2019年05月28日
さよならくちびる
監督・原案・脚本:塩田明彦
撮影:四宮秀俊
照明: 秋山恵二郎
音楽プロデューサー: 北原京子
音楽:きだしゅんすけ
出演:小松菜奈、門脇麦、成田凌、篠山輝信、松本まりか、新谷ゆづみ、日髙麻鈴、青柳尊哉、松浦祐也、篠原ゆき子、マキタスポーツ
バイト先で知り合ったレオ(小松菜奈)とハル(門脇麦)は女性ギター・デュオ「ハルレオ」を結成。路上で歌ううちに少しずつ人気が出始め、ライブツアーに出ることに。ローディ兼マネージャーとしてシマ(成田凌)が加わることとなる。地方ライブの集客も増え、若い女性を中心にさらに人気が広がっていくが、歌詞にしか書けないハルの真実と、歌声でしか出せないレオの想い、隠していたシマの本音も露わになる。やがて3人が出した答えは“解散”。すれ違う思いをぶつけ合って生まれた曲「さよならくちびる」を携え、3人は、北海道・函館で開くラストライブへと向かう。
© 2019「さよならくちびる」製作委員会
解散を隠してのライブツアー。観客が喜べば喜ぶほど、本人たちはしんどいだろう。しかも、相手に伝えられない、抱える想いもある。複雑な心境を小松菜奈、門脇麦は言葉に出さず、表情と雰囲気で伝える。しかも、小松菜奈、門脇麦の歌がうまい! ライブシーンは観客になった気分で聴き入ってしまった。
この作品では小松菜奈の髪形が時期によって大きく変化する。長い髪のイメージが強かったが、ショートもなかなかいけると思った。(堀)
© 2019「さよならくちびる」製作委員会
音楽+青春映画&男1人女2人。キャストの3人も好きな俳優さんたち。ほーほー、誰がカップルになるのかなと思ったら、最初っから解散の話で恋も愛もなかなか進みません。解散ツアーで全国を縦断し、その間に3人の感情が少しずつ漏れ出てきます。それぞれに色っぽい俳優なので、ちょっとしたしぐさにドッキリします。作中で歌われる曲がとても良くて、ハルレオの2人がほんとに作ったかのようにはまっています。ギター初心者なのに監督が無茶ぶりして妥協を許さず、必死で仕上げたそうですが、ライブシーンではそんな苦労を見せず、堂々とした歌いっぷり。耳に残ります。(白)
© 2019「さよならくちびる」製作委員会
塩田明彦監督の『カナリア』は大好きです。最新作のコチラは所謂、音楽ロードムービー …三角関係のコイバナに秦基博さんと、あいみょんさんの音楽が混ざってオシャレな感じに。今、親戚の男子も音楽専門学校時代の同級生と組み、男性コーラス・デュオで、武道館を目指して音楽修行中なので、なんちゃってレズカップルの「ハルレオ」に親戚男子の姿がカブリました。おばちゃん応援してるから、さよなら(=解散)になりませんように… それにタバコは喉に悪いから歌う人は吸わないほうが賢明かと…コウルサイおばちゃんだな私、反省。兎にも角にも、どんな時も 音楽には人を癒すチカラがあると、やっぱり実感します。 (千)
© 2019「さよならくちびる」製作委員会
2019年/日本/カラー/116分
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/kuchibiru/
★2019年5月31日(金)全国ロードショー
2019年05月26日
僕はイエス様が嫌い (英題『JESUS』)
監督:監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
出演:佐藤結良、大熊理樹、チャド・マレーン、木引優子、佐伯日菜子、ただのあっ子、二瓶鮫一、秋山建一、大迫一平、北山雅康
祖母と暮らすことになった少年ユラは、東京から地方のミッション系の小学校に転校する。毎日の礼拝に困惑する彼の前に、とても小さなイエス様が姿を現す。ユラ以外の人には見えないが、いつも彼の願いをかなえてくれるイエス様をようやく信じかけた矢先、彼に苦難が降り掛かる。
今年の邦画暫定ベストワン!と絶推ししたい作品をご紹介できるのが嬉しくて堪らない。しかも本作が監督デビュー、若干22歳の新鋭なのだ。脚本、編集も手掛け、特に撮影は絶品である。序盤、学校にある鳥小屋の場面では禽獣の“匂い”が明確に漂ってきた時の衝撃は忘れ難い。
ワンカット長回し、フィックス(固定)画像の清冽な美しさは偶然の産物ではなく、綿密に計算されたものであることがわかる。子役たちの自然な演技を引き出すための巧妙な技法なのだ。
大学在学中の卒業制作に有りがちな生硬さはそこには観られない。
祖父の仏壇に手を合わせる姿、学校の教会に差し込む光線、白雪でサッカーボールを蹴る子供たちの弾けた笑顔·····。
一つ一つ丁寧に紡がれた静謐且つ簡潔な描写は、対象との距離感が正確に保たれている故にほかならない。
それだけに少年が感情を爆発させる、ほんの一瞬の行為が観客に衝撃を与え得るスパイスとして見事な効果を発揮するのだ。これら洗練を極めた作風の全てが監督の頭で構築されたことを想像すると…、う〜ん大器の予感!日本映画界の至宝を大切に大切に見守って行きたい。(幸)
2019年/日本/カラー/スタンダード/76分/5.1ch
配給:ショウゲート
©2019 閉会宣言
公式サイト https://jesus-movie.com/
★2019年5月31日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
2019年05月25日
メモリーズ・オブ・サマー 原題:Wspomnienie lata
監督:アダム・グジンスキ
出演:マックス・ヤスチシェンプスキ,ウルシュラ・グラボフスカ,ロベルト・ビェンツキェビチ
1970年代末、ポーランドの田舎町。12歳のピョトレックは、夏休みを大好きな母ヴィシャと過ごしている。父は外国へ出稼ぎ中だ。やがて、母が昼間の仕事だけでなく、夜も毎日のようにおしゃれをして出かけるようになる。ピョトレックは置き去りにされて不満だ。昼間、暇を持て余して近くの湖に行き、年上の少年が率いる不良グループと親しくなる。一方、都会からやって来た少女マイカとも知り合い、ピョトレックは彼女に好意を抱くようになる。だが、マイカが不良少年と親しくしているのを目撃してしまう。相変わらず母が浮き浮きと出歩いている中、父が出稼ぎ先から帰ってくる・・・
12歳の夏の出来事。初恋、そして挫折、親との確執・・・ いろんなことがあって、少年は大人への一歩を踏み出します。
1970年代のポーランドという背景が、なんともノスタルジック。
虫の入った琥珀のお守りがいかにもポーランドらしいアイテムとして登場します。
人それぞれの大人への通過儀礼があるけれど、このピョトレックのケースは、ちょっと衝撃的? (咲)
美しい母、端正な顔立ちで、きちんと躾けられた息子。湖畔で戯れ、線路脇の道を電車と並び、自転車で駆け抜けるさまはまるで恋人同士のよう。幸せいっぱいのシーンだが、何となく不安感が拭い去れないのは、冒頭の衝撃的なシーンのせい。「この幸せは長く続かないはず」と物語に引き込まれてしまう。巧みな演出だ。
最初に変化を見せたのは母。夜の外出が増え、口紅が濃くなり、まとめ上げていた髪が解かれる。母が知らない誰かに女を見せるために出掛けていく姿を12歳の少年が受け入れるのは酷だ。時折、反抗的な態度を見せるようになる。そして、少年もかさぶたを剥がすような痛みを経験しながら、大人に近づいていく。
夏が終わり、秋を迎えたとき、少年は母から飛び立っていった。(堀)
アダム・グジンスキ監督インタビュー記事はこちらから。
2016年/ポーランド/83分/マグネタイズ/DCP
配給:マグネタイズ
公式サイト:http://memories-of-summer-movie.jp/
★2019年6月1日(土)より YEBISU GARDEN CINEMA / UPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー
誰もがそれを知っている(原題:Todos lo saben)
監督・脚本:アスガー・ファルハディ
撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ
音楽:ハビエル・リモン
出演:ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、リカルド・ダリン
アルゼンチンに暮らすラウラ(ペネロペ・クルス)が、妹の結婚式のため故郷スペインに帰省し、ワイン業を営む幼なじみのパコ(ハビエル・バルデム)や家族との再会を果たす。しかしその喜びもつかの間、結婚式の後に催されたパーティーのさなか、ラウラの娘イレーネが失踪。まもなく何者かから巨額の身代金を要求するメッセージが届き、ラウラは絶望のどん底に突き落とされる。パコは時間稼ぎに奔走し、ラウラの夫(リカルド・ダリン)もアルゼンチンから駆けつけるが、疑心暗鬼に陥った家族の内に長年隠されていた秘密が露わになっていく…。
スペインの小さな村で結婚祝いの最中、誘拐事件が起きた。主人公の悲痛な叫びに緊迫感が募る。身代金目当ての犯人の仕業か。それとも身内による狂言か。支えてくれる友人は元カレで以前は実家の小作人だった。土地を買い取り、今は対等なはずなのに、元地主の父の意識は変わらない。ありがちなことだろう。
悲劇も立場によって温度差がある。意識の違いが猜疑心を炙り出す。やがて明らかになる秘密。知らないのは本人だけというのは小さい村ならでは。ラストに理不尽さを感じるが、これが現実なのかもしれない。(堀)
公開を記念して、フリーライター高橋ユキと新潮社出版部長の中瀬ゆかりのトークイベントが行われた。詳細はこちらから。
昨年、カンヌ映画祭のオープニングでファルハディ監督のスペインで撮った映画が上映されると聞いて、世界に認められた巨匠になったと、ほんとに嬉しく思ったものです。日本でも公開されることと心待ちにしていました。そして、拝見してみたら、舞台はスペインの片田舎で、イラン人もイランのことも全く出てこないのに、まぎれもなくファルハディ監督の作品だと感じて、唸りました。
思えば、私がファルハディ監督にお会いしたのは、2009年9月。アジアフォーカス・福岡国際映画祭で、『彼女が消えた浜辺』が『アバウト・エリ』のタイトルで上映された時のことです。その折にインタビューさせていただいたのですが、読み返してみたら、「人間の本質はどこでも同じ」とありました。ファルハディ監督の映画作りの根底にあるのは、まさにそれだと思いました。
スペインを舞台にした物語の構想のきっかけは、15年前のスペインの旅のあちこちで見かけた行方不明の子どもたちの写真。最初に書いた短い物語をだんだん膨らませていったそうです。『ある過去の行方』を撮り終えた頃から本格的に本作の企画を始動。数年来懇意にしていたペネロペ・クルスとハビエル・バルデムのスター俳優夫妻を主人公にあて書きして脚本を執筆。二人にも相談したり、スペインを再訪したりして、何度も手を入れペルシア語で脚本を完成させ、その後スペイン語に翻訳。仕事仲間のイラン女性マスメ・ラヒジさんのお陰で、ペルシア語で感じたことをスペイン語で表現することができたと公式インタビューにありました。しっかりスペインの物語になっていながら、ファルハディ監督を感じることが出来たのも納得です。
『誰もがそれを知っている』も、これまでの作品同様、台詞の一言一言を聞き逃せません。それでも、もう一度観て、その言葉はそういう意味だったのだと確認したくなります。ファルハディ監督の仕掛けにしてやられました。(咲)
2018年/スペイン・フランス・イタリア/スペイン語/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/133分
配給:ロングライド
© 2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINÉMA - UNTITLED FILMS A.I.E
公式サイト:https://longride.jp/everybodyknows/
★2019年6月1日(土) Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
イングランド・イズ・マイン モリッシー, はじまりの物語(原題:England Is Mine)
監督・脚本:マーク・ギル
出演:ジャック・ロウデン、ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、ジョディ・カマー
1976年マンチェスター。学校をドロップアウトしたスティーブン・モリッシー(ジャック・ロウデン)はライブに通っては批評を音楽紙に投稿するだけの毎日。仕事をサボって詩を書くことが唯一の慰めだった。そんな時、美大生のリンダー(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)と出会い、後押しもあってバンドを組むことになる。
初ライブは成功、スティーブンはミュージシャンになろうと仕事を辞める。しかし順調に思えた彼を待ち受けたのは、別れや挫折だった。1982年、それでもあきらめずに音楽を続けるスティーブンの元に1人のギタリストが訪ねてくる。それは、のちに彼と「ザ・スミス」を結成するジョニー・マーだった。
1980年代に席巻したバンド「ザ・スミス」のモリッシーの若き日を描く。ザ・スミスを知らなくても、青春映画として楽しめるので大丈夫。
モリッシーは高校を中退し、せっかく手に入れた仕事もさぼり気味。音楽誌に辛口の批評を投稿するだけで、自分はなかなか一歩を踏み出さない。ダメダメぶり全開だが、イケメンなジャック・ロウデンが内気な感じで演じているからか、”守ってあげたい”と許せてしまう。94分の短尺で、モリッシーに惚れる女が3人も出てくるのはそのせいか。3人とも好きな男にきっかけをつかませようとせっせと後押しする。しかし、才能を信じる母の愛が息子を変える。親ってすごい。(堀)
2017年/イギリス/94分/カラー/シネスコ/PG-12
配給:パルコ
©2017 ESSOLDO LIMITED ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://eim-movie.jp/
★2019年5月31日(金)よりシネクイントほか全国ロードショー
長いお別れ
監督:中野量太
脚本:中野量太 大野敏哉
原作:中島京子『長いお別れ』(文春文庫刊)
主題歌:優河「めぐる」
出演:蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山﨑努、北村有起哉、中村倫也、杉田雷麟、蒲田優惟人
父・昇平(山﨑努)の70歳の誕生日。母・曜子(松原智恵子)から連絡があり、近くに住む次女・芙美(蒼井優)だけでなく、夫のアメリカ赴任に同行していた長女・麻里(竹内結子)も久しぶりに帰省する。そこで母から告げられたのは、厳格な父が認知症になったという事実だった。それぞれの人生の岐路に立たされている姉妹は、思いもよらない出来事の連続に驚きながらも、変わらない父の愛情に気付く。ゆっくり記憶を失っていく父との7年間の末に、家族が選んだ新しい未来とは。
少しずつ進行していく父・昇平の認知症。その変化があまりにも自然で、作品を見ているときには気が付かないのだが、見終わってから振り返ると、その変貌ぶりに驚く。昇平を演じた山崎努はオファーされる前に原作を読み、「映画化されるとしたら、昇平役は自分のところにオファーが来るのではないか」と予感していたという。
変わっていくのは父だけではない。介護をする家族もまた変わっていく。父に似て杓子定規で頑固なところのあった次女・芙美が自分の満足感に合わせるのではなく、相手の気持ちを考えた対応ができるようになる。また、夫婦関係に悩んでいた長女は、父が認知症になっても変わらぬ愛情を注ぎ続ける母の姿を見て、自らも夫と向き合う。
認知症の家族と暮らすことはけっして簡単なことではない。作品で描かれる生活がきれいごと過ぎるように見える人もいるだろう。しかし、大変だからこそ、些細なことに幸せを感じられるのかもしれない。目の前にいる妻のことが分からなくても、愛は残っていることを象徴するシーンには思わず涙がこぼれた。あ~結婚っていいかも!!
孫役の杉田雷麟は『そらのレストラン』では純朴な少年で逃げたブタを追いかけていたが、『半世界』では稲垣吾郎の息子役でちょっぴり反抗期を迎えていた。そして、本作では髪を金髪にして、母親に対してゴリゴリに反抗中。でも、内心は家族のことを思いやる。役と共に成長しているのを感じた。
そして、何と言っても松原智恵子! いくつになってもこのチャーミングさを保っているのは奇跡としか言いようがない!!(堀)
認知症予備軍の「団塊の世代」が高齢者になった。普段お家にいる方々が一斉に外出されるのが選挙のとき。手に入れた選挙権はちゃんと行使する真面目な世代なのだ。心身が衰えていくのに気が付くのはまず自分自身、できていたことができなくなってくる。こんなはずじゃなかった、と自分の老いを自覚するのは辛い。敬愛していた親の老いに気づく子どもたちもなかなか納得できない。
介護はその家の人間関係や病状によってみな違う。自分も体験して言えるのは、介護する人、される人が幸せであることが一番。「この人のせいで」と思い始めたら不幸が増幅して、連鎖していってしまう。たくさんの手を借りることで、それはかなり改善される。おみこしの担ぎ手は多いほうがいいのだ。与えるばかりでなく、与えられたことも同じくらい多かったと終わってみればよくわかる。
この映画では負の側面は描かれない。家族が父のことを一番に思いやっているからだ。そんな理想的な家族ばかりではないけれど、辛いときに辛い話が観たいだろうか。こういう風にもなれるのだ、と思えるのがいい。(白)
2019年/日本/カラー/127分
配給:アスミック・エース
©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋
公式サイト:http://nagaiowakare.asmik-ace.co.jp/
★2019年5月31日(金)ロードショー
ずぶぬれて犬ころ
監督・プロデューサー:本田孝義
撮影:鈴木昭彦
音楽:池永正二
出演:木口健太、森安奏太、仁科貴、八木景子、原田夏帆、田中美里(特別出演)
2017年、中学校でいじめを受けている小堀明彦は掃除用具ロッカーに閉じ込められていたところを教頭の諸岡に助けられる。そして、諸岡から教室に落ちていた張り紙「予定は決定ではなく未定である」を書いた住宅春美についての話を聞いた。
高校に進学しなかった住宅春美は食堂で働いていたが、得度して「顕信」という法名になり「無量寿庵」という仏間を作った。しかし、22歳のときに急性骨髄性白血病を発症。家族の献身的な介護に支えられながら、句作に没頭していくものの病状が悪化し、句集「未完成」の原稿を握り締めながら1987年、25歳の若さで亡くなるのだった。
小堀は、諸岡から借りた住宅顕信の句集「未完成」を読み始め、住宅の句と生き方に感銘を受け少しずつ変わっていった。
俳句といったら、5・7・5と思っていたのだが、住宅顕信(すみたく けんしん)が詠んだ句は字数にとらわれない。自由律俳句というそうだ。顕信が生涯に残した俳句は僅か281句だが、日常をテーマにした俳句と生き様が注目を浴びている。
本作はいじめを受けていた中学生が顕信の俳句に出会い、いじめに負けない勇気を得るまでを描くが、その合間に顕信の生涯と俳句が挟み込まれる。この俳句の1つ1つが見事なくらい中学生の気持ちに寄り添い、中学生と顕信の心がリンクする。もしかすると顕信の句集を読む以上に、映画は俳句に込められた顕信の思いを伝えているのかもしれない。
気持ちが疲れているときにこの作品を見ると、自分も顕信にリンクして、心が癒されるような気がする。(堀)
2018年/日本/DCP/100分
配給:パンドラ
(C) 戸山創作所
公式サイト:http://zubuinu.com/
★2019年6月1日(土)〜ユーロスペースにてロードショー、以下全国順次公開
二宮金次郎
監督:五十嵐匠
脚本:柏田道夫
原作:「二宮金次郎の一生」(三戸岡道夫栄光出版社刊)
音楽:寺嶋民哉
出演:合田雅吏、田中美里、成田浬、榎木孝明(特別出演)、柳沢慎吾、田中泯
二宮金次郎は幼い頃に、両親を亡くし、兄弟とも離れ離れになった。青年になった金次郎(合田雅吏)は、文政元年(1818年)、小田原藩主・大久保忠真(榎木孝明)に桜町領(現・栃木県真岡市)の復興を任される。金次郎は妻・なみ(田中美里)とともに桜町領に赴き、”仕法”と呼ぶ独自のやり方で村を復興させようとした。一部の百姓達は金次郎が思いついた新しいやり方を理解するが、五平(柳沢慎吾)ら保守的な百姓達の反発に遭う。そんな中、小田原藩から新たに派遣された侍・豊田正作(成田浬)は百姓上がりの金次郎が藩主に重宝されていること不満を感じ、次々と邪魔をし始める。はたして、金次郎は、桜町領を復興に導けるのか。
薪を背負って本を読みながら歩く少年。小学校にあった銅像の人物が何をしたかを知る。一家離散した貧農から帯刀を許される身に。それでも土を大事にする気持ちは忘れない。身の程をわきまえた生活をし、倹約から蓄財を。堅物すぎる主人公を柔軟な対応をする妻が支える。生涯に600ヶ所以上の町村の財政再建を成功させ、多くの農民たちを救い、藩の財政立て直しに貢献。死後は神様にあがめられた。その姿勢は現代の経営者にも気がある。57歳で二宮尊徳と名を改めたので、そちらの名前で語られることが多いかもしれない。あのドラッカーも晩年に尊徳の文献を集めたという。身のほどのわきまえた生活をするという分度、小さなことから行うという積小為大(せきしょういだい)、敵も味方も1つの円の中に入れて見るという一円融合など尊徳の考え方はトップだけでなく、私たちの生活にも参考になりそうだ。
初めは敵対していた小作人の五平を演じた柳沢慎吾が役者として渋い魅力を発しているのに驚いた。(堀)
薪を背負って本を読みながら歩く姿が、歩きスマホに見えると揶揄される今日この頃ですが、二宮金次郎さんといえば、勤勉の象徴。家が貧しくて、子どもの頃に苦労した話は覚えていても、実際、どんな功績を残した方なのかすっかり忘れていました。
小田原藩主から桜町領の復興を任された時に、自分の家を処分してまで資金を作り赴きますが、”仕法”という独自のやり方は、地元の人になかなか理解してもらえません。「他人を信じるな。自分を信じろ」という母の遺言でしたが、「信じられる人がいて、思いは成し遂げられる」と金次郎は思うのです。人を信じてこそ、和が保て、事がスムーズに運ぶことを教えてくれます。
五十嵐匠監督は、これまでにも日本の近代史の中で静かに光る人物を描いてきましたが、また一人、その系譜に加わりました。『HAZAN』『アダン』『半次郎』でタッグを組んだ榎木孝明さんが、小田原藩主・大久保忠真役で出演しているのが嬉しくて、思わず観にいった一作です。(咲)
2019年/日本 /カラー/ アメリカンビスタ/ 5.1ch/113分
配給:株式会社映画二宮金次郎製作委員会
(C) 映画「二宮金次郎」製作委員会
公式サイト:https://ninomiyakinjirou.com/
★2019年6月1日(土)~6月28日(金)東京都写真美術館ホールにて公開ほか全国順次
東京都写真美術館ホール 上映スケジュール
火・水・日 10:30〜、14:00〜
木・金・土(22日(土)を除く) 10:30〜、14:00〜、18:30〜
休館日:月曜日及び6月22日(土)
アナと世界の終わり(原題:Anna and the Apocalypse)
監督:ジョン・マクフェール
出演:エラ・ハント、マルコム・カミングス
高校生のアナは幼い頃に母を亡くし、父トニーと2人で暮らし。パッとしない生活から抜け出すため、大学に進学せずに世界を旅することを計画する。チケット代を稼ぐため、父に内緒で幼馴染のジョンと一緒にバイトに励んでいた
しかし、父に旅行の計画がバレてしまい、大ゲンカに。翌朝、気持ちを切り替えたアナはジョンと一緒にいつも通り学校へ向かう。その途中、スノーマンの着ぐるみを着た血だらけの男が突如現れ、ジョンに襲いかかる。その瞬間、アナは公園にあったシーソーを使って男の頭を吹き飛ばす!なんと、男の正体はゾンビだった。2人は、学校に取り残された父とクラスメイトを救出に向かう。 果たして、アナはみんなを助け出し、この町を脱出することはできるのか。そして、腐ったように生きてきたこの人生にケリをつけることができるのか。
高校生の巣立ちをテーマにしたゾンビ映画をミュージカル仕立てに。学食でテーブルの上に乗ってみんなが踊るお決まりのシーンは青春映画そのもの。歌って踊りながら登校する主人公の後ろにゾンビが蠢いているシーンは怖さよりギャップに笑ってしまいそう。
高校時代は何かと窮屈に感じるもの。2人きりの家族だからこそ、父は娘の将来を心配し、自宅から通える大学への進学を願う。それが娘には窮屈で、逃げるためだけにやりたいこともないまま世界を旅したいと考える。そんなイライラも手伝って、クラスメイトたちが夢中になっていることをくだらないと思ってしまう。
ゾンビから生き抜くことで今、生きる時間の大切さに気づいていく主人公の未来に明るい希望がありますように。(堀)
『カメラを止めるな!』の大ヒットで、日本のゾンビも息を吹き返した今日この頃(?)、イギリスからあんまり怖くないゾンビ映画がやってきました。予告編でほぼ全貌が見えるのですが、笑える小ネタが仕込まれた青春ミュージカルゾンビ映画。
ゾンビ映画のお約束・・・動作はゆっくり、噛まれると感染、大事な人がゾンビになる、対処は頭を吹き飛ばす・・・はきちんと踏襲しています。
青春映画のお約束・・・親との軋轢、ここでないどこかへ、幼なじみ、ゲスな彼氏、男前な女の子もちゃんと出てきます。わーわーとたくさんの友達と一緒に見るとより楽しいです。イギリスの田舎町でも日本でも、人の思うことにそう変わりはありません。(白)
2017年/イギリス/カラー/PG-12/98分
配給:ポニーキャニオン
(C) 2017 ANNA AND THE APOCALYPSE LTD.
公式サイト:http://anaseka-movie.jp/
★2019年5月31日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
2019年05月24日
嵐電
監督・脚本・プロデューサー:鈴木卓爾
出演:井浦 新、大西 礼芳、安部 聡子、金井 浩人
京都の西、嵐電の走る街。
鎌倉からやって来たノンフィクション作家の平岡衛星(井浦新)は、線路沿いの部屋を借りる。嵐電にまつわるエピソードを取材するのが目的だ。
ラッピングされた「夕子さん電車」を見たカップルは幸せになれるという都市伝説。
青森から修学旅行でやって来た女子学生は、8ミリカメラで電車を撮影している地元の少年に恋をする。
太秦撮影所の近くのカフェで働く小倉嘉子。ふとしたきっかけで、東京から来た駆け出しの俳優・吉田譜雨に京都弁指導という名目で嵐山の河原でデートすることになる。
取材するうち、衛星自身、妻・斗麻子との嵐電の街での出来事を思い起こす・・・
“嵐電(らんでん)”
なんと懐かしい響きでしょう!
京都の西、嵐山に向かって走る可愛い電車。正式名称「京福電気鉄道嵐山線」。
沿線には、竜安寺、妙心寺、仁和寺、広隆寺といった名刹があります。
それ以上に忘れてはならないのが、映画の撮影所の数々。多くの映画俳優やスタッフの方たちも嵐電を愛用されてきたことでしょう。
小学生の頃、嵐電で訪れたどこかのお寺の近くの池に浮かべた船で、時代劇の撮影をしていたのを思い出しました。太秦の映画村だけでなく、あちこちで、さりげなく撮影が行われている映画の街。
ごとごと走る嵐電に乗って、あの界隈を久しぶりに訪れたくなりました。(咲)
2019年/日本/HD/1:1.85/114分
配給:ミグラントバーズ、マジックアワー
公式サイト:http://www.randen-movie.com/
★2019年5月24日(金)より、[東京]テアトル新宿、[京都]京都シネマにてロードショー
[大阪]テアトル梅田 6/7~、[兵庫]シネ・リーブル神戸 6/21~ 以降順次全国公開!
2019年05月23日
空母いぶき
監督:若松節朗
原作:かわぐちかいじ「空母いぶき」(小学館「ビッグコミック」連載中・協力:惠谷治)
脚本:伊藤和典、長谷川康夫
音楽:岩代太郎
出演:西島秀俊、佐々木蔵之介 、本田翼、玉木宏 、中井貴一、佐藤浩市
20XX年、12月23日未明。沖ノ鳥島の西方450キロ、波留間群島初島に国籍不明の武装集団が上陸、わが国の領土が占領された。未曾有の事態に海上自衛隊は直ちに小笠原諸島沖で訓練航海中の第5護衛隊群に出動を命じた。その旗艦こそ、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦《いぶき》だった。計画段階から「専守防衛」論議の的となり、国論を二分してきた《いぶき》。艦長は、航空自衛隊出身の秋津竜太一佐(西島秀俊)。そしてそれを補佐するのは海上自衛隊生え抜きの副長・新波歳也二佐(佐々木蔵之介)。現場海域へと向かう彼らを待ち受けていたのは、敵潜水艦からの突然のミサイル攻撃だった。さらに針路上には敵の空母艦隊までもが姿を現す。想定を越えた戦闘状態に突入していく第5護衛隊群。政府はついに「防衛出動」を発令する。迫り来る敵戦闘機に向け、ついに迎撃ミサイルは放たれた。
日本の一部が占領され、攻撃されたらどうするか。防衛出動した訓練航海中の第5護衛隊群を中心に、政府やマスコミ、一般市民の視点を盛り込んで描いた。
「正当防衛以外、攻撃はできません」、「やらなければやられる」。直接、攻撃を受けた空母内でも意見は分かれる。しかし、一瞬の判断の遅れが命を危険に晒す。迷っている余裕はない。緊迫する空気の中、自衛官たちの交線の声が響く。
官邸では現場とはまた違う論理で議論が展開。街のコンビニでは店長が何も知らないまま、ひたすらクリスマスブーツの作成に励む。立場と状況の違いがくっきりと浮かび上がる。店長の姿は私たちの象徴で、現実にも同じようなことが起きているのかもと不安になった。
作品の中で艦長は何度も「いぶきは必要か」と尋ねられる。しかし艦長は答えない。その答えはそれぞれで考えるべきと逆に問われているのだろう。
ただ、この作品は重厚なテーマだけの作品ではない。西島秀俊、佐々木蔵之介、玉木宏、市原隼人といった出演者たちが制服に身を包み、命を懸けて行動する姿に萌える女性も多いだろう。エンタテイメント性もかなり高い。個人的には玉木宏のイケボに震えが止まらなかった。(堀)
戦争映画というより、護衛艦の”空母いぶき”が極限にあって奮闘する映画です。クールで本心を見せない秋津艦長・西島秀俊、秋津と同期の新波副長・佐々木蔵之介の丁々発止のやりとりにくぎ付け。防衛出動していく中で、どこまでが防衛なのか、ベストな判断は何なのか。緊迫した中で、官邸やコンビニ、たまたま取材のために乗船した記者の視点でもストーリーが進みます。
原発のことや最近のニュースを見ていても、国民に知らされることはごくわずかだと、誰もが知ってしまいました。開示されない秘密はどんどん増えていきます。それが国の平和を守るため、国民を守るためだと政治家は言います。この映画の設定は想定内でしょうか?想定外でしょうか?選挙も近づいていますし、この映画参考になるかも。(白)
防衛大学って、そういえば偏差値が高いんですね、お友達が東大のすべりどめで受験してたことを思い出しました。そんな防衛大学をトップ成績で卒業した二人の男性が、自衛に徹するか防衛の名のもとにミサイルを発射しちゃうか喧嘩をしちゃうんです。偏差値高くてもアタマ悪いんだな… だって日本には憲法9条で「戦争放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」を規定しているのだから… なのに宇宙戦艦ヤマトもビックリな護衛艦「空母いぶき」やらミサイルやらやらを日本は沢山持っているんですよー、何故? 憲法9条を改正するつもりで? 日本国憲法が平和憲法と呼ばれている所以は、この9条があるから。だから9条を改正したら、ただの憲法に成り下がり… そうならないうちに、どうか憲法9条を世界遺産に。それに私の血税で戦闘機なんて買わないでよー、 って安月給の私はこの映画を観て色んな思いが駆け廻ったのでした。 (千)
©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ
2019年/日本/カラー/134分
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://kuboibuki.jp/
★2019年5月24日(金)より全国ロードショー
プロメア
原作:TRIGGER・中島かずき
監督:今石洋之
脚本:中島かずき
キャラクターデザイン:コヤマシゲト
美術:でほぎゃらりー
美術監督:久保友孝
色彩設計:垣田由紀子
3DCG制作:サンジゲン
3Dディレクター:石川真平
撮影監督:池田新助
編集:植松淳一
音楽:澤野弘之
主題歌:「覚醒」「氷に閉じこめて」Superfly(ワーナーミュージック・ジャパン)
出演:松山ケンイチ、早乙女太一、堺 雅人、ケンドーコバヤシ、古田新太、佐倉綾音、吉野裕行、稲田 徹、新谷真弓、小山力也、小清水亜美、楠 大典、檜山修之、小西克幸、柚木涼香
突然変異で誕生した炎を操る人種〈バーニッシュ〉によって、世界の半分が焼失した。それから30年。バーニッシュの一部攻撃的な面々は〈マッドバーニッシュ〉と名乗り、再び世界に襲いかかる。
〈マッドバーニッシュ〉が引き起こす火災を鎮火すべく、自治共和国プロメポリスの司政官クレイ・フォーサイトは、対バーニッシュ用の高機動救命消防隊〈バーニングレスキュー〉を結成。高層ビルの大火災の中、燃える火消し魂を持つ新人隊員ガロ・ティモスは、指名手配中の炎上テロリストである〈マッドバーニッシュ〉のリーダーのリオ・フォーティアと出会い、激しくぶつかり合う。リオを捕らえることに成功する。
しかし、リオは〈マッドバーニッシュ〉の幹部であるゲーラ、メイスと共に捕らえられていたバーニッシュを引き連れて脱走。後を追ったガロが彼らのアジトにたどり着くも、そこで目にしたものは、懸命に生きるバーニッシュたちの姿であった。そして、リオからバーニッシュをめぐる衝撃の真実を告げられることに。
そんな折、ガロたちは地球規模で進められている“ある計画”の存在を知ることになる。
「アニメは若い子向け」と決めつけてしまってはもったいない。本作は〈劇団☆新感線〉の座付き作家を務める中島かずきが原作と脚本を担当。パステルカラーの斬新な映像はポップな感じで美しい。話の展開やスピード感はゲキ×シネを彷彿させる。バーニングレスキューのガロ・ティモスが見得を切るシーンは歌舞伎のよう。しかも、メインキャラの声を担当するのが、松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人といった〈劇団☆新感線〉への出演経験を持つ演技派俳優たち。古田新太もちらっと登場する。個人的には堺雅人のキレっぷりにはまった。(堀)
2019年/日本/111分
配給:東宝映像事業部
©TRIGGER・中島かずき/XFLAG
公式サイト:https://promare-movie.com/
★2019年5月24日(金)全国ロードショー
監督:今石洋之
脚本:中島かずき
キャラクターデザイン:コヤマシゲト
美術:でほぎゃらりー
美術監督:久保友孝
色彩設計:垣田由紀子
3DCG制作:サンジゲン
3Dディレクター:石川真平
撮影監督:池田新助
編集:植松淳一
音楽:澤野弘之
主題歌:「覚醒」「氷に閉じこめて」Superfly(ワーナーミュージック・ジャパン)
出演:松山ケンイチ、早乙女太一、堺 雅人、ケンドーコバヤシ、古田新太、佐倉綾音、吉野裕行、稲田 徹、新谷真弓、小山力也、小清水亜美、楠 大典、檜山修之、小西克幸、柚木涼香
突然変異で誕生した炎を操る人種〈バーニッシュ〉によって、世界の半分が焼失した。それから30年。バーニッシュの一部攻撃的な面々は〈マッドバーニッシュ〉と名乗り、再び世界に襲いかかる。
〈マッドバーニッシュ〉が引き起こす火災を鎮火すべく、自治共和国プロメポリスの司政官クレイ・フォーサイトは、対バーニッシュ用の高機動救命消防隊〈バーニングレスキュー〉を結成。高層ビルの大火災の中、燃える火消し魂を持つ新人隊員ガロ・ティモスは、指名手配中の炎上テロリストである〈マッドバーニッシュ〉のリーダーのリオ・フォーティアと出会い、激しくぶつかり合う。リオを捕らえることに成功する。
しかし、リオは〈マッドバーニッシュ〉の幹部であるゲーラ、メイスと共に捕らえられていたバーニッシュを引き連れて脱走。後を追ったガロが彼らのアジトにたどり着くも、そこで目にしたものは、懸命に生きるバーニッシュたちの姿であった。そして、リオからバーニッシュをめぐる衝撃の真実を告げられることに。
そんな折、ガロたちは地球規模で進められている“ある計画”の存在を知ることになる。
「アニメは若い子向け」と決めつけてしまってはもったいない。本作は〈劇団☆新感線〉の座付き作家を務める中島かずきが原作と脚本を担当。パステルカラーの斬新な映像はポップな感じで美しい。話の展開やスピード感はゲキ×シネを彷彿させる。バーニングレスキューのガロ・ティモスが見得を切るシーンは歌舞伎のよう。しかも、メインキャラの声を担当するのが、松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人といった〈劇団☆新感線〉への出演経験を持つ演技派俳優たち。古田新太もちらっと登場する。個人的には堺雅人のキレっぷりにはまった。(堀)
2019年/日本/111分
配給:東宝映像事業部
©TRIGGER・中島かずき/XFLAG
公式サイト:https://promare-movie.com/
★2019年5月24日(金)全国ロードショー
2019年05月19日
作兵衛さんと日本を掘る
2019年5月25日 ポレポレ東中野公開
未来へ突き抜ける炭鉱力。ゴットン。
監督:熊谷博子
撮影:中島広城、藤江潔
照明:佐藤才輔
VE:奥井義哉
出演
井上冨美 (作兵衛の三女)
井上忠俊 (作兵衛の孫 三女の長男)
緒方惠美 (作兵衛の孫 作兵衛の三男の長女)
菊畑茂久馬 (作兵衛の画集「王国と闇」を世に出した画家)
森崎和江 (作家 筑豊に住み、女性解放などをテーマに本や詩集を出す。「からゆきさん」で知られる。女鉱夫への聞き書きなどを続けた)
上野朱 (炭鉱労働者の自立と解放の運動拠点である「筑豊文庫」を開設した記録作家上野英信の長男)
橋上カヤノ(9歳から筑豊で育ち、19歳で結婚してから夫と共に坑内で働いた。2015年105歳で亡くなった)
福岡県筑豊の元炭鉱夫、山本作兵衛さん(1892~1984)が描いた炭鉱の記録絵と日記697点が日本初のユネスコ世界記憶遺産に登録されたのは2011年5月25日。暗くて狭い、熱い地の底で石炭を掘り出す男と女。命がけの労働でこの国の発展を支えた人々の生々しい姿。作兵衛さんは幼い頃から炭鉱で働いていた。専門的な絵の教育は一度も受けていないが、自分の体験した労働や生活を子や孫に伝えたいと、60歳半ば過ぎから本格的に絵筆を握り、2000枚とも言われる絵を残した。
石炭を掘り出す作業は先山と運び出す後山の二人一組で、先山は男性、後山は女性。夫婦が多かったが、兄妹、姉弟のこともあり家族労働が主だった。女性の炭鉱内労働は1930年に禁止されたが、筑豊では戦後まで続いたという。
作兵衛さんが記録画を描き始めたのは、国策で石炭から石油へのエネルギー革命で炭鉱が次々と閉山していく頃。さらに、その裏で原子力発電への準備が進んでいた。炭鉱労働者は、今度は原子力発電所に流れていった。作兵衛さんは自伝で「底の方は少しも変わらなかった」と残している。
監督は作兵衛さんの残した記憶と向き合い、104歳の元女炭鉱婦を老人ホームに訪ねて、当時の炭鉱道具の使い方を教わったり、筑豊に住む作家森崎和江さんのほか、作兵衛さんの三女、孫、炭鉱労働者の自立と解放のための運動拠点を作った上野英信さんの長男など、作兵衛さんを知る人々の証言を聞き取り日本の近現代史をみつめた。
山本作兵衛さんのことを知ったのは、萩原吉弘監督の『炭鉱(ヤマ)に生きる』(2006)を観た時。すごく驚いた。炭鉱で働く人々を描いた数々の絵のインパクト、絵の力強さに衝撃を覚えた。そしてその絵でかつて炭鉱で女性も坑内で働いていたということを知った。その作兵衛さんの絵が2011年5月にユネスコ世界記憶遺産に登録された時には、すごく納得がいった。それだけのことはあると嬉しかった。その後、2013年に東京タワーで作兵衛さんの絵の展覧会が開かれたときに見に行った。原画との対面で、絵を見ていくうちに涙が出た。
それらの絵がいとおしかった。そして明治・大正・昭和の時代に炭鉱で働いていた人たちに想いを馳せた。絵の力強さ、細かさ、作兵衛さんの炭鉱に働いていた人たちへの愛情と孫や後の世代の人に伝えたいという想いが伝わってきた。作兵衛さんの絵は素晴らしい!!(暁)
熊谷博子監督へのインタビュー記事はこちら
2018年 日本
配給 オフィス熊谷
公式HP
未来へ突き抜ける炭鉱力。ゴットン。
監督:熊谷博子
撮影:中島広城、藤江潔
照明:佐藤才輔
VE:奥井義哉
出演
井上冨美 (作兵衛の三女)
井上忠俊 (作兵衛の孫 三女の長男)
緒方惠美 (作兵衛の孫 作兵衛の三男の長女)
菊畑茂久馬 (作兵衛の画集「王国と闇」を世に出した画家)
森崎和江 (作家 筑豊に住み、女性解放などをテーマに本や詩集を出す。「からゆきさん」で知られる。女鉱夫への聞き書きなどを続けた)
上野朱 (炭鉱労働者の自立と解放の運動拠点である「筑豊文庫」を開設した記録作家上野英信の長男)
橋上カヤノ(9歳から筑豊で育ち、19歳で結婚してから夫と共に坑内で働いた。2015年105歳で亡くなった)
福岡県筑豊の元炭鉱夫、山本作兵衛さん(1892~1984)が描いた炭鉱の記録絵と日記697点が日本初のユネスコ世界記憶遺産に登録されたのは2011年5月25日。暗くて狭い、熱い地の底で石炭を掘り出す男と女。命がけの労働でこの国の発展を支えた人々の生々しい姿。作兵衛さんは幼い頃から炭鉱で働いていた。専門的な絵の教育は一度も受けていないが、自分の体験した労働や生活を子や孫に伝えたいと、60歳半ば過ぎから本格的に絵筆を握り、2000枚とも言われる絵を残した。
石炭を掘り出す作業は先山と運び出す後山の二人一組で、先山は男性、後山は女性。夫婦が多かったが、兄妹、姉弟のこともあり家族労働が主だった。女性の炭鉱内労働は1930年に禁止されたが、筑豊では戦後まで続いたという。
作兵衛さんが記録画を描き始めたのは、国策で石炭から石油へのエネルギー革命で炭鉱が次々と閉山していく頃。さらに、その裏で原子力発電への準備が進んでいた。炭鉱労働者は、今度は原子力発電所に流れていった。作兵衛さんは自伝で「底の方は少しも変わらなかった」と残している。
監督は作兵衛さんの残した記憶と向き合い、104歳の元女炭鉱婦を老人ホームに訪ねて、当時の炭鉱道具の使い方を教わったり、筑豊に住む作家森崎和江さんのほか、作兵衛さんの三女、孫、炭鉱労働者の自立と解放のための運動拠点を作った上野英信さんの長男など、作兵衛さんを知る人々の証言を聞き取り日本の近現代史をみつめた。
山本作兵衛さんのことを知ったのは、萩原吉弘監督の『炭鉱(ヤマ)に生きる』(2006)を観た時。すごく驚いた。炭鉱で働く人々を描いた数々の絵のインパクト、絵の力強さに衝撃を覚えた。そしてその絵でかつて炭鉱で女性も坑内で働いていたということを知った。その作兵衛さんの絵が2011年5月にユネスコ世界記憶遺産に登録された時には、すごく納得がいった。それだけのことはあると嬉しかった。その後、2013年に東京タワーで作兵衛さんの絵の展覧会が開かれたときに見に行った。原画との対面で、絵を見ていくうちに涙が出た。
それらの絵がいとおしかった。そして明治・大正・昭和の時代に炭鉱で働いていた人たちに想いを馳せた。絵の力強さ、細かさ、作兵衛さんの炭鉱に働いていた人たちへの愛情と孫や後の世代の人に伝えたいという想いが伝わってきた。作兵衛さんの絵は素晴らしい!!(暁)
熊谷博子監督へのインタビュー記事はこちら
2018年 日本
配給 オフィス熊谷
公式HP
マルリナの明日 原題 Marlina the Murderer in Four Acts
2019年5月18日(金)渋谷ユーロスペースにて公開!
その後の公開情報
「闘うヒロイン」に喝采!!!
インドネシアの荒野から放つ 超痛快“ナシゴレン・ウェスタン”!
監督:モーリー・スリヤ
製作:ラマ・アディファウザン・ジドニ
原案:ガリン・ヌグロホ
脚本:モーリー・スリヤ
キャスト
マーシャ・ティモシー:マルリナ
パネンドラ・ララサティ:ノヴィ
エギ・フェドリー:マルクス
ヨガ・プラタマ:フランツ
インドネシア離島の僻村。夫と子どもを亡くし、夫のミイラとともに荒野の一軒家で暮らすマルリナが7人の強盗団に襲われた。料理を作るように命令されたマルリナは、毒入りのスープを作り、それを飲んだ男たちは次々と倒れるが、盗賊の首領マルクスは別の部屋で寝ていて助かる。マルクスにもスープを勧めるが、襲われてしまう。マルリナは脇にあった剣を取りマルクスの首めがけて振りおろした。
マルリナは自らの正当防衛を証明するため、マルクスの首を持って警察署へと向かう。しかし、強盗団の残党達はマルクスの復讐を誓って、彼女の後を追うが、マルリナは自らの正義と明日をかけ、颯爽と馬に跨がり警察署に向う。鈍く光る剣とマルクスの首を持ち、灼けつく太陽と果てしない荒野をゆく。
哀愁漂うマカロニ・ウェスタン調の音楽がバックに流れる。
インドネシアの若き女性監督モーリー・スリヤが、前代未聞の新しい“闘うヒロイン”を生み出した。このひとりの女性の闘いの物語は、さりげないユーモアも織り交ぜたインドネシアの流の異色エンターテイメント。
インドネシア流西部劇“ナシゴレン・ウェスタン”が誕生した!
2017年の第18回東京フィルメックスで最優秀賞を受賞した作品だったけど、この時の原一男審査委員長のコメントが素晴らしかった。
授賞理由:原一男審査員長コメント
マカロニウエスタンの音楽に乗ってヒロインは戦う
敵は男
そして男性社会
今こそ復讐せよ
破壊せよ
強姦などに打ちひしがれる哀れな女を演じるのはもうやめよう
女性自らが新しい女性像を作ること
肉体的にも精神的にもタフな女性像を
エンターテイメント型アクション映画に込められたメッセージ
闘うヒロイン像を作り出した、イキのいい痛快な傑作の誕生です
この時に見逃してしまった私は、去年のあいち国際女性映画祭で上映されることを知り、この原委員長の言葉に導かれて名古屋に出かけてしまった。まさか日本で公開されるとは思ってもみなかったけど、こういうインドネシア映画が公開されるというのは、嬉しい(暁)。
あまり説明がなく始まって、この招かれざる客は強盗らしいとか、あのミイラは何なんだ?とか、一人で考えさせられました。ちょっとこれまでとは違うテンポと雰囲気の映画で、若い女性監督作と聞いて驚いた次第。そういえば男性なら、女性に寝首を搔かれる反撃シーンは描かないでしょうね。それも鉈(なた)でバッサリですから。あたふたするお腹の大きな若妻や、遠巻きにする一般住民の中、少しも動じない強いヒロインの姿がくっきりと浮かび上がりました。(白)
シネマジャーナルHP 第18回東京フィルメックス授賞式レポート
製作年 2017年
製作国 インドネシア・フランス・マレーシア・タイ合作
配給 パンドラ
その後の公開情報
「闘うヒロイン」に喝采!!!
インドネシアの荒野から放つ 超痛快“ナシゴレン・ウェスタン”!
監督:モーリー・スリヤ
製作:ラマ・アディファウザン・ジドニ
原案:ガリン・ヌグロホ
脚本:モーリー・スリヤ
キャスト
マーシャ・ティモシー:マルリナ
パネンドラ・ララサティ:ノヴィ
エギ・フェドリー:マルクス
ヨガ・プラタマ:フランツ
インドネシア離島の僻村。夫と子どもを亡くし、夫のミイラとともに荒野の一軒家で暮らすマルリナが7人の強盗団に襲われた。料理を作るように命令されたマルリナは、毒入りのスープを作り、それを飲んだ男たちは次々と倒れるが、盗賊の首領マルクスは別の部屋で寝ていて助かる。マルクスにもスープを勧めるが、襲われてしまう。マルリナは脇にあった剣を取りマルクスの首めがけて振りおろした。
マルリナは自らの正当防衛を証明するため、マルクスの首を持って警察署へと向かう。しかし、強盗団の残党達はマルクスの復讐を誓って、彼女の後を追うが、マルリナは自らの正義と明日をかけ、颯爽と馬に跨がり警察署に向う。鈍く光る剣とマルクスの首を持ち、灼けつく太陽と果てしない荒野をゆく。
哀愁漂うマカロニ・ウェスタン調の音楽がバックに流れる。
インドネシアの若き女性監督モーリー・スリヤが、前代未聞の新しい“闘うヒロイン”を生み出した。このひとりの女性の闘いの物語は、さりげないユーモアも織り交ぜたインドネシアの流の異色エンターテイメント。
インドネシア流西部劇“ナシゴレン・ウェスタン”が誕生した!
2017年の第18回東京フィルメックスで最優秀賞を受賞した作品だったけど、この時の原一男審査委員長のコメントが素晴らしかった。
授賞理由:原一男審査員長コメント
マカロニウエスタンの音楽に乗ってヒロインは戦う
敵は男
そして男性社会
今こそ復讐せよ
破壊せよ
強姦などに打ちひしがれる哀れな女を演じるのはもうやめよう
女性自らが新しい女性像を作ること
肉体的にも精神的にもタフな女性像を
エンターテイメント型アクション映画に込められたメッセージ
闘うヒロイン像を作り出した、イキのいい痛快な傑作の誕生です
この時に見逃してしまった私は、去年のあいち国際女性映画祭で上映されることを知り、この原委員長の言葉に導かれて名古屋に出かけてしまった。まさか日本で公開されるとは思ってもみなかったけど、こういうインドネシア映画が公開されるというのは、嬉しい(暁)。
あまり説明がなく始まって、この招かれざる客は強盗らしいとか、あのミイラは何なんだ?とか、一人で考えさせられました。ちょっとこれまでとは違うテンポと雰囲気の映画で、若い女性監督作と聞いて驚いた次第。そういえば男性なら、女性に寝首を搔かれる反撃シーンは描かないでしょうね。それも鉈(なた)でバッサリですから。あたふたするお腹の大きな若妻や、遠巻きにする一般住民の中、少しも動じない強いヒロインの姿がくっきりと浮かび上がりました。(白)
シネマジャーナルHP 第18回東京フィルメックス授賞式レポート
製作年 2017年
製作国 インドネシア・フランス・マレーシア・タイ合作
配給 パンドラ
2019年05月18日
パリの家族たち 原題:La fete des meres
監督:マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』
出演:オドレイ・フルーロ、クロチルド・クロ、オリヴィア・コート、パスカル・アルビロ、ジャンヌ・ローザ、カルメン・マウラ、ニコール・ガルシア、 ヴァンサン・ドゥディエンヌ、マリー=クリスティーヌ・バロー、パスカル・ドゥモロン、ギュスタヴ・ケルヴェン、ノエミ・メルラン
5月のパリ。母の日が近づき、それぞれの思いを巡らす女性たちの物語。
大統領在任中に出産したアンヌ。
国民を率いるリーダーシップには自信があるのに、初めての子育てに、ちょっと鬱状態。
夫グレゴワールが優しく支える。
花屋で働くココは身篭るが、子どもの父である恋人のスタンが全く電話に出てくれない。
同じ花屋で働くジャックは、亡き母との思い出に生きている。
ダフネはシングルマザーのジャーナリスト。二人の子どもたちは、仕事優先の母親よりベビーシッターのテレーズになついている。
ダフネの妹ナタリーは大学教授で独身。教え子との恋愛を楽しんでいる。大学で母の日をテーマに講義するが、そも、母親たちへの偏見が強い。
小児科医のイザベルは、ダフネとナタリーの姉。幼少期の母ジャクリーヌとの確執でトラウマを抱えていて母の日に感謝する気になれない。
一方、母は認知症が進み、3姉妹にとって母の扱いをどうするか悩みの種だ。
舞台女優のアリアンは不治の病で、残された人生をタップダンスに賭けている。行動を制限しようとする心配性の息子が煩わしい。
息子の将来のため国を出て、パリで娼婦として働く中国女性。スカイプで息子と話すのが生き甲斐だ。
幸せを求めて、さまざまな女性たちの思いが交錯する・・・
この映画を観ていて思い出したのが、何より亡くなった母のこと。私たち姉妹を産んで、手探り状態で子育てして、最後まで母親としての自分を模索していたように思います。懸命に私たちを育ててくれた母に、もう感謝の言葉を伝えられないのがほんとに寂しいです。
私自身は母親になったことがないのですが、いろいろな母親がいて、何が正解ということはないのだということも映画を観ていて思いました。そして、私は私でいいのだということも! (咲)
マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督インタビュー こちらで!
2018年/フランス/103分/フランス語/カラー/5.1ch/シネスコ
配給:シンカ
提供:シンカ、太秦、アニモプロデュース、スウィートプレス
©WILLOW FILMS–UGC IMAGES–ORANGE STUDIO– FRANCE 2 CINÉMA
公式サイト:http://synca.jp/paris/
★2019年5月25日よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて順次公開
神と共に 第1章:罪と罰(原題:Along with the Gods: The Two Worlds)
脚本・監督・エグゼクティブプロデューサー:キム・ヨンファ、
撮影:キム・ビョンソ
照明:シン・ギョンマン
編集:キム・ジノ、キム・ヘジン
音楽:バン・ジュンソク
出演:ハ・ジョンウ、チュ・ジフン、キム・ヒャンギ、チャ・テヒョン、キム・ドンウク、D.O.、イ・ジョンジェ
火災現場で少女を救い、壮絶な殉職を遂げた消防士ジャホン(チャ・テヒョン)の前に突然3人の冥界の使者ヘウォンメク(チュ・ジフン)とドクチュン(キム・ヒャンギ)、そしてカンニム(ハ・ジョンウ)が現れる。彼らは「人は亡者になると49日間のうちに7つの地獄で裁判を受けなければならず、その裁判すべてを無罪で通った者は現世に生まれ変わることができる」という。ジャホンは生前の行いがよかった者に与えられる貴人の札を持つので、3人の使者は楽勝ムードだったが、<殺人、怠惰、ウソ、不義、裏切り、暴力、天倫>という7つの地獄を巡るうちにジャホンの意外な過去が次々と発覚。地獄鬼や怨霊が出現し、冥界が揺らぎ始める。無事にジャホンは全ての裁判をクリアーし、人間に戻ることが出来るのか。
三途の川、地獄、閻魔大王といった死後の世界が出てくるが、その世界観が日本とあまり違いがないことに驚く。かつて、韓国から日本に伝わった文化の1つなのだろうか。
最初は誰かがやっている、地獄で繰り広げられる壮大なバトルゲームを超リアルな感じで見ているようだったが、ジャホンの過去が分かってくると人間ドラマ全開で引き込まれる。しかし、物語の中心人物となるのはジャホンではなく、実は冥界の使者カンニム。ハ・ジョンウが演じているのだが、知性と武力を持ち合わせ、強力なリーダーシップを発揮して2人の部下を率いて裁判に立ち向かう姿は身震いするほどカッコいい。しかもカッコいいだけでなく、ときどき振り返る過去映像に影を感じ、胸が締め付けられる。こういうハ・ジョンウが見たかったのよね! また、護衛を担当する使者ヘウォンメクを演じたチュ・ジフンも2カ月以上に及ぶ訓練を重ねた見応えたっぷりのアクションを披露する。
見るまでは140分は長いと思っていたが、見始まればスピード感あふれる展開に、まったく長いと感じない。早く第2章が見たい!(堀)
ハ・ジョンウはもちろん存在感あってカッコイイし、チュ・ジフンも真面目なのか、おどけているのかわからない不思議な役どころで、とてもいい。
地獄での審査を受ける為、たらい回しにされる消防士ジャホンを演じたチャ・テヒョンも、まさにはまり役。ちょっと情けない感じだけど、実はすごく誠実な人物を自然体で演じています。チャ・テヒョン自身は賭けゴルフをしていたことが思わぬことから表沙汰になって謹慎中で、次はいつ出番があるのか心配!
それにしても、この映画、出演者がとにかく豪華。
消防士の同僚ユ・ジュンサンはじめ、あちこちに知ってる顔が出てくるのですが、何より豪華なのが、地獄の大王様たち。初江大王→キム・ヘスク、五官大王→イ・ギョンヨン、宋帝大王→キム・ハヌル、そして閻魔大王は、イ・ジョンジェさま! (すみません、どうしても、「さま」をつけたい!) 渋い声にぞくぞくさせられます。あ、判官役のオ・ダルスさんも見逃さないで! (咲)
2018年/韓国/カラー/140分/シネスコ/5.1ch/日本語字幕:根本理恵
配給:ツイン
© 2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.
公式サイト:http://kimitotomoni.com/
★2019年5月24日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
武蔵-むさし-
プロデューサー・脚本・監督・編集:三上 康雄
殺陣創案:中村佳夫
撮影:江部公美
照明:山口晴弘
音楽:三上康雄
津軽三味線指揮:小田島徳旺
出演:細田 善彦、松平 健、目黒 祐樹、水野 真紀 、若林 豪、中原 丈雄、清水 綋治、原田 龍二 、遠藤 久美子、武智 健二、半田 健人、木之元 亮
幼き頃、父に徹底的に鍛えられた武蔵(細田 善彦)。二十一歳、剣術の名門、吉岡家に挑むため、京に来た。 当主、吉岡清十郎(原田 龍二)との試合のつもりが、弟の伝七郎(武智 健二)、そして、一門数十名との一乗寺下がり松での決闘と熾烈な戦いを繰りひろげることになる。 その頃、細川家の重臣、沢村大学(目黒 祐樹)は、京の愛宕山で佐々木小次郎(松平 健)と出会う。 武蔵は鎖鎌の宍戸、槍の道栄とも戦う。 そして、ついには、細川家の剣術指南となった小次郎と雌雄を決することとなる。
武蔵と小次郎はなぜ戦ったのか。巌流島の戦いに至るまでの武蔵の育ちと武伝、小次郎の悲願を丁寧に描く。乱世が終わり、武から知へ。政治にうまく利用された2人は時代の節目の象徴かもしれない。松平健、目黒祐樹、若林豪といったベテランに支えられ、細田善彦が熱演。血気盛んに暴れまくる頃もいいが、それに向き合い、自分が見えてきた頃の澄んだ目が印象に残る。(堀)
2019 年/日本/カラー/ビスタサイズ/5.1ch/120 分
国内配給 : アークエンタテイメント
海外配給 : 東映 “MUSASHI”
Ⓒ 2019 三上康雄事務所
公式サイト:https://www.musashi-movie.jp/
★2019年5月25日(土)ロードショー
兄消える(英題:Portrait of Brothers)
監督:西川信廣
脚本:戌井昭人
音楽:池辺晋一郎
撮影監督・編集:小美野昌史
照明:淡路俊之
美術:橋本千春
出演:柳澤愼一、高橋長英、土屋貴子、金内喜久夫、たかお鷹、原康義、坂口芳貞、新橋耐子、雪村いづみ(特別出演)、江守徹(特別出演)
信州上田で、いまなお昭和の匂いを残す袋町。鈴木鉄男(高橋長英)は、親から受け継いだ町工場を細々と続けながら、最近は父親の介護に追われ76 歳になるまで結婚もせずに暮らしてきた。その父が100 歳で亡くなる。商店会長の加賀(金内喜久夫)や工場を営む渡辺(坂口芳貞)、弁当屋の坪内(原康義)といった幼馴染たちは「嫁をもらえ」と鉄男を焚きつけるが、いまさら誰かと暮らす人生に現実味を感じられずにいた。
そんなとき40年前に家を飛び出した80歳の兄・金之助(柳澤愼一)がワケあり風の若い女、樹里(土屋貴子)を連れて突然舞い戻ってきた。
40年ぶりに帰ってきた兄と父親の跡を継いで細々と町工場を続けてきた弟を中心に、高齢化が進む町の人々の悲喜こもごもを描く。兄は困った人を見ると放っておけない。善意のつもりがひと悶着起こす。弟の対応から、これまでも兄の行動のとばっちりを受けて、苦労してきたのがうかがわれた。しかし、悪意のある人は登場せず、兄弟も互いに思い合っていることが伝わってくる。見終わったとき、歳を重ねることも悪くないと思えてきた。(堀)
柳澤愼一さん86歳、高橋長英さん76歳にしてW主演。風来坊のような兄、まじめで親の面倒をみてきた弟。なんだか寅さんとさくらの兄妹みたいです。先に好き勝手したもん勝ちってな具合に、面倒なことからは遠ざかる。何かあると台風のように戻ってきて周りをかき回すのに、意外に憎まれない。こんな人身内に一人くらいいそうです。ご近所の同年配のおじさまたちもあちこち痛がりながらも、日々暮らしている。店や工場の閉鎖の話題も切ない。とてもリアルな小さなお話の積み重ねに、樹里のドラマがちょっとだけ違う色を添えます。弟の鉄男に遅い遅い春がやっと巡ってきそうなラストにホッ。
30年以上も前に当時住んでいた地方の町で柳澤愼一さんの講演会がありました。たまたま楽屋にお茶出しに行きましたら「お茶は飲まないんです」とお水を所望されました。物腰の柔らかな品のいい男性という印象でした。軽妙洒脱なトークと、歌も1曲歌ってくださったような記憶があります。遺作と言わず、お元気で再登場をお待ちしています。(白)
2019年/日本/カラー/5.1ch /シネスコ/104 分
配給:エレファントハウス、ミューズ・プランニング
©「兄消える」製作委員会
公式サイト:https://ani-kieru.net/
★2019年5月25日よりユーロスペースほか全国順次公開
脚本:戌井昭人
音楽:池辺晋一郎
撮影監督・編集:小美野昌史
照明:淡路俊之
美術:橋本千春
出演:柳澤愼一、高橋長英、土屋貴子、金内喜久夫、たかお鷹、原康義、坂口芳貞、新橋耐子、雪村いづみ(特別出演)、江守徹(特別出演)
信州上田で、いまなお昭和の匂いを残す袋町。鈴木鉄男(高橋長英)は、親から受け継いだ町工場を細々と続けながら、最近は父親の介護に追われ76 歳になるまで結婚もせずに暮らしてきた。その父が100 歳で亡くなる。商店会長の加賀(金内喜久夫)や工場を営む渡辺(坂口芳貞)、弁当屋の坪内(原康義)といった幼馴染たちは「嫁をもらえ」と鉄男を焚きつけるが、いまさら誰かと暮らす人生に現実味を感じられずにいた。
そんなとき40年前に家を飛び出した80歳の兄・金之助(柳澤愼一)がワケあり風の若い女、樹里(土屋貴子)を連れて突然舞い戻ってきた。
40年ぶりに帰ってきた兄と父親の跡を継いで細々と町工場を続けてきた弟を中心に、高齢化が進む町の人々の悲喜こもごもを描く。兄は困った人を見ると放っておけない。善意のつもりがひと悶着起こす。弟の対応から、これまでも兄の行動のとばっちりを受けて、苦労してきたのがうかがわれた。しかし、悪意のある人は登場せず、兄弟も互いに思い合っていることが伝わってくる。見終わったとき、歳を重ねることも悪くないと思えてきた。(堀)
柳澤愼一さん86歳、高橋長英さん76歳にしてW主演。風来坊のような兄、まじめで親の面倒をみてきた弟。なんだか寅さんとさくらの兄妹みたいです。先に好き勝手したもん勝ちってな具合に、面倒なことからは遠ざかる。何かあると台風のように戻ってきて周りをかき回すのに、意外に憎まれない。こんな人身内に一人くらいいそうです。ご近所の同年配のおじさまたちもあちこち痛がりながらも、日々暮らしている。店や工場の閉鎖の話題も切ない。とてもリアルな小さなお話の積み重ねに、樹里のドラマがちょっとだけ違う色を添えます。弟の鉄男に遅い遅い春がやっと巡ってきそうなラストにホッ。
30年以上も前に当時住んでいた地方の町で柳澤愼一さんの講演会がありました。たまたま楽屋にお茶出しに行きましたら「お茶は飲まないんです」とお水を所望されました。物腰の柔らかな品のいい男性という印象でした。軽妙洒脱なトークと、歌も1曲歌ってくださったような記憶があります。遺作と言わず、お元気で再登場をお待ちしています。(白)
2019年/日本/カラー/5.1ch /シネスコ/104 分
配給:エレファントハウス、ミューズ・プランニング
©「兄消える」製作委員会
公式サイト:https://ani-kieru.net/
★2019年5月25日よりユーロスペースほか全国順次公開
バイオレンス・ボイジャー
監督・脚本・編集・キャラクターデザイン・作画・撮影:宇治茶
声の出演:ボビー:悠木碧、ジョージ:田中直樹、よし子:藤田咲、あっくん:高橋茂雄、たかあき:小野大輔、古池:田口トモロヲ、ナレーション:松本人志
日本の山奥の村に住むアメリカ人少年のボビーは、数少ない友人のあっくんと飼い猫のデレクを連れて、村はずれの山に遊びに出かけた。その途中、娯楽施設“バイオレンス・ボイジャー”と書かれた看板を発見した彼らは、その看板に惹かれて施設を目指すことに。施設のアトラクションを堪能し、遊び疲れて休息していたところ、ボビーたちはボロボロの服を着た少女・時子と出会う。彼女は数日前からここを出られずにいると言い、行動を共にすることに。彼らはさらに、先客として迷い込んでいた村の子どもたちとも出会うが、謎の白いロボットによる襲撃を受け、子供たちたちは次々と捕獲されて行ってしまう。時子の救出とバイオレンス・ボイジャーの謎を解き明かすため、ボビーは立ち上がるのだった…!
アメリカ人少年が引っ越してきた日本の山間部で経験したひと夏の恐怖体験をペープサート的に表現した斬新なホラー。凄惨なシーンをはっきり描けない分、想像力がかき立てられ恐ろしさが増す。実写や普通のアニメではかえって表現するのが難しかっただろう。松本人志の淡々としたナレーションが不気味さも加える。
このアニメーションと漫画(劇画)を融合した表現方法はゲキメーションと呼ばれ、本作はホラー、アクション、コメディ、クライム、ドラマ、ファンタジー、ミステリー、ロマンスなど、あらゆるジャンルを盛り込み、ゲキメーションで表現した、 史上初の全編ゲキメーション長編映画である。(堀)
宇治茶監督インタビューはこちらから。
配給:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
©︎吉本興業
公式サイト:http://violencevoyager.com/
★2019年5月24日(金)からシネ・リーブル池袋ほかで全国順次公開
パリ、嘘つきな恋(原題:Tout le Monde Debout)
監督・脚本:フランク・デュボスク
出演:フランク・デュボスク、アレクサンドラ・ラミー
ジョスラン(フランク・デュボスク)は、パリの大手シューズ代理店で働くビジネスマン。イケメンでお金持ちの彼は女性にモテるが、恋愛に求めるのは一時的な楽しさだけ、という軽薄な男。ある日、ひょんなことからジョスランが車椅子に座っていると、偶然美しい女性ジュリー(キャロライン・アングラード)と遭遇。 彼女の気を引くために「自分は車椅子生活だ」と、とっさに嘘をついてしまう。すっかり信じたジュリーが彼に紹介したのが、姉のフロランス(アレクサンドラ・ラミー)。フロランスは以前事故に遭い車椅子生活を送りながらも、ヴァイオリニストとして世界中を飛び回る、快活でユーモア溢れる魅力的な女性だった。親友マックス(ジェラール・ダルモン)には興味無いと言いつつも、ジョスランはフロランスが出場する車椅子テニスの試合を観戦したり、彼女が演奏するコンサートを観に、わざわざプラハを訪れる。そして会うたびに新しい一面を見せてくれるフロランスに、本気で恋に落ちる。2人はデートを重ね距離を縮めていくが、ジョスランはまだ本当のことを言えずに、車椅子に乗ったままだった。そんな時、ついに妹ジュリーに車椅子の嘘がばれてしまう!「48時間以内にフロランスに本当のことを言わないと、ただじゃ済まさない」と言われたジョスランは、マックスや秘書のマリー(エルザ・ジルベルスタイン)を巻き込んで、嘘を切り抜けるために奇想天外な計画を立てる。しかし一方、実はフロランスにも彼に隠し事があるようで…? 果たして、トンデモナイ嘘から始まった恋の行方は!?
相手の勘違いを訂正し損ねてついてしまった嘘。本当のことを言うのは難しい。しかも相手のことを好きになっていたらなおのこと。そんな葛藤に苛まれつつ逢瀬を重ねてしまう中年プレイボーイのあたふたする姿がキュートに描かれる。ルルドに行って奇跡が起こったことにしようという発想は西洋ならでは。ラストの仲直りが素敵。(堀)
2018年/フランス/仏語/108分/シネスコ
配給:松竹
© 2018 Gaumont / La Boétie Films / TF1 Films Production / Pour T oi Public
公式サイト:http://paris-uso.jp/
★2019年5月24日(金)より、新宿ピカデリー、東劇、渋谷シネクイント他 全国ロードショー
小さな恋のうた
監督:橋本光二郎
脚本:平田研也
撮影:高木風太
照明:秋山恵二郎
音楽・劇中曲アレンジ:宮内陽輔
主題歌:MONGOL800「小さな恋のうた」(TISSUE FREAK RECORDS / HIGH WAVE CO.,LTD.)
出演:佐野勇斗、森永悠希、山田杏奈、眞栄田郷敦、鈴木仁、トミコクレア、金山一彦、佐藤貢三、中島ひろ子、清水美沙、世良公則
沖縄の小さな町。日本とアメリカ、フェンスで隔てられた二つの「国」が存在する場所。そこでは、ある高校生バンドが熱い人気を集めていた。自作の歌を歌いこなし、観るものを熱狂させるその実力で、東京のレーベルからスカウトを受け、なんとプロデビューが決まる。しかし、喜びの絶頂で盛り上がる彼らに一台の車が突っ込み、バンドは行く先を見失ってしまう。そこに現れた、一曲のデモテープと、米軍基地に住む一人の少女。それらによって、止まった時計の針は前に進み始める。フェンスの向こう側に友の“想い”を届けるため、彼らは再び楽器を手に取り立ち上がる―。
MONGOL800が2001年にリリースした楽曲「小さな恋のうた」にインスパイアされたオリジナルストーリー。舞台は沖縄。悲しい事故をきっかけに空中分解したバンドが再結成し、フェンスの向こうにいる少女に仲間の思いを届ける。タイトルに恋の言葉が入っているが、内容的には友情がメイン。音楽を通じて、大勢が1つになる瞬間はこちらまで興奮してくる。沖縄が抱える基地問題にも踏み込み、個人レベルでは分かり合えることを伝えている。「あなたにとって大事な人ほどそばにいる」という歌詞が心に沁みた。(堀)
2019年/日本/カラー/123分
配給:東映
(C) 2019「小さな恋のうた」製作委員会
公式サイト:http://www.chiikoi.com/
★2019年2019年5月24日(金)ロードショー
脚本:平田研也
撮影:高木風太
照明:秋山恵二郎
音楽・劇中曲アレンジ:宮内陽輔
主題歌:MONGOL800「小さな恋のうた」(TISSUE FREAK RECORDS / HIGH WAVE CO.,LTD.)
出演:佐野勇斗、森永悠希、山田杏奈、眞栄田郷敦、鈴木仁、トミコクレア、金山一彦、佐藤貢三、中島ひろ子、清水美沙、世良公則
沖縄の小さな町。日本とアメリカ、フェンスで隔てられた二つの「国」が存在する場所。そこでは、ある高校生バンドが熱い人気を集めていた。自作の歌を歌いこなし、観るものを熱狂させるその実力で、東京のレーベルからスカウトを受け、なんとプロデビューが決まる。しかし、喜びの絶頂で盛り上がる彼らに一台の車が突っ込み、バンドは行く先を見失ってしまう。そこに現れた、一曲のデモテープと、米軍基地に住む一人の少女。それらによって、止まった時計の針は前に進み始める。フェンスの向こう側に友の“想い”を届けるため、彼らは再び楽器を手に取り立ち上がる―。
MONGOL800が2001年にリリースした楽曲「小さな恋のうた」にインスパイアされたオリジナルストーリー。舞台は沖縄。悲しい事故をきっかけに空中分解したバンドが再結成し、フェンスの向こうにいる少女に仲間の思いを届ける。タイトルに恋の言葉が入っているが、内容的には友情がメイン。音楽を通じて、大勢が1つになる瞬間はこちらまで興奮してくる。沖縄が抱える基地問題にも踏み込み、個人レベルでは分かり合えることを伝えている。「あなたにとって大事な人ほどそばにいる」という歌詞が心に沁みた。(堀)
2019年/日本/カラー/123分
配給:東映
(C) 2019「小さな恋のうた」製作委員会
公式サイト:http://www.chiikoi.com/
★2019年2019年5月24日(金)ロードショー
2019年05月17日
ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(原題:Ex Libris - The New York Public Library)
監督・録音・編集・製作:フレデリック・ワイズマン
字幕:武田理子
字幕協力:日本図書館協会国際交流事業委員会
図書館とは本の貸し出しをしているところ。この認識は間違っていないが、それだけではない。私が住んでいるところの公共図書館では、子ども向けの読み聞かせや季節の行事に合わせたイベント、映画の上映、講演会なども行われている。子どもが幼い頃は随分とお世話になったものだ。
本作が取り上げるニューヨーク公共図書館の活動はもっと幅広い。司書は電話での質問に答え(人力Googleと呼ばれている)、音楽ライブを企画し、就職支援プログラムを行い、住宅の確保が難しい視覚障がい者のために住宅を手配する。荘厳な19世紀初頭のボザール様式の建築で知られる本館と92の分館から構成されているが、それぞれの館にふさわしい企画が行われる。さらにウェディングパーティーやファッションショーまで行うのだから驚く。フレデリック・ワイズマン監督はナレーションを加えず、淡々と図書館の舞台裏を見せていく。
ニューヨーク公共図書館は吉田秋生の「BANANA FISH」の聖地といわれている。3階のローズ・メイン・リーディング・ルームはほぼフットボールの競技場の長さがあるが、ここでアッシュは本を読んだのねと思わず、夢想。NYまで行かなくても、本物が堪能できる! (堀)
2017年/アメリカ/カラー/ DCP /3時間25分
配給:ミモザフィルムズ/ムヴィオラ
© 2017 EX LIBRIS Films LLC – All Rights Reserved
公式サイト:http://moviola.jp/nypl/
★2019年5月18日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー!
僕たちは希望という名の列車に乗った(原題:Das schweigende Klassenzimmer)
監督:ラース・クラウメ
原作:ディートリッヒ・ガルスカ「沈黙する教室」(アルファベータブックスより4月発刊予定)
出演:レオナルド・シャイヒャー、トム・グラメンツ、ヨナス・ダスラ―、ロナルト・ツェアフェルト、ブルクハルト・クラウスナー
1956年、東ドイツの高校に通うテオ(レオナルド・シャイヒャー)とクルト(トム・グラメンツ)は、列車に乗って訪れた西ベルリンの映画館でハンガリーの民衆蜂起を伝えるニュース映像を目の当たりにする。クラスの中心的な存在であるふたりは、級友たちに呼びかけて授業中に2分間の黙祷を実行した。それは自由を求めるハンガリー市民に共感した彼らの純粋な哀悼だったが、ソ連の影響下に置かれた東ドイツでは“社会主義国家への反逆”と見なされる行為だった。やがて調査に乗り出した当局から、一週間以内に首謀者を告げるよう宣告された生徒たちは、人生そのものに関わる重大な選択を迫られる。大切な仲間を密告してエリートへの階段を上がるのか、それとも信念を貫いて大学進学を諦め、労働者として生きる道を選ぶのか……。
今年はベルリンの壁崩壊(1989年11月9日)から30年。しかし、本作が描いている1956年はまだそのベルリンの壁さえ建設されていなかった。完全フリーというわけではないが、東ベルリンから西ベルリンへ行くことは可能で、テオとクルトは祖父の墓参りを口実に西ベルリンに出掛けている。しかし、人間関係は複雑だ。第二次世界大戦時、本人や家族がどこに属していたか。このことが大きく関わっていることが作品を通じて伝わってきた。それでもテオたちは祖父や父の立場でなく、自分はどうするかを考えた上で行動する。最後の彼らの決断と行動は清々しい。
本作は実話がベースにあり、原作はディートリッヒ・ガルスカが自身の実体験を綴ったノンフィクション『沈黙する教室 1956年東ドイツ―自由のために国境を越えた高校生たちの真実の物語』である。ラース・クラウメ監督が脚本も担当。原作者をクルトに反映し、緻密なリサーチでサスペンスタッチな青春映画に仕上げた。(堀)
2018年/ドイツ/ドイツ語/シネスコ/111分/PG-12
配給:アルバトロス・フィルム/クロックワークス
© Studiocanal GmbH Julia Terjung
公式サイト:http://bokutachi-kibou-movie.com/
★2019年5月17日(金)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
ベン・イズ・バック(原題:Ben Is Back)
監督・脚本:ピーター・ヘッジズ
撮影:スチュアート・ドライバーグ
音楽:ディコン・ハインクリフェ
出演:ジュリア・ロバーツ(ホリー)、ルーカス・ヘッジズ(ベン)、キャスリン・ニュートン(アイヴィー)、コートニー・B・バンス(ニール)
クリスマスイブの朝、郊外のバーンズ家に長男のベンが突然戻ってきた。薬物依存症の更生施設から抜け出してきたのだ。母のホリーは思いがけない帰宅を喜び、抱き締める。継父のニールと妹のアイヴィーはこれまでのベンの行動から、懐疑的に見ている。継父との間に生まれた幼い弟妹たちは、屈託なく再会を受け入れる。教会での行事の準備やクリスマスプレゼントの用意に大わらわの中、ベンは母と出かけたショッピングモールで、会いたくなかった昔の仲間に見つかってしまう。一家が教会の催しから帰宅すると家の中が荒らされ、愛犬が消えていた。
仲の良い夫婦、可愛い子供たちの家庭に戻ってきた長男の存在は、その家族の平和をかき乱します。薬物依存で心も身体もぼろぼろになっていく映画はなんと多いことか。日本の自殺者の数に驚いていたら、アメリカでは薬物依存からの死亡者がもっと多かった。つい先日公開された『ビューティフル・ボーイ』は誘惑に絡めとられてしまう息子と、彼を救おうと奮闘する父親、今回は息子と母親のストーリーです。どちらにも共通するのは、決してあきらめず見捨てないこと。
まず母親ホリー役のオファーを受けたジュリア・ロバーツの強い希望で、息子のベンはピーター・ヘッジズ監督の実子のルーカス・ヘッジズに決まりました。活躍著しいルーカスですが、父親の作品には出ない、と固く決めていたそうです。ところが、ジュリア・ロバーツの希望だと聞いたとたんその決心は瓦解(笑)。また父親役のコートニー・B・バンスとの共演というのも後押ししたようです。辛く緊張を強いる内容を緩急つけて心を掴むストーリーに仕上げたピーター・ヘッジズ監督の手腕。息子ルーカスの尊敬の念も増したのではないかしら。(白)
子どもが薬物依存に陥ったとき、親はいったい何ができるのだろうか。本作の母親は夫が何を言っても、最後まで息子を見放さない。更生に向けて必死に道を探る。しかし、そんな母親でも息子が更生施設を飛び出してきたとき、息子を信じ切れず、金目になるものを隠す。その行動を娘に指摘され、慌てふためき葛藤する。必死になりすぎて行動に辻褄が合わなくなるのは子育てにはよくあること。母親を演じたジュリア・ロバーツの熱演とともに、ピーター・ヘッジズの脚本の細やかさを感じた。
ところで、本作の息子は自分から薬物に手を出して依存症になったのではない。14歳のときにスキーで脚をケガしたときに、医者から処方された鎮痛剤がきっかけだと作品の途中で分かる。母親が「大丈夫なのか」と確認していたにもかかわらず。疑問に思ったのなら医者を変えておけばよかったと、母親は後悔したに違いない。その医者と街で再会すると、認知症になった医者は息子のことさえ覚えていなかった。母親は医者に対してこっそりと暴言を吐くのだが、それは自分自身に掛けた言葉に聞こえる。(堀)
2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/103分
配給:東和ピクチャーズ
https://benisback.jp/
(C)2018- BBP WEST BIB, LLC
★2019年5月24日(金)TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー
2019年05月16日
リトル・フォレスト 春夏秋冬(原題:Little Forest)
監督:イム・スルレ
原作:五十嵐大介
脚本:ファン・ソング
撮影:イ・スンフン
音楽:イ・ジュノ
出演:キム・テリ(ヘウォン)、リュ・ジュンヨル(ジェハ)、チン・ギジュ(ウンスク)、ムン・ソリ(ヘウォンの母親)
都会へ出ていたヘウォンは恋愛も仕事もうまくいかず、疲れ果てて故郷の実家に戻ってきた。母が出ていったきり誰も住んでいない。幼なじみのジェハは詳しいことを聞くでもなく、「用心に」と番犬を置いていった。もう一人の幼なじみのウンスクはずけずけと推測をする。当たっているから仕方がない。一人と一匹の生活は心地良い。ジェハとウンスクを呼んでの酒盛りもまた楽しい。母の手順を思い出しながら、昔食べた料理を土地の素材で作り始める。次々と生まれてくる食べ物はヘウォンを次第に元気にしていく。
原作コミックと日本版の2部作も見ました。この韓国版は美しい田舎の風景のもと、3人の幼なじみによりフォーカスしています。故郷で迎えてくれたのは、肩の力が抜けてほっとさせてくれるジェハ、明るくて楽しいウンスク、彼らと時々過ごしたならヘウォンならずとも都会の疲れが取れるはずです。
料理上手だった母ゆずりのヘウォンの毎日の食事は、一人分でも手を抜いていません。ここがすごい!調理の手際がすばらしく良くって、キム・テリさんが作ったのかしら?手元だけ吹替えもあり?料理上手な人は彼氏の胃を捕まえてを逃がさないと思うけれど、ヘウォンは重かったのか?
出来上がった料理はいかにも美味しそうで、目に美しく、身体にも良さそうです。映画に登場した料理が食べられる(または作り方教室)韓国ツアーがあったら、絶対行きたい~。お疲れのみなさま、ほっとする映画ですよ。(白)
原作の五十嵐大介のコミック「リトル・フォレスト」は日本でも2014年、2015年に二部作にして橋本愛主演で映画化された。ただ日本版は「冬・春」「夏・秋」の2部作で間が空いたため、続きが見たいという気持ちの持続が難しかった。今回の韓国版は1年を通して描かれているので、主人公の変化がしっかりと心に届いてきた。
この作品では食事も主役なのだが、出てくる料理がどれも美味しそうなこと!日本でいう天ぷらが出てきたが、「あの花のように見えた食材は何だろう?」と思っていたら、なんとアカシアの花の天ぷらだという。白菜まるごと1枚に衣をつけて焼いて食べるのはお好み焼きのよう。「寒い時には辛い味付けのすいとんがいいよね」と主人公が独り言をいうと思わず頷いてしまった。干し柿を作るため吊るすときには、ひもで縛るのではなく、専用のグッズを使っていた。それはがまるで100均で売っているような感じ。思い出すだけでいろいろな食に関する共感やワクワク感があふれてくる。
主人公は料理を作って食べるだけでなく、食材となる野菜も育てた。種を蒔き、食べられるまで育てるのは時間がかかる。人の気持ちも同じ。都会の生活に疲れて帰ってきた主人公が次のステップに羽ばたくためには、時間をかけてじっくりと心を癒していくことが必要。その過程で家を出た母の気持ちに気づくまでに成長した主人公はきっと次のステップへと大きく羽ばたくのだろう。(堀)
2018年/韓国/カラー/シネスコ/103分
配給:クロックワークス
(C)2018 Daisuke Igarashi / Kodansha All Rights Reserved.
http://klockworx-asia.com/little-forest/
★2019年5月17日(金)シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
2019年05月15日
ガルヴェストン(原題:GALVESTON)
監督:メラニー・ロラン
原作:ニック・ピゾラット「逃亡のガルヴェストン」(早川書房刊)
撮影:アルノー・ポーティエ
音楽:マルク・シュアラン、ユージニー・ジェイコブソン
出演:エル・ファニング、ベン・フォスター、リリ・ラインハート、アデペロ・オデュイエ、ボー・ブリッジス
故郷を捨て裏社会で生きてきたロイ(ベン・フォスター)は自分の肺のレントゲン写真を見て、命の終わりが近いと悟った。雪が舞うように白くモヤがかかっていたのだ。その夜、いつものようにボスに命じられるまま仕事先に向かうと、ロイは突然何者かに襲われた。組織に切り捨てられたと知った彼は、とっさに相手を撃ち殺し、その場に囚われていた若い女(エル・ファニング)を連れて逃亡する。彼女の名前はロッキー。家を飛び出し、身体を売って生活していたという。全てを失い孤独な平穏を願いながらも女を見捨てることのできないロイ。2人の果てなき逃避行が幕を開ける。
健康に問題のある殺し屋を組織が切り捨てる。組織の論理としては正しい判断だろう。しかし、切り捨てられる方からすればとんでもない。殺し屋は組織から逃げるのだが、偶然、助けてしまった若い娼婦を連れて行くこととなる。その娼婦を演じるのがエル・ファニング。ということは、ただのか弱い娼婦ではなく、銃を持たせると意外にうまく使いこなし、2人でガンガン銃撃戦をしながら逃げて行くのか。と思いきや、2人の内面にフォーカスする。
若い娼婦には幼い妹がいた。叔父と可愛い姪2人と偽って過ごすひとときのバカンス。殺し屋は娼婦が人知れず抱えてきた過去に気がつき、自身も過去と向き合う。頭を過る、やり直せればという想いを若い娼婦の未来に託す。そのときの娼婦が輝くように見えた。エル・ファニングファンにとっては垂涎モノ。その後の展開は想定内であり、想定外。しかし、ラストで殺し屋の思いが確実に届いたとわかったとき静かな感動が胸に広がるだろう。(堀)
2018年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/PG12/94分
配給:クロックワークス
COPYLIGHT 2018 EMERALD SHORES LLC –ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://klockworx-v.com/galveston/
★2019年5月17日(金) 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか 全国ロードショー
2019年05月13日
居眠り磐音
監督:本木克英
原作:佐伯泰英「居眠り磐音 決定版」(文春文庫 刊)
脚本:藤本有紀
音楽:髙見優
主題歌:「LOVED」MISIA(アリオラジャパン)
出演:松坂桃李、木村文乃、芳根京子、柄本佑、杉野遥亮、佐々木蔵之介、陣内孝則、石丸謙二郎、西村まさ彦、谷原章介、中村梅雀、柄本明 ほか
主人公・坂崎磐音(松坂桃李)は、故郷・豊後関前藩で起きた、ある哀しい事件により、2人の幼馴染を失い、祝言を間近に控えた許嫁の奈緒(芳根京子)を残して脱藩。すべてを失い、浪人の身となった。
江戸で長屋暮らしを始めた磐音は、長屋の大家・金兵衛(中村梅雀)の紹介もあり、昼間はうなぎ屋、夜は両替屋・今津屋の用心棒として働き始める。春風のように穏やかで、誰に対しても礼節を重んじる優しい人柄に加え、剣も立つ磐音は次第に周囲から信頼され、金兵衛の娘・おこん(木村文乃)からも好意を持たれるように。 そんな折、幕府が流通させた新貨幣をめぐる陰謀に巻き込まれ、磐音は江戸で出会った大切な人たちを守るため、 哀しみを胸に悪に立ち向かう。
縁側で日向ぼっこする猫のような穏やかさを持ちながら、大事な一瞬を見極めて逃さない。磐音の剣は本人そのまま。人情に厚く礼節を重んじ、良すぎるほどに人が良い。それはまた、松坂桃李自身かもしれない。悲しい運命の前半、江戸での居場所を見つける後半。1作品でたっぷり2つ味わえた満足感に浸る。松坂桃李のはにかんだような笑顔がたまらない!(堀)
佐伯泰英氏の時代劇小説は古着屋総兵衛影始末シリーズ、酔いどれ小籐次留書シリーズは読みかじっていましたが、超長編の「居眠り磐音」シリーズは老後の楽しみに(今!)と手を付けずにいました。映画化されると聞いて手に取り、この飄々とした磐音に惚れました。壮絶な過去を背負っても外には出さず、欲をかかず市井の人とともに生きる姿がなんとも素敵です。映像を見てしまうと松坂くん以外には考えられず、これは彼の代表作になったと思いました。奈緒とおこんとの行く末も気になり、原作のようにシリーズ化してほしいものです。若い俳優たちが本木克英監督のもと、ベテランの現場のスタッフや俳優の先輩たちに育てられて、これからも時代劇を盛り立てていってくれますように。(白)
本木克英監督インタビューはこちら
2019年/日本/カラー/121分
配給:松竹
©2019映画「居眠り磐音」製作委員会
公式サイト:http://iwane-movie.jp/
★2019年5月17日(金)全国公開
2019年05月12日
アメリカン・アニマルズ( 原題:American Animals)
監督・脚本:バート・レイトン『The Imposter』(英国アカデミー賞受賞)
出演:エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソン
アメリカ・ケンタッキー州で退屈な大学生活を送るウォーレンとスペンサーは、自分が周りの人間と何一つ変わらない普通の大人になりかけていることを感じていた。そんなある日、二人は大学図書館に時価 1200 万ドル(およそ 12 億円相当)の超える画集「アメリカの鳥類」が保管されていることを知る。「その本が手に入れば、莫大な金で俺たちの人生は最高になる」そう確信したウォーレンとスペンサーは、大学の友人を巻き込み、『オーシャンズ 11』『スナッチ』などの犯罪映画を参考に強盗計画を立て始める。
本作を観ながら、アイルランドのアニメーション映画『ブレンダンとケルズの秘密』を思い起こしていた。「世界で最も美しい本」と言われる「ケルズの書」、壮麗なケルト文様が装飾された福音書(聖書)の写本が造られる過程を描いた傑作アニメだ。ダブリン大学トリニティ・カレッジ図書館に所蔵されているアイルランドの国宝を、もしダブリン大学の現役学生が本作と同じように転売目的で盗み出していたとしたら…。アイルランド=ケルト文化贔屓の身としては、一瞬意識が極西の国へ飛んでしまった。
本作では「特別な人間になりたい」「どデカいことを成し遂げたい」と動機を定義付けている。当事者たちに取材しているのだから本当なのだろう。
だが、冒頭にアーティスト志望のスペンサーが、オーデュボンの画集に描かれた優美なピンクフラミンゴ(おそらく?)の絵に一目で惹き付けられる場面の丁寧な演出から分かるように、少なくともスペンサーだけはオーデュボンのアートを体内に取り込みたかったのではないか。
その証拠に、タイトルバックからエンディングまで、鮮やかでリアルなオーデュボンの鳥類画像が幾度となく映像に溶け込むかの如く登場する。『ブレンダンとケルズの秘密』で、ケルト文様が万華鏡のように躍動するさまとよく似ている。
犯行の未熟さと不完全さゆえ、本作をクライム青春映画とする評価が多い中、繊細さと叙情性、生き物としての儚さを感じ取ったのは、アート好き体質によるものか。
観客の視点により様々な楽しみ方が可能な、今年の収穫作であることは間違いない。(幸)
2018 年/アメリカ・イギリス/116 分/スコープサイズ/5.1ch
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal
Pictures Limited 2018
公式サイト:http://www.phantom-film.com/americananimals/sp/
★5 月 17 日(金)より 新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
コレット(原題:Colette)
監督:ウォッシュ・ウェストモアランド
脚本:リチャード・グラッツァー、ウォッシュ・ウェストモアランド、レベッカ・レンキェヴィチ
出演:キーラ・ナイトレイ、ドミニク・ウェスト、フィオナ・ショウ、デニース・ゴフ、エレノア・トムリンソンほか
フランスの田舎町サン・ソヴールで生まれ育ったコレット(キーラ・ナイトレイ)。14歳年上の人気作家ウィリー(ドミニク・ウェスト)との結婚を機に、“ベル・エポック”真っ只中の活気にあふれていたパリへと移り住む。やがて、コレットの才能にいち早く気が付いたウィリーは、自身のゴーストライターとして彼女に自伝的な小説を書かせることに。その後、コレットが執筆した「クロディーヌ」シリーズは、社会現象を巻き起こすほどの一大ブームとなった。
こうして世間もうらやむようなセレブ夫婦として注目されるようになるコレットとウィリーだったが、コレットは自分が作者であることを世間に認められない葛藤と夫の度重なる浮気に苦しめられていく。その結果、自らの歩むべき未来を追い求めるようになるのだった。
フランスの片田舎に生まれ育った少女がベストセラー作家と呼ばれるようになり、自分らしい生き方を見つけるまでを描く。
コレットは作家だが、当時のファッションアイコンでもあったらしい。結婚前はどこにでもいそうな雰囲気の少女だったが、セレブとして注目されるようになってからは白、黒、紺、茶といった色合いのパキっとしたデザインの衣装を身にまとい、意志の強さを感じさせる。特にメンズスーツを着用したシーンでは、ウィリーに対する決別の意がびんびんに伝わってきた。次々と登場する衣装も作品の見どころ。キーラ・ナイトレイは何を着てもよく似合っていた。
あらすじを読むと、ウィリーはコレットの作家としての才能を利用しただけの男のように思えるが、ドミニク・ウェストが演じるとウィリーなりにコレットを愛していたことが感じられる。ドミニク・ウェストの為せる業か。
また、「クロディーヌ」シリーズがヒットするとブランドを立ち上げ、書籍だけではなく香水、メイク、石鹸などを売り出すなど、プロデュース力は目を見張るものがあるのだから、プロデューサーに徹することができれば、盟友としてずっとやっていけたのではないか。妻の名前が有名になることが我慢できなかったのだろうが、悔やまれる。
同じ頃、日本では与謝野晶子は自分の名前で作品を発表していた。コレットは1873年生まれで、晶子は1878年に生まれで同世代である。晶子は1912年に鉄幹を追ってパリに行った。コレットと晶子はどこかで会っていたかもしれない。もし、会っていたとしたら、最初から自分の名前で作品を発表していた晶子をコレットはどう思ったのだろうか。(堀)
フランス人女性で初めて国葬されたシドニー=ガブリエル・コレット。
本作は、フランス文学界で最も知られている女性作家コレットの物語。
なのですが、こんなに有名な人物のことを全く知りませんでした。
田舎町で生まれ育ったコレットが、人気作家と結婚することにより、その才能を開花させたのに、夫がその成果を奪う。おまけに堂々と浮気まで。まったくもって男ってけしからん! でも、彼女は屈せず這い上がります。生き様に勇気を貰えます。
イギリスとの合作故、フランス語ではなく英語なのが、ちょっと残念。(咲)
2018年/イギリス・アメリカ/カラー/英語/シネマスコープ/111分/5.1ch/PG12
配給:東北新社
©2017 Colette Film Holdings Ltd / The British Film Institute. All rights reserved.公式サイト:https://colette-movie.jp/
★2019年5月17日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館 ほか全国ロードショー
レプリカズ 原題: REPLICAS
監督:ジェフリー・ナックマノフ
出演:キアヌ・リーブス、アリス・イブ、トーマス・ミドルディッチ、ジョン・オーティス
神経科学者ウィリアム・フォスター(キアヌ・リーブス)は、亡くなった人間の神経(=心)をコンピューターに移す研究に携わっている。それはアルツハイマーの治療をはじめ、人類に新たな可能性を導くもので、あと一歩のところで滞っていた。
そんな中、感謝祭を迎え、ウィリアムは妻と3人の子どもたちと車で出かける。悪天候の山道で木が倒れてきて、崖に落ち、ウィリアム以外の4人が絶命してしまう。研究室から実験道具を家に運び込み、妻や子どもたちの遺体から「記憶」を取り出し、クローンに埋め込むことにする。ところが、クローン用の母体が3体しかなく、やむなく一番幼い次女の蘇生を諦める。妻や二人の子から次女の記憶を消してクローンに埋め込み、みごと成功する。研究所にはひた隠しにしていたが、研究の成功を待ち望んでいた政府組織にかぎつかれてしまう・・・
プエルトリコのカリブ海に面した町で撮影された近未来の物語。
研究にまい進している科学者が家族を一度に失い、倫理観も忘れて、自身の研究成果を家族再生に使うために暴走する・・・ キアヌ・リーブスだからこそ、その研究が人類の進歩のためであり、善を前提にしたものだと信じることができるし、家族のために我を失うのも容認してしまいます。
もし、ほんとに、こんな形ででも、失った家族を取り戻すことができたなら・・ でも、それはやっぱり偽物でしかないでしょう。そこまで科学を進歩させる必要もないと思わせられました。そして、政府組織がこの研究成果を待ち望んでいたのが、人類の進歩のためなどでない、戦争のためだとなれば、なおさらです。(咲)
亡くなった人間の意識をコンピュータに移した上でクローン化し、もう一度、意識を移し替え、完璧なレプリカとして甦らせる。ツッコミどころ、倫理的な問題とも満載だが、妻子を一度に亡くした主人公の気持ちは理解できる。有名になっても幅広く作品に出演するキアヌらしい作品選びにファンとしてはうれしくなってしまう。
後半はキアヌらしいアクションがメインの逃亡劇。はらはらドキドキの先にあるラストには驚くが、逃亡劇のクライマックスをしっかり見ておくと、その驚きがさらにアップするだろう。(堀)
2018年/アメリカ/107分/英語/カラー/スコープ
配給:ショウゲート
(C)2017 RIVERSTONE PICTURES (REPLICAS) LIMITED. All Rights Reserved.
公式サイト:http://replicas.jp/
★2019年5月17日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
2019年05月11日
コンフィデンスマンJP
監督:田中亮
脚本:古沢良太
出演:長澤まさみ 東出昌大 小手伸也 / 小日向文世
織田梨沙 瀧川英次 Michael Keida / 前田敦子 佐津川愛美 岡田義徳 桜井ユキ
生瀬勝久 山口紗弥加 / 小池徹平 佐藤隆太 吉瀬美智子 石黒 賢
竹内結子 三浦春馬 江口洋介
コンフィデンスマンとは詐欺師のこと。ダー子(長澤まさみ)、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)、五十嵐(小手伸也)は不当に大儲けした人間から大胆不敵な計画でお金を騙し取る。今回のターゲットは香港マフィアの女帝で、その冷酷さから<氷姫>という異名をもつラン・リウ(竹内結子)。弟子のモナコ(織田梨沙)も仲間に加わり、次々と網を張る。そこにダー子といわくありげな天才詐欺師ジェシー(三浦春馬)が割り込んできた。さらに連ドラで痛い目にあい、彼らに復讐を誓うヤクザ赤星(江口洋介)の影が見え隠れし、事態は予測不可能な展開に。騙し騙されの三つ巴の戦いを制するのは誰なのか!?史上最大のコンゲームが始まる
長澤まさみが美しさと気の強さを最大限に発揮させ、仲間をリードするさまは見ていて楽しい。そこに色男らしく絡んでくるジェシーを三浦春馬がスマートに演じる。香港の女帝を演じた竹内結子の冷たい美しさは息を呑むほど。それが心を許した瞬間、氷が解けるように守りたくなる可憐さに変わる。この変化は同性さえ惹きつけるほど。やばい!(堀)
2019年/日本/カラー/116分
配給:東宝
(C) 2019「コンフィデンスマンJP」製作委員会
公式サイト:http://confidenceman-movie.com
★2019年5月17日全国東宝系にてロードショー
僕に、会いたかった
監督・脚本:錦織良成
撮影:金子正人
照明:吉角荘介
音楽:瀬川英史
出演:TAKAHIRO、山口まゆ、柴田杏花、板垣瑞生、浦上晟周、小野花梨、宮本裕子、吉野由志子、川村紗也、斉藤陽一郎、清水宏、山下容莉枝、秋山真太郎、黒川芽以、小市慢太郎、松坂慶子
過去の記憶のない池田徹(TAKAHIRO)は島で一二を争う凄腕の漁師だったと言われているが、今は漁に出ることはなく、失った記憶に怯えながら日々を生きていた。そんな息子の姿を見て、母親の信子(松坂慶子)も苦しい思いを抱えている。
2人が住む島の高校では「島留学」と称し、都会から単身で越境入学する生徒を受け入れていた。池田家もこの取り組みに賛同し、福間雄一(板垣瑞生)の「島親」になる。徹は漁協の休みに釣りに出かけ、雄一との距離を縮めていく。雄一と一緒に島留学した木村めぐみ(山口まゆ)、横山愛美(柴田杏花)も遊びに来るようになっていった。
ある日、信子は徹の記憶を取り戻そうと、ある計画を実行する。果たして徹の失った時間は蘇るのか、また、止まった時間は再び動き出していくのか?
記憶を失った息子をそのまま受け止めた母の愛。それを見守る島の人々。美しい自然の風景と相まって、優しい思いが心に沁みわたる。ラストで海にかかった天使の梯子に心が洗われるよう。都会で時間刻みの生活をしていると見失ってしまうものがここにはあった。
島留学で来た高校生も生活に馴染んでいくうちに、気持ちが変化してくる。東大理三を目指していた雄一もその一人。息子の変化を心配して、実家から駆け付けた母親の気持ちも親として十分理解できるが、医者を目指すなら、雄一の変化は成長と見るべき。親元を離れたくて島に来た愛美も親のありがたさを知る。
大きな事件が起こることなく、淡々とした作品ではあるが、見終わったときにいい時間を過ごした気持ちになれるに違いない。(堀)
2019年/日本/カラー/5.1ch/シネマスコープ/96分
配給:LDH PICTURES
©2019「僕に、会いたかった」製作委員会
公式サイト:https://bokuai.jp/
★2019年5月10日(金)全国ロードショー
オーヴァーロード(原題:Overlord)
製作:J.J.エイブラムス、リンジー・ウェバー
監督:ジュリアス・エイヴァリー
脚本:ビリー・レイ、マーク・L・スミス
原案:ビリー・レイ
出演:ジョヴァン・アデポ、ワイアット・ラッセル、ピルー・アスベック、マティルド・オリヴィエ、ジョン・マガロ、イアン・デ・カーステッカー
1944年6月、ある空挺師団が連合軍の通信を妨害している教会の電波塔を破壊するという重要な密命を帯びてドイツ占領下のフランス・シエルブランという村に向かっていた。しかし、輸送機は敵兵からの激しい攻撃をくらい、兵士たちは敵の領土へと散り散りに落下していった。
無事、地上に降り立ったエド・ボイス二等兵(ジョヴァン・アデポ)やフォード伍長(ワイアット・ラッセル)たちは森でクロエ(マティルド・オリヴィエ)という名の女性と遭遇。村まで案内してもらう。
残された時間はあとわずか。教会の内側から塔を破壊するため、ナチスの目をそらし、フォードとボイス、そしてクロエは基地へと進入する。しかし、そこで彼らの前に立ちはだかったのは、今まで見たこともない敵だった。
目的地を間近にして激しい対空砲火を浴びる。輸送機に火の手が上がり、兵士たちはパラシュートで降下する前に命を落としてしまうのではないか。迫力たっぷりのスタートに戦争映画好きの心は逸るだろう。無事、地上に降り立った者もナチスに見つかったり、地雷を踏んでしまったりして、師団はほんの数名に。ピリピリした緊張感が続く。
しかし、この作品はそれだけではない。後半はホラーの要素を加味し、雰囲気ががらりと変わる。そして最後はターミネーターを彷彿させる敵との死闘へと移行する。
主人公ボイスは若手俳優のジョヴァン・アデポ。最初はちょっと頼りなげだが、一気に経験を積んでたくましくなっていく。個人的には上官のフォード伍長を演じたワイアット・ラッセルがいい。カート・ラッセルの息子である。任務の遂行のためには自己犠牲をいとわない漢気に惚れそうになった。(堀)
2018年/アメリカ/R15+/110分
配給:プレシディオ
© 2018 PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://overlordmovie.jp/
★2019年5月10日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
2019年05月10日
RBG 最強の85才(原題:RBG)
監督・製作:ジュリー・コーエン、ベッツィ・ウエスト
出演:ルース・ベイダー・ギンズバーグ、ビル・クリントン、バラク・オバマ
1933年ニューヨーク、ブルックリンで生まれたルース・ベイダー・ギンズバーグ。弁護士時代から一貫して女性やマイノリティの権利発展に努めてきた彼女は、1993年にビル・クリントン大統領に女性として史上2人目となる最高裁判事に指名される。以降も男子大学の女性排除、男女の賃金差別、投票法の撤廃などに、弁護士時代と変わらぬ視点から、法の下の平等の実現に向けて果敢に切り込んでゆく。若者を中心に絶大な支持を得る「RBG」はいかにして誕生したのか?彼女を良く知る家族、友人、同僚が母として、友人として、働く女性としてのルースの知られざる素顔を語り、彼女を支え続けた夫、マーティンとの愛溢れるエピソードも描かれる、全米大ヒットのドキュメンタリー。
ルース・ベイダー・ギンズバーグは女性やマイノリティへの差別撤廃のために50年近く闘い続けてきた。スクリーンに映し出されるルースの華奢な体のどこのそのエネルギーがあったのかと驚かずにいられない。ルースがジムでダンベルを持ちあげ、腕立て伏せをして健康維持に努める姿を見て、仕事を精力的にこなすには、仕事だけがんばればいいのではないことを知る。生涯現役を目指しているのも納得だ。作品内でRBG語録ともいえる、言葉がいくつも出てくるが、私には「怒るのは時間の無駄」がいちばん心に響いた。これは私にも役立つ気がする。
なお、本作で出てくる裁判は下記の5つ。
・1973年「フロンティエロ対リチャードソン」
・1975年「ワインバーガー対ワイゼンフェルド」
・1996年「アメリカ合衆国対バージニア州」
・2006年「レッドベター対グッドイヤー」
・2013年「シェルビー郡対ホルダー」
より作品を理解するために、予習をしておくといいかもしれません。(堀)
2018年/アメリカ/カラー/英語/98分
配給:ファインフィルムズ
©Cable News Network. All rights reserved.
公式サイト:http://www.finefilms.co.jp/rbg/
★2019年5月10(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー
チア男子!!
監督:風間太樹
原作:朝井リョウ「チア男子‼」(集英社文庫刊)
脚本:登米裕一
撮影:清川耕史
主題歌:「君の唄(キミノウタ)」阿部真央(PONY CANYON)
出演:横浜流星、中尾暢樹、瀬戸利樹、岩谷翔吾、菅原健、小平大智/浅香航大
道場の長男に生まれ、幼い頃から柔道を続けてきた晴希(横浜流星)。しかし、連戦連勝の姉・晴子(清水くるみ)と比べて自分に才能がないことに悩んでいた。怪我をきっかけに柔道から距離を置いていた晴希に、幼なじみで親友の一馬(中尾暢樹)は「一緒に新しいことを始める」と宣言する。なんと、それは前代未聞の男子チアリーディング部 「BREAKERS」の創設だった―!
2018年大晦日に放送された第69回NHK紅白歌合戦で、「Hey!Say!JUMP」と早稲田大学男子チアリーディングチームSHOCKERSがコラボレーションしたのをご覧になった方がいるかもしれない。きびきびと迫力ある演技が話題になったが、そのSHOCKERSをモデルにして、直木賞作家の朝井リョウが早稲田大学在学中に書き上げた同名小説が原作である。
主演の横浜流星と中尾暢樹を始めとする「BREAKERS」の面々が多忙なスケジュールの合間を縫って3カ月間の特訓を耐え、リアルなチアリーディングに挑んだという。できなかった技が1つ1つできていくときの喜びの顔はきっと本心に違いない。前半はイケイケな空気で明るく盛り上がる。一方、後半はメンバーそれぞれの内面をクローズアップ。技術的にもワンランク上のものを目指すため、身体的にも精神的にも行き詰まりを迎えたのが伝わってくる。これもリアルな葛藤なのかもしれない。人を魅了する大技は互いの信頼関係があってこそ。ばらばらになっていた7名がもう一度向かい合い、心を1つにしていくさまは、8番目のメンバーになったかのように応援してしまう。クライマックスのチアは監督が全国のチアリーディング映像を徹底的に研究し、俳優本人たちが吹き替えなしでチャレンジした。必見である。(堀)
2019年/日本/118分
配給:バンダイナムコアーツ/ポニーキャニオン
(C) 朝井リョウ/集英社・LET'S GO BREAKERS PROJECT
公式サイト:http://letsgobreakers7.com/
★2019年5月10日(金) 全国ロードショー
2019年05月08日
雪子さんの足音
出演:吉行和子 菜 葉 菜 寛 一 郎 大方斐紗子 野村万蔵 宝井誠明
佐藤浩市(友情出演)、他
原 作:木村紅美『雪子さんの足音』(講談社刊)
監督:浜野佐知
脚本:山崎邦紀
音楽:吉岡しげ美
異界でふたたび出会う、もうひとつのラブストーリー
大家さんの過剰な親切とお節介が、下宿人の人生を支配する?
学生時代を過ごした地方都市に出張していた公務員の薫(寛 一 郎)は20年前に下宿していた月光荘の大家、雪子さん(吉行和子)が熱中症で孤独死したことを新聞記事で知る。大家の雪子さんは当時、大学生だった薫に、なぜかご馳走攻めやら お小遣いをあげたり… おなじく月光荘の下宿人で、テレフォンオペレーターをしていた小野田さん(菜 葉 菜)からは屈折した好意を寄せられる… 二人の女性の欲望とエネルギーに触れた薫は怖くなり、大学3年の夏、ついに月光荘から逃げ出してしまう。
あれから20年が経った今、薫は再び月光荘を訪れようとしているー 月光荘での暮らしのあと、どういうわけか女性と付き合うのが苦手になり、いまも独身ー 月光荘の呪縛から逃れられない薫に、孤独死した雪子さんの足音が聞こえてくる…。
(c)2019 株式会社旦々舎
寛一郎演じる主人公が大学時代に住んでいた下宿の大家さんの訃報を知り、学生時代を思い出す。
上品なご婦人という言葉がぴったりの吉行和子演じる大家さんは下宿人のことが気になり、ついついお節介を焼いてしまう。面倒だと思いつつ、悪気がないのがわかるので食事をご馳走になり、お小遣いをもらい。。。どんどん生活に介入してくる大家さんに主人公は不安を感じるようになる。
作品では大家と下宿人の話だが、恋人同士、親子、友人などさまざまな関係で一方が深入りすることで関係性のバランスがいい崩れることは起こりうる。お節介には気を付けねば。(堀)
(c)2019 株式会社旦々舎
第158回芥川賞候補となった木村紅美『雪子さんの足音』を映画化したのは400本を超すピンク映画を制作している浜野佐知監督。この『雪子さんの足音』は自主制作の5本め、その5本すべてに出演している女優が吉行和子さんで、今回はなんともチャーミングなんだけどチャーミング過ぎて不気味にも…。2001年『百合祭』での演技にも仰天しましたが… ◆シネジャ作品紹介 http://www.cinemajournal.net/review/2001/index.html#yurisai
そして菜 葉 菜さん、寛 一 郎さんペアといえば、つい最近 私の地元・埼玉県。の川口市が舞台の映画『君がまた走りだすとき』http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/463826460.html
で拝んで以来。今回の撮影を通して、ますます姉弟のように親しくなったそうです。名優・佐藤浩市さんと寛 一 郎さんの親子共演にも注目。
劇中で、池袋モンパルナスの画家・松本竣介の絵画が度々登場。これは大学生の薫が松本竣介を卒論のテーマにしていて、原作者・木村紅美さんと同郷・岩手県の繋がりらしい…私は職業柄、何度か松本竣介の作品は観てるけど、そんなに当時は関心が無かったので、大川美術館(松本竣介の息子さんが設計した美術館) や、岩手県立美術館へ観に行きたくなりました。
浜野作品に出てくる老女は、いつも強くて しなやかで 独りで 逞しくて…私もいつか、そんな老女のひとりに なれるだろうか。 (千)
(スタッフ日記に飛びます)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/465647664.html
(c)2019 株式会社旦々舎
2019年/日本/112分
配給 旦々舎 映倫区分 G
公式サイト https://yukikosan-movie.com/
★2019年5月18日(土)より渋谷ユーロスペースにて公開
★6月15日(土)より横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開