2019年08月08日

永遠に僕のもの 原題:EL ANGEL

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監督:ルイス・オルデガ
プロデュース:ペドロ・アルモドバル、アグスティン・アルモドバル、ハビエル・ブリア
出演:ロレンソ・フェロ、チノ・ダリン、ダニエル・ファネゴ、セシリア・ロス

1971年のアルゼンチン・ブエノスアイレス。美しい少年カルリートス(ロレンソ・フェロ)は幼いころから他人のものを手に入れたがる性分で、思春期を迎え窃盗が自分の天職だと悟る。新しい学校で出会ったラモン(チノ・ダリン)と意気投合したカルリートスは、二人でさまざまな犯罪に手を染め、やがて殺人を犯す。

映画の冒頭、煙草を加えた高校生、主人公カルリートスの窃盗行動を観るだけで、本作の演出意図が分かる。「盗みが天職。世の中の物は全部ぼくの物」と悪びれずにほざく少年は、17歳から数年のうちに12人以上を殺害した人物だ。実在したサイコパスを描くのに、有り触れたクライムストーリー展開では収まりがつかないだろう。
積み重なる犯罪の場面が、今まで観たことのないような感触を呈している。被害者が撃たれて「ウッ」と倒れるのでもない。無言で步いて行く老人。いったい生きているのか…。逆に最初から死んでいる?と思しき不思議な場面もある。常識では考え難い犯罪シーンに出会える時、映画が生まれて100年代の以上経っても、まだ発見すべき表現があるのだと気付かせてくれる。

本作の見どころは、主役ロレンソ・フェロの魅力だとする評価が多い。踊りの場面では、ウォン・カーウァイ監督作『欲望の翼』で踊ったレスリー・チャンを想起させるイノセントな怪しい色気を放っているのは確かだ。製作のアルモドバル好みだったのかもしれない。が、個人的に目が離せなくなってしまったのは、プレスリリースに載った実際のカルロス・エディアルド・ロブレド・プッチの写真である。
正に天使!世の背徳や悪事とは全く無縁の顔をしている。無理に不良(ワル)ぶったような演技を見せるロレンソ・フェロとは対極に位置するようだ。「事実は小説よりも奇なり」という言葉(ここでは”映画より”か)を思い知らされた。

カルリートスの一家はヨーロッパからの移民のため、アルゼンチン的ラテン気質とも異なる。両親は至って真面目な常識人に描かれている。こういった家庭から10代のサイコパスが生まれた背景について考え込んでしまった。何れにしても表現話法といい、とてつもなく魅力的な作品を世界に放った、この若手監督に注目したい。(幸)


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2018年/アルゼンチン、スペイン/カラー/ビスタ/5.1ch/115分
©2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/eiennibokunomono
8月16日(金)より、渋谷シネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他、全国順次ロードショー
posted by yukie at 13:27| Comment(0) | スペイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月04日

カーマイン・ストリート・ギター  原題:Carmine Street Guitars

劇場公開日 2019年8月10日
上映情報 http://www.bitters.co.jp/carminestreetguitars/theater.html

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©MMXVⅢ Sphinx Productions.


監督・製作:ロン・マン
(『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』)
扇動者:ジム・ジャームッシュ
編集:ロバート・ケネディ
出演:リック・ケリー、シンディ・ヒュレッジ、ドロシー・ケリー
ジム・ジャームッシュ(スクワール)、ネルス・クライン(ウィルコ)、カーク・ダグラス(ザ・ルーツ)、ビル・フリゼール、マーク・リーボウ、チャーリー・セクストン(ボブ・ディラン・バンド)他
音楽:ザ・セイディーズ

伝説のギタリストたちを虜にする職人は、建物のヴィンテージ廃材から、世界でひとつのギターを生み出す

ニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジに位置するギターショップ「カーマイン・ストリート・ギター」を追ったドキュメンタリー作品。
この店ではギター職人のリック・ケリーが、長年愛されてきた街のシンボル、チェルシー・ホテル、ニューヨーク最古のバー・マクソリーズなど、ニューヨークの古い建築物の廃材を使いギターを製作している。世界中のギタリストを魅了する、この店製作のギター。それはニューヨークの建物の廃材から作られている!
古い木材のほうがギターの響きがいいということを発見したリックは、廃材があると聞くと引き取りに行き、ギターとして復活させる。こうして、長年愛されてきた街の歴史がギターの中に生き続ける。何年も前に映画監督ジム・ジャームッシュが、改築中だった自宅の屋根裏の木材をこの店に持ってきて、ギター作りを依頼。そのギターが素晴らしい音を奏でたので、それからリックがニューヨークの古い建物の木材を使うようになったという逸話が語られる。
工事の知らせを聞きつけると、現場へ行きヴィンテージ廃材を持ち帰るリック傷も染みもそのままにギターへ形を変える。そんな店の1週間を追った、極上の愛に満ちたドキュメンタリー。
ルー・リード、ボブ・ディラン、パティ・スミスら、フォーク、ロック界の大御所がリックのギターを愛用。劇中でも、次々と有名なギタリストが来店し、リックが作ったギターを手に、幸せそうに演奏する姿が随所にに収められている。

この店は、ほかに見習いのシンディ、リックの母親が働いている。
リック・ケリーは、ニューヨーク州南東部・ロングアイランド育ち。幼い頃から木材職人の祖父の仕事をそばで見ていた影響から木材に興味をもち、ギター職人の道へ。1970年代後半にグリニッジ・ヴィレッジに店を出し、そして90年に、現在のカーマイン・ストリートに店を。パソコンも携帯も持たない昔気質のギター職人。
それに対してパンキッシュな装いの見習いシンディ・ヒュレッジは、カーマイン・ストリートギターで働いて5年。大工だった父親の影響で物作りに興味を抱き、父親が趣味にしていたギターも彼女には身近なものだった。アートスクールに通ってからこの店に入ったことから細かい作業が得意で、ウッドバーニングやペイティングを施したギター、ストラップも作っている。
そしてリックの母親ドロシー・ケリーの主な仕事は、店番・電話番・店のはたき掃除。ドロシーが壁に飾っている写真の額の曲がりを直すのだけど、直しても直しても斜めになってしまうシーンが面白いのだけど、その写真の方はロバート・クワインという有名なロック・ギタリスト。

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©MMXVⅢ Sphinx Productions.


監督は、カナダとアメリカのポップカルチャーを題材にしたドキュメンタリーを多く手掛ける他、『ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』(2014)を製作したロン・マン。この作品は、2018年・第31回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門でも上映された。ロン・マン監督は「この映画ができたのはジム・ジャームッシュのおかげです。彼は私にギター職人のリック・ケリーと彼の店「カーマイン・ストリート・ギター」を紹介してくれた人物です。何年も前に、ジムはリックに改築中だった自宅の屋根裏の木材を持っていき、ギター作りを依頼しました。それが、リックがニューヨークの建物の再生木材を使うきっかけ。私は、音のいいかっこいいギターだけではなく、独特な空気が漂うユニークなこの店と、リックの禅のような哲学に魅了されました。そして、そのすべてが静かに消え去ってしまう前に、カメラに収めておかなければならないと感じるに至ったのです」と語っている。

約50年前の1969年、高校2年生だった私はフォークソングのグループをやっていた。その頃、ギターがどうしてもほしくて、初めてバイトをしてギターを手に入れた。この作品に出てくるようなギターではなく、中に空洞のあるガットギター。そういうわけでギターに思い入れがあり、そのギターを弾かなくなって久しいけど、ずっと持ってはいる。でも50年も前のギターだからもう楽器としては使えないかもと思っていた。でも、この作品で古い木材のほうが音の響きがいいと出てきて、ちょっと期待している私です(暁)。


建材の時の傷が味となって甦るオンリーワンのギター。次々と訪れる音楽のプロたちが愛おしむように試し弾きする。コンサートでは見られない素の姿は宝物を手にした子どものよう。リックと弟子のシンディは一見、共通点などなさそうだが、互いにリスペクトしているのが伝わってくる。店番をするリック母の何気ない行動が微笑ましい。
音楽に疎い私は店を訪れたギタリストの中で知っていたのは、ジム・ジャームッシュだけ。それもギタリストとしてではなく、映画監督として知っていたのだから、猫に小判と言われてしまいそう。しかし、物づくりのドキュメンタリー作品と思って見ていたら、最後までワクワク。音楽に疎くても、すっかり引き込まれた。
作品の終わり近くに、ギターにしか見えないケーキが登場する。本物のギターのようにネックの部分がテーブルから浮いていたように見えたのだが、ケーキでそれができるのだろうか。作品を見終わっても、そのことが気になった仕方がない。(堀)


公式HP http://www.bitters.co.jp/carminestreetguitars/
2018 年/カナダ/80 分
配給:ビターズ・エンド
posted by akemi at 21:52| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シークレット・スーパースター   原題:Secret Superstar

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監督・脚本:アドヴェイト・チャンダン
出演:ザイラー・ワシーム(『ダンガル きっと、つよくなる』)、メヘル・ヴィジュ(『バジュランギおじさんと、小さな迷子』)/アーミル・カーン(『PK』『きっと、うまくいく』『ダンガル きっと、つよくなる』)ほか

インド、グジャラート州ヴァドーダラー。
保守的なムスリムの家庭で育った14歳のインスィア(ザーイラー・ワースィム)は、歌が大好きな女の子。ギターで弾き語りしながら、いつか世界に自分の歌を届けたい願っている。そんなインスィアに母のナジマー(メーヘル・ヴィジュ)は、金のアクセサリーを売ってパソコンを買ってあげて、YouTubeで流せばという。サウジアラビアに出張中のパパに見られたら怒られるとすくむインスィア。「ブルカを被れば大丈夫!」と母に励まされて「シークレット・スーパースター」の名前で投稿すると、たちまち評判に。有名人からもコメントが寄せられ、新聞にも写真入りで紹介される。
断食月になって、サウジアラビアに出張していたエンジニアの父ファルーク(ラージ・アルジュン)が帰ってくる。30点という試験の結果を見て、ギターの弦を切ってしまう父。パソコンも捨ててしまえといわれる。
そんな中、動画を見て有名な音楽プロデューサー、シャクティ・クマール(アーミル・カーン)からインスィアの歌をレコーディングしたいと連絡が届く・・・

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(C)AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017


アドヴェイト・チャンダンの初監督作品。俳優、脚本、助監督など様々な仕事をしてきたが、アーミル・カーンの元マネージャーでもあり、アーミルが全面バックアップ。出演も快諾して、有能な音楽監督だけど、同時に3人と不倫して、奥さんから離婚を突きつけられているという、ちゃらい男を実に楽しそうに演じている。おそらくアーミルとは間逆のキャラ。
そして、アドヴェイト・チャンダン監督が、「母と母性に捧げる」と掲げているように、本作は保守的なインド社会の中で虐げられながらも闘う女性たちの物語。

インスィアは、友達の男の子チンタンの助けを借りて、学校を抜け出してムンバイのシャクティのスタジオに飛行機で往復。なんとか夢を叶えたいと頑張る一方、権威主義的な父から母を救いたいと、シャクティの奥さんに離婚調停で実績にある有能な弁護士を紹介してもらう。実に痛快。

少女インスィアを演じたザイラー・ワシームは、アーミルの娘役を演じた『ダンガル きっと、つよくなる』がデビュー作。
娘の夢を叶えてあげようと、自分が盾となる母親を演じているのは、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』でも少女の母親役のメヘル・ヴィジュ。

そして、本作がムスリムの家庭を描いていることにも注目したい。顔を隠してYouTubeに投稿する時、イスラームの女性が髪の毛や身体を隠すヒジャーブの習慣を利用するための設定だけど、インドの映画でムスリムが主役になることはなかなかないので貴重。
ヒンドゥー至上主義のモディ首相の政権下であることを考えると、さらに興味深い。
グジャラート州のムスリムの状況がどんなものなのか知らないが、父親が「明日呼ばれている結婚式は進歩的な家だからブルカは被るな」と母親に命令する場面があって、ムスリムにも様々な考えがあることを思わせてくれる。

なお、最初に出て来るタイトルも、ヒンディー語とアラビア文字のウルドゥ―語が併記されている。ウルドゥー語は、ムガル王朝の時代、イスラームに改宗した人たちが、ヒンディー語をアラビア文字で書き、語彙にもアラビア語やペルシア語起源のものを取り入れた言葉。ヒンディー語とウルドゥー語は見た目は全く違うが、文法体系は同じ。
それにしても、グジャラート州のムスリムがウルドゥ―語を話しているのかどうか知りたいところ。 (咲)


歌手を夢見る主人公は顔を隠して動画サイトに歌をアップ。一躍、有名になるが、DVな父親は音楽や自由を認めない。良かれと思って手筈を整えた両親の離婚も母から否定される。いろいろと助けてくれる友人にイライラをぶつけ、母が父に隠れてこっそり買ってくれたパソコンを投げ捨ててしまう。不自由な境遇とはいえ、不満の吐き出し方が父親に似ているのはあえてか。演じていたのは『ダンガル きっと、強くなる』で映画デビューしたザイラー・ワシーム。そういえば、あの時は父親にレスリングを無理強いされていたっけ。主人公を助ける友人の彼女への恋心は一目瞭然。それを必死に隠して、彼女の歌手デビューのために奔走する。その純な思いはいじらしく、応援したくなった。
アーミル・カーンは動画サイトから少女を見つけたプロデューサー役。彼女の自由に一役買う。いい役どころのはずだが、俺様感たっぷりの女ったらし。こんな設定は初めてでは? ピタピタの衣装が妙にハマってた。インドの良心と言われる彼とは正反対だが、実はこれが本当の姿ではと思ってしまうくらい楽しそうに演じていた。(堀)


2017年/インド/ヒンディー語/シネマスコープ/5.1ch/150分/映倫G
配給:フィルムランド、カラーバード 
公式サイト:http://secret-superstar.com/
★2019年8月9日(金)8月9日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー




posted by sakiko at 14:56| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月03日

映画『東京裁判』4Kデジタルリマスター版

2019年8月3日(土)ユーロスペースほか全国順次公開!
劇場情報 http://www.tokyosaiban2019.com/theater.php

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(C)講談社2018

監督:小林正樹
総プロデューサー:足澤禎吉、須藤 博  
エグゼクティブプロデューサー:杉山捷三(講談社)
プロデューサー:荒木正也(博報堂)、安武 龍
原案:稲垣 俊  脚本:小林正樹、小笠原 清(CINEA-1)
編集:浦岡敬一(CINEA-1)  編集助手:津本悦子、吉岡 聡、佐藤康雄
録音:西崎英雄(CINEA-1)  録音助手:浦田和治  
音響効果:本間 明  効果助手:安藤邦男
資料撮影:奥村祐治(CINEA-1)  撮影助手:北村徳男、瓜生敏彦  
ネガ編集:南 とめ ネガ編助手:大橋富代
タイトル美術:日映美術  現像:東洋現像所  録音:アオイスタジオ
    協力:博報堂
史実考査:一橋大学教授 細谷千博(現代史)、神戸大学教授 安藤仁介(国際法)
翻訳監修:山崎剛太郎  
監督補佐:小笠原 清  助監督:戸井田克彦  製作進行:光森忠勝
ナレーター:佐藤 慶
音楽:武満 徹  指揮:田中信昭  演奏:東京コンサーツ
公式HP http://www.tokyosaiban2019.com/theater.php

第2次世界大戦。何を裁き、何が裁かれなかったのか

『壁あつき部屋』(BC級戦犯を扱ったもの)、『黒い河』(戦後の米軍基地を舞台としたもの)、『人間の條件』6部作(満州戦線に従軍した五味川純平氏の自伝的ベストセラー小説を映画化。戦争の中で人間がどう変わっていくのかという姿をリアルに描いた)など、これらの作品の中で戦争の「おそろしさ」、「むなしさ」、「おろかさ」を一貫して描いてきた小林正樹監督が、自らの戦争体験をもとに鎮魂の祈りを込めて作った4時間37分の作品が4kデジタルリマスター版で蘇る。

1945年8月に降伏した日本の戦後の運命を決定づけた極東国際軍事裁判(通称 東京裁判)の全貌を描いた映画『東京裁判』は、第2次世界大戦の実態を映像に収めた作品。東京裁判は1946年、東京・市ヶ谷の旧陸軍士官学校大講堂(現在の防衛省の地)で開廷された。裁判官および検事は、日本の降伏文書に署名した9か国とインド、フィリピンの計11カ国の代表で構成。裁判では「平和に対する罪」「人道に対する罪」など55項目に及ぶ罪状が裁かれた。
元々はアメリカ国防総省が撮影していた50万フィートもの膨大な裁判記録のフィルムが1973年に公開され、講談社がこれを基に創立70周年記念事業として記録映画を企画した。監督に要請された小林正樹は、それまで何本もの作品で戦争の非を訴え続けてきたが、この作品では5年の歳月をかけてフィルムを吟味し、国内外のニュース映像なども調査してピックアップ。そこから脚本を作りながら適応するフィルムをあたるという気が遠くなるような作業を繰り返し、「時代の証言者」としての映画を完成させた。
この裁判で28人の被告は全員無罪を主張したが、公判では発狂免訴された大川周明、病死した松岡洋右と永野修身を除く全被告25名のうち東條英機ら7名が絞首刑、他18名は終身刑もしくは有期刑が宣告され、東京裁判は終結した。しかし、天皇は戦争責任を免がれた(アメリカの思惑、マッカーサーの天皇に対するシンパシーもあったかららしい)。真の裁きは終わってない。即ち東京裁判は完結していないことを、本作は示している。
単に裁判の記録ということだけではなく、日本の軍国主義の歩みと激動の世界情勢を照らし合わせながら、人類がもたらす最大の愚行「戦争」の本質を巧みに訴えた本作は1983年に製作、公開された。戦後38年で「戦争を知らない世代」が多くなった頃。
さらに2019年(戦後74年)、戦争を経験した世代が亡くなっていく中、監督補佐・脚本の小笠原清らの監修のもとで修復された4Kデジタルリマスター版が公開される。改憲や戦争の是非をめぐる論議が出てきている今、改めて「平和」について考えさせられる。

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(C)講談社2018


「勝者が敗者を裁いたからね」といわれる「東京裁判」だが、それでも日本人自身の手で何も裁くことがなかった当時のツケが、現代に回ってきているのではないか? 戦後74年経った今、また、戦前の時代のような世相、憲法を改悪し、また戦争ができるように変えようとする動きを感じる。このようなときに、映画『東京裁判』が再上映される意味は大きい。若い人にぜひ観てほしい(暁)。

デジタル修復補訂版2018
デジタルリマスター監修:小笠原 清、杉山捷三
アーカイブコーディネーター:水戸遼平  
フィルムインスペクション:千陽裕美子
デジタルレストレーション:黒木 恒、高橋奈々子、森下甲一  
カラリスト:阿部悦明  音調調整:浦田和治
協力:独立行政法人国立映画アーカイブ 株式会社IMAGICA Lab.
サウンドデザイン ユルタ 豊国印刷 バーミンガム・ブレーンズ・トラスト
特別協力:芸游会
企画・製作・提供:講談社

1983年/日本/モノクロ/DCP/5.0ch/277分
配給 太秦
日本初公開 1983年6月4日

第35回ベルリン国際映画祭国際評論家連盟賞受賞
第26回ブルーリボン賞 最優秀作品賞
第38回毎日映画コンクール 日本映画優秀作品賞
第12回日本映画ペンクラブ賞 日本映画第1位
1985年ロンドン国際映画祭招待作品 作品賞
1985年シドニー国際映画祭招待作品 作品賞
1985年モントリオール映画祭招待作品 批評家協会賞
posted by akemi at 17:47| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月02日

太陽がほしい <劇場版>

2019年8月3日より、東京 UPLINK渋谷、大阪 シネ・ヌーヴォ、愛知 シネマスコーレにて
3館同時ロードショー。他、全国順次公開。
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©2018 Ban Zhongyi

監督・撮影:班忠義(パン・チョンイー)
ナレーション:有馬理恵  
編集:秦岳志  
整音:小川武  
音楽:WAYKIS
出演:万愛花、尹林香、尹玉林、高銀娥::、劉面換、郭喜翠、
   鈴木義雄、金子安次、近藤一、松本栄好、山本泉

中国における日本軍性暴力被害者を20年に渡って取材、<

班忠義監督は、日本軍性暴力被害者の支援活動と並行して20年間撮りためてきた証言の映画化を決意。この企画に賛同した750人の支援者の協力を得、5年の歳月をかけてこの作品『太陽がほしい<劇場版>』を完成させた。
監督は「毎年被害女性の元を訪ね、証言や事実関係の調査・検証をしてきました。24年にわたって活動を続けられたのは、日本の支援者の方々のおかげです」と語っている。
班忠義監督は1958年生まれ。故郷、中国遼寧省撫順市で、近所に住む日本人残留婦人と知り合い、交流を続け1987年日本に留学。その中国残留日本婦人のことを書いた「曽おばさんの海」で、1992年、朝日ジャーナルノンフィクション大賞を受賞。その2年後、支援団体、市民の力で、中国残留日本人に対する帰国促進が議員立法の形で実現。
曽おばさんとの出会いががきっかけで、戦争被害者を調査していた班監督は、1992年、東京で開催された「日本の戦後補償に関する国際公聴会」で、日中戦争当時、日本軍兵士に性暴力を受けたという中国人女性万愛花さんの証言と、体に残された傷跡にショックを受けた。その後、日中戦争の真実を知るため、万愛花さんを始め、日本軍兵士によって性被害を受けた女性たちを中国に訪ね、2000年に韓国出身の被害女性の故郷への思いを描いた『チョンおばさんのクニ』を完成させた。2007年には『ガイサンシーとその姉妹たち』を製作。その後も支援活動と平行して取材を続け、これまでの取材の集大成として『太陽がほしい<劇場版>』が作られた。
万愛花さんは「私は慰安婦ではない」と言っていましたが、中国における女性たちの被害は、従来言われている「慰安婦」の実態とは違うようです。彼女たちの証言によると、ほとんどは家から強制連行され、地元農家や、軍のトーチカや城塞のそばに監禁されていたことが多かったようです。外から施錠され、用を足す時だけ門番の監視のもと外に出ることができました。『太陽が欲しい』とタイトルをつけたのは、当時の彼女たちが発した心からの叫びだそうです。

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万愛花さん ©2018 Ban Zhongyi

被害女性たちの多くは身体的、精神的暴力により、体調や精神に異常をきたしていたけれど一切の補償が受けられず、班監督が訪ねた時、戦後約半世紀を過ぎても癒えることのない苦しみの中にあった。監督は多くの支援者を日本で募り彼女たちの支援を続けた。
このドキュメンタリー作では中国人の被害女性だけでなく、元日本兵とその協力者だった中国人男性たちも証言をしている。元兵士たちは公の場で自ら、中国人女性を拉致、監禁し、性暴力に及んだと語っていたが、その内容は被害女性たちの証言と一致していた。証言できる戦争世代が亡くなり、日本国内で歴史修正主義が台頭してきた今、このような記録が残しされていることは一層重要な意味を持つ。
班忠義監督は、「現在は映画の中で証言してくれた被害女性たちはすでに亡くなっています。生前、彼女たちが力を絞って私に託してくれた証言と、そこで示された事実を映画として広く日本社会に公開することは、長年、聞き取り調査や生活支援に関わってきた私が果たすべき責任だと思っています。
本作の公開を通して、今を生きる日本の人々によって、彼女たちの歩んだ人生に慈愛に満ちたあたたかな光が当てられることを願っています」と語っています。

長年、中国の性暴力被害者、元慰安婦だった方たちを取材してきた班忠義監督の誠意。この方がいたからこそ、中国における日本軍性暴力被害者の記録が残されました。日本人としては、この戦争被害をなかったことにするわけにはいきません。戦争がこういう問題を引き起こすことを肝に銘じて、日本が戦争に向かわないよう行動を起こしていくことを忘れてはいけません。それにしても、不寛容な世界が広がりつつあると感じるこの頃、また戦争が起こらなければいいのですが(暁)。

2018/中国・日本/108分/BD/ドキュメンタリー
公式HP https://human-hands.com/index.html

●上映、トークイベント情報
東京  UPLINK渋谷 TEL.03-6825-5503  8月3日(土)〜16(金)
 トークイベント開催!(各日、上映後)
 3(土) 林博史さん(現代史研究者/関東学院大学教授)、班忠義監督
 4(日) 有馬理恵さん(舞台女優/本作ナレーション担当)
 7(水) 纐纈あやさん(映画監督)、班忠義監督
 10(土) 中野晃一さん(政治学者/上智大学教授)、班忠義監督
 11(日) 班忠義監督
 12(月・祝) 中原道子さん(「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクション・センター共同代表)、班忠義監督
 14(水) 班忠義監督
大阪 シネ・ヌーヴォ TEL.06-6582-1416  8月3日(土)〜23(金)
 4(日) 班忠義監督による舞台挨拶実施!
愛知 シネマスコーレ TEL.052-452-6036  8月3日(土)〜16(金)
 4(日) 班忠義監督による舞台挨拶実施!
神奈川  横浜シネマリン TEL.045-341-3180  9月14日(土)〜
 班忠義監督による舞台挨拶を予定(日程調整中)
広島  横川シネマ  TEL.082-231-1001  11月1日(金)〜
 班忠義監督による舞台挨拶を予定(日程調整中)
広島 シネマ尾道 TEL.0848-24-8222  11月2日(土)〜15日(金)
 班忠義監督による舞台挨拶を予定(日程調整中)

製作:彩虹プロダクション
後援:ドキュメンタリー映画舎「人間の手」、
   中国人元「慰安婦」を支援する会
配給・宣伝:「太陽がほしい」を広める会

*参考
『チョンおばさんのクニ』2000年
中国残留韓国人女性を追ったドキュメンタリー。チョンさんが17才の時、男に大田織物工場へ働きにいかないかと誘われ、朝鮮半島から連れていかれたのは、中国武漢市の慰安所。韓国には帰れず、中国で結婚。しかし、病気になり、祖国への帰国を希望。彼女を帰国させるべく、日本の団体が奔走し、祖国へ旅立ったけど、半世紀を越えて思い続けた故郷に彼女の肉親はおらず、昔の面影すらなかった。帰国の事がマスコミに大きく報道されたことも手伝って、少女時代の親友、姉妹にも会えた。しかし、皆が歓迎してくれたとは言えなかった。ガンが進行し、死ぬ前にまた中国に残した息子や孫に会いたいという彼女の希望はついに実現しなかった。

『ガイサンシーとその姉妹たち』2007年 
日中戦争時代、日本軍の陣営に連れ去られ、性暴力を受けた女性たち。清郷隊という日本軍協力者の中国人が村々を回って、若い女性を連れ去り、日本軍陣営に連れて行き監禁したという。
山西省一の美人を意味する「蓋山西(ガイサンシー)」と呼ばれた侯冬娥(コウトウガ)。その呼び名は彼女の容姿のことだけでなく、同じ境遇に置かれた幼い〝姉妹たち〟を、自らの身を挺して守ろうとした、彼女の優しい心根に対してつけられたものであり、その後の彼女の人生の悲惨を想ってのものだった。蓋山西は、当時一児の母だったが、美人という評判を聞きつけて捕らえられ、日本軍の駐留地に連れて行かれたという。
*シネマジャーナル71号で紹介
posted by akemi at 22:28| Comment(0) | 中国・日本合作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月01日

世界の涯ての鼓動   原題:Submergence

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監督:ヴィム・ヴェンダース (『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』『Pina/ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち』)
脚本:エリン・ディグナム
撮影:ブノワ・デビエ
音楽:フェルナンド・ベラスケス
原作:小説「Submergence」(J・M・レッドガード)
出演:ジェームズ・マカヴォイ、アリシア・ヴィキャンデル、アレクサンダー・シディグ、ケリン・ジョーンズ、レダ・カテブ、アキームシェイディ・モハメド

海洋生物数学者のダニーは、グリーンランドで地球上の生命の起源を解明する調査を目前に控えている。潜水艇で深海に潜る前に恋人のジェームズの声を聞きたいのに、彼からの電話は途絶えていた。
1ヶ月ほど前、休暇で訪れたノルマンディーの海辺の瀟洒なホテルで出会って恋に落ち、5日後に別れるときにはお互い生涯の相手だと確信した二人。ジェームズは水道技術指導のため、ケニアに赴いていった。だが、それは表向きで、実はジェームズはMI-6(英情報機関・対外情報部)の諜報員で、南ソマリアに潜入し爆弾テロを阻止するのが任務だった。ソマリア到着早々、イスラム過激派に拘束され、外界との連絡が取れなくなっていた・・・

長編監督50年を迎えるドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース。プロデューサーのキャメロン・ラムより送られてきた原作を読んで、非常に興味を持ち監督を引き受ける。
自分の任務に信念を持っている男女が束の間の休暇中に出会うラブストーリーを主軸に、地球の環境問題や、解決の糸口が見出せないテロとの戦いなど、世界規模で抱える問題について、さりげなく考えさせる物語。
なにより、イスラム過激派の描き方に注意を払っていることに注目したい。ジハード(聖戦)戦士は得てして「悪」に描かれることが多いが、彼らとて信念を持った人たちであることが丁寧に描かれている。
歩み寄って対話することもなく、「テロとの戦い」の言葉のもと武力で鎮圧しようとする西側諸国に警鐘を鳴らしているのだ。
それにしても、レダ・カテブ演じるジハード戦士は、ヴィム・ヴェンダース監督も「夜中にこんな男と出会いたくないほど怖かった」という。実に渋い!
レダ・カテブ演じる過激派サイーブが、ある時、ジェームズがアラビア語を解することを知り、アラビア語で会話する場面がある。本来、諜報員は潜入先の言葉を解していてもわからないフリを通すものだと思う。会話は和解の一歩。なにごとも武力でなく対話で解決してほしいものだ。

5日間でお互いを生涯の相手だと確信した二人については、これはもう、恋なんてタイミング。勘違いで成立するものだと思っているので、勝手にしてちょうだい。などと言ってしまうのは、もう恋に縁遠くなってしまったひがみ?

この映画のなによりの魅力は、ダイナミックな映像。フランス各地の海岸沿い、スペイン、ドイツ、ジブチ(ソマリアは危険なので、近隣のジブチでソマリア部分を撮影)、フェロ-諸島など、ロケ地の風景が素晴らしい。 (咲)



2017年/イギリス/英語・アラビア語/カラー/ビスタサイズ/DCP/5.1ch/112分
配給:キノフィルムズ/木下グループ
公式サイト:http://kodou-movie.jp/
★2019年8月2日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他 全国順次ロードショー.

posted by sakiko at 13:37| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ピータールー マンチェスターの悲劇 原題:PETERLOO

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監督:マイク・リー
出演:ロリー・キニア、マクシーン・ピーク、デヴィッド・ムースト、ピアース・クイグリー
ヨーロッパ諸国を巻き込んだナポレオン戦争も、1815年のウォータールーの戦いを最後に、ようやく終結。だが、英国では勝利を喜ぶのも束の間、経済状況が悪化、労働者階級の人々は職を失い、貧しさにあえいでいた。彼らに選挙権はなく、あちこちで不満が爆発し、抗議活動が炸裂していた。1819年8月16日、マンチェスターのセント・ピーターズ広場で大々的な集会が開かれ、著名な活動家であるヘンリー・ハントが演説することになる。だがこれは、あくまで平和的に自分たちの権利を訴えるデモ行進になるはずだった。あろうことか、サーベルを振り上げた騎兵隊とライフルで武装した軍隊が、6万人の民衆の中へと突進するまでは──。

今年の洋画暫定5位以内には入りそうな重厚長大たる傑作!重い映画と感じるかもしれないが、主題は極めて現代に通じる普遍性があり、写実的には19世紀初頭にタイムスリップし、自らが体感しているかの如くリアル感に満ちている。

『秘密と嘘』『ヴェラ・ドレイク』など秀作を撮り続ける英国の名匠マイク・リーはマンチェスター出身でありながら、「ピータールーの虐殺」事件をよく知らなかったという。調べるに連れ、政府が市民運動を鎮圧した圧政を歴史に埋もれさせてはならないとの使命感で映画化に踏み切った。政治問題・社会問題を扱った映画が製作し辛い何処かの国とは異なる”表現の自由”さに溜息を吐いてしまう。

ナポレオン戦争を終結させた戦いは、日本では”ワーテルロー”と呼ばれるが、英国では”ウォータールーの戦い”である。セント・ピーターズ・フィールド広場をもじり、「ピータールーの虐殺」と知られる大事件を、マイク・リーはまるでドキュメンタリーのように描く。基本的に主人公は存在せずスター俳優も出ない。弾圧する側の王室を諧謔味たっぷりに、政治家、軍人、法律家、資本家らは既得権益を守るエゴそのもの。弾圧される記者、市民活動家、労働者階級の人々。職場や家庭での細かな逸話を積み重ね、クライマックスに導く。

当時の労働者にとって「白い服」は晴れの日や教会へ行く時しか着られなかった。1800年代の衣装を再現し、晴れ着を纏って広場に集まった女性・子供たちをサーベルで容赦なく斬り付ける政府軍騎馬隊。集会に集まった男たちはもちろん丸腰だ。つい先ほどまで晴れやかな顔をしていた庶民たち、何ら抵抗する術のない彼らが次々と死屍累々の山を築いて行く現実…。息を飲まざるを得ない。

現代の天安門事件、香港のデモ弾圧、ロシアの選挙妨害・大量の逮捕者といった今起きている圧政の図式と、本作は地続きなのだ。浅薄な知識ゆえ、前半の論戦に次ぐ論戦が繰り広げられる場面は字幕を追うのに精一杯で、歴史認識まで至らなかった。是非もう一度観てみたいと思う。そういう映画は滅多にない。見逃せない今年の1本だ。
(幸)


© Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.
2018年/イギリス/カラー/ビスタ/5.1ch/155分/
配給:ギャガ 
公式サイト:gaga.ne.jp/peterloo/
8月9日(金)TOHOシネマズ シャンテ他 全国順次公開
posted by yukie at 12:57| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

カーライル ニューヨークが恋したホテル 原題:Always at the Carlyle

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監督・脚本:マシュー・ミーレー 
撮影:ジャスティン・ベア 音楽:アール・ローズ
出演:ジョージ・クルーニー、ウェス・アンダーソン、ソフィア・コッポラ、アンジェリカ・ヒューストン、トミー・リー・ジョーンズ、
ハリソン・フォード、ジェフ・ゴールドブラム、ウディ・アレン、ヴェラ・ウォン、アンソニー・ボーデイン、ロジャー・フェデラー、ジョン・ハム、レニー・クラヴィッツ、ナオミ・キャンベル、エレイン・ストリッチ

ニューヨークにある1930年創業の高級ホテル「The Carlyle, A Rosewood Hotel」。ここは映画『ハンナとその姉妹』や『セックス・アンド・ザ・シティ』のロケ地としても知られ、多くのセレブたちを迎えてきた。その魅力を、ジョージ・クルーニーをはじめ、ウェス・アンダーソン、ソフィア・コッポラらが語る。洗練されたスタッフによる接客の様子も映し出される。

「毎月旅行」を12年更新している身でも、1泊200万円のスイートルームや5000円のオレンジジュースには縁がない…(当然だ(笑))。敷居の高いセレブ御用達ホテルの奥座敷はどうなっているのか?働いている人々は?馴染み客はどんなホテル体験を?そんな好奇心を十二分に満たしてくれる極上ドキュメンタリー。観終わった観客の殆どがカーライルに恋をしているかもしれない。

規格外に超ゴージャスな空間でありながら、家族のように出迎えてくれるスタッフたち、宿泊客のイニシャルを縫い込んだ枕カバー、食事の好みを完全に把握しているシェフ、セレブたちの様々な逸話を知っているに違いない彼らの口は堅い。流石に1930年創業の重みと誇りを背負っているのだ。
「英国のウィリアム王子ご夫妻の予約電話を受けたのは私だけど、それを伝えられるのはごく少数のスタッフだけ。家族にも誰にも言えなかった」と語る電話交換手の言葉からも分かり得よう。

それでも、ダイアナ妃とスティーブ・ジョブズ、マイケル・ジャクソンが同じエレベーターに乗り合わせた瞬間のことを想像すると、陶然としてしまう。逝ってしまった人々の煌びやかな想い出もスタッフの胸の中にしまってあるのだろう。

音楽ファンには、ホテル内のクラブに出演した一流ミュージシャンたちのステージが垣間見られるのも喜びだ。どんなステージが繰り広げられているかは観てのお楽しみ♪
『バーグドルフ&グッドマン/魔法のデパート』『ティファニー/ ニューヨーク五番街の秘密』に続く、マシュー・ミーレー監督の”ニューヨーク三部作”の中でも最高傑作。エレベーターマンや清掃係、伝説のコンシェルジュなどなど、裏で支えるプロフェッショナルな仕事ぶりに触れられる貴重な時間だ。(幸)


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2018年/92分/アメリカ/カラー/16:9/ステレオ  
配給:アンプラグド
© 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト: http://thecarlyle-movie.com/
8月9日(金)よりBunkamuraル・シネマ他、全国順次公開
posted by yukie at 11:21| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする