2024年09月07日
ジガルタンダ・ダブルX 原題:Jigarthanda Double X
監督・脚本:カールティク・スッバラージ
音楽:サントーシュ・ナーラーヤナン
キャスト:
アリアス・シーザー、またの名をアリヤン:ラーガヴァー・ローレンス
キルバカラン、またの名をキルバイ、レイ・ダース:S・J・スーリヤー
マラヤラシ:ニミシャ・サジャヤン (『グレート・インディアン・キッチン』)
ラトナ警視:ナヴィーン・チャンドラ
ドゥライ・パーンディ:サティヤン
クリント・イーストウッドとサタジット・レイが南インドの森で出会う
1970 年代前半のマドラス(現在のチェンナイ)。警察官採用試験に受かったキルバイは、血を見ると 気を失うこともある小心者。着任を間近にしたある日、不可解な殺人事件に居合わせ、殺人の罪で牢に 繋がれてしまう。彼は、政界に強いコネクションを持つ悪徳警視ラトナに脅されて、無罪放免・復職と引 き換えにマドゥライ地方のギャングの親分シーザーを暗殺することを命じられる。ラトナは、西ガーツ山脈のコ ンバイの森に派遣された特別警察の指揮官で、冷酷非道な男。その兄のジェヤコディは、タミル語映画界のトップスターにして、次期州首相の候補と噂されている。一方シーザーは、「ジガルタンダ極悪連合」という 組織のトップで、地元出身の野心的な有力政治家カールメーガムの手足となって象牙の違法取引から殺人まで、あらゆる非合法活動を行っている。 シーザーに近づくために、キルバイはサタジット・レイ門下の映像作家と身分を偽り、シーザーを主演にした映画の監督の公募に名乗りを上げる。クリント・イーストウッドの西部劇が大好きなシーザーは、キルバイを抜擢しレイ先生と呼ぶようになる。そこから2人の運命は思いもよらない方向に転がり始め、西ガーツ山脈 を舞台にした森と巨象のウエスタンの幕が上がる・・・
さすが、タミル語映画、濃いです。
森で象が殺され、民も容赦なく殺されます。
武器を持った警官たちが民ではなく、支配者の味方。これでは安心して暮らせません。
キルバイは、ヒーロー映画を撮るという名目で、その実態を撮るのです。
映画が正義を証明してくれる。
武器で森と民を征する支配者を弾糾する。
出来上がった映画が、大きな象牙が掲げられた映画館で上映されます。 さて、それはどんな映画?
「戦争に勝者はいない」という言葉も、ずっしり心に響きます。
冒頭に、クリント・イーストウッド、ラジニカーント、マニラトラムの名前が掲げられた映画愛に溢れた巨編です。(咲)
2023 年/インド/タミル語/PG12/172 分
字幕:矢内美貴 加藤豊/協力:ラージャー・サラヴァナン
配給:SPACEBOX
宣伝:フルモテルモ
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/jdx/
★2024年9月13日(金)より 新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
シュリ デジタルリマスター
監督・脚本:カン・ジェギュ
撮影:キム・ソンボク
音楽:
アクション監督:チョン・ドゥホン
出演:ハン・ソッキュ(ユ・ジュンウォン)、ソン・ガンホ(イ・ジャンギル)、キム・ユンジン(イ・ミョンヒョン)、チェ・ミンシク(パク・ムヨン)
1998 年9月のソウル。2002年のサッカーW杯に向け、南北朝鮮統一チームが結成され、その選手選抜を兼ねた南北交流試合が行わるというニュースに沸いていた。要人暗殺事件を捜査中の韓国情報部員、ユ・ジュンウォンと相棒のイ・ジャンギルは、犯人と目される北朝鮮の女性工作員イ・バンヒを追跡している。情報部員であることは恋人のミョンホンにも明かしていない。
国防科学研究所が開発した強力な破壊力を持つ液体爆弾が強奪され、監視カメラの映像から北朝鮮の特殊部隊の仕業とわかる。以前の爆破テロの犯人パク・ムヨンが関与していた。液体爆弾を用いたテロの脅威が迫っている―。
1999年2月13日の韓国の公開から25周年(日本初公開は2000年1月22日)を迎えます。日本でも大ヒットしましたが、その後再度の上映も配信もなされないままでした。カン・ジェギュ監督自身が権利の交渉を重ね、このたび4Kデジタル修復作業を経て美しい映像で待望の再上映です。現在は映画界の重鎮となっている主要キャストたちが30代と若く、しゅっとしてハンサムなソン・ガンホについ顔が緩んでしまいました。これがデビュー作となったキム・ユンジンは20代です。
南北朝鮮問題、祖国への忠誠と個人の想い、南北精鋭の情報部員と特殊部隊の攻防、刻々と迫るテロの脅威など、中身は盛りだくさんなのにぐいぐいと映像に引っ張られていきます。それまで観ていた韓国映画は文芸ものか歴史ものだったので、ハリウッド映画に負けないアクションやストーリー運びのうまさ、俳優の演技にくぎ付けになりました。
すでにトップスターだったハン・ソッキュ、この後次々と出演作がヒットしたチェ・ミンシク、ソン・ガンホの3人が顔をそろえているほか、まだ売れる前のファン・ジョンミンが端役で出演しています。当時は名前も知りませんでしたが、出演作を何本も見ている今、すぐに気づいて「あ!」。セリフもあるので、先に声でわかりました。後のほうですよ。
主役級の俳優がそろったこんな作品、出演料が莫大でもう作られないでしょうね。スマホがない時代の違いだけで、今見ても全く古くありません。(白)
1999年/韓国/カラー/125分
配給:ギャガ
(C)Samsung Entertainment
https://gaga.ne.jp/shuri4K/
★2024年9月13日(金)ほか全国ロードショー
ザ・ブレイキン(原題:Breaking Point)
監督:ダニア・パスクィーニ&マックス・ギーワ
原案:レイチェル・ヒロンズ
脚本:サリー・コレット
撮影:ステファン・ヤップ
振付:ニーク・トラア
出演:カラム・シン(トレイ)、ケルビン・クラーク(ベンジー)、ハナ・ジョン=カーメン、エミリー・キャリー、ジルー・ラスール、エリオット・コーワン、ルシアン・ムサマティ、アリス・イヴ
トレイとベンジーは仲の良い兄弟で、ブレイキンのパートナーでもあった。ところが子どものころの事故の後から、対立して口も利かなくなった。トレイは大学を目指して勉強に励むが、ブレイキンに夢中のベンジーは父と折り合わず家にも戻らなくなった。父の誕生日を家族で祝おうとベンジーを連れ戻しにいったトレイは、ベンジーの誘いにのりブレイキンで決着をつけることになった。2人の動画がSNSで拡散され、世界選手権のイギリス代表選考会に招かれる。降ってわいた大きなチャンスにかける2人。
公園などで見かけたことのあるダンス、オリンピックの種目になってびっくりでした。競技なんですね。出演者の見事な技に目が丸くなります。それもそのはず、兄弟役のカラム・シンとケルビン・クラークは世界的に評価されたブレイカー、周りをかためる人たちもほんもののブレイカーなのだそうです。家族の絆や同じ目標を持った仲間との友情やあつれきも描かれて、青春時代から遠くへきてしまった私にも楽しめました。
作品中に日本勢も出演しています。2005年に結成された「BODYCARNIVAL」の面々、先日のオリンピックでも活躍していました。競技の前に公開だったらもっと良かったですね。いやいや、初の種目で金メダルを獲った興奮の余韻をもういちど味わってください。(白)
2023年/イギリス/102分/DCP/5.1ch/カラー/シネマスコープ/字幕:平井かおり/G
提供:楽天
配給:松竹
© FAE FILM BP LTD 2023 ALL RIGHTS RESERVED
https://www.rakuten-ipcontent.com/thebreakin/
★2024年9月13日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー<2週間限定>
シサム
監督:中尾浩之
脚本:尾崎将也
撮影:小川ミキ
主題歌:中島みゆき「一期一会」
出演:寛一郎(高坂孝二郎)、三浦貴大(高坂栄之助)、和田正人(善助)、坂東龍汰(シカヌサシ)、平野貴大(アクノ)、サヘル・ローズ(リキアンノ)、藤本隆宏(イカシコトシ)、山西惇(伊助)、佐々木ゆか(ヤエヤムノ)、古川琴音(みつ)、要潤(平助)、富田靖子(高坂まき)、緒形直人(大川)
江戸時代前期の松前藩。アイヌとの交易の窓口となり、収益が藩の財政と直結するため次第に支配力を強めていった。高坂栄之助と孝二郎の兄弟は亡くなった父の仕事を受け継ぎ、孝二郎は初めてアイヌの住む蝦夷地へと向かう。ある晩、栄之助が使用人の善助に襲われ殺されてしまった。なぜこんなことに? 怒りに震える孝二郎は兄の仇討ちを心に誓い、逃げた善助の後を追っていく。
怪我をした孝二郎はアイヌの集落で手厚く看病された。これまでの自分の思い込みを捨て、アイヌの人々や文化を知ろうとする。
アメリカやオーストラリアと同じように蝦夷地(北海道)にも先住民がいました。後からやってきた人間たちは驚くほど同じやりかたで我がものとしていきます。開拓と称して入り込み、圧倒的な人数や武器をもって住みよい土地から先住民を追い出しにかかります。豊かな資源を買い取ったり、交換したりしますが、公平でしょうか。不満は積もって耐えかねた人々が立ち上がります。この一連の動きも同じです。争いの種は、今も昔も同じ過程を経て育つものですね。知らないものは畏怖となります。抑え込むのでなく、理解しようとしなければ。その一歩が知ることです。言うは易く行うのは難し。
(白)
☆「シサム」はアイヌ語で隣人、アイヌ以外の人のこと(正しい表記は「ム」が小文字になります)。「シャモ」はあまり良い使い方ではないようです。
2023年/日本/カラー/分
配給:NAKACHIKA
©映画「シサム」製作委員会
https://sisam-movie.jp/
★2024年9月13日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
ぼくのお日さま
監督・脚本・撮影・編集:奥山大史
音楽:佐藤良成
主題歌:ハンバート ハンバート「ぼくのお日さま」
出演:越山敬達(タクヤ)、中西希亜良(さくら)、若葉竜也(五十嵐)、山田真歩(三上真歩)、潤浩(コウセイ)、池松壮亮(荒川)
タクヤは吃音をもつアイスホッケーが苦手な少年。ホッケーのあと、フィギュアスケートの練習をする少女さくらに目が留まる。美しい姿勢となめらかな動きに見とれているタクヤにフィギュアコーチの荒川が気づいた。元選手の夢を諦めて、今は教える側となった。タクヤがホッケー靴のまま、ステップを真似て転んでばかりいるのを笑顔で見ている。自分の靴を貸して、一から指導することにした。
タクヤは親から「ホッケーかフィギュアかどっちかにしなさい」と言われている。さくらは荒川の指導を受け入れて、タクヤとペアでアイスダンスを始めた。3人の心が少しずつ近づいていく。
1作目の『僕はイエス様が嫌い』(2020年)奥山大史監督、待たれた2作目です。主題歌の「ぼくのお日さま」のぼくは、タクヤそのまま。この歌と監督のフィギュアスケートの思い出から生まれた作品。池松壮亮さんと知り合っていつか一緒に作品をとお互いに思っていたのが実現しました。
池松さんは制作過程から関わり、撮影が始まると主役が初めての越山くん、映画出演が初めての中西さんを映画の役と同じように見守ったようです。奥山監督は俳優から自然に生まれてくるものを重視し、子役には脚本を渡していないそうです。ベテランの池松さんに存在も大きかったでしょうね。
元選手でコーチ役の池松さんだけがスケートの経験がなく、撮影の半年前から特訓したとか。俳優さんはなんでもこなさなくてはいけないんです。画面で観るかぎり堂々としています。カメラも自ら持つ奥山監督は自分もスケートを履いて滑りながら撮影しています。前作は小さなイエス様の登場にちょっと驚きましたが、静謐で品のある作品でした。今回はもうすこし多く人の感情が出ています。
タクヤとさくら、荒川の3人が冬の間だけ交差し、幸せな時間が流れます。この場面だけでひたひたと満たされたような気がしました。(白)
2023年/日本/カラー/90分
配給:東京テアトル
(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINEMAS
https://bokunoohisama.com/
★2024年9月13日(金)テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー