2019年07月25日

あなたの名前を呼べたなら   原題:Sir

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監督:ロヘナ・ゲラ
出演:ティロートマ・ショーム、ヴィヴェーク・ゴーンバル、ギーターンジャリ・クルカルニー

インドの大都市ムンバイで住み込みの家政婦をしているラトナ。
高原の村に里帰りしていたラトナは、突然雇い主に呼び戻される。仕える建設会社の御曹司アシュヴィンの結婚式が婚約者の浮気で直前にキャンセルになったのだ。
傷心の旦那様アシュヴィンに気遣いながら世話をする日々。広いマンションだが、それほど家事に時間もかからないので、午後のひと時、仕立ての勉強をしに行きたいと旦那様にお願いする。それをきっかけに、アシュヴィンはラトナの夢がデザイナーになることだと知る。さらに、結婚して4か月後の19歳のときに夫に先立たれ、「未亡人になったら人生終わり」というラトナに、「誰でも夢を持っていい」と励ます。実はアシュヴィン自身、アメリカでライターとして働いていて、作家になるのが夢だったが、兄が急逝し、家業を継がなければならなくなったのだ。アシュヴィンはラトナの夢が叶うようにと、何かと配慮して優しくする・・・

まだまだカーストや階級が社会規範になっているインドで、身分の違いを越えて心を通わす二人、そしてデザイナーとして自立したいと願う女性の姿を、しっとり味わい深く描いた物語。
なにより、家政婦に人間らしく優しく接する旦那様アシュヴィンに心惹かれました。演じたヴィヴェーク・ゴーンバルは、アートハウス系の映画製作会社ズー・エンターテインメントの創設者で、同社が手掛けた『裁き』(チャイタニヤ・タームハネー監督)ではプロデューサーだけでなく熱血弁護士として出演もしています。
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(C)2017 Inkpot Films Private Limited,India
本作では、物静かで知的な旦那様なのですが、映画祭で賞を受けて喜びのスピーチをしている姿は、とても陽気な感じでちょっとイメージが違いました。演技者としての彼自身の力もありますが、ロヘナ・ゲラ監督の演出の賜物でしょう。

そして、ラトナを演じたティロートマ・ショームもデビュー作の『モンスーン・ウェディング』や、これから日本で公開される『ヒンディー・ミディアム』でのお受験コンサルタントとしてのテキパキした女性とは全く違う雰囲気。ラトナの出身地の言葉であるマラーティー語を学んで本作に臨んだそうです。
身分違いの恋は、まだまだインドでは受け入れられないこと。タブーに果敢に挑戦したロヘナ・ゲラ監督にエールをおくりたいです。(咲)


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『あなたの名前を呼べたなら』ロヘナ・ゲラ監督インタビュー
©mitsuhiro YOSHIDA/color field

2018年/インド,フランス/インド、フランス/ヒンディー語、英語、マラーティー語/99分
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://anatanonamae-movie.com
★2019年8月2日(金) Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開






posted by sakiko at 21:39| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

グッド・ヴァイブレーションズ 原題:GOOD VIBRATIONS

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監督 リサ・バロス・ディーサ、グレン・レイバーン
脚本 コリン・カーベリー、グレン・パターソン
出演 リチャード・ドーマー、ジョディ・ウィッテカー、マイケル・コーガン、カール・ジョンソン、リーアム・カニンガム、エイドリアン・ダンバー、ディラン・モーラン

1970年代、北アイルランドに住むテリー・フーリーは、ルースという女性と出会い結婚を決意する。生計を立てるためレコード店「GOOD VIBRATIONS」を開店した後、パンクロックに夢中な若者たちが集うライブハウスを訪ね、理不尽な権力にパンクで立ち向かう若者たちの姿に衝撃を受ける。

まさか!北アイルランドのベルファスト・パンク映画が観られるとは思わなかった。製作から7年の時を経て日本公開…。少数派の(?)パンクファンにとっては想定外の喜びに踊り出したくなってしまう♪

U2の名曲「Sunday Bloody Sunday」をこよなく愛する身としては、'72年、北アイルランドのロンドンデリーで起きた虐殺事件については知っているつもりでいた。加えてベルファストが紛争地帯だということも…。当時のニュース映像が流されはするが、本作は政治的な映画ではない。
「爆弾横丁」(!)と呼ばれる通りに、1人の音楽好きの男がレコード店を開くところから発展する実話。ハンク・ウィリアムズのカントリー音楽(パンクと真逆でしょ(笑))など聴いていた男が、パンクロックに啓示を受けたように触発され、インディーズ・レーベルまで立ち上げてしまうのだ。

日本ではマイナーなバンドや楽曲群が次々とスクリーンから飛び出さんばかりに現出してくる。その熱量たるや、まるで当時のクラブシーンや紛争の最中(さなか)へ送り込まれたような臨場感がある。ベルファスト・パンクを知らない人でも十分に楽しめる映画だ。それは製作スタッフ、2人の監督・脚本家、出演者に至るまで、心の底から音楽を映画を愛している純粋な想いが伝わるからだろう。
北アイルランド、パンク、ブリティッシュロックのファンは必見!ジョー・ストラマーの言葉で締めくくられるラストには胸熱だ。(幸)


2012年 イギリス・アイルランド合作/103分/PG12/カラー/シネマスコープ/DCP
配給 SPACE SHOWER FILMS
(C) Canderblinks (Vibes) Limited / Treasure Entertainment Limited 2012
公式サイト:http://good-vibrations-film.com/
8月3日(土)より新宿シネマカリテほかにて公開
posted by yukie at 12:44| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

風をつかまえた少年 原題:The Boy Who Harnessed the Wind

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監督・脚本・出演:キウェテル・イジョフォー
出演:マックスウェル・シンバ、アイサ・マイガ
原作:「風をつかまえた少年」ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー著(文藝春秋刊)

14歳のウィリアムは、2001年にアフリカのマラウイを襲った干ばつのために学費を払えず、学校に行けなくなってしまう。彼は図書館で見つけたある本から、独学で発電のできる風車を作り畑に水を引くことを思いつくが、雨乞いの祈祷をする村でウィリアムを理解する者はいなかった。だが、家族を助けたいという彼の思いが、徐々に周囲を動かしていく。

浅薄ながら、小国とはいえアフリカのマウアイ国についての知識は殆どなかった。電気を使えるのは総人口の僅か2%!21世紀になってもそのような生活を送る人々がいたことを本作で初めて知った。正に映画は「世界を開く窓」である。

主人公の父親として出演し、脚本、監督も手がけた英国の名優キウェテル・イジョフォーは監督デビュー作とは思えない洗練と成熟を見せている。長雨や日照りが続いても、族長と祈りを捧げ、超自然的な力にすがるしかない村人。生活に追われる大人たちは子どもに教育よりも働くことを優先するのが当然という風潮だ。
イジョフォー監督は最貧困国の厳しい現状を家族の動向、学費が払えない程の生計といった日常を丹念に描出することにより、映画の主訴を明らかにして行く。

終盤、樹々のさやぎや雲の流れから”風”を表現する映像の喚起力の素晴らしさに涙した。撮影監督はマイク・リー作品で知られるディック・ポープだと知り、納得。イジョフォー監督はスタッフ、出演者選びにも抜かりない眼力を示している。こういった地味な低予算の良作こそヒットしてほしいと願う。(幸)


ウィリアム・カムクワンバ氏が自身の体験を綴った原作に基づく映画。
飢饉から村を救おうと風力発電を考え出したのが、14歳の時だったということに何より驚いた。しかも、学費が払えなくて学校に通えなくなり、図書館で本を読み漁って考え出したのだ。
公開を前に来日されたウィリアム・カムクワンバ氏の姿をテレビで拝見した。現在、31歳。日本の中学生と交流。まさしく風力発電を考え出した時の年頃の中学生たち。自身の物語が映画化され、遠く日本でも上映されることに、感慨深げな表情だった。
日本の中学生たちも、彼から多大な影響を受けたことと思う。

商社に勤務していた時、その大半の24年間、経済協力部門で世界各国への政府開発援助(ODA)を利用した案件に携わってきた。サハラ以南のアフリカ諸国では、特に地下水開発や灌漑施設といった生活や農業に裨益する案件が目立った。一般市民の自立を促すのがODAの理念だが、国の末端まで行き渡るような援助は、果たしてできているのだろうか。権力を持つ者が結局潤っているのではないかと、つい危惧してしまう。願わくば、ウィリアム氏に続く人材が活躍できる社会になってほしい。(咲)


2018年/イギリス、マラウイ/英語、チェワ語/113分/シネマスコープ/カラー/5.1ch
© 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC© 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC
提供:アスミック・エース、ロングライド 配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/kaze/
2019年8月2日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。



posted by yukie at 10:53| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする