2019年08月15日
ジョアン・ジルベルトを探して 英題:WHERE ARE YOU, JOAO GILBERTO?
監督:ジョルジュ・ガショ
原作:マーク・フィッシャー
出演:ミウシャ、ジョアン・ドナート、ホベルト・メネスカル、マルコス・ヴァーリ
「イパネマの娘」などの名曲で知られ、日本でライブを行ったこともあるミュージシャンのジョアン・ジルベルトは、2008年夏のボサノヴァ誕生50周年記念コンサートを最後に公の場から姿を消す。彼に会おうとリオデジャネイロに出向いた顛末を綴った本の出版直前に自殺したドイツ人ジャーナリストの旅に共鳴したジョルジュ・ガショ監督が、ジルベルトに会うためにブラジルに向かう。
ジョアン・ジルベルトの歌声は何と心地好いことか!幼い頃から聴き続けてきたにもかかわらず、本作でも流される代表曲の「イパネマの娘」「想いあふれて」といった楽曲は少しも陳腐化せず、新鮮な響きを届けてくれる。桃源郷にいる気持ちにさせる透き通った声質、涼やかな風が吹くようなメロディ…。今年、そんなジルベルトの生の歌声を2度と聴くことが出来なくなった事実に打ちのめされている時、本作が届けられた。
多少、毛色が変わったドキュメンタリーだ。隠遁暮しを続け、私生活は謎に包まれていたジルベルトに相応しいと言えるかもしれない。
ブラジルから遠く離れたドイツ人のジャーナリスト、マーク・フィッシャーは、なぜジルベルトに会うためブラジルへ出向き、その果実である出版本を見る前に命を断ったのか?
フランスとスイス国籍を持つガショ監督は、なぜフィッシャーの本に共鳴し、彼の夢を実現すべくブラジル中を訪ね歩いたのか?2人のクリエイターをそこまで突き動かした原動力は何か?
いちファンだからと出来る行動ではない。このドキュメンタリーは、”追った旅”を”追う旅”として記録された映像を観客が”追って行く旅”なのだ。二重三重構造の映画に相応しく、言語もドイツ語、フランス語、ポルトガル語、英語というように多言語である。だが、テーマはシンプルに、「ジョアン・ジルベルト」。
「デサフィナード」や「オバララ」の楽曲に乗せ、映し出されるイパネマビーチやヂアマンチーナの美しい風景。次々と登場する人々は、ジルベルトとの想い出を語ってくれる。かなりな奇人だったらしいジルベルトについての様々な逸話が楽しい。これは観てのお楽しみだ。
皆、ジルベルトを愛し、ジルベルトに愛された人ばかり。おそらく映画館にもジルベルトに魅せられた観客が詰めかけるに違いない。ジルベルト一色に染まった空間で111分を過ごすのは、ファンにとって至福の時ではないだろうか。(幸)
2018年製作/111分/G/スイス/ドイツ/フランス後援
配給 ミモザフィルムズ
カラー/ビスタサイズ/5.1ch / DCP
©Gachot Films/Idéale Audience/Neos Film 2018
公式サイト:http://joao-movie.com/
8 月 24 日(土)より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開
火口のふたり
監督:荒井晴彦
原作:白石一文
脚本:荒井晴彦
出演:柄本佑、瀧内公美
東日本大震災から7年目の夏、離婚し、再就職先も倒産してしまった永原賢治(柄本佑)は、かつて恋人だった佐藤直子(瀧内公美)の結婚式に出るため郷里の秋田に帰省する。久々に再会した賢治と直子は、ふとしたきっかけでかつてのようにお互いを求め合う。
漫画を原作とする砂糖菓子のような甘い恋愛映画が跋扈する中、珍しく性愛に身を窶す男女の物語。無修正映像ということもあり、より生々しく強い”身体性”を訴えかける映画だ。
象徴的な”火口”のモチーフ、ふたりの官能の日々が充満した一冊のアルバム、〝亡者踊り〟という幻想的な盆踊りの風景など、ビジュアル的要素は十分なのに、監督の荒井晴彦は脚本家出身のせいか、台詞で説明を加えようとする。狙った上での演出意図だろうか。
台詞や身体表現は達者なはずの柄本佑より、瀧内公美のほうが本作に限っては人物造形、心象描出ともに長けている気がする。覚悟を決めた女優は潔い。鋭い射抜くような眼差しに魅せられる。
下田逸郎の楽曲といい、全体的に昭和テイストな点も監督の狙いか。濡れ場シーンの多さに抵抗感を持つ女子は居そうだ。否が応でも身体に刻まれている記憶と、理性や規範意識の狭間で翻弄される抑制し難い欲求は、誰しも覚えのあるところかもしれない。(幸)
2019年製作/115分/R18+/日本
©2019「火口のふたり」製作委員会
配給:ファントム・フィルム
8/23(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開