2019年08月31日
ラスト・ムービースター(原題:The Last Movie Star)
監督・脚本:アダム・リフキン
出演:バート・レイノルズ、アリエル・ウィンター、クラーク・デューク、エラー・
コルトレーン、ニッキー・ブロンスキー、チェヴィー・チェイス
かつて一世を風靡した映画界のスーパースター、ヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)のもとに、ある映画祭から功労賞受賞の招待状が届く。歴代受賞者がデ・ニーロやイーストウッドだと聞いて、しぶしぶ参加したものの、騙しに近い名もない映画祭だと知ると、エドワーズは憤慨。
だが、映画祭が行われていた場所は、彼が生まれ育った街ノックスビルに近く、過去の思い出が甦り…。運転手役のリル(アリエル・ウィンター)に命じて向かった先は、育った家、大学のフットボールで活躍したスタジアム、最初の妻にプロポーズした岸辺。自身の人生を振り返ったエドワーズは、ある行動を起こす。
大学時代はフットボールで活躍し、ケガをきっかけに俳優に転向。アクションスターとして一世を風靡した老俳優が主人公と聞けば、パート・レイノルズ本人がモデルではと思ってしまう。
物語は初めて聞く映画祭から功労賞を送りたいと連絡を来たところから展開していく。その賞は過去にイースト・ウッドも受賞したとのこと。バート・レイノルズとイースト・ウッドは同時期にアクションスターとして活躍していた人物。主人公の心を刺激するに違いない。小ネタのはさみ方が絶妙!
その気になって映画祭に向かうが、予想より遥かに小さい規模の映画祭にがっかりし、帰ると言い出し、ロードムービーが始まる。相棒は孫ほど歳の離れたピッチな女の子。初めこそ反目していたがヴィック・エドワーズの過去を振り返るドライブを続けるうちに最高のバディとなっていき、それぞれが思い切った行動に出た。
ポスタービジュアルにあるキャッチコピー「人生のあらすじは、途中で変えられる。」はヴィック・エドワーズだけでなく、リルにも当てはまる。人生ってこんなものと諦めるから、そこで終わってしまうのだ。
ところで作品内でバート・レイノルズの過去作品「脱出」「トランザム7000」が映し出され、そこで若いバート・レイノルズと歳を重ねたバート・レイノルズが共演している。技術の進歩が成せる技に驚かされた。『トランザム7000』の監督はハル・ニーダムだが、彼はかつてバート・レイノルズのスタントマンをやっていた。その後、バート・レイノルズの勧めもあって監督業に転身。バート・レイノルズの後半の代表作『キヤノンボール』もハル・ニーダムが監督を務めた。この2人の関係を考えると、クエンティン・タランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)の主人公であるリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と彼のスタントダブルで親友のクリフ・ブース(ブラッド・ピット)はバート・レイノルズとハル・ニーダムがモデルなのかもしれないという気がしてくる。(堀)
2017年/アメリカ/英語/104分
配給:ブロードウェイ
(C) 2018 DOG YEARS PRODUCTIONS, LLC
公式サイト:https://lastmoviestar2019.net-broadway.com/
★2019年9月6日(金)新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開
タロウのバカ
監督・脚本編集:大森立嗣
出演:YOSHI、菅田将暉、仲野太賀、奥野瑛太、植田紗々、豊田エリー、國村隼
思春期のまっただ中を生きる主人公の少年タロウ(YOSHI)には名前がない。彼は「名前がない奴はタロウだ」という理由でそう呼ばれているだけで、戸籍すらなく、一度も学校に通ったことがない。そんな“何者でもない”存在であるタロウには、エージ(菅田将暉)、スギオ(仲野太賀)という高校生の仲間がいる。大きな川が流れ、頭上を高速道路が走り、空虚なほどだだっ広い空き地や河川敷がある町を、3人はあてどなく走り回り、その奔放な日々に自由を感じている。しかし、偶然にも一丁の拳銃を手に入れたことをきっかけに、それまで目を背けていた過酷な現実に向き合うことを余儀なくされた彼らは、得体の知れない死の影に取り憑かれていく。やがてエージとスギオが身も心もボロボロに疲弊していくなか、誰にも愛されたことがなく、“好き”という言葉の意味さえ知らなかったタロウの内に未知なる感情が芽生え始める……。
圧倒的な暴力による支配と連鎖。救いのカケラもない。押し寄せる不快感に打ちのめされた。次第に感覚が麻痺して、それさえ薄れていく。恐ろしい。何が彼らをこうさせるのか。愛情不足?では愛とは何か?子供が何をしても愛せるのか?監督さえその答えを見つけられていない気がした。(堀)
大森監督のはみ出て(出されて)しまった人たちの映画は、いつも胸にぐさぐさと刺さって痛い。監督・脚本の『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』 (2009)、『ぼっちゃん』 (2012)に連なるこの作品もそう。
エージは一度期待された高みから落ちてしまって、居場所がない。スギオは好きな女の子にどうしてやることもできない自分が悔しい。親に名前さえつけてもらえなかったタロウは、自分が他と違うことを不幸せと思わない。比べる幸せを知らないから。そんなタロウだから、エージとスギオは、イヤなことを忘れて一緒に笑っていられた。3人に半グレのグループが絡んでくる。銃の圧倒的な力に引き寄せられていく3人、先が見えて不安になった。スギオの父が息子を心配していたことにちょっと救われる。
菅田将暉、仲野太賀とも演技に定評がありますが、振り切るほどのエネルギーを放出している二人を相手に、自由に飛び回っているYOSHIって何者?初めて見たのですが、実はファッション界で有名な男の子でした!中学生から海外ブランドのモデルで、5月には歌手デビューもしたというのに驚愕。自撮りのコーディネイトをinstaにあげて知られるようになり、あるファッションブランドの有名人に出会って人生が大きく変わったようです。少しも物怖じするところがないのは、そういう経歴があってのことでした。まだ16歳です。(白)
2019年製作/119分/R15+/日本
配給:東京テアトル
©2019 映画「タロウのバカ」製作委員会
公式サイト:http://www.taro-baka.jp/
★2019年9月6日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
ヒンディー・ミディアム(原題:Hindi Medium)
監督・脚本:サケート・チョードリー
脚本:ジーナト・ラカーニー
出演:イルファーン・カーン、サバー・カマル ほか
デリーの下町で結婚衣装の店を営んでいるラージ・バトラ(イルファーン・カーン)は、妻のミータ(サバー・カマル)と娘のピアの3人暮らし。娘の将来のため、ラージとミータは娘を進学校に入れることを考えていた。そうした学校は面接で親の教育水準や居住地まで調べていることを知るが、ふたりの学歴は高くなく、2人は娘のために高級住宅地に引っ越して本格的に面接に臨むが、結果は全滅。落胆する2人に、ある進学校が低所得者層のために入学に優先枠を設けているという思わぬ話が舞い込む。追いつめられたラージたちは貧民街に引っ越して優先枠での入学を狙うのだったが・・・。
タイトルの“Hindi Medium”とは…
インドで“ヒンディー語で授業を行う公立学校”のことを指す。対して、英語で授業を行う私立の名門校は“English Medium”とされ、ラージとミータはピアを“English Medium”に入学させようと奮闘する。
インドのお受験事情も熾烈。娘をエリート校に入れたい妻のため夫は奔走。高級住宅地に引っ越してハイソな家庭と交流し、受験塾に同伴して模擬面接を受け、願書をもらうために夜明け前から並ぶ。この辺りは日本と同じ。その立場のときは必死だが、こうやって客観的に見せられると笑ってしまう。最後の手段は低所得者枠で出願するため家族で貧民街に引越し。さすがにこの制度は日本にはない。しかし、貧民街での生活で夫婦は人生において本当に大切なことに気付く。。教育とは何なのかを改めて考えさせられた。
ラージを演じるイルファーン・カーンは本作でインド国内の映画賞である国際インド映画アカデミー賞、スター・スクリーン・アワード、フィルムフェア賞で主演男優賞3冠を果たした。また、ラージの妻でなりふり構わない教育ママのミータを演じたのはサバー・カマル。パキスタンで最も活躍するトップ女優のひとりで本作がインド映画初出演。2017年にインドで公開されると年間興収トップ10入りの大ヒットを記録した。
(堀)
せっかく本作でインド映画に進出し人気を博したパキスタンのトップ女優サバー・カマルだが、残念ながらカシミールの緊張が解けるまでインド映画への出演はお預けになった。
インドとパキスタンの映画人の交流が盛んになってきて、嬉しい兆候と思っていたのに、2016年9月、インドの映画製作者団体が、両国関係が正常化するまでパキスタン人俳優、歌手や技術者を起用しないとの方針を表明したのだ。
2019年8月17日、 ヒンドゥー至上主義のモディ首相が、北部ジャム・カシミール州の自治権を剥奪。カシミール問題は、さらに混迷を深め、両国の映画人の交流はますます遠のいた。残念なことだ。
本作で、もう一人注目した女優がティロートマ・ショーム。
『あなたの名前を呼べたなら』 (2019年8月2日公開)で主役の家政婦を演じた彼女が、本作では、お受験コンサルタントとして出ていて、それがもう、テキパキと仕事をこなすキャリアウーマン。相談に来たラージとミータの夫妻に、「あなたたちの英語のレベルがそれじゃダメ」と鼻で笑い飛ばして痛快。
インドでは、英語の能力はほんとに重要。口喧嘩した時にも、最後には英語でまくしたて、どちらの英語が上かで勝負が決まると聞いたことがある。
本作のヒットを受け、続編『Angrezi Medium(英語で授業を行う学校)』が製作されているとのこと。監督は違うが、イルファーン・カーンが引き続き主演。日本でまた公開されるのを楽しみにしたい。(咲)
2017年/インド/132分/ヒンディー語/シネマスコープ/カラー/5.1ch/映倫G
配給:フィルムランド、カラーバード
公式サイト:http://hindi-medium.jp/
★2019年9月6日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
台風家族
監督・脚本:市井昌秀
主題歌:フラワーカンパニーズ「西陽」(チキン・スキン・レコード)
音楽:スパム春日井
撮影:灰原隆裕
照明:谷本幸治
録音:田中博信
出演;草彅 剛、MEGUMI、中村倫也、尾野真千子、若葉竜也、甲田まひる、長内映里香、相島一之、斉藤暁、榊原るみ、藤竜也
その夏、鈴木家の4人きょうだいは10年ぶりに実家へ戻ってきた。銀行で2000万円を強盗したまま行方が分からなくなっていた両親の“見せかけ”の葬儀をするために。けれども本当の“目的”は財産分与を行うためだった。しかし、話し合いは思いがけない展開に転がっていく。きょうだい同士がこれまで溜めてきた想い、長男とその娘の間にある親子の溝、そして10年前に両親が起こした強盗事件の背景に何があったのか? 刻々と台風が近づくなか、鈴木家にも嵐が渦巻いていた。
銀行強盗を犯したまま行方不明になった両親を葬い、遺産相続しようと兄妹が集まる。長男は自分の取り分ばかり主張。ブラックなホームドラマに気持ちは荒むが途中で作品は転調し、市井監督が本領発揮。非難を浴びる行動も子どもを思うゆえ。親子の思いが昇華してファンタジックな結末をもたらす。親の心子知らず。でも子の心も親知らず。会話することの大切さを感じた。(堀)
2019年/108分/PG12/日本
配給:キノフィルムズ
©2019「台風家族」フィルムパートナーズ
公式サイト:http://taifu-kazoku.com/
★2019年9月6日(金)ロードショー
かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~
監督:河合勇人
脚本:徳永友一
原作:「かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~」赤坂アカ/集英社・週刊ヤングジャンプ連載中
出演:平野紫耀(King & Prince) 橋本環奈
佐野勇斗 池間夏海 浅川梨奈 ゆうたろう 堀田真由
高嶋政宏 / 佐藤二朗
将来を期待されたエリートたちが集う私立・秀知院学園。頭脳明晰・全国模試上位常連の生徒会会長・白銀御行(平野紫耀)と、文武両道で美貌の持ち主・大財閥の娘である生徒会副会長・四宮かぐや(橋本環奈)は互いに惹かれ合っていた。しかし、高すぎるプライドが邪魔して、告白することが出来ずに、半年が経過――。
素直になれないまま、いつしか自分から告白することが「負け」という呪縛にスライド
してしまった二人は「いかにして相手に告白させるか」だけを考えるようになっていた。
天才だから…天才であるが故に、恋愛にとっても不器用でピュアな二人による、相手に「告らせる」ことだけを追い求めた命がけ(!?)の超高度な恋愛頭脳戦!
果たして勝敗は!?そして2人の初恋の行方は―?
恋愛は好きといった方が負け。恋愛に奥手な主人公2人が青春ならではの価値観に振り回される。演じるのは平野紫耀と橋本環奈。振り切った演技で笑いを取りつつ、モノローグで切ないくらい純な心をダダ漏れさせる。佐藤二朗のナレーションもいい。あ〜面倒くさいあの頃に戻りたくなった。(堀)
2019年製作/113分/G/日本
配給:東宝
(C)2019映画『かぐや様は告らせたい』製作委員会
(C)赤坂アカ/集英社
公式サイト:https://kaguyasama-movie.com/
★2019年2019年9月6日全国東宝系にてロードショー
帰れない二人(原題:江湖儿女/英題:Ash is Purest White)
監督・脚本:ジャ・ジャンクー
撮影:エリック・ゴーティエ
音楽:リン・チャン
出演:チャオ・タオ、リャオ・ファン、シュー・ジェン、キャスパー・リャン
山西省の都市・大同(ダートン)。チャオはヤクザ者の恋人ビンと共に彼女らなりの幸せを夢見ていた。ある日、ビンは路上でチンピラに襲われるが、チャオが発砲し一命をとりとめる。5年後、出所したチャオは長江のほとりの古都・奉節(フォンジェ)へビンを訪ねるが、彼には新たな恋人がいた。チャオは世界で最も内地にある大都市・新疆(シンジャン)ウイグル自治区を目指す。そして2017年がやってくる――。
ヤクザ者を愛した女性の17年を追う。女が罪をかぶっても平気でいられる男は所詮それだけの器と思ったら案の定。男の心変わりにも毅然と対応する女が切ない。落ちぶれた男を引き取る懐の深さは愛の深さか、男に負けを認めさせたかっただけなのか。変わりゆく中国の風景と愛が重なる。(堀)
2018 年/135分/中国=フランス
配給:ビターズ・エンド
©2018 Xstream Pictures (Beijing) - MK Productions - ARTE France All rights reserved
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/kaerenai/
★2019年9月6日(金)より、Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
SHADOW/影武者(原題:SHADOW)
監督:チャン・イーモウ
脚本:チャン・イーモウ、リー・ウェイ
出演:ダン・チャオ、スン・リー、チェン・カイ
20年前、弱小の沛〈ペイ〉国は強大な炎国に領土である境州を奪われた。若き王(チェン・カイ) は炎国と休戦同盟を結び、平和だが屈辱的な日々に甘んじていた。頭脳明晰で武芸の達人である重臣の都督〈トトク〉(ダン・チャオ)はそれを不満に思い、開戦を唱え、従う者も多かった。
しかし、その都督は影武者だった。1年前、都督は刀傷から病になり、影武者と入れ替わったのだ。影武者は都督の命令に従い、炎国の将軍にして最強の戦士・楊蒼〈ヤン・ツァン〉に対決を申し込む。都督は影武者に、自由と引き換えに、敵地での大軍との戦いを命じていたのだ。どんな相手も三太刀で必殺と言われる最強の楊蒼との対決に向けて、影武者は傘を武器にした技を磨くのだが、うまくいかない。都督の妻・小艾〈シャオアイ〉(スン・リー) は女性の身体のように柔らかく傘を使ってみてはどうかと提案し、その技を影武者に叩きこむ。
(影武者の)都督の勝手な行動に怒り狂う王も、実はある作戦を秘めていた。果たして、影武者は楊蒼に勝ち、自由を手に入れられるのか。
影武者が表舞台を全てこなすようになったら? 自分の与えられた仕事に精進する影と猜疑心が膨れ上がる本人。大国に抑えられている小国で様々な思いや政治的駆け引きが交錯する。水墨画のような色合いと降り続ける雨が展開を暗示。傘を使ったしなやかな戦法は奇抜でダンスのよう。敵地に攻め込むさまは亀を彷彿させる。
王の妹は真っ直ぐな心を持ち、国のために犠牲を厭わない。彼女が果たした仕事の大きさこそ、民に伝えるべきではと思う。
ダン・チャオが身を削るようなダイエットをして二役を演じ分けた。妻役は私生活でも夫婦であるスン・リー。琴を合奏するシーンは魂が叫び合うよう。クライマックスのアクションシーンと相まって作品を盛り上げる。(堀)
2018年/中国/カラー/5.1ch/スコープ/中国語/116分/PG12
配給:ショウゲート
©2018 Perfect Village Entertainment HK Limited Le Vision Pictures(Beijing)Co.,LTD Shanghai Tencent Pictures Culture Media Company Limited ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://shadow-movie.jp/
★2019年9月6日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
2019年08月29日
アス ( 原題:Us)
監督・脚本・製作:ジョーダン・ピール
製作:ジェイソン・ブラム
出演:ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク、エリザベス・モス、ティム・ハイデッカー、シャハディ・ライト・ジョセフ、エヴァン・アレックス、カリ・シェルドン、ノエル・シェルドン
アデレードは夏休みを利用して、夫と2人の子供たちと一緒に幼い頃住んでいたカリフォルニア州サンタクルーズの家を訪問する。彼女は友人一家と落ち合いビーチへ出掛けるが不可解な出来事に見舞われ、過去のトラウマがフラッシュバックする。やがて夜になると、自分たちとうり二つの不気味な4人組が家の前に現れる。
『ゲット・アウト』が衝撃的且つ独創性に溢れていたジョーダン・ピール監督。今回は”ドッペルゲンガー”映画としての新機軸を打ち出し、またしても唸らされる。傑作と出会えた喜びを観客に与えてくれるはずだ。
ネタばれ厳禁のため、ツカミ話をひとつ‥。映画がまだ中盤に差し掛かる前、試写室で前席だった男の人が飛び上がった!途中で出ていってしまうし‥。戻っては来たものの余程のビビりだったのだろうか。以降はその男の人の反応が気になって仕方がなかった(苦笑)
それだけ、ホラー作品として不可欠な恐怖の表現演出に長け、構成が巧みだということをお伝えしたかっただけなのだが‥。
ノスタルジックな薫り漂う映像が放つ言いようのない不安、計算し尽くされたライティングとカメラワーク、絶妙なタイミングで挿入される音響、クライマックスで爆笑を誘うセンス、巧妙に張り巡らされた伏線、そしてルピタ・ニョンゴを筆頭とする子役も含めた演者陣の名演。全てが一級品なのだ。
今回は人種差別が主題ではなく、社会の分断、経済的格差が拡大したUS(私たち・USA)を象徴的に可視化して見せる。プロローグでネタばれしてしまったのが惜しかった前作に比べ、本作は最後の最後まで観客の予想を上回る展開から眼が離せない。ホラー苦手な女子も必見の意欲作!(幸)
バカンス先で自分たち家族とそっくりのゾンビのような存在に襲われる。何度もフラッシュバックする、妻の幼い頃の恐怖体験。エレミア書11章11節に秘密の鍵があるらしい。危ない!ドキッとした瞬間、家族の助けが入る。支え合って襲撃者から身を守る華族に絆を感じる。しかしいちばん怖いのは襲撃の本当の意味が判明するラスト。妻は一生心の闇を抱えていくのか。(堀)
製作年:2019年/製作国:アメリカ/上映時間:116分/英語/R15+
ユニバーサル映画 配給:東宝東和
©2018 UNIVERSAL STUDIOS
公式サイト https://usmovie.jp
9/6(金)TOHOシネマズ 日比谷他、全国ロードショー
ブルーノート・レコード ジャズを超えて(原題:BLUE NOTE RECORDS: BEYOND THE NOTES)
監督:ソフィー・フーバー
出演:ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ルー・ドナルドソン、ノラ・ジョーンズ、ロバート・グラスパー、アンブローズ・アキンムシーレ、ケンドリック・スコット、ドン・ウォズ、アリ・シャヒード・ムハマド(ア・トライブ・コールド・クエスト)、テラス・マーティン、ケンドリック・ラマー(声の出演) ほか
第二次世界大戦前夜、ナチス統治下のドイツからアメリカに移住した二人の青年、アルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフ。大のジャズ・ファンであった彼らは、1939 年にニューヨークで小さなレコード会社「ブルーノート・レコード」を立ち上げた。
レコーディングにあたって、アーティストに完全な自由を渡し、かつ新曲を書くよう励ます。理想を求め、妥協することのないライオンとウルフの信念は、ジャズのみならず、アート全般やヒップホップ等の音楽に消えることのない足跡を残してきた。
左:ロバート・グラスパー、右:ハービー・ハンコック
左:ウェイン・ショーター、中央:ソフィー・フーバー、右:ドン・ウォズ
深夜のラジオで聞いていたのか、耳に残っている曲がいくつもありました。創始者がドイツから逃れてきたユダヤ系移民の青年アルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフ(ライオンとウルフ?とびっくりしたけれど、ウルフの綴りがWolff、オオカミはwolf)。その二人と、アフリカン・アメリカンのアーティストたちの交流のようすを見ることができるのは、とても貴重。人種差別もひどかった時代、BLUE NOTE RECORDSは心の拠り所であったでしょう。お金儲けのためでなく、本当に好きなものを共有している幸せそうな笑顔に、こちらもじんわり温かくなります。
この80年の間にブルーノート・レコードから世に送り出されたレコードは1000枚にもなるそうで、しかも最初の姿勢が今も変わっていないというのにさらに感動してしました。カメラマンでもあったウルフが撮影した写真は、ほとんどのレコードジャケットに使われています。ポジフィルムがたくさん登場します。写真の好きな方も観る価値あり。(白)
2018年/スイス・アメリカ、イギリス合作/85分
配給:EASTWORLD ENTERTAINMENT
協力:スターキャット
https://www.universal-music.co.jp/cinema/bluenote/
★2019年9月6日(金)よりBunkamura ル・シネマほか全国順次公開
ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん(原題:Tout en haut du monde)
監督:レミ・シャイエ
脚本:クレール・パオレッティ、パトリシア・バレイクス
作画監督:リアン - チョー・ハン
音楽:ジョナサン・モラリ
声の出演
日本語吹替版:上原あかり(サーシャ)、弦徳(祖父オルキン)、吉田小奈美(サーシャの母 )、中西伶郎(サーシャの父 )、前内孝文(トムスキー王子)、徳森圭輔(ルンド船長)、成澤卓(一等航海士ラルソン)、石原夏織(ナージャ)
19世紀のロシア サンクトペテルブルグ。貴族の娘サーシャは14歳、1年前北極探検に旅立ったきり行方不明になった祖父が心配でならない。政府高官の父は、祖父と家族の名誉が失われることを恐れ、社交界にデビューするサーシャをなんとか皇帝の甥トムスキー王子に近づけようと目論んでいる。サーシャは祖父の部屋で北極への航路を書いたメモを見つけ、これまでの捜索船の航路が間違っていたことを知った。
舞踏会で王子に捜索船を出してほしいと懇願するが聞き入れられず、不興を買ってしまう。父からは厳しく叱責され、サーシャは1人ででも祖父を探し出そうと決意する。誰にも告げずたった一人港へと旅立つのだったが。
孫娘が大好きな祖父に再会したいと北極を目指す物語ですが、娘は14歳で行き先は北極です!祖父の薫陶で海図を見ることはできても、航海どころか働いた経験さえありません。どれほどの苦境や困難が待ち受けていることやら。港にやっと到着したかと思えばアクシデント続き、食堂に住み込みで働くことになります。ここでひとまずホッとしましたが、先は長いのです。
シンプルでありながら美しい画面に繰り広げられるサーシャの冒険にすっかり見とれていました。デジタル技術が格段に進んで、最近のアニメは実写と見まがうような作品があったり、その細かさを競うような感じがしたり。この作品はものすごくシンプル、アウトラインはなく、色紙を切り貼りしたような画風です。それでも心の動きのわかる表情が浮かんでいて、説明不足ではありません。少し抑えた色調も美しく、どこを切り取っても飾っておきたくなるようなシーンばかりです。控え目な音楽も素敵。
アヌシー国際映画祭・観客賞、TAAF2016グランプリ受賞作品。(白)
2015年/フランス、デンマーク/カラー/シネスコ/81分
配給:リスキット、太秦
(c)2015 SACREBLEU PRODUCTIONS / MAYBE MOVIES / 2 MINUTES / FRANCE 3 CINEMA / NORLUM
https://longwaynorth.net/
★2019年9月6日(金)より東京都写真美術館ホールほか全国順次公開
☆彡映画を試食‼️ 冒頭18分無料公開☆彡
期間:2019年8月27日(火)21:00~9月5日(木)24:00
※今回はフランス語・日本語字幕版の冒頭18分間を無料配信致します。
https://riskit.jp/tasting/
デパ地下の“試食”と同じように、映画も“試食”していただいて、その“美味しさ”を実感して、納得の上でフルコース(作品全編)”を劇場で堪能いただく企画です‼️
『左様なら』
監督・脚本 石橋夕帆
原作:ごめん
出演:芋生悠(岸本由紀)、祷キララ(瀬戸綾)、平井亜門(飯野慶太)、日高七海(安西結花)、白戸達也(相馬大地)、大原海輝(高橋修平)、こだまたいち
由紀は海辺の町で暮らす平凡な高校生。少し大人びた感じの綾は中学からの由紀の仲良し。「急に引っ越すことになった」と告げられた翌日、綾が交通事故で亡くなってしまった。葬儀が終わってから綾は自殺だったという噂でもちきりになる。由紀は結花が陰口をたたいているのを耳にし、思わず持っていた花瓶の水をぶっかけてしまう。以来、由紀は結花のグループにハブられ、他の女子にも敬遠されるようになった。
誰にも故郷を思い出させるような、小さな町の高校生の日常を描いた作品。30人近いクラスメートの一人ずつが、くっきりと描き分けられ、リアルなセリフを発していました。きっと「こういう人いる」「これは私」と重ねられるでしょう。表面穏やかに見えても、内側には妬みや争いや悪意が沈んでいて、何かあると浮かんで弾けます。そんな側面も描きながら、かけがえない日々を惜しむ思いが届きます。監督の演出とそれに応える俳優さんの力に引き付けられます。
人生終盤にきて、どんな日も過ぎてしまえばみな懐かしく思えるのですが、とりわけ高校生時代が楽しかった記憶があります。パソコンもスマホもなかったアナログ世代でも、それなりに充実した毎日を過ごしていました。本作ほど学内ヒエラルキーも明確ではなく、いじめも思い当たりません。人に当たりたくなるほど、不幸せじゃなかったってことかな。昔も今も確実なのは、毎日が過ぎていくこと。いのちは一つきりで儚いこと。(白)
2018年/日本/カラー/86分
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
(c)2018映画「左様なら」製作委員会
https://www.sayounara-film.com/
★2019年9月6日(金)UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開
◎映画『左様なら』公式ファンブック上映館にて販売予定
出演者スチルをたっぷり掲載。コメントや対談、インタビュー、設定資料のほか原作者・ごめんによる書き下ろし漫画も掲載。作品の世界観を楽しめる豪華112ページ!
石橋夕帆監督インタビューはこちら
荒野の誓い 原題:HOSTILES
監督・脚本・製作 スコット・クーパー
製作 ジョン・レッシャー、ケン・カオ
撮影監督 マサノブ・タカヤナギ
出演 クリスチャン・ベイル、ロザムンド・パイク、ウェス・ステューディ、ジェシー・プレモンス、ピーター・ミュラン、ティモシー・シャラメ
1892年、インディアン戦争の英雄で現在は刑務所の看守を務める騎兵大尉のジョー(クリスチャン・ベイル)は、かつての敵で余命わずかなシャイアン族の長イエロー・ホーク(ウェス・ステューディ)とその家族を居留地まで送る任務に就く。道中コマンチ族に家族を惨殺されたロザリー(ロザムンド・パイク)も加わり共に目的地を目指すが、襲撃が相次ぎイエロー・ホークと手を組まなければならなくなる。
母性で綴られる稀少な西部劇である。冒頭からロザムンド・パイク扮するヒロインが、娘たちを必死で守ろうとする懸命な母性愛、とっさに取った行動力、西部に生きる女特有の知恵に感情を強く揺さぶられた。物心ついた時から観てきた荒くれ男中心の西部劇とは性質を全く異にしている映画なのだ。
"荒野"の題名が示す通り、熱く乾いた大地、大気には砂埃が舞い、生物の生存を拒む過酷な道程の舞台設定に、母性の描出が柔らかさと艶やかな質感を齎している。米国ニューメキシコ州、アリゾナ州等で撮影されたという荒野の景色は、日本人撮影監督マサノブ・タカヤナギによるものだ。シネマスコープの雄大さを活かした映像は、映画ならではのスケール感に満ち、1892年の西部開拓地へと観客を引き込んで行く力を持つ。
産業革命後、西部が戦争から発展へと変遷して行く過程には、異人種間交流にも価値観の変化が齎されたのだろう。その点を視野に入れたことにより、本作は近代性、普遍性を得た。
クリスチャン・ベイルと再タッグを組んだスコット・クーパー監督は、ベイルに匹敵する存在感でネイティブ・アメリカン役のウェス・ステューディを対峙させた演出からも、人種感への目配りが分かる。
個人的には、ティモシー・シャラメとピーター・ミュランの出演場面をもっと観たかった。(幸)
2017年製作/135分/G/アメリカシネマスコープ/ドルビーデジタル
配給/クロックワークス/STAR CHANNEL MOVIES/提供/東北新社
(C) 2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved.
公式サイト http://kouyanochikai.com/
2019年9月6日より、新宿バルト9他、全国公開
やっぱり契約破棄していいですか!?(原題:Dead in a Week: Or Your Money Back)
監督・脚本:トム・エドマンズ
撮影:ルーク・ブライアント
出演:トム・ウィルキンソン (レスリー・オニール)、アナイリン・バーナード(ウィリアム・モリソン)、フレイア・メイヴァー(エリー・アダムズ)、マリオン・ベイリー(ペニー・オニール)、クリストファー・エクルストン(ハーヴェイ)
小説家志望の青年ウィリアムは、原稿は突き返されるばかり、少しも芽が出ない。おまけに自殺を試みるたびに失敗している。今日は橋の上から飛び降りようとしているとき、通りかかった年配の男が止めるでもなく名刺をよこす。ちょうど通過した観光船の屋根に落下したウィリアムは、またもや生き延びてしまった。翌日、名刺の番号に電話し、昨夜の男と待ち合わせすることになる。レスリー・オニールは英国暗殺者組合の会員。かつては名うてのヒットマンだったが、今やノルマを達成できずクビ寸前。自殺名所を見回っては死にたがっている人間を探していたのだった。
契約が成立して双方がホッとした後、編集者のエリー・アダムズからウィリアムの本を出版したいと電話がある。打ち合わせをするうちに二人は急速にひかれあい、ウィリアムはレスリーに契約破棄を申し出るが拒否される。契約では1週間以内に殺せなければ全額返金される。かくして、死にたくなくなったウィリアムとクビになりたくないレスリーとの命がけの追いかけっこが始まった。
レスリー役のトム・ウィルキンソンは、これまで数えきれないほどの出演作があるベテラン俳優。あちこちで観たことがあります。この方に「英国暗殺者組合」の名刺を渡されたらありそうな気がしてしまいます。アナイリン・バーナードは『ダンケルク』で主要な兵士の一人でしたが、みんな軍服姿だったので、すぐに思い出せず。本作では死にたいときに死ねず、生きる目的が見つかったときには、自分が依頼したヒットマンに狙われるという皮肉な役柄です。
いかにも気弱そうなウィリアムを支えるのが、出版社のエリー。このフレイア・メイヴァーは『泣き虫ギタリスト』でもしっかり者の恋人でした。レスリーを応援する奥さんペリーにも注目して。生き死にがかかっているというのに、笑いどころもたくさんあるイギリスらしいブラックコメディ。(白)
殺し屋に組合があり、ノルマを達成できないと引退を勧告される。老いを迎えた殺し屋は仕事を続けたいばかりに、死にきれない自殺志願者に「自殺を外注しないか」と営業をかけた。
とんでもない設定に驚くが、本作は死を延期したくなった自殺志願者とノルマを達成したい殺し屋をコミカルに描くことで、 “生きるとはどういうことか”を伝えている。
殺し屋はいたって真面目だ。殺しの方法をイラストで丁寧に説明し、依頼者の懐具合も考慮する。不幸な偶然で仕事に失敗すると、帰るや否や指先の感覚を鍛えるゲームを取り出し、自分の技量を確かめる。高いプロ意識を感じさせた。
一方、妻に対しては話をしっかり聞いてあげて、いい夫ぶりを発揮する。仕事帰りに買って来るよう頼まれたソースは買い忘れていたけれど、そんなことはどこの家庭でもあること。妻に指摘されて逆切れする夫もいる中、改めて買いに行こうとすることで十分及第点がもらえるだろう。
妻も夫の仕事を理解し、支え続けてきた。夫の仕事結果が掲載された新聞記事をスクラップにしてプレゼントしたこともあるようだ。そばで見てきたからこそ、夫の変化をよくわかっており、引退してほしいと思っているが夫の気持ちを尊重する。
殺し屋にとって仕事は生きがいなのだろう。しかし、老いは誰にでも訪れる。いつまでも仕事にだけ生きがいを感じて生きていくわけにはいかない。その時々で生きがいも変化していく。妻が提案する旅行に出掛けるなど、新しい生活を真剣に考えることも大切だ。
それは自殺志願者も同じ。生きる意味を見出している人が世の中にどれだけいるというのだろう。みんな、わからないまま生きている気がする。
以前、バラエティー番組で林修先生がこんな話をしていた。「やりたいこととできることの座標軸でどちらも+の部分の仕事をみんなができるわけではない。やりたいけれどできないことをやるのではなく、やりたいことではないけれどできることをするべき」と。林先生自身がやりたくないけれどできることを仕事にしたのだという。
自殺志願者と殺し屋の出会いは2人に人生に向き合うきっかけを与え、ダークコメディな作品を人生賛歌に昇華させた。(堀)
2018年/イギリス/カラー/ビスタ/90分
配給:ショウゲート
(C)2018 GUILD OF ASSASSINS LTD
http://yappari-movie.jp/
★2019年8月30日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
2019年08月25日
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(原題:Once Upon a Time in Hollywood)
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
撮影:ロバート・リチャードソン
出演:レオナルド・ディカプリオ(リック・ダルトン)、ブラッド・ピット(クリフ・ブース)、マーゴット・ロビー(シャロン・テート)、アル・パチーノ、エミール・ハーシュ
リックは今や落ち目になったテレビ俳優。若手が台頭してきて主役と人気をさらい、たまに来るオファーは悪役ばかりだった。あせる彼をなだめるのは、若いころからずっとリックのスタントマンをつとめてきたクリフ。いつも自然体で生きるクリフは公私に渡ってリックを支える相棒であり、親友だった。しかし、このままではクリフに給料も払えず豪邸を手放すはめになりかねない。そんなとき、プロデューサーはイタリア製西部劇”マカロニウエスタン”に出演することを勧める。
意外にもこれまで共演作のなかった2大スター、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが競演。二人が並んだシーンに胸が熱くなるファンも多いことでしょう。主演の二人にモデルがあるのかどうかは定かではありませんが、60年代大好きなクエンティン・タランティーノ監督のハリウッド映画愛がたっぷりと詰まっている作品です。
1969年にハリウッドを震撼させた”シャロン・テート事件”から今年でちょうど50年。映画ではロマン・ポランスキー監督とシャロン・テート夫妻がリックの邸宅の隣に引っ越してきたという設定です。シャロン・テートには、マーゴット・ロビーが扮し、当時の衣装やメイクも再現してゴージャスでチャーミングなシャロンを息づかせてくれました。
当時の映画界にいたあの人この人があちらこちらに出てきます。これは古くからの映画ファンには嬉しいプレゼントですね。監督が一番楽しんだような気もしますが。いろんな意味で見どころの多い作品。観終わって「ああ、楽しかった」となること必至。(白)
2019年/アメリカ/カラー/シネスコ/161分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
http://www.onceinhollywood.jp/
★2019年8月30日(金)ロードショー
2019年08月23日
引っ越し大名!
監督:犬童一心
原作・脚本:土橋章宏「引っ越し大名三千里」(ハルキ文庫刊)
主題歌:ユニコーン「でんでん」作詞:川西幸一/奥田民生 作曲:奥田民生(Ki/oon Music)
出演:星野源、高橋一生、高畑充希、小澤征悦、濱田岳、西村まさ彦、松重豊、 及川光博
姫路藩の書庫番、片桐春之介(星野源)は、人と話すのが苦手でいつも書庫にこもりっきり、周囲から「かたつむり」とあだ名で呼ばれている引きこもり侍。あるとき、藩主の松平直矩(なおのり)(及川光博)は、幕府から国替え(引っ越し)を言い渡される。行先は遠く離れた豊後(大分県)の日田。すべての藩士とその家族全員で1万人の引っ越しという、参勤交代をはるかに上回る費用と労力が必要な一大事業。これを成し遂げるには、引っ越し奉行の手腕にかかっている。お国最大のピンチに、いつも本ばかり読んでいるのだから引っ越しの知識があるだろうと、春之介に白羽の矢が立つことに。国替えの減封による人減らし。無理難題とも言える大役に怖気づく春之介だったが、幼馴染で武芸の達人・鷹村源右衛門(高橋一生)の説得もあり、嫌々引き受ける羽目になる。しかし、引っ越しの経験がない春之介は、どこから手をつけて良いか見当がつかない。そこで、前任の引っ越し奉行の娘である於蘭(高畑充希)に助けを借りることに。こうして源右衛門たち仲間の協力や於蘭の厳しい引っ越し指南に助けられて引っ越しの準備が始まった!果たして春之介はこの一世一代のプロジェクトを知恵と工夫で無事に成し遂げ、国を救うことができるのだろうか?!
引きこもりの武士が国替えを取り仕切る。商人からお金を借り、リストラを断行。誠実さが人に無理を納得させる。主演の星野源の雰囲気にぴったり。
話が進むにつれ、自信がついて堂々としていく様を自然に演じた。ラストは別人のよう。
幼馴染で武芸の達人・鷹村源右衛門を高橋一生。豪放磊落な感じが意外にあう。時代劇らしい見せ場で大槍を振り回してコミカルに活躍する。
ミッチー殿がかわいい色気を振りまく。国替えの原因も実はそこにある?
優秀なサポート役に濱田岳。連続ドラマ「インハンド」を思い出す。引っ越しは歌で人の心を1つにすることが大事だとか。野村萬斎監修の踊りをしながら体を鍛えるのだが、日の出とともに起き出しての竿に笑う(堀)
国替えの命令はお上の胸一つ。理不尽でも従わねばならず、その苦労(主に金銭面)たるや…上の圧力は下へとおりていき、世過ぎ身過ぎの下手なものがしょいこむことになる。春之介にみな押し付ける上役たちときたら、後ろから蹴飛ばしたくなるほど。「すまじきものは宮仕え」の見本のようだが、春之介がこの難所を様々な人の手助けを得て乗り切るくだりが見どころ。引っ越し荷物を減らすシーンに、モノ増えるがままの我家が頭に浮かぶ。信義を重んじた人々の再会場面に泣けました。(白)
2019年/日本/カラー/120分
配給:松竹
ⓒ2019「引っ越し大名!」製作委員会
公式サイト:http://hikkoshi-movie.jp/
★2019年8月30日(金)全国公開
2019年08月22日
ザ・ネゴシエーション(原題:협상、The Negotiation)
監督:イ・ジョンソク
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、キム・サンホ、チャン・ヨンナム、チャン・グァン、チョ・ヨンジン
ソウル市警危機交渉班の警部補ハ・チェユン(ソン・イェジン)は、事件現場で犯人との交渉中に人質と犯人の両方を死なせてしまう。それから10日後、事件に大きな責任を感じて辞表を提出しようとしたハ・チェユンのもとに再び応援要請が入る。
ミン・テグ(ヒョンビン)と名乗る人物が、タイ・バンコクで危機交渉班のチーム長と韓国人記者を拉致し、ハ・チェユンを名指しで交渉相手に指名する。彼は外事課が以前から追っていた、国際犯罪組織の武器売買業者のリーダーだった。
拉致の動機、要求も不明。目的が見えないミン・テグに対し、交渉の糸口を掴めないハ・チェユンに焦りが募り始める―特殊部隊の救出まで残り14時間。警察を嘲笑い、残忍な人質ショーを繰り広げるミン・テグと、数日前に起きた事件のトラウマに苛まれながらも、今度こそ人質の命を救おうと後に引けない交渉人ハ・チェユン。果たして交渉の行方は―。
本作はハ・チェユンが人質犯ミン・テグと粘り強く交渉を続けるシーンが緊迫感とともに展開する。イ・ジョンソク監督は事件の状況を忠実に再現するため、「リアルな二次元撮影を撮影方法として取り入れた」といい、ヒョンビンとソン・イェジンは実際にモニター越しに演技をして、互いの反応にも真実味が出るように演出した。
しかし人質犯と対峙するのはチェユンだけではない。彼女の仲間が集める情報が交渉の武器。若い仲間はIT機器を、中年の先輩は足を使って彼女をサポートする。チームワークの良さが見ていて気持ちいい。
ところが上層部は何も情報を与えてくれない。チェユンは交渉を無事に進めるため、隠された状況を探り出す。やがて冒頭に起きた立て篭もり事件が無関係ではなかったと判明。事件の本当の姿が明らかになる。
テグを演じたのは、映画『王の涙 イ・サンの決断』で苦悩する王、『コンフィデンシャル/共助』では信念を貫く寡黙な北朝鮮の刑事、そして『スウィンダラーズ』でインテリな詐欺師を完璧に演じてきた人気俳優ヒョンビン。初の悪役に挑戦した。対する交渉人にはソン・イェジン。『Be with you~いま、会いにゆきます』では限られた時間を精一杯、家族と過ごした女性を演じたことが記憶に新しい。そして、チェユンを明るく鼓舞する中年の先輩を演じたのが個性派俳優のキム・サンホ。そのコミカルでユーモアのある演技は緊迫感あふれる作品にうまく緩急をもたらした。(堀)
2018年/韓国/カラー/シネスコ/5.1ch/113分
配給:ツイン
(C) 2018 CJ ENM CORPORATION, JK FILM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://thenegotiation.jp/
★2019年8月30日(金)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
おしえて!ドクター・ルース(原題:ASK DR.RUTH)
監督:ライアン・ホワイト
出演:ルース・K・ウエストハイマー
家族をホロコーストで失った少女時代、終戦後はパレスチナでスナイパーとして活動し、女性が学ぶことが難しかった時代に大学で心理学を専攻。アメリカに渡り、シングルマザーとなり娘を育てた。そして、30歳の時に、3度目の結婚で最愛の夫フレッドと出会う。自分らしく生きるために学び、恋し、戦い、働く。いつだって笑顔で前を向く“ドクター・ルース”はいかに誕生したのか。
ルースは歯に衣着せぬコメントが人気のセックスセラビスト。男性でも言えない単語もさらりと使い、聞きたいけれど聞けないことを教えてくれる。
これまでルースはドキュメンタリーの企画を断り続けてきたが、90歳になるにあたり、家族に人生を語り継ぎ、アメリカの社会に正しい性教育をもたらした自身の役割を記録する必要があると考え、出演オファーを受けたとのこと。
ライアン・ホワイト監督は彼女のユダヤ系ドイツ人という生い立ちから今に至るまでを本人や知人のインタビュー、過去映像で明らかにする。作品からは本来業務の具体的なアドバイスを超えた、人生を前向きに生きる姿勢が伝わってきた。(堀)
『おしえて!ドクター・ルース』は、ユダヤ系ドイツ人の少女がどのようにナチスの時代を生き延び、その後の人生を送ったのかの一つの例として、とても興味深い作品。
1938年、娘の将来を案じた父が、正統派ユダヤ教徒の疎開プロジェクトにルースを参加させる。スイスの養護施設で、ユダヤ人の子どもたちはスイス人の子どもたちの世話係りをしながら学ぶ。ユダヤ人が二級市民扱いなのがわかる。
施設長の「あなたたちは親から見捨てられた」という言葉が、子ども心にぐさっと刺さったという。両親は子どもたちのことを思って疎開させたのに、心無い言葉だ。
女子は高校に進学させてもらえず、ボーイフレンドから授業の内容を教えてもらう。
17歳の時、ドイツが敗戦。両親と祖母は亡くなったと告げられる。マルセイユ経由パレスチナに送られ、キブツで暮らすようになる。本名カローラ・ルース・シーゲルだが、ドイツ名のカローラは嫌われることから、ミドルネームのルースを使うようになる。
20歳を過ぎた頃、イスラエル軍人ダヴィッドと最初の結婚。医学の勉強のため留学する夫に付いてパリへ。ソルボンヌ大学で、高校に行けなかった人のための1年間の準備講義を受ける。イスラエルに帰るというダヴィッドと離婚。その後、パリでダンと再婚。ホロコーストで教育を断念した者に1500ドルの賠償金が出ると知り、ダンを説得してアメリカに移住。その後、ダンとは別れるが、3人目の夫フレッドとスキー場で運命的な出会いを果たす。お互いユダヤ人。
10歳で両親と離れ、スキンシップが得られなくなったことも、セックスセラピストになった一因とルースは語る。
アメリカに渡り、英語を学ぶのにロマンス小説を読みまくったというのもルースらしい。先が知りたくて最後まで読めるというのが利点だが、恋のノウハウも学んだのでは? ルースの言葉、そして生き様から元気を貰った。(咲)
2019年/アメリカ/英語/アメリカン・ビスタ/カラー/100分
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/drruth/
★2019年8月30日(金)、新宿ピカデリーほか全国公開
アイムクレイジー
監督・脚本:工藤将亮
撮影:福本 淳
照明:佐藤宗史
美術:中村三五
音楽:加藤綾太
主題歌:「LONELINESS BOY」(歌&作詞:古舘佑太郎 作曲:加藤綾太)
出演:古舘佑太郎、 桜井ユキ、曽我部恵一、中田絢千、田本清嵐、岩谷健司
くだらない曲ばかりが売れる世の中に嫌気がさしたミュージシャンの佑樹(古舘佑太郎)は音楽の道を諦めようとラストライブの日を迎えていた。バイトに向かう途中、交通事故に遭った佑樹は作曲家の美智子(桜井ユキ)と広汎性発達障害を持った息子・健吾と出会う。バイト先の店長(曽我部恵一)から強引に健吾の子守をさせられたことをきっかけに佑樹は親子と深く関わっていく。かつての仲間の活躍、元カノの妊娠、理想と現実の狭間で時に激しく周囲に苛立っていた佑樹だったが、自分の思い通りにはいかない日々の中、明るく振る舞う美智子の姿を見て佑樹の中で何かが動き出す。
やりたいことと求められることが違って葛藤するのは佑樹だけではない。美智子もまた仕事と家庭を両立させたいと思っていたのに、家庭重視を夫から求められてシングルマザーの道を選んだ。しかし、その選択は容易なことではなかった。それでも心の自由を得たからだろうか、必死に仕事と育児をこなす美智子はかっこいい。息子を勝手に連れて帰ってしまった元夫の自分勝手さが際立つ。人生、その時々でやりたいことをやる。苦労は避けられないが、その幸せは何ものにも代え難い。
主演の古館佑太郎は高校の同級生とThe SALOVERSというバンドを結成し、大学時代にプロデビューし、今は無期限活動休止中。何だかこの作品の役どころに通じるものを感じる。俳優業に転じ、『いちごの唄』にも主演しているが、まったく別テイストの役どころをきっちり演じていた。知人から「あの古館さんの息子」と言われて、芝居がうまかったので、てっきり古館寛治のことかと思ってしまったら、古舘伊知郎だった。2017年には連続テレビ小説『ひよっこ』に出演し、お茶の間でブレイクしていたのも頷ける。(堀)
【初日舞台挨拶登壇ゲスト(予定)】
8月24日(土)13:00の回上映後/ 15:20の回上映前
工藤将亮監督、古舘佑太郎、桜井ユキ
8月25日(日)13:00の回上映後
工藤将亮監督、行定勲監督
*2日目以降のゲスト情報は随時劇場サイトにて告知
2019年/日本/カラー/アメリカン・ビスタ/5.1ch/86分
配給:シンカ
©2019ザフール&スタッフ
公式サイト:http://www.synca.jp/iamcrazy/
★2019年8月24日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
ガーンジー島の読書会の秘密(原題:The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society)
監督:マイク・ニューウェル
原作:メアリー・アン・シェイファー、アニー・バロウズ
脚本:ドン・ルース、ケヴィン・フッド、トーマス・ベズーチャ
出演:リリー・ジェームズ、ミキール・ハースマン、グレン・パウエル、ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、キャサリン・パーキンソン、マシュー・グード、トム・コートネイ、ペネロープ・ウィルトン
1946年、終戦の歓びに沸くロンドンで暮らす作家のジュリエット(リリー・ジェームズ)は、一冊の本をきっかけに、”ガーンジー島の読書会”のメンバーと手紙を交わすようになる。ナチに脅えていた大戦中は、読書会と創設者であるエリザベスという女性の存在が彼らを支えていた。本が人と人の心をつないだことに魅了されたジュリエットは、読書会について記事を書こうと島を訪ねるが、そこにエリザベスの姿はなかった。メンバーと交流するうちに、ジュリエットは彼らが重大な秘密を隠していることに気付く。やがて彼女は、エリザベスが不在の理由にたどり着く。
戦争は様々なものを人から奪ってしまう。主人公にはやりがいのある仕事、支えてくれる編集者、愛してくれる裕福な男性がいるのだが、戦争で両親と家を失ったのか、居場所が見つけられない。
お金も仕事も大事だが、精神的な安心や満足があってこそ。悲しい事実、面倒な現実に向き合い、乗り越えた先に幸せはあると作品は伝えてくれる。
ところで、ジュリエットに手紙を送るドーシー役を演じているミキール・ハースマンがカッコイイ。少々埃っぽいが、左斜め45度の笑顔に心が射抜かれた。米映画サイト・TC Candler が毎年選出する「世界で最もハンサムな顔100人」の2016年版で第1位だったのも納得!(堀)
浅薄にも、第2次世界大戦中にガーンジー島が英国でドイツの占領下にあった事実を知らなかったことを恥じた。ナチスは島の主産業である酪農を禁止し、家畜や農産物も没収してしまう。通信機器やラジオ、ガスの供給さえも止められるという厳しい管理下。もちろん集会の自由すらない。が、唯一、奨励されていたのが文化活動。「読書会」と「家畜(謎)」が、島民たちの機転により育まれ、本作に結実した点が愛おしい。
こうした背景が、戦中戦後のガーンジー島とロンドンに齎した傷痕を映画は鮮明に映しだす。ガーンジー島は深刻な飢餓状態にあったにもかかわらず、そこは英国庶民の逞しさ。苦しい日常でもユーモアを忘れない。名優トム・コートネイ、人気ドラマ「ダウントン・アビー」組のリリー・ジェームズ、ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、マシュー・グード、ペネロープ・ウィルトンら、一人一人の人物造形が鮮やかだ。
一途な島の男に、新鮮なオランダ俳優を配したことも奏功している。有りがちなロマンス逸話に留まらない人間賛歌に昇華させたのは、今も熱狂的ファンを持つ『フォー・ウェディング』などのマイク・ニューウェル監督。
観る人誰もが楽しく幸せになる映画。一冊の本が紡ぐ庶民の物語は戦争にも打ち勝つのだ、という勇気と希望を与えてくれる秀作だ。(幸)
2018年/フランス・イギリス/英語/カラー/ビスタ/5.1ch/124分
配給:キノフィルムズ
© 2018 STUDIOCANAL SAS
公式サイト:http://dokushokai-movie.com/
★2019年8月30日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
2019年08月21日
トールキン 旅のはじまり 原題:TOLKIEN
監督:ドメ・カルコスキ『トム・オブ・フィンランド』
キャスト:ニコラス・ホルト、リリー・コリンズ、デレク・ジャコビ、トム・グリン=カーニー
3歳の時に父を亡くしたトールキンは、イギリスの田園で母と弟と暮らしていたが、母の急死で12歳にして無一文の孤児になってしまう。その身を案じた母の友人のモーガン神父が後見人となり、名門キング・エドワード校に入学したトールキンは、そこで初めて心を許せる3人の野心溢れる少年たちと出会い、「芸術で世界を変えよう」と誓い合う。やがて、16歳になったトールキンは、生涯を共にしたいと願う女性、エディスと出会うが、神父に交際を厳しく禁じられる。さらに、世界大戦の勃発が大切な仲間との絆さえも奪っていくのだった─。
英国エドワード朝時代を舞台にした映画やドラマは何故こうも魅力的なのだろう!第一次世界大戦開戦前の僅かな光明、モノトーンの冬に備えた紅葉の色鮮やかさ…。大人になる哀しみ、苦さを思い知る以前の活気に満ちた青春期のような時代だからか。
当時の面影を残すロケ地は少なく、主な撮影はリバプールやマンチェスターで行われたという。そしてオックスフォード大学はもちろん本場で!やはり建築物の質感、空気感が齎らす高揚感は本作を格別なものに仕立てている。
『ロード・オブ・ザ・リング』の原作「指輪物語」を著したトールキンの伝記映画、と一言で片付けるには惜しい輝きを放つ本作。特にスクリーンが活き活きと躍動するのは少年時代だ。トールキンが入学した名門パブリック・スクールで出会う3人の友だちとの固い絆。これが「指輪物語」第1巻である"旅の仲間"に直結する。
生涯の友情を育んだ”仲間”たち。恩師との交友、清らかな初恋物語、欠かせない宗教的価値観、貧しい生い立ちによる苦学の道。トールキンが向き合うもの全てが、「指輪物語」のキャラクターに繋がって行くのだ。
「ワーグナーの楽劇?指輪の話だけで6時間なんて退屈さ!」というパブリック・スクール時代の友だちとの会話が、「指輪物語」の源泉となった点が興味深い。思春期の瑞々しく萌えるような逸話の合間に戦争の悲惨さ、葛藤、死を前にした地獄絵を挟み込む構成も巧みである。
紡がれた物語の全てが愛おしく感じてしまう112分。『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』を観たことのない人、「指輪物語」を読んでいなくても楽しめる佳作である。(幸)
全米公開:5月10日(英公開5月3日)
配給:20世紀フォックス映画
(C)2019Twentieth Century Fox
2019年製作/112分/PG12/アメリカ
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/tolkienmovie/
8月30日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
2019年08月18日
お百姓さんになりたい
2019年8月24日(土)より東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開
劇場情報 https://kiroku-bito.com/ohyakusho-san/#theater
監督・撮影・編集:原村政樹
語り:小林綾子
音楽:鈴木光男
映像技術:荒山和之、浅野北斗
整音:丸山 晃、堀口 誠
ポスプロマネージャー:原田 修
収録スタジオ:(株)モイ
宣伝スチール:柿内未央
宣伝イラスト:ミキサキコ
宣伝美術:森泉宏
後援:埼玉県三芳町、農福連携自然栽培パーティー全国協議会、木更津社会館保育園
配給:きろくびと
2019年/日本/カラー/104分
公式HP https://kiroku-bito.com/ohyakusho-san/
「生きるために食べ物をつくる」いちばんシンプルな仕事
「農」を通し、心豊かに暮らすため、自然栽培を通して農業実践をし、生きるために食べ物をつくるいちばんシンプルな仕事「農業」を提示する明石農園の春夏秋冬。
『いのち耕す人々』『天に栄える村』など、農業をテーマにした作品を長年手がけてきた原村政樹監督が、前作『武蔵野 江戸の循環農業が息づく』に続き、埼玉県三芳町の明石農園の営みを丁寧に追った。
2.8ヘクタールの畑で60種類もの野菜を育てている明石農園。明石誠一さんは28歳の時に東京から移り住み新規就農した。有機農法からスタートして、10年前からは農薬や除草剤、肥料さえも使わない「自然栽培」に取り組んでいる。自然栽培とは、自然の持つ力を最大限に生かし、野菜同士が互いを育てる肥やしになり、雑草は3年を経て有機物に富んだ堆肥になる無肥料の農業を実践している。収穫後は種を自家採取して、固定種の栽培を続け命をつなぐ。
今では研修生を募り、様々な経歴を持つ人々が農業研修をしている。また、農業福祉連携にも取り組み、障害を持つ人たちもそれぞれのペースで働く。「都会の子に土に触れてほしい」と、農業体験イベントも開催し、子供たちも参加している。若者から年配の人、傷害を持つ人も、農作業で土に触れ、土が繋ぐ「いのちの営み」を感じ、競争社会から共生社会へと、
心豊かに暮らすためのヒントが描かれる。そして大事なことは野菜も人も不揃いが自然ということ。
原村監督は「農」に関する作品をたくさん生み出してきた。これまでは、山形だったり、福島だったりと、地方の農業を見据えた作品が多かったけど、前作 『武蔵野 江戸の循環農業が息づく』で、自身が暮らす地元の農業に目を向けるようになったという。「命を紡ぐ農業」の大事さに気がつく人々が増えていったらという思いで、作品を作り続けているのでしょう。この作品では、農業を目指す人たちが出てくる。いろいろ試行錯誤しながら、失敗をしながらも農業を続ける楽しさが伝わってくる。
原村監督にインタビューもしましたので、後ほど掲載します(暁)。
アフタートークイベント日程
8/24(土):初日舞台挨拶
原村政樹(本作監督)
小林綾子(女優/本作語り)
鈴木光男(本作音楽)
8/25(日)
明石誠一(明石農園代表/本作出演)
原村政樹(本作監督)
8/26(月)
纐纈美千世(日本消費者連盟事務局長)
8/27(火)
明石誠一(明石農園代表/本作出演)
温野まき(季刊書籍「自然栽培」元編集長/時雨出版代表)
8/28(水)
関野幸生(関野農園代表/nico会長)
8/29(木)
池田明子(フィトセラピスト[植物療法士])
8/30(金)
明石誠一(明石農園代表/本作出演)
中村明珍(僧侶/農家/銀杏BOYZ元ギタリスト)
8/31(土):ライブ音声ガイド付き上映
関根健一(Gee Design代表/本作出演
劇場情報 https://kiroku-bito.com/ohyakusho-san/#theater
監督・撮影・編集:原村政樹
語り:小林綾子
音楽:鈴木光男
映像技術:荒山和之、浅野北斗
整音:丸山 晃、堀口 誠
ポスプロマネージャー:原田 修
収録スタジオ:(株)モイ
宣伝スチール:柿内未央
宣伝イラスト:ミキサキコ
宣伝美術:森泉宏
後援:埼玉県三芳町、農福連携自然栽培パーティー全国協議会、木更津社会館保育園
配給:きろくびと
2019年/日本/カラー/104分
公式HP https://kiroku-bito.com/ohyakusho-san/
「生きるために食べ物をつくる」いちばんシンプルな仕事
「農」を通し、心豊かに暮らすため、自然栽培を通して農業実践をし、生きるために食べ物をつくるいちばんシンプルな仕事「農業」を提示する明石農園の春夏秋冬。
『いのち耕す人々』『天に栄える村』など、農業をテーマにした作品を長年手がけてきた原村政樹監督が、前作『武蔵野 江戸の循環農業が息づく』に続き、埼玉県三芳町の明石農園の営みを丁寧に追った。
2.8ヘクタールの畑で60種類もの野菜を育てている明石農園。明石誠一さんは28歳の時に東京から移り住み新規就農した。有機農法からスタートして、10年前からは農薬や除草剤、肥料さえも使わない「自然栽培」に取り組んでいる。自然栽培とは、自然の持つ力を最大限に生かし、野菜同士が互いを育てる肥やしになり、雑草は3年を経て有機物に富んだ堆肥になる無肥料の農業を実践している。収穫後は種を自家採取して、固定種の栽培を続け命をつなぐ。
今では研修生を募り、様々な経歴を持つ人々が農業研修をしている。また、農業福祉連携にも取り組み、障害を持つ人たちもそれぞれのペースで働く。「都会の子に土に触れてほしい」と、農業体験イベントも開催し、子供たちも参加している。若者から年配の人、傷害を持つ人も、農作業で土に触れ、土が繋ぐ「いのちの営み」を感じ、競争社会から共生社会へと、
心豊かに暮らすためのヒントが描かれる。そして大事なことは野菜も人も不揃いが自然ということ。
原村監督は「農」に関する作品をたくさん生み出してきた。これまでは、山形だったり、福島だったりと、地方の農業を見据えた作品が多かったけど、前作 『武蔵野 江戸の循環農業が息づく』で、自身が暮らす地元の農業に目を向けるようになったという。「命を紡ぐ農業」の大事さに気がつく人々が増えていったらという思いで、作品を作り続けているのでしょう。この作品では、農業を目指す人たちが出てくる。いろいろ試行錯誤しながら、失敗をしながらも農業を続ける楽しさが伝わってくる。
原村監督にインタビューもしましたので、後ほど掲載します(暁)。
アフタートークイベント日程
8/24(土):初日舞台挨拶
原村政樹(本作監督)
小林綾子(女優/本作語り)
鈴木光男(本作音楽)
8/25(日)
明石誠一(明石農園代表/本作出演)
原村政樹(本作監督)
8/26(月)
纐纈美千世(日本消費者連盟事務局長)
8/27(火)
明石誠一(明石農園代表/本作出演)
温野まき(季刊書籍「自然栽培」元編集長/時雨出版代表)
8/28(水)
関野幸生(関野農園代表/nico会長)
8/29(木)
池田明子(フィトセラピスト[植物療法士])
8/30(金)
明石誠一(明石農園代表/本作出演)
中村明珍(僧侶/農家/銀杏BOYZ元ギタリスト)
8/31(土):ライブ音声ガイド付き上映
関根健一(Gee Design代表/本作出演
ディリリとパリの時間旅行(原題:Dilili a Paris)
監督・脚本:ミッシェル・オスロ
音楽:ガブリエル・ヤーレ
声の出演:プリュネル・シャルル=アンブロン、エンゾ・ラツィト、ナタリー・デセイ
ベル・エポック、黄金時代のパリ。ニューカレドニアから一人でやって来たディリリは、好奇心旺盛な女の子。初めてのパリに目を丸くする。パリは自分の庭という配達人の青年オレルと友だちになり、さまざまな人々と出会っていく。そのころ少女たちばかりを狙った誘拐事件が続いており、犯人は今もつかまっていない。ディリリは少女たちを助けようと、オレルと一緒に事件解決へと乗り出すが。
『キリクと魔女』『アズールとアスマール』のミッシェル・オスロ監督の最新作アニメーション。第44回セザール賞で最優秀アニメ作品賞を受賞。美しいパリの街は監督が撮りためてきた写真をもとにしたもの。こまやかに描かれた広場や劇場や街を背景に、当時のファッションのパリジェンヌたちが闊歩しています。顔の広いオレルがディリリに引き合わせた有名人は、ピカソ、マチス、ロートレックにキュリー夫人にオペラ歌手…。今の時代も郵便屋さんと宅配やさんは誰とでも会える…かも。
なにごとにも臆せず、冒険心に富んだディリリに少しだけハラハラさせられますが、女の子だからと制限されたりしません。活躍を応援したくなるはずです。
日本語吹替版はディリリを新津ちせさん、オレルを斎藤工さん。エンドロールでは二人の歌声も聞けます。
ユニセフの動画もご覧ください。(白)
2018年/フランス、ベルギー、ドイツ/カラー/シネスコ/94分
配給:チャイルド・フィルム
(C)2018 NORD-OUEST FILMS - STUDIO O - ARTE FRANCE CINEMA - MARS FILMS - WILD BUNCH - MAC GUFF LIGNE - ARTEMIS PRODUCTIONS - SENATOR FILM PRODUKTION
https://child-film.com/dilili/
★2019年8月24日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開
聖なる泉の少女 原題:NAMME
監督・脚本:ザザ・ハルヴァシ
撮影:ギオルギ・シュヴェリゼ
出演:マリスカ・ディアサミゼ、アレコ・アバシゼ、エドナル・ボルクヴァゼ、ラマズ・ボルクヴァゼ、ロイン・スルマニゼ
山あいの村。聖なる泉のまわりに人々が集まっている。意識を失った青年を水で清める若い女性。先祖代々、泉を守ってきた一家。3人の息子は、それぞれジョージア正教の神父、イスラームの聖職者、無神論の科学者となり、老いた父は娘ツィナメ(愛称ナーメ)に一家の使命を託そうとしているのだ。器の中でずっと一匹で生き続けている魚。「もはや我が家の魚でなく村の皆のもの。我々が守らなければ」という父。
だが、ナーメは村を訪れた青年に恋をし、ほかの娘のように自由に生きたいと憧れる・・・
舞台はジョージアの南西部、トルコとの国境を接するアチャラ地方の山深い村。
映画のもとになったのは、この地に口承で伝わってきた物語。監督も祖母から聞かされたという。
「大昔、泉の水で人々の心や体の傷を癒していた娘がいました。いつしか彼女は他の人々のように暮らしたいと願い、自らの力を厭うようになりました。そして、ある日、力の源だった魚を解き放ち、彼女は他の人々と同じ生活に帰っていきました」
ナーメを演じた細面のマリスカ・ディアサミゼが、神秘的な風情で、まさに聖なる少女。最後に残った娘に跡を継がせようという父の悲痛な思いは理解できるが、3人の兄が好きな道を歩んでいるのに、娘にとっては納得がいかないだろう。
キリスト教のジョージア正教が大多数を占める国だが、この地域ではイスラーム教徒も多い。教会の鐘の音と、モスクからの祈りを呼びかける声が響き合う土地柄。
そんなのどかな地に、水力発電所が建設されることになり、不協和音のごとく機械的な音が響いてくる。伝統は途絶え、自然が破壊される、まさに世界の各地で起こっていることを象徴している。だが、そんな異質な場面も吹き飛ぶほど、静寂で味わい深い余韻。(咲)
東京国際映画祭 2017年 コンペティション部門で『泉の少女ナーメ』のタイトルで上映された。
2017年/ジョージア・リトアニア/ジョージア語/91分/カラー
配給:パンドラ
後援:在日ジョージア大使館
公式サイト:http://namme-film.com/
★2019年8月24日(土)岩波ホールにてロードショー、全国順次公開
ドッグマン 原題:Dogman
監督:マッテオ・ガローネ (『ゴモラ』)
出演:マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペッシェ、アダモ・ディオジーニ
海沿いのすさんだ町。犬好きのマルチェロは「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを営んでいる。離婚し、娘は妻が引き取ったが、時折一緒に海に潜って親子水入らずの時を過ごすのが楽しみだ。温厚なマルチェロは町の仲間たちとサッカーや食事をして打ち解けている。一方で、小心者で人のいいマルチェロは、皆が嫌う暴力的なシモーネの頼みを断ることができず、盗みの見張りをさせられたり、麻薬を買いに行かされたりしている。
ある日、シモーネから「ドッグマン」の壁に穴をあけて隣の店に盗みに入ることを提案される。隣の店主とも親しくしているマルチェロは「町の人たちが大事。やめろ」と進言するが、とうとう拒みきれず実行する。翌日、警察に連行されたマルチェロは、シモーネの指示だと証言すれば執行猶予にしてやるといわれるが、なぜか拒否してしまう。単独犯として刑務所で1年の服役を追え、町に戻ったマルチェロは仲間から裏切り者として冷たくあしらわれる。シモーネに分け前をよこせと詰め寄るが、逆に痛めつけられてしまう。娘も寄り付かなくなり、希望を失ったマルチェロは驚くべき行動に出る・・・
どんな獰猛な犬も、マルチェロの手にかかればおとなしくなる。そんな力を持った心優しい彼は、無理な頼みを断りきれずに利用されてしまう。娘と一緒に、いつか紅海で潜りたいという夢を叶えてあげたくなった。
人のいい小心者を体現したマルチェロ・フォンテ。複雑な思いがにじみ出たような笑顔が忘れられない。(咲)
2018年度カンヌ国際映画祭主演男優賞他、多数受賞
2018年/イタリア・フランス/イタリア語/カラー/シネマスコープ/5.1ch/103分/PG12
配給:キノフィルムズ
公式サイト:http://dogman-movie.jp/
★2019年8月23日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
2019年08月15日
ジョアン・ジルベルトを探して 英題:WHERE ARE YOU, JOAO GILBERTO?
監督:ジョルジュ・ガショ
原作:マーク・フィッシャー
出演:ミウシャ、ジョアン・ドナート、ホベルト・メネスカル、マルコス・ヴァーリ
「イパネマの娘」などの名曲で知られ、日本でライブを行ったこともあるミュージシャンのジョアン・ジルベルトは、2008年夏のボサノヴァ誕生50周年記念コンサートを最後に公の場から姿を消す。彼に会おうとリオデジャネイロに出向いた顛末を綴った本の出版直前に自殺したドイツ人ジャーナリストの旅に共鳴したジョルジュ・ガショ監督が、ジルベルトに会うためにブラジルに向かう。
ジョアン・ジルベルトの歌声は何と心地好いことか!幼い頃から聴き続けてきたにもかかわらず、本作でも流される代表曲の「イパネマの娘」「想いあふれて」といった楽曲は少しも陳腐化せず、新鮮な響きを届けてくれる。桃源郷にいる気持ちにさせる透き通った声質、涼やかな風が吹くようなメロディ…。今年、そんなジルベルトの生の歌声を2度と聴くことが出来なくなった事実に打ちのめされている時、本作が届けられた。
多少、毛色が変わったドキュメンタリーだ。隠遁暮しを続け、私生活は謎に包まれていたジルベルトに相応しいと言えるかもしれない。
ブラジルから遠く離れたドイツ人のジャーナリスト、マーク・フィッシャーは、なぜジルベルトに会うためブラジルへ出向き、その果実である出版本を見る前に命を断ったのか?
フランスとスイス国籍を持つガショ監督は、なぜフィッシャーの本に共鳴し、彼の夢を実現すべくブラジル中を訪ね歩いたのか?2人のクリエイターをそこまで突き動かした原動力は何か?
いちファンだからと出来る行動ではない。このドキュメンタリーは、”追った旅”を”追う旅”として記録された映像を観客が”追って行く旅”なのだ。二重三重構造の映画に相応しく、言語もドイツ語、フランス語、ポルトガル語、英語というように多言語である。だが、テーマはシンプルに、「ジョアン・ジルベルト」。
「デサフィナード」や「オバララ」の楽曲に乗せ、映し出されるイパネマビーチやヂアマンチーナの美しい風景。次々と登場する人々は、ジルベルトとの想い出を語ってくれる。かなりな奇人だったらしいジルベルトについての様々な逸話が楽しい。これは観てのお楽しみだ。
皆、ジルベルトを愛し、ジルベルトに愛された人ばかり。おそらく映画館にもジルベルトに魅せられた観客が詰めかけるに違いない。ジルベルト一色に染まった空間で111分を過ごすのは、ファンにとって至福の時ではないだろうか。(幸)
2018年製作/111分/G/スイス/ドイツ/フランス後援
配給 ミモザフィルムズ
カラー/ビスタサイズ/5.1ch / DCP
©Gachot Films/Idéale Audience/Neos Film 2018
公式サイト:http://joao-movie.com/
8 月 24 日(土)より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開
火口のふたり
監督:荒井晴彦
原作:白石一文
脚本:荒井晴彦
出演:柄本佑、瀧内公美
東日本大震災から7年目の夏、離婚し、再就職先も倒産してしまった永原賢治(柄本佑)は、かつて恋人だった佐藤直子(瀧内公美)の結婚式に出るため郷里の秋田に帰省する。久々に再会した賢治と直子は、ふとしたきっかけでかつてのようにお互いを求め合う。
漫画を原作とする砂糖菓子のような甘い恋愛映画が跋扈する中、珍しく性愛に身を窶す男女の物語。無修正映像ということもあり、より生々しく強い”身体性”を訴えかける映画だ。
象徴的な”火口”のモチーフ、ふたりの官能の日々が充満した一冊のアルバム、〝亡者踊り〟という幻想的な盆踊りの風景など、ビジュアル的要素は十分なのに、監督の荒井晴彦は脚本家出身のせいか、台詞で説明を加えようとする。狙った上での演出意図だろうか。
台詞や身体表現は達者なはずの柄本佑より、瀧内公美のほうが本作に限っては人物造形、心象描出ともに長けている気がする。覚悟を決めた女優は潔い。鋭い射抜くような眼差しに魅せられる。
下田逸郎の楽曲といい、全体的に昭和テイストな点も監督の狙いか。濡れ場シーンの多さに抵抗感を持つ女子は居そうだ。否が応でも身体に刻まれている記憶と、理性や規範意識の狭間で翻弄される抑制し難い欲求は、誰しも覚えのあるところかもしれない。(幸)
2019年製作/115分/R18+/日本
©2019「火口のふたり」製作委員会
配給:ファントム・フィルム
8/23(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開
2019年08月13日
米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯
監督:佐古忠彦
プロデューサー:藤井和史,刀根鉄太 撮影:福田安美 音声:町田英史
編集:後藤亮太 音楽:坂本龍一,他
語り:山根基世,役所広司 出演:瀬長亀次郎,他
沖縄を深く愛した男の不屈の人生を描ききる
アメリカ占領下の沖縄で米軍に挑んだ男、瀬長カメジローのドキュメンタリー『米軍が最も恐れた男 その名はカメジロー』の続編
http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/452837308.html
カメジローは230冊を超える日記を詳細に書き残していた・・・その日記を読み解き、あらためて人間カメジローを浮かび上がらせた。更に当時の佐藤首相とカメジローの、国会での迫力ある映像など貴重なアーカイヴ類も必見。カメジローを通して、戦後から現在に繋がる沖縄が見えてくる--
去年の3月、シネジャともご縁のある沖縄県那覇市の映画館、桜坂劇場を初訪しました。その時に観た映画が前作『米軍が最も恐れた男その名は、カメジロー』でした。沖縄に心から寄り添ったカメジローさんの闘う姿に涙とまらず・・・
http://cinemajournal.seesaa.net/article/458525465.html
その続編が制作されたと聞き、胸が熱くなりましたが、こちらの作品群の監督は大手テレビ局に勤務するテレビマン・・・そんなかたが、どうやって、この膨大なアーカイヴ資料を紐解き、映画を作ったりしたのか?! 疑問もあったところ、佐古監督に取材が叶いました
http://www.cinemajournal.net/special/2019/kamejiro2/index.html
音楽は前作と同じく坂本龍一さんが担当、その美しい旋律も心に響きます。 (千)
(c)TBSテレビ
2019年/日本/128分
配給:彩プロ
公式サイト: http://kamejiro2.ayapro.ne.jp/
★2019年8月17日(土)桜坂劇場にて沖縄先行公開、8月24日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
2019年08月11日
鉄道運転士の花束 原題:Dnevnik masinovodje
監督・脚本:ミロシュ・ラドヴィッチ
プロデューサー: ラザル・リストフスキー、ペータル・リストフスキー
出演:ラザル・リストフスキー(『アンダーグラウンド』)、ペータル・コラッチ、ミリャナ・カラノヴィッチ(『パパは、出張中!』『サラエボの花』)
もうすぐ定年退職を迎える鉄道運転士のイリヤ(ラザル・リストフスキー)。線路上で立ち往生しているロマの楽士たちのワゴン車を見つけるが、ブレーキをかけても間に合わず、吹き飛ばしてしまう。これまでに多くの人を轢き殺してしまったイリヤ。懇意にしている精神療養士のヤゴダ(ミリャナ・カラノヴィッチ)のもとを訪ね、話を聞いてもらう。
若い時に妻を亡くし、子供のいないイリヤが迎えた養子のシーマ(ペータル・コラッチ)は19歳になり、代々続いている鉄道運転士を継ぐという。そんなシーマに、事故は避けて通れないと折に触れて語るイリヤ。
いよいよ運転士となったシーマ。3週間経っても無事故。緊張感に耐えられなくなったシーマを見かねて、イリヤは飛び降り自殺しようとしている男に、列車に轢かれてほしいと交渉する・・・
ミロシュ・ラドヴィッチ監督は、祖父が蒸気機関車の運転士で、チャンピオンというニックネームなのが自慢だったが、実は、勤務中に轢き殺してしまった数が最高だったことからついた名だと大人になって知る。線路上にいる人を見かけても停止が間に合わないことから、運転士は罪に問われることはない。そうした無実の殺人者への思いが本作の原点になっている。
運転士にとっての通過儀礼でもある人身事故。息子がなかなか体験できないのを助けようとする親心をユーモア交えて描いている。
ロマの人たちが奏でる哀愁漂う音楽に始まり、バルカンの情緒豊かな風景もたっぷり楽しめる。川を見下ろす墓地で、後ろに花束を持った親子の姿にほろっとさせられた。(咲)
鉄道運転士は人を轢き殺しても責任を問われず、自分は28人殺してしまったという定年間近の主人公。養子に迎えた息子が同じ鉄道運転士になった。主人公が「事故は避けて通れない」と折に触れて息子に語るため、息子は“人を轢き殺してしまうかもしれない不安”と“無事故を続ける緊張感”に押しつぶされそうになってしまう。そこで主人公はとんでもない手段に出た。
自殺、酔っ払い、注意散漫など電車による死亡事故。運転士には責任がないが、ストレスが溜まるだろう。同じ道を選んだ息子への過剰な気遣いがブラックジョークのように描かれるが、親は真剣そのものである。私も似たようなことをしていないか。ふと、心配になった。(堀)
2016年/セルビア・クロアチア/85分/2.35:1 字幕:佐藤まな
配給:オンリー・ハーツ
後援:セルビア共和国大使館
公式サイト:http://tetsudou.onlyhearts.co.jp/
★2019年8月17日(土)新宿シネマカリテほかにて全国順次公開
命みじかし、恋せよ乙女 原題:Kirschbluten & Damonen
監督・脚本:ドーリス・デリエ(『フクシナ・モナムール』)
出演:ゴロ・オイラー、入月絢、ハンネローレ・エルスナー、エルマー・ウェッパー、樹木希林
ドイツ、ミュンヘン。妻と別れ、仕事も辞め、生きる希望を失ったカールの前に、ユウと名乗る日本女性が現われる。亡き父ルディと親交があったユウは、ルディが暮らしていた家を見たいという。久しぶりに実家を訪れ、両親の思い出を胸に、ユウと数日過ごす。相続でもめて以来会ってなかった兄や姉とも再会する。そんな中、ユウが忽然と姿を消す。気になり始めていたユウを探しに、カールはユウの故郷、茅ヶ崎へと向かう。老舗の旅館「茅ヶ崎館」の女将が彼を迎える・・・
ドイツの女性監督で、この30年の間に、30回日本を訪れ、『フクシナ・モナムール』など5本の映画を日本で撮影しているドーリス・デリエ。日本文化をこよなく愛するドーリスが、長年憧れていた女優・樹木希林に茅ヶ崎館の女将をあて書きしオファー。
茅ヶ崎館は、小津安二郎が脚本を書くために宿泊したこともある、有形文化財に指定された宿。樹木希林が茅ヶ崎館を訪れたのは、小津監督の遺作『秋刀魚の味』(62)の撮影時に、女優・杉村春子の付き人として参加した時以来とのこと。
本作の、「命みじかし恋せよ少女 朱き唇褪せぬ間に 赤き血潮の冷えぬ間に 明日の月日のないものを」と歌うシーンが、樹木希林の最後の出演シーンとなった。
この歌は、黒澤明監督の『生きる』(52)にも出てくる有名な大正歌謡。
ところで、茅ヶ崎は、私の高校時代の親友が生まれ育った町。何度か訪れたことがあって、映画には茅ヶ崎駅や海岸の風景も出てきて懐かしかった。親友に「茅ヶ崎館」のことを聞いてみたら、家のすぐ近くで、私も前を通っているとのこと。いつか茅ヶ崎を再訪して、茅ヶ崎館にも行ってみたい。
樹木希林さんが、茅ヶ崎館の落ち着いた佇まいの中で歌う姿は、人生の最期が感じられて、涙。(咲)
2019年/117分/G/ドイツ
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/ino-koi/
★2019年8月16日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他 全国順次公開
ラブ ゴーゴー 原題:愛情来了 英題:Love Go Go
監督・脚本:チェン・ユーシュン(陳玉勲)
プロデューサー:シュー・リーコン(徐立功)
撮影:リャオ・ベンロン(廖本榕)
出演:タン・ナ(坣娜)、シー・イーナン(施易男)、リャオ・ホイヂェン(廖慧珍)、チェン・ジンシン(陳進興)
30代なのに年より老けて見える冴えない男性アシェンは、叔母のパン屋で働くケーキ職人。いつもレモンパイを買いに来る美人が、仲良しだった同級生のリーホァだと気づく。彼女に気持ちを伝えようと、テレビの素人のど自慢番組に出ることを決意。猛特訓を始める。
アシェンと同じアパートに住む明るく食欲旺盛なおデブちゃんのリリー。拾ったポケベルの持ち主の男性シューペイの声に惹かれ、2週間後に会う約束をする。ダイエットに勤しむが、努力の甲斐もないまま、当日待ち合わせの動物園に向かう。
内気なアソンは痴漢撃退グッズのセールスマン。リーホァの美容室に行くが、なかなかセールスを切り出せず、髪の毛を切ってもらう羽目に。そんな中、リーホァの恋人の妻が半狂乱でリーホァに詰め寄る。思わずピストル型の護身グッズを女に向ける・・・
原題「愛情来了」とは、恋愛の予感。
恋には縁遠い雰囲気の3人の、それぞれの恋愛模様。目的に向かって努力する姿が、なんとも微笑ましい。思う通りにはなかなかいかないけれど、人生なんて、こんなものと、ちょっと安心させられる。
公開当時に観たけれど、印象に残っているのは、おデブちゃんの女の子が、痩せようとして一生懸命フラフープしている姿だけ。こんな話だったんだ~と新鮮♪
アシェンの創作ケーキに付ける名前が、とてもお洒落。のど自慢より、ケーキで彼女を落とせるのでは? (咲)
『ラブ ゴーゴー』というよりは『愛情来了』のタイトルのほうが、恋する気持ちがやってきそうな気配のこの映画の内容にピッタリだと思うんだけど。これも20年近く前に観ているので、忘れている部分があったけど、場面を観ながらストーリーが蘇ってきた。陳監督が描く主人公たちは美男美女ではなく等身大で、なんか親近感を感じる。20年前に観た時には知らなかったけど、今回,観てみたら、主人公アシェンのところに居候?しているギター弾きの青年は、なんと『海角七号』に出演していた馬念先(マー・ニェンシェン)だと気がついた。馬拉桑(マラサン)という地酒を販売するセールスマンの役でベースを弾く役だった。昔の映画を観ると、こういう発見が面白い(暁)。
第34回金馬奨最優秀助演女優賞・最優秀助演男優賞
1997年/台湾/113分
©Central Pictures Corporation
配給:オリオフィルムズ、竹書房
公式サイト:https://nettai-gogo.com/
日本初公開:1998年12月12日
★2019年8月17日(土)より新宿K’s cinema 他全国順次公開
熱帯魚 原題:熱蔕魚 英題: Tropical Fish
監督・脚本:チェン・ユーシュン(陳玉勲)
エグゼクティブ・プロデューサー:ワン・トン(王童)
撮影:リャオ・ベンロン(廖本榕)
主演:リン・ジャーホン(林嘉宏)、シー・チンルン(席敬倫)、リン・チェンシェン(林正盛)、ウェン・イン(文英)
高校受験を控えたツーチャンは、夢見がちな少年。片思いの相手に渡すことのないラブレターを書いたり、物語の世界に逃避したりして勉強には熱が入らない。
ある日、ニュースで見た誘拐事件の被害少年が犯人らしき男と一緒にいるのを見かけ、助けようとするが、自分も誘拐されてしまう。主犯の男が二人を手下の優しい男アケンに預けて身代金を取りに行く途中、交通事故で死んでしまう。途方に暮れたアケンは、二人を連れて祖母や弟妹が暮らす東石漁港に行き、身代金奪取作戦を練る。加熱するテレビ報道で、ツーチャンが受験生と知ったアケンは妹の教科書や参考書を差し出し、勉強できる環境を整えて励ます。
入試を数日後に控えた頃、脅迫電話を逆探知され、警察の捜査が東石漁港にも迫ったことを知り、アケンはツーチャンたちを船に乗せて沖に逃げる・・・
テレビ報道が、ツーチャンが入試に参加できるのかどうかとヒートアップしている中、当のツーチャンは、誘拐されていることも、受験を控えていることも忘れて、のどかな東石漁港での日々を謳歌している風なのが楽しい。人生で、何が大切なのかを、ちょっぴり考えさせてくれる一作。時を経て観て、懐かしさもいっぱい♪(咲)
約20年ぶりに見た本作。細かいところは忘れていて、こんなだったっけ?と思いながら懐かしく観ました。間の抜けた誘拐犯と、誘拐されたようには思えない子供たちの姿。そして田舎に行ってはローカル色いっぱいの登場人物がユニークで、とてものどかな雰囲気とスローな生活が心和ませてくれました。
それにしても誘拐犯役を林正盛監督が演じていたとは。すっかり忘れていました。とぼけた感じがとてもいい。この人が映画監督とは思えないですよね(笑)。陳玉勲監督、最近はどんな映画を作っているのでしょう。またぜひ観たいです。林正盛監督の作品も(暁)。
チェン・ユーシュン監督が1995年に発表した長編デビュー作。
日本での公開を前に1996年12月に行ったチェン・ユーシュン監督インタビュー(シネマジャーナル40号掲載)をリニューアルして転載しています。ぜひご一読ください。
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/468743078.html
第48回ロカルノ国際映画祭青豹賞・国際批評家連盟賞
第32回金馬奨最優秀脚本賞・最優秀助演女優賞
1995年モンペリエ映画祭 ゴールデンパンダ賞
1995年製作/108分/台湾
配給:オリオフィルムズ、竹書房
公式サイト:https://nettai-gogo.com/
日本初公開:1997年4月5日
★2019年 8月17日(土)より新宿K’s cinema 他全国順次公開
感染家族(原題:기묘한 가족 英題:The Odd Family:Zombie On Sale)
監督:イ・ミンジェ
出演:キム・ナムギル、チョン・ジェヨン、オム・ジウォン、パク・イナン、チョン・ガラム、イ・スギョン
パク一家は寂れた田舎でガソリンスタンドを営んでいるが、ほとんど客が訪れずに開店休業中。父親マンドク(パク・イナン)、長男ジュンゴル(チョン・ジェヨン)、妊娠中の妻ナムジュ(オム・ジウォン)、末娘ヘゴル(イ・スギョン)はその日暮らしをしている。そこに次男ミンゴル(キム・ナムギル)が帰ってきた。
ある日、突然現れたゾンビ(チョン・ガラム)に父親マンドクが噛まれて若返ったことを利用して、一攫千金の“ゾンビビジネス”に乗り出す。適材適所の家族運営で若返りの依頼人も日々増えていく。ついにはガソリンスタンドの再建にも成功。一見順調なビジネスだったが、若返りを果たした人々に思わぬ副作用が勃発してしまう。そしてゾンビと化した人々が次々に道行く人を襲い、大群となってついにガソリンスタンドにも襲い掛かる。
ゾンビが犬に追いかけられて逃げ惑い、丸ごとのキャベツにかぶりつく。彼に噛まれた人間は若返る。既存の展開を取っ払い、コメディをベースに恋愛を加味した斬新さに驚く。ゾンビに噛まれて若返った父、日和見主義の長男、ゾンビより怖い?長男の嫁、口八丁の次男、芯の強い末娘。そこに父を噛んだゾンビが飼い犬のように加わった。意外に強固な家族の絆。ゾンビの行く末まできちんと決着をつけた結末がGOOD!(堀)
2019年/韓国/カラー/韓国語/112分
配給::ファインフィルムズ
(C) 2019 Megabox JoongAng Plus M & Cinezoo, Oscar 10studio, all rights reserved.
公式サイト:http://www.finefilms.co.jp/theoddfamily/
★2019年8月16日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて公開
ダンスウィズミー
監督・脚本:矢口史靖
撮影:谷口和寛
照明:森紀博
美術:磯田典宏
主演:三吉彩花、やしろ優、chay、三浦貴大、ムロツヨシ、宝田明
有名企業で働く静香(三吉彩花)は子どもの頃からミュージカルが苦手。姪っ子を連れて遊びに出かけた先で突然、マーチン上田(宝田明)に催眠術をかけられ、音楽を聞くと歌い踊らずにはいられない体になってしまう。このままでは、憧れの先輩エリート社員の村上(三浦貴大)との恋も仕事も失ってしまう。静香は催眠術を解くために、マーチン上田を探すが見つからない。そこにこズルい調査員の渡辺(ムロツヨシ)、お金とイケメンに弱いフリーターの千絵(やしろ優)、ワケありストリートミュージシャンの洋子(chay)といったひとクセもふたクセもある人々が絡んできて、更なるトラブルを引き起こしていく。果たして静香は無事に元のカラダに戻れるのか。
いきなり歌い出し、踊り歩き、音楽が終わった途端、普通にもどる。よくあるミュージカル仕立ての映画を見るたびに「それって普通じゃありえない!」と思っていた。では、ミュージカルシーンをリアルに持ち込むとどうなるか。矢口史靖監督も同じことを感じていたらしい。その疑問にしっかり答え、ギャップを笑いに変え、ロードムービーに仕上げてくれた。
主演の三吉彩花がミュージカルシーンの全ての歌とダンスを吹き替えなしで演じた。伸びやかな肢体がスクリーンいっぱいに弾ける。反発しながらも一緒に旅をする相棒にお笑い芸人のやしろ優。まったりとしながらもステップは軽やか。三浦貴大はイメージとは真逆な役だが、たまにはこんな役もいいかも。(堀)
矢口史靖(やぐちしのぶ)監督作品はほぼ観てきて、観るたび笑わせてもらって幸せな気分で劇場(または試写室)を後にしました。オリジナルストーリーの本作もぴったりのキャストを得て賑やかで楽しい作品に仕上げています。
オーディションで選出された三吉彩花さんはモデルーアイドルー俳優と進んできました。『グッモーエビアン!』(2012)で麻生久美子さんの中学生の娘役、『旅立ちの島唄 ~十五の春~』(2013)では沖縄民謡を三線を弾きながら歌っていましたっけ。素敵な女優さんになりましたね。歌とダンスは撮影に入る前から練習を重ねたそうですが、机の上を走ったり、レストランでシャンデリアにぶら下がったりとアクションスター顔負けの頑張りを見せています。芸達者なムロツヨシさん、やしろ優さんが笑いを倍加。(白)
2019年/日本/カラー/103分
配給:ワーナー・ブラザーズ映画
©2019 映画「ダンスウィズミー」製作委員会
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/dancewithme/
★2019年8月16日(金)全国ロードショー
無限ファンデーション
監督:大崎章
撮影:猪本雅三
録音:伊藤裕規
照明:松隈信一
音楽・主題歌:西山小雨
出演:南沙良(未来)、西山小雨 (小雨)、原菜乃華(ナノカ)、小野花梨(百合)、近藤笑菜(笑菜)、日高七海(千明)、池田朱那(亜子)、佐藤蓮(智也)、嶺豪一(担任・滝本)、片岡礼子(未来の母・今日子)
人付き合いの苦手な女子高生未来(みらい)は、数学の補講中も洋服の絵を描いてしまう。夢は服飾デザイナーになることだけれど、誰にも話したことはない。演劇部のナノカが未来の絵を見て、衣装担当にと強引に誘う。帰り道、リサイクル施設の中から歌声が聞こえてきた。音楽にひかれて入っていった未来は、ウクレレを弾いていたお下げの少女小雨と出会う。
演劇部の活動と小雨との会話、未来の毎日はこれまでと違ってきた。
骨子だけ決めて、全編出演者の即興演技で作られた作品です。引っ込み思案だった未来が不思議少女の小雨に心を開いていくようす。演劇部員たちの丁々発止のやりとり。これが即興とはねえ、と見入りました。『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』ほか活躍中の南沙良さんほか、女子高生たちが生き生きしています。『お盆の弟』の大崎章監督がたくさんの少女たちを相手にどんな風に采配をふるったのかしら?と興味津々で取材を申し込みました。
そしてこの映画製作のきっかけとなったシンガーソングライターの小雨さん、ライブ中心の活動だそうで、この作品で初めて歌声を聞き、妖精かエルフか?な、その空気感に魅了されて、これまた取材を切望。運よくお二人そろっての取材が実現しました。絶賛編集中です。「MOOSIC LAB」の2018年度長編部門で女優賞(南沙良)、ベストミュージシャン賞(西山小雨)を受賞しました。MVの予定が長編映画になり、こうして上映の日を迎えることができ、最初の予定だったMVも完成しました。おめでとうございます。(白)
夢や希望がきらきらと飛び交う高校時代。強く主張する子がいれば、遠慮がちな子もいる。叫んで、泣いて、諦めて。それでも立ち上がって進むことでかけがえのないものを手に入れる。
全編即興で撮られ、セリフはその場のリアルな感情そのものだった。特に、ナノカが映画のオーディションを優先して、演劇部の主役であるシンデレラを降りると言い出したときのほとばしるような感情の応酬。どちらの言い分もよくわかる。震えそう。青春は時に残酷な決断を強いる。
しかし、ナノカの立場になったら、どうすべきだったんだろう。正解はあるのだろうか。心の中に宿題のように残る。(堀)
☆予告編まで即興劇!(近藤笑菜さん&日高七海さん出演)こちら
☆インタビュー記事アップしました。こちらです。
☆初日舞台挨拶はこちらです。
2017年/日本/カラー/102分
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
(C)2018「無限ファンデーション
https://mugenfoundation.com/
★2019年8月24日(土)K's cinema他全国順次公開
2019年08月09日
全裸監督
総監督:武正晴
監督:河合勇人、内田英治
原作:本橋信宏「全裸監督 村西とおる伝」(太田出版)
脚本:山田能龍、内田英治、仁志光佑、山田佳奈
美術監督:中西梨花
音楽:岩崎太整
撮影:山本英夫
美術:清水剛
照明:小野晃
録音:竹内久史
衣装デザイナー:小川久美子
出演:山田孝之満島、真之介、森田望智、柄本時生、伊藤沙莉、冨手麻妙、後藤剛範 、吉田鋼太郎、板尾創路、余 貴美子、小雪、國村隼、玉山鉄二、リリー・フランキー、石橋凌
会社は倒産、妻に浮気され絶望のどん底にいた村西(山田孝之)はアダルトビデオに勝機を見出し仲間のトシ(満島真之介)、川田(玉山鉄二)らとともに殴り込む。一躍業界の風雲児となるが、商売敵の妨害で絶体絶命の窮地に立たされる村西たち。そこへ。厳格な母の元で本来の自分を押し込めていた女子大生の恵美(森田望智)が現れる。ふたりの運命的な出会いは、社会の常識を根底からひっくり返していくのだった。
黒木香と聞いて、本人を思い出せるのは50代以降だろうか。私は彼女と同世代だが、とても久しぶりに名前を聞いた。当時、男性は喜んで話題に取り上げていたけれど、女性は嫌悪感を抱いていた人が多かった気がする。
そして、本作で久しぶりにあの頃の様子を思い出し、演じた森田望智の雰囲気が黒木香本人にそっくりなのに驚いた。そうそう、こんな感じ。
ところが今は嫌悪感がない。なぜ?
時代が変わり、私が歳を重ねたことがあるだろう。そして、それ以上に作品が黒木香として開花する前の苦悩も描いているからに違いない。潔癖すぎる母親との生活。自分の内面から沸き起こる感情と抑えきれない自分への嫌悪感。必死に隠してきた感情が村西とおるとの出会いで爆発する。恵美がいかにして黒木香になったのかが伝わってきた。
それは山田孝之が演じる村西とおるも同じ。立て板に水のように語り、自ら本番をしながら撮影までこなす人物になるまでの土壇場な人生を見せることで共感を引き起こす。本作を見終わったとき、村西がパンツ一丁でカメラを担ぐビジュアルに対する印象が変わるはずだ。(堀)
公式サイト:https://www.netflix.com/全裸監督
★Netfilixにて全世界独占配信中!
サマー・オブ・84(SUMMER OF 84)
サマー・オブ・84(原題:SUMMER OF 84)
監督:フランソワ・シマール 、アヌーク・ウィッセル、ヨアン=カール・ウィッセル
出演:グレアム・ヴァーシェール(デイビー・アームストロング)、ジュダ・ルイス(トミー・‘イーツ’・イートン)、ケイレブ・エメリー(デール・‘ウッディ’・ウッドワース)、コリー・グルーター=アンドリュー(カーティス・ファラデイ)
1984年夏。オレゴン州のイプスウィッチ。静かな郊外の住宅地に住む15歳の少年デイビーは、幽霊や猟奇的犯罪の記事収集が趣味だった。このところ近隣の町で同年代の子どもたちばかりが犠牲となる連続殺人事件が発生している。デイビーは向いの住人、マッキーが犯人ではないかと思いこむ。マッキーは警官だけれど、怪しすぎるのだ。親友のイーツ、ウッディ、ファラディを呼び出し、自分たちだけで証拠をつかもうと捜査を始めるのだが…。
もしも連続殺人鬼があなたの隣人だったら?「連続殺人鬼も誰かの隣人だ。人は決して本性を見せない。郊外でこそイカれたことが起こる」というデイビーの声で映画が始まります。80年代の名作『E.T.』『グーニーズ』『スタンド・バイ・ミー』『13日の金曜日』『エルム街の悪夢』などに夢中になった青少年が、熱いオマージュをささげて作ったというのが観てとれます。4人組は前述の少年たちやドラえもんを思い出させる組み合わせ。監督を務めたのはROADKILL SUPERSTARS(RKSS)というユニット名の3人。短編が多かったようで、他の作品を観ていません。
インターネットも携帯もない時代、子どもたちはもっと近所を出歩き、大人たちを観察していたはず。創造と想像も今よりももっとたくましく拡げていたはずです。この映画のように。通信手段はウォーキー・トーキー(携帯型トランシーバー)です。我が家にもオモチャがありました。
男の子ばかりのあぶなっかしい冒険譚に、近所の少し年上のお姉さんが加わり、ちょっぴり甘酸っぱい感情も織り交ぜています。好奇心が先走った無茶な行動は観ていてハラハラします。大人としては、得体のしれない殺人犯を追うのは無理~!やめて!と言いたくなるのですが、疑惑の相手が警官では警察署に持ち込むわけにもいきません。ストーリーは容赦なく進んでいき…もう子どもには戻れないことを知るのでした。(白)
2017年/カナダ/カラー/106分
配給:ブロードウェイ
2017(c)Gunpowder & Sky,LLC
https://summer84.net-broadway.com/
★2019年8月3日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー