2019年08月08日
永遠に僕のもの 原題:EL ANGEL
監督:ルイス・オルデガ
プロデュース:ペドロ・アルモドバル、アグスティン・アルモドバル、ハビエル・ブリア
出演:ロレンソ・フェロ、チノ・ダリン、ダニエル・ファネゴ、セシリア・ロス
1971年のアルゼンチン・ブエノスアイレス。美しい少年カルリートス(ロレンソ・フェロ)は幼いころから他人のものを手に入れたがる性分で、思春期を迎え窃盗が自分の天職だと悟る。新しい学校で出会ったラモン(チノ・ダリン)と意気投合したカルリートスは、二人でさまざまな犯罪に手を染め、やがて殺人を犯す。
映画の冒頭、煙草を加えた高校生、主人公カルリートスの窃盗行動を観るだけで、本作の演出意図が分かる。「盗みが天職。世の中の物は全部ぼくの物」と悪びれずにほざく少年は、17歳から数年のうちに12人以上を殺害した人物だ。実在したサイコパスを描くのに、有り触れたクライムストーリー展開では収まりがつかないだろう。
積み重なる犯罪の場面が、今まで観たことのないような感触を呈している。被害者が撃たれて「ウッ」と倒れるのでもない。無言で步いて行く老人。いったい生きているのか…。逆に最初から死んでいる?と思しき不思議な場面もある。常識では考え難い犯罪シーンに出会える時、映画が生まれて100年代の以上経っても、まだ発見すべき表現があるのだと気付かせてくれる。
本作の見どころは、主役ロレンソ・フェロの魅力だとする評価が多い。踊りの場面では、ウォン・カーウァイ監督作『欲望の翼』で踊ったレスリー・チャンを想起させるイノセントな怪しい色気を放っているのは確かだ。製作のアルモドバル好みだったのかもしれない。が、個人的に目が離せなくなってしまったのは、プレスリリースに載った実際のカルロス・エディアルド・ロブレド・プッチの写真である。
正に天使!世の背徳や悪事とは全く無縁の顔をしている。無理に不良(ワル)ぶったような演技を見せるロレンソ・フェロとは対極に位置するようだ。「事実は小説よりも奇なり」という言葉(ここでは”映画より”か)を思い知らされた。
カルリートスの一家はヨーロッパからの移民のため、アルゼンチン的ラテン気質とも異なる。両親は至って真面目な常識人に描かれている。こういった家庭から10代のサイコパスが生まれた背景について考え込んでしまった。何れにしても表現話法といい、とてつもなく魅力的な作品を世界に放った、この若手監督に注目したい。(幸)
2018年/アルゼンチン、スペイン/カラー/ビスタ/5.1ch/115分
©2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/eiennibokunomono
8月16日(金)より、渋谷シネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他、全国順次ロードショー