指示を出すリーダーたちに利用された被害者であった側面も描いていたからである。
そんな悲劇的状況下で、ホテルの従業員たちは逃げ出さずに宿泊客を守った。500人以上の人々がテロに巻き込まれたが、亡くなったのは32人で、その半数は宿泊客を守るために残った従業員だったという。彼らのホテルマンとしての矜持に、武力ではなく思いやる心で国や民族を超えた平和をもたらすことができるという希望がまだあると感じた。
疲れることを覚悟した上で、ぜひご覧いただきたい。(堀)


2008年11月26日夜にインド・ムンバイで高級ホテル、駅、レストランなどが襲撃された同時多発テロ。本作の前に、フランス映画『パレス・ダウン』(ニコラ・サーダ監督)でも、父親の転勤でインドにやってきた少女がタージマハル・ホテルの部屋で留守番をしている時にテロに遭遇するという形で取り上げられていた。『パレス・ダウン』は、2016年のフランス映画祭で上映され、その後「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016」で限定公開されている。その折に、大学の後輩男性から、テロの起こるほんの1時間程前までタージマハル・ホテルで打ち合わせをしていたと聞かされた。まさに私たちはどこでテロに遭うかわからない時代に生きているのだと思う。

本作で私が注目したのは、イラン生まれで、英国で育ち、今はアメリカを中心に活躍する女優ナザニン・ボニアディ。大富豪カシャーニー家のお嬢様ザーラ役で、アーミー・ハマー演じるアメリカ人建築家デヴィッドと出来ちゃった結婚し、赤ちゃんとベビーシッターを伴ってタージマハル・ホテルに超VIP待遇で迎えられる。
カシャーニーというイラン系の名前からして、パールシー(7世紀、イランにイスラームが侵攻した折に、イランからインドに逃れたゾロアスター教徒)の子孫かなと想像。ある場面でそうでないことが判明。無垢な若者たちが宗教の名のもとに洗脳され、テロの片棒を担いでいるのがわかる重要な場面でもあるので、お見逃しなく!
なお、タージマハルホテルの創業者ジャムシェトジー・タタもパールシーで、タタ財閥はインド最大の財閥である。

また、主人公のホテル従業員アルジュンは、シク教徒という設定。髭とターバン姿が不安という宿泊客のイギリスの老婦人に、「シク教徒にとってパグリーと呼ぶターバンは、一族の名誉を守る高潔なものだけれど、お客様が怖いならはずします」と語る場面がある。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの後、アメリカ国内でターバン姿のシク教徒がイスラーム教徒と間違えられ嫌がらせを受けたことにも思いが至った。(咲)


2018年/オーストラリア、アメリカ、インド合作/英語/123分/カラー/シネスコ
配給:ギャガ
© 2018 HOTEL MUMBAI PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, ADELAIDE FILM FESTIVAL AND SCREENWEST INC
公式サイト:https://gaga.ne.jp/hotelmumbai/
★2019年9月27日(金)TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー






posted by ほりきみき at 19:54| Comment(0) | オーストラリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち 原題:THE HUMMINGBIRD PROJECT

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監督・脚本:キム・グエン
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、アレクサンダー・スカルスガルド、サルマ・ハエック、マイケル・マンド

ヴィンセント(ジェシー・アイゼンバーグ)と従兄弟のプログラマー、アントン(アレキサンダー・スカルスガルド)は、高速で株の売買をする高頻度取引で年間500億円以上の利益を得るため、カンザス州のデータセンターからニューヨーク証券取引所まで約1,600キロを直線の光回線でつなぐことを思いつく。0.001 秒の時間短縮を目指して奮闘する彼らの前に、1万件の地主との買収交渉など次々と苦難が立ちはだかる。

"ハミングバード(ハチドリ)"は、ネイティブ・アメリカンが神聖視する鳥。サブタイトルの"0.001秒"とは、そのハチドリが1回羽ばたく時間だそう。ポエトリーなイメージを喚起させるプロジェクト名に似つかわしくなく、本作はハラハラドキドキ、こちらの胃が痛くなってしまうほど迫真力に満ちた内容だ。

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』や『マネー・ボール』といったノンフィクション作家の原作を元にしていると知り、合点がいった。
しのぎを削る米国金融市場を常に新鮮な視点から切り取る作家ならではのリアルさを優れたエンターテインメントとして実写化に成功している。

投資、損益、リスク、冷徹な計算...、シビアな金融市場の世界を極めて人間味豊かに、しかも疾走感と熱量、高揚感を色濃く表現しながら、静謐な結末へと導く。

功労者である2人の俳優、ジェシー・アイゼンバーグはマシンガントークを繰り出す行動派、イケメン・キレキレボディのアレクサンダー・スカルスガルドが、まさかのハゲ頭と猫背でアルゴリズム作成に挑戦するプログラマーを演じ、それぞれ役者魂を見せつけて本作に説得力を齎す。2人の名演は必見!(幸)


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株の高頻度取引ではデータ送信が0.001秒でも早いことが大事なのだそう。主人公たちは血眼になって時間短縮を図る。その結果、彼らは何を手に入れたのか。人生で大切なものを失ってはいないか。生き方に正解はないが、経済効率を重視する世の中に一石を投じる。ジェシー・アイゼンバーグはいつも通りの役どころだが、アレクサンダー・スカルスガルドが別人のような姿をさらけ出し、新たな魅力を放っていた。(堀)

2018 年/カナダ・ベルギー/カラー/5.1ch/スコープ/英語/111 分/
配給:ショウゲート
©2018 Earthlings Productions Inc./Belga Productions
公式サイト:http://hummingbirdproject-movie.jp/
★9 月 27 日(金)TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー★
posted by yukie at 17:54| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

エセルとアーネスト ふたりの物語(原題:Ethel & Ernest)

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監督:ロジャー・メインウッド
原作:レイモンド・ブリッグズ「エセルとアーネスト ふたりの物語」(バベルプレス刊)
音楽:カール・ディヴィス
エンディング曲:ポール・マッカートニー
出演:ブレンダ・ブレシン(エセル)、ジム・ブロードベント(アーネスト)、ルーク・トレッダウェイ(レイモンド・ブリッグズ)

「さむがりやのサンタ」「スノーマン」「風が吹くとき」などの絵本で日本でもよく知られているレイモンド・ブリッグス。彼の両親の思い出を描いた絵本を、味わいある手描きで忠実に再現したアニメーション。

1928年のロンドン。メイドとして働くエセルは、毎朝窓の下を通る牛乳配達人のアーネストと知り合い、二人は恋に落ちて2年後に結婚。アーネストは陽気で楽天的、エセルは生真面目で働き者、郊外のウィンブルドンパークに小さな家を買う。1934年、待望の一人息子レイモンドが生まれる。すくすくと成長したが戦争の影が近づいていた。疎開した息子からの便りを楽しみに戦火のロンドンで過ごす二人、1945年ようやく終戦の日が訪れた。レイモンドは希望校に進学しエセルは大喜びするが、青年期に入って美術の道に進むと言い出す。

世界的に有名な絵本作家のレイモンド・ブリッグズ。本人が机に向かっているシーン(実写)が登場します。少し背中を丸めて、拡大鏡を覗きながら両親の絵を描いています。机の周囲にあるペン立てや置物、壁のポスター…ファンは嬉しいですよね(私は大喜びでした。スノーマンのカップ&ソーサ―愛用中)。
映画は「普通の人だったパパとママ」が出会ってから亡くなるまでを丁寧に描いていきます。20世紀のほとんどを生きた普通の人の歴史が息づいています。戦争を生き延び、その後の復興と経済成長を体験します。次々と進化し生産された家電や乗用車を買うことを目標に、私の親たちも生きてきました。
3月の東京アニメアワードフェスティバルには、プロデューサーが来日し、『この世界の片隅で』の片渕須直監督とトークセッションがありました。ごく普通の人々の暮らしを描いた両作品も、世界中の片隅で生きた人たちの思いも、みなこのように似通っています。せっかく手に入れた平和を手放さないようにしたい、とあらためて思いました。(白)


「スノーマン」で知られる絵本作家レイモンド・ブリッグズが両親の出会い、結婚、家庭生活について描いた絵本を映画化。
ちょっと見栄っ張りでネガティブな母は息子の成長に一喜一憂する。そんな母を父は大らかに包み込む。夫婦の愛がじんわりと伝わってきた。
2人の夫婦生活に水洗式トイレ、ガス湯沸かし器、ラジオ、電話、冷蔵庫、テレビ、車など、文明の利器が少しずつ入り込む。イギリス庶民の生活史が見えた。
戦争が生活に落とした影は大きく、鉄製品が没収され、子供が疎開する。日本と同じだったと知り、改めて戦争は絶対にしてはならないと思う。(堀)


2016年/イギリス・ルクセンブルク合作/カラー/ヴィスタサイズ/94分
配給:チャイルド・フィルム、ムヴィオラ
(C)Ethel & Ernest Productions Limited, Melusine Productions S.A.,The British Film Institute and Ffilm Cymru Wales CBC 2016
https://child-film.com/ethelandernest/
★2019年9月28日(土)岩波ホールほか全国順次公開
posted by shiraishi at 17:46| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ヘルボーイ(原題:Hellboy)

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監督:ニール・マーシャル
原作:マイク・ミニョーラ
脚本:アンドリュー・コスビー
出演:デヴィッド・ハーバー(ヘルボーイ)、イアン・マクシェーン(ブルーム教授)、ミラ・ジョヴォヴィッチ(ニムエ)、ダニエル・デイ・キム(ベン・ダイミョウ少佐)、サッシャ・レイン(アリス・モナハン)

紀元517年、暗黒時代のイングランド。ブラッドクィーンを呼ばれる魔女ニムエは疫病を蔓延させ、世界を手中にしようとしていたが、聖剣エクスカリバーによって阻まれる。ニムエの身体はバラバラになり、世界の果てにそれぞれが封印された。
現代。悪魔の力を持つヘルボーイは極秘の超常現象調査防衛局(B.P.R.D.)のエージェントとして、人間界を守っている。B.P.R.D.の創設者で、ヘルボーイにとっては父親代わりでもあるブルーム教授から、イギリス行きの指示があった。そのころ魔女ニムエは1500年の封印を解き、人間界への復讐に燃えていた。巨人退治のつもりで出向いたヘルボーイは、英国のエージェントと共に、強大な力を持つニムエと闘うことになった。

アメコミの異色のヒーロー、地獄で生まれた悪魔の子ヘルボーイは人間界に産み落とされ、ブルーム教授に育てられました。そのあたりは2004年の第1作『ヘルボーイ』2008年『ヘルボーイ ゴールデンアーミー』(ギレルモ・デル・トロ監督/ロン・パールマン主演)にも描かれています。異形ながらやさしい心を持つヘルボーイが人間界で受けた冷たい仕打ちはいかばかりか?それでもねじくれずに育っておばちゃんは嬉しい。本作では人間不信に陥った彼が、ニムエの甘言や罠にはまって悪魔界へ取り込まれそうになりますが…。
監督は「ゲーム・オブ・スローンズ」にも参加したニール・マーシャルに、ヘルボーイはデヴィッド・ハーバーに選手交代し、原作のマイク・ミニョーラが企画から関わって、25年も続いたコミックスの再映画化を支えました。クリーチャーが大量出現するアクション満載のダークファンタジーですが、男子好みなだけではありません。女子はアリスに感情移入できますし、相変わらずきりりと美しいミラ・ジョヴォヴィッチも悪役ながらかっこいいですよ。(白)


2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/120分
配給:REGENTS
(c)2019 HB PRODUCTIONS, INC.
http://hellboy-movie.jp/
★2019年9月27日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 17:23| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

宮本から君へ

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監督:真利子哲也
原作:新井英樹
脚本:真利子哲也、港岳彦
撮影:四宮秀俊
音楽:池永正二
主題歌:宮本浩次「Do you remember?」
出演:池松壮亮(宮本浩)、蒼井優(中野靖子)、井浦新(風間裕二)、一ノ瀬ワタル(真淵拓馬)、柄本時生(田島薫)、星田英利(小田三紀彦)、古舘寛治(岡崎部長)、松山ケンイチ(神保和夫)

金なし!コネなし!勝ち目なし!・・・でも情熱だけは半端ない!熱血営業マン・宮本浩が“絶対に勝たなきゃいけないケンカ”に挑む!宮本の暑苦しくも切ない生き様を描いた“極限の”人間賛歌”が描かれるエンターテイメント!(プレスより)

文具メーカー「マルキタ」の営業マンの宮本浩は、不器用で営業スマイルやお世辞が苦手、けれども情熱と正義感だけは人一倍ある。先輩・神保の仕事仲間の中野靖子に出会った。芯が強く、自立した靖子に恋に落ちた宮本は、元カレの風間が靖子に手を上げたとき思わず「この女は俺が守る!」と宣言。これをきっかけに二人の絆はより強くなった。ある日、取引先の馬淵部長との酒の席に靖子と参加した宮本はすっかり泥酔し、馬淵の息子・拓馬が自宅まで送ってくれることになった。眠り込んだ宮本の横で靖子は襲われてしまう。

テレビ版もあるそうですが、そちらは観ていなくてこちらが初見。めちゃめちゃ熱量の高い映画で、こんなに怒鳴りあってる池松さんや蒼井さんを初めて見ました。撮影が終わったらぐったりしたのではないかしら?二人熱演です。そこへ乱入してくる元カレが井浦新さん。どうしようもないノラクラでDV男なのに、離れがたい魅力のある風間を演じて、これも上手い!
そこに存在しているだけで圧が半端なかった拓馬役の一ノ瀬ワタルさん、力任せの荒業が怖すぎて、後で倍返しを食らってもちっとも可哀そうじゃありませんでした。みんなに応援される宮本と反対に、憎まれるリスキーな役でしたが、やり切りましたね。
誰かを「守る」って簡単じゃありません。四六時中ひっついてるわけじゃなし、どこでどんな災難が降りかかるやら。女は自分で自分を守れるようになりましょう。男は”約束を守る”こと。それだって結構な難題。宮本の約束が「靖子を守ること」でした。靖子はその心意気に惚れたんです。傷ついてもこの二人ならやり直せる。中身はずいぶん違うけれど、ドラえもんとの約束を守ってジャイアンに立ち向かい、ボロボロになったのび太くんのシーンが浮かびました。(白)


愛する女を生涯かけて守るとはどういうことか。腕力のない主人公が心と体の痛みをぐっと堪え、無茶を承知で無様な姿を曝け出しながらも猛進する。その姿は痛々過ぎて滑稽だが、愛情の強さがガンガンに伝わってきた。池松壮亮が超情けなくて、無様で、ダメダメだけど、たまらなくカッコいい! 池松壮亮史上最高!
対する蒼井優も負けてない。強さと弱さを併せ持つ靖子を見事に表現する。
エンドロールに映し出される2人の笑顔が眩しすぎる。天皇が皇后にプロポーズしたときの言葉を思い出した。(堀)


2018年/日本/カラー/シネスコ/129分
配給:スターサンズ,KADOKAWA
(c)2019「宮本から君へ」製作委員会
https://miyamotomovie.jp/
★2019年9月27日(金)ロードショー
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劇場版 そして、生きる

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監督:月川翔
脚本:岡田惠和
音楽:村松崇継
出演:有村架純 坂口健太郎 知英 岡山天音 萩原聖人 光石 研 南 果歩 ほか

3歳のときに交通事故で両親を亡くした生田瞳子(有村架純)は、盛岡で理髪店を営む伯父に引き取られる。天真爛漫に育った瞳子は、時に地元のアイドルとして活躍することもあり、いつしか女優を志すようになっていた。
そして19歳になった瞳子は、東京で開催されるオーディションに挑もうとするが、その前日の2011年3月11日、東日本大震災が起きる。
その年の秋、瞳子はカフェで一緒に働いている韓国人のハン(知英)とともに、気仙沼のボランティア活動に参加する。瞳子はそこで、学生ボランティア団体の運営メンバーである東京の大学生・清水清隆(坂口健太郎)と出会う。穏やかで整然と現場を取り仕切る清隆だったが、瞳子はなぜか彼のほほえみに違和感を覚える。清隆自身もまた過酷な運命を背負っていることを、瞳子は知る由もなかった。そして気仙沼で一緒の時間を過ごした瞳子と清隆は、いつしか互いに特別な感情を抱いていく。

WOWOWオリジナルドラマの劇場版。脚本家・岡田惠和のオリジナルストーリーを月川翔監督がメガホンをとった。テレビドラマでは放送されなかった未公開シーンを追加している。主演は有村架純&坂口健太郎。
東日本大震災ボランティアで出会った男女の愛の変遷。愛しているから別れを選ぶ。辛くても生きていけるのは自分で選んだ人生だから。お手盛り感あるラストを期待したのだが、そんな甘えた気持ちを突き放すように、有村架純演じる主人公は前を向いて歩いていく。タイトルをずっしりと感じた。(堀)


2019年/日本/カラー/135分
配給:WOWOW
Ⓒ2019 WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/dramaw/ikiru/
★2019年9月27日(金)全国公開
posted by ほりきみき at 14:45| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

春画と日本人

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監督・撮影・編集・製作著作:大墻敦
ナレーター:濱中博久
音楽:矢部優子・池田陽子・長谷川美鈴・長谷川武尚
出演;小林忠(国際浮世絵学会会長)、浅野秀剛(国際浮世絵学会理事長)、木下直之(東京大学文化資学研究室教授)、石上阿希(国際日本文化研究センター特任助教)、浦上満(永青文庫春画展実行委員、古美術商)ほか [肩書きは取材当時]

キネマ旬報ベストテン2018年文化映画第7位

日本初の大規模な春画展が、2015年9月、東京の小さな私立博物館「永青文庫」で開幕した。国内外で秘蔵されてきた貴重な春画約120点を一堂に集めて展示する画期的な試み。それまで年間2万人の来館者だった永青文庫に、3ヶ月の会期中に21万人が押し寄せた。女性来館者55%、5人に1人が図録を購入するという異例の記録を打ち立て、美術界の話題をさらった。
開催までの道のりは困難を極めた。当初は、ロンドンの大英博物館で成功を収めた「春画展」の日本巡回展として企画されたが、東京国立博物館をはじめ国内の公私立博物館20館へ打診しても不調に終わった。海外で美術品として高く評価されている春画の展示が、なぜお膝元の日本ではすんなりと成立せず、小規模な私立博物館での開催となったのか。なぜ21万人もの熱狂的な観覧者が訪れたのか。映画は、展覧会を成功に導いた人々とともに「春画と日本人」をめぐる謎に迫っていく。

なお、本作品は、「春画」のオリジナリティと、収集・保存・研究にかけてきた方たちの意図を尊重するよう、「春画」にぼかしやトリミングをかけることなく紹介しているため、18歳未満入場禁止となっている。

春画とは男女の交わりや色恋をのびやかに表現したもの。性器まで描いているものもある。葛飾北斎、喜多川歌麿、菱川師宣らの浮世絵師のほとんどが絵筆をとり、当時最高水準の「彫り・摺り」の技術を用いた傑作が多い。ピカソが葛飾北斎の春画を所有していたなど海外での評価は高い。
成功を収めた大英博物館での春画展の日本巡回展企画は紆余曲折を経て小規模な私立博物館で開催。しかし、21万人もの来館者を記録した。
なぜ日本では春画の展示がスムーズにいかないのか。警察の見解はどうなっているのか。慶應義塾の塾長(代理)を務めた高橋誠一郎は江戸時代の浮世絵の個人コレクターだった。主要なコレクションの大半は遺族から母校である慶應義塾に譲られ、現在、およそ千五百点を数える優れた浮世絵が慶應義塾図書館で保管されている。しかし、そこには高橋が集めた春画はない。それはなぜなのか。作品はいくつもの疑問を検証する。
関係者の証言から日本における春画の位置付けを紐解くことで、日本人の事勿れ主義が浮かび上がってきた。責任逃れ体質を改めて突き付けられた気がする。(堀)


この映画で、名作との誉れ高い春画を初めてよっく見ました。抑えた色、着物の柄、構図の斬新さ、隅々まで手を抜かない毛の一筋一筋、彫り・刷りの技術の高さ。その美しさに感心しました。永青文庫の春画展の入場者は女性55%と男性を上回ったそうです。描かれている男女が良い表情をしていて、生を謳歌している大らかな江戸人の姿が観られました。女性を責めたり傷つけたりの不快なものはありません。図書館にも春画の図がある本が並んでいますが、タイトルに「春画」と入った本を借りるのは女性にはちょっとハードルが高いでしょう。美術品として一級のこの作品たちを解説付きで観られます。ぜひ映画館へ足をお運びください。(白)

2018年/87分/カラー/16:9
配給:ヴィジュアルフォークロア
(C) 大墻敦
公式サイト:https://www.shungamovie.com/
★2019年9月28日(土) ポレポレ東中野にてロードショー 
2019年秋 大阪・第七藝術劇場、京都シネマ、名古屋・シネマスコーレほか 順次全国公開
posted by ほりきみき at 14:28| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

任俠学園 

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監督:木村ひさし
脚本:酒井雅秋
音楽:末廣健一郎
主題歌:「ツギハギカラフル」 東京スカパラダイスオーケストラ  
原作:今野 敏『任俠学園』(中公文庫) 
出演:西島秀俊、西田敏行、伊藤淳史、葵わかな、葉山奨之、池田鉄洋、佐野和真、前田航基、 戸田昌宏、猪野学、加治将樹、川島潤哉、福山翔大、高木ブー、佐藤蛾次郎、桜井日奈子、白竜、光石研、中尾彬(特別出演)、生瀬勝久

困っている人は見過ごせない、義理と人情に厚すぎるヤクザ”阿岐本組”。組長は社会貢献に目がなく、次から次へと厄介な案件を引き受けてしまう。今度はなんと、経営不振の高校の建て直し。いつも親分に振り回されてばかりの阿岐本組NO.2の日村(西島秀俊)は、学校には嫌な思い出しかなく気が進まなかったが、“親分(西田敏行)の言うことは絶対”!子分たちを連れて、仕方なく学園へ。待ち受けていたのは、無気力・無関心のイマドキ高校生と、事なかれ主義の先生たちだったー。

ヤクザが経営不振の高校で生徒に巣食う心の闇を任侠道で治す。眉間にシワで強面の西島秀俊が無理して笑う姿に爆笑。新たな魅力が炸裂する。日村に反発しつつ懐いていく高校生に葵わかな。生意気なところがかわいい感じにうまくはまった。親分・西田敏行は懐の深さをにじませる。校長先生・生瀬勝久とのラストの会話は生瀬のリアクションも含めて見事。
エンドロールでNGシーンが紹介されるが、そこに流れるのは西田敏行が歌う「また逢う日まで」。主題歌「ツギハギカラフル」を書き下ろした東京スカパラダイスオーケストラとのコラボだが、その歌声に胸が締め付けられた。(堀)


2019年/日本/カラー/119分
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©今野 敏 / ©2019 映画「任俠学園」製作委員会
公式サイト:https://ninkyo-gakuen.jp/
★2019年9月27日(金)全国公開!
posted by ほりきみき at 14:04| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ライリー・ノース 復讐の女神(原題:PEPPERMINT) 

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監督: ピエール・モレル 
脚本:チャド・セント・ジョン
出演:ジェニファー・ガーナー、ジョン・オーティス、ジョン・ギャラガー・Jr、フアン・パブロ・ラバ

L.A.郊外、夫と一人娘と3人、愛する家族と平凡ながら幸せに暮らすライリー・ノース。ある日、麻薬組織の襲撃により、一瞬にして家族の命を奪われ、彼女は姿を消した。そして、5年後、ライリーは再びL.A.に還ってきた。復讐のため、悪党どもに正義の鉄槌を下すために―。ライリーVS麻薬カルテル。やがてそれは、警察、メディア、そして街中を巻き込む一大決戦へと突入する。

麻薬組織に家族を殺された女性が自らを鍛え上げて復讐に身を投じた。実行犯だけでなく加担した検事や判事も次々と血祭りにあげていく。演じたJ・ガーナーのきびきびとしたアクションが見事。銀行員だった主婦がここまでできるようになるのかという疑問も、躊躇うことなくなぎ倒していく爽快さでねじ伏せてしまう。全てが終わったとき、法と人情では主人公への判断が異なるが、杓子定規ではないラストがうれしい。(堀)

2018年/アメリカ、香港/カラー/シネマスコープ/英語、スペイン語/R15/5.1ch/102分
配給:プレシディオ
(C) 2018 LAKESHORE ENTERTAINMENT PRODUCTIONS LLC AND STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://riley-north.jp/
★2019年9月27日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
posted by ほりきみき at 13:44| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月19日

パリに見出されたピアニスト 原題:Au bout des doigts 英題:In Your Hands

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監督:ルドビク・バーナード
脚本:ルドビク・バーナード ジョアン・ベルナール
出演: ランベール・ウィルソン、クリスティン・スコット・トーマス、ジュール・ベンシェトリ、カリジャ・トゥーレ、エルザ・ルポワーヴル

パリ郊外で家族と裕福ではない暮らしをしているマチュー(ジュール・ベンシェトリ)はピアノが大好きな青年で、表向きはクラシックを否定しながら、ひそかに練習し続けていた。ある日、パリの北駅に置かれたピアノを弾いていると、偶然通りかかったパリ国立高等音楽院のディレクター、ピエール(ランベール・ウィルソン)から声を掛けられる。その後警察に捕まったマチューは実刑を免れるため、公益奉仕を命じられた音楽院でピアノのレッスンを受けることになる。

「ご自由に演奏を!」そう書かれたピアノが駅に設置してある光景は、パリ市民にとって珍しいことではないそうだ。さすがは文化が日常化したお国柄。監督が本作の着想を得たのも、 パリのベルシー駅でピアノを弾く青年を見かけたことがきっかけとなっている。

始まりはバッハの「平均律クラヴィーア曲集」の1曲が流れるパリ、北駅。弾いているのは革ジャンにパーカー、ジーンズ、スニーカーを履いた少年だ。注視する中年の男‥。
少年はある出来事からコンセルヴァトワール(パリ国立高等学院)で、“女伯爵”と呼ばれるピアノ教師の猛特訓を受ける成り行きに‥。そしてクライマックスのコンクール課題曲、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調」に取組むまでに様々なドラマが展開される。

バッハ、ショパン、リスト、 ラフマニノフなどクラシックの名曲が全編を覆う本作は、クラシック音楽好きには堪らない魅力だ。
驚くことに、主役を演じたジュール・ベンシェトリはピアノの経験が全くなかったそう!やはり、名優ジャン=ルイ・トランティニャンを祖父に、父は著名な映画監督兼俳優、母は夭折したマリー・トランティニャンという遺伝子の為せる技か。日本公開作では、イザベル・ユペール主演『アスファルト』での演技が印象に残っている人も多いだろう。いくぶん、生硬さを感じさせるが、思春期の少年特有の反骨心と繊細さを身体で表現している。

彼を支えるのは、仏や英語圏でも活躍するベテラン俳優ランベール・ウィルソンとクリスティン・スコット・トーマスの2人が、映画に安定感を齎せている。

セーヌ川中洲に建設されたラ・セーヌ・ミュージカル、音楽の殿堂サル・ガヴォー 、ノートルダム大聖堂やサン・マルタン運河などパリのロケ地が軽やかにスクリーンを彩って行く。(幸)


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ストリートピアノは日本国内でも設置しているところが増えているようです。都庁の展望台には草間彌生さん監修の黄色に黒の水玉模様のグランドピアノがあり、動画サイトにいろんな方が弾いているところがアップされています。映画のマチューのように通って弾いている天才少年少女が出てきたら面白いですよね。
映画では家族が生活に追われて、マチューの才能に気づいたり後押ししたりという余裕は全くありません。たまたま演奏を聞いたピエールが音楽関係の人間だったことが、マチューの運と才能を開かせていきます。天賦の才能も努力とチャンスが必要なこと、紆余曲折ありながらも報われる日がくるストーリーはありがちですが、俳優の好演でラストまで引っ張っていきます。(白)


2018年製作/106分/G/フランス・ベルギー合作
配給:東京テアトル
(C)Recifilms - TF1 Droits Audiovisuels - Everest Films - France 2 Cinema - Nexus Factory - Umedia 2018
https://paris-piano.jp/
★2019年9月27日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で順次公開★
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2019年09月15日

セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙~

2019年9月21日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開!
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(C)セカイイチオイシイ水製作委員会

スタッフ
監督:目黒啓太
原作:小嶋忠良
原案:湯川剛
脚本:目黒啓太
プロデューサー:山本祥生
撮影:谷峰登
音楽:勝瑞順一 前田哲彦
主題歌:elfin'

キャスト
清水明日香:辻美優
岩田公彦:赤井英和
田中努:新井裕介
西川瞳:花房里枝
アミー:ミエル・エスピノーザ
溝口:前川泰之
清水智恵子:岡千絵
倉持沙織:橋本マナミ
店長:蝶野正洋
角野:角田信朗
篠川:篠原信一
横井会長:森次晃嗣
ワン社長:張天翔
ボランティア:亀田大毅

日本とフィリピン両国のボランティア達の献身により、
戦争の傷を乗り越え9年もの歳月を費やし完成した
フィリピン・パンダンの水道建設工事にまつわる感動の実話を映画化!

フィリピン首都マニラから300キロ南のパナイ島。
1990年8月、日本に留学していたフィリピン人男性から、アジアでボランティア活動をしていたNGO「アジア協会アジア友の会」に、自分の故郷であるパナイ島のパンダンに井戸を掘ってほしいと依頼の電話があった。パンダンでは海水混じりの井戸水しかなく、多くの村人が腎臓病などに悩まされていた。
しかし、その島に安全な飲料水を供給するには、井戸水では間に合わないとわかり、きれいな水を水源から丘を越えて引かねばならなかった。「パンダン飲料水パイプライン建設事業」=パンダンプロジェクトのスタートだ。丘を越えてパイプラインを引くことの困難さにもう一つ越えなければならない困難があった。第二次世界大戦のつらい記憶が、フィリピンの人々の心の傷として深く残っていたのだ。
それから9年。汗と泥にまみれながら、様々な苦難を乗り越え、やがて日本人とフィリピン人の固い絆が生まれた。そして、日本、フィリピン両国の友情の証し「パンダンプロジェクト」の10キロにもおよぶ水道が完成した。その水を飲んだパンダンの人々は叫んだ「セカイイチオイシイ!」
主演を務めたのは、全日本美声女コンテストでグランプリを受賞した辻 美優。美声女ユニット「elfin' (エルフィン)」でアーティストとして活動し、本作の主題歌「アンルート」も担当した。女優・モデル・タレント・漫画家のほか、声優としてもアニメ映画『君の名は。』や『SING/シング』などに出演。マルチに活躍している。映画初出演、初主演となる本作では、友人に誘われ軽い気持ちで、パンダン水道建設工事プロジェクトにボランティアとして参加した女子大生・明日香を演じている。ボランティア活動を通し、人の心に寄り添い、生きる目標をつかむ等身大の明日香を演じている。
また、ボランティア活動のボス岩田役に赤井英和。フィリピンでの水路建設工事の立ち上げから関わり、反日感情が強い現地で、その誠実な人柄と情熱で皆から信頼されるアジア協会アジア友の会・岩田役を演じている。初めてのボランティア活動に戸惑う明日香をやさしく見守る人情味あふれる人物像で好演。現地ボランティアとして明日香の指導にあたる青年、田中役に新井裕介。高校生の時からモデル活動を始め、2009年にミュージカル「テニスの王子様」でデビュー。男劇団 青山表参道 X の一員として活躍。他、花房里枝、前川泰之、角田信朗、蝶野正洋、橋本マナミ、森次晃嗣など、各界から豪華キャストが出演している。また、明日香がパンダンで世話になるホームステイ先の娘アミー役をフィリピン人なら誰もが知っている、フィリピンを代表する子役俳優ミエル・エスピノーザが演じている。
監督・脚本は、本作が長編デビュー作となる新鋭・目黒啓太。

世界では今もなお安全な水が供給されずに死んでいく子供たちが、年間100万人以上もいる。この実話を元にした物語は、過去を乗り越え理解し合い、「今を生きる」ことの大切さを教えてくれる。日本の若者たちに、ぜひ見てもらいたい作品。

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(C)セカイイチオイシイ水製作委員会

また、この作品で知られざる歴史の出来事を知った。実話を元に作られた作品だという。NGO「アジア協会アジア友の会」の、この水道プロジェクト、そしてフィリピンでの日本軍の行為。太平洋戦争では、たくさんのアジアの人たちも殺され、戦後何十年たっても現地の人たちの日本人への憎しみは残っていた。そんな中で、始めた水道工事。最初は現地の人たちの協力が全然得られなかったらしい。それどころか、激しい憎しみの感情をぶつけられたという。
このプロジェクトが実現するために、横井克己JAFS会長が「資金がなければ私の生命保険を使えばよい。どうしてもこのプロジェクトをやりたい!」という実話も本当の話ということを、あとでこのプロジェクトのことをネットで調べたときに書いてあった。そういう中で赤井秀和演じるこのプロジェクトを進める現場責任者の岩田さんも実在の人物がいると知った。こういう方がいたから、このプロジェクトは完成した。あきらめずに9年もかかって完成したのだった。でもこういうことがあったことを、私は知らなかった。映画に感謝。忘れずに記録として残していける(暁)。

2019年製作/91分/G/日本
配給:太秦
オフィシャルサイト  

9/21(土)
『セカイイチオイシイ水 ~マロンパティの涙~』初日舞台挨拶
1回目10:30の回上映後 2回目12:30の回上映前
登壇者⏩辻美優(elfin')、新井裕介さん(男劇団 青山表参道X)、花房里枝(elfin')、ミエル・エスピノーザさん、目黒啓太監督
posted by akemi at 21:24| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アルツハイマーと僕~グレン・キャンベル音楽の奇跡~ (原題:Glen Campbell: I'll Be Me)

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監督:ジェームズ・キーチ
出演:グレン・キャンベル

アメリカのカントリーミュージック先駆者であるグレン・キャンベルは1936年4月22日 生れ。 1960年代~1970年代に多くのヒット曲を送り出してグラミー賞を受賞。シンガーソングライターであるほかに、テレビ番組の司会者も務め、約50年ショービジネス界で活躍した。2011年、グレン・キャンベルは自分がアルツハイマー型認知症であると公表した。それから開始された全米ツアーは最初の5週間の予定を大幅に上回り、1年半にも及んだ。病気は進行していくが、家族に支えられ医師が“奇跡”と驚くほど、舞台で歌うことだけは長く続けることができた。

認知症は徐々に進行していきます。初めの変化は本人も家族も病気がさせていることと了解しています。しかし、周りのことが少しずつわからなくなるにつれ本人も混乱しますし、日常生活や感情のコントロールができない姿を見守る家族も辛いものです。これは歌手である彼のさよならツアーの貴重な記録であると同時に、認知症と向き合う本人と家族への応援歌にもなりました。
グレン・キャンベルの歌は数曲聞き覚えがありました。ツアーでの客席の温かい反応を見るにつけ、歌うことで自分も周りも幸せにしてきた彼は良い人生を全うされた、と思いました。2017年没、享年81歳でした。(白)


グレン・キャンベルについて、何となく名前を聞いたことはあったが、どんな曲を歌っていたのか、全く知らないまま作品を観た。
フランク・シナトラ、エルヴィス・プレスリー、ビーチ・ボーイズとセッション・ミュージシャンとしてギターを弾いていたとのこと。「ビーチ・ボーイズにいたのは6カ月だけ」と話していたが、音楽に疎い私にはこれだけですごいと思えてくる。しかもギターと歌がうまいだけでなく、若い頃の映像を見るとかなり甘いマスク。これでは人気があったはずだ。
本作はグレン・キャンベルが検査を受け、アルツハイマー型認知症と診断されるところからスタート。病状について、家族はできる限り公表しながらツアーを敢行する様子を追う。初めの頃は普通に見えるが、少しずつ病状が進行していくのが伝わってくる。バックバンドには息子と娘が入って支えるが、それ以上に大きな力となったのはツアーを見に来たファン。彼らの声援がグレン・キャンベルを奮い立たせた。作品を見ている私まで熱くなる。
音楽映画であると同時に家族の歴史を綴る作品であり、アルツハイマー病の認知度を高める作品といえるだろう。(堀)


2014年/アメリカ/カラー/104分
配給:エレファントハウス、カルチャヴィル
(c)2014 GC Documentary, LLC. All Rights Reserved.
http://wowowent.jp/illbeme
★2019年9月21日(土)新宿シネマカリテ、有楽町スバル座ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 18:49| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ザ・ヒストリー・オブ・シカゴ ナウ・モア・ザン・エヴァー (原題:Now More Than Ever: The History of Chicago)

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監督:ピーター・パルディーニ
撮影:ジョン・オノレ
出演:ロバート・ラム、ジミー・パンコウ、リー・ロックネイン、ダニー・セラフィン、ウォルト・パラセイダー、テリー・キャス、ピーター・セテラ、デヴィッド・フォスター 、アーヴィング・エイゾフ、クライヴ・デイヴィス

1967年シカゴで結成されたバンド”ビッグ・シング”は”シカゴ”と名前を変え、1969年2枚組アルバム「シカゴの軌跡」でコロンビアからレコードデビューした。2016年にロックの殿堂入りを果たすまで、50年にわたるブラス・ロックバンドの歴史を辿ったドキュメンタリー。発足時の若々しい画像から、ライブシーン、懐かしい曲…すっかり年輪を重ねたメンバーがあのころそのときを語る。

当時のバンドには「あるある」な、酒やドラッグやらにまみれた若き日々。売れたと思えば喧嘩したり、浮き沈みを繰り返しながらも50年続けてきた!!というのにぐっときます。途中でリードギターのテリー・キャスが銃の暴発事故で亡くなってしまい、お酒飲んでなければと思ってもせんないことですが、才能がもったいないです。低迷した後復活を果たしながら、今度はボーカルのピーター・セテラが脱退。
多人数のバンドのメンバーが入れ替わるのは今もよくあることですが、今活躍中の20代30代の人たちがあと30年後40年後にどうしているやら。そう考えると、今70代の創始メンバーたちが現役でいるというのは、本当にすごいことです。私でも耳に残っているヒット曲の数々を聞きながら、同じころ自分は何していたっけと思わず遠い目になりました。(白)


大学生になって仲良くなった寮の友人がよくシカゴの「素直になれなくて」を聞いていた。それまでさだまさしや伊勢正三などを好んで聞いていた私には洋楽はまったく馴染みがなかったが、この曲をきっかけに「洋楽っていいかも」と思うようになった覚えがある。
そんな「シカゴ=素直になれなくて」の私にとって、本作の内容はかなり衝撃だった。よりによってピーター・セテラ以外のメンバーは「これ(=「素直になれなくて」)はシカゴじゃない」と不満を持っていたとは!(堀)


2016年/アメリカ/カラー/ヴィスタ/114分
配給:エレファントハウス、カルチャヴィル
Package Design & Supplementary Material Compilation TM & (C) 2016 Fisher Klingenstein Ventures,
LLC. All Rights Reserved.
http://wowowent.jp/chicago/#home
★2019年9月21日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
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僕のワンダフル・ジャーニー(原題:A Dog's Journey)

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監督:ゲイル・マンキューソ
原作:W・ブルース・キャメロン
製作総指揮:ラッセ・ハルストレム
脚本:キャスリン・ミション、マヤ・フォーブス、ウォーリー・ウォロダースキー
撮影:ローヒエ・ストファース, ASC, NSC
音楽:マーク・アイシャム
出演:デニス・クエイド(イーサン)、キャスリン・プレスコット(大人のCJ)、マージ・ヘルゲンバーガー(ハンナ)、ベティ・ギルピン(グロリア)、ヘンリー・ラウ(トレント)、アビー・ライダー・フォートソン(子供のCJ)、イアン・チェン(子供のトレント)
声の出演:ジョシュ・ギャッド(ベイリー/モリー/ビッグ・ドッグ/マックス)

ベイリーは子犬のときに出会ったイーサンと、大の仲良しだった。何度も生まれ変わってはイーサンを探し続け、やっと再会したイーサンとハンナと暮らしている。ハンナの息子が亡くなってしまい、奥さんのグロリアと孫娘のCJが同居してベイリーはCJとも親友になった。けれども、グロリアは義父母との生活を嫌ってCJを連れて出て行った。ベイリーの命が終わるとき、イーサンは「また生まれ変わって今度はCJを幸せにして」と頼む。生まれ変わったベイリーはイーサンとの約束を守って、CJを見つけるためにまた旅に出る。

僕のワンダフル・ライフ』(2016)の続編です。前作の監督だったラッセ・ハルストレムは製作総指揮に、監督はテレビの「モダン・ファミリー」を手がけたゲイル・マンキューソに替わりました。主役犬のベイリーの声は続投。いろいろな犬種で登場するのが楽しみの一つです。
飼い主に忠実で健気で可愛いベイリーにまたもやすっかり感情移入し、こんな相棒がいたらどんなに毎日が楽しいだろうと思います。飼いたくなるのですが、これから一緒に生きていくには年齢や何やとハードルが高いのが現状です。
今だに日本では殺処分されてしまう犬猫がたくさんいます。なんとか救いたいと奔走している方々もたくさん、これからそういう動物たちやレスキューの方々とご縁がありましたら、ぜひご一考ください。あなただけのベイリーに出会えるかもしれません。(白)


2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/109分
配給:東宝東和
(c)Universal Pictures and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.
https://boku-wonderful.jp/
★2019年9月13日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 16:48| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月14日

乱反射 

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監督:石井裕也
脚本:成瀬活雄・石井裕也
原作:貫井徳郎「乱反射」(朝日新聞出版/ 朝日文庫)
出演:妻夫木聡、井上真央、萩原聖人、北村有起哉、光石研、三浦貴大、芹澤興人、相楽樹、筒井真理子、梅沢昌代、田山涼成、鶴見辰吾

幸せな家庭を築く新聞記者・加山聡(妻夫木聡)とその妻・光恵(井上真央)。 聡の父親が倒れて入院し、光恵は息子・翔太を連れて見舞いに行った。その帰り、強風によって倒れた街路樹がベビーカーに乗っていた翔太を直撃。幼い命は助からなかった。事故の真相を追う聡が突き止めたのは、「誰にでも心当たりのある」小さな罪の連鎖だった。
誰も謝罪をせず、誰もが人のせいにし、自分の責任を認めない。追い込まれた父親と母親は、幼い息子を失った悲しみと怒りの矛先を、自分自身に向けていくことを余儀無くされる。

2018年9月にメ~テレ開局55周年記念作品としてテレビ朝日系列にて放送されたが、2019年6月に開催された第22回上海国際映画祭より公式招待を受け、異例のインターナショナル・プレミア上映が行われた。香港での劇場公開が決定するなど海外でも劇場公開が決定している。日本でも9月21日(土)よりユーロスペースにて1週間限定の特別上映が緊急決定。
テレビ版ではなく劇場用ディレクターズカット版が上映される。

<石井裕也監督コメント>
『乱反射』が劇場で公開されることは悲願でした。製作時から、キャスト・スタッフの方々と共に劇場公開を目指していました。同時に、海外へもどんどん展開していこうという野望を持っていました。それらが現実となり、とても嬉しく思います。撮影したのは2017年の7月ですが、「責任の所在がハッキリしない日本社会の縮図」でもあるこの作品は、全く色褪せていません。テレビで一度ご覧になった方も、よりダイナミックになった映画版『乱反射』を楽しんでいただけると思います。

街路樹が倒れる瞬間にそのそばを通っていたという不運なタイミングの一致だけがこの事故の原因ではない。街路樹は定期的に点検が行われるが、その木だけ点検が行われていなかった。それはその木の根元に犬の糞がたくさんあったため、極度の潔癖症の造園業者は点検ができなかったのだ。なぜ、その木の根元だけ糞がたくさんあったのか。それは愛犬と散歩をする老人が腰を屈めるのが辛いという理由でいつもその木の根元に放置していたから。
聡は新聞記者という仕事柄、いろいろ調べ上げていく。すると、このほかにも様々な偶然が重なった結果、事故が起こったことが明らかになる。これらはどれも「このくらい大丈夫」というちょっとした公共心の欠如。だから誰も自分のせいだとは思わない。散歩する老人は事故のニュースを見たとき、自分の愛犬が下敷きにならなくてよかったと胸をなでおろす。演じた田山涼成のしれっとした顔は見ていて怒りを覚えるほど。しかし、老人に怒りを感じた自分も実は意識せずに公共心の欠ける行動をしているかもしれない。被害者の聡も別のところで公共心に欠ける行動を取っていたのだから。(堀)


【トークショー情報】
9月22日(日) ゲスト:石井裕也監督、妻夫木聡さん
9月23日(月) ゲスト:石井裕也監督、北村有起哉さん
9月24日(火) 英語字幕付き上映 ゲスト:未定
9月25日(水) ゲスト:芹澤興人さん、前野朋哉さん

2018年/日本/カラー/5.1ch/94分
配給:フリーストーン
©メ~テレ2018
公式サイト:https://www.nagoyatv.com/ranhansya/special/
★2019年9月21日(土)よりユーロスペースにて1週間限定の特別上映
posted by ほりきみき at 13:05| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

王宮の夜鬼(原題:창궐/英題:RAMPANT) 

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監督:キム・ソンフン
脚本:ファン・ジョユン
撮影:イ・ソンジェ
出演:ヒョンビン、チャン・ドンゴン、チョ・ウジン、チョン・マンシク、イ・ソンビン、キム・ウィソン

咬まれると白目になり牙が生え、人の生き血を求める“夜鬼”へと豹変する謎の感染爆発が蔓延する朝鮮時代。存亡の危機に陥った朝鮮に帰還した王子イ・チョンは、至る所にはびこる夜鬼の群れと戦う朝鮮随一の武官 パク従事官らと出会い、成り行きで彼らと行動を共にすることになる。一方、国を掌握しようと企む国王の側近である絶対悪キム・ジャジュンは、国家転覆を謀り、夜鬼を利用して最終手段に打って出るが…。

清から呼び戻された第2王子にヒョンビン。国家の転覆を狙う重臣にチャン・ドンゴン。そこに夜鬼(ゾンビ)が絡んでくる。朝鮮はこのまま夜鬼に滅ぼされるのか。即位に興味のなかった王子が国のあるべき姿に気づいていく。それとともにヒョンビンが次第に精悍な顔立ちになっていくのが見ていてうれしい。チャン・ドンゴンは凄みのあるアクションに惹きつけられた。(堀)

2018年/韓国/カラー/シネスコ/5.1ch/121分
配給:クロックワークス
(C) 2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & LEEYANG FILM & REAR WINDOW. All Rights Reserved.
公式サイト:http://klockworx-asia.com/rampant/
★2019年9月20日(金)シネマート新宿ほか全国ロードショー

posted by ほりきみき at 12:50| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

レディ・マエストロ(原題:De dirigen)

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監督・脚本:マリア・ペーテレス
音楽監督:ステフ・コリニョン
出演:クリスタン・デ・ブラーン、ベンジャミン・ウェインライト、スコット・ターナー・スコフィールド

世界中どこを探しても女性のプロの指揮者は一人もいない時代。音楽への情熱だけは誰にも負けないアントニアは、ナイトクラブでピアノを弾いて稼いだ学費で、音楽学校に通い始める。だが、ある“事件”から退学を余儀なくされ、引き留める恋人を置いて、アムステルダムからベルリンへと渡る。そこでアントニアは女性に指揮を教えてくれる師と巡り合う。しかし、憑かれたようにレッスンに没頭するアントニアに、出生の秘密、恋人の裏切り、女性指揮者への激しいバッシングなど、次々とアクシデントが襲い掛かる。

【登場する主な楽曲】
マーラー「交響曲第4番」
ドヴォルザーク「ロマンス」
バッハ「オルガン・コーラル」
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第32番」
ビゼー「オペラ《カルメン》~ハバネラ」
ドビュッシー「夢」
ストラヴィンスキー「火の鳥」
ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」

女性指揮者アントニオ・ブリコの若き日を描く。1920年代後半、女性指揮者なんてありえないない時代。それでも指揮を学びたいと巨匠に直談判。
男性たちが「女は結婚して子どもを産んでこそ幸せ」としか考えていないことがガンガンに伝わってくる。それは「女性は底辺」と言い切る下衆な恩師だけでなく、著名な指揮者や愛する男性からも。いや、男性だけでない。愛する人の母親も恐らく同じ。そこに幸せを感じる人もいる。ただ、それが全てではないことを理解してほしいと主人公を通じて作品は訴える。
愛よりも音楽を選んだ代償は大きかったが得たものも大きい。「どうせ批判されるなら心の赴くままに」。大統領夫人の言葉は現代にも響くだろう。しかし、エンドロールに書かれた音楽界の現状にまだまだ男性上位の世界であることを強く感じた。(堀)


2019年/オランダ/英語・オランダ語/カラー/シネスコ/5.1ch/139分
配給:アルバトロス・フィルム
(C) Shooting Star Filmcompany 2018
公式サイト:http://ladymaestro.com/
★2019年9月20日(金)からBunkamura ル・シネマほか全国で公開

posted by ほりきみき at 12:40| Comment(0) | オランダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アイネクライネナハトムジーク

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監督:今泉力哉
原作:伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」(幻冬舎文庫)
主題歌:⻫藤和義「⼩さな夜」
出演:三浦春馬、多部未華⼦、⽮本悠⾺、森絵梨佳、恒松祐⾥、萩原利久、成田瑛基、⼋⽊優希、こだまたいち、MEGUMI、柳憂怜、濱⽥マリ、藤原季節、中川翼、祷キララ、伊達みきお、 富澤たけし、貫地⾕しほり、原田泰造

仙台駅前。大型ビジョンを望むペデストリアンデッキでは、日本人初の世界ヘビー級王座を賭けたタイトルマッチに人々が沸いていた。そんな中、訳あって街頭アンケートに立つ会社員・佐藤(三浦春馬)の耳に、ふとギターの弾き語りが響く。歌に聴き入るリクルートスーツ姿の本間紗季(多部未華子)と目が合い、思いきって声をかけると、快くアンケートに応えてくれた。紗季の手には手書きで「シャンプー」の文字。思わず「シャンプー」と声に出す佐藤に紗季は微笑む。
元々劇的な〈出会い〉を待つだけだった佐藤に、大学時代からの友人・織田一真(矢本悠馬)は上から目線で〈出会い〉の極意を説く。彼は同級生の由美(森絵梨佳)と結婚し、2人の子供たちと幸せな家庭を築いている。変わり者ながらも分不相応な美人妻と出会えた一真には不思議な説得力がある。佐藤は職場の上司・藤間(原田泰造)にも〈出会い〉について相談してみるが、藤間は愛する妻と娘に出て行かれたばかりで、途方にくれていた。一方、佐藤と同じく〈出会い〉のない毎日を送っていた由美の友人・美奈子(貫地谷しほり)は、美容室の常連客・香澄(MEGUMI)から紹介された、声しか知らない男に恋心を抱き始めていた。
10年後―。織田家の長女・美緒(恒松祐里)は高校生になり、同級生の和人(萩原利久)や亜美子(八木優希)と共にいつもの毎日を送っている。そして佐藤は、付き合い始めて10年になる紗季に、意を決してプロポーズをするが…。 果たして佐藤と紗季の〈出会い〉は幸せな結末にたどり着けるのか。美奈子の恋は、藤間の人生は―。思いがけない絆で佐藤とつながっていく人々が、愛と勇気と幸福感に満ちた奇跡を呼び起こす。

出会いを待つサラリーマン、きっかけを与えられた美容師。2つの恋を中心に、一歩を踏み出せない人たちにエールを送る。
原作は伊坂幸太郎の同名小説。シンガーソングライター斉藤和義のファンを公言している伊坂が斉藤に作詞を頼まれたが「詞は書けないけど、小説なら」と書いた短編が連作短編集となったもの。
一人一人のできることは小さいかもしれない。しかし、それが誰かに勇気を与え、幸せに導くこともある。どんなことでもいい。行動を起こせば何かが変わるはず。(堀)


2019年/日本/カラー/119分
配給:ギャガ
©2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会
公式サイト:https://gaga.ne.jp/EinekleineNachtmusik/
★2019年9月20日(金)ロードショー

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エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ(原題:EIGHTH GRADE) 

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監督・脚本:ボー・バーナム
音楽:アンナ・メレディス
出演:エルシー・フィッシャー、ジョシュ・ハミルトン、エミリー・ロビンソンほか

中学校生活の最後の一週間を迎えたケイラは、「学年で最も無口な子」に選ばれてしまう。不器用な自分を変えようと、SNSを駆使してクラスメイト達と繋がろうとする彼女だったが、いくつもの壁が立ちはだかる。人気者のケネディは冷たいし、好きな男の子にもどうやってアプローチして良いか分からない。お節介ばかりしてくるパパはウザイし、待ち受ける高校生活も不安でいっぱいだ。中学卒業を前に、憧れの男子や、クラスで人気者の女子たちに近づこうと頑張るが…。

内気で人付き合いの苦手な女子中学生が高校入学を前に殻を破ろうと奮闘する。背伸びしすぎて危ないこともあり、見ていてハラハラ。いろいろ経験した後での、身の丈のあった彼との自宅デートは微笑ましい。目に見えないけれど、確実に成長しているのを感じた。
娘がパーティーに誘われたものの参加を渋ると奮い立たせて参加させ、先輩に誘われて遊びに出掛ければ心配のあまり隠れてついて行き、後ろからそっと見守る。心配症なシングルファーザーの父親の行動は他人事ではない。
それにしても子供達がみんなスマホ漬け。いいのか、これで。せめて夕飯時はぜったいにスマホ禁止にすべきと思わずにはいられなかった。(堀)


2018年/アメリカ/英語/カラー/ 5.1ch / 93分
配給:トランスフォーマー 
© 2018 A24 DISTRIBUTION, LLC
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/eighthgrade/
★2019年9月20日(金)ロードショー
posted by ほりきみき at 12:14| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月12日

シンクロ・ダンディーズ! 原題:SWIMMING WITH MEN

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監督:オリヴァー・パーカー
出演:ロブ・ブライトン、ルパート・グレイヴス、ジム・カーター、シャーロット・ライリー

妻と仲が悪く息子にはバカにされてきた会計士のエリック(ロブ・ブライドン)は、なじみの公営プールで中年男性ばかりが集うアーティスティックスイミングチームと出会う。メンバー入りすることになった彼は、仲間と一緒にイギリス代表チームの一員として世界選手権に出場することになった。エリックは、厳しい特訓に励むうちに生きがいを見いだす。

中年男性による実話ベースのシンクロナイズド・スイミング映画といえば、先ごろ仏版『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』が公開したばかり。本作の英国版と立て続けだ。なぜか今年は「おっさんシンクロ・ブーム」?
2001年に『ウォーターボーイズ』が上映された日本としては、同ジャンルは先輩格といえるかもしれない(笑)

高校生VSおっさんだからと侮るなかれ。スイミング場面はCGもスタントも使用せず、本人たちだけで演じたそう。撮影前にストラッドフォードで行われた水泳キャンプでは、殆どの俳優が水中でもがくだけだったというから驚きである。主要人物の1人を演じる人気ドラマ「ダウントン・アビー」のジム・カーター曰く、
「私たちはエレガントに溺れていた」
流石は英国紳士!表現まで優雅だ。

日本でも根強い人気を持つ英国映画『フル・モンティ』的要素を想像していたら、ミドル・クライシスをテーマとした、意外にもシリアスなテーマが根底に流れている。それでも、監督が『理想の結婚』『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』など軽妙洒脱な作品が多いオリヴァー・パーカーだけに、英国的ユーモアを品良く挟む。
撮影監督はダイビング資格を持つという頼もしさで安定感のある水中撮影を披露しながら、「ダウントン・アビー」のカメラもこなした気品さを忘れない。音楽はITVの人気ドラマ「セルフリッジ 英国百貨店」と同じスタッフだ。英国エンターテイメントを担う粋職人が本作を支える。

”世界一層が厚い”と言われる英国俳優陣。主役に『イタリアは呼んでいる』『スノーホワイト 氷の王国』の他、司会業もこなすロブ・ブライドン。『SHERLOCK』シリーズ、『モーリス』『眺めのいい部屋』などのルパート・グレイヴス。「ダウントン・アビー」の執事カーソン役ジム・カーターらが真面目に熱演し、笑わせてくれる。
その他、王立演劇学校を卒業したような舞台経験豊かな演技巧者ばかりだから、大人が安心して鑑賞できるレベルだろう。
人生の応援歌としての楽しさに溢れた本作。実話のモデルとなったスウェーデンの男子シンクロチームも登場するので、お見逃しなく!(幸)

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主人公のエリックは、会計士として職場ではそれなりの地位だけど仕事はマンネリ、妻は選挙に当選して政治家として采配を振るっていて、家に帰るとなんだか居心地が悪い。自分の居場所を感じてないところに、プールで成り行きでシンクロチームに入ることになり、だんだん生きがいを感じていく。演じたロブ・ブライドンは、そんな男の悲哀をそこはかとなく感じさせてくれて絶品。
私がもう一人気になったのが、メンバーの中でも肌の色が違って、異彩を放っているカートを演じたアディール・アクタル。『ヴィクトリア女王 最期の秘密』でも、チビのインド人従者を演じて笑わせてくれた方。日本の公式サイトにクレジットされてなくて、お気の毒なので、ぜひ注目を! (咲)


仲間とやりがい。人にはこれが不可欠。シンクロでストレス解消していた中年男性たちが世界大会を目指す。主人公は仕事が充実している妻へのヤキモチから負のジレンマに陥っていたが、シンクロを通じて立ち直っていく。
俳優たちが自ら演じたシンクロの技が見事。実は娘が学生時代に部活でシンクロをやっていた。水面でみんなが揃ってバランスよく浮かんで模様を描くのは本当に難しのだが、俳優の面々たちは短期間の練習でそれをやってのけた。こんなところにもプロ意識を感じる。そのうえで、大会の結果は嘘くさくない脚本もいい。
ほしいものには思い切って手を伸ばすことも必要。妻が来てくれるのを待つのではなく、自ら立ち向かった夫と支えた仲間が眩しい。(堀)



2018/イギリス/スコープサイズ/96 分/カラー/英語/DCP/5.1ch/
配給:キノフィルムズ/木下グループ
©SWM FILM COMPANY LTD 2018
公式サイト:http://synchro-dandies.jp/
9月20日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開




posted by yukie at 13:18| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

見えない目撃者

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監督:森淳一
脚本:藤井清美 森淳一
出演:吉岡里帆、高杉真宙、大倉孝二、浅香航大、國村隼、渡辺大知、柳俊太郎、松田美由紀、田口トモロヲ

浜中なつめ(吉岡里帆)は警察学校の卒業式の夜、過失で弟を事故死させ、自分の視力も失う。警察官になることを諦めたなつめはある日、自動車事故の現場で少女が助けを求める声を聞く。誘拐事件を疑ったなつめは警察に訴えるが十分に捜査してもらえず、自ら動き出す。

まさか泣くとは思わなかった!骨太とはいえ、猟奇的なR15+指定のサスペンス・スリラーで‥。それほどまでに感情を揺さ振り続ける本作を撮ったのは、『重力ピエロ』『リトル・フォレスト』シリーズなどの森淳一監督。脚本は『るろうに剣心』シリーズ『ミュージアム』などの藤井清美と共同である。

説明を排した話法、中盤からラストまでクライマックスの連続という練られた構成に、小気味好いテンポで進行する。森監督は製作会社「ROBOT」所属だけに映像のセンスも優れており、きめ細かなディテールからワンカット長回しまで自在に操る。
時折、挟まれる視力を失っている主人公が「見ている世界」の可視化は見事だ。

森演出のテンポ・リズムが一瞬だけ落ちる場面がある。「タラタラしないで、とっとと進行すれば良いのに‥」とテンポ好き(?)映画ファンは少しイラッとしたのだが、それが後から重要な伏線だと気付いた時の感銘!「う〜ん‥、良く出来ている」と唸らざるを得なかった。

幾つかの挿話を通し、芯が強く勇気と母性を感じさせる主人公を渾身の演技で造形してみせる吉岡里帆。チャラい雰囲気を醸しながらも善良さ丸出しで主人公をサポートして行く高杉真宙。
猟奇繋がりで(?)デビッド・フィンチャー監督の『セブン』でいえばモーガン・フリーマン的な温かさを齎らす田口トモロヲ。バディコンビが絶妙な大倉孝二。主役から脇役まで全員の好演で魅せる映画は多くない。特に盲導犬の名演技にもご注目を!(幸)


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見えないからこそわかることがある。一方で見ているようで見ていないことも。盲目の主人公が偶然、若い女性の拉致監禁事件に気がつき、同じ現場を目撃した高校生とともに犯人に迫る。微かな音、匂いで主人公がわかったことをうまく可視化してスクリーンに映し出す。主人公が犯人から追われたとき、高校生がスマホを使って遠隔サポートする方法は見事。2011年の韓国映画『ブラインド』のリメイクだが、韓国版にはない見せどころ。ただ、韓国版よりもかなりグロいシーンがあるので苦手な人は自衛が必要かもしれない。
なお、2015年には韓国版のアン・サンフン監督が再びメガホンをとり、中国でリメイクしている。中国では興行収入43億の大ヒットとなったので、3作品を観比べるのも面白いだろう。(堀)


(C) 2019「見えない目撃者」フィルムパートナーズ (C) MoonWatcher and N.E.W.
2019年製作/128分/R15+/日本/カラー
配給:東映
公式サイト:http://www.mienaimokugekisha.jp/
★9月20日より 、丸の内TOEIほか全国 公開
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2019年09月08日

プライベート・ウォー   原題:A Private War

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監督:マシュー・ハイネマン(『カルテル・ランド』『ラッカは静かに虐殺されている』)
出演: ロザムンド・パイク、ジェイミー・ドーナン、トム・ホランダー、スタンリー・トゥッチ

2012年2月、シリア内戦取材中、政府軍の砲弾に散ったアメリカの女性ジャーナリスト、メリー・コルヴィン。
本作は、英国サンデー・タイムズ紙の特派員として、世界各地の戦場に赴き、戦禍に苦しむ人々の思いを伝えたメリーの半生に迫る物語。
トレードマークだった黒い眼帯は、2001年、スリランカ内戦の折、ジャーナリスト入国禁止を無視し、バンニ地域を取材中、ロケット砲弾にあたって左目を失明して以来つけていたもの。
その後も、イラク、アフガニスタン、アラブの春に揺れるチュニジア、エジプト、リビアと精力的に取材。PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみながらも、戦地の真実を伝え続けた。享年56歳。

メリー・コルヴィンの名前を知ったのは、『バハールの涙』(2019年1月公開 作品紹介)で、彼女をモデルにした眼帯ジャーナリスト・マチルドと通じてのこと。『バハールの涙』でエマニュエル・ベルコが存在感たっぷりに演じた女性記者を、本作ではロザムンド・パイクが体現している。
ハードな取材の合間に、恋もしたらしいことに少しほっとした。
イラク、アフガニスタン、リビア、シリアなどの戦地の場面は、すべてヨルダンで撮影したとのこと。服装や看板などで、それぞれの雰囲気をうまく描いている。
メリーが2度、謁見に成功したリビアのカダフィ大佐も、なかなか似ている。

それにしても、数多くの戦場カメラマンと呼ばれる人たちが、取材中に命を落としている。危険を冒してまで、戦場の真実を伝えたいという思いには、ただただ感服するばかり。彼らが伝える映像や当事者の人たちの声に、戦争を終わらせなければと思うのに何もできないのがはがゆい。戦争を引き起こしている権力者たちは、このような報道を見ても動じないのだろうか。(咲)


2019年/イギリス・アメリカ/110分/G
配給:ポニーキャニオン
公式サイト:http://privatewar.jp/
★2019年9月13日(金)TOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー





posted by sakiko at 18:44| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みとりし

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監督・脚本:白羽弥仁
原案:『私は、看取り士。』柴田久美子著(佼成出版社刊) 
出演:榎木孝明、村上穂乃佳、高崎翔太、斉藤暁、大方斐紗子、堀田眞三、片桐夕子、石濱朗、仁科貴、みかん、西沢仁太、藤重政孝、杉本有美、松永渚、大地泰仁、白石糸、川下大洋、河合美智子、つみきみほ、金山一彦、宇梶剛士、櫻井淳子

定年間近のビジネスマン柴久生は交通事故で娘を亡くし、家族とも離散。喪失感から踏切に飛び込もうとした時、「生きろ」の声を聞く。それは、亡くなった友人・川島の声だった。川島の墓参りに行き、川島の最期に立ち会ったという女性に出会い、看取り士という聞き慣れない職業を知る。余命告知を受けた人が安らかに旅立てるよう手助けする仕事に柴は興味を持つ。
5年後、柴は備中高梁の町の小さな看取りステーションで、地元の病院と連携しながら、最期の時を迎える患者たちを温かく看取っていた。そんなある日、23歳の新人見取り士・高村みのりが着任する。9歳の時に母を亡くしたことから、看取り士を志したみのりを、柴は優しく支えながら指導する・・・

人生の最期を温かく支える「看取り士」という仕事。
本作は、長年、看取り活動を続け、現在、「一般社団法人 日本看取り士会」代表理事を務める柴田久美子さんの「看取り士」のことを世に知らしめたいという思いが結実した映画。
10数年前、隠岐・知夫里島で看取り活動をしている柴田久美子さんに出会った榎木孝明さん。いつか映画化する折には、榎木さんに主役を演じてほしいという柴田さんの希望も実現。
映画を観る前には、「看取り士」は独居老人の最期を看取る役割を担う人というイメージを持っていた。実は、余命宣告を受けた本人と、その家族の両方のケアをする人だと知った。死は誰しもに訪れるとわかっていても、つい自分にはまだ先のことと思っている。企画に携わり、主役を務めた榎木孝明さんにお話を伺い、「死を意識すれば、今何をすればいいか明確になる」という言葉に、はっとさせられた。どれだけ残されているかわからない日々。一日一日大事に過ごしたい。(咲)

本作のタイトルを漢字で書くと「看取り士」となる。初めて聞く仕事でも、漢字から何となく仕事内容を察することができるのではないだろうか。
まず、榎木孝明が演じる会社員の柴 久生が友人の死を通じて看取り士の存在を知る。この導入部分を見ると看取り士の仕事がとてもよくわかる。
本作のメインパートはその5年後。看取り士となった柴の下に23歳の新人看取り士が配属となる。彼女が仕事を通じて、死と向き合い、看取り士として人間として成長する姿を描く。
看取り士は、医療行為はできない。しかし、だからこそ本人や家族の不安や心配を同じ目線で受け止める存在として、大きな支えとなるのを感じた。死は誰にでも訪れる。決して他人事の話ではない。(堀)



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『みとりし』企画・主演 榎木孝明さんインタビュー
死と向き合えば、今が輝く


映画『みとりし』の舞台挨拶が決定!


■東京・公開記念舞台挨拶
<日程>9月14日(土)10時からの回上映後及び13時からの回上映前
<会場>有楽町スバル座
<登壇ゲスト>榎木孝明さん、村上穂乃佳さん、高崎翔太さん、櫻井淳子さん(以上、出演者)、白羽弥仁さん(監督)、柴田久美子さん(原案)

■名古屋・初日舞台挨拶
<日程>9月14日(土)14時40分の回上映終了後
<会場>名演小劇場
<登壇ゲスト>榎木孝明さん(出演)、白羽弥仁さん(監督)、柴田久美子さん(原案)

■大阪・公開記念舞台挨拶

<日時>9月15日(日)14時10分の回上映終了後
<会場>第七藝術劇場
<登壇ゲスト>
榎木孝明さん(出演)、白羽弥仁さん(監督)、柴田久美子さん(原案)

■岡山・公開記念舞台挨拶
<日程>9月15日(日)
<会場>イオンシネマ岡山
<登壇ゲスト>榎木孝明さん(出演)、白羽弥仁さん(監督)、柴田久美子さん(原案)


2019年/110分/G/日本
配給・宣伝:アイエス・フィールド
(c) 2019「みとりし」製作委員会
公式サイト:http://is-field.com/mitori-movie/
★2019年9月13日(金)より有楽町スバル座ほか全国順次ロードショー



posted by sakiko at 18:40| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

人間失格 太宰治と3人の女たち

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監督:蜷川実花
脚本:早船歌江子、音楽:三宅純 撮影:近藤龍人
主題歌:東京スカパラダイスオーケストラ「カナリア鳴く空feat.チバユウスケ」(cutting edge/JUSTA RECORD)
出演:小栗旬、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみ、成田 凌、千葉雄大、瀬戸康史、高良健吾、藤原竜也

天才作家、太宰治。身重の妻・美知子とふたりの子どもがいながら恋の噂が絶えず、自殺未遂を繰り返すー。その破天荒な生き方で文壇から疎まれているが、ベストセラーを連発して時のスターとなっていた。
太宰は、作家志望の静子の文才に惚れこんで激しく愛し合い、同時に未亡人の富栄にも救いを求めていく。ふたりの愛人に子どもがほしいと言われるイカれた日々の中で、それでも夫の才能を信じる美知子に叱咤され、遂に自分にしか書けない「人間に失格した男」の物語に取りかかるのだが・・・。

酒と女に溺れ、肺を病み、好き勝手に生きた太宰治。女は振り回されただけなのか。太田静子は「斜陽」モデルの名誉、富栄は最後の女という愛の形、本妻の美知子は太宰の甘えを拒絶して「人間失格」という傑作を書かせた。太宰は女の手のひらで転がされただけ。この蜷川実花の解釈は興味深い。演劇的な手法を映像だからこその方法で見せるシーンが印象に残った。(堀)

2019年/日本/カラー/120分
配給:松竹、アスミック・エース
© 2019 『人間失格』製作委員会
公式サイト:http://ningenshikkaku-movie.com/
★2019年9月13日(金)より全国公開
posted by ほりきみき at 09:30| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

記憶にございません!

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監督・脚本:三谷幸喜
出演:中井貴一、ディーン・フジオカ、石田ゆり子、草刈正雄、佐藤浩市、小池栄子、斉藤由貴、木村佳乃、吉田羊、山口崇、田中圭、梶原善、寺島進、藤本隆宏、迫田孝也、ROLLY、後藤淳平(ジャルジャル)、宮澤エマ、濱田龍臣、有働由美子

病院のベッドで目が覚めると一切の記憶がなく、ふと見たテレビのニュースに演説中に投石を受け、病院に運ばれている首相として自分が映っていた。
総理の記憶喪失を知るのは秘書官3名のみ。国民から史上最悪のダメ総理と呼ばれていたことはもちろん、政策、大臣の顔と名前、国会議事堂の本会議場の場所、自分の息子の名前すら分からない。記憶にない件でタブロイド紙のフリーライターにゆすられ、記憶にない愛人にホテルで迫られる。妻も不倫をし、息子は非行に走っている気配。そこに米国大統領が来訪した。
政界のライバル、官邸スタッフ、マスコミ、家族、国民を巻き込んで、記憶を失った男が捨て身で自らの夢と理想を取り戻そうと奮闘する。

お金と権力しか興味がない総理が記憶喪失になったことによって起こるドタバタ喜劇。
庶民が総理大臣になったら。三谷幸喜が自らの妄想を総理に庶民感覚を持たせて実現した。総理を含め、政治家たちの下衆っぷり。特定の誰かをイメージさせず、普遍性を持たせてコミカルに描く。人はきっかけがあれば変われる。誰が上に立っても同じなんてことはないと思えるラストが気持ちいい。(堀)


2019年/日本/カラー/127分
配給:東宝
(C) 2019フジテレビ 東宝
公式サイト:https://kiokunashi-movie.jp/
★2019年9月13日(金)全国東宝系にてロードショー

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2019年09月07日

ある船頭の話

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脚本·監督:オダギリ ジョー
撮影監督:クリストファー·ドイル
衣装デザイン:ワダエミ
音楽:ティグラン・ハマシアン.
出演:柄本明、川島鈴遥、村上虹郎/伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優/笹野高史、草笛光子/細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功

のどかな山奥の村。河原の小屋に暮らす渡し舟を営む船頭トイチ。
明治から大正へと時代が移ろい、川の少し上流には橋が出来つつある。これまで町に出るのに渡し舟が頼りだった村の人たちは、完成を楽しみにしている。
そんなある日、川を流されてきた少女が舟にぶつかる。トイチは少女を助け、小屋で一緒に暮らし始める。過去を何も語らない少女だが、孤独だったトイチは癒される。一方で、トイチの人生は大きく狂い始める・・・

町に出るのに渡し舟だけが頼りだった村の人たちにとって、橋が出来ることはほんとに有難いこと。なにより、一刻を争うような病に罹ったときには、命拾いできるかもしれない。橋の完成を待ち望む人たちと接しながら、複雑な思いでいる船頭を柄本明が体現している。
俳優オダギリジョーが、10年前に書きとめた物語をもとに脚本を書き、自ら監督を務めた初長編作品。これまでの俳優人生の中で培った交友をもとに集めたキャストとスタッフが実に豪華。
近代化の中で、ほんとうの幸せとは何かを問いかける作品。
クリストファー・ドイルが切り取った日本の風景が実に美しい。(咲)

客のよもやま話に耳を傾けつつ、櫂をくゆらせるように渡し舟を漕ぐ船頭。圧倒的な柄本明の存在感。その船頭に自らの存在意義を考えさせることで利便性による人間らしさの喪失に警鐘を鳴らす。
伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優、笹野高史、草笛光子。向こう岸に渡るだけの出演に個性あふれる俳優たちを起用。監督の人脈がうかがわれる。
撮影はクリストファー・ドイル。オダギリジョーが出演した『宵闇真珠』で知り合った。青みが強く硬質な画に川と空の青、山の緑が映え、挟み込まれる実景の美しさに息を飲む。(堀)


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オダギリジョー長編初監督作品『ある船頭の話』完成披露舞台挨拶



2019年/137分/PG12/日本
配給:キノフィルムズ
公式サイト:http://aru-sendou.jp/
(C)2019「ある船頭の話」製作委員会
★2019年9月13日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
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2019年09月05日

サタンタンゴ 原題:Satantango

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監督・脚本:タル・ベーラ
共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
撮影:メドビジ・ガーボル
編集:フラニツキー・アーグネシュ
出演:ビーグ・ミハーイ、ホルバート・プチ、デルジ・ヤーノシュ、セーケイ・B・ミクローシュ、ボーク・エリカ、ペーター・ベルリング

ハンガリー、ある田舎町。シュミットはクラーネルと組んで村人達の貯金を持ち逃げする計画を女房に話して聞かせる。盗み聞きしていたフタキは自分も話に乗ることを思いついた。その時、家のドアを叩く音がして、やって来た女は信じがたいことを言う。
「1年半前に死んだはずのイリミアーシュが帰って来た」
イリミアーシュが帰って来ると聞いた村人たちは、酒場で喧々諤々の議論を始めるが、いつの間にか酒宴になって、夜は更けていく。
翌日、イリミアーシュが村に帰って来る。彼は村にとって救世主なのか?
イリミアーシュと相棒のペトリナは警察に行き、警視からこれまでの悪事をとがめられる。

上映時間7時間18分の超長尺に、全編約150カットという驚異的の長回し撮影。準備に9年、撮影期間2年、完成まで4年の歳月‥。全てに規格外の映画が製作から25年を時を経てやってきた!
しかも、35ミリフィルムにこだわり続けたタル・ベーラ監督が初めて許可した4Kデジタルレストア版が日本で初公開されるのだ。”観る””観ない”‥。あなたは何方を選択するか? 本作の降り止まない雨と同じく、一旦”観る”選択を下したら、もうタル・ベーラは逃げ場を与えてくれない。映画に集中せざるを得ないだろう。それ程の吸引力を持つ作品である。

ライティング、アングルなど、全てが計算し尽くされたであろう長回しショットにも関わらず、俳優たちは極めて自然に動いているように見える。尚且つ、決してシアトリカルな設定ではなく、あくまでリアルなセット・ロケに於ける”映像演技”なのだ。

ポピュリズムに背を向けながら、これほど甘美な映画体験を齎せてくれるタル・ベーラのような監督は他に類を見ない。タルコフスキーの継承とする評を目にするが、個人的には決定的に異なると思う。ハンガリーの風土に根付いた、感傷を排し、しかも情熱的な話法はタルコフスキーのような映像詩人より直接的な感情に訴えかけるものがある。

中盤、少女と猫のシークエンスを観れば明らかだ。コンプライアンスに雁字搦めにされた現代のメディア界隈では得られない表現がそこにある。この中性的な少女は、児童養護施設に入所していたところをタル・ベーラに見出され、『ニーチェの馬』『倫敦から来た男』にも娘役として強い印象を残している。本作でもキーパーソンと言える役柄のため、「エシュティケ」の場面には是非ご注目を。メディア擦れしていない瞳の力に釘付けになること請け合いだ。(幸)


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『サタンタンゴ』 タル・ベーラ監督来日記者会見
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『ニーチェの馬』公開の折の2011年11月以来8年ぶりに来日したタル・ベーラ監督。映画に対する持論をたっぷり語ってくださった。
デジタル化に当たっては、7時間18分すべてご自身でチェック。昨今のデジタル映画はフェイクのフィルム映画の様。デジタルにはデジタルの映画言語があるはずと苦言。(咲)

1994年製作/ハンガリー・ドイツ・スイス合作/モノクロ/1:1.66/7時間18分
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/satantango/
9月13日(金)より、シアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国順次公開
posted by yukie at 11:52| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月01日

フリーソロ   原題:Free Solo

劇場公開日 2019年9月6日

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© 2018 National Geographic Partners, LLC. All rights reserved.

監督:エリザベス・チャイ・バサルヘリィ  ジミー・チン
製作:エリザベス・チャイ・バサルヘリィ ジミー・チン  エバン・ヘイズ  シャノン・ディル
製作総指揮:ウォルター・パークス ローリー・マクドナルド  ティム・ポス トレ マット・レナー
撮影:ジミー・チン クレア・ポプキン マイキー・シェイファー
編集:ボブ・アイゼンハルト
音楽:マルコ・ベルトラミ
音楽監修:トレイシー・マクナイト
主題歌:ティム・マッグロウ
出演
アレックス・オノルド
トミー・コールドウェル
ジミー・チン
サンニ・マッカンドレス

人類史上最大の挑戦と呼ばれる前人未踏のクライミング、
その驚異の全貌に世界中が息をのんだ傑作ドキュメンタリー!

身体を支えるロープや安全装置を一切使わずに山や絶壁を登るという、最もシンプルで、最も危険な究極のクライミング・スタイル“フリーソロ”。そのスタイルで岸壁を登ることで知られるスーパーロッククライマー、アレックス・オノルド。彼には壮大な夢があった。それはカリフォルニア州中央部のヨセミテ国立公園にそびえ立つ断崖絶壁エル・キャピタンにフリーソロで登ること。この世界屈指の危険な断崖絶壁は世界のロッククライマーたちの憧れの岸壁だが、まだフリーソロで登りきった者がいないフリーライダーと呼ばれる約975メートルのルートを登りたいと思っていた。
この作品は、彼がその前人未到の壁に挑戦する、緊迫感迫るクライミングに密着したドキュメンタリーである。ほぼ垂直に近いような岩壁をロープなしで登るということは、一歩間違えれば墜落死を免れない。何度も何度も試登を繰り返し、失敗も経験。いろいろなところに出かけては登攀訓練を重ねる。
このルートを攻略するには「正確な地図」が必要と考え、憧れの存在であるベテランのプロクライマー、トミー・コールドウェルとともに、現地でのトレーニングを開始した。危険ヶ所のイメージをつかむため、ロープを使って登攀を試みたが、途中で足を痛めてしまった。それでも諦めず訓練を続ける。入念に準備を重ねたアレックスは、2017年6月3日、ついにエル・キャピタンへの挑戦を開始。そして、アレックス・オノルドはついに登頂に成功した。
アレックスの登攀を臨場感あふれる映像に収めたのは、自身も高い登攀技術を持ち、ヒマラヤ山脈メルー中央峰にそびえる岩壁“シャークスフィン”攻略にも参加したジミー・チンと仲間たち。撮影者も高い登攀技術がなければ、こんな映像は撮れなかった。共同監督はジミーのパートナーであるエリザベス・チャイ・バサルヘリィ。『フリーソロ』は、第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したが、エリザベス・チャイ・バサルヘリィ&ジミー・チンの前作『MERU/メルー』(2015)も高い評価を得ている。
『MERU メルー』HP

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© 2018 National Geographic Partners, LLC. All rights reserved.

アレックスの葛藤だけでなく、映像チームの葛藤も描かれる。撮影チームがいるために、彼の集中力がそがれるのではないかという会話も出てくる。彼の登攀の邪魔にならないようなアングルを考えたりという工夫も描かれる。こんなすごい登攀を描こうと思ったら、上下から狙うだけでなく、いろいろなアングルからの撮影が必要だが、「登攀の邪魔にならないように」というのが鉄則。
このナショナル ジオグラフィック ドキュメンタリー フィルムズ製作による映画『フリーソロ』は世界各国で大反響を巻き起こし、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどでドキュメンタリーとしては異例の爆発的ヒットを記録したそう。
生と死が隣り合わせの登攀現場、人間離れしたアクロバチックな登攀光景の連続で、観るものは、手に汗握る。アクシデントが起こるのではないかとヒヤヒヤしながら観ていた。
そして、ヨセミテの素晴らしい絶景。これを観たらぜひ行ってみたいと思わずにはいられない。写真をやっているものなら、アンセル・アダムスのヨセミテのハーフドームの写真に魅了された人が多いと思うけど、ロッククライマーはそのそばにある、このエル・キャピタンに憧れをいだいていると知った。
トミー・コールドウェル、アレックス・オノルドのペアは、その後、2018年6月6日、に、エル・キャピタンのThe Noseを1時間58分7秒で登り、2時間切りを達成したそう。この記録はまだ敗れられていないらしい。
ちなみにジミー・チンはエベレストからスキー滑降した唯一のアメリカ人らしい。こういう人が、写真や映像の技術を身に着けたから、これまでより、すごい山岳映画がどんどん出てきているのかも(暁)。


フリーソロとは命綱など一切使わず、丸腰で岸壁を登るスタイル。ほんの少しの窪みに指先やつま先で体を預け、それをカメラが捉える。世界屈指の危険な断崖絶壁に挑む男性だけでなく、カメラに収めるスタッフも危険と隣り合わせ。ピリピリとした空気の中、緊張感が走る。本人の緻密な準備とクライマーの精神的負担にならないようにというスタッフの配慮。成功に向かってすべてを1つに。臨場感たっぷりで息遣いまで伝わってくる。自然の美しさも違って見えた。(堀)

2018年製作/100分/G/アメリカ
配給:アルバトロス・フィルム
『フリーソロ』公式HP

●シネマジャーナルでは、本誌83号と91号で山に関する映画特集をしています。
興味がある方がいましたら、ぜひ購買ください。また、HPでも山の映画に関する記事がいくつかありますので、良かったらアクセスしてみてください。

【シネマジャーナル本誌】
シネマジャーナル83号 2011 秋冬
*女たちの映画評 
山好きから観た山岳映画
『劔岳 点の記』『岳 ―ガク―』『アイガー北壁』『127時間』『ヒマラヤ 運命の山』

シネマジャーナル No. 91 2014 夏
*今年、続々公開される山岳映画 古典~最新作まで 
・『K2 初登頂の真実』 『春を背負って』 『クライマー パタゴニアの彼方へ』 『アンナプルナ南壁   7400mの男たち』 『ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂』
 1920年代に製作されたレニ・リーフェンシュタールの出演作『死の銀嶺』『モンブランの嵐』
・女性世界初エベレスト登頂者田部井淳子さんとヒラリー卿の子息ピーター・ヒラリーさんのトークショー

【シネマジャーナルHP】特別記事
☆『ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂』公開記念
女性世界初エベレスト登頂者 田部井淳子 &エドモンド・ヒラリーの子息ピーター・ヒラリー トークショー
 2014年5月16日
http://www.cinemajournal.net/special/2014/bte/

☆『クライマー パタゴニアの彼方へ』デビッド・ラマ インタビュー
 2014年8月28日
http://www.cinemajournal.net/special/2014/climber/index.html

☆『エヴェレスト 神々の山嶺』完成報告会見
 2015年12月14日
http://www.cinemajournal.net/special/2016/everest/index.html

☆『ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~』
対談≪韓国の伝説的登山家オム・ホンギル × 野口健
 2016年6月14日
http://www.cinemajournal.net/special/2016/himalaya/index.html

☆『クレイジー・フォー・マウンテン』ジェニファー・ピードン監督インタビュー 
 2018年07月20日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460612615.html
posted by akemi at 21:14| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする