2019年04月21日

パパは奮闘中!  原題:Nos Batailles   英題:Our Struggles

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監督・脚本:ギヨーム・セネズ 
共同脚本:ラファエル・デプレシャン
出演:ロマン・デュリス(『タイピスト!』『ムード・インディゴ うたかたの日々』)、レティシア・ドッシュ(『若い女』)、ロール・カラミー(『バツイチは恋のはじまり』)、ルーシー・ドゥベイ

妻は子どもを置いて家出、職場ではリストラの嵐・・・
人生は日々闘い!


オンライン販売の倉庫で働くオリヴィエ(ロマン・デュリス)。残業続きで忙しく、幼い息子のエリオット(バジル・グルンベルガー)と娘のローズ(レナ・ジラード・ヴォス)の子育てと家事は、妻のローラ(ルーシー・ドゥベイ)に任せきり。
そんなある日の午後、学校から子どもたちを迎えに来るよう電話がかかってくる。母親が迎えに来ないというのだ。子どもたちを連れて家に帰ると、ローラは身の回りの品と共に消えていた。心当たりもなく途方に暮れるオリヴィエ。その日から、オリヴィエの闘いが始まる。仕事は忙しいのに、慣れない子育てに家事もこなさなくてはならないのだ。おまけに、職場で人望の厚いオリヴィエは肩たたきの対象になった人の相談に乗ってあげないといけない。やがて、本格的に会社がリストラ政策を打ち出す。会社側からは、人事部のポストを今より高い給料で用意すると声がかかる。一方、組合の専従のポストが空いたから、ぜひ専従になって会社と闘ってくれと頼まれる。専従を引き受けると、遠くの町に引っ越さないといけないので、子どもたちは母親が帰ってきた時に困ると不服だ。さて、オリヴィエはどうする・・・
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日本語のタイトル『パパは奮闘中』から、ママが家出して、パパが子育てに奮闘する物語とイメージしていたら、もう一つの物語の軸が、職場でリストラが始まり、組合側につくか、会社側につくかという選択を迫られる話。
がぜん興味を持ちました。というのも、私自身、20年ほど前に、勤めていた会社の経営が悪化して、希望退職とい形で辞めた経験をしているのです。それまで一緒に仲良くカラオケやお酒を飲みに行っていた上司が、部下のクビを切る立場になり、内心、さぞつらかったことと、この映画を観て思い出しました。

そういえば、私の知り合いの男性で、家に帰ったら、奥さんとお子さんが、身の回りの品と共に消えていたという方がいます。お子さんを置いていかれなかっただけ、マシ?

どこの世界にもありそうな物語。結構辛辣なテーマを、ユーモアも交えて軽やかに描いています。

原題Nos Bataillesは、「私たちの戦い」という意味。 ギヨーム・セネズ監督にインタビューした際、タイトルに込めた思いを伺ったら、人生の中で起こる様々な戦いを想定。「戦い」も複数形であることに注目くださいとの答えでした。 (咲)

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ギヨーム・セネズ監督  
*インタビューは、こちらでどうぞ!

2018年 トリノ国際映画祭 観客賞受賞
2018年 ハンブルグ国際映画祭 批評家映画賞 受賞
2019年 セザール賞 最優秀男優賞・外国映画賞 ノミネート
2019年 ベルギーアカデミー賞(マグリット賞)作品賞、監督賞 含む 5部門受賞

2018年/ベルギー・フランス/99分/フランス語/日本語字幕:丸山垂穂
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル/宣伝協力:テレザ、ポイント・セット
協賛:ベルギー王国フランス語共同体政府国際交流振興庁(WBI)
@2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/funto/
★2019年4月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開





posted by sakiko at 21:59| Comment(0) | ベルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『主戦場』 原題Shusenjo: The Main Battleground of the Comfort Women Issue

2019年4月20日(土)~シアター・イメージフォーラム、4月27日(土)〜名古屋シネマテーク、第七藝術劇場、京都シネマ、近日元町映画館他全国順次公開

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(C)NO MAN PRODUCTIONS LLC

監督・脚本・撮影・編集・ナレーション:ミキ・デザキ
プロデューサー:ミキ・デザキ ハタ・モモコ 
アソシエイトプロデューサー:カン・ミョンソク 
音楽:オダカ・マサタカ アニメーション:1K FILMS 
製作:ノーマン・プロダクションズ
出演:トニー・マラーノ aka テキサス親父 藤木俊一 山本優美子 杉田水脈 藤岡信勝 ケント・ギルバート 櫻井よしこ 吉見義明 戸塚悦朗 ユン・ミヒャン イン・ミョンオク パク・ユハ フランク・クィンテロ 渡辺美奈 エリック・マー 林博史 中野晃一 イ・ナヨン フィリス・キム キム・チャンロク 阿部浩己 俵義文 植村隆 中原道子 小林節 松本栄好 加瀬英明 他

ようこそ、『慰安婦問題』論争の渦中へ。ひっくり返るのは歴史か、それともあなたの常識か


 韓国の日本軍元慰安婦の方たちの問題が政治的に利用され、彼女たちの思いとは違う方向に向いてしまっていると感じる今日この頃。この挑戦的なコピーと共に、今まで描かれてきた元慰安婦たちのドキュメンタリーにはない、ネットを駆使した作品を製作したのはアメリカに住む若い日系アメリカ人YouTuberのミキ・デザキ。

あなたがネトウヨでもない限り、彼らをひどく憤らせた日系アメリカ人YouTuberのミキ・デザキを、おそらくご存知ないだろう。ネトウヨからの度重なる脅迫にも臆せず、彼らの主張にむしろ好奇心を掻き立てられたデザキは、日本人の多くが「もう蒸し返して欲しくない」と感じている慰安婦問題の渦中に自ら飛び込んでいったとHPに書かれていたが、ネットの世界と縁遠い私としては、ネットの世界で「元慰安婦」の問題が広がっているとは全然知らなかった。
私はシネマジャーナル94号の『日本軍「慰安婦」を描いたドキュメンタリー』という「元慰安婦」をテーマにしたドキュメンタリー作品を紹介しているが、その記事の冒頭で、「最近日本軍元慰安婦のことが大きな話題になっているが、その内容がひどい。強制連行はなかった、民間業者が連れ歩いた、軍が管理したというなら証拠を見せろ、売春婦として金もうけのために行ったなど、被害女性の傷に塩を塗り込むような発言があり」と書いたが、まさにそれがもっとひどいことになっている。そして、日本と韓国間だけでなくアメリカに住む人たちも巻き込んで論争が広がっていることをこの『主戦場』で知った。
慰安婦たちは「性奴隷」だったのか?「強制連行」は本当にあったのか?  なぜ元慰安婦たちの証言はブレるのか? そして、日本政府の謝罪と法的責任は?という疑問を胸にデザキは、櫻井よしこ(ジャーナリスト)、ケント・ギルバート(弁護士/タレント)、渡辺美奈(「女たちの戦争と平和資料館」事務局長)、吉見義明(歴史学者)などなど、日・米・韓の、この論争の中心人物たちを訪ね回って彼らの発言を集めている。よくこれだけの人に取材できたなと思うくらい行動的な監督。
いろいろな人の意見が目まぐるしく登場し、私からすれば「聞きたくもない」発言も多かったけど、そういう対立する数々の主張を小気味よく反証させ合いながら、スタイリッシュなドキュメンタリーとして完成した。さらにおびただしい量のニュース映像と記事の検証や分析を織り込み、イデオロギー的にも対立する主張の数々、思い込みを論破してゆく。
「慰安婦」問題を巡るいくつかの論点。よく言われる「20万人」という数字。強制連行だったのか否か、「性奴隷」だったのか、日本軍が関与しているかなどをあげ、左右両派の論者(研究者、政治家、活動家、ジャーナリスト)らのインタビューを交互に紹介、構成している。人数も発言時間もほぼ同じ。結論は出さず判断は観客自身にゆだねているが、どちらの意見がまっとうかは明白。「慰安婦ではなく売春婦」などという意見は許しがたい。しかも女性がそんな風にいうなんて。聞きたくもない意見を聞いて、最初は気分よく観ることができなかったけど、後半になって、刺激的でエキサイティング、スピーディな展開と、資料の充実さも含め、こういう構成は説得力あるかもと思い始めた。
元慰安婦や戦争体験者の多くが鬼籍に入った今、この若い青年の「人権」「正義」「真実」という価値観を元に歴史を検証するという試みは他でも必要になってくるだろう。
 元慰安婦だった方は、冒頭、2015年の日韓合意後、韓国政府要人に詰め寄るイ・ヨンスさん(ビョン・ヨンジュ監督の『息づかい』に出演)と、1991年「慰安婦」として初めて名乗り出た金学順(キム・ハクスン)さんの二人しか出てこないが、このシーンは大事なシーンである。やはり慰安婦だった方の思いは忘れてはいけない。

『主戦場』
公式HP 
製作年 2018年
製作国 アメリカ
配給 東風

公開 舞台挨拶などの情報
★4/20(土)10:50と13:30回上映後、ミキ・デザキ監督初日舞台挨拶
★4/26(金)18:45回(日・英字幕版)上映後、ミキ・デザキ監督によるティーチ・イン
神奈川県 横浜 シネマ・ジャック&ベティ 045-243-9800 近日
青森県 フォーラム八戸 0178-38-0035 6月7日(金)〜6月13日(木)
山形県 フォーラム山形 023-632-3220 7月5日(金)〜7月11日(木)
宮城県 チネ・ラヴィータ 022-299-5555 5月17日(金)〜5月30日(木)
福島県 フォーラム福島 024-533-1717 6月14日(金)〜6月20日(木)
新潟県 シネ・ウインド 025-243-5530 5月18日(土)より公開
新潟県 高田世界館 025-520-7442 5月11日(土)より公開
石川県 シネモンド 076-220-5007 6月22日(土)より公開
愛知県 名古屋シネマテーク 052-733-3959 4月27日(土)〜5月17日(金)
★4/27(土)10:50回上映後、ミキ・デザキ監督初日舞台挨拶
長野県 松本CINEMAセレクト 0263-98-4928 ・5月12日(日) 11:00〜
会場:松本市中央公民館 Mウイング6階ホ-ル
・5月26日(日) 11:00〜
会場:まつもと市民芸術館小ホール
大阪府 第七藝術劇場 06-6302-2073 4月27日(土)より公開
★4/27(土)15:20回上映後、ミキ・デザキ監督初日舞台挨拶
京都府 京都シネマ 075-353-4723 4月27日(土)より公開
★4/27(土)13:25回上映後、ミキ・デザキ監督初日舞台挨拶
兵庫県 元町映画館 078-366-2636 近日
広島県 横川シネマ 082-231-1001 6月1日(土)より公開
広島県 シネマ尾道 0848-24-8222 近日
愛媛県 シネマルナティック 089-933-9240 5月24日(金)より公開
福岡県 KBCシネマ1・2 092-751-4268 近日
大分県 シネマ5 097-536-4512 5月11日(土)より公開
宮崎県 宮崎キネマ館 0985-28-1162 近日
沖縄県 桜坂劇場 098-860-9555 近日
posted by akemi at 21:42| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

イメージの本 原題 :LE LIVRE D‘IMAGE 英題 THE IMAGE BOOK

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監督:監督・編集・ナレーション:ジャン=リュック・ゴダール
撮影・編集:ファブリス・アラーニョ


ヌーヴェルヴァーグの巨匠として知られるジャン=リュック・ゴダールの異色作。数々の絵画、映画、文章、音楽をコラージュした映像でつづる5章で構成された物語に、現代にはびこる暴力、戦争、不和への思いを込める。第71回カンヌ国際映画祭でスペシャル・パルムドールに輝いた。


ゴダール御歳88歳、四年を掛けた新作である。あぁ〜!ゴダールの聴き慣れたゴダールの声によるナレーションの何たる心地好さ♪ 押し寄せるイメージの洪水。5章に構成され、奇跡のように再構築された夥しい引用映像の数々…。まるでゴダールの脳の中を覗いているような興奮を味わう83分だ。

地球上に充満し、止むことのない暴力・戦争・不信、不条理、不満 、不安、哀しみ、怒りに対して、ゴダールは過去の多くのアートを引用しながら再構築して行く。これがゴダール流の表現方法なのだ。

撮影のファブリス・アラーニョが撮り下ろしたオリジナル映像も、抜群に”ヌケの良い”美しさなのだが、個人的には古今東西、様々な映画の一場面を引用する形式に強く惹き付けられた。

ブニュエルが登場したかと思えば、溝口健二の『山椒大夫』、それも水戸光子が襲われる場面である!劇的なカットからゴダールは何を伝えたかったのか…。

イラン、アラブといった中東地域・紛争地帯の映像も多く引用される。古いイラン映画へのオマージュにより、これら貴重な文化や風土が失われることを危惧しているのだろう。
続けて流れる悲惨な映像群も、ゴダール独得のコラージュが施されているため、散文詩の如き叙情的な話法で語られる。まさにゴダールしか到達し得ない深度であろう。

物心ついてから見続けてきたゴダール、本作を観て中座したい人、居眠りしたい人…がいたとしても構わない。観客を置き去りにした潔さがゴダール流なのだ。

バッハ、シュトラウスなどの壮麗な楽曲も、ぶつんぶつんと場面により平気で途切れる。困惑する人もいるだろう。が、人の”意識”とはこのように断片的なものなのではないだろうか。それを映像にして提示してくれたゴダール。

88歳にして実験性を忘れず攻め続けるゴダールの姿勢を体感して欲しい。(幸)


2019年/カラー/84分
配給:コムストック・グループ
(C) Casa Azul Films -Ecran Noir Productions-2018
公式サイト:http://jlg.jp/
2019年4月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほかロードショー
posted by yukie at 18:21| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする