2019年03月31日

ホフマニアダ ホフマンの物語 (原題:HOFFMANIADA)

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制作:ソユーズムリトフィルム・アニメーションスタジオ(ロシア)
監督:スタニフラフ・ソコロフ
脚本:ヴィクトル・スラフキン、スタニスラフ・ソコロフ
キャラクター・デザイン:ミハイル・シュミアキン
音楽:シャンドル・カロシュ
監修:木野光司

エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマンは作家、作曲家であり芸術家です。自分の人生と作品を振り返り、過ぎ去った日々を思い起こします。そして若かりし頃の姿、すなわちドイツの小さな町で若き裁判官見習いとして働き、質素な家の屋根裏部屋を借りて音楽家を目指していた頃に自分を重ねていきます。日中は官庁で退屈な仕事をこなし、仕事の後は近所の居酒屋に足を向けます。そして夜には芸術的な創作活動に熱中するのです。

たいへんに手間ひまのかかるストップアニメーション作品です。現在の大成した自分、見習いだった若い頃、空想を自由に羽ばたかせる幻想世界、これをいったりきたりしていると承知しておかないと、物語がすこしわかりくいかも。人形も衣装も舞台もものすごく凝っていて、実物をじっくり見たい気になります。美しくて、いくら見ていても飽きることがなさそう。完成まで15年もかかったのです。そんな作品を今見せてもらえる幸せ。(白)

2018年/ロシア/ロシア語・日本語字幕/72分
配給:リスキット
協力:太秦/T&Kテレフィルム/Stylab
(C)Soyuzmultfilm
http://www.hoffmaniada.net/
Twitter:https://twitter.com/hoffmaniada
★2019年4月2日(土)ロードショー

☆映画版『ホフマン物語』も公開中(料金は別ですので、ご注意ください)
監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
出演:ロバート・ランスヴィル(ホフマン)、モイラ・シアラー(ステラ/オリンピア)
1951(日本公開1952)/イギリス/124分
posted by shiraishi at 20:22| Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

クリス・マルケル特集2019<永遠の記憶> 『シベリアからの手紙』『ある闘いの記述』

4月6日(土)~19日(金)、渋谷・ユーロスペースでクリス・マルケル監督特集が開催されます。

クリス・マルケル Chris Marker
(1921年~2012年)
パリ生まれの映画作家/プロデューサー/写真家など。
第二次世界大戦中は、ナチスに対するレジスタンスに参加。
『夜と霧』(1955年)でアラン・レネの助監督を務める。
記憶と記録、歴史と個人史、戦争、虚構と現実など、永遠に消えることのないテーマで数多くの作品を発表。フィルム、写真、本、ビデオ、ゲームなど、多様なメディアを自在に使った独特の作品は映像詩のようでもある。
数回来日し 日本についての作品もつくっている。
(公式サイトより抜粋)

■上映作品

『北京の日曜日』 1956年/カラー/DCP/20分 
『シベリアからの手紙』 1958年/モノクロ/DCP/61分 
『ある闘いの記述』 1960年/カラー/DCP/60分 
『イヴ・モンタン~ある長距離歌手の孤独』 1974年/DCP/60分 
『サン・ソレイユ』 1982年/カラー/DCP/104分 
『A.K.ドキュメント黒澤明』 1985年/カラー/35㎜/74分
『レベル5』 1996年/カラー/DCP/110分 
『不思議なクミコ』 1996年/47分/35㎜/47分

試写で拝見した2作品について紹介します。

◆『シベリアからの手紙』  
原題:Lettre de Sibérie
1958年/フランス/モノクロ/DCP/61分

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© 1957 Argos Films

レンズが捉える開発途上のシベリアの街や壮大な風景。
凍った大地のイメージのシベリアだが、緑の草原も広がる。白樺が美しい。
「悪魔が作ったタイガ」と呼ばれるシベリアの地は、アメリカとほぼ同じ大きさ。
シベリア鉄道が敷設され、町が建設される。
郊外には集団農場コルホーズ。
家鴨の集団。もともと家禽としてシベリアにはいなかった。
マンモスの時代がアニメーションで描かれる。
トナカイの群れる大地に、開発の車がやってくる。
軍艦が居並ぶ港・・・

シベリアの今と昔が、映像やアニメーションで点描される映像詩。
この地にやってきたよそ者が、見聞したシベリアに住む人々や風物のことを書簡形式で語る。不毛の地に人の息吹が吹き込まれていく姿が展開されて興味深い一作。(咲)


◆『ある闘いの記述』

原題:Description d'un combat
1960年/イスラエル=フランス/カラー/DCP/57分
1961年ベルリン国際映画祭短編部門金熊賞
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© 1961 Van Leer Productions et S.O.F.A.C
© 2014 Argos Films – Cinémathèque de Jérusalem


1948年にユダヤの人々が“約束の地”に建国して、12年目を迎えたイスラエルの様子を捉えた作品。
海沿いの町、ハイファ。旧約聖書にも出てくるカルメル山が背後にそびえる。
エルサレムでは、「ここはアラブ人の街」と嘆くユダヤ人の姿。一方で、荒れ果てたキャラバンサライやモスクも映し出される。追い出されたパレスチナ人のものだろう。
エルサレムには超正統派ユダヤの人たちの住む地区メアシェリームも出来ている。
ヘブライ語が蘇る。一方、エルサレムの町では、アラビア語も聞こえてくるし、イディッシュ語、ドイツ語、フランス語、ロシア語など、各地から移ってきたユダヤの人々の言葉も飛び交っている。
移民してきたユダヤ人が共同生活をおくるキブツ、死海、ネゲブ沙漠、紅海、ナザレ・・・  イスラエルが建国されて変わりつつある各地の姿も映し出される。
映画『サラー・シャバティ氏』(1964年/イスラエル)で観たイスラエルの建国初期の姿を思い起こした。

セファルディム(中欧のユダヤ人)の難民たちが荒れた海をイタリアから船で渡ってきてハイファに上陸するも、すぐにキプロスに移送されてしまう。
「ユダヤ人は他の民族を同じ運命に追いやるのか」と映画の中で語られているが、それを証明するかのように、今はシリアやアフリカなどからの難民が船でヨーロッパを目指し、追い返されている。なんとも複雑な気持ちになる。

1967年の第三次中東戦争勃発後、マルケル自身が本作の上映を禁じた時期もあったという。
イスラエル建国初期の姿を映し出した作品を、今再び観ることのできる貴重な機会に感謝したい。(咲)

【トークショー】
4月6日(土) 時間未定 ゲスト:港千尋さん(写真家/写真評論家)
4月7日(日)  15:00「北京の日曜日」「イヴ・モンタン」上映後 ゲスト:金子遊さん(映像作家)
4月13日(土) 12:30 「A.K.ドキュメント黒澤明」「不思議なクミコ」上映後 ゲスト:古賀太さん(日本大学教授)
4月14日(日) 17:30「サン・ソレイユ」上映後 ゲスト:岡田秀則さん(映画研究者)

企画・事務局:パンドラ
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/ChrisMarker/
★2019年4月6日(土)~4月19日(金)渋谷ユーロスペース
posted by sakiko at 18:05| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

バイス  原題:Vice

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監督・脚本:アダム・マッケイ『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
出演:クリスチャン・ベール『ダークナイト』、エイミー・アダムス『アメリカン・ハッスル』、スティーヴ・カレル『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』、サム・ロックウェル『スリー・ビルボード』

1960年代半ば、不真面目な学生だったディック・チェイニー(クリスチャン・ベイル)はイェール大を退学となり、電気工として働き始めるが、酒癖の悪さは治らず、警察の世話になってしまう。恋人のリン(エイミー・アダムス)に激怒され、「二度と失望させない」と誓う。その後、連邦議会のインターンシップに参加し、共和党の下院議員ドナルド・ラムズフェルド(スティーヴ・カレル)のもとで働き始めたチェイニーは、権力の中に自分の居場所を見いだす。やがて、頭角を現したチェイニーは史上最年少の34歳でジェラルド・フォード政権の大統領首席補佐官になり、ジョージ・H・W・ブッシュ政権下では国防長官に選ばれた。そして、ジョージ・W・ブッシュ(サム・ロックウェル)政権で副大統領に就任する。

同時多発テロ事件をきっかけにアメリカがイラク侵攻を決めた瞬間をクライマックスに、それを陰で牽引したといわれるディック・チェイニーの政治家人生を描いている。と書くと、真面目で難しい政治映画と思われてしまうかもしれない。しかし、コメディ出身のアダム・マッケイ監督は茶目っ気たっぷりに演出し、政治に疎い者にも分かりやすく、詳しい人にはさらに興味を抱かせる。しかも役者のなりきりぶりが半端ない。チェイニー役のクリスチャン・ベールは体重を約20キロ激増して、見事に20代から70代まで演じ切り、ブッシュ大統領役のサム・ロックウェルの眉を寄せた顔はブッシュ本人と見紛うばかり。本作はアカデミー賞 メイクアップ&ヘアスタイリング賞に輝いた。
なお、「記者たち 衝撃と畏怖の真実」ではイラク侵攻の裏側を暴こうとする新聞記者たちの奮闘を描いているので、セットで見ると、どちらの作品もより理解が深まるはずである。
また、本作について、町山智浩氏が公開前の試写会で行われたトークイベントで詳細な解説をした。そのレポートはこちらから。(堀)


アメリカ合衆国 第46代副大統領ディック・チェイニー。
ジョージ・W・ブッシュ政権で、副大統領を務めた男。
本作は、田舎の大学を卒業後、電気工をしていたチェイニーが、上院議員だったドナルド・ラムズフェルドと出会ったことから、妻の後押しもあって政治家をめざし、ついには副大統領となり、ブッシュ大統領を裏で操っていたことを暴いた、まさかの実話。
釣りが好きだというチェイニー。石油会社の役員として、地方都市でのんびりと釣りを楽しみながら暮らしていてくれれば、中東情勢は違っていたかもしれない・・・
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ブッシュといえば、この写真のように靴を履いたままの足を机に乗せている失礼な姿が思い浮かぶ。イラク侵攻当時、恐らくCNNだったと思うのだが、イラク派兵前の兵士が、軍でイラクの人たちの習慣を学んだと得意げに話す中で、「こんな風に、靴を履いた足を机に乗せてはいけないそうです」と語っていたのを思い出す。靴を履いたまま家の中に入ることさえ失礼なのにと呆れたものだ。それほど習慣の違う国に、アメリカは土足で上がりこんで滅茶苦茶にしたのだ。独裁政権のイラクに民主主義を植えつけるなどという大義名分を掲げて!  
9,11の同時多発テロ後のアメリカ政府の対応を見ていて、単純で短絡そうなジョージ・W・ブッシュ大統領をうまく操っているのが、チェイニーはじめネオコン(新保守主義者)の連中だという印象を持っていた。石油の利権のためにイラク侵攻を画策したといわれていたけれど、本作を観て、まさにそうだったのだと唸った。
それにしても、チェイニーはじめ登場人物が皆そっくりで大笑い。もとのお顔はどうだったっけ?とわからない位。政治の裏舞台を暴いているけれど、しっかり楽しめる作品になっているのも凄い。(咲)

『バイス』公開記念 映画評論家・町山智浩氏トークイベント

提供:バップ、ロングライド 
配給:ロングライド
© 2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.
http://www.longride.jp/vice/
★2019年4月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー





posted by sakiko at 17:25| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月29日

沈没家族 劇場版

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監督・撮影・編集:加納土
音楽:MONO NO AWARE

1990年代、シングルマザーの加納穂子さんがチラシで共同保育の募集をかけ、そこで幼少期を送った加納土監督。大学生になった加納土監督が自身の生まれ育った場所「沈没ハウス」での生活をひも解くセルフドキュメンタリー。当時、子ども達と共同生活を送る保育人たちは、この活動を「沈没家族」と呼んだ。大学生の加納土監督は「沈没家族」住人達に会いに行き話を聞く。家族とは何…? 母の思い、そして離れて暮らす父の姿を追いかける… 加納監督が武蔵大学の卒業制作として発表したドキュメンタリー作品を劇場版として再編集した。

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(C)2019 おじゃりやれフィルム


今でこそシングルマザーの人口も多く、自治体によっては補助も出ていて昔よりは暮らし易くは成ってきた(私の兄はシングルファザー)。これも先輩方々が運動してきた成果なので、私は運動を否定しないし、むしろ私もマイノリティをマジョリティにする活動には積極的に関わってきたつもり。では、20年前はどうだったか? 加納監督の母・穂子さんは学生で、在学中に妊娠し、籍を入れないまま出産し、シングルマザーとなり、自治体の福祉サービスなんか無く、実家親族を頼ることなく、保育人募集のビラをまき、知ってるひとから知らないひとまで周りを巻き込みながら子育てを始める。私もその頃、学生だったし、もし自分が独身のまま妊娠出産してたら、どうしていただろうと姿を重ねてみたけど、穂子さんのような活動はできなかったと思うと、穂子さんの「沈没家族」には感嘆するばかり。そのご都会暮らしを捨て、八丈島へ移住するトコロも羨ましいかぎり。モンモンとしながら東京生活を送っている私はアホ認定…。加納土監督は、もともと卒制としてつくられたドキュメンタリー作品を劇場版に編集した際、監督と同じ八丈島出身のバンド「モノノアワレ」の音楽を挿入。このバンド独特のメロディが映画と最高に合ってるんだなあ、これが。そして自分史上、知っているひと達が沢山出ていたドキュメンタリー映画でビックリしたのでした。 (千)




(C)2019 おじゃりやれフィルム
2018/日本/93min
配給 ノンデライコ
公式  http://chinbotsu.com/
★2019年4月6日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

posted by chie at 00:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月28日

ダンボ(原題:Dumbo) 

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監督:ティム・バートン
撮影:ベン・デイビス
美術:リック・ハインリクス
衣装:コリーン・アトウッド
編集:クリス・レベンゾン
音楽:ダニー・エルフマン
出演:コリン・ファレル(西島秀俊)、マイケル・キートン(井上和彦)、ダニー・デヴィート(浦山迅)、エヴァ・グリーン(沢城みゆき)

メディチ(ダニー・デヴィート)率いるサーカスに誕生した子象は、新しい看板としてショーに出るが、“大きすぎる耳”のせいで、ダンボと呼ばれ、 観客から笑いものにされてしまう。ある日、サーカスの元看板スターだったホルト(コリン・ファレル)の子どもたちが、ダンボと遊んでいると、ダンボが大きな耳を使って飛べることを発見する。大都会ニューヨークの巨大テーマパーク“ドリームランド”を経営する大興行師のヴァンデヴァー(マイケル・キートン)は、 “空飛ぶ子象”の噂を聞きつけ、メディチのサーカス団を騙して、ダンボを手に入れようと企む。愛する母と引き離され、ヴァンデヴァーのショーに出演させられるダンボ。サーカス団の仲間たちは、ダンボ親子を救出する作戦を立てる。ついに決行の日。ショーの晴れ舞 台に立つダンボ。サーカス団の仲間たちによる、想像を超えた救出作戦とは?

大きな耳を翼のようにして空中を飛ぶ象のダンボ。初期のディズニーを代表する名作『ダンボ』(1941年)を見たことがなくても、その名前を知っている人は多いだろう。そんなダンボをティム・バートン監督が実写映画化した。今回は人間とコラボレーションして、子どもだけでなく、むしろ大人こそ見てほしい内容となっている。
母と引き離されたダンボを支えるのは、サーカス団のスター・ホルトの子どもであるミリーとジョー。戦争に行った父の留守中に母を亡くした2人だからこそ、ダンボの寂しさに寄り添える。ダンボが母象と会えるように奮闘するのは、ダンボを通じて、自分たちも母に会う喜びを感じたかったのかもしれない。飛ぶのを躊躇うダンボに、ミリー自身が自分の力を信じる行動を取り、ダンボに発破をかけた。
また戦争で左腕を失ったホルトはサーカス団での居場所が見つけられない。子どもたちがいちばん辛いときにそばにいてやれなかったことで、親としても距離感がある。しかし、「完璧な親はいない。信じてほしいたけ」と空中ブランコのスター、コレット(エヴァ・グリーン)からアドバイスされ、子どもたちに向き合う。
ダンボだけでなく、サーカス団の父子もありのままの自分を受け入れ、一歩を踏み出していく。自分らしくいることの大切さを作品は伝えている。
ところで、ダンボはDumbo と綴るが、その名前の由来が映画で文字遊びのように描かれている。またクライマックスにも似たような文字遊びがあるので、見落としませんように。(堀)


2019年/アメリカ/カラー/112分
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved
公式サイト:http://disney.jp/dumbo/
★2019年3月29日(金) 全国公開


posted by ほりきみき at 00:00| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月24日

記者たち~衝撃と畏怖の真実~  原題:Shock and Awe

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監督:ロブ・ライナー(『スタンド・バイ・ミー』)
出演:ウディ・ハレルソン(『スリー・ビルボード』)、ジェームズ・マースデン、トミー・リー・ジョーンズ、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ジェシカ・ビール、ロブ・ライナー

2003年3月20日のアメリカによるイラク侵攻。その理由の一つ「大量破壊兵器の所持」が、ねつ造だったことは今や明白だ。
だが、当時、2001年9月11日の同時多発テロ後の愛国心の高まりの中、多くのアメリカ国民が、テロの首謀者であるビン・ラディーンとイラクのサッダーム・フセイン大統領が手を組んで大量破壊兵器を開発しているというマスメディアの報道を信じて疑わなかった。そんな中、中堅の通信社ナイト・リッダーの記者たち4人は、政府の流す「大量破壊兵器所持」情報がねつ造ではないかと真実を追い求める・・・

原題:Shock and Awe(衝撃と畏怖)は、イラク侵攻時の軍事作戦名。
ロブ・ライナー監督は、「アメリカがイラクに侵攻した時、私が生きている間に、また嘘で戦争をすることが信じられず憤りを覚えた」と語っている。ベトナム戦争当時、徴兵対象の年齢だった監督の切実なる思いだ。
ナイト・リッダー社のワシントン支局長として出演もしているロブ・ライナー監督。
「イラクがテロの真犯人? どんな無能の奴の考えだ?」と声高に叫ぶ姿は、まさに当時の監督の思いそのものだ。
政府の情報を鵜呑みにして、国民にプロパガンダをまき散らした主要メディア。
独裁者サッダーム・フセイン大統領を倒して、イラク国民に民主主義をもたらすという、体のいい大義名分も国民受けするものだ。民主主義の国を増やすといいながら、アフガニスタンもイラクもいまだ落ち着かない。それでいて、非民主的で、隣国イエメンに攻撃をかけているサウジアラビアには、肩入れしている。気に食わない国には、なんとしても理由付けして軍事介入するアメリカ政府。戦争に突き進むのは、自身の利益の為というのは見え見えだ。命令した権力者自身が、戦争で傷つくこともない。最大の犠牲者は、侵攻された国の庶民。そして、戦地に送られる兵士たち。
映画の最初の方で、「政府の命令が多くの人生を変えた。なぜ戦争を起こした?」と嘆く元兵士の姿も、監督はしっかりと映し出している。

政府の言いなりにならない、自由で独立したメディアがいかに大切かを語っている本作。
思い起こすのは、韓国映画『共犯者たち』。イ・ミョンバクとパク・クネ政権時代のメディアへの露骨な介入を暴いたドキュメンタリー。 それにしても、政府にとって都合のいい情報だけを聞かされているのは、何もアメリカや韓国だけのことではないのではないか・・・ (咲)


2017年/アメリカ/91分/カラー/ビスタ/5.1ch
配給:ツイン
公式サイト:http://reporters-movie.jp/
★2019年3月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー



posted by sakiko at 22:40| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

武蔵野 江戸の循環農業が息づく

ポレポレ東中野にて3月23日~4月5日公開 連日朝10時より
フォーラム山形では3月22日から28日まで 連日朝10時より

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(c)映画「武蔵野」製作委員会

監督:原村政樹
プロデューサー:鈴木敏夫
撮影:原村政樹

『海女のリャンさん』(2005年)、『いのち耕す人々』(2008年)、『天に栄える村』(2013年)、『無音の叫び声』 (2018年)など、長い間、地方に息づく自然や農業の営みとそこに生きる人々を撮ってきた原村政樹監督。
今度の作品は、40年以上前から住む地元川越や所沢などの武蔵野地域で360年以上続けられてきた江戸の循環農業と農家の人々の生活に密着したドキュメンタリー。都心から30キロ圏内の武蔵野地域。都市化が進んだ地域で続いている農業の営みを追っている。

HPより

原村政樹監督メッセージ
なぜ、映画「武蔵野」を創ったのか
私はこの映画の舞台のすぐ近くに40年以上前から暮らしてきました。いわば私のふるさとです。しかし、この地で360年以上途切れることなく続けられてきた江戸の循環農業が今も息づいていることを知っている人は地元でも少ないのが現状です。そして年々、「ヤマ」と呼ばれる日本最大の平地林が徐々に減少しています。
何事も激変する現代社会にあって、この地の農家の人たちは時代に対応しつつも、変えてはならに貴重な「農の文化」を、しなやかに守り続けてきたのです。それは日本だけでなく世界中の人々にとっても、人類の遺生きた遺産として、後世に残したい宝物だと思えてなりません。
長年、農業をライフワークにドキュメンタリー映画を創り続けてきた私にとっても、これほど若い農業後継者が育っている農村は他に知りません。人間のいのちの根底を支える食べ物を育てる農業の未来は、この地で受け継がれてきた江戸の循環農業にヒントが隠されていると思えます。それは人が暮らす地域の自然環境を大切に守り育てる営みがあるからです。
いくら経済の成長を求めても、暮らしの中で自然環境との共生を無視した生き方には未来はありえません。人間も動物である以上、自然に生かされているからです。
私はこの映画で、そのことを伝えつつ、農業と一体となった武蔵野の雑木林、つまり「ヤマ(平地林)」を日本の大切な文化として未来永劫残すための力になりたいと、全力で創り上げました。

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(c)映画「武蔵野」製作委員会


原村政樹監督 経歴
1957年生まれ。10代後半から川越市在住。2004年長編ドキュメンタリー映画「海女のリャンさん」で文化庁文化記録映画大賞・キネマ旬報ベストテン第一位受賞。2006年「いのち耕す人々」キネ旬第五位、2008年「里山っ子たち」」キネ旬第三位、2013年「天に栄える村」キネ旬第四位。2012年ETV特集「原発事故に立ち向かうコメ農家」農業ジャーナリスト賞、2013年NHK新日本風土記「川越」で江戸の循環農業を紹介。2015年「無音の叫び声」では映画と同時に書籍を出版、映画と著書が「農業ジャーナリスト賞」W受賞。

ポレポレ東中野 上映後の舞台挨拶
3月23日・30日 : 原村政樹
3月24日 : 鈴木敏夫(プロデューサー)

公式HP http://www.cinema-musashino.com/index.html

2017年 日本
配給 映画「武蔵野」製作委員会
posted by akemi at 21:18| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月23日

リヴァプール、最後の恋(原題:Film Stars Don't Die in Liverpool) 

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監督:ポール・マクギガン
脚本:マット・グリーンハルシュ 
原作:ピーター・ターナー 「Film Stars Don’t Die in Liverpool」 
エンディングソング:エルヴィス・コステロ「You Shouldn’t Look At Me That Way
出演:アネット・ベニング、ジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ

1981年9月29日、ピーター・ターナー(ジェイミー・ベル)の元に、かつての恋人グロリア・グレアム(アネット・ベニング)がイギリスのランカスターのホテルで倒れたという知らせが届く。慌てて駆けつけると、グロリアは治療を拒否し、「リヴァプールに行きたい」と懇願する。ピーターはリヴァプールにある自分の実家でグロリアを療養させることにした。
2人が出会ったのは数年前に遡る。20代のピーターは駆け出しの若手舞台俳優で、50代のグロリアは落ち目の映画スターだった。年齢差があったものの、2人は恋に落ち、ニューヨークで暮らし始めた。しかし、ピーターがイギリスから舞台出演のオファーを諦めようとしたことをきっかけに、2人の関係は終わりを迎えた。
しかし、病に倒れたときにグロリアが頼ったのは家族ではなく、ピーターだった。彼はアメリカの主治医に連絡を取り、病状を確かめ、グロリアの死が近いことを悟る。そして、彼女と楽しく過ごしていた頃を思い出しているうちに、グロリアがリヴァプールに拘り続けた理由に気が付いた。


イギリスの舞台俳優ピーター・ターナーの回顧録を映画化。母子ほど歳が違う(29歳差)、恋の相手は往年の大女優グロリア・グレアム(1923-1981)。1950年代ハリウッドで活躍し、『悪人と美女』(1952)でオスカー助演女優賞に輝いた一方で、4度の結婚歴を持ち、4番目の夫は2番目の夫の息子(義理の息子)という自由奔放な私生活が物議を醸した。すべてが驚きの実話である。
作品ではグロリアの最後の数週間にスポットを当て、そこに2人の出会いや楽しい日々、悲しい別れを挟み込む。アネット・ベニングがペーターに惹かれるグロリアの少女のような可愛らしさと、病に倒れて衰弱していく様を見事なまでに演じ切っている。20年前からグロリアを演じたいと思ってきたそうだ。
ピーターの回顧録なので、基本的にはピーター視点で話が進むが、グロリア視点でもう一度見せる演出がある。より強くグロリアの真意が伝わってきた。だからこそ、ピーターが最後に用意したサプライズが切なく、胸にしみる。(堀)



原題は「映画スターはリヴァプールで死なない(死ななかった)」とでも直訳するのか。単なる”女優”でも”アクトレス”でもない。「銀幕のスター」といった煌びやかさ、ノスタルジーを帯びた言葉を連想させる上手いタイトルだ。
昔のTV名画座(?)で、初めてグロリア・グレアムを観た時の衝撃は忘れない。子ども心にも、あの下がった口角から「なんという魔性系の人だろう!」と目が釘付けになったものだ。白黒映画なのに鮮やかな色彩とフェロモンを感じ取った。以降、ハリウッド黄金時代のクラシック映画を観る度にグロリア・グレアムの姿を探し求め、『素晴らしき哉、人生!』にチョイ役で出ているのを見つけた時には小躍りしたものである。

長じて、敬愛するニコラス・レイ監督と婚姻中、先妻の息子と関係ができて結婚。通算4度の結婚歴を持つと知った時、子どもの頃の感覚は強ち(あながち)間違ったものではなかったと確信した。
そのグロリア・グレアムが、銀幕の第一線を去った後、ステージママだった母親(ヴァネッサ・レッドグレイブが好演)の故郷・英国の舞台へ出ていたことを本作で初めて知ることとなる。扮するアネット・ベニングは冒頭から深い小皺が刻まれ、たるみやシミの出た顔を臆することなく晒す。”老け役NG汚れ役NGスッピンNG”といったCMタレント化している何処かの国の女優とはまるで覚悟が違う本物の女優としての潔さを見せてくれる。

『リトル・ダンサー』、ジェイミー・ベルと聞いて、胸がキュンと締め付けられる人も多いのではないか。日本では未だに熱狂的ファンを持つ『リトル・ダンサー』の少年が、多くの役柄を経て大人になり、グロリアと親子ほども歳の離れた恋人役を演じる。
ジェイミー・ベルは素晴らしい俳優であると同時に不思議な立ち位置にいる人だ。ハリウッドの娯楽大作に出ても少しもメディア擦れした顔にならず新鮮さを保っている。一方、ラース・フォン・トリアといった作家性の強い監督作にも違和感なくはまる名優ぶり。本作では、大ベテランのアネット・ベニングに引けを取らぬ存在感を示す。弾ける若さとしなやかさ、米国進出への憧れ、野心、グロリアへの純粋な愛情、自分と同世代であるグロリアの夫(ニコラス・レイの息子)への同志友愛とでも呼ぶべき複雑な難役を見事に表現している。終盤は父性まで感じさせる名演に泪を禁じ得なかった。

本作は陽光瞬くハリウッドを舞台にした場面もあるが、リヴァプール訛りが濃厚なベルの実家に於ける描写、何時迄も、良い意味で”田舎の少年”的風貌を残すベルの繊細且つ丁寧な演技なくしては成立しなかった恋愛映画の秀作である。(幸)



2019年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/105分
配給:キノフィルムズ/木下グループ
© 2017 DANJAQ, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:https://liverpool-movie.com/
★2019年3月30日(土)新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA 公開
posted by ほりきみき at 16:24| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月17日

ブラック・クランズマン(原題:BlacKkKlansman) 

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監督・脚本:スパイク・リー
脚本:チャーリー・ワクテル、デビッド・ラビノウィッツ、ケビン・ウィルモット
撮影:チェイス・アービン
音楽:テレンス・ブランチャード
出演:ジョン・デビッド・ワシントン(ロン・ストールワース)、アダム・ドライヴァー(フリップ・ジマーマン)、ローラ・ハリアー(パトリス・デュマス)、トファー・グレイス(デビッド・デューク)、ヤスペル・ペーコネン(フェリックス)

1970年代半ば、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署に、初の黒人刑事として採用されたロン・ストールワースは、捜査のために電話で白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)のメンバー募集に応募する。黒人であることを隠して差別発言をまくし立てた彼は、入会のための面接に進み、彼の代わりに白人の同僚刑事フリップ・ジマーマンが面接に向かう。 

昨年のカンヌ国際映画祭で是枝監督の『万引き家族』にパルム・ドールに次ぐグランプリを受賞したスパイク・リー監督作。円熟期にして最高の快作と言えるのではないか·。サスペンスの体裁を取りつつハラハラドキドキさせると共に、笑いとウィットに富んだ会話劇でもあり、試写室は終始笑いとどよめきに包まれていた。 
オスカーを受賞したリーの手による脚色は、ノンフィクション原作から自由な翻案が成されており、娯楽と社会性が絶妙なバランスで活かされている。
ブラックパワーの潮流が高まっていた時代背景なればこそ、『黒いジャガー』『スーパーフライ』といったブラック・シネマへの言及も忘れない。逆に、KKK団の集会では、グリフィスによる『國民の創生』が上映され、「彼女は酷い目に遭ってしまうのよ」などと役柄に同化して涙する幹部夫人の描写には笑ってしまう。しかし、この時に泣いていた白人妻が実は後半に隠れたキーパーソンとなる点にご注目願いたい。
28年前『マルコムX』でデンゼル・ワシントンとタッグを組んだ頃のリー演出は生硬で主義主張の押し付けが観られた。今回、息子のジョン・デヴィッド・ワシントンとは、いい意味で肩の力抜けたコンビになっており、父子二代によるタッグというのも感慨深いものだ。
個人的には、KKKの構成員役であるポール・ウォルター・ハウザーやトファー・グレイス、いい味のおばちゃんアシュリー・アトキンソン、フィンランド人俳優のヤスペル・ペーコネンといった白人俳優の好演が本作を支えていると感じた。(幸)


アダム・ドライヴァーの出演作なので外さず、主演はデンゼル・ワシントンの息子というので注目しました。ロンは軽く見えるけれど頭の回るキャラ、アフロヘアに目がいってしまいますが、父親に顔立ち似ています。父親を引き合いに出さないで、というのはしばらく無理かもしれないけれど、いい俳優さんになりますように。
ほんとにこんな話があったのか!?と驚いてしまうのですが、リー監督がぞんぶんに脚色の腕をふるったようです。そのへんを町山智弘さんが詳しく解説しています。ほりきさんが頑張ったレポ記事はこちら、長いですがぜひご覧下さい。
第91回アカデミー賞で6部門にノミネート、脚色賞を受賞。第71回カンヌ国際映画祭でグランプリ。ということで観てけっして損はありませぬ。(白)


2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/135分
配給:パルコ
(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.
http://bkm-movie.jp/
★2019年3月22日(金)TOHOシネマズシャンテほか潜入捜査開始!
posted by shiraishi at 19:55| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

漂うがごとく(原題:Choi voi 英題:Adrift)

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監督:ブイ・タク・チュエン
脚本:ファン・ダン・ジー
撮影:リー・タイ・ズン
音楽:ホアン・ゴク・ダイ
出演:ドー・ハイ・イエン(ズエン)、リン・ダン・ファム(カム)、ジョニー・グエン(トー)、グエン・ズイ・コア(ハイ)

ハノイに住む通訳のズエンは、2歳年下のタクシー運転手ハイと出会って3ヶ月でスピード結婚をした。披露宴でハンは酔いつぶれ、ズエンは初夜に1人で眠るはめになる。義母は息子をズエンに盗られた気がして、なにかと世話を焼きたがる。それから何日も、ハイは仕事に疲れて帰っては子どものように眠るだけだった。ズエンは友だちのカムに頼まれて、彼女のボーイフレンドのトーを訪ねていくが、家に着いたとたん、ズエンはトーに襲われてしまう。

現代のハノイが舞台。じっとりとした空気と街の暑さが感じられる作品。出てくる男たちが皆どこかダメです。支える女たちも決して満足しているわけではなく、愛情を求めて漂っています。すれ違う新婚の夫婦、祖父母の秘められた過去、闘鶏に夢中の父としっかり者の娘、危険な男と引き寄せられる女たち・・・それぞれのカップルがハノイの街で息づいていました。繊細な東洋とハイカラな西洋が混ざり合ったような街です。
薬草の蒸し風呂に入るカムとズエン、布越しのシルエットが官能的。母親が自分のために刺繍した花嫁衣裳をズエンに贈ったカム、彼女が愛したのはトーではなく、ズエン?説明が少ない分想像が拡がりました。第66回ヴェネツィア国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞。(白)


新婚のズエンが、友だちの彼であるトーに最初は襲われる形だったのに、だんだん危険な匂いのするトーに惹かれていきます。(白)さんが書いているように、カムとズエンの関係も不思議。まさに漂うがごとく、思うがまま行動していて、ベトナム女性もなかなか凄い!と唸りました。(咲)

2009年/ベトナム/カラー/106分
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)Vietnam Feature Film Studio1,Acrobates Film
http://mapinc.jp/vietnam2films/
★2019年3月23日(土)新宿K'sシネマにてロードショー
posted by shiraishi at 18:15| Comment(0) | ベトナム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ベトナムを懐(おも)う(英題:Hello Vietnam)

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監督:グエン・クアン・ズン
脚本:タイン・ホアン、タイ・ハー、グエン・クワン・ユン
撮影:グエン・チン・ホアン、ジェップ・テー・ビン
美術:ラ・バグズリー、レ・ゴック・クオック・バオ
音楽:ドゥック・チー
出演:ホアイ・リン(トゥー)、チー・タイ(ナム)

1995年のニューヨーク。トゥーはベトナムの農村で生まれ育ち、幼馴染と結婚し、つましく暮らしてきた。妻が亡くなって、アメリカに渡った息子グェンの元にやってくるが、同居は叶わずに老人ホームに入居する。たった一人の孫娘タムはアメリカ生まれで、習慣・価値観の全く違う祖父に懐いてはくれない。妻の命日にホームを抜け出したトゥーは、親友のナムを誘い二人だけで伝統的な供養をする。そして、トゥーを怖がっていたタムの本心を初めて聞くことになった。

ベトナム人家族3世代の故郷への思いを綴った作品。トゥーが思い出すのは、緑深く陽光が降りそそぐ故郷。今は暗い空から雪が舞うニューヨークに住んでいます。この対比に望郷の思いが伝わってきます。トゥーの胸の中にある故郷はいつも美しく輝き、味わったはずの苦労は時間が薄めてくれています。
孫娘のタムにとって、ベトナムは見知らぬ外国に過ぎません。祖父のトゥーがよかれと思って伝える習慣も、押し付けにしか思えず、いやでたまりません。真ん中の世代のグェンが、父と娘タムの間の大きな溝を埋める役割、架け橋にならなければいけないのに、と疑問が浮かびます。グェンには故郷を忘れてしまいたい理由がありました。タムがあまりに頑なに祖父を拒否するのも不思議でしたが、このわけも後でわかります。タムのボーイフレンドがごく普通に接するのが救いでした。
異なる世代の思いが理解されず、すれ違ってしまうのは現代でも起き得ること。まず「何故?」と相手を知ろうとすること、自分の心を開くことですよね。(白)


息子グェンのもとに行った父トゥーはなかなかアメリカの生活に馴染めないのに、母の命日にさえ、グェンは仕事で忙しくて家にいられません。アメリか育ちの孫娘タムからは、家の中で火を使う命日の儀式を拒否されてしまいます。こんな祖父と孫娘のやりとりに、いらっとしてしまいます。
2017年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された折に来日したグエン・クアン・ズン監督が、「間違っているのでなく違うのだと、それぞれの世代に感情移入して観ていただければ」と語っていたのを思い出します。息子グェンは、1975年のベトナム南北統一で、ボートピープルとしてアメリカに渡った人物。物語の最後には、離れなければならなかった故国を思う気持ちがじんわり伝わってきました。(咲)


雪のニューヨークでベトナムを想う家族 ベトナム戦争の影は今も
ボートピープルとしてアメリカに渡ったグエンの思い、アメリカで生まれた娘タムの思い、ベトナムに残ったけどアメリカに呼び寄せられた祖父トゥーの思い、世代や文化のギャップの相容れない状態が最初描かれるけど、そこから彼らがかかえた切ない背景へと迫り、最後はそれぞれが祖国を想う切なさが描かれる。それに感動しました。
本作はベトナムで1990年代から演じられてきた舞台を映画化した作品。劇中で歌われるのは、戦いへ赴いた夫を待つ妻の切なさを歌ったもので、その歌のタイトル「Dạ Cổ Hoài Lang(夜恋夫歌)」がベトナムでの原題だそう。
本作の監督は『超人X』や、韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』のベトナムリメイク『輝ける日々に(「サニー」ベトナム版)』のグエン・クアン・ズン監督。いまやベトナムのヒットメーカーです。これらは大阪アジアン、アジアフォーカス、東京国際映画祭で紹介されました。
それにしてもグエンはベトナムから父トゥーを呼び寄せたのに老人ホームに入れてしまうし、母の命日にもその弔いの催しもしない。一緒に暮らす余裕もないのに親を呼び寄せるということがよくわからなかった。父親にこんな思いをさせるくらいなら、ベトナムにいたほうが幸福だったのではとも思う(暁)。


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グエン・クアン・ズン監督(2018年東京国際映画祭にて)


2017年/ベトナム/カラー/シネスコ/88分
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
(C)HKFilm
http://mapinc.jp/vietnam2films/
★2019年3月23日(土)新宿K'sシネマにてロードショー

◎公開初日にはスペシャルトークイベントが決定しました。
SPゲストに元「アイドリング!!!」の創設メンバーとして活躍し、現在も女優として活動中のベトナム出身の美人女優・フォンチーさんが登壇します。
posted by shiraishi at 17:54| Comment(0) | ベトナム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

蹴る

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監督:中村和彦
プロデューサー:中村和彦、森内康博
撮影:堺斗志文、森内康博、中村和彦
録音:藤口諒太 
整音:鈴木昭彦
出演:永岡真理、東武範、北沢洋平、吉沢祐輔、竹田敦史、三上勇輝、有田正行、飯島洸洋、内橋翠、内海恭平、塩入新也、北澤豪

永岡真理さんはSMA(脊髄性筋萎縮症)で、生まれてから一度も歩いた経験がない。電動車椅子サッカーの存在を知り、横浜のチームに属して国内で華々しい成績を残している。ワールドカップを目標に、日本代表を目指して日々厳しい練習にいそしんでいる。鹿児島に住む東武範さんは筋ジストロフィーで呼吸器が離せないが、サッカーにかける情熱は人一倍。ふたりを中心に、電動車椅子サッカーを命の糧としている選手たちに密着する。

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永岡真理さんと北澤豪 日本障がい者サッカー連盟会長

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東武範さん

この作品を観て初めて電動車椅子サッカーのことを知りました。こんなに激しいスポーツをやって大丈夫なの?!と驚き、心配してしまいましたが、選手達がみな生き生きと楽しそうで、ものすごく闘争心があるのがわかりました。障がいのため身体の動きが不自由でも、心は縛られることなく自由なのです。
彼らに惚れ込み、6年間寄り添った中村和彦監督はプライベートな生活まで撮影しています。サポートするドクターや周りの人たちの姿も映し込んで、たくさんのことを知らせてくださいました。
中村監督にお話を伺いました。記事はこちらです。(白)


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北澤豪氏、永岡真理さん、中村和彦監督
2018年東京国際映画祭レッドカーペット(撮影:宮崎暁美)

2018年/日本/カラー/シネスコ/118分
配給:「蹴る」製作委員会、ヨコハマ・フットボール映画祭
(c)「蹴る」製作委員会
https://keru.pictures/
★2019年3月23日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開/日本語字幕付き、音声ガイド付き上映ありロードショー
posted by shiraishi at 11:49| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

新宿タイガー

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監督・撮影・編集:佐藤慶紀
企画:小林良二 
プロデューサー:塩月隆史
撮影:喜多村朋充 
写真:須藤明子 
音楽:LANTAN
出演:新宿タイガー、八嶋智人、渋川清彦、睡蓮みどり、井口昇、久保新二、石川ゆうや、里見瑤子、宮下今日子、外波山文明、速水今日子、しのはら実加、田代葉子、大上こうじほか
ナレーション:寺島しのぶ

新宿に“新宿タイガー”と呼ばれる年配の男性がいる。彼はいつも虎のお面を被り、ド派手な格好をして、毎日新宿を歩いている。彼は24歳だった1972年に、死ぬまでこの格好でタイガーとして生きることを決意した。何が彼をそう決意させたのか? 新聞販売店や1998年のオープン時と2012年のリニューアル時のポスターに新宿タイガーを起用したTOWER RECORDS新宿店の関係者、ゴールデン街の店主たちなど、様々な人へのインタビューを通じ、虎のお面の裏に隠された彼の意図と、一つのことを貫き通すことの素晴らしさ、そして新宿の街が担ってきた重要な役割に迫る。

新宿タイガーのことは、新宿で何度か見かけたことがある。派手な格好で自転車で疾走する姿に実はちょっと恐怖を感じていた。関わらないようにしなきゃと思った記憶がある。この作品で映し出される新宿タイガーは映画、美人、お酒をこよなく愛し、いつもニコニコしていて、相手の懐にするっと入ってしまう。これまでの私の印象はまったくの誤解だったと知った。また、新宿タイガー本人だけでなく、ゴールデン街の歴史やそこに集う人々の思いも伝わってくる。人を見た目だけで判断してはいけないと改めて思う。(堀)

2019年/日本/カラー/83分
配給:渋谷プロダクション
(C) 2019「新宿タイガー」の映画を作る会. All Rights Reserved.
公式サイト:http://shinjuku-tiger.com/
★2019年3月22日(金)からテアトル新宿にてレイトショー
posted by ほりきみき at 02:49| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ぼくの好きな先生 

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監督:前田哲
撮影:前田哲
録音:加藤大和
効果:小島彩、斎藤優希
編集:千葉愛美
音楽:スタジオアトウ
主題歌:RCサクセション
出演:瀬島匠

画家 瀬島匠は、山形にある東北芸術工科大学で学生を指導しつつ、日本中を駆け巡って創作活動を続け、眠っている時間以外はつねに何かを作り、ラジコンを飛ばし、絶え間なく言葉を発し、30年間〝RUNNER〟という同じタイトルで絵を描き続けている。睡眠時間は極端に短く、10代の頃に35歳で死ぬと思い込み、逆算して人生を過ごしてきたが、50歳を過ぎた現在も生き続け、もう余生だと言いつつ、あり余るエネルギーを撒き散らしながら「全力で今を生きて」いる。 周りからは、自由奔放に人生を謳歌している「破天荒で幸せな人」と見られている。しかし、光あるところには影があるように、撮影を進めていく中で、生まれ故郷の広島県尾道市因島での「ある宿命」を背負って生き続けていることが明かされる。 そこには、秘められた「家族の物語」があった。映画監督 前田哲が、全身アーティスト 瀬島匠に出会い、自らカメラを手に衝動的に撮影。 一年余りの時間を費やして完成させた、観る者の心を激しく揺さぶる、熱き人間ドキュメントである。

RCサクセションの「ぼくの好きな先生」が主題歌として使われ、瀬島は「担任の先生が、毎日、飛行機か船を作ることを宿題の代わりにしてくれた」と小学校1年生のときを振り返る。瀬島にとって、このときの経験が今の活動のベースになっているのだろう。とにかくパワフルに作りたいものを作り、したいことをする。瀬島や瀬島のダイナミックな作品からエネルギーあふれる生きる力が伝わってきた。
そんな瀬島にも実は悲しい過去があり、それをずっと背負ってきたことが作品の後半に明らかになってくる。今となってはもう分からない答えを作品に求め続けてきたのかもしれない。(堀)



観る前は、昔出会った懐かしい先生を訪ねていくお話か?と勝手に想像していました。そうではなくて、前田監督が映画の先生として大学に行ったときに、絵の先生としていらしたのがこの瀬島先生。そういえば先生同士って「○○先生」って呼んでいましたっけ。
瀬島先生はパワフルで、なんでもさささっと始めては仕上げ てしまいます。このままどこに行って何をするの?と見続けていたら、土俵際でうっちゃりをかけられた感じ。人には知られざる歴史ありってことかなぁ。前田監督撮り始めは知らなかったんですよね?(白)


2018/日本/日本語/85分/カラー/HD 16:9/Stereo/DCP
配給:アラキ・アートオフィス
©2019. Tetsu Maeda
公式サイト:https://www.sukinasensei.com/
★2019年3月23 日(土)より新宿ケイズシネマにて劇場公開

posted by ほりきみき at 02:38| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

美人が婚活してみたら

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監督:大九明子
脚本:じろう(シソンヌ)
原作:とあるアラ子『美人が婚活してみたら』(小学館クリエイティブ)
出演:黒川芽以、臼田あさ美、中村倫也、田中圭

タカコ(黒川芽以)は道行く誰もが振り返る美女。WEBデザイナーという仕事にも恵まれ、愚痴を聞いてくれるケイコ(臼田あさ美)という親友もいる。しかし、長くつきあってから相手が結婚していることが発覚するという恋愛が3回も続き、気づけば32歳になっていた。不毛な恋愛に疲れ果てたタカコは結婚を決意し、婚活サイトに登録する。マッチングサイトで出会った本気で婚活に励む非モテ系の園木(中村倫也)とデートを重ねながら、シングルズバーで知り合った結婚願望のないバツイチ・イケメン歯科医の矢田部(田中圭)に惹かれていく。自身の結婚生活に悩んでいたケイコは、タカコが結婚後についてまったく考えていないことに苛立ち始め、2人はとうとう本音を激しくぶつけあう大げんかをしてしまう。

友人の婚活奮闘記を綴った同名エッセイコミックを原作に、『勝手にふるえてろ』の大九明子監督がメガホンをとった。タカコとケイコの女子トークは遠慮がなく、本音炸裂で気持ちがいい。お笑いコンビ「シソンヌ」のじろうが書いた脚本に、女性が罵詈雑言を吐くセリフを大九監督が加えた。言葉選びがうまい。こんな本音話のできる友人がいていいなぁと羨ましくなってしまう。
また、大九監督は劇伴や音でその場の雰囲気を的確に表現する。その音楽センスも素晴らしい。主題歌は前作と同じように主演女優(今回は黒川芽以)歌う。大九監督が歌詞を書き、高野正樹がメロディーをつけたオリジナル曲「手のうた」はオリジナルのラストにぴったり。黒川芽以の歌声が心に沁みてくる。人生っていろいろあるよね。うまくいかなくってもいいじゃない。この歌を歌いながら歩いていこう。(堀)


2019年/日本/カラー/89分
配給:KATSU-do
© 2018吉本興行
公式サイト:http://bijikon.official-movie.com/
★2019年3月23日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

posted by ほりきみき at 02:17| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

こどもしょくどう 

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監督:日向寺太郎 
脚本:足立紳、山口智之 
撮影:鈴木達夫 
照明:三上日出志 
美術:丸山裕司 
録音:橋本泰夫 
編集:川島章正 
音楽:Castle in the Air(谷川公子+渡辺香津美) 
主題歌:「こどもしょくどう」作詞/俵万智 作曲/谷川公子 編曲・演奏/Castle in the Air 唄/古川凛、田中千空 
出演:藤本哉汰、鈴木梨央、浅川蓮、古川凛、田中千空/降谷建志、石田ひかり/常盤貴子、吉岡秀隆

小学5年生の高野ユウト(藤本哉汰)は、食堂を営む両親と妹と健やかな日々を過ごしていた。一方、ユウトの幼馴染のタカシの家は、育児放棄の母子家庭で、ユウトの両親はそんなタカシを心配し頻繁に夕食を振舞っていた。
ある日、ユウトとタカシは河原で父親と車中生活をしている姉妹に出会った。ユウトは彼女たちに哀れみの気持ちを抱き、タカシは仲間意識と少しの優越感を抱いた。あまりに“かわいそう”な姉妹の姿を見かねたユウトは、怪訝な顔をする両親に2人にも食事を出してほしいとお願いをする。久しぶりの温かいご飯に妹のヒカルは素直に喜ぶが、姉のミチル(鈴木梨央)はどことなく他人を拒絶しているように見えた。
数日後、姉妹の父親が2人を置いて失踪し、ミチルたちは行き場をなくしてしまう。これまで面倒なことを避けて事なかれ主義だったユウトは、姉妹たちと意外な行動に出始める。

ここ数年、頻繁に「子ども食堂」という言葉を耳にするようになった。1人で食事したり、家庭の事情で食べられなかったりする子どもに、地域の大人が無料または低額で食事を提供する取り組みだという。そして、厚生労働省発表の「子供の相対的貧困率」によれば、6人に1人の子どもが貧困状態にあるという。これは40人学級だったらクラスの6~7人は貧困ということ。驚きである。
ただ、普段、聞くニュースなどは提供する側の視点で語ることが多い。この作品は子どもの視点で貧困問題に向き合っている。親から見放されても、誰に媚びることなく、辛い境遇から幼い妹と守り、矜持を持って生きようとするミチルを演じるのは鈴木梨央。テレビドラマ「明日、ママがいない」でもそうだったが、不幸な境遇に負けることなく、キッとにらんで生きていく役どころをやらせたら本当にうまい。この作品でもいちばん印象に残った。(堀)


2018年/日本/カラー/93分
配給:パル企画
(C)2018「こどもしょくどう」製作委員会
公式サイト:https://kodomoshokudo.pal-ep.com
★2019年3月23日(土)ロードショー

『こどもしょくどう』初日舞台挨拶レポート
3月23日(土)に岩波ホールで『こどもしょくどう』初日舞台挨拶が行われ、藤本哉汰、鈴木梨央、常盤貴子、吉岡秀隆 が登壇した。
以下はオフィシャルリリースから転載。 (提供:パル企画)

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満員の客席に上映後の感動の涙が溢れる中、舞台挨拶は、「映画館で育った人間なので映画館に来てくれて嬉しい」と日向寺監督(53)の観客への感謝の言葉から始まった。
W主演のユウト役を演じた藤本哉汰(15)は初めての主演を振り返り「色んなことを学ばさせていただきました」
同じくW主演で初の主役である・ミチルを演じた鈴木梨央(14)は満席の観客席を見渡して「多くの方にこの映画を見て頂けてうれしいです」と挨拶。
大山タカシ役・浅川蓮(14)、木下ヒカル役・古川凛(8)、高野ミサ役・田中千空(9)と挨拶が続き、ユウトの母親役を務めた常盤貴子(46)は、衣装の靴を忘れてしまったことを明かし場内を沸かせる。「この映画にこんなにたくさんの人たちが来てくれるなんて」と喜んだ。
ユウトの父親役を演じた吉岡秀隆(48)が「今日は寒いけど、この会場はとってもあたたかい。
心温まる何かを感じ取ってもらえたんだろうな」と語った。感想として観客から割れんばかりの拍手を頂き、シンプルに「うれしいです」と、日向寺監督。
続いて、日向寺監督が企画意図について「子ども食堂が最初からあるものではなく、できるまでの物語にしようと思った。企画がスタートしたのは2015年で、子ども食堂は今ほど知られていなかった」と語る。
監督の演出について藤本は「テストがなくすぐ本番という感じが多く、自然な感じで演じることができました」、鈴木は「自分が思うままに、自然と自分が出た感情で演じてほしいというアドバイスを頂きました」と語った。成長期真っ最中である浅川の急に伸びた身長や、俵万智が歌詞を担当した主題歌を歌う古川と田中の自由でカワイイふるまいに自然と笑顔になる登壇者たちと観客たち。
幼い頃からキャリアをスタートさせてきた藤本・鈴木だが、初めての主演には緊張もあったようで、鈴木は「最初、クランクインしたときは、少しだけピリピリしたかな」と。
藤本「ベテランさんに引っ張ってもらえました。はっきりと優しく教えてくれました」と、一生懸命だった撮影を思い出し合った。
吉岡は二人と同じく子役から活動した自身を振り返りながら、藤本と鈴木を素晴らしいと絶賛。「彼らの見つめる目線の先に、大人たちが作ったこういう時代があるとしたならば、子供は親だけが育てるものではなくて、大人全員で育てないといけない」と投げかけた。
常盤は、日向寺監督作『爆心・長崎の空』を見るために京都まで行ったという監督との最初の出会いに触れながら、出演の決め手を「現代社会が抱えている大きな問題を捉えていて、意義のある映画だと思う」と語り、自身が少女時代を過ごした関西で感じた、踏み込む精神の大切さ、「静観しているよりはまずは入っていってみるのもいいんじゃないかな。おせっかい心が、日本をより明るくするんじゃないかな」と問いかけた。
吉岡は「次の世代、子どもたちの笑顔が今よりも溢れる時代になれば、大人たちの心の余裕が生まれ、弱者と言われている存在にも目を向けられるのではないか、この映画と同じように次にくる時代は少しでもいい時代になればいいなと祈るような気持ちでいます」と訴えた。最後の挨拶として藤本は「この映画はとても考えさせられる映画です。見て見ぬふりをせず、勇気を持って関わってほしいと思います。いろいろな人に広めてほしいなと思います」と、鈴木は「みなさんがこの映画を見た後、みんなで話したり、考えたり、行動にうつしてほしいなと思います。子ども食堂で検索すると、子ども食堂ネットワークというサイトがあって、そこでどこの食堂で何が必要なのかと分かるので、みなさんが子供たちのために何か力になって頂けたら嬉しいです」と真っ直ぐな瞳で語りかけ、日向寺監督は「子ども食堂という新しくゆるやかな共同体ができたことがとても素晴らしいこと。映画を見て下さった皆さんともこの気持ちを共有できてうれしい」と締めくくった。
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2019年03月16日

ビリーブ 未来への大逆転 (原題:On the Basis of Sex) 

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監督:ミミ・レダー
撮影:マイケル・グレイディ
音楽:マイケル・ダナ
主題歌:KESHA「Here Comes The Change」
出演:フェリシティ・ジョーンズ、アーミー・ハマー、キャシー・ベイツ

貧しいユダヤ人家庭に生まれたルース・ギンズバーグ(フェリシティ・ジョーンズ)は、「すべてに疑問を持て」という亡き母の言葉を胸に努力を重ね、名門ハーバード法科大学院に入学する。1956年当時、500人の生徒のうち女性は9人。学生結婚をし、家事も育児も夫のマーティン(アーミー・ハマー)と分担していたが、そのマーティンがガンで倒れる。ルースは家事と育児、自分の学業だけでなく、夫の授業を代わりに受けて夫の闘病を支えた。大変な日々だったが、弱音を吐かずに首席で卒業する。ところが、女を理由に雇ってくれる法律事務所はなかった。やむなく大学教授になったルースは、70年代になってさらに男女平等の講義に力を入れる。それでも弁護士の夢を捨てられないルースに、マーティンがある訴訟の記録を見せた。ルースはその弁護を引き受ける。やがて、その訴訟は歴史を大きく変える裁判になっていった。


作品冒頭、ハーバード法科大学院での講義で教授が「判例は天気では変わらないが、時代では変わる」と学生たちに話す。この作品を一言で表した言葉だろう。ハーバード法科大学院が女性にもやっと門戸が開かられるようになったが、ルースが入学した1956年では1学年500人中、女子はわずか9人。ルースの孫の世代には半分は女子だそうだ。(これはルースのドキュメンタリー映画『RBG(原題)』で孫がルースに語っていた)この時代の変化を大きく牽引したのがルース・ギンズバーグ。彼女の法律家としてのスタートを描いた作品である。
学部長は女子学生だけを招いた歓迎会で、男子の席を奪ってまで入学した理由を問う。そのときの機転が効いた答えにこの先のルースの奮闘ぶりを予感させる。夫がガンを発病したときには、夫の分の講義もすべて出席して、ノートにまとめるなど、普通はとてもできない。しかし、そのがんばりは自分の法律家としての糧にもなったはず。そんなルースも家事は得意ではなかったようだ。少なくとも料理に関しては夫の方が上手だったことが作品からうかがえる。完璧すぎない部分も描くことで、85歳の今なお、米最高裁判所判事として現役で活躍するルースも普通の人だとぐっと身近に感じるだろう。(堀)


私は70年代~80年代に日本の女性解放運動に参加していたのですが、ルース・ギンズバーグさんのことは知らず、この作品で初めて知りました。
もっとも、運動に積極的に参加していたわけではなかったというのはありますが。でも、このときに知り合った人たちとは今も交流があります。1975年頃知り合ったので、もう40年以上もたちますが、年に1回くらい会って近況報告をし合います。というような私の背景があり、この作品はその当時のことを思い出させてくれました。男らしく、女らしくの押し付けからの解放は、その当時、目からうろこでした。
またグロリア・スタイナムという名前が出てきてなつかしく思いました。彼女は、あの頃のリブ運動のシンボル的な人でした。たぶん私はルースさんの娘さんと同じくらいの世代ですね。でも「妻が自分の名前でクレジットカードを作れなかった」という宣伝文句にはびっくりしました。1970~80年代にはクレジットカードがあったのかどうかさえも知りませんでした。私がクレジットカードを作ったのは2010年以降でしたから。
あの作品の中で「アメリカの憲法には女性の権利とか自由とかいう言葉自体がなく、女性は忘れられていた存在」というセリフを聞いて、戦後、日本国憲法に「両性の平等」という言葉が入れられた時のいきさつを思い出しました。
アメリカにはない男女平等条項が書かれた憲法24条が日本にはあります。
戦後、日本国憲法が作られた時、この草案を作るのに尽力したベアテ・シロタ・ゴードンさんのことを描いた『ベアテの贈りもの』(2004)というドキュメンタリーの中にそのことが描かれています。長く日本に暮らしていたベアテさんは、日本の女性の置かれた状態をよく知っていて、草案を作るときに「結婚の自由と両性の平等」という言葉を入れようと努力したそうです。
その時(2005年)、シネマジャーナルではベアテさんにインタビューすることができたのですが、彼女は下記のように言っています。

「その時私は、憲法の起草者としてでなく通訳として参加しました。私自身が、日本に住んでいたこともあり翻訳も早く、日本政府側に好印象も受けていたこともあったので、アメリカ側の委員長のケーディス大佐はその場の空気をうまく読み取りました。彼はそれを使って、私が平等条項を書いたとは言わず、日本側にベアテ・シロタさんは女性の権利が通ることを心から望んでいますといって、すんなり通してしまいました。そうして今日に至っています。アメリカの憲法は、女性の権利について明記されていません。それを考えると、女性の権利が明記された素晴らしい憲法ができたと思いました」と語っています。

シネマジャーナルHP 『ベアテの贈りもの』インタビュー


それにも関わらず、日本の女性の男女平等意識は逆行しているようにも感じるこの頃です。夫のため、家族のためと、自分のやりたいことは我慢して控えめに生きている女性を見たり、あるいは発言を聞くたび、「もっと自分のために生きていいんだよ」とハッパをかけたくなる自分がいます(暁)。


ルース・ベイダー・ギンズバーグについての作品が今年2本公開されるのは、女性が発信する「シネマジャーナル」としても興味深い。オスカー長編ドキュメンタリー候補になった『RBG最強の85才』のルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)その人の現在と、本作のフェリシティ・ジョーンズではルックの違いを感じるかもしれないが、RBGが20代の頃の写真を見ると、全身から漲る力強さ、理性的な眼差しは劇中のフェリシティ・ジョーンズとよく似ている。
 
その力の込めようは、女流監督として先陣を疾走してきたミミ・レダーとて同じである。これまでの娯楽作とは異なるメリハリのある演出、細かな家族の情愛、’60〜’70年代の米国に於いて顕著だった性差別に纏わる様々な逸話をRBGの体験を通して丁寧な描出が際立つ。
 
特筆すべきは法律の事務手続きについて難解な用語が続出することを恐れず描いている点だろう。卑近な例で恐縮だが、法律を生業とする者にとっては、煩雑な手続きというのはどうしても避けられない事柄なのだ。省略した娯楽話法で演出することも可能だったはずなのに、観客を置き去りにしない絶妙なバランスを測りながら物語は進捗して行く。
 
観客の集中が途切れず、鑑賞後感が爽やかなのは、最後に用意されている大きなカタルシスのおかげだろう。その爽快感は一昨年公開された、NASAの宇宙開発を支えた黒人系女性たちにフォーカスした『ドリーム』と共通したものがある。
時代背景も近い2作のもう一つの見どころはファッション!スーツに鎧を纏いながら、フェミニンさを表現したヘアスタイルやメイクにも注目されたい。(幸)


2018年/アメリカ/カラー/120分
配給:ギャガ
(C) 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/believe/
★2019年3月22日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

posted by ほりきみき at 02:51| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Bの戦場

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監督:並木道子
原作:ゆきた志旗「Bの戦場」(集英社オレンジ文庫刊)
撮影:大野勝之
照明:桑原伸也
主題歌:「恋する私は美しい」平林純(フジパシフィックミュージック)
挿入歌:「きっと」ソンジェ from 超新星(YM3D/よしもとミュージックエンタテインメント)
出演:よしこ(ガンバレルーヤ)、大野拓朗、高橋ユウ、有村藍里、おのののか、山田真歩、安藤玉恵/速水もこみち

誰もが認める「絶世のブス」であるため、自らの結婚を諦め、ウェディングプランナーとして働く香澄(ガンバレルーヤよしこ)は、イケメン上司・久世(速水もこみち)から突然プロポーズされる。
しかし久世は、自称“意識の高いB専”で香澄のことを「ドブス」と好意を持って言い放つ。断じて事態を受け入れられない香澄は、久世を無視し仕事に没頭するが、トラブル勃発。
おまけに一緒に結婚式を彩るフラワーコーディネーター・武内(大野拓朗)にも好意をよせられてしまう…。


美しさの基準は人それぞれ。他の人が美しいと思わなくても、誰かにとっては美しいということもある。しかし、この作品に出てくる久世は美の基準が人と違うのではなく、ブス(=美しくない)だから好きだという。失礼な奴だ。しかし、速水もこみちが躊躇うことなく言い放つと妙な説得感がある。抜群の配役だったといえよう。また、そんな久世に対して怒ることなく、またおもねることなく、ただまっすぐに自分の仕事に励む香澄は見ていて清々しい。ガンバレルーヤよしこがまるで自分のことのように素直に演じていた。香澄も、ガンバレルーヤよしこも応援したくなる。
ちょっとかわったラブコメであるが、この作品の良さはそれだけではない。香澄の仕事に対する姿勢に感動して、涙が止まらない。仕事とはどう取り組むべきか、更に、人としてどうあるべきかも描いた素晴らしいお仕事ムービーにもなっている。(堀)


2018年/日本/カラー/90分
配給:KATSU-do
©ゆきた志旗/集英社 ©吉本興業
★2019年3月15日(金)全国ロードショー


posted by ほりきみき at 02:07| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月10日

ソローキンの見た桜

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監督・脚本・編集:井上雅貴
出演: 阿部純子、ロデオン・ガリュチェンコ、山本陽子、アレキサンドル・ドモガロフ、六平直政、杉作J太郎、斉藤工、イッセー尾形

日露戦争の時代、松山の捕虜収容所で花開いた国を越えた一つの恋

それから110年経った2018年。駆け出しのTVディレクターの桜子(阿部純子)は、先輩の倉田史郎(斎藤工)と共に、日露戦争時代のロシア兵に関する取材でロシアに行くことになる。テーマに関心を持てないでいたが、祖母菊枝(山本陽子)から自分のルーツがロシア兵にあると聞かされ、俄然興味を持つ。手がかりはロシアから届いた謎の手紙と、ソローキン(ロデオン・ガリュチェンコ)と、ゆい(阿部純子・二役)の日記。

兄の健二を日露戦争で亡くしたゆいは、ロシアを許せない思いを抱えながら、捕虜となったロシア兵の看護をしていた。献身的に看護するゆいの心の痛みを知ったソローキンは優しく彼女に接し、お互い心を惹かれあうようになる。やがて、ロシア革命に身を投じる為、ソローキンは脱走を計画。ゆいも連れて行こうとするが・・・

第1回日本放送文化大賞ラジオ部門でグランプリに輝いたラジオドラマ「松山ロシア人捕虜収容所外伝 ソローキンの見た桜」の実写映画化。
プロデューサーは、初めて手がけた映画『風の絨毯』(2003年)でイランとの合作を果たした益田祐美子さん。今回も、ロシアとの合作で壮大なロシアロケを敢行しています。

日露戦争時代、多くのロシア兵捕虜収容所が存在しましたが、初めて設置されたのが、愛媛県松山市。捕虜は「博愛ノ心ヲ以て」取り扱うべしとされ、食糧にも当時の日本の将兵を上回る経費をかけ、将校クラスを中心に「自由外出」が認められ、道後温泉で集団入浴をしたり、遊廓にいったり、芝居見物(内子座でロケしています)したりという、かなり自由な捕虜生活だったそうです。そんな様子も映画から垣間見られます。
このような捕虜収容所だからこそ、ゆいとソローキンとの恋も生まれたのでしょう。

数ヶ月前に、渋谷の文化村でたまたま第一次世界大戦中の「坂東俘虜収容所の世界展」を観たのですが、そこでも収容所でドイツ兵捕虜たちが誇りを持って楽しく生活できるよう配慮していた様子を知り、日本の武士道精神を感じて嬉しく思ったものです。

ただ一つ気になったのは、ゆいとソローキンが流暢な英語で会話していたことです。映画だからとはいえ、流暢すぎる! ソローキンはロシア人だし、もう少し、たどたどしい英語のほうが、より真実味があったかなと思いました。(咲)

日露戦争で捕虜となったロシア人将校と日本人看護婦の悲恋を描く。知的で、ちょっと影があり、女性の扱いに慣れた西洋人に惹かれるのは仕方のないこと。阿部純子の真っすぐな眼差しから、その思いが溢れ出る。愛ゆえの判断と行動に主人公の強さを感じずにはいられない。実話とのことだが、どこまでが実話なのか、知りたくなる。(堀)

*舞台挨拶*
【角川シネマ有楽町】
■3.23(土)
(1)10:30の回上映後
(2)13:30の回上映前
登壇者(予定)
#阿部純子/#ロデオンガリュチェンコ
#アレクサンドルドモガロフ/#斎藤工/#イッセー尾形
井上雅貴監督/井上イリーナプロデューサー
==========
■3.23(土)
16:15の回上映前
登壇者(予定)
#ロデオンガリュチェンコ/#山本修夢/#海老瀬はな
#イワングロモフ/#アンドレイデメンチェフ
井上雅貴監督/井上イリーナP
==========
■3.25(月)
18:00の回上映後
登壇者(予定)
#ロデオンガリュチェンコ
井上雅貴監督/井上イリーナプロデューサー

【ミッドランドスクエアシネマ】
■3.24(日)9:00の回上映後
登壇者
#ロデオンガリュチェンコ
井上イリーナプロデューサー/益田祐美子プロデューサー

【MOVIX京都】
■3.24(日)11:30の回上映後
登壇者
#ロデオンガリュチェンコ
井上イリーナプロデューサー/益田祐美子プロデューサー


2019年/日本/112分/DCP
配給:KADOKAWA、平成プロジェクト
公式サイト:https://sorokin-movie.com/
★2019年3月22日(金)角川シネマ有楽町ほか全国公開
☆2019年3月16日(土)愛媛県先行公開






posted by sakiko at 20:54| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

セメントの記憶   英題:Taste of Cement

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監督・脚本:ジアード・クルスーム 
撮影監督:タラール・クーリ 
音楽:アンツガー・フレーリッヒ

かつて中東のパリといわれたレバノンの首都ベイルート。
海辺に建設中の新しいビル。隣りには廃墟になったビル。1975年から15年続いた内戦が1990年に終わり、町が再建されてきた。
一人のシリアから来ている若い労働者。初めて海を知ったのは、ベイルートからの出稼ぎから帰ってきた父のお土産の絵。白い砂浜、青い海、そして2本のヤシの木。今は自分がその海を目の前にしている。が、シリアの労働者たちが海を楽しむことはない。建設中の高層ビルの地下は大きな宿泊所になっていて、夜7時以降、シリア人は外出禁止だ。
地下と繋がったエレベーターを行き来するだけの日々だ・・・

レバノンの再建を支えてきたシリア人労働者は、100万人にものぼるという。そして、そのシリアは今、内戦で町が破壊され続けている。人々の心の傷はあまりに深く、破壊し尽された町の再建に手がつけられるのはいつのことになるのだろうと暗澹たる思いだ。
映画の最後、ミキサー車の中で、再建された美しいベイルートの町がぐるぐる回る。
再建を下支えしているシリアの人たちの思いもぐるぐる回る。(咲)


◆【ジアード・クルスーム監督来日イベント
3.21(木・祝)にクルスーム監督の前作『The Immortal Sergeant/不死身の軍曹』の上映&トークイベントが筑波大学東京キャンパスで開催されます。


★初日舞台挨拶★
渋谷ユーロスペースにて 3月23日(土)12:30~ 及び 14:30~の回上映後、ジアード・クルスーム監督舞台挨拶。

1回目終了後、1階のカフェ Cafe9 テラススペースで監督との交流会が開かれます。1ドリンクオーダー。


2018年/ドイツ・レバノン・シリア・カタール・アラブ首長国連邦/アラビア語/88分
日本語字幕:吉川美奈子
配給:サニーフィルム
★2019年3月23日(土)より東京・ユーロスペースほか全国で公開







posted by sakiko at 20:51| Comment(0) | 中東 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ふたりの女王 メアリーとエリザベス(原題:Mary Queen of Scots)

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監督:ジョージー・ルーク
脚本:ボー・ウィリモン
撮影:ジョン・マシソン
美術ジェームズ・メリフィールド
衣装アレクサンドラ・バーン
音楽:マックス・リヒター
出演:シアーシャ・ローナン(メアリー・スチュアート)、マーゴット・ロビー(エリザベス1世)、ジャック・ロウデン(ヘンリー・スチュアート/ダーンリー卿)、ジョー・アルウィン(ロバート・ダドリー/レスター伯爵)、デビッド・テナント(ジョン・ノックス)

スコットランド王ジェームス5世の娘として生まれたメアリー・スチュアートは、生後6日目に父が亡くなったため王位を継ぐ。幼少のうちに渡仏、16歳でフランス王妃となったのも束の間、夫フランソワ2世が崩御。18歳で故郷スコットランドに戻る。イングランドではエリザベス1世が統治していたが、未婚で王位継承者はいなかった。エリザベスは自分と同じく王位継承権を持つメアリーに複雑な思いをいだいていた。
メアリーは同じスチュアート家のダーンリー卿と結婚し、ジェームズを出産する。

ケイト・ブランシェット主演の『エリザベス ゴールデンエイジ』(2007年)のプロデューサーのティム・ビーバン、エリック・フェルナーがエリザベスと王位継承を争ったメアリーにスポットを当てた作品。シアーシャ・ローナンはメアリ役に早くからすえられ、ジョージー・ルークが監督に決まって自らマーゴット・ロビーにオファーしたのだそうです。
演劇界では女性初の芸術監督だったルーク監督が、初監督作で二人のアカデミー賞ノミネート女優と二人の女王の映画を作りました。衣裳のアレクサンドラ・バーン、ヘア&メイクのジェニー・シャーコアも本作でアカデミー賞にノミネートされました。実力ある女性ばかり!
同じころの日本は安土桃山時代。男達が覇を競っていました。エリザベス一世(1533-1603)、メアリー・スチュアート(1542-1587)と、織田信長(1534-1582)、豊臣秀吉(1537-1598)、徳川家康(1543-1616)が同じ時代を生きていました。女性は政略結婚の駒か、世継ぎを産むためで、表舞台に立つことはなかったでしょう。この違い。(白)


自ら立ち回って国を治めようとした「動」のメアリー。どっしり構えて大局を見極める「静」のエリザベス。利発で大胆なメアリーの、情も捨てきれない繊細さをシアーシャ・ローナンが微妙な表情で演じている。一方で、まばたきしていないのでは、と思ってしまうくらい先をじっと見据えているような瞳の奥にマーゴット・ロビーがエリザベスの深い孤独をたたえていた。相反する人生を送ることになった2人だが、実はいちばん理解し合える存在だったはず。状況が違っていたらと考えずにいられない。(堀)

2018年/イギリス/カラー/シネスコ/124分
配給:ビターズ・エンド
(C)2018 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
http://www.2queens.jp/
★2019年3月15日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 00:34| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月09日

まく子

makuko.jpg

監督・脚本:鶴岡慧子 
原作:西加奈子 
撮影:下川龍一 
音楽:中野弘基 
出演:山崎光(南雲慧)、新音(コズエ)、須藤理彩(南雲明美)、草なぎ剛(南雲光一)、つみきみほ(コズエのオカアサン)、村上純(ドノ)、橋本淳(小菅)、内川蓮生(類)、根岸季衣(キミエおばちゃん)、小倉久寛(校長) 


5年生のサトシの家は温泉街の旅館。女将の母ちゃんはしっかり者で働き者なのに、料理長の父ちゃんは女好きで、浮気をしているのを町中が知っている。サトシは父ちゃんが嫌いだ。あんな大人になりたくない。旅館に新しい仲居さんが子ども連れで入り、サトシのクラスに転入してきた。コズエはこれまで出会ったことがない不思議な女の子だった。サトシについて歩いて、何でも撒き散らす。おまけに「ある星から来た」と耳打ちされて、サトシはあっけにとられてしまう。


サトシは身体が変わりはじめる年ごろ。女子は毎日大人に近づいているみたいで、なんだか遠くなった気がしています。自分や子どものことを考えても、女の子のほうが早く大人になりますね。そばに尊敬する大人がいると目標ができていいけれど、そうはうまくいきません。身近な大人の男が、浮気性の父ちゃんと、働かずいつまでも子どものようなドノで、サトシはげんなりしています。
けれども全く違う感覚を持つコズエに出会ったことで、サトシの世界はひろがっていきます。
異邦人のコズエとオカアサンが、お祭りで何度も呼び合うシーンが胸に残りました。ドノが大切に口にする一言が深いところへしみていきます。村上純さん、いい台詞もらいましたね!草なぎ剛さん妙にエロい父ちゃんでした。原作を読んでいても楽しみを損なうことはありません。(白)

少年は大人の体への変化に戸惑う。原因は浮気性な父親。しかし、そんな不安を父親が受け止める。これは女親にはできない。父と息子が2人で並び立ち、会話する様子に少年の成長を感じた。少年のラストの行動はその表れだろう。父親を演じたのは草なぎ剛。女にだらしない崩れた緩い色気を放ち、これまでのイメージを覆す。今後はリリー・フランキー路線でいけるかもしれない。(堀)


2019年/日本/カラー/ビスタ/108分
配給:日活 
(C)2019「まく子」製作委員会/西加奈子(福音館書店)

★2019年3月15日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 23:56| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

探偵なふたり:リターンズ(原題:The Accidental Detective 2: In Action)

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監督:イ・オンヒ
撮影:キ・セフン
編集:シン・ミンギョン
音楽:タル・パラン
出演:クォン・サンウ、ソン・ドンイル、イ・グァンス

未解決事件を解決する推理コンビ、シャーロック・ホームズのオタクで漫画喫茶のカン・デマン(クォン・サンウ)と、広域捜査隊のレジェンドと呼ばれた刑事ノ・テス(ソン・ドンイル)はついに韓国最初の探偵事務所をオープンし、探偵としての第一歩を踏み出す。しかし、現実は甘くなく、なかなか依頼主も現れない。生活費まで圧迫されるようになり、密かに警察署で営業をかける。
ついに待ちに待った最初の依頼人が現れ、成功報酬は5千万ウォン。自信満々に仕事を引き受け、元サイバー捜査隊のエース ヨチ(イ・グァンス)も仲間に引き入れるが、事件を暴こうとすればするほど連鎖的な不審証拠に混乱するのだった…

シャーロック・ホームズ並みの推理力と洞察力を持つデマン。広域捜査隊の人喰いザメと呼ばれるほど正義感が強すぎて警察内で疎まれるテス。反りが合わない2人が手を組んで難事件を解決した前作。今回はなんと2人が探偵事務所を開業させるところからスタートする。大丈夫なのかと心配しながら見ていると、案の定、依頼者が来ない。恐妻家という唯一の共通点を持つ2人は背に腹は代えられぬと古巣の警察にまで営業に行く。スマートさに欠ける展開がむしろ、この作品の魅力である。デマンは抜群の推理力を持ちながら、いざというときは意気地のないヘタレぶりを見せる。また、家計を顧みない(あくまでも、家計。家庭ではないところがポイント)ために、妻から育児を押し付けられ、赤ちゃん同伴で捜査に行き、現地でおむつも替える。このギャップが笑えた。クォン・サンウはいい役に巡り合えたといえるだろう。ぜひともシリーズ化してほしい。(堀)

デマンとテスのコンビに加えて今回初登場のヨチ役、イ・グァンスは『コンフェッション 友の告白』(2014)と『フィッシュマンの涙』(2015)で観ていました。フィッシュマンはずっと魚頭でしたが(笑)。ヨチはサイバー捜査の才能はあるけれども、調子がよくて車やバイク好き。この頼りになるような?ならないような?役柄がはまっていて、また見たいと思いました。(白)

配給:ツイン
(c)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://tantei-movie2.com/

★3月16日(土)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
posted by ほりきみき at 14:31| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

運び屋(原題 :THE MULE)

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監督:クリント・イーストウッド
脚本:ニック・シェンク
出演:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、アンディ・ガルシア、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィ―スト、アリソン・イーストウッド、タイッサ・ファーミガ

アール・ストーン(クリント・イーストウッド)は金もなく、孤独な90歳の男。商売に失敗し、自宅も差し押さえられかけた時、車の運転さえすればいいという仕事を持ちかけられる。それなら簡単と引き受けたが、それが実はメキシコの麻薬カルテルの「運び屋」だということを彼は知らなかった…。

本作は2011年に87歳で逮捕されたコカインの運び屋レオ・シャープの実話がベース。2014年、「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」に「シナロア・カルテルが雇った90歳の麻薬運び屋」という記事が掲載され、人々に知られることとなった。ただ、モデルとなった人物ははデイリリーと呼ばれる特殊なユリ栽培の大御所で、いくつもの賞を獲得してきたことしかわかっていない。そこで事件以外のことは、イーストウッド自身を重ね合わせた人物となっている。では、いったいどんな人物として描かれているのか。
主人公のアールは仕事一筋で家庭を蔑ろにしてきたため、家族とは疎遠になっており、たまに会いに行っても娘からは拒否される始末。この娘をイーストウッドの実の娘であるアリソン・イーストウッドが演じているのだ。実際にも奔放な私生活を送ってきた父に向けて放つセリフの1つ1つはアリソンの本心なのではと勘繰ってしまう。
それを寂しく思いながらも、歌を歌いながら、飄々と運転をして麻薬を運ぶアール。途中で90歳近いとは思えないタフな夜を過ごすあたりは、いまでも若い女性と歩く姿をキャッチされてしまうイーストウッドならではかもしれない。
物語後半、人生の最終場面が近づき、アールは家族に対して大きな決断を迫られる。その答えに人生はいくつになってもやり直すことができると感じた。
それにしても、人生のハンドル操作は難しい。(堀)

『運び屋』公開を前に行われたトークイベントで、映画評論家の町山智浩氏がイーストウッドについて詳しく語っています。
よろしかったら、併せてご覧ください。


配給:ワーナー・ブラザース映画
©2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

★2019年3月8日(金)全国ロードショー

posted by ほりきみき at 14:28| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

映像女性学の会 第42回女性監督作品上映会 山本洋子監督「明日へ紡ぎつづけて」

映像女性学の会からの案内を紹介します

2019年3月23日(土)18:30~20:30
場所 渋谷男女平等・ダイバーシティセンター(渋谷区文化総合センター大和田8F)
参加費無料 カンパ歓迎   
先着30名 事前予約の必要はありません。
ゲストトーク 山本洋子さん

■上映作品
『明日へ紡ぎつづけて』   
2009年/94分/監督:山本洋子

1950、60年代に、愛知県下の繊維労働者として、地方から働きに来ていた、中学を卒業したばかりの15歳の少女たちの斗いと青春の日々の記録。
過酷な労働、人権無視の職場の中で、理不尽な働き方を変えたい!人間らしく生きたい!仲間を信じ、資本家と真っ向から対峙する少女たち。明日を信じて生きた少女たちは、今も理不尽な世に目を光らせている。自分たちが主人公の未来をつくるのは私たちの力だと。

監督プロフィール:山本洋子 
1941年東京生まれ。地方紙への記事提供の仕事を経て、独立プロ系のプロダクションに入社。その後結婚、子育てのため中断。
1972年に独立映画社で演出の仕事を始める。1974年、『大須事件』(ドキュメンタリー)で監督デビュー。1979年に独立映画社退職後フリーとなる。主な監督作品:『はばたけ子供たち』(1979)、『世界の婦人たちは今―平等、発展、平和をめざして』(1985)、『夏雲―逝きしものへのレクイエム』(1990)、『東京大空襲の記録』(1992)、『グー・トウイの娘たち―元ベトナム女性民兵の光と影』(1995)、『軍隊をすてた国』(2001)、『大ちゃん だいすき。』(2006 アニメーション)、『明日へ紡ぎつづけて』(2009)。

主催 映像女性学の会   お問い合わせは小野まで
(mail:ycinef@yahoo.co.jp ℡090-9008-1316)

posted by akemi at 07:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月08日

家族のレシピ  原題:RAMEN TEH

2019年3月9日(土)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー
家族のレシピ ポスター&ちらし表.jpg
(C)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale

シンガポール・日本・フランス合作
監督:エリック・クー(シンガポール)
製作:Wild Orange Artists、Zhao Wei Films、Comme des Cinemas、Version Originale
プロデューサー:橘 豊、フォンチェン・タン、ジュシアン・ハン、澤田正道、エリック・ル・ボット
脚本:ウォン・キム・ホー
料理監修:竹田敬介
スチール:レスリー・キー
主題歌:シシド・カフカ「Hold my Hand」

キャスト
斎藤工:主人公真人
マーク・リー:メイリアンの弟ウィー
ジネット・アウ:真人の母メイリアン
伊原剛志:真人の父和夫
別所哲也:和夫の弟の明男
ビートリス・チャン:真人の祖母マダム・リー
松田聖子:シンガポールのフードブロガー美樹

『家族のレシピ』sub2.jpg.jpg
(C)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale 

「美味しい」 その一言が、時と国境を超え、家族をつなぐ--
日本からシンガポールへ、父と母が遺した「味」をたどる旅

2016年のシンガポールと日本の外交関係樹立50周年を記念し作られた映画。

「世界中の家族にその家族の味がある。一口食べれば記憶が蘇り、家族や故郷につながることができる」と、エリック・クー監督が日本のラーメンとシンガポールのパクテー(肉骨茶)をモチーフに、ソウルフードが離れ離れになっていた家族を結びつける映画を作った。

群馬県高崎市で行列ができるラーメン屋を営む店主の和男(伊原剛志)と、その弟の明男(別所哲也)、そして和男の息子真人(斎藤工)。和男は店が終わると一人酒を飲みに行き、真人は自宅台所で、あるレシピを再現しようとスープ作りをしている。真人が再現したかったのはシンガポール料理の味。それに一役かっているのが、シンガポールで暮らしながらフードブロガーをやっている美樹。同じ家、仕事場にいながら父と息子の間に会話がなく、そんな生活が長年続いていた。そして翌日、和男は急死してしまった。
そして真人は、父の遺品の中に亡くなった母メイリアンの日記をみつけた。母はシンガポール人で、和男とシンガポールで出会い結婚し、真人は10歳までシンガポールに住んでいた。母の弟からの手紙をみつけた真人はシンガポールへと旅立ち、美樹の協力で叔父と再会。母方の祖母に会ったことがない真人は、なぜ祖母が会ってくれないのかを知りたいと思った。
シンガポールは太平洋戦争中、日本軍が占領し「昭南島」と呼んでいた。祖母は自分の父親が日本兵に殺されていたので、娘の結婚を受け入れられなかったのだった。真人はシンガポールと日本の間の歴史を知るためシンガポールの戦争博物館に行き、日本軍の蛮行を知った。ここはかつてフォードの工場があったところで、激戦地だった。この博物館がリニューアルされた時、政府が「昭南ギャラリー」という名前に変えようとして、市民から生存者への配慮にかけるとして猛烈な反発をくらい、その名前は見送られたそう。このこともあり、受け入れること、赦すこと、和解することについて描いた、この作品は作られた。
祖母と真人の和解は難しく思われたけど、真人は祖母のために心を込めてラーメンを作り、そのラーメンを食べた祖母の心はほぐれていった。
監督は長編アニメ「TATSUMI マンガに革命を起こした男」を手がけたエリック・クー。
真人は忘れかけていた過去を埋めるためシンガポールへと旅立ち、シンガポール在住のフードブロガー・美樹のサポートで、肉骨茶(パクテー)の店を営む叔父と再会を果たしたが、これまで知ることのなかった家族の歴史と向き合うことになった。そして、自分が作ったラーメンで祖母との和解を果たした。けっこう泣ける話だった。

戦争中、日本軍の占領下にあったという事を知る日本人はほとんどいないが、日本人としては知るべきことだと思った。そして、ピースボートの船で世界一周する途中、シンガポールに立ち寄った時、「昭南島の歴史を知る」というオプショナルツアーを選び、この真人(斉藤工)が行った「戦争博物館」=「フォード工場跡」にも立ち寄った。ここは日本軍とイギリス軍との激戦地だったところで、日本軍が占領した時の調印式の写真などもあった。この昭南島の歴史を知るオプショナルツアーでは市街地にある日本人墓地なども訪ねたが、ここには1000人近い日本人の墓があり、かつてのからゆき(唐行)さんの朽ち果てた墓もあった。また日本軍によって殺されたシンガポールの人たちを弔う血債の塔への参拝も行った。普通の観光旅行では、そういう経験はできないと思うので貴重な経験だった(暁)。


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日本人墓地内 からゆきさんの墓があるという一角

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日本軍が占領した時の調印式の写真(旧フォード工場内 戦争博物館にて)

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日本占領時期死難人民記念碑 血債の塔

特別協力:高崎市、公益財団法人高崎財団、高崎映画祭、高崎フィルム・コミッション
協力:一般社団法人高崎観光協会、株式会社ラジオ高崎、株式会社トスコム、株式会社アンテナ

日本語・英語・中国語/DCP/カラ―/ビスタ/89分/
配給:エレファントハウス/ニッポン放送
宣伝協力:イオンエンターテインメント
宣伝:マジックアワー
製作年 2017年
公式サイト
posted by akemi at 22:11| Comment(0) | シンガポール | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月02日

マイ・ブックショップ   原題:The Bookshop

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監督・脚本:イザベル・コイシェ(『死ぬまでにしたい10のこと』)
出演:エミリー・モーティマー(『メリー・ポピンズ リターンズ』)、ビル・ナイ、パトリシア・クラークソン

1959年、イギリス。戦争で夫を亡くしたフローレンス・グリーンは悲しみに暮れていたが、書店を開くという夫との夢を実現しようと決意する。1軒も書店のない海辺の小さな町で、ボロボロの建物「オールドハウス」を買い取り、準備を進める。町の有力者ガマート夫人から、オールドハウスは芸術センターにしたいと横やりが入るが、なんとか開店にこぎつける。さっそく町一番の読者家で、町外れの屋敷に引き篭もっている老紳士ブランディッシュ氏から推薦本を届けてほしいと注文が入り、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」を送る。この本を気に入ったブランディッシュ氏と本を通じた交流が始まる。書店も町の人々の評判を呼び、一人では対応できなくなり、少女クリスティーンを雇う。
ウラジミール・ナボコフの問題作「ロリータ」を仕入れるかどうか迷ったフローレンスがブランディッシュ氏に本を送り意見を求めると、直接話したいと屋敷に招かれる。励まされ、自信を持って250部仕入れ、書店には人だかりができる。面白くないガマート夫人が弁護士を通じて公共の迷惑だと苦情を申し立ててくる。さらに、児童労働を取り締まるため、査察官がクリスティーンの学校に現われる・・・

『死ぬまでにしたい10のこと』(2003年)で脚光をあびたスペインの女性監督イザベル・コイシェが、英国ブッカー賞受賞作家ペネロピ・フィッツジェラルドの原作に惚れ込み映画化したもの。

フローレンスは、書店を開いて忙しくなっても、海辺で静かに読書する時間を大切にしています。町の有力者から嫌がらせをされても、果敢に立ち向かう芯の強い女性。
推薦書を送ってほしいといわれ、本の所持を禁じた未来を舞台にした「華氏451度」を選んだところが心憎いです。また、賛否両論のある書「ロリータ」を仕入れるにあたって、独断で決めないところもバランス感覚があって素敵です。だからこそ、偏屈で人と交わることのなかったブランディッシュ氏の心を動かしたのでしょう。
1959年という時代。まだまだフローレンスのような女性の活動はすんなりとは受け入れらないけれど、児童労働で捕まってしまった少女クリスティーンの心に、フローレンスの精神がしっかり息づいているのが感じられて嬉しい。(咲)


◆お母さんが本屋さんを営んでいた作家・林真理子さんのトークショーの模様はこちらで!
『マイ・ブックショップ』林真理子氏トークショー 詳細レポート


2017年/イギリス・スペイン・ドイツ/英語/カラー/112分/シネスコ/5.1ch/DCP
配給:ココロヲ・動かす・映画社○
© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.
公式サイト:http://mybookshop.jp/
★2019年3月9日(土) シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA他にてロードショー





posted by sakiko at 11:10| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月01日

サッドヒルを掘り返せ  英題:Sad Hill Unearthed

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監督・製作・撮影・編集:ギレルモ・デ・オリベイラ
出演:エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウッド、クリストファー・フレイリング、アレックス・デ・ラ・イグレシア、ジェイムズ・ヘットフィールド、ジョー・ダンテ、エウヘニオ・アラビソ、セルジオ・サルヴァティほか

スペイン、マドリードの北方約250キロ、カスティーリャ・イ・レオン州の中心都市ブルゴス郊外のミランディージャ渓谷。1966年、ここにスペイン軍によって、5000基の墓碑が建てられたが、そこには一つの遺体も埋葬されてなかった・・・

実は、ここはマカロニ・ウエスタンの名作『続・夕陽のガンマン』(セルジオ・レオーネ監督/ 1966年)のラスト、エンニオ・モリコーネの曲「黄金のエクスタシー」が流れる中、3人の決闘が繰り広げられたサッドヒル墓地。撮影のために作られた円形の巨大な墓地は、その後、放置され草に埋もれていた。あれから50年近くの時を経て、2014年、地元の4人の男性が「サッドヒル文化連盟」を立ち上げ、墓地の復元に乗り出す。教師、バーテンダー、宝くじ売り、民宿の主人と、職業も違う4人の動きは、瞬く間に『続・夕陽のガンマン』の熱狂的なファンの耳に届き、土日になるとヨーロッパなど各地から自主的に人が集まり、サッドヒルを掘りこした。そうして復元された墓地で、2016年、撮影50周年を記念して、決闘シーンが再現された。

本作は、偶然「サッドヒル文化連盟」の動きを知った監督が、彼らが州政府から許可を貰って掘り始める前から現地で取材。4人のメンバーのほか、主役のクリント・イーストウッド、音楽を担当したエンニオ・モリコーネ、「黄金のエクスタシー」をコンサートの最初に必ず演奏するヘヴィメタル・バンド「メタリカ」のジェイムズ・ヘットフィールドなどにインタビュー。また、撮影に携わった人、地元でエキストラを務めた人などにも当時のことを聞いていて、撮影秘話が満載。中でも、スペイン軍が作った橋は、撮影タイミングを間違えて爆破してしまい、またすぐ作り直したという話に大笑い。(軍がそれだけ暇だったのは平和の証拠!) 
『続・夕陽のガンマン』は、テレビでなんとなく観たくらいの記憶しかない私ですが、2年前の東京国際映画祭で偶然本作を観て、サッドヒルを掘り起こす男たちにすっかり惚れこんだのでした。という次第で、『続・夕陽のガンマン』を観ていなくても、充分に楽しめます。(咲)


『続・夕陽のガンマン』
1966年イタリア・スペイン・西ドイツ合作。セルジオ・レオーネ監督作品。日本での劇場公開時(1967)の題名は『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』。
英語題名は『The Good, the Bad and the Ugly』(「いいヤツ、悪いヤツ、ひどいヤツ」。
韓国映画『グッド・バッド・ウィアード』(キム・ジウン監督/2008年)は、『続・夕陽のガンマン』にインスパイアされて作られたものだったのですね。

(咲)さんと同じく、2年前の映画祭で観ました。この”ロケ地を探し出す”という情熱にいたく共感、香港映画にはまってロケ地を見つけたときの喜びが甦りました。画面の隅に見える看板や建物を当地で確認できたからといって、興味のない人には「それがどうした」なのですが、ファンには嬉しいのです。うふふ。(白)



2017年・第30回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映作品

2017年/スペイン/英語・スペイン語・イタリア語・フランス語/86分
協力:東京国際映画祭 
提供:東北新社  
配給:ハーク STAR CHANNEL MOVIES
© Zapruder Pictures 2017
公式サイト:http://hark3.com/sadhill/
★2019年3月8日(金)より、シネマカリテほか全国順次ロードショー!
posted by sakiko at 20:30| Comment(0) | スペイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

きばいやんせ!私

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監督:武正晴(『百円の恋』) 
脚本:足立紳 山口智之 
原作:足立紳(双葉社刊、著:工藤晋) 
主題歌:花岡なつみ「Restart」 
出演:夏帆、太賀、岡山天音、坂田聡、眼鏡太郎、宇野祥平、鶴見辰吾、徳井優、愛華みれ、榎木孝明、伊吹吾郎

鹿児島県最南端、佐多岬の南大隅町で1300年続く奇祭「御崎祭り」。 
女子アナ児島貴子(夏帆)は、週刊誌に不倫を報じられたことで看板番組のMCを降ろされ、異動先の奇祭を巡る番組で、小学校2年生の時に1年間住んだ南大隅町の祭りを取材することになる。案内役として現れたのは、同級生の橋脇太郎(太賀)。畜産業を営みながら、祭りの実行委員として若者たちを取りまとめている。祭りは、本来、神輿を佐多岬から神社までの20キロを一度も降ろさずに険しい道を運んでいたが、運び手の若者が減り、今ではトラックで運んでいるという。それではテレビで放映するのに画にならないと、「皆さんにとって祭りって何なんですか!」と一喝する貴子。その言葉に激怒する御崎祭り奉賛会の牛牧会長(伊吹吾郎)をとりなし、太郎は祭りの完全復活を誓う・・・

「きばいやんせ」とは、鹿児島弁で「がんばれ」の意味。
ほされた女子アナ貴子が、気の乗らなかった取材を通じて、仕事や人生のあり方に目覚めていく姿を描いていますが、なんといっても主役は、「御崎祭り」そのもの。佐多岬の先端の御崎神社に鎮座する神様が一年に一度、約20キロ離れた近津宮神社に新年の挨拶に行くというお祭り。神輿を一度も降ろしてはならず、険しい山道では、はらはらさせられます。また、神輿を先導する鉾も長さ5.5m、重さ10キロもあり、それを地面すれすれの位置で持って歩むという忍耐を必要とするもの。神輿の日よけ雨よけとなっている傘も優雅ですが、掲げている人はさぞかし大変なことでしょう。お祭りを観に、佐多岬に行ってみたくなりました。御崎祭りは、毎年、2月19日・20日に近い土日に開催されているそうです。
この鹿児島の南端の知られざるお祭りを背景に物語を描いた武正晴監督のお父様は鹿児島出身。脚本の足立紳さんのお母様も鹿児島出身。出演者の中では、町で人々の集まる食堂を営んでいるユリ役の愛華みれさんが、まさにロケ地の南大隅町出身。ちょっととぼけた人の良さそうな町長役の榎木孝明さんも鹿児島出身です。
日本各地に、このように長年受け継がれているお祭りがありますが、少子化の中で、今後も固有の伝統を途切れさせないでほしいものだと思わせられた一作です。(咲)


人は変わる。やる気のない女子アナの主人公もかつてはアナウンサー目指して必死に勉強し、念願叶って東京の放送局で女子アナになった。コジタカというニックネームが全国で知られるほどなのだから、いい仕事をしていたに違いない。不倫が発覚して仕事を干されて投げやりになり、数少ない取材仕事をうわ滑りなレポートで終わらせてしまう。不倫発覚が主人公を負の方向に変えてしまったのだ。しかし、嫌々ながらも仕事で佐多岬の南大隅町に行き、一生懸命に生きる人たちと接するうちに変わっていく。選択肢がないまま父親の仕事を継ぎ、やるしかないと仕事をしていたが、いつの間にか仕事に誇りを持てるようになったと語る畜産農家の青年の言葉は主人公だけでなく、見ている者の胸に響く。きっかけさえあれば人は良くも悪くもなれるとこの作品は教えてくれた。
ところで、作品の後半は佐多岬の南大隅町で1300年続く奇祭「御崎祭り」が行われている様子を映し出すが、御輿の前で鉾を持って先導する大役を太賀と岡山天音が担っていた。この鉾はとても大きく、重そう。役を演じるために、かなり練習したのではないかと推察される。若い二人が必死に鉾を持って歩く姿に役者としての心意気を感じた。(堀)


◆初日舞台挨拶
3月9日(土) 舞台挨拶 12:05~12:35
場所:有楽町スバル座
登壇者(予定):夏帆、太賀、愛華みれ、伊吹吾郎、花岡なつみ(主題歌)、足立紳(脚本) 武正晴(監督) 記事はこちらです。

2018年/日本/カラー/116分/シネマスコープ/5.1ch/DCP/G
©2018「きばいやんせ!私」製作委員会
配給:アイエス・フィールド 
公式サイト:http://kibaiyanse.net/
★2019年3月9日(土)有楽町スバル座ほか全国ロードショー

posted by sakiko at 20:29| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ウトヤ島、7月22日(原題:Utoya 22. juli)

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監督:エリック・ポッペ

脚本:シブ・ラジェンドラム・エリアセン、アンナ・バッヘ=ビーク

撮影:マルティン・オッテルベック

出演:アンドレア・バーンツェン(カヤ)、エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン(エミリエ)、ジェニ・スベネビク(オーダ)、アレクサンデル・ホルメン(マグヌス)、インゲボルグ・エネス(クリスティーネ)


7月22日、ノルウェーの首都オスロ。近郊のウトヤ島では労働党青年部のキャンプが始まっていた。カヤは妹のエミリエと一緒に参加している。心配する母親に「世界一安全な島」と返し、エミリエの面倒を見ることを約束した。テントにエミリエを残して友人たちと談笑していると、突然銃声が聞こえ、血相を変えた男女が逃げてくる。急いでテントに戻るがエミリエはもういなかった。オスロ市内では爆発があったと知ってますますパニックになる。カヤたちは何が起きているのかわからないまま逃げ出し、散り散りに隠れ場所を探す。警察に電話をするが、島まで救援に来るのには時間がかかる。その間にも銃声と悲鳴が聞こえている。


2011年に本当にあった事件をもとに作られたフィクションです。冒頭は集まってきた若者たちのシーンが続き、彼らの夢や希望が語られます。その後、最初の銃声が聞こえてから72分間ワンカットで、実際にこの事件が収束するまでと同じ時間を映しています。この間、観客はカヤと一緒に逃げ惑い、エミリエを探し、助けてやれなかった子どもの死に泣くことになります。犯人の姿ははっきり見えず、音楽もナレーションもありません。カメラがアップで映し出す表情、息遣い、足音などで緊張感が途切れず、テロ事件を体感させます。映画が終わったときには大きく息をつきました。

犯人はたった一人の極右思想の男。周到な準備をして、オスロ市内で市庁舎を爆破した後、ウトヤ島に移動して無差別銃乱射事件を起こしています。オスロでは8名、ウトヤ島では69名もが亡くなっています。

エリック・ポッペ監督はかつて戦場カメラマンとして活躍した人、ジュリエット・ビノシュが報道写真家を演じた『おやすみなさいを言いたくて』にはご自身の体験が反映されているとか。このウトヤ島事件の切迫した臨場感にも色濃く出ています。(白)

キャンプ場に突然鳴り響く銃声。悲鳴とともに走り込んでくる人々。何が起きたのか。事件? 訓練? 状況がつかめないまま逃げ惑う。緊迫感が半端ない。2011年ノルウェーで起きた連続テロ事件を被害者視点で描く。難を逃れた生存者も忌まわしい記憶に苦しんでいるに違いない。(堀)

2018年/ノルウェー/カラー/シネスコ/97分

配給:東京テアトル

Copyright (C) 2018 Paradox


★2019年3月8日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:09| Comment(0) | 北欧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スパイダーマン スパイダーバース(原題:Spider-Man: Into the Spider-Verse)

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監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
脚本:フィル・ロード、ロドニー・ロスマン
音楽:ダニエル・ペンバートン
声の出演:シャメイク・ムーア(マイルス・モラレス/スパイダーマン)小野賢章
ジェイク・ジョンソン(ピーター・B・パーカー/スパイダーマン)宮野真守
ヘイリー・スタインフェルド(グウェン・ステイシー/スパイダー・グウェン)悠木碧
ニコラス・ケイジ(スパイダーマン・ノワール)大塚明夫
キミコ・グレン(ペニー・パーカー)高橋季依
ジョン・ムレイニー(ハム・パーカー)吉野裕行
リーヴ・シュレイバー(キングピン/ウィルソン・フィクス)玄田哲章
リリー・トムリン(メイ・パーカー)沢海陽子

マイルス・モラレスはニューヨークの名門校に通う13歳。スパイダーマンことピーター・パーカーが亡くなってしまい、すっかり気落ちしている。なぜならマイルスがピーターのあとを継ぐスパイダーマンであるからだ。誰にも打ち明けられず、手に入れた能力を使いこなすこともできない。何者かが時空をゆがめてしまったことで、大事故がおきる。そしてマイルスの前には、死んだはずのピーター・パーカーが現われた。時空が歪んだ衝撃から別の次元のピーターがこの世界にやってきたのだった。薄汚れてやる気のない先輩だったが、頼れるのは彼だけ。ピーターを師匠にマイルスは”新生スパイダーマン”となって戦うことを決意する。

第91回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞したニュースがかけめぐったばかり。今年のアカデミー賞は、これまでの受賞が白人に偏っていたのを一気に取り返したかのようでしたね。この主人公マイルスもアフリカ系アメリカ人の父とプエルトリコ人の母とのハーフという設定だそうです。
マイルスはまだ中学生、「大いなる力には大いなる責任が伴う」「運命を受け入れろ」と言われても重すぎるではありませんか。で、今回は一人じゃなくって仲間がいるんですよ!それぞれ違う能力も持っているので、どこで発揮されるのかお楽しみに。スピードがはんぱじゃないので、字幕を読むのが大変です。苦手な方、お子様連れの方々は、日本語吹替え版での鑑賞をおすすめします。私も試写は吹替えで観ました。目がしっかり画面についていけます。(白)


2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/117分
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
http://www.spider-verse.jp/

★2019年3月8日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:07| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シンプル・フェイバー(原題:A Simple Favor)

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監督:ポール・フェイグ
原作:ダーシー・ベル
脚本:ジェシカ・シャーザー
撮影:ジョン・シュワルツマン
音楽:セオドア・シャピロ
出演:アナ・ケンドリック(ステファニー)、ブレイク・ライブリー(エミリー)、ヘンリー・ゴールディング(ショーン)、リンダ・カーデリニ(ダイアナ)、ジーン・スマート(マーガレット)

ステファニーはニューヨークの郊外で暮らしているシングルマザー。料理や子育てについてのビデオブログを運営し、たびたびアップする動画。息子の学校で、息子の友達のママ、お洒落なエミリーと知り合う。エミリーの夫ショーンは売れない作家で、エミリーはファッション業界で働いている。豪華な邸宅に招かれ、二人は秘密を打ち明けあうほど親密になる。仕事で忙しいエミリーはたびたび子どもの世話を頼んでくる。ステファニーはいつも気軽に引き受けていたが、ある日子どもを預けたままエミリーと連絡がつかなくなった。ショーンは捜索願を出し、息子をひきとっていく。しばらくたってエミリーの情報が入ってくる。

亡くなった夫の保険金を切り崩しながら暮らしているステファニーと、華やかな業界で活躍するエミリー、まったく違う生活の二人が出会って家族ぐるみの付き合いになります。一方的にエミリーに便利に使われているような冒頭、ママ友達の台詞が辛らつです。
ビデオブログで発信しているステファニーは、エミリーの失踪も公開して情報を募ります。今はこんなこともするんですね。ペットの行方探しは日本でも見ますが。
テンションが高くてあけっぴろげなステファニーに対して、自分のことは語らずミステリアスなエミリー。ステファニーの行動がいちいち面白く描かれているのは、監督がコメディお得意の方だからなのでしょうか?
原作はダーシー・ベル著「ささやかな頼み」(早川書房)。ミステリーの伏線もちゃんとあり、ところどころで笑わせながら謎解きもしていきます。二人のファッションにも注目。(白)


2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/117分
配給:ポニーキャニオン
(C)2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
http://simplefavor.jp/
★2019年3月8日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 14:56| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

君の結婚式(原題:On Your Wedding Day)

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監督・脚本:イ・ソックン
出演:パク・ボヨン(スンヒ)、キム・ヨングァン(ウヨン)、カン・ギヨン、コ・ギュピル、チャン・ソンボム

高校3年の夏、ウヨンは同じクラスの転校生スンヒが授業をサボって抜け出すところに出くわす。スンヒに手を貸して塀を乗り越え、一緒に町で買い食いをするウヨン。美人で成績もいいスンヒから目が離せなくなる。一途にスンヒを追い掛け回し、ようやく恋が成就できるかと思ったころ「元気でね」という電話を最後に、スンヒは消えてしまった。
ウヨンは行方を捜し続け、ある日大学の案内書の写真の中に彼女の姿を見つけた。その日から猛勉強を始め、一年遅れて同じ大学に入学を果たす。しかし、再会したスンヒにはすでに彼氏がいた。

ウヨンとスンヒの10年に渡る恋の軌跡。このタイトルがネタバレじゃないの?とも思うのですが、誰にも経験のある切なさや行き違いに共感するはず。『あの頃君を追いかけた』によく似ていますが、そちらより二人にフォーカスしている度合いが強いです。モデル出身でのっぽ(187cm)のキム・ヨングァンと並ぶと小柄に見えるパク・ボヨンは158cm。そう小柄なわけではありませんが、なんだかほほえましいカップルです。制服姿の高校生からアラサーまで演じて違和感なく、「恋愛あるある」を楽しませてくれます。(白)

2018年/韓国/カラー/ビスタ/110分
配給:クロックワークス
(C)filmKCO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
http://klockworx-asia.com/weddingday/
★2019年3月1日(金)シネマート新宿にてロードショー
posted by shiraishi at 08:55| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

移動都市/モータル・エンジン(原題: Mortal Engines)

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監督:クリスチャン・リヴァーズ
原作:フィリップ・リーヴ著 /安野玲 訳「移動都市」(創元SF文庫刊)
脚本:フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン、 ピーター・ジャクソン
製作:ゼイン・ワイナー、アマンダ・ウォーカー、デボラ・フォート、フラン・ウォルシュ、、ピーター・ジャクソン
製作総指揮:フィリッパ・ボウエン、ケン・カミンズ
音楽:トム・ホルケンボルフ
出演:ヘラ・ヒルマー、ロバート・シーアン、 ヒューゴ・ウィーヴィング、ジヘ、ローナン・ラフテリー、レイラ・ジョージ、パトリック・マラハイド、スティーヴン・ラング

世界が滅び、人々は空に、海に、そして地を這う車輪の上に、都市を創った。たった60分で文明を荒廃させた最終戦争後、残された人類は移動型の都市を創り出し、他の小さな都市を駆逐し、捕食しながら生き続けるという新たな道を選択。地上は“都市が都市を喰う”、弱肉強食の世界へと姿を変えた。この荒野は巨大移動都市・ロンドンによって支配されようとしていた。ロンドンは捕食した都市の資源を再利用し、人間を奴隷化することで成長し続ける。小さな都市と人々は、その圧倒的な存在を前に逃げるようにして生きるしかなかった。いつ喰われるかもしれない絶望的な日々の中、その目に激しい怒りを宿した一人の少女が反撃へと動き出す。

『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』三部作を手掛けたピーター・ジャクソンがイギリス人作家フィリップ・リーヴのファンタジー小説「移動都市」を映画化。『キング・コング』(2005年)でオスカー受賞歴を誇る視覚効果アーティスト、クリスチャン・リヴァーズ監督を務めた。
作品冒頭、巨大な城のような戦艦に見える都市が豪快な音を立てて地上を突進し、他の移動する都市を捕食する。言葉の例えではなく、ガチャガチャと音を立てて、本当に取り込んでしまうから驚いた。そして、後半になると物語のステージは地上から空中に変わる。この迫力は大きなスクリーンで見たい。スチームパンクな世界が好きな人にはたまらないだろう。4DXあれば、尚のこと。
そして、物語の世界観は日本のアニメに近いものを感じる。移動する巨大都市は『ハウルの動く城』を彷彿させ、戦争によって世界は崩壊し、『風の谷のナウシカ』状態である。そして、移動都市・ロンドンの目指す先にある静止都市が築いた楯の壁は『進撃の巨人』のよう。それを守る反移動都市同盟の面々が自分の飛行船に乗って、大空を飛び回って戦い続ける姿は松本零士が作り出した「キャプテンハーロック」の志と似ている。原作はイギリスだが、日本人にも共感しやすいのではないだろうか。(堀)

2018年/アメリカ/スコープ・サイズ/ドルビーデジタル/カラー/129分
配給:東宝東和
©Universal Pictures 
公式HP:http://mortal-engines.jp/
★2019年3月1日(金)全国ロードショー
posted by ほりきみき at 00:00| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする