2019年06月20日

ジョナサン-ふたつの顔の男-(原題:JONATHAN)

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監督:ビル・オリバー
出演:アンセル・エルゴート、スーキー・ウォーターハウス、マット・ボマー、パトリシア・クラークソン

規則正しい生活を送る内向的なジョナサン(アンセル・エルゴート)は毎朝7時に起きて、ランニングをし、パートタイムの仕事へ行く。一人で食事を取り、毎夜7時までには就寝する。なぜ、こんなに早い時間に就寝するのか。彼には人には言えない秘密があった。正反対の性格の青年ジョンという人格を持っているのだ。
彼らは、ナリマン博士(パトリシア・クラークソン)によって脳内にタイマーが埋め込まれ、互いが12時間で切り替われるよう正確に設定されている。毎夜7時から午前7時までがジョンの時間である。
嘘はつかない。なんでも話す。これらをルールとして挙げ、ビデオメッセージを通して日々の行動について、どんなに些細で取るに足らないようなことまでも互いに逐一報告し合っていた。他人との交流は最低限にとどめるなど、日々の生活は制限されてはいるものの、生活は順調だった。
しかし、ジョナサンが探偵のロス(マット・ボマー)を通じて、ジョンがエレナ(スーキー・ウォーターハウス)という女性と密かに交際にしていることを知ってから、ふたりの歯車が狂い始めた。

『ベイビー・ドライバー』(2017年)で大ブレイクしたアンセル・エルゴート。幼い雰囲気を持ちつつ、大胆なドライビングテクニックを見せるギャップに萌えた女性が多かっただろう。今回は一段、成長した大人の顔を見せる。しかも、正反対のタイプを見事に演じ分けただけでなく、ジョンの秘密に気づいたジョナサンが翻弄され、少しずつバランスを崩していく様を丁寧に表現した。
ジョンは途中からビデオメッセージを残さなくなるが、食べっぱなしのお皿やベッドの乱れ、クローゼットの使い方などを見せることで、ビル・オリバー監督はジョンの存在をしっかりアピール。存在は感じるのに姿が見えないジョンに対してジョナサンが抱える不安を見る者に共感させる。ジョナサンがジョンのシャツの匂いを嗅ぐシーンは切ない。(堀)


多重人格の映画はこれまでもいくつか観たけれど、本作は一つの体に陽気なジョンと生真面目なジョナサンのふたり。時間を区切って交代するところが珍しいです。アンセル・エルゴートが演じ分けています。互いのコンタクトをとるところで、藤子・F・不二雄氏の漫画「パーマン」を思い出しました。そちらは小学生の主人公がスーパーヒーローとして活躍するとき、周りに正体がばれないようコピーロボット(鼻のボタンを押すとその人そっくりになる)を身代わりにします。戻ってきたらおでこをくっつけると記憶が共有できるという設定でした。身体が二つほしいとき、コピーロボットがあればと思ったものです。閑話休題。
本作ではジョンが報告しなかったために齟齬が生じてしまい、ジョナサンが真実を探すために雇った探偵がお久しぶりのマット・ボマーでした。くたびれた服装で生活に困っている感ありあり、せっかくの美貌がくすんでいます。ここで目立っていい役ではないので、しょうがないですね。またパーっとライトのあたるところへ出てきてほしいです。
アンセル・エルゴートは『ダイバージェント』(2014年)から観ていますが、順調に良い作品に出て演技も磨いているようす。この作品でもわかります。2020年公開予定のスピルバーグ監督が手掛けるミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』でトニー役を射止めたようです。おー!(白)


2018年/アメリカ/英語/カラー/シネマスコープ/95分
配給:プレシディオ 
© 2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved
公式サイト:http://jonathan-movie.jp/
2019年6月21日(金) 新宿シネマカリテほか全国公開
posted by ほりきみき at 16:23| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

凪待ち

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監督:白石和彌 
脚本:加藤正人
出演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー

毎日をふらふらと無為に過ごしていた郁男は、恋人の亜弓とその娘・美波と共に彼女の故郷、石巻で再出発しようとする。少しずつ平穏を取り戻しつつあるかのように見えた暮らしだったが、小さな綻びが積み重なり、やがて取り返しのつかないことが起きてしまう―。
ある夜、亜弓から激しく罵られた郁男は、亜弓を車から下ろしてしまう。そのあと、亜弓は何者かに殺害された。恋人を殺された挙句、同僚からも疑われる郁男。次々と襲い掛かる絶望的な状況を変えるために、郁男はギャンブルに手をだしてしまう。

”警察は…”ならぬ、「監督は何をやってもええんじゃ!」(笑)と映画の真髄を痛感させてくれた『孤狼の血』の白石監督。国民的アイドルの香取慎吾をやさぐれ中年男に調教してみせた。「ノーメイクで行く」と指示した監督に従い、無精髭、顔の澱(おり)や皺を隠さない覚悟で香取も期待に応えた。
コミック原作が跋扈する邦画界の中で(中には秀作もあるが)、加藤正人のオリジナル脚本が気味良い。加藤が”無類の競輪好き”ということもあり、温めていた作品であろうことが分かる。ギャンブルで身を持ち崩した香取扮する郁男が車券を買う”ノミ屋”の紫煙・安酒の匂いが立ち込める雰囲気、集う男たちの佇まい、ノミ行為に関わる勢力の手口などは知る人でなければ書けないリアルさに満ちている。競輪競技の描写も秀逸だ。

香取慎吾が新境地・演技開眼したのではと唸らさせれる場面は多い。乱闘・泥酔するシーンは、尋常ではない血走った眼つきと力強さを発散する。終盤、大きな身体を震わせて泣きじゃくるショットは、フェリーニの名作『道』のラスト、アンソニー・クイン扮するザンパノを想起させた。

本作の見どころは、今村昌平作品ばりの古い日本家屋、石巻の寂れた漁港といった描写の素晴らしさにある。そして、決定打は吉澤健、不破万作、麿赤兒ら高年トリオの名演だろう。殊に吉澤健は、’60年代の状況劇場、’70年代に若松孝二監督作品を観て育った身としては、涙を禁じ得ない。存在そのものが”生きている”のだ。様々な角度から楽しめる本作は間違いなく今年の邦画界に於ける収穫となろう。
(幸)


2018/日本/カラー/124分
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS 
配給:キノフィルムズ
公式サイト :http://nagimachi.com/
6月28日(金)全国ロードショー
posted by yukie at 11:40| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする