2019年08月01日

世界の涯ての鼓動   原題:Submergence

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監督:ヴィム・ヴェンダース (『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』『Pina/ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち』)
脚本:エリン・ディグナム
撮影:ブノワ・デビエ
音楽:フェルナンド・ベラスケス
原作:小説「Submergence」(J・M・レッドガード)
出演:ジェームズ・マカヴォイ、アリシア・ヴィキャンデル、アレクサンダー・シディグ、ケリン・ジョーンズ、レダ・カテブ、アキームシェイディ・モハメド

海洋生物数学者のダニーは、グリーンランドで地球上の生命の起源を解明する調査を目前に控えている。潜水艇で深海に潜る前に恋人のジェームズの声を聞きたいのに、彼からの電話は途絶えていた。
1ヶ月ほど前、休暇で訪れたノルマンディーの海辺の瀟洒なホテルで出会って恋に落ち、5日後に別れるときにはお互い生涯の相手だと確信した二人。ジェームズは水道技術指導のため、ケニアに赴いていった。だが、それは表向きで、実はジェームズはMI-6(英情報機関・対外情報部)の諜報員で、南ソマリアに潜入し爆弾テロを阻止するのが任務だった。ソマリア到着早々、イスラム過激派に拘束され、外界との連絡が取れなくなっていた・・・

長編監督50年を迎えるドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース。プロデューサーのキャメロン・ラムより送られてきた原作を読んで、非常に興味を持ち監督を引き受ける。
自分の任務に信念を持っている男女が束の間の休暇中に出会うラブストーリーを主軸に、地球の環境問題や、解決の糸口が見出せないテロとの戦いなど、世界規模で抱える問題について、さりげなく考えさせる物語。
なにより、イスラム過激派の描き方に注意を払っていることに注目したい。ジハード(聖戦)戦士は得てして「悪」に描かれることが多いが、彼らとて信念を持った人たちであることが丁寧に描かれている。
歩み寄って対話することもなく、「テロとの戦い」の言葉のもと武力で鎮圧しようとする西側諸国に警鐘を鳴らしているのだ。
それにしても、レダ・カテブ演じるジハード戦士は、ヴィム・ヴェンダース監督も「夜中にこんな男と出会いたくないほど怖かった」という。実に渋い!
レダ・カテブ演じる過激派サイーブが、ある時、ジェームズがアラビア語を解することを知り、アラビア語で会話する場面がある。本来、諜報員は潜入先の言葉を解していてもわからないフリを通すものだと思う。会話は和解の一歩。なにごとも武力でなく対話で解決してほしいものだ。

5日間でお互いを生涯の相手だと確信した二人については、これはもう、恋なんてタイミング。勘違いで成立するものだと思っているので、勝手にしてちょうだい。などと言ってしまうのは、もう恋に縁遠くなってしまったひがみ?

この映画のなによりの魅力は、ダイナミックな映像。フランス各地の海岸沿い、スペイン、ドイツ、ジブチ(ソマリアは危険なので、近隣のジブチでソマリア部分を撮影)、フェロ-諸島など、ロケ地の風景が素晴らしい。 (咲)



2017年/イギリス/英語・アラビア語/カラー/ビスタサイズ/DCP/5.1ch/112分
配給:キノフィルムズ/木下グループ
公式サイト:http://kodou-movie.jp/
★2019年8月2日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他 全国順次ロードショー.

posted by sakiko at 13:37| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ピータールー マンチェスターの悲劇 原題:PETERLOO

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監督:マイク・リー
出演:ロリー・キニア、マクシーン・ピーク、デヴィッド・ムースト、ピアース・クイグリー
ヨーロッパ諸国を巻き込んだナポレオン戦争も、1815年のウォータールーの戦いを最後に、ようやく終結。だが、英国では勝利を喜ぶのも束の間、経済状況が悪化、労働者階級の人々は職を失い、貧しさにあえいでいた。彼らに選挙権はなく、あちこちで不満が爆発し、抗議活動が炸裂していた。1819年8月16日、マンチェスターのセント・ピーターズ広場で大々的な集会が開かれ、著名な活動家であるヘンリー・ハントが演説することになる。だがこれは、あくまで平和的に自分たちの権利を訴えるデモ行進になるはずだった。あろうことか、サーベルを振り上げた騎兵隊とライフルで武装した軍隊が、6万人の民衆の中へと突進するまでは──。

今年の洋画暫定5位以内には入りそうな重厚長大たる傑作!重い映画と感じるかもしれないが、主題は極めて現代に通じる普遍性があり、写実的には19世紀初頭にタイムスリップし、自らが体感しているかの如くリアル感に満ちている。

『秘密と嘘』『ヴェラ・ドレイク』など秀作を撮り続ける英国の名匠マイク・リーはマンチェスター出身でありながら、「ピータールーの虐殺」事件をよく知らなかったという。調べるに連れ、政府が市民運動を鎮圧した圧政を歴史に埋もれさせてはならないとの使命感で映画化に踏み切った。政治問題・社会問題を扱った映画が製作し辛い何処かの国とは異なる”表現の自由”さに溜息を吐いてしまう。

ナポレオン戦争を終結させた戦いは、日本では”ワーテルロー”と呼ばれるが、英国では”ウォータールーの戦い”である。セント・ピーターズ・フィールド広場をもじり、「ピータールーの虐殺」と知られる大事件を、マイク・リーはまるでドキュメンタリーのように描く。基本的に主人公は存在せずスター俳優も出ない。弾圧する側の王室を諧謔味たっぷりに、政治家、軍人、法律家、資本家らは既得権益を守るエゴそのもの。弾圧される記者、市民活動家、労働者階級の人々。職場や家庭での細かな逸話を積み重ね、クライマックスに導く。

当時の労働者にとって「白い服」は晴れの日や教会へ行く時しか着られなかった。1800年代の衣装を再現し、晴れ着を纏って広場に集まった女性・子供たちをサーベルで容赦なく斬り付ける政府軍騎馬隊。集会に集まった男たちはもちろん丸腰だ。つい先ほどまで晴れやかな顔をしていた庶民たち、何ら抵抗する術のない彼らが次々と死屍累々の山を築いて行く現実…。息を飲まざるを得ない。

現代の天安門事件、香港のデモ弾圧、ロシアの選挙妨害・大量の逮捕者といった今起きている圧政の図式と、本作は地続きなのだ。浅薄な知識ゆえ、前半の論戦に次ぐ論戦が繰り広げられる場面は字幕を追うのに精一杯で、歴史認識まで至らなかった。是非もう一度観てみたいと思う。そういう映画は滅多にない。見逃せない今年の1本だ。
(幸)


© Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.
2018年/イギリス/カラー/ビスタ/5.1ch/155分/
配給:ギャガ 
公式サイト:gaga.ne.jp/peterloo/
8月9日(金)TOHOシネマズ シャンテ他 全国順次公開
posted by yukie at 12:57| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

カーライル ニューヨークが恋したホテル 原題:Always at the Carlyle

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監督・脚本:マシュー・ミーレー 
撮影:ジャスティン・ベア 音楽:アール・ローズ
出演:ジョージ・クルーニー、ウェス・アンダーソン、ソフィア・コッポラ、アンジェリカ・ヒューストン、トミー・リー・ジョーンズ、
ハリソン・フォード、ジェフ・ゴールドブラム、ウディ・アレン、ヴェラ・ウォン、アンソニー・ボーデイン、ロジャー・フェデラー、ジョン・ハム、レニー・クラヴィッツ、ナオミ・キャンベル、エレイン・ストリッチ

ニューヨークにある1930年創業の高級ホテル「The Carlyle, A Rosewood Hotel」。ここは映画『ハンナとその姉妹』や『セックス・アンド・ザ・シティ』のロケ地としても知られ、多くのセレブたちを迎えてきた。その魅力を、ジョージ・クルーニーをはじめ、ウェス・アンダーソン、ソフィア・コッポラらが語る。洗練されたスタッフによる接客の様子も映し出される。

「毎月旅行」を12年更新している身でも、1泊200万円のスイートルームや5000円のオレンジジュースには縁がない…(当然だ(笑))。敷居の高いセレブ御用達ホテルの奥座敷はどうなっているのか?働いている人々は?馴染み客はどんなホテル体験を?そんな好奇心を十二分に満たしてくれる極上ドキュメンタリー。観終わった観客の殆どがカーライルに恋をしているかもしれない。

規格外に超ゴージャスな空間でありながら、家族のように出迎えてくれるスタッフたち、宿泊客のイニシャルを縫い込んだ枕カバー、食事の好みを完全に把握しているシェフ、セレブたちの様々な逸話を知っているに違いない彼らの口は堅い。流石に1930年創業の重みと誇りを背負っているのだ。
「英国のウィリアム王子ご夫妻の予約電話を受けたのは私だけど、それを伝えられるのはごく少数のスタッフだけ。家族にも誰にも言えなかった」と語る電話交換手の言葉からも分かり得よう。

それでも、ダイアナ妃とスティーブ・ジョブズ、マイケル・ジャクソンが同じエレベーターに乗り合わせた瞬間のことを想像すると、陶然としてしまう。逝ってしまった人々の煌びやかな想い出もスタッフの胸の中にしまってあるのだろう。

音楽ファンには、ホテル内のクラブに出演した一流ミュージシャンたちのステージが垣間見られるのも喜びだ。どんなステージが繰り広げられているかは観てのお楽しみ♪
『バーグドルフ&グッドマン/魔法のデパート』『ティファニー/ ニューヨーク五番街の秘密』に続く、マシュー・ミーレー監督の”ニューヨーク三部作”の中でも最高傑作。エレベーターマンや清掃係、伝説のコンシェルジュなどなど、裏で支えるプロフェッショナルな仕事ぶりに触れられる貴重な時間だ。(幸)


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2018年/92分/アメリカ/カラー/16:9/ステレオ  
配給:アンプラグド
© 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト: http://thecarlyle-movie.com/
8月9日(金)よりBunkamuraル・シネマ他、全国順次公開
posted by yukie at 11:21| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする