2019年05月12日
アメリカン・アニマルズ( 原題:American Animals)
監督・脚本:バート・レイトン『The Imposter』(英国アカデミー賞受賞)
出演:エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソン
アメリカ・ケンタッキー州で退屈な大学生活を送るウォーレンとスペンサーは、自分が周りの人間と何一つ変わらない普通の大人になりかけていることを感じていた。そんなある日、二人は大学図書館に時価 1200 万ドル(およそ 12 億円相当)の超える画集「アメリカの鳥類」が保管されていることを知る。「その本が手に入れば、莫大な金で俺たちの人生は最高になる」そう確信したウォーレンとスペンサーは、大学の友人を巻き込み、『オーシャンズ 11』『スナッチ』などの犯罪映画を参考に強盗計画を立て始める。
本作を観ながら、アイルランドのアニメーション映画『ブレンダンとケルズの秘密』を思い起こしていた。「世界で最も美しい本」と言われる「ケルズの書」、壮麗なケルト文様が装飾された福音書(聖書)の写本が造られる過程を描いた傑作アニメだ。ダブリン大学トリニティ・カレッジ図書館に所蔵されているアイルランドの国宝を、もしダブリン大学の現役学生が本作と同じように転売目的で盗み出していたとしたら…。アイルランド=ケルト文化贔屓の身としては、一瞬意識が極西の国へ飛んでしまった。
本作では「特別な人間になりたい」「どデカいことを成し遂げたい」と動機を定義付けている。当事者たちに取材しているのだから本当なのだろう。
だが、冒頭にアーティスト志望のスペンサーが、オーデュボンの画集に描かれた優美なピンクフラミンゴ(おそらく?)の絵に一目で惹き付けられる場面の丁寧な演出から分かるように、少なくともスペンサーだけはオーデュボンのアートを体内に取り込みたかったのではないか。
その証拠に、タイトルバックからエンディングまで、鮮やかでリアルなオーデュボンの鳥類画像が幾度となく映像に溶け込むかの如く登場する。『ブレンダンとケルズの秘密』で、ケルト文様が万華鏡のように躍動するさまとよく似ている。
犯行の未熟さと不完全さゆえ、本作をクライム青春映画とする評価が多い中、繊細さと叙情性、生き物としての儚さを感じ取ったのは、アート好き体質によるものか。
観客の視点により様々な楽しみ方が可能な、今年の収穫作であることは間違いない。(幸)
2018 年/アメリカ・イギリス/116 分/スコープサイズ/5.1ch
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal
Pictures Limited 2018
公式サイト:http://www.phantom-film.com/americananimals/sp/
★5 月 17 日(金)より 新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
コレット(原題:Colette)
監督:ウォッシュ・ウェストモアランド
脚本:リチャード・グラッツァー、ウォッシュ・ウェストモアランド、レベッカ・レンキェヴィチ
出演:キーラ・ナイトレイ、ドミニク・ウェスト、フィオナ・ショウ、デニース・ゴフ、エレノア・トムリンソンほか
フランスの田舎町サン・ソヴールで生まれ育ったコレット(キーラ・ナイトレイ)。14歳年上の人気作家ウィリー(ドミニク・ウェスト)との結婚を機に、“ベル・エポック”真っ只中の活気にあふれていたパリへと移り住む。やがて、コレットの才能にいち早く気が付いたウィリーは、自身のゴーストライターとして彼女に自伝的な小説を書かせることに。その後、コレットが執筆した「クロディーヌ」シリーズは、社会現象を巻き起こすほどの一大ブームとなった。
こうして世間もうらやむようなセレブ夫婦として注目されるようになるコレットとウィリーだったが、コレットは自分が作者であることを世間に認められない葛藤と夫の度重なる浮気に苦しめられていく。その結果、自らの歩むべき未来を追い求めるようになるのだった。
フランスの片田舎に生まれ育った少女がベストセラー作家と呼ばれるようになり、自分らしい生き方を見つけるまでを描く。
コレットは作家だが、当時のファッションアイコンでもあったらしい。結婚前はどこにでもいそうな雰囲気の少女だったが、セレブとして注目されるようになってからは白、黒、紺、茶といった色合いのパキっとしたデザインの衣装を身にまとい、意志の強さを感じさせる。特にメンズスーツを着用したシーンでは、ウィリーに対する決別の意がびんびんに伝わってきた。次々と登場する衣装も作品の見どころ。キーラ・ナイトレイは何を着てもよく似合っていた。
あらすじを読むと、ウィリーはコレットの作家としての才能を利用しただけの男のように思えるが、ドミニク・ウェストが演じるとウィリーなりにコレットを愛していたことが感じられる。ドミニク・ウェストの為せる業か。
また、「クロディーヌ」シリーズがヒットするとブランドを立ち上げ、書籍だけではなく香水、メイク、石鹸などを売り出すなど、プロデュース力は目を見張るものがあるのだから、プロデューサーに徹することができれば、盟友としてずっとやっていけたのではないか。妻の名前が有名になることが我慢できなかったのだろうが、悔やまれる。
同じ頃、日本では与謝野晶子は自分の名前で作品を発表していた。コレットは1873年生まれで、晶子は1878年に生まれで同世代である。晶子は1912年に鉄幹を追ってパリに行った。コレットと晶子はどこかで会っていたかもしれない。もし、会っていたとしたら、最初から自分の名前で作品を発表していた晶子をコレットはどう思ったのだろうか。(堀)
フランス人女性で初めて国葬されたシドニー=ガブリエル・コレット。
本作は、フランス文学界で最も知られている女性作家コレットの物語。
なのですが、こんなに有名な人物のことを全く知りませんでした。
田舎町で生まれ育ったコレットが、人気作家と結婚することにより、その才能を開花させたのに、夫がその成果を奪う。おまけに堂々と浮気まで。まったくもって男ってけしからん! でも、彼女は屈せず這い上がります。生き様に勇気を貰えます。
イギリスとの合作故、フランス語ではなく英語なのが、ちょっと残念。(咲)
2018年/イギリス・アメリカ/カラー/英語/シネマスコープ/111分/5.1ch/PG12
配給:東北新社
©2017 Colette Film Holdings Ltd / The British Film Institute. All rights reserved.公式サイト:https://colette-movie.jp/
★2019年5月17日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館 ほか全国ロードショー
レプリカズ 原題: REPLICAS
監督:ジェフリー・ナックマノフ
出演:キアヌ・リーブス、アリス・イブ、トーマス・ミドルディッチ、ジョン・オーティス
神経科学者ウィリアム・フォスター(キアヌ・リーブス)は、亡くなった人間の神経(=心)をコンピューターに移す研究に携わっている。それはアルツハイマーの治療をはじめ、人類に新たな可能性を導くもので、あと一歩のところで滞っていた。
そんな中、感謝祭を迎え、ウィリアムは妻と3人の子どもたちと車で出かける。悪天候の山道で木が倒れてきて、崖に落ち、ウィリアム以外の4人が絶命してしまう。研究室から実験道具を家に運び込み、妻や子どもたちの遺体から「記憶」を取り出し、クローンに埋め込むことにする。ところが、クローン用の母体が3体しかなく、やむなく一番幼い次女の蘇生を諦める。妻や二人の子から次女の記憶を消してクローンに埋め込み、みごと成功する。研究所にはひた隠しにしていたが、研究の成功を待ち望んでいた政府組織にかぎつかれてしまう・・・
プエルトリコのカリブ海に面した町で撮影された近未来の物語。
研究にまい進している科学者が家族を一度に失い、倫理観も忘れて、自身の研究成果を家族再生に使うために暴走する・・・ キアヌ・リーブスだからこそ、その研究が人類の進歩のためであり、善を前提にしたものだと信じることができるし、家族のために我を失うのも容認してしまいます。
もし、ほんとに、こんな形ででも、失った家族を取り戻すことができたなら・・ でも、それはやっぱり偽物でしかないでしょう。そこまで科学を進歩させる必要もないと思わせられました。そして、政府組織がこの研究成果を待ち望んでいたのが、人類の進歩のためなどでない、戦争のためだとなれば、なおさらです。(咲)
亡くなった人間の意識をコンピュータに移した上でクローン化し、もう一度、意識を移し替え、完璧なレプリカとして甦らせる。ツッコミどころ、倫理的な問題とも満載だが、妻子を一度に亡くした主人公の気持ちは理解できる。有名になっても幅広く作品に出演するキアヌらしい作品選びにファンとしてはうれしくなってしまう。
後半はキアヌらしいアクションがメインの逃亡劇。はらはらドキドキの先にあるラストには驚くが、逃亡劇のクライマックスをしっかり見ておくと、その驚きがさらにアップするだろう。(堀)
2018年/アメリカ/107分/英語/カラー/スコープ
配給:ショウゲート
(C)2017 RIVERSTONE PICTURES (REPLICAS) LIMITED. All Rights Reserved.
公式サイト:http://replicas.jp/
★2019年5月17日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー