2019年06月13日
家族にサルーテ!イスキア島は大騒動(原題:A casa tutti bene)
監督・脚本:ガブリエレ・ムッチーノ
出演:ステファノ・アコルシ(パオロ)、カロリーナ・クレシェンティーニ(ジネーヴラ)、エレナ・クッチ(イザベッラ)、ピエルフランチェスコ・ファビーノ(カルロ)、クラウディア・ジェリーニ(ベアトリーチェ)
イスキア島に住むピエトロ&アルバ夫妻はめでたく結婚50周年を迎える。二人を祝うために家族、親戚一同が島にやってきた。総勢19人の宴がお開きとなるころ島の天候は激変し、ナポリへ戻るフェリーが欠航となった。足止めをくってしまい、帰れなくなったみんなの宿泊場所を確保しようと大わらわのアルバたち。それまで笑顔の下に隠してきた一人一人の事情がこのアクシデントで明らかになっていく。
原題は「A casa tutti bene」意味は”家ではみんな良い感じ”だそうで、家ほどいいところはないということなんでしょうか?そうであってほしいと願うものの、反対に家こそが修羅場という人もいるでしょうね。
このイタリアから届いた作品の、国を問わずどの家にもありそうな「あるある」エピソードに思わず引き込まれました。たくさんの登場人物がいるにも関わらず、一人ずつのキャラが立っているせいか少しもごちゃごちゃになりません。ガブリエレ・ムッチーノ監督の脚本と采配、そして俳優たちのうまさなのでしょう。舞台となったイスキア島の美しいこと、一度行ってみたいなぁ。(白)
金婚式に集まった親族たちが天候不良で二晩をともにすることに。普段は隠していた本音が炸裂し、関係がこじれていく。浮気、嫉妬、借金、老い。家庭で起きるトラブルがてんこ盛り。愛にしてもお金にしても、求めることが多い人ほどトラブルが炎上する。ささやかな幸せに喜ぶ少女の姿からうれしさがほとばしるのが眩しい。しかし、彼女もいつの日か、その幸せに慣れてしまうのだろうか。(堀)
2018年/イタリア/カラー/シネスコ/107分
配給:アルバトロス・フィルム、ドマ
(C)2018 Lotus Production e 3 Marys Entertainment
http://salute-movie.com/
★2019年6月21日(金)Bunkamura ル・シネマほかロードショー
ザ・ファブル
監督:江口カン
原作:南勝久
脚本:渡辺雄介
撮影:田中一成
音楽:グランドファンク
主題歌:レディー・ガガ
出演:岡田准一(ファブル/佐藤アキラ)、木村文乃(佐藤ヨウコ)、山本美月(清水ミサキ)、福士蒼汰(フード)、柳楽優弥(小島)、向井理(砂川)、木村了(コード)、井之脇海(黒塩=クロ)、藤森慎吾(河合ユウキ)、宮川大輔(ジャッカル富岡)、佐藤二朗(田高田)、光石研(浜田)、安田顕(海老原)、佐藤浩市(ボス)
謎の殺し屋“ファブル(寓話)”は6秒で相手を仕留める。あまりにも鮮やかな手口に裏社会ではもはや伝説となっていた。彼を育てあげたボスは、ファブルに「一年間、仕事を休んで普通に暮らせ。誰かを殺したりしたら俺がお前を殺す」と、妙な命令を下す。ファブルは素直に従い“佐藤アキラ”という偽名を使って大阪の街に移り住んだ。相棒のヨウコは妹としてアキラに同道する。生れて初めての普通の生活をぎこちなくも楽しみ始めるアキラ。しかし、裏社会はそんなアキラを放っておくはずがなかった。
『ガチ星』『めんたいぴりり』を送り出してきた江口カン監督、3本目はなんとも豪華な配役で松竹映画での新作です。しかも原作の漫画は、アクションとコメディが絶妙に混在した人気作品。
主演の岡田さんのアクションには定評がありますが、さらに今回はハリウッドで活躍するアラン・フィグラルズがアクション監督として招かれています。期待にこたえるべく、早くからワークアウトに励んで鍛え上げた逞しいボディ、加速して繰り広げられるアクションを見よ!(早送り&コマ落としではありません)
どのキャラも非常に濃くて、それぞれに目立ちまくりです。ストーリーを掻きまわしながら面白く膨らませ、どなたのファンもお腹いっぱいに満足するはず。これまで真面目で優し気な役の多かった福士蒼汰くんが、ファブルを狙う狂気の”フード”役。向井理さんの腹黒男、柳楽優弥くんのブチ切れっぷりに瞠目、安田顕さんの弟分への温情、ボスの親心(?)が胸を熱くします。おしとやかなイメージの木村文乃さんのはじけっぷり、山本美月さんの珍しく色っぽい姿態も必見。スクリーンいっぱいにアップになる「ここまでやる?」な岡田さんの変顔をお楽しみに。あっ!主題歌があのレディー・ガガなんですよ。これにもびっくり!(白)
冒頭いきなり、殺し屋ファブルの見事な仕事ぶりが映し出される。無駄のない動きに感嘆するばかり。そこにグラフィックな工夫を加えることでコミカルにも見せる。江口カン監督だからこその演出に心を掴まれた。
後半の見せ場を盛り上げるよう、前半は人間関係をお膳立てしていく。ファブルのストイックな生活ぶりが際立ち、笑いを誘う。特に、感情を見せないファブルがあるお笑い芸人を見るときだけ破顔するが、このギャップはファンにはたまらないだろう。
クライマックスは岡田准一が身体能力を存分に発揮した見応えたっぷりのアクションシーン。CGやワイヤーだけだなく、スタントさえ使わずに演じきる。ファブルを敵視する殺し屋フードを演じる福士蒼汰もうまくはまり、楽しげにファブルをいたぶっていた。福士蒼汰は主演より、脇で盛り立てる役で良さが引き立つような気がした。(堀)
江口カン監督インタビューはこちらから。
スペシャルトークイベントを取材したスタッフ日記ブログはこちらから。
ほぼ書き起こしはこちらから。
2018年/日本/カラー/シネスコ/123分
配給:松竹
(C)2019「ザ・ファブル」製作委員会
http://the-fable-movie.jp/
★2019年6月21日(金)ロードショー
きみと、波にのれたら
監督:湯浅政明
アニメーション制作:サイエンスSARU
脚本:吉田玲子
総作画監督:小島崇史
音楽:大島ミチル
主題歌:GENERATIONS from EXILE TRIBE「Brand New Story」
声の出演:片寄涼太(雛罌粟港)、川栄李奈(向水ひな子)、松本穂香(雛罌粟洋子)、伊藤健太郎(川村山葵)
向水(むかいみず)ひな子は大学入学を機に海辺の町に引っ越してきた。まだ将来のビジョンも持てないけれど、大好きなサーフィンをしていれば幸せ。ある日火事騒ぎで消防士の雛罌粟港(ひなげしみなと)と知り合い、二人で波を探して出かけるようになった。充実した日々がいつまでも続くと思った矢先、港は海の事故で亡くなってしまう。ひな子はあれほど好きだったサーフィンも海を見ることもできなくなった。二人の思い出の歌を口ずさんだときに、水の中に港が現れる。
湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』(2017)は、中学生男子カイと人魚の女の子ルーとの交流を描いたオリジナルのファンタジー作品。国内外で高評価を受けました。本作もそれに近い雰囲気ですが、主人公の年齢が上がり、湯浅監督が気恥ずかしいとおっしゃっていた(TIFF2018のトークショー)ラブシーンもあります。
前作でもルーが操る水の表現に目を見張りましたが、今回はサーフィンで大いに海と戯れます。後半のアクシデントでも大事な港を連れて行ってしまったのも海ですが、ひな子が力をもらうのもまた海でした。この切ないストーリーには前日譚があり、後で明らかになります。それがさらに、生命や生きること、人とのつながりを深く感じさせました。声をあてた片寄涼太さん、川栄李奈さんが口ずさむ歌が観終わってからもずっと残ります。(白)
2018年/日本/カラー/シネスコ/96分
配給:東宝
(C)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
https://kimi-nami.com/
★2019年6月21日(金)ロードショー
パージ:エクスペリメント(原題:The First Purge)
監督:ジェラード・マクマリー
脚本:ジェームズ・デモナコ
音楽:ケビン・ラックス
出演:イラン・ノエル(ディミトリ)、レックス・スコット・デイヴィス(ナヤ)、ジョイヴァン・ウェイド( イザヤ)、スティーヴ・ハリス(フレディ)、マリサ・トメイ(アップデール博士)
経済が崩壊した21世紀のアメリカで政権を握っていた新政党NFFA(新しいアメリカ建国の父たち)は犯罪率を抑えるため、1年に一晩だけ殺人を含むあらゆる犯罪が合法となる「パージ法」の採用を決めた。反対デモも無視し、アメリカ全土での適用前に、ニューヨークのスタテン島内のみで実験することになった。島に残る島民に用意された賞金は5000ドル。島の住民たちが不安を抱える中、ついにパージ当日がやってくる。島のギャングのボスであるディミトリーは、愛する人を守るためにスタテン島に残ることを決意する。
2013年に第1作が制作された(日本公開は2015年)「パージ」シリーズの第4作。1年に1晩、12時間だけ全ての犯罪が合法化される法律=「パージ法」。この法律がなぜ施行されることとなったのか?その始まりが描かれています。
最悪の実験の被験者たちは、賞金にひかれて残ることを選んだ貧しい人、どこにも行く場所のない人たち。開発したのは暮らしにあえいだ経験もなさそうな富裕な白人たち。島に通じる道は封鎖され、犯罪を楽しみたい暴徒たちが暴れまわる様子を安全なところから監視しています。実験を成功させたい権力者の傲慢にむかつき、一晩中逃げ続けまたは抵抗する住民たちのサバイバルにハラハラさせられます。これまでの作品をまず見るのもよし、始まりを見てから順に見続けるもよし。私は全部観ておりました。作品紹介は以下。(白)
第1作『パージ』http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/422196791.html
第2作『パージ:アナーキー』http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/423007382.html
第3作『パージ:大統領令』http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/448991725.html
2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/98分/R15+
配給:シンカ、パルコ
(C)2018 Universal Pictures
http://purge-exp.jp/
★2019年6月14日(土)ロードショー
ガラスの城の約束 原題The Glass Castle
監督 デスティン・ダニエル・クレットン
製作 ギル・ネッター ケン・カオ
製作総指揮 マイク・ドレイク
原作 ジャネット・ウォールズ
脚本 デスティン・ダニエル・クレットン アンドリュー・ランハム
撮影 ブレット・ポウラク
美術 シャロン・シーモア
衣装 ミレン・ゴードン=クロージャー ジョイ・ハナエ・ラニ・クレットン
編集 ナット・サンダース
音楽 ジョエル・P・ウェスト
出演 ブリー・ラーソン、ウッディ・ハレルソン、ナオミ・ワッツ、マックス・グリーンフィールド
ニューヨーク・マガジンの人気コラムニスト、ジャネットはある日、ホームレス同然の父レックスと再会する。両親は彼女が幼いころ、定職につかず夢を追い求めて気の向くままに生活していて、仕事がうまくいかない父は酒に溺れ、家で暴れた。成長したジャネットは大学進学を機にニューヨークへ旅立ち、両親と関わらないようにしようと考えていた。
掌のような佳編『ショート・ターム』でブレイクしたブリー・ラーソンは、オスカー女優、そしてアメコミヒーローになってもデスティン・ダニエル・クレットン監督への恩を忘れていなかった…。米国で7年間ベストセラーになった著名な自叙伝が原作とはいえ、本作は地味な低予算映画である。しかも、ラーソンは2020年公開予定の映画で三度クレットン監督と、実在の人権弁護士を描いた作品を撮っているという。
富と名声を追い求めるのが常のハリウッドに於いて、ひと筋の爽やかな逸話を感じさせる、この「いい話」が、実は本作の主題と共振している点が面白い。
主人公は定職に就かず酒浸りの父、「ママのアートは永遠に残るのよ」と絵画制作に没頭し、子どもたちの面倒すら見ない母という富と安定に背を向けた両親に育てられた。その日暮らしを続ける父は、独学の物理や天文学を教え、父なりに子どもたちを愛し、いつか「ガラスの城」を建てる夢を語るのだ。
破天荒な父、聡明な娘をウッディ・ハレルソンと、ブリー・ラーソンが、これほどの適役はいないだろうと納得させる説得力で演じる。
クレットン監督の演出は、あくまでも正攻法。危うい暮らしの家族を柔らかく暖かな光線で包み込む。社会の一般通念から逸脱した家族をそのまま肯定しようとする意思を感じる演出だ。
コラムニストとして成功を収め、親との関係を絶った娘、ゴミを漁る境遇になりながらも尊厳を失わない両親のどちらにも共感し、寄り添う姿勢が主題と通底して観客も暖かな気持ちになるに違いない。(幸)
© 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
2017/アメリカ/カラー/シネマスコープ/127分
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
公式サイト:http://www.phantom-film.com/garasunoshiro/
6月14日(金)新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
The Crossing ザ・クロッシング Part II(原題:太平輪 彼岸 The Crossing 2)
監督・脚本:ジョン・ウー
原案:ワン・ホエリン
出演:チャン・ツィイー、金城武、ソン・ヘギョ、ホアン・シャオミン、トン・ダーウェイ、長澤まさみ
1949年、1,000人近い乗客乗員を乗せて上海から台湾へ向かっていた大型客船「太平輪」。船にはユイ・チェン(チャン・ツィイー)、イェン・ザークン(金城武)、トン・ターチン(トン・ダーウェイ)が、それぞれに違う目的で乗船していた。深夜、付近を航海中の貨物船と衝突した事で船内はパニックに陥り、それまでお互いを知る事の無かった男女の3組の運命が交差する―
1945年国共内戦下の中国が舞台。Ⅰでは戦場の描写が多かったが、Ⅱでは純愛の側面にフォーカス。戦争によって引き裂かれた男女たちの届かない想い、切ない叫びが聞こえてくる。クライマックスは上海から台湾に向かう客船の沈没シーン。非常時とはいえ、とんでもないほどの人と貨物を載せて出発したこともさることながら、乗務員の常軌を逸した気の緩みに絶句。海に投げ出された人々の阿鼻叫喚ぶりに驚くが、それぞれの愛をうまく着地させた脚本に心が安らいだ。
ところで、ジョン・ウーといえば白い鳩と二丁拳銃が必ず出てくることで有名。本作でも、「ここはカモメでは?」という場所に鳩が飛んでいた。しかし、二丁拳銃を見落としてしまった! どなたか、ご覧になったらぜひチェックして、コメントでお知らせいただけると幸いです。(堀)
国共内戦が激しくなり、台湾に逃れようと上海の港に停泊している船に殺到する人たちの姿を観て、にわかに思い出した映画があった。タイトルが思い出せなくて、居心地が悪かったのだが、やっと思い出せた。1991年に日本で公開された『レッドダスト』。監督はイム・ホー。ブリジット・リン演じる女性作家と、日本への協力者として忌み嫌われていた男(シン・ハン)。1938年、日中戦争の時期から、1945年の日本敗戦後の国民党と共産党の内戦、1949年、国民党が台湾脱出するまでの時期を背景にした恋の物語。ラストが人々が船に殺到する場面だった。『レッドダスト』を、今再び観たくなった。
そして、本作で描かれた台湾の部分では、戦前、基隆に住んでいた亡き母のことを思い出した。細い入江が深く入り込んだ基隆港は天然の良港。本作では船が基隆に着く場面が出てきた。
外国航路の船長をしていた母方の祖父は、家族と過ごせる水先案内人の仕事を基隆港に見つけ、昭和6年から終戦まで基隆に住んでいた。高収入の仕事で、北投温泉にも別荘を持っていたそうだ。本作では、日本人が去った後の屋敷が出て来る。母が暮らした基隆の家は戦後もそのままあったのを台湾人の同級生から聞いたという。母たちが去った後、どんな人たちが住んだのだろう。そんなことにも思いを馳せた。
ジョン・ウー監督、壮大な物語を多謝~! (咲)
2015年/中国/カラー/126分
配給:ツイン
©Beijing Galloping Horse ・ All Rights Reserved.
公式サイト:http://thecrossing.jp/
★2019年6月14日(土)シネマート新宿・心斎橋他にてロードショー!