2019年08月22日
ザ・ネゴシエーション(原題:협상、The Negotiation)
監督:イ・ジョンソク
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、キム・サンホ、チャン・ヨンナム、チャン・グァン、チョ・ヨンジン
ソウル市警危機交渉班の警部補ハ・チェユン(ソン・イェジン)は、事件現場で犯人との交渉中に人質と犯人の両方を死なせてしまう。それから10日後、事件に大きな責任を感じて辞表を提出しようとしたハ・チェユンのもとに再び応援要請が入る。
ミン・テグ(ヒョンビン)と名乗る人物が、タイ・バンコクで危機交渉班のチーム長と韓国人記者を拉致し、ハ・チェユンを名指しで交渉相手に指名する。彼は外事課が以前から追っていた、国際犯罪組織の武器売買業者のリーダーだった。
拉致の動機、要求も不明。目的が見えないミン・テグに対し、交渉の糸口を掴めないハ・チェユンに焦りが募り始める―特殊部隊の救出まで残り14時間。警察を嘲笑い、残忍な人質ショーを繰り広げるミン・テグと、数日前に起きた事件のトラウマに苛まれながらも、今度こそ人質の命を救おうと後に引けない交渉人ハ・チェユン。果たして交渉の行方は―。
本作はハ・チェユンが人質犯ミン・テグと粘り強く交渉を続けるシーンが緊迫感とともに展開する。イ・ジョンソク監督は事件の状況を忠実に再現するため、「リアルな二次元撮影を撮影方法として取り入れた」といい、ヒョンビンとソン・イェジンは実際にモニター越しに演技をして、互いの反応にも真実味が出るように演出した。
しかし人質犯と対峙するのはチェユンだけではない。彼女の仲間が集める情報が交渉の武器。若い仲間はIT機器を、中年の先輩は足を使って彼女をサポートする。チームワークの良さが見ていて気持ちいい。
ところが上層部は何も情報を与えてくれない。チェユンは交渉を無事に進めるため、隠された状況を探り出す。やがて冒頭に起きた立て篭もり事件が無関係ではなかったと判明。事件の本当の姿が明らかになる。
テグを演じたのは、映画『王の涙 イ・サンの決断』で苦悩する王、『コンフィデンシャル/共助』では信念を貫く寡黙な北朝鮮の刑事、そして『スウィンダラーズ』でインテリな詐欺師を完璧に演じてきた人気俳優ヒョンビン。初の悪役に挑戦した。対する交渉人にはソン・イェジン。『Be with you~いま、会いにゆきます』では限られた時間を精一杯、家族と過ごした女性を演じたことが記憶に新しい。そして、チェユンを明るく鼓舞する中年の先輩を演じたのが個性派俳優のキム・サンホ。そのコミカルでユーモアのある演技は緊迫感あふれる作品にうまく緩急をもたらした。(堀)
2018年/韓国/カラー/シネスコ/5.1ch/113分
配給:ツイン
(C) 2018 CJ ENM CORPORATION, JK FILM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://thenegotiation.jp/
★2019年8月30日(金)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
おしえて!ドクター・ルース(原題:ASK DR.RUTH)
監督:ライアン・ホワイト
出演:ルース・K・ウエストハイマー
家族をホロコーストで失った少女時代、終戦後はパレスチナでスナイパーとして活動し、女性が学ぶことが難しかった時代に大学で心理学を専攻。アメリカに渡り、シングルマザーとなり娘を育てた。そして、30歳の時に、3度目の結婚で最愛の夫フレッドと出会う。自分らしく生きるために学び、恋し、戦い、働く。いつだって笑顔で前を向く“ドクター・ルース”はいかに誕生したのか。
ルースは歯に衣着せぬコメントが人気のセックスセラビスト。男性でも言えない単語もさらりと使い、聞きたいけれど聞けないことを教えてくれる。
これまでルースはドキュメンタリーの企画を断り続けてきたが、90歳になるにあたり、家族に人生を語り継ぎ、アメリカの社会に正しい性教育をもたらした自身の役割を記録する必要があると考え、出演オファーを受けたとのこと。
ライアン・ホワイト監督は彼女のユダヤ系ドイツ人という生い立ちから今に至るまでを本人や知人のインタビュー、過去映像で明らかにする。作品からは本来業務の具体的なアドバイスを超えた、人生を前向きに生きる姿勢が伝わってきた。(堀)
『おしえて!ドクター・ルース』は、ユダヤ系ドイツ人の少女がどのようにナチスの時代を生き延び、その後の人生を送ったのかの一つの例として、とても興味深い作品。
1938年、娘の将来を案じた父が、正統派ユダヤ教徒の疎開プロジェクトにルースを参加させる。スイスの養護施設で、ユダヤ人の子どもたちはスイス人の子どもたちの世話係りをしながら学ぶ。ユダヤ人が二級市民扱いなのがわかる。
施設長の「あなたたちは親から見捨てられた」という言葉が、子ども心にぐさっと刺さったという。両親は子どもたちのことを思って疎開させたのに、心無い言葉だ。
女子は高校に進学させてもらえず、ボーイフレンドから授業の内容を教えてもらう。
17歳の時、ドイツが敗戦。両親と祖母は亡くなったと告げられる。マルセイユ経由パレスチナに送られ、キブツで暮らすようになる。本名カローラ・ルース・シーゲルだが、ドイツ名のカローラは嫌われることから、ミドルネームのルースを使うようになる。
20歳を過ぎた頃、イスラエル軍人ダヴィッドと最初の結婚。医学の勉強のため留学する夫に付いてパリへ。ソルボンヌ大学で、高校に行けなかった人のための1年間の準備講義を受ける。イスラエルに帰るというダヴィッドと離婚。その後、パリでダンと再婚。ホロコーストで教育を断念した者に1500ドルの賠償金が出ると知り、ダンを説得してアメリカに移住。その後、ダンとは別れるが、3人目の夫フレッドとスキー場で運命的な出会いを果たす。お互いユダヤ人。
10歳で両親と離れ、スキンシップが得られなくなったことも、セックスセラピストになった一因とルースは語る。
アメリカに渡り、英語を学ぶのにロマンス小説を読みまくったというのもルースらしい。先が知りたくて最後まで読めるというのが利点だが、恋のノウハウも学んだのでは? ルースの言葉、そして生き様から元気を貰った。(咲)
2019年/アメリカ/英語/アメリカン・ビスタ/カラー/100分
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/drruth/
★2019年8月30日(金)、新宿ピカデリーほか全国公開
アイムクレイジー
監督・脚本:工藤将亮
撮影:福本 淳
照明:佐藤宗史
美術:中村三五
音楽:加藤綾太
主題歌:「LONELINESS BOY」(歌&作詞:古舘佑太郎 作曲:加藤綾太)
出演:古舘佑太郎、 桜井ユキ、曽我部恵一、中田絢千、田本清嵐、岩谷健司
くだらない曲ばかりが売れる世の中に嫌気がさしたミュージシャンの佑樹(古舘佑太郎)は音楽の道を諦めようとラストライブの日を迎えていた。バイトに向かう途中、交通事故に遭った佑樹は作曲家の美智子(桜井ユキ)と広汎性発達障害を持った息子・健吾と出会う。バイト先の店長(曽我部恵一)から強引に健吾の子守をさせられたことをきっかけに佑樹は親子と深く関わっていく。かつての仲間の活躍、元カノの妊娠、理想と現実の狭間で時に激しく周囲に苛立っていた佑樹だったが、自分の思い通りにはいかない日々の中、明るく振る舞う美智子の姿を見て佑樹の中で何かが動き出す。
やりたいことと求められることが違って葛藤するのは佑樹だけではない。美智子もまた仕事と家庭を両立させたいと思っていたのに、家庭重視を夫から求められてシングルマザーの道を選んだ。しかし、その選択は容易なことではなかった。それでも心の自由を得たからだろうか、必死に仕事と育児をこなす美智子はかっこいい。息子を勝手に連れて帰ってしまった元夫の自分勝手さが際立つ。人生、その時々でやりたいことをやる。苦労は避けられないが、その幸せは何ものにも代え難い。
主演の古館佑太郎は高校の同級生とThe SALOVERSというバンドを結成し、大学時代にプロデビューし、今は無期限活動休止中。何だかこの作品の役どころに通じるものを感じる。俳優業に転じ、『いちごの唄』にも主演しているが、まったく別テイストの役どころをきっちり演じていた。知人から「あの古館さんの息子」と言われて、芝居がうまかったので、てっきり古館寛治のことかと思ってしまったら、古舘伊知郎だった。2017年には連続テレビ小説『ひよっこ』に出演し、お茶の間でブレイクしていたのも頷ける。(堀)
【初日舞台挨拶登壇ゲスト(予定)】
8月24日(土)13:00の回上映後/ 15:20の回上映前
工藤将亮監督、古舘佑太郎、桜井ユキ
8月25日(日)13:00の回上映後
工藤将亮監督、行定勲監督
*2日目以降のゲスト情報は随時劇場サイトにて告知
2019年/日本/カラー/アメリカン・ビスタ/5.1ch/86分
配給:シンカ
©2019ザフール&スタッフ
公式サイト:http://www.synca.jp/iamcrazy/
★2019年8月24日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
ガーンジー島の読書会の秘密(原題:The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society)
監督:マイク・ニューウェル
原作:メアリー・アン・シェイファー、アニー・バロウズ
脚本:ドン・ルース、ケヴィン・フッド、トーマス・ベズーチャ
出演:リリー・ジェームズ、ミキール・ハースマン、グレン・パウエル、ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、キャサリン・パーキンソン、マシュー・グード、トム・コートネイ、ペネロープ・ウィルトン
1946年、終戦の歓びに沸くロンドンで暮らす作家のジュリエット(リリー・ジェームズ)は、一冊の本をきっかけに、”ガーンジー島の読書会”のメンバーと手紙を交わすようになる。ナチに脅えていた大戦中は、読書会と創設者であるエリザベスという女性の存在が彼らを支えていた。本が人と人の心をつないだことに魅了されたジュリエットは、読書会について記事を書こうと島を訪ねるが、そこにエリザベスの姿はなかった。メンバーと交流するうちに、ジュリエットは彼らが重大な秘密を隠していることに気付く。やがて彼女は、エリザベスが不在の理由にたどり着く。
戦争は様々なものを人から奪ってしまう。主人公にはやりがいのある仕事、支えてくれる編集者、愛してくれる裕福な男性がいるのだが、戦争で両親と家を失ったのか、居場所が見つけられない。
お金も仕事も大事だが、精神的な安心や満足があってこそ。悲しい事実、面倒な現実に向き合い、乗り越えた先に幸せはあると作品は伝えてくれる。
ところで、ジュリエットに手紙を送るドーシー役を演じているミキール・ハースマンがカッコイイ。少々埃っぽいが、左斜め45度の笑顔に心が射抜かれた。米映画サイト・TC Candler が毎年選出する「世界で最もハンサムな顔100人」の2016年版で第1位だったのも納得!(堀)
浅薄にも、第2次世界大戦中にガーンジー島が英国でドイツの占領下にあった事実を知らなかったことを恥じた。ナチスは島の主産業である酪農を禁止し、家畜や農産物も没収してしまう。通信機器やラジオ、ガスの供給さえも止められるという厳しい管理下。もちろん集会の自由すらない。が、唯一、奨励されていたのが文化活動。「読書会」と「家畜(謎)」が、島民たちの機転により育まれ、本作に結実した点が愛おしい。
こうした背景が、戦中戦後のガーンジー島とロンドンに齎した傷痕を映画は鮮明に映しだす。ガーンジー島は深刻な飢餓状態にあったにもかかわらず、そこは英国庶民の逞しさ。苦しい日常でもユーモアを忘れない。名優トム・コートネイ、人気ドラマ「ダウントン・アビー」組のリリー・ジェームズ、ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、マシュー・グード、ペネロープ・ウィルトンら、一人一人の人物造形が鮮やかだ。
一途な島の男に、新鮮なオランダ俳優を配したことも奏功している。有りがちなロマンス逸話に留まらない人間賛歌に昇華させたのは、今も熱狂的ファンを持つ『フォー・ウェディング』などのマイク・ニューウェル監督。
観る人誰もが楽しく幸せになる映画。一冊の本が紡ぐ庶民の物語は戦争にも打ち勝つのだ、という勇気と希望を与えてくれる秀作だ。(幸)
2018年/フランス・イギリス/英語/カラー/ビスタ/5.1ch/124分
配給:キノフィルムズ
© 2018 STUDIOCANAL SAS
公式サイト:http://dokushokai-movie.com/
★2019年8月30日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー