2019年06月16日

アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場(原題:Unknown Soldier (英語) Tuntematon Sotilas (フィンランド語))

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監督・脚本:アク・ロウヒミエス
撮影:ミカ・オラスマー
出演:エーロ・アホ、ヨハンネス・ホロパイネン、ジュシ・ヴァタネン、アク・ヒルヴィニエミ、ハンネス・スオミほか

継続戦争に参加した一機関銃中隊に配属された熟練兵ロッカ(エーロ・アホ)は家族と農業を営んでいたが、冬戦争でその土地がソ連に奪われたため、領土を取り戻し元の畑を耕したいと願っている。カリルオト(ヨハンネス・ホロパイネン)は婚約者をヘルシンキに残して最前線で戦い、途中でヘルシンキに戻って式を挙げ、すぐに戦場へとんぼ返りする。ヒエタネン(アク・ヒルヴィニエミ)は戦場でも純粋な心を失わず、コスケラ(ジュシ・ヴァタネン)は最後まで中隊を指揮する。この4名の兵士を軸に進んでいく。

フィンランドは1939年からソ連と戦った「冬戦争」が翌年に終結。その代償としてカレリア地方を含む広大な国土をソ連に占領された。国土回復を掲げ、1941年にドイツと手を組み、再びソ連との戦争を開始。これを「継続戦争」と呼ぶ。本作は継続戦争に従軍したヴァイノ・リンナが書いた古典小説「無名戦士」を原作としている。
登場するのは、司令官が主人公の戦争映画だったら兵士Aや兵士Bとクレジットされるような兵士たち。しかし、彼らにも名前があり、国には待っている人がいる。司令官のコマではないのだ。彼ら1人1人のドラマを描くことで、戦争が兵士だけでなく、彼らの家族にも落とす影を浮かび上がらせた。
ところで、作品を見ていて驚いたのだが、戦争の途中で兵士に休暇があるのだ。ロッカやカリルオトは休暇を使って、家に帰っていた。戦場が地続きだからできることなのだろうか。(堀)


どんな戦争も無名の兵士たちが支えてきた。戦争映画を観ると、将棋やチェスの盤面が浮かぶ。歩兵は常に前面にたたされ反抗は許されず、後方で命令だけ出している上官がバカだと志も命も無駄になる。全体と先を読む能力があるとなしでは大違い。ちゃんとした上官ならば幸運、気まぐれや自分の保身のための命令にはロッカでなくとも反発したくなり、こんな戦いに夫や息子や孫を送り出したくないと痛切に思う。というより戦争を始めないでくれー!国土を削られ、農地も家も手放していく姿に現代の難民の姿が重なる。
ソ連と西側に挟まったフィンランドにこんな戦争の歴史があったことは、見るまで知らずにいた。この辛苦を乗り越えての今だと思うと感慨深い。フィンランドは教育水準、暮らしや福祉の手厚さ、女性の活躍などなど、日本ができないでいることを実現させている。ムーミンやカウリスマキやマリメッコで楽しませ、この映画のように心にささる作品も送り出してくれる。投じた製作費はフィンランド映画史上最大、観客動員数も過去最高。戦争を体験した人が少なくなっていく中、ぜひ観てほしい作品。(白)


フリー・アナウンサーでミリタリー・マニアの安東弘樹を招いての公開直前イベントレポートはこちらから。
公開直前イベント取材についての日記はこちらから。

2017 年/フィンランド/フィンランド語/カラー/132 分/PG-12
配給:彩プロ
© ELOKUVAOSAKEYHTIÖSUOMI 2017
公式サイト:http://unknown-soldier.ayapro.ne.jp/
2019年6月22日(土)より新宿武蔵野館にて全国順次ロードショー
posted by ほりきみき at 02:42| Comment(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

パピヨン(原題:Papillon)

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監督:マイケル・ノアー
原作:アンリ・シャリエール
脚本:アーロン・グジコウスキ
撮影:ハーゲン・ボグダンスキー
音楽:デビッド・バックリー
出演:チャーリー・ハナム、ラミ・マレック、イヴ・ヒューソン、ローラン・モラー、トミー・フラナガン、ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン

〈1931年、パリ〉「狂乱の時代」の終焉。
胸に蝶の刺青を入れていることから “パピヨン”と呼ばれた男(チャーリー・ハナム)は、無実の罪で終身刑を言い渡され、フランス領ギアナのデビルズ悪魔島に送られる。
周囲を海に囲まれた、この島は脱出不可能な場所として知られ、囚人達は人権をはく奪され、過酷な強制労働を科せられていた。
絶望と死が支配する場所で、自由と希望を求めて足掻くパピヨンは、志を同じくする紙幣偽造の天才ドガ(ラミ・マレック)と出会い、やがて二人は奇妙な友情で結ばれてゆく…。

身の安全を保障する代わりに、脱獄資金を提供してほしい。最初は契約の関係だったパピヨンとドガだが、脱獄を繰り返すうちに信頼の絆を結んでいく。スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンが出演して大ヒットした作品が45年ぶりにリメイクされた。主演は何度も脱獄を試みる主人公パピヨンを演じるのはチャーリー・ハナム。偽金造りで投獄されたドガにラミ・マレック。
国からも見放された囚人たちが狭い部屋に下着一枚の裸で集められたシーンはアウシュビッツを彷彿させる。フランス領ギアナの徒刑場での生活もガス室こそないものの、奴隷に近い扱い。劣悪な環境に、我が身を守ることで精一杯の毎日。それでもパピヨンは自由を渇望し、脱獄を繰り返す。後半はアドベンチャー。緊張の連続で一時も目を離せない。その中で育まれる2人の絆と互いを尊重する思いに胸が熱くなる。(堀)


2017年/アメリカ/英語・スペイン/シネスコ/ DCP/カラー/5.1ch/133分
配給:トランスフォーマー
© 2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/Papillon/
★2019年6月21日(金)公開ロードショー
posted by ほりきみき at 00:47| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シネマ歌舞伎『鷺娘/日高川入相花王』

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『鷺娘』配役
鷺の精:坂東玉三郎

『日高川入相花王』配役
清姫:坂東玉三郎
人形遣い:尾上菊之助
船頭:市川九團次

「鷺娘」
しんしんと雪の降る水辺の柳の下に、蛇の目傘を差した白無垢姿の娘がひとり佇んでいます。娘は実は道ならぬ恋に悩む白鷺の精。一途な恋心を綴っていきますが、いつしか白鷺の姿に戻った娘は、遂げられぬ恋に苦しみもがき、降りしきる雪の中息絶えるのでした。(2005年5月歌舞伎座公演)

同時上映「日高川入相花王」
恋する安珍を追って日高川の渡し場にたどり着く清姫ですが、船頭は川を渡してくれません。安珍への嫉妬と恨みの激情を燃やす清姫はついに。(2005年10月歌舞伎座)

「鷺娘」
坂東玉三郎が人間に恋した白鷺の精に。舞台上で一瞬に衣装を変える引き抜き、上半身の衣装を裏返すぶっかえりなどがあり、華やかで飽きのこない演目。ラストの白い衣装はアップの時に鷺の羽の模様が見える。数十キロにも及ぶ衣裳や鬘をつけて踊り続けるのは大変。2009年以降全編を踊ることはないそう。

「日高川入相花王」
坂東玉三郎が清姫を人形として演じる。顔の傾け方や手の動かし方、ちょっとぎくしゃくした感じが人形そのもの!人形遣い役との呼吸もぴったり。無表情なのにその動きで感情まで伝える。大蛇となり大海を渡る場面は荒ぶる感情が爆発。鬼のお面にも感情が宿る。(堀)


配給:松竹
公式サイト:https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/02/
★2019年6月21日(金)~7月4日(木)東劇ほか全国にて2週間限定上映
posted by ほりきみき at 00:28| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん

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監督:野口照夫(実写パート)・山本清史(エオルゼアパート)
脚本:吹原幸太
原作:「一撃確殺SS日記」(マイディー)/ ファイナルファンタジーXIV(スクウェア・エニックス)
出演:坂口健太郎、吉田鋼太郎、佐久間由衣、山本舞香、前原 滉、今泉佑唯、野々村はな、
和田正人、山田純大、佐藤隆太、財前直見
声の出演:南條愛乃、寿美菜子、悠木碧

自分が子供の頃から、何を考えているのか全く分からなかった父の背中を見て、心の中でそうつぶやくアキオ(坂口健太郎)。仕事一筋で単身赴任中だった父(吉田鋼太郎)が、突然会社を辞めて家に帰って来たのだ。母と妹も一日中ボーっとテレビを見ている父を、遠巻きに眺めている。父の本音を知りたい、そんな願いに突き動かされたアキオに、ある計画が閃く。アキオの得意なオンラインゲーム「ファイナルファンタジーXIV」の世界に父を誘導し、自分は正体を隠して、共に冒険に出るのだ。その名も〈光のお父さん計画〉!アキオは顔も本名も知らないゲーム仲間たちに協力を呼び掛け、励まされる。だが、この時のアキオは思いもしなかった。父に家族も知らない意外な顔があるとは。

子どもとの距離感は難しい。ましてや家庭を妻に任せてきた父親には。何とかしたい。でも、どうしたらいい?
子どもも実は同じようなことを考えて、きっかけを探しているのかもしれない。普遍的な問題をオンラインゲームで立場を隠して繋がり、クリアした息子が書いた人気ブログの映画化。
親子では面と向かって話せないことも他人ならさらっと話せることがある。息子は素性を隠してネットで父と繋がり、家族への思いを知った。思いがあれば必要なのはきっかけ。親子だからのもどかしさを坂口健太郎と吉田鋼太郎がちょっと笑わせ、でもしみじみと絶妙なバランスで演じ、共感を紡ぎ出す。(堀)


2019年/日本/カラー/114分
配給:ギャガ 
©2019「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」製作委員会 
©マイディー/スクウェア・エニックス
公式サイト:https://gaga.ne.jp/hikarinootosan/
★2019年6月21日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
posted by ほりきみき at 00:15| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする