2019年06月15日

ある町の高い煙突 

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監督:松村克弥
原作:新田次郎
脚本:松村克弥、渡辺善則
撮影:辻智彦
音楽:小野川浩幸
出演:井手麻渡、渡辺大、小島梨里杏、吉川晃司、仲代達也

1910年、茨城県久慈郡入四間の裕福な地主の家に生まれ育った関根三郎(井手麻渡)は、ノルウェー人の鉱山技師から「この美しい村は大きく変わるかもしれません」と告げられる。隣村の日立鉱山が大量の銅を生産しているため、煙害が拡大するだろうというのだ。
鉱山から出ている黄色い煙は亜硫酸ガスで、松や杉、栗に蕎麦、大麦小麦など、植物から作物まで何もかも枯らしてしまう。村の権力者である三郎の祖父の兵馬(仲代達矢)は事態を重く見て、分家の恒吉(伊嵜充則)を連れて鉱山会社へ掛け合いに行くが、「補償はするが煙害は我慢してくれ」と言われてしまう。
30年前に村長だった兵馬は採掘の権利料で村が潤い、農家の次男三男の働き口にもなると考えて許可したのだが、今となっては深く後悔していた。そのことを遺言のように三郎に告げた直後に倒れ、5日後に亡くなってしまう。三郎は祖父の遺志を継ぎ、進学も外交官になる夢も捨てて、煙害と闘うことを決意する。

今から100年前、日立鉱山から出る亜硫酸ガスの煙害に苦しんだ住民と企業が補償交渉を繰り返す中で100mもの煙突を立てることに行き着くまでを描く。農家の次男三男の働き口になると採掘を許可した村の名士が自分の判断を後悔し、煙害を無くす交渉を孫に託し、孫も外交官になる夢を諦めて祖父の跡を継ぐ。企業側も営利に走らず、より良い方向を探ろうとした。これは実話を基にしたという。煙突により煙害をなくした上で植樹を重ねるという両者の協力により、枯れた山が緑を取り戻す。
環境汚染は今も昔も抱える問題。今もどこかで起きている。最初から汚染がないに越したことはないが、汚染が起きてしまっても、その後の対応次第では元に戻せることもあるのだ。
お金で補償すれば済むことではない。100年前に奔走した人々の姿を描くことで、現代の私たちがすべきことを示唆する。お金を手にしたばかりに不幸になった家族の話は他人事ではない。(堀)


2019年/日本/カラー/シネマスコープサイズ/5.1ch/130分
配給:エレファントハウス/Kムーブ
(C) 2019 Kムーブ
公式サイト:https://www.takaientotsu.jp/
★2019年6月22日(土)有楽町スバル座ほか全国ロードショー
(ユナイテッド・シネマ水戸、シネプレックスつくば 6月14日(金)先行公開)


posted by ほりきみき at 23:59| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

あいが、そいで、こい

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監督:柴田啓佑
脚本:村上かのん
撮影:神野誉晃
音楽:Less is More
出演:小川あん、髙橋雄祐、長部努、古川ヒロシ、廣瀬祐樹、中垣内彩加、山田雅人

2001年の夏、海辺の田舎町に住む高校生・萩尾亮は、同級生の学、小杉、堀田と共に高校最後の夏休みを過ごすことになった。
ある日、イルカの調教師を夢見て台湾からやってきた留学生・王佳鈴(ワンジャーリン)と出逢う。イルカや海を嫌う亮はリンと対立するが、彼女の来日した本当の想いを知ったことをきっかけに心を通わせることとなる…。

恋のきっかけは予想だにしないところから生まれるもの。高校最後の夏。嫌々始めたバイトで知り合った台湾人少女と反発してし合いながらも惹かれていく。それを不安げに見つめる幼馴染の少女。ヤキモキすればするほど主人公は彼女に惹かれてしまう。幼馴染の辛さに共感。悪友の恋。それを肴にして盛り上がる友情。楽しい夏も思いがけない事件で終わりを告げる。やりきれない悲しみも仲間がいれば乗り越えられる。(堀)

2018年/日本/カラー/シネマスコープ/ステレオ/115分
配給:ENBUゼミナール
©ENBUゼミナール
公式サイト:http://aigasoidekoi.com/
★2019年6月22日より、新宿K’s Cinemaにて3週間上映、他全国順次ロードショー


posted by ほりきみき at 23:42| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アマンダと僕(原題:AMANDA)

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監督・脚本:ミカエル・アース
共同脚本:モード・アムリーヌ
撮影監督:セバスチャン・ブシュマン
音楽:アントン・サンコ
出演:ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトリエ、ステイシー・マーティン、
オフェリア・コルブ、マリアンヌ・バスレー、ジョナタン・コーエン、グレタ・スカッキ

夏の日差し溢れるパリ。便利屋業として働く青年ダヴィッドは24歳。シングルマザーの姉と程よい近さに住み、姪の世話を助けていた。パリにやってきた美しい女性レナと出会い、恋に落ちる。穏やかで幸せな生活を送っていたが、突然の悲劇で大切な姉が亡くなり、ダヴィッドは悲しみに暮れる。
彼は、身寄りがなくひとりぼっちになってしまった姪アマンダの世話を引き受けることに。若いダヴィッドには親代わりになるのは荷が重く、アマンダは母親の死を理解できずにいた。しかし、消えない悲しみを抱えながらも二人の間に少しずつ絆が芽生えはじめる。

保護者的存在だった姉を喪い、ダヴィッドは初めて大きな責任と向き合う。姪はかわいいものの、自分に育てることができるのか。悩み、戸惑い、逡巡する。一度引き受けたら放り出すことはできない。しかし、責任を背負うと決めることで人は成長し、絆が生まれるもの。作品はダヴィッドの奮闘を描くことで、人生に迷う人の背中を押す。(堀)

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©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

生まれた命はいつか死ぬ。でもできるだけ先で、穏やかであってほしいと心の底で願う。突然に消えてしまうこともあるというのに。大切な人をそうやってなくしてしまったら、残された自分は乗り越えられるだろうか?
この作品は突然姉を亡くした大人の男性と母親を亡くした小学生の娘のストーリー(姉と母親は同一人物)。二人は悲しみからどう立ち上がるのだろう? 互いに必要だと気づくまでを丁寧に描いている。
ヴァンサン・ラコスト演じるダヴィッドは、しっかりした姉に保護されてきたせいか、なんだか頼りない。アマンダ役のイゾール・ミュルトリエは演技の経験はなく、人混みに紛れたら見失いそうな普通の女の子。急に一人放り出されたアマンダそのものだった。グレタ・スカッキがすっかり貫禄のおばさんになっていて見違えた。エマ・ストーンみたいな細さだったのに。(白)


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©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

2018年、第31回東京国際映画祭東京グランプリと最優秀脚本賞をダブル受賞。
テロって遠い国の出来事と思ってましたが 最近の日本でもテロに似た事件が少なくないので、突然、身内を失う経験は誰にでも起こりうると思うと、この物語が俄然、自分の心身に響いてくるのでした。311の津波で叔母夫婦を亡くした時を思い出したり…
そして何気ない風景の光の再現が美しい!! ほとんどのシーンが16mmフィルムで撮影されているとのこと。道理で。私もフィルム派ですよ!! 写真のみですが…。 (千)

第31回東京国際映画祭で東京グランプリと最優秀脚本賞をダブル受賞した時の模様は、シネマジャーナルHP特別記事にあります(暁)。

シネマジャーナル 第31回東京国際映画祭 アウォードセレモニー報告
http://www.cinemajournal.net/special/2018/tiff-fin/index.html

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第31回東京国際映画祭授賞式に映像参加したミカエル・アース監督
撮影 宮崎暁美

◆フランス映画祭 2019年6月20日(木)~23日(日)
会場:みなとみらい21地区ほか
でも上映されます☆
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/466890900.html




2018年/フランス/ビスタ/107分
配給:ビターズ・エンド
©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/amanda/
★2019年6月22日(土)よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 23:37| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

カスリコ

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監督:高瀨將嗣
脚本:國吉卓爾(『カスリコ』第26回新人シナリオコンクール 特別賞 大伴昌司賞準佳作)  
撮影:今泉尚亮
音楽:辻 陽
出演:石橋 保、宅麻 伸、中村育二、山根和馬、鎌倉太郎、金児憲史、高橋かおり、高橋長英、小市慢太郎、西山浩司、高杉 亘、伊嵜充則、及川いぞう、西村雄正、大家由祐子、池上幸平、服部妙子

高知一と言われた板前の岡田吾一(石橋保)は賭博にのめり込んだ挙句に店を手放し、途方に暮れていた。そんなとき、ヤクザの荒木五郎(宅麻伸)から「カスリコ」の仕事を紹介され、常連客の引き立てや商売人の才覚もあり、少しずつカスリを増やしていく。
三年の歳月が流れ、すっかり賭博をやめた吾一は荒木から再び店を始めるよう勧められた。開店準備に取り掛かり、ようやく再起の道が見えた吾一に、再び思いもよらぬ事態が訪れてしまう。 吾一はどん底の己の人生に勝つため、最後の大勝負に挑んだ。

舞台は昭和40年代の土佐。タイトルのカスリコとは、賭場で客の世話や使い走りをして、僅かなご祝儀をめぐんでもらう下仕事。
手本引きと呼ばれる賭博で店を潰した板前が見栄を捨てて、カスリコとなって一からやり直す。当時を完璧に再現し、白黒で見せる映像は昭和の男のロマンたっぷりに展開。実直そうだが、大きな決断を厭わない主人公に石橋保。その主人公に目をかけるヤクザに宅麻伸。渋い着物姿が懐の深さを感じさせた。
ところで、原作は第26回新人シナリオコンクール準佳作受賞作。書いたのは高知在住の國吉卓爾で、放蕩三昧だった若い頃に目にした、賭場の人間模様を基にシナリオを執筆したという。70歳で初めて書いたシナリオがコンクールで受賞したのだから驚きである。「もう歳だから」は言い訳に過ぎない。いつからでも始められると背中を押された気がする。(堀)


2018年/日本/モノクロ/ビスタサイズ/5.1ch/114分
配給:シネムーブ/太秦
(C) 2018 珠出版
公式サイト:http://kasuriko.com/index.php
★2019年6月22日(土) ユーロスペースほか全国順次公開

posted by ほりきみき at 23:30| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする