2019年05月17日

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(原題:Ex Libris - The New York Public Library)

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監督・録音・編集・製作:フレデリック・ワイズマン 
字幕:武田理子 
字幕協力:日本図書館協会国際交流事業委員会

図書館とは本の貸し出しをしているところ。この認識は間違っていないが、それだけではない。私が住んでいるところの公共図書館では、子ども向けの読み聞かせや季節の行事に合わせたイベント、映画の上映、講演会なども行われている。子どもが幼い頃は随分とお世話になったものだ。
本作が取り上げるニューヨーク公共図書館の活動はもっと幅広い。司書は電話での質問に答え(人力Googleと呼ばれている)、音楽ライブを企画し、就職支援プログラムを行い、住宅の確保が難しい視覚障がい者のために住宅を手配する。荘厳な19世紀初頭のボザール様式の建築で知られる本館と92の分館から構成されているが、それぞれの館にふさわしい企画が行われる。さらにウェディングパーティーやファッションショーまで行うのだから驚く。フレデリック・ワイズマン監督はナレーションを加えず、淡々と図書館の舞台裏を見せていく。
ニューヨーク公共図書館は吉田秋生の「BANANA FISH」の聖地といわれている。3階のローズ・メイン・リーディング・ルームはほぼフットボールの競技場の長さがあるが、ここでアッシュは本を読んだのねと思わず、夢想。NYまで行かなくても、本物が堪能できる! (堀)


2017年/アメリカ/カラー/ DCP /3時間25分
配給:ミモザフィルムズ/ムヴィオラ
© 2017 EX LIBRIS Films LLC – All Rights Reserved
公式サイト:http://moviola.jp/nypl/
★2019年5月18日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー!
posted by ほりきみき at 02:00| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

僕たちは希望という名の列車に乗った(原題:Das schweigende Klassenzimmer)

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監督:ラース・クラウメ
原作:ディートリッヒ・ガルスカ「沈黙する教室」(アルファベータブックスより4月発刊予定)
出演:レオナルド・シャイヒャー、トム・グラメンツ、ヨナス・ダスラ―、ロナルト・ツェアフェルト、ブルクハルト・クラウスナー

1956年、東ドイツの高校に通うテオ(レオナルド・シャイヒャー)とクルト(トム・グラメンツ)は、列車に乗って訪れた西ベルリンの映画館でハンガリーの民衆蜂起を伝えるニュース映像を目の当たりにする。クラスの中心的な存在であるふたりは、級友たちに呼びかけて授業中に2分間の黙祷を実行した。それは自由を求めるハンガリー市民に共感した彼らの純粋な哀悼だったが、ソ連の影響下に置かれた東ドイツでは“社会主義国家への反逆”と見なされる行為だった。やがて調査に乗り出した当局から、一週間以内に首謀者を告げるよう宣告された生徒たちは、人生そのものに関わる重大な選択を迫られる。大切な仲間を密告してエリートへの階段を上がるのか、それとも信念を貫いて大学進学を諦め、労働者として生きる道を選ぶのか……。

今年はベルリンの壁崩壊(1989年11月9日)から30年。しかし、本作が描いている1956年はまだそのベルリンの壁さえ建設されていなかった。完全フリーというわけではないが、東ベルリンから西ベルリンへ行くことは可能で、テオとクルトは祖父の墓参りを口実に西ベルリンに出掛けている。しかし、人間関係は複雑だ。第二次世界大戦時、本人や家族がどこに属していたか。このことが大きく関わっていることが作品を通じて伝わってきた。それでもテオたちは祖父や父の立場でなく、自分はどうするかを考えた上で行動する。最後の彼らの決断と行動は清々しい。
本作は実話がベースにあり、原作はディートリッヒ・ガルスカが自身の実体験を綴ったノンフィクション『沈黙する教室 1956年東ドイツ―自由のために国境を越えた高校生たちの真実の物語』である。ラース・クラウメ監督が脚本も担当。原作者をクルトに反映し、緻密なリサーチでサスペンスタッチな青春映画に仕上げた。(堀)


2018年/ドイツ/ドイツ語/シネスコ/111分/PG-12
配給:アルバトロス・フィルム/クロックワークス
© Studiocanal GmbH Julia Terjung
公式サイト:http://bokutachi-kibou-movie.com/
★2019年5月17日(金)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
posted by ほりきみき at 01:00| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ベン・イズ・バック(原題:Ben Is Back)

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監督・脚本:ピーター・ヘッジズ
撮影:スチュアート・ドライバーグ
音楽:ディコン・ハインクリフェ
出演:ジュリア・ロバーツ(ホリー)、ルーカス・ヘッジズ(ベン)、キャスリン・ニュートン(アイヴィー)、コートニー・B・バンス(ニール)
クリスマスイブの朝、郊外のバーンズ家に長男のベンが突然戻ってきた。薬物依存症の更生施設から抜け出してきたのだ。母のホリーは思いがけない帰宅を喜び、抱き締める。継父のニールと妹のアイヴィーはこれまでのベンの行動から、懐疑的に見ている。継父との間に生まれた幼い弟妹たちは、屈託なく再会を受け入れる。教会での行事の準備やクリスマスプレゼントの用意に大わらわの中、ベンは母と出かけたショッピングモールで、会いたくなかった昔の仲間に見つかってしまう。一家が教会の催しから帰宅すると家の中が荒らされ、愛犬が消えていた。

仲の良い夫婦、可愛い子供たちの家庭に戻ってきた長男の存在は、その家族の平和をかき乱します。薬物依存で心も身体もぼろぼろになっていく映画はなんと多いことか。日本の自殺者の数に驚いていたら、アメリカでは薬物依存からの死亡者がもっと多かった。つい先日公開された『ビューティフル・ボーイ』は誘惑に絡めとられてしまう息子と、彼を救おうと奮闘する父親、今回は息子と母親のストーリーです。どちらにも共通するのは、決してあきらめず見捨てないこと。
まず母親ホリー役のオファーを受けたジュリア・ロバーツの強い希望で、息子のベンはピーター・ヘッジズ監督の実子のルーカス・ヘッジズに決まりました。活躍著しいルーカスですが、父親の作品には出ない、と固く決めていたそうです。ところが、ジュリア・ロバーツの希望だと聞いたとたんその決心は瓦解(笑)。また父親役のコートニー・B・バンスとの共演というのも後押ししたようです。辛く緊張を強いる内容を緩急つけて心を掴むストーリーに仕上げたピーター・ヘッジズ監督の手腕。息子ルーカスの尊敬の念も増したのではないかしら。(白)


子どもが薬物依存に陥ったとき、親はいったい何ができるのだろうか。本作の母親は夫が何を言っても、最後まで息子を見放さない。更生に向けて必死に道を探る。しかし、そんな母親でも息子が更生施設を飛び出してきたとき、息子を信じ切れず、金目になるものを隠す。その行動を娘に指摘され、慌てふためき葛藤する。必死になりすぎて行動に辻褄が合わなくなるのは子育てにはよくあること。母親を演じたジュリア・ロバーツの熱演とともに、ピーター・ヘッジズの脚本の細やかさを感じた。
ところで、本作の息子は自分から薬物に手を出して依存症になったのではない。14歳のときにスキーで脚をケガしたときに、医者から処方された鎮痛剤がきっかけだと作品の途中で分かる。母親が「大丈夫なのか」と確認していたにもかかわらず。疑問に思ったのなら医者を変えておけばよかったと、母親は後悔したに違いない。その医者と街で再会すると、認知症になった医者は息子のことさえ覚えていなかった。母親は医者に対してこっそりと暴言を吐くのだが、それは自分自身に掛けた言葉に聞こえる。(堀)


2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/103分
配給:東和ピクチャーズ
https://benisback.jp/
(C)2018- BBP WEST BIB, LLC
★2019年5月24日(金)TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー
posted by shiraishi at 00:33| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする