2019年06月29日

田園の守り人たち(原題:Les Gardiennes) 

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監督・脚本:グザヴィエ・ボーヴォワ
原作:エルネスト・ペロション
脚本:フレデリーク・モロー
脚本・編集:マリー=ジュリー・マイユ
撮影:キャロリーヌ・シャンプティエ
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:ナタリー・バイ、ローラ・スメット、イリス・ブリー、シリル・デクール

第一次世界大戦下のフランス。ミレーの絵画を思わせる美しい田園風景。2人の息子を西部戦線に送り出した農園の未亡人オルタンス(ナタリー・バイ)は、やはり夫を戦場にとられている娘ソランジュ(ローラ・スメット)とともに、冬を前に種まきに備えなければならない。オルタンスは若い働き手フランシーヌ(イリス・ブリー)を雇い入れる。誠実な彼女は女主人の信頼を得て、家族同然に暮ら始める。女たちだけでなく、前線から一時休暇で帰ってくる次男ジョルジュ(シリル・デクール)もまた慎ましやかなフランシーヌに惹かれてゆく。

第30回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門出品(TIFF上映タイトルは『ガーディアンズ』)

女はたくましい。特に子を守る母の強さを強烈に感じる作品だった。ラストに流れた歌の歌詞は男を頼らず生きていく女の強い意志を感じさせる。が、愛を信じる幸せも切り捨てないでほしいと思う。
家を守る母親にナタリー・バイ。先を見越して的確な決断ができるが、時に理不尽を承知で信頼する使用人を切り捨てる気丈さを持つ。背筋が伸ばして毅然とした表情からそれがにじみ出ていた。使用人を演じたのは新人女優のイリス・ブリー。奉公先の次男と初めて愛を交わした日の夜、ひとり振り返って微笑む顔は愛の喜びにあふれていた。新人とは思えない演技に将来が楽しみである。
残された女性たちが畑を守る姿は戦時下の日本と似ている気がした。子どもたちが学校でドイツ兵を罵るシーンは鬼畜米英という言葉を思い出す。(堀)


2017年/フランス=スイス映画/シネマスコープ/カラー/135分
配給:アルバトロス・フィルム
(C) 2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse
公式サイト:http://moribito-movie.com/
★2019年7月6日(土)岩波ホールほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 09:50| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Diner ダイナー

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監督:蜷川実花
原作:平山夢明『ダイナー』(ポプラ社「ポプラ文庫」)
脚本:後藤ひろひと 杉山嘉一 蜷川実花  
音楽:大沢伸一
出演:藤原竜也、玉城ティナ、窪田正孝、本郷奏多、武田真治、斎藤 工、佐藤江梨子、金子ノブアキ、小栗旬、土屋アンナ、真矢ミキ、奥田瑛二

日給30万の怪しいアルバイトに手を出したオオバカナコ(玉城ティナ)は、ある<食堂>にウェイトレスとして売られてしまう。そこは命がゴミのように扱われる、殺し屋専用のダイナー。店主は元殺し屋で天才シェフのボンベロ(藤原竜也)。「俺はここの王だ。砂糖の一粒まで俺に従う」と言い放つが、料理の腕は一流。殺し屋たちが次々と店にやってくる。オーダーは極上の料理か、殺し合いか。店主、ウェイトレス、殺し屋たち。跡目争いも絡み、新たな殺し合いが始まる。

舞台は殺し屋専門の食堂。殺るか殺られるか。一瞬の迷いが分かれ目。豪華な出演者が次々と消えていく。推し俳優がいる人は目を凝らして、しっかり見てほしい。
蜷川実花監督らしい極彩色の装飾とシェフが作り出す料理のしずる感が相まって狂気の世界に引き込まれる。殺し屋たちを束ねるマフィアのボスは蜷川幸雄。シェフのボスへの叫びはそのまま蜷川幸雄への藤原竜也の思いだろう。「存在意義は他人ではなく自分が決める」。この、カナコへのアドバイスも心にしみる。
見せ場はシェフの華麗なアクション。状況を的確に判断する姿にうっとり見入ってしまいそう。ラスボスは意外な人物だったが、2人が繰り広げる死闘はダンスのように美しい。(堀)


2019年/日本/カラー/117分
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2019 「Diner ダイナー」製作委員会
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/diner-movie/
★2019年7月5日(金)ロードショー

posted by ほりきみき at 09:48| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゴールデン・リバー(原題:The Sisters Brothers)

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監督:ジャック・オーディアール
原作:「シスターズ・ブラザーズ」パトリック・デウィット (創元推理文庫刊)
出演:ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッド

時はゴールド・ラッシュ、アメリカ・オレゴンのとある町に、最強と恐れられる殺し屋兄弟がいた。兄の名前はイーライ(ジョン・C・ライリー)、弟はチャーリー(ホアキン・フェニックス)。彼らに与えられた新たな仕事は、連絡係のモリス(ジェイク・ギレンホール)が捜し出すウォーム(リズ・アーメッド)という男を始末すること。ウォームは化学者で、金を見分ける“予言者の薬”を作る化学式を発見したのだ。黄金を元手に暴力や貧富の差のない理想の社会を作りたい化学者、そんな彼の夢に心酔する連絡係、普通の平穏な暮らしに憧れる兄、裏社会でのし上がりたい弟。それぞれが思惑を抱きながらも手を結ぶことに。そして、彼らは黄金を手に入れるが、過ぎた欲望が歯車を狂わせていく。

お人好しなところがある兄とスイッチが入ると止まらない弟。無敵を誇る殺し屋2人がゴールド・ラッシュに群がる男たちに翻弄される。西部劇の様相を呈しているが、描いているのは兄弟の絆。どんな時でも見捨てない。思いも寄らぬ方向に転がった先にあるラストは兄が求めた未来と重なった。
ところで、ポスタービジュアルを見ると男4人の物語のようだが、原題は『The Sisters Brothers』。「姉妹? 兄弟? 何?」と不可解に思う人がいるかもしれない。実はイーライとチャーリーの苗字がSistersで、シスターズ家の兄弟の話という意味。私はこれをわかっていなかったので、モリス(ジェイク・ギレンホール)とウォーム(リズ・アーメッド)の扱いが軽すぎると思っていたのだが、これは大きな勘違い。(堀)



今やフランスの名匠となったジャック・オーディアールは、筆者にとって”打率100%”の監督だ。2003年公開の『リード・マイ・リップス』で衝撃を受け、『天使が隣で眠る夜』(’95)も遡って観た。以降、『真夜中のピアニスト』『預言者』『君と歩く世界』などなど発表される度に期待が裏切られることはない。
暴力性と繊細な感情、愛僧、魂の彷徨といった娯楽要素と作家性を絶妙に併せ持っている。全ての監督作で脚本も手掛けており、構成力、執筆能力、演出面、キャスティングセンス…、映画人としての持つべき資質を高い次元で示す得難い監督なのだ。

そのオーディアールが初めて製作した英語劇なのだから、注目せざるを得ない。しかもハリウッドの伝統芸(?)の西部劇。ゴールドラッシュの利権を巡る剥き出しの欲望が渦を巻く。
身体の一部欠落というオディアール特有の人物造形は本作でも4人の登場人物たちに上手く配し、活かされている。脂ぎった男の物語と思いきや、探し求めていた理想郷を母親に暗喩的な意味を込める点は、上手い!と唸らされた。(幸)




2018年/アメリカ・フランス・ルーマニア・スペイン合作/カラー/120分
配給:ギャガ
(C) 2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/goldenriver/
★2019年7 月 5 日(金) TOHO シネマズ シャンテ他全国ロードショー
posted by ほりきみき at 09:46| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤 滋

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監督:伊勢真一
撮影:石倉隆二、宮田八郎、安井洋一郎
短歌朗読:友部正人
出演:遠藤滋、「結・えんとこ」介助者のみなさん

脳性マヒで34年間寝たきり生活を強いられながら介助者たちの力を借りて生きる、伊勢真一監督の学生時代の友人、遠藤滋の日々を3年間にわたって追ったドキュメンタリー。

遠藤滋
1947年静岡県生まれ。1歳の頃、脳性マヒと診断される。立教大学文学部卒業後、母校の光明養護学校(現都立光明学園)の教員となる。現在は在宅で24時間の介助が必要で、自ら「結・えんとこ」を組織し介助者たちの力を借りて自立生活を続けている。東京都世田谷区のアパートの一室、「えんとこ」のベッドの上から、社会や自分自身を凝視するその眼差しで、50代から短歌を詠み始める。

寿司を食べ、酒を飲む。バースデーケーキのロウソクを消す。介助を受けて泳ぐ場面には、そんなこともできるんだと驚いた。チャレンジ精神旺盛で、大泉洋主演の映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』を思い出す。
辛い現実を受け入れつつ、私たちと同じ感覚を持っている。そんな彼の短歌は心が弱っているときの特効薬かもしれない。(堀)


2019年/日本/カラー/ハイビジョン(16:9)DCP・HDV・DVカム・ブルーレイ・DVD/96分
配給:いせフィルム
© iseFilm all rights reserved
公式サイト:https://www.isefilm.com/
★2019年2019年7月6日(土)~26日(金) 連日 午前10時00分〜 1回上映
新宿・K’sシネマにて公開


※連日上映後、ゲストと伊勢真一監督のトークあり
7/6(土)遠藤滋さん(出演者)
7/7(日)原一男さん(映画監督)
7/8(月)ときたま(土岐小百合)さん(アーティスト)
7/9(火)伊藤俊也さん(映画監督)
7/10(水)ロベルト吉野さん(介助者・ミュージシャン)
7/11(木)西村信子さん (映画『奈緒ちゃん』のお母さん)
7/14(日)宍戸大裕さん(映画監督)
7/15(月祝)谷ぐち順さん(介助者、ミュージシャン)
7/16(火)細谷亮太さん(小児科医、俳人)
7/17(水)菅原雄大さん(介助者・ミュージシャン)・ 藤原亮さん(介助者・ミュージシャン)
7/18(木)遠藤滋さん(出演者)
7/21(日)飯田光代さん(優れたドキュメンタリー映画を観る会)
7/23(火)金聖雄さん(映画監督)
7/24(水)白崎映美さん(ミュージシャン)
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2019年06月27日

サマーフィーリング 原題:Ce sentiment de l'ete

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監督:ミカエル・アース
脚本:ミカエル・アース、マリエット・デゼール
撮影:セバスティアン・ブシュマン
編集:マリオン・モニエ
音楽:タヒチ・ボーイ  
出演:アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ジュディット・シュムラ、マリー・リヴィエール、フェオドール・アトキーヌ、マック・デマルコ、ドゥニア・シショフ、ステファニー・デール  

夏真っ盛りのある日。30歳のサシャは突然この世を去る。彼女の死は、ある二人の見知らぬ者同士を出逢わせる。サシャの恋人ローレンスとサシャの妹ゾエ。突然の別れとなったベルリン。深い悲しみが残るパリ。少しずつ自分の生活を取り戻すニューヨーク。三度の夏、三つの都市。愛した人の思い出と幾つもの美しい景色の中で、遺された者たちは少しずつ人生の光を取り戻していくーー。

フランスでしか生まれ得ない佳編『アマンダと僕』で鮮烈な印象を残したミカエル・アース監督4年前の長編監督第2作である。16ミリフィルム・オールロケで撮影された本作も『アマンダと僕』同様、柔らかな光線、豊かで明るい色彩と自然光を取り入れることによって登場人物たちの心象風景を見事に描出している。

テーマの主軸となるのは『アマンダと僕』を想起させる喪失と再生である。2作に共通する点は多い。母性的な面から気付いたのは、子役の扱いが実に巧みな監督だということ。『アマンダ〜』では少女、本作の少年も台詞を与えられて喋っているとは思えない滑らかさで大人と会話し、存在する。子役の演技の不自然さに引っかかり、映画に没頭できない経験はしばしばあるが、アース監督作品ではその心配はない。

舞台は、ベルリン、パリ、ニューヨーク、3都市で時を遷移しながら、映す季節は常に夏。公園、海辺、新緑、散歩、自転車…。話す言語やちょっとした小道具、摩天楼といった背景がなければ、登場人物たちは同じ世界を彷徨しているようにも見える。

涼風、空気感まで流れてくる気がするのは、フランスの名匠エリック・ロメールの作風を踏襲しているせいか。日常に沈殿する哀しみも弾ける歓びも、殊更に強調されず、淡々と運ばれる演出が心地好い。
フランス映画ファンには懐かしい『緑の光線』のマリー・リビエール、『女の一生』での好演が記憶に新しいジュディット・シュムラなど、フランス映画に登場する女優は本当に魅力的だ。主演のアンデルシュ・ダニエルセン・リーはノルウェー生まれ。医師、作家、ミュージシャンでもある才人。今後は要注目したい。(幸)


2015年/フランス・ドイツ//カラー/106分
配給:ブロードウェイ   
©Nord-Ouest Films - Arte France Cinéma - Katuh Studio - Rhône-Alpes Cinéma
公式サイト:https://summerfeeling.net-broadway.com/
7月6日(土)より全国公開
posted by yukie at 14:52| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Girl/ガール 原題:Girl

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監督・脚本:ルーカス・ドン
振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ
出演:ビクトール・ポルスター、アリエ・ワルトアルテ

15歳のトランスジェンダー、ララは娘の夢を応援する父に支えられ、バレリーナを目指して難関のバレエ学校への編入を果たす。それと同時にララが待ち望んでいたホルモン療法も始まるが、効果はなかなか現れなかった。それでも夢のためにバレエに没頭し、そのかいもあって先生の目も少しずつララに向けられるようになる。

近年、トランスジェンダー役をシスジェンダー(身体的性別と性同一性が一致している人)が演じることへの批判が起きているようだ。が、そうした議論は観客にとって関係ない。トランスジェンダーであろうと、シスであろうと肝心要はその俳優が「役を生きているかどうか」だ。本作の主役であるビクトール・ポルスターが現実にはシスであっても「ララ」その人にしか見えない。それほどに、本作に於けるララとビクトールは一体化している。

少女の繊細な感情を生理的な面にも目を逸らさず演出した監督・脚本のルーカス・ドンは、これが長編デビュー作とは思えない安定感を見せる。また、完璧なララ像を造形し得たビクトール・ポルスター無しでは成立しなかった秀作だろう。

成長期にあって、男性性器をレオタードの中に収める苦しさ、テーピングの痛さ、トイレやシャワールーム、あらゆる場所でララの身心を疼痛と困難が駆けめぐる。豆だらけで血まみれになった爪先…。カメラは容赦なくトランスジェンダーが立ち向かう過酷な”日常”を映し出す。飛び散る汗、涙。これほど身体性を痛痒させる青春映画は少ないのではないか。

主人公の痛みを家族や周囲の理解が支える展開が救いだ。本作は第71回カンヌ国際映画祭〈カメラドール〉(新人監督賞)を受賞した。ルーカス・ドンは、ベルギーを超越した新世紀映画界の監督となる大器の予感がする。(幸)


2018年/ベルギー/カラー/105分
©︎Minuet 2018
配給 クロックワークス、STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト: http://girl-movie.com/
7月5日(金)より全国公開
posted by yukie at 13:43| Comment(0) | ベルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月23日

シード ~生命の糧~ 原題 Seed: The Untold Story

2019年6月29日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

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監督:タガート・シーゲル、ジョン・ベッツ
プロデュース:タガート・シーゲル、ジョン・ベッツ
製作総指揮:マリサ・トメイ、マーク・タートルトーブ、フィル・フェアクロフ
音楽:ガース・スティーブンソン, ベンジー・ワースハイマー、ガイア
編集:ガート・シーゲル、ジョン・ベッツ
出演:ヴァンダナ・シヴァ、ジェーン・グドール、ウィノナ・ラデューク、ラージ・パテル、ウィル・ボンソール、イグナシオ・チャペラ、ビル・マクドーマン、マリア・チャム 他

20世紀中に種子の94%が消滅 種子の多様性が失われている
種は未来に実りをもたらすタイムカプセル

人類の命の元というべき種は、1万2000年以上もの間、世界中の人々によって大切に受け継がれてきた。しかし20世紀中に種子の94%がすでに消滅しているという。気候変動や、世界の種子市場を多国籍企業が独占するようになったことが大きな要因という。
市場には遺伝子組換え作物(GMO)が登場し、多くの国々で農家が種子を保存し、翌年蒔くことが禁止されるようになった結果、古くからの農業の伝統が途絶え、種子の多様性が失われてきた。
そんな中、世界中で立ち上がった「種の守り人たち」がいる。在来種が失われ続けている今、人類の未来の糧を守るため世界中の種の守り人(シードキーパー)たちが挑戦を続けている。そんな人々を訪ねたドキュメンタリー。
「種子は私たちの子孫」とトウモロコシの種を守り続けるアメリカの先住民。人類の終末に備え最大300万種の種を貯蔵できるシードバンク、スヴァールバル世界種子貯蔵庫に種子を保存する人々。ヴァンダナ・シヴァ、ジェーン・グドールなど著名な活動家と種子の多様性を守る方法を探る。

種は生命の源。こんなにもたくさんの種が消滅してしまっているということにびっくり。
農業や家庭菜園をやっている人たちと話したとき、今は企業が管理している種を使わないといけない構造になっているというようなことを言っていた人がいて、「どうして?」と思っていたのですが、個人で作っている作物でもそうなんだろうか?とも思ったけど、1代限りの交配種(F1)より、種から次世代の種が続いていく固定種のほうがいいはずなのに、生産性を優先させたF1というのが多いらしい。
我が家で家庭菜園をやっていたときは、種を取って次の年用に植えていたから、意識せずに固定種だったのかもと、今となってはそう思う。種子を守るために、こんなにもたくさんの種子が保存されているとは思ってもみなかった(暁)。


公式HP http://unitedpeople.jp/seed/
配給:ユナイテッドピープル
制作:Collective Eye Films
2016年/アメリカ/94分
posted by akemi at 21:50| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

今年も長編ドキュメンタリー映画『ひめゆり』が上映されます

2019年6月22(土)~28(金) 連日20:30~
ポレポレ東中野 TEL:03-3371-0088

長編ドキュメンタリー映画『ひめゆり』は沖縄慰霊の日特集として、今年も上映されます。
柴田昌平監督から案内をいただきました。

製作・配給:プロダクション・エイシア
企画・監督:柴田 昌平
撮影:澤幡 正範 川崎 哲也 川口 慎一郎

【舞台挨拶決定】
6/22(土)、6/23(日・沖縄慰霊の日)、6/28(金)
本作監督またはプロデューサーによる舞台挨拶があります。

【日本語字幕付き上映】6/26(水)
聴覚障害をお持ちの皆様もご覧いただけます

チケット情報など詳細はこちらから。
http://www.mmjp.or.jp/pole2/

公式HPより

今なぜ 『 ひめゆり 』 なのか・・・。

1994年、戦後50年を迎えようとしている時期、人づてに「ひめゆりの人たちが体験をきちんと記録したがっている」という話を聞きました。「なぜ?」私には意外でした。というのも、ひめゆりについての映画やテレビ番組はそれまで何度も制作されていたので、今さらなぜなのだろう、と素朴に思ったのでした。
「ひめゆり」という言葉は、私たちや上の世代の人にとっては必ずどこかで耳にしたことがある名前です。繰り返し映画やテレビ、舞台で取り上げられ、「沖縄戦における悲劇の従軍看護婦たち」というイメージが定着しています。「聖なる人々、殉国美談、反戦の語り部・・・」さまざまな概念が「ひめゆり」には付着していて、私自身には重すぎるとそれまで避けていたテーマでした。知った気にもなっていました。
しかし実際にお会いしてみると、私がわかったつもりになっていたのは余りに表面的なことにすぎないということに愕然としました。何よりも、生存者お一人お一人が実に個性的だということに驚きました。テレビの映像で観るときに感じていた “決まり文句のように悲劇の体験を伝える語り部の人々” というイメージが崩れました。
「まもなく私たちは70歳になります。いつまで生きていられるか分かりません。私たちの体験をきちんとした形で映像で記録できないでしょうか。遺言として残したいのです」
生存者の方々から言われました。
ひめゆり学徒たちの思いと体験は、マスコミなど伝える側の思いが強すぎ却ってきちんと耳を傾けてもらえなかったり、断片として切り取られ伝えられることが多かったのです。
沖縄の親戚の家に泊まりこんで、彼女たちの証言にじっくりと耳を傾ける日々が始まりました。
私はひたすら受容体となりきろう、皆さんが話したいことを話し終えるまではじっと耳をすまそうと思いました。
カメラマンの澤幡さんが優しい目線でずっとカメラを回しつづけてくれます。その後も折に触れて、体験の記録をしてきました。13年間にわたって記録した証言は、22人、約100時間分になります。
映画の完成を待たずに3人の方が他界され、2人は病気で自由に外出できなくなりました。
ひめゆり学徒の生存者の皆さんは今、80歳前後となりました。
彼女たちの眼の黒いうちにしっかりとした映画として世に出したいという思いで、この作品を皆さんに問うことにいたしました。
語られている内容は過去ですが、語っている切実さは 「今」 にそのままつながっています。
過酷な記憶を掘り起こし、自らの言葉にするまで、彼女たちには数十年の月日が必要でした。
戦争体験から受ける印象は悲惨です。
しかし、ひめゆりの生存者からはしっかりと生きている強さを感じます。
それは彼女たちの根っからの明るさ、やさしさ、そして生命への信頼感があるからです。
この映画は、今を生きる私たちに多くの示唆と希望を与えるものと信じます。                           
監督 柴田昌平

プロダクション・エイシア(映画『ひめゆり』を観る会)
tel: 042-497-6975
映画『ひめゆり』公式HP http://www.himeyuri.info/
posted by akemi at 21:39| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

COLD WAR あの歌、2つの心  原題:Zimna wojna

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監督・脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ((『イーダ』)
出演:ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ、ボリス・シィツ、ジャンヌ・バリバール、セドリック・カーン 他

1949年、ポーランド。ピアニストのヴィクトルは、国立舞踊団立ち上げの為、才能ある少年少女発掘の命を受けて訪ねた先で、ズーラという少女に心を奪われる。父親殺しで執行猶予中と知り驚くが、才能を見込んで舞踊団に抜擢する。舞踊団の花として成長したズーラと激しい恋に落ちるヴィクトル。冷戦下で禁じられているジャズを捨てられないヴィクトルは、ズーラと共にパリへの亡命を決意する。約束の場所にズーラは現われず、一人でパリに赴く。その後、舞踊団のパリ公演でズーラと再会するヴィクトル。二人の運命は?

ポーランド、東ベルリン、パリ、ユーゴスラビアを舞台に、別れと再会を繰り返すヴィクトルとズーラの15年。まさに冷戦という時代に翻弄された二人の仲。それだけに二人の思いは激しく揺れ動く。民族音楽、クラシック、ジャズ等々、様々な音楽が映画を彩る。モノクロームの映像も哀愁を漂わせる。自由な時代だったなら、これほどまでに狂おしい気持ちになっただろうかとも、ふと思う。心に深く残る一作。(咲)

2018年/ポーランド・イギリス・フランス/ポーランド語・フランス語・ドイツ語・ロシア語 /モノクロ / スタンダード / 5.1ch / 88分 / DCP
配給:キノフィルムズ・木下グループ /
後援:駐日ポーランド共和国大使館、ポーランド広報文化センター、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
© OPUS FILM Sp. z o.o. / Apocalypso Pictures Cold War Limited / MK Productions / ARTE France Cinéma / The British Film Institute / Channel Four Televison Corporation / Canal+ Poland / EC1 Łódź / Mazowiecki Instytut Kultury / Instytucja Filmowa Silesia Film / Kino Świat / Wojewódzki Dom Kultury w Rzeszowie
公式サイト:https://coldwar-movie.jp/
★2019年6月28日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町 ヒューマントラストシネマ渋谷 他 全国ロードショー





posted by sakiko at 09:42| Comment(0) | ポーランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月22日

ニューヨーク 最高の訳あり物件(原題:Forget About Nick)

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監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演:イングリッド・ボルゾ・ベルダル、カッチャ・リーマン、ハルク・ビルギナー

マンハッタンの超高級アパートメントで暮らすモデルのジェイド(イングリッド・ボルゾ・ベルダル)は、デザイナーとしての華々しいデビューを企画していた。ところが、スポンサーでもある夫のニック(ハルク・ビルギナー)から一方的に離婚を告げられた。傷心の中、さらに夫の前妻のマリア(カッチャ・リーマン)が転がり込み、部屋の所有権の半分は自分の物だと主張し居座り始める。同じ男と結婚したこと以外は、ファッションもライフスタイルも性格も、すべてが正反対のジェイドとマリアはぶつかり合ってばかり。そんな折、ジェイドのブランド経営が暗礁に乗り上げる。ジェイドは部屋を売って資金に充てようとするが、マリアの返事はもちろんノー。争いはますますヒートアップしていく。だが、積年の想いをぶつけ合う二人は、自分たちの特殊だけれど特別な絆に気付き始めるのだった。

第30回東京国際映画祭(2017年)コンペティション部門上映作品で、映画祭上映時は『さようなら、ニック』と違うタイトルだったので、同じ作品とは思わず、見てしまった。
略奪婚したジェイドが略奪されたところからのスタート。ジェイドは結婚しても体型維持のために努力と我慢を厭わず、仕事も家事も完璧。いろいろな意味での美に対して気を抜くことがない。それは略奪婚した以上、いつかはされる側になるかもしれない不安があったからではないか。東京国際映画祭で見たときは、「自業自得よね」とジェイドに何の共感もできなかったが、不倫の責任は女性ではなく男性が問われることなのかもしれないと思えてくる。もちろん、不倫は絶対に許せないのだが。
しかし、本作は現妻と元妻のどろどろの争いを描くのではなく、元妻のジェイドと元々妻マリアのぶつかり合いをコミカルに取り上げながら、男のクズっぷりを浮かび上がらせる。マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の着眼点は興味深い。
ところで、タイトルの「ニューヨーク 最高の訳あり物件」はジェイドが売り出した、自らが住むマンハッタンの超高級アパートメントのことだが、ジェイドもある意味、“ニューヨーク 最高の訳あり物件”かもしれない。(堀)


2017年/ドイツ/カラー/スコープ/5.1ch/110分
配給:ギャガ
© 2017 Heimatfilm GmbH + Co KG
公式サイト:https://gaga.ne.jp/NYwakeari/
★2019年6月29日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

posted by ほりきみき at 19:13| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ペトラは静かに対峙する(原題:Petra)

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監督・脚本:ハイメ・ロサレス
撮影監督:エレーヌ・ルヴァール
出演:バルバラ・レニー、アレックス・ブレンデミュール、ジョアン・ボテイ、マリサ・パレデス

カタルーニャ州ジローナにある著名な彫刻家・ジャウメ(ジョアン・ボテイ)の邸宅に、画家のペトラ(バルバラ・レニー)がやってくる。ジャウメの妻・マリサ(マリサ・パレデス)に「アトリエでジャウメと作品制作をする」と挨拶するペトラだが、彼女の本当の目的はジャウメが自らの実の父親かどうか確かめることだった。創作活動のかたわら、マリサや、ジャウメの息子で写真家のルカス(アレックス・ブレンデミュール)、ジャウメ一家の家政婦・テレサとその家族など、ジャウメの周囲の人間と親交を深めていくペトラ。そのうちに、彼が権力を振りかざす、冷酷な人物であることが浮き彫りになってくる。ある日、テレサが謎の自殺を遂げる。皆が悲しみに暮れるなか、テレサの死に関係する、父ジャウメの非道な秘密を知ってしまったルカスは家族のもとから去っていく。やがてペトラは一家の悲劇の連鎖に巻き込まれていくのだった。

父を知らずに育った女性画家が高名彫刻家を父ではないかと探る。そこで起きた悲劇の連鎖。血の繋がりは無意識に気がつくものなのか。時系列を崩した構成が何気ないことを伏線のように際立たせ、物語を盛り上げる。この手法、噂話に似ていないだろうか。印象に残ったところをまず語り、後からそこに至る過程を説明する。監督は噂話をするときの人の心理がよくわかっているのを感じた。
主演のバルバラ・レニーは『マジカル・ガール』(2014年)でゴヤ賞主演女優賞を獲得し、本作でヨーロッパ映画賞最優秀女優賞にノミネートされた。彫刻家の妻役を演じたマリサ・パレデスは2018年に名誉ゴヤ賞を受賞したスペインの大女優。その2人に引けを取らない演技で彫刻家の驚くような下衆ぶりを表現したのがジョアン・ボテイ。元々はエンジニアで、77 歳にして本作で演技デビューしたという。このリアリティのある存在感は新人とは思えない。(堀)


2018 年/スペイン、フランス、デンマーク/スペイン語、カタルーニャ語/カラー/シネマスコープ/5.1ch/107 分
配給:サンリス
©2018 FRESDEVAL FILMS, WANDA VISIÓN, OBERON CINEMATOGRÀFICA, LES PRODUCTIONS BALTHAZAR, SNOWGLOBE
公式サイト:http://www.senlis.co.jp/petra/
★2019年6月29日(土)より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
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ハッピー・デス・デイ(原題:Happy Death Day)

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監督:クリストファー・ランドン
製作:ジェイソン・ブラム
脚本:スコット・ロブデル
撮影:トビー・オリバー
編集:グレゴリー・プロトキン
音楽:ベアー・マクレアリー
出演:ジェシカ・ロース、イズラエル・ブルサード ほか

女子寮に暮らす女子大生のツリー(ジェシカ・ロース)は誕生日の朝、昨晩を共にしたのであろう男子学生カーター(イズラエル・ブルサード)のベッドで頭痛とともに目を覚ます。しかし、その日はいつもと違っていた。慌ただしくルーティンをこなし、夜になってパーティに繰り出す道すがら、マスクをかぶった殺人鬼に刺し殺される。しかし我に返ると、再び誕生日の朝で、カーターの部屋で目を覚ますのであった。

ビッチな女子大生ツリーが殺されるが、タイムループに入り込み、何度も最後の日を繰り返す。人の気持ちを思いやることのなかったツリーが繰り返しの中で犯人を探しつつ、自身も変わっていく。嫌悪感がいつのまにか共感に変わり、応援していた。主演のジェシカ・ロースの振り切った演技が素晴らしい。殺されたときの恐怖を引き継いで目覚めるのだが、苦痛に満ちた変顔は毎回強烈である。(堀)

時間は過ぎていくばかり。戻したくとも戻せません。だからタイムマシンやタイムループのストーリーが大好きです。しかーし、毎回毎回殺されるのでは、楽しみどころか悪夢のループ。これは勘弁!と腰が引けますが、主人公の女子大生ツリーは思いがけない反撃にうって出ます。このジェシカ・ロース、ウエーブかかった金髪に下着同然のトップス、思い切り短いボトムスと、絵に描いたような遊び人。この人『ラ・ラ・ランド』でエマ・ストーンと並んで踊ってた美人の一人でしたね。1987年生まれだそうですが女子大生役、でもアップになってもすっぴんでも綺麗です。
本作は、絶叫系ですが、笑える箇所がたくさん。とにかく繰り返すので、こちらもセリフと手順が刷り込まれます(笑)。本作がスマッシュヒットを放ち、『ハッピー・デス・デイU2』ができました。続いて公開されるので、最初のこちらをしっかり見ておいてくださいね。
試写室を出たらベビーマスク(仮名)に襲われました!(爆)(白)

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2017年/アメリカ/カラー/96分
配給:東宝東和
(C) Universal Pictures
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/happydeathday
★2019年6月28日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
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無双の鉄拳(原題:Unstoppable)

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監督・脚本:キム・ミンホ
武術監督:ホ・ミョンヘン
出演:マ・ドンソク、ソン・ジヒョ、キム・ミンジェ、パク・ジファン

一度キレたら誰にも止められない“雄牛”という異名で恐れられた男ドンチョル(マ・ドンソク)。今では市場で働きながら、愛する妻ジス(ソン・ジヒョ)と慎ましやかに暮らしている。一途なジスの存在が、荒んだ生活を送っていたドンチョルを闇の世界から戻してくれた。ある夜、些細な諍いでジスを怒らせてしまったドンチョルは急いで自宅に戻るが、そこにジスの姿は無く部屋が荒らされていた。そして、ドンチョルの携帯に何者かから電話が入る。電話の主はジスを誘拐したと言うが、ドンチョルに身代金を要求するのではなく、逆に金を渡すからジスの事は忘れろと提案してくる。誘拐犯の目的は一体何なのか。警察の捜査はままならず、怒りに震えるドンチョルはジスを救うために独自で動き出すが―。

無敵の拳を封印していた荒くれ者が誘拐された、愛する妻奪還のため全てをなぎ倒していく。闇社会では「雄牛」の異名で恐れられたが、妻には頭が上がらない役どころをがっしりしたマ・ドンソクが体をすぼめてコミカルに魅せ、緩急ある展開に。どんでん返しのラストでみんながハッピーになるのがうれしい。(堀)

2018年/韓国/カラー/シネマスコープ/51.ch/116分
配給:アルバトロス・フィルム
(C) 2018 SHOWBOX, PLUSMEDIA ENTERTAINMENT AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://musou-tekken.com/
★2019年6月28日(金)よりシネマート新宿・心斎橋他全国順次ロードショー
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今日も嫌がらせ弁当

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監督・脚本:塚本連平
原作:「今日も嫌がらせ弁当」ttkk(Kaori)(三才ブックス刊)
主題歌:フレンズ「楽しもう」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
出演:篠原涼子、芳根京子、松井玲奈、佐藤寛太、佐藤隆太

シングルマザーのかおり(篠原涼子)は、自然と人情が豊かな八丈島で、次女の双葉(芳根京子)と暮らしている。可愛い娘が高校生となり反抗期に突入、話しかけても返事すらしない。かおりは娘の嫌がる“キャラ弁”を作り続けて逆襲するが、娘もまた「ウザい」とぼやきながらも、何かを受け取るように一口も残さず食べ続ける。やがてそのお弁当は、母から娘への大切なメッセージへと変わっていく。

原作の「今日も嫌がらせ弁当」ttkk(Kaori)(三才ブックス刊)はttkkさんの人気ブログ「ttkkの嫌がらせのためだけのお弁当ブログ」を書籍化したもの。原作に惚れ込んだ塚本連平監督が自ら脚本を書き、映画化権を獲得したという。私も同じ年頃の娘のためにお弁当を作っていたので、リアルタイムにブログを知っていた。卒業式のお弁当は朝日新聞に写真付きで取り上げられていたのを覚えている。作品ではフードコーディネーターがお弁当を作っているのだが、原作者が作り方を教え、撮影がまきになったときは手伝いに入ったそう。あのお弁当が見事に再現されていた。
ストーリーとしてはさまざまな年代の女性にリサーチを重ね、1年半かけて脚本を完成。リアリティにあふれた母と娘の物語となった。そこに、シングルファーザーの奮闘ぶりも加え、女性だけでなく男性目線でも楽しめる。嫌がらせという言葉とは裏腹に母の愛情たっぷりの物語を自分のことを振り返りながら余韻を楽しんでほしい。(堀)


2019年/日本/カラー/106分
配給:ショウゲート
©2019「今日も嫌がらせ弁当」製作委員会
公式サイト:http://www.iyaben-movie.com/
★2019年6月28日(金)全国ロードショー
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モデル 雅子 を追う旅 (原題:Masako, mon ange.)

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監督・プロデューサー:大岡大介
出演:雅子
インタビュー出演(登場順):遠藤真理、安珠、富川淳子、今井恵、佐藤史子、田村翔子、藤井かほり、樋上公実子、畠中鈴子、吉田佳代、髙嶋政宏、神林茂典、柴岡秀和、中田秀夫、高橋ヒデキ、吉川陽子、油川ヨウコ、栗坂直子、矢田部吉彦、片江佳葉子、田中正子、石井たまよ、三好和美、竹中直人、石田博雄、井下香苗、岡本敬子、安田晴美、一戸みずの、小暮美奈子、高野緑、荒井博子、中村のん、伊久美亜紀、永塚克美、櫻井尚子、木村東吉

2015年1月29日の夜明け前、モデル「雅子」は稀少がん闘病の末に旅立った。そのとき、夫である大岡大介は「夫婦として共に生きながら、モデルとしての雅子をほとんど知らないまま」だったことに気づく。「モデル・雅子」の半生を追い、映画にして伝えてゆくことを決意する。
自宅に積まれたままの「雅子」が登場した雑誌やビデオなどを片っ端から調べ、衝動のままに「雅子」を知る人々に、監督としてインタビューを重ねてゆく。

肌の調子をベストにするため、仕事の前日は夜遊びしない。注意一秒、シミ一生と言い、日が当たるところに出たら日傘を差す。プロフェッショナルなモデルとして貫き通した姿勢が関係者へのインタビューから浮かび上がってくる。
その一方で、大好きなチョコレートには目がない。フランスと映画も好き。ナチュラルな生き方が普通の女性の一面ものぞかせる。
作品では夫である大岡大介が知らなかったモデルとしても雅子を追う。しかし、見ている側としては妻としての雅子が見たくなってくるもの。そんな思いに大岡は最後にそっと応えてくれた。(堀)


2019年/日本/カラー/16:9/ステレオ/88分
配給:フリーストーン
©︎2019 Masako, mon ange.
公式サイト:http://www.masakomonange.com/
★2019年7月26日(金)から8月1日(日)(UPLINK吉祥寺にて1週間限定公開)/全国順次公開

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新聞記者

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監督:藤井道人
原案:望月衣塑子「新聞記者」(角川新書刊)河村光庸
脚本:詩森ろば 高石明彦 藤井道人
音楽:岩代太郎
出演:シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、 岡山天音、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司

東都新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある思いを秘めて日本の新聞社で働いている彼女は、真相を究明すべく調査をはじめる。一方、内閣情報調査室官僚・杉原(松坂桃李)は葛藤していた。 「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。愛する妻の出産が迫ったある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎と再会するのだが、その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。真実に迫ろうともがく若き新聞記者。「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。二人の人生が交差するとき、衝撃の事実が明らかになる! 
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©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

特別なプロジェクト遂行のため国家は情報操作も辞さない。苦悩する官僚と政治の闇に立ち向かう記者。私たちの見えないところで何が行われているのか不安になる。後半はサスペンスタッチが加速。緊張感で息をつく間もない。正義と家族で揺れる官僚を松坂桃李。5月に公開された『居眠り磐音』ではつねに穏やかな表情だったが、本作では打って変わって、どうすべきかを悩み苦しむ役どころを熱演。最後のあの表情は何を意味するのか! 作品が終わっても余韻が続く。2019年に『孤狼の血』でアカデミー賞最優秀助演男優賞に輝いたが、来年は本作と『居眠り磐音』で主演男優賞を狙えるのではないだろうか。官僚の冷徹な上司を田中哲司、記者の理解ある上司を北村有起哉。どちらも適役感たっぷり。(堀)

日本でもやっとこういう映画が作られました。アメリカでも韓国でも国が隠蔽した真実を記者が追い、白日のもとにさらす映画がいくつも作られています。それなのに日本ではできないの?と歯がゆい思いでしたが、ようやくです。苔の生えるような過去の話ではなく、現代であり現在。劇映画ですが、どれもこれもこれまであったこと、おこりつつあることが脳内に浮かぶでしょう。新聞もテレビもなんだかなぁの今、こんな映画を作って送り出してくれて感謝です。と書きつつ、製作のみなさま大丈夫?と思ってしまう私もかなり現状に侵食されています。
『サニー 永遠の仲間たち』(2011)『怪しい彼女』(2014)の可愛いシム・ウンギョンが笑顔を封印、権力の闇に向かい邁進する日韓ハーフの女性記者吉岡役。日本語のセリフに苦労しながらもクールで熱い役どころを演じています。松坂桃李さん『居眠り磐音』に続いて良い作品が巡ってきました。秋には『蜜蜂と遠雷』公開も控えています。充実した日々ですねぇ。
この作品を観終わったら、選挙に行かなくちゃと思いますよ。数少ない直接参加の機会を逃さないで。(白)


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©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

原案は東京新聞の望月衣塑子記者。政権がひた隠しする権力中枢の闇に迫る一人の新聞記者の行動を通し、報道メディアは権力にどう対峙するべきかを問いかける。
一方、理想に燃え公務員になった若手官僚・杉原(松坂桃李)は以前外務省で働いていたが、今は内閣情報調査室で働き、「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。「これも国を守る大事な仕事」と不本意な命令を下され葛藤する。
大学新設計画に関する極秘情報を軸に、真実に迫ろうとFAXを送ってきた情報提供者を探す吉岡と、内閣情報調査室の「闇」の存在に気付き、そのまま任務を遂行し「国民を裏切る」のか選択を迫られる杉原。
真実について「権力とメディアの攻防」が、緊迫した状況で描かれるが、「疑惑の大学誘致」「レイプ事件の被害者会見」など、近年マスコミを騒がせた事件を連想させる内容で、「国家による情報操作や情報隠し」について考えさせられる作品になっている。
それにしても、「政府にたてつく人を不利にするようなでっち上げを作り上げるような機関」があるのかもと思わせる内容で、戦前と同じような社会が来なければいいがと思ってしまった。
この映画は、報道は政府のスポークスマンであってはならないと警鐘を鳴らしている。冷徹な上司を演じた田中哲司が言う「この国の民主主義は形だけでいい」というセリフに、怒りを感じ戦慄が走った。
この作品、よく映画化にこぎつけられたなと、関係者の勇気にエールを送りたい。ぜひぜひ皆さん観てほしい。最近、日本の商業映画で社会派的な作品はあまりなかったけど、久々に骨太の作品。かつては今井正、山本薩夫、小林正樹、新藤兼人、熊井啓などの監督が社会派的な作品を作ってきた。今後、この映画に影響を受けて、そういう作品が多く出てきてほしい(暁)。

「この国の民主主義は形だけでいい」という言葉にはっとさせられた。
民主主義の社会で暮らしていると思いこまされていたけれど、実は違うのではと疑わずにいられない。
香港では、返還前を知らない若い人たちも問題意識を持ってデモに参加している。今の日本人、骨抜きにされてしまって、何が問題かも気づかないように操作されているのではとさえ思ってしまう。
メディアの役割は重要だ。決して政府の提灯持ちであってはならないことを、『新聞記者』は思い起こさせてくれる。
官僚も然り。国民の税金を貰って働いていることを忘れないでほしい。
議員、官僚、メディア関係者の方々に本作をご覧いただき、自分たちの使命を胸に刻んでほしい。(咲)


2019年/日本/カラー/スコープサイズ/5.1ch/113分
配給:スターサンズ/イオンエンターテイメント
©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ
公式サイト:https://shimbunkisha.jp/
★2019年6月28日(金)新宿ピカデリー、イオンシネマほか 全国ロードショー!



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神と共に 第二章:因と縁(原題: Along with the Gods: The Last 49 Days) 

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監督:キム・ヨンファ
出演:ハ・ジョンウ、チュ・ジフン、キム・ヒャンギ、チャ・テヒョン、D.O.、マ・ドンソクほか

千年間で48人の死者を転生させた、カンニム(ハ・ジョンウ)ヘウォンメク(チュ・ジフン)、ドクチュン(キム・ヒャンギ)の3人の使者はあと1人を転生させたら、彼らも新しい生を得ることができる。カンニムは怨霊だったジャホン(チャ・テヒョン)の弟スホン(キム・ドンウク)を最後の裁判を受ける貴人に決める。本来、怨霊は消滅させなければならないが、閻魔大王(イ・ジョンジェ)は3人の使者に条件を出しカンニムの提案を受け入れる。条件はソンジュ神(マ・ドンソク)に守られ訪れ、使者をことごとく追い払う老人、チュンサム(ナム・イル)をスホンの裁判が終わるまでに冥界に連れてくること。下界に降りたヘウォンメクとドクチュンは、偶然、ソンジュ神が千年前に2人を冥界に連れて行った使者だったことを知る。彼らは、ソンジュ神により驚愕の真実を知ることになる。

第一章では裁判を受ける消防士ジャホンの人生を振り返る内容だったが、その合間にカンニムの前世を何気なく挟み込んだ。第二章ではジャホンの弟スホンの裁判を描くように思わせて、カンニムの前世、そしてヘウォンメクやドクチュンとの因縁を描く。第二章を見ると、第一章は壮大なるプロローグにすぎなかった気がしてきた。
過去に怯えるカンニムは前世でいったい何をしたのか。少しずつ明らかになっていくにつれ、カンニムの人間らしい葛藤が前面に押し出される。第一章では見事なアクションを披露したハ・ジョンウが第二章では演技派らしさを発揮。物語を引っ張っていく。すべてが判明した後、カンニムの知らないところで彼を見守る父の愛を観客のみ知ることになる。親の愛はこんなにも大きいものなのかと驚く。
ところで。ハングル文字は記号のような24文字を組み合わせて一文字にするのだが、上下を逆さまにしても別の音で読める。それが本作ではちょっとしたキーワードになっている。ハングル文字が読める人にとっては頭の体操的な楽しみ方もできるといるだろう。
(堀)


2018年/韓国/カラー/シネスコ/5.1ch/日本語/141分
配給:ツイン
© 2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.
公式サイト:http://kimitotomoni.com/
★2019年6月28日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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2019年06月20日

ジョナサン-ふたつの顔の男-(原題:JONATHAN)

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監督:ビル・オリバー
出演:アンセル・エルゴート、スーキー・ウォーターハウス、マット・ボマー、パトリシア・クラークソン

規則正しい生活を送る内向的なジョナサン(アンセル・エルゴート)は毎朝7時に起きて、ランニングをし、パートタイムの仕事へ行く。一人で食事を取り、毎夜7時までには就寝する。なぜ、こんなに早い時間に就寝するのか。彼には人には言えない秘密があった。正反対の性格の青年ジョンという人格を持っているのだ。
彼らは、ナリマン博士(パトリシア・クラークソン)によって脳内にタイマーが埋め込まれ、互いが12時間で切り替われるよう正確に設定されている。毎夜7時から午前7時までがジョンの時間である。
嘘はつかない。なんでも話す。これらをルールとして挙げ、ビデオメッセージを通して日々の行動について、どんなに些細で取るに足らないようなことまでも互いに逐一報告し合っていた。他人との交流は最低限にとどめるなど、日々の生活は制限されてはいるものの、生活は順調だった。
しかし、ジョナサンが探偵のロス(マット・ボマー)を通じて、ジョンがエレナ(スーキー・ウォーターハウス)という女性と密かに交際にしていることを知ってから、ふたりの歯車が狂い始めた。

『ベイビー・ドライバー』(2017年)で大ブレイクしたアンセル・エルゴート。幼い雰囲気を持ちつつ、大胆なドライビングテクニックを見せるギャップに萌えた女性が多かっただろう。今回は一段、成長した大人の顔を見せる。しかも、正反対のタイプを見事に演じ分けただけでなく、ジョンの秘密に気づいたジョナサンが翻弄され、少しずつバランスを崩していく様を丁寧に表現した。
ジョンは途中からビデオメッセージを残さなくなるが、食べっぱなしのお皿やベッドの乱れ、クローゼットの使い方などを見せることで、ビル・オリバー監督はジョンの存在をしっかりアピール。存在は感じるのに姿が見えないジョンに対してジョナサンが抱える不安を見る者に共感させる。ジョナサンがジョンのシャツの匂いを嗅ぐシーンは切ない。(堀)


多重人格の映画はこれまでもいくつか観たけれど、本作は一つの体に陽気なジョンと生真面目なジョナサンのふたり。時間を区切って交代するところが珍しいです。アンセル・エルゴートが演じ分けています。互いのコンタクトをとるところで、藤子・F・不二雄氏の漫画「パーマン」を思い出しました。そちらは小学生の主人公がスーパーヒーローとして活躍するとき、周りに正体がばれないようコピーロボット(鼻のボタンを押すとその人そっくりになる)を身代わりにします。戻ってきたらおでこをくっつけると記憶が共有できるという設定でした。身体が二つほしいとき、コピーロボットがあればと思ったものです。閑話休題。
本作ではジョンが報告しなかったために齟齬が生じてしまい、ジョナサンが真実を探すために雇った探偵がお久しぶりのマット・ボマーでした。くたびれた服装で生活に困っている感ありあり、せっかくの美貌がくすんでいます。ここで目立っていい役ではないので、しょうがないですね。またパーっとライトのあたるところへ出てきてほしいです。
アンセル・エルゴートは『ダイバージェント』(2014年)から観ていますが、順調に良い作品に出て演技も磨いているようす。この作品でもわかります。2020年公開予定のスピルバーグ監督が手掛けるミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』でトニー役を射止めたようです。おー!(白)


2018年/アメリカ/英語/カラー/シネマスコープ/95分
配給:プレシディオ 
© 2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved
公式サイト:http://jonathan-movie.jp/
2019年6月21日(金) 新宿シネマカリテほか全国公開
posted by ほりきみき at 16:23| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

凪待ち

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監督:白石和彌 
脚本:加藤正人
出演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー

毎日をふらふらと無為に過ごしていた郁男は、恋人の亜弓とその娘・美波と共に彼女の故郷、石巻で再出発しようとする。少しずつ平穏を取り戻しつつあるかのように見えた暮らしだったが、小さな綻びが積み重なり、やがて取り返しのつかないことが起きてしまう―。
ある夜、亜弓から激しく罵られた郁男は、亜弓を車から下ろしてしまう。そのあと、亜弓は何者かに殺害された。恋人を殺された挙句、同僚からも疑われる郁男。次々と襲い掛かる絶望的な状況を変えるために、郁男はギャンブルに手をだしてしまう。

”警察は…”ならぬ、「監督は何をやってもええんじゃ!」(笑)と映画の真髄を痛感させてくれた『孤狼の血』の白石監督。国民的アイドルの香取慎吾をやさぐれ中年男に調教してみせた。「ノーメイクで行く」と指示した監督に従い、無精髭、顔の澱(おり)や皺を隠さない覚悟で香取も期待に応えた。
コミック原作が跋扈する邦画界の中で(中には秀作もあるが)、加藤正人のオリジナル脚本が気味良い。加藤が”無類の競輪好き”ということもあり、温めていた作品であろうことが分かる。ギャンブルで身を持ち崩した香取扮する郁男が車券を買う”ノミ屋”の紫煙・安酒の匂いが立ち込める雰囲気、集う男たちの佇まい、ノミ行為に関わる勢力の手口などは知る人でなければ書けないリアルさに満ちている。競輪競技の描写も秀逸だ。

香取慎吾が新境地・演技開眼したのではと唸らさせれる場面は多い。乱闘・泥酔するシーンは、尋常ではない血走った眼つきと力強さを発散する。終盤、大きな身体を震わせて泣きじゃくるショットは、フェリーニの名作『道』のラスト、アンソニー・クイン扮するザンパノを想起させた。

本作の見どころは、今村昌平作品ばりの古い日本家屋、石巻の寂れた漁港といった描写の素晴らしさにある。そして、決定打は吉澤健、不破万作、麿赤兒ら高年トリオの名演だろう。殊に吉澤健は、’60年代の状況劇場、’70年代に若松孝二監督作品を観て育った身としては、涙を禁じ得ない。存在そのものが”生きている”のだ。様々な角度から楽しめる本作は間違いなく今年の邦画界に於ける収穫となろう。
(幸)


2018/日本/カラー/124分
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS 
配給:キノフィルムズ
公式サイト :http://nagimachi.com/
6月28日(金)全国ロードショー
posted by yukie at 11:40| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月16日

アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場(原題:Unknown Soldier (英語) Tuntematon Sotilas (フィンランド語))

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監督・脚本:アク・ロウヒミエス
撮影:ミカ・オラスマー
出演:エーロ・アホ、ヨハンネス・ホロパイネン、ジュシ・ヴァタネン、アク・ヒルヴィニエミ、ハンネス・スオミほか

継続戦争に参加した一機関銃中隊に配属された熟練兵ロッカ(エーロ・アホ)は家族と農業を営んでいたが、冬戦争でその土地がソ連に奪われたため、領土を取り戻し元の畑を耕したいと願っている。カリルオト(ヨハンネス・ホロパイネン)は婚約者をヘルシンキに残して最前線で戦い、途中でヘルシンキに戻って式を挙げ、すぐに戦場へとんぼ返りする。ヒエタネン(アク・ヒルヴィニエミ)は戦場でも純粋な心を失わず、コスケラ(ジュシ・ヴァタネン)は最後まで中隊を指揮する。この4名の兵士を軸に進んでいく。

フィンランドは1939年からソ連と戦った「冬戦争」が翌年に終結。その代償としてカレリア地方を含む広大な国土をソ連に占領された。国土回復を掲げ、1941年にドイツと手を組み、再びソ連との戦争を開始。これを「継続戦争」と呼ぶ。本作は継続戦争に従軍したヴァイノ・リンナが書いた古典小説「無名戦士」を原作としている。
登場するのは、司令官が主人公の戦争映画だったら兵士Aや兵士Bとクレジットされるような兵士たち。しかし、彼らにも名前があり、国には待っている人がいる。司令官のコマではないのだ。彼ら1人1人のドラマを描くことで、戦争が兵士だけでなく、彼らの家族にも落とす影を浮かび上がらせた。
ところで、作品を見ていて驚いたのだが、戦争の途中で兵士に休暇があるのだ。ロッカやカリルオトは休暇を使って、家に帰っていた。戦場が地続きだからできることなのだろうか。(堀)


どんな戦争も無名の兵士たちが支えてきた。戦争映画を観ると、将棋やチェスの盤面が浮かぶ。歩兵は常に前面にたたされ反抗は許されず、後方で命令だけ出している上官がバカだと志も命も無駄になる。全体と先を読む能力があるとなしでは大違い。ちゃんとした上官ならば幸運、気まぐれや自分の保身のための命令にはロッカでなくとも反発したくなり、こんな戦いに夫や息子や孫を送り出したくないと痛切に思う。というより戦争を始めないでくれー!国土を削られ、農地も家も手放していく姿に現代の難民の姿が重なる。
ソ連と西側に挟まったフィンランドにこんな戦争の歴史があったことは、見るまで知らずにいた。この辛苦を乗り越えての今だと思うと感慨深い。フィンランドは教育水準、暮らしや福祉の手厚さ、女性の活躍などなど、日本ができないでいることを実現させている。ムーミンやカウリスマキやマリメッコで楽しませ、この映画のように心にささる作品も送り出してくれる。投じた製作費はフィンランド映画史上最大、観客動員数も過去最高。戦争を体験した人が少なくなっていく中、ぜひ観てほしい作品。(白)


フリー・アナウンサーでミリタリー・マニアの安東弘樹を招いての公開直前イベントレポートはこちらから。
公開直前イベント取材についての日記はこちらから。

2017 年/フィンランド/フィンランド語/カラー/132 分/PG-12
配給:彩プロ
© ELOKUVAOSAKEYHTIÖSUOMI 2017
公式サイト:http://unknown-soldier.ayapro.ne.jp/
2019年6月22日(土)より新宿武蔵野館にて全国順次ロードショー
posted by ほりきみき at 02:42| Comment(0) | フィンランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

パピヨン(原題:Papillon)

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監督:マイケル・ノアー
原作:アンリ・シャリエール
脚本:アーロン・グジコウスキ
撮影:ハーゲン・ボグダンスキー
音楽:デビッド・バックリー
出演:チャーリー・ハナム、ラミ・マレック、イヴ・ヒューソン、ローラン・モラー、トミー・フラナガン、ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン

〈1931年、パリ〉「狂乱の時代」の終焉。
胸に蝶の刺青を入れていることから “パピヨン”と呼ばれた男(チャーリー・ハナム)は、無実の罪で終身刑を言い渡され、フランス領ギアナのデビルズ悪魔島に送られる。
周囲を海に囲まれた、この島は脱出不可能な場所として知られ、囚人達は人権をはく奪され、過酷な強制労働を科せられていた。
絶望と死が支配する場所で、自由と希望を求めて足掻くパピヨンは、志を同じくする紙幣偽造の天才ドガ(ラミ・マレック)と出会い、やがて二人は奇妙な友情で結ばれてゆく…。

身の安全を保障する代わりに、脱獄資金を提供してほしい。最初は契約の関係だったパピヨンとドガだが、脱獄を繰り返すうちに信頼の絆を結んでいく。スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンが出演して大ヒットした作品が45年ぶりにリメイクされた。主演は何度も脱獄を試みる主人公パピヨンを演じるのはチャーリー・ハナム。偽金造りで投獄されたドガにラミ・マレック。
国からも見放された囚人たちが狭い部屋に下着一枚の裸で集められたシーンはアウシュビッツを彷彿させる。フランス領ギアナの徒刑場での生活もガス室こそないものの、奴隷に近い扱い。劣悪な環境に、我が身を守ることで精一杯の毎日。それでもパピヨンは自由を渇望し、脱獄を繰り返す。後半はアドベンチャー。緊張の連続で一時も目を離せない。その中で育まれる2人の絆と互いを尊重する思いに胸が熱くなる。(堀)


2017年/アメリカ/英語・スペイン/シネスコ/ DCP/カラー/5.1ch/133分
配給:トランスフォーマー
© 2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/Papillon/
★2019年6月21日(金)公開ロードショー
posted by ほりきみき at 00:47| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シネマ歌舞伎『鷺娘/日高川入相花王』

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『鷺娘』配役
鷺の精:坂東玉三郎

『日高川入相花王』配役
清姫:坂東玉三郎
人形遣い:尾上菊之助
船頭:市川九團次

「鷺娘」
しんしんと雪の降る水辺の柳の下に、蛇の目傘を差した白無垢姿の娘がひとり佇んでいます。娘は実は道ならぬ恋に悩む白鷺の精。一途な恋心を綴っていきますが、いつしか白鷺の姿に戻った娘は、遂げられぬ恋に苦しみもがき、降りしきる雪の中息絶えるのでした。(2005年5月歌舞伎座公演)

同時上映「日高川入相花王」
恋する安珍を追って日高川の渡し場にたどり着く清姫ですが、船頭は川を渡してくれません。安珍への嫉妬と恨みの激情を燃やす清姫はついに。(2005年10月歌舞伎座)

「鷺娘」
坂東玉三郎が人間に恋した白鷺の精に。舞台上で一瞬に衣装を変える引き抜き、上半身の衣装を裏返すぶっかえりなどがあり、華やかで飽きのこない演目。ラストの白い衣装はアップの時に鷺の羽の模様が見える。数十キロにも及ぶ衣裳や鬘をつけて踊り続けるのは大変。2009年以降全編を踊ることはないそう。

「日高川入相花王」
坂東玉三郎が清姫を人形として演じる。顔の傾け方や手の動かし方、ちょっとぎくしゃくした感じが人形そのもの!人形遣い役との呼吸もぴったり。無表情なのにその動きで感情まで伝える。大蛇となり大海を渡る場面は荒ぶる感情が爆発。鬼のお面にも感情が宿る。(堀)


配給:松竹
公式サイト:https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/02/
★2019年6月21日(金)~7月4日(木)東劇ほか全国にて2週間限定上映
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劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん

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監督:野口照夫(実写パート)・山本清史(エオルゼアパート)
脚本:吹原幸太
原作:「一撃確殺SS日記」(マイディー)/ ファイナルファンタジーXIV(スクウェア・エニックス)
出演:坂口健太郎、吉田鋼太郎、佐久間由衣、山本舞香、前原 滉、今泉佑唯、野々村はな、
和田正人、山田純大、佐藤隆太、財前直見
声の出演:南條愛乃、寿美菜子、悠木碧

自分が子供の頃から、何を考えているのか全く分からなかった父の背中を見て、心の中でそうつぶやくアキオ(坂口健太郎)。仕事一筋で単身赴任中だった父(吉田鋼太郎)が、突然会社を辞めて家に帰って来たのだ。母と妹も一日中ボーっとテレビを見ている父を、遠巻きに眺めている。父の本音を知りたい、そんな願いに突き動かされたアキオに、ある計画が閃く。アキオの得意なオンラインゲーム「ファイナルファンタジーXIV」の世界に父を誘導し、自分は正体を隠して、共に冒険に出るのだ。その名も〈光のお父さん計画〉!アキオは顔も本名も知らないゲーム仲間たちに協力を呼び掛け、励まされる。だが、この時のアキオは思いもしなかった。父に家族も知らない意外な顔があるとは。

子どもとの距離感は難しい。ましてや家庭を妻に任せてきた父親には。何とかしたい。でも、どうしたらいい?
子どもも実は同じようなことを考えて、きっかけを探しているのかもしれない。普遍的な問題をオンラインゲームで立場を隠して繋がり、クリアした息子が書いた人気ブログの映画化。
親子では面と向かって話せないことも他人ならさらっと話せることがある。息子は素性を隠してネットで父と繋がり、家族への思いを知った。思いがあれば必要なのはきっかけ。親子だからのもどかしさを坂口健太郎と吉田鋼太郎がちょっと笑わせ、でもしみじみと絶妙なバランスで演じ、共感を紡ぎ出す。(堀)


2019年/日本/カラー/114分
配給:ギャガ 
©2019「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」製作委員会 
©マイディー/スクウェア・エニックス
公式サイト:https://gaga.ne.jp/hikarinootosan/
★2019年6月21日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
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2019年06月15日

ある町の高い煙突 

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監督:松村克弥
原作:新田次郎
脚本:松村克弥、渡辺善則
撮影:辻智彦
音楽:小野川浩幸
出演:井手麻渡、渡辺大、小島梨里杏、吉川晃司、仲代達也

1910年、茨城県久慈郡入四間の裕福な地主の家に生まれ育った関根三郎(井手麻渡)は、ノルウェー人の鉱山技師から「この美しい村は大きく変わるかもしれません」と告げられる。隣村の日立鉱山が大量の銅を生産しているため、煙害が拡大するだろうというのだ。
鉱山から出ている黄色い煙は亜硫酸ガスで、松や杉、栗に蕎麦、大麦小麦など、植物から作物まで何もかも枯らしてしまう。村の権力者である三郎の祖父の兵馬(仲代達矢)は事態を重く見て、分家の恒吉(伊嵜充則)を連れて鉱山会社へ掛け合いに行くが、「補償はするが煙害は我慢してくれ」と言われてしまう。
30年前に村長だった兵馬は採掘の権利料で村が潤い、農家の次男三男の働き口にもなると考えて許可したのだが、今となっては深く後悔していた。そのことを遺言のように三郎に告げた直後に倒れ、5日後に亡くなってしまう。三郎は祖父の遺志を継ぎ、進学も外交官になる夢も捨てて、煙害と闘うことを決意する。

今から100年前、日立鉱山から出る亜硫酸ガスの煙害に苦しんだ住民と企業が補償交渉を繰り返す中で100mもの煙突を立てることに行き着くまでを描く。農家の次男三男の働き口になると採掘を許可した村の名士が自分の判断を後悔し、煙害を無くす交渉を孫に託し、孫も外交官になる夢を諦めて祖父の跡を継ぐ。企業側も営利に走らず、より良い方向を探ろうとした。これは実話を基にしたという。煙突により煙害をなくした上で植樹を重ねるという両者の協力により、枯れた山が緑を取り戻す。
環境汚染は今も昔も抱える問題。今もどこかで起きている。最初から汚染がないに越したことはないが、汚染が起きてしまっても、その後の対応次第では元に戻せることもあるのだ。
お金で補償すれば済むことではない。100年前に奔走した人々の姿を描くことで、現代の私たちがすべきことを示唆する。お金を手にしたばかりに不幸になった家族の話は他人事ではない。(堀)


2019年/日本/カラー/シネマスコープサイズ/5.1ch/130分
配給:エレファントハウス/Kムーブ
(C) 2019 Kムーブ
公式サイト:https://www.takaientotsu.jp/
★2019年6月22日(土)有楽町スバル座ほか全国ロードショー
(ユナイテッド・シネマ水戸、シネプレックスつくば 6月14日(金)先行公開)


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あいが、そいで、こい

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監督:柴田啓佑
脚本:村上かのん
撮影:神野誉晃
音楽:Less is More
出演:小川あん、髙橋雄祐、長部努、古川ヒロシ、廣瀬祐樹、中垣内彩加、山田雅人

2001年の夏、海辺の田舎町に住む高校生・萩尾亮は、同級生の学、小杉、堀田と共に高校最後の夏休みを過ごすことになった。
ある日、イルカの調教師を夢見て台湾からやってきた留学生・王佳鈴(ワンジャーリン)と出逢う。イルカや海を嫌う亮はリンと対立するが、彼女の来日した本当の想いを知ったことをきっかけに心を通わせることとなる…。

恋のきっかけは予想だにしないところから生まれるもの。高校最後の夏。嫌々始めたバイトで知り合った台湾人少女と反発してし合いながらも惹かれていく。それを不安げに見つめる幼馴染の少女。ヤキモキすればするほど主人公は彼女に惹かれてしまう。幼馴染の辛さに共感。悪友の恋。それを肴にして盛り上がる友情。楽しい夏も思いがけない事件で終わりを告げる。やりきれない悲しみも仲間がいれば乗り越えられる。(堀)

2018年/日本/カラー/シネマスコープ/ステレオ/115分
配給:ENBUゼミナール
©ENBUゼミナール
公式サイト:http://aigasoidekoi.com/
★2019年6月22日より、新宿K’s Cinemaにて3週間上映、他全国順次ロードショー


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アマンダと僕(原題:AMANDA)

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監督・脚本:ミカエル・アース
共同脚本:モード・アムリーヌ
撮影監督:セバスチャン・ブシュマン
音楽:アントン・サンコ
出演:ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトリエ、ステイシー・マーティン、
オフェリア・コルブ、マリアンヌ・バスレー、ジョナタン・コーエン、グレタ・スカッキ

夏の日差し溢れるパリ。便利屋業として働く青年ダヴィッドは24歳。シングルマザーの姉と程よい近さに住み、姪の世話を助けていた。パリにやってきた美しい女性レナと出会い、恋に落ちる。穏やかで幸せな生活を送っていたが、突然の悲劇で大切な姉が亡くなり、ダヴィッドは悲しみに暮れる。
彼は、身寄りがなくひとりぼっちになってしまった姪アマンダの世話を引き受けることに。若いダヴィッドには親代わりになるのは荷が重く、アマンダは母親の死を理解できずにいた。しかし、消えない悲しみを抱えながらも二人の間に少しずつ絆が芽生えはじめる。

保護者的存在だった姉を喪い、ダヴィッドは初めて大きな責任と向き合う。姪はかわいいものの、自分に育てることができるのか。悩み、戸惑い、逡巡する。一度引き受けたら放り出すことはできない。しかし、責任を背負うと決めることで人は成長し、絆が生まれるもの。作品はダヴィッドの奮闘を描くことで、人生に迷う人の背中を押す。(堀)

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©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

生まれた命はいつか死ぬ。でもできるだけ先で、穏やかであってほしいと心の底で願う。突然に消えてしまうこともあるというのに。大切な人をそうやってなくしてしまったら、残された自分は乗り越えられるだろうか?
この作品は突然姉を亡くした大人の男性と母親を亡くした小学生の娘のストーリー(姉と母親は同一人物)。二人は悲しみからどう立ち上がるのだろう? 互いに必要だと気づくまでを丁寧に描いている。
ヴァンサン・ラコスト演じるダヴィッドは、しっかりした姉に保護されてきたせいか、なんだか頼りない。アマンダ役のイゾール・ミュルトリエは演技の経験はなく、人混みに紛れたら見失いそうな普通の女の子。急に一人放り出されたアマンダそのものだった。グレタ・スカッキがすっかり貫禄のおばさんになっていて見違えた。エマ・ストーンみたいな細さだったのに。(白)


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©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

2018年、第31回東京国際映画祭東京グランプリと最優秀脚本賞をダブル受賞。
テロって遠い国の出来事と思ってましたが 最近の日本でもテロに似た事件が少なくないので、突然、身内を失う経験は誰にでも起こりうると思うと、この物語が俄然、自分の心身に響いてくるのでした。311の津波で叔母夫婦を亡くした時を思い出したり…
そして何気ない風景の光の再現が美しい!! ほとんどのシーンが16mmフィルムで撮影されているとのこと。道理で。私もフィルム派ですよ!! 写真のみですが…。 (千)

第31回東京国際映画祭で東京グランプリと最優秀脚本賞をダブル受賞した時の模様は、シネマジャーナルHP特別記事にあります(暁)。

シネマジャーナル 第31回東京国際映画祭 アウォードセレモニー報告
http://www.cinemajournal.net/special/2018/tiff-fin/index.html

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第31回東京国際映画祭授賞式に映像参加したミカエル・アース監督
撮影 宮崎暁美

◆フランス映画祭 2019年6月20日(木)~23日(日)
会場:みなとみらい21地区ほか
でも上映されます☆
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/466890900.html




2018年/フランス/ビスタ/107分
配給:ビターズ・エンド
©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/amanda/
★2019年6月22日(土)よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 23:37| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

カスリコ

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監督:高瀨將嗣
脚本:國吉卓爾(『カスリコ』第26回新人シナリオコンクール 特別賞 大伴昌司賞準佳作)  
撮影:今泉尚亮
音楽:辻 陽
出演:石橋 保、宅麻 伸、中村育二、山根和馬、鎌倉太郎、金児憲史、高橋かおり、高橋長英、小市慢太郎、西山浩司、高杉 亘、伊嵜充則、及川いぞう、西村雄正、大家由祐子、池上幸平、服部妙子

高知一と言われた板前の岡田吾一(石橋保)は賭博にのめり込んだ挙句に店を手放し、途方に暮れていた。そんなとき、ヤクザの荒木五郎(宅麻伸)から「カスリコ」の仕事を紹介され、常連客の引き立てや商売人の才覚もあり、少しずつカスリを増やしていく。
三年の歳月が流れ、すっかり賭博をやめた吾一は荒木から再び店を始めるよう勧められた。開店準備に取り掛かり、ようやく再起の道が見えた吾一に、再び思いもよらぬ事態が訪れてしまう。 吾一はどん底の己の人生に勝つため、最後の大勝負に挑んだ。

舞台は昭和40年代の土佐。タイトルのカスリコとは、賭場で客の世話や使い走りをして、僅かなご祝儀をめぐんでもらう下仕事。
手本引きと呼ばれる賭博で店を潰した板前が見栄を捨てて、カスリコとなって一からやり直す。当時を完璧に再現し、白黒で見せる映像は昭和の男のロマンたっぷりに展開。実直そうだが、大きな決断を厭わない主人公に石橋保。その主人公に目をかけるヤクザに宅麻伸。渋い着物姿が懐の深さを感じさせた。
ところで、原作は第26回新人シナリオコンクール準佳作受賞作。書いたのは高知在住の國吉卓爾で、放蕩三昧だった若い頃に目にした、賭場の人間模様を基にシナリオを執筆したという。70歳で初めて書いたシナリオがコンクールで受賞したのだから驚きである。「もう歳だから」は言い訳に過ぎない。いつからでも始められると背中を押された気がする。(堀)


2018年/日本/モノクロ/ビスタサイズ/5.1ch/114分
配給:シネムーブ/太秦
(C) 2018 珠出版
公式サイト:http://kasuriko.com/index.php
★2019年6月22日(土) ユーロスペースほか全国順次公開

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2019年06月13日

家族にサルーテ!イスキア島は大騒動(原題:A casa tutti bene)

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監督・脚本:ガブリエレ・ムッチーノ
出演:ステファノ・アコルシ(パオロ)、カロリーナ・クレシェンティーニ(ジネーヴラ)、エレナ・クッチ(イザベッラ)、ピエルフランチェスコ・ファビーノ(カルロ)、クラウディア・ジェリーニ(ベアトリーチェ)

イスキア島に住むピエトロ&アルバ夫妻はめでたく結婚50周年を迎える。二人を祝うために家族、親戚一同が島にやってきた。総勢19人の宴がお開きとなるころ島の天候は激変し、ナポリへ戻るフェリーが欠航となった。足止めをくってしまい、帰れなくなったみんなの宿泊場所を確保しようと大わらわのアルバたち。それまで笑顔の下に隠してきた一人一人の事情がこのアクシデントで明らかになっていく。

原題は「A casa tutti bene」意味は”家ではみんな良い感じ”だそうで、家ほどいいところはないということなんでしょうか?そうであってほしいと願うものの、反対に家こそが修羅場という人もいるでしょうね。
このイタリアから届いた作品の、国を問わずどの家にもありそうな「あるある」エピソードに思わず引き込まれました。たくさんの登場人物がいるにも関わらず、一人ずつのキャラが立っているせいか少しもごちゃごちゃになりません。ガブリエレ・ムッチーノ監督の脚本と采配、そして俳優たちのうまさなのでしょう。舞台となったイスキア島の美しいこと、一度行ってみたいなぁ。(白)


金婚式に集まった親族たちが天候不良で二晩をともにすることに。普段は隠していた本音が炸裂し、関係がこじれていく。浮気、嫉妬、借金、老い。家庭で起きるトラブルがてんこ盛り。愛にしてもお金にしても、求めることが多い人ほどトラブルが炎上する。ささやかな幸せに喜ぶ少女の姿からうれしさがほとばしるのが眩しい。しかし、彼女もいつの日か、その幸せに慣れてしまうのだろうか。(堀)

2018年/イタリア/カラー/シネスコ/107分
配給:アルバトロス・フィルム、ドマ
(C)2018 Lotus Production e 3 Marys Entertainment
http://salute-movie.com/
★2019年6月21日(金)Bunkamura ル・シネマほかロードショー
posted by shiraishi at 16:21| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ザ・ファブル

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監督:江口カン
原作:南勝久
脚本:渡辺雄介
撮影:田中一成
音楽:グランドファンク
主題歌:レディー・ガガ
出演:岡田准一(ファブル/佐藤アキラ)、木村文乃(佐藤ヨウコ)、山本美月(清水ミサキ)、福士蒼汰(フード)、柳楽優弥(小島)、向井理(砂川)、木村了(コード)、井之脇海(黒塩=クロ)、藤森慎吾(河合ユウキ)、宮川大輔(ジャッカル富岡)、佐藤二朗(田高田)、光石研(浜田)、安田顕(海老原)、佐藤浩市(ボス)

謎の殺し屋“ファブル(寓話)”は6秒で相手を仕留める。あまりにも鮮やかな手口に裏社会ではもはや伝説となっていた。彼を育てあげたボスは、ファブルに「一年間、仕事を休んで普通に暮らせ。誰かを殺したりしたら俺がお前を殺す」と、妙な命令を下す。ファブルは素直に従い“佐藤アキラ”という偽名を使って大阪の街に移り住んだ。相棒のヨウコは妹としてアキラに同道する。生れて初めての普通の生活をぎこちなくも楽しみ始めるアキラ。しかし、裏社会はそんなアキラを放っておくはずがなかった。

『ガチ星』『めんたいぴりり』を送り出してきた江口カン監督、3本目はなんとも豪華な配役で松竹映画での新作です。しかも原作の漫画は、アクションとコメディが絶妙に混在した人気作品。
主演の岡田さんのアクションには定評がありますが、さらに今回はハリウッドで活躍するアラン・フィグラルズがアクション監督として招かれています。期待にこたえるべく、早くからワークアウトに励んで鍛え上げた逞しいボディ、加速して繰り広げられるアクションを見よ!(早送り&コマ落としではありません)
どのキャラも非常に濃くて、それぞれに目立ちまくりです。ストーリーを掻きまわしながら面白く膨らませ、どなたのファンもお腹いっぱいに満足するはず。これまで真面目で優し気な役の多かった福士蒼汰くんが、ファブルを狙う狂気の”フード”役。向井理さんの腹黒男、柳楽優弥くんのブチ切れっぷりに瞠目、安田顕さんの弟分への温情、ボスの親心(?)が胸を熱くします。おしとやかなイメージの木村文乃さんのはじけっぷり、山本美月さんの珍しく色っぽい姿態も必見。スクリーンいっぱいにアップになる「ここまでやる?」な岡田さんの変顔をお楽しみに。あっ!主題歌があのレディー・ガガなんですよ。これにもびっくり!(白)


冒頭いきなり、殺し屋ファブルの見事な仕事ぶりが映し出される。無駄のない動きに感嘆するばかり。そこにグラフィックな工夫を加えることでコミカルにも見せる。江口カン監督だからこその演出に心を掴まれた。
後半の見せ場を盛り上げるよう、前半は人間関係をお膳立てしていく。ファブルのストイックな生活ぶりが際立ち、笑いを誘う。特に、感情を見せないファブルがあるお笑い芸人を見るときだけ破顔するが、このギャップはファンにはたまらないだろう。
クライマックスは岡田准一が身体能力を存分に発揮した見応えたっぷりのアクションシーン。CGやワイヤーだけだなく、スタントさえ使わずに演じきる。ファブルを敵視する殺し屋フードを演じる福士蒼汰もうまくはまり、楽しげにファブルをいたぶっていた。福士蒼汰は主演より、脇で盛り立てる役で良さが引き立つような気がした。(堀)


江口カン監督インタビューはこちらから。
スペシャルトークイベントを取材したスタッフ日記ブログはこちらから。
ほぼ書き起こしはこちらから。

2018年/日本/カラー/シネスコ/123分
配給:松竹
(C)2019「ザ・ファブル」製作委員会
http://the-fable-movie.jp/
★2019年6月21日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:47| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

きみと、波にのれたら

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監督:湯浅政明
アニメーション制作:サイエンスSARU
脚本:吉田玲子
総作画監督:小島崇史
音楽:大島ミチル
主題歌:GENERATIONS from EXILE TRIBE「Brand New Story」
声の出演:片寄涼太(雛罌粟港)、川栄李奈(向水ひな子)、松本穂香(雛罌粟洋子)、伊藤健太郎(川村山葵)

向水(むかいみず)ひな子は大学入学を機に海辺の町に引っ越してきた。まだ将来のビジョンも持てないけれど、大好きなサーフィンをしていれば幸せ。ある日火事騒ぎで消防士の雛罌粟港(ひなげしみなと)と知り合い、二人で波を探して出かけるようになった。充実した日々がいつまでも続くと思った矢先、港は海の事故で亡くなってしまう。ひな子はあれほど好きだったサーフィンも海を見ることもできなくなった。二人の思い出の歌を口ずさんだときに、水の中に港が現れる。

湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』(2017)は、中学生男子カイと人魚の女の子ルーとの交流を描いたオリジナルのファンタジー作品。国内外で高評価を受けました。本作もそれに近い雰囲気ですが、主人公の年齢が上がり、湯浅監督が気恥ずかしいとおっしゃっていた(TIFF2018のトークショー)ラブシーンもあります。
前作でもルーが操る水の表現に目を見張りましたが、今回はサーフィンで大いに海と戯れます。後半のアクシデントでも大事な港を連れて行ってしまったのも海ですが、ひな子が力をもらうのもまた海でした。この切ないストーリーには前日譚があり、後で明らかになります。それがさらに、生命や生きること、人とのつながりを深く感じさせました。声をあてた片寄涼太さん、川栄李奈さんが口ずさむ歌が観終わってからもずっと残ります。(白)


2018年/日本/カラー/シネスコ/96分
配給:東宝
(C)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
https://kimi-nami.com/
★2019年6月21日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:36| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

パージ:エクスペリメント(原題:The First Purge)

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監督:ジェラード・マクマリー
脚本:ジェームズ・デモナコ
音楽:ケビン・ラックス
出演:イラン・ノエル(ディミトリ)、レックス・スコット・デイヴィス(ナヤ)、ジョイヴァン・ウェイド( イザヤ)、スティーヴ・ハリス(フレディ)、マリサ・トメイ(アップデール博士)

経済が崩壊した21世紀のアメリカで政権を握っていた新政党NFFA(新しいアメリカ建国の父たち)は犯罪率を抑えるため、1年に一晩だけ殺人を含むあらゆる犯罪が合法となる「パージ法」の採用を決めた。反対デモも無視し、アメリカ全土での適用前に、ニューヨークのスタテン島内のみで実験することになった。島に残る島民に用意された賞金は5000ドル。島の住民たちが不安を抱える中、ついにパージ当日がやってくる。島のギャングのボスであるディミトリーは、愛する人を守るためにスタテン島に残ることを決意する。

2013年に第1作が制作された(日本公開は2015年)「パージ」シリーズの第4作。1年に1晩、12時間だけ全ての犯罪が合法化される法律=「パージ法」。この法律がなぜ施行されることとなったのか?その始まりが描かれています。
最悪の実験の被験者たちは、賞金にひかれて残ることを選んだ貧しい人、どこにも行く場所のない人たち。開発したのは暮らしにあえいだ経験もなさそうな富裕な白人たち。島に通じる道は封鎖され、犯罪を楽しみたい暴徒たちが暴れまわる様子を安全なところから監視しています。実験を成功させたい権力者の傲慢にむかつき、一晩中逃げ続けまたは抵抗する住民たちのサバイバルにハラハラさせられます。これまでの作品をまず見るのもよし、始まりを見てから順に見続けるもよし。私は全部観ておりました。作品紹介は以下。(白)


第1作『パージ』http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/422196791.html
第2作『パージ:アナーキー』http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/423007382.html
第3作『パージ:大統領令』http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/448991725.html

2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/98分/R15+
配給:シンカ、パルコ
(C)2018 Universal Pictures
http://purge-exp.jp/
★2019年6月14日(土)ロードショー
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ガラスの城の約束 原題The Glass Castle


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監督 デスティン・ダニエル・クレットン
製作 ギル・ネッター ケン・カオ
製作総指揮 マイク・ドレイク
原作 ジャネット・ウォールズ
脚本 デスティン・ダニエル・クレットン アンドリュー・ランハム
撮影 ブレット・ポウラク
美術 シャロン・シーモア
衣装 ミレン・ゴードン=クロージャー ジョイ・ハナエ・ラニ・クレットン
編集 ナット・サンダース
音楽 ジョエル・P・ウェスト

出演 ブリー・ラーソン、ウッディ・ハレルソン、ナオミ・ワッツ、マックス・グリーンフィールド
ニューヨーク・マガジンの人気コラムニスト、ジャネットはある日、ホームレス同然の父レックスと再会する。両親は彼女が幼いころ、定職につかず夢を追い求めて気の向くままに生活していて、仕事がうまくいかない父は酒に溺れ、家で暴れた。成長したジャネットは大学進学を機にニューヨークへ旅立ち、両親と関わらないようにしようと考えていた。

掌のような佳編『ショート・ターム』でブレイクしたブリー・ラーソンは、オスカー女優、そしてアメコミヒーローになってもデスティン・ダニエル・クレットン監督への恩を忘れていなかった…。米国で7年間ベストセラーになった著名な自叙伝が原作とはいえ、本作は地味な低予算映画である。しかも、ラーソンは2020年公開予定の映画で三度クレットン監督と、実在の人権弁護士を描いた作品を撮っているという。
富と名声を追い求めるのが常のハリウッドに於いて、ひと筋の爽やかな逸話を感じさせる、この「いい話」が、実は本作の主題と共振している点が面白い。

主人公は定職に就かず酒浸りの父、「ママのアートは永遠に残るのよ」と絵画制作に没頭し、子どもたちの面倒すら見ない母という富と安定に背を向けた両親に育てられた。その日暮らしを続ける父は、独学の物理や天文学を教え、父なりに子どもたちを愛し、いつか「ガラスの城」を建てる夢を語るのだ。
破天荒な父、聡明な娘をウッディ・ハレルソンと、ブリー・ラーソンが、これほどの適役はいないだろうと納得させる説得力で演じる。

クレットン監督の演出は、あくまでも正攻法。危うい暮らしの家族を柔らかく暖かな光線で包み込む。社会の一般通念から逸脱した家族をそのまま肯定しようとする意思を感じる演出だ。
コラムニストとして成功を収め、親との関係を絶った娘、ゴミを漁る境遇になりながらも尊厳を失わない両親のどちらにも共感し、寄り添う姿勢が主題と通底して観客も暖かな気持ちになるに違いない。(幸)


© 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
2017/アメリカ/カラー/シネマスコープ/127分
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
公式サイト:http://www.phantom-film.com/garasunoshiro/
6月14日(金)新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
posted by yukie at 11:32| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

The Crossing ザ・クロッシング Part II(原題:太平輪 彼岸 The Crossing 2)

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監督・脚本:ジョン・ウー
原案:ワン・ホエリン
出演:チャン・ツィイー、金城武、ソン・ヘギョ、ホアン・シャオミン、トン・ダーウェイ、長澤まさみ

1949年、1,000人近い乗客乗員を乗せて上海から台湾へ向かっていた大型客船「太平輪」。船にはユイ・チェン(チャン・ツィイー)、イェン・ザークン(金城武)、トン・ターチン(トン・ダーウェイ)が、それぞれに違う目的で乗船していた。深夜、付近を航海中の貨物船と衝突した事で船内はパニックに陥り、それまでお互いを知る事の無かった男女の3組の運命が交差する―

1945年国共内戦下の中国が舞台。Ⅰでは戦場の描写が多かったが、Ⅱでは純愛の側面にフォーカス。戦争によって引き裂かれた男女たちの届かない想い、切ない叫びが聞こえてくる。クライマックスは上海から台湾に向かう客船の沈没シーン。非常時とはいえ、とんでもないほどの人と貨物を載せて出発したこともさることながら、乗務員の常軌を逸した気の緩みに絶句。海に投げ出された人々の阿鼻叫喚ぶりに驚くが、それぞれの愛をうまく着地させた脚本に心が安らいだ。
ところで、ジョン・ウーといえば白い鳩と二丁拳銃が必ず出てくることで有名。本作でも、「ここはカモメでは?」という場所に鳩が飛んでいた。しかし、二丁拳銃を見落としてしまった! どなたか、ご覧になったらぜひチェックして、コメントでお知らせいただけると幸いです。(堀)


国共内戦が激しくなり、台湾に逃れようと上海の港に停泊している船に殺到する人たちの姿を観て、にわかに思い出した映画があった。タイトルが思い出せなくて、居心地が悪かったのだが、やっと思い出せた。1991年に日本で公開された『レッドダスト』。監督はイム・ホー。ブリジット・リン演じる女性作家と、日本への協力者として忌み嫌われていた男(シン・ハン)。1938年、日中戦争の時期から、1945年の日本敗戦後の国民党と共産党の内戦、1949年、国民党が台湾脱出するまでの時期を背景にした恋の物語。ラストが人々が船に殺到する場面だった。『レッドダスト』を、今再び観たくなった。

そして、本作で描かれた台湾の部分では、戦前、基隆に住んでいた亡き母のことを思い出した。細い入江が深く入り込んだ基隆港は天然の良港。本作では船が基隆に着く場面が出てきた。
外国航路の船長をしていた母方の祖父は、家族と過ごせる水先案内人の仕事を基隆港に見つけ、昭和6年から終戦まで基隆に住んでいた。高収入の仕事で、北投温泉にも別荘を持っていたそうだ。本作では、日本人が去った後の屋敷が出て来る。母が暮らした基隆の家は戦後もそのままあったのを台湾人の同級生から聞いたという。母たちが去った後、どんな人たちが住んだのだろう。そんなことにも思いを馳せた。
ジョン・ウー監督、壮大な物語を多謝~! (咲)



2015年/中国/カラー/126分
配給:ツイン
©Beijing Galloping Horse ・ All Rights Reserved.
公式サイト:http://thecrossing.jp/
★2019年6月14日(土)シネマート新宿・心斎橋他にてロードショー!
posted by ほりきみき at 00:31| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月09日

慶州(キョンジュ) ヒョンとユニ 原題: Gyeongju

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監督:チャン・リュル
出演:パク・ヘイル、シン・ミナ、ユン・ジンソ

北京の大学で教鞭をとるチェ・ヒョンは、先輩チャンヒが亡くなった知らせを受け、テグ(大邱)に帰ってきた。7年前、一緒に慶州(キョンジュ)に行った時に撮った写真が遺影になっていて、茶屋で観た春画を思い出す。その春画を確認したくて、チェ・ヒョンは慶州に向かう。
中国煙草を手にしていると、黄色いスカートの少女が「吸っちゃ駄目」と声をかけてくる。「匂いを嗅いでいるだけ」とチェ・ヒョン。妙に印象に残る少女。
観光案内所の若い職員の女性が、中国語で話しかけてくる。つい、韓国人と言いそこね、中国語で答えてしまう。職員のたどたどしい中国語が初々しい。
茶屋に行くが、春画があった壁は壁紙で覆われている。一度は立ち去ったが、再び訪れ、美しい茶屋の主人ユニに、春画がなぜこの店にあるのか前のオーナーから聞いてないか尋ねる。「昼間にいらした時には、変態かと思った」というユニ。
ユニの仲間たちとカラオケに行った後、丸いお墓の山に登る。「死んだらここに入りたい」とつぶやくユニ。彼女の夫は数年前に鬱病で自殺していた。「顔は似てないのに、耳がそっくり。さわらせてください」と、チェ・ヒョンの耳をさわる。
一方、チェ・ヒョンは過去の恋人ヨジュンに会いたいと連絡する。今は人妻となったヨジュンが慶州にやってくる・・・

古都・慶州への不思議な1泊2日の旅。
2014年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された折に拝見。なんともいえない余韻が蘇ります。
ゲストルームで他の作品の監督インタビューの為に待機していたら、パク・ヘイルさんが現われました。お昼を食べる時間がなかったらしく、コンビニで買ってきた袋入りのパンを大急ぎで召し上がっていました。すぐに舞台挨拶のために劇場に向かわれたのですが、とても自然体で親しみの持てる素敵な方でした。
映画の中のチェ・ヒョンは、パク・ヘイルさんそのままのような人物。落ち着いた雰囲気の古都・慶州を舞台にした味わい深い一作です。(咲)


2014年/韓国/145分
配給:A PEOPLE CINEMA
公式サイト:http://apeople.world/gyeongju/
★2019年6月8日(土)よりユーロスペース(渋谷)ほか全国順次公開




posted by sakiko at 15:02| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

99歳 母と暮らせば

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監督・撮影・編集・ナレーション:谷光章
出演:谷光千江子、谷光賢、谷光育子、谷光章

71歳の谷光監督の母千江子さんは99歳。認知症が進んで目が離せなくなってきた。谷光監督は仕事の場を実家へ移し、同居して介護を始めた。料理を作り、下の世話をし、デイケアへ送り出し、と気負うことなくこなしている。千江子さんは、物忘れはあっても食欲旺盛、社交的で明るい。
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母と息子の関西弁の会話は漫才のようで、思わず笑ってしまいます。老々介護を1年間淡々と映して、編集した作品。谷光監督は初めての介護体験ながら、大変だと愚痴ることもなく体調の良しあしの波もうまくやり過ごしています。お二人手をつないで桜を愛でる表情の晴れやかなこと。2年後の今も変わりなくお元気だそうです。この穏やかな日々が続きますように。(白)
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千江子さんの言葉や行動が、なんとも可愛らしくて、ほのぼのとさせられました。
とはいえ、老々介護が大変だなぁ~ということも、ずっしり伝わってきました。
その大変さを気持ちの持ちようで載り切る術を教わったような気がします。
8年前に亡くなった母のことも思い出しました。
最後の1年は認知症が進んでちょっと大変でした。
知らない間に、物を買ってしまうということもよくあって、まさに「あるある」と。
一方、96歳になる私の父はまだまだ元気で、これから千江子さんのようになっていくのかなと。
誰もがたどる道、介護と、自分の老い・・・明るく乗り切りたいと思わせてくれる映画です。(咲)

老いた母親を介護する作品はこれまでにも『毎日がアルツハイマー』や『ほけますから、よろしくお願いします。』など、いくつも見てきたが、この作品ほどほのぼのとしたものはなかった。何が違うのか。ふと考えてみたら、視点が娘ではなく、息子なのだ。
以前、仲間内で“母親が認知症になったとき、娘はすぐに受け入れ、介護認定を取ることなど先々のことを考えるが、息子は母親がぼけたことを受け入れられず、認知症を認めない傾向がある”ということが話題になった。「娘は冷めた目で見てしまいがちだよね」という結論に落ち着いた覚えがあるが、この作品がほのぼのしているのも、それが影響しているのではないだろうか。
もちろん、介護の本当にしんどい部分はカットしたのかもしれないが、それでも今なお、年老いた息子が前向きに介護を続けていけるのは、母親への意識の違いが大きいのだろう。親の介護は娘や嫁がするべきという固定概念を捨て、息子が中心にやっていくのがいい。この作品を見ているとそんな気持ちになってくる。(堀)


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谷光監督インタビューはこちら
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/466507574.html

2018年/日本/カラー/92分
配給:イメージ・テン、ムービー・アクト・プロジェクト
(C)Image Ten.
http://99haha.net/
★2019年6月8日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開
posted by shiraishi at 10:10| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

氷上の王、ジョン・カリー(原題:The Ice King)

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監督・脚本:ジェームズ・エルスキン
ナレーション:フレディ・フォックス
音楽監督:スチュアート・ハンコック
出演:ジョン・カリー、ディック・バトン、ロビン・カズンズ、ジョニー・ウィアー、イアン・ロレッロ

アイススケートをメジャースポーツへと押し上げ、さらに芸術の領域にまで昇華させた伝説の英国人スケーター、ジョン・カリー。彼はバレエのメソッドを取り入れた演技で、1976年インスブルック冬季五輪フィギュアスケート男子シングルの金メダルを獲得する。しかし、マスコミが真っ先に伝えたのは、表に出るはずのなかった彼のセクシュアリティだった。同性愛が公的にも差別されていた時代に、ゲイであることが公表されたメダリストの存在は、世界中を驚かせ論争を巻き起こす。しかし、彼は華麗な滑りで多くの人を魅了し続け、現在の日本人スケーターにも影響を与えている。(公式サイトより)

フィギュアスケートは、次々と登場する美しいアスリートたちのおかげですっかりメジャーになりました。私もかたずをのんで見守っています。ここまでくるには先達の努力があったはず、と思いつつこの映画を観るまでジョン・カリーのことは知らずにいました。
栄光の背後には血のにじむ努力と、孤独な日々があると想像に難くありません。動画でも一枚の写真でも、彼の影を伴った美しさが見て取れます。同性愛が忌むべきもの、病気として治療すべきものとされていたことは、多くの映画でも描かれていますが、ジョン・カリーも父親から「人間として根本的なところがおかしい」と非難され続けたとか。一番味方でいてほしい家族から受け入れられなかった彼の孤独は、どれほど深かったことやら。
彼の完璧なパフォーマンスと、さらに高みを目指し続けた姿勢は、現代のスケーターにも憧れをもって見つめられています。どうぞ大きな画面でご覧ください。(白)


2018年/イギリス/カラー/89分
配給:アップリンク
(C)New Black Films Skating Limited 2018
http://www.uplink.co.jp/iceking/
予告編はこちら
★2019年5月31日(金)新宿ピカデリー、東劇、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 09:58| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする